(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024117476
(43)【公開日】2024-08-29
(54)【発明の名称】成膜方法
(51)【国際特許分類】
C23C 14/28 20060101AFI20240822BHJP
C23C 14/06 20060101ALI20240822BHJP
【FI】
C23C14/28
C23C14/06 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023023600
(22)【出願日】2023-02-17
(71)【出願人】
【識別番号】519338902
【氏名又は名称】有限会社アルファシステム
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】弁理士法人あいち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】児玉 和樹
(72)【発明者】
【氏名】上田 大助
【テーマコード(参考)】
4K029
【Fターム(参考)】
4K029AA07
4K029AA24
4K029BA58
4K029BD01
4K029CA02
4K029DA04
4K029DA08
4K029DB03
4K029DB20
4K029EA00
(57)【要約】
【課題】レーザアブレーション効率を向上させることができる成膜方法を提供すること。
【解決手段】チャンバ10内に配置された金属のターゲット2にパルス状のレーザ光3を照射することにより、ターゲット2からターゲット材料を蒸発させて、蒸発したターゲット材料又はターゲット材料の化合物を、チャンバ10内に配置した基板4の表面に堆積させることで、基板4の表面に成膜を行う、成膜方法。レーザ光3の偏光方向は、ターゲット2の表面へのレーザ光3の入射面に対して平行な成分を有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
チャンバ内に配置された金属のターゲットにパルス状のレーザ光を照射することにより、上記ターゲットからターゲット材料を蒸発させて、蒸発した該ターゲット材料又は該ターゲット材料の化合物を、上記チャンバ内に配置した基板の表面に堆積させることで、該基板の表面に成膜を行う、成膜方法であって、
上記レーザ光の偏光方向は、上記ターゲットの表面への上記レーザ光の入射面に対して平行な成分を有する、成膜方法。
【請求項2】
上記レーザ光は直線偏光であって、上記入射面に対する上記偏光方向のなす角度は、45°未満である、請求項1に記載の成膜方法。
【請求項3】
上記偏光方向は、上記入射面に対して平行である、請求項2に記載の成膜方法。
【請求項4】
上記ターゲットは液体金属である、請求項1又は3に記載の成膜方法。
【請求項5】
上記ターゲットにパルス状のレーザ光を照射することにより蒸発したターゲット材料を上記基板の表面に供給すると共に、ラジカルを上記基板の表面に照射して、該基板の表面に金属化合物を成膜するにあたり、上記レーザ光の偏光方向を時間的に変化させる、請求項1又は3に記載の成膜方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成膜方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1には、パルスレーザ堆積法を用いて、III族金属等の膜を基板上に成膜する方法が開示されている。また、例えば、特許文献2には、III族窒化物半導体を表面に有する基板に対して、パルスレーザ堆積法を用いて、III族窒化物半導体の再成長層を成膜することが記載されている。パルスレーザ堆積法は、成膜材料からなるターゲットの表面に、パルス状のレーザ光を照射し、材料を蒸発させ、基板に成膜する方法である。以下において、パルスレーザ堆積法を、PLD法ともいう。PLDは、Pulsed Laser Depositionの略である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005-22940号公報
【特許文献2】特開2018-170437号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
