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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024117554
(43)【公開日】2024-08-29
(54)【発明の名称】新規脱水縮合剤
(51)【国際特許分類】
   C07D 213/61 20060101AFI20240822BHJP
   C07C 271/22 20060101ALI20240822BHJP
   C07C 269/06 20060101ALI20240822BHJP
   C07C 321/14 20060101ALI20240822BHJP
   C07C 319/20 20060101ALI20240822BHJP
   C07C 69/612 20060101ALI20240822BHJP
   C07C 67/08 20060101ALI20240822BHJP
   C07C 233/11 20060101ALI20240822BHJP
   C07C 231/02 20060101ALI20240822BHJP
【FI】
C07D213/61
C07C271/22
C07C269/06
C07C321/14
C07C319/20
C07C69/612
C07C67/08
C07C233/11
C07C231/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023023701
(22)【出願日】2023-02-17
(71)【出願人】
【識別番号】000113780
【氏名又は名称】マナック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】弁理士法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】福田 賢也
【テーマコード(参考)】
4C055
4H006
【Fターム(参考)】
4C055AA11
4C055BA02
4C055BA39
4C055CA01
4C055CA02
4C055CA06
4C055CA42
4C055CB02
4C055DA01
4C055GA01
4H006AA02
4H006AC48
4H006AC53
4H006BJ50
4H006BV22
4H006KA06
4H006RA16
4H006RB34
4H006TA04
(57)【要約】      (修正有)
【課題】従来品と同等の反応性を持ちつつ、反応後に除去が容易な脱水縮合剤を提供する。
【解決手段】本発明は、一般式(1):

(式中、nは1~4の整数であり、Rは、水素原子、炭素数1~6のアルキル基又は炭素数1~6のアルコキシ基であり、Xはハロゲン原子である)
で表される新規2-ハロピリジニウムスルホナート化合物及びその脱水縮合剤としての用途を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1):
【化1】

(式中、
nは1~4の整数であり、
Rは、水素原子、炭素数1~6のアルキル基又は炭素数1~6のアルコキシ基であり、
Xはハロゲン原子である)
で表される2-ハロピリジニウムスルホナート化合物。
【請求項2】
nが2であり、
Rが水素原子、メチル基又はメトキシ基であり、
Xが塩素原子、臭素原子又はヨウ素原子である、請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
nが3であり、
Rが水素原子、メチル基又はメトキシ基であり、
Xが塩素原子、臭素原子又はヨウ素原子である、請求項1に記載の化合物。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載の化合物からなる脱水縮合剤。
【請求項5】
請求項4に記載の脱水縮合剤の存在下で、アルコール、アミン及びフェノールからなる群より選択される求核化合物とカルボン酸化合物との脱水縮合反応工程を含む、エステル化合物、アミド化合物又はペプチド化合物の製造方法。
【請求項6】
求核化合物が、第1級又は第2級の脂肪族アルコール化合物又は芳香族アルコール化合物である、請求項5記載のエステル化合物の製造方法。
【請求項7】
求核化合物が、アミノ酸誘導体、第1級アミノ基又は第2級アミノ基を有する脂肪族アミン化合物又は芳香族アミン化合物である、請求項5記載のアミド化合物の製造方法。
【請求項8】
カルボン酸化合物が、脂肪族カルボン酸化合物又は芳香族カルボン酸化合物である、請求項6又は7記載のエステル化合物又はアミド化合物の製造方法。
【請求項9】
求核化合物が、C末端が保護基で保護されたアミノ酸であり、カルボン酸化合物が、N末端が保護基で保護されたアミノ酸である、請求項5記載のペプチド化合物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、種々のカルボン酸とアルコール又はアミンからエステル又はアミドを、特に種々のアミノ酸からペプチドを効率よく製造するための、2-ハロピリジニウムスルホナート化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
エステル、アミド等のカルボン酸誘導体は、様々な有機化合物の基本骨格を形成する重要な化合物群であり、中でも、2分子のアミノ酸誘導体から合成されるペプチドは、医薬品や機能性材料の分野において近年特に注目されている。このため、効率的なペプチド合成法の開発は重要な課題である(例えば、非特許文献1参照)。カルボン酸誘導体の製造方法は古くから検討されており、中でも、温和な反応条件下でアミド化合物を製造することが可能な、ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDC)等のカルボジイミド系縮合剤が最も汎用されている。特にEDCは水溶性に優れた縮合剤であり、反応後の後処理が容易という利点を有しているため、工業化においても実用的である。しかし、カルボジイミド系縮合剤は、かぶれ等の問題を引き起こす化合物が多いため、取り扱いに注意が必要であるという問題があった。さらに、光学活性なアミノ酸を基質としたペプチド合成において縮合剤として用いる際、エピメリ化によるジアステレオマーの生成が深刻な問題である。添加剤として1-ヒドロキシベンゾトリアゾール(HOBt)や1-ヒドロキシ-7-アザベンゾトリアゾール(HOAt)を用いることでエピメリ化の抑制に効果があることが知られているが、いずれも爆発性を有していることから工業化には不向きである。
