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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024117531
(43)【公開日】2024-08-29
(54)【発明の名称】熱電対温度測定装置
(51)【国際特許分類】
   G01K 7/026 20210101AFI20240822BHJP
【FI】
G01K7/026
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023023669
(22)【出願日】2023-02-17
(71)【出願人】
【識別番号】318010018
【氏名又は名称】キオクシア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001634
【氏名又は名称】弁理士法人志賀国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】星野 健
(57)【要約】
【課題】 温度測定精度の低下を抑制しながら、熱電対が正常な動作環境にあるか否かを判定する。
【解決手段】 実施形態の熱電対温度測定装置は、温度に応じて2端子間電圧が疑似線形的に変化する熱電対と、前記熱電対に供給する交流電圧信号を発生する交流信号発生回路と、前記熱電対の出力信号に前記交流電圧信号が含まれるか否かを判定する検知回路と、前記熱電対の出力信号をデジタル信号に変換して出力する機能を備えた出力回路と、を有する。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
温度に応じて2端子間電圧が疑似線形的に変化する熱電対と、
前記熱電対に供給する交流電圧信号を発生する交流信号発生回路と、
前記熱電対の出力信号に前記交流電圧信号が含まれるか否かを判定する検知回路と、
前記熱電対の出力信号をデジタル信号に変換して出力する機能を備えた出力回路と、
を有する熱電対温度測定装置。
【請求項2】
前記交流電圧信号を前記熱電対の出力信号から除去するフィルタ回路
を更に具備する請求項1に記載の熱電対温度測定装置。
【請求項3】
前記交流信号発生回路が発生する前記交流電圧信号は、振幅が100mV以下で、周波数が1Hz以上である
請求項1に記載の熱電対温度測定装置。
【請求項4】
前記検知回路は、
前記交流信号発生回路を制御する制御回路と、
前記熱電対の出力信号から特定周波数成分を抽出するロックインアンプ機能部と、を具備し、
前記ロックインアンプ機能部による特定周波数成分の抽出結果から前記熱電対の出力信号に前記交流信号発生回路が発生した前記交流電圧信号の成分が含まれるか否かを検出し、前記検出の結果に基づいて前記熱電対に断線が生じているか否かを示す断接情報を出力する
請求項1に記載の熱電対温度測定装置。
【請求項5】
前記制御回路は、
前記交流信号発生回路により前記熱電対に前記交流電圧信号が重畳される期間には、前記出力回路の出力を停止させる
請求項4に記載の熱電対温度測定装置。
【請求項6】
前記検知回路は、
前記熱電対の特性又はタイプを検出する熱電対特性検出回路、を更に具備し、
前記制御回路は、前記熱電対の特性又はタイプに基づいて、前記交流信号発生回路に発生させる交流電圧信号の周波数、振幅、波形及び発生時間の少なくとも1つを設定する
請求項4に記載の熱電対温度測定装置。
【請求項7】
前記熱電対特性検出回路は、
前記熱電対に供給する前記交流電圧信号を変化させながら、前記熱電対の出力信号に含まれる前記交流電圧信号の成分を取得することで、前記熱電対の特性を検出する
請求項6に記載の熱電対温度測定装置。
【請求項8】
前記熱電対特性検出回路は、
前記熱電対のコネクタ部に設けられたIDタグの情報を読み出すことで、前記熱電対のタイプを検出する
請求項6に記載の熱電対温度測定装置。
【請求項9】
前記交流電圧信号を前記熱電対の出力信号から除去するフィルタ回路、を更に具備し
前記制御回路は、前記熱電対の特性又はタイプに基づいて、前記フィルタ回路のフィルタタイプ及びカットオフ周波数の少なくとも1つを設定する
請求項6に記載の熱電対温度測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、熱電対温度測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、温度センサーとして熱電対を用いた温度測定装置が採用されることがある。熱電対は、2種類の金属の先端同士を接触させて接合点に熱起電力を発生させ、温度の検知を可能にするものである。
【0003】
例えば、熱電対温度測定装置は、ヒータの発熱制御等に利用されることもある。
【0004】