PLD法による成膜につき、高い成膜速度が求められる場合がある。成膜速度を向上させる手段としては、ターゲットへのレーザ照射による材料の蒸発の効率(以下において、適宜、レーザアブレーション効率という。)を高めることが考えられる。本願発明者らは、成膜速度の向上にあたり、レーザアブレーション効率を向上させるための手法を、鋭意研究した。
【0005】
本発明は、かかる課題に鑑みてなされたものであり、レーザアブレーション効率を向上させることができる成膜方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様は、チャンバ内に配置された金属のターゲットにパルス状のレーザ光を照射することにより、上記ターゲットからターゲット材料を蒸発させて、蒸発した該ターゲット材料又は該ターゲット材料の化合物を、上記チャンバ内に配置した基板の表面に堆積させることで、該基板の表面に成膜を行う、成膜方法であって、
上記レーザ光の偏光方向は、上記ターゲットの表面への上記レーザ光の入射面に対して平行な成分を有する、成膜方法にある。
【発明の効果】
【0007】
上記成膜方法において、上記レーザ光の偏光方向は、上記ターゲットの表面への上記レーザ光の入射面に対して平行な成分を有する。これにより、レーザアブレーション効率を向上させることができる。
【0008】
以上のごとく、上記態様によれば、レーザアブレーション効率を向上させることができる成膜方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図2】実施形態1における、ターゲットへのレーザ光の入射を示す説明図。
【
図4】実施形態1における、レーザ光の光軸方向から見たTM偏光の説明図。
【
図5】実施形態1における、入射面に対して偏光面が傾斜したレーザ光を光軸方向から見た説明図。
【
図6】レーザ光の偏光方向を変化させる前の状態を説明する、光学系の斜視説明図。
【
図7】レーザ光の偏光方向を変化させてTM偏光とした状態を説明する、光学系の斜視説明図。
【
図8】実験例における、ターゲットに照射するレーザ光の光学系の説明図。
【
図10】レーザ光の光軸方向から見たTE偏光の説明図。
【
図11】実験例における、プルームの観察結果を纏めた一覧図。
【
図12】実験例における、各成膜条件によって得られたGaN膜の膜厚分布の測定
【
図13】TM偏光によるアブレーション効率向上の推測メカニズムの説明図。結果を示す線図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
上記成膜方法は、上記ターゲット材料と実質的に同様の材料からなる膜を基板の表面に成膜するものとすることもできるし、ターゲット材料と他の物質との化合物を基板上に成膜するものとすることもできる。なお、ターゲット材料は、金属であり、合金も含む。レーザ光の偏光方向は、レーザ光の電界の振動方向である。
【0011】
上記レーザ光は直線偏光であって、上記入射面に対する上記偏光方向のなす角度は、45°未満であるものとすることができる。この場合には、より、レーザアブレーション効率を向上させることができる。その結果、成膜速度を一層向上させることができる。
【0012】
上記偏光方向は、上記入射面に対して平行であるものとすることができる。この場合には、レーザアブレーション効率をさらに向上させ、成膜速度をさらに向上させることができる。なお、ここで、入射面に対して平行とは、実質的に入射面に対して平行であることを意味し、例えば、入射面に対する偏光方向の角度(
図5の角度α参照)が、5°以下程度であることを意味する。
【0013】
また、上記ターゲットは液体金属であるものとすることができる。この場合には、レーザアブレーション効率を一層向上させることができる。液体金属のターゲットは、アブレーションによる表面荒れが少なく、ターゲットの表面(照射面)に対するレーザ光の入射角(
図2のθ参照)を一定に維持しやすい。それゆえ、レーザアブレーション効率を一層向上させることができる。
【0014】
また、上記ターゲットにパルス状のレーザ光を照射することにより蒸発したターゲット材料を上記基板の表面に供給すると共に、ラジカルを上記基板の表面に照射して、該基板の表面に金属化合物を成膜するにあたり、上記レーザ光の偏光方向を時間的に変化させるものとすることができる。この場合には、基板に供給されるターゲット材料とラジカルとの供給比を時間的に変動させることができる。これにより、基板上への結晶性に優れた金属化合物の均一な成膜を容易に実現することができる。
