(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024117608
(43)【公開日】2024-08-29
(54)【発明の名称】車両におけるブレーキ冷却構造
(51)【国際特許分類】
F16D 65/807 20060101AFI20240822BHJP
B60G 7/00 20060101ALI20240822BHJP
【FI】
F16D65/807
B60G7/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023023789
(22)【出願日】2023-02-17
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松尾 法秋
(72)【発明者】
【氏名】一柳 哲也
【テーマコード(参考)】
3D301
3J058
【Fターム(参考)】
3D301AA89
3D301DA90
3D301DA92
3J058AA43
3J058AA48
3J058AA53
3J058AA62
3J058AA69
3J058AA73
3J058AA77
3J058AA87
3J058BA37
3J058CD14
3J058CD15
3J058DD02
3J058DE02
3J058EA02
3J058EA13
(57)【要約】
【課題】ダクトの排出口から排出された空気を利用して車輪のブレーキロータを効果的に冷却できる車両におけるブレーキ冷却構造を提供する。
【解決手段】車両に設けられたサスペンションアーム20に設けられ、前方から空気を取り入れる導入口49及びサスペンションアームに支持部材22を介して接続された車輪30に設けられたブレーキロータへ向けて空気を排出する排出口を有するダクト45を備える。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に設けられたサスペンションアームに設けられ、前方から空気を取り入れる導入口及び前記サスペンションアームに支持部材を介して接続された車輪に設けられたブレーキロータへ向けて前記空気を排出する排出口を有するダクトを備える車両におけるブレーキ冷却構造。
【請求項2】
前記導入口の少なくとも一部が、前記車両に設けられたアンダーカバーより下方に位置する請求項1に記載の車両におけるブレーキ冷却構造。
【請求項3】
前記導入口の面積が前記排出口の面積より大きい請求項1又は請求項2に記載の車両におけるブレーキ冷却構造。
【請求項4】
前記支持部材が、前記サスペンションアームに回転可能に支持されたナックルであり、
前記ナックルに、前記ブレーキロータに接触させられるブレーキパッドを支持すると共に前記ナックルとの間に隙間を形成するキャリパが支持され、
前記隙間を介して前記ブレーキロータと前記排出口が対向する請求項1又は請求項2に記載の車両におけるブレーキ冷却構造。
【請求項5】
前記ダクトの下端面が、前記車両に設けられたアンダーカバーより下方に位置し、且つ、前記サスペンションアームの下端面と同じ上下方向位置か又は前記サスペンションアームの下端面より上方に位置する請求項1又は請求項2に記載の車両におけるブレーキ冷却構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は車両におけるブレーキ冷却構造に関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1に開示された車両は、フロントバンパに設けられたダクトを備えている。この車両が走行すると、走行風(空気)がダクトの内部を通り抜け、ダクトの空気排出口から前輪のブレーキ部へ供給される。そのため、供給された空気によって前輪のブレーキ部が冷却される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1の車両では、ダクトの空気排出口から前輪のブレーキ部までの距離が長い。そのためダクトを通り抜けた空気を利用して前輪のブレーキ部を冷却するのが容易ではない。
【0005】
本発明は上記事実を考慮し、ダクトの排出口から排出された空気を利用して車輪のブレーキロータを効果的に冷却できる車両におけるブレーキ冷却構造を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に記載の車両におけるブレーキ冷却構造は、車両に設けられたサスペンションアームに設けられ、前方から空気を取り入れる導入口及び前記サスペンションアームに支持部材を介して接続された車輪に設けられたブレーキロータへ向けて前記空気を排出する排出口を有するダクトを備える。
【0007】
