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特開2024-117600腹腔内環流による血中二酸化炭素除去システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024117600
(43)【公開日】2024-08-29
(54)【発明の名称】腹腔内環流による血中二酸化炭素除去システム
(51)【国際特許分類】
   A61M 1/16 20060101AFI20240822BHJP
   A61M 1/32 20060101ALI20240822BHJP
【FI】
A61M1/16 107
A61M1/32 500
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023023778
(22)【出願日】2023-02-17
(71)【出願人】
【識別番号】596165589
【氏名又は名称】学校法人 聖マリアンナ医科大学
(74)【代理人】
【識別番号】100160543
【弁理士】
【氏名又は名称】河野上 正晴
(74)【代理人】
【識別番号】100170874
【弁理士】
【氏名又は名称】塩川 和哉
(72)【発明者】
【氏名】中川 雅史
【テーマコード(参考)】
4C077
【Fターム(参考)】
4C077AA03
4C077BB06
4C077BB09
4C077DD01
4C077DD21
4C077EE02
4C077EE05
(57)【要約】
【課題】血液を異物に触れさせることなく呼吸補助ができる血中二酸化炭素除去システムを提供する。
【解決手段】腹腔内への挿入並びに腹膜への送液及び腹膜からの排液が可能な環流用チューブ、ポンプ、二酸化炭素除去部、腹腔内圧力測定部、第1の流れ方向制御部、及び第2の流れ方向制御部、並びに第1及び第2の流れ方向制御部に接続されるバイパス用チューブを含み、環流用チューブ、ポンプ、及び二酸化炭素除去部が、環流用チューブ内を流れる流体を腹膜に環流可能且つ腹膜から排液される流体から二酸化炭素を除去可能に構成され、第1及び第2の流れ方向制御部が、環流用チューブ内を送液される流体を、第1の流れ方向制御部から第2の流れ方向制御部に向かってバイパス用チューブをバイパスさせて腹膜に逆流可能に構成される、血中二酸化炭素除去システム。
【選択図】図1

【特許請求の範囲】
【請求項1】
腹腔内への挿入並びに腹膜への送液及び前記腹膜からの排液が可能な環流用チューブ、
前記環流用チューブに接続されるポンプ、
二酸化炭素除去部、
腹腔内圧力測定部、
前記環流用チューブの送液側に接続される二股の第1の流れ方向制御部、及び前記環流用チューブの排液側に接続される二股の第2の流れ方向制御部、並びに
前記第1の流れ方向制御部及び前記第2の流れ方向制御部に接続されるバイパス用チューブ
を含み、
前記環流用チューブ、前記ポンプ、及び前記二酸化炭素除去部が、前記環流用チューブ内を流れる流体を前記腹膜に環流可能且つ前記腹膜から排液される流体から二酸化炭素を除去可能に構成され、
前記第1の流れ方向制御部及び前記第2の流れ方向制御部が、前記環流用チューブ内を送液される流体を、前記第1の流れ方向制御部から前記第2の流れ方向制御部に向かって前記バイパス用チューブをバイパスさせて前記腹膜に逆流可能に構成される、
血中二酸化炭素除去システム。
【請求項2】
前記第1の流れ方向制御部及び前記第2の流れ方向制御部が、前記腹腔内圧力測定部により測定される前記腹腔内の圧力測定値に基づいて、前記環流用チューブ内を送液される流体を、前記第1の流れ方向制御部から前記第2の流れ方向制御部に向かって前記バイパス用チューブをバイパスさせて前記腹膜に逆流可能に構成される、請求項1に記載の血中二酸化炭素除去システム。
【請求項3】
前記腹腔内圧力測定部が、腹腔内に配置可能な圧力チューブと前記圧力チューブに接続される圧力トランスデューサとを含む、請求項1に記載の血中二酸化炭素除去システム。
【請求項4】
前記環流用チューブの前記送液側及び前記排液側の流量を測定可能な流量計をさらに含む、請求項1に記載の血中二酸化炭素除去システム。
【請求項5】
前記第1の流れ方向制御部及び前記第2の流れ方向制御部が、前記腹腔内圧力測定部により測定される前記腹腔内の圧力測定値、前記流量計により測定される前記送液側及び前記排液側の流量、またはそれらの組合せに基づいて、前記環流用チューブ内を送液される流体を、前記第1の流れ方向制御部から前記第2の流れ方向制御部に向かって前記バイパス用チューブをバイパスさせて前記腹膜に逆流可能に構成される、請求項4に記載の血中二酸化炭素除去システム。
【請求項6】
前記送液側の環流用チューブと前記排液側の環流用チューブの前記腹腔内に挿入可能な長さが異なる、請求項1に記載の血中二酸化炭素除去システム。
【請求項7】
前記送液側の環流用チューブと前記排液側の環流用チューブの前記腹腔内に挿入可能な長さが異なり、長さが短い方の環流用チューブの端部が他方の環流用チューブの側面に一体である、請求項1に記載の血中二酸化炭素除去システム。