【0015】
(実施形態1)
成膜方法に係る実施形態について、
図1~
図7を参照して説明する。
本形態の成膜方法は、以下のようにして基板4の表面に成膜を行う方法である。すなわち、
図1、
図2に示すごとく、チャンバ10内に配置された金属のターゲット2にパルス状のレーザ光3を照射する。これにより、ターゲット2からターゲット材料を蒸発させ、蒸発したターゲット材料又はターゲット材料の化合物を、チャンバ10内に配置した基板4の表面に堆積させる。これにより、基板4の表面に成膜を行う。本形態の成膜方法は、いわゆるパルスレーザ堆積法(PLD法)である。
【0016】
そして、
図3、
図4、
図5に示すごとく、レーザ光3の偏光方向は、ターゲット2の表面へのレーザ光3の入射面IPに対して平行な成分を有する。本形態においては、
図4に示すごとく、レーザ光3は直線偏光であって、偏光方向Eが入射面IPに対して平行である。すなわち、レーザ光3は、TM偏光である。ここで、TMは、Transverse Magnetic fieldの略である。TM偏光は、レーザ光3の電界の振動方向Eが入射面IPに対して平行であり、レーザ光3の磁界の振動方向Hが入射面IPに対して垂直な、直線偏光である。なお、レーザ光3の電界の振動方向Eが、レーザ光3の偏光方向である。以下において、偏光方向Eとも表す。
【0017】
図5に示すごとく、ターゲット2の表面に入射するレーザ光3の偏光方向が、入射面IPに対して非平行であってもよい。ただし、この場合においても、入射面IPに対する偏光方向Eのなす角度αは、45°未満であることが好ましい。そして、より好ましくは、角度αは30°以下、更に好ましくは、角度αを実質的に0°、つまり、上述のように、TM偏光とする。
【0018】
図1は、PLD法によって成膜を行う成膜装置1の概略図である。同図に示すように、成膜装置1は、チャンバ10と、ターゲット保持部12と、レーザ照射装置13と、基板保持部14とを有する。ターゲット保持部12は、チャンバ10内に配置され、ターゲット2を保持する。基板保持部14も、チャンバ10内に配置され、基板4を保持する。ターゲット2と基板4における被成膜表面とが互いに対向するように、それぞれターゲット保持部12と基板保持部14とに保持される。また、基板保持部14は、基板4を加熱するヒータを有する。
【0019】
レーザ照射装置13は、チャンバ10の外部に配置されている。チャンバ10には、レーザ光3を透過する光透過窓101が設けてある。レーザ照射装置13と光透過窓101との間には、1/2波長板15と、レンズ16とが介在している。レーザ照射装置13から放射されるレーザ光3は、レンズ16によって、ターゲット2の表面に集光される。なお、レーザ照射装置13と光透過窓101との間には、適宜、他のレンズ等の光学素子を設置してもよい。
【0020】
1/2波長板15は、
図6、
図7に示すごとく、結晶の光軸Cの向きを調整できるよう、配置されている。1/2波長板15の結晶の光軸Cは、1/2波長板15の厚み方向に対して垂直な方向である。つまり、1/2波長板15の結晶の光軸Cは、レーザ光3の光軸に対して垂直となるように配置される。レーザ光3は、1/2波長板15を通過することにより、1/2波長板15の結晶の光軸Cの向きに応じて、偏光方向Eが所定の方向に変えられる。1/2波長板15は、厚み方向(すなわちレーザ光3の光軸方向)に平行な回転軸を中心に回転させることができるよう、例えば回転式マウント(図示略)に保持された状態で配置されている。
【0021】
それゆえ、1/2波長板15を回転させて調整することで、ターゲット2に入射するレーザ光3の偏光方向Eを、入射面IPに対して平行にすることができる。すなわち、1/2波長板15の姿勢を適切に調整することで、ターゲット2に入射するレーザ光3を、TM偏光とすることができる。
【0022】
例えば、レーザ照射装置13から出射して1/2波長板15を透過する前のレーザ光30がTE偏光である場合を例にとって、
図6、
図7を用いて説明する。ここで、レーザ光3の進行方向をx、ターゲット2へのレーザ光3の入射面IPに対して垂直な方向をy、入射面IPをzとする。すなわち、入射面IPはx-z平面とする。また、1/2波長板15を透過する前のレーザ光30(TE偏光)の偏光面がx-y平面となる。
【0023】
仮に、