【0003】
一方、向山らによって開発された脱水縮合剤であるN-メチル-2-クロロピリジニウムヨージド(向山試薬)は、塩基性条件が必要になるものの、十分な反応性を備えながらエピメリ化も起こしにくいという特徴を有している(例えば、特許文献1、非特許文献2参照)。有機溶媒への溶解性が低いことが欠点であるが、同様の化合物としてN-エチル-2-ブロモピリジニウムテトラフルオロボレートも開発されており、こちらは溶解性が改善されている(例えば、非特許文献3参照)。しかし、いずれも反応後、副生成物のピリドン誘導体の水溶性が不十分であり、洗浄操作のみで除去することは難しいため、カラムクロマトグラフィー等による精製が必要となることが欠点である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特公昭56-035177号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Fernand A. et al., Chemical Reviews, 2011, 111, 6557-6602
【非特許文献2】Mukaiyama, T. et al., Chemistry Letters, 1975, 4, 1163-1166
【非特許文献3】Mukaiyama, T. et al., Bull. Chem. Soc. Jpn., 1977, 50, 1863-1866
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、本発明の目的は、従来の向山試薬に類する脱水縮合剤の構造を基盤に、十分な活性とエピメリ化の抑制を両立しながら、反応後の除去性に優れた有用な新規化合物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記の課題を解決するべく、検討を行ったところ、N-アルキル-2-ハロピリジニウム塩のアルキル基の末端にスルホネート基を導入した化合物が、脱水縮合剤としての機能を保持しつつ除去性が向上していることを見出した。即ち、本発明は、以下の通りである。
一般式(1):
【化1】

(式中、
nは1~4の整数であり、
Rは、水素原子、炭素数1~6のアルキル基又は炭素数1~6のアルコキシ基であり、
Xはハロゲン原子である)
で表される2-ハロピリジニウムスルホナート化合物及びその脱水縮合剤としての用途に関する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、これまでに開発された向山試薬に類する化合物の中で最も優れた除去性を有する新規な脱水縮合剤が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0009】
<2-ハロピリジニウムスルホナート化合物>
本発明の一つの実施態様は、下記一般式(1):
【化2】

(式中、
nは1~4の整数であり、
Rは、水素原子、炭素数1~6のアルキル基又は炭素数1~6のアルコキシ基であり、
Xはハロゲン原子である)
で表される2-ハロピリジニウムスルホナート化合物である。
【0010】
ここで、用語「炭素数1~6のアルキル基」は、炭素数1~6の、直鎖状又は分岐状の脂肪族飽和炭化水素の一価の基を意味し、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基を例示することができる。
【0011】
用語「炭素数1~6のアルコキシ基」は基R′O-(ここで、R′は、前記炭素数1~6のアルキル基である)を意味し、例えば、メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、イソプロポキシ基、n-ブトキシ基、イソブトキシ基、s-ブトキシ基、t-ブトキシ基、ペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基を例示することができる。
【0012】
用語「ハロゲン原子」又は「ハロ」は、互換可能であり、ヨウ素原子、臭素原子、塩素原子又はフッ素原子を意味する。
【0013】
一般式(1)で表される化合物において、nは、2~4の整数が好ましく、2又は3がより好ましい。また、Rは、水素原子、炭素数1~3のアルキル基又は炭素数1~3のアルコキシ基が好ましく、水素原子、メチル基又はメトキシ基がより好ましい。また、Xは、ヨウ素原子、臭素原子又は塩素原子が好ましい。
【0014】
<2-ハロピリジニウムスルホナート化合物の製造方法>
本発明の2-ハロピリジニウムスルホナート化合物は、例えば、下記一般式(2):
【化3】

(式中、Rは前記と同義である)
で表される化合物と、下記一般式(3):
【化4】

(式中、各記号は前記と同義である)
で表される化合物を反応させることで合成することができる。
【0015】
上記製造方法は、好ましくは、溶媒の存在下で実施される。溶媒としては、例えば、ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素、トリクロロエチレン等のハロゲン化炭化水素類;1,4-ジオキサン、テトラヒドロフラン(THF)、ジエチルエーテル、t-ブチルメチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジメトキシエタン(DME)、ジグライム等のエーテル類;ヘキサン、ベンゼン、トルエン等の炭化水素類;アセトニトリル等のニトリル類;及びそれらの混合溶媒等が挙げられ、中でもTHFが好ましい。
【0016】
上記製造方法における一般式(3)で表される化合物の使用量は、特に限定されないが、一般式(2)で表される化合物1モルに対して、1~2モルの範囲で使用するのが好ましい。
【0017】
上記製造方法における反応温度は、特に限定されないが、20~80℃の範囲が好ましい。また、反応時間は反応温度等の条件によって適宜設定することができる。通常、30分~48時間であることが好ましい。