【請求項8】
前記血中二酸化炭素除去システムは、前記環流用チューブが前記腹腔内へ挿入される箇所のうち少なくとも1つに配置可能なアウターチューブをさらに含む、請求項1に記載の血中二酸化炭素除去システム。
【請求項9】
肺内に酸素を投与可能なCPAP回路をさらに備える、請求項1~8のいずれか一項に記載の血中二酸化炭素除去システム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、腹腔内環流による血中二酸化炭素除去システムに関する。
【背景技術】
【0002】
コロナ等の重症肺炎の場合、健常な部分と病的な部分が混在するため、人工呼吸を行うと一様に圧がかかるため、健常な部分のみが過剰に膨らむので肺への負担が大きく、重症肺障害患者において人工呼吸が肺障害を悪化することが明らかとなっている。
【0003】
そこで、肺保護換気が臨床応用されており、その1つに体外式膜型人工肺(ECMO)がある。例えば、COVID19等の重症呼吸不全では、膜型人工肺を使用した肺保護戦略が行われ、ECMOが使用されている。通常の人工呼吸器で十分呼吸補助をできない場合にECMOが使用され、特に、重症の肺障害で人工呼吸を行うと、逆に肺が障害されるが、ECMOを使用することにより、肺を動かすことなく呼吸補助を行うことができる(非特許文献1、2)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Schmidt et al., Mechanical ventilation during extracorporeal membrane oxygenation, Critical Care 2014, 18:203
【非特許文献2】William C et al., Basics of Extracorporeal Membrane Oxygenation, Surgical Clinics of North America, 102 (2022) 23-35
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、ECMOは、ガス交換をする人工肺と、血液を体外に取り出して人工肺に送り体内に送り戻す血液ポンプとによって構成されるので、人工肺や回路等の異物の中で血液が固まらなくする薬剤を使用する必要があり、出血や感染のリスクがある。したがって、血液を異物に触れさせることなく呼吸補助ができるシステムが望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の要旨は以下のとおりである。
(1)腹腔内への挿入並びに腹膜への送液及び前記腹膜からの排液が可能な環流用チューブ、
前記環流用チューブに接続されるポンプ、
二酸化炭素除去部、
腹腔内圧力測定部、
前記環流用チューブの送液側に接続される二股の第1の流れ方向制御部、及び前記環流用チューブの排液側に接続される二股の第2の流れ方向制御部、並びに
前記第1の流れ方向制御部及び前記第2の流れ方向制御部に接続されるバイパス用チューブ
を含み、
前記環流用チューブ、前記ポンプ、及び前記二酸化炭素除去部が、前記環流用チューブ内を流れる流体を前記腹膜に環流可能且つ前記腹膜から排液される流体から二酸化炭素を除去可能に構成され、
前記第1の流れ方向制御部及び前記第2の流れ方向制御部が、前記環流用チューブ内を送液される流体を、前記第1の流れ方向制御部から前記第2の流れ方向制御部に向かって前記バイパス用チューブをバイパスさせて前記腹膜に逆流可能に構成される、
血中二酸化炭素除去システム。
(2)前記第1の流れ方向制御部及び前記第2の流れ方向制御部が、前記腹腔内圧力測定部により測定される前記腹腔内の圧力測定値に基づいて、前記環流用チューブ内を送液される流体を、前記第1の流れ方向制御部から前記第2の流れ方向制御部に向かって前記バイパス用チューブをバイパスさせて前記腹膜に逆流可能に構成される、上記(1)に記載の血中二酸化炭素除去システム。
(3)前記腹腔内圧力測定部が、腹腔内に配置可能な圧力チューブと前記圧力チューブに接続される圧力トランスデューサとを含む、上記(1)または(2)に記載の血中二酸化炭素除去システム。
(4)前記環流用チューブの前記送液側及び前記排液側の流量を測定可能な流量計をさらに含む、上記(1)~(3)のいずれかに記載の血中二酸化炭素除去システム。
(5)前記第1の流れ方向制御部及び前記第2の流れ方向制御部が、前記腹腔内圧力測定部により測定される前記腹腔内の圧力測定値、前記流量計により測定される前記送液側及び前記排液側の流量、またはそれらの組合せに基づいて、前記環流用チューブ内を送液される流体を、前記第1の流れ方向制御部から前記第2の流れ方向制御部に向かって前記バイパス用チューブをバイパスさせて前記腹膜に逆流可能に構成される、上記(4)に記載の血中二酸化炭素除去システム。