図6に示すごとく、1/2波長板15の結晶の光軸Cをy方向すなわちレーザ光30の偏光方向と平行としているときは、1/2波長板15を透過したレーザ光3の偏光方向は変化せずに、y方向のままである。つまり、1/2波長板15を透過したレーザ光3は、TE偏光のままとなる。
【0024】
そこで、
図7に示すごとく、1/2波長板15を45°回転させて、結晶の光軸Cをy方向に対して45°傾斜させる。この場合、1/2波長板15を透過したレーザ光3の偏光方向は90°変化し、z方向となる。つまり、1/2波長板15を透過したレーザ光3は、TM偏光となる。
【0025】
このようにして、1/2波長板15を適宜回転させることにより、ターゲット2へ入射するレーザ光3の偏光方向を調整することができる。なお、
図6、
図7を用いた上記説明は、一例であり、1/2波長板15を透過する前のレーザ光30の偏光方向に応じて、1/2波長板15の回転度合いを調整することとなる。また、
図6、
図7における1/2波長板15の形状は、便宜的に直方体形状としているが、特に限定されるものではない。
【0026】
また、
図1に示すごとく、チャンバ10には、排気口102が設けてある。排気口102は、真空ポンプ(図示略)に接続されている。これにより、チャンバ10内のガスを排気口102から排気して、チャンバ10内を実質的な真空状態とすることができるよう構成されている。また、本形態において、成膜装置1は、ラジカル照射装置5を有する。ラジカル照射装置5は、チャンバ10内に配置された基板4へ向かってラジカル50を照射する。
【0027】
以下において、上記成膜装置1を用いた本形態の成膜方法の一例につき、説明する。
ここでは、ターゲット2として、ガリウム(Ga)を用いる。ターゲット保持部12としては、例えば、酸化アルミニウムからなるるつぼを用いる。ターゲット保持部12としてのるつぼ内に、ガリウムが液体の状態にて保持されている。液体のガリウムからなるターゲット2の表面は、その表面張力によって、曲面状となっている。ただし、ターゲット2の表面の中央部付近は、法線方向が略鉛直上向きとなっており、基板4の方向を向いている。なお、本形態においては、ターゲット2の表面を鉛直上向き、基板4の被成膜面を鉛直下向きとした場合について説明するが、ターゲット2及び基板4の配置の向きと、鉛直方向との関係は、特に限定されるものではない。
【0028】
まず、チャンバ10内からガスを吸引して、チャンバ10内を実質的に真空の状態とする。また、基板保持部14のヒータにより、基板4を所定の温度(例えば400~800℃程度)に加熱する。また、ターゲット2の温度は、室温~100℃程度に保つ。なお、ターゲット2は、例えば、基板保持部14のヒータの加熱による輻射熱により加熱される構成としてもよい。この状態において、ラジカル照射装置5から、窒素ラジカル50を基板4へ向かって照射する。それと共に、レーザ照射装置13から、1/2波長板15、レンズ16、光透過窓101を介して、レーザ光3を、ターゲット2へ照射する。レーザ光3は、ターゲット2の表面に対して、斜めに入射する。すなわち、
図2に示すごとく、ターゲット2の表面に対するレーザ光3の入射角θが、90°未満となるようにする。
【0029】
このとき、ターゲット2の表面に入射するレーザ光3は、TM偏光である。つまり、このレーザ光3は、
図3、
図4に示すように、入射面IP(
図2、
図3の紙面に相当)に対して平行な偏光方向Eを有する直線偏光である。また、パルス状のレーザ光3は、例えば、パルス幅10~50ps、パルスの繰り返し周波数1~100kHz、照射エネルギ50~100μJ程度とすることができる。
【0030】
これにより、ターゲット2から、ガリウムが蒸発する。すなわち、ターゲット2の表面の一部がアブレーションされる。アブレーションされたターゲット2の材料であるガリウムは、イオン、原子、分子等となり、
図1に示すごとく、プルーム20を形成する。プルーム20は、ターゲット2におけるレーザ光3の照射面の法線方向に向かうように形成される。これにより、ガリウムのイオン、原子、分子等が、基板4の表面に堆積する。
【0031】
基板4上において、ガリウムは、ラジカル照射装置5から基板4に供給される窒素ラジカル50と化学反応して、窒化ガリウム(GaN)が生成される。これにより、GaNの薄膜が基板4上に形成される。
【0032】
次に、本形態の作用効果につき説明する。