しかしながら、熱電対による温度測定が正常に行えない場合がある。例えば、熱電対を構成する2つの金属の接合部分が断線状態(オープン状態)となる故障が生じる可能性がある。また、熱電対とコネクタ部との間で接触不良が生じる可能性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2020/145183号
【特許文献2】特開2004ー031099号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本実施形態は、温度測定精度の低下を抑制しながら、熱電対が正常な動作環境にあるか否かを判定することができる熱電対温度測定装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
実施形態の熱電対温度測定装置は、温度に応じて2端子間電圧が疑似線形的に変化する熱電対と、前記熱電対に供給する交流電圧信号を発生する交流信号発生回路と、前記熱電対の出力信号に前記交流電圧信号が含まれるか否かを判定する検知回路と、前記熱電対の出力信号をデジタル信号に変換して出力する機能を備えた出力回路と、を有する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の第1の実施形態に係る熱電対温度測定装置を含むヒータ装置を示すブロック図。
図2】比較例における熱電対のオープン検知を説明するための説明図。
図3】横軸に温度をとり縦軸に熱電対Thの出力に基づく検出電圧差又は電位誤差をとって、熱電対Thの特性を示すグラフ。
図4図1中の熱電対T1,T2及び熱電対読取部TR1,TR2の具体的構成の一例を示すブロック図。
図5】第1の実施形態の他の例における構成を示すブロック図。
図6】温度測定開始時における動作を説明するためのフローチャート。
図7】第2の実施形態を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0010】
(第1の実施形態)
図1は本発明の一実施形態に係る熱電対温度測定装置を含むヒータ装置を示すブロック図である。本実施形態は、熱電対(Thermocouple)に対して交流信号(交流電圧信号)を供給する交流信号発生回路を採用し、熱電対の出力(電圧信号)の検出に際して交流信号の除去を行うと共に、交流信号の周波数成分を検出することにより、温度測定精度の低下を抑制しながら熱電対が正常な動作環境にあるか否かを判定可能にするものである。例えば、熱電対がコネクタ部と適切に接続されており、かつ、熱電対における2つの金属の接合部分に断線などが生じていない場合、熱電対は正常な動作環境にあると言える。また、例えば、熱電対がコネクタ部と適切に接続されていない場合、または、熱電対における2つの金属の接合部分に断線などが生じている場合、熱電対は正常な動作環境にないと言える。
【0011】
なお、本実施形態は、熱電対温度測定装置をヒータの温度測定に用いる例を示したが、熱電対温度測定装置の温度測定対象はヒータに限定されるものではなく、本実施形態は各種の温度測定に利用することが可能である。以下では、熱電対が正常な動作環境にあるか否かの判定として、熱電対の断線状態(オープン状態)を検知する場合を例に挙げて説明する。
【0012】
(比較例におけるオープン検知)
図2は比較例における熱電対のオープン検知を説明するための説明図である。
【0013】
金属部M1,M2を接合部MOにおいて接続することにより、熱電対Thが構成される。図2に示される熱電対Thは、例えば、図1に示される熱電対T1,T2に対応する。金属部M1,M2としては、種々の金属が採用される。例えば、金属部M1はクロムとニッケルの合金であってもよく、金属部M2はアルミニウムとニッケルの合金であってもよい。接合部MOは、金属部M1,M2が電気的に接続される部分である。
【0014】
金属部M1,M2はコネクタ部2の検出端子2a,2bを介してアナログ/デジタル変換器(以下、ADCという)1に接続される。図2に示されるコネクタ部2は、例えば、図1に示されるコネクタ部C1,C2に対応する。ゼーベック効果により発生する熱起電力に応じて、温度に応じた電流が熱電対Thに流れて検出端子2a,2b間に電圧差が生じる。ADC1は、検出端子2a,2bからの各検出電圧出力の差(検出電圧差)をデジタル信号に変換して出力する。出力回路としてのADC1からの出力は、温度に応じたデジタル値となる。
【0015】
いま、図2の金属部M1に断線が生じるものとする。図2の破線は断線により熱電対Thに故障が生じたことを示している。熱電対Thがオープン状態になると、ADC1からは温度の検出結果が得られない。ADC1の出力をヒータの温度制御に用いる装置では、ヒータを所望の温度に設定することができなくなる。そこで、熱電対Thのオープン検知を行う手法を採用する。
