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  • 特開-合成皮革 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024117550
(43)【公開日】2024-08-29
(54)【発明の名称】合成皮革
(51)【国際特許分類】
   D06N 3/00 20060101AFI20240822BHJP
   B32B 27/12 20060101ALI20240822BHJP
【FI】
D06N3/00
B32B27/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023023694
(22)【出願日】2023-02-17
(71)【出願人】
【識別番号】000184687
【氏名又は名称】小松マテーレ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109210
【弁理士】
【氏名又は名称】新居 広守
(74)【代理人】
【識別番号】100131417
【弁理士】
【氏名又は名称】道坂 伸一
(72)【発明者】
【氏名】上村 卓実
(72)【発明者】
【氏名】澤田 行二
【テーマコード(参考)】
4F055
4F100
【Fターム(参考)】
4F055AA01
4F055BA12
4F055BA13
4F055CA18
4F055DA13
4F055EA04
4F055EA22
4F055FA20
4F055FA21
4F055FA22
4F055GA11
4F055GA32
4F055GA33
4F100AJ00B
4F100AJ00D
4F100AJ02B
4F100AK01C
4F100AK41A
4F100AK45C
4F100AK51B
4F100AK51C
4F100BA03
4F100BA04
4F100BA07
4F100CA13B
4F100CA13D
4F100CB00B
4F100DG11A
4F100DG12A
4F100EH46
4F100EJ42
4F100GB33
4F100GB71
4F100GB72
4F100GB74
4F100GB81
4F100JD04
4F100JN01C
4F100YY00
4F100YY00C
4F100YY00D
(57)【要約】
【課題】天然着色剤によって着色された合成皮革において、各種の高い堅牢度を有する合成皮革を提供する。
【解決手段】基布と、下地層と、透明な樹脂層とがこの順で積層されている合成皮革において、前記下地層中に天然着色剤が含まれる合成皮革が提供される。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基布と、下地層と、透明な樹脂層とがこの順で積層されている合成皮革において、前記下地層中に天然着色剤が含まれる合成皮革。
【請求項2】
前記透明な樹脂層の400nm~780nmの波長域における透過率が40%以上である、請求項1に記載の合成皮革。
【請求項3】
前記透明な樹脂層の波長300nmおよび波長360nmにおける透過率が10%以下である、請求項1に記載の合成皮革。
【請求項4】
JIS L1099(2021)に記載のB-1法(酢酸カリウム法)にて測定した前記合成皮革の透湿度が2000g/m・24h以下である、請求項1に記載の合成皮革。
【請求項5】
前記透明な樹脂層上に、さらに天然着色剤を含む最表層が積層されている、請求項1に記載の合成皮革。
【請求項6】
前記最表層の厚みが15μm以下である、請求項5に記載の合成皮革。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、天然着色剤によって着色された合成皮革に関する。
【背景技術】
【0002】
合成皮革は、織物、編物、不織布などの基布上に樹脂層を積層したもので、衣類、靴や鞄などの身の回り品、家具、インテリア、車両内装材などに広く用いられている。
【0003】
合成皮革は一般的に、意匠性を向上させるため様々な色に着色されている。従来、合成皮革の着色には、化学合成された染料や顔料などの合成着色剤によって樹脂層を着色したものが用いられている。
【0004】
