(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024117473
(43)【公開日】2024-08-29
(54)【発明の名称】生体信号測定用電極の製造方法および生体信号測定用電極
(51)【国際特許分類】
A61B 5/291 20210101AFI20240822BHJP
A61B 5/256 20210101ALI20240822BHJP
A61B 5/263 20210101ALI20240822BHJP
【FI】
A61B5/291
A61B5/256 110
A61B5/263
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023023593
(22)【出願日】2023-02-17
(71)【出願人】
【識別番号】000002141
【氏名又は名称】住友ベークライト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【弁理士】
【氏名又は名称】速水 進治
(72)【発明者】
【氏名】澤田 将志
【テーマコード(参考)】
4C127
【Fターム(参考)】
4C127AA03
4C127LL08
4C127LL13
4C127LL30
(57)【要約】
【課題】吸水性部材の製造バラツキ抑制に優れた生体信号測定用電極の製造方法を提供する。
【解決手段】本発明の生体信号測定用電極の製造方法は、基部と、前記基部から突出する突出部と、前記突出部の少なくとも先端部分に、導電性部材を有して設けられた電極部と、を備える、構造体を準備する準備工程と、構造体において、電極部の先端部分を選択的に親水化処理する親水化工程と、親水化処理された電極部の先端部分の少なくとも一部に吸水性部材形成用溶液を塗布する吸水性部材形成工程と、を含む、ものである。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基部と、前記基部から突出する突出部と、前記突出部の少なくとも先端部分に、導電性部材を有して設けられた電極部と、を備える、構造体を準備する準備工程と、
前記構造体において、前記電極部の先端部分を選択的に親水化処理する親水化工程と、
親水化処理された前記電極部の先端部分の少なくとも一部に吸水性部材形成用溶液を塗布する吸水性部材形成工程と、を含む、
生体信号測定用電極の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の生体信号測定用電極の製造方法であって、
前記親水化工程において、マスクを用いて前記先端部分を露出させ、前記電極部の側面部を被覆した状態でプラズマ処理する、生体信号測定用電極の製造方法。
【請求項3】
請求項2に記載の生体信号測定用電極の製造方法であって、
前記プラズマ処理を、前記電極部の側面における先端から基端までの長さをLとしたとき、前記先端から5/10L以下の領域に対して実施する、生体信号測定用電極の製造方法
【請求項4】
請求項1または2に記載の生体信号測定用電極の製造方法であって、
前記吸水性部材形成工程において、レオメータを用いて、25℃、せん断速度が20[s-1]の条件で測定したときの前記吸水性部材形成用溶液の粘度が1.0×101Pa・s以上である、生体信号測定用電極の製造方法。
【請求項5】
請求項1または2に記載の生体信号測定用電極の製造方法であって、
前記吸水性部材形成用溶液が、増粘剤を含む、生体信号測定用電極の製造方法。
【請求項6】
請求項1または2に記載の生体信号測定用電極の製造方法であって、
前記吸水性部材形成用溶液が、ハイドロゲル形成用溶液である、生体信号測定用電極の製造方法。
【請求項7】
請求項1または2に記載の生体信号測定用電極の製造方法であって、
前記吸水性部材形成工程は、前記吸水性部材形成用溶液を塗布した後、前記電極部の先端を鉛直方向の下側に向けて保持する工程を含む、生体信号測定用電極の製造方法。
【請求項8】
請求項1または2に記載の生体信号測定用電極の製造方法であって、
前記吸水性部材形成工程は、塗布した前記吸水性部材形成用溶液に含まれる溶媒を乾燥させて、吸水性部材を形成した後、得られた前記吸水性部材に水を接触させる工程を含む、生体信号測定用電極の製造方法。
【請求項9】
請求項1または2に記載の生体信号測定用電極の製造方法であって、
前記導電性部材が、シリコーンゴムおよび導電性フィラーを含む、生体信号測定用電極の製造方法。
【請求項10】
請求項1または2に記載の生体信号測定用電極の製造方法であって、
前記導電性部材が、非導電性フィラーを含む、生体信号測定用電極の製造方法。
【請求項11】
被験者の皮膚に接触させて生体信号を取得する生体信号測定用電極であって、
基部と、
前記基部から突出する突出部と、
前記突出部の少なくとも先端部分に、導電性部材を有して設けられた電極部と、
前記電極部の先端部分の少なくとも一部に形成されるが、前記電極部の側面部分には形成されない、吸水性部材と、
を備える、生体信号測定用電極。
【請求項12】
請求項11に記載の生体信号測定用電極であって、
前記吸水性部材が、ハイドロゲルを含む、生体信号測定用電極。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体信号測定用電極の製造方法および生体信号測定用電極に関する。
【背景技術】
【0002】
これまで脳波測定用電極に関して様々な開発がなされてきた。この種の技術として、例えば、特許文献1の技術が知られている。
特許文献1には、脳波測定用電極のうち、チップ部60全体が導電性ゲルで形成されている例や、チップ部60の突起部65のみが導電性ゲルで形成されている例が開示されている(段落0054)。また、導電性ゲルとは、親水性ゲルの場合、無機イオン、親水性ポリマー、および水または親水性溶媒を混合し、固化させたものが使用できると記載されている(段落0055)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、本発明者が検討した結果、上記特許文献1に記載の脳波測定用電極の製造工程において、吸水性部材の製造バラツキの点で改善の余地があることが判明した。
【0005】
本発明者はさらに検討したところ、基部、突出部、および突出部の先端部分に形成された電極部を備える構造体において、電極部の先端部分を選択的に親水化処理した後、親水化処理された電極部の先端部分に吸水性部材形成するための溶液を塗布することにより、かかる溶液が電極部の先端部分に留まり末端側に流れ出すことを抑制できるため、吸水性部材の製造バラツキが抑制されることを見出し、本発明を完成するに至った。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様によれは、以下の生体信号測定用電極の製造方法および生体信号測定用電極が提供される。
1. 基部と、前記基部から突出する突出部と、前記突出部の少なくとも先端部分に、導電性部材を有して設けられた電極部と、を備える、構造体を準備する準備工程と、
前記構造体において、前記電極部の先端部分を選択的に親水化処理する親水化工程と、
親水化処理された前記電極部の先端部分の少なくとも一部に吸水性部材形成用溶液を塗布する吸水性部材形成工程と、を含む、
生体信号測定用電極の製造方法。
2. 1.に記載の生体信号測定用電極の製造方法であって、
前記親水化工程において、マスクを用いて前記先端部分を露出させ、前記電極部の側面部を被覆した状態でプラズマ処理する、生体信号測定用電極の製造方法。
3. 2.に記載の生体信号測定用電極の製造方法であって、
前記プラズマ処理を、前記電極部の側面における先端から基端までの長さをLとしたとき、前記先端から5/10L以下の領域に対して実施する、生体信号測定用電極の製造方法
4. 1.~3.のいずれか一つに記載の生体信号測定用電極の製造方法であって、
前記吸水性部材形成工程において、レオメータを用いて、25℃、せん断速度が20[s-1]の条件で測定したときの前記吸水性部材形成用溶液の粘度が1.0×101Pa・s以上である、生体信号測定用電極の製造方法。
5. 1.~4.のいずれか一つに記載の生体信号測定用電極の製造方法であって、
前記吸水性部材形成用溶液が、増粘剤を含む、生体信号測定用電極の製造方法。
6. 1.~5.のいずれか一つに記載の生体信号測定用電極の製造方法であって、
前記吸水性部材形成用溶液が、ハイドロゲル形成用溶液である、生体信号測定用電極の製造方法。
7. 1.~6.のいずれか一つに記載の生体信号測定用電極の製造方法であって、
前記吸水性部材形成工程は、前記吸水性部材形成用溶液を塗布した後、前記電極部の先端を鉛直方向の下側に向けて保持する工程を含む、生体信号測定用電極の製造方法。
8. 1.~7.のいずれか一つに記載の生体信号測定用電極の製造方法であって、
前記吸水性部材形成工程は、塗布した前記吸水性部材形成用溶液に含まれる溶媒を乾燥させて、吸水性部材を形成した後、得られた前記吸水性部材に水を接触させる工程を含む、生体信号測定用電極の製造方法。
9. 1.~8.のいずれか一つに記載の生体信号測定用電極の製造方法であって、
前記導電性部材が、シリコーンゴムおよび導電性フィラーを含む、生体信号測定用電極の製造方法。
10. 1.~9.のいずれか一つに記載の生体信号測定用電極の製造方法であって、
前記導電性部材が、非導電性フィラーを含む、生体信号測定用電極の製造方法。
11. 被験者の皮膚に接触させて生体信号を取得する生体信号測定用電極であって、
基部と、
前記基部から突出する突出部と、
前記突出部の少なくとも先端部分に、導電性部材を有して設けられた電極部と、
前記電極部の先端部分の少なくとも一部に形成されるが、前記電極部の側面部分には形成されない、吸水性部材と、