【0018】
反応終了後、得られた溶液は、晶析、ろ過、分液、抽出、濃縮等の一般的な操作を行うことにより、一般式(1)で表される化合物を単離することができる。さらに、単離した化合物は性質に従い、蒸留、再結晶、クロマトグラフィーなどの一般的な方法により分離、精製してもよい。
【0019】
また、本発明の化合物は、下記一般式(4):
【化5】

(式中、各記号は前記と同義である)
で表される化合物と、下記一般式(5):
【化6】

(式中、mは0~2の整数である)
で表される化合物を反応させることで合成することもできる。
【0020】
上記製造方法は、好ましくは、溶媒の存在下で実施される。溶媒としては、例えば、ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素、トリクロロエチレン等のハロゲン化炭化水素類;1,4-ジオキサン、THF、ジエチルエーテル、t-ブチルメチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、DME、ジグライム等のエーテル類;メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール(IPA)、t-ブチルアルコール、t-アミルアルコール(tAmOH)等のアルコール類;ヘキサン、ベンゼン、トルエン等の炭化水素類;アセトニトリル等のニトリル類;及びそれらの混合溶媒等が挙げられ、中でもイソプロピルアルコール、t-ブチルアルコール、t-アミルアルコールが好ましい。
【0021】
上記製造方法における一般式(5)で表される化合物の使用量は、特に限定されないが、一般式(4)で表される化合物1モルに対して、1~2モルの範囲で使用するのが好ましい。
【0022】
上記製造方法における反応温度は、特に限定されず、使用する溶媒等によって適宜設定することができるが、20~80℃の範囲が好ましい。また、反応時間は反応温度等の条件によって適宜設定することができるが、通常、30分~48時間であることが好ましい。
【0023】
反応終了後、得られた溶液は、晶析、ろ過、分液、抽出、濃縮等の一般的な操作を行うことにより、一般式(1)で表される化合物を単離することができる。さらに、単離した化合物は性質に従い、蒸留、再結晶、クロマトグラフィーなどの一般的な方法により分離、精製してもよい。
【0024】
<2-ハロピリジニウムスルホナート化合物を脱水縮合剤として用いるエステル化合物、アミド化合物又はペプチド化合物の製造方法>
本発明の一般式(1)で表される2-ハロピリジニウムスルホナート化合物は、有機反応における脱水縮合剤として使用できる。すなわち、本発明の別の実施態様は、一般式(1)で表される化合物からなる脱水縮合剤である。
本発明の脱水縮合剤は、カルボキシ基を有する化合物(以下、カルボン酸化合物と称することもある。)と、アルコール、アミン及びフェノールからなる群より選択される求核化合物とから、エステル化合物、アミド化合物又はペプチド化合物を製造する際の脱水縮合剤として好適に使用することができる。すなわち、本発明のさらに別の実施態様は、カルボン酸化合物と求核化合物とを、脱水縮合剤としての本発明の一般式(1)で表される2-ハロピリジニウムスルホナート化合物と共に、好ましくは塩基及び/又は溶媒の存在下で反応させる工程を含む製造方法である。
【0025】
本発明の一般式(1)で表される化合物を脱水縮合剤として用いるエステル化合物、アミド化合物又はペプチド化合物の製造方法において、一般式(1)で表される化合物の種類及びその使用量は特に限定されないが、好適にはカルボン酸1モルに対して通常0.9~1.5モル、好ましくは1.1~1.2モルである。
【0026】
エステル化合物、アミド化合物又はペプチド化合物の製造方法において使用されるカルボン酸化合物としては、カルボキシ基を有する化合物であれば何ら制限なく使用することができる。エステル化合物又はアミノ化合物の製造において使用されるカルボン酸化合物の例としては、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、ブタン酸、ペンタン酸、ヘキサン酸、ヘプタン酸、オクタン酸、ノナン酸、デカン酸、ウンデカン酸等の脂肪族カルボン酸化合物又はその誘導体、安息香酸、o-メチル安息香酸、m-メチル安息香酸、p-メチル安息香酸、o-メトキシ安息香酸、m-メトキシ安息香酸、p-メトキシ安息香酸、3-フェニルプロピオン酸、3-フェニル-2-プロペン酸、2-(4-メトキシフェニル)酢酸等の芳香族カルボン酸化合物又はその誘導体等が挙げられるが、これに限定されない。ペプチド化合物の製造において使用されるカルボン酸化合物の例としては、N末端が保護基で保護されたアミノ酸が用いられる。
【0027】
N末端の保護基としては、アミノ酸のN末端の保護基として慣用されている保護基であって、本発明の製造方法の反応条件下で開裂せず、他の化学的方法により開裂し得る保護基であればよい。そのような保護基は「Protective Groups in Organic Synthesis」(T.W. Greene et al, John Wiley & Sons, Inc.)等の有機合成化学における参考書により、当業者には公知であるが、例えば、t-ブトキシカルボニル基(Boc)、ベンジルオキシカルボニル基(Cbz)、9-フルオレニルメトキシカルボニル(Fmoc)、アセチル基(Ac)、ベンゾイル基(Bz)等が挙げられる。 なお、カルボン酸化合物が他の反応性官能基を有する場合もまた、本発明の製造方法の反応条件下で開裂せず、他の化学的方法により開裂し得る保護基により適切に保護すればよく、そのような保護基もまた当業者には公知である。
【0028】
アミノ酸としては、同一分子内にカルボキシ基とアミノ基(又はイミノ基)を有する化合物であれば、特に限定なく使用することができる。例としては、α-アミノ酸、β-アミノ酸、γ-アミノ酸、修飾アミノ酸等が挙げられる。α-アミノ酸として、例えば、ロイシン、イソロイシン、バリン、リジン、トレオニン、アルギニン、アスパラギン、アスパラギン酸、グルタミン、グルタミン酸、セリン、ヒスチジン、フェニルアラニン、アラニン、グリシン、トリプトファン、チロシン、システイン、メチオニン、プロリン等が挙げられるが、これらに限定されない。また、β-アミノ酸として、β-アラニン等が挙げられるが、これに限定されない。
