(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024117607
(43)【公開日】2024-08-29
(54)【発明の名称】車両におけるグリルシャッター制御装置
(51)【国際特許分類】
B60K 11/04 20060101AFI20240822BHJP
【FI】
B60K11/04 J
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023023788
(22)【出願日】2023-02-17
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宮本 悠樹
(72)【発明者】
【氏名】一柳 哲也
【テーマコード(参考)】
3D038
【Fターム(参考)】
3D038AA06
3D038AA09
3D038AB01
3D038AC01
3D038AC11
3D038AC17
(57)【要約】
【課題】車両の空気抵抗を不要に大きくさせることなく、グリルシャッターを利用してブレーキロータを効果的に冷却できる車両におけるグリルシャッター制御装置を提供する。
【解決手段】車両10の前部に設けられたグリルシャッター14と、グリルシャッターに駆動力を付与して、グリルシャッターの開度を調整するアクチュエータ16と、グリルシャッターより後方に位置する前輪18に設けられ、全閉状態とは異なる状態にあるグリルシャッターを通り抜けた走行風が到達可能なブレーキロータ22と、ブレーキロータの温度との関連性を有する値に基づいて、アクチュエータを制御する制御部と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の前部に設けられたグリルシャッターと、
前記グリルシャッターに駆動力を付与して、前記グリルシャッターの開度を調整するアクチュエータと、
前記グリルシャッターより後方に位置する前輪に設けられ、全閉状態とは異なる状態にある前記グリルシャッターを通り抜けた走行風が到達可能なブレーキロータと、
前記ブレーキロータの温度との関連性を有する値に基づいて、前記アクチュエータを制御する制御部と、
を備える車両におけるグリルシャッター制御装置。
【請求項2】
前記ブレーキロータの温度を推定する温度推定部を備え、
前記制御部が、前記温度推定部が推定した前記ブレーキロータの温度に基づいて、前記アクチュエータを制御する請求項1に記載の車両におけるグリルシャッター制御装置。
【請求項3】
前記車両が、駆動源として電動モータを有し、
前記制御部が、前記電動モータへ電力を供給可能且つ前記電動モータによって発電された電力を蓄電可能なバッテリの出力制限量、前記バッテリの回生アベイラビリティ、及び前記車両が走行中の路面の勾配の少なくとも一つに基づいて、前記アクチュエータを制御する請求項1に記載の車両におけるグリルシャッター制御装置。
【請求項4】
前記制御部が、
前記出力制限量及び前記回生アベイラビリティに基づいて求められた前記グリルシャッターの目標開度である第1開度と、前記勾配及び前記回生アベイラビリティに基づいて求められた前記グリルシャッターの目標開度である第2開度と、を比較し、
前記グリルシャッターの開度が、前記第1開度と前記第2開度の中で開度の大きいものの値となるように前記アクチュエータを制御する請求項3に記載の車両におけるグリルシャッター制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は車両におけるグリルシャッター制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1に開示された車両は、フロントバンパに接続された第1ダクト及び第2ダクトを有する。第1ダクトの後端開口から出た空気(走行風)は車両の外部へ排出され、第2ダクトの後端開口から出た空気は前輪のブレーキ部材へ供給される。この車両は、ブレーキ部材の温度に応じて動作する切替弁を有する。ブレーキ部材の温度が高くなると、切替弁の働きにより、空気が第2ダクトを通り抜けてブレーキ部材へ供給される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1は、ブレーキ部材の温度に応じたブレーキ部材の冷却方法に関して改善の余地がある。
【0005】