上記成膜方法において、レーザ光3の偏光方向Eは、ターゲット2の表面へのレーザ光3の入射面IPに対して平行な成分を有する。これにより、レーザアブレーション効率を向上させることができる。その結果、基板4の表面における成膜速度を向上させることができる。
【0033】
特に本形態においては、レーザ光3の偏光方向Eが、入射面IPに対して平行である。つまり、ターゲット2に入射するレーザ光3が、TM偏光である。それゆえ、レーザアブレーション効率をさらに向上させ、成膜速度をさらに向上させることができる。なお、ターゲット2に入射するレーザ光3をTM偏光とすることによる、レーザアブレーション効率の向上及び成膜速度の向上については、後述する実験例に示すように確認された。
【0034】
また、本形態においては、ターゲット2が液体であるため、TM偏光によるレーザアブレーション効率を一層向上させることができる。液体のターゲット2は、アブレーションによる表面荒れが少なく、ターゲット2の表面(照射面)に対するレーザ光3の入射角θを一定に維持しやすい。それゆえ、TM偏光によるレーザアブレーション効率を一層向上させることができる。
【0035】
以上のごとく、本形態によれば、レーザアブレーション効率を向上させることができる成膜方法を提供することができる。
【0036】
(実験例)
本例は、実施形態1の成膜方法による、レーザアブレーション効率の向上効果、及び成膜速度の向上効果を確認した例である。すなわち、本例においては、ターゲット2の表面への入射面IPに対するレーザ光3の偏光方向Eと、レーザアブレーション効率および成膜速度との関係を調べた。なお、本例以降において用いる符号のうち、既出の実施形態において用いた符号と同一のものは、特に示さない限り、既出の実施形態におけるものと同様の構成要素等を表す。
【0037】
本例において用いた、ターゲット2に照射するレーザ光3の光学系の模式図を、
図8に示す。
レーザ照射装置13としては、Panasonic Boston Lab.社製のピコ秒レーザを用いた。レーザ照射装置13は、パルスレーザ発生部であるモード同期発振器131及び再生増幅器132と、発生させたパルスレーザ光の出力を制御する出力制御部133を有する。出力制御部133は、1/2波長板133a及び偏光ビームスプリッタ133bを有する。
【0038】
モード同期発振器131は、所定のエネルギ及び周波数を有するパルスレーザ光を生成する。生成されたパルスレーザ光は、再生増幅器132において増幅される。増幅されたパルスレーザ光は、出力制御部133において出力が制御される。すなわち、出力制御部133における1/2波長板133aを回転調整して、偏光ビームスプリッタ133bに対するパルスレーザ光の偏光方向を調整する。これにより、偏光ビームスプリッタにおける、透過光と反射光の割合を変えることで、出力制御部133を通過するパルスレーザ光の出力を調整する。
【0039】
本実験例において、レーザ照射装置13からは、波長が1064nm、パルス幅が15ps、繰り返し周波数が50kHzのパルス状のレーザ光3を放射させた。レーザ照射装置13から放射されたレーザ光3は、偏光面調整(すなわち偏光方向Eの調整)のための1/2波長板15を透過する。これにより、偏光面(偏光方向E)が調整された状態で、ターゲット2に照射される。ターゲット2の表面に対するレーザ光3の入射角θ(
図2参照)は、30°とした。
【0040】
回転式マウントに取り付けた1/2波長板15を回転させて調整することで、ターゲット2に照射されるパルス状のレーザ光3の偏光面(偏光方向E)を、調整した。すなわち、ターゲット2の表面に照射されるレーザ光3の入射面IPに対して、偏光面が平行又は垂直になるようにした。換言すると、1/2波長板15を調整することで、ターゲット2に照射するレーザ光3を、TM偏光とした場合と、TE偏光とした場合とで、それぞれ試験を行った。
【0041】
TM偏光については、上述した
図3、
図4に示したとおりである。一方、TE偏光の説明図を、
図9、
図10に示す。これらの図に示すように、TE偏光は、レーザ光3の電界の振動方向Eが入射面IP(
図9の紙面に相当)に対して垂直であり、レーザ光3の磁界の振動方向Hが入射面IPに対して平行な、直線偏光である。すなわち、TE偏光は、入射面IPに対して垂直な偏光方向Eを有する直線偏光である。
【0042】
また、ターゲット2に照射されるレーザ光3の照射出力は、0.2~0.9Wの間で変化させた。照射出力は、上述の出力制御部133によって調整した。具体的には、照射出力は、0.2W、0.5W、0.9Wの3つの条件に振って試験を行った。
