(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024117631
(43)【公開日】2024-08-29
(54)【発明の名称】連続繊維強化複合材料およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
C08J 5/04 20060101AFI20240822BHJP
【FI】
C08J5/04 CER
C08J5/04 CEZ
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023023833
(22)【出願日】2023-02-17
(71)【出願人】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100165951
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 憲悟
(72)【発明者】
【氏名】秋山 努
(72)【発明者】
【氏名】時丸 祐輝
(72)【発明者】
【氏名】大塚 淳
【テーマコード(参考)】
4F072
【Fターム(参考)】
4F072AA04
4F072AB06
4F072AB09
4F072AB28
4F072AD44
4F072AE07
4F072AF01
4F072AF06
4F072AF16
4F072AK05
4F072AK14
4F072AL11
(57)【要約】
【課題】優れた難燃性と機械的強度とを両立した連続繊維強化複合材料を提供する。
【解決手段】少なくとも連続強化繊維と、熱可塑性樹脂と、難燃剤とを含む連続繊維強化複合材料であって、連続強化繊維の過密な連続強化繊維過密領域と前記連続強化繊維が過疎な連続強化繊維過疎領域とを有し、連続繊維強化複合材料の厚み方向断面において、連続強化繊維の径の45%よりも大きな粒径を有する難燃剤を面積割合で2%以上含み、連続強化繊維過疎領域における樹脂領域の面積に対する難燃剤の面積の割合が、連続強化繊維過密領域における樹脂領域の面積に対する難燃剤の面積の割合に対して1%以上高いことを特徴とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも連続強化繊維と、熱可塑性樹脂と、難燃剤とを含む連続繊維強化複合材料であって、
前記連続強化繊維の過密な連続強化繊維過密領域と前記連続強化繊維が過疎な連続強化繊維過疎領域とを有し、
前記連続繊維強化複合材料の厚み方向断面において、
前記連続強化繊維の径の45%よりも大きな粒径を有する前記難燃剤を面積割合で2%以上含み、
前記連続強化繊維過疎領域における樹脂領域の面積に対する前記難燃剤の面積の割合が、前記連続強化繊維過密領域における樹脂領域の面積に対する前記難燃剤の面積の割合に対して1%以上高いことを特徴とする連続繊維強化複合材料。
【請求項2】
カーボンブラックをさらに含む、請求項1に記載の連続繊維強化複合材料。
【請求項3】
ケイ素化合物をさらに含む、請求項1または2に記載の連続繊維強化複合材料。
【請求項4】
前記連続強化繊維がガラス繊維である、請求項1または2に記載の連続繊維強化複合材料。
【請求項5】
前記連続強化繊維が織物である、請求項1または2に記載の連続繊維強化複合材料。
【請求項6】
少なくとも熱可塑性樹脂及び難燃剤を含む樹脂フィルムと連続強化繊維とを積層して積層体とする積層工程と、
前記積層体を加熱して溶融した前記熱可塑性樹脂を前記連続強化繊維に含浸させる加熱工程と、
前記熱可塑性樹脂を含浸させた前記連続強化繊維を冷却することによって連続繊維強化複合材料を得る冷却工程と、
を含み、
前記連続繊維強化複合材料は、前記連続強化繊維の過密な連続強化繊維過密領域と前記連続強化繊維が過疎な連続強化繊維過疎領域とを有し、
前記連続繊維強化複合材料の厚み方向断面において、
前記連続強化繊維の径の45%よりも大きな粒径を有する難燃剤を面積割合で2%以上含み、
前記連続強化繊維過疎領域における樹脂領域の面積に対する前記難燃剤の面積の割合が、前記連続強化繊維過密領域における樹脂領域の面積に対する前記難燃剤の面積の割合に対して1%以上高いことを特徴とする連続繊維強化複合材料の製造方法。
【請求項7】
前記加熱工程において、室温から前記熱可塑性樹脂の融点までの昇温時間を60秒以下とする、請求項6に記載の連続繊維強化複合材料の製造方法。
【請求項8】
前記熱可塑性樹脂と前記難燃剤とをコンパウンドしてペレットを得るコンパウンド工程と、前記ペレットをフィルム化して前記樹脂フィルムを得るフィルム化工程とをさらに含む、請求項6または7に記載の連続繊維強化複合材料の製造方法。
【請求項9】
前記コンパウンド工程においてコンパウンドする前記難燃剤として、平均粒径が2μm以上、かつ吸水率が0.3質量%以上のものを用いる、請求項8に記載の連続繊維強化複合材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、連続繊維強化複合材料およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
連続繊維強化複合材料は、軽量で耐熱性に優れることから、自動車部品、航空機部品、鉄道部品等、各種産業用途に幅広く使用されている。こうした各種産業用途では、火災等による着火延焼を防ぐため、難燃性の向上が強く求められている。特に自動車においては電動化に伴う航続距離延長要求を満たすための軽量化要求が高まっているが、大量のバッテリーの搭載が必要になるため、筐体やセルホルダー等のバッテリー周辺部材において暴走時の火炎や熱に耐えうる軽量化可能な材料が求められている。特に近年のサステナビリティ―の機運の高まりから生産性の観点、リサイクル性の観点から熱可塑性樹脂をマトリックスとした材料が必要とされている。
【0003】
例えば、特許文献1、2には、高強度と難燃性とを両立すべく、難燃剤及び難燃助剤としてホスフィン酸塩、ポリリン酸メラミン、及びホウ酸亜鉛と、連続ガラス繊維や連続炭素繊維とを含むポリアミド樹脂組成物が記載されている。
【0004】
また、より高い難燃性を樹脂に付与する技術として、特許文献3には、難燃剤としてホスホン酸のアルミニウム塩、並びに1種又は複数の有機ホスフィン酸の塩及び/又は1種または複数のジホスフィン酸の塩と炭素繊維とを含む樹脂組成物が記載されている。さらに、特許文献4には、1つ又は複数の熱可塑性ポリアミド、ジアルキルホスフィン酸塩、亜リン酸の塩、メラミンの縮合生成物、フィラー及び/又は強化材、ホスファイト又はホスホナイト又はそれらの混合物、長鎖脂肪族カルボン酸のエステル又は塩を含む難燃性ポリアミド組成物が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第6633569号公報
【特許文献2】特許第6734440号公報
【特許文献3】特開2019-172991号公報
【特許文献4】特表2019-507227号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1、2に記載のポリアミド樹脂組成物は、難燃性は向上しているものの十分ではなく、更に大量の難燃剤を使用していることから機械物性の観点からも改良の余地がある。
【0007】
また、上記特許文献3、4に記載の難燃剤は、難燃効果が高いものの、連続繊維強化複合材料に適用しようとした場合、樹脂が高粘度化しすぎるため含浸し難いという問題がある。
【0008】
そこで、本発明は、特に優れた難燃性と機械的強度とを両立した連続繊維強化複合材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討を重ねた結果、難燃性と機械物性とを両立するには、難燃剤を効果的に配置すること、具体的には、強化繊維周辺の樹脂は燃焼しにくいため、強化繊維から離れた領域に難燃剤をより多く配置し、この領域の樹脂の難燃性を高めることが重要であることを見出した。また、本発明者らは、含浸性を高めるためには粘度の上昇を抑えた難燃剤の添加手法が必要であり、難燃剤の粒径を一定以上に大きくするほど樹脂の粘度が上昇し難いことを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0010】
即ち、本発明は、下記に示すとおりである。
[1]少なくとも連続強化繊維と、熱可塑性樹脂と、難燃剤とを含む連続繊維強化複合材料であって、
前記連続強化繊維の過密な連続強化繊維過密領域と前記連続強化繊維が過疎な連続強化繊維過疎領域とを有し、
前記連続繊維強化複合材料の厚み方向断面において、
前記連続強化繊維の径の45%よりも大きな粒径を有する前記難燃剤を面積割合で2%以上含み、
前記連続強化繊維過疎領域における樹脂領域の面積に対する前記難燃剤の面積の割合が、前記連続強化繊維過密領域における樹脂領域の面積に対する前記難燃剤の面積の割合に対して1%以上高いことを特徴とする連続繊維強化複合材料。
【0011】
[2]カーボンブラックをさらに含む、前記[1]に記載の連続繊維強化複合材料。
【0012】
[3]ケイ素化合物をさらに含む、前記[1]または[2]に記載の連続繊維強化複合材料。
【0013】
[4]前記連続強化繊維がガラス繊維である、前記[1]~[3]のいずれか一項に記載の連続繊維強化複合材料。
【0014】
[5]前記連続強化繊維が織物である、前記[1]~[4]のいずれか一項に記載の連続繊維強化複合材料。
【0015】
[6]少なくとも熱可塑性樹脂及び難燃剤を含む樹脂フィルムと連続強化繊維とを積層して積層体とする積層工程と、
前記積層体を加熱して溶融した前記熱可塑性樹脂を前記連続強化繊維に含浸させる加熱工程と、
前記熱可塑性樹脂を含浸させた前記連続強化繊維を冷却することによって連続繊維強化複合材料を得る冷却工程と、
を含み、
前記連続繊維強化複合材料は、前記連続強化繊維の過密な連続強化繊維過密領域と前記連続強化繊維が過疎な連続強化繊維過疎領域とを有し、
前記連続繊維強化複合材料の厚み方向断面において、
前記連続強化繊維の径の45%よりも大きな粒径を有する難燃剤を面積割合で2%以上含み、
前記連続強化繊維過疎領域における樹脂領域の面積に対する前記難燃剤の面積の割合が、前記連続強化繊維過密領域における樹脂領域の面積に対する前記難燃剤の面積の割合に対して1%以上高いことを特徴とする連続繊維強化複合材料の製造方法。
【0016】
[7]前記加熱工程において、室温から前記熱可塑性樹脂の融点までの昇温時間を60秒以下とする、前記[6]に記載の連続繊維強化複合材料の製造方法。
【0017】
[8]前記熱可塑性樹脂と前記難燃剤とをコンパウンドしてペレットを得るコンパウンド工程と、前記ペレットをフィルム化して前記樹脂フィルムを得るフィルム化工程とをさらに含む、前記[6]または[7]に記載の連続繊維強化複合材料の製造方法。
【0018】
[9]前記コンパウンド工程においてコンパウンドする前記難燃剤として、平均粒径が2μm以上、かつ吸水率が0.3質量%以上のものを用いる、前記[8]に記載の連続繊維強化複合材料の製造方法。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、特に高い難燃性と機械的強度とのバランスに優れ、樹脂が十分に繊維に含浸した連続繊維強化複合材料を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態について説明する。本発明による連続繊維強化複合材料は、少なくとも連続強化繊維と、熱可塑性樹脂と、難燃剤とを含む。また、本発明による連続繊維強化複合材料は、連続繊維強化複合材料の厚み方向断面において、前記連続強化繊維の径の45%よりも大きな粒径を有する前記難燃剤を面積割合で2%以上含んでおり、連続繊維強化複合材料は、連続強化繊維の過密な連続強化繊維過密領域と連続強化繊維が過疎な連続強化繊維過疎領域とを有しており、前記連続強化繊維過疎領域における樹脂領域の面積に対する前記難燃剤の面積の割合が、前記連続強化繊維過密領域における樹脂領域の面積に対する前記難燃剤の面積の割合に対して1%以上高い。
【0021】
高い難燃性と高い機械物性とを両立させるためには、難燃剤を効果的に配置して難燃性を高めること、熱可塑性樹脂の強化繊維への含浸性を高めることが重要である。連続強化繊維は、樹脂と比較して燃えにくいという特徴がある。本発明者らは、連続強化繊維は樹脂と比較して熱伝導性が高く、また繊維が連続しているため、炎に晒された部分からその他の部分へ熱を移動させる効果があり、連続強化繊維の周辺の樹脂についても燃焼しにくいということを見出した。また、難燃剤は熱可塑性樹脂の粘度を上げてしまうため含浸性が低下するが、含浸する樹脂は連続強化繊維の近傍に配置される樹脂であり、この樹脂に含まれる難燃剤量を比較的少なくすることで粘度上昇の影響を少なくし、含浸性を高めることができることも見出した。更には、難燃剤は連続繊維強化複合材料にとっての異物となる場合があるため機械物性に悪影響を与えてしまうが、機械物性は連続強化繊維と樹脂との界面を中心とした連続強化繊維近傍の領域の影響が大きいため、この領域における難燃剤の量を比較的少なくすることによって機械物性への影響を少なくすることができることも見出した。すなわち、難燃剤は連続強化繊維の周辺領域には比較的少なく、連続強化繊維から離れた領域に比較的多く配置することが、高い難燃性と高い機械物性とを両立するために必要となる。
【0022】
本発明においては、連続強化繊維を含む領域およびその周辺領域を「連続強化繊維過密領域」、連続強化繊維から離れた領域を「連続強化繊維過疎領域」と定義し、連続繊維強化複合材料の厚み方向断面において、連続強化繊維過疎領域における樹脂領域の面積に対する難燃剤の面積の割合が、連続強化繊維過密領域における樹脂領域の面積に対する難燃剤の面積の割合に対して1%以上高い。連続強化繊維過疎領域における樹脂領域の面積に対する難燃剤の面積の割合を、連続強化繊維過密領域における樹脂領域の面積に対する難燃剤の面積の割合に対して1%以上高くすることによって、連続繊維強化複合材料の難燃性と機械物性とを両立させることができる。より高い難燃性及び高い機械物性を発揮させるためには、連続強化繊維過疎領域における樹脂領域の面積に対する難燃剤の面積の割合が、連続強化繊維過密領域における樹脂領域の面積に対する難燃剤の面積の割合に対して2%以上高いことが好ましく、4%以上高いことがより好ましく、6%以上高いことが更に好ましく、9%以上高いことが最も好ましい。一方、連続強化繊維過疎領域における樹脂領域の面積に対する難燃剤の面積の割合と、連続強化繊維過密領域における樹脂領域の面積に対する難燃剤の面積の割合との差の最大値は、高い難燃性及び高い機械物性を発揮させる点では限定されないが、製造工程における品質安定性の点で、連続強化繊維過疎領域における樹脂領域の面積に対する難燃剤の面積の割合が、連続強化繊維過密領域における樹脂領域の面積に対する難燃剤の面積の割合に対して30%以下高いことが好ましく、20%以下高いことがより好ましく、15%以下高いことが更に好ましい。なお、連続強化繊維過密領域と連続強化繊維過疎領域の切り分け方と、それぞれの領域の樹脂領域における難燃剤の量の測定方法は以下の通り行う。
【0023】
まず、連続繊維強化複合材料の試料を用意し、その厚み方向断面を、ミクロトームによる切削によって切出す。次に、厚み方向断面が観察面となるようにSEM試料台に試料を固定し、オスミウムプラズマコーターによるコーティングおよび補助的にカーボンペーストを塗布することによって導電処理を施し、SEM/EDXにて難燃剤に特有な元素を観察する。難燃剤に特有な元素としては、例えば、リン系難燃剤の場合はリン、ハロゲン系難燃剤の場合はハロゲン、金属水酸化物の場合は当該金属を設定することができる。SEM装置としてJSM-IT800(SHL)(日本電子製)、エネルギー分散型X線検出器としてJED-2300(日本電子製)を使用し、視野サイズ640μm×480μm、解像度を2048×1536、照射電子線の加速電圧を5.00kV、照射電流値を約4nAとし、1画素あたりの電子線照射時間を0.1ミリ秒として20回積算のEDX測定を実施し、連続強化繊維の元素マップ、及び、難燃剤の元素マップを取得する。1つの試料につき3視野に対して測定を行い、それらを領域の切り分けや難燃剤の量の測定に使用する。得られた測定値の平均値を算出した。