を備える、生体信号測定用電極。
12. 11.に記載の生体信号測定用電極であって、
前記吸水性部材が、ハイドロゲルを含む、生体信号測定用電極。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、吸水性部材の製造バラツキ抑制に優れた生体信号測定用電極の製造方法、およびそれを用いて製造された生体信号測定用電極を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】実施形態に係る、人の頭部に装着した状態の脳波測定装置を模式的に示す図である。
【
図3】実施形態に係る、脳波電極ユニットの正面図である。
【
図4】実施形態に係る、脳波測定用電極の斜視図である。
【
図5】実施形態に係る、脳波測定用電極の平面図である。
【
図6】実施形態に係る、脳波測定用電極の断面図であり、特に
図5のX1-X1断面図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態について、図面を用いて説明する。
本実施の形態では図示するように前後左右上下の方向を規定して説明する。しかし、これは構成要素の相対関係を簡単に説明するために便宜的に規定するものである。従って、本発明を実施する製品の製造時や使用時の方向を限定するものではない。
尚、すべての図面において、同様な構成要素には同様の符号を付し、適宜説明を省略する。また、図は概略図であり、実際の寸法比率とは一致していない。
本明細書中、「略」という用語は、特に明示的な説明の無い限りは、製造上の公差やばらつき等を考慮した範囲を含むことを表す。
【0010】
<生体信号測定用電極の製造方法>
本実施形態の生体信号測定用電極の製造方法について説明する。
生体信号測定用電極の製造方法は、基部と、基部から突出する突出部と、突出部の少なくとも先端部分に、導電性部材を有して設けられた電極部と、を備える、構造体を準備する準備工程と、構造体において、電極部の先端部分を選択的に親水化処理する親水化工程と、親水化処理された電極部の先端部分の少なくとも一部に吸水性部材形成用溶液を塗布する吸水性部材形成工程と、を含む。
【0011】
本発明者の知見によれば、選択的に親水化処理された電極部において吸水性部材形成するための溶液を塗布することにより、溶液は、電極部の先端部分に形成された親水化面に留まり、電極部の側面に形成された非親水化面に濡れ広がることを抑制できる。これにより、複数の電極部において、その先端部分に保持された溶液における塗布ムラが抑制できるため、吸水性部材の製造バラツキを抑制できることが判明した。また、電極部の先端部分に溶液を留まらせることができるため、厚塗りが可能となる。
【0012】
上記準備工程の一例は、基部および突出部を有する成形体を形成する工程と、成形体における突出部の少なくとも先端部分に電極部を形成する工程を含んでもよい。
【0013】
成形体の形成には、後述の絶縁性のゴム材料を金型成形する方法を用いることができる。また、ゴム材料としては、後述のシリコーンゴム系硬化性組成物を用いるのが好ましい。この場合、成形体は、シリコーンゴム系硬化性組成物を加熱硬化してなる絶縁性シリコーンゴムで構成される。
【0014】
電極部の形成には、後述の導電性溶液を塗布する方法を用いることができる。塗布方法は、公知の手法を用いることができるが、ディップ法やスプレー法等が挙げられる。塗布した後、乾燥処理、必要なら硬化処理を施す。塗布は、1回または2回以上実施してもよい。
また、導電性溶液としては、後述の導電性シリコーンゴム系硬化性組成物を用いるのが好ましい。この場合、電極部は、導電性シリコーンゴム系硬化性組成物を加熱硬化してなる導電性シリコーンゴムで構成される。
【0015】
電極部は、突出部の少なくとも先端部分を被覆してもよく、突起部の先端から末端までの側面において、かかる側面の一部または全面を被覆してもよい。先端から末端までの長さをl(全長)としたとき、電極部は、例えば、突起部の先端から5/10l以下の位置まで被覆してもよい。
【0016】
上記親水化工程において、電極部の先端部分を選択的に親水化処理により、先端部分を親水化させるが、側面部分の少なくとも一部は親水化させない。すなわち、選択的な親水化処理により、電極部の先端側を親水化させるが、電極部の基部末端を少なくとも親水化させない。
【0017】
親水化処理としては、各種ゴム(具体的にはシリコーンゴムやシリコーンゴムに含まれるシリカ粒子等の無機粒子)の表面を親水化するように改質できる処理であればとくに限定されないが、例えば、プラズマ処理等が挙げられる。これに限定されず、コロナ放電、バーナーを使用したイトロ処理、電子線、紫外線、レーザー等の表面処理方法を使用してもよい。またはカップリング剤などの各種表面改質剤を塗布する方法や、シリコーンゴムがガラス粒子を含む場合水酸化ナトリウム水溶液中への浸漬する方法を使用してもよい。これらを単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0018】
親水化処理の環境としては、特に限定されないが、大気下を使用してもよく、窒素ガスなどの不活性ガス環境下であってもよい。
【0019】
選択的に親水化処理する方法として、例えば、マスク(被覆部材)を用いて先端部分を露出させ、電極部の側面部を被覆した状態で親水化処理する方法が用いられる。被覆方法は、これに限定されず、電極部の側面部、言い換えると、基部末端を少なくとも被覆する方法であればよい。
マスクの一例として、複数の穴が形成されたカバーが使用できる。穴には、先端から所定位置までの突起部が通過できる。突起部が略錐形状の場合、穴の直径を調整することにより突起部が露出する部分を制御できる。
【0020】
選択的に親水化処理時に露出する領域は、電極部の側面において、先端から末端までの長さをL(全長)としたとき、例えば、先端から5/10L、好ましくは4/10Lの位置となる。すなわち、上記親水化工程は、親水化処理(例えばプラズマ処理)を、突起部の先端から上記の露出領域に対して選択的に実施することができる。これにより、吸水性部材形成用溶液が側面全体に亘って濡れ広がることを安定的に抑制できる。
一方、選択的に親水化処理時に露出する領域は、先端から1/10L以上、好ましくは2/10L以上となる。これにより、電極部の先端部分と吸水性部材との密着性を向上できる。
【0021】
吸水性部材形成工程の一例は、吸水性部材形成用溶液を塗布する工程と、吸水性部材形成用溶液を乾燥させる工程とを含んでもよい。
【0022】
溶液を塗布する工程において、レオメータを用いて、25℃、せん断速度が20[s-1]の条件で測定したときの吸水性部材形成用溶液の粘度は、例えば、1.0×101Pa・s以上、好ましくは3.0×101Pa・s以上、より好ましくは5.0×102Pa・s以上である。このように吸水性部材形成用溶液のチキソ性を適切に選択することにより、吸水性部材形成用溶液を電極部の先端部分にディップ法により塗布することが可能になる。ディップ法は、厚塗りするときに好ましい。
【0023】
吸水性部材形成用溶液は、必要なら、増粘剤を含んでもよい。これにより、上記の粘度を高められるため、ディップ法による塗布に好適な溶液となる。
増粘剤としては、公知のものが使用できるが、例えば、グリセリン、ポリエチレンオキシドなどが挙げられる。
【0024】
吸水性部材を形成するには、塗布した吸水性部材形成用溶液に乾燥処理を施すことができ、必要なら加熱や電子線照射などの硬化処理を施してもよい。
【0025】
吸水性部材は、水を吸収できる部材(多孔質部材)であり、皮膚に押しつけられたときに十分な強度と柔軟性を実現できれば特に限定しないが、例えば、ハイドロゲルであってもよい。吸水性部材に含まれる水には、電解質が含まれていてもよいが、含まれていなくてもよい。なお、頭皮などの皮膚から塩分などの生体由来の電解質を、皮膚に接触させることにより吸水性部材中の水に移動させることが可能である。
吸水性部材がハイドロゲルの場合、吸水性部材形成用溶液はハイドロゲル形成用溶液をとなる。
ハイドロゲル形成用溶液は、一液型でもよいが、二液型でもよい。二液型の場合、二液の混合溶液を塗布してもよいが、一方の溶液を塗布した後、他方の溶液をその上にさらに塗布する方法を使用してもよい。
【0026】
別の形態では、吸水性部材形成工程は、吸水性部材形成用溶液を塗布した後、電極部の先端を鉛直方向の下側に向けて保持する工程を含んでもよい。これにより、電極部の先端部分に溶液を集めた状態で、これを乾燥させることが可能となる。このため、電極部の先端部分に球形状の吸水性部材を形成できる。言い換えると、電極部の先端部分により厚く吸水性部材を形成できる。
【0027】
また、別の形態では、吸水性部材形成工程は、塗布した吸水性部材形成用溶液に含まれる溶媒を乾燥させて、吸水性部材を形成した後、得られた吸水性部材に水を接触させる工程を含んでもよい。すなわち、溶液中の溶媒などの液体を除去させるように乾燥処理を実施し、必要なら硬化処理を実施した後、吸水性部材に水を吸収させた状態の生体信号測定用電極が実現できる。
吸水性部材に水を接触させるタイミングは、任意であり、保管時や測定時などが挙げられる。
【0028】
以上により、生体信号測定用電極が得られる。
本実施形態の生体信号測定用電極の一例は、被験者の皮膚に接触させて生体信号を取得する生体信号測定用電極であって、基部と、基部から突出する突出部と、突出部の少なくとも先端部分に、導電性部材を有して設けられた電極部と、電極部の先端部分の少なくとも一部に形成されるが、電極部の側面部分には形成されない、吸水性部材と、を備えるものである。
【0029】
