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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024117545
(43)【公開日】2024-08-29
(54)【発明の名称】発泡性樹脂粒子の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 9/18 20060101AFI20240822BHJP
【FI】
C08J9/18 CER
C08J9/18 CEZ
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023023689
(22)【出願日】2023-02-17
(71)【出願人】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】落越 忍
(72)【発明者】
【氏名】木口 太郎
【テーマコード(参考)】
4F074
【Fターム(参考)】
4F074AA32A
4F074BA37
4F074BA38
4F074BA95
4F074CA35
4F074DA32
4F074DA33
4F074DA34
(57)【要約】
【課題】シャープな粒度分布を有する発泡性樹脂粒子を提供し得る、発泡性樹脂粒子の製造方法を提供すること。
【解決手段】水、単量体、平均粒径0.2μm~10.0μmのリン酸三カルシウムおよび増粘剤を特定量含む水性懸濁液中にて、単量体の懸濁重合を開始する工程(i)、特定の時期にリン酸三カルシウムを特定量添加する工程(ii)、および、樹脂粒子に発泡剤を含侵させる工程(iii)、を有する発泡性樹脂粒子の製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水100重量部以下と、単量体100重量部と、平均粒径0.2μm~10.0μmのリン酸三カルシウム0.06重量部~0.40重量部と、増粘剤0.00005重量部~0.0020重量部と、を含む水性懸濁液中にて、前記単量体の懸濁重合を開始する工程(i)、
重合転化率が35重量%~70重量%の時点にて、前記単量体100重量部に対して、前記リン酸三カルシウム0.020重量部~0.100重量部を添加して、樹脂粒子を得る工程(ii)、および、
前記樹脂粒子に発泡剤を含侵させる工程(iii)、を有する発泡性樹脂粒子の製造方法。
【請求項2】
前記発泡性樹脂粒子の平均粒径は、0.60mm~1.20mmである、請求項1に記載の発泡性樹脂粒子の製造方法。
【請求項3】
前記単量体100重量部に対して、前記リン酸三カルシウムの合計量は、0.08重量部~0.50重量部である、請求項1に記載の発泡性樹脂粒子の製造方法。
【請求項4】
前記単量体は、スチレンを含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の発泡性樹脂粒子の製造方法。
【請求項5】
前記水性懸濁液は、前記単量体100重量部に対して、アニオン界面活性剤0.001重量部~0.010重量部を含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の発泡性樹脂粒子の製造方法。
【請求項6】
前記工程(iii)では、重合転化率が85重量%以上の時点にて、前記樹脂粒子に前記発泡剤を含侵させる、請求項1~3のいずれか1項に記載の発泡性樹脂粒子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発泡性樹脂粒子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
重合樹脂粒子の製造方法として、分散剤を含有する水系分散媒中に重合開始剤を含有する重合性単量体を懸濁せしめ、重合して重合体粒子を得る懸濁重合法が知られている(例えば、特許文献1および2など)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平4-226103号公報
【特許文献2】特開平11-001501号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述のような従来技術では、粒度分布の観点から、さらなる改善の余地があった。
【0005】
本発明の一実施形態は、前記問題点に鑑みなされたものであり、その目的は、シャープな粒度分布を有する発泡性樹脂粒子を提供し得る、発泡性樹脂粒子の新規の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、前記課題を解決するために鋭意検討した結果、本発明を完成させるに至った。すなわち、本発明の一実施形態は、以下の構成を含む。
【0007】
[1]水100重量部以下と、単量体100重量部と、平均粒径0.2μm~10.0μmのリン酸三カルシウム0.06重量部~0.40重量部と、増粘剤0.00005重量部~0.0020重量部と、を含む水性懸濁液中にて、前記単量体の懸濁重合を開始する工程(i)、
重合転化率が35重量%~70重量%の時点にて、前記単量体100重量部に対して、前記リン酸三カルシウム0.020重量部~0.100重量部を添加して、樹脂粒子を得る工程(ii)、および、
前記樹脂粒子に発泡剤を含侵させる工程(iii)、を有する発泡性樹脂粒子の製造方法。
【0008】
[2]前記発泡性樹脂粒子の平均粒径は、0.60mm~1.20mmである、[1]に記載の発泡性樹脂粒子の製造方法。
【0009】
[3]前記単量体100重量部に対して、前記リン酸三カルシウムの合計量は、0.08重量部~0.50重量部である、[1]または[2]に記載の発泡性樹脂粒子の製造方法。
【0010】
[4]前記単量体は、スチレンを含む、[1]~[3]のいずれか1つに記載の発泡性樹脂粒子の製造方法。
【0011】
[5]前記水性懸濁液は、前記単量体100重量部に対して、アニオン界面活性剤0.001重量部~0.010重量部を含む、[1]~[4]のいずれか1つに記載の発泡性樹脂粒子の製造方法。
【0012】
