特開 2024-117595 軸受シール

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)

(12)【公報種別】公開特許公報(A)

(11)【公開番号】P2024117595

(43)【公開日】2024-08-29

(54)【発明の名称】軸受シール

(51)【国際特許分類】

   F16C 33/78 20060101AFI20240822BHJP

   F16C 19/06 20060101ALI20240822BHJP

   F16J 15/3204 20160101ALI20240822BHJP

   F16J 15/3284 20160101ALI20240822BHJP

   F16J 15/20 20060101ALI20240822BHJP

【ＦＩ】

F16C33/78 Z

F16C33/78 E

F16C33/78 D

F16C19/06

F16J15/3204 201

F16J15/3284

F16J15/20

【審査請求】未請求

【請求項の数】5

【出願形態】ＯＬ

(21)【出願番号】P 2023023771

(22)【出願日】2023-02-17

(71)【出願人】

【識別番号】000211695

【氏名又は名称】中西金属工業株式会社

(74)【代理人】

【識別番号】110003823

【氏名又は名称】弁理士法人柳野国際特許事務所

(72)【発明者】

【氏名】行岡 太郎

【テーマコード（参考）】

3J006

3J043

3J216

3J701

【Ｆターム（参考）】

3J006AE12

3J006AE15

3J006AE30

3J006AE34

3J006AE41

3J006CA01

3J043AA16

3J043CA02

3J043CB05

3J043CB06

3J043CB07

3J043CB13

3J043DA20

3J043HA01

3J216AA02

3J216AA12

3J216AB06

3J216AB29

3J216BA18

3J216BA19

3J216CA04

3J216CB03

3J216CB13

3J216CB17

3J216CB19

3J216CC17

3J216CC33

3J216CC34

3J216CC45

3J216DA01

3J216DA02

3J216DA05

3J216DA09

3J216DA11

3J216EA01

3J216EA04

3J701AA02

3J701AA32

3J701AA42

3J701AA52

3J701AA62

3J701BA73

3J701EA01

3J701EA31

3J701EA47

3J701EA49

3J701EA72

3J701EA76

3J701FA11

3J701FA38

3J701GA24

(57)【要約】

【課題】転がり軸受の電食を防止する軸受シールにおいて、通電安定性を向上するとともに、製造を容易にする。
【解決手段】軸受シール１は、芯金４及び弾性体５からなる円環状のシールリング２と、外輪１１及び内輪１２を導通させるためにそれらに接触する導電材３とからなる。導電材３は、弾性体５に接合した状態で、シールリング２により保持された、導電繊維の束である導電繊維体８である。導電繊維体８の径方向Ｒの外方端９は、シールリング２から径方向Ｒの外方ＲＯへ突出し、芯金４よりも転がり軸受Ａの幅方向Ｂの外方ＢＯで外輪１１に接触する。導電繊維体８の径方向Ｒの内方端１０は、シールリング２から径方向Ｒの内方ＲＩへ突出し、芯金４よりも転がり軸受Ａの幅方向Ｂの外方ＢＯで内輪１２に接触する。
【選択図】図５

【特許請求の範囲】

【請求項1】

外輪、内輪及び転動体を含む転がり軸受に用いられる軸受シールであって、
芯金及び弾性体からなる円環状のシールリングと、前記外輪及び前記内輪を導通させるためにそれらに接触する導電材とからなり、
前記弾性体は、径方向の外方へ延びる外径側リップと、径方向の内方へ延びる内径側リップとを有し、
前記外径側リップは、前記外輪の係止溝内に係止され、
前記内径側リップは、前記内輪に接触しない非接触リップ、又は前記内輪に接触する接触リップであり、
前記導電材は、前記弾性体に埋め込まれた状態、又は前記弾性体に接合した状態で、前記シールリングにより保持された、導電繊維の束である導電繊維体であり、
前記導電繊維体の径方向の外方端は、前記シールリングから径方向の外方へ突出し、前記芯金よりも前記転がり軸受の幅方向の外方で前記外輪に接触し、
前記導電繊維体の径方向の内方端は、前記シールリングから径方向の内方へ突出し、前記芯金よりも前記転がり軸受の幅方向の外方で前記内輪に接触する、
軸受シール。