(6)前記送液側の環流用チューブと前記排液側の環流用チューブの前記腹腔内に挿入可能な長さが異なる、上記(1)~(5)のいずれかに記載の血中二酸化炭素除去システム。
(7)前記送液側の環流用チューブと前記排液側の環流用チューブの前記腹腔内に挿入可能な長さが異なり、長さが短い方の環流用チューブの端部が他方の環流用チューブの側面に一体である、上記(1)~(5)のいずれかに記載の血中二酸化炭素除去システム。
(8)前記血中二酸化炭素除去システムは、前記環流用チューブが前記腹腔内へ挿入される箇所のうち少なくとも1つに配置可能なアウターチューブをさらに含む、上記(1)~(7)のいずれかに記載の血中二酸化炭素除去システム。
(9)肺内に酸素を投与可能なCPAP回路をさらに備える、上記(1)~(8)のいずれかに記載の血中二酸化炭素除去システム。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、血液を異物に触れさせることなく呼吸補助ができる血中二酸化炭素除去システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、本血中二酸化炭素除去システムの一例の模式図である。
図2図2は、流体をバイパス用チューブにバイパスさせるときの本血中二酸化炭素除去システムの模式図である。
図3図3は、ソケット及び腹腔内圧力測定部の一例の模式図である。
図4図4は、腹腔内で別方向に分離可能な送液側環流用チューブ及び排液側環流用チューブを有する環流用チューブを挿入箇所から腹腔内に挿入した状態の模式図である。
図5図5は、腹腔内に挿入可能な長さが送液側環流用チューブよりも排液側環流用チューブが短い環流用チューブを挿入箇所から腹腔内に挿入した状態の模式図である。
図6図6は、端部の長さが異なり長さが短い方の端部が他方の側面に一体の環流用チューブの模式図である。
図7図7は、ウサギについて、環流開始直後から90分後までの動脈血二酸化炭素分圧(PaCO)の変化を示すグラフである。
図8図8は、ウサギついての送液中及び排液中の二酸化炭素分圧を示すグラフである。
図9図9は、ウサギについて、環流開始直後から90分後までの動脈血pHの変化を示すグラフである。
図10図10は、ウサギについて、環流開始直後から90分後までの動脈血酸素分圧(PaO)の変化を示すグラフである。
図11図11は、酸素及び二酸化炭素の分圧に対する血液中の含有量のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本開示は、腹腔内への挿入並びに腹膜への送液及び前記腹膜からの排液が可能な環流用チューブ、前記環流用チューブに接続されるポンプ、二酸化炭素除去部、腹腔内圧力測定部、前記環流用チューブの送液側に接続される二股の第1の流れ方向制御部、及び前記環流用チューブの排液側に接続される二股の第2の流れ方向制御部、並びに前記第1の流れ方向制御部及び前記第2の流れ方向制御部に接続されるバイパス用チューブを含み、前記環流用チューブ、前記ポンプ、及び前記二酸化炭素除去部が、前記環流用チューブ内を流れる流体を前記腹膜に環流可能且つ前記腹膜から排液される流体から二酸化炭素を除去可能に構成され、前記第1の流れ方向制御部及び前記第2の流れ方向制御部が、前記環流用チューブ内を送液される流体を、前記第1の流れ方向制御部から前記第2の流れ方向制御部に向かって前記バイパス用チューブをバイパスさせて前記腹膜に逆流可能に構成される、血中二酸化炭素除去システム(以下、本システムともいう)を対象とする。
【0010】
本システムによれば、腹膜に流体(環流液)を環流することにより、血液を異物に触れさせることなく血液から二酸化炭素を除去する呼吸補助が可能であり、肺を休ませることができる。本システムによればまた、ECMOでは必須のヘパリン等の血液凝固阻止剤が不要である。そのため、本システムは、胃潰瘍などの出血がある患者に対しても適用することができる。
【0011】
肺では、肺胞というガスがたまる場所を肺胞上皮が包み、その上皮の下に毛細血管が分布しており、肺胞上皮を介してガス交換が行われる。酸素は、濃度の高い肺胞から濃度の低い毛細血管へ移動し、二酸化炭素は濃度の高い毛細血管から濃度の低い肺胞へと移動する。このようにして、呼吸は、血液が薄い膜を隔てて気体または液体と接することで酸素や二酸化炭素を交換することにより行われる。肺では、気体と液体との間で呼吸が行われ、また、例えば胎盤では、液体と液体との間で呼吸が行われる。
【0012】
本発明者は、呼吸は、肺だけで行われるものではなく、生物によっては、エラ、皮膚、腸管、胎盤などいろいろな場所で行われること、腹腔内は薄い腹膜の下に広く毛細血管が分布しており、腹膜は、解剖学的に肺胞と同様、上皮の直下に毛細血管が分布する構造有し、この毛細血管も腹膜を介してガス交換が可能であること、腹腔鏡手術において、CO気腹で血液中のCOが上昇することから腹膜を介してCOが血中に取り込まれること、腹膜は、体表面積とほぼ同等の広大な表面積を有し、全身の約25%という多量の血液量が環流すること、及びガス交換に特別な化学反応は必要ではなく、圧の高い方から低い方に移動するだけであることを見い出して、腹腔内環流によるガス交換を行う本システムを完成させた。
