(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024117570
(43)【公開日】2024-08-29
(54)【発明の名称】抵抗スポット溶接継手、抵抗スポット溶接方法、及び抵抗スポット溶接部の検査方法
(51)【国際特許分類】
B23K 11/11 20060101AFI20240822BHJP
B23K 11/00 20060101ALI20240822BHJP
B23K 31/00 20060101ALI20240822BHJP
【FI】
B23K11/11 540
B23K11/00 570
B23K31/00 K
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023023735
(22)【出願日】2023-02-17
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100187702
【弁理士】
【氏名又は名称】福地 律生
(74)【代理人】
【識別番号】100162204
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 学
(74)【代理人】
【識別番号】100195213
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 健治
(74)【代理人】
【識別番号】100192463
【弁理士】
【氏名又は名称】奥野 剛規
(72)【発明者】
【氏名】岡田 徹
(72)【発明者】
【氏名】富士本 博紀
(72)【発明者】
【氏名】谷口 大河
【テーマコード(参考)】
4E165
【Fターム(参考)】
4E165AA02
4E165AA03
4E165AB02
4E165AB12
4E165AC01
4E165DA11
4E165DA13
(57)【要約】
【課題】本発明は、外表面の凹凸が少なく、強度に優れた抵抗スポット溶接継手を提供するものである。
【解決手段】本発明の抵抗スポット溶接継手は、第1の溶接打点と、上記第1の溶接打点に近接する1又は複数の第2の溶接打点と、を有し、
上記第1の溶接打点の第1のナゲットが、上記第2の溶接打点の第2のナゲットと重なっておらず、且つ、上記第2の溶接打点の熱影響による軟化部と重なっていることを特徴とするものである。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
重ね合わされた複数枚の鋼板が接合されてなる抵抗スポット溶接継手であって、
前記抵抗スポット溶接継手は、第1の溶接打点と、前記第1の溶接打点に近接する1又は複数の第2の溶接打点と、を有し、
前記第1の溶接打点の第1のナゲットは、前記第2の溶接打点の第2のナゲットと重なっておらず、且つ、前記第2の溶接打点の熱影響による軟化部と重なっていることを特徴とする、抵抗スポット溶接継手。
【請求項2】
前記第1のナゲットは、前記第2の溶接打点の熱影響による軟化部と重なっている部分の最も低い硬さが、前記第2のナゲットの硬さの75%以下であることを特徴とする、請求項1に記載の抵抗スポット溶接継手。
【請求項3】
前記第1の溶接打点と前記第2の溶接打点の圧痕中心間の距離D(mm)が、下記の式(1)を満たすことを特徴とする、請求項1又は2に記載の抵抗スポット溶接継手。
距離D≦{Ds+9√t×(I0/IC)3}/2 ・・・(1)
Ds:前記第1の溶接打点の圧痕径(mm)
I0:実測総板厚(mm)
IC:前記第2の溶接打点の圧痕中心における残板厚(mm)
t:最も強度が高い鋼板の板厚(mm)
【請求項4】
前記抵抗スポット溶接継手は、前記第2の溶接打点を複数有し、
前記第1の溶接打点の圧痕中心と複数の前記第2の溶接打点のそれぞれの圧痕中心とを結んだ線のなす角度が、45°以上であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の抵抗スポット溶接継手。
【請求項5】
前記複数枚の鋼板のうち最も強度が高い鋼板の板厚をt(mm)としたとき、前記第2のナゲットのナゲット径が5√t以下であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の抵抗スポット溶接継手。
【請求項6】
請求項1又は2に記載の抵抗スポット溶接継手を含む自動車部品。
【請求項7】
重ね合わせた複数枚の鋼板を接合する抵抗スポット溶接方法であって、
前記複数枚の鋼板を溶接して、第1の溶接打点を形成する第1の工程と、
前記第1の溶接打点に近接する部分を溶接して、1又は複数の第2の溶接打点を形成する第2の工程と、を有し、
前記第2の工程は、前記第1の溶接打点の第1のナゲットが、前記第2の溶接打点の第2のナゲットと重ならず、且つ、前記第2の溶接打点の熱影響による軟化部と重なるように溶接することを特徴とする、抵抗スポット溶接方法。
【請求項8】
前記第2の工程は、前記第1の溶接打点と前記第2の溶接打点の圧痕中心間の距離D(mm)が、下記の式(2)を満たすように溶接することを特徴とする、請求項7に記載の抵抗スポット溶接方法。