また、生体信号測定用電極では、電極部を耐乾燥性に優れた吸水性部材で表面コートすることで、頭皮等の皮膚の乾燥状態に依らず接触抵抗を抑えて安定した生体信号測定(脳波測定)が可能となる。
【0030】
また、生体信号測定用電極では、突起部の側面の少なくとも一部に吸水性部材が形成されないため、頭皮に電極部を接触させる際、突起部の側面による頭髪の掻き分け性を向上できる。
【0031】
また、生体信号測定用電極では、上記の親水化処理により、電極部と吸水性部材との密着性を向上できる。このため、生体信号測定時や保管時において、電極部の先端部分から吸水性部材が意図せず脱落することを抑制できる。
【0032】
本実施形態では、生体信号として脳波について例示する。生体信号として、脳波の他に、例えば、心電位や筋電位、皮膚電位が挙げられる。
図1は人の頭部99に装着した状態の脳波測定装置1を模式的に示す図である。脳波測定装置1を被験者の頭部99に装着して脳波測定を行う脳波測定方法が実行される。脳波測定装置1は、頭部99に装着され、脳波を生体からの電位変動として検出し、検出した脳波を脳波表示装置(図示せず)に出力する。脳波表示装置は、脳波測定装置1が検出した脳波を取得して、モニタ表示したり、データ保存したり、周知の脳波解析処理を行う。
【0033】
<脳波測定装置1の構造>
図1に示すように、脳波測定装置1は、複数の脳波電極ユニット10と、フレーム20と、を有する。本実施形態では、脳波電極ユニット10は、5ch分(5個)設けられている。
【0034】
<フレーム20の構造>
図2にフレーム20の斜視図を示す。フレーム20は、例えばポリアミド樹脂のような硬質部材で帯状に、かつ人間の頭部99の形状に沿うように湾曲して形成されている。なお、脳波以外の生体信号を検出する装置であれば、フレーム20は、測定対象とする生体信号を取得する部位(例えば腕や胸部、腹部等)の形状に沿うように変形させて形成される。
【0035】
フレーム20には、脳波電極ユニット10を取り付けるための開孔として電極ユニット取付部21が5カ所設けられている。電極ユニット取付部21の位置(すなわち脳波電極ユニット10の取付位置)は、国際10-20電極配置法におけるT3、C3、Cz、C4、T4の位置に対応する。
【0036】
電極ユニット取付部21の内周面は螺刻されており、脳波電極ユニット10がその胴部11の螺刻部13(
図3参照)により螺着する。脳波電極ユニット10をネジ込む量を調整することで、頭部99側への突き出し量を調整し、頭部99(頭皮)との接触量・接触圧をコントロールする。また、脳波電極ユニット10をネジ込む動作により、毛髪を掻き分ける。
【0037】
<脳波電極ユニット10の構造>
図3に脳波電極ユニット10の正面図を示す。脳波電極ユニット10は、略円柱状の胴部11と、その一端側(図中下側)に設けられた脳波測定用電極50とを有する。
【0038】
胴部11は、信号取出部12と、螺刻部13と、電極固定部14とを一体に有する。
螺刻部13は、円柱形状の側面に螺刻した形状である。螺刻部13の一端(図中上側)に信号取出部12が設けられている。信号取出部12には信号出力端子が設けられるとともに、脳波電極ユニット10をフレーム20に螺着する際に作業者によって必要に応じて所定の治具を用いて操作される。螺刻部13の他端(図中下側)には、円柱状の電極固定部14が設けられている。電極固定部14に脳波測定用電極50が取り付けられる。
なお、本実施形態では脳波測定用電極50は、脳波電極ユニット10の一部の構成としてフレーム20に取り付けられているが、その他に脳波測定用電極50が直接フレーム20に取り付けられてもよい。
【0039】
<脳波測定用電極50の構造>
図4は脳波測定用電極50の斜視図である。
図5は脳波測定用電極50の平面図である。
図6は脳波測定用電極50の断面図であり、特に
図5のX1-X1断面図を示す。なお、
図6では、
図4と異なり、ゲル状部材85が設けられる側を上側としている。
【0040】
脳波測定用電極50は、基部51と、突出部60と、電極部80と、電極部80に取り付けられたゲル状部材85とを有する。
【0041】
基部51と突出部60は、ゴム状の弾性体によって一体に設けられている。弾性体の具体的な材料については後述する。なお、基部51と突出部60とは一体に設けられる構成に限らず、別体に設けたものを接着剤や嵌合構造により組み付けた構成でもよい。脳波測定用電極50は、全体がゴム状の弾性体である必要はなく、突出部60がゴム状の弾性体で構成されていればよい。
【0042】
基部51は、略円柱形状であって、一端が円形状の突出部形成面52、他端が円形状の取付面53となっている。取付面53が、胴部11の電極固定部14に接着剤等により取り付けられる。なお、取付面53と電極固定部14の固定構造として特に制限は無く、例えば凹凸形状による嵌合構造が用いられてもよい。
【0043】
<突出部60の構造>
突出部形成面52には、複数の角錐(多角錐)の突出部60が整列して設けられている。より具体的には、突出部60は、底面が正方形であって頂点(先端部分61)から底面(すなわち突出部形成面52)への垂線が底面の重心を通る四角錐であって、いわゆる「ピラミッド型」となっている。
【0044】
本実施形態の15個の突出部60は、
図5に示すように上面視において、突出部形成面52上で5行に配置されている。より具体的には、1行目が1つ、2行目が4つ、3行目が5つ、4行目が4つ、5行目が1つの突出部60が、上述のように上下左右対称となるように配置されている。
【0045】
突出部60の幅(すなわち多角錐形状の頂点の底面の幅)は、頭部99へ押しつける際の強さや突出部60の数、取り付けるゲル状部材85の大きさ・強度に応じて適宜設定される。例えば、2mm以上10mm以下とすることができる。
【0046】
突出部60の高さは、頭部99へ押しつける際の強さや突出部60の数、取り付けるゲル状部材85の大きさ・強度に応じて適宜設定される。例えば、2mm以上20mm以下とすることができる。
【0047】
<導電性部材70(電極部80)の構造>
図6の突出部60の断面図に示すように、導電性部材70は、突出部60の突出部斜面62を覆って形成される。本実施形態では、導電性部材70は、突出部60の先端部分61(錐体の頂点)を覆って設けられている。なお、突出部60に取り付けられるゲル状部材85が覆う領域に、導電性部材70が形成されていればよい。すなわちゲル状部材85と電極部80が導通可能であれば、必ずしも先端部分61が導電性部材70で覆われている必要はない。なお、ゲル状部材85が取り外し可能な構成であって、ゲル状部材85を取り付けず使用することも想定した場合には、先端部分61が導電性部材70に覆われていることが好ましい。
【0048】
<ゲル状部材85>
ゲル状部材85は、内部に水分を含有するゲル状材料(ハイドロゲルともいう)を球状とした部材であって、突出部60の先端部分61に突き刺さるように取り付けられている。
【0049】
脳波測定のために脳波測定用電極50が頭部99に押しつけられると、ゲル状部材85が頭部99に接触する。このとき、頭皮の電解物質(一般には塩分)がゲル状部材85に取り込まれる。その結果、電極部80と頭皮とが電気的に導通した状態になる。
【0050】
ゲル状部材85の大きさは、突出部60に取り付けたときに隣接のゲル状部材85と接触しない程度の大きさ出ればよいが、例えば、直径5mm~20mmとすることができる。なお、完全な球体ではなく楕円体(長球)や一部形状が切り取られた形状であってもよく、さらに四面体等の他の立体とされてもよい。なお、頭部99に接触したときの力の分散の観点からは、頭部99との接触部分が曲面となる形状が好ましい。
【0051】
ゲル状材料として、十分な含水が可能であって、頭部99に押しつけられたときに十分な強度と柔軟性を実現できれば特に限定しないが、例えば、アクリル系ハイドロゲルやシリコーン系ハイドロゲルを用いることができる。アクリル系ハイドロゲルにおいて、塩水未含有ゲルの場合では、水分含有率15~25wt%、塩水未含有ゲルであれば、塩水含有率20~30wt%で塩分含有率4~6wt%とすることができる。
【0052】
ゲル状部材85は、取り外し可能や交換可能とされてもよい。取り外し可能な場合、脳波測定により使用する直前まで水密性部材からなる容器に収容しておき、使用時に突出部60に取り付け、使用後に容器に収容するといった使用方法が可能である。交換可能とした場合、大きさや形状や材料が異なる複数種類のゲル状部材85を用意し、被験者の頭皮の状態や使用環境等に応じて適切なゲル状部材85を選択可能としてもよい。
【0053】
<信号線69の構造>
図6の脳波測定用電極50の断面形状に示すように、突出部60の内部には、電極部80に接続する導電性の信号線69が設けられている。信号線69は、突出部60の内部を導通する態様であれば各種の配置構造を採用し得る。例えば、信号線69の先端は、突出部60の先端あるいは先端部の傾斜面に対して、突出した構造、略同一面上となる構造、埋没した構造のいずれでもよい。電極部80との接続安定性の観点から、突出した構造を用いてもよい。信号線69の先端の突出部分は、一部または全体が電極部80で覆われている。
【0054】
信号線69の先端の突出構造は、折り返し無し、折り返し有り、突出部60の先端部の表面に巻き付ける構造が採用し得る。また、信号線69は、突出部60の頂点(先端部分61)から延びる垂線と一致せず、垂線に対して傾斜してもよい。
【0055】
<脳波測定用電極50(基部51、突出部60)の材料>