上記のアミノ酸は、L型及びD型いずれの光学異性体であってもよい。
【0029】
エステル化合物の製造方法において使用されるアルコールとしては、第1級又は第2級の脂肪族又は芳香族アルコール化合物であれば何ら制限なく使用することができる。またフェノールとしては、ヒドロキシ基で置換された芳香族化合物であれば何ら制限なく使用することができる。例としては、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、1-ペンタノール、2-ペンタノール、3-ペンタノール、シクロプロパノール、シクロペンタノール、シクロヘキサノール、シクロヘプタノール等の脂肪族アルコール化合物又はその誘導体、ベンジルアルコール、2-フェニル-1-エタノール、1-フェニル-1-エタノール、3-フェニル-1-プロパノール等の芳香族アルコール化合物又はその誘導体、フェノール、o-クレゾール、m-クレゾール、p-クレゾール、ナフトール、フラボノール等のフェノール化合物及びその誘導体が挙げられるが、これに限定されない。
【0030】
アミド化合物の製造方法において使用されるアミンとしては、第1級アミノ基又は第2級アミノ基を有する脂肪族又は芳香族アミン化合物であれば何ら制限なく使用することができる。例としては、メチルアミン、エチルアミン、n-プロピルアミン、イソプロピルアミン、n-ブチルアミン、イソブチルアミン、sec-ブチルアミン、n-ヘキシルアミン、n-オクチルアミン、2-エチルヘキシルアミン、ラウリルアミン等の脂肪族第1級アミン化合物、ジメチルアミン、ジエチルアミン、メチルエチルアミン、メチルプロピルアミン、ジイソプロピルアミン、ジ-n-プロピルアミン、エチルプロピルアミン、ジ-n-ブチルアミン、ジイソブチルアミン、N-メチルブチルアミン、N-(2-メトキシエチル)メチルアミン、N-(2-メトキシエチル)エチルアミン等の脂肪族第2級アミン化合物、アニリン、ベンジルアミン、o-トルイジン、m-トルイジン、p-トルイジン、o-アニシジン、m-アニシジン、p-アニシジン等の芳香族第1級アミン化合物、ベンジルメチルアミン、ジフェニルアミン、ジベンジルアミン、N-メチルアニリン、N-エチルアニリン、N-エチルトルイジン等の芳香族第2級アミン化合物等が挙げられるが、これに限定されない。ペプチド化合物の製造方法において使用されるアミン化合物としては、C末端が保護基で保護されたアミノ酸が用いられる。アミノ酸の例は、上記と同様である。
【0031】
保護基としては、アミノ酸のC末端の保護基として慣用されている保護基であって、本発明の製造方法の反応条件下で開裂せず、他の化学的方法により開裂し得る保護基であればよい。そのような保護基は、上述のN末端の保護基と同様、当業者には公知であるが、例えば、メチル基、t-ブチル基、アリル基、ベンジル基等が挙げられる。
なお、アルコール、アミン及びフェノールが他の反応性官能基を有する場合もまた、本発明の製造方法の反応条件下で開裂せず、他の化学的方法により開裂し得る保護基により適切に保護すればよく、そのような保護基もまた当業者には公知である。
【0032】
エステル化合物、アミド化合物又はペプチド化合物の製造方法において使用される塩基としては、特に制限はないが、例えば、トリエチルアミン、N,N-ジイソプロピルエチルアミン(DIPEA)、1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]-7-ウンデセン(DBU)、1,5-ジアザビシクロ[4.3.0]-5-ノネン(DBN)、2,6-ルチジン等の有機塩基;水素化ナトリウム等の無機塩基が挙げられ、中でも、N,N-ジイソプロピルエチルアミンが好ましい。
塩基の使用量は、特に限定されないが、カルボン酸化合物1モルに対して通常2~4モル、好ましくは3モルである。
【0033】
溶媒としては、反応に影響を及ぼさない溶媒であれば、何等制限なく用いることができる。溶媒の具体例としては、例えば、テトラヒドロフラン(THF)、1,4-ジオキサン、ジエチルエーテル、t-ブチルメチルエーテル等のエーテル類;酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル等のエステル類;アセトニトリル、プロピオニトリル等のニトリル類;ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素等のハロゲン化炭化水素類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類;クロロベンゼン等のハロゲン化芳香族炭化水素類;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド類;及びそれらの混合溶媒等を挙げることができる。中でも高い反応収率が期待できるという点で、ジクロロメタンが好適に使用される。
【0034】
反応温度は、特に限定されず、使用する溶媒等の反応条件によって適宜設定することができるが、通常0℃~80℃、好ましくは20~40℃である。
【0035】
反応時間は、使用するカルボン酸化合物、アルコール化合物、アミン化合物の種類や、は反応温度等の条件によって適宜設定することができるが、通常0.5~24時間、好ましくは1~3時間である。
【0036】
一般式(1)で表される2-ハロピリジニウムスルホナート化合物を脱水縮合剤として用いるエステル化反応又はアミド化反応の操作手順(反応基質や一般式(1)を添加する順序等)は、特に限定されないが、例えば、4種類の反応試剤(すなわち、一般式(1)で表される化合物、カルボン酸化合物、及び塩基)を溶媒中で混合して反応させるのが好適である。上記4種類の反応試剤の混合方法は特に限定されず、各反応試剤を同時に添加、混合してもよく、また、各反応試剤を順次に反応系に添加、混合してもよいが、操作性及び反応収率の点から、室温下で反応溶媒中に各反応試剤を順次且つ時間をおかずに添加、混合するのが特に好ましい。
【0037】