本発明は上記事実を考慮し、車両の空気抵抗を不要に大きくさせることなく、グリルシャッターを利用してブレーキロータを効果的に冷却できる車両におけるグリルシャッター制御装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に記載の車両におけるグリルシャッター制御装置は、車両の前部に設けられたグリルシャッターと、前記グリルシャッターに駆動力を付与して、前記グリルシャッターの開度を調整するアクチュエータと、前記グリルシャッターより後方に位置する前輪に設けられ、全閉状態とは異なる状態にある前記グリルシャッターを通り抜けた走行風が到達可能なブレーキロータと、前記ブレーキロータの温度との関連性を有する値に基づいて、前記アクチュエータを制御する制御部と、を備える。
【0007】
請求項1の車両におけるグリルシャッター制御装置では、制御部が、ブレーキロータの温度との関連性を有する値に基づいてアクチュエータを制御し、これによりグリルシャッターの開度を調整する。
【0008】
このようにブレーキロータの温度との関連性を有する値に基づいてグリルシャッターの開度が調整されるため、ブレーキロータの温度を低下させる必要性が小さいときは、グリルシャッターの開度を小さくするようにアクチュエータを制御できる。
【0009】
従って、請求項1の車両におけるグリルシャッター制御装置は、車両の空気抵抗を不要に大きくさせることなく、グリルシャッターを利用してブレーキロータを効果的に冷却できる。
【0010】
請求項2に記載の車両におけるグリルシャッター制御装置は、請求項1において、前記ブレーキロータの温度を推定する温度推定部を備え、前記制御部が、前記温度推定部が推定した前記ブレーキロータの温度に基づいて、前記アクチュエータを制御する。
【0011】
請求項2の車両におけるグリルシャッター制御装置では、温度推定部がブレーキロータの温度を推定する。さらに制御部が、温度推定部が推定したブレーキロータの温度に基づいて、アクチュエータを制御する。そのため、請求項2の車両におけるグリルシャッター制御装置は、車両の空気抵抗を不要に大きくさせることなく、グリルシャッターを利用してブレーキロータを効果的に冷却できる。
【0012】
請求項3に記載の車両におけるグリルシャッター制御装置は、請求項1において、前記車両が、駆動源として電動モータを有し、前記制御部が、前記電動モータへ電力を供給可能且つ前記電動モータによって発電された電力を蓄電可能なバッテリの出力制限量、前記バッテリの回生アベイラビリティ、及び前記車両が走行中の路面の勾配の少なくとも一つに基づいて、前記アクチュエータを制御する。
【0013】
請求項3の車両におけるグリルシャッター制御装置の制御部は、車両に設けられたバッテリの出力制限量、バッテリの回生アベイラビリティ、及び車両が走行中の路面の勾配の少なくとも一つに基づいてアクチュエータを制御する。さらに制御部によって制御されたアクチュエータが、グリルシャッターの開度を調整する。従って、請求項3の車両におけるグリルシャッター制御装置は、車両の空気抵抗を不要に大きくさせることなく、グリルシャッターを利用してブレーキロータを効果的に冷却できる。
【0014】
さらに請求項3の車両におけるグリルシャッター制御装置は、ブレーキロータの温度の推定値を利用せずにグリルシャッターの開度を調整する。そのため請求項3の車両におけるグリルシャッター制御装置は、ブレーキロータの温度の推定値と実際値との誤差の影響を受けずにグリルシャッターの開度を制御できる。
【0015】
請求項4に記載の車両におけるグリルシャッター制御装置は、請求項3において、前記制御部が、前記出力制限量及び前記回生アベイラビリティに基づいて求められた前記グリルシャッターの目標開度である第1開度と、前記勾配及び前記回生アベイラビリティに基づいて求められた前記グリルシャッターの目標開度である第2開度と、を比較し、前記グリルシャッターの開度が、前記第1開度と前記第2開度の中で開度の大きいものの値となるように前記アクチュエータを制御する。
【0016】