脳波測定用電極50(基部51、突出部60)の材料について説明する。脳波測定用電極50は、ゴム状の弾性体を有して構成されている。ゴム状の弾性体として、具体的にはゴムや熱可塑性エラストマー(単に「エラストマー(TPE)」ともいう)である。ゴムとしては、例えばシリコーンゴムがある。熱可塑性エラストマーとして、例えば、スチレン系TPE(TPS)、オレフィン系TPE(TPO)、塩化ビニル系TPE(TPVC)、ウレタン系TPE(TPU)、エステル系TPE(TPEE)、アミド系TPE(TPAE)などがある。
基部51および突出部60は、導電性を有しないゴム状の弾性体、すなわち、絶縁性ゴムで構成される。
【0056】
脳波測定用電極50がシリコーンゴムである場合、37℃、JIS K 6253(1997)に準拠して測定される、脳波測定用電極50の表面(突出部60や基部51)におけるタイプAデュロメータ硬さをゴム硬度Aとしたとき、ゴム硬度Aが、例えば、15以上55以下である。
【0057】
ここで、上記シリコーンゴム系硬化性組成物について説明する。
上記シリコーンゴムは、シリコーンゴム系硬化性組成物の硬化物で構成することができる。シリコーンゴム系硬化性樹脂組成物の硬化工程は、例えば、100~250℃で1~30分間加熱(1次硬化)した後、100~200℃で1~4時間ポストベーク(2次硬化)することによって行われる。
シリコーンゴムとは、通常、絶縁性シリコーンゴムを指す。絶縁性シリコーンゴムは、導電性フィラーを含まないシリコーンゴムである。一方、導電性シリコーンゴムとは、導電性フィラーを含むシリコーンゴムである。
【0058】
上記ビニル基含有オルガノポリシロキサン(A)は、直鎖構造を有するビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1)を含むことができる。
【0059】
上記ビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1)は、直鎖構造を有し、かつ、ビニル基を含有しており、かかるビニル基が硬化時の架橋点となる。
【0060】
ビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1)のビニル基の含有量は、特に限定されないが、例えば、分子内に2個以上のビニル基を有し、かつ15モル%以下であるのが好ましく、0.01~12モル%であるのがより好ましい。これにより、ビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1)中におけるビニル基の量が最適化され、後述する各成分とのネットワークの形成を確実に行うことができる。本実施形態において、「~」は、その両端の数値を含むことを意味する。
【0061】
なお、本明細書中において、ビニル基含有量とは、ビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1)を構成する全ユニットを100モル%としたときのビニル基含有シロキサンユニットのモル%である。ただし、ビニル基含有シロキサンユニット1つに対して、ビニル基1つであると考える。
【0062】
また、ビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1)の重合度は、特に限定されないが、例えば、好ましくは1000~10000程度、より好ましくは2000~5000程度の範囲内である。なお、重合度は、例えばクロロホルムを展開溶媒としたGPC(ゲル透過クロマトグラフィー)におけるポリスチレン換算の数平均重合度(又は数平均分子量)等として求めることができる。
【0063】
さらに、ビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1)の比重は、特に限定されないが、0.9~1.1程度の範囲であるのが好ましい。
【0064】
ビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1)として、上記のような範囲内の重合度および比重を有するものを用いることにより、得られるシリコーンゴムの耐熱性、難燃性、化学的安定性等の向上を図ることができる。
【0065】
ビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1)としては、特に、下記式(1)で表される構造を有するものであるが好ましい。
【0066】
【0067】
式(1)中、R1は炭素数1~10の置換または非置換のアルキル基、アルケニル基、アリール基、またはこれらを組み合わせた炭化水素基である。炭素数1~10のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基等が挙げられ、中でも、メチル基が好ましい。炭素数1~10のアルケニル基としては、例えば、ビニル基、アリル基、ブテニル基等が挙げられ、中でも、ビニル基が好ましい。炭素数1~10のアリール基としては、例えば、フェニル基等が挙げられる。
【0068】
また、R2は炭素数1~10の置換または非置換のアルキル基、アルケニル基、アリール基、またはこれらを組み合わせた炭化水素基である。炭素数1~10のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基等が挙げられ、中でも、メチル基が好ましい。炭素数1~10のアルケニル基としては、例えば、ビニル基、アリル基、ブテニル基が挙げられる。炭素数1~10のアリール基としては、例えば、フェニル基が挙げられる。
【0069】
また、R3は炭素数1~8の置換または非置換のアルキル基、アリール基、またはこれらを組み合わせた炭化水素基である。炭素数1~8のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基等が挙げられ、中でも、メチル基が好ましい。炭素数1~8のアリール基としては、例えば、フェニル基が挙げられる。
【0070】
さらに、式(1)中のR1およびR2の置換基としては、例えば、メチル基、ビニル基等が挙げられ、R3の置換基としては、例えば、メチル基等が挙げられる。
【0071】
なお、式(1)中、複数のR1は互いに独立したものであり、互いに異なっていてもよいし、同じであってもよい。さらに、R2、およびR3についても同様である。
【0072】
さらに、m、nは、式(1)で表されるビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1)を構成する繰り返し単位の数であり、mは0~2000の整数、nは1000~10000の整数である。mは、好ましくは0~1000であり、nは、好ましくは2000~5000である。
【0073】
また、式(1)で表されるビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1)の具体的構造としては、例えば下記式(1-1)で表されるものが挙げられる。
【0074】
【0075】
式(1-1)中、R1およびR2は、それぞれ独立して、メチル基またはビニル基であり、少なくとも一方がビニル基である。
【0076】
さらに、ビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1)としては、ビニル基含有量が分子内に2個以上のビニル基を有し、かつ0.4モル%以下である第1のビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1-1)と、ビニル基含有量が0.5~15モル%である第2のビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1-2)とを含有するものであるのが好ましい。シリコーンゴムの原料である生ゴムとして、一般的なビニル基含有量を有する第1のビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1-1)と、ビニル基含有量が高い第2のビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1-2)とを組み合わせることで、ビニル基を偏在化させることができ、シリコーンゴムの架橋ネットワーク中に、より効果的に架橋密度の疎密を形成することができる。その結果、より効果的にシリコーンゴムの引裂強度を高めることができる。
【0077】
具体的には、ビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1)として、例えば、上記式(1-1)において、R1がビニル基である単位および/またはR2がビニル基である単位を、分子内に2個以上有し、かつ0.4モル%以下を含む第1のビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1-1)と、R1がビニル基である単位および/またはR2がビニル基である単位を、0.5~15モル%含む第2のビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1-2)とを用いるのが好ましい。
【0078】
また、第1のビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1-1)は、ビニル基含有量が0.01~0.2モル%であるのが好ましい。また、第2のビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1-2)は、ビニル基含有量が、0.8~12モル%であるのが好ましい。
【0079】
さらに、第1のビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1-1)と第2のビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1-2)とを組み合わせて配合する場合、(A1-1)と(A1-2)の比率は特に限定されないが、例えば、重量比で(A1-1):(A1-2)が50:50~95:5であるのが好ましく、80:20~90:10であるのがより好ましい。
