(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024117597
(43)【公開日】2024-08-29
(54)【発明の名称】軸受シール
(51)【国際特許分類】
F16C 33/78 20060101AFI20240822BHJP
F16C 19/06 20060101ALI20240822BHJP
F16J 15/3204 20160101ALI20240822BHJP
F16J 15/20 20060101ALI20240822BHJP
【FI】
F16C33/78 Z
F16C19/06
F16J15/3204 201
F16J15/20
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023023773
(22)【出願日】2023-02-17
(71)【出願人】
【識別番号】000211695
【氏名又は名称】中西金属工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003823
【氏名又は名称】弁理士法人柳野国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】行岡 太郎
【テーマコード(参考)】
3J006
3J043
3J216
3J701
【Fターム(参考)】
3J006AE12
3J006AE15
3J006AE30
3J006AE34
3J006AE42
3J006CA01
3J006CA03
3J043AA16
3J043CA02
3J043CB05
3J043CB06
3J043CB07
3J043CB13
3J043DA20
3J043HA01
3J216AA02
3J216AA12
3J216AB29
3J216BA16
3J216BA18
3J216BA19
3J216CA04
3J216CA06
3J216CB03
3J216CB13
3J216CB19
3J216CC16
3J216CC33
3J216CC45
3J216DA03
3J216DA05
3J216DA09
3J216DA11
3J216EA01
3J701AA02
3J701AA32
3J701AA42
3J701AA52
3J701AA62
3J701BA73
3J701EA01
3J701EA31
3J701EA47
3J701EA49
3J701EA72
3J701EA76
3J701FA11
3J701FA38
3J701GA24
(57)【要約】
【課題】転がり軸受の電食を防止する軸受シールにおいて、摺動トルクが大きくなることがなく、安定して導電性が確保できるようにするとともに、製造コストが増大しないようにする。
【解決手段】軸受シール1は、円環状の第1金属板2A及び第2金属板2Bと、第1金属板2Aと第2金属板2Bにより挟持された摺動部材3とを備える。第1金属板2Aが外輪11に接触する。摺動部材3は導電繊維の束4である。第1金属板2A及び第2金属板2Bの径方向Rの内方端5から径方向Rの内方RIへ延びる導電繊維の束4の延出部6の先端6Aが内輪12に接触する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
外輪、内輪及び転動体を含む転がり軸受に用いられる軸受シールであって、
円環状の第1金属板及び第2金属板と、
前記第1金属板と前記第2金属板により挟持された摺動部材と、
を備え、
前記第1金属板及び前記第2金属板の一方若しくは両方、又は、
前記第1金属板及び前記第2金属板の径方向の外方の部分を被って径方向の外方へ延出する導電ゴムが、
前記外輪に接触し、
前記摺動部材は導電繊維の束であり、
前記第1金属板及び前記第2金属板の径方向の内方端から径方向の内方へ延びる前記導電繊維の束の延出部の先端が前記内輪に接触する、
軸受シール。
【請求項2】
外輪、内輪及び転動体を含む転がり軸受に用いられる軸受シールであって、
円環状の第1金属板及び第2金属板と、
前記第1金属板と前記第2金属板により挟持された摺動部材と、
を備え、
前記第1金属板及び前記第2金属板の一方若しくは両方、又は、
前記第1金属板及び前記第2金属板の径方向の内方の部分を被って径方向の内方へ延出する導電ゴムが、
前記内輪に接触し、
前記摺動部材は導電繊維の束であり、
前記第1金属板及び前記第2金属板の径方向の外方端から径方向の外方へ延びる前記導電繊維の束の延出部の先端が前記外輪に接触する、
軸受シール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、転がり軸受の電食を防止する軸受シールに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、電気自動車のモータ及び減速機ユニット、並びに電気自動車以外のインバータ駆動のモータ等では、電流が漏れて回転軸に流れる場合がある。その場合、前記回転軸を支持する転がり軸受において、潤滑油膜を破って内輪と外輪との間に電流が流れ、転動体の転動面にアークによって損傷が生じることがある。
【0003】
このような転がり軸受の電食を防止する軸受シールとして、2枚の金属板製の環状部材で導電性を有する摺動部材を挟んで支持したものがある(例えば、特許文献1及び2参照)。特許文献1の軸受シールでは、前記摺動部材は円環状の導電ゴムであり、特許文献2の軸受シールでは、前記摺動部材は導電性繊維と低摩擦性繊維とが織り込まれた円環状の平織の織物である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実開平6-73457号公報