【0013】
本発明者はまた、腹腔内環流においては、酸素のガス交換よりも二酸化炭素のガス交換が効果的であることを見い出した。表1及び表2に、動脈血及び静脈血の酸素飽和度及び二酸化炭素含有量を示す。
【0014】
【表1】
【0015】
【表2】
【0016】
表1から、動脈血の酸素飽和度は98%であり、静脈血の酸素飽和度は75%であり、腹膜に全身の約25%の血流量が環流することを考慮すると、腹膜環流で酸素化を行っても十分な酸素を取り込むことはできない。
【0017】
表2から、動脈血のCO含有量は49.0mL/dLであり、静脈血のCO含有量は52.68mL/dLであり、静脈血のCO含有量に占める増加割合は小さいため、全身の約25%の血流量が環流する腹膜において腹膜環流で二酸化炭素を除去することにより、十分な二酸化炭素の除去を行うことができる。
【0018】
例えば、成人男性の場合、1分間におおよそ250mLの酸素を使い200mLの二酸化炭素を産出する。一方で、血液の心拍出量は5L/分であり腹腔には25%の1.25Lが流れ、最大で250mLの25%の62.5mLの酸素が腹膜で付加され得るが、腹膜で付加され得る酸素量は成人男性が必要とする酸素量に満たない。これに対して、二酸化炭素に関しては、上述のように、静脈血のCO含有量が52.68mL/dLであるのに対し動脈血のCO含有量は49.0mL/dLであり、その差の3.68mL/dLが産出される200mLに対応する。腹腔への血流量が1.25Lで、静脈血のCO含有量が52.68mL/dLなので、腹腔への血流中にCOは約650mL存在する。したがって、腹腔に流れる血流に含まれる約650mLのCOのおよそ30%を除去できれば体内で産出されるCOを除去することができる。
【0019】
図11に、酸素及び二酸化炭素の分圧に対する血液中の酸素及び二酸化炭素の含有量のグラフ(Intensive Care Med (2017) 43: 519-530 DOI 10.1007/s00134-016-4673-0)を示す。図11の下側の曲線が酸素についてのグラフで、上側の曲線が二酸化炭素についてのグラフである。酸素については、動脈血の酸素分圧が100mmHgで酸素飽和度は98%であり、静脈血の酸素分圧が40mmHgで酸素飽和度は75%であり、分圧を大きく変えても酸素は飽和しやすく酸素飽和度は変化が少ない。一方で、二酸化炭素については飽和しにくく、分圧に応じて血液中の二酸化炭素の溶解量は大きく変動する。静脈血の二酸化炭素の分圧が46mmHgのときに二酸化炭素の溶解量は45mL/dLであり、二酸化炭素の分圧を16mmHgまで下げれば二酸化炭素の溶解量を30mL/dLまで下げることができる。したがって、腹腔内環流においては、酸素のガス交換よりも二酸化炭素のガス交換が効果的である。
【0020】
図1に、本システム100の一例の模式図を示す。本システム100は、生体の腹腔内への挿入並びに腹膜への送液及び腹膜からの排液が可能な環流用チューブ10、環流用チューブ10に接続されるポンプ20、二酸化炭素除去部30、腹腔内圧力測定部40、環流用チューブ10の送液側に接続される二股の第1の流れ方向制御部51、及び環流用チューブ10の排液側に接続される二股の第2の流れ方向制御部52、並びに第1の流れ方向制御部51及び第2の流れ方向制御部52に接続されるバイパス用チューブ60を含む。
【0021】
環流用チューブ10は、生体の腹腔内への挿入と、腹膜への送液及び腹膜からの排液とが可能に構成され、流体は環流用チューブ10内を図1の矢印の向きに流動可能である。
【0022】
環流用チューブ10は、送液側環流用チューブ101、排液側環流用チューブ102、及び本体チューブ103を含む。送液側環流用チューブ101は、第1の流れ方向制御部51と送液側の腹壁への挿入箇所11との間に配置されるチューブである。排液側環流用チューブ102は、排液側の腹壁への挿入箇所12と第2の流れ方向制御部52との間に配置されるチューブである。本体チューブ103は、送液側環流用チューブ101及び排液側環流用チューブ102の間に位置し、第2の流れ方向制御部52と第1の流れ方向制御部51との間に配置されるチューブである。送液側環流用チューブ101、排液側環流用チューブ102、及び本体チューブ103はそれぞれ、1つのチューブで構成されてもよく、2以上のチューブを接続して構成されてもよい。
【0023】
環流用チューブ10、ポンプ20、及び二酸化炭素除去部30により、環流用チューブ10内を流れる流体を腹膜に環流させ、且つ腹膜から排液される流体から二酸化炭素を除去することができる。
【0024】
環流用チューブ10は、腹壁への挿入箇所11、12から腹腔内へ挿入され得る。挿入箇所11、12は、別個の孔でもよく、共通の一つの孔でもよい。
【0025】