【0080】
なお、第1および第2のビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1-1)および(A1-2)は、それぞれ1種のみを用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0081】
また、ビニル基含有オルガノポリシロキサン(A)は、分岐構造を有するビニル基含有分岐状オルガノポリシロキサン(A2)を含んでもよい。
【0082】
<<オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B)>>
本実施形態のシリコーンゴム系硬化性組成物は、架橋剤を含んでもよい。架橋剤は、オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B)を含むことができる。
オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B)は、直鎖構造を有する直鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B1)と分岐構造を有する分岐状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B2)とに分類され、これらのうちのいずれか一方または双方を含むことができる。
【0083】
直鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B1)は、直鎖構造を有し、かつ、Siに水素が直接結合した構造(≡Si-H)を有し、ビニル基含有オルガノポリシロキサン(A)のビニル基の他、シリコーンゴム系硬化性組成物に配合される成分が有するビニル基とヒドロシリル化反応し、これらの成分を架橋する重合体である。
【0084】
直鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B1)の分子量は特に限定されないが、例えば、重量平均分子量が20000以下であるのが好ましく、1000以上、10000以下であることがより好ましい。
【0085】
なお、直鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B1)の重量平均分子量は、例えばクロロホルムを展開溶媒としたGPC(ゲル透過クロマトグラフィー)におけるポリスチレン換算により測定することができる。
【0086】
また、直鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B1)は、通常、ビニル基を有しないものであるのが好ましい。これにより、直鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B1)の分子内において架橋反応が進行するのを的確に防止することができる。
【0087】
以上のような直鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B1)としては、例えば、下記式(2)で表される構造を有するものが好ましく用いられる。
【0088】
【0089】
式(2)中、R4は炭素数1~10の置換または非置換のアルキル基、アルケニル基、アリール基、これらを組み合わせた炭化水素基、またはヒドリド基である。炭素数1~10のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基等が挙げられ、中でも、メチル基が好ましい。炭素数1~10のアルケニル基としては、例えば、ビニル基、アリル基、ブテニル基等が挙げられる。炭素数1~10のアリール基としては、例えば、フェニル基が挙げられる。
【0090】
また、R5は炭素数1~10の置換または非置換のアルキル基、アルケニル基、アリール基、これらを組み合わせた炭化水素基、またはヒドリド基である。炭素数1~10のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基が挙げられ、中でも、メチル基が好ましい。炭素数1~10のアルケニル基としては、例えば、ビニル基、アリル基、ブテニル基等が挙げられる。炭素数1~10のアリール基としては、例えば、フェニル基が挙げられる。
【0091】
なお、式(2)中、複数のR4は互いに独立したものであり、互いに異なっていてもよいし、同じであってもよい。R5についても同様である。ただし、複数のR4およびR5のうち、少なくとも2つ以上がヒドリド基である。
【0092】
また、R6は炭素数1~8の置換または非置換のアルキル基、アリール基、またはこれらを組み合わせた炭化水素基である。炭素数1~8のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基等が挙げられ、中でも、メチル基が好ましい。炭素数1~8のアリール基としては、例えば、フェニル基が挙げられる。複数のR6は互いに独立したものであり、互いに異なっていてもよいし、同じであってもよい。
【0093】
なお、式(2)中のR4,R5,R6の置換基としては、例えば、メチル基、ビニル基等が挙げられ、分子内の架橋反応を防止する観点から、メチル基が好ましい。
【0094】
さらに、m、nは、式(2)で表される直鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B1)を構成する繰り返し単位の数であり、mは2~150整数、nは2~150の整数である。好ましくは、mは2~100の整数、nは2~100の整数である。
【0095】
なお、直鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B1)は、1種のみを単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0096】
分岐状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B2)は、分岐構造を有するため、架橋密度が高い領域を形成し、シリコーンゴムの系中の架橋密度の疎密構造形成に大きく寄与する成分である。また、上記直鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B1)同様、Siに水素が直接結合した構造(≡Si-H)を有し、ビニル基含有オルガノポリシロキサン(A)のビニル基の他、シリコーンゴム系硬化性組成物に配合される成分のビニル基とヒドロシリル化反応し、これら成分を架橋する重合体である。
【0097】
また、分岐状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B2)の比重は、0.9~0.95の範囲である。
【0098】
さらに、分岐状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B2)は、通常、ビニル基を有しないものであるのが好ましい。これにより、分岐状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B2)の分子内において架橋反応が進行するのを的確に防止することができる。
【0099】
また、分岐状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B2)としては、下記平均組成式(c)で示されるものが好ましい。
【0100】
平均組成式(c)
(Ha(R7)3-aSiO1/2)m(SiO4/2)n
(式(c)において、R7は一価の有機基、aは1~3の範囲の整数、mはHa(R7)3-aSiO1/2単位の数、nはSiO4/2単位の数である)
【0101】
式(c)において、R7は一価の有機基であり、好ましくは、炭素数1~10の置換または非置換のアルキル基、アリール基、またはこれらを組み合わせた炭化水素基である。炭素数1~10のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基等が挙げられ、中でも、メチル基が好ましい。炭素数1~10のアリール基としては、例えば、フェニル基が挙げられる。
【0102】
式(c)において、aは、ヒドリド基(Siに直接結合する水素原子)の数であり、1~3の範囲の整数、好ましくは1である。
【0103】
また、式(c)において、mはHa(R7)3-aSiO1/2単位の数、nはSiO4/2単位の数である。
【0104】
分岐状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B2)は分岐状構造を有する。直鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B1)と分岐状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B2)は、その構造が直鎖状か分岐状かという点で異なり、Siの数を1とした時のSiに結合するアルキル基Rの数(R/Si)が、直鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B1)では1.8~2.1、分岐状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B2)では0.8~1.7の範囲となる。
【0105】