一方、脱石油化の潮流や、天然由来のやわらかさや深みを好む消費者の要望を受け、天然物の粉末や天然物から抽出した天然色素などの天然着色剤により着色した合成皮革が提案されている(例えば特許文献1)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2021/157351号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一般的に天然着色剤は、摩擦や洗濯による色落ち、光にさらされることによる変退色、窒素酸化物などによる黄変などといった各種堅牢性が合成着色剤と比較して弱い傾向にある。
【0007】
特許文献1では、天然染料の染料抽出液または染料粉末をポリウレタン樹脂に均一に分散した表皮層を用いることにより、摩擦堅牢度の向上や色移りの軽減を図っている。
【0008】
しかし、その他各種堅牢性については考慮されておらず、課題として残っている。
【0009】
本発明は、このような課題を解決するためになされたものであり、天然着色剤によって着色された合成皮革において、各種の高い堅牢度を有する合成皮革を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、以下の本発明の一態様を完成するに至った。
【0011】
(1)本発明にかかる合成皮革は、基布と、下地層と、透明な樹脂層とがこの順で積層されている合成皮革であり、前記下地層中に天然着色剤が含まれる合成皮革である。
【0012】
(2)また、本発明にかかる合成皮革は、前記透明な樹脂層の400nm~780nmの波長域における透過率が40%以上であるとよい。
【0013】
(3)また、本発明にかかる合成皮革は、前記透明な樹脂層の波長300nmおよび波長360nmにおける透過率が10%以下であるとよい。
【0014】
(4)また、本発明にかかる合成皮革は、JIS L1099(2021)に記載のB-1法(酢酸カリウム法)にて測定した前記合成皮革の透湿度が2000g/m・24h以下であるとよい。
【0015】
(5)また、本発明にかかる合成皮革は、前記透明な樹脂層上に、さらに天然着色剤を含む最表層が積層されていてもよい。
【0016】
(6)また、本発明にかかる合成皮革は、前記最表層の厚みが15μm以下であるとよい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、天然着色剤によって着色された合成皮革において、各種の高い堅牢度を有する合成皮革を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】実施例1~4で用いた透明な樹脂層の290nm~800nmの波長域における光透過スペクトルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態について説明する。なお、以下に説明する実施の形態は、いずれも本発明の一具体例を示すものである。また、本発明は、以下の態様のみに限定されるものではなく、本発明の精神と実施の範囲において多くの変形が可能である。
【0020】
本実施の形態にかかる合成皮革は、基布と、下地層と、透明な樹脂層とがこの順で積層されている合成皮革であり、前記下地層中に天然着色剤が含まれる合成皮革である。
【0021】
<基布>
基布を構成する繊維の素材としては、例えば、ポリエステルやナイロン、アクリル、ポリウレタンなどの合成繊維、アセテートなどの半合成繊維、キュプラやビスコースレーヨンなどの再生繊維、綿や麻、絹、羊毛などの天然繊維、あるいは、これらの素材の混繊、混紡、交織または交編品を用いることができ、特に限定されるものではない。また、これらの原料は、天然物を原料にして合成されたバイオマスマテリアルであってもよいし、ケミカルリサイクルやマテリアルリサイクルなどで再資源化されたものであってもよい。
【0022】
また、基布を構成する糸に用いられる繊維は、長繊維および短繊維のいずれであってもよい。また、この繊維を用いた糸は、生糸、撚糸、および加工糸のいずれであってもよい。加工糸についても、特に限定されるものではなく、仮撚加工糸(ウーリー加工糸、DTY、改良仮撚加工糸など)、押込加工糸、賦型加工糸、擦過加工糸、タスラン加工糸、糸長差引きそろえ加工糸、複合加工糸、毛羽加工糸、交絡集束糸、交絡混繊糸などを用いることができる。さらに、繊維の断面形状についても、特に限定されるものではなく、丸型、三角、星形、扁平、C型、中空、井形、ドックボーンなどが挙げられる。
【0023】
本実施の形態で用いられる基布は、織物、編物または不織布など、いかなる形態であってもよく、特に限定されない。さらに、織物であれば、平織や綾織、朱子織などであってもよいし、編物であれば、天竺編みやスムース編み、トリコット編みなどであってもよいし、不織布であれば、ケミカルボンド不織布やニードルパンチ不織布、スパンボンド不織布、メルトブローン不織布などであってもよく、組織や種類についても特に限定されない。