距離D≦{Ds+9√t×(I0/IC)3}/2 ・・・(2)
Ds:前記第1の溶接打点の圧痕径(mm)
I0:実測総板厚(mm)
IC:前記第2の溶接打点の圧痕中心における残板厚(mm)
t:最も強度が高い鋼板の板厚(mm)
【請求項9】
前記第2の工程の電流値が前記第1の工程の電流値以下であり、
前記第2の工程の通電時間WT(秒)が以下の式(3)を満たすことを特徴とする、請求項7又は8に記載の抵抗スポット溶接方法。
3T≦通電時間WT≦30T ・・・(3)
T:総板厚(mm)
【請求項10】
重ね合わされた複数枚の鋼板の抵抗スポット溶接部の検査方法であって、
第1の溶接打点の第1のナゲットと、前記第1の溶接打点に近接する1又は複数の第2の溶接打点の第2のナゲットとの重なりの有無を確認するステップ、
前記第1の溶接打点と前記第2の溶接打点の圧痕中心間の距離D(mm)と、前記第1の溶接打点の圧痕径Ds(mm)と、実測総板厚I0(mm)と、前記第2の溶接打点の圧痕中心における残板厚IC(mm)と、前記複数枚の鋼板のうち最も強度が高い鋼板の板厚t(mm)と、をそれぞれ測定するステップ、及び
前記第1のナゲットと前記第2のナゲットの重なりの有無と、下記の式(4)を満たすか否かと、に基づいて、前記第1のナゲットの焼き戻し状態の良否を判定するステップ
を含むことを特徴とする、抵抗スポット溶接部の検査方法。
距離D≦{Ds+9√t×(I0/IC)3}/2 ・・・(4)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抵抗スポット溶接継手、抵抗スポット溶接方法、及び抵抗スポット溶接部の検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
主に2.0GPa級以上の超高強度鋼板では、炭素量が高いことによって、ナゲット及び熱影響部(HAZ)の靭性が低下することがある。このようにナゲット及びHAZの靭性が低下してしまうと、部材における所期の設計性能が得られない場合がある。そこで、特に炭素量が高い鋼板を用いる場合には、ナゲット及びHAZを焼き戻すことで継手強度を向上させることが検討されている。
【0003】
そのようなナゲット及びHAZの焼き戻しを行うスポット溶接プロセスとして、1回目の加圧から電極の解放サイクルの中でナゲット及びHAZを焼き戻す、テンパー後通電法が知られている。また、特許文献1には、抵抗スポット溶接をするにあたり、1点目を溶接後に電極の位置を移動し、1点目の溶接部(ナゲット)がMf点以下の温度まで冷却された後に、1点目の溶接部に一部重なるように2点目の溶接を行なうようにした高強度薄鋼板の抵抗スポット溶接方法が開示されている。この特許文献1に開示された抵抗スポット溶接方法は、2つの溶接部(ナゲット)が一部重なるように溶接することによって、テンパー効果とナゲット面積拡大による、十字引張特性の向上が可能になるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の抵抗スポット溶接方法では、2つのナゲットが重なるため、溶接時に局所的に過熱された母材の一部が鋼板間に逃げられず、母材の外表面に散りとなって飛散する(いわゆる、表散りが生じる)恐れがあった。スポット溶接時にこのような表散りが発生する、若しくは表散りが発生しなくとも2つのナゲットが重なると、継手表面に意図しない凹凸が形成されてしまい、表面外観や継手強度が低下するなどの影響を及ぼす場合がある。
さらに、特許文献1の抵抗スポット溶接方法では、1点目の溶接で形成された圧痕によって、2点目の溶接を行う際の電流が流れる領域にばらつきが生じやすくなるため、結果的に高い継手強度が得られない場合がある。
【0006】
また、従来のテンパー後通電法では、ナゲットをMf点以下まで冷却するための休止時間が必要であり、1打点当たりのサイクルタイムが長くなるという問題や、電極の摩耗等で電極と鋼板の接触状態が変化することによる生産外乱の影響を受けやすいという問題があった。さらに、従来のテンパー後通電法によって得られる継手では、狙い通りに焼き戻しが実施されたかどうかを簡単に判断(検査)できないという問題もあった。
【0007】
そこで、本発明は、外表面の凹凸が少なく、強度に優れた抵抗スポット溶接継手を提供することを目的とする。また、本発明は、1打点当たりのサイクルタイムを短縮することができ、生産外乱の影響を受けにくい抵抗スポット溶接方法を提供することを目的とする。さらに、本発明は、狙い通りに焼き戻しが実施されたかどうかを簡単に判断(検査)できる、抵抗スポット溶接部の検査方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、以下の各態様を含むものである。
【0009】
(態様1)
重ね合わされた複数枚の鋼板が接合されてなる抵抗スポット溶接継手であって、
上記抵抗スポット溶接継手は、第1の溶接打点と、上記第1の溶接打点に近接する1又は複数の第2の溶接打点と、を有し、
上記第1の溶接打点の第1のナゲットは、上記第2の溶接打点の第2のナゲットと重なっておらず、且つ、上記第2の溶接打点の熱影響による軟化部と重なっていることを特徴とする、抵抗スポット溶接継手。