請求項1の車両におけるブレーキ冷却構造では、支持部材を介して車輪に接続されるサスペンションアームにダクトが設けられている。そのため、ダクトの排出口から車輪に設けられたブレーキロータまでの距離が短い。そのため、請求項1の車両におけるブレーキ冷却構造では、ダクトの排出口から排出された空気を利用して車輪のブレーキロータを効果的に冷却できる。
【0008】
請求項2に記載の車両におけるブレーキ冷却構造は、請求項1において、前記導入口の少なくとも一部が、前記車両に設けられたアンダーカバーより下方に位置する。
【0009】
請求項2の車両におけるブレーキ冷却構造では、導入口の少なくとも一部がアンダーカバーより下方に位置する。そのため走行風を確実に導入口へ導くことが可能である。
【0010】
請求項3に記載の車両におけるブレーキ冷却構造は、請求項1又は請求項2において、前記導入口の面積が前記排出口の面積より大きい。
【0011】
請求項3の車両におけるブレーキ冷却構造では、導入口の面積が排出口の面積より大きい。そのため走行風を導入口へ導き易く、且つ、排出口からブレーキロータへ空気を強い圧力で供給できる。
【0012】
請求項4に記載の車両におけるブレーキ冷却構造は、請求項1又は請求項2において、前記支持部材が、前記サスペンションアームに回転可能に支持されたナックルであり、前記ナックルに、前記ブレーキロータに接触させられるブレーキパッドを支持すると共に前記ナックルとの間に隙間を形成するキャリパが支持され、前記隙間を介して前記ブレーキロータと前記排出口が対向する。
【0013】
請求項4の車両におけるブレーキ冷却構造では、ナックルとキャリパの間に形成された隙間を利用して、ダクトの排出口から排出された空気を車輪のブレーキロータに供給できる。
【0014】
請求項5に記載の車両におけるブレーキ冷却構造は、請求項1又は請求項2において、前記ダクトの下端面が、前記車両に設けられたアンダーカバーより下方に位置し、且つ、前記サスペンションアームの下端面と同じ上下方向位置か又は前記サスペンションアームの下端面より上方に位置する。
【0015】
請求項5の車両におけるブレーキ冷却構造では、アンダーカバーより下方に位置するダクトの下端面が、サスペンションアームの下端面と同じ上下方向位置か又はサスペンションアームの下端面より上方に位置する。そのため、ダクトのアンダーカバーより下方に位置する部位の正面視における面積が小さい。そのため車両の走行時に、ダクトに起因して発生する空気抵抗が大きくなり難い。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る車両におけるブレーキ冷却構造は、ダクトの排出口から排出された空気を利用して車輪のブレーキロータを効果的に冷却できる、という優れた効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】実施形態に係るブレーキ冷却構造が適用された車両の前部のダクト及び一方の前輪を省略して示す底面図である。
【
図3】ブレーキ冷却構造の
図2とは別の方向から見たときの斜視図である。
【
図5】ブレーキ冷却構造のダクトの
図4の5-5矢線に沿う断面図である。
【
図6】ブレーキロータ、ナックル、キャリパ及び隙間の模式的な側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明に係る車両におけるブレーキ冷却構造の実施形態について添付図面を参照しながら説明する。なお、各図中に適宜示される矢印FRは車両前後方向の前側である車両前方を示し、矢印LHは車両左右方向の左側である車両左方を示し、矢印UPは車両上下方向の上側である車両上方を示す。以下の説明中の前後方向、左右方向、及び上下方向は、それぞれ車両前後方向、車両左右方向、及び車両上下方向を表す。
【0019】
図1に示されたように、実施形態のブレーキ冷却構造が適用された車両10の車体12の前部には、左右一対のホイールハウス14が設けられている。さらに車体12は、その下面を構成するアンダーカバー16を備えている。
【0020】
車両10は、長手方向の中央部がアンダーカバー16の上方に配置され且つ左右方向に延びるサスペンションアーム(ロアアーム)20を備える。サスペンションアーム20の中央部が車体12の一部に揺動可能に支持されている。
図1に示されたように、サスペンションアーム20の左右両端部21は左右のホイールハウス14によって形成された空間に位置する。さらに
