(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024117562
(43)【公開日】2024-08-29
(54)【発明の名称】車両のドア
(51)【国際特許分類】
B60J 5/04 20060101AFI20240822BHJP
B60R 13/04 20060101ALI20240822BHJP
【FI】
B60J5/04 M
B60R13/04 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023023719
(22)【出願日】2023-02-17
(71)【出願人】
【識別番号】000157083
【氏名又は名称】トヨタ自動車東日本株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石井 栄之
(72)【発明者】
【氏名】高谷 明
(72)【発明者】
【氏名】養父 昌平
【テーマコード(参考)】
3D023
【Fターム(参考)】
3D023AB01
3D023AC02
3D023AD25
(57)【要約】
【課題】ドアフレームの塗装後の塗料だれを防止する。
【解決手段】ドアフレーム16の車幅方向外側の縁には、当該ドアフレーム16を構成する鋼板66が、内部が空洞68となるよう折り返されたヘミング縁部70が形成されている。ヘミング縁部70は、このヘミング縁部70に隣接する鋼板66が重ね合わされた隣接重なり部72より厚くされ、内部の空洞68が広くなっている。空洞68を広くすることにより、塗料の空洞内への滞留が抑制される。ドアフレームモール32は、膨らんだヘミング縁部70を把持してドアフレーム16に装着されている。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両のドアの窓枠であるドアフレームと、
前記ドアフレームに装着され、前記ドアフレームに沿って延びるドアフレームモールと、
を有し、
前記ドアフレームの車幅方向外側の縁には、当該ドアフレームを構成する鋼板が、内部が空洞となるよう折り返されたヘミング縁部が形成され、前記ヘミング縁部は、当該ヘミング縁部に隣接する鋼板が折り返されて重ね合わされた隣接重なり部よりも厚く、
前記ドアフレームモールは、前記ヘミング縁部を把持する把持構造を有する、
車両のドア。
【請求項2】
請求項1に記載の車両のドアであって、前記ヘミング縁部の、前記空洞を画定する内壁面が、前記隣接重なり部の端縁以外の部分において、滑らかに連続する、車両のドア。
【請求項3】
請求項1に記載の車両のドアであって、前記ヘミング縁部の前記空洞が、当該空洞の外方に向けて突出し、かつ突出端が鋭角となっている部分を有していない、車両のドア。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載の車両のドアであって、前記ドアフレームの、前記隣接重なり部は、鋼板が3層に重ねられ、3層のうち両側の2層が前記ヘミング縁部を形成する部分につながっている、車両のドア。
【請求項5】
請求項1から3のいずれか1項に記載の車両のドアであって、前記ヘミング縁部は、前記ドアフレームモールに対向し、かつ前記ドアフレームモールに面接触する平面部分を有する、車両のドア。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両のドアに関し、特に窓枠であるドアフレームの、鋼板が折り返されて形成された縁部の形状に関する。
【背景技術】
【0002】
車両のドアは、典型的には、ドア本体と、ドア本体の上側に配置され、ドア本体と協働して窓となる開口を画定するドアフレームと、ドア本体とドアフレームで画定された窓となる開口を閉じるウインドウガラスとを含む。ウインドウガラスは、スライドしてドア本体内に収容されることで、窓となる開口が開放される。
【0003】
下記特許文献1には、ドアフレーム(ドアサッシュ本体30A,30B)の車幅方向外側の端縁を、数カ所で折り曲げ、または折り返してT字形に形成し、T字形の頭部(意匠部32A,32B)に光輝モール(60)を装着した車両のドアが示されている。なお、上記の( )内の部材名および符号は、下記特許文献1で用いられているものであり、本願の実施形態の説明で用いられる部材名および符号とは関連しない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ドアフレームを塗料に浸漬して塗装する際、鋼板を折り曲げたり、折り返したりした部分の鋼板間の隙間には塗料が溜まりやすい。この溜まっている塗料が、塗装後ドアフレームを搬送等して動かしたときに、流れ出て、すでに塗装されている面に塗料だれを生じる場合がある。また、流れ出た塗料が周囲を汚す場合がある。