【0010】
(態様2)
上記第1のナゲットは、上記第2の溶接打点の熱影響による軟化部と重なっている部分の最も低い硬さが、上記第2のナゲットの硬さの75%以下であることを特徴とする、上記態様1に記載の抵抗スポット溶接継手。
【0011】
(態様3)
上記第1の溶接打点と上記第2の溶接打点の圧痕中心間の距離D(mm)が、下記の式(1)を満たすことを特徴とする、上記態様1又は2に記載の抵抗スポット溶接継手。
距離D≦{Ds+9√t×(I0/IC)3}/2 ・・・(1)
Ds:上記第1の溶接打点の圧痕径(mm)
I0:実測総板厚(mm)
IC:上記第2の溶接打点の圧痕中心における残板厚(mm)
t:最も強度が高い鋼板の板厚(mm)
【0012】
(態様4)
上記抵抗スポット溶接継手は、上記第2の溶接打点を複数有し、
上記第1の溶接打点の圧痕中心と複数の上記第2の溶接打点のそれぞれの圧痕中心とを結んだ線のなす角度が、45°以上であることを特徴とする、上記態様1~3のいずれか一つに記載の抵抗スポット溶接継手。
【0013】
(態様5)
上記複数枚の鋼板のうち最も強度が高い鋼板の板厚をt(mm)としたとき、上記第2のナゲットのナゲット径が5√t以下であることを特徴とする、上記態様1~4のいずれか一つに記載の抵抗スポット溶接継手。
【0014】
(態様6)
上記態様1~5のいずれか一つに記載の抵抗スポット溶接継手を含む自動車部品。
【0015】
(態様7)
重ね合わせた複数枚の鋼板を接合する抵抗スポット溶接方法であって、
上記複数枚の鋼板を溶接して、第1の溶接打点を形成する第1の工程と、
上記第1の溶接打点に近接する部分を溶接して、1又は複数の第2の溶接打点を形成する第2の工程と、を有し、
上記第2の工程は、上記第1の溶接打点の第1のナゲットが、上記第2の溶接打点の第2のナゲットと重ならず、且つ、上記第2の溶接打点の熱影響による軟化部と重なるように溶接することを特徴とする、抵抗スポット溶接方法。
【0016】
(態様8)
上記第2の工程は、上記第1の溶接打点と上記第2の溶接打点の圧痕中心間の距離D(mm)が、下記の式(2)を満たすように溶接することを特徴とする、上記態様7に記載の抵抗スポット溶接方法。
距離D≦{Ds+9√t×(I0/IC)3}/2 ・・・(2)
Ds:上記第1の溶接打点の圧痕径(mm)
I0:実測総板厚(mm)
IC:上記第2の溶接打点の圧痕中心における残板厚(mm)
t:最も強度が高い鋼板の板厚(mm)
【0017】
(態様9)
上記第2の工程の電流値が上記第1の工程の電流値以下であり、
上記第2の工程の通電時間WT(秒)が以下の式(3)を満たすことを特徴とする、上記態様7又は8に記載の抵抗スポット溶接方法。
3T≦通電時間WT≦30T ・・・(3)
T:総板厚(mm)
【0018】
(態様10)
重ね合わされた複数枚の鋼板の抵抗スポット溶接部の検査方法であって、
第1の溶接打点の第1のナゲットと、上記第1の溶接打点に近接する1又は複数の第2の溶接打点の第2のナゲットとの重なりの有無を確認するステップ、
上記第1の溶接打点と上記第2の溶接打点の圧痕中心間の距離D(mm)と、上記第1の溶接打点の圧痕径Ds(mm)と、実測総板厚I0(mm)と、上記第2の溶接打点の圧痕中心における残板厚IC(mm)と、上記複数枚の鋼板のうち最も強度が高い鋼板の板厚t(mm)と、をそれぞれ測定するステップ、及び
上記第1のナゲットと上記第2のナゲットの重なりの有無と、下記の式(4)を満たすか否かと、に基づいて、上記第1のナゲットの焼き戻し状態の良否を判定するステップ
を含むことを特徴とする、抵抗スポット溶接部の検査方法。
距離D≦{Ds+9√t×(I0/IC)3}/2 ・・・(4)
【発明の効果】
【0019】
本発明の抵抗スポット溶接継手によれば、外表面の凹凸が少なく、強度に優れた抵抗スポット溶接継手を提供することができる。また、本発明の抵抗スポット溶接方法によれば、1打点当たりのサイクルタイムを短縮することができ、生産外乱の影響を受けにくくすることができる。さらに、本発明の抵抗スポット溶接部の検査方法によれば、狙い通りに焼き戻しが実施されたかどうかを簡単に判断(検査)できる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の抵抗スポット溶接継手、抵抗スポット溶接方法及び抵抗スポット溶接部の検査方法のそれぞれの好適な実施形態について詳細に説明する。なお、本明細書において各種数値範囲は、特に断りがない限り、その上下限値を含む範囲を意味する。
【0021】
本発明者らは、上記目的を達成するために、ナゲットの焼き戻し手法に着目して鋭意検討を行った。その結果、本発明者らは、従来のテンパー後通電法のように1回目の加圧から電極の解放サイクルの中でナゲットを焼き戻すのではなく、第1の溶接打点のナゲット形成後にその近傍する位置で第2の溶接打点の通電を行い、その際に生じる分流によって第1の溶接打点のナゲットを焼き戻す、という新たな手法を見出した。
【0022】