なお、分岐状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B2)は、分岐構造を有しているため、例えば、窒素雰囲気下、1000℃まで昇温速度10℃/分で加熱した際の残渣量が5%以上となる。これに対して、直鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B1)は、直鎖状であるため、上記条件で加熱した後の残渣量はほぼゼロとなる。
【0106】
また、分岐状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B2)の具体例としては、下記式(3)で表される構造を有するものが挙げられる。
【0107】
【0108】
式(3)中、R7は炭素数1~8の置換または非置換のアルキル基、アリール基、またはこれらを組み合わせた炭化水素基、もしくは水素原子である。炭素数1~8のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基等が挙げられ、中でも、メチル基が好ましい。炭素数1~8のアリール基としては、例えば、フェニル基が挙げられる。R7の置換基としては、例えば、メチル基等が挙げられる。
【0109】
なお、式(3)中、複数のR7は互いに独立したものであり、互いに異なっていてもよいし、同じであってもよい。
【0110】
また、式(3)中、「-O-Si≡」は、Siが三次元に広がる分岐構造を有することを表している。
【0111】
なお、分岐状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B2)は、1種のみを単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0112】
また、直鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B1)と分岐状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B2)において、Siに直接結合する水素原子(ヒドリド基)の量は、それぞれ、特に限定されない。ただし、シリコーンゴム系硬化性組成物において、ビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1)中のビニル基1モルに対し、直鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B1)と分岐状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B2)の合計のヒドリド基量が、0.5~5モルとなる量が好ましく、1~3.5モルとなる量がより好ましい。これにより、直鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B1)および分岐状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B2)と、ビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1)との間で、架橋ネットワークを確実に形成させることができる。
【0113】
<<シリカ粒子(C)>>
本実施形態に係るシリコーンゴム系硬化性組成物は、非導電性フィラーを含む。非導電性フィラーは、必要に応じ、シリカ粒子(C)を含んでもよい。これにより、エラストマーの硬さや機械的強度の向上を図ることができる。
【0114】
シリカ粒子(C)としては、特に限定されないが、例えば、ヒュームドシリカ、焼成シリカ、沈降シリカ等が用いられる。これらを単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0115】
シリカ粒子(C)は、例えば、BET法による比表面積が例えば50~400m2/gであるのが好ましく、100~400m2/gであるのがより好ましい。また、シリカ粒子(C)の平均一次粒径は、例えば1~100nmであるのが好ましく、5~20nm程度であるのがより好ましい。
【0116】
シリカ粒子(C)として、かかる比表面積および平均粒径の範囲内であるものを用いることにより、形成されるシリコーンゴムの硬さや機械的強度の向上、特に引張強度の向上をさせることができる。
【0117】
<<シランカップリング剤(D)>>
本実施形態のシリコーンゴム系硬化性組成物は、シランカップリング剤(D)を含むことができる。
シランカップリング剤(D)は、加水分解性基を有することができる。加水分解基が水により加水分解されて水酸基になり、この水酸基がシリカ粒子(C)表面の水酸基と脱水縮合反応することで、シリカ粒子(C)の表面改質を行うことができる。
【0118】
また、このシランカップリング剤(D)は、疎水性基を有するシランカップリング剤を含むことができる。これにより、シリカ粒子(C)の表面にこの疎水性基が付与されるため、シリコーンゴム系硬化性組成物中ひいてはシリコーンゴム中において、シリカ粒子(C)の凝集力が低下(シラノール基による水素結合による凝集が少なくなる)し、その結果、シリコーンゴム系硬化性組成物中のシリカ粒子(C)の分散性が向上すると推測される。これにより、シリカ粒子(C)とゴムマトリックスとの界面が増加し、シリカ粒子(C)の補強効果が増大する。さらに、ゴムのマトリックス変形の際、マトリックス内でのシリカ粒子(C)の滑り性が向上すると推測される。そして、シリカ粒子(C)の分散性の向上及び滑り性の向上によって、シリカ粒子(C)によるシリコーンゴムの機械的強度(例えば、引張強度や引裂強度など)が向上する。
【0119】
さらに、シランカップリング剤(D)は、ビニル基を有するシランカップリング剤を含むことができる。これにより、シリカ粒子(C)の表面にビニル基が導入される。そのため、シリコーンゴム系硬化性組成物の硬化の際、すなわち、ビニル基含有オルガノポリシロキサン(A)が有するビニル基と、オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B)が有するヒドリド基とがヒドロシリル化反応して、これらによるネットワーク(架橋構造)が形成される際に、シリカ粒子(C)が有するビニル基も、オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B)が有するヒドリド基とのヒドロシリル化反応に関与するため、ネットワーク中にシリカ粒子(C)も取り込まれるようになる。これにより、形成されるシリコーンゴムの低硬度化および高モジュラス化を図ることができる。
【0120】
シランカップリング剤(D)としては、疎水性基を有するシランカップリング剤およびビニル基を有するシランカップリング剤を併用することができる。
【0121】
シランカップリング剤(D)としては、例えば、下記式(4)で表わされるものが挙げられる。
【0122】
Yn-Si-(X)4-n・・・(4)
上記式(4)中、nは1~3の整数を表わす。Yは、疎水性基、親水性基またはビニル基を有するもののうちのいずれかの官能基を表わし、nが1の時は疎水性基であり、nが2または3の時はその少なくとも1つが疎水性基である。Xは、加水分解性基を表わす。
【0123】
疎水性基は、炭素数1~6のアルキル基、アリール基、またはこれらを組み合わせた炭化水素基であり、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、フェニル基等が挙げられ、中でも、特に、メチル基が好ましい。
【0124】
また、親水性基は、例えば、水酸基、スルホン酸基、カルボキシル基またはカルボニル基等が挙げられ、中でも、特に、水酸基が好ましい。なお、親水性基は、官能基として含まれていてもよいが、シランカップリング剤(D)に疎水性を付与するという観点からは含まれていないのが好ましい。
【0125】
さらに、加水分解性基は、メトキシ基、エトキシ基のようなアルコキシ基、クロロ基またはシラザン基等が挙げられ、中でも、シリカ粒子(C)との反応性が高いことから、シラザン基が好ましい。なお、加水分解性基としてシラザン基を有するものは、その構造上の特性から、上記式(4)中の(Yn-Si-)の構造を2つ有するものとなる。
【0126】
上記式(4)で表されるシランカップリング剤(D)の具体例は、次の通りである。
上記官能基として疎水性基を有するものとして、例えば、メチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、n-プロピルトリメトキシシラン、n-プロピルトリエトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、ヘキシルトリエトキシシラン、デシルトリメトキシシランのようなアルコキシシラン;メチルトリクロロシラン、ジメチルジクロロシラン、トリメチルクロロシラン、フェニルトリクロロシランのようなクロロシラン;ヘキサメチルジシラザンが挙げられる。この中でも、ヘキサメチルジシラザン、トリメチルクロロシラン、トリメチルメトキシシラン、及びトリメチルエトキシシランからなる群から選択される一種以上を含むトリメチルシリル基を有するシランカップリング剤が好ましい。
【0127】
上記官能基としてビニル基を有するものとして、例えば、メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルメチルジメトキシシランのようなアルコキシシラン;ビニルトリクロロシラン、ビニルメチルジクロロシランのようなクロロシラン;ジビニルテトラメチルジシラザンが挙げられる。この中でも、メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、ジビニルテトラメチルジシラザン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、及びビニルメチルジメトキシシランからなる群から選択される一種以上を含むビニル基含有オルガノシリル基を有するシランカップリング剤が好ましい。