【0006】
本発明は、ドアフレームにおいて、塗料だれを抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る車両のドアは、ドアの窓枠であるドアフレームと、ドアフレームに装着され、ドアフレームに沿って延びるドアフレームモールとを有する。ドアフレームの車幅方向外側の縁には、当該ドアフレームを構成する鋼板が、内部が空洞となるよう折り返されたヘミング縁部が形成され、ヘミング縁部は、当該ヘミング縁部に隣接する鋼板が折り返されて重ね合わされた隣接重なり部よりも厚い。また、ドアフレームモールは、ヘミング縁部を把持する把持構造を有する。
【0008】
ヘミング縁部を隣接重なり部より厚くすることで、ヘミング縁部内部の空洞を広くし、塗装時に、この空洞内への塗料の残留を抑制することができる。
【0009】
上記の車両のドアにおいて、ヘミング縁部の、空洞を画定する内壁面が、隣接重なり部の端縁以外の部分において滑らかに連続するものとすることができる。空洞内に局所的に狭い隙間が形成されることを抑制することができる。
【0010】
上記の車両のドアにおいて、ヘミング縁部の空洞が、当該空洞の外方に向けて突出し、かつ突出端が鋭角となっている部分を有していないものとすることができる。空洞内に局所的に狭い隙間が形成されることを抑制することができる。
【0011】
上記の車両のドアにおいて、ドアフレームの隣接重なり部は、鋼板が3層に重ねられ、3層のうち両側の2層がヘミング縁部を形成する部分につながっているものとすることができる。ヘミング縁部につながる鋼板の2層が、これらの間の層により離されて隙間が大きくなり、空洞内に局所的な狭い隙間が形成されることを抑制することができる。
【0012】
上記の車両のドアにおいて、ヘミング縁部は、ドアフレームモールに対向し、かつドアフレームモールに面接触する平面部分を有するものとすることができる。ドアフレームモールを確実に位置決めすることができる。
【発明の効果】
【0013】
膨らんだヘミング縁部を形成することにより、ヘミング縁部内部の空間を広くし、塗装時の当該空間への塗料の残留を抑制することができる。ヘミング縁部内への塗料の残留が抑制されることにより、残留した塗料が流れ出て塗料だれを形成すること、また周囲を汚染することが抑制される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図2】ドアフレーム上縁部およびその周囲の構成の断面を示す図である。
【
図3】ドアフレーム上縁部の車幅方向外側の縁部を示す図である。
【
図4】ドアフレームモールの車幅方向外側の縁部を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態を図面に従って説明する。以下の説明において、特段の断りがない限り、前後左右上下等の相対位置および向きを表す語句は、車両に関する相対位置および向きを表す。また、車両の左右方向(幅方向)において車両の前後方向に延びる中心線に近い側を車幅方向内側、遠い側を車幅方向外側と記す。各図において、矢印FRの向きが前方、矢印UPの向きが上方、矢印LHの向きが左方、矢印OUTの向きが車幅方向外側である。
【0016】
図1は、車両、特に4ドアの乗用車のフロントドア10およびリヤドア12を示す図である。図示するフロントドア10およびリヤドア12は、車体の左側のドアであり、右側のドアはこれらとは対称である。
【0017】
フロントドア10は、フロントドア本体14と窓枠であるフロントドアフレーム16を含む。窓ガラス18を閉じた状態で、フロントドア本体14が窓ガラス18の下方に、フロントドアフレーム16が前方、上方、後方に位置して窓ガラス18を囲む。フロントドア本体14は、車幅方向外側に位置するアウタパネル(不図示)と、内側に位置するインナパネル(不図示)を溶接等の手法により接合して形成される。アウタパネルとインナパネルの間の空間に窓ガラス18がスライドして収容され、フロントドア10の窓が開放される。リヤドア12も、リヤドア本体24と窓枠であるリヤドアフレーム26を含む。
【0018】