[6]前記工程(iii)では、重合転化率が85重量%以上の時点にて、前記樹脂粒子に発泡剤を含侵させる、[1]~[5]のいずれか1つに記載の発泡性樹脂粒子の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明の一態様によれば、シャープな粒度分布を有する発泡性樹脂粒子を提供し得る、発泡性樹脂粒子の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の一実施形態について以下に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。本発明は、以下に説明する各構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に示した範囲で種々の変更が可能である。また、異なる実施形態または実施例にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態または実施例についても、本発明の技術的範囲に含まれる。さらに、各実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を組み合わせることにより、新しい技術的特徴を形成することができる。なお、本明細書中に記載された学術文献および特許文献の全てが、本明細書中において参考文献として援用される。また、本明細書において特記しない限り、数値範囲を表す「A~B」は、「A以上(Aを含みかつAより大きい)B以下(Bを含みかつBより小さい)」を意図する。
【0015】
〔1.本発明の一実施形態の技術的思想〕
本発明者らは、従来の発泡性樹脂粒子の製造方法では、粒度分布の観点から、さらに改善の余地があるとの知見を独自に得た。より具体的には、生産性を向上させるため、単量体100重量部に対して水110重量部以下の条件で懸濁重合する場合、単量体液滴等が分散不良となり、その結果広い粒度分布を有する樹脂粒子または発泡性樹脂粒子が得られるとの知見を独自に得た。この原因は定かではないが、単量体および水の密度とそれらの量とを考慮すると、前記条件下では単量体の占有体積が水占有体積より大きくなり、重合時に単量体の液滴同士の合一が過度に発生するためと推測される。
【0016】
そこで、本発明者らは、高い生産性を有する条件下においても、シャープな粒度分布を有する発泡性樹脂粒子、換言すれば粒度分布が狭い発泡性樹脂粒子を提供し得る、発泡性樹脂粒子の新規の製造方法を提供することを目的として、鋭意検討を行った。その結果、本発明者らは、発泡性樹脂粒子の製造において、以下の(i)~(iii)の工程を有する製造方法とする場合、驚くべきことに、上述した課題を達成できることを独自に見出し、本発明を完成させるに至った:(i)水の量を単量体100重量部に対して100重量以下とした条件下、すなわち生産性が高い条件下にて、前記水および単量体に加えて、平均粒径0.2μm~10.0μmのリン酸三カルシウムおよび増粘剤を、各々特定量含む水性懸濁液中にて単量体の懸濁重合を開始する工程、(ii)重合転化率の特定の範囲内で、特定量のリン酸三カルシウムを系中に添加する工程、かつ(iii)樹脂粒子(重合体)に発泡剤を含侵させる工程。
【0017】
〔2.発泡性樹脂粒子の製造方法〕
本発明の一実施形態に係る発泡性樹脂粒子の製造方法は、水100重量部以下と、単量体100重量部と、平均粒径0.2μm~10.0μmのリン酸三カルシウム0.06重量部~0.40重量部と、増粘剤0.00005重量部~0.0020重量部と、を含む水性懸濁液中にて、前記単量体の懸濁重合を開始する工程(i)、重合転化率が35重量%~70重量%の時点にて、前記単量体100重量部に対して、前記リン酸三カルシウム0.020重量部~0.100重量部を添加して、樹脂粒子を得る工程(ii)、および、前記樹脂粒子に発泡剤を含侵させる工程(iii)、を有する。
【0018】
本明細書において、「本発明の一実施形態に係る発泡性樹脂粒子の製造方法」を「本製造方法」と称する場合がある。
【0019】
本製造方法は、上述した構成を有するため、シャープな粒度分布を有する発泡性樹脂粒子を提供することができるという利点を有する。シャープな粒度分布を有する発泡性樹脂粒子は、均一な発泡倍率を有する発泡粒子を提供でき、強度に優れる発泡成形体を提供できるという利点も有する。また、通常、製造された発泡性樹脂粒子は、所望の粒子径範囲に分級された後、続く工程で使用され、また製品として販売される。このとき、所望の粒子範囲外の発泡性樹脂粒子は廃棄され得る。そのため、得られる発泡性樹脂粒子がシャープな粒度分布を有する場合、所望の粒子範囲外の発泡性樹脂粒子の発生を大幅に低減することができるため、廃棄される発泡性樹脂粒子の量を大幅に低減できるという利点も有する。すなわち、本製造方法は、生産コストおよび環境負荷を低減できるという利点も有する。さらに、本製造方法は、単量体100重量部に対する水の使用量が100重量部以下であることからも、生産性に優れ、生産コストおよび環境負荷を低減できるという利点も有する。
【0020】
本製造方法により得られる発泡性樹脂粒子もまた、本発明の一実施形態である。本明細書において、「本発明の一実施形態に係る発泡性樹脂粒子」を「本発泡性樹脂粒子」と称する場合がある。
【0021】
本明細書において、X単量体に由来する繰り返し単位を「X単位」と称する場合がある。繰り返し単位は、構成単位ともいえる。
【0022】
本明細書において、「使用量」は、「添加量」と同義である。
【0023】
本明細書において、「シャープな粒度分布」とは、後の実施例にて詳説する測定方法で求められる発泡性樹脂粒子の粒度分布が、3.00以下である粒度分布を意図する。換言すれば、本製造方法は、粒度分布が3.00以下である発泡性樹脂粒子を提供することができる。
【0024】
本明細書において、「重合転化率」とは、重合の際に使用した単量体の量(100重量%)に対する、単量体から重合体へと転化した単量体の量の割合(重量%)を意図する。重合転化率の測定方法については、後の実施例にて詳説する。
【0025】
本製造方法は、工程(i)、工程(ii)および工程(iii)を含む。工程(i)は懸濁重合工程ともいえる。工程(ii)はリン酸三カルシウム添加工程ともいえる。工程(iii)は発泡剤含浸工程ともいえる。
【0026】
(2-1.懸濁重合工程)
懸濁重合工程は、水、単量体、平均粒径が0.2μm~10.0μmであるリン酸三カルシウムおよび増粘剤を、各々特定量含む水性懸濁液中にて、単量体の懸濁重合を開始する工程である。懸濁重合工程は、単量体の懸濁重合を一定時間(少なくとも、後述する工程(ii)(リン酸三カルシウム添加工程)を実施するまでの間)実施する工程でもある。
【0027】
本製造方法において、少なくとも、水およびリン酸三カルシウムを含む混合物を、「重合用分散剤」と称する場合もある。
【0028】