【0128】
またシランカップリング剤(D)がトリメチルシリル基を有するシランカップリング剤およびビニル基含有オルガノシリル基を有するシランカップリング剤の2種を含む場合、疎水性基を有するものとしてはヘキサメチルジシラザン、ビニル基を有するものとしてはジビニルテトラメチルジシラザンを含むことが好ましい。
【0129】
トリメチルシリル基を有するシランカップリング剤(D1)およびビニル基含有オルガノシリル基を有するシランカップリング剤(D2)を併用する場合、(D1)と(D2)の比率は、特に限定されないが、例えば、重量比で(D1):(D2)が、1:0.001~1:0.35、好ましくは1:0.01~1:0.20、より好ましくは1:0.03~1:0.15である。このような数値範囲とすることにより、所望のシリコーンゴムの物性を得ることができる。具体的には、ゴム中におけるシリカの分散性およびゴムの架橋性のバランスを図ることができる。
【0130】
本実施形態において、シランカップリング剤(D)の含有量の下限は、ビニル基含有オルガノポリシロキサン(A)の合計量100重量部に対して、1質量%以上であることが好ましく、3質量%以上であることがより好ましく、5質量%以上であることがさらに好ましい。また、シランカップリング剤(D)の含有量上限は、ビニル基含有オルガノポリシロキサン(A)の合計量100重量部に対して、100質量%以下であることが好ましく、80質量%以下であることがより好ましく、40質量%以下であることがさらに好ましい。
シランカップリング剤(D)の含有量を上記下限以上とすることにより、エラストマーを含む柱状部と導電性樹脂層との密着性を高めることができる。また、シリコーンゴムの機械的強度の向上に資することができる。また、シランカップリング剤(D)の含有量を上記上限以下とすることにより、シリコーンゴムが適度な機械特性を持つことができる。
【0131】
<<白金または白金化合物(E)>
本実施形態に係るシリコーンゴム系硬化性組成物は、触媒を含んでもよい。触媒は、白金または白金化合物(E)を含むことができる。白金または白金化合物(E)は、硬化の際の触媒として作用する触媒成分である。白金または白金化合物(E)の添加量は触媒量である。
【0132】
白金または白金化合物(E)としては、公知のものを使用することができ、例えば、白金黒、白金をシリカやカーボンブラック等に担持させたもの、塩化白金酸または塩化白金酸のアルコール溶液、塩化白金酸とオレフィンの錯塩、塩化白金酸とビニルシロキサンとの錯塩等が挙げられる。
【0133】
なお、白金または白金化合物(E)は、1種のみを単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0134】
本実施形態において、シリコーンゴム系硬化性組成物中における白金または白金化合物(E)の含有量は、触媒量を意味し、適宜設定することができるが、具体的にはビニル基含有オルガノポリシロキサン(A)、シリカ粒子(C)、シランカップリング剤(D)の合計量100重量部に対して、白金族金属が重量単位で0.01~1000ppmとなる量であり、好ましくは、0.1~500ppmとなる量である。
白金または白金化合物(E)の含有量を上記下限以上とすることにより、シリコーンゴム系硬化性組成物が適切な速度で硬化することが可能となる。また、白金または白金化合物(E)の含有量を上記上限以下とすることにより、製造コストの削減に資することができる。
【0135】
<<水(F)>>
また、本実施形態に係るシリコーンゴム系硬化性組成物には、上記成分(A)~(E)以外に、水(F)が含まれていてもよい。
【0136】
水(F)は、シリコーンゴム系硬化性組成物に含まれる各成分を分散させる分散媒として機能するとともに、シリカ粒子(C)とシランカップリング剤(D)との反応に寄与する成分である。そのため、シリコーンゴム中において、シリカ粒子(C)とシランカップリング剤(D)とを、より確実に互いに連結したものとすることができ、全体として均一な特性を発揮することができる。
【0137】
(その他の成分)
さらに、本実施形態のシリコーンゴム系硬化性組成物は、上記(A)~(F)成分以外に、他の成分をさらに含むことができる。この他の成分としては、例えば、珪藻土、酸化鉄、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化バリウム、酸化マグネシウム、酸化セリウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸亜鉛、ガラスウール、マイカ等のシリカ粒子(C)以外の無機充填材、反応阻害剤、分散剤、顔料、染料、帯電防止剤、酸化防止剤、難燃剤、熱伝導性向上剤等の添加剤が挙げられる。
【0138】
<信号線69の材料>
信号線69は、公知のものを使用することができるが、例えば、導電繊維で構成され得る。導電繊維としては、金属繊維、金属被覆繊維、炭素繊維、導電性ポリマー繊維、導電性ポリマー被覆繊維、および導電ペースト被覆繊維からなる群から選択される一種以上を用いることができる。これらを単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0139】
上記金属繊維、金属被覆繊維、の金属材料は、導電性を有するものであれば限定されないが、銅、銀、金、ニッケル、錫、鉛、亜鉛、ビスマス、アンチモン、ステンレス、アルミニウム、銀/塩化銀およびこれらの合金等が挙げられる。これらを単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中でも、導通性の観点から、銀を用いることができる。また、金属材料は、クロム等の環境に負荷を与える金属を含まないことが好ましい。
【0140】
上記金属被覆繊維、導電性ポリマー被覆繊維、導電ペースト被覆繊維の繊維材料は、特に限定されないが、合成繊維、半合成繊維、天然繊維のいずれでもよい。これらの中でも、ポリエステル、ナイロン、ポリウレタン、絹および綿等を用いることが好ましい。これらを単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0141】
上記炭素繊維は、例えば、PAN系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維等が挙げられる。
【0142】
上記導電性ポリマー繊維および導電性ポリマー被覆繊維の導電性ポリマー材料は、例えば、ポリチオフェン、ポリピロール、ポリアニリン、ポリアセチレン、ポリフェニレンビニレン、ポリナフタレン、及びこれらの誘導体等の導電性高分子およびバインダ樹脂の混合物、あるいは、PEDOT-PSS((3,4-エチレンジオキシチオフェン)-ポリ(スチレンスルホン酸))等の導電性高分子の水溶液が用いられる。
【0143】
上記導電ペースト被覆繊維の導電ペーストに含まれる樹脂材料は特に限定されないが伸縮性を有することが好ましく、例えばシリコーンゴム、ウレタンゴム、フッ素ゴム、ニトリルゴム、アクリルゴム、スチレンゴム、クロロプレンゴム、およびエチレンプロピレンゴムからなる群から選択される一種以上を含むことができる。これらを単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0144】
上記導電ペースト被覆繊維の導電ペーストに含まれる導電性フィラーは特に限定されないが、公知の導電材料を用いてもよいが、金属粒子、金属繊維、金属被覆繊維、カーボンブラック、アセチレンブラック、グラファイト、炭素繊維、カーボンナノチューブ、導電性ポリマー、導電性ポリマー被覆繊維および金属ナノワイヤーからなる群から選択される一種以上を含むことができる。
【0145】
上記導電性フィラーを構成する金属は、特に限定はされないが、例えば、銅、銀、金、ニッケル、錫、鉛、亜鉛、ビスマス、アンチモン、銀/塩化銀、或いはこれらの合金のうち少なくとも一種類、あるいは、これらのうちの二種以上を含むことができる。この中でも、導電性の高さや入手容易性の高さから、銀または銅が好ましい。
【0146】
上記信号線69が、線状の導電繊維を複数本撚り合わせた撚糸で構成されてもよい。これにより、変形時における信号線69の断線を抑制できる。
【0147】
本実施形態において、導電繊維における被覆とは、単に繊維材料の外表面を覆うことのみならず、単繊維を撚り合わせた撚糸などの場合は、その撚糸の中の繊維間隙に金属、導電性ポリマー、または導電ペーストが含浸し、撚糸を構成する単繊維を1本毎に被覆するものを含む。
【0148】
信号線69の引張破断伸度は、例えば、1%以上~50%以下、好ましくは1.5%以上~45%である。このような数値範囲内とすることで、変形時の破断を抑制しつつも、突出部60の過度な変形を抑制できる。
【0149】
<電極部80の材料>
電極部80を構成する導電性部材70は、例えば、良導性金属を含むペーストである。良導性金属は、銅、銀、金、ニッケル、錫、鉛、亜鉛、ビスマス、アンチモン、或いはこれらの合金からなる群から選択される一種以上を含む。特に、入手性や導電性の観点から、銀や塩化銀、銅が好適である。
【0150】
良導性金属を含むペーストで電極部80を形成する場合は、ゴム状の弾性体により形成された突出部60の先端部分61を、良導性金属を含むペースト状の導電性溶液にディップ(浸漬塗布)する。これにより、突出部60の表面に電極部80が形成される。
【0151】