上記エステル化反応又はアミド化反応により得られるエステル化合物、アミド化合物又はペプチド化合物は、常法に従って反応混合物から単離することができ、再結晶、蒸留、クロマトグラフィーなどの通常の分離手段により容易に精製することができる。
【0038】
本発明の一般式(1)で表される2-ハロピリジニウムスルホナート化合物は、反応後の副生成物の水溶性が極めて高いので、洗浄操作のみで目的物から容易に分離することが可能であるという利点を有する。
【実施例0039】
以下に、本発明を具体的な実施例及び合成例により示すが、本発明は実施例の内容に制限されるものではない。なお、実施例及び合成例で得られた化合物の融点、H-NMR、13C-NMR、LCMS、ジアステレオマー過剰率(de)の測定方法は以下の通りである。
【0040】
融点:融点測定器 B-545型(Buechi製)にて、毎分1℃で140~180℃まで昇温し、目視にて測定を行った。
【0041】
H-NMR:化合物と重クロロホルム(富士フイルム和光純薬株式会社製、クロロホルム-d 0.05%TMS含有)、重DMSO(富士フイルム和光純薬株式会社製、ジメチルスルホキシド-d 0.05%TMS含有)、又は重水(富士フイルム和光純薬株式会社製)とを混合した溶液を調製し、NMR(BRUKER社製、AVANCE-III-300)にて、H-NMR測定を行った。
【0042】
13C-NMR:化合物と重クロロホルム(富士フイルム和光純薬株式会社製、クロロホルム-d 0.05%TMS含有)、重DMSO(富士フイルム和光純薬株式会社製、ジメチルスルホキシド-d 0.05%TMS含有)、又は重水(富士フイルム和光純薬株式会社製)とを混合した溶液を調製し、NMR(BRUKER社製、AVANCE-III-300)にて、13C-NMR測定を行った。
【0043】
LCMS:LCMS-2020(株式会社島津製作所製)を用いて行った。
【0044】
ジアステレオマー過剰率(de):LC-2030(株式会社島津製作所製)を用いて行った。分析条件は化合物ごとに記載する。
【0045】
[合成例1]
2-(2-クロロ-1-ピリジニウム)エタンスルホナート(化合物(1-1))の合成
【化7】
【0046】
2-ヒドロキシピリジン0.951g(10.0mmol)をTHF10mLに溶解させた。室温中で2-クロロエタンスルホニルクロリド1.63g(10.0mmol)を加えた後、24時間加熱還流下で撹拌した。室温に冷却した後、析出物をろ取し、THF、アセトンで洗浄した。得られた固体をジクロロメタン中に分散させ、ジイソプロピルエチルアミン0.646g(5.00mmol)を加えた。撹拌後、速やかにろ過を行い、ジクロロメタンで洗浄した。得られた固体を乾燥させ、化合物(1-1)を0.544g、収率24.5%で得た。
融点:145~146℃(分解)
1H-NMR (300 MHz, DMSO-d6/D2O = 1:1): δ 8.85 (dd, J = 6.0, 1.5 Hz, 1H), 8.41 (td, J = 7.5, 1.5 Hz, 1H), 8.11 (dd, J = 7.5, 1.5 Hz, 1H), 7.88 (ddd, J = 7.5, 6.0, 1.5 Hz, 1H), 4.96 (t, J = 6.3 Hz, 2H), 3.32 (t, J = 6.3 Hz, 2H)
13C-NMR (75 MHz, DMSO-d6/D2O = 1:1): δ 149.57, 149.00, 147.97, 131.39, 127.25, 57.42, 49.66
LCMS:221.9
【0047】
[合成例2]
2-(2-クロロ-5-メチル-1-ピリジニウム)エタンスルホナート(化合物(1-2))の合成
【化8】
【0048】
[合成例1]と同様の方法で化合物(1-2)を収率5.1%で得た。
融点:148~149℃(分解)
1H-NMR (300 MHz, DMSO-d6/D2O = 1:1): δ 8.70 (d, J = 1.5 Hz, 1H), 8.23 (dd, J = 8.7, 1.5 Hz, 1H), 7.96 (d, J = 8.7 Hz, 1H), 4.90 (t, J = 6.6 Hz, 2H), 3.30 (t, J = 6.6 Hz, 2H), 2.38 (s, 3H)
13C-NMR (75 MHz, DMSO-d6/D2O = 1:1): δ 149.58, 148.81, 144.82, 138.96, 130.45, 57.15, 49.73, 18.60
LCMS:236.0
【0049】
[合成例3]
3-(2-ブロモ-1-ピリジニウム)プロパンスルホナート(化合物(1-3))の合成
【化9】
【0050】
2-ブロモピリジン12.6g(80.0mmol)と1,3-プロパンスルトン19.5g(160mmol)をt-アミルアルコール20mLに溶解させ、24時間80℃で撹拌した。室温に冷却した後、析出物をろ取し、イソプロピルアルコール、アセトンで洗浄した。得られた固体をジクロロメタン中に分散させ、ジイソプロピルエチルアミン3.10g(24.0mmol)を加えた。撹拌後、速やかにろ過を行い、ジクロロメタンで洗浄した。得られた固体を乾燥させ、化合物(1-3)を5.08g、収率22.7%で得た。
融点:147~148℃(分解)
1H-NMR (300 MHz, DMSO-d6/D2O = 1:1): δ 8.92 (dd, J = 6.0, 0.6 Hz, 1H), 8.29-8.22 (m, 2H), 7.92 (td, J = 6.0, 3.0 Hz, 1H), 4.79 (t, J = 7.5 Hz, 2H), 2.79 (t, J = 7.5 Hz, 2H), 2.25 (quin, J = 7.5 Hz, 2H)
13C-NMR (75 MHz, DMSO-d6/D2O = 1:1): δ 148.82, 147.63, 139.29, 135.83, 128.35, 62.54, 48.35, 26.08
LCMS:281.9
【0051】
[合成例4]
3-(2-ブロモ-5-メチル-1-ピリジニウム)プロパンスルホナート(化合物(1-4))の合成
【化10】
【0052】
[合成例3]と同様の方法で化合物(1-4)を収率30.5%で得た。