懸濁重合工程は、(a)容器内にて、水100重量部以下と、平均粒径0.2μm~10.0μmのリン酸三カルシウム0.06重量部~0.40重量部と、を含む重合用分散剤を調製する分散剤調製工程、および(b)得られた重合用分散剤に対して、単量体100重量部と、増粘剤0.00005重量部~0.0020重量部と、任意で、重合開始剤およびその他の添加剤(難燃剤、難燃助剤、可塑剤および気泡調整剤(造核剤)など)と、を添加し、得られた水性懸濁液中で単量体の重合を開始する開始工程、を含んでいてもよい。
【0029】
なお、リン酸三カルシウムおよび増粘剤の使用量については、重合を開始する時点の水性懸濁液中における使用量が、単量体100重量部に対して、リン酸三カルシウムは0.06重量部~0.40重量部、および増粘剤は0.00005重量部~0.0020重量部であればよい。かかる使用量の範囲内であれば、分散剤調製工程に加えて、開始工程においても、重合用分散剤に対してリン酸三カルシウムをさらに添加してもよい。また、上述した使用量の範囲内であれば、増粘剤を、懸濁重合工程でのみ使用(添加)してもよく、開始工程でのみ使用(添加)してもよく、懸濁重合工程および開始工程の両方で使用(添加)してもよい。
【0030】
(容器)
懸濁重合工程で使用する容器としては、特に限定されないが、後の発泡剤含侵工程も考慮して、密閉可能であり、かつ耐圧性および耐熱性を有する容器であることが好ましい。本製造方法において、水性懸濁液中では、単量体の液滴、樹脂粒子および/または発泡性樹脂粒子が、水または水溶液中に分散している。そのため、水性懸濁液中で、単量体の液滴、樹脂粒子および/または発泡性樹脂粒子を効率的に分散させるために、容器は、撹拌機を備えていることがより好ましい。容器としては、例えば、撹拌機を備えたオートクレーブが好適に挙げられる。
【0031】
(水)
水としては、特に限定されないが、水道水、工業用水、RO水(逆浸透膜法により精製された水)、蒸留水、脱イオン水(イオン交換樹脂により精製された水)等が挙げられる。
【0032】
本製造方法における水の使用量は、単量体100重量部に対して、100重量部以下であり、60重量部~100重量部であることが好ましく、70重量部~100重量部であることがより好ましく、80重量部~100重量部であることがさらに好ましく、90重量部~100重量部であることが特に好ましい。水の使用量が単量体100重量部に対して100重量部以下である場合、生産コストおよび環境負荷を低減できるという利点を有する。水の使用量が単量体100重量部に対して60重量部以上である場合、シャープな粒度分布を有する発泡粒子樹脂粒子が得られるという利点を有する。
【0033】
(単量体)
本製造方法で使用する単量体としては、特に限定されないが、スチレンおよびアルキル(メタ)アクリレートが好適に使用される。本製造方法では、スチレンおよびアルキル(メタ)アクリレートに加えて、スチレンおよびアルキル(メタ)アクリレートと共重合可能な、スチレンおよびアルキル(メタ)アクリレート以外の単量体(以下、「その他の単量体」とも称する。)をさらに使用してもよい。
【0034】
本製造方法におけるスチレンの使用量は、単量体100重量部中、70重量部以上が好ましく、80重量部以上がより好ましく、85重量部以上がより好ましく、90重量部以上がより好ましく、92重量部以上がさらに好ましく、95重量部以上が特に好ましい。単量体は、当該単量体100重量部中、スチレンを100重量部含んでいてもよい。換言すれば、単量体は、スチレンのみから構成されていてもよい。
【0035】
アルキル(メタ)アクリレートとしては、特に限定されないが、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n-プロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、t-ブチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、およびエチルヘキシル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0036】
本製造方法におけるアルキル(メタ)アクリレートの使用量は、単量体100重量部中、20重量部以下が好ましく、15重量部以下がより好ましく、10重量部以下がより好ましく、8重量部以下がさらに好ましく、5重量部以下が特に好ましい。単量体中のアルキル(メタ)アクリレートの使用量は0重量部であってもよい。換言すれば、本製造方法において、アルキル(メタ)アクリレートを使用しなくてもよい。アルキル(メタ)アクリレートの使用量が、単量体100重量部に対して、20重量部以下である場合、得られる樹脂粒子および/または発泡性樹脂粒子同士の合一を防止または低減できるという利点を有する。
【0037】
その他の単量体としては、特に限定されないが、例えば、(a)α-メチルスチレン、p-メチルスチレン、t-ブチルスチレン、クロロスチレン等の、スチレン以外のスチレン系単量体(b)アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のシアン化ビニル系単量体、および(c)ジビニルベンゼン、ポリエチレングリコールジメタクリレート等の多官能性単量体等があげられる。例えば、単量体がスチレンおよびアクリロニトリルからなる態様、および単量体がスチレン、アクリロニトリルおよびα-メチルスチレンからなる態様も、好ましい態様である。
【0038】
上述したスチレン系単量体、アルキル(メタ)アクリレートおよびその他の単量体は、それぞれ、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0039】
(リン酸三カルシウム)
本製造方法では、リン酸三カルシウムを使用する。本製造方法において、リン酸三カルシウムは、単量体の液滴、樹脂粒子および/または発泡性樹脂粒子を水性懸濁液中で分散させる機能を有し得る。すなわち、リン酸三カルシウムは、分散剤として機能し得る。
【0040】
本発明の一実施形態におけるリン酸三カルシウムは、好ましくは、CAS番号1306-06-05の、3[Ca(PO・Ca(OH)]の構造式を有するハイドロキシアパタイトである。
【0041】
リン酸三カルシウムの形態は、特に限定されないが、例えば、粉末、水系スラリー等が挙げられる。
【0042】
懸濁重合工程で使用するリン酸三カルシウムの平均粒径は、0.2μm~10.0μmである。リン酸三カルシウムの平均粒径の測定方法については、後の実施例にて詳説する。当該リン酸三カルシウムの平均粒径は、0.5μm~8.0μmが好ましく、0.8μm~7.0μmがより好ましく、1.0μm~6.0μmがさらに好ましく、1.3μm~5.0μmが特に好ましい。リン酸三カルシウムの平均粒径が0.2μm~10.0μmである場合には、発泡性樹脂粒子が扁平しにくくなり、発泡性樹脂粒子の平均粒径が小さくなり、かつ重合反応が安定するという利点を有する。