【請求項2】

外輪、内輪及び転動体を含む転がり軸受に用いられる軸受シールであって、
芯金及び弾性体からなる円環状のシールリングと、前記外輪及び前記内輪を導通させるためにそれらに接触する導電材とからなり、
前記弾性体は、径方向の内方へ延びる内径側リップと、径方向の外方へ延びる外径側リップとを有し、
前記内径側リップは、前記内輪の係止溝内に係止され、
前記外径側リップは、前記外輪に接触しない非接触リップ、又は前記外輪に接触する接触リップであり、
前記導電材は、前記弾性体に埋め込まれた状態、又は前記弾性体に接合した状態で、前記シールリングにより保持された、導電繊維の束である導電繊維体であり、
前記導電繊維体の径方向の内方端は、前記シールリングから径方向の内方へ突出し、前記芯金よりも前記転がり軸受の幅方向の外方で前記内輪に接触し、
前記導電繊維体の径方向の外方端は、前記シールリングから径方向の外方へ突出し、前記芯金よりも前記転がり軸受の幅方向の外方で前記外輪に接触する、
軸受シール。

【請求項3】

外輪、内輪及び転動体を含む転がり軸受に用いられる軸受シールであって、
円環状の金属製シール板と、前記シール板に接合された導電材とからなり、
前記シール板の径方向の外方の端部は、前記外輪の係止溝内に係止され、
前記導電材は、導電繊維の束である導電繊維体であり、
前記導電繊維体の径方向の内方端は、前記シール板から径方向の内方へ突出し、前記シール板よりも前記転がり軸受の幅方向の外方で前記内輪に接触する、
軸受シール。

【請求項4】

外輪、内輪及び転動体を含む転がり軸受に用いられる軸受シールであって、
円環状の金属製シール板と、前記シール板に接合された導電材とからなり、
前記シール板の径方向の内方の端部は、前記内輪の係止溝内に係止され、
前記導電材は、導電繊維の束である導電繊維体であり、
前記導電繊維体の径方向の外方端は、前記シール板から径方向の外方へ突出し、前記シール板よりも前記転がり軸受の幅方向の外方で前記外輪に接触する、
軸受シール。

【請求項5】

前記導電繊維体は、径方向へ直線状に延びる、
請求項１～４の何れか１項に記載の軸受シール。

【発明の詳細な説明】

【技術分野】

【0001】

本発明は、転がり軸受の電食を防止する軸受シールに関する。

【背景技術】

【0002】

例えば、電気自動車のモータ及び減速機ユニット、並びに電気自動車以外のインバータ駆動のモータ等では、電流が漏れて回転軸に流れる場合がある。その場合、前記回転軸を支持する転がり軸受において、潤滑油膜を破って内輪と外輪との間に電流が流れ、転動体の転動面にアークによって損傷が生じることがある。

【0003】

このような転がり軸受の電食を防止する軸受シールとして、内輪と外輪とを導通させるための導通機構を設けたものがある（例えば、特許文献１参照）。特許文献１の図１－２における導通機構１９は、シールリング１０ａを構成する弾性体１２中に、可撓性及び導電性を有する導電材１８を包埋保持することで構成される。

【0004】

シールリング１０ａの外径側リップである突出部１３は外輪３の係止溝９内に係止され、各導電材１８の径方向外端部が突出部１３の径方向外端縁から露出して係止溝９の内面に直接接触する。シールリング１０ａの内径側リップであるシールリップ１４は内輪５のシール溝１５内を摺動し、各導電材１８の径方向内端部がシールリップ１４の径方向内端縁から露出してシール溝１５の内面に直接接触する。

