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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024117641
(43)【公開日】2024-08-29
(54)【発明の名称】自動点眼装置および点眼方法
(51)【国際特許分類】
   A61M 11/00 20060101AFI20240822BHJP
   A61F 9/007 20060101ALI20240822BHJP
   A61J 1/05 20060101ALI20240822BHJP
【FI】
A61M11/00 K
A61F9/007 170
A61J1/05 313A
A61J1/05 313H
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023023848
(22)【出願日】2023-02-17
(71)【出願人】
【識別番号】304027349
【氏名又は名称】国立大学法人豊橋技術科学大学
(71)【出願人】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(72)【発明者】
【氏名】内田 裕久
(72)【発明者】
【氏名】山路 倍弘
(72)【発明者】
【氏名】中野 康汰
(72)【発明者】
【氏名】道下 史也
(72)【発明者】
【氏名】中澤 徹
(72)【発明者】
【氏名】内田 惠子
【テーマコード(参考)】
4C047
【Fターム(参考)】
4C047CC24
4C047EE03
(57)【要約】      (修正有)
【課題】患者が座位または立位の姿勢で的確な点眼を迅速に行うことができる自動点眼装置および点眼方法を提供すること
【解決手段】本発明に係る自動点眼装置は、滴下可能な状態で設置される点眼液容器と、点眼液容器に対し所定の圧力を与えて滴下させるためのアクチュエーターと、液滴の落下方向に対し任意の方向に向かって所定の風速で送風し、気流によって液滴を所定の方向へ誘導する送風手段と、患者の眼の映像または画像を取得する撮影手段と、取得映像または画像を参照しつつアクチュエーターを作動するための処理手段とを備え、前記の処理手段は、液滴の滴下開始から患者の眼に到達するまでの時間を算出し、取得映像または画像に基づき患者が瞬きするときの眼の開閉動作の時間的間隔を演算し、該開閉動作のうち患者の眼が開いている時間の範囲内に液滴が眼に到達するタイミングでアクチュエーターを作動させるものである。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
容器から滴下される液状点眼薬の液滴を自動で点眼する装置であって、
液状の点眼薬を滴下可能な状態で設置される容器と、
前記容器に対して所定の圧力を付与して該容器から液滴を滴下させるためのアクチュエーターと、
前記液滴の落下方向に対し任意の方向に向かって所定の風速で送風し、該送風による気流によって前記液滴を所定の方向へ誘導する送風手段と、
点眼対象となるべき患者の眼の映像または画像を取得する撮影手段と、
前記撮影手段によって取得する映像または画像を参照しつつ前記アクチュエーターを作動するための処理手段とを備え、
前記処理手段は、前記液滴の進行方向が前記送風手段によって誘導されるとき、滴下開始から患者の眼に到達するまでの時間を算出し、前記撮影手段により取得される映像または画像に基づき点眼対象となる患者が瞬きするときの眼の開閉動作の時間的間隔を演算し、該開閉動作のうち該患者の眼が開いている時間の範囲内に液滴が眼に到達するタイミングでアクチュエーターを作動させるものである
ことを特徴とする自動点眼装置。
【請求項2】
前記送風手段は、略水平方向に向かって送風させるものであり、前記容器から鉛直方向に自然落下する液滴を略水平方向に誘導するものである
ことを特徴とする請求項1に記載の自動点眼装置。
【請求項3】
さらに、少なくとも前記容器、前記アクチュエーターおよび前記送風手段を搭載するステージと、該ステージを移動するための移動手段と、前記ステージに搭載され、前記液滴が前記送風手段によって誘導される方向へ向きを変える位置から患者の顔面または眼までの略水平方向に直線的な距離を測定する距離計とを備え、
前記処理手段は、前記送風手段によって方向が変更される前記液滴を患者の眼に到達可能な位置に前記ステージを移動させるように、前記移動手段の移動量を制御するものである
ことを特徴とする請求項2に記載の自動点眼装置。
【請求項4】
前記処理手段は、前記距離計により計測される距離が100mm~300mmの範囲内となるように前記ステージを移動させるように、前記移動手段の移動量を制御するものである
ことを特徴とする請求項3に記載の自動点眼装置。
【請求項5】
さらに、請求項3に記載のステージには、前記容器から前記送風手段まで到達する前記液滴の滴下の有無を検出する液滴検出手段が設置されており、
前記処理手段は、前記液滴検出手段により液滴の滴下を検出した場合にのみ前記送風手段を作動させるように制御するものである
ことを特徴とする請求項4に記載の自動点眼装置。
【請求項6】
前記送風手段の送風により発生する気流が通過する領域と、所定の方向へ誘導された前記液滴が移動する領域とが区分されて構成されている
ことを特徴とする請求項1~5のいずれかに記載の自動点眼装置。
【請求項7】
前記送風手段の送風により発生する気流が通過する領域における該気流の下流側には、該気流を吸収する風排出手段が設けられている
ことを特徴とする請求項6に記載の自動点眼装置。
【請求項8】
所定の位置に座位または立位とする状態において正面を直視させた姿勢を維持する点眼対象の患者に対して、請求項1~7のいずれかに記載の自動点眼装置を使用する点眼方法であって、
前記自動点眼装置は、予め前記患者の顔面側に設置されるものであり、
前記患者が瞬きするときの開閉動作の時間的間隔の演算結果に基づき、該患者の眼が開いた状態において液滴を眼に到達できる時間的タイミングによりアクチュエーターを作動させ、容器から落下する液滴を前記患者の顔面側から該患者の眼に向かって誘導させる