【0024】
続いて、連続強化繊維の元素マップに対して3×3のガウシアンフィルターを適用してノイズを低減し、大津の二値化を実施した後、得られた領域(白い領域)を「強化繊維領域」と定義し、強化繊維領域に含まれない領域(黒い領域)を「視野全体の樹脂領域」と定義する。その後、OpenCVのgetStructuringElement関数を用いて作成した5×5楕円カーネルを使用し、強化繊維領域に対して16回の膨張、20回の収縮、5回の膨張を実施し、得られた領域を「連続強化繊維含有領域」と定義し、強化繊維領域と連続強化繊維含有領域との積集合を「連続強化繊維領域」と定義する。また、OpenCVのdistanceTransform関数を用いて作成した連続強化繊維からのユークリッド距離空間に基づいて、連続強化繊維領域及びその周辺の2μm以内の領域を抽出し、「連続強化繊維過密領域」と定義し、連続強化繊維過密領域に含まれなかった領域を「連続強化繊維過疎領域」と定義する。また、連続強化繊維過密領域から強化繊維領域を除いた領域を、「連続強化繊維過密領域に含まれる樹脂領域」と定義し、連続強化繊維過疎領域から強化繊維領域を除いた領域を、「連続強化繊維過疎領域に含まれる樹脂領域」と定義する。
【0025】
また、難燃剤の元素マップに対して3×3のガウシアンフィルターを適用してノイズを低減し、トライアングル法による二値化を実施した後、得られた領域(白い領域)を「難燃剤領域」と定義し、難燃剤領域から強化繊維元素領域を除いた領域を「視野全体の難燃剤の領域」と定義する。また、難燃剤領域と連続強化繊維過密領域との積集合を、「連続強化繊維過密領域に含まれる難燃剤の領域」と定義する。さらに、難燃剤領域と連続強化繊維過疎領域との積集合を、「連続強化繊維過疎領域に含まれる難燃剤の領域」と定義する。ここで、難燃剤の領域の面積を樹脂領域の面積で割った値を「難燃剤の面積割合」と定義する。例えば、視野全体の難燃剤の領域の面積を、視野全体の樹脂領域の面積で割った値を、「視野全体における難燃剤の面積割合」と定義する。
【0026】
次いで、視野全体の難燃剤の領域に対して、OpenCVのfindContours関数(methodはCHAIN_APPROX_SIMPLE)を適用し、難燃剤粒子の輪郭を抽出し、各輪郭より算出された面積を、それぞれの輪郭に対応する難燃剤粒子の面積と定義する。また、難燃剤粒子が空隙を含む場合、その粒子の輪郭より算出された面積から空隙の面積を減算した数値を、その粒子の面積と定義する。ここで、上記と同様に、難燃剤粒子の面積を樹脂領域の面積で割った値を面積割合と定義する。例えば、視野全体の難燃剤の領域に含まれる難燃剤粒子の中から面積が1μm2以上の難燃剤粒子を抽出して難燃剤粒子の面積の合計を算出し、算出した合計面積を視野全体の樹脂領域の面積で割って得られた数値が、視野全体における面積1μm2以上の難燃剤粒子の面積割合である。同様に、連続強化繊維過密領域または連続強化繊維過疎領域に含まれる難燃剤の領域より輪郭を抽出し、それぞれの領域における難燃剤粒子の面積や面積割合を算出する。
【0027】
連続強化繊維過疎領域に比較的多い量の難燃剤を配置し、連続強化繊維過密領域に比較的少ない量の難燃剤を配置するためには、難燃剤が繊維に含浸しにくい一定以上の粒径の難燃剤を含んでいることが重要である。従来、難燃剤の粒径が小さいほど難燃性に優れると考えられていた。しかしながら、本発明者らが鋭意検討した結果、驚くべきことに、連続強化繊維過疎領域においてはある一定の粒径以上の難燃剤を含んでいるほうが、高い難燃性を示すことが判明した。すなわち、連続繊維強化複合材料が、その厚み方向断面において、前記連続強化繊維の径の45%よりも大きな粒径を有する前記難燃剤を面積割合で2%以上含んでいることによって、連続繊維強化複合材料が高い難燃性を示すことを見出した。連続繊維強化複合材料は、より好ましくは面積割合で4%以上含んでおり、更に好ましくは面積割合で6%以上含んでおり、最も好ましくは面積割合で8%以上含んでいる。一方、連続強化繊維の径の45%よりも大きな粒径を有する難燃剤の面積割合は、高い難燃性及び高い機械物性を発揮させる点では限定されないが、生産性の点、また、連続繊維強化複合材料の原材料としてフィルムを用いる場合についてはフィルム化工程の安定性の点で、25%以下含んでいることが好ましく、15%以下含んでいることがより好ましい。
【0028】
また、より高い難燃性と機械物性とを両立させる観点からは、連続強化繊維の径の90%以上大きな粒径の難燃剤の粒子を、面積割合で1%以上含んでいることが好ましく、面積割合で3%以上含んでいることがより好ましく、面積割合で6%以上含んでいることが更に好ましく、面積割合で7%以上含んでいることが最も好ましい。一方、連続強化繊維の径の90%よりも大きな粒径を有する難燃剤の面積割合は、高い難燃性及び高い機械物性を発揮させる点ではその上限値は限定されないが、生産性の点、また、連続繊維強化複合材料の原材料としてフィルムを用いる場合についてはフィルム化工程の安定性の点で、20%以下含んでいることが好ましく、13%以下含んでいることがより好ましい。
【0029】
また、より高い難燃性を発揮するためには、難燃剤の粒子の円形度が0.27以下であることが好ましく、0.25以下であることがより好ましく、0.23以下であることが更に好ましく、0.21以下であることが最も好ましい。円形度が低いほど難燃剤粒子の体積に対して表面積が大きくなる、すなわち、難燃剤粒子と樹脂との接触面積が大きくなるため、難燃性が高まる傾向にある。一方、難燃剤の粒子の円形度は、より高い難燃性を発揮する点ではその下限値は限定されないが、生産時の品質安定性の観点から、0.05以上であることが好ましく、0.09以上であることがより好ましく、0.13以上であることが更に好ましい。連続繊維強化複合材料の厚み方向断面における難燃剤の粒径の測定方法と、一定の範囲の粒径の難燃剤の面積割合、円形度、連続強化繊維の径の測定方法は以下の通り行う。
【0030】
まず、連続繊維強化複合材料の試料を用意し、その厚み方向断面を、ミクロトームによる切削によって切出す。次に、厚み方向断面が観察面となるようにSEM試料台に試料を固定し、オスミウムプラズマコーターによるコーティングおよび補助的にカーボンペーストを塗布することによって導電処理を施し、SEM/EDXにて難燃剤に特有な元素を観察する。難燃剤に特有な元素としては、例えば、リン系難燃剤の場合はリン、ハロゲン系難燃剤の場合はハロゲン、金属水酸化物の場合は当該金属を設定することができる。SEM装置としてJSM-IT800(SHL)(日本電子製)、エネルギー分散型X線検出器としてJED-2300(日本電子製)を使用し、視野サイズ640μm×480μm、解像度を2048×1536、照射電子線の加速電圧を5.00kV、照射電流値を約4nAとし、1画素あたりの電子線照射時間を0.1ミリ秒として20回積算のEDX測定を実施し、連続強化繊維の元素マップ、及び、難燃剤の元素マップを取得する。1つの試料につき3視野に対して測定を行い、それらを領域の切り分けや難燃剤の量の測定に使用する。得られた測定値の平均値を算出した。
【0031】
バンドソー等により1cm角に切削した連続繊維強化複合材料の連続強化繊維の長さ方向に直交する断面を、研磨面に400g/cm2の力がかかるように、研磨台を100rpmで回転させて、耐水ペーパー番手#220で10分間、耐水ペーパー番手#400で2分間、耐水ペーパー番手#800で5分間、耐水ペーパー番手#1200で10分間、耐水ペーパー番手#2000で15分間、炭化ケイ素フィルム粒度9μmで15分間、アルミナフィルム粒度5μmで15分間、アルミナフィルム粒度3μmで15分間、アルミナフィルム粒度1μmで15分間、バフ研磨紙発泡ポリウレタンを用いた粒度0.1μmのコロイダルシリカ(バイカロックス0.1CR)で10分間の順番で、各研磨で約7mL/minで水を加えながら研磨した。次に、厚み方向断面が観察面となるようにSEM試料台に試料を固定し、オスミウムプラズマコーターによるコーティングおよび補助的にカーボンペーストを塗布することによって導電処理を施し、SEM/EDXにて難燃剤に特有な元素を観察する。EDX画像の強化繊維の元素マップとSEM画像を参照して、強化繊維を識別する。識別された強化繊維の輪郭を画像処理し、得られた短径について平均値を算出し、連続強化繊維の径とした。
【0032】
また、OpenCVのfindContours関数(methodはCHAIN_APPROX_SIMPLE)を難燃剤領域に適用して各難燃剤粒子の輪郭を抽出する。ただし、輪郭が難燃剤粒子に含まれる空隙に対応していた場合は、これらの数値を計測する対象から外す。また、難燃剤粒子が空隙を含む場合、その粒子の輪郭より算出された面積から空隙の面積を減算した数値を、その粒子の面積と定義する。粒子の面積から、該粒子の面積に等しい面積を有する円の直径を算出し、難燃剤の粒径とする。特定の粒径の難燃剤の面積の合計を、試料中の樹脂面積で除することによって、一定の範囲の粒径の難燃剤の面積割合とする。円形度は円らしさを表す値で値が1となる時、もっとも円に近くなる。粒子の面積をS、粒子の周囲長をLとすると、円形度=4πS/L2で表す。
【0033】
<連続強化繊維>
本実施形態の連続繊維強化複合材料に含まれる連続強化繊維は、通常の連続繊維強化複合材料として使用されるものを用いることができ、例えば、ガラス繊維、炭素繊維、アラミド繊維、超高強力ポリエチレン繊維、ポリベンザゾール系繊維、液晶ポリエステル繊維、ポリケトン繊維、金属繊維、セラミックス繊維等が挙げられる。連続強化繊維は、機械的特性、熱的特性、汎用性の観点から、ガラス繊維、炭素繊維、アラミド繊維が好ましく、難燃性及び経済性の面からは、ガラス繊維が好ましい。
続強化繊維は、1種のみを単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0034】
本実施形態の連続繊維強化複合材料に含まれる連続強化繊維とは、強化繊維が強化複合材料中の連続面において実質的に連続していればよく、一部に不連続な部分があっても構わない。ここで連続面とは、角部をもたない曲面、平面、またはその組みあわせであり、滑らかに連続する面を意味する。成形体を任意の形状に加工した際、形状をあわせるために側面や段差部については不連続になっていてもよく、また、複数の連続繊維強化複合材料を組み合わせて使用する場合についても継ぎ目等については不連続でもよい。
【0035】
本実施形態の連続繊維強化複合材料に含まれる連続強化繊維の形態は特に限定されず、一方向や、一方向の繊維を任意の方向で層状に重ねたもの、織物、ノンクリンプファブリック、編み物、ランダム、組紐、パイプ状等種々の形態が挙げられ、連続繊維強化複合材料の面に火炎が当たった際に、面に沿って火炎を広げることで難燃性を高めることができる一方向の繊維を任意の方向で層状に重ねたもの、織物、ノンクリンプファブリックなどの層状構造をとっていることが好ましく、特に面方向へ火炎を広げる効果の高い織物がより好ましい。
【0036】
連続強化繊維は複数本のフィラメントからなるマルチフィラメントであり、単糸数は、取扱い性の観点から30~15,000本であることが好ましい。
連続強化繊維の単糸径Rは、強度の観点、及び、取り扱い性の観点から2~30μmであることが好ましく、4~25μmであることがより好ましく、6~20μmであることが更に好ましく、8~18μmであることが最も好ましい。
【0037】
連続強化繊維の単糸径R(μm)と密度D(g/cm
3)との積RDは、連続強化繊維の取り扱い性及び連続繊維強化複合材料の強度の観点から、好ましくは5~100μm・g/cm
3、より好ましくは10~50μm・g/cm
3、更に好ましくは15~45μm・g/cm
3、より更に好ましくは20~45μm・g/cm
3である。密度Dは、比重計により測定することができる。他方、単糸径R(μm)は、密度D(g/cm
3)と繊度(dtex)、単糸数(本)から、以下の式:
【数1】
により算出することができる。また、単糸径R(μm)は例えば、連続強化繊維単糸のSEM観察によって求めることができる。
【0038】
連続強化繊維の積RDを所定の範囲とするには、市販で入手可能な連続強化繊維について、連続強化繊維の有する密度に応じて、繊度(dtex)及び単糸数(本)を適宜選択すればよい。例えば、連続強化繊維としてガラス繊維を用いる場合、密度が約2.5g/cm3であるから、単糸径が2~40μmのものを選べばよい。具体的には、ガラス繊維の単糸径が9μmである場合、繊度660dtexで単糸数400本のガラス繊維を選択することにより、積RDは、23となる。また、ガラス繊維の単糸径が17μmである場合、繊度11,500dtexで単糸数2,000本のガラス繊維を選択することにより、積RDは、43となる。連続強化繊維として炭素繊維を用いる場合、密度が約1.8g/cm3であるから、単糸径が2.8~55μmのものを選べばよい。具体的には、炭素繊維の単糸径が7μmである場合、繊度2,000dtexで単糸数3,000本の炭素繊維を選択することにより、積RDは、13となる。連続強化繊維としてアラミド繊維を用いる場合、密度が約1.45g/cm3であるから、単糸径が3.4~68μmのものを選べばよい。具体的には、アラミド繊維の単糸径が12μmである場合、繊度1,670dtexで単糸数1,000本のアラミド繊維を選択することにより、積RDは、17となる。
【0039】
連続繊維強化複合材料中の連続強化繊維の体積割合Vfは、機械的強度の観点から、40%以上であることが好ましく、より好ましくは45~60%、さらに好ましくは47~55%である。
また、連続強化繊維の含有量は、機械的強度の観点から、連続繊維強化複合材料100質量%対して、60~84質量%であることが好ましく、より好ましくは65~77質量%、さらに好ましくは67~73質量%である。
【0040】
-集束剤-
連続強化繊維として、ガラス繊維を選択する場合、集束剤を用いてもよい。
集束剤(サイジング剤)は、シランカップリング剤、潤滑剤、及び結束剤からなる群から選択される1種以上を含むものであってよく、少なくとも結束剤又はシランカップリング剤を含むことが好ましい。
また、集束剤は、シランカップリング剤及び結束剤からなるものとしてよく、シランカップリング剤、潤滑剤、及び結束剤からなるものとしてもよい。
ガラス繊維とその周りを被膜する樹脂との強い結合を作る集束剤であることにより、空隙率の少ない連続繊維強化複合材料を得ることができる。
集束剤は、使用される材料に対して外的に加えられてもよく、使用される材料に内的に含まれていてもよい。例えば、潤滑剤は、用いられる熱可塑性樹脂の市販品に含まれている場合がある。
【0041】
--シランカップリング剤--
シランカップリング剤は、通常、ガラス繊維の表面処理剤として用いられ、界面接着強度向上に寄与する。
シランカップリング剤としては、以下に限定されるものではないが、例えば、γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-β-(アミノエチル)-γ-アミノプロピルメチルジメトキシシラン等のアミノシラン類;γ-メルカプトプロピルトリメトキシシラン及びγ-メルカプトプロピルトリエトキシシラン等のメルカプトシラン類;エポキシシラン類;ビニルシラン類、マレイン酸類等が挙げられる。熱可塑性樹脂としてポリアミドを用いる際には、ポリアミド系樹脂の末端基であるカルボキシル基またはアミノ基と結合しやすいものを選択することが好ましく、アミノシラン類が好ましい。