フロントドアフレーム16は、フロントドア10の後縁において上下方向に延びるフロントドアフレームピラー部28と、フロントドア10の前端から上に凸に湾曲しつつフロントドアフレームピラー部28の上端に達するフロントドアフレーム上縁部30とを有する。フロントドアフレーム上縁部30は、車体の側部構造のフロントピラーおよびルーフサイドレールに沿って位置する。フロントドアフレーム16には、フロントドアフレーム上縁部30に沿ってフロントドアフレームモール32が装着されている。フロントドアフレームモール32は例えば金属光沢の装飾表面を有し、窓を縁取るように配置されて見栄えを向上する。フロントドアフレームモール32は、フロントドアフレーム上縁部30全体に延びてよく、また一部に延びてもよい。さらに、フロントドアフレーム上縁部30からフロントドア本体14の上縁など他の部分に延びて設けられてもよい。
【0019】
リヤドアフレーム26は、リヤドア12の前縁において上下方向に延びるリヤドアフレームピラー部34と、リヤドアフレームピラー部34の上端からリヤドア12の後端に達するリヤドアフレーム上縁部36とを有する。リヤドアフレーム26には、リヤドアフレーム上縁部36に沿ってリヤドアフレームモール38が装着されている。リヤドアフレームモール38は例えば金属光沢の装飾表面を有し、窓を縁取るように配置されて見栄えを向上する。リヤドアフレームモール38は、リヤドアフレーム上縁部36全体に延びてよく、また一部に延びてもよい。さらに、リヤドアフレーム上縁部36からリヤドア本体24の上縁など他の部分に延びて設けられてもよい。
【0020】
図2は、フロントドアフレーム上縁部30およびその周囲の構成を示す
図1のA-A線による断面図である。また、
図3および
図4は、フロントドアフレーム上縁部30およびフロントドアフレームモール32の車幅方向外側の端縁を示すA-A線による断面図である。以下、フロントドアに関して説明し、簡単のために部材名の「フロント」または「フロントドア」を省略する。
【0021】
ドアフレーム上縁部30は、車体の側部構造のフロントピラー(不図示)およびルーフサイドレール40に沿って延びている。ドアフレーム上縁部30は、鋼板をロール成形によって所定の断面形状に形成される。ドアフレーム上縁部30の断面形状は、全長にわたって一定である。ドアフレーム上縁部30は、車幅方向内側に、強度および剛性を確保するための閉断面構造部42を有し、車幅方向外側に、折り返されて重ね合わされた外側縁部44を有する。外側縁部44では、鋼板が3層に重ね合わされている。ドアフレーム上縁部30の上側には、ドア10と車体の隙間を封止するゴム製のウエザストリップ46が配置されている。ドアフレーム上縁部30の閉断面構造部42の上側には、ウエザストリップ46の断面がダブテイル形状の係合突条48が係合する係合蟻溝50が設けられている。ドアフレーム上縁部30の下側、特に、外側縁部44の下方かつ閉断面構造部42の車幅方向外側には、昇降する窓ガラス18の上縁を受け、窓ガラス18の端縁において封止を行うゴム製のガラスラン52が配置されている。
【0022】
ドアフレームモール32は、断面形状が略T字形であり、T字の縦画に相当する基部54と横画に相当する表面部56を有する。表面部56は、基部54に支持され、車両の外方を向き、車両の表面の一部を形成する。基部54が、外側縁部44を構成する3層の鋼板と共に重ね合わされ、リベット58によって外側縁部44に固定され、ドアフレームモール32がドアフレーム上縁部30に固定される。表面部56は、その上縁にウエザストリップ46の車幅方向外側の端縁を保持する保持フランジ60を有する。
【0023】
ドアフレームモール32は、鋼板、特にステンレス鋼板製の基材部62と、基材部62に一体成形により形成された樹脂層64を含む。基材部62は、ロール成形によって所定の形状に形成される。樹脂層64は、基材部62の一部に形成されてよい。このドアフレームモール32において、樹脂層64は表面部56の車幅方向外側の表面に形成されている(
図4参照)。
【0024】
図3は、ドアフレーム上縁部30の外側縁部44、特に車幅方向外側の部分の詳細を示す断面図である。前述のように、外側縁部44は1枚の鋼板66が折り返されて3層に重ね合わされている。鋼板66の一方の縁部が中間の層66aを形成し、この鋼板66は、
図3において左下に延びて閉断面構造部42および係合蟻溝50を形成し、外側縁部44に戻って上側の層66bを形成する。鋼板66は、さらに
図3において右上に延び、内部に空洞68が形成されるように膨らみをもって折り返されたヘミング形状部66cを形成し、そして中間の層66aの下側に延びて、これに重ね合わされる下側の層66dを形成する。外側縁部44の縁において、鋼板66が、内部に空洞68ができるように折り返された部分をヘミング縁部70と記し、ヘミング縁部70に隣接する鋼板66が重ね合わされた部分を隣接重なり部72と記す。鋼板66は、ヘミング縁部70において重ね合わされてはいない。