請求項4の車両におけるグリルシャッター制御装置では、出力制限量及び回生アベイラビリティに基づいて求められたグリルシャッターの第1開度と、路面の勾配及び回生アベイラビリティに基づいて求められたグリルシャッターの第2開度と、が比較される。さらにグリルシャッターの開度が、第1開度と第2開度の中で開度の大きいものの値となるようにアクチュエータが制御される。従って、請求項4の車両におけるグリルシャッター制御装置は、ブレーキロータが過剰に高温化するのを防止し易い。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る車両におけるグリルシャッター制御装置は、車両の空気抵抗を不要に大きくさせることなく、グリルシャッターを利用してブレーキロータを効果的に冷却できる、という優れた効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】第1実施形態に係るグリルシャッター制御装置が適用された車両の前部の模式的な側面図である。
【
図3】ECUのROMに記録された開度制御用マップを示す図である。
【
図4】ECUのCPUが実施する処理を示すフローチャートである。
【
図5】第2実施形態に係るグリルシャッター制御装置が適用された車両のECUのROMに記録された第1マップ及び第2マップを示す図である。
【
図6】ECUのCPUが実施する処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明に係る車両におけるグリルシャッター制御装置の第1実施形態について
図1~
図4を参照しながら説明する。
【0020】
図1に示されたように、第1実施形態のグリルシャッター制御装置35が適用された車両10の車体12の前端部にはグリルシャッター14が設けられている。グリルシャッター14は、複数の回転可能なフィン(図示省略)を有する。さらに車両10は、グリルシャッター14の各フィンを回転させるための駆動力を発生可能なアクチュエータ16を有する。アクチュエータ16は、例えば電動モータである。さらに車体12の前部には、グリルシャッター14の後方に位置するラジエータ(図示省略)が設けられている。
【0021】
さらに車両10は左右一対の前輪18及び左右一対の後輪(図示省略)を有する。車両10は、各前輪18及び各後輪にそれぞれ対応する4つのブレーキ装置20を有する。各ブレーキ装置20は、車輪に固定されたブレーキロータ22と、ブレーキロータ22に対して接触することにより制動力を発生させるブレーキパッド(図示省略)を有する。前進走行中の車両10のグリルシャッター14が全閉状態にないとき、グリルシャッター14を通り抜けた走行風(空気)が、グリルシャッター14の後方に位置する左右の前輪18のブレーキロータ22に供給されるので、走行風によってブレーキロータ22が冷却される。
【0022】
図1に示されるように、車両12はハードウェア構成としてECU(Electronic Control Unit)26を有する。
【0023】
ECU26は、CPU(Central Processing Unit)(コンピュータ)26A、ROM(Read Only Memory)26B、RAM(Random Access Memory)26C、ストレージ26D、通信I/F26E及び入出力I/F26Fを含んで構成されている。CPU26A、ROM26B、RAM26C、ストレージ26D、通信I/F26E及び入出力I/F26Fは、内部バス26Zを介して相互に通信可能に接続されている。
【0024】
CPU26Aは、中央演算処理ユニットであり、各種プログラムを実行したり、各部を制御したりする。CPU26Aは、ROM26B又はストレージ26Dからプログラムを読み出し、RAM26Cを作業領域としてプログラムを実行する。CPU26Aは、ROM26B又はストレージ26Dに記録されているプログラムに従って、各構成の制御及び各種の演算処理を行う。CPU26Aは、タイマーから時刻に関する情報を取得可能である。
【0025】
ROM26Bは、各種プログラム及び各種データを格納する。RAM26Cは、作業領域として一時的にプログラム又はデータを記憶する。ストレージ26Dは、HDD(Hard Disk Drive)又はSSD(Solid State Drive)等の記憶装置により構成され、各種プログラム及び各種データを格納する。
【0026】
通信I/F26Eは、ECU26とは別のECU(図示省略)と、外部バス(図示省略)を介して接続するためのインタフェースである。当該インタフェースは、例えばCANプロトコルによる通信規格が用いられている。
【0027】
入出力I/F26Fは、様々な装置と通信するためのインタフェースである。これらの装置には、例えば、アクチュエータ16が含まれる。