【0043】
また、ラジカル照射装置5としては、ICP(誘導結合型プラズマ)とCCP(容量結合型プラズマ)とを組み合わせた高密度ラジカル源を用いた。ラジカル照射装置5においては、窒素ラジカルを生成し、
図1に示すごとく、窒素ラジカル50を基板4に向かって照射した。すなわち、基板4に窒素ラジカル50を照射しながら、ターゲット2にレーザ光3を照射して、GaNの成膜を行った。
【0044】
他の成膜条件として、基板4の温度は650℃、ターゲット2の温度は27℃、チャンバ10内の圧力は5×10-2Pa、窒素の流量は20sccm、ラジカル出力は600Wとした。また、レーザ光3の照射の仕方として、本願発明者らが既に提案しているレーザブランキング法(児玉和樹他、第66回春季応用物理学会11p-W541-11(2019)参照)を利用し、照射オン/オフ時間を、それぞれ1秒/1秒とした。また、基板4としては、C面サファイヤ基板を用いた。
【0045】
上記のような条件にて、レーザアブレーション効率及び成膜速度の評価を行った。
レーザアブレーション効率の評価については、ターゲット2から生じるプルーム(
図1の符号20)を目視による観察およびデジタルカメラ(キヤノン社製 EOS Kiss X7)による撮影画像の観察により行った。すなわち、ターゲット2に照射するレーザ光3をTE偏光とした場合と、TM偏光とした場合とにおいて、それぞれレーザ照射出力を0.2W、0.5W、0.9Wと変化させつつ、プルームの状態を観察した。プルームの観察は、チャンバ10に設けた観察窓から行った。
【0046】
その観察結果を、
図11に示す。同図から分かるように、レーザ照射出力が0.2Wのとき、TE偏光によっては、プルームが生じていないのに対し、TM偏光によると、プルームが発生している。レーザ照射出力を0.5Wとしても、TE偏光によっては、プルームが生じていない。TM偏光による場合は、レーザ照射出力を0.5Wと増加させることにより、プルームがより鮮明に発生している。さらに、レーザ照射出力を0.9Wに増加させると、ようやく、TE偏光による場合においても、プルームが僅かに観察された。一方、レーザ照射出力を0.9Wとした状態で、TM偏光を照射すると、更に強く大きいプルームが観察された。
【0047】
また、
図12に示すごとく、ターゲット2に照射するレーザ光3をTE偏光とした場合と、TM偏光とした場合とにおける、成膜速度の差を確認した。それぞれレーザ照射出力を0.5Wとしたものと、0.9Wとしたものとにつき、成膜速度を評価した。
図12に示す各曲線は、各条件にて基板4にGaN膜の成膜を行ったときの、基板4内位置による膜厚分布を示したものである。成膜時間は30分間、ターゲット2と基板4との間の距離は、60mm、ターゲット2におけるレーザ光3の照射位置と、基板4の中心とは、基板4の主面に平行な方向(ターゲット2における照射面に平行な方向でもある)に10mmオフセットさせた。
【0048】
図12に示す各プロットは、成膜されたGaN膜の断面をSEM(電子顕微鏡)にて観察測定した実測値であり、それらを繋ぐ曲線が、各条件ごとのフィッティング曲線である。なお、同図において、例えば「0.9W(TM)」と付記した曲線及びプロット群は、照射出力0.9WのTM偏光のレーザ光3を用いた場合の結果を示す。他の曲線及びプロット群も、この例に従う。
【0049】
図12から分かるように、TE偏光による場合に比べて、TM偏光による場合の方が、膜厚が大きく増加していることが分かる。つまり、TE偏光よりもTM偏光を用いることで、成膜速度を向上できたことが分かる。これは、上述のプルームの観察結果とも整合する。
【0050】
なお、上記のように、TE偏光よりもTM偏光を用いた場合の方が、レーザアブレーション効率が高くなり、成膜速度が向上させることができる理由としては、例えば、以下のようなメカニズムが推測される。すなわち、
図13に示すように、TM偏光の場合、レーザ光3の偏光方向E(電界の方向)が、ターゲット2の照射面に対して垂直な成分を持つこととなる。そのため、ターゲット表面(金属表面)における電子が振動しやすくなり、表面プラズモンが生じやすくなるためと考えられる。また、光学的観点からは、金属に対するレーザ光の反射率は、一般にTM偏光よりもTE偏光の方が高い。つまり、TM偏光の方が、ターゲットに吸収されるエネルギが高くなるため、アブレーションが生じやすくなると考えることができる。