【先行技術文献】

【特許文献】

【0005】

【特許文献1】特開２００９－７９６４３号公報

【発明の概要】

【発明が解決しようとする課題】

【0006】

特許文献１のような軸受シールの構成の場合、シールリング１０ａを構成する弾性体１２中に導電材１８を包埋保持し、外径側リップの径方向外端縁から導電材１８を露出させるとともに、内径側リップの径方向内端縁から導電材１８を露出させ、導電材１８を外輪３及び内輪５に確実に接触させるようにすることは、製造上非常に困難である。

【0007】

特許文献１の図１のように内径側シールリップ１４が接触タイプである場合、導電材１８のみが内輪５のシール溝１５に接触することが考えられ、接触タイプのシールとしての機能が発現できないことが懸念される。

【0008】

本発明は、転がり軸受の電食を防止する軸受シールにおいて、通電抵抗を下げ且つ安定性を向上するとともに、製造を容易にすることを目的とする。また、リップが摺接するタイプのシールであってもシール性に影響を及ぼさないようにすることを目的とする。

【課題を解決するための手段】

【0009】

本発明の第１観点に係る軸受シールは、外輪、内輪及び転動体を含む転がり軸受に用いられる軸受シールであって、芯金及び弾性体からなる円環状のシールリングと、前記外輪及び前記内輪を導通させるためにそれらに接触する導電材とからなる。前記弾性体は、径方向の外方へ延びる外径側リップと、径方向の内方へ延びる内径側リップとを有する。前記外径側リップは、前記外輪の係止溝内に係止される。前記内径側リップは、前記内輪に接触しない非接触リップ、又は前記内輪に接触する接触リップである。前記導電材は、前記弾性体に埋め込まれた状態、又は前記弾性体に接合した状態で、前記シールリングにより保持された、導電繊維の束である導電繊維体である。前記導電繊維体の径方向の外方端は、前記シールリングから径方向の外方へ突出し、前記芯金よりも前記転がり軸受の幅方向の外方で前記外輪に接触する。前記導電繊維体の径方向の内方端は、前記シールリングから径方向の内方へ突出し、前記芯金よりも前記転がり軸受の幅方向の外方で前記内輪に接触する。

【0010】

本発明の第２観点に係る軸受シールは、外輪、内輪及び転動体を含む転がり軸受に用いられる軸受シールであって、芯金及び弾性体からなる円環状のシールリングと、前記外輪及び前記内輪を導通させるためにそれらに接触する導電材とからなる。前記弾性体は、径方向の内方へ延びる内径側リップと、径方向の外方へ延びる外径側リップとを有する。前記内径側リップは、前記内輪の係止溝内に係止される。前記外径側リップは、前記外輪に接触しない非接触リップ、又は前記外輪に接触する接触リップである。前記導電材は、前記弾性体に埋め込まれた状態、又は前記弾性体に接合した状態で、前記シールリングにより保持された、導電繊維の束である導電繊維体である。前記導電繊維体の径方向の内方端は、前記シールリングから径方向の内方へ突出し、前記芯金よりも前記転がり軸受の幅方向の外方で前記内輪に接触する。前記導電繊維体の径方向の外方端は、前記シールリングから径方向の外方へ突出し、前記芯金よりも前記転がり軸受の幅方向の外方で前記外輪に接触する。

【0011】

第１観点及び第２観点に係る軸受シールの構成によれば、転がり軸受の外輪及び内輪を導通させるためにそれらに接触する導電材は、シールリングの弾性体に埋め込まれた状態、又はシールリングの弾性体に接合した状態で、シールリングにより保持された、導電繊維の束である導電繊維体である。そして、導電繊維体の径方向の外方端は、シールリングから径方向の外方へ突出し、芯金よりも転がり軸受の幅方向の外方で外輪に接触する。導電繊維体の径方向の内方端は、シールリングから径方向の内方へ突出し、芯金よりも転がり軸受の幅方向の外方で内輪に接触する。