そして、本発明者らは、この手法によって、表散りを誘発する等の問題を生じ得る外表面の凹凸が少なく、強度に優れた抵抗スポット溶接継手が得られることを見出した。また、本発明者らは、上記手法により、従来のようなナゲットをMf点以下まで冷却するための休止時間を不要とし、1打点当たりのサイクルタイムを短縮し得ることを見出した。さらに、本発明者らは、上記手法のように別打点で第1の溶接打点のナゲットを焼き戻すことで、生産外乱の影響を受けにくくすることができることを見出した。
【0023】
本発明は、これらの知見に基づいて完成されたものであり、抵抗スポット溶接継手、抵抗スポット溶接方法及び抵抗スポット溶接部の検査方法の各態様を含む。
【0024】
まず、本発明の抵抗スポット溶接継手の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0025】
<抵抗スポット溶接継手>
本発明の一実施形態である抵抗スポット溶接継手は、重ね合わされた複数枚の鋼板が接合されてなる抵抗スポット溶接継手であり、次のような構成を備えている。まず、本実施形態の抵抗スポット溶接継手は、第1の溶接打点と、該第1の溶接打点に近接する1又は複数の第2の溶接打点と、を有している。そして、本実施形態の抵抗スポット溶接継手は、第1の溶接打点の第1のナゲットが、第2の溶接打点の第2のナゲットと重なっておらず且つ第2の溶接打点の熱影響による軟化部と重なっている、という特有の構成を備えている。
【0026】
ここで、第2の溶接打点が第1の溶接打点に「近接する」とは、第2の溶接打点の溶接を行う際に、第2の溶接打点の熱影響による軟化部が第1の溶接打点の第1のナゲットと重なる程度に近い状態であることを意味する。なお、一般に溶接後の熱影響部には、ナゲット近傍の硬化部と、その外側の軟化部とが形成され、上述の「熱影響による軟化部」は、このような熱影響部における軟化部を指す。
【0027】
また、第1の溶接打点の第1のナゲットは、第1の溶接打点の溶接時に形成される溶融部を意味し、第2の溶接打点の第2のナゲットは、第2の溶接打点の溶接時に形成される溶融部を意味する。
【0028】
本実施形態の抵抗スポット溶接継手は、従来のテンパー後通電法とは異なり、第1の溶接打点の第1のナゲット形成後にその近傍する位置で第2の溶接打点の通電を行い、その際の分流によって第1のナゲットを焼き戻す、という新たな手法によって得られるものである。そして、この手法では、第1のナゲットと第2のナゲットとが重ならないように第2の溶接打点を形成するため、溶接時に局所的に過熱された母材の一部が鋼板間に逃げることが可能であり、母材の外表面に表散りが生じにくい。さらに、この手法では、第2の溶接打点が第1の溶接打点の圧痕と重ならないため、第2の溶接打点の溶接を行う際の電流が流れる領域にばらつきが生じにくく、精度よく第1のナゲットを焼き戻すことができる。
【0029】
したがって、このような手法によって得られる本実施形態の抵抗スポット溶接継手は、表散りを誘発する等の問題を生じ得る外表面の凹凸が少なく、継手強度にも優れたものとなっている。
【0030】
なお、「分流」という用語は、例えばJIS Z 301-6:2013「溶接用語-第6部:抵抗溶接」において、「主な溶接電流のほかに、既溶接点及び被溶接物が形成する並列回路に流れる電流」と定義されている。
【0031】
本実施形態の抵抗スポット溶接継手では、第1のナゲットの、第2の溶接打点の熱影響による軟化部と重なっている部分が、第2の溶接打点の通電時の分流によって焼き戻された部分である。この第1のナゲットの焼き戻された部分は、硬さが第2の溶接打点のナゲットよりも低くなっている。
【0032】
そして、本実施形態においては、第1のナゲットは、第2の溶接打点の熱影響による軟化部と重なっている部分の最も低い硬さが、第2のナゲットの硬さの75%以下であることが好ましい。第1のナゲットの焼き戻された部分の硬さがこのような範囲内にあると、第1のナゲットの焼き戻しが十分に行われており、より優れた継手強度を得ることができる。
【0033】
なお、第1のナゲットは、第2の溶接打点の熱影響による軟化部と重なっている部分の最も低い硬さが、第2のナゲットの硬さの70%以下であることがより好ましい。ここで、第1のナゲットにおいて、第2の溶接打点の熱影響による軟化部と重なっている部分は、第1のナゲットの一部分でもよいし、第1のナゲットの全体であってもよい。
【0034】
また、本実施形態においては、第1の溶接打点と第2の溶接打点の圧痕中心間の距離D(mm)が、下記の式(1)を満たすことが好ましい。
距離D≦{Ds+9√t×(I0/IC)3}/2 ・・・(1)
Ds:上記第1の溶接打点の圧痕径(mm)
I0:実測総板厚(mm)
IC:上記第2の溶接打点の圧痕中心における残板厚(mm)
t:最も強度が高い鋼板の板厚(mm)
【0035】
第1の溶接打点と第2の溶接打点の圧痕中心間の距離D(mm)が上記式(1)を満たしていると、第1のナゲットの焼き戻しがより確実且つ的確に行われ、より一層優れた継手強度を得ることができる。
【0036】