【0051】
そして、このように推測されるメカニズム及び上記試験結果(
図11、
図12等)に基づくと、TM偏光に限らず、ターゲットに照射されるレーザ光の偏光方向が、入射面に対して平行な成分を有していれば、TM偏光ほどではないにしても、TE偏光に比べて、レーザアブレーション効率を高めることができると考えられる。そして、偏光方向Eと入射面IPとの角度α(
図5参照)が小さいほど、レーザアブレーション効率を高めることができると考えられる。また、直線偏光に限らず、レーザ光を円偏光や楕円偏光としても、入射面に対して平行な偏光成分が存在するので、TM偏光ほどではないにしても、TE偏光に比べて、レーザアブレーション効率を高めることができると考えられる。
【0052】
(実施形態2)
本形態は、レーザ光3の偏光方向Eを時間的に変化させながら、ターゲット2をアブレーションして、基板4への成膜を行う形態である。すなわち、実施形態1と同様に、窒素ラジカル50を基板4へ照射しつつ、ターゲット材料(Ga)を基板4へ供給するにあたり、ターゲット2に照射されるレーザ光3の偏光方向を時間的に変化させる。
【0053】
具体的には、
図1に示す状態において、1/2波長板15を時間的に回転させながら、レーザ光3をターゲット2へ照射する。これにより、ターゲット2に照射されるレーザ光3の偏光方向Eは、時間的に変化する。例えば、ターゲット2に照射されるレーザ光3は、偏光方向Eが、入射面IPに対して、0~90°の間で、時間的に変化する。つまり、ターゲット2に照射されるレーザ光3は、
図6に示すようにTE偏光となったり、
図7に示すようにTM偏光となったり、その間の偏光方向となったりを、時間的に変化して繰り返す。このときの、偏光方向Eの変動(1/2波長板15の回動)の周期は、例えば、0.01~10秒程度とすることができる。
その他は、実施形態1と同様である。
【0054】
本形態においては、基板4に供給されるターゲット材料(Ga)の量を時間的に変化させることができる。つまり、ターゲット2へ照射するレーザ光3がTE偏光であるときは、アブレーション効率が低いが、ターゲット2へ照射するレーザ光3がTM偏光であるときは、アブレーション効率が高い。それゆえ、上述のように、レーザ光3の偏光方向Eを時間的に変化させることで、基板4へ向かうプルーム20の強さが、時間的に変化し、基板4に供給されるターゲット材料(Ga)の量が時間的に変化する。その一方で、基板4への窒素ラジカル50の供給量は一定としておく。その結果、基板4に供給されるターゲット材料(Ga)と窒素ラジカルとの供給比を時間的に変動させることができる。
【0055】
Gaの供給比率が高い時間帯においては、基板4上にGaが液相の状態で多く付着する。その直後の時間帯において、Gaの供給比率が低く、窒素ラジカルの供給比率が高い状態となり、既に基板4に付着しているGa膜の窒化が進む。これらの現象が繰り返されることにより、結晶性に優れたGaN膜が、均一に形成される。このように、基板4上への窒化ガリウムの均一な成膜を容易に実現することができる。なお、この効果は、上述のレーザブランキング法により得られる効果に準ずるものである。
その他、実施形態1と同様の作用効果を有する。
【0056】
上記実施形態においては、ターゲットを液体Gaとした形態を示したが、ターゲットの材料及び状態は、特に限定されるものではない。例えば、ターゲット材料として、Al、Ti等、他の金属、或いは合金等とすることもできる。また、ターゲットは液体に限らず、固体とすることもできる。
【0057】
また、上記実施形態においては、レーザアブレーションと共に窒素ラジカルの供給を行う形態を示したが、これに限らず、例えば、基板へ供給するラジカルを、酸素ラジカル等、他のラジカルとすることもできる。また、ラジカルではない反応性ガス(窒素ガス、酸素ガス等)を供給して、蒸発したターゲット材料と化学反応させることもできる。或いは、ターゲット材料を特に化学反応させずに、ターゲット材料そのものを基板に堆積させることもできる。
【0058】
本発明は上記各実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の実施形態に適用することが可能である。
【符号の説明】
【0059】
1 成膜装置
10 チャンバ
2 ターゲット
3 レーザ光
4 基板
E 偏光方向
IP 入射面