【0012】

すなわち、弾性体による接触ではなく、弾性体と独立している導電繊維体が外輪及び内輪に接触する。そして、導電繊維体の径方向の内方端が内輪を摺動するか、あるいは、導電繊維体の径方向の外方端が外輪を摺動する。このように、導電繊維の束である導電繊維体が転がり軸受の外輪及び内輪に直接接触して通電するので、フィラー（導電物質）をゴムに混ぜ合わせた導電性ゴムに比べて通電抵抗を下げ且つ安定性に優れている。

【0013】

また、特許文献１のような、シールリングの弾性体の外径側リップ内の導電材を外輪に接触させるとともに、シールリングの弾性体の内径側リップ内の導電材を内輪に接触させる軸受シールと比較して、導電材である導電繊維体を外輪及び内輪に確実に接触させることができるので通電安定性を大幅に向上できるとともに、製造が容易である。その上、リップが摺接するタイプの軸受シールであっても、リップから導電材が露出するものではなく、導電材はリップから独立しているので、導電材がシール性に影響を及ぼすことはない。

【0014】

本発明の第３観点に係る軸受シールは、外輪、内輪及び転動体を含む転がり軸受に用いられる軸受シールであって、円環状の金属製シール板と、前記シール板に接合された導電材とからなる。前記シール板の径方向の外方の端部は、前記外輪の係止溝内に係止される。前記導電材は、導電繊維の束である導電繊維体である。前記導電繊維体の径方向の内方端は、前記シール板から径方向の内方へ突出し、前記シール板よりも前記転がり軸受の幅方向の外方で前記内輪に接触する。

【0015】

本発明の第４観点に係る軸受シールは、外輪、内輪及び転動体を含む転がり軸受に用いられる軸受シールであって、円環状の金属製シール板と、前記シール板に接合された導電材とからなる。前記シール板の径方向の内方の端部は、前記内輪の係止溝内に係止される。前記導電材は、導電繊維の束である導電繊維体である。前記導電繊維体の径方向の外方端は、前記シール板から径方向の外方へ突出し、前記シール板よりも前記転がり軸受の幅方向の外方で前記外輪に接触する。

【0016】

第３観点及び第４観点に係る軸受シールの構成によれば、円環状の金属製シール板の径方向の外方の端部が外輪の係止溝内に係止され、前記シール板に接合された、導電繊維の束である導電繊維体の径方向の内方端が前記シール板よりも転がり軸受の幅方向の外方で内輪に接触する。あるいは、円環状の金属製シール板の径方向の内方の端部が内輪の係止溝内に係止され、前記シール板に接合された、導電繊維の束である導電繊維体の径方向の外方端が前記シール板よりも転がり軸受の幅方向の外方で外輪に接触する。

【0017】

すなわち、弾性体による接触ではなく、導電繊維体及び金属製シール板が内輪及び外輪に接触する。そして、導電繊維体の径方向の内方端が内輪を摺動するか、あるいは、導電繊維体の径方向の外方端が外輪を摺動する。導電繊維体を内輪及び外輪の両方に接触させる構成にすることも容易であり、その場合には、導電繊維の束である導電繊維体が転がり軸受の外輪及び内輪に直接接触して通電するので、フィラー（導電物質）をゴムに混ぜ合わせた導電性ゴムに比べて通電抵抗を下げ且つ安定性に優れている。また、転がり軸受の外輪及び内輪の一方には導電繊維体を接触させずに、前記一方に金属製シール板を接触させる構成であっても、前記導電性ゴムに比べて通電抵抗を下げ且つ安定性に優れている。

【0018】

また、特許文献１のような、シールリングの弾性体の外径側リップ内の導電材を外輪に接触させるとともに、シールリングの弾性体の内径側リップ内の導電材を内輪に接触させる軸受シールと比較して、通電安定性を大幅に向上できるとともに、製造が容易である。