図4に示されたように、左右の端部21の下端面21Aは、正面視において左右方向と平行な第1面21A1と、第1面21A1の内側端部からサスペンションアーム20の中央部側に向かって延び且つ正面視において左右方向に対して傾斜する第2面21A2と、を有する。左右の端部21の下端面21Aは、アンダーカバー16の左右両端部の下端面より下方に位置する。
図1及び
図2に示されたように、左右の端部21には、ボールジョイント24を介してナックル(支持部材)22の下端部が回転可能に支持されている。ナックル22には、車両10に設けられたステアリング装置(図示省略)から延びるタイロッド26が接続されている。
【0021】
前輪(車輪)30を支持するアクスルハブがナックル22を左右方向に貫通している。またナックル22にはキャリパ28が固定されている。キャリパ28は、作動液が導入されるホイールシリンダを有し、ホイールシリンダに供給された作動液の液圧によって駆動されるブレーキパッド29(
図6参照)を支持する。前輪30にはブレーキパッド29と対向するブレーキロータ32が固定されている。ブレーキペダル(図示省略)が運転者によって踏まれるとホイールシリンダに作動液が供給され、ブレーキパッド29が前輪30のブレーキロータ32に押し付けられ制動力が発生する。制動力が発生したときに、ブレーキパッド29とブレーキロータ32との間で摩擦熱が発生する。
【0022】
さらに車両10は、左右一対のショックアブソーバー36(
図1参照)を備える。ショックアブソーバー36の外周側にはコイルスプリング(図示省略)が設けられている。ショックアブソーバー36の外形を構成するハウジングの下端部は、ブラケットを介してナックル22に連結されている。ショックアブソーバー36のハウジングから上方に突出したピストンロッドが、アッパサポート(図示省略)を介して車体12に取り付けられている。アッパサポートにおけるショックアブソーバー36の取付中心点と、ボールジョイント24を結ぶ線がキングピン軸である。即ち、本実施形態のサスペンションはストラットタイプである。
【0023】
サスペンションアーム20の左右の端部21には、それぞれダクト45が設けられている。左右のダクト45は互いに左右対称である。そのため以下の説明では右側のダクト45についてのみ説明する。
【0024】
本実施形態のダクト45は樹脂製の一体成形品である。但し、ダクト45の材質は樹脂に限定されない。例えば、ダクト45が金属製であってもよい。ダクト45は、ダクト45の下端部を構成する導入部47と、導入部47の後部から上方へ延びる中間部51と、中間部51の後部から後方に延びる後方突出部53と、ダクト45の上端部を構成する排出部55と、を有する。
図2、
図4及び
図5に示されたように導入部47の正面形状は略長方形である。導入部47の底板部48は、第1構成部48A及び第2構成部48Bによって構成されている。第1構成部48Aは正面視において左右方向と平行である。第2構成部48Bは第1構成部48Aの内側端部からサスペンションアーム20の中央部側に向かって延び且つ正面視において左右方向に対して傾斜する。さらに導入部47の前端面には導入口49が形成されている。
図2及び
図3に示されたように後方突出部53は導入部47より後方且つ上方に位置する。排出部55の右端面には排出口57が形成されている。ダクト45は中空の構造物である。即ち、ダクト45の内部空間の一端が導入口49であり、内部空間の他端が排出口57である。正面視における導入口49の面積は、側面視における排出口57の面積より大きい。
【0025】
図2及び
図3に示されたように、後方突出部53の下面がサスペンションアーム20の端部21の上面に載せられており、導入部47の後面が端部21の前面と隙間を形成しながら対向している。さらに
図4に示されたように、正面視において導入口49の上端部を除く部分はアンダーカバー16の下端面より下方に位置する。さらに
図4に示されたように、正面視において第2構成部48Bの下端面はサスペンションアーム20の端部21の第2面21A2と前後方向に実質的に重なる。即ち、正面視において第2構成部48Bの下端面の上下方向位置は、端部21の第2面21A2と実質的に同じである。さらに正面視においてダクト45の第2構成部48B以外の部位は、端部21の下端面21Aより上方に位置する。この状態で後方突出部53が端部21に固定される。後方突出部53と端部21の固定手段は如何なる手段であってもよい。例えば、端部21の内部に固定されたウェルドナット、及び、後方突出部53の底板を上下方向に貫通し且つウェルドナットに螺合されるボルトを、固定手段として利用してもよい。
【0026】
さらに
図2、
図3及び