【0042】
--潤滑剤--
潤滑剤は、ガラス繊維の開繊性向上に寄与する。
潤滑剤としては、シランカップリング剤及び結束剤を阻害しない限り、目的に応じた通常の液体又は固体の任意の潤滑材料が使用可能であり、以下に限定されるものではないが、例えば、カルナウバワックスやラノリンワックス等の動植物系又は鉱物系のワックス;脂肪酸アミド、脂肪酸エステル、脂肪酸エーテル、芳香族系エステル、芳香族系エーテル等の界面活性剤等が挙げられる。
【0043】
--結束剤--
結束剤は、ガラス繊維の集束性向上及び界面接着強度向上に寄与する。
結束剤としては、目的に応じたポリマー、連続繊維強化複合材料の主たる材料としての熱可塑性樹脂以外の熱可塑性樹脂が使用可能である。
結束剤としてのポリマーは、以下に限定されるものではないが、例えば、アクリル酸のホモポリマー、アクリル酸とその他共重合性モノマーとのコポリマー、並びにこれらの第1級、第2級及び第3級アミンとの塩等が挙げられる。また、例えば、m-キシリレンジイソシアナート、4,4’-メチレンビス(シクロヘキシルイソシアナート)及びイソホロンジイソシアナート等のイソシアネートと、ポリエステル系やポリエーテル系のジオールとから合成されるポリウレタン系樹脂も好適に使用される。
アクリル酸のホモポリマーとしては、重量平均分子量1,000~90,000であることが好ましく、より好ましくは1,000~25,000である。
アクリル酸とその他共重合性モノマーとのコポリマーを構成する共重合性モノマーとしては、以下に限定されるものではないが、例えば、水酸基及び/又はカルボキシル基を有するモノマーのうち、アクリル酸、マレイン酸、メタクリル酸、ビニル酢酸、クロトン酸、イソクロトン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸、及びメサコン酸よりなる群から選択される1種以上が挙げられる(但し、アクリル酸のみの場合を除く)。共重合性モノマーとして、エステル系モノマーを1種以上有することが好ましい。
アクリル酸のホモポリマー及びコポリマーの第1級、第2級及び第3級アミンとの塩としては、以下に限定されるものではないが、例えば、トリエチルアミン塩、トリエタノールアミン塩やグリシン塩等が挙げられる。中和度は、他の併用薬剤(シランカップリング剤等)との混合溶液の安定性向上や、アミン臭低減の観点から、20~90%とすることが好ましく、40~60%とすることがより好ましい。
塩を形成するアクリル酸のポリマーの重量平均分子量は、特に制限されないが、3,000~50,000の範囲が好ましい。ガラス繊維の集束性向上の観点から、3,000以上が好ましく、複合成形体とした際の特性向上の観点から50,000以下が好ましい。
熱可塑性樹脂としてポリアミドを用いる際には、結束剤としてはポリアミド樹脂と濡れ性のよい、又は表面張力の近い樹脂を用いることが好ましい。具体的には、例えば、ポリウレタン樹脂のエマルジョンやポリアミド樹脂のエマルジョンやその変性体を選択することができる。
【0044】
結束剤として用いられる熱可塑性樹脂としては、以下に限定されるものではないが、例えば、ポリオレフィン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリアセタール系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルスルフォン、ポリフェニレンサルファイド、熱可塑性ポリエーテルイミド、熱可塑性フッ素系樹脂、及びこれらを変性させた変性熱可塑性樹脂等が挙げられる。結束剤として用いられる熱可塑性樹脂は、連続強化繊維の周囲を被覆する樹脂と同種の熱可塑性樹脂及び/又は変性熱可塑性樹脂であると、連続繊維強化複合材料となった後、ガラス繊維と熱可塑性樹脂の接着性が向上し、好ましい。
【0045】
更に、一層、連続強化繊維とそれを被覆する熱可塑性樹脂の接着性を向上させ、集束剤を水分散体としてガラス繊維に付着させる場合において、乳化剤成分の比率を低減、あるいは乳化剤不要とできる等の観点から、結束剤として用いられる熱可塑性樹脂としては、変性熱可塑性樹脂が好ましい。
ここで、変性熱可塑性樹脂とは、熱可塑性樹脂の主鎖を形成し得るモノマー成分以外に、その熱可塑性樹脂の性状を変化させる目的で、異なるモノマー成分を共重合させ、親水性、結晶性、熱力学特性等を改質したものを意味する。
結束剤として用いられる変性熱可塑性樹脂は、以下に限定されるものではないが、例えば、変性ポリオレフィン系樹脂、変性ポリアミド系樹脂、変性ポリエステル系樹脂等が挙げられる。
【0046】
結束剤としての変性ポリオレフィン系樹脂とは、エチレン、プロピレン等のオレフィン系モノマーと不飽和カルボン酸及び/又はそのエステル体等のオレフィン系モノマーと共重合可能なモノマーとの共重合体、又は、不飽和カルボン酸及び/又そのエステル体等のオレフィン系モノマーと共重合可能なモノマーの単独重合体であり、公知の方法で製造できる。オレフィン系モノマーと不飽和カルボン酸及び/又そのエステル体とを共重合させたランダム共重合体でもよいし、オレフィンに不飽和カルボン酸をグラフトしたグラフト共重合体でもよい。
オレフィン系モノマーとしては、以下に限定されるものではないが、例えば、エチレン、プロピレン、1-ブテン等が挙げられる。これらは1種のみを単独で使用してもよく、あるいは2種以上を組み合わせて使用してもよい。
オレフィン系モノマーと共重合可能なモノマーとしては、例えば、アクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、メタクリル酸、ビニル酢酸、クロトン酸、イソクロトン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸、メサコン酸等の不飽和カルボン酸、及びこれら不飽和カルボン酸のエステル化体(メチルエステル、エチルエステル等)等が挙げられ、これらは、1種のみを単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
変性ポリオレフィン系樹脂がオレフィン系モノマーと該オレフィン系モノマーと共重合可能なモノマーとの共重合である場合、モノマー比率としては、共重合の合計質量を100質量%として、オレフィン系モノマー60~95質量%、オレフィン系モノマーと共重合可能なモノマー5~40質量%であることが好ましく、オレフィン系モノマー70~85質量%、オレフィン系モノマーと共重合可能なモノマー15~30質量%であることがより好ましい。オレフィン系モノマーが60質量%以上であれば、マトリックスとの親和性が良好であり、また、オレフィン系モノマーの質量%が95質量%以下であれば、変性ポリオレフィン系樹脂の水分散性が良好で、連続強化繊維への均一付与が行いやすい。
【0047】
結束剤として用いられる変性ポリオレフィン系樹脂は、共重合により導入したカルボキシル基等の変性基が、塩基性化合物で中和されていてもよい。塩基性化合物としては、以下に限定されるものではないが、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ類;アンモニア;モノエタノールアミン、ジエタノールアミン等のアミン類が挙げられる。結束剤として用いられる変性ポリオレフィン系樹脂の重量平均分子量は、特に制限されないが、5,000~200,000が好ましく、50,000~150,000がより好ましい。ガラス繊維の集束性向上の観点から5,000以上が好ましく、水分散性とする場合の乳化安定性の観点から200,000以下が好ましい。
【0048】
結束剤として用いられる変性ポリアミド系樹脂は、分子鎖中にポリアルキレンオキサイド鎖や3級アミン成分等の親水基を導入した変性ポリアミド化合物であり、公知の方法で製造できる。
分子鎖中にポリアルキレンオキサイド鎖を導入する場合は、例えば、ポリエチレングリコールやポリプロピレングリコール等の一部又は全部をジアミン又はジカルボン酸に変性したものを共重合して製造される。3級アミン成分を導入する場合は、例えばアミノエチルピペラジン、ビスアミノプロピルピペラジン、α-ジメチルアミノε-カプロラクタム等を共重合して製造される。
【0049】
結束剤として用いられる変性ポリエステル系樹脂とは、ポリカルボン酸又はその無水物とポリオールとの共重合体で、かつ末端を含む分子骨格中に親水基を有する樹脂であり、公知の方法で製造できる。
親水基としては、例えば、ポリアルキレンオキサイド基、スルホン酸塩、カルボキシル基、これらの中和塩等が挙げられる。ポリカルボン酸又はその無水物としては、芳香族ジカルボン酸、スルホン酸塩含有芳香族ジカルボン酸、脂肪族ジカルボン酸、脂環式ジカルボン酸、3官能以上のポリカルボン酸等が挙げられる。
芳香族ジカルボン酸としては、以下に限定されるものではないが、例えば、フタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、オルトフタル酸、1,5-ナフタレンジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、無水フタル酸等が挙げられる。
スルホン酸塩含有芳香族ジカルボン酸としては、以下に限定されるものではないが、例えば、スルホテレフタル酸塩、5-スルホイソフタル酸塩、5-スルホオルトフタル酸塩等が挙げられる。
脂肪族ジカルボン酸又は脂環式ジカルボン酸としては、以下に限定されるものではないが、例えば、フマル酸、マレイン酸、イタコン酸、コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ダイマー酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、無水コハク酸、無水マレイン酸等が挙げられる。
3官能以上のポリカルボン酸としては、以下に限定されるものではないが、例えば、トリメリット酸、ピロメリット酸、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸等が挙げられる。
これらの中で、変性ポリエステル系樹脂の耐熱性を向上させる観点から、全ポリカルボン酸成分の40~99モル%が芳香族ジカルボン酸であることが好ましい。また、変性ポリエステル系樹脂を水分散液とする場合の乳化安定性の観点から、全ポリカルボン酸成分の1~10モル%がスルホン酸塩含有芳香族ジカルボン酸であることが好ましい。
【0050】
変性ポリエステル系樹脂を構成するポリオールとしては、ジオール、3官能以上のポリオール等が挙げられる。
ジオールとしては、以下に限定されるものではないが、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリブチレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、ポリテトラメチレングリコール、1,4-シクロヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、ビスフェノールA又はそのアルキレンオキサイド付加物等が挙げられる。3官能以上のポリオールとしては、トリメチロールプロパン、グリセリン、ペンタエリスリトール等が挙げられる。
変性ポリエステル系樹脂を構成するポリカルボン酸又はその無水物とポリオールとの共重合比率としては、共重合成分の合計質量を100質量%として、ポリカルボン酸又はその無水物40~60質量%、ポリオール40~60質量%であることが好ましく、ポリカルボン酸又はその無水物45~55質量%、ポリオール45~55質量%がより好ましい。
変性ポリエステル系樹脂の重量平均分子量としては、3,000~100,000が好ましく、10,000~30,000がより好ましい。ガラス繊維の集束性向上の観点から3,000以上が好ましく、水分散性とする場合の乳化安定性の観点から100,000以下が好ましい。
【0051】
結束剤として用いる、ポリマー、熱可塑性樹脂は、1種のみを単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。
結束剤の全量を100質量%として、アクリル酸のホモポリマー、アクリル酸とその他共重合性モノマーとのコポリマー、並びにこれらの第1級、第2級及び第3級アミンとの塩より選択された1種以上のポリマーを50質量%以上用いることが好ましく、60質量%以上用いることがより好ましい。
【0052】
集束剤が、シランカップリング剤及び結束剤からなる場合、集束剤は、ガラス繊維100質量%に対し、シランカップリング剤及び結束剤の合計質量として、好ましくは0.1~3質量%、より好ましくは0.2~2質量%、更に好ましくは0.2~1質量%付与して付着させる。ガラス繊維の集束性制御と界面接着強度向上の観点から、集束剤の付着量が、ガラス繊維100質量%に対し、シランカップリング剤及び結束剤の合計質量として0.1質量%以上であることが好ましく、糸の取扱い性の観点から3質量%以下であることが好ましい。
また、集束剤が、シランカップリング剤、潤滑剤、及び結束剤からなる場合、集束剤は、ガラス繊維100質量%に対し、シランカップリング剤、潤滑剤及び結束剤の合計質量として、好ましくは0.1~3質量%、より好ましくは0.2~2質量%、更に好ましくは0.2~1質量%付与して付着させる。ガラス繊維の集束性制御と界面接着強度向上の観点から、集束剤の付着量が、ガラス繊維100質量%に対し、シランカップリング剤、潤滑剤及び結束剤の合計質量として0.1質量%以上であることが好ましく、糸の取扱い性の観点から3質量%以下であることが好ましい。
【0053】
--ガラス繊維用の集束剤の組成--
ガラス繊維用の集束剤におけるシランカップリング剤の配合量は、ガラス繊維の集束性向上及び界面接着強度向上と複合成形体の機械的強度向上との観点から、0.1~2質量%が好ましく、より好ましくは0.1~1質量%、更に好ましくは0.2~0.5質量%である。
ガラス繊維用の集束剤における潤滑剤の配合量は、充分な潤滑性を与えるという観点から、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.02質量%以上であり、界面接着強度向上と連続繊維強化複合材料の機械的強度向上の観点から、好ましくは1質量%以下、より好ましくは0.5質量%以下である。
ガラス繊維用の集束剤における結束剤の配合量は、ガラス繊維の集束性制御及び界面接着強度向上と連続繊維強化複合材料の機械的強度向上との観点から、好ましくは1~25質量%、より好ましくは3~15質量%、更に好ましくは3~10質量%である。
【0054】
連続強化繊維としてガラス繊維を用いる場合であって、集束剤が、シランカップリング剤、潤滑剤、及び結束剤からなる場合、当該ガラス繊維の集束剤においては、それぞれ、シランカップリング剤を0.1~2質量%、潤滑剤を0.01~1質量%、結束剤を1~25質量%を含有することが好ましく、これらの成分を水で希釈し、全質量を100質量%に調整することが好ましい。
【0055】
--ガラス繊維用の集束剤の使用態様--
ガラス繊維用の集束剤は、使用態様に応じて、水溶液、コロイダルディスパージョンの形態、乳化剤を用いたエマルジョンの形態等、いずれの形態に調整してもよいが、集束剤の分散安定性向上、耐熱性向上の観点から、水溶液の形態とすることが好ましい。