また、本実施形態の抵抗スポット溶接継手は、第2の溶接打点を1個のみ有していてもよいが、2個以上の複数有していてもよい。なお、第2の溶接打点を複数有する場合は、複数の第2の溶接打点のそれぞれが、第1の溶接打点に近傍する位置にある。そして、この場合においても、第1の溶接打点の第1のナゲットが、複数の第2の溶接打点のナゲット(すなわち、複数の第2のナゲット)のそれぞれと重なっておらず、且つ、複数の第2の溶接打点の熱影響部のそれぞれと重なっている。
【0037】
第2の溶接打点を複数有する場合は、第1の溶接打点の圧痕中心と複数の第2の溶接打点のそれぞれの圧痕中心とを結んだ線のなす角度が45°以上となる位置に、第2の溶接打点が形成されていることが好ましい。複数の第2の溶接打点がこのような位置に形成されると、第2の溶接打点同士が近づき過ぎず、第2の溶接打点の通電時の分流量が安定するため、第1のナゲットの焼き戻しがより的確に行われ、より優れた継手強度を得ることができる。
【0038】
また、本実施形態の抵抗スポット溶接継手は、複数枚の鋼板のうち最も強度が高い鋼板の板厚をt(mm)としたとき、第2のナゲットのナゲット径が5√t以下であることが好ましい。第2のナゲットのナゲット径がこのような範囲内にあると、仮に第2の溶接打点で亀裂が生じたとしても、亀裂が靭性の低い箇所を進展していくことを回避することができる。すなわち、第2のナゲットのナゲット径が上記の範囲内にあると、第2の溶接打点を界面破断しやすくすることができる。これにより、より一層優れた継手強度を得ることができる。なお、第1の溶接打点の焼き戻しの効果を最大限発揮するためには、第2の溶接打点は界面破断することが望ましい。
【0039】
なお、本実施形態においては、第2のナゲットのナゲット径は、4√t以下であることがより好ましく、3√t以下であることが更に好ましい。
【0040】
本実施形態の抵抗スポット溶接継手では、鋼板は、所望の継手強度や用途(例えば、自動車部品)などに応じた所定の引張強さ及び板厚を有する鋼板を用いることができる。そのような鋼板としては、例えば、引張強さが270MPa~3000MPa級の鋼板が挙げられる。特に、上述の最も強度が高い鋼板としては、1.8GPa級以上の鋼板を好適に用いることができる。
【0041】
引張強さが2.0GPa級以上の超高強度鋼板は、炭素量が高いことによってナゲット及び熱影響部の靭性が低下し、継手強度が低下しやすい傾向にあるため、本発明は、少なくとも1枚の鋼板が2.0GPa級以上の超高強度鋼板である場合に、特に有利である。したがって、上述の最も強度が高い鋼板としては、2.0GPa級以上の鋼板を用いることがより好ましく、2.5GPa級以上の鋼板を用いることが更に好ましい。
【0042】
なお、鋼板は、亜鉛等のめっき処理が施された鋼板(すなわち、めっき鋼板)であってもよい。
【0043】
本実施形態の抵抗スポット溶接継手に用い得る複数枚の鋼板は、すべての鋼板が同一種類の鋼板であっても、一部の鋼板のみが同一種類の鋼板であっても、すべての鋼板がそれぞれ異なる種類の鋼板であってもよい。
【0044】
さらに、鋼板の枚数も特に限定されず、溶接継手の用途などに応じた2枚以上の枚数を採用することができる。また、鋼板の板厚も特に限定されず、例えば0.5mm以上3.5mm以下の板厚が挙げられる。
【0045】
本実施形態の抵抗スポット溶接継手に用い得る鋼板の形状は、少なくとも溶接対象箇所が、他の鋼板の溶接対象箇所と板厚方向に重ね合わせられるような所定の板状構造を有するものであれば、特に限定されない。そのような鋼板の形状としては、例えば、全体が平坦な板状構造を有する鋼板(例えば、平板状の鋼板等)、溶接対象箇所を含む一部の部分において板状構造を有し且つその他の部分において屈曲構造等を有する鋼板(例えば、L字形鋼板、ハット型鋼板等)などが挙げられる。
【0046】
上述のとおり、本実施形態の抵抗スポット溶接継手は、外表面の凹凸が少なく、継手強度にも優れているため、自動車等の輸送用機械や産業用機械の各種構造部品、建築物の構造体などの様々な構造部材に適用することができる。
【0047】
したがって、本発明の別の実施形態として、上記実施形態の抵抗スポット溶接継手を含む自動車部品が挙げられる。このような自動車部品は、上述の抵抗スポット溶接継手の効果を享受し、部品の表面外観や塗装性、強度等に優れたものとなる。
【0048】
次に、本発明の抵抗スポット溶接継手の製造方法でもある、本発明の抵抗スポット溶接方法の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0049】
<抵抗スポット溶接方法>
本発明の一実施形態である抵抗スポット溶接方法は、重ね合わせた複数枚の鋼板を接合する抵抗スポット溶接方法であり、次の第1の工程と、第2の工程とを有している。
第1の工程は、複数枚の鋼板を溶接して、第1の溶接打点を形成する工程である。
第2の工程は、第1の溶接打点に近接する部分を溶接して、1又は複数の第2の溶接打点を形成する工程である。そして、この第2の工程では、第1の溶接打点の第1のナゲットが、第2の溶接打点の第2のナゲットと重ならず、且つ、第2の溶接打点の熱影響による軟化部と重なるように溶接する。
【0050】