【0019】

本発明の第５観点に係る軸受シールは、第１観点に係る軸受シールないし第４観点に係る軸受シールの何れかにおいて、前記導電繊維体は、径方向へ直線状に延びる。

【0020】

第５観点に係る軸受シールの構成によれば、導電繊維の束である導電繊維体が径方向へ直線状に延びているので、導電繊維体を構成する導電繊維が纏まりやすくなるとともに、導電繊維体の製造が容易になる。

【発明の効果】

【0021】

以上のとおり、本発明の軸受シールによれば、転がり軸受の電食を防止する軸受シールにおいて、導電繊維の束である導電繊維体を転がり軸受の外輪及び内輪に直接接触させて通電する構成、又は、転がり軸受の外輪及び内輪の一方には導電繊維体を接触させずに、前記一方に金属製シール板を接触させる構成により、通電抵抗を下げ且つ安定性を向上できるとともに、製造が容易である。その上、リップが摺接するタイプの軸受シールであっても、リップから導電材が露出するものではなく、導電材はリップから独立しているので、導電材がシール性に影響を及ぼすことはない。

【図面の簡単な説明】

【0022】

【図1】本発明の実施形態に係る転がり軸受の部分断面斜視図であり、導電材が弾性体に埋め込まれた状態でシールリングにより保持され、弾性体の内径側リップが非接触リップである例を示している。

【図2】図１の転がり軸受の要部拡大縦断面図である。

【図3】図１の転がり軸受を回転中心軸の方向から見た図である。

【図4】本発明の実施形態に係る転がり軸受の部分断面斜視図であり、導電材が弾性体に接合した状態でシールリングにより保持され、弾性体の内径側リップが非接触リップである例を示している。

【図5】図４の転がり軸受の要部拡大縦断面図である。

【図6】図４の転がり軸受を回転中心軸の方向から見た図である。

【図7】本発明の実施形態に係る転がり軸受の部分断面斜視図であり、導電材が弾性体に接合した状態でシールリングにより保持され、弾性体の内径側リップが接触リップである例を示している。

【図8】図７の転がり軸受の要部拡大縦断面図である。

【図9】図７の転がり軸受を回転中心軸の方向から見た図である。

【図10】図７ないし図９の軸受シールにおける導電材を、図１ないし図３のように弾性体に埋め込まれた状態にした例を示す要部拡大縦断面図である。

【図11】図１ないし図３の転がり軸受において、内輪にシール溝が無い例を示す要部拡大縦断面図である。

【図12】円環状の金属製シール板と導電材からなる軸受シールの例を示す要部拡大縦断面図である。

【発明を実施するための形態】

【0023】

以下、本発明に係る実施形態を図面に基づいて説明する。

【0024】

本明細書において、転がり軸受の回転中心軸（例えば、図１及び図３の符号Ｏ参照）の方向に平行な方向を「幅方向」（例えば、図１及び図２の矢印Ｂ参照）、前記回転中心軸の方向に直交する方向を「径方向」（例えば、図２及び図３の矢印Ｒ参照）という。前記回転中心軸の方向に対して「周方向」（例えば、図１及び図３の矢印Ｃ参照）を定義する。

【0025】

本明細書において、転がり軸受の幅方向の中央（例えば、図２の符号Ｄ）に近づく幅方向を「幅方向の内方」（例えば、図２の矢印ＢＩ参照）、前記幅方向の中央から遠ざかる幅方向を「幅方向の外方」（例えば、図２の矢印ＢＯ参照）、前記回転中心軸に近づく径方向を「径方向の内方」（例えば、図２の矢印ＲＩ参照）、前記回転中心軸から遠ざかる径方向を「径方向の外方」（例えば、図２の矢印ＲＯ参照）という。

【0026】

［転がり軸受］
図１ないし図１２に示す転がり軸受Ａは、外輪１１、内輪１２、転動体１３、及び保持器１４、並びに軸受シール１等を備える。転動体１３は、外輪１１の軌道面と内輪１２の軌道面間との間を転動する。保持器１４は、転動体１３を所定間隔に案内して回転自在に保持する。