【0028】
図2には、ECU26の機能構成の一例がブロック図で示されている。ECU26は、機能構成として、ブレーキ制御部261、温度推定部262及びシャッター制御部263を有する。ブレーキ制御部261、温度推定部262及びシャッター制御部263は、CPU26AがROM26Bに記憶されたプログラムを読み出し、実行することにより実現される。
【0029】
ブレーキ制御部261は、ブレーキペダル(図示省略)が運転者によって踏まれたときに、ブレーキアクチュエータを制御して、ブレーキパッドをブレーキロータ22に接触させる。これによりブレーキパッドとブレーキロータ22との間で制動力が発生する。さらにブレーキパッドとブレーキロータ22との間で摩擦熱が発生する。
【0030】
温度推定部262は、各前輪18に設けられたブレーキロータ22の温度を、温度センサを用いずに推定する。即ち、車両10にはブレーキロータ22の温度を測定するための温度センサは設けられていない。温度推定部262は、例えば特開2022-177498号公報に開示された方法を利用して、各前輪18に設けられたブレーキロータ22の温度を推定する。
【0031】
ここで特開2022-177498号公報に記載された温度推定方法を簡単に説明する。温度推定部262(CPU26A)は所定のサンプリング時間(ECU演算周期)毎に、ブレーキロータ22の温度を推定する。ブレーキロータ22の所定の演算時刻における温度TRは、前回の演算時刻におけるブレーキロータ22の温度Tbeforeにサンプリング時間Δtの間のブレーキロータ22の上昇温度を加えた温度であると推定される。即ち、温度Trは、下記の式(1)を用いて演算可能である。式(1)中の各文字はそれぞれ以下の内容を表す。
TR:ブレーキロータの温度(℃)
TRbefore:ブレーキロータの温度の前回値(℃)
Qin:ブレーキロータの受熱量(kw)
Qout:ブレーキロータの放熱量(kw)
Mr:ブレーキロータの質量(kg)
Cp:定圧比熱(J/kg/℃)
【0032】
【0033】
ブレーキロータ22の受熱量Qinは、例えば、以下の式(2)(3)に基づいて演算可能である。即ち、受熱量Qinは、ブレーキパッドとブレーキロータ22との間の摩擦力Fが為した仕事に基づいて推定可能である。式(2)(3)中の各文字はそれぞれ以下の内容を表す。
P:ブレーキアクチュエータの一部であるホイールシリンダの液圧
μ:ブレーキパッドとブレーキロータ22との間の摩擦係数
Ab:ブレーキパッドとブレーキロータ22との間の摺動部の面積
V:車速(m/s)
r:車輪の回転中心軸からブレーキパッドとブレーキロータ22との間の摺動部までの距離である半径(m)
R:タイヤ動荷重半径(m)
Δt:サンプリング時間(ECU演算周期)
【0034】
【0035】
ブレーキロータ22の放熱量Qoutは、下記の式(4)を用いて演算可能である。式(4)中の各文字はそれぞれ以下の内容を表す。
h:熱伝達率(W/m2/℃)
Ab:ブレーキロータの放熱面積(m2)
Tatm:外気温(℃)
Δt:サンプリング時間(ECU演算周期)
【0036】
【0037】
シャッター制御部263は、温度推定部262が式(1)~(4)を利用して演算したブレーキロータ22の推定温度と、
図3に示された開度制御用マップ30とを利用して、所定の演算時刻におけるグリルシャッター14の目標開度を演算する。この開度制御用マップ30はROM26Bに記録されており、所定時刻におけるブレーキロータ22の推定温度と、当該時刻におけるグリルシャッター14の目標開度と、開度制御用マップ30に従ってグリルシャッター14の開度が制御された後のブレーキロータ22の温度(目標温度)と、の関係に基づいて作成されたものである。即ち、ブレーキロータ22の推定温度が開度制御用マップ30の引数となり、グリルシャッター14の目標開度が定められる。この開度制御用マップ30に基づいて、グリルシャッター14の開度が目標開度となるようにアクチュエータ16を制御すると、ブレーキロータ22の温度が目標温度になり易い。
【0038】
以上説明した構成の中でグリルシャッター14、アクチュエータ16、ブレーキロータ22及びECU26(CPU26A)がグリルシャッター制御装置35の構成要素である。
【0039】
続いて、ECU26のCPU26Aが実行する処理について説明する。CPU26Aは所定時間が経過する毎に