【特許文献2】特開2010-106971号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の軸受シールのように前記摺動部材として円環状の導電ゴムを使用した場合、摺動トルクが大きくなるという問題がある。一般に、ゴムを用いた摺動では、トルクを下げるためにグリース等の潤滑剤を摺動面に介在させて使用される。この場合、流体潤滑状態となり、導電ゴムと摺動面の間の接触面積が小さくなることから、導電性能が安定しない。
【0006】
特許文献2の軸受シールのように前記摺動部材として導電性繊維と低摩擦性繊維とが織り込まれた円環状の平織の織物を使用した場合、前記摺動部材は導電性繊維と非導電性繊維の組合せであるため、導電性を示さない面が存在するので、導電性が確保できない場合がある。その上、導電性繊維と低摩擦性繊維の2種類の繊維を組み合わせて所要の導電性及び低摩擦性を得るように平織の織物にすることには技術的困難性を伴うので、製造コストが増大する。
【0007】
本発明は、転がり軸受の電食を防止する軸受シールにおいて、摺動トルクが大きくなることがなく、安定して導電性が確保できるようにするとともに、製造コストが増大しないようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る軸受シールは、前記課題解決のために、外輪、内輪及び転動体を含む転がり軸受に用いられる軸受シールであって、円環状の第1金属板及び第2金属板と、前記第1金属板と前記第2金属板により挟持された摺動部材とを備える。前記第1金属板及び前記第2金属板の一方若しくは両方、又は、前記第1金属板及び前記第2金属板の径方向の外方の部分を被って径方向の外方へ延出する導電ゴムが、前記外輪に接触する。前記摺動部材は導電繊維の束である。前記第1金属板及び前記第2金属板の径方向の内方端から径方向の内方へ延びる前記導電繊維の束の延出部の先端が前記内輪に接触する。
【0009】
本発明に係る軸受シールは、前記課題解決のために、外輪、内輪及び転動体を含む転がり軸受に用いられる軸受シールであって、円環状の第1金属板及び第2金属板と、前記第1金属板と前記第2金属板により挟持された摺動部材とを備える。前記第1金属板及び前記第2金属板の一方若しくは両方、又は、前記第1金属板及び前記第2金属板の径方向の内方の部分を被って径方向の内方へ延出する導電ゴムが、前記内輪に接触する。前記摺動部材は導電繊維の束である。前記第1金属板及び前記第2金属板の径方向の外方端から径方向の外方へ延びる前記導電繊維の束の延出部の先端が前記外輪に接触する。
【0010】
これらのような軸受シールの構成によれば、第1金属板と第2金属板により挟持された摺動部材が導電繊維の束であり、導電繊維の束の前記延出部の先端が内輪又は外輪を摺動する。それにより、内輪又は外輪を摺動する摺動部材である導電繊維の束のどの位置が内輪又は外輪に接触しても導電性を有するので、導電性を確保できる。
【0011】
したがって、特許文献1のような摺動部材が円環状の導電ゴムであるものと比較して、摺動トルクを大幅に小さくできるとともに、安定した導電性能を発揮できる。また、特許文献2のような摺動部材が導電性繊維と低摩擦性繊維とが織り込まれた円環状の平織の織物であるものと比較して、安定した導電性能を発揮できるとともに、製造に技術的困難性がなく製造しやすいので、製造コストが増大しない。
【発明の効果】
【0012】
以上のとおり、本発明の軸受シールによれば、転がり軸受の電食を防止する軸受シールにおいて、第1金属板と第2金属板により挟持された摺動部材が導電繊維の束であることから、摺動トルクが大きくなることがなく、安定して導電性が確保できるとともに、製造コストが増大しない。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の実施形態に係る転がり軸受の部分断面斜視図であり、第1金属板が外輪に接触し、摺動部材である導電繊維の束の延出部の先端が内輪に接触する例を示している。
【
図2】
図1の転がり軸受の要部拡大縦断面図である。
【
図3】
図1の転がり軸受を回転中心軸の方向から見た図である。
【
図4】本発明の実施形態に係る転がり軸受の要部拡大縦断面図であり、摺動部材である導電繊維の束の延出部の先端が接触する内輪が、幅方向の外周面である円筒ではなく、幅方向内方へ行くにしたがって径方向外方へ近づく傾斜面である場合の例を示している。
【
図5】本発明の実施形態に係る転がり軸受の部分断面斜視図であり、第1金属板及び第2金属板の径方向の外方の部分を被って径方向の外方へ延出する導電ゴムが外輪に接触し、摺動部材である導電繊維の束の延出部の先端が内輪に接触する例を示している。
【
図6】
図5の転がり軸受の要部拡大縦断面図である。
【
図7】
図5の転がり軸受を回転中心軸の方向から見た図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に係る実施形態を図面に基づいて説明する。
【0015】
本明細書において、転がり軸受の回転中心軸(例えば、
図1及び
図3の符号O参照)の方向に平行な方向を「幅方向」(例えば、
図1及び
図2の矢印B参照)、前記回転中心軸の方向に直交する方向を「径方向」(例えば、
図2及び