本システムは、好ましくは、環流用チューブが腹腔内へ挿入される挿入箇所11、12のうち少なくとも1つに配置可能なアウターチューブをさらに含む。環流用チューブは、アウターチューブを介して腹腔内に挿入され得る。本システムは、挿入箇所11、12が別個の孔の場合、それぞれの孔にアウターチューブを有してもよく、一方の孔にアウターチューブを有してもよい。本システムは、挿入箇所11、12が共通の1つの孔の場合、共通の孔にアウターチューブを有することができる。アウターチューブは、腹壁に埋め込み可能且つ閉鎖可能であることができ、好ましくは生体適合性があり、より好ましくは生体内で弾性を保持し且つ生体適合性がある。
【0026】
図3に、アウターチューブ14の一例の模式図を示す。アウターチューブ14は、環流用チューブ10を略中心軸に通すことが可能な大径のチューブであることができ、アウターチューブ14の略中心軸に環流用チューブ10が通る2腔式のチューブを形成することができる。アウターチューブ14は、好ましくは、腹腔内に挿入可能な位置の表面に複数の孔13を備える。本システムが、複数の孔13を有するアウターチューブ14を排液側の挿入箇所に有し、排液側環流用チューブ102(環流用チューブ10)がアウターチューブ14の略中心軸を介して腹腔内へ挿入されている場合、孔13から流体が入り排液側環流用チューブ102の端部(図3の左端)に流体を流動させ得るので、排液側環流用チューブ102の腹膜内臓器による詰まりを防止して持続的に排液を行うことができる。内側の排液側環流用チューブ102から流体を逆流させることで、腹膜内臓器で詰まり得る孔13を開通させることができる。
【0027】
複数の孔13の数は、アウターチューブ14の腹腔内に挿入可能な長さに応じて増やすことができ、好ましくは20個以上、より好ましくは30個以上である。孔13の平均内径は、流体の粘度に応じた寸法であることができ、例えば0.5~5mm、0.7~3mm、または1~2mmであることができる。
【0028】
環流用チューブ10はポンプ20に接続される。ポンプ20は、腹腔内の圧力が所定範囲内になるように、流体の流量を制御可能である。ポンプ20により、流体は、腹壁への挿入部を経由して継続的に腹腔内に送達および腹腔内から排液されることが好ましいが、例えば、拍動性の環流を行ってもよい。腹腔内は、流体によって満たされてもよく、その後に空にしてもよい。ポンプ20は、流体ポンプ、ローラーポンプ等であることができる。
【0029】
二酸化炭素除去部30は、流体から二酸化炭素を除去することができ、ビーカー等の容器内での排液への酸素(O)通気、酸素供給機、バブル酸素供給機等のバブル型、または膜型人工肺であることができ、好ましくは膜型人工肺である。
【0030】
腹腔内圧力測定部40は、腹腔内の圧力を測定することができる。腹腔内圧力測定部40は、好ましくは、環流用チューブ10とは別に腹腔内に配置可能な圧力チューブと圧力トランスデューサとを含む。圧力チューブは、好ましくは、排液側環流用チューブ102の表面に長手方向に沿って配置される。圧力チューブが排液側環流用チューブ102の表面に長手方向に沿って配置されることにより、腹壁に別途孔を開ける必要がない。
【0031】
図3に、腹腔内圧力測定部の一例の模式図を示す。腹腔内圧力測定部は、好ましくは、腹腔内に配置可能な圧力チューブ41と、圧力チューブ41に接続される圧力トランスデューサ(図示せず)とを含む。図3では、圧力チューブ41は、環流用チューブ10を中心に通すアウターチューブ14の表面に長手方向に沿って配置され、先端開口部が腹腔内に配置可能に構成され得る。
【0032】
第1の流れ方向制御部51は、環流用チューブ10の送液側に接続され、第2の流れ方向制御部52は、環流用チューブ10の排液側に接続される。第1及び第2の流れ方向制御部51、52はそれぞれ、少なくとも第1の接続口、第2の接続口、及び第3の接続口を具備する二股構造の器具である。
【0033】
バイパス用チューブ60は、第1の流れ方向制御部51と第2の流れ方向制御部52とに接続され、環流用チューブ10内を送液される流体を第1の流れ方向制御部51から第2の流れ方向制御部52に向かって流体をバイパス可能に構成される。
【0034】
環流用チューブ、圧力チューブ、及びバイパス用チューブは、従来、流体を流動させることができるチューブであれば特に限定されず、例えば医療現場で従来用いられているチューブであることができ、例えばカテーテルであることができる。
【0035】
腹膜への流体の環流を行う際に、腹腔内に位置する排液側環流用チューブ102の端部が腹膜内臓器で詰まることがある。その場合、排液側環流用チューブ102から流体の排液が阻害され、腹膜への流体の環流を続けられないため、環流を一旦終了して排液側環流用チューブ102の端部の詰まりを除去するために、環流用チューブ10を腹腔から取り外す等の必要がある。また、排液側環流用チューブ102からの流体の排液が阻害されると、腹腔内の圧力が増加し得るため生体に負担がかかる。
【0036】