【0016】
図2は、熱電対Thのオープン検知のために、熱電対Thに電流を流す手法を採用する例を示している。ADC1には電流回路1aが設けられている。電流回路1aは、電源電圧AVDDが与えられて検出電流Isenseを発生し、検出端子2a、熱電対Th及び検出端子2bを介して基準電位点に電流を流す。一般に、オープン状態にない熱電対Thの抵抗は小さく、検出端子2a,2b間の電圧差は小さい。これに対し、熱電対Thがオープン状態になると、検出端子2aの電圧は電源電圧AVDDまで上昇し、検出端子2bの電圧は基準電位まで低下する。この結果、検出端子2a,2b間の電圧差は大きくなる。このように、検出電流Isenseを熱電対Thに供給し、検出端子2a,2b間の電圧差を求めることで、オープン状態の検知が可能である。
【0017】
しかしながら、熱電対Thの特性上、検出電流Isenseによって、温度測定精度が劣化する。
【0018】
図3は横軸に温度をとり縦軸に熱電対Thの出力に基づく検出電圧差又は電位誤差をとって、熱電対Thの特性を示すグラフである。図3では特性が異なる2つのタイプの熱電対Thの特性を示している。図3に示すように、熱電対Thの検出電圧差と温度とは、略線形の関係を有する。図3の実線は比較的広い温度範囲を測定可能な熱電対Thの特性を示し、破線は比較的狭い温度範囲を測定可能な熱電対Thの特性を示している。
【0019】
熱電対Thの検出電圧差は微弱であり、例えば、ある特性を有する熱電対Thにおいては、温度が25度の場合における検出電圧差は1mVとなる。
【0020】
例えば、Hall/Seebeck効果測定装置は、0.1度刻みで温度を制御する必要があり、熱電対温度測定装置としては、少なくとも±0.1度の精度を確保する必要がある。上述の熱電対Thの特性の例では、±0.1度の温度測定精度を確保しようとすると、検出電圧差として±5μV以上のずれは許容できない。電流換算では、数百nA以上のずれは許容できない。これに対し、検出電流Isenseは、比較的大きな電流であり、検出電流Isenseの影響により測定温度が不正確なものとなる可能性がある。この理由から、特に高精度の温度測定精度を必要とする熱電対温度測定装置においては、図2に比較例として示すようなオープン状態の検知を適用することができない。
【0021】
本実施形態においては、温度測定精度へ影響を与えることなくオープン状態の検知を行うために、交流信号を利用する。
【0022】
(概略構成)
図1においては、ヒータHによる加熱対象が加工チャンバPCであるヒータ装置の例を示している。熱電対T1,T2は、この加工チャンバPCの所定の位置に配置される。加工チャンバPC内の空間をヒータHで加熱し、加工チャンバPCの空間の温度を熱電対T1,T2で測定する。なお、図1では加工チャンバPCに熱電対T1,T2が設置される例に示したが、例えば測定チャンバ等、異なる用途のチャンバに対して熱電対T1,T2が設置されてもよい。
【0023】
図1において、熱電対温度測定装置10には、コネクタ部C1を介して熱電対T1が接続され、コネクタ部C2を介して熱電対T2が接続される。以下、熱電対T1,T2を区別する必要が無い場合には、これらを熱電対Tという。また、熱電対温度測定装置10には、ヒータHも接続される。熱電対温度測定装置10は、制御部11、熱電対読取部TR1,TR2(以下、これらの熱電対読取部TR1,TR2を区別する必要がない場合には、これらを熱電対読取部TRという)、ヒータ制御部12、交流信号発生回路13及びコネクタ部C1,C2を有する。
【0024】
コネクタ部C1には熱電対T1が接続され、コネクタ部C2には熱電対T2が接続される。熱電対読取部TR1は、コネクタ部C1を介して熱電対T1に接続される。熱電対読取部TR1は、熱電対T1からの検出電圧出力を読み取って、検出電圧差のデジタル値を制御部11に出力する。熱電対読取部TR2は、コネクタ部C2を介して熱電対T2に接続される。熱電対読取部TR2は、熱電対T2からの検出電圧出力を読み取って、検出電圧差のデジタル値を制御部11に出力する。なお、熱電対T及び熱電対読取部TRの構成については後述する。制御部11は、熱電対読取部TR1,TR2が読み出した検出電圧差に基づいて温度を求め、求めた温度の情報をヒータ制御部12に出力する。
【0025】
ヒータ制御部12は、温度情報に基づいてヒータHを駆動すると共に、ヒータ制御に関する情報を制御部11に出力する。ヒータ制御部12は、温度の情報に基づいて、ヒータHに印加する電力を変化させることで、ヒータHの温度を制御する。これにより、ヒータHの温度は、所望の温度に制御される。
【0026】
