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特開2024-117547リチウム複合酸化物、蓄電デバイス及びリチウム複合酸化物の製造方法
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  • 特開-リチウム複合酸化物、蓄電デバイス及びリチウム複合酸化物の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024117547
(43)【公開日】2024-08-29
(54)【発明の名称】リチウム複合酸化物、蓄電デバイス及びリチウム複合酸化物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/505 20100101AFI20240822BHJP
   H01M 4/525 20100101ALI20240822BHJP
   H01M 4/485 20100101ALI20240822BHJP
   C01G 45/02 20060101ALI20240822BHJP
   C01B 25/45 20060101ALI20240822BHJP
【FI】
H01M4/505
H01M4/525
H01M4/485
C01G45/02
C01B25/45 Z
【審査請求】有
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023023691
(22)【出願日】2023-02-17
(71)【出願人】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000017
【氏名又は名称】弁理士法人アイテック国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】馬原 優治
(72)【発明者】
【氏名】牧村 嘉也
【テーマコード(参考)】
4G048
5H050
【Fターム(参考)】
4G048AA04
4G048AB01
4G048AC06
4G048AD03
4G048AD06
4G048AE05
5H050AA08
5H050BA16
5H050BA17
5H050CA07
5H050CA08
5H050CA09
5H050CB03
5H050CB07
5H050CB08
5H050CB09
5H050CB11
5H050CB12
5H050CB20
5H050GA02
5H050GA05
5H050GA27
5H050HA01
5H050HA02
5H050HA14
(57)【要約】
【課題】蓄電デバイスの放電容量をより高める。
【解決手段】リチウム複合酸化物は、蓄電デバイスの電極活物質に用いられるものであって、リチウムと元素Mとを含み、立方晶の結晶構造を有し、熱重量示差熱分析(TG-DTA)により空気雰囲気下で昇温した際の500℃以下の範囲での重量データの極値の増減から求められる酸素欠陥率が5質量%以下であるものである。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
蓄電デバイスの電極活物質に用いられるリチウム複合酸化物であって、
リチウムと元素Mとを含み、立方晶の結晶構造を有し、
熱重量示差熱分析(TG-DTA)により空気雰囲気下で昇温した際の500℃以下の範囲での重量データの極値の増減から求められる酸素欠陥率が5質量%以下である、
リチウム複合酸化物。
【請求項2】
前記酸素欠陥率が1質量%以下である、請求項1に記載のリチウム複合酸化物。
【請求項3】
基本組成式がLiax2-z(但し、0<a<2、0<x≦2、0≦z≦0.15であり、MはB、C、N、P、Al、Si、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Ga及びGeからなる群から選ばれる1以上である)である、請求項1又は2に記載のリチウム複合酸化物。
【請求項4】
0.8≦x≦1.0である、請求項3に記載のリチウム複合酸化物。
【請求項5】
前記元素Mは、少なくともMnを含み、Pを更に含んでもよい、請求項1又は2に記載のリチウム複合酸化物。
【請求項6】
前記元素Mは、少なくともMnを含み、Pを含まない、請求項1又は2に記載のリチウム複合酸化物。
【請求項7】
請求項1又は2に記載のリチウム複合酸化物を電極活物質として有する電極と、
前記電極に接触しリチウムイオンを伝導するイオン伝導媒体と、
を備えた蓄電デバイス。
【請求項8】
蓄電デバイスの電極活物質に用いられるリチウム複合酸化物の製造方法であって、
斜方晶のリチウム複合酸化物原料を混合粉砕することによってリチウムと元素Mとを含み無秩序岩塩構造を示す前駆体を得る前駆体工程と、
作製後の前記リチウム複合酸化物に対して熱重量示差熱分析(TG-DTA)を行い空気雰囲気下で昇温した際の500℃以下の範囲での重量データの極値の増減から求められる酸素欠陥率が5質量%以下となるように前記前駆体を処理する欠陥低減工程と、
を含むリチウム複合酸化物の製造方法。
【請求項9】
前記欠陥低減工程では、前記前駆体を酸化雰囲気下において250℃以上500℃以下で加熱する熱処理を行う、請求項8に記載のリチウム複合酸化物の製造方法。
【請求項10】
前記欠陥低減工程では、リン及び酸素を含有する化合物と前記前駆体とを混合粉砕し前記化合物を前記前駆体内へ導入する添加処理を行う、請求項8に記載のリチウム複合酸化物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書は、リチウム複合酸化物、蓄電デバイス及びリチウム複合酸化物の製造方法を開示する。