図2に示すように、本システム100によれば、第1の流れ方向制御部51及び第2の流れ方向制御部52は、環流用チューブ10内を流動する流体の少なくとも一部を、矢印の向きにバイパス用チューブ60にバイパスさせて排液側環流用チューブ102内を腹膜に向けて逆流させることができる。図2は、流体をバイパス用チューブ60にバイパスさせるときの本システム100の模式図である。
【0037】
より具体的には、送液側環流用チューブ101に送液される流体を、第1の流れ方向制御部51から第2の流れ方向制御部52に向かってバイパス用チューブ60にバイパスさせ、第2の流れ方向制御部52から腹膜に向けて排液側環流用チューブ102を逆流させることができる。したがって、本システム100によれば、排液側環流用チューブ102の端部が腹膜内臓器で詰まっても、排液側環流用チューブ102から腹膜に流体を逆流させることにより、詰まりを容易に除去することができ、環流用チューブ10を取り外す等することなく、環流をすぐに再開することができる。
【0038】
好ましくは、第1の流れ方向制御部51及び第2の流れ方向制御部52は、腹腔内圧力測定部40により測定される腹腔内の圧力測定値に基づいて、環流用チューブ10内を送液される流体を、第1の流れ方向制御部51から第2の流れ方向制御部52に向かってバイパス用チューブ60をバイパスさせて腹膜に逆流可能に構成される。
【0039】
第1及び第2の流れ方向制御部は、腹腔内圧力測定部40の圧力測定値が所定値以上になると、第1の流れ方向制御部51のルートを送液側環流用チューブ101からバイパス用チューブ60に切り替え、第2の流れ方向制御部52のルートを本体チューブ103から排液側環流用チューブ102に切り替えることができる。
【0040】
腹膜に流体を逆流させる際、逆流させる流体の量は、排液側環流用チューブ102の端部の詰まりを除去可能な少量であることができ、腹腔内圧力が所定の範囲内で行うことができる。
【0041】
第1及び第2の流れ方向制御部は、三方活栓、T字チューブとクランプとの組合せ等であることができる。
【0042】
三方活栓とは、第1の接続口、第2の接続口、及び第3の接続口とコックとを具備し、複数のチューブに連結され各チューブの接続及び遮断が切替可能な器具である。三方活栓は開通するルートを自由に操作可能に構成され、例えば、バーがある部分が閉鎖させるL型のコック、またはバーがない部分が閉鎖させるR型のコックを備え得る。
【0043】
T字チューブとクランプとの組合せは、第1の接続口、第2の接続口、及び第3の接続口を有するチューブとクランプとの組合せであり、閉鎖するルートをクランプし、開通するルートからクランプを外すことで、各チューブの接続及び遮断が切替可能な器具である。
【0044】
腹膜に流体を逆流させているとき、第1の流れ方向制御部51及び第2の流れ方向制御部52は、所定の条件が満たされると、第1の流れ方向制御部51のルートをバイパス用チューブ60から送液側環流用チューブ101に切り替え、第2の流れ方向制御部52のルートを排液側環流用チューブ102からバイパス用チューブ60に切り替え、流体をバイパス用チューブ60にバイパスさせずに、環流用チューブ10内を流動させることができる。上記所定の条件とは、好ましくは、逆流させている所定時間、逆流による腹腔内圧力の所定の圧力上昇、排液側環流用チューブ102が備え得る圧力計により測定される排液側環流用チューブ102内の所定圧力、または排液側環流用チューブ102が備え得る流量計により測定される逆流する流体の所定流量である。
【0045】
本システム100は、好ましくは、環流用チューブ10の送液側及び排液側の流量(送液及び排液の流量)を測定可能な流量計をさらに含む。流量計による測定される送液側及び排液側の流量の差が所定範囲以上になるときに、上記同様に流体を逆流させることができる。上述の腹腔内圧力測定部による腹腔内圧力の測定に、流量計による送液側及び排液側の流量の差の測定を組み合わせることにより、より精度の高い流体の逆流制御を行うことができる。
【0046】
好ましくは、第1の流れ方向制御部51及び第2の流れ方向制御部52が、腹腔内圧力測定部40により測定される腹腔内の圧力測定値、流量計により測定される送液側及び排液側の流量、またはそれらの組合せに基づいて、環流用チューブ10内を送液される流体を、第1の流れ方向制御部51から第2の流れ方向制御部52に向かってバイパス用チューブ60をバイパスさせて腹膜に逆流可能に構成される。
【0047】
第1の流れ方向制御部51及び第2の流れ方向制御部52は、腹腔内圧力測定部40の圧力測定値、流量計により測定される送液側及び排液側の流量、またはそれらの組合せが所定範囲内の値を保つように、第1の流れ方向制御部51のルート及び第2の流れ方向制御部52のルートを定期的に切り替えてもよい。
【0048】