【0024】
また、これらの基布は、あらかじめ着色されていてもよいし、着色されていなくてもよい。基布をあらかじめ着色する場合には、分散染料、カチオン染料、酸性染料、直接染料、反応染料、建染染料、硫化染料、または天然物から抽出して得られた染料、あるいは、蛍光増白剤、または、顔料などを用いて着色することができる。また、酸性染料を用いてナイロンを染色した場合に実施される合成タンニン等を用いてのフィックス処理など、通常着色時に行われている各種処理を行ってもよい。なお、基布を着色するために用いられる材料は、これらのものに特に限定されるものではなく、各繊維布帛の素材に合わせて適切なものを選択すればよい。また、着色方法は、原着、浸染、または、捺染などの方法があり、特に限定されるものではない。
【0025】
また、これらの基布には、所期の目的を逸脱しない限りにおいて、撥水加工、難燃加工、制電加工、抗菌防臭加工、制菌加工、紫外線遮蔽加工、赤外線吸収加工、耐光向上加工、吸水加工、または、吸湿発熱加工などが施されていてもよい。
【0026】
<下地層>
本実施の形態にかかる合成皮革においては、前記基布に、天然着色剤を含む下地層が積層されている。下地層は、樹脂と、樹脂中に溶解または分散している天然着色剤とからなる。
【0027】
下地層を構成する樹脂の素材としては、例えば、ポリエチレンやアクリル樹脂、イソプレンゴムなどのビニル化合物の重合体全般、ポリエチレンテレフタレートをはじめとするポリエステル樹脂、トリアセチルセルロースをはじめとするセルロース系樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリジメチルシロキサンをはじめとするシリコーン樹脂などが挙げられ、これらの共重合体や混合物であってもよい。
【0028】
下地層の厚みは、5μm以上が好ましく、10μm以上がより好ましい。また、下地層の厚みは、60μm以下が好ましく、40μm以下がより好ましい。下地層の厚みが5μm以上であれば、一般的に発色が弱い天然着色剤を用いる本実施の形態においても、所望の色彩を合成皮革に与えやすい。また、下地層の厚みが60μm以下であれば、風合いが柔らかな合成皮革が得られやすい。
【0029】
下地層に添加される天然着色剤の原料としては、植物の葉、茎、樹皮、根、花、果実、果皮、果肉など、および昆虫や昆虫の分泌物などが挙げられる。天然着色剤としては、前記原料の粉末や、粉末を樹脂中に分散させるための展色剤で処理した顔料の形態であってもよく、前記原料から抽出やろ過して得られる液状物、およびその液状物を乾燥して得られる染料の形態であってもよい。色素が樹脂中に溶解して均一になる染料を用いるよりも、色素が樹脂中に溶解せず分散している顔料を用いた方が、天然物による表情感を表現しやすいため、天然着色剤としては顔料の形態で用いることが好ましい。
【0030】
下地層には、本発明の目的を逸脱しない範囲で、合成着色剤、重合開始剤や架橋剤などの硬化剤、制電剤、抗菌剤、紫外線吸収剤、赤外線吸収剤、消臭剤、酸化防止剤、界面活性剤、難燃剤、撥水剤、無機粒子や有機粒子などの充填剤等が含まれていてもよい。
【0031】
下地層は、コーティングなどで基布上に直接積層してもよいし、別に準備しておいた離型基材上に下地層を製膜した後にその下地層を基布に貼り合わせて離型基材を剥離することで下地層を基布に積層してもよく、公知の方法で積層すればよい。例えば、直接積層する場合には、コーティング後に加熱して溶剤を揮発、乾燥させたり、樹脂中の硬化剤を熱や活性エネルギー線で活性化させ樹脂を硬化させたり、熱流動する樹脂を積層後に冷却したり、溶媒置換(例えば湿式凝固法)などで基布上に析出させたりしてもよい。また、下地層を基布に貼り合わせる場合には、他の接着剤を介して貼り合わせてもよいし、加熱溶融や樹脂の硬化前など自身が粘着性を有する段階で基布と圧着させた後に冷却や養生で硬化させてもよい。後述する透明な樹脂層を貼り合わせにより積層する場合には、下地層に接着剤の役割を担わせてもよい。
【0032】
<透明な樹脂層>
本実施の形態にかかる合成皮革においては、前記下地層に、透明な樹脂層が積層されている。天然着色剤を含む下地層の上に透明な樹脂層が積層されていることにより、下地層の色が明確に視認できるとともに、外部からの各種刺激に弱い天然着色剤を保護し、高い堅牢度を有する合成皮革を得られる。