【背景技術】
【0002】
従来、リチウム二次電池の正極活物質として、層状型岩塩構造を有するLiMO2(ただし、M=Co、Ni、Mn)が知られている。この組成での理論的な最大放電容量は約280mAh/gであるが、電位、構造安定性の観点から取り出せる容量はその7割程度である。そこで、組成内のLiを過剰にし、利用可能な放電容量を増加させる提案がなされている。特に活物質を不規則岩塩構造にすることでLiが3次元的に充放電可能となり、高い放電容量を示すことが知られている(例えば、特許文献1,2など参照)。これは、アモルファス構造となることでLiが3次元的に移動可能となり、Li過剰組成でもLiが可逆的に挿入脱離するようになるためである。また、層状構造のLiMnO2とLi3PO4とをメカニカルミリング法で混合した(1-α)LiMnO2・αLi3PO4(αは0.1、0.2又は0.3)の組成のリチウム複合酸化物が提案されている(非特許文献1参照)。このリチウム複合酸化物は、無秩序岩塩構造を有しており、Mn3+/Mn4+の酸化還元に基づく理論容量を上回る高容量を示すとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2018-92958
【特許文献2】特開2017-202954
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】M. Sawamura, et al., ACS Cent. Sci. 2020, 6, 2326-2338
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の複合酸化物では、例えば、Li1.233Mo0.467Cr0.32の組成では280mAh/gを超える放電容量を示しているが、まだ十分でなく、より高容量とすることが課題であった。また、特許文献2では、組成内にリチウム及びモリブデンを含む複合酸化物が300mAh/gを超える高放電容量を示すとしているが、下限電圧範囲が1.0Vと低電圧条件で放電を行っており、実際にフルセルとして実用できる放電量はおよそ150mAh/gと予想され、更なる改良が望まれていた。更に、非特許文献1のリチウム複合酸化物では、組成内にリチウム、マンガン、及びリンを含む複合酸化物が300mAh/gを超える高容量を示すとされているが、まだ十分でなく、更なる改良が望まれていた。
【0006】
本開示は、このような課題を解決するためになされたものであり、放電容量をより高めることができるリチウム複合酸化物、蓄電デバイス及びリチウム複合酸化物の製造方法を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した目的を達成するために、本発明者らは鋭意研究し、無秩序岩塩構造を含む立方晶系のリチウム複合酸化物において、酸素欠陥率をより低減すると放電容量をより高められることを見出し、本明細書で開示する発明を完成するに至った
【0008】
即ち、本明細書で開示するリチウム複合酸化物は、
蓄電デバイスの電極活物質に用いられるリチウム複合酸化物であって、
リチウムと元素Mとを含み、立方晶の結晶構造を有し、
熱重量示差熱分析(TG-DTA)により空気雰囲気下で昇温した際の500℃以下の範囲での重量データの極値の増減から求められる酸素欠陥率が5質量%以下であるものである。
【0009】
本明細書で開示する蓄電デバイスは、
上述したリチウム複合酸化物を電極活物質として有する電極と、
前記電極に接触しリチウムイオンを伝導するイオン伝導媒体と、
を備えたものである。
【0010】
本明細書で開示するリチウム複合酸化物の製造方法は、
蓄電デバイスの電極活物質に用いられるリチウム複合酸化物の製造方法であって、
斜方晶のリチウム複合酸化物原料を混合粉砕することによってリチウムと元素Mとを含み無秩序岩塩構造を示す前駆体を得る前駆体工程と、
作製後の前記リチウム複合酸化物に対して熱重量示差熱分析(TG-DTA)を行い空気雰囲気下で昇温した際の500℃以下の範囲での重量データの極値の増減から求められる酸素欠陥率が5質量%以下となるように前記前駆体を処理する欠陥低減工程と、
を含むものである。
【発明の効果】
【0011】
本開示では、放電容量をより高めることができるリチウム複合酸化物、蓄電デバイス及びリチウム複合酸化物の製造方法を提供することができる。このような効果が得られる理由は、以下のように推察される。例えば、無秩序岩塩型のリチウム複合酸化物は、これまで実用されてきた層状型正極とは異なり、Liが3次元的に泳動可能であり、より多くのLiイオンを挿入脱離可能となる可能性がある。一方、無秩序岩塩型のリチウム複合酸化物は、遊星型ボールミルなどで混合粉砕されメカノケミカル的に合成されることから、酸素欠陥が生じやすい。本開示では、立方晶をベースとする無秩序岩塩型リチウム複合酸化物の酸素欠陥の低減によって、隣接するMnの電子状態を理想状態とし、十分に酸化還元がされるため、放電容量がより向上するものと推察される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】蓄電デバイス20の構成の一例を示す模式図。
図2】実験例1~5のXRDパターン。
図3】実験例4のTG-DTA測定結果。
図4】実験例1のTG-DTA測定結果。
図5】実験例1~5の初回放電曲線。
図6】実験例4の推定結晶構造を示す模式図。
図7】酸素欠陥を補う手法の模式図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(リチウム複合酸化物)