第1及び第2の流れ方向制御部51、52の制御は、手動または自動でもよいが、好ましくは自動で行われる。本システム100は、第1及び第2の流れ方向制御部51、52のルートを腹腔内圧力測定部40の圧力測定値、流量計により測定される送液側及び排液側の流量、またはそれらの組合せに基づいて切り替えるルート切替部をさらに備え、第1及び第2の流れ方向制御部51、52の制御を自動で行ってもよい。例えば、ルート切替部が、腹腔内圧力測定部40の圧力測定値、流量計により測定される送液側及び排液側の流量、またはそれらの組合せに基づいて、三方活栓で構成される第1及び第2の流れ方向制御部51、52のそれぞれのコックを、上記ルートに切り替えることができる。
【0049】
ルート切替部は、送受信部、記憶部、処理部、及びコック切替部を有し得る。例えば、腹腔内圧力測定部40から送信される圧力測定値、流量計により測定される送液側及び排液側の流量、またはそれらの組合せのデータを送受信部で受信し、記憶部に記憶して、処理部で圧力測定値、流量、またはそれらの組合せが所定値以上または所定値未満であることを判断し、前記判断に基づいて、予め設定された向きにコック切替部を動作させることができる。別法では、ルート切替部は、送受信部、記憶部、及び処理部を有し、第1及び第2の流れ方向制御部51、52が送受信部、記憶部、処理部、及びコック駆動部を有し、第1及び第2の流れ方向制御部51、52は、ルート切替部から送信されるコック駆動に関する信号に基づいてコックを切り替えることができる。
【0050】
本システム100は補液容器70を備えてもよい。補液容器70から補液部71を介して環流用チューブ10に環流液を補液することができる。補液部71は、三方活栓、T字チューブとクランプとの組合せ等であることができる。図1に例示する本システム100の回路は、流体が外部に蒸発しにくい閉塞式の回路、または開放式の回路でもよく、好ましくは閉塞式の回路である。本システム100の回路に含まれるポンプ20、二酸化炭素除去部30等の配置は図1の例示の配置に限られず、本システムが動作可能な範囲で任意であり、例えば、二酸化炭素除去部30は、ポンプ20と補液部71の間に配置されてもよい。
【0051】
環流させる流体の浸透圧は、血液の浸透圧と実質的に同じであることができる。本システムにおいては分圧を利用して血中二酸化炭素を除去するため、流体の組成は、目的とする除去対象及び除去したくない成分に応じた組成であることができる。流体は、好ましくは生理食塩水、または手術中に用いられる電解質調整液である。長時間の環流を行う場合、流体は、不所望の成分を除去しないようにするため、生体または体液の組成に近いものが好ましい。本システムによれば、流体の組成を調整することにより、二酸化炭素に加えて、その他の老廃物も除去することができる。
【0052】
流体は、好ましくは炭酸脱水酵素を含む。上述のように二酸化炭素は血液中に多量に溶け込んでいるが、これは、血液中の二酸化炭素は、炭酸脱水酵素により炭酸に変わっているためである。HOとCOとが混合されてHCOが生成し、これが血液中に溶け込んでいる。そのため、炭酸脱水酵素を環流液に混合することにより、より多くの二酸化炭素を溶け込ませて血液中から除去することができる。
【0053】
環流用チューブ10の送液側環流用チューブ101及び排液側環流用チューブ102は、共通の一つの挿入箇所から腹壁に挿入して、腹腔内で別方向に分離可能に構成され得る。図4に、腹腔内で別方向に分離可能な送液側環流用チューブ101及び排液側環流用チューブ102を有する環流用チューブを腹壁への共通の一つの挿入箇所11、12から腹腔内に挿入した状態の模式図を示す。
【0054】
好ましくは、送液側環流用チューブ101及び排液側環流用チューブ102の腹腔内に挿入可能な長さが異なる。これにより、腹腔内における送液側環流用チューブ101の端部と排液側環流用チューブ102の端部との間の距離を大きくすることができ、腹膜環流をより良好に行うことができる。より好ましくは、排液側環流用チューブ102の腹腔内に挿入可能な長さが、送液側環流用チューブ101の腹腔内に挿入可能な長さよりも短い。送液はポンプで圧送されるが、排液は重力を利用して回収され得るため、排液側環流用チューブ102が短いことにより、排液をより良好に行うことができる。
【0055】
好ましくは、送液側の環流用チューブ10及び排液側の環流用チューブ10の腹腔内に挿入可能な長さが異なり、長さが短い方の端部が他方の側面に一体である。すなわち、送液側環流用チューブ101と排液側環流用チューブ102との腹腔内に挿入可能な長さが短い方が他方の側面に一体である。これにより、腹壁への共通の挿入箇所に送液側環流用チューブ101と排液側環流用チューブ102を容易に挿入することができる。前記一体とは、一体成形で作製されたもの、別個に作製したものを接着、接続、密着等しているものを意味する。
【0056】
図5に、腹腔内に挿入可能な長さが送液側環流用チューブ101よりも排液側環流用チューブ102が短い環流用チューブを共通の1つの挿入箇所11、12から腹腔内に挿入した状態の模式図を示す。
【0057】