【0027】

［軸受シール］
図１ないし図１１に示す軸受シール１は、円環状のシールリング２と、外輪１１及び内輪１２を導通させるために外輪１１及び内輪１２に接触する導電材３とからなる。

【0028】

図１ないし図３に示す軸受シール１は、導電材３が弾性体５に埋め込まれた状態でシールリング２により保持され、弾性体５の内径側リップ７が非接触リップである例を示している。図４ないし図６に示す軸受シール１は、導電材３が弾性体５に接合した状態でシールリング２により保持され、弾性体５の内径側リップ７が非接触リップである例を示している。図７ないし図９に示す軸受シール１は、導電材３が弾性体５に接合した状態でシールリング２により保持され、弾性体５の内径側リップ７が接触リップである例を示している。

【0029】

図１０に示す軸受シール１は、図７ないし図９の軸受シール１における導電材３を、図１ないし図３のように弾性体５に埋め込まれた状態にした例を示している。図１１に示す軸受シール１は、図１ないし図３の転がり軸受Ａにおいて、内輪１２にシール溝が無い例を示している。

【0030】

図１ないし図１１に示すシールリング２は、芯金４及び弾性体５からなる。芯金４は金属材料からなり、弾性体５はゴム材料からなる。弾性体５は、径方向Ｒの外方ＲＯへ延びる外径側リップ６と、径方向Ｒの内方ＲＩへ延びる内径側リップ７とを有する。

【0031】

図１ないし図１１に示す軸受シール１において、図２、図５、図８、図１０及び図１１に示すように、外径側リップ６は、外輪１１の係止溝１１Ａ内に係止される。

【0032】

図１ないし図６に示す軸受シール１において、図２及び図５に示すように、内径側リップ７は、内輪１２のシール溝１２Ａ内に位置する非接触リップである。図７ないし図１０に示す軸受シール１において、図８及び図１０に示すように、内径側リップ７は、内輪１２のシール溝１２Ａの内面に接触する接触リップである。図１１に示す軸受シール１において、内径側リップ７は、シール溝１２Ａが無い内輪１２の外周面に対向する非接触リップである。前記非接触リップ又は前記接触リップである内径側リップ７は、導電材３よりも幅方向Ｂの内方ＢＩに位置し、導電材３と独立している。

【0033】

内径側リップ７を非接触リップにすることにより、摺動トルクを小さくすることができる。内径側リップ７を接触リップにすることにより、摺動トルクは増加するが、シール性能を高めることができる。

【0034】

図１ないし図３、図１０及び図１１に示す軸受シール１において、導電材３は、弾性体５に埋め込まれた状態で、シールリング２により保持される。図４ないし図９に示す軸受シール１において、導電材３は、弾性体５の幅方向Ｂの外方ＢＯの面に接合された状態で、シールリング２により保持される。

【0035】

導電材３は、導電繊維の束である導電繊維体８である。導電繊維には、炭素繊維、又は金属を被覆させた化学繊維等を用いる。化学繊維を被覆する金属には、銅、銀及び／又はニッケル等を用いる。炭素繊維は、ポリエステル樹脂又はポリ塩化ビニル樹脂等を混ぜることで補強することもできる。

【0036】

図１ないし図１１に示す軸受シール１において、図２、図５、図８、図１０及び図１１に示すように、導電繊維体８の径方向Ｒの外方端９は、シールリング２から径方向Ｒの外方ＲＯへ突出し、外輪１１の係止溝１１Ａよりも転がり軸受Ａの幅方向Ｂの外方ＢＯで外輪１１に接触する。導電繊維体８の径方向Ｒの内方端１０は、シールリング２から径方向Ｒの内方ＲＩへ突出し、芯金４よりも転がり軸受Ａの幅方向Ｂの外方ＢＯで内輪１２に接触する。