本開示のリチウム複合酸化物は、蓄電デバイスの電極活物質に用いられるものである。このリチウム複合酸化物は、蓄電デバイスの電極活物質に用いられるものとしてもよい。このリチウム複合酸化物は、リチウムと元素Mとを含み、立方晶の結晶構造を有する。このリチウム複合酸化物は、XRDスペクトルが立方晶系の無秩序岩塩構造(ランダム岩塩構造とも称される)のピークパターンを示すものとしてもよいし、立方晶系のスピネル構造のピークパターンを示すものとしてもよい。無秩序岩塩構造は、XRDスペクトルにおいて、2θが35°以上39°以下の範囲、42°以上48°以下の範囲、62°以上68°以下の範囲、及び80°以上84°以下の範囲の少なくとも4つに回折ピークを有するピークパターンを示す。また、無秩序構造を有することから、回折ピークは比較的ブロードであり、2θ=42°~48°のメインピークの半価幅が1.5°以上を示し、2θ=62°~68°のピークの半価幅が2°以上を示す。また、スピネル構造では、XRDスペクトルにおいて、2θが15°以上22°以下の範囲、33°以上39°以下の範囲、42°以上48°以下の範囲、62°以上68°以下の範囲、及び80°以上84°以下の範囲の少なくとも5つに回折ピークを有するピークパターンを示す。また、スピネル構造では、回折ピークは比較的ブロードであり、2θ=15°~22°のピークの半価幅が1.5°以上を示し、2θ=42°~48°のメインピークの半価幅が1.5°以上を示す。
【0014】
このリチウム複合酸化物は、熱重量示差熱分析(TG-DTA)により空気雰囲気下で昇温した際の500℃以下の範囲での重量データの極値の増減から求められる酸素欠陥率が5質量%以下であるものである。酸素欠陥率は、より少ない方が好ましく、4質量%以下であることが好ましく、2質量%以下であることがより好ましく、1質量%以下が更に好ましく、0.5質量%以下としてもよい。酸素欠陥率は、熱重量示差熱分析において、参照試料としてアルミナを用い、走査速度10℃/分で1000℃まで空気気流中で昇温し、得られた重量変化のプロファイルに基づいて、吸着水が脱離したあとの100℃以上300℃以下の範囲の極小値を基準値とし、300℃以上500℃以下の範囲の極大値を複合酸化物が完全酸化された質量とし、基準値との差から求めるものとする。
【0015】
このリチウム複合酸化物は、例えば、基本組成式がLiax2-zであるものとしてもよい。但し、この基本組成式において、0<a≦2、0<x≦2、0≦z≦0.15であり、MはB、C、N、P、Al、Si、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Ga及びGeからなる群から選ばれる1以上であるものとする。基本組成式におけるLiの含有量aは、リチウムイオンの吸蔵放出により変動するものであり、任意の値であるが、例えば、充放電を行っていない状態において1≦a≦1.25を満たすものとしてもよい。このリチウム複合酸化物は、元素Mとして、上述したうち少なくとも遷移金属元素(Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu)のうちの1以上を含むものとしてもよく、少なくともMnを含むことが好ましい。この基本組成式において、元素Mの含有量xは、0.8以上を満たすものとしてもよいし、0.85以上を満たすものとしてもよいし、0.90以上としてもよい。また、この含有量xは、0.98以下を満たすものとしてもよいし、0.96以下を満たすものとしてもよいし、0.95以下としてもよい。元素Mは、少なくともMnを含み、Pを更に含んでもよいし、あるいは、元素Mは、少なくともMnを含み、Pを含まないものとしてもよい。元素MにPを含む場合、酸素欠陥がPO4イオンにより低減されているものとしてもよい。このとき、リチウム複合酸化物は、基本組成式Liax1Mnx22-zで表され、0<a<2、0<x1≦0.09、0<x2<1、0≦z≦0.15を満たすものとしてもよい。このリチウム複合酸化物において、Pの含有量x1は、0.02≦x≦0.08を満たすことが好ましく、0.03≦x≦0.08を満たすことがより好ましい。また、元素Mの含有量x2は、0.65≦y<1を満たすことが好ましく、0.7≦y≦095を満たすことがより好ましい。また、酸素欠陥zは、より少ないことが好ましく、z≦0.10を満たすことが好ましく、z≦0.05以下を満たすことがより好ましく、z≦0.03以下を満たすことが更に好ましい。このリチウム複合酸化物は、酸素の一部が元素Aで置換されているものとしてもよい。元素Aとしては、例えば、ハロゲン元素が挙げられ、そのうちFが好ましい。元素AとしてFを含む場合、Fの含有量zは、0<z<0.5を満たすことが好ましく、0.3≦z<0.5を満たすものとしてもよい。
【0016】
(リチウム複合酸化物の製造方法)
本開示のリチウム複合酸化物の製造方法は、蓄電デバイスの電極活物質に用いられる、上述したリチウム複合酸化物の製造方法である。この製造方法は、前駆体を得る前駆体工程と、前駆体を処理する欠陥低減工程と、を含む。なお、材質、配合比や組成などは、上述したリチウム複合酸化物で例示したものを適宜選択することができる。このため、説明の便宜より、その詳細な説明を一部割愛する。
【0017】
(前駆体工程)