【0043】
懸濁重合工程におけるリン酸三カルシウムの使用量は、シャープな粒度分布を有する発泡粒子樹脂粒子が得られる観点、および発泡性樹脂粒子同士の互着防止または低減の観点から、単量体100重量部に対して、0.06重量部~0.40重量部であり、0.07重量部~0.30重量部が好ましく、0.08重量部~0.25重量部がより好ましく、0.09重量部~0.20重量部がさらに好ましく、0.10重量部~0.15重量部が特に好ましい。
【0044】
(アニオン界面活性剤)
本製造方法では、アニオン界面活性剤を使用してもよい。換言すれば、水性懸濁液は、リン酸三カルシウムおよび増粘剤の他に、アニオン界面活性剤をさらに含んでいてもよい。これにより、水性懸濁液中での単量体の液滴、樹脂粒子および/または発泡性樹脂粒子の分散安定性が向上する、という利点を有する。
【0045】
アニオン界面活性剤としては、特に限定されないが、例えば、アルキルジフェニルエーテルスルホン酸ナトリウム、α-オレフィンスルフォン酸ソーダ、ドデシルベンゼンスルフォン酸ソーダ等が挙げられる。これらアニオン界面活性剤は、1種類を単独で使用してもよく、2種類以上を混合して使用してもよい。2種類以上のアニオン界面活性剤を混合して使用する場合、目的に応じて、混合比率を適宜調整してもよい。
【0046】
アニオン界面活性剤の使用量は、シャープな粒度分布を有する発泡粒子樹脂粒子が得られる観点、および発泡性樹脂粒子同士の互着防止または低減の観点から、単量体100重量部に対して、0.001重量部~0.010重量部が好ましく、0.003重量部~0.010重量部がより好ましく、0.004重量部~0.009重量部がより好ましく、0.005重量部~0.009重量部がさらに好ましく、0.006重量部~0.008重量部が特に好ましい。
【0047】
(増粘剤)
本製造方法では、増粘剤を使用する。水性懸濁液の粘度は、得られる発泡粒子樹脂粒子の粒度分布に影響を与え得る。増粘剤を使用することにより、水性懸濁液の粘度を容易に調整(最適化)することができるという利点を有する。
【0048】
増粘剤としては、特に限定されないが、水溶性の多糖類であることが好ましく、例えば、ラムザンガム、グリオキサール、カードラン、ザンタンガム、ウエランガム、キサンタンガム等が好適に挙げられる。これら増粘剤は、1種類を単独で使用してもよく、2種類以上を混合して使用してもよい。2種類以上の増粘剤を混合して使用する場合、目的に応じて、混合比率を適宜調整してもよい。
【0049】
上述した増粘剤の中でも、樹脂粒子および発泡性樹脂粒子の粒度分布のシャープ化効果が顕著であることから、ラムザンガムが好ましい。換言すれば、増粘剤は、ラムザンガムを含むことが好ましい。
【0050】
増粘剤の使用量は、単量体100重量部に対して、0.00005重量部~0.00200重量部であり、0.00010重量部~0.00150重量部がより好ましく、0.00015重量部~0.00100重量部がよりに好ましく、0.00015重量部~0.00080重量部がさらに好ましく、0.00020重量部~0.00050重量部が特に好ましい。単量体100重量部に対する増粘剤の使用量が0.00005重量部~0.00200重量部の範囲であれば、重合反応中の単量体の液滴を均一に合一および分散させることができる。その結果、よりシャープな粒度分布を有する発泡粒子樹脂粒子が得られるという利点を有する。
【0051】
(水溶性無機塩)
本製造方法では、水溶性無機塩を使用してもよい。換言すれば、水性懸濁液は、リン酸三カルシウムおよび増粘剤の他に、水溶性無機塩をさらに含んでいてもよい。
【0052】
水溶性無機塩としては、特に限定されないが、塩化ナトリウム、塩化カリウム、硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸水素カリウム、亜硫酸水素アンモニウム等が挙げられる。また、水に溶解し、および/または、重合反応系内で反応して亜硫酸塩となる物質、すなわち前駆物質も水溶性無機塩として使用できる。
【0053】
水溶性無機塩の使用量は、特に限定されず、樹脂粒子および発泡性樹脂粒子の粒度分布のシャープ化の観点から、適宜選択すればよい。水溶性無機塩の使用量は、例えば、単量体100重量部に対して、1.0重量部以下であり、0.5重量部以下であることが好ましい。
【0054】
(重合開始剤)
本製造方法では、重合開始剤を使用し得る。重合開始剤としては、特に限定されず、一般に熱可塑性重合体の製造に用いられるラジカル発生型重合開始剤を用いることができる。そのような重合開始剤としては、例えば、過酸化ベンゾイル、ラウロイルパーオキサイド、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、t-ブチルパーピバレート、t-ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、ジ-t-ブチルパーオキシヘキサハイドロテレフタレート、1,1-ジ(t-ブチルパーオキシ)3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、1,1-ジ(t-ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、1,1-ビス(t-アミルパーオキシ)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキシルモノカーボネート、t-アミルパーオキシ-2-エチルヘキシルモノカーボネートなどが挙げられる。これら重合開始剤は、1種類を単独で使用してもよく、2種類以上を組み合わせて使用しても良い。
【0055】
本製造方法では、10時間半減期温度が74℃以上90℃未満である重合開始剤Aと、10時間半減期温度が90℃以上110℃未満である重合開始剤Bと、を組み合わせて使用することが好ましい。当該構成によると、発泡性樹脂粒子に残存する未反応の単量体の量を低減できるという利点を有する。重合開始剤Aとしては、過酸化ベンゾイルが好適に挙げられる。重合開始剤Bとしては、1,1-ジ(t-ブチルパーオキシ)シクロヘキサンが好適に挙げられる。(a)重合開始剤AおよびBの両方を懸濁重合工程で使用してもよく、(b)懸濁重合工程で重合開始剤Aを使用した後、後述する発泡剤含侵工程で重合開始剤Bをさらに使用(添加)してもよい。
【0056】