図4に示されたフローチャートの処理を繰り返し実行する。なお、この処理の実行中にブレーキパッドが断続的にブレーキロータ22に接触するものとする。
【0040】
ステップS10(以下、ステップの文字を省略する)においてCPU26Aは、各ブレーキロータ22の温度を推定する。
【0041】
S10の処理を終えたCPU26AはS11へ進み、S10で取得したブレーキロータ22の推定温度を開度制御用マップ30へ適用してグリルシャッター14の目標開度を取得する。
【0042】
S11の処理を終えたCPU26AはS12へ進み、グリルシャッター14の開度がS11で取得した目標開度となるようにアクチュエータ16を制御する。これによりグリルシャッター14の開度がS11で取得した目標開度に変更される。そのため、S12の処理が実行されてから所定時間が経過すると、各前輪18のブレーキロータ22の温度が上記目標温度になり易い。
【0043】
以上説明したように第1実施形態によれば、CPU26A(温度推定部262)が推定したブレーキロータ22の推定温度(温度との関連性を有する値)及び開度制御用マップ30に基づいてアクチュエータ16が制御される。そのため、ブレーキロータ22の温度が目標温度になるようにグリルシャッター14の開度が調整される。さらに開度制御用マップ30が示すように、ブレーキロータ22の推定温度が高いときはグリルシャッター14の目標開度が高くなる一方で、ブレーキロータ22の推定温度が低いときはグリルシャッター14の目標開度が低くなる。即ち、ブレーキロータ22の温度を低下させる必要性が小さいときは、グリルシャッター14の開度を小さくするようにアクチュエータ16が制御される。従って、第1実施形態のグリルシャッター制御装置35は、車両10の空気抵抗を不要に大きくさせることなく、グリルシャッター14を利用して前輪18のブレーキロータブレーキロータ22を効果的に冷却できる。
【0044】
続いて、本発明に係る車両におけるグリルシャッター制御装置35の第2実施形態について
図5及び
図6を参照しながら説明する。なお、第1実施形態と同じ部材には同じ符号を付すにとどめて、その詳細な説明は省略する。なお第2実施形態の車両10は、駆動源として電動モータ40(
図1の仮想線参照)を有する。即ち、車両10は、ハイブリッド車(Hybrid Electric Vehicle)、プラグインハイブリッド車(Plug-in Hybrid Electric Vehicle)、燃料電池車(Fuel Cell Electric Vehicle)又は電気自動車(Battery Electric Vehicle)である。さらに車両10は、電動モータ40へ電力を供給可能且つ電動モータ40によって発電された電力を蓄電可能なバッテリ42(
図1の仮想線参照)を有する。電動モータ40及びバッテリ42はECU26に接続されている。
【0045】
上記式(1)から明らかなように、特開2022-177498号公報に記載された温度推定方法では、ブレーキロータ22の温度を推定する際に前回の演算時刻におけるブレーキロータ22の温度Tbeforeを利用する。しかし、各演算時刻において取得された温度Trとブレーキロータ22の温度の実際値との間には誤差が存在する可能性が高い。さらに演算回数が増えるほど、温度Trに含まれる誤差量が大きくなる可能性が高い。このように今回(現在時刻)の演算時刻より前の演算時刻において取得されたブレーキロータ22の温度を利用してグリルシャッター14の開度を制御する場合は、グリルシャッター14の開度を理想的な大きさにできないおそれがある。そのため第2実施形態では、以下に説明する方法によりグリルシャッター14(アクチュエータ16)を制御する。
【0046】
上記Qinは、下記の式(5)を用いて演算可能である。式(5)中の各文字はそれぞれ以下の内容を表す。
M:車両質量(kg)
V:車速(m/s)
Vbefore:車速の前回値(m/s)
α:ブレーキ前輪制動配分
g:重力加速度(m/s2)
Δt:サンプリング時間(ECU演算周期)
θ:推定路面勾配(deg)
THV:ドライブシャフトの1輪あたりの回生トルク(Nm)
R:タイヤ動荷重半径(m)
【0047】
【0048】
式(5)は、受熱量Qinが運動エネルギー、位置エネルギー及び回生エネルギーの総和であることを示す。さらに式(4)は、放熱量Qoutは、熱伝達率hに比例することを示す。そのため、受熱量Qinに対して放熱量Qoutを適正な大きさにする熱伝達率hを決定することにより、ブレーキロータ22の温度を目標温度に近づけられる。