本実施形態の連続繊維強化複合材料を構成する連続強化繊維としてのガラス繊維は、上述した集束剤を、公知のガラス繊維の製造工程において、ローラー型アプリケーター等の公知の方法を用いて、ガラス繊維に付与して製造したガラス繊維を乾燥することによって連続的に得られる。
【0056】
また、連続強化繊維として、炭素繊維を選択した場合も同様に、集束剤を用いてもよく、集束剤は、カップリング剤、潤滑剤、及び結束剤からなることが好ましい。カップリング剤としては炭素繊維の表面に存在する水酸基と相性の良いもの、結束剤としては選択した熱可塑性樹脂と濡れ性が良いものや表面張力の近いもの、潤滑剤としてはカップリング剤と結束剤を阻害しないものを選択することができる。
炭素繊維に用いる集束剤の種類については、特に制限はなく、公知のものを使用することができる。具体的には、例えば、特開2015-101794号公報に記載のものを用いることができる。
【0057】
その他の連続強化繊維を用いる場合、連続強化繊維の特性に応じ、ガラス繊維、炭素繊維に用いることが可能な集束剤の種類、付与量を適宜選択すればよく、炭素繊維に用いる集束剤に準じた集束剤の種類、付与量とすることが好ましい。
【0058】
<熱可塑性樹脂>
本実施形態における熱可塑性樹脂は、以下に限定されるものではないが、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂;ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド610、ポリアミド46等のポリアミド系樹脂;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート等のポリエステル系樹脂;ポリオキシメチレン等のポリアセタール系樹脂;ポリカーボネート系樹脂;ポリエーテルケトン;ポリエーテルエーテルケトン;ポリエーテルスルフォン;ポリフェニレンサルファイド;熱可塑性ポリエーテルイミド;テトラフルオロエチレン-エチレン共重合体等の熱可塑性フッ素系樹脂、及びこれらを変性させた変性熱可塑性樹脂が挙げられる。難燃性と機械物性のバランスの観点から結晶性樹脂であることが好ましく、ポリアミド系樹脂、ポリオレフィン系樹脂であることがより好ましく、ポリアミド系樹脂であることが更に好ましい。
【0059】
熱可塑性樹脂は1種類のみを用いてもよいし、複数種を併用しても構わない。また、同一種の樹脂を使用する場合においても、粘度や融点が異なる樹脂を組み合わせて使用することは好ましい。特に、含浸性を高めるという観点から、低粘度及び/又は低融点の樹脂を併用することは好ましい。低粘度及び/又は低融点の樹脂は、分子量を低下させたり、一部を変性したり、結晶化阻害剤を添加することで得ることができる。
【0060】
(ポリアミド系樹脂)
熱可塑性樹脂の好ましい例として、ポリアミド系樹脂について説明する。ポリアミドは、(A1)脂肪族ポリアミドでもよいし(A2)半芳香族ポリアミドでもよいし、両者の混合物でも、共重合体でもよい。
【0061】
《(A1)脂肪族ポリアミド》
本実施形態の連続繊維強化複合材料に含まれる(A1)脂肪族ポリアミド(以下、単に「(A1)成分」ともいう。)の構成単位は、以下の(1)及び(2)のうち少なくともいずれかの条件を満たすことが好ましい。
(1)(A1-a)脂肪族ジカルボン酸単位と(A1-b)脂肪族ジアミン単位とを含有すること。
(2)(A1-c)ラクタム単位及びアミノカルボン酸単位からなる群より選択される少なくとも1種を含有すること。
【0062】
本実施形態の連続繊維強化複合材料は、(A1)脂肪族ポリアミドとして、上記(1)及び(2)のうち少なくともいずれかの条件を満たす1種又は2種以上のポリアミドを含有することができる。中でも、本実施形態の連続繊維強化複合材料に含まれる(A1)脂肪族ポリアミドの構成単位は、上記(1)を満たすことが好ましい。
【0063】
((A1-a)脂肪族ジカルボン酸単位)
(A1-a)脂肪族ジカルボン酸単位を構成する脂肪族ジカルボン酸としては、以下に限定されるものではないが、例えば、炭素数3~20の直鎖状、分岐鎖状飽和脂肪族ジカルボン酸等が挙げられる。
炭素数3~20の直鎖状飽和脂肪族ジカルボン酸としては、以下に限定されるものではないが、例えば、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、テトラデカン二酸、ヘキサデカン二酸、オクタデカン二酸、エイコサン二酸、ジグリコール酸等が挙げられる。
炭素数3~20の分岐鎖状飽和脂肪族ジカルボン酸としては、以下に限定されるものではないが、例えば、ジメチルマロン酸、2,2-ジメチルコハク酸、2,3-ジメチルグルタル酸、2,2-ジエチルコハク酸、2,3-ジエチルグルタル酸、2,2-ジメチルグルタル酸、2-メチルアジピン酸、トリメチルアジピン酸等が挙げられる。
これら(A1-a)脂肪族ジカルボン酸単位を構成する脂肪族ジカルボン酸は、1種のみを単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
中でも、連続繊維強化複合材料の耐熱性、流動性、靭性、低吸水性、及び剛性等がより優れる傾向にあることから、(A1-a)脂肪族ジカルボン酸単位を構成する脂肪族ジカルボン酸としては、炭素数6~20の直鎖状飽和脂肪族ジカルボン酸が好ましい。
【0064】
好ましい炭素数6~20の直鎖状飽和脂肪族ジカルボン酸として具体的には、例えば、アジピン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、テトラデカン二酸、ヘキサデカン二酸、オクタデカン二酸、エイコサン二酸等が挙げられる。
中でも、炭素数6~20の直鎖状飽和脂肪族ジカルボン酸としては、連続繊維強化複合材料の耐熱性の観点から、アジピン酸、セバシン酸、ドデカン二酸が好ましい。
【0065】
また、(A1)脂肪族ポリアミドは、本実施形態の連続繊維強化複合材料の効果を損なわない範囲で、必要に応じて、3価以上の多価カルボン酸に由来する単位をさらに含んでいてもよい。
3価以上の多価カルボン酸としては、例えば、トリメリット酸、トリメシン酸、ピロメリット酸等が挙げられる。これら3価以上の多価カルボン酸は、1種のみを単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0066】
((A1-b)脂肪族ジアミン単位)
(A1-b)脂肪族ジアミン単位を構成する脂肪族ジアミンとしては、以下に限定されるものではないが、例えば、炭素数2~20の直鎖状飽和脂肪族ジアミン、炭素数3~20の分岐鎖状飽和脂肪族ジアミン等が挙げられる。
炭素数2~20の直鎖状飽和脂肪族ジアミンとしては、以下に限定されるものではないが、例えば、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ヘプタメチレンジアミン、オクタメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、デカメチレンジアミン、ウンデカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、トリデカメチレンジアミン等が挙げられる。
炭素数3~20の分岐鎖状飽和脂肪族ジアミンとしては、以下に限定されるものではないが、例えば、2-メチルペンタメチレンジアミン(2-メチル-1,5-ジアミノペンタンともいう)、2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジアミン、2,4,4-トリメチルヘキサメチレンジアミン、2-メチル-1,8-オクタンジアミン(2-メチルオクタメチレンジアミンともいう)、2,4-ジメチルオクタメチレンジアミン等が挙げられる。
これら(A1-b)脂肪族ジアミン単位を構成する脂肪族ジアミンは、1種のみを単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
中でも、(A1-b)脂肪族ジアミン単位を構成する脂肪族ジアミンの炭素数は、6~12が好ましく、6~10がより好ましい。(A1-b)脂肪族ジアミン単位を構成する脂肪族ジアミンの炭素数が上記下限値以上であると、連続繊維強化複合材料の耐熱性がより優れる傾向にある。一方、当該炭素数が上記上限値以下であることにより、連続繊維強化複合材料の結晶性及び離型性がより優れる傾向にある。
【0067】
好ましい炭素数6~12の直鎖状又は分岐鎖状飽和脂肪族ジアミンとして具体的には、例えば、ヘキサメチレンジアミン、2-メチルペンタメチレンジアミン、2-メチル-1,8-オクタンジアミン等が挙げられる。
中でも、炭素数6~12の直鎖状又は分岐鎖状飽和脂肪族ジアミンとしては、ヘキサメチレンジアミン、2-メチルペンタメチレンジアミンが好ましい。このような(A1-b)脂肪族ジアミン単位を含むことにより、連続繊維強化複合材料の耐熱性及び剛性がより優れる傾向にある。
【0068】
また、(A1)脂肪族ポリアミドは、本実施形態の連続繊維強化複合材料の効果を損なわない範囲で、必要に応じて、3価以上の多価脂肪族アミンに由来する単位をさらに含んでもよい。3価以上の多価脂肪族アミンとしては、例えば、ビスヘキサメチレントリアミン等が挙げられる。
【0069】
((A1-c)ラクタム単位及びアミノカルボン酸単位からなる群より選ばれる少なくとも1種の構成単位)
【0070】
(A1)脂肪族ポリアミドは、(A1-c)ラクタム単位及びアミノカルボン酸単位からなる群より選ばれる少なくとも1種の構成単位を含有することができる。このような単位を含むと、連続繊維強化複合材料の靭性がより優れる傾向にある。
なお、「ラクタム単位」及び「アミノカルボン酸単位」とは、重(縮)合したラクタム及びアミノカルボン酸のことをいう。
ラクタム単位を構成するラクタムとしては、以下に限定されるものではないが、例えば、ブチロラクタム、ピバロラクタム、ε-カプロラクタム、カプリロラクタム、エナントラクタム、ウンデカノラクタム、ラウロラクタム(ドデカノラクタム)等が挙げられる。
中でも、ラクタム単位を構成するラクタムとしては、ε-カプロラクタム、ラウロラクタムが好ましく、ε-カプロラクタムがより好ましい。このようなラクタムを含むと、連続繊維強化複合材料の靭性がより優れる傾向にある。
アミノカルボン酸単位を構成するアミノカルボン酸としては、以下に限定されるものではないが、例えば、ラクタムが開環した化合物であるω-アミノカルボン酸、α,ω-アミノ酸等が挙げられる。
アミノカルボン酸単位を構成するアミノカルボン酸としては、ω位がアミノ基で置換された炭素数4~14の直鎖状又は分岐鎖状飽和脂肪族カルボン酸が好ましい。このようなアミノカルボン酸としては、以下に限定されるものではないが、例えば、6-アミノカプロン酸、11-アミノウンデカン酸、12-アミノドデカン酸等が挙げられる。
また、アミノカルボン酸としては、パラアミノメチル安息香酸等も挙げられる。
【0071】
これら(A1-c)ラクタム単位及びアミノカルボン酸単位からなる群より選ばれる少なくとも1種の構成単位を構成するラクタム及びアミノカルボン酸は、それぞれ1種のみを単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0072】
(A1)脂肪族ポリアミドの具体例としては、ポリアミド4(ポリα-ピロリドン)、ポリアミド6(ポリカプロアミド)、ポリアミド11(ポリウンデカンアミド)、ポリアミド12(ポリドデカンアミド)、ポリアミド46(ポリテトラメチレンアジパミド)、ポリアミド66(ポリヘキサメチレンアジパミド)、ポリアミド610、ポリアミド612、これらを構成成分として含む共重合ポリアミドやポリマーアロイ等が挙げられる。
中でも、(A1)脂肪族ポリアミドとしては、機械物性、耐熱性、成形性、靱性の観点から、(A1-a)脂肪族ジカルボン酸単位と(A1-b)脂肪族ジアミン単位とを含有するポリアミドが好ましく、ポリアミド66が特に好ましい。ポリアミド66は、機械物性、耐熱性、成形性、靭性に優れることから、自動車用部品等に好適である。
【0073】
《(A2)半芳香族ポリアミド》
半芳香族ポリアミドとは、芳香族構成単位を含むポリアミドである。
本実施形態の連続繊維強化複合材料に含まれる(A2)半芳香族ポリアミド(以下、単に「(A2)成分」ともいう。)は、(A2)半芳香族ポリアミドの全構成単位における芳香族構成単位の含有量が、20~80モル%であることが好ましく、より好ましくは30~70モル%、さらに好ましくは40~60モル%である。
なお、「芳香族構成単位」とは、芳香族ジアミン単位及び芳香族ジカルボン酸単位を意味する。
【0074】
((A2-a)ジカルボン酸単位)
(A2)半芳香族ポリアミドを構成する(A2-a)ジカルボン酸単位としては、特に限定されず、例えば、芳香族ジカルボン酸単位、脂肪族ジカルボン酸単位、脂環族ジカルボン酸単位等が挙げられる。
【0075】
((芳香族ジカルボン酸単位))
芳香族ジカルボン酸単位を構成する芳香族ジカルボン酸としては、以下に限定されるものではないが、例えば、フェニル基、ナフチル基等の芳香族基を有するジカルボン酸が挙げられる。芳香族ジカルボン酸の芳香族基は、無置換でもよく、置換基を有していてもよい。
芳香族ジカルボン酸の芳香族基が有する置換基としては、特に限定されないが、例えば、炭素数1~4のアルキル基、炭素数6~10のアリール基、炭素数7~10のアリールアルキル基、炭素数7~10のアルキルアリール基、ハロゲン基、炭素数1~6のシリル基、スルホン酸基及びその塩(ナトリウム塩等)等が挙げられる。
【0076】
炭素数1~4のアルキル基としては、以下に限定されるものではないが、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基等が挙げられる。
炭素数6~10のアリール基としては、以下に限定されるものではないが、例えば、フェニル基、ナフチル基等が挙げられる。
炭素数7~10のアリールアルキル基としては、以下に限定されるものではないが、例えば、ベンジル基等が挙げられる。
炭素数7~10のアルキルアリール基としては、以下に限定されるものではないが、例えば、トリル基、キシリル基等が挙げられる。
ハロゲン基としては、以下に限定されるものではないが、例えば、フルオロ基、クロロ基、ブロモ基、ヨード基等が挙げられる。
炭素数1~6のシリル基としては、以下に限定されるものではないが、例えば、トリメチルシリル基、tert-ブチルジメチルシリル基等が挙げられる。
【0077】
上記芳香族ジカルボン酸単位を構成する芳香族ジカルボン酸の中でも、無置換又は所定の置換基で置換された炭素数8~20の芳香族ジカルボン酸が好ましい。
無置換又は所定の置換基で置換された炭素数8~20の芳香族ジカルボン酸として具体的には、以下に限定されるものではないが、例えば、イソフタル酸、テレフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、2-クロロテレフタル酸、2-メチルテレフタル酸、5-メチルイソフタル酸、5-ナトリウムスルホイソフタル酸等が挙げられ、イソフタル酸が特に好ましい。
【0078】
芳香族ジカルボン酸単位を構成する芳香族ジカルボン酸は、1種のみを単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
中でも、イソフタル酸単位の割合は、(A2-a)ジカルボン酸単位の全モル数に対して、50モル%以上であることが好ましく、より好ましくは65~100モル%、さらに好ましくは75~100モル%、よりさらに好ましくは80~100モル%、最も好ましくは100モル%である。
(A2-a)ジカルボン酸単位中のイソフタル酸単位の割合が上記範囲であると、剛性、流動性等の機械物性に優れる連続繊維強化複合材料を得ることができる。
なお、(A2)半芳香族ポリアミドを構成する所定の単量体単位の割合は、核磁気共鳴分光法(NMR)等により測定することができる。