本製造方法における重合開始剤の使用量としては、目標とする樹脂粒子の分子量により適宜設定され、特に限定されない。重合開始剤の使用量は、単量体100重量部に対して、0.100重量部~1.000重量部が好ましく、0.200重量部~0.800重量部がより好ましく、0.300重量部~0.600重量部がさらに好ましく、0.400重量部~0.500重量部が特に好ましい。重合開始剤の使用量が0.100重量部以上の場合には、重合が十分に進行し、1.000重量部以下の場合には、重合反応が制御し易いという利点がある。なお、重合開始剤Aおよび重合開始剤Bを組み合わせて使用する場合、「重合開始剤の使用量」とは、重合開始剤AおよびBの合計量を意図する。
【0057】
(その他の添加剤)
本製造方法では、必要に応じて、難燃剤、難燃助剤、可塑剤および気泡調整剤(造核剤と称する場合もある。)など(これらを総称して「その他の添加剤」と称する場合もある。)を使用してもよい。換言すれば、水性懸濁液は、上述したその他の添加剤を含んでいてもよい。
【0058】
難燃剤を使用することにより、発泡性樹脂粒子並びに発泡性樹脂粒子を使用して得られる発泡粒子および発泡成形体に難燃性を付与することができる。本製造方法では、難燃剤のみを使用してもよく、難燃剤と難燃助剤とを組み合わせて使用してもよい。
【0059】
難燃剤としては、特に限定されないが、例えば、(a)ポリグリセリンジブロモプロピルエーテル、テトラブロモビスフェノールA、テトラブロモビスフェノール-A-ビス(2,3-ジブロモ-2-メチルプロピルエーテル)、2,2-ビス[4-(2,3-ジブロモ-2-メチルプロピルオキシ)-3,5-ジブロモフェニル]プロパン等の低分子化合物、ならびに(b)臭素化スチレン、臭素化ブタジエン・ビニル芳香族共重合体、臭素化ノボラック樹脂アリルエーテル、臭素化ポリ(1,3-シクロアルカジエン)および臭素化ポリ(4-ビニルフェノールアリルエーテル)等の臭素化ポリマー、等が挙げられる。これら難燃剤は、1種類を単独で使用してもよく、2種類以上を混合して使用してもよい。
【0060】
難燃助剤としては、特に限定されないが、例えば、クメンパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、t-ブチルハイドロパーオキサイド、2,3-ジメチルー2,3-ジフェニルブタン等の高温分解型の有機物等が挙げられる。これら難燃助剤は、1種類を単独で使用してもよく、2種類以上を混合して使用してもよい。
【0061】
可塑剤としては、特に限定されないが、例えば、(a)ステアリン酸トリグリセライド、パルミチン酸トリグリセライド、ラウリン酸トリグリセライド、ステアリン酸ジグリセライド、ステアリン酸モノグリセライド等の脂肪酸グリセライド、(b)ヤシ油、パーム油、パーム核油等の植物油、(c)ジオクチルアジペート、ジブチルセバケート等の脂肪族エステル、(d)流動パラフィン等の有機炭化水素、および(e)シクロヘキサン、シクロペンタン等の環状脂肪族等が挙げられる。これら可塑剤は、1種類を単独で使用してもよく、2種類以上を混合して使用してもよい。
【0062】
気泡調節剤としては、例えば、(a)メチレンビスステアリン酸アマイド、エチレンビスステアリン酸アマイド等の脂肪族ビスアマイド、(b)ポリエチレンワックス、および(c)アクリル系樹脂(カネカ社製:カネエースPA-20)等が挙げられる。これら気泡調節剤は、1種類を単独で使用してもよく、2種以上を混合して使用してもよい。
【0063】
懸濁重合工程の温度は特に限定されない。懸濁重合工程の温度とは、例えば、容器内の温度および/または水性懸濁液の温度であり、「重合温度」と称する場合もある。重合温度としては、特に限定されないが、90℃以上100℃未満が好ましく、92℃以上100℃未満がより好ましく、94℃以上100℃未満がさらに好ましく、96℃以上100℃未満が特に好ましい。当該構成によると、重合開始剤Aが効率よく重合反応を進めるため、重合時間を短縮することができるという利点を有する。
【0064】
(2-2.リン酸三カルシウム添加工程)
本製造方法は、懸濁重合工程の後に、重合途中で、少なくとも1回以上、さらにリン酸三カルシウム添加工程を水性懸濁液中に添加する、リン酸三カルシウム添加工程を含む。リン酸三カルシウム添加工程を含むことにより、シャープな粒度分布を有する発泡性樹脂粒子を得ることができる。リン酸三カルシウム添加工程は、懸濁重合工程から続く単量体の重合を継続させ、樹脂粒子を得る工程でもある。
【0065】
リン酸三カルシウム添加工程で使用するリン酸三カルシウムの平均粒径は、0.2μm~10.0μmである。当該リン酸三カルシウムの平均粒径は、0.5μm~8.0μmが好ましく、0.8μm~7.0μmがより好ましく、1.0μm~6.0μmがさらに好ましく、1.3μm~5.0μmが特に好ましい。リン酸三カルシウムの平均粒径が0.2μm~10.0μmである場合には、発泡性樹脂粒子が扁平しにくくなり、発泡性樹脂粒子の平均粒径が小さくなり、かつ重合反応が安定するという利点を有する。
【0066】
リン酸三カルシウム添加工程におけるリン酸三カルシウムの使用量は、単量体100重量部に対して、0.02重量部~0.10重量部であり、0.03重量部~0.09重量部が好ましく、0.03重量部~0.08重量部がより好ましく、0.04重量部~0.07重量部がさらに好ましく、0.04重量部~0.06重量部が特に好ましい。
リン酸三カルシウムの使用量が上述した範囲内である場合、シャープな粒度分布を有する発泡性樹脂粒子を得ることができる。具体的に、リン酸三カルシウムの使用量が単量体100重量部に対して、(a)0.02重量部以上である場合には、扁平し、かつ粒径が大きい発泡性樹脂粒子の量が低減されるという利点を有し、(b)0.1重量部以下である場合には、粒径が小さい(微細な)発泡性樹脂粒子の量が低減されるという利点を有する。
【0067】
本製造方法中で使用するリン酸三カルシウムの合計量は、特に限定されないが、樹脂粒子および発泡性樹脂粒子の粒度分布のシャープ化の観点から、単量体100重量部に対して、0.08重量部~0.50重量部であることが好ましく、0.08重量部~0.30重量部が好ましく、0.10重量部~0.25重量部がより好ましく、0.12重量部~0.20重量部が特に好ましい。なお、「本製造方法中で使用するリン酸三カルシウムの合計量」とは、懸濁重合工程で使用するリン酸三カルシウムの使用量と、リン酸三カルシウム添加工程で使用するリン酸三カルシウムの使用量との合計量を意図する。なお、そのほかの工程で、さらにリン酸三カルシウムを使用する場合、それらの使用量も含めた合計量を、「本製造方法中で使用するリン酸三カルシウムの合計量」とする。
【0068】