【0033】
透明な樹脂層の素材としては、可視光領域において透明であれば特に限定されるものではなく、例えば、ポリエチレンやポリノルボルネンをはじめとする(環状)ポリオレフィン樹脂、ポリ塩化ビニルをはじめとするポリハロゲン化オレフィン樹脂、ポリメタクリル酸メチルをはじめとする(メタ)アクリル樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリアクリロニトリル樹脂、ポリメチルペンテン樹脂、ポリエチレンテレフタレートをはじめとするポリエステル樹脂、トリアセチルセルロースをはじめとするセルロース系樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリジメチルシロキサンをはじめとするシリコーン樹脂などが挙げられ、これらの共重合体や混合物であってもよい。
【0034】
透明な樹脂層を構成する樹脂が、分子鎖中に芳香環や共役ジエンなど共役系を形成しやすい原子団を有していると、初期から、または劣化により共役系が成長し、比較的短波長の光を吸収する発色団が形成され黄変してしまうおそれがある。このため、劣化による黄変を抑制するため、透明な樹脂層の素材としては、分子鎖中に芳香環や共役ジエンを含まない樹脂を用いると好ましい。例えば、ポリウレタン樹脂を透明な樹脂層の素材に用いる場合には、「無黄変タイプ」と呼ばれる、脂肪族または脂環式イソシアネートを用いて合成されたポリウレタン樹脂を用いることが好ましい。
【0035】
透明な樹脂層の400nm~780nmの波長域における透過率は、40%以上であることが好ましく、50%以上であるとより好ましく、60%以上であると特に好ましい。透明な樹脂層の透過率が400nm~780nmの可視光領域の全域にわたって40%以上であることにより、後述する接着剤層に含まれる天然着色剤の色を明確に視認することができ、かつ色相への影響も低く抑えることができる。
【0036】
また、透明な樹脂層の波長300nmおよび波長360nmの各々における透過率は、10%以下であることが好ましく、5%以下がより好ましく、1%以下が特に好ましい。透明な樹脂層の波長300nmおよび波長360nmにおける透過率が10%以下であることにより、透明な樹脂層を積層された下地層に到達する紫外線を低減することができる。これにより、天然着色剤の劣化の原因となる紫外線の照射が抑制されるので、天然着色剤を含む下地層の変退色を抑制できる。したがって、合成皮革の耐光堅牢度を向上させることができる。
【0037】
透明な樹脂層の波長300nmおよび波長360nmにおける透過率を下げる具体的な方法として、元来紫外線(紫外線波長領域の光)を吸収する樹脂を用いて樹脂層を形成するか、樹脂層に紫外線吸収剤を添加すればよい。元来紫外線を吸収する樹脂は、同時に可視光(可視光領域の光)のうち比較的短波長側の光を吸収しやすい性質のものが多いため、紫外線吸収剤を添加することによって紫外線を吸収させると好ましい。紫外線吸収剤としては、可視光の吸収が弱く、かつ紫外線の吸収が強い化合物であれば特に限定されず、例えば、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系、トリアジン系、サリチル酸などの芳香族カルボン酸のエステル、および桂皮酸のエステルなどが挙げられる。
【0038】
透明な樹脂層には、その他にも、本発明の目的を逸脱しない範囲で、制電剤、抗菌剤、赤外線吸収剤、消臭剤、酸化防止剤、界面活性剤、難燃剤、撥水剤、無機粒子や有機粒子などの充填剤等が含まれていてもよい。
【0039】
透明な樹脂層は、基布に対する下地層と同様にして、下地層に積層すればよい。なお、透明な樹脂層と下地層とを貼り合わせによって積層する場合には、離型基材上に透明な樹脂層を製膜し、さらに透明な樹脂層に接着剤でもある下地層を積層した後、前記下地層の面を基布に貼り合わせて圧着させた後に養生する方法でもよい。
【0040】
透明な樹脂層の厚みは、5μm以上が好ましく、10μm以上がより好ましい。また、透明な樹脂層の厚みは、40μm以下が好ましく、30μm以下がより好ましい。透明な樹脂層の厚みが5μm以上であれば、耐摩耗性が高く、洗濯による退色が発生しにくい合成皮革が得られやすい。また、透明な樹脂層の厚みが40μm以下であれば、風合いが柔らかな合成皮革が得られやすい。
【0041】