なお、図1の例では、2つの熱電対T1、T2が設けられている。制御部11は、熱電対T1,T2の各検出電圧差のそれぞれに基づいて温度を求めることができる。例えば、熱電対T1、T2の各検出電圧差に基づく2つの測定温度が所定の閾値以上離間している場合には、制御部11は、一方の熱電対Tに断線等の故障が生じているものと判定することが可能である。制御部11は、熱電対Tに断線等の故障が生じていると判定した場合には、ヒータ制御部12を制御して、例えば、ヒータHの加熱を停止させる。
【0027】
更に、本実施形態においては、交流信号発生回路13を採用することで、1系統の熱電対T及び熱電対読取部TRを用いる場合でも、断線等の故障の判定が可能である。
【0028】
図4図1中の熱電対T及び熱電対読取部TRの具体的構成の一例を示すブロック図である。なお、熱電対T1及び熱電対読取部TR1の構成は、それぞれ熱電対T2及び熱電対読取部TR2の構成と同様である。なお、図4において図2と同一の構成要素には同一符号を付して重複する説明を省略する。
【0029】
図1の熱電対T1,T2及びコネクタ部C1,C2は、図4では熱電対Th,コネクタ部2として示している。図4のコネクタ部2は、図2のコネクタ部2と同様の構成であり、検出端子2a,2baを備える。また、図1の熱電対T1,T2の構成は、図4の熱電対Thとして示している。図4の熱電対Thは、図2の熱電対Thと同様の構成であり、金属部M1と金属部M2とが接合部MOにおいて接続される構成である。
【0030】
図4のADC1、重畳部14、LPF15及びロックインアンプ20によって、図1の熱電対読取部TRが構成される。コネクタ部2の検出端子2a,2bは、LPF15に接続される。LPF15は、検出端子2a,2Bからの検出電圧出力のうち、比較的高い周波数成分を除去し、比較的低い周波数成分を通過させてADC1に供給する。なお、LPF15は、後述する交流信号発生回路13が発生する交流信号の周波数以上の周波数成分の通過を阻止するように構成される。LPF15は、後述する制御回路21により制御されて、フィルタタイプ、カットオフ周波数が変更可能に構成される。
【0031】
本実施形態においては、熱電対Thが断線しているか否かの検知(以下、断接検知という)をするために交流信号発生回路13が採用される。交流信号発生回路13は、後述するロックインアンプ20に制御されて、ロックインアンプ20により指定された周波数(以下、検知用周波数という)の交流信号を発生する。重畳部14は、検出端子2aとLPF15とを接続する信号線に配置される。重畳部14により、交流信号発生回路13が発生させた交流信号が、検出端子2aを経由して、熱電対Thに供給される。
【0032】
検出端子2bとLPF15とを接続する信号線は、ロックインアンプ20にも接続されている。ロックインアンプ20は、制御回路21、熱電圧特性検出部22、オープン検知部23及びメモリ24を含む。制御回路21は、ロックインアンプ20の全体を制御する。制御回路21はCPU(Central Processing Unit)やFPGA(Field Programmable Gate Array)等を用いたプロセッサによって構成されていてもよい。また、制御回路21は、図示しないメモリに記憶されたプログラムに従って動作して各部を制御するものであってもよいし、ハードウェアの電子回路で機能の一部又は全部を実現するものであってもよい。
【0033】
熱電圧特性検出部22は、制御回路21に制御されて、コネクタ部2に接続された熱電対Thの特性を検出する。なお、熱電圧特性検出部22は、コネクタ部2に接続された熱電対Thのタイプを検出するように構成されていてもよい。この場合、例えば、メモリ24は、各種熱電対Thの特性又はタイプに対応する最適な検知用周波数及び信号強度の情報(以下、熱電対情報という)を保持する。制御回路21は、メモリ24の熱電対情報を参照することで、熱電圧特性検出部22が検出した熱電対Thの特性又はタイプに基づいて交流信号発生回路13を制御し、交流信号発生回路13が発生する交流信号の信号レベル(振幅)及び検知用周波数を設定する。また、メモリ24に記憶される熱電対情報は、熱電対Thの特性又はタイプに基づく最適なカットオフ周波数及びフィルタタイプの情報を含む。LPF15がカットオフ周波数およびフィルタタイプの少なくとも1つを変更可能である場合、制御回路21は、熱電圧特性検出部22により検出された熱電対Thの特性又はタイプに基づいて、LPF15のカットオフ周波数、フィルタタイプを設定する。なお、制御回路21は、熱電対Thの特性又はタイプに基づいて設定された交流信号に基づいて、LPF15のカットオフ周波数、フィルタタイプを設定してもよい。
【0034】