リン酸三カルシウム添加工程におけるリン酸三カルシウムの添加は、重合転化率が35重量%~70重量%の範囲内の間に1回以上の添加が行われ、35重量%~60重量%の範囲内の間に行われることが好ましく、40重量%~58重量%の範囲内の間に行われることがより好ましく、45重量%~55重量%の範囲内の間に行われることがさらに好ましく、50重量%~55重量%の範囲内の間に行われることが特に好ましい。リン酸三カルシウム添加工程におけるリン酸三カルシウムの添加が、重合転化率が上述した範囲内の間に行われる場合、水性懸濁液中での単量体の液滴の分散性が安定(良好)となり、シャープな粒度分布を有する発泡性樹脂粒子が得られるという利点がある。かかる原因は定かではないが、重合初期では、単量体の占有体積が水占有体積より大きいものの、重合転化率が35重量%~70重量%となる時点は、単量体と水の占有体積とがほぼ同等になる時点であり、この時点でリン酸三カルシウムをさらに添加することが重要であると推測される。なお、本発明の一実施形態は、かかる推測になんら制限されるものではない。
【0069】
(2-3.発泡剤含浸工程)
本製造方法は、リン酸三カルシウム添加工程の後に、得られた樹脂粒子に発泡剤を含侵させる、発泡剤含浸工程を含む。発泡剤含浸工程を経ることにより、発泡性樹脂粒子を得ることができる。
【0070】
発泡剤含浸工程は、重合転化率が85重量%以上の時点にて行うことが好ましい。換言すれば、懸濁重合工程およびリン酸三カルシウム添加工程の間行われた単量体の重合は、重合転化率が85重量%未満の時点で終了することが好ましい。当該構成によると、添加する発泡剤が樹脂粒子の軟化を促進しすぎることがなく、水性懸濁液中での単量体液滴および樹脂粒子の分散性が安定化され、樹脂粒子および発泡性樹脂粒子の塊化を無くすかまたは低減できるという利点を有する。発泡剤含浸工程は、重合転化率が90重量%以上の時点にて行われることがより好ましく、92重量%以上の時点にて行われることがさらに好ましく、95重量%以上の時点にて行われることが特に好ましい。
【0071】
(発泡剤)
本製造方法では、発泡剤として炭化水素系発泡剤を使用することが好ましい。炭化水素系発泡剤としては、特に限定されないが、例えば、(a)プロパン、ブタン、ペンタン等の脂肪族炭化水素、(b)シクロブタン、シクロペンタン等の脂環族炭化水素、および(c)メチルクロライド、ジクロルジフルオロメタン、ジクロルテトラフルオロエタン等のハロゲン化炭化水素等が挙げられる。これら発泡剤は、1種類を単独で使用してもよく、2種類以上を混合して使用してもよい。また、2種類以上の発泡剤を混合して使用する場合、目的に応じて、混合比率を適宜調整してもよい。揮発性および発泡力の観点から、炭化水素系発泡剤は、ノルマルペンタン、イソペンタン、ネオペンタン、シクロペンタンからなる群より選択されるいずれか1種を含むことが好ましい。また、得られる発泡性樹脂粒子の発泡において気泡(セル)が安定しやすいことから、炭化水素系発泡剤は、ペンタン類(ノルマルペンタン、イソペンタン、ネオペンタンおよびシクロペンタンなど)からなる群より選択されるいずれか1種を含むことが好ましい。
【0072】
本製造方法における発泡剤の使用量は、特に限定されない。発泡剤は、重合樹脂粒子の軟化温度を低下させる働きも担い得る。発泡剤の使用量は、使用する単量体100重量部に対して、3.0重量部~12.0重量部であることが好ましく、4.0重量部~11.0重量部であることがより好ましく、5.0重量部~10.0重量部であることがさらに好ましく、6.0重量部~9.0重量部であることが特に好ましい。使用する単量体100重量部に対して発泡剤の使用量が3.0重量部以上である場合、発泡時の発泡力が低くなる虞がなく、断熱材として使用しやすい発泡倍率の発泡粒子を容易に得ることができるという利点を有する。使用する単量体100重量部に対して発泡剤の使用量が12.0重量部以下である場合には、発泡成形体中に残存する発泡剤が多すぎないため、発泡成形体の難燃性が悪化し難いという利点を有する。使用する単量体100重量部に対して発泡剤の使用量が6.0重量部~9.0重量部である場合には、特に、高い発泡性および優れた成形性を両立できる発泡粒子を得ることができる。
【0073】
発泡剤含侵工程において、発泡剤の含浸温度としては特に限定されない。(i)発泡剤によって樹脂粒子を軟化させ、発泡剤を樹脂粒子内に効率的に含侵させる観点、および(ii)重合開始剤Bによって発泡性樹脂粒子に残存する未反応の単量体の量を低減させる観点から、含侵温度は、樹脂粒子のガラス転移点に対し、前記ガラス転移点-10℃以上(より好ましくは-5℃以上、さらに好ましくは-3℃以上)、前記ガラス転移点+30℃以下(より好ましくは+10℃以下)であることが好ましい。例えば、スチレン系樹脂の場合の含浸温度は、90℃~130℃が好ましく、100℃~120℃がより好ましい。スチレン系樹脂の場合であって、特に、含浸温度が100℃以上である場合、樹脂粒子への発泡剤の含浸度合が高くなり、発泡粒子のセル構造が均一または略均一となり、得られる発泡成形体表面にクボミ等がなく外観が良好になるという利点を有する。一方、スチレン系樹脂の場合であって、特に、含浸温度が120℃以下である場合、発泡剤の含浸が良くなるとともに、重合機の内圧が高くなりすぎないため、重装備の耐圧を有する重合機仕様を必要としないという利点を有する。
【0074】
発泡剤含侵工程において、容器内の温度を前記含浸温度で保持する時間(含浸時間、と称する場合も有る。)としては、特に限定されない。樹脂粒子内部に発泡剤を十分に含侵させる観点から、含侵時間は、3時間~10時間が好ましく、5時間~8時間がより好ましい。含侵時間が3時間以上である場合、発泡性樹脂粒子から発泡して発泡粒子を得る際、得られる発泡粒子の中心部に細かいセルが存在する虞がない。その結果、発泡粒子の成型性が良好となる利点を有する。一方、含侵温度が10時間以内である場合、生産性が良好となる利点を有する。
【0075】
(2-4.冷却工程および乾燥工程)
上述した発泡剤含侵工程において、適切な含浸温度、含浸時間および発泡剤の使用量で樹脂粒子への発泡剤の含浸が終了した後、例えば、容器内の温度を冷却し、水性懸濁液中の発泡性樹脂粒子を乾燥させてもよい。換言すれば、本製造方法は、冷却工程および乾燥工程をさらに有していてもよい。
【0076】
上述した発泡剤含侵工程は、例えば、重合転化率97%以上に達した時点で終了し得る。冷却工程では、発泡剤含侵工程の後、重合温度を、例えば室温まで冷却する。続く乾燥工程では、発泡性樹脂粒子を含む水性懸濁液を、例えば遠心分離機に供して発泡性樹脂粒子を脱水し、発泡性樹脂粒子を、例えば気流乾燥機に供して、乾燥する。