【0049】
第2実施形態のECU26は、機能構成として、ブレーキ制御部261及びシャッター制御部263を有する。ブレーキ制御部261の機能は第1実施形態と同一である。第2実施形態のシャッター制御部263は、
図5(a)に示された第1マップ45及び
図5(b)に示された第2マップ47を利用して、所定時刻におけるグリルシャッター14の目標開度を演算する。第1マップ45及び第2マップ47はROM26Bに記録されている。この第1マップ45は、後述するバッテリ42の出力制限量と、車両10が走行中の道路の路面勾配と、グリルシャッター14の目標開度と、の関係に基づいて作成されたものである。即ち、出力制限量及び路面勾配が第1マップ45の引数である。一方、第2マップ47は、後述するバッテリ42の回生アベイラビリティと、路面勾配と、グリルシャッター14の目標開度と、の関係に基づいて作成されたものである。即ち、回生アベイラビリティ及び路面勾配が第2マップ47の引数である。以下、バッテリ42の出力制限量、バッテリ42の回生アベイラビリティ、及び道路の路面勾配について説明する。
【0050】
車両10が加速と減速を繰り返すとブレーキロータ22の温度が上昇し易いことが知られている。即ち、車両10の運動エネルギーとブレーキロータ22の温度との間には相関関係がある。車両10が加速と減速を繰り返すと、電動モータ40等へ電力を供給したり電動モータ40から電力の供給を受けたりするバッテリ42を含むバッテリ関連部品の温度が上昇し易い。なお、バッテリ関連部品には、バッテリ42の他に、例えばバッテリ42に接続されたワイヤーハーネスが含まれる。車両10のECU26は、バッテリ関連部品を保護するために、バッテリ42の温度に基づいてバッテリ42の出力制限量(出力制限値)を制御する。このようなバッテリの出力制限量の演算方法(祝方法)は、例えば特開2011-168232号公報に開示されている。シャッター制御部263(CPU26A)は、バッテリ42の温度に応じて変化する出力制限量を取得可能(演算可能)である。バッテリ42の出力制限量は車両10の運動エネルギーと相関関係があるため、バッテリ42の出力制限量と受熱量Qinは相関関係を有する。
【0051】
バッテリ42の最大回生量は、バッテリ42の回生アベイラビリティによって決定される。なお、バッテリ42の回生アベイラビリティは、バッテリ42が電動モータ40から受け入れ可能な回生電力(回生エネルギー)の上限量を表し、例えばバッテリ42のSOC(State Of Charge)や温度の大きさに応じて変動する。即ち、バッテリ42の回生アベイラビリティが低いとき、回生ブレーキによる制動力を大きくできないので、ブレーキ装置20が発生すべき制動力が大きくなり、その結果、受熱量Qinが大きくなる。このように回生アベイラビリティと受熱量Qinは相関関係を有する。ECU26はバッテリ42に接続されているため、シャッター制御部263(CPU26A)はバッテリ42の回生アベイラビリティを取得可能(演算可能)である。
【0052】
車両10の位置エネルギーと、車両10が走行中の道路の路面勾配とは相関関係を有する。そのため、路面勾配と受熱量Qinは相関関係を有する。なお、路面勾配の演算方法は周知である。例えばシャッター制御部263(CPU26A)は、アクセルペダルが所定量踏まれた場合の車両10が勾配のない道路を走行するときの加速度と、車両10が別の道路を走行するときにアクセルペダルが同じ量だけ踏まれた場合の加速度と、を比較することにより、この別の道路の路面勾配を取得可能(演算可能)である。またシャッター制御部263は、車両10に設けられたジャイロセンサの検出値を利用して路面勾配を取得可能である。
【0053】
このようにバッテリ42の出力制限量、バッテリ42の回生アベイラビリティ及び道路の路面勾配は、ブレーキロータ22の温度との関連性を有する値であり、受熱量Qinと相関関係を有する。そのため第1マップ45は、バッテリ42の出力制限量と、バッテリ42の回生アベイラビリティと、グリルシャッター14の目標開度と、の関係に基づいて作成されている。同様に第2マップ47は、バッテリ42の回生アベイラビリティと、路面勾配と、グリルシャッター14の目標開度と、の関係に基づいて作成されている。なお第1マップ45及び第2マップ47が表す目標開度は、実質的に式(4)の熱伝達率hと相関関係を有する。