なお、制御回路21は、レジスタ21aを有し、レジスタ21aに熱電対Thの特性又はタイプに基づいて求めた検知用周波数、信号強度、カットオフ周波数及びフィルタタイプの情報を記録するように構成されていてもよい。同一の熱電対Thの使用が継続される場合、レジスタ21aの情報を読み出すことで、制御回路21は、簡単に検知用周波数、信号強度、カットオフ周波数及びフィルタタイプの設定が可能となる。
【0035】
更に、制御回路21は、熱電対Thの特性又はタイプに応じて、交流信号の周波数、振幅だけでなく、交流信号の波形、発生時間を適宜設定するように構成されていてもよい。例えば、交流信号の波形としては、LPF15による除去が容易であることを考慮すると、正弦波が好ましい。交流信号の発生時間は、例えば、熱電対Thの特性えの影響を抑制するため、なるべく短い方が好ましい。
【0036】
ロックインアンプ20は、検出端子2bを介して入力される信号を取り込み、取り込んだ信号の周波数成分のうち制御回路21によって指定された検知用周波数成分を増幅する。
【0037】
オープン検知部23は、熱電対Thの金属部M1、M2が断線しているか否かを検知し、断線、非断線の情報(断接情報)を出力する。例えば、オープン検知部23は、制御回路21に制御されて、増幅された検知用周波数成分のレベルを求め、検知用周波数成分のレベルが所定の閾値よりも大きいか否かを判定する。オープン検知部23は、例えば、検知用周波数成分のレベルが所定の閾値よりも大きい場合には交流成分が検出されたものとして、熱電対Thが断線していないことを示す断接情報を出力し、所定の閾値以下の場合には交流信号が検出されなかったものとして、熱電対Thが断線していることを示す断接情報を出力する。
【0038】
例えば、制御回路21は、断接検知用の交流信号として、検知用周波数が1kHzでレベルが1mvの交流信号を重畳するように交流信号発生回路13を制御してもよい。ロックインアンプ20が入力信号の1kHzの成分を例えば1000倍にすることで、オープン検知部23は検知用の交流信号を比較的容易に検出できる。
【0039】
ADC1は、LPF15を通過した検出電圧出力の差である検出電圧差をデジタル信号に変換して制御部11に出力する。ADC1からのデジタル信号は、熱電対Thにより検出された温度を示す。熱電対Thからの信号は、LPF15によって検知用周波数成分が除去されて、ADC1に供給される。これにより、断接検知用の交流成分によって、ADC1からの温度検出結果の精度が低下することを抑制することができる。
【0040】
このように、本実施形態においては、LPF15によって分離可能な交流信号を熱電対Thに流すことで、温度検出精度を低下させることなく断線検知を可能にしている。
【0041】
例えば、交流信号の印加が、熱電対Thの特性に何らかの影響を与える可能性がある。また、交流信号の周波数によって、LPF15における除去特性に影響が生じる可能性がある。そこで、本実施形態においては、断接検知用の交流信号として、周波数、信号強度、波形及び発生時間の少なくとも1つが設定可能であってもよい。より具体的には、例えば、制御回路21が、断接検知用の交流信号の周波数、信号強度、波形及び発生時間の少なくとも1つを、熱電対Thの特性又はタイプに応じて設定可能であってもよい。
【0042】
制御回路21は、LPF15によって十分減衰させることを考慮して、例えば、検知用周波数として1Hz以上を採用する。また、制御回路21は、信号強度(レベル)が100mV(0.1v)以下の交流信号を断接検知に用いるように、交流信号発生回路13を制御してもよい。例えば、電源電圧AVDDとして3.2Vを採用するものとすると、100mVは、電源電圧AVDDの約1/30のレベルであり、温度測定への影響は十分に小さいものと考えられる。
【0043】
熱電対Thとしては、適用されるアプリケーションに応じた種々のタイプが存在する。例えば、熱電対Thには、検出温度範囲が広いものや、感度が高いもの、低温での検出精度が高いものや、酸性の環境に耐性を有する材料を用いたもの等の各種タイプが存在する。熱電対Thは、タイプ毎に抵抗が異なり、電気的特性が異なる。例えば、熱電対Thは、熱電対Thに流れる交流信号の周波数に応じて抵抗が変化する特性を有する。
【0044】
例えば、抵抗が低い熱電対Thに対してレベルが1mVの交流信号を流した場合、ロックインアンプ20の増幅により、交流信号が測定不能なレベルになることもある。従って、この場合には、交流信号の信号強度を十分に小さくした方がよい。重畳する交流信号により流れる電流をなるべく小さくすることで、熱電対Thの特性への影響をさらに抑制することができる。
【0045】
、熱電対Thの特性への影響を抑制するためには、例えば、熱電対Thに流れる電流を小さくするように、熱電対Thに流す交流信号の検知用周波数及び信号レベルを決定する。その際、例えば、熱電対Thからの検出電圧出力は大きくなってもよい。熱電対Thの実効的なインピーダンスが低くなるような周波数を選択することで、比較的低いレベルの交流信号を用いた断接検知が可能となり、熱電対Thの特性への影響を抑制することができる。なお、LPF15による減衰特性を考慮すると、交流信号としては矩形波よりもサイン波の方が好ましい。また、交流信号を熱電対Thに印加する総時間はなるべく短い方がよい。