なお、導電性フィラーおよび溶剤を含む導電性溶液を、突出部60の表面に塗布することにより、導電性樹脂層としての導電性部材70(電極部80)を形成してもよい。このとき、溶剤を突出部60と同じ系統の材質(シリコーンゴム)とすることで、導電性部材70(導電性樹脂層)の密着性を高められる。
【0152】
導電性溶液を必要に応じて加熱乾燥することで、導電性シリコーンゴムが得られる。導電性シリコーンゴムは、シリコーンオイルを含まない構成であってもよい。これにより、電極部80の表面にシリコーンオイルがブリードアウトすることで導通性が低下することを抑制できる。
【0153】
また、突出部60自体に導電性部材が含まれてもよい。例えば、突出部60全体が導電性シリコーンゴムにより設けられて、突出部60が電極部80として機能してもよい。この場合、ゲル状部材85は直接突出部60に取り付けられる。
【0154】
以上、図面を参照して本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成(変形例)を採用することもできる。
【実施例0155】
以下、本実施形態を、実施例を参照して詳細に説明する。なお、本実施形態は、これらの実施例の記載に何ら限定されるものではない。
【0156】
<サンプル>
<実施例1、比較例1,2のサンプル>
実施例1、比較例1,2で用いたシリコーンゴムの原料成分を以下に示す。
(ビニル基含有オルガノポリシロキサン(A))
・低ビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1-1):合成スキーム1により合成したビニル基含有ジメチルポリシロキサン(式(1-1)で表わされる構造でR1(末端)のみがビニル基である構造)
・高ビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1-2):合成スキーム2により合成したビニル基含有ジメチルポリシロキサン(式(1-1)で表わされる構造でR1およびR2がビニル基である構造)
【0157】
(オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B))
・モメンティブ社製:「TC-25D」
【0158】
(シリカ粒子(C))
・シリカ微粒子(粒径7nm、比表面積300m2/g)、日本アエロジル社製、「AEROSIL300」
(銀粉)
・銀粉:(メジアン径d50:8.0μm、アスペクト比16.4、平均長径4.6μm)、徳力本店製、「TC-101」、
【0159】
(シランカップリング剤(D))
・シランカップリング剤(D-1):ヘキサメチルジシラザン(HMDZ)、Gelest社製、「HEXAMETHYLDISILAZANE(SIH6110.1)」
・シランカップリング剤(D-2):ジビニルテトラメチルジシラザン、Gelest社製、「1,3-DIVINYLTETRAMETHYLDISILAZANE(SID4612.0)」
【0160】
(白金または白金化合物(E))
・モメンティブ社製:「TC-25A」
【0161】
(ビニル基含有オルガノポリシロキサン(A)の合成)
[合成スキーム1:低ビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1-1)の合成]
下記式(5)にしたがって、低ビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1-1)を合成した。
すなわち、Arガス置換した、冷却管および攪拌翼を有する300mLセパラブルフラスコに、オクタメチルシクロテトラシロキサン74.7g(252mmol)、カリウムシリコネート0.1gを入れ、昇温し、120℃で30分間攪拌した。なお、この際、粘度の上昇が確認できた。
その後、155℃まで昇温し、3時間攪拌を続けた。そして、3時間後、1,3-ジビニルテトラメチルジシロキサン0.1g(0.6mmol)を添加し、さらに、155℃で4時間攪拌した。
さらに、4時間後、トルエン250mLで希釈した後、水で3回洗浄した。洗浄後の有機層をメタノール1.5Lで数回洗浄することで、再沈精製し、オリゴマーとポリマーを分離した。得られたポリマーを60℃で一晩減圧乾燥し、低ビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1-1)を得た(Mn=2.2×105、Mw=4.8×105)。また、H-NMRスペクトル測定により算出したビニル基含有量は0.04モル%であった。
【0162】
【0163】
[合成スキーム2:高ビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1-2)の合成]
上記(A1-1)の合成工程において、オクタメチルシクロテトラシロキサン74.7g(252mmol)に加えて2,4,6,8-テトラメチル2,4,6,8-テトラビニルシクロテトラシロキサン0.86g(2.5mmol)を用いたこと以外は、(A1-1)の合成工程と同様にすることで、下記式(6)のように、高ビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1-2)を合成した。(Mn=2.3×10
5、Mw=5.0×10
5)。また、H-NMRスペクトル測定により算出したビニル基含有量は0.93モル%であった。
【化6】
【0164】
<シリコーンゴム系硬化性組成物の調製>
次のようにしてシリコーンゴム系硬化性組成物を調整した。
まず、下記の表1に示す割合で、90%のビニル基含有オルガノポリシロキサン(A)、シランカップリング剤(D)および水(F)の混合物を予め混練し、その後、混合物にシリカ粒子(C)を加えてさらに混練し、混練物(シリコーンゴムコンパウンド)を得た。
ここで、シリカ粒子(C)添加後の混練は、カップリング反応のために窒素雰囲気下、60~90℃の条件下で1時間混練する第1ステップと、副生成物(アンモニア)の除去のために減圧雰囲気下、160~180℃の条件下で2時間混練する第2ステップとを経ることで行い、その後、冷却し、残り10%のビニル基含有オルガノポリシロキサン(A)を2回に分けて添加し、20分間混練した。
続いて、得られた混練物(シリコーンゴムコンパウンド)100重量部に、下記の表1に示す割合で、オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B)(TC-25D)および白金または白金化合物(E)(TC-25A)を加えて、ロールで混練し、シリコーンゴム系硬化性組成物Aを得た。
【0165】
<ディップコート用の導電性溶液の調製>
得られた13.7重量部のシリコーンゴム系硬化性組成物Aを、31.8重量部のデカン(溶剤)に浸漬し、続いて自転・公転ミキサーで撹拌し、54.5重量部の金属粉(G1)を加えた後に三本ロールで混練することで、導電性ペースト(ディップコート用の導電性溶液)を得た。
【0166】
【0167】
<脳波測定用電極の作製>
(実施例1)
上記で得られたシリコーンゴム系硬化性組成物Aを、基部および複数の略三角錐形状突出部に対応する成形空間(凹部)を有する金型を用いて、180℃、10MPaで10分間加熱して、硬化させ、それぞれの凹部内に、基部と複数の突出部とが一体化した成形体を得た。
続いて、成形体の突出部における先端部分から基部にかけての領域を、上記の<ディップコート用の導電性溶液>にディップし、120℃、30分間で加熱乾燥した。
その後、140℃、2時間のポストキュアを行った。
以上により、基部51、突出部60、および電極部80を備える、
図4に示す構造体(ただし、ゲル状部材85が形成されていない脳波測定用電極50)を得た(準備工程)。
続いて、得られた構造体の電極部80の先端部分に所定サイズの開口を有するマスクを取り付けた。このとき、電極部80の側面における先端から基端までの長さをLとしたとき、2/5L程度の電極部80がマスクの開口から露出した状態であった。そして、マスクから露出した電極部80の先端部分に対してプラズマ照射した(親水化処理工程)。
マスクを取り外した後、レオメータを用いて、25℃、せん断速度が20[s
-1]の条件で測定したときの粘度が1.0×10
2Pa・sとなるアクリル系ハイドロゲル形成用溶液に、電極部80の先端部分をディップした。そして、電極部80の先端を鉛直方向の下側に向けて保持し、この状態で紫外線照射した後、これを乾燥させた(吸水性部材形成工程)。
以上により、脳波測定用電極を得た。
【0168】
(比較例1)
上記の親水化処理工程を実施しないで、構造体において、アクリル系ハイドロゲル形成用溶液に電極部の先端部分をディップした点以外、実施例1と同様にして、脳波測定用電極を得た。
【0169】
(比較例2)
上記の親水化処理工程において、マスクを使用しないで、電極部80の全体にプラズマ照射した点以外、実施例1と同様にして、脳波測定用電極を得た。
【0170】
比較例1では、ハイドロゲル形成用溶液が先端近傍において、濡れ広がらずに、先端以外の部分で局所的に塗布物のダマが発生する結果が示された。また、硬化後のハイドロゲルは先端から剥がれやすいことも判明した。
また、比較例2では、ハイドロゲル形成用溶液が電極部の全体に広がり、先端近傍の一部に塗布物により被覆されない領域が発生することが確認された。また、先端部分におけるハイドロゲルの厚みが薄いことも確認された。
一方、実施例1では、電極部80の先端に塗布したハイドロゲル形成用溶液(吸水性部材形成用溶液)が、先端を包む状態で先端近傍に留まり、先端付近の塗布バラツキが抑制される結果を示した。複数の電極部80において、塗布物が硬化したハイドロゲルの位置や形状のバラツキが、他の比較例1,2と比べて抑制されていた。
以上の結果から、実施例の脳波測定用電極の製造方法は、吸水性部材の製造バラツキを抑制できることが分かった。