【0079】
((脂肪族ジカルボン酸単位))
脂肪族ジカルボン酸単位を構成する脂肪族ジカルボン酸としては、以下に限定されるものではないが、例えば、炭素数3~20の直鎖状又は分岐鎖状飽和脂肪族ジカルボン酸等が挙げられる。
炭素数3~20の直鎖状飽和脂肪族ジカルボン酸としては、以下に限定されるものではないが、例えば、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、テトラデカン二酸、ヘキサデカン二酸、オクタデカン二酸、エイコサン二酸、ジグリコール酸等が挙げられる。
炭素数3~20の分岐鎖状飽和脂肪族ジカルボン酸としては、以下に限定されるものではないが、例えば、ジメチルマロン酸、2,2-ジメチルコハク酸、2,3-ジメチルグルタル酸、2,2-ジエチルコハク酸、2,3-ジエチルグルタル酸、2,2-ジメチルグルタル酸、2-メチルアジピン酸、トリメチルアジピン酸等が挙げられる。
なお、脂肪族ジカルボン酸単位を構成する脂肪族ジカルボン酸は、1種のみを単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0080】
((脂環族ジカルボン酸単位))
脂環族ジカルボン酸単位を構成する脂環族ジカルボン酸としては、以下に限定されるものではないが、例えば、脂環構造の炭素数が3~10の脂環族ジカルボン酸等が挙げられる。中でも、脂環族ジカルボン酸としては、脂環構造の炭素数が5~10の脂環族ジカルボン酸が好ましい。
このような脂環族ジカルボン酸としては、以下に限定されるものではないが、例えば、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、1,3-シクロヘキサンジカルボン酸、1,3-シクロペンタンジカルボン酸等が挙げられる。中でも、脂環族ジカルボン酸としては、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸が好ましい。
なお、脂環族ジカルボン酸単位を構成する脂環族ジカルボン酸は、1種のみを単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0081】
脂環族ジカルボン酸の脂環族基は、無置換でもよく、置換基を有していてもよい。置換基としては、例えば、炭素数1~4のアルキル基等が挙げられる。炭素数1~4のアルキル基としては、上記「芳香族ジカルボン酸単位」において例示されたものと同様のものが挙げられる。
【0082】
(A2)半芳香族ポリアミドにおいて、(A2-a)ジカルボン酸単位を構成するジカルボン酸としては、上記ジカルボン酸として記載の化合物に限定されるものではなく、上記ジカルボン酸と等価な化合物であってもよい。
なお、「ジカルボン酸と等価な化合物」とは、上記ジカルボン酸に由来するジカルボン酸構造と同様のジカルボン酸構造となり得る化合物を意味する。このような化合物としては、以下に限定されるものではないが、例えば、ジカルボン酸の無水物、ジカルボン酸のハロゲン化物等が挙げられる。
【0083】
また、(A2)半芳香族ポリアミドは、本実施形態の連続繊維強化複合材料の効果を損なわない範囲で、必要に応じて、3価以上の多価カルボン酸に由来する単位をさらに含んでもよい。
3価以上の多価カルボン酸としては、例えば、トリメリット酸、トリメシン酸、ピロメリット酸等が挙げられる。これら3価以上の多価カルボン酸は、1種のみを単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0084】
((A2-b)ジアミン単位)
(A2)半芳香族ポリアミドを構成する(A2-b)ジアミン単位としては、特に限定されず、例えば、芳香族ジアミン単位、脂肪族ジアミン単位、脂環族ジアミン単位等が挙げられる。
【0085】
((芳香族ジアミン単位))
芳香族ジアミン単位を構成する芳香族ジアミンとしては、芳香族を含有するジアミンであれば以下に限定されるものではないが、例えば、メタキシリレンジアミン等が挙げられる。
【0086】
((脂肪族ジアミン単位))
脂肪族ジアミン単位を構成する脂肪族ジアミンとしては、以下に限定されるものではないが、例えば、炭素数4~20の直鎖状飽和脂肪族ジアミン等が挙げられる。
炭素数4~20の直鎖状飽和脂肪族ジアミンとしては、以下に限定されるものではないが、例えば、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ヘプタメチレンジアミン、オクタメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、デカメチレンジアミン、ウンデカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、トリデカメチレンジアミン等が挙げられる。
【0087】
((脂環族ジアミン単位))
脂環族ジアミン単位を構成する脂環族ジアミンとしては、以下に限定されるものではないが、例えば、1,4-シクロヘキサンジアミン、1,3-シクロヘキサンジアミン、1,3-シクロペンタンジアミン等が挙げられる。
【0088】
なお、上記各ジアミン単位を構成するジアミンは、1種のみを単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
中でも、(A2-b)ジアミン単位としては、脂肪族ジアミン単位が好ましく、炭素数4~10の直鎖状飽和脂肪族ジアミン単位がより好ましく、炭素数6~10の直鎖状飽和脂肪族ジアミン単位がさらに好ましく、ヘキサメチレンジアミン単位が特に好ましい。
このようなジアミンを用いることにより、剛性、流動性等の機械物性に優れる連続繊維強化複合材料を得ることができる。
【0089】
(A2)半芳香族ポリアミドとしては、ポリアミド6I(ポリヘキサメチレンイソフタルアミド)、ポリアミド9I、ポリアミド10Iが好ましく、ポリアミド6Iが特に好ましい。ポリアミド6Iは、耐熱性、成形加工性、及び難燃性に優れることから、自動車用部品等に好適である。
【0090】
本実施形態の連続繊維強化複合材料に含まれるポリアミド((A1)脂肪族ポリアミド及び(A2)半芳香族ポリアミド)の末端は、公知の末端封止剤により末端封止されていてもよい。
このような末端封止剤は、上記ジカルボン酸と上記ジアミンとから、又は、上記ラクタム及び上記アミノカルボン酸からなる群より選ばれる少なくとも1種から、ポリアミドを製造する際に、分子量調節剤としても添加することができる。
【0091】
末端封止剤としては、以下に限定されるものではないが、例えば、モノカルボン酸、モノアミン、酸無水物(無水フタル酸等)、モノイソシアネート、モノエステル類、モノアルコール類等が挙げられる。中でも、末端封止剤としては、モノカルボン酸又はモノアミンが好ましい。
末端封止剤は、1種のみを単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
ポリアミドの末端が末端封止剤で封止されていると、連続繊維強化複合材料が耐熱性、流動性、靭性、低吸水性、及び剛性により優れる傾向にあり、連続繊維強化複合材料から得られる成形品の熱安定性がより優れる傾向にある。
【0092】
末端封止剤として使用できるモノカルボン酸としては、ポリアミドの末端に存在し得るアミノ基との反応性を有するものであればよい。モノカルボン酸としては、以下に限定されるものではないが、例えば、脂肪族モノカルボン酸、脂環族モノカルボン酸、芳香族モノカルボン酸等が挙げられる。
脂肪族モノカルボン酸としては、例えば、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、カプリル酸、ラウリン酸、トリデシル酸、ミリスチル酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ピバリン酸、イソブチル酸等が挙げられる。
脂環族モノカルボン酸としては、例えば、シクロヘキサンカルボン酸等が挙げられる。
芳香族モノカルボン酸としては、例えば、安息香酸、トルイル酸、α-ナフタレンカルボン酸、β-ナフタレンカルボン酸、メチルナフタレンカルボン酸、フェニル酢酸等が挙げられる。
これらモノカルボン酸は、1種のみを単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
特に、(A2)半芳香族ポリアミドの末端は、流動性及び機械的強度の観点から、酢酸によって封止されていることが好ましい。
【0093】
末端封止剤として使用できるモノアミンとしては、ポリアミドの末端に存在し得るカルボキシル基との反応性を有するものであればよい。モノアミンとしては、以下に限定されるものではないが、例えば、脂肪族モノアミン、脂環族モノアミン、芳香族モノアミン等が挙げられる。
脂肪族モノアミンとしては、例えば、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、ヘキシルアミン、オクチルアミン、デシルアミン、ステアリルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジブチルアミン等が挙げられる。
脂環族モノアミンとしては、例えば、シクロヘキシルアミン、ジシクロヘキシルアミン等が挙げられる。
芳香族モノアミンとしては、例えば、アニリン、トルイジン、ジフェニルアミン、ナフチルアミン等が挙げられる。
これらモノアミンは、1種のみを単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0094】
《ポリアミドの製造方法》
ポリアミドの製造方法としては、以下に限定されるものではないが、例えば、以下の(1)又は(2)の重合工程を含む。
(1)ジカルボン酸単位を構成するジカルボン酸と、ジアミン単位を構成するジアミンとの組み合わせを重合して重合体を得る工程。
(2)ラクタム単位を構成するラクタム及びアミノカルボン酸単位を構成するアミノカルボン酸からなる群より選ばれる1種以上を重合して重合体を得る工程。
【0095】
また、ポリアミドの製造方法としては、前記重合工程の後に、ポリアミドの重合度を上昇させる上昇工程をさらに含むことが好ましい。また、必要に応じて、前記重合工程及び前記上昇工程の後に、得られた重合体の末端を末端封止剤により封止する封止工程を含んでいてもよい。
【0096】
ポリアミドの具体的な製造方法としては、例えば、以下の1)~4)に例示するように種々の方法が挙げられる。
1)ジカルボン酸-ジアミン塩、ジカルボン酸とジアミンとの混合物、又はラクタム及びアミノカルボン酸からなる群より選ばれる1種以上の水溶液又は水懸濁液を加熱し、溶融状態を維持したまま重合させる方法(以下、「熱溶融重合法」ともいう。)。
2)熱溶融重合法で得られたポリアミドを融点以下の温度で固体状態を維持したまま重合度を上昇させる方法(以下、「熱溶融重合・固相重合法」ともいう。)。
3)ジカルボン酸-ジアミン塩、ジカルボン酸とジアミンとの混合物、又はラクタム及びアミノカルボン酸からなる群より選ばれる1種以上を、固体状態を維持したまま重合させる方法(以下、「固相重合法」ともいう。)。
4)ジカルボン酸と等価なジカルボン酸ハライド成分と、ジアミン成分とを用いて重合させる方法(以下、「溶液法」ともいう。)。
【0097】
中でも、ポリアミドの具体的な製造方法としては、熱溶融重合法を含む製造方法が好ましい。また、熱溶融重合法によりポリアミドを製造する際には、重合が終了するまで溶融状態を保持することが好ましい。溶融状態を保持するためには、連続繊維強化複合材料に適した重合条件で製造することが必要となる。
重合条件としては、例えば、以下に示す条件等が挙げられる。まず、熱溶融重合法における重合圧力を14~25kg/cm2(ゲージ圧)に制御し、加熱を続ける。次いで、槽内の圧力が大気圧(ゲージ圧は0kg/cm2)になるまで30分以上かけて降圧する。
【0098】
ポリアミドの製造方法において、重合形態としては、特に限定されず、バッチ式でもよく、連続式でもよい。
ポリアミドの製造に用いる重合装置としては、特に限定されず、公知の装置を用いることができる。重合装置として具体的には、例えば、オートクレーブ型反応器、タンブラー型反応器、押出機型反応器(ニーダー等)等が挙げられる。
【0099】
以下、ポリアミドの製造方法として、バッチ式の熱溶融重合法によりポリアミドを製造する方法を具体的に示すが、ポリアミドの製造方法は、これに限定されるものではない。
まず、ポリアミドの原料成分(ジカルボン酸とジアミンとの組み合わせ、並びに、必要に応じて、ラクタム及びアミノカルボン酸からなる群より選ばれる少なくとも1種)を、40~60質量%含有する水溶液を調製する。次いで、当該水溶液を110~180℃の温度、及び0.035~0.6MPa(ゲージ圧)の圧力で操作される濃縮槽で、65~90質量%に濃縮して濃縮溶液を得る。
次いで、得られた濃縮溶液をオートクレーブに移し、オートクレーブにおける圧力が1.2~2.2MPa(ゲージ圧)になるまで加熱を続ける。
次いで、オートクレーブにおいて、水及びガス成分のうち少なくともいずれかを抜きながら圧力を1.2~2.2MPa(ゲージ圧)に保つ。次いで、温度が220~260℃に達した時点で、大気圧まで降圧する(ゲージ圧は0MPa)。オートクレーブ内の圧力を大気圧に降圧後、必要に応じて減圧することにより、副生する水を効果的に除くことができる。
次いで、オートクレーブを窒素等の不活性ガスで加圧し、オートクレーブからポリアミド溶融物をストランドとして押出する。押出されたストランドを、冷却、カッティングすることにより、ポリアミドのペレットを得る。
【0100】
<難燃剤>
本実施形態における難燃剤とは、酸素を遮断する層を形成する、活性ラジカルを補足・安定化して燃焼ガスの発生を抑制する、燃焼系から熱を奪う、燃焼成分をチャー化して固定化する、不燃性ガスを発生し、可燃性ガスを希釈する等の作用によって材料の燃焼を防ぐ作用を有していれば特に限定されないが、熱可塑性樹脂に添加して使用できる形態であることが好ましい。難燃剤には水酸化アルミニウムや水酸化マグネシウム等の水和金属、赤リン、リン酸アンモニウム等のリン系、リン酸アンモニウム、炭酸アンモニウム等の窒素系、その他、ホウ酸亜鉛、モリブテン化合物などの化合物を合わせた無機系の難燃剤と、臭素や塩素などを有するハロゲン系有機化合物、リン酸エステル、リン含有ポリオール、含リンアミン等の有機リン系化合物、メラミンシアヌレート、トリアジン化合物、グアニジン化合物等の窒素系有機化合物、シリコーン系などの化合物を合わせた有機系の難燃剤があり、これらの中から1種類を使用してもよいし、複数を同時に使用しても構わない。比重が小さく熱可塑性樹脂との相性がよいことから有機系の難燃剤が好ましい。極度の高温に対してはチャーを形成して遮断することが有効なため、リン、ホウ素、ケイ素、アンチモン、金属水和物を含むことが好ましく、ラジカルトラップも行うことで高い難燃性を示すリンを含有していることがより好ましく、有機ホスフィン酸塩であることが最も好ましい。
【0101】
有機ホスフィン酸塩としては、以下に限定されるものではないが、例えば、下記一般式(1)で表される有機ホスフィン酸塩(以下、「ホスフィン酸塩(1)」ともいう。)、下記一般式(2)で表される有機ジホスフィン酸塩(以下、「ジホスフィン酸塩(2)」ともいう。)、及びこれらの縮合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の有機ホスフィン酸塩が挙げられる。
【0102】
【化1】
(式(1)中、R
11及びR
12は、各々独立して、炭素原子数1~6のアルキル基又は炭素原子数6~10のアリール基である。mは2又は3である。複数存在するR