図6に、腹腔内に挿入可能な長さが送液側環流用チューブ101よりも排液側環流用チューブ102が短く、且つ排液側環流用チューブ102が送液側環流用チューブ101と一体である環流用チューブ10の模式図を示す。
【0058】
送液側環流用チューブ101及び排液側環流用チューブ102の端部は、好ましくは腸管の対極に設置される。送液側環流用チューブ101及び排液側環流用チューブ102の腹腔内における長さが異なる場合、本システムを適用する生体に応じて、長さを調節することができる。送液側環流用チューブ101及び排液側環流用チューブ102は、腹腔内における長さの差Dは、例えば30cm以上、40cm以上、または50cm以上である。長さが1M以上異なる送液側環流用チューブ101及び排液側環流用チューブ102を、必要に応じて切断して長さを調整してもよい。送液側環流用チューブ101及び排液側環流用チューブ102が、上記好ましい長さの差を有することにより、腹膜に流体をより良好に環流させることができる。腹腔内における長さの差Dの上限は特に限定されず、本システムを適用する生体に応じて決定すればよい。
【0059】
本システムは、肺内に酸素を投与可能な持続陽圧呼吸療法(CPAP)回路または人工呼吸回路をさらに備えてもよく、好ましくは、肺内に酸素を投与可能なCPAP回路をさらに備える。肺内に酸素を投与して肺を動かすことなく酸素を取り込むことにより、生存に必要な酸素を取り込める無呼吸酸素化(Apneic oxygenation)を行うことができる。腹腔内環流で経腹膜的に二酸化炭素を除去しつつ肺内に酸素を投与して肺を動かすことなく酸素を取り込むという腹膜環流と無呼吸酸素化との組み合わせにより、肺の動きを少なくした、より低侵襲な肺保護が可能となる。
【0060】
CPAP回路における酸素の投与圧は、好ましくは5~25cmHO、より好ましくは6~20cmHO、さらに好ましくは7~15cmHOである。前記好ましい投与圧で酸素を投与することにより、肺への負担が少なく酸素化をより良好に行うことができる。
【0061】
本システムによれば、環流開始から60分後において動脈血二酸化炭素分圧(PaCO)の上昇を、本システムを用いない無呼吸の場合に比べて、好ましくは35%以下に抑制することができる。本システムによればまた、血中の二酸化炭素を除去することができるため、生命の維持に必要な血液中のpHの維持を行うことができる。
【実施例0062】
(実施例1)
腹腔環流と無呼吸酸素化とを組み合わせた動物実験モデルの有効性を検討した。実験は、東京女子医科大学動物実験規定にしたがって実施した(承認番号AE22-005)。
【0063】
ウサギを用い、麻酔薬の筋肉注射で入眠後はV-gelを挿入して用手換気を行った。末梢血管を確保しプロポフォール持続投与で麻酔を維持した。左下腹部から送液側環流用チューブ(カテーテル)、及び右下腹部から排液側環流用チューブ(カテーテル)を挿入した。
【0064】
環流用チューブにローラーポンプを接続して、ビーカー(リザーバー)から吸い上げた生理食塩水を腹腔内に環流する回路を作製した。腹腔から排液側環流用チューブを介して排出される排液は環流液のリザーバーに入れ、リザーバー内で排液された環流液中のCO除去を目的に1L/分の酸素(O)通気を行って二酸化炭素を除去する、腹腔環流を行った。
【0065】
環流開始後は用手換気を中止し、自発呼吸がないことを呼気終末二酸化炭素分圧(EtCO)モニターで確認の上、無呼吸酸素化を目的にCPAP10cmHOでOを投与した。環流開始直後、30分後、60分後、及び90分後の送液、排液、及び動脈血のガス分析を行って、経時的な変化を観察した。
【0066】
図7に、環流開始直後から90分後までの動脈血二酸化炭素分圧(PaCO)の変化を示す。図8に、送液中及び排液中の二酸化炭素分圧を示す。PaCOは、環流開始直後は40mmHg程度であり、環流60分後で約100mmHgに経時的に上昇したが、送液と排液の二酸化炭素分圧を比較すると一貫して排液中の二酸化炭素分圧の方が高く、二酸化炭素が除去されていることが確認された。
【0067】
図9に、環流開始直後から90分後までの動脈血pHの変化を示す。図10に、環流開始直後から90分後までの動脈血酸素分圧(PaO)の変化を示す。環流60分後の動脈血pHは約7.1だった。呼吸をさせなくても腹腔環流開始後60分後まで循環動態は安定しており、動脈血酸素分圧(PaO)は100mmHg以上に保たれていた。
【符号の説明】
【0068】
100 血中二酸化炭素除去システム
10 環流用チューブ
101 送液側環流用チューブ
102 排液側環流用チューブ
103 本体チューブ
11 腹壁への挿入箇所
12 腹壁への挿入箇所
13 孔
14 アウターチューブ
20 ポンプ
30 二酸化炭素除去部
40 腹腔内圧力測定部
41 圧力チューブ
51 第1の流れ方向制御部
52 第2の流れ方向制御部
60 バイパス用チューブ
70 補液容器
71 補液部

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11