前駆体工程では、斜方晶のリチウム複合酸化物原料を混合粉砕することによってリチウムと元素Mとを含み無秩序岩塩構造を示す前駆体を得る処理を行う。前駆体は、酸素欠陥の低減を行う前の無秩序岩塩構造を示すリチウム複合酸化物であるものとしてもよい。この工程では、元素M(但し、MはAl、Si、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Ga及びGeのうち1以上)を含み、XRDスペクトルが斜方晶であるリチウム複合酸化物原料を用いる。原料としては、LiMO2で表される化合物を用いることが好ましく、LiMnO2を用いることがより好ましい。前駆体のリチウム複合酸化物は、例えば、基本組成式がLiax2-zであるものとしてもよい。あるいは、前駆体は、基本組成式がLiax1Mnx22-zで表されるものとしてもよい。この基本組成式の係数a,x,zは、上述のリチウム複合酸化物で説明した範囲を適宜採用することができる。また、この基本組成式の元素Mは、上述のリチウム複合酸化物で説明したものを適宜採用することができる。
【0018】
また、この工程では、原料をメカノケミカル法で混合粉砕することが好ましい。混合粉砕処理では、2時間以上40時間以下の範囲で粉砕するものとしてもよい。粉砕は、例えば、ボールミルや遊星ボールミルなどで行うことができ、特に遊星ボールミルで行うことが好ましい。遊星ボールミルにおいて、その回転数は、原料を収容する容積に応じて適宜設定すればよいが、例えば、400rpm以上1000rpm以下の範囲が好ましく、500rpm以上800rpm以下の範囲がより好ましく、550rpm以上650rpm以下の範囲がより好ましい。混合粉砕処理に先立って、斜方晶のリチウム複合酸化物を作製する原料作製処理を行ってもよい。この原料作製処理では、斜方晶のリチウム複合酸化物を焼成条件を調整しつつ作製する。この原料作製処理では、斜方晶のLiMnO2を作製するものとしてもよい。原料作製処理では、まず、800℃以上1100℃以下、6時間以上15時間以下の範囲で焼成することにより斜方晶のLi2MnO3を得る。続いて、Li2MnO3とMnOとを等モルで配合し、不活性雰囲気中(例えばAr中)、900℃以上1100℃以下の範囲、6時間以上24時間以下の範囲で焼成することにより斜方晶のLiMnO2を得ることができる。
【0019】
(欠陥低減工程)
この工程では、作製後のリチウム複合酸化物の酸素欠陥率が5質量%以下となるように前駆体を処理する。酸素欠陥率は、作製後のリチウム複合酸化物に対して熱重量示差熱分析(TG-DTA)を行い空気雰囲気下で昇温した際の500℃以下の範囲での重量データの極値の増減から求められるものである。この酸素欠陥率は、より少ないことが好ましい。この欠陥低減工程では、前駆体を酸化雰囲気下において250℃以上500℃以下で加熱する熱処理を行うものとしてもよい。この処理では、他の不純元素を配合することなく、酸素欠陥を低減することができ、好ましい。また、この熱処理では、無秩序岩塩構造からスピネル構造への移行がより少ない条件や、より結晶化の少ない条件で行うことがより好ましい。熱処理では、前駆体を酸化することによって、酸素欠陥をより低減することができる。この熱処理は、例えば、酸素雰囲気下で行うことが好ましく、空気雰囲気で行ってもよい。また、この熱処理は、275℃以上や、300℃以上の範囲で行うものとしてもよいし、400℃以下や350℃以下、325℃以下の範囲で行うものとしてもよい。熱処理の処理時間は、10分以上や、20分以上、30分以上としてもよいし、2時間以下、1時間以下、45分以下としてもよい。
【0020】
あるいは、欠陥低減工程では、リン及び酸素を含有する化合物と前駆体とを混合粉砕しこの化合物を前駆体内へ導入する添加処理を行うものとしてもよい。添加処理では、このリン及び酸素を含有する化合物を構造内へ導入することによって、酸素欠陥を低減することができる。この添加処理では、例えば、化合物としてLi3PO4を用いることが好ましい。Li3PO4の添加量は、前駆体の酸素欠陥率に応じて適宜設定するものとすればよく、例えば、Li3PO4を2質量%以上25質量%以下の範囲で前駆体に添加するものとしてもよい。この添加量は、2.5質量%以上がより好ましく、3質量%以上や4質量%以上としてもよい。また、この添加量は、20質量%以下としてもよいし、10質量%以下や7.5質量%以下としてもよい。この添加処理では、メカノケミカル法による混合粉砕を行うことがより好ましい。混合粉砕は、例えば、ボールミルや遊星ボールミルなどで行うことができ、特に遊星ボールミルで行うことが好ましい。遊星ボールミルにおいて、その回転数は、処理材を収容する容積に応じて適宜設定すればよいが、例えば、400rpm以上1000rpm以下の範囲が好ましく、500rpm以上800rpm以下の範囲がより好ましく、550rpm以上650rpm以下の範囲がより好ましい。このような工程を行うことによって、上述した、酸素欠陥率が5質量%以下である正方晶系のリチウム複合酸化物を作製することができる。
【0021】
(蓄電デバイス)
本開示の蓄電デバイスは、上述したリチウム複合酸化物を電極活物質として有する電極と、電極に接触しリチウムイオンを伝導するイオン伝導媒体と、を備えたものである。この蓄電デバイスは、正極活物質を有する正極と、負極活物質を有する負極と、正極と負極との間に介在しリチウムイオンを伝導するイオン伝導媒体とを備えているものとしてもよい。この蓄電デバイスは、上述したリチウム複合酸化物を正極活物質として有するものとしてもよい。また、この蓄電デバイスは、金属リチウムやリチウム合金を負極活物質とするリチウム二次電池や、リチウムイオンを吸蔵放出する負極活物質を有するリチウムイオン二次電池や、イオンを吸着、脱離する負極活物質を有するハイブリッドキャパシタとしてもよい。
【0022】