11及びR
12は、それぞれ同一であっても、異なっていてもよい。M
1a+はa価の金属イオンであり、M
1は元素周期表の第2族若しくは第15族に属する元素のイオン、遷移元素のイオン、亜鉛イオン、又はアルミニウムイオンであり、aは2又は3である。a=mである。)
【0103】
【化2】
(式(2)中、R
21及びR
22は、各々独立して、炭素原子数1~6のアルキル基又は炭素原子数6~10のアリール基である。R
23は、炭素数1~10のアルキレン基又は炭素数6~10のアリーレン基である。nは1~3の整数である。nが2又は3である場合、複数存在するR
21、R
22、及びR
23は、それぞれ同一であっても、異なっていてもよい。M
2b+はb価の金属イオンであり、M
2は元素周期表の第2族若しくは第15族に属する元素のイオン、遷移元素のイオン、亜鉛イオン、又はアルミニウムイオンであり、bは2又は3である。jは1又は2である。jが2である場合、複数存在するM
2は同一であっても、異なっていてもよい。n、b、及びjは、2n=b×jの関係式を満たす整数である。)
【0104】
(R11、R12、R21、及びR22)
R11、R12、R21、及びR22は、各々独立して、炭素数1~6のアルキル基、炭素数6~10のアリール基である。複数存在するR11及びR12は、それぞれ同一であっても、異なっていてもよいが、製造が容易であることから、同一であることが好ましい。また、nが2又は3である場合、複数存在するR21及びR22は、それぞれ同一であっても、異なっていてもよいが、製造が容易であることから、同一であることが好ましい。
アルキル基としては、鎖状であっても、環状であってもよいが、鎖状であることが好ましい。鎖状アルキル基としては、直鎖状であっても、分岐鎖状であってもよい。直鎖状アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、n-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基等が挙げられる。分岐鎖状アルキル基としては、例えば、1-メチルエチル基、1-メチルプロピル基、2-メチルプロピル基、1,1-ジメチルエチル基、1-メチルブチル基、2-メチルブチル基、3-メチルブチル基、1,1-ジメチルプロピル基、1,2-ジメチルプロピル基、2,2-ジメチルプロピル基、1-メチルペンチル基、2-メチルペンチル基、3-メチル基ペンチル基、4-メチルペンチル基、1,1-ジメチルブチル基、1,2-ジメチルブチル基、1,3-ジメチルブチル基、2,2-ジメチルブチル基、2,3-ジメチルブチル基、3,3-ジメチルブチル基、1-エチルブチル基、2-エチルブチル基、1,1,2-トリメチルプロピル基等が挙げられる。
アリール基としては、例えば、フェニル基、ナフチル基等が挙げられる。
アルキル基及びアリール基は、置換基を有してもよい。アルキル基における置換基としては、例えば、炭素数6~10のアリール基等が挙げられる。アリール基における置換基としては、炭素数1~6のアルキル基等が挙げられる。
置換基を有するアルキル基として具体的には、例えば、ベンジル基等が挙げられる。
置換基を有するアリール基として具体的には、例えば、トリル基、キシリル基等が挙げられる。
中でも、R11、R12、R21、及びR22としては、炭素数1~6のアルキル基が好ましく、メチル基又はエチル基がより好ましい。
【0105】
(R23)
R23は、炭素数1~10のアルキレン基又は炭素数6~10のアリーレン基である。nが2又は3である場合、複数存在するR23は、それぞれ同一であっても、異なっていてもよいが、製造が容易であることから、同一であることが好ましい。
アルキレン基としては、鎖状であっても、環状であってもよいが、鎖状であることが好ましい。鎖状アルキレン基としては、直鎖状であっても、分岐鎖状であってもよい。直鎖状アルキレン基としては、例えば、メチレン基、エチレン基、トリメチレン基、テトラメチレン基、ペンタメチレン基、ヘキサメチレン基等が挙げられる。分岐鎖状アルキレン基としては、例えば、1-メチルエチレン基、1-メチルプロピレン基等が挙げられる。
アリーレン基としては、例えば、フェニレン基、ナフチレン基等が挙げられる。
アルキレン基及びアリーレン基は、置換基を有してもよい。アルキレン基における置換基としては、例えば、炭素数6~10のアリール基等が挙げられる。アリーレン基における置換基としては、炭素数1~6のアルキル基等が挙げられる。
置換基を有するアルキレン基として具体的には、例えば、フェニルメチレン基、フェニルエチレン基、フェニルトリメチレン基、フェニルテトラメチレン基等が挙げられる。
置換基を有するアリーレン基として具体的には、例えば、メチルフェニレン基、エチルフェニレン基、tert-ブチルフェニレン基、メチルナフチレン基、エチルナフチレン基、tert-ブチルナフチレン基等が挙げられる。
中でも、R23としては、炭素数1~10のアルキレン基が好ましく、メチレン基又はエチレン基がより好ましい。
【0106】
(M1及びM2)
M1及びM2は、それぞれ独立に、元素周期表の第2族若しくは第15族に属する元素のイオン、遷移元素のイオン、亜鉛イオン、又はアルミニウムイオンである。元素周期の第2族に属する元素のイオンとしては、例えば、カルシウムイオン、マグネシウムイオン等が挙げられる。元素周期表の第15族に属する元素のイオンとしては、例えば、ビスマスイオン等が挙げられる。
また、jが2である場合、複数存在するM2は同一であっても、異なっていてもよいが、製造が容易であることから、同一であることが好ましい。
中でも、M1及びM2としては、カルシウム、亜鉛、又はアルミニウムが好ましく、カルシウム又はアルミニウムがより好ましい。
【0107】
(j)
jはM2の個数を表し、1又は2である。jは、M2の種類及びジホスフィン酸の数に応じて、適宜選択することができる。
【0108】
(m及びn)
mはホスフィン酸の個数を表し、2又は3である。mは、M1の種類及び価数に応じて、適宜選択することができる。
nはジホスフィン酸の個数を表し、1~3の整数である。nは、M2の種類及び価数に応じて、適宜選択することができる。
【0109】
(a及びb)
aはM1の価数を表し、2又は3である。
bはM2の価数を表し、2又は3である。
n、b、及びjは、2n=b×jの関係式を満たす整数である。
【0110】
好ましいホスフィン酸塩(1)として具体的には、例えば、ジメチルホスフィン酸カルシウム、ジメチルホスフィン酸マグネシウム、ジメチルホスフィン酸アルミニウム、ジメチルホスフィン酸亜鉛、エチルメチルホスフィン酸カルシウム、エチルメチルホスフィン酸マグネシウム、エチルメチルホスフィン酸アルミニウム、エチルメチルホスフィン酸亜鉛、ジエチルホスフィン酸カルシウム、ジエチルホスフィン酸マグネシウム、ジエチルホスフィン酸アルミニウム、ジエチルホスフィン酸亜鉛、メチル-n-プロピルホスフィン酸カルシウム、メチル-n-プロピルホスフィン酸マグネシウム、メチル-n-プロピルホスフィン酸アルミニウム、メチル-n-プロピルホスフィン酸亜鉛、メタンジ(メチルホスフィン酸)カルシウム、メタンジ(メチルホスフィン酸)マグネシウム、メタンジ(メチルホスフィン酸)アルミニウム、メタンジ(メチルホスフィン酸)亜鉛、ベンゼン-1,4-(ジメチルホスフィン酸)カルシウム、ベンゼン-1,4-(ジメチルホスフィン酸)マグネシウム、ベンゼン-1,4-(ジメチルホスフィン酸)アルミニウム、ベンゼン-1,4-(ジメチルホスフィン酸)亜鉛、メチルフェニルホスフィン酸カルシウム、メチルフェニルホスフィン酸マグネシウム、メチルフェニルホスフィン酸アルミニウム、メチルフェニルホスフィン酸亜鉛、ジフェニルホスフィン酸カルシウム、ジフェニルホスフィン酸マグネシウム、ジフェニルホスフィン酸アルミニウム、ジフェニルホスフィン酸亜鉛等が挙げられる。
中でも、難燃性、熱可塑性樹脂との相溶性、原料の入手容易性の観点から、ジエチルホスフィン酸金属塩が好ましく、ジエチルホスフィン酸アルミニウムが特に好ましい。
【0111】
好ましいジホスフィン酸塩(2)として具体的には、例えば、メタンジ(メチルホスフィン酸)カルシウム、メタンジ(メチルホスフィン酸)マグネシウム、メタンジ(メチルホスフィン酸)アルミニウム、メタンジ(メチルホスフィン酸)亜鉛、ベンゼン-1,4-ジ(メチルホスフィン酸)カルシウム、ベンゼン-1,4-ジ(メチルホスフィン酸)マグネシウム、ベンゼン-1,4-ジ(メチルホスフィン酸)アルミニウム、ベンゼン-1,4-ジ(メチルホスフィン酸)亜鉛等が挙げられる。
【0112】
ホスフィン酸塩類の製造方法としては、特に限定されないが、例えば、特開2005-179362号公報、欧州特許出願公開第699708号明細書、及び特開平08-073720号公報等に記載の方法が挙げられる。具体的には、ホスフィン酸と、金属炭酸塩、金属水酸化物、又は金属酸化物とを用いて水溶液中で製造される。これらは、本質的にモノマー性化合物であるが、反応条件に依存して、環境によっては縮合度が1~3の縮合物であるポリマー性ホスフィン酸塩も含まれる。
【0113】
難燃剤の含有量は、熱可塑性樹脂に対して1~30質量%であることが好ましく、4~20質量%であることがより好ましく、6~15質量%であることがさらに好ましく、7~11質量%であることが最も好ましい。また、連続繊維強化複合材料に対して、 0.5~20質量%であることが好ましく、より好ましくは1~6質量%、さらに好ましくは2~4質量%である。難燃剤の含有量が上記範囲であると、機械強度と難燃性に優れる。
【0114】
<難燃助剤>
本実施形態の連続繊維強化複合材料は、必要に応じて、難燃助剤をさらに含有していてもよい。
難燃助剤としては、以下に限定されるものではないが、例えば、三酸化二アンチモン、四酸化二アンチモン、五酸化二アンチモン、アンチモン酸ナトリウム等の酸化アンチモン類;一酸化スズ、二酸化スズ等の酸化スズ類;酸化第二鉄、γ酸化鉄等の酸化鉄類;酸化亜鉛、酸化カルシウム、酸化アルミニウム(アルミナ)、酸化アルミニウム(ベーマイト)、酸化ケイ素(シリカ)、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化マンガン、酸化モリブデン、酸化コバルト、酸化ビスマス、酸化クロム、酸化ニッケル、酸化銅、酸化タングステン等のその他の金属酸化物;水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム等の金属水酸化物;アルミニウム、鉄、チタン、マンガン、亜鉛、モリブデン、コバルト、ビスマス、クロム、スズ、アンチモン、ニッケル、銅、タングステン等の金属粉末;炭酸亜鉛、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム等の金属炭酸塩;ホウ酸亜鉛、ホウ酸マグネシウム、ホウ酸カルシウム、ホウ酸アルミニウム等の金属ホウ酸塩;亜リンアルミニウム等の金属亜リン酸塩;シリコーン等が挙げられる。
【0115】
<添加剤>
本実施形態の連続繊維強化複合材料は、必要に応じて、添加剤を含有していてもよい。添加剤としては、例えば、老化防止剤、酸化防止剤、耐候剤、金属不活性剤、光安定剤、熱安定剤、紫外線吸収剤、防菌・防黴剤、防臭剤、導電性付与剤、分散剤、軟化剤、可塑剤、架橋剤、共架橋剤、加硫剤、加硫助剤、発泡剤、発泡助剤、着色剤、制振剤、造核剤、中和剤、滑剤、ブロッキング防止剤、分散剤、流動性改良剤、離型剤等が挙げられる。
【0116】
<カーボンブラック>
本実施形態の連続繊維強化複合材料は、緻密なチャー形成を促進し難燃性を高める観点から、カーボンブラックを含むことが好ましい。カーボンブラックの含有量は、0.01質量%以上であることが好ましく、0.02質量%以上であることがより好ましく、0.1質量%以上であることが更に好ましく、0.2質量%以上更により好ましく、0.3質量%以上であることが特に好ましい。また、カーボンブラックの含有量は、2質量%以下であることが好ましく、1.8質量%以下であることがより好ましく、1.5質量%以下であることが更に好ましく、1.0質量%であることが更により好ましく、0.5質量%以下であることが特に好ましい。カーボンブラックの含有量がこの範囲内である場合、連続繊維強化複合材料の外観を向上させ、良好な物性を得ることができる。
【0117】
カーボンブラックとしては、その製造方法によりファーネスブラック、チャンネルブラック、サーマルブラック等に分類され、その原料の違いにより、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、オイルブラック、ガスブラック等に分類されるが、本発明においては特に限定されずに使用することができる。
【0118】
カーボンブラックの平均一次粒径は50nmであり、より好ましくは30nm以下であり、更に好ましく20nm以下であり、特に好ましくは15nm以下である。また、カーボンブラックの平均一次粒径は好ましくは0.1nm以上であり、より好ましくは1.0nm以上であり、特に好ましくは5nm以上である。平均一次粒径がこの範囲内である場合、連続繊維強化複合材料の強度を一層向上させ、良好な外観を得ることができるため好適である。平均一次粒径は、ASTM D3849規格(カーボンブラックの標準試験法-電子顕微鏡法による形態的特徴付け)に記載の手順によりカーボンブラック粒子が分散した画像を取得し、この画像から単位構成粒子として3,000個の粒径を測定し、この測定値の平均値として求められる値である。
【0119】
カーボンブラックの比表面積は100m2/g以上が好ましく、より好ましくは150m2/g以上であり、さらに好ましくは200m2/g以上であり、特に好ましくは300m2/g以上であり、最も好ましくは350m2/g以上である。比表面積がこの範囲内である場合、連続繊維強化複合材料の強度を一層向上させることができるため好適である。一方、カーボンブラックの比表面積は、連続繊維強化複合材料の強度を一層向上させる点ではその上限値は限定されないが、連続繊維強化複合材料の生産性を高める観点から、10000m2/g以下であることが好ましく、5000m2/g以下であることがより好ましい。カーボンブラックの比表面積は、JIS K6217に従い、窒素吸着量から測定される値である。
【0120】
カーボンブラックのDBP吸油量(カーボンブラック100gが吸収するジブチルフタレートの量)は、好ましくは150cm3/100g以下であり、より好ましくは100cm3/100g以下40cm3/100g以上であり、さらに好ましくは50cm3/100g以上80cm3/100g以下であり、さらにより好ましくは60cm3/100g以上70cm3/100g以下である。DBP吸油量がこの範囲内である場合、連続繊維強化複合材料の強度を一層向上させることができる。カーボンブラックのDBP吸油量は、JIS K6221に従い測定される値である。
【0121】
カーボンブラックの比表面積とDBP吸油量の比である[比表面積/DBP吸油量]は、好ましくは1.0以上であり、より好ましくは1.3以上であり、さらに好ましくは2.0以上であり、さらにより好ましくは3.0以上であり、特に好ましくは4.0以上である。[比表面積/DBP吸油量]がこの範囲を満たし、かつカーボンブラックの平均一次粒径が1nm以上であることで、連続繊維強化複合材料の外観を一層向上させることができる。一方で、[比表面積/DBP吸油量]は、連続繊維強化複合材料の外観を一層向上させる点ではその上限値は限定されないが、連続繊維強化複合材料の生産性を高める観点から、50以下であることが好ましく、30以下であることがより好ましく、15以下であることが更に好ましい。
【0122】