【0046】
熱電圧特性検出部22は、コネクタ部2に接続された熱電対Thの特性又はタイプを、入力される信号に基づいて決定してもよい。例えば、ロックインアンプ20は、交流信号発生回路13を制御して、検知用周波数を変化させながら(例えば1Hz~100kHz)、増幅した交流信号のレベルを求める。上述したように、周波数に応じて熱電対Thの特性は異なる。熱電圧特性検出部22は、検知用周波数の変化と交流信号のレベルの変化とに基づいて、熱電対Thの電気的特性を把握し、更に熱電対Thのタイプを判定してもよい。また、熱電圧特性検出部22は、交流信号のレベルを変化させながら、増幅した交流信号のレベルを求めることで、熱電対Thの電気的な特性を判定して熱電対Thのタイプを求めてもよい。
【0047】
また、コネクタ部2に熱電対Thのタイプの情報を保持させ、熱電圧特性検出部22がこのタイプの情報を読み出すことで、熱電対Thのタイプを検出するように構成されていてもよい。例えば、コネクタ部2にIDタグを保持させることも可能である。
【0048】
図5はこの場合の構成を示すブロック図である。図5において図と同一の構成要素には同一符号を付して説明を省略する。
【0049】
図5の例では、コネクタ部2に、IDタグ31が設けられている。IDタグ31は、コネクタ部2に接続される熱電対Thのタイプの情報を保持する。また、熱電圧特性検出部22は、熱電対Thのタイプの情報をIDタグ31から読み出すための読み出し部32を有する。
【0050】
例えば、IDタグ31は、熱電対Thのタイプに応じた抵抗値を有する抵抗により構成してもよい。この場合には、熱電圧特性検出部22は、熱電対Thのタイプに応じた抵抗値の情報を記憶するメモリ(図示省略)を有する。読み出し部32は、IDタグ31に対して電圧を印加し、流れる電流値によってIDタグ31の抵抗値を検出し、メモリの情報を参照することで、熱電対Thのタイプを判定してもよい。
【0051】
また、例えば、IDタグ31としてRFID(radio frequency identification)を採用してもよい。この場合には、読み出し部32は、RFIDリーダーにより構成される。読み出し部32は、RF周波数の電波を発生する。IDタグ31は、読み出し部32からの電波を受信するとタイプの情報を送信する。読み出し部32は、IDタグ31の送信信号を受信してデータ処理することで、熱電対Thのタイプの情報を取得する。なお、IDタグ31に熱電対Thの特性の情報を保持させ、読み出し部32がIDタグ31から熱電対Thの特性情報を取得するように構成されていてもよい。
【0052】
上述したように、制御回路21は、メモリ24に記憶された情報を参照し、熱電圧特性検出部22が検出した熱電対Thの特性又はタイプの情報に基づいて、最適な検知周波数及び信号強度を求める。
【0053】
本実施形態においては、断接検知のために交流信号を熱電対Thに流すものと説明したが、LPF15における交流信号成分の除去特性によっては、温度測定誤差を生じる可能性がある。また、交流信号の付加によって熱電対Thに流れる電流が、熱電対Thの特性に影響する可能性がある。
【0054】
そこで、制御回路21は、断接検知用の交流信号を流す期間を短くするか又はパルス状に交流信号を流すように交流信号発生回路13を制御してもよい。例えば、制御回路21は、交流信号発生回路13を制御して、断接検知用の交流信号を断続的に所定回数発生させてもよい。なお、断接検知用の交流信号の単位時間当たりの発生時間は短くし、単位時間当たりの発生回数は少なくした方がよい。また、制御回路21は、温度測定の開始時に1回パルス状の交流信号を発生させるように交流信号発生回路13を制御してもよい。
【0055】
また、制御回路21は、交流成分を流す期間にはADC1のデジタル変換をオフにすることで、交流信号を流す期間の温度測定結果を制御部11に出力しないように制御してもよい。
【0056】
次に、このように構成された実施形態の動作について図6を参照して説明する。図6は温度測定開始時における動作を説明するためのフローチャートである。
【0057】
本実施形態においては、温度測定の開始時(測定開始前)に断接検知のための初期設定を実施する。図6のS1において、コネクタ部2がIDタグ31を有しているか否かに応じて処理が分岐される。コネクタ部2にIDタグ31が取り付けられている場合には(S1のYES)、読み出し部32は、制御回路21に制御されて、IDタグ31に信号を印加し(S2)、IDタグ31からの信号を受信する。熱電圧特性検出部22は、受信した信号に基づいて、熱電対Thのタイプを識別し(S3)、識別結果を制御回路21に与える。制御回路21は、メモリ24の熱電対情報を参照することで、熱電対Thのタイプに最適な検知用周波数及び信号強度を選択する(S3)。