正極は、正極活物質と導電材と結着材とを混合し、適当な溶剤を加えてペースト状の正極合材としたものを、集電体の表面に塗布乾燥し、必要に応じて電極密度を高めるべく圧縮して形成してもよい。正極に含まれる導電材は、正極の電池性能に悪影響を及ぼさない電子伝導性材料であれば特に限定されず、例えば、天然黒鉛(鱗状黒鉛、鱗片状黒鉛)や人造黒鉛などの黒鉛、アセチレンブラック、カーボンブラック、ケッチェンブラック、カーボンウィスカ、ニードルコークス、炭素繊維、金属(銅、ニッケル、アルミニウム、銀、金など)などの1種又は2種以上を混合したものを用いることができる。これらの中で、導電材としては、電子伝導性及び塗工性の観点より、カーボンブラック及びアセチレンブラックが好ましい。正極に含まれる結着材は、活物質粒子及び導電材粒子を繋ぎ止める役割を果たすものであり、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、フッ素ゴム等の含フッ素樹脂、或いはポリプロピレン、ポリエチレン等の熱可塑性樹脂、エチレンプロピレンジエンモノマー(EPDM)ゴム、スルホン化EPDMゴム、天然ブチルゴム(NBR)等を単独で、あるいは2種以上の混合物として用いることができる。また、水系バインダーであるセルロース系やスチレンブタジエンゴム(SBR)の水分散体等を用いることもできる。正極活物質、導電材、結着材を分散させる溶剤としては、例えばN-メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、酢酸メチル、アクリル酸メチル、ジエチレントリアミン、N,N-ジメチルアミノプロピルアミン、エチレンオキシド、テトラヒドロフランなどの有機溶剤を用いることができる。また、水に分散剤、増粘剤等を加え、SBRなどのラテックスで活物質をスラリー化してもよい。増粘剤としては、例えば、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロースなどの多糖類を単独で、あるいは2種以上の混合物として用いることができる。塗布方法としては、例えば、アプリケータロールなどのローラコーティング、スクリーンコーティング、ドクターブレイド方式、スピンコーティング、バーコータなどが挙げられ、これらのいずれかを用いて任意の厚さ・形状とすることができる。集電体としては、アルミニウム、チタン、ステンレス鋼、ニッケル、鉄、焼成炭素、導電性高分子、導電性ガラスなどのほか、接着性、導電性及び耐酸化性向上の目的で、アルミニウムや銅などの表面をカーボン、ニッケル、チタンや銀などで処理したものを用いることができる。これらについては、表面を酸化処理することも可能である。集電体の形状については、箔状、フィルム状、シート状、ネット状、パンチ又はエキスパンドされたもの、ラス体、多孔質体、発泡体、繊維群の形成体などが挙げられる。集電体の厚さは、例えば1~500μmのものが用いられる。
【0023】
負極は、負極活物質と集電体とを密着させて形成したものとしてもよいし、例えば負極活物質と結着材と必要に応じて導電材とを混合し、適当な溶剤を加えてペースト状の負極材としたものを、集電体の表面に塗布乾燥し、必要に応じて電極密度を高めるべく圧縮して形成してもよい。負極活物質としては、リチウム、リチウム合金、スズ化合物などの無機化合物、リチウムイオンを吸蔵・放出可能な炭素質材料、複数の元素を含む複合酸化物、導電性ポリマーなどが挙げられる。炭素質材料は、例えば、コークス類、ガラス状炭素類、グラファイト類、難黒鉛化性炭素類、熱分解炭素類、炭素繊維などが挙げられる。このうち、人造黒鉛、天然黒鉛などのグラファイト類が、金属リチウムに近い作動電位を有し、高い作動電圧での充放電が可能であり支持塩としてリチウム塩を使用した場合に自己放電を抑え、且つ充電時における不可逆容量を少なくできるため、好ましい。複合酸化物としては、例えば、リチウムチタン複合酸化物やリチウムバナジウム複合酸化物などが挙げられる。負極活物質としては、このうち、炭素質材料が安全性の面から見て好ましい。また、負極に用いられる導電材、結着材、溶剤などは、それぞれ正極で例示したものを用いることができる。負極の集電体には、銅、ニッケル、ステンレス鋼、チタン、アルミニウム、焼成炭素、導電性高分子、導電性ガラス、Al-Cd合金などのほか、接着性、導電性及び耐還元性向上の目的で、例えば銅などの表面をカーボン、ニッケル、チタンや銀などで処理したものも用いることができる。これらについては、表面を酸化処理することも可能である。集電体の形状は、正極と同様のものを用いることができる。
【0024】
イオン伝導媒体は、リチウムを含む支持塩と、非水系の溶媒とを含む非水系電解液としてもよい。非水系電解液の溶媒としては、カーボネート類、エステル類、エーテル類、ニトリル類、フラン類、スルホラン類及びジオキソラン類などが挙げられ、これらを単独又は混合して用いることができる。具体的には、カーボネート類としてエチレンカーボネートやプロピレンカーボネート、ビニレンカーボネート、ブチレンカーボネート、クロロエチレンカーボネートなどの環状カーボネート類や、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチル-n-ブチルカーボネート、メチル-t-ブチルカーボネート、ジ-i-プロピルカーボネート、t-ブチル-i-プロピルカーボネートなどの鎖状カーボネート類、γ-ブチルラクトン、γ-バレロラクトンなどの環状エステル類、ギ酸メチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酪酸メチルなどの鎖状エステル類、ジメトキシエタン、エトキシメトキシエタン、ジエトキシエタンなどのエーテル類、アセトニトリル、ベンゾニトリルなどのニトリル類、テトラヒドロフラン、メチルテトラヒドロフラン、などのフラン類、スルホラン、テトラメチルスルホランなどのスルホラン類、1,3-ジオキソラン、メチルジオキソランなどのジオキソラン類などが挙げられる。このうち、環状カーボネート類と鎖状カーボネート類との組み合わせが好ましい。