図6に示されたように、車両10の幅方向の中央部側から前輪30側を見たときに、各ダクト45の排出口57は、対応するナックル22の一部とキャリパ28の後端部との間に形成された隙間Gと左右方向に対向する。換言すると、各ダクト45の排出口57が隙間Gを介してブレーキロータ32の一部と対向する。
【0027】
(作用並びに効果)
次に、実施形態の作用並びに効果について説明する。
【0028】
車両10の走行中にブレーキペダルが踏まれると、ブレーキパッド29とブレーキロータ32との間で摩擦熱が発生する。そのためブレーキパッド29がブレーキロータ32に押し付けられることによりブレーキロータ32が高温化する。
【0029】
車両10が前進走行すると、車両10の前方にある空気が走行風となってアンダーカバー16と路面との間に流れ込み、走行風の一部が左右のダクト45の導入部47へ流入する。この走行風はダクト45の内部空間を上方へ流れ排出口57から外部へ排出される。排出口57から排出された空気は、対向する隙間Gを通り抜けてブレーキロータ32に供給される。
【0030】
ここで車体12の前端部に設けられたフロントバンパ13(
図1参照)にダクト(図示省略)を設けた比較例を想定する。この比較例では、ダクトの後端部に設けられた排出口からブレーキロータ32までの距離が長くなる。これに対して本実施形態のようにサスペンションアーム20の端部21にダクト45を固定した場合は、ダクト45の排出口57から対応する前輪30のブレーキロータ32までの距離が短い。そのためダクト45の排出口57から排出された空気を利用して前輪30のブレーキロータ32を効果的に冷却できる。
【0031】
さらに
図4に示されたように、ダクト45の導入口49の少なくとも一部がアンダーカバー16より下方に位置する。そのため車両10が前進走行するときに、走行風が確実に導入口49へ導かれる。
【0032】
さらにダクト45の導入口49の面積が排出口57の面積より大きい。そのため走行風を導入口49へ導き易い。さらに排出口57からブレーキロータ32へ空気を強い圧力で供給できるので、排出口57からブレーキロータ32へ供給された空気によるブレーキロータ32の冷却効果が大きい。
【0033】
さらにアンダーカバー16より下方に位置するダクト45の底板部48の第2構成部48Bの下端面の上下方向位置が端部21の下端面21Aと実質的に同じであり、ダクト45の第2構成部48B以外の部位が下端面21Aより上方に位置する。そのためダクト45のアンダーカバー16より下方に位置する部位の正面視における面積が小さい。そのため車両10の走行時に、ダクト45に起因して発生する空気抵抗が大きくなり難い。
【0034】
さらに左右のナックル22はキングピン軸回りにサスペンションアーム20に対して回転する。さらにナックル22の回転に伴って、ブレーキロータ32のダクト45に対する相対位置、並びに、隙間Gの形状及び隙間Gのダクト45に対する相対位置が変化する。しかし本実施形態のダクト45はサスペンションアーム20の端部21に設けられているので、キングピン軸からダクト45までの距離が短い。そのためナックル22が回転したときのブレーキロータ32のダクト45に対する相対位置の変化量、隙間Gの形状の変化量、及び隙間Gのダクト45に対する相対位置の変化量は小さい。即ち、これらの変化量は、上記比較例における変化量より小さい。そのため、ナックル22が回転した場合においても、排出口57と隙間Gとを対向させて、排出口57から排出された空気を隙間Gを介してブレーキロータ32へ供給できる。
【0035】
以上、実施形態に係る車両におけるブレーキ冷却構造について説明したが、車両におけるブレーキ冷却構造は本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、適宜設計変更可能である。
【0036】
例えば後輪側のサスペンションアームにダクト45を設けて、このダクト45の排出口57から排出された空気によって後輪のブレーキロータを冷却してもよい。
【0037】
正面視において導入口49全体がアンダーカバー16の下端面より下方に位置してもよい。
【0038】
正面視においてダクト45全体が、左右の端部21の下端面21Aより上方に位置してもよい。
【0039】
サスペンションのタイプはストラットタイプに限定されない。サスペンションが何れのタイプであっても、サスペンションアーム(ロアアーム及びアッパアームの少なくとも一方)にダクト45を設ければよい。
【符号の説明】
【0040】
10 車両
16 アンダーカバー
20 サスペンションアーム(ロアアーム)
21A 下端面
22 ナックル(支持部材)
28 キャリパ
29 ブレーキパッド
30 前輪(車輪)
32 ブレーキロータ
45 ダクト
49 導入口
57 排出口
G 隙間