本実施形態の抵抗スポット溶接方法は、上述のとおり、外表面の凹凸が少なく、継手強度にも優れた抵抗スポット溶接継手が得られる上、次のような効果を奏することができる。まず、本実施形態の抵抗スポット溶接方法は、従来のようなナゲットをMf点以下まで冷却するための休止時間を不要とし、1打点当たりのサイクルタイムを短縮することができる。さらに、本実施形態の抵抗スポット溶接方法は、別打点で第1の溶接打点のナゲットを焼き戻すことで、生産外乱の影響を受けにくくすることができる。
【0051】
以下、本実施形態の抵抗スポット溶接方法における各工程について詳細に説明する。
【0052】
(第1の工程)
第1の工程は、重ね合わせた複数枚の鋼板を溶接して、第1の溶接打点を形成する工程である。換言すれば、第1の工程は、重ね合わせた複数枚の鋼板を通電して、第1のナゲットを形成する工程である。この第1の工程では、重ね合わせた複数枚の鋼板の重ね合わせ面及びその近傍領域にナゲットを形成し得るものであれば、通常の抵抗スポット溶接で用いられている電極や溶接条件等を採用することができる。例えば、第1の工程は、重ね合わせた複数枚の鋼板を一対の電極によって挟持し、加圧力を付与しながら所定の電流値及び時間で板厚方向に通電することにより、複数枚の鋼板の重ね合わせ面及びその近傍領域を溶融させて第1のナゲットを形成することができる。
【0053】
上述のとおり、第1の工程の溶接条件は特に限定されないが、例えば次のような条件が挙げられる。
溶接に用い得る一対の電極としては、例えば電極先端が5mm~8mmのDR型電極が挙げられる。かかる一対の電極によって付与する加圧力としては、例えば250kgf~700kgf(2.451kN~6.864kN)の加圧力が挙げられる。また、通電の電流値としては、例えば6kA~12kAの電流値が挙げられる。さらに、通電時間としては、例えば12cyc~60cycの時間が挙げられる。なお、電源周波数が50Hzの場合、1cyc(1サイクル)は1/50秒である。
【0054】
第1の工程において溶接時の通電回数は、本発明の効果を阻害しない限り特に限定されず、例えば1回のみの通電であっても、2回以上の複数回の通電であってもよい。
【0055】
なお、第1の工程では、本発明の効果を阻害しない限り、第1のナゲットを形成する通電の前後に、予備通電や後通電などを行ってもよい。
【0056】
(第2の工程)
第2の工程は、第1の溶接打点に近接する部分を溶接して、1又は複数の第2の溶接打点を形成する工程である。換言すれば、第2の工程は、重ね合わせた複数枚の鋼板の、第1の溶接打点に近接する部分を通電して、第2のナゲットを形成する工程である。このとき、第2の工程は、第2のナゲットが第1のナゲットと重ならないようにしつつ、通電時の分流によって第1のナゲットを焼き戻すことができるように(すなわち、第1のナゲットが第2の溶接打点の熱影響による軟化部と重なるように)、各種溶接条件を調整して溶接する。ここで、調整対象となる溶接条件としては、例えば、第2の溶接打点の位置(具体的には、第1の溶接打点と第2の溶接打点の圧痕中心間の距離)、通電の電流値、通電時間などが挙げられる。
【0057】
なお、第2の工程では、上述のとおり、第2のナゲットが第1のナゲットと重ならないようにしつつ、通電時の分流によって第1のナゲットを焼き戻すことができるものであれば、上述の第1の工程と同様の電極や溶接条件等を採用することができる。
【0058】
また、本実施形態においては、第2の工程は、第1の溶接打点と第2の溶接打点の圧痕中心間の距離D(mm)が、下記の式(2)を満たすように溶接することが好ましい。
距離D≦{Ds+9√t×(I0/IC)3}/2 ・・・(2)
Ds:上記第1の溶接打点の圧痕径(mm)
I0:実測総板厚(mm)
IC:上記第2の溶接打点の圧痕中心における残板厚(mm)
t:最も強度が高い鋼板の板厚(mm)
【0059】
第2の工程において、第1の溶接打点と第2の溶接打点の圧痕中心間の距離D(mm)が上記式(2)を満たすように溶接すると、第1のナゲットの焼き戻しをより確実且つ的確に行うことができ、より一層優れた継手強度を得ることができる。
【0060】
また、本実施形態においては、第2の工程の電流値が第1の工程の電流値以下であり、通電時間WT(秒)が以下の式(3)を満たすことが好ましい。
3T≦通電時間WT≦30T ・・・(3)
T:総板厚(mm)
【0061】
第2の工程の電流値及び通電時間がこのような範囲内にあると、第1のナゲットの焼き戻し効果が得られる条件の許容範囲を広くすることができる上、タクトタイムの増加を抑制したり、電極損傷などの生産外乱への影響を抑制したりすることができる。
【0062】
第2の工程においても溶接時の通電回数は、本発明の効果を阻害しない限り特に限定されず、例えば1回のみの通電であっても、2回以上の複数回の通電であってもよい。
【0063】
なお、第2の工程においても、本発明の効果を阻害しない限り、第2のナゲットを形成する通電の前後に、予備通電や後通電などを行ってもよい。
【0064】
本実施形態の抵抗スポット溶接方法においては、本発明の効果を阻害しない限り、第1の工程及び第2の工程の各工程の前後に、通常の抵抗スポット溶接方法で行われる任意の工程を有していてもよい。そのような任意の工程としては、例えば、板組形成工程や冷却工程、各種処理工程などが挙げられる。