【0025】
支持塩は、例えば、LiPF6、LiBF4、LiAsF6、LiCF3SO3、LiN(CF3SO22、LiC(CF3SO23、LiSbF6、LiSiF6、LiAlF4、LiSCN、LiClO4、LiCl、LiF、LiBr、LiI、LiAlCl4などが挙げられる。このうち、LiPF6、LiBF4、LiAsF6、LiClO4などの無機塩、及びLiCF3SO3、LiN(CF3SO22、LiC(CF3SO23などの有機塩からなる群より選ばれる1種又は2種以上の塩を組み合わせて用いることが電気特性の点から見て好ましい。この支持塩は、非水系電解液中の濃度が0.1mol/L以上5mol/L以下であることが好ましく、0.5mol/L以上2mol/L以下であることがより好ましい。支持塩を溶解する濃度が0.1mol/L以上では、十分な電流密度を得ることができ、5mol/L以下では、電解液をより安定させることができる。
【0026】
本開示の蓄電デバイスは、負極と正極との間にセパレータを備えていてもよい。セパレータとしては、蓄電デバイスの使用範囲に耐えうる組成であれば特に限定されないが、例えば、ポリプロピレン製不織布やポリフェニレンスルフィド製不織布などの高分子不織布、ポリエチレンやポリプロピレンなどのオレフィン系樹脂の薄い微多孔膜が挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、複数を混合して用いてもよい。
【0027】
本開示の蓄電デバイスは、20℃の温度環境下、リチウム基準電位で4.8~1.5Vの電位範囲、20mA/gの電流値で充放電測定を行ったときに、正極の初期放電容量が300mAh/gよりも大きいことが好ましい。この初期放電容量は、より大きいことが好ましく、例えば、310mAh/g以上であることが好ましく、320mAh/g以上がより好ましく、330mAh/g以上が更に好ましく、340mAh/g以上が最も好ましい。この初期放電容量は、酸素欠陥率や、元素Mの含有量xなどに依存して調整することができる。また、この蓄電デバイスは、同様の充放電測定を行ったときに、10サイクル目の放電容量が200mAh/g以上であることが好ましい。この10サイクル目の放電容量は、より大きいことが好ましく、例えば、250mAh/g以上であることが好ましく、270mAh/g以上であることがより好ましく、300mAh/g以上であることがさらに好ましい。
【0028】
本開示の蓄電デバイスの形状は、特に限定されないが、例えばコイン型、ボタン型、シート型、積層型、円筒型、偏平型、角型などが挙げられる。また、こうした蓄電デバイスを複数直列に接続して電気自動車等に用いる大型のものなどに適用してもよい。図1は、本実施形態の蓄電デバイス20の一例を示す模式図である。この蓄電デバイス20は、集電体21に正極合材22を形成した正極シート23と、集電体24の表面に負極合材25を形成した負極シート26と、正極シート23と負極シート26との間に設けられたセパレータ28と、正極シート23と負極シート26との間を満たす非水系電解液29と、を備えている。この蓄電デバイス20では、正極シート23と負極シート26との間にセパレータ28を挟み、これらを捲回して円筒ケース32に挿入し、正極シート23に接続された正極端子34と負極シート26に接続された負極端子36とを配設して形成されている。正極合材22には、上述した酸素欠陥率が5質量%以下のリチウム複合酸化物が正極活物質として含まれている。
【0029】
以上詳述した本実施形態のリチウム複合酸化物及びその製造方法、蓄電デバイスでは、放電容量より高めることができる。このような効果が得られる理由は、以下のように推察される。例えば、無秩序岩塩型のリチウム複合酸化物は、これまで実用されてきた層状型正極とは異なり、Liが3次元的に泳動可能であり、より多くのLiイオンを挿入脱離可能となる可能性がある。一方、無秩序岩塩型のリチウム複合酸化物は、遊星型ボールミルなどで粉砕されて合成されることから、酸素欠陥が生じやすい。本開示では、立方晶をベースとする無秩序岩塩型リチウム複合酸化物の酸素欠陥の低減によって、隣接するMnの電子状態を理想状態とし、十分に酸化還元がされるため、放電容量がより向上するものと推察される。また、添加処理によるリチウム複合酸化物の製造方法では、混合粉砕により無秩序岩塩型のリチウム複合酸化物を作製したのちに、リン及び酸素を含む化合物を添加して更に混合粉砕するため、リン及び酸素を含む化合物を添加した状態で無秩序岩塩型のリチウム複合酸化物を作製するのに比して、十分に酸素欠陥を低減することができる。
【0030】
なお、本開示は上述した実施形態に何ら限定されることはなく、本開示の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
【0031】
例えば、上述した製造方法の欠陥低減工程において、原料としてハロゲン元素である元素Aを含む化合物をさらに含むものとしてもよい。A源としては、LiF、LiCl、LiBr、LiI、Li2Sなどが挙げられ、これらのうちLiFが好ましい。
【0032】
本開示は、以下の[1]~[10]のいずれかに示すものとしてもよい。
[1] 蓄電デバイスの電極活物質に用いられるリチウム複合酸化物であって、
リチウムと元素Mとを含み、立方晶の結晶構造を有し、
熱重量示差熱分析(TG-DTA)により空気雰囲気下で昇温した際の500℃以下の範囲での重量データの極値の増減から求められる酸素欠陥率が5質量%以下である、