連続繊維強化複合材料100質量%におけるカーボンブラックの含有量は、0.01質量%以上2質量%以下であることが好ましい。フィラーの含有量は、より好ましくは0.02質量%以上1.0質量%以下、さらに好ましくは0.05質量%以上0.8質量%以下であり、さらにより好ましくは0.1質量%以上0.4質量%以下であり、特に好ましくは0.13質量%以上0.2質量%以下である。フィラーの含有量がこの範囲内である場合、連続繊維強化複合材料の外観を向上させ、良好な物性を得ることができる。
【0123】
<ケイ素化合物>
本発明による連続繊維強化複合材料は、ケイ素化合物を含有していることが、難燃性を高める観点から好ましい。ここでケイ素化合物は、ケイ素を含んでいれば特に限定されないが、ケイ素、アルミニウム、酸素を主成分とする粒子、ケイ素、炭素、酸素を主成分とする粒子であることが好ましい。前者は例えばマイカ、雲母等のケイ酸アルミニウム、後者は例えばシリコーン化合物が挙げられる。ケイ素化合物は、難燃剤の測定と同様に断面のSEM/EDX測定で観測により確認することができる。ケイ素化合物が大きすぎると物性低下の原因になる可能性があるため、ケイ素化合物の直径は10μm以下であることが好ましい。また、ケイ素化合物の量が多すぎると物性低下の原因になる可能性があるため、樹脂領域に対して面積割合で5000ppm以下であることが好ましく、3000ppm以下であることがより好ましく、1000ppm以下であることがさらに好ましく、500ppm以下であることが最も好ましい。
【0124】
<連続繊維強化複合材料の製造方法>
本発明による連続繊維強化複合材料の製造方法は、少なくとも熱可塑性樹脂及び難燃剤を含む樹脂フィルムと連続強化繊維とを積層して積層体とする積層工程と、積層体を加熱して溶融した熱可塑性樹脂を連続強化繊維に含浸させる加熱工程と、熱可塑性樹脂を含浸させた連続強化繊維を冷却することによって連続繊維強化複合材料を得る冷却工程とを含む。上記方法によって製造された連続繊維強化複合材料は、連続強化繊維の過密な連続強化繊維過密領域と連続強化繊維が過疎な連続強化繊維過疎領域とを有し、連続繊維強化複合材料の厚み方向断面において、連続強化繊維の径の45%よりも大きな粒径を有する難燃剤を面積割合で2%以上含み、連続強化繊維過疎領域における樹脂領域の面積に対する難燃剤の面積の割合が、連続強化繊維過密領域における樹脂領域の面積に対する難燃剤の面積の割合に対して1%以上高い。
【0125】
本実施形態の連続繊維強化複合材料の製造方法は、熱可塑性樹脂を連続強化繊維に含浸させる工程を含んでいれば特に限定されず、加熱と加圧とにより行う方法、溶媒を使用する方法等が挙げられるが、残存溶媒の懸念のない加熱と加圧とにより行う方法が好ましい。加熱と加圧とにより含浸を行った場合は、その後に任意の形状に加工するための冷却工程を行うことが好ましい。加熱工程と冷却工程とは別々に行っても構わないが、樹脂が溶融して不安定な状態を短くするために、加熱工程と冷却工程は同一の装置で連続的/断続的に行うことが好ましい。
【0126】
加熱温度は、樹脂が溶融する温度であれば特に限定されないが、生産性を高める観点から、融点より10℃以上高いことが好ましく、融点より20℃以上高いことがより好ましく、融点より30℃以上高いことが更に好ましい。一方、樹脂の劣化を防ぐ観点から、加熱温度は融点+200℃より低いことが好ましく、融点+150℃より低いことがより好ましい。加圧の圧力は、0.1~30MPaであることが好ましく1~20MPaであることがより好ましく、3~10MPaであることが更に好ましい。加圧の圧力が0.1MPa以上であると含浸時間が短縮できる傾向にあり、加圧の圧力が30MPa以下であると繊維乱れによる物性低下を防止できる傾向にある。
【0127】
熱可塑性樹脂の形態としては、フィルム状、繊維状、粉末状、顆粒状等の任意の形態があげられるが、取り扱い性の観点からフィルム状であることが好ましい。なお、予めフィルムを作製しておいてもよいし、含浸工程の直前でフィルム状に押出して連続強化繊維基材に直接塗布してもよい。難燃性を高めるためには連続強化繊維が層構造であることが好ましいため、複数の連続強化繊維基材を積層することが好ましく、連続強化繊維層の間と最外層には熱可塑性樹脂を配置することが好ましい。例えば、連続強化繊維基材として織物を、熱可塑性樹脂としてフィルムを用いる場合には、フィルム、織物、フィルム、織物、フィルム、織物、フィルム、織物、フィルムのように積層し、加熱と加圧を行う。
【0128】
連続強化繊維過密領域と連続強化繊維過疎領域とで異なる難燃剤の分散状態を制御するために、強化繊維内だけを難燃剤の量が比較的少ない熱可塑性樹脂で含浸させる工程の後、難燃剤の量が比較的多い熱可塑性樹脂を加えることも可能であるが、生産性の観点からは一工程で行うことが好ましい。一工程で連続強化繊維過密領域と連続強化繊維過疎領域とで異なる難燃剤の分散状態を制御しながら含浸させるためには、熱可塑性樹脂中の難燃剤の大きさを制御することが有効となる。強化繊維間の隙間に対して大きな難燃剤の粒子は、樹脂と一緒に強化繊維中に含浸することが困難であり、比較的少ない難燃剤を含んだ樹脂だけが含浸することで連続強化繊維過密領域の難燃剤量が比較的少なくなり、連続強化繊維過疎領域の難燃剤量が比較的多くなる。難燃剤量の減った含浸する樹脂の粘度は低下するため、含浸率を高めることができるため機械物性も良好となる。また、同質量の難燃剤を熱可塑性樹脂に加えた場合、難燃剤の粒径が一定以上大きいほど粘度が低くなるため、生産性が高くなるという利点もある。
【0129】
熱可塑性樹脂中の難燃剤の粒径を制御する場合、含浸のための加熱工程と加圧工程において、室温から前記熱可塑性樹脂の融点までの昇温時間を60秒以下とすることが好ましく、45秒以下とすることがより好ましく、35秒以下とすることが更に好ましい。急速に昇温することで速やかに樹脂を溶融させ樹脂のみをガラス繊維に含浸しやすくでき、プレス圧による難燃剤の微粒化を防ぐことができる。また、急速昇温することで表層の樹脂が先に溶けて含浸するため、最外層に難燃剤濃度の高い薄い樹脂層ができるので難燃性を高めることができる。一方、生産工程の安定化の点からは、室温から前記熱可塑性樹脂の融点までの昇温時間を1秒以上とすることが好ましく、3秒以上とすることがより好ましい。ここで、熱可塑性樹脂の温度とは表層ではなく、中心部の一番温度が低い部分を意味する。
【0130】
難燃剤の粒径を制御するためには、予め難燃剤を熱可塑性樹脂にコンパウンドしてペレットを得ることが好ましい(コンパウンド工程)。使用する難燃剤の平均粒径は、2μm以上であることが好ましく、2.3μm以上であることがより好ましく、2.6μm以上であることが更に好ましく、3μm以上であることが最も好ましい。また、難燃剤の平均粒径は、15μm以下であることが好ましく、10μm以下であることがより好ましく、8μm以下であることが更に好ましく、6μm以下であることが最も好ましい。
【0131】
コンパウンド時に難燃剤を凝集させて難燃剤の粒径と分散状態を制御する観点から、難燃剤は水を含有していることが好ましく、難燃剤の吸水率が0.3質量%以上であることがより好ましく、0.5質量%以上であることが更に好ましく、1質量%以上であることが最も好ましい。また、難燃剤の吸水率が5質量%以下であることがより好ましく、3質量%以下であることが更に好ましく、2質量%以下であることが最も好ましい。水分子の形で含有していても、水和物等の加熱によって水を発生する形で含有していても構わない。水分量は熱重量分析(TGA)で求めることができる。この場合、コンパウンド工程で水が発生するため、コンパウンド工程は多軸の押し出し機を用い、ベントで引きながら行うことが好ましい。難燃剤の微粒子化を防ぐためにスクリューパターンを工夫することが好ましく、分散ユニットを少なめに、分配ユニットを多めにすることが好ましい。
【0132】
コンパウンド時に難燃剤を凝集させて難燃剤の粒径及び分散状態を制御する観点から、コンパウンドに供する樹脂ペレットも含水していることが好ましく、0.1質量%から2質量%含有していることがより好ましく、0.14質量%から1質量%含有していることが更に好ましく、0.18質量%から0.5質量%含有していることが最も好ましい。
【0133】
コンパウンドしたペレットをフィルム化する(フィルム化工程)場合、難燃剤の分散状態が変化しないように予めペレットを乾燥してからフィルム化することが好ましい。また、難燃剤の分散状態が変化しないようにシェアがかからないように押し出すことが好ましく、この観点からは単軸のスクリューを用いることが好ましい。また、難燃剤の分散状態が変化しないためには無延伸のフィルムであることが好ましく、Tダイを用いてフィルム化することがより好ましい。
【0134】
樹脂の粘度を下げ、難燃剤及び樹脂の分離を促進する観点から、含浸工程前のフィルムは0.1質量%以上吸湿していることが好ましく、0.2質量%吸湿していることがより好ましく、0.3質量%吸湿していることが更に好ましい。
【0135】
<空隙率>
本実施形態の連続繊維強化複合材料は、連続強化繊維の長さ方向に直交する断面における該連続強化繊維1本と熱可塑性樹脂との間の極界面に観察される、該連続強化繊維の周縁部から、半径方向に、該連続強化繊維1本の半径rの10分の1(すなわち、r/10)離れた周縁外側領域(極界面領域ともいう。)内の空隙率が10%以下であるところの連続強化繊維が存在し、その本数は、連続強化繊維の総数の10%以上であることが好ましい。なお、連続強化繊維の断面は略丸断面であることが好ましいが、楕円形状であってもよい。その場合、「半径」とは、繊維断面の中心からの周縁部に向かう最短距離とする。
【0136】
「連続強化繊維の長さ方向に直交する断面における該連続強化繊維1本と熱可塑性樹脂との間の極界面に観察される、該連続強化繊維の周縁部から、該連続強化繊維1本の半径の10分の1離れた周縁外側領域」における空隙率は、例えば、バンドソー等により1cm角に切削した連続繊維強化複合材料の連続強化繊維の長さ方向に直交する断面を、研磨面に400g/cm2の力がかかるように、研磨台を100rpmで回転させて、耐水ペーパー番手#220で10分間、耐水ペーパー番手#400で2分間、耐水ペーパー番手#800で5分間、耐水ペーパー番手#1200で10分間、耐水ペーパー番手#2000で15分間、炭化ケイ素フィルム粒度9μmで15分間、アルミナフィルム粒度5μmで15分間、アルミナフィルム粒度3μmで15分間、アルミナフィルム粒度1μmで15分間、バフ研磨紙発泡ポリウレタンを用いた粒度0.1μmのコロイダルシリカ(バイカロックス0.1CR)で10分間の順番で、各研磨で約7mL/minで水を加えながら研磨し、研磨したサンプルを、走査型電子顕微鏡(SEM)で観察し、ImageJ等のソフトにより画像解析することで、下記式:
空隙率(%)=(連続強化繊維の周縁部から該連続強化繊維の半径の10分の1離れた周縁外側領域内の空隙の面積)/(連続強化繊維の周縁部から該連続強化繊維の半径の10分の1離れた周縁外側領域の面積)×100
により求めることができる。
【0137】
まず、任意の略丸断面の連続強化繊維1本の連続強化繊維の周縁部から、半径の10分の1の距離、該連続強化繊維の周縁部から離れた周縁外側領域(単に、「連続強化繊維の直径の10分の1の領域」、「極界面領域」ともいう。)における空隙率を求め、これを任意の100本について観察する。本実施形態の連続繊維強化複合材料においては、連続繊維強化複合材料の剛性や強度を高めるという観点から、連続強化繊維の直径の10分の1の領域の空隙率が10%以下であるものが、100本の内10本以上、すなわち、10%以上であり、好ましくは20%以上、より好ましくは50%以上、さらにより好ましくは70%以上、最も好ましくは90%以上である。
また、本実施形態の連続繊維強化複合材料においては、連続繊維強化複合材料の剛性や強度を高めるという観点から、連続強化繊維の直径の10分の1の領域の空隙率は5%以下であることが好ましく、より好ましくは2%以下、さらに好ましくは1%以下である。
【0138】
連続強化繊維の直径の10分の1の領域の空隙率が10%以下であるものが、100本の内10%以上とするためには、例えば、連続強化繊維がガラス繊維の場合、ガラス繊維の製造において塗布されるサイジング剤(集束剤)と熱可塑性樹脂との間のμドロップ生成係数が10以上であり、相性が良いものを選択し、インロー型等成形中に型内を密閉できる成形方法や圧力を調整したダブルベルトプレスによる成形方法を選択することにより、樹脂の漏れ出しを防ぎ、連続繊維強化複合材料のガラス繊維の占有体積(Vf、体積含有率ともいう)の成形前後の変化を小さくし、集束剤に適した温度条件で成形することが好ましい。
【0139】
<連続繊維強化複合材料の用途>
本実施形態の連続繊維強化複合材料は高い強度と難燃性とを示すため、熱暴走時に火炎と高温を発するリチウムイオン電池周辺の部材に好適に用いることができる。特に、航続距離を延ばすために軽量化が求められ、安全性も必要なモビリティー分野で好適に用いることができる。モビリティー分野としては、例えば、乗用車、バスやトラック等の商用車、農機や建機などの産業車、カートなどの小型モビリティー、電動自転車やバイク等の二輪車、ドローンやヘリコプター等の浮遊機、飛行機やロケットなどの航空宇宙分野、鉄道、船舶等があげられる。
リチウムイオン電池をモビリティーに積載するためには、モジュールやパックとして搭載されるが、それらを搭載するためのホルダー、上下のケース、バッテリーを保護するためのパネル等に好ましく使用される。
【実施例0140】
以下、本発明を実施例、比較例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内で種々変形して実施することができることはいうまでもない。
【0141】
まず、後述する実施例、比較例に対する各種測定に用いた方法等について説明する。
【0142】
(曲げ強度及び曲げ弾性率)
連続繊維強化複合材料から長さ100mm、幅10mmの短冊状の試験片を切り出し、80℃の真空乾燥機で18時間以上乾燥した。その後、インストロン万能試験機にて、3点曲げ用の治具を用い、スパン間を厚み×16(mm)に設定して速度1mm/minで、23℃、50%RHの環境下で、曲げ強度(MPa)、曲げ弾性率(GPa)を測定した。
【0143】
(引張強度)
連続繊維強化複合材料から長さ70mm、幅10mmの短冊状の試験片を切り出し、80℃の真空乾燥機で18時間以上乾燥した。その後、インストロン万能試験機にて、試験片を、長手方向に30mmの間隔でチャッキングし、速度5mm/minで、23℃、50%RHの環境下で、引張強度(MPa)を測定した。
【0144】
(難燃性の評価)
ガスバーナーを地面に対し垂直に配置し、圧力0.15MPaでガスを供給した。ガスバーナーの温度が1000℃になる高さに、縦150mm、横150mm、高さ2mmの試験片を地面に対し平行に設置した。この際、試験片を固定する部分から熱が逃げないようにサンプルの固定部の面積を最小限とし、試験片との接点の材質は樹脂製とした。また、試験片に当たった炎が横に広がるが、その大きさを直径6cm以下になるように調整した。接炎側とは反対の面に熱電対を取り付け、温度を計測した。
90秒後、炎を外して十分な時間をかけて冷却した後、反接炎側を観察した。表面が荒れている領域の面積を燃焼面積とした。面積が小さいほど難燃性が高い。また、表面があれている領域を触って、滑らかな場合を○、ガタツキがある場合を△、ガラスの目の感触があるものを×と評価した。
【0145】
(複合材の厚み方向における難燃剤の粒径の測定方法について)