【0054】
続いて、CPU26Aが実行する処理について説明する。CPU26Aは所定時間が経過する毎に
図6に示されたフローチャートの処理を繰り返し実行する。なお、この処理の実行中にブレーキパッドが断続的にブレーキロータ22に接触するものとする。
【0055】
S20においてCPU26Aは、バッテリ42の出力制限量、回生アベイラビリティ及び道路の路面勾配を取得する。
【0056】
S20の処理を終えたCPU26AはS21へ進み、S20で取得したバッテリ42の出力制限量及び回生アベイラビリティを第1マップ45へ適用して、グリルシャッター14の目標開度である第1開度を取得する。
【0057】
S21の処理を終えたCPU26AはS22へ進み、S20で取得したバッテリ42の回生アベイラビリティ及び路面勾配を第2マップ47へ適用して、グリルシャッター14の目標開度である第2開度を取得する。
【0058】
S22の処理を終えたCPU26AはS23へ進み、第1開度と第2開度を比較して、いずれが大きいかを判定する。
【0059】
S23の処理を終えたCPU26AはS24へ進み、第1開度と第2開度の中で開度の大きいものを目標開度として選択する。さらにCPU26Aは、グリルシャッター14の開度がこの目標開度となるようにアクチュエータ16を制御する。これによりグリルシャッター14の開度が目標開度に変更される。そのため、S24の処理が実行されてから所定時間が経過すると、各前輪18のブレーキロータ22の温度が上記目標温度になり易い。
【0060】
以上説明したようにブレーキロータ22の受熱量Qinが大きい場合はブレーキロータ22の温度が高くなるので、この場合は放熱量Qoutと相関関係を有するグリルシャッター14の目標開度(熱伝達率h)が大きくなる。一方、受熱量Qinが小さい場合は、グリルシャッター14の目標開度(熱伝達率h)が小さくなる。そのため第2実施形態では、車両10の空気抵抗を不要に大きくさせることなく、グリルシャッター14を利用してブレーキロータ22を効果的に冷却できる。
【0061】
さらに今回の演算時刻(現在時刻)より前の演算時刻において取得されたブレーキロータ22の推定温度を利用することなく、グリルシャッター14の開度が調整される。そのためブレーキロータ22の温度の推定値と実際値との誤差の影響を受けずにグリルシャッター14の開度を制御できる。
【0062】
さらに第2実施形態では、バッテリ42の出力制限量及び回生アベイラビリティに基づいて求められたグリルシャッター14の第1開度と、路面勾配及び回生アベイラビリティに基づいて求められたグリルシャッター14の第2開度と、が比較される。さらにグリルシャッター14の開度が、第1開度と第2開度の中で開度の大きいものの値となるようにアクチュエータ16が制御される。そのため、グリルシャッター14の開度が、第1開度と第2開度の中で開度の小さいものの値となるようにアクチュエータ16が制御される場合と比べて、ブレーキロータ22が過剰に高温化することが防止され易い。
【0063】
以上、実施形態に係る車両におけるグリルシャッター制御装置について説明したが、車両におけるグリルシャッター制御装置は本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、適宜設計変更可能である。
【0064】
例えば、第1実施形態において、ブレーキロータ22と微小隙間を形成するように設けられた温度センサを用いてブレーキロータ22の温度を検出し、グリルシャッター14の開度がこの検出値(ブレーキロータ22の温度との関連性を有する値)を開度制御用マップ30に適用することにより得られた目標開度となるように、CPU26Aがアクチュエータ16を制御してもよい。
【0065】
第2実施形態において、CPU26Aが、バッテリ42の出力制限量、回生アベイラビリティ、及び路面勾配の少なくとも一つに基づいてアクチュエータ16を制御してもよい。
【符号の説明】
【0066】
10 車両
14 グリルシャッター
16 アクチュエータ
18 前輪
22 ブレーキロータ
262 温度推定部
263 シャッター制御部(制御部)
35 グリルシャッター制御装置
40 電動モータ
42 バッテリ
45 第1マップ
47 第2マップ