【0065】
次に、本発明の抵抗スポット溶接部の検査方法の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0066】
<抵抗スポット溶接部の検査方法>
本発明の一実施形態である抵抗スポット溶接部の検査方法は、重ね合わされた複数枚の鋼板の抵抗スポット溶接部の検査方法であり、次の各ステップを含む。
まず、本実施形態の抵抗スポット溶接部の検査方法は、第1の溶接打点の第1のナゲットと、該第1の溶接打点に近接する1又は複数の第2の溶接打点の第2のナゲットとの重なりの有無を確認するステップを含む。以下、このステップを「確認ステップ」と称することがある。
さらに、本実施形態の抵抗スポット溶接部の検査方法は、第1の溶接打点と第2の溶接打点の圧痕中心間の距離D(mm)と、第1の溶接打点の圧痕径Ds(mm)と、実測総板厚I0(mm)と、第2の溶接打点の圧痕中心における残板厚IC(mm)と、複数枚の鋼板のうち最も強度が高い鋼板の板厚t(mm)と、をそれぞれ測定するステップを含む。以下、このステップを「測定ステップ」と称することがある。
そして、本実施形態の抵抗スポット溶接部の検査方法は、第1のナゲットと第2のナゲットの重なりの有無と、下記の式(4)を満たすか否かと、に基づいて、第1のナゲットの焼き戻し状態の良否を判定するステップを含む。以下、このステップを「判定ステップ」と称することがある。
距離D≦{Ds+9√t×(I0/IC)3}/2 ・・・(4)
【0067】
本実施形態の抵抗スポット溶接部の検査方法によれば、狙い通りに焼き戻しが実施されたかどうかを簡単に判断(検査)することができる。
【0068】
以下、本実施形態の検査方法の各ステップについて詳細に説明する。
【0069】
(確認ステップ)
確認ステップは、第1の溶接打点の第1のナゲットと、第1の溶接打点に近接する1又は複数の第2の溶接打点の第2のナゲットとの重なりの有無を確認するステップである。第1のナゲットと第2のナゲットの重なりの有無を確認する手段は、特に限定されず、例えば、抵抗スポット溶接継手の溶接部を、第1のナゲットと第2のナゲットを通る面で切断し、その切断面を観察する手段などが挙げられる。
【0070】
また、上述のような溶接部の切断面を観察しなくても、第1の溶接打点及び第2の溶接打点の打点間距離などの情報から、第1のナゲットと第2のナゲットの重なりの有無が判定できる場合は、そのような情報を確認することを以って、確認ステップとしてもよい。例えば、確認ステップは、第1の溶接打点と第2の溶接打点の圧痕中心間の距離D(mm)と、第1の溶接打点の圧痕径Ds(mm)と、実測総板厚I0(mm)と、第2の溶接打点の圧痕中心における残板厚IC(mm)と、複数枚の鋼板のうち最も強度が高い鋼板の板厚t(mm)と、の情報に基づき、距離Dが下記の式(5)を満たすことを確認するステップであってもよい。なお、距離Dが下記の式(5)を満たす場合は、第1のナゲットと第2のナゲットが重なっていないと判定する。
距離D≦{Ds+5√t×(I0/IC)3}/2 ・・・(5)
【0071】
(測定ステップ)
測定ステップは、第1の溶接打点と第2の溶接打点の圧痕中心間の距離D(mm)と、第1の溶接打点の圧痕径Ds(mm)と、実測総板厚I0(mm)と、第2の溶接打点の圧痕中心における残板厚ICと(mm)と、複数枚の鋼板のうち最も強度が高い鋼板の板厚t(mm)と、をそれぞれ測定するステップである。これらの測定は、任意の測定機器等を用いて、各種測定対象を実測すればよい。
【0072】
(判定ステップ)
判定ステップは、第1のナゲットと第2のナゲットの重なりの有無と、上記の式(4)を満たすか否かと、に基づいて、第1のナゲットの焼き戻し状態の良否を判定するステップである。判定ステップでは、第1のナゲットと第2のナゲットとが重なっておらず、且つ、上記の式(4)を満たす場合に、第1のナゲットの焼き戻しの状態が良好であると判定する。一方、第1のナゲットと第2のナゲットとが重なっている場合、又は、上記の式(4)を満たさない場合に、第1のナゲットの焼き戻しの状態が不良であると判定する。
【0073】
なお、本実施形態の検査方法においては、本発明の効果を阻害しない限り、上述の各ステップ前後に、通常の検査方法で行われる任意のステップを有していてもよい。そのようなステップとしては、例えば前処理ステップなどが挙げられる。
【0074】
本発明の抵抗スポット溶接継手、抵抗スポット溶接方法及び抵抗スポット溶接部の検査方法は、上述の各実施形態や後述の実施例等に制限されることなく、本発明の目的、趣旨を逸脱しない範囲内において、適宜組み合わせや代替、変更等が可能である。なお、本明細書において、「第1」、「第2」等の序数は、当該序数が付された事項を区別するためのものであり、各事項の順序や優先度、重要度等を意味するものではない。
【実施例0075】
以下、実施例を例示して本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこのような実施例のみに限定されるものではない。