本実施の形態にかかる合成皮革は、JIS L1099(2021)に記載のB-1法(酢酸カリウム法)にて測定した合成皮革の透湿度が2000g/m・24h以下であることが好ましく、1500g/m・24h以下がより好ましい。前記透湿度が2000g/m・24h以下であると、下地層へ水が浸透しにくくなり、洗濯堅牢度を向上させられる。
【0042】
<最表層>
本実施の形態にかかる合成皮革は、前記透明な樹脂層上に、さらに天然着色剤を含む最表層が積層されていてもよい。天然着色剤を含む最表層が透明な樹脂層に積層されていることにより、合成皮革を使用している過程において、最表層中の天然着色剤が徐々に変退色していきながら下地層の色が現れてくることとなり、長期的に天然物が色や表情を変化していく様子を楽しめる合成皮革が得られる。
【0043】
最表層は、樹脂によって構成された樹脂層である。最表層を構成する樹脂については、透明な樹脂層と同様のものが用いられる。また、天然着色剤については、下地層と同様のものが用いられる。天然着色剤は、下地層と同じものを用いてもよいし、異なるものを用いてもよい。また、天然着色剤以外の添加剤についても、透明な樹脂層と同様のものが用いられる。
【0044】
最表層の厚みは、15μm以下が好ましく、10μm以下がより好ましい。最表層の厚みが15μm以下であることにより、最表層の変退色による下地層の色の表出が顕著になり、長期的な色や表情の変化を感じやすくなる。
【0045】
最表層は、下地層に対する透明な樹脂層と同様にして、透明な樹脂層に積層すればよい。最表層についても、貼り合わせによって積層する場合には、離型基材上に最表層を製膜し、さらに最表層に接着剤でもある透明な樹脂層を積層した後、前記透明な樹脂層の面を、別途基布上に積層した下地層に貼り合わせてもよいし、離型基材上に最表層、透明な樹脂層の順に製膜し、さらに接着剤でもある下地層を積層した後、前記下地層の面を基布に貼り合わせてもよい。
【0046】
なお、最表層が積層された実施形態においては、合成皮革の前記透湿度が低い場合においても、最表層は水に直接さらされるため、最表層の洗濯堅牢度は向上しない。一方、下地層は最表層で覆われるため、下地層の洗濯堅牢度は高くできる。
【0047】
(実施例)
以下、本実施の形態にかかる合成皮革について、実施例および比較例を挙げて詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。なお、本発明の目的を逸脱しない範囲で変更を施すことは、全て本発明の技術的範囲に含まれる。また、以下の例における各種性能の測定、試験および評価は次の方法で行った。
【0048】
<樹脂層の厚み>
走査型電子顕微鏡(SEMEDX Type H形:(株)日立ハイテク製)を用い、合成皮革の断面を250倍~1000倍にて観察し、樹脂層それぞれ任意の5カ所の厚み測定し、平均値を求め、樹脂層の厚みとした。
【0049】
<樹脂層の透過率>
所定の厚みの樹脂フィルムを離型紙上に製膜して測定用サンプルとした。紫外可視分光光度計(V-650:日本分光(株)製)に150φの積分球ユニットを取り付けた装置を用い、800nmから5nm間隔で290nmまで103点の波長ごとの光透過率を視野角4°で測定した。得られた光透過率スペクトルを図1に示す。図1において、横軸は、波長(nm)であり、縦軸は、透過率(%)である。なお、図1において、波長が400nm~780nm(可視光領域)での透過率の最小値と、波長が360nmおよび300nmでの透過率の値とを、表1に示す。
【0050】
<透湿度>
JIS L1099(2021)に記載のB-1法(酢酸カリウム法)に準じて測定した。なお、接水面は樹脂層面とし、24時間当たりの透湿量に換算した。
【0051】
<着色剤の色再現度>
着色剤そのものと、得られた合成皮革を樹脂層側から見た際の色を目視で見比べ、以下の評価基準にて評価した。
◎:再現されている
○:ほぼ再現されている
×:違う色だと感じる
【0052】
<摩擦堅牢度>
JIS L0849(2013)に記載の摩擦試験機II形(学振形)法に準じて、乾燥試験及び湿潤試験を行い、摩擦堅牢度を判定した。摩擦面は、樹脂層面とした。
【0053】
<窒素酸化物堅牢度>
JIS L0855(2005)に記載の強試験(3サイクル試験)に準じて試験を行い、窒素酸化物堅牢度を判定した。
【0054】
<耐光堅牢度>
JIS L0842(2004)に記載の第3露光法に準じて、3級照射と4級照射の試験をそれぞれ行い、耐光堅牢度を判定した。
【0055】
<洗濯堅牢度>