リチウム複合酸化物。
[2] 前記酸素欠陥率が1質量%以下である、[1]に記載のリチウム複合酸化物。
[3] 基本組成式がLiax2(但し、0<a≦2、0<x≦2であり、MはB、C、N、P、Al、Si、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Ga及びGeからなる群から選ばれる1以上である)、[1]又は[2]に記載のリチウム複合酸化物。
[4] 0.8≦x≦1.0である、[3]に記載のリチウム複合酸化物。
[5] 前記元素Mは、少なくともMnを含み、Pを更に含んでもよい、[1]~[4]のいずれか1つに記載のリチウム複合酸化物。
[6] 前記元素Mは、少なくともMnを含み、Pを含まない、[1]~[4]のいずれか1つに記載のリチウム複合酸化物。
[7] [1]~[6]のいずれか1つに記載のリチウム複合酸化物を電極活物質として有する電極と、
前記電極に接触しリチウムイオンを伝導するイオン伝導媒体と、
を備えた蓄電デバイス。
[8] 蓄電デバイスの電極活物質に用いられるリチウム複合酸化物の製造方法であって、
斜方晶のリチウム複合酸化物原料を混合粉砕することによってリチウムと元素Mとを含み無秩序岩塩構造を示す前駆体を得る前駆体工程と、
作製後の前記リチウム複合酸化物に対して熱重量示差熱分析(TG-DTA)を行い空気雰囲気下で昇温した際の500℃以下の範囲での重量データの極値の増減から求められる酸素欠陥率が5質量%以下となるように前記前駆体を処理する欠陥低減工程と、
を含むリチウム複合酸化物の製造方法。
[9] 前記欠陥低減工程では、前記前駆体を酸化雰囲気下において250℃以上500℃以下で加熱する熱処理を行う、[8]に記載のリチウム複合酸化物の製造方法。
[10] 前記欠陥低減工程では、リン及び酸素を含有する化合物と前記前駆体とを混合粉砕し前記化合物を前記前駆体内へ導入する添加処理を行う、[8]に記載のリチウム複合酸化物の製造方法。
【実施例0033】
以下には、本開示のリチウム複合酸化物及び蓄電デバイスを具体的に作製した例を実験例として説明する。なお、実験例1~3、5が実施例に相当し、実験例4が比較例に相当する。
【0034】
[正極活物質の合成]
(実験例1、4)
斜方晶のLiMnO2を、Ar雰囲気下、直径5mmのジルコニアボールと共に500mLのジルコニア製ポットに封入し、遊星ボールミルにて560rpmで28h粉砕して、無秩序岩塩型の相を有する複合酸化物であるLiMnO2を得た(実験例4)。得られた無秩序岩塩型のLiMnO2を管状型焼成炉にて空気雰囲気下で300℃、30分焼成して得られた正方晶系のLiMnO2を実験例1とした。
【0035】
(実験例2、3、5)
原材料として得られた実験例4の無秩序岩塩型のLiMnO2と、Li3PO4とをそれぞれLi3PO4が2.5質量%、5質量%、20質量%となるようにメノウ鉢で混合したのち、ジルコニア製ボールと共にジルコニア製ポットに封入し、遊星型ボールミルで600rpm、36h粉砕処理を行うことで、無秩序岩塩型の相を有する複合酸化物を得て、それぞれ実験例5、2、3とした。
【0036】
[X線回折(XRD)]
得られた正極活物質を、ガラス製試料板に平らに成形し、X線回折装置(リガク製、Ultima IV)にて、大気下で測定した。図2は、実験例1~5のXRDパターンである。また、XRDによる相分類を表1にまとめた。
【0037】
[誘導結合プラズマ発光分光分析(ICP-OES)]
実験例1~5について、誘導結合プラズマ発光分光分析(ICP-OES,日立ハイテクサイエンス製PS3520UVDDIIII)により、複合酸化物の組成を求めた。実験例1~5の複合酸化物の成分をICPで分析し、酸素欠陥を考慮しない組成式を求めた。
【0038】
[熱量示差熱分析(TG-DTA)]
TG-DTA測定は正極活物質の酸素欠陥率を定量化するためにリガク製の8320シリーズにて行った。参照試料は、Pt製パンに13mgのAl23を載せた試料を用いた。測定試料13mgをPt製パンに量り取り、走査速度10℃/分で1000℃まで、空気気流中で昇温した。このTG-DTA測定結果である重量変化のプロファイルに基づいて、吸着水が脱離したあとの100℃以上300℃以下の範囲の重量データの極小値を基準値とし、300℃以上500℃以下の範囲の極大値を複合酸化物が完全酸化された質量とし、基準値との差を求めて、酸素欠陥率を求めた。図3は、実験例4のTG-DTA測定結果である。図4は、実験例1のTG-DTA測定結果である。
【0039】
[ハーフセルの作製]
実験例1~5のいずれかの複合酸化物を70質量%、ケッチェンブラック(三菱化学製、ECP-600)を25質量%、ポリテトラフルオロエチレン(ダイキン工業製、F-104)を5質量%、の配合比で混合し、ミキサーで粉砕し、乾式合材を作成した。得られた乾式合材を直径10mmのペレットとし、Alエキスパンドメタルに載せてプレスし、正極とした。乾式合材の目付量は12~18mg/cm2の範囲内となるように調整した。金属Liを負極とし、両電極の間に、セパレータ(東燃化学製、E20MMS)及び電解液を介在させて、ハーフセルを作製した。電解液は、エチレンカーボネート(EC)を30体積%、ジメチルカーボネート(DMC)を40体積%、エチルメチルカーボネート(EMC)を30体積%含む混合溶媒にLiPF6を1Mの濃度で溶解させたものとした。
【0040】
[充放電試験]
得られたハーフセルを用い、4.8~1.5Vvs.Li+/Liの電位範囲で、20mA/gの電流値で、定電流充放電測定を10サイクル行った。測定は、20℃の温度環境下で行った。図5は、実験例1~5の初回放電曲線であり、図5A~5Eがそれぞれ実験例1~5の放電曲線である。なお、電流値及び容量は正極活物質重量当たりの値とした。