連続繊維強化複合材料の試料を用意し、その厚み方向断面を、ミクロトーム(Leica製 HistoCore NANOCUT Rにタングステンカーバイド刃を装着)による切削によって得た。次に、厚み方向断面が観察面となるようにSEM試料台に試料を固定し、オスミウムプラズマコーター(Vacuum Device製 HPC-1SW)によるコーティングおよび補助的にカーボンペーストを塗布することによって導電処理を施し、SEM/EDX測定用試料とした。SEM装置としてJSM-IT800(SHL)(日本電子製)、エネルギー分散型X線検出器としてJED-2300(日本電子製)を使用し、視野サイズ640μm×480μm、解像度を2048×1536、照射電子線の加速電圧を5.00kV、照射電流値を約4nAとし、1画素あたりの電子線照射時間を0.1ミリ秒として20回積算のEDX測定を実施し、ケイ素およびリンの元素マップを取得した。1つの試料につき3視野に対してSEM/EDX測定を実施した。
【0146】
リンマップに対して3×3のガウシアンフィルターを適用してノイズを低減し、トライアングル法による二値化を実施した後、得られた領域(白い領域)を「リン領域」と定義した。また、ケイ素マップに対して3×3のガウシアンフィルターを適用してノイズを低減し、大津の二値化を実施した後、得られた領域(白い領域)を「ケイ素領域」と定義した。ケイ素領域はガラス繊維を表し、視野全体からケイ素領域を除いた部分を「樹脂領域」と定義した。また、リン領域からケイ素領域を除いた領域を、「難燃剤領域」と定義した。その後、OpenCVのfindContours関数(methodはCHAIN_APPROX_SIMPLE)を難燃剤領域に適用し、難燃剤粒子の輪郭を抽出した。各輪郭より算出された面積、等価直径、外周長さ、円形度、長径、短径を、それぞれの輪郭に対応する難燃剤粒子の面積、等価直径、外周長さ、円形度、長径、短径と定義した。ただし、輪郭が難燃剤粒子に含まれる空隙に対応していた場合は、これらの数値を計測する対象から外した。また、難燃剤粒子が空隙を含む場合、その粒子の輪郭より算出された面積から空隙の面積を減算した数値を、その粒子の面積と定義した。粒子の面積から、粒子の面積に等しい面積を有する円の直径を算出し、難燃剤の粒径とした。特定の粒径の難燃剤の面積の合計を、試料中の樹脂面積で除することによって一定の範囲の粒径の難燃剤の面積割合とした。
【0147】
(連続強化繊維径の算出方法)
バンドソー等により1cm角に切削した連続繊維強化複合材料の連続強化繊維の長さ方向に直交する断面を、研磨面に400g/cm2の力がかかるように、研磨台を100rpmで回転させて、耐水ペーパー番手#220で10分間、耐水ペーパー番手#400で2分間、耐水ペーパー番手#800で5分間、耐水ペーパー番手#1200で10分間、耐水ペーパー番手#2000で15分間、炭化ケイ素フィルム粒度9μmで15分間、アルミナフィルム粒度5μmで15分間、アルミナフィルム粒度3μmで15分間、アルミナフィルム粒度1μmで15分間、バフ研磨紙発泡ポリウレタンを用いた粒度0.1μmのコロイダルシリカ(バイカロックス0.1CR)で10分間の順番で、各研磨で約7mL/minで水を加えながら研磨した。次に、厚み方向断面が観察面となるようにSEM試料台に試料を固定し、オスミウムプラズマコーターによるコーティングおよび補助的にカーボンペーストを塗布することによって導電処理を施し、SEM/EDXにてケイ素を観察する。EDX画像の強化繊維の元素マップとSEM画像を参照して、強化繊維を識別する。識別された強化繊維の輪郭を画像処理し、得られた短径について平均値を算出すし、連続強化繊維の径とした。
【0148】
(複合材の連続強化繊維過疎領域と連続強化繊維過密領域の切り分け方、及び、それぞれの領域における難燃剤の面積割合、円形度の算出方法)
複合材の厚み方向における難燃剤の粒径の測定方法に記載した方法でSEM/EDXを測定した。ケイ素マップに対して3×3のガウシアンフィルターを適用してノイズを低減し、大津の二値化を実施した後、得られた領域(白い領域)をケイ素領域とした。ケイ素領域に含まれない領域を「視野全体の樹脂領域」と定義した。次いで、OpenCVのgetStructuringElement関数を用いて作成した5×5楕円カーネルを使用し、ケイ素領域に対して16回の膨張、20回の収縮、5回の膨張を実施し、得られた領域を「連続強化繊維含有領域」と定義した。ケイ素領域と連続強化繊維含有領域との積集合を「連続強化繊維領域」と定義した。そして、OpenCVのdistanceTransform関数を用いて作成した連続強化繊維からのユークリッド距離空間に基づいて、連続強化繊維領域及びその周辺の2μm以内の領域を抽出し、「連続強化繊維過密領域」と定義した。また、連続強化繊維過密領域に含まれなかった領域を、「連続強化繊維過疎領域」と定義した。さらに、連続強化繊維過密領域からケイ素領域を除いた領域を、「連続強化繊維過密領域に含まれる樹脂領域」と定義した。同様に、連続強化繊維過疎領域からケイ素領域を除いた領域を、「連続強化繊維過疎領域に含まれる樹脂領域」と定義した。
【0149】
リンマップに対して3×3のガウシアンフィルターを適用してノイズを低減し、トライアングル法による二値化を実施し、得られた領域(白い領域)を「リン領域」と定義した。リン領域からケイ素領域を除いた領域を、「視野全体の難燃剤の領域」と定義した。リン領域と連続強化繊維過密領域の積集合を、「連続強化繊維過密領域に含まれる難燃剤の領域」と定義した。また、リン領域と連続強化繊維過疎領域の積集合を、「連続強化繊維過疎領域に含まれる難燃剤の領域」と定義した。ここで、難燃剤の領域の面積を樹脂領域の面積で割った値を「難燃剤の面積割合」と定義した。例えば、視野全体の難燃剤の領域の面積を、視野全体の樹脂領域の面積で割った値を、「視野全体における難燃剤の面積割合」と定義した。
【0150】
次いで、視野全体の難燃剤の領域に対して、OpenCVのfindContours関数(methodはCHAIN_APPROX_SIMPLE)を適用し、難燃剤粒子の輪郭を抽出し、各輪郭より算出された面積を、それぞれの輪郭に対応する難燃剤粒子の面積と定義した。また、難燃剤粒子が空隙を含む場合、その粒子の輪郭より算出された面積から空隙の面積を減算した数値を、その粒子の面積と定義した。ここで、上記と同様に、難燃剤粒子の面積を樹脂領域の面積で割った値を面積割合と定義した。例えば、視野全体の難燃剤の領域に含まれる難燃剤粒子の中から面積が1μm2以上の難燃剤粒子を抽出して難燃剤粒子の面積の合計を算出し、算出した合計面積を視野全体の樹脂領域の面積で割って得られた数値が、視野全体における面積1μm2以上の難燃剤粒子の面積割合である。同様に、連続強化繊維過密領域または連続強化繊維過疎領域に含まれる難燃剤の領域より輪郭を抽出し、それぞれの領域における難燃剤粒子の面積や面積割合を算出した。視野全体の各々の難燃剤粒子について、その面積Sと周囲長Lを算出し、各々の粒子の円形度(円形度=4πS/L2)を計算した。面積および面積と円形度の積を算出し、着目している領域に含まれる全粒子についてこれらの合計を算出し、面積と円形度の積の合計を面積の合計で除した値を、連続繊維強化複合材料の円形度とした。
【0151】
(粉末状難燃剤の粒径の測定方法)
二液混合反応型エポキシ系接着剤中に、難燃剤同士が凝集しない程度の密度で粉末を包埋し、固化して試料とした後に、ミクロトーム(Leica製 HistoCore NANOCUT R)による切削で断面を作製した。断面が観察面となるようにSEM試料台に試料を固定し、オスミウムプラズマコーター(Vacuum Device製 HPC-1SW)によるコーティングおよび補助的にカーボンペーストを塗布することによって導電処理を施し、SEM/EDX測定用試料とした。SEM装置としてJSM-IT800(SHL)(日本電子製)、エネルギー分散型X線検出器としてJED-2300(日本電子製)を使用し、視野サイズ320μm×240μm、解像度を1024×768、照射電子線の加速電圧を5.00kV、照射電流値を約4nAとし、1画素あたりの電子線照射時間を0.1ミリ秒として20回積算のEDX測定を実施し、リンの元素マップを取得した。3つの視野に対してSEM/EDX測定を実施した。粒径の計算方法については前述の複合材中の難燃剤の粒径と同様に行い、粒径1μm以上の粒子について平均値を算出した。
【0152】
下記の実施例、比較例で用いた材料は以下のとおりである。
(熱可塑性樹脂)
脂肪族ポリアミド
ポリアミド66:レオナ1300S(旭化成(株)製、融点265℃)
半芳香族ポリアミド
ポリアミド6I:レオナR16024(旭化成(株)製、ガラス転移温度130℃)
【0153】
(難燃剤)
ジエチルホスフィン酸アルミニウム:Exolit OP1230(Clariant社製)
亜リン酸アルミニウム水和物(Vijay Chemical Corporation社製)
【0154】
(添加剤)
カーボンブラック:カーボンブラック#2300((株)三菱ケミカルホールディングス製)
エチレンビスステアリン酸アミド:EPL-8(大日化学工業(株)製)
イルガノックス1098(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)
ケイ酸アルミニウム:マイカ(巴工業(株)製)
シリコーン化合物:KF-965(信越化学工業(株)製)
【0155】
(ペレットの作製1)
表面をシリコーン化合物で処理したブレンダーを用いて、脂肪族ポリアミドと芳香族ポリアミドのペレットを質量割合で7:2になるようにドライブレンドした。混合したペレットの水分率は2500ppmであった。この工程でごく微量のシリコーン化合物がポリアミドに混入される。
ジエチルホスフィン酸アルミニウムと亜リン酸アルミニウム水和物とを、粉体混合器を用いて混合した。混合中に吸湿した水分と水和物由来の水分のTGA(120℃ホールドした際の重量減少量)は1.7%であった。また、粒径は3.7μmであった。
東芝機械社製、TEM35mm2軸押出機(設定温度280℃、スクリュー回転数300rpm)を用いて、押出機最上流部に設けられたトップフィード口より、ポリアミドペレット(100部)、エチレンビスステアリン酸アミド(1.3部)、カーボンブラック(0.5部)を供給した。また、押出機下流側(トップフィード口より供給された樹脂が充分溶融している状態)のサイドフィード口より混合した難燃剤(9部)、イルガノックス1098(0.3部)、ケイ酸アルミニウム(0.01部)を供給した。スクリューパターンは分配を重視したものとし、コンパウンドによる発熱量は少ない条件とした。押出下流にベントを設け、減圧して水分を除去した。ダイヘッドより押し出された溶融混練物をストランド状で冷却し、ペレタイズして、ポリアミド組成物のペレット1を得た。
【0156】
(ペレットの作製2)
表面処理のされていないブレンダーを用いて、脂肪族ポリアミドと芳香族ポリアミドのペレットを質量割合で7:2になるようにドライブレンドした。その後、真空乾燥機を用いてペレットの水分率が1000ppm以下になるように乾燥させた。
ジエチルホスフィン酸アルミニウムを攪拌乾燥機で乾燥させた。粒径は1.9μmであった。
東芝機械社製、TEM35mm2軸押出機(設定温度280℃、スクリュー回転数300rpm)を用いて、押出機最上流部に設けられたトップフィード口より、ポリアミドペレットとカーボンブラックを供給した。また、押出機下流側(トップフィード口より供給された樹脂が充分溶融している状態)のサイドフィード口より難燃剤、イルガノックス1098を供給した。スクリューパターンは分散を重視したものとし、コンパウンドによる発熱量が生じていた。押出下流にベントを設け、減圧したが水分はあまり抜けていない様子であった。ダイヘッドより押し出された溶融混練物をストランド状で冷却し、ペレタイズして、ポリアミド組成物のペレット2を得た。
【0157】
(ポリアミドフィルムの作製)
上記ペレタイズしたポリアミド組成物のペレット1、2を用い、Tダイ押出成形機((株)創研製)を用いて成形することで、フィルムを得た。得られたフィルムの厚さは180μmであった。
【0158】
(連続強化繊維)
ガラス繊維:ER1200T-423(日本電気硝子(株)製)
-ガラスクロスの作製-
レピア織機(織幅2m)を用い、上記ガラス繊維を経糸、緯糸として用いて製織することでガラスクロスを製造した。得られたガラスクロスの織形態は、2-2綾織、織密度は6.5本/25mm、目付は600g/m2であった。
-ノンクリンプファブリック(NCF)の作製-
多軸挿入機を用い、上記ガラス繊維を0度、90度に積層し、ポリアミド糸を用いてステッチした。ガラス繊維の密度は6.25本/mmとした。
【0159】
(実施例1)
ガラスクロスとペレット1から得たポリアミドフィルムとを用いて以下のように成形を行い、連続繊維強化複合材料を得た。
成形機として、最大型締め力50トンの油圧成形機((株)ショージ製)を使用した。
300mm角に切ったガラスクロス5枚と、250mm角に切ったポリアミドフィルム6枚を、最外層がポリアミドフィルムになるように交互に積層した。この時ポリアミドフィルムの吸水率は4000ppmであった。この積層物を厚み1mmのステンレス製の板の間に配置した。
成形機内温度を330℃に加熱し、ステンレス製の板を設置し、次いで型締め力5MPaで型締めし、圧縮成形を行った。30秒で265℃に達し、15秒後に開放した。このときの最高温度は275℃であった。その後、ステンレス製の板ごと冷却プレスに移動させ、加圧、急冷した。加熱プレス開放から、冷却プレスへの移動、加圧、融点以下に達するまでの時間は15秒であり、融点以上の時間は合計30秒であった。十分に冷却されたのちに開放し、連続繊維強化複合材料を取り出した。フィルムを設置した面積の外側から10mmの部分を切り出し、230mm角の評価用のサンプルとした。
【0160】
(実施例2)
実施例1と同様に、連続繊維強化複合材料を作製した。ただし、ペレットを作製する際に、添加剤としてのカーボンブラックを供給しなかった。その他の条件は、実施例1と全て同じである。
【0161】
(実施例3)
実施例1と同様に、連続繊維強化複合材料を作製した。ただし、ペレットを作製する際のポリアミドの混合は表面処理を行っていないブレンダーを使用し、また、添加剤としてのケイ酸アルミニウムを供給しなかった。その他の条件は、実施例1と全て同じである。
【0162】
(実施例4)
実施例1と同様に、連続繊維強化複合材料を作製した。ただし、連続強化繊維として、ガラスクロスに代えてNCFを用いた。その他の条件は、実施例1と全て同じである。
【0163】
(比較例1)
TEPEX(登録商標) Dynalite110FR-FG290(9)50%(LANXESS Deutschland GmbH社製)、厚み2mmを使用した。
【0164】
(比較例2)
ガラスクロスとペレット2から得たポリアミドフィルムとを用いて以下のように成形を行い、連続繊維強化複合材料を得た。
成形機として、最大型締め力50トンの油圧成形機((株)ショージ製)を使用した。平板型の連続繊維強化複合材料(縦200mm、横100mm、肉厚2mm)を得るためのインロー構造の金型を準備した。ガラスクロス5枚とポリアミドフィルム6枚とを準備し、それぞれ金型形状に合わせて切断した後、ポリアミドフィルムが表面となるように交互に重ね、金型内に設置した。成形機内温度を330℃に加熱し、次いで型締め力5MPaで型締めし、圧縮成形を行った。金型が265℃に達するまでに5分要した。265℃になった時間から30秒加圧を続け、金型を開放した。金型を冷却プレスに移送し、冷却プレスを行った。加熱プレスの解放から、冷却プレスにより融点以下の温度に下がるまでの時間は30秒であり、融点以上の時間は合計60秒であった。十分に冷却した後、金型を冷却プレスより取り出し、金型から連続繊維強化複合材料を取り出した。
【0165】