【0025】
外側縁部44の厚さは、ヘミング縁部70において、隣接重なり部72の厚さtよりも厚い。つまり、ヘミング縁部70は、隣接重なり部72と同じ厚さに成形されるフラットヘムよりも膨らんだ形状を有する。ヘミング縁部70は、円弧形状にまでは膨らんでおらず、円弧形状のサークルヘムとフラットヘムの中間的な形状であるロープドヘム形状である。さらに、ヘミング縁部70は、車幅方向外側に、ドアフレームモールの表面部56の裏面に対向し、面接触する平面部分70aを有している。
【0026】
ドアフレーム26は、ドアフレーム26を塗料に浸漬して塗装される。その際、鋼板が重ねられた部分、またはその近傍の鋼板間の隙間に、表面張力によって塗料が留まる場合がある。塗装後、塗料が乾く前にドアフレーム26を動かすと、溜まっていた塗料が隙間を伝って流れ出て塗料だれを生じる場合がある。また、流れ出た塗料が周囲を汚す場合がある。この実施形態のドアフレーム26では、ヘミング縁部70は、膨らんだ形状であり、その内部の空洞68は広くなっている。このため、表面張力による空洞68内への塗料の残留が抑制される。ヘミング縁部70内部の空洞68を画定する内壁面は、隣接重なり部72の端縁を除いて滑らかに連続している。また、空洞68を画定する内壁面は、当該空洞68の外方に向けて突出し、かつ突出端が鋭角となっている部分を有していない。これらにより、空洞68内に局所的に狭い隙間が形成されることがなく、表面張力による塗料の残留が抑制される。さらに、隣接重なり部72は、3層で構成され、上下の2層66b,66dがヘミング縁部70を構成するヘミング形状部66cに連続している。このため、中間の層66aの厚みの分、ヘミング形状部66cに連続する2層66b,66dの間隔が広がり、この部分の塗料の残留も抑制される。
【0027】
ドアフレームモール32は、ドアフレーム上縁部30のヘミング縁部70を上下から挟むように把持する把持構造74を有する。把持構造74は、表面部56の裏側に配置された把持プレート76を含む。把持プレート76は、基材部62を形成する鋼板を表面部56の下縁にて折り返して形成される。把持プレート76は上縁部で、車幅方向内側に向けて曲げられて屈曲部76aが形成されている。屈曲部76aと、この屈曲部76aに対向する基部54の部分54a(車幅方向外側の縁部分)でヘミング縁部70が把持される。把持プレート76と、基材部62が把持構造74を構成する。把持構造74は、基材部62および把持プレート76を構成する鋼板の弾性により把持構造74内にヘミング縁部70を受け入れ、そして弾性力によってこれを保持する。把持構造74は、ヘミング縁部70の厚さが最大の位置よりも薄い、隣接重なり部72寄りの位置でヘミング縁部70を把持する。これにより、ドアフレームモール32がドアフレーム上縁部30から外れにくくなる。また、把持プレート76は、車幅方向内側の側縁の下側部分76bと先縁76cとでガラスラン52に接触し、ガラスラン52を車幅方向外側から押さえている。
【0028】
ドアフレームモール32をドアフレーム26に装着する際には、まず、ドアフレームモール32の把持構造74にてヘミング縁部70を把持し、また、ドアフレームモール32の基部54を、ドアフレーム30の隣接重なり部72に重ねて配置する。次に、リベット58によって、基材部62と隣接重なり部72を締結し、ドアフレームモール32をドアフレーム30に装着する。ドアフレーム30に対するドアフレームモール32の固定に関して把持構造74による把持も寄与しており、その分リベット58の数を減らすことが可能である。
【0029】
リヤドアフレーム26についても、フロントドアフレーム16と同様に車幅方向外側の縁部に膨らんだヘミング縁部を形成することができる。
【符号の説明】
【0030】
10 ドア(フロントドア)、14 ドア粉体(フロントドア本体)、16 (ドアフレーム(フロントドアフレーム)、18 窓ガラス、30 ドアフレーム上縁部(フロントドアフレーム上縁部)、32 ドアフレームモール(フロントドアフレームモール)、40 ルーフサイドレール、42 閉断面構造部、44 外側縁部、54 基部、56 表面部、62 基材部、64 樹脂層、66 鋼板、68 空洞、70 ヘミング縁部、72 隣接重なり部、74 把持構造、76 把持プレート、76a 把持プレートの屈曲部。