【0041】
[結果と考察]
実験例1~5の複合酸化物(Liax2)のM元素種と変数x、ICP-OESで算出した酸素欠陥率を考慮しない組成式、XRDによる相分類、結晶子径(nm)、TG-DTAから得られた酸素欠陥率(質量%)、初回放電容量(mAh/g)を表1にまとめた。図2に示すXRD測定では、実験例1は立方晶のスピネル構造に由来するパターンを示し、その他の材料はすべて立方晶の無秩序岩塩型構造に由来するXRDパターンを示した。合成した複合酸化物は、すべて立方晶に由来する構造を有しており、格子状に存在する陰イオンサイトに酸素と酸素欠陥サイトが存在すると考えられた。図3、4に示す熱量示差熱分析(TG-DTA)測定にて、陰イオンサイト全体に対する酸素欠陥サイトの割合(酸素欠陥率)を見積もった。未処理である実験例4では、200℃以下での吸着水の脱離、500℃以下での酸化反応、1000℃以下での熱分解に由来する重量変化が捉えられた。吸着物の脱離後から、酸化反応の終了までの重量増加が複合酸化物に存在する酸素欠陥への酸素導入(酸化)であると考えられるため、この量から酸素欠陥率を算出した。
【0042】
ICP-OES分析にて求められた正極の組成をLiax2であるとすると、酸素欠陥率を考慮した組成はLiaαMxαO2αとなり(αは変数)、TG-DTA分析での空気気流下の昇温で以下の式(1)の反応が起こると推察される。この反応前後の重量がTG-DTAから求められた重量であると仮定すると、αは以下の式(2)で見積もられる。ただし、Wbef、WafはそれぞれTG-DTA分析での酸化前後の重量、MはICPで見積もられた正極の組成式、MOは酸素の原子量(15.999)である。このαを用いて、酸素欠陥率は以下の式(3)で求めた。図3に示すTG-DTA測定の結果から、実験例4の酸素欠陥率は9.1質量%であると見積もられた。一方、図4に示す実験例1の酸素欠陥率は、0.1質量%であった。実験例1は、実験例4の正極材料を300℃で空気気流下で焼成した粉末であるので、酸化によって酸素欠陥が消失したと考えられる。同様に、実験例2,3,5の酸素欠陥率を調べたところ、それぞれ0.6質量%、0.3質量%、3.9質量%であった。この結果より、立方晶を示す複合酸化物において、熱処理及びリン酸の添加によって、酸素欠陥率をより低減できることがわかった。
LiaαMxαO2α+(1-α)O2 → LiaαMxαO2 …式(1)
α=(1-Waf/Wbef)×M/2×MO+1 …式(2)
酸素欠陥率(質量%)=(1-α)×100 …式(3)
【0043】
図5に示すように、ハーフセルでの定電流充放電試験結果では、酸素欠陥率が9.1質量%であった実験例4の初回放電容量は227mAh/gであった。一方、酸素欠陥率が3.9質量%であった実験例5の初回放電容量は、310mAh/gであり、酸素欠陥率を低減した複合酸化物では、放電容量をより向上させることがわかった。更に、酸素欠陥率が1質量%未満であった実験例1~3では、それぞれ322mAh/g、346mAh/g、323mAh/gの高い放電容量を示した。
【0044】
図6は、実験例4の複合酸化物の推定結晶構造を示す模式図である。図7は、酸素欠陥を補う手法の模式図であり、熱処理による推定結晶構造(実験例1)及びリン酸添加処理による推定結晶構造(実験例2)である。実験例4は、立方晶に帰属される構造を有し、陽イオンサイトにはLiとMnと陽イオン空サイトがランダムに配置しており、陰イオンサイトには酸素と酸素欠陥サイトがランダムに存在している。実験例4では、TG-DTA測定による分析から酸素欠陥率が9.1質量%であると見積もられた。このように酸素欠陥が多く存在すると、隣接するMnの電子状態が理想状態から変化し、十分に酸化還元がされなくなり、その結果、取り出せる充放電が減少するものと推察された。特に、無秩序岩塩型構造を有する複合酸化物では、酸素欠陥が存在しやすいため、容量が不十分となるものと推察された。
【0045】
一方、図7に示すように、熱処理により酸素欠陥率を0.1%まで低減させた実験例1の複合酸化物では、ほとんどのMnがOと結合を生成出来ており、MnおよびOの酸化還元に伴うLiの脱挿入で高容量を示すことが可能となるものと推察された。また、実験例2、3は、実験例4の複合酸化物にLi3PO4を導入した材料であり、図7に示すようなスキームで酸素欠陥率が減少するものと推察された。この実験例2、3のように、実験例1のような空気気流下での熱処理の他に、リン酸(Li3PO4)を格子内に導入することによって酸素欠陥率を減少させることが可能となると推察された。なお、実験例5の条件では、Li3PO4の導入量が少ないため、酸素欠陥が3.9%と低減率は少ないが、放電容量が310mAh/gまでに向上した。
【0046】
【表1】
【0047】
なお、本開示は上述した実施例に何ら限定されることはなく、本開示の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本明細書で開示したリチウム複合酸化物、蓄電デバイス及びリチウム複合酸化物の製造方法は、二次電池の技術分野に利用可能である。
【符号の説明】
【0049】
20 蓄電デバイス、21 集電体、22 正極合材、23 正極シート、24 集電体、25 負極合材、26 負極シート、28 セパレータ、29 非水系電解液、32 円筒ケース、34 正極端子、36 負極端子。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7