融点:146~147℃(分解)
1H-NMR (300 MHz, DMSO-d6/D2O = 1:1): δ 8.79 (s, 1H), 8.12 (d, J = 8.7 Hz, 1H), 8.08 (dd, J = 8.7, 1.5 Hz, 1H), 4.72 (t, J = 7.5 Hz, 2H), 2.79 (t, J = 7.5 Hz, 2H), 2.36 (s, 3H), 2.23 (quin, J = 7.5 Hz, 2H)
13C-NMR (75 MHz, DMSO-d6/D2O = 1:1): δ 148.43, 148.28, 140.13, 135.69, 134.85, 62.38, 48.44, 26.21, 18.68
LCMS:293.9
【0053】
[合成例5]
3-(2-ブロモ-5-メトキシ-1-ピリジニウム)プロパンスルホナート(化合物(1-5))の合成
【化11】
【0054】
[合成例3]と同様の方法で化合物(1-5)を収率34.3%で得た。
融点:169~170℃(分解)
1H-NMR (300 MHz, DMSO-d6/D2O = 1:1): δ 8.73 (d, J = 3.0 Hz, 1H), 8.11 (d, J = 9.3 Hz, 1H), 7.88 (dd, J = 9.3, 3.0 Hz, 1H), 4.73 (t, J = 7.5 Hz, 2H), 3.88 (s, 3H), 2.80 (t, J = 7.5 Hz, 2H), 2.24 (quin, J = 7.5 Hz, 2H)
13C-NMR (75 MHz, DMSO-d6/D2O = 1:1): δ 159.15, 136.01, 135.62, 133.75, 129.29, 63.00, 58.75, 48.38, 26.18
LCMS:309.9
【0055】
[合成例6]
3-(2-クロロ-1-ピリジニウム)プロパンスルホナート(化合物(1-6))の合成
【化12】
【0056】
[合成例3]と同様の方法で化合物(1-6)を収率13.2%で得た。
融点:147~148℃(分解)
1H-NMR (300 MHz, DMSO-d6/D2O = 1:1): δ 8.87 (dd, J = 6.3, 1.5 Hz, 1H), 8.40 (td, J = 8.1, 1.5 Hz, 1H), 8.11 (dd, J = 8.1, 1.5 Hz, 1H), 7.90 (ddd, 8.1, 6.3, 1.5 Hz, 1H), 4.77 (t, J = 7.5 Hz, 2H), 2.79 (t, J = 7.5 Hz, 2H), 2.25 (quin, J = 7.5 Hz, 2H)
13C-NMR (75 MHz, DMSO-d6/D2O = 1:1): δ 148.59, 148.36, 147.99, 131.73, 127.83, 59.95, 48.40, 25.86
LCMS:236.0
【0057】
[合成例7]
3-(2-クロロ-5-メチル-1-ピリジニウム)プロパンスルホナート(化合物(1-7))の合成
【化13】
【0058】
[合成例3]と同様の方法で化合物(1-7)を収率40.6%で得た。
融点:150~151℃(分解)
1H-NMR (300 MHz, DMSO-d6/D2O = 1:1): δ 8.72 (d, J = 1.5 Hz, 1H), 8.22 (dd, J = 8.1, 1.5 Hz, 1H), 7.96 (d, J = 8.1 Hz, 1H), 4.70 (t, J = 7.5 Hz, 2H), 2.78 (t, J = 7.5 Hz, 2H), 2.38 (s, 3H), 2.23 (quin, J = 7.5 Hz, 2H)
13C-NMR (75 MHz, DMSO-d6/D2O = 1:1): δ 149.25, 147.65, 144.83, 139.56, 130.74, 59.76, 48.45, 25.95, 18.63
LCMS:250.0
【0059】
[合成例8]
3-(2-ヨード-1-ピリジニウム)プロパンスルホナート(化合物(1-8))の合成
【化14】
【0060】
[合成例3]と同様の方法で化合物(1-8)を収率51.1%で得た。
融点:160~161℃(分解)
1H-NMR (300 MHz, DMSO-d6/D2O = 1:1): δ 8.98 (dd, J = 6.0, 1.5 Hz, 1H), 8.51 (dd, J = 7.5, 1.5 Hz, 1H), 7.97 (td, J = 7.5, 1.5 Hz, 1H), 7.90 (ddd, J = 7.5, 6.0, 1.5 Hz, 1H), 4.77 (t, J = 7.5 Hz, 2H), 2.80 (t, J = 7.5 Hz, 2H), 2.24 (quin, J = 7.5 Hz, 2H)
13C-NMR (75 MHz, DMSO-d6/D2O = 1:1): δ 148.60, 145.71, 143.27, 128.89, 117.95, 66.63, 48.38, 26.64
LCMS:327.9
【0061】
上記合成例で得られた化合物を脱水縮合剤として用いる、本発明のペプチド化合物の製造例を以下に示す。
【0062】
[実施例1]
Fmoc-L-Leu-L-Val-OMeの合成
【化15】
【0063】
ジクロロメタン100mLにFmoc-L-Leu-OH 8.84g(25.0mmol)、HCl・H-L-Val-OMe 4.40g(26.3mmol)、ジイソプロピルエチルアミン 10.0g(77.5mmol)を溶解させ、室温で化合物(1-3) 8.40g(30.0mmol)を加えた。室温で3時間撹拌後、10%クエン酸水溶液100mLを注入し、ジクロロメタンで抽出した。その後、有機層を10%クエン酸水溶液100mLで1回、10%炭酸水素ナトリウム水溶液100mLで2回、ブライン100mLで1回洗浄した。得られた有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥させた後、減圧下で溶媒を留去することによって目的のFmoc-L-Leu-L-Val-OMeを11.5g、収率98.8%、de99.8%で得た。