【0058】
一方、コネクタ部2にIDタグ31が取り付けられていない場合には(S1のNO)、熱電圧特性検出部22は、制御回路21に制御されて、正弦波信号の周波数をスイープしながら信号強度を測定することで、熱電対Thの特性を求めて制御回路21に出力する。制御回路21は、最も信号強度が高くなる周波数をを検知用周波数として選択する。
【0059】
交流信号発生回路13は、制御回路21によって設定された検知用周波数及び信号強度で断接検知のための交流信号(例えば正弦波信号)を発生する。この交流信号は重畳部14を介して、コネクタ部2から熱電対Thに供給される。ロックインアンプ20は、検出端子2bからの信号を取込み、検知用周波数の信号成分を増幅する。オープン検知部23は、制御回路21に制御されて、増幅された検知用周波数成分のレベルが所定の閾値よりも大きいか否かにより交流信号である正弦波が検出されたか否かを判定する(S7)。
【0060】
正弦波信号のレベルが低い場合には、熱電対Thに断線が生じていない場合でも、検知用周波数成分のレベルが閾値以下となることが考えられる。そこで、制御回路21は、交流信号発生回路13に正弦波信号の強度を変化させる。即ち、正弦波が検出されない場合には(S7のNO)、制御回路21は、S8において、既に正弦波信号の強度か最大となっているか否かを判定する。強度最大となっていない場合には(S8のNO)、制御回路21は、交流信号発生回路13に、正弦波信号の強度を1ノッチだけ上昇させる。交流信号発生回路13からは1ノッチだけレベルが高くなった交流波信号が出力される。
【0061】
ロックインアンプ20は、検出端子2bからの信号を取込み、検知用周波数の信号成分を増幅する。オープン検知部23は、S7において、正弦波が検出されたか否かを判定する。正弦波が検出されず(S7のNO)、正弦波信号のレベルも最大となっている場合には(S8のYES)、オープン検知部23は、熱電対Thに断線が生じているものと判定して、断線していることを示す断接検知結果(異常フラグ)を発生して設定を終了する(S10)。
【0062】
オープン検知部23が正弦波を検出すると(S7のYES)、制御回路21は、メモリ24の熱電対情報を参照して、検出された正弦波に対応するカットオフ周波数及びフィルタタイプをLPF15に設定し、その情報をレジスタ21aに記録する(S11)。S11の処理の後、測定が開始される(S12)。
【0063】
温度測定時には、制御回路21は、検知用周波数及び信号強度を交流信号発生回路13に設定して、交流信号(正弦波信号)を発生させる。交流信号発生回路13からの交流信号は、重畳部14により熱電対Thに供給される。熱電対Thからは温度と交流信号に応じた信号が出力される。ロックインアンプ20は、この信号のうち検知用周波数成分を増幅する。オープン検知部23は、増幅された検知用周波数成分から正弦波が検出されるか否かを判定する。オープン検知部23は、正弦波を検出できた場合には、熱電対Thに断線が生じていないものと判定する。
【0064】
熱電対Thからの出力はLPF15に供給されて、検知用周波数の交流成分が除去される。LPF15の出力ADC1に供給され、ADC1は、LPF15からの検出電圧出力に基づく検出電圧差をデジタル信号に変換して制御部11に出力する。ADC1からのデジタル信号が温度測定結果となる。ADC1には、交流信号発生回路13により発生した交流信号成分が除去された熱電対Thの検出電圧出力が供給されており、ADC1からの温度測定結果は交流信号の影響を殆ど受けておらず、高精度の温度測定結果が得られる。
【0065】
制御部11は、ADC1の出力に基づいて温度を求め、求めた温度の情報をヒータ制御部12に出力する。ヒータ制御部12は、温度の情報に基づいて、ヒータHに印加する電力を変化させることで、ヒータHの温度を制御する。これにより、ヒータHの温度は、所望の温度に制御される。
【0066】
一方、オープン検知部23は、温度測定時において正弦波を検出できない場合には、熱電対Thに断線が生じているものと判定する。この場合には、オープン検知部23は、断線していることを示す断接検知結果(異常フラグ)を発生する。異常フラグが発生すると、制御部11は、ヒータ制御部12を制御して、例えばヒータHの加熱を停止させる。
【0067】