【0037】

図３、図６及び図９に示すように、導電繊維体８は、径方向Ｒに延び、周方向Ｃに略等間隔に配置された状態で、シールリング２により保持される。そして、図１ないし図１１に示すように、導電繊維の束である導電繊維体８は、径方向Ｒへ直線状に延びている。したがって、導電繊維体８を構成する導電繊維が纏まりやすくなるとともに、導電繊維体８の製造が容易になる。

【0038】

図１２に示す軸受シール１は、円環状の金属製シール板Ｅと、外輪１１及び内輪１２を導通させるために外輪１１及び内輪１２に接触する導電材３とからなる。導電材３は、シール板Ｅの幅方向Ｂの外方ＢＯの面に接合される。シール板Ｅの径方向Ｒの外方ＲＯの端部は、外輪１１の係止溝１１Ａ内に係止される。導電繊維体８の径方向Ｒの内方端１０は、シール板Ｅの円環部から径方向Ｒの内方ＲＩへ突出し、シール板Ｅよりも転がり軸受Ａの幅方向Ｂの外方ＢＯで内輪１２に接触する。また、導電繊維体８の径方向Ｒの外方端９は、シール板Ｅの円環部から径方向Ｒの外方ＲＯへ突出し、シール板Ｅよりも転がり軸受Ａの幅方向Ｂの外方ＢＯで外輪１１に接触する。なお、シール板Ｅの径方向Ｒの外方ＲＯの端部が外輪１１の係止溝１１Ａ内に係止されていることから、シール板Ｅと外輪１１とは通電するので、導電繊維体８の径方向Ｒの外方端９を外輪１１に接触させない構成にしてもよい。

【0039】

図１ないし図１２に示す実施形態においては、例えば、図３、図６及び図９に示すように、周方向Ｃに略等間隔に、８個の導電繊維体８を配置している。本発明はこのような構成に限定されるものではない。すなわち、導電繊維体８の数に制限はなく、導電繊維体８は円周上のある一部分で外輪１１及び／又は内輪１２に接触していればよく、導電繊維体８は全周にわたって繋がっていてもよい。

【0040】

図１ないし図１１に示す軸受シール１では、弾性体５の外径側リップ６が外輪１１の係止溝１１Ａ内に係止され、図１２に示す軸受シール１では、シール板Ｅの径方向Ｒの外方ＲＯの端部が外輪１１の係止溝１１Ａ内に係止されている。したがって、導電繊維体８の径方向Ｒの内方端１０が内輪１２を摺動する内輪摺動タイプである。

【0041】

本発明はこのような構成に限定されるものではなく、導電繊維体８の径方向Ｒの外方端９が外輪１１を摺動する外輪摺動タイプであってもよい。図１ないし図１１に示す軸受シール１において外輪摺動タイプである場合、弾性体５の内径側リップが内輪１２の係止溝内に係止され、弾性体５の外径側リップは、外輪１１に接触しない非接触リップ、又は外輪１１に接触する接触リップである。図１２に示す軸受シール１において外輪摺動タイプである場合、シール板Ｅの径方向Ｒの内方ＲＩの端部が内輪１２の係止溝内に係止される。

【0042】

［作用効果］
本発明の実施の形態に係る図１ないし図１１の内輪摺動タイプの軸受シール１、及びそれらの外輪摺動タイプの軸受シール１によれば、転がり軸受Ａの外輪１１及び内輪１２を導通させるためにそれらに接触する導電材３は、シールリング２の弾性体５に埋め込まれた状態、又はシールリング２の弾性体５に接合した状態で、シールリング２により保持された、導電繊維の束である導電繊維体８である。そして、導電繊維体８の径方向Ｒの外方端９は、シールリング２から径方向Ｒの外方ＲＯへ突出し、芯金４よりも転がり軸受Ａの幅方向Ｂの外方ＢＯで外輪１１に接触する。導電繊維体８の径方向Ｒの内方端１０は、シールリング２から径方向Ｒの内方ＲＩへ突出し、芯金４よりも転がり軸受Ａの幅方向Ｂの外方ＢＯで内輪１２に接触する。