1H-NMR (300 MHz, CDCl3): δ 7.76 (d, J = 7.5 Hz, 2H), 7.58 (d, J = 7.5 Hz, 2H), 7.40 (t, J = 7.5 Hz, 2H), 7.31 (td, J = 7.5, 0.9 Hz, 2H), 6.37 (d, J = 8.4 Hz, 1H), 5.16 (d, J = 8.1 Hz, 1H), 4.53 (dd, J = 8.7, 4.8 Hz, 1H), 4.41 (d, J = 7.2 Hz, 2H), 4.22 (t, J = 7.2 Hz, 2H), 3.73 (s, 3H), 2.20-2.14 (m, 1H), 1.72-1.61 (m, 2H), 0.96 (m, 6H), 0.91 (d, J = 7.2 Hz, 3H), 0.89 (d, J = 7.2 Hz, 3H)
[LC分析条件]
カラム:Kinetex C18(4.6mmΦ×100mm×2.6μm)
カラム温度:40℃
流速:1.0mL/min
検出波長:302nm
A液:HO(0.05%ギ酸)
B液:MeCN(0.05%ギ酸)
グラジエント条件:
0分(B40%)→10分(B40%)→20分(B60%)→30分(B95%)
【0064】
[実施例2~8]
上記実施例1の方法に従って種々のペプチド化合物の合成を行い、得られた結果を表1に示す。
【表1】
【0065】
実施例2~8で得られたペプチド化合物のH-NMRデータ及びLC分析条件を以下に示す。
【0066】
実施例2:Fmoc-L-Phg-L-Val-OMe
1H-NMR (300 MHz, CDCl3): δ 7.75 (d, J = 7.5 Hz, 2H), 7.57 (d, J = 7.5 Hz, 2H), 7.41-7.28 (m, 9H), 6.11 (s, 2H), 5.30 (s, 1H), 4.50 (dd, J = 8.4, 4.8 Hz, 1H), 4.37 (d, J = 6.9 Hz, 2H), 4.20 (t, J = 6.9 Hz, 1H), 3.64 (s, 3H), 2.20-2.11 (m, 1H), 0.94 (d, J = 6.9 Hz, 3H), 0.88 (d, J = 6.9 Hz, 3H)
[LC分析条件]
カラム:Kinetex C18(4.6mmΦ×100mm×2.6μm)
カラム温度:40℃
流速:0.8mL/min
検出波長:302nm
A液:HO(0.05%ギ酸)
B液:MeCN(0.05%ギ酸)
グラジエント条件:
0分(B40%)→30分(B70%)
【0067】
実施例6:Fmoc-L-Ser-L-Val-OMe
1H-NMR (300 MHz, CDCl3): δ 7.77 (d, J = 7.5 Hz, 2H), 7.58 (d, J = 7.5 Hz, 2H), 7.41 (t, J = 7.5 Hz, 2H), 7.31 (td, J = 7.5, 1.2 Hz, 2H), 6.91 (d, J = 8.7 Hz, 1H), 5.85 (d, J = 7.2 Hz, 1H), 4.51 (dd, J = 8.7, 4.8 Hz, 1H), 4.42 (d, J = 7.2 Hz, 2H), 4.29 (m, 1H), 4.22 (t, J = 6.9 Hz, 1H), 4.12-4.08 (m, 1H), 3.75 (s, 3H), 3.69-3.63 (m, 1H), 3.16 (s, 1H), 2.26 (m, 1H), 0.93 (d, J = 6.9 Hz, 3H), 0.89 (d, J = 6.9 Hz, 3H)
[LC分析条件]
カラム:Kinetex C18(4.6mmΦ×100mm×2.6μm)
カラム温度:40℃
流速:0.6mL/min
検出波長:302nm
A液:HO(0.05%ギ酸)
B液:MeOH(0.05%ギ酸)
グラジエント条件:
0分(B50%)→30分(B80%)
【0068】
実施例7:Fmoc-L-Met-L-Val-OMe
1H-NMR (300 MHz, CDCl3): δ 7.76 (d, J = 7.5 Hz, 2H), 7.59 (d, J = 7.5 Hz, 2H), 7.40 (t, J = 7.5 Hz, 2H), 7.31 (t, J = 7.5 Hz, 2H), 6.30 (d, J = 8.4 Hz, 1H), 5.55 (d, J = 7.5 Hz, 1H), 4.53 (dd, J = 8.7, 4.5 Hz, 1H), 4.42 (d, J = 7.2 Hz, 2H), 4.22 (t, J = 7.2 Hz, 1H), 3.74 (s, 3H), 2.63 (t, J = 7.2 Hz, 2H), 2.25-2.17 (m, 1H), 2.13 (s, 3H), 2.09-2.01 (m, 2H), 0.94 (d, J = 6.9 Hz, 3H), 0.91 (d, J = 6.9 Hz, 3H)
[LC分析条件]
カラム:Shim-pack Velox Biphenyl(4.6mmΦ×250mm×5.0μm)
カラム温度:40℃
流速:0.7mL/min
検出波長:302nm
A液:HO(0.05%ギ酸)
B液:THF(0.05%ギ酸)
グラジエント条件:
0分(B60%)→10分(B60%)
【0069】
実施例8:Fmoc-L-Pro-L-Ser-OMe
1H-NMR (300 MHz, CDCl3): δ 7.76 (d, J = 7.2 Hz, 2H), 7.60-7.57 (m, 2H), 7.40 (t, J = 7.2 Hz, 2H), 7.31 (t, J = 7.2 Hz, 2H), 7.03 (d, J = 6.0 Hz, 1H), 4.60-4.58 (m, 1H), 4.41-4.33 (m, 2H), 4.26-4.22 (m, 2H), 4.06-4.02 (m, 1H), 3.91-3.86 (m, 1H), 3.78 (s, 3H), 3.65-3.47 (m, 2H), 3.21 (t, J = 6.9 Hz, 1H), 2.26-2.05 (m, 3H), 1.96-1.90 (m, 1H)
[LC分析条件]
カラム:Kinetex C18(4.6mmΦ×100mm×2.6μm)
カラム温度:40℃