【0077】
以上のようにして得られた発泡性樹脂粒子中の残存スチレン量は、例えば、3000pm以下である。発泡性樹脂粒子中の残存スチレン量は、下限は、実用的には0ppmになり難いので敢えて表示するなら1ppm以上である。
【0078】
発泡性樹脂粒子を、発泡させることにより、発泡粒子を得ることができる。また、得られた発泡粒子を成形(例えば、型内発泡成形)することにより、発泡成形体を得ることができる。
【0079】
(2-5.特性)
以上のようにして得られる発泡性樹脂粒子は、粒度分布がシャープであるという利点を有する。発泡性樹脂粒子の粒度分布(UT)は、小さいほど好ましく、例えば、3.00以下であることが好ましい。発泡性樹脂粒子の粒度分布(UT)は、2.95以下であることがより好ましく、2.90以下であることがさらに好ましい。
【0080】
発泡性樹脂粒子の平均粒径は、特に限定されないが、型内発泡成形において、金型の細部へ発泡粒子を十分に充填させることができることから、0.60mm~1.20mmであることが好ましく、0.70mm~1.10mmであることがより好ましく、0.80mm~1.00mmであることがさらに好ましく、0.80mm~1.00mmであることが特に好ましい。
【0081】
〔3.発泡粒子〕
本発明の一実施形態に係る発泡性樹脂粒子の製造方法(例えば、前記〔2.発泡性樹脂粒子の製造方法〕の項に記載の製造方法)により得られた発泡性樹脂粒子を発泡する工程を有する、発泡粒子の製造方法もまた、本発明の一実施形態である。また、本発明の一実施形態に係る発泡粒子の製造方法により得られた発泡粒子もまた、本発明の一実施形態といえる。
【0082】
ここで、発泡性樹脂粒子から発泡成形体を得るとき、先ず、発泡性樹脂粒子を発泡させて発泡粒子を得、その後、当該発泡粒子を成形して発泡成形体を得る場合がある。それ故、発泡性樹脂粒子から発泡成形体を得る過程で、発泡性樹脂粒子を発泡させることを「予備発泡する」または「一次発泡する」と称する場合があり、得られる発泡粒子を「予備発泡粒子」または「一次発泡粒子」と称する場合がある。
【0083】
発泡性樹脂粒子の発泡方法としては特に限定されないが、例えば、公知の発泡装置(予備発泡装置ともいえる)を用い、水蒸気により加熱発泡する方法が挙げられる。発泡粒子の発泡倍率は、特に限定されないが、例えば、10倍~70倍である。
【0084】
発泡性樹脂粒子を発泡させる前に、発泡性樹脂粒子に公知慣用の外添剤(ステアリン酸亜鉛等の脂肪酸金属塩)および添付剤(ヒドロキシステアリン酸トリグリセライド等の脂肪酸モノグリセライド)などを、塗布してもよい。
【0085】
〔4.発泡成形体〕
本発明の一実施形態に係る発泡粒子の製造方法により得られた発泡粒子を成形する工程を有する、発泡成形体の製造方法もまた、本発明の一実施形態である。また、本発明の一実施形態に係る発泡成形体の製造方法により得られた発泡成形体もまた、本発明の一実施形態といえる。
【0086】
発泡成形体の製造方法、換言すれば発泡粒子の成形方法としては特に限定されない。例えば、発泡粒子を、加熱発泡(二次発泡)させて、成形する方法が挙げられる。より具体的には、金型内に発泡粒子を充填し、水蒸気等の加熱媒体を金型内に吹き込んで発泡粒子を加熱する等、通常の型内発泡成形方法を採用することができる。加熱発泡に使用する装置、および加熱発泡の条件は、発泡性樹脂粒子本体の組成、所望する発泡倍率等に応じて適宜、設定すればよく、特に限定されない。
【0087】
〔5.用途〕
本発明の一実施形態は、発泡成形体が使用される分野において、好適に使用できる。例えば、本発明の一実施形態は、食品容器等の包装材(トレー)、魚函等の輸送用梱包材、断熱材(例えば、貯湯タンク、屋根用断熱材、配管保温材、定温保管用容器、定温輸送用容器等)等の分野で好適に利用することができる。
【実施例0088】
以下、実施例および比較例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例によりその技術的範囲を限定されるものではない。
【0089】
〔材料〕
実施例および比較例で使用した物質を以下に示す。
【0090】
(水)
・水:イオン交換水
(単量体)
・ST:スチレン(NSスチレンモノマー(株)製)
・BA:アクリル酸ブチル(日本触媒(株)製)
(リン酸三カルシウム)
・CaP1:Instant-S 平均粒径1.5μm(スラリー30重量%、ブーデンハイム社製)
・CaP2:TCP-10U 平均粒径5μm(スラリー10重量%、太平化学社製)
・CaP3:TCP2 平均粒径16μm(太平化学社製)
・CaP4:TCP 平均粒径20μm(太平化学社製)
(アニオン界面活性剤)
・アルキルジフェニルエーテルスルホン酸ナトリウム(花王(株)製)
(増粘剤)
・KLZ:キサンタンガムとグリオキサールとの混合品(ケルザンS(CP Kelco社製))
(重合開始剤)
・重合開始剤A:過酸化ベンゾイル(10時間半減期温度74℃、ナイパーBW(日本油脂(株)製))
・重合開始剤B:1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)シクロヘキサン(10時間半減期温度91℃、パーヘキサC(日本油脂(株)製))
(発泡剤)
・ノルマルブタンとイソブタンとを重量比50:50で含む混合物(岩谷瓦斯(株)製)。
【0091】
〔測定方法〕
実施例および比較例において実施した測定方法に関して、以下に説明する。
【0092】
(リン酸三カルシウムの平均粒径の測定)
各リン酸三カルシウムについて、濃度0.1重量/重量%のリン酸三カルシウムの水性分散液を試料として、マイクロトラック粒度分析計(MT3300EX-II、日機装(株)製)を用いて粒度分布を測定し、累積通過分布曲線を得た。得られた累積通過分布曲線から、累積重量パーセントで50%に相当する点での粒径(μm)を求め、平均粒径とした。
【0093】
(重合転化率の測定)
懸濁重合の途中と、発泡剤の投入前と、重合終了時の3時点にて、樹脂粒子または発泡性樹脂粒子を耐圧容器から採取し、濾紙を用いて樹脂粒子または発泡性樹脂粒子の表面の水分を拭き取った。樹脂粒子または発泡性樹脂粒子1.0gをジクロロメタン20mlに溶解し、溶解液に内部標準液(シクロペンタノール)0.005gを加えた。続いて、溶解液を、ガスクロマトグラフィー(GC-14B、島津製作所(株)製)に供し、以下の条件にて重合転化率を測定した。重合転化率は、残存する単量体成分量から算出した。
【0094】
カラム:PEG-20M 25%
Chromosorb W 60/80(3.0m×3.0mmI.D.)