図3の矢印R参照)という。前記回転中心軸の方向に対して「周方向」(例えば、
図1及び
図3の矢印C参照)を定義する。
【0016】
本明細書において、転がり軸受の幅方向の中央(例えば、
図2の符号D)に近づく幅方向を「幅方向の内方」(例えば、
図2の矢印BI参照)、前記幅方向の中央から遠ざかる幅方向を「幅方向の外方」(例えば、
図2の矢印BO参照)、前記回転中心軸に近づく径方向を「径方向の内方」(例えば、
図2の矢印RI参照)、前記回転中心軸から遠ざかる径方向を「径方向の外方」(例えば、
図2の矢印RO参照)という。
【0017】
[転がり軸受]
図1ないし
図7に示す転がり軸受Aは、外輪11、内輪12、転動体13、及び保持器14、並びに軸受シール1等を備える。転動体13は、外輪11の軌道面と内輪12の軌道面間との間を転動する。保持器14は、転動体13を所定間隔に案内して回転自在に保持する。
【0018】
[軸受シール]
図1ないし
図7に示す軸受シール1は、円環状の第1金属板2A及び第2金属板2Bと、第1金属板2Aと第2金属板2Bにより挟持された摺動部材3とを備える。摺動部材3は、
図3及び
図6に示すように、径方向Rに延び、例えば周方向Cに略等間隔に配置される。
【0019】
摺動部材3は導電繊維の束4である。導電繊維には、炭素繊維、又は金属を被覆させた化学繊維等を用いる。化学繊維を被覆する金属には、銅、銀及び/又はニッケル等を用いる。炭素繊維は、ポリエステル樹脂又はポリ塩化ビニル樹脂等を混ぜることで補強することもできる。
【0020】
第1金属板2A及び第2金属板2Bの径方向Rの内方端5から径方向Rの内方RIへ延びる導電繊維の束4の延出部6の先端6Aが内輪12に接触する。
【0021】
図1ないし
図4に示す軸受シール1は、第1金属板2Aが外輪11の係止溝11Aに入り、第1金属板2Aが外輪11に接触する。第1金属板2A及び第2金属板2Bの一方又は両方を外輪11に接触させればよい。
図5ないし
図7に示す軸受シール1は、第1金属板2A及び第2金属板2Bの径方向Rの外方ROの部分を被って径方向Rの外方ROへ延出する導電ゴム7が外輪11の係止溝11Aに入り、導電ゴム7が外輪11に接触する。
【0022】
導電ゴム7は、導電性を有する、ニトリルゴム(NBR)、水素化ニトリルゴム(HNBR)、アクリルゴム(ACM)、シリコーンゴム(VQM)、フッ素ゴム(FKM)、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)等からなる。
【0023】
図1ないし
図7に示す実施形態においては、
図3及び
図7に示すように、周方向Cに略等間隔に、8個の導電繊維の束4である摺動部材3を配置している。本発明はこのような構成に限定されるものではない。すなわち、摺動部材3の数に制限はなく、摺動部材3は円周上のある一部分で内輪12に接触していればよく、摺動部材3は全周にわたって繋がっていてもよい。
【0024】
図1ないし
図7に示す実施形態において、
図2及び
図6に示す例では、摺動部材3である導電繊維の束4の延出部6の先端6Aは、内輪12の幅方向Bの外周面である円筒面に接触している。本発明はこのような構成に限定されるものではない。例えば、
図4に示すように、導電繊維の束4の延出部6の先端6Aを、幅方向内方BIへ行くにしたがって径方向外方ROへ近づく内輪12の傾斜面に接触させてもよい。
【0025】
図1ないし
図7に示す軸受シール1は、摺動部材3が内輪12の外周面を摺動する内輪
摺動タイプでる。本発明はこのような構成に限定されるものではなく、外輪摺動タイプであってもよい。
【0026】
外輪摺動タイプである場合、第1金属板2A及び第2金属板の一方若しくは両方、又は、第1金属板2A及び第2金属板2Bの径方向Rの内方RIの部分を被って径方向Rの内方RIへ延出する導電ゴムが内輪12に接触する。そして、第1金属板2A及び第2金属板2Bの径方向Rの外方端から径方向Rの外方ROへ延びる導電繊維の束4の延出部の先端が外輪11に接触する。
【0027】
[作用効果]
本発明の実施形態に係る軸受シール1の構成によれば、第1金属板2Aと第2金属板2Bにより挟持された摺動部材3が導電繊維の束4であり、導電繊維の束4の延出部6の先端が内輪12又は外輪11を摺動する。それにより、内輪12又は外輪11を摺動する摺動部材3である導電繊維の束4のどの位置が内輪12又は外輪11に接触しても導電性を有するので、導電性を確保できる。
【0028】
したがって、特許文献1のような摺動部材が円環状の導電ゴムであるものと比較して、摺動トルクを大幅に小さくできるとともに、安定した導電性能を発揮できる。また、特許文献2のような摺動部材が導電性繊維と低摩擦性繊維とが織り込まれた円環状の平織の織物であるものと比較して、安定した導電性能を発揮できるとともに、製造に技術的困難性がなく製造しやすいので、製造コストが増大しない。
【0029】
以上の実施の形態の記載はすべて例示であり、これに制限されるものではない。本発明の範囲から逸脱することなく種々の改良及び変更を施すことができる。
【符号の説明】
【0030】
1 軸受シール
2A 第1金属板
2B 第2金属板
3 摺動部材
4 導電繊維の束
5 径方向の内方端
6 延出部
6A 先端
7 導電ゴム
11 外輪
11A 係止溝
12 内輪
13 転動体
14 保持器
A 転がり軸受
B 幅方向
BI 内方
BO 外方
C 周方向
D 幅方向中央
R 径方向
RI 内方
RO 外方