JIS L0844(2011)に記載のA-1号に準じた洗濯に対する染色堅牢度試験を行い、変退色および汚染を判定した。なお、洗剤として中性洗剤「エマール」(登録商標。花王(株)製)を1.5mL/L使用して試験を行った。また、添付白布は、ポリエステルと綿とを用い、汚染のひどい方にて汚染等級判定を行った。
【0056】
(実施例1)
まず、繊度が83dtexのポリエステル製の糸からなる平織物を準備した。
【0057】
次に、ポリウレタン樹脂系接着剤溶液に、ヘキサメチレンジイソシアネートのトリメチロールプロパンアダクト体の架橋剤と、凍結乾燥後に粉砕して得られたダイショ(紅芋)の塊根の中身(芋の皮をむいた部分)の粉末とを添加し、系が均一になるよう撹拌して下地層となる接着剤を調整した。
【0058】
次に、離型紙上に、黄変タイプのポリカーボネート系ポリウレタン樹脂溶液をバーコーターにて塗布し、その後加熱して溶剤を揮発させることで、離型紙上に透明な樹脂層を製膜した。得られた透明な樹脂層の光透過率スペクトルは、図1の「実施例1」(一点鎖線)で示されている。
【0059】
次に、離型紙上に製膜された透明な樹脂層上に、前記下地層となる接着剤をバーコーターにて塗布し、その後加熱して溶剤を揮発させた。さらに前記接着剤面を前記平織物と重ね合わせ、ホットプレス機にて加熱しながら圧着した。3日間の養生後、前記離型紙を剥離することで、紫色の外観の合成皮革を得た。得られた合成皮革の評価結果を表1に示す。
【0060】
(実施例2)
透明な樹脂層として、前記黄変タイプのポリカーボネート系ポリウレタン樹脂に替えて、無黄変タイプのポリエーテル/ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂を使用した以外は、実施例1と同様にして紫色の外観の合成皮革を得た。得られた透明な樹脂層の光透過率スペクトルを図1の「実施例2」(二点鎖線)で示し、また、得られた合成皮革の評価結果を表1に示す。
【0061】
(実施例3)
透明な樹脂層として、前記黄変タイプのポリカーボネート系ポリウレタン樹脂に替えて、無黄変タイプのポリカーボネート系ポリウレタン樹脂を使用したこと、前記下地層となる接着剤にベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤を添加したこと以外は、実施例1と同様にして紫色の外観の合成皮革を得た。得られた透明な樹脂層の光透過率スペクトルを図1の「実施例3」(破線)で示し、得られた合成皮革の評価結果を表1に示す。
【0062】
(実施例4)
アクリル樹脂溶液に、凍結乾燥後に粉砕して得られたホウレンソウの葉の粉末を添加し、系が均一になるように撹拌して下地層用の樹脂溶液を調整した。
【0063】
次に、実施例1で用いた平織物上に、前記下地層用の樹脂溶液をリバースグラビアコーターにて塗布し、その後加熱して溶剤を揮発させ、基布上に下地層を積層した。
【0064】
次に、前記下地層上に、二液付加型のシリコーン樹脂をリバースグラビアコーターを用いて塗布し、その後加熱してシリコーン樹脂を硬化させて、緑色の外観の合成皮革を得た。別途同じ厚みとなるよう製膜した透明な樹脂層の光透過スペクトルを図1の「実施例4」(実線)で示し、得られた合成皮革の評価結果を表1に示す。
【0065】
(比較例)
前記黄変タイプのポリカーボネート系ポリウレタン樹脂溶液に、前記ダイショの粉末を添加したこと、前記下地層となる接着剤に、前記ダイショの粉末を添加しなかったこと以外は、実施例1と同様にして紫色の外観の合成皮革を得た。得られた合成皮革の評価結果を表1に示す。
【0066】
【表1】
【0067】
表1から、基布と、天然着色剤を含む下地層と、透明な樹脂層とがこの順で積層されている実施例1~4の合成皮革は、表皮層中に天然着色剤を含む比較例の合成皮革よりも、各種の高い堅牢度を有していることがわかる。
【0068】
(実施例5)
実施例3で用いた透明な樹脂層用の無黄変タイプのポリカーボネート系ポリウレタン樹脂溶液に、凍結乾燥後に粉砕して得られたビートの茎および塊根の粉末を添加し、系が均一になるように撹拌して最表層用の樹脂溶液を調整した。
【0069】
次に、実施例3で得られた合成皮革の透明な樹脂層上に、前記最表層用の樹脂溶液をグラビアコーターを用いて塗布し、その後加熱して溶剤を揮発させ、透明な樹脂層上に7μmの最表層を積層し、赤色の外観の合成皮革を得た。
【0070】
得られた直後の合成皮革と、耐光堅牢度3級照射試験後の合成皮革と、耐光堅牢度4級照射試験後の合成皮革との外観を比較すると、この順に赤色から紫色へ変化しており、色の変化を楽しめる合成皮革が得られた。
図1