カラム温度:110℃
検出器(FID温度:170℃)。
【0095】
(発泡性樹脂粒子の平均粒径および粒度分布の測定)
発泡性樹脂粒子100gを試料とし、画像処理式粒子径分布測定装置(ミリトラック JPA、日機装(株)製)を用いて、粒度分布を測定し、累積通過分布曲線を得た。得られた累積通過分布曲線から、平均粒径(D50)、粒度分布(UT)を算出した。平均粒径(D50)とは、累積重量パーセントが50%になる点での粒子径(mm)を指す。粒度分布は、累積通過分布曲線から得られた樹脂粒子の、10重量%、40重量%、60重量%、90重量%が通過した際の篩の目開き(mm)を、それぞれd10、d40、d60、d90とし、これらの値を以下の式に当てはめて算出した。
【0096】
A=d60/d10
B=d90/d40
UT=A+B
ここで、UTの値が大きいほど粒度分布は広く、UTの値が小さいほど粒度分布は狭いことを示す。
【0097】
〔実施例1〕
(i)懸濁重合工程
(分散剤調製工程)
撹拌機付き6Lオートクレーブ(耐圧硝子社製)に、水100重量部、リン酸三カルシウム(CaP1:1.5μm)0.08重量部、アニオン界面活性剤0.007重量部、および水溶性無機塩として塩化ナトリウム0.47重量部を仕込み、重合用分散剤を調製した。
【0098】
(重合工程)
得られた重合用分散剤に、気泡調整剤としてポリエチレンワックス0.04重量部、増粘剤0.0002重量部を加え、攪拌機で混合物を攪拌した。次いで、重合開始剤A0.250重量部、重合開始剤B0.175重量部、ならびに、予めスチレン95重量部とアクリル酸ブチル5重量部とを混合して得られた単量体(合計100重量部)を投入し、水性懸濁液を調製した。その後、真空ポンプで容器内のゲージ圧が-0.06MPaとなるまで脱酸し、水性懸濁液を30分間攪拌した。続いて、水性懸濁液を98℃まで昇温し、水性懸濁液中で単量体の重合を開始した。
【0099】
(ii)リン酸三カルシウム添加工程
重合開始から1.5時間(重合転化率45%)の時点にてリン酸三カルシウム0.05重量部を窒素で容器内に圧入した。引き続き、単量体の重合を継続した。
【0100】
(iii)発泡剤含浸工程
重合から3.6時間目(重合転化率92重量%)の時点で、発泡剤(ノルマルブタンとイソブタンとを重量比50:50で含む混合物)6.8重量部を、容器内に圧入し、水性懸濁液の温度を119℃まで昇温させ、発泡剤含侵工程を開始した。なお、単量体の重合は、重合転化率が92重量%となるまで行い、終了したといえる。さらに、水性懸濁液を119℃で2.5時間保持し、重合転化率が98重量%となった時点で発泡剤含侵工程を終了した。
【0101】
(冷却工程および乾燥工程)
その後、発泡性樹脂粒子を含む水性懸濁液を室温(25℃)まで冷却し、取り出した。得られた発泡性樹脂粒子を、塩酸で酸洗および水洗した後、遠心分離機(松本機械製)で脱水した。続いて、発泡性樹脂粒子を気流乾燥機(平岩鉄工所製)で乾燥して、発泡性樹脂粒子を得た。得られた発泡性樹脂粒子について、上述した方法により、平均粒径(D50)および粒度分布(UT)を測定した。結果を表1に示す。
【0102】
〔実施例2~12、比較例1~10〕
懸濁重合工程で使用するリン酸三カルシウムの種類および量、増粘剤の使用量、リン酸三カルシウム添加工程で添加するリン酸三カルシウムの種類および量、リン酸三カルシウム添加工程においてリン酸三カルシウムを添加する時期、並びに発泡剤含侵工程において発泡剤を添加する時期を、表1または2に記載のように変更した以外は、実施例1と同じ操作にて発泡性樹脂粒子を得た。得られた発泡性樹脂粒子について、上述した方法により、平均粒径(D50)および粒度分布(UT)を測定した。結果を表1または2に示す。
【0103】
【表1】
【0104】
【表2】
【産業上の利用可能性】
【0105】
本発明の一実施形態によると、シャープな粒度分布を有する発泡性樹脂粒子を提供し得る、発泡性樹脂粒子の製造方法を提供することができる。そのため、本発明の一実施形態は、食品容器等の包装材(トレー)、魚函等の輸送用梱包材、断熱材(例えば、貯湯タンク、屋根用断熱材、配管保温材、定温保管用容器、定温輸送用容器等)等の分野で好適に利用することができる。