【0043】

すなわち、弾性体による接触ではなく、弾性体と独立している導電繊維体８が外輪１１及び内輪１２に接触する。そして、導電繊維体８の径方向Ｒの内方端１０が内輪１２を摺動するか、あるいは、導電繊維体８の径方向Ｒの外方端９が外輪１１を摺動する。このように、導電繊維の束である導電繊維体８が転がり軸受Ａの外輪１１及び内輪１２に直接接触して通電するので、フィラー（導電物質）をゴムに混ぜ合わせた導電性ゴムに比べて通電抵抗を下げ且つ安定性に優れている。

【0044】

また、特許文献１のような、シールリングの弾性体の外径側リップ内の導電材を外輪に接触させるとともに、シールリングの弾性体の内径側リップ内の導電材を内輪に接触させる軸受シールと比較して、導電材３である導電繊維体８を外輪１１及び内輪１２に確実に接触させることができるので通電安定性を大幅に向上できるとともに、製造が容易である。その上、図７ないし図１０のようなリップが摺接するタイプの軸受シールであっても、リップから導電材３が露出するものではなく、導電材３はリップから独立しているので、導電材３がシール性に影響を及ぼすことはない。

【0045】

本発明の実施の形態に係る図１２の内輪摺動タイプの軸受シール１、及びその外輪摺動タイプの軸受シール１によれば、円環状の金属製シール板Ｅの径方向Ｒの外方ＲＯの端部が外輪１１の係止溝１１Ａ内に係止され、あるいは、円環状の金属製シール板Ｅの径方向Ｒの内方ＲＩの端部が内輪１２の係止溝内に係止された状態で、シール板Ｅに接合された、導電繊維の束である導電繊維体８の径方向Ｒの内方端１０がシール板Ｅよりも転がり軸受Ａの幅方向Ｂの外方ＢＯで内輪１２に接触し、導電繊維体８の径方向Ｒの外方端９がシール板Ｅよりも転がり軸受Ａの幅方向Ｂの外方ＢＯで外輪１１に接触する。

【0046】

すなわち、弾性体による接触ではなく、導電繊維体８が内輪１２及び外輪１１に接触する。したがって、導電繊維の束である導電繊維体８が転がり軸受Ａの外輪１１及び内輪１２に直接接触して通電するので、フィラー（導電物質）をゴムに混ぜ合わせた導電性ゴムに比べて通電抵抗を下げ且つ安定性に優れている。

【0047】

また、特許文献１のような、シールリングの弾性体の外径側リップ内の導電材を外輪に接触させるとともに、シールリングの弾性体の内径側リップ内の導電材を内輪に接触させる軸受シールと比較して、通電安定性を大幅に向上できるとともに、製造が容易である。

【0048】

以上の実施の形態の記載はすべて例示であり、これに制限されるものではない。本発明の範囲から逸脱することなく種々の改良及び変更を施すことができる。

【符号の説明】

【0049】

１ 軸受シール
２ シールリング
３ 導電材
４ 芯金
５ 弾性体
６ 外径側リップ
７ 内径側リップ
８ 導電繊維体
９ 径方向の外方端
１０ 径方向の内方端
１１ 外輪
１１Ａ 係止溝
１２ 内輪
１２Ａ シール溝
１３ 転動体
１４ 保持器
Ａ 転がり軸受
Ｂ 幅方向
ＢＩ 内方
ＢＯ 外方
Ｃ 周方向
Ｄ 幅方向中央
Ｅ 金属製シール板
Ｏ 回転中心軸
Ｒ 径方向
ＲＩ 内方
ＲＯ 外方

【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】

【図8】

【図9】

【図10】

【図11】

【図12】