このように本実施形態においては、熱電対に対して交流信号を供給する交流信号発生回路を採用し、交流信号の周波数成分を検出することにより、断線を検知する。また、熱電対の出力からLPFによって交流信号の周波数成分を除去することにより、熱電対の出力に基づいて、正確な温度測定結果を得る。即ち、本実施形態では、温度測定精度の低下を抑制しながら熱電対が断線状態(オープン状態)にあるか否かを検知可能である。また、熱電対の特性又はタイプを検出することで、温度測定の精度及び熱電対の特性への影響を考慮した検知周波数及び信号強度を設定可能であり、より高精度の温度測定が可能であると共に、確実なオープン検知が可能である。
【0068】
(第2の実施形態)
図7は第2の実施形態を示すフローチャートである。図7は温度測定動作の一例を説明するためのものである。本実施形態のハードウェア構成は第1の実施形態と同様である。なお、本実施形態においても、温度測定開始時(測定開始前)において、図6と同様のフローを採用してもよい。
【0069】
温度測定時には、例えば図7のフローを採用してもよい。図7のフローは、断接検知により測定誤差が生じた温度測定結果の出力を防止すると共に、熱電対Thの特性への影響を抑制するために、断続的に断接検知を行うものである。即ち、図7の例では、比較的長い温度測定期間と比較的短い断接検知期間とを交互に繰り返す。
【0070】
図7のS20において、温度測定が開始される。制御回路21は、温度測定開始後において、図示しないタイマーを用いて、温度測定期間がタイムアウトとなる時刻を求める(S21)。制御回路21は、温度測定期間がタイムアウトとすると(S21のYES)、ADC1への入力を停止させる(S22)。これにより、ADC1からは温度測定結果が得られなくなる。
【0071】
次に、制御回路21は、図6のフローと同様のフローにより、或いはレジスタ21aに登録された情報に基づいて、検知用周波数及び信号強度を交流信号発生回路13に設定して、交流信号(正弦波信号)を発生させる。交流信号発生回路13からの交流信号は、重畳部14により熱電対Thに供給される(S23)。熱電対Thからは温度と交流信号に応じた信号が出力される。ロックインアンプ20は、この信号のうち検知用周波数成分を増幅する。オープン検知部23は、増幅された検知用周波数成分から正弦波が検出されるか否かを判定する(S24)。制御回路21は、オープン検知部23によって正弦波が検出された場合には(S24のYES)、熱電対Thに断線が生じていないものとして断線検知を終了する。即ち、制御回路21は、交流信号発生回路13を制御して、交流信号の発生を停止させる。制御回路21は、ADC1の入力を再開(オン)させ(S25)、温度測定を再開する(S20)。
【0072】
一方、オープン検知部23は、正弦波を検出できない場合には(S24のNO)、熱電対Thに断線が生じているものと判定して、断線していることを示す断接検知結果(異常フラグ)を発生して設定を終了する(S26)。
【0073】
他の作用は第1の実施形態と同様である。
【0074】
このように本実施形態においても第1の実施形態と同様の効果を得ることができる。更に、本実施形態においては、比較的短い断接検知期間において断接検知を行っており、熱電対の特性への影響を抑制可能である。また、断接検知期間には温度測定結果を出力しない構成となっており、温度測定精度をより向上させることができる。
【0075】
なお、実施形態においては、熱電対温度測定装置10が、ヒータ制御部12を含む例を示したが、これに限られない。例えば、温度測定の機能だけが求められる場合には、ヒータ制御部12を省略してよいし、熱電対を1つだけ使用する場合には、熱電対読取部TRを1つだけ設ける構成としてもよい。
【0076】
本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で種々に変形することが可能である。また、上記実施形態には種々の段階の発明が含まれており、開示される複数の構成要件における適当な組み合わせにより種々の発明が抽出され得る。例えば、実施形態に示される全構成要件からいくつかの構成要件が削除されても、発明が解決しようとする課題の欄で述べた課題が解決でき、発明の効果の欄で述べられている効果が得られる場合には、この構成要件が削除された構成が発明として抽出され得る。
【符号の説明】
【0077】
M1,M2…金属部、MO…接合部、Th,T1,T2…熱電対、TR1,TR2…熱電対読取部,1…ADC、2…コネクタ部、2a,2b…検出端子、10…熱電対温度測定装置、11…制御部、12…ヒータ制御部、13…交流信号発生回路、14…重畳部、15…LPF、20…ロックインアンプ、21…制御回路、21a…レジスタ、22…熱電圧特性検出部、23…オープン検知部、24…メモリ、31…IDタグ、32…読み出し部、33…メモリ。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7