流速:0.6mL/min
検出波長:302nm
A液:HO(0.05%ギ酸)
B液:MeOH(0.05%ギ酸)
グラジエント条件:
0分(B50%)→20分(B95%)
【0070】
[比較例1]
EDCを用いた脱水縮合反応
【化16】

ジクロロメタン10.0mLにFmoc-L-Phg-OH 0.934g(2.50mmol)、HCl・H-L-Val-OMe 0.440g(2.63mmol)、HOBt 0.372g(2.75mmol)、ジイソプロピルエチルアミン 0.679g(5.25mmol)を溶解させ、0℃でEDC・HCl 0.527g(2.75mmol)を加えた。室温で3時間撹拌後、10%クエン酸水溶液10mLを注入し、ジクロロメタンで抽出した。その後、有機層を10%クエン酸水溶液10mLで1回、10%炭酸水素ナトリウム水溶液10mLで2回、ブライン10mLで1回洗浄した。得られた有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥させた後、減圧下で溶媒を留去することによって目的のFmoc-L-Phg-L-Val-OMeを1.03g、収率84.8%、de75.9%で得た(分析条件は、実施例2と同じ)。
【0071】
[比較例2]
N-メチル-2-クロロピリジニウムヨージド(向山試薬)を用いた脱水縮合反応
【化17】

ジクロロメタン10.0mLにFmoc-L-Leu-OH 0.884g(2.50mmol)、HCl・H-L-Val-OMe 0.440g(2.63mmol)、ジイソプロピルエチルアミン 1.00g(7.75mmol)を溶解させ、0℃で向山試薬 0.766g(3.00mmol)を加えた。室温で3時間撹拌後、10%クエン酸水溶液10mLを注入し、ジクロロメタンで抽出した。その後、有機層を10%クエン酸水溶液10mLで1回、10%炭酸水素ナトリウム水溶液10mLで2回、ブライン10mLで1回洗浄した。得られた有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥させた後、減圧下で溶媒を留去することによって目的のFmoc-L-Phg-L-Val-OMeと向山試薬由来の副生成物であるN-メチルピリドンの混合物1.20gが得られ、H-NMR分析によって求められた物質量比は4:1であった。
【0072】
上記合成例で得られた化合物(1-3)を脱水縮合剤として用いる、本発明のエステル化合物の製造例を以下に示す。
【0073】
[実施例9]
3-フェニルプロピオン酸メチルの合成
【化18】

ジクロロメタン10.0mLに3-フェニルプロピオン酸 0.375g(2.50mmol)、メタノール 0.801g(25.0mmol)、ジイソプロピルエチルアミン 1.00g(7.75mmol)を溶解させ、室温で化合物(1-3) 0.840g(3.00mmol)を加えた。40℃で3時間撹拌後、10%クエン酸水溶液10mLを注入し、ジクロロメタンで抽出した。その後、有機層を10%クエン酸水溶液10mLで1回、10%炭酸水素ナトリウム水溶液10mLで2回、ブライン10mLで1回洗浄した。得られた有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥させた後、減圧下で溶媒を留去することによって目的の3-フェニルプロピオン酸メチルを0.389g、収率94.7%で得た。
1H-NMR (300 MHz, CDCl3): δ 7.32-7.25 (m, 2H), 7.23-7.17 (m, 3H), 3.66 (s, 3H), 2.95 (t, 7.5 Hz, 2H), 2.63 (t, 7.5 Hz, 2H)
【0074】
上記合成例で得られた化合物(1-3)を脱水縮合剤として用いる、本発明のアミド化合物の製造例を以下に示す。
【0075】
[実施例10]
1-ベンジルアミノ-3-フェニル-1-プロパノンの合成
【化19】

ジクロロメタン10.0mLに3-フェニルプロピオン酸 0.375g(2.50mmol)、ベンジルアミン 0.282g(2.63mmol)、ジイソプロピルエチルアミン 1.00g(7.75mmol)を溶解させ、室温で化合物(1-3) 0.840g(3.00mmol)を加えた。室温で3時間撹拌後、10%クエン酸水溶液10mLを注入し、ジクロロメタンで抽出した。その後、有機層を10%クエン酸水溶液10mLで1回、10%炭酸水素ナトリウム水溶液10mLで2回、ブライン10mLで1回洗浄した。得られた有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥させた後、減圧下で溶媒を留去することによって目的の1-ベンジルアミノ-3-フェニル-1-プロパノンを0.531g、収率88.7%で得た。
1H-NMR (300 MHz, CDCl3): δ 7.33-7.27 (m, 4H), 7.23-7.13 (m, 5H), 5.57 (brs, 1H),4.41 (d, 5.7 Hz, 2H), 3.01 (t, 7.5 Hz, 2H), 2.52 (t, 7.5 Hz, 2H)
【0076】
以上、実施例1~8に示されるように、本発明の化合物(I)を脱水縮合剤として用いることにより、種々のアミノ酸化合物の縮合反応において、反応基質の種類に依らず、温和な条件下、エピメリ化を起こすことなく、高収率で、対応するペプチド化合物が煩雑な精製操作なく得られることが確認された。また、実施例9及び10に示されるように、カルボン酸化合物とアルコール化合物または又はアミン化合物との縮合反応によるエステル化反応及びアミド化反応にも適用できることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明によれば、これまでに開発された2-ハロピリジニウム骨格を有する脱水縮合剤の中で最も反応後の除去性に優れた新規な脱水縮合剤を提供することができる。具体的には、本発明によれば、アルコール、アミン及びフェノールからなる群より選択される求核化合物とカルボン酸との縮合反応において、温和な条件下、高収率で、煩雑な精製操作なく目的とするカルボン酸誘導体を製造することができる実用的な脱水縮合剤として有用な化合物、並びにその製造方法を提供することができる。