【0076】
本発明の効果を検証するために、板厚1.4mmのS45C材鋼板を2枚重ね合わせた板組を、直流インバータ電源の抵抗スポット溶接機にて、先端径6mmの先端R40のドームラジアス型電極を用いて第1の溶接打点の溶接を行った。加圧力は400kgf、保持時間は8cycとした。周波数は50Hzである。第1の溶接打点の通電時間は17cycとし、ナゲット径5√t(t=1.4mm)が得られるように溶接電流を選定した。
【0077】
さらに、第1の溶接打点の両側にナゲットが重ならないように第2の溶接打点の溶接を行った。第2の溶接打点の溶接は、溶接打点間距離及び通電条件を種々変化させて行い、それぞれの第1の溶接打点の破断形態を調査した。
【0078】
第1の溶接打点の破断形態は、次のように調査した。
スポット溶接部をタガネ試験(JIS Z 3144:2013「スポット及びプロジェクション溶接部の現場試験方法」を参照。)で破壊し、第1の溶接断点の破断形態が「界面破断」である場合は「不良」判定とし、「部分プラグ破断」及び「プラグ破断」である場合は「良好」判定とした。
【0079】
また、スポット溶接部の外表面における表面凹凸の発生状態を観察し、次の基準に従って外表面の良否を判定した。
◎(極めて良好):表面凹凸が目視で確認できない程度に軽微、又は表面凹凸が無い
〇(良好):表面凹凸が小さい(目安として、凸部の肉厚が総板厚の110%以下)
×(不良):表面凹凸が大きい(目安として、凸部の肉厚が総板厚の110%以上)
【0080】
各種溶接条件及び第1の溶接打点の破断形態の調査結果を下記の表1に示す。表1において、「電流比」は、第2の溶接打点の電流値/第1の溶接打点の電流値を表し、「距離Dc」は、{Ds+9√t×(I0/IC)3}/2の算出値を表す。また、「ナゲット硬さ比率」は、後述するように、第1のナゲットの最も低い硬さ/第2のナゲットの硬さ×100を表す。
【0081】
なお、ナゲットの硬さは、次の手順に従って測定した。
まず、スポット溶接部を切断して、第1および第2のナゲットの中心を通り、且つ、板組の表面に垂直な断面を現出させる。この断面を、溶融境界が判別できる程度に腐食させて、ナゲットを視認可能な状態にする。断面を腐食させる際に用いる腐食液は、例えばピクリン酸である。
次いで、ナゲット内部のビッカース硬さを板界面と平行方向に測定する。測定点の板界面からの距離は、1/3t以内が好ましく、更に好ましくは1/4t以内である。なお、本実施例では、1/4tの位置で測定した。
ビッカース硬さの測定は、JIS Z 2244:2009に準拠して行う。測定ピッチは、0.5mm以下である。測定荷重は、JIS Z 2244:2009に準拠する範囲で適宜設定すればよく、例えば1kgf(約9.81N)としてもよく、200gf(約1.96N)としてもよい。すなわち、JISで規定されている圧痕の対角線長さと圧痕間の中心距離との関係が測定ピッチ0.5mm以下の範囲を満足するように、測定荷重を選定すればよい。なお、本実施例では、測定荷重は500gf(約4.90N)を採用した。
このようにして得られたビッカース硬さの測定値において、第1のナゲット内で最も低い硬さの測定値を「第2の溶接打点の熱影響による軟化部と重なっている部分の最も低い硬さ」(本明細書においては、単に「第1のナゲットの最も低い硬さ」と称する場合がある。)とする。また、第2のナゲット内のビッカース硬さの測定値については、測定点が複数ある場合は、その複数の測定値の平均値を「第2のナゲットの硬さ」とし、測定点が1点しかない場合は、その1点の測定値を代表値とみなして「第2のナゲットの硬さ」とする。
【0082】
そして、上記第1のナゲットの最も低い硬さを上記第2のナゲットの硬さで除して、更に100を乗ずることにより、第2のナゲットの硬さに対する第1のナゲットの最も低い硬さの比率(%)、すなわち「ナゲット硬さ比率」を算出する。
【0083】
【0084】
表1に示すように、本発明例は、表面凹凸が「極めて良好」又は「良好」である上、第1の溶接打点の破断形態が「プラグ破断」又は「部分プラグ破断」であり、優れた継手強度を有していることがわかった。
これに対し、比較例は、表面凹凸が「不良」であるか、あるいは、第1の溶接打点の破断形態が「界面破断」であり、継手強度が低いことがわかった。
本発明の抵抗スポット溶接継手は、表散りを誘発する等の問題を生じ得る外表面の凹凸が少なく、継手強度にも優れているため、自動車等の輸送用機械や産業用機械の各種構造部品、建築物の構造体などの様々な構造部材に、好適に利用することができる。
また、本発明の抵抗スポット溶接方法によれば、1打点当たりのサイクルタイムを短縮することができ、生産外乱の影響を受けにくくすることができる。さらに、本発明の抵抗スポット溶接部の検査方法によれば、狙い通りに焼き戻しが実施されたかどうかを簡単に判断(検査)できる。したがって、本発明の抵抗スポット溶接方法及び抵抗スポット溶接部の検査方法は、生産効率や高品質が求められる自動車等の輸送用機械や産業用機械の各種構造部品、建築物の構造体などの様々な構造部材の製造に、好適に利用することができる。