ことを特徴とする点眼方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、所定の位置に座位または立位とする状態において、点眼対象となる患者に対し液滴の点眼を迅速に行うことができる自動点眼装置および点眼方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
点眼補助具には、例えば特許文献1に記載されたものがある。これは点眼容器を患者の顔面に相対して同じ位置に保持するための補助具である。また特許文献2には、薬液投与部から適量の薬液を眼に向かって的確に射出する、使用者が簡易に扱える点眼装置が開示されている。さらに、非特許文献1には、点眼瓶と一体化させ点眼液の点眼を容易とする補助具が掲示されている。
その他の点眼に関連する技術には、非特許文献2のように眼科手術中に生理食塩水を適宜、滴下する自動装置がある。非特許文献3では、目薬を自動滴下するロボットが掲示されている。
【0003】
このように、地表に対し鉛直方向に滴下する、従来の補助具や装置では、患者の頭部を傾け顔面を鉛直方向に上向きにする姿勢を維持するか、仰向けに寝そべった姿勢で顔面を上向きに固定する必要がある。
【0004】
一方、ノズルから点眼液を噴霧する点眼装置では、噴霧による液量は明確であるが、所要の点眼液が実際に眼に届いた液量が分かりにくい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2018-061623号公報
【特許文献2】特許第6281966号
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】「らくらく点眼」インターネットページ(アドレスhttps://www.kawamoto-sangyo.co.jp/products/2442/)
【非特許文献2】眼科手術用自動点眼装置 インターネット(PDFファイルhttps://inami.co.jp/files/topics/1546_ext_02_0.pdf)
【非特許文献3】「自動目薬差しロボ」インターネットページ(アドレスhttps://www.itmedia.co.jp/news/articles/1711/29/news109.html)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
先行技術のように、患者は座位または立位の姿勢のままでは点眼が困難であり、患者は仰向けの姿勢または顔面を上向きに保持する姿勢をとる必要がある。さらに、多くの場合、患者は点眼液を確実に眼に落下するように動作の慣れが必要であった。
【0008】
一方、点眼を自動で行う点眼装置であっても、噴霧ノズルと眼の位置合わせが必要であった。座位または立位の姿勢でも一定の位置合わせを行えるように設計された装置があるが、患者自身に噴霧ノズルと眼の位置合わせが的確な状態か分かりづらく、以て眼に届いた霧状となった点眼液の量が分かりにくかった。治療者等にも患者が適切な点眼の実施を行えているか確認しにくいという課題があった。
【0009】
本発明は、上記課題を鑑みてなされたものであって、患者が経験を必要とするような操作を行わずに自動で的確な液滴の点眼を迅速に行うことができる自動点眼装置および点眼方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る第一の自動点眼装置は、容器から滴下される液状点眼薬の液滴を自動で点眼する装置であって、
液状の点眼薬を滴下可能な状態で設置される容器と、
前記容器に対して所定の圧力を付与して該容器から液滴を滴下させるためのアクチュエーターと、
前記液滴の落下方向に対し任意の方向に向かって所定の風速で送風し、該送風による気流によって前記液滴を所定の方向へ誘導する送風手段と、
点眼対象となるべき患者の眼の映像または画像を取得する撮影手段と、
前記撮影手段によって取得する映像または画像を参照しつつ前記アクチュエーターを作動するための処理手段とを備え、
前記処理手段は、前記液滴の進行方向が前記送風手段によって誘導されるとき、滴下開始から患者の眼に到達するまでの時間を算出し、前記撮影手段により取得される映像または画像に基づき点眼対象となる患者が瞬きするときの眼の開閉動作の時間的間隔を演算し、該開閉動作のうち該患者の眼が開いている時間の範囲内に液滴が眼に到達するタイミングでアクチュエーターを作動させるものである
ことを特徴とする。
【0011】
本発明に係る第二の自動点眼装置は、前記送風手段が略水平方向に向かって送風させるものであり、前記容器から鉛直方向に自然落下する液滴を略水平方向に誘導するものである
ことを特徴とする。
【0012】
本発明に係る第三の自動点眼装置は、前記第二の自動点眼装置において、
さらに、少なくとも前記容器、前記アクチュエーターおよび前記送風手段を搭載するステージと、該ステージを移動するための移動手段と、前記ステージに搭載され、前記液滴が前記送風手段によって誘導される方向へ向きを変える位置から患者の顔面または眼までの略水平方向に直線的な距離を測定する距離計とを備え、
前記処理手段は、前記送風手段によって方向が変更される前記液滴を患者の眼に到達可能な位置に前記ステージを移動させるように、前記移動手段の移動量を制御するものである
ことを特徴とする。
【0013】
本発明に係る第四の自動点眼装置は、前記第三の自動点眼装置において、
前記処理手段が前記距離計により計測される距離が100mm~300mmの範囲内となるように前記ステージを移動させるように、前記移動手段の移動量を制御するものである
ことを特徴とする。
【0014】
本発明に係る第五の自動点眼装置は、前記第四の自動点眼装置において、
さらに、前記第三の自動点眼装置に記載のステージには、前記容器から前記送風手段まで到達する前記液滴の滴下の有無を検出する液滴検出手段が設置されており、
前記処理手段は、前記液滴検出手段により液滴の滴下を検出した場合にのみ前記送風手段を作動させるように制御するものである
ことを特徴とする。
【0015】
本発明に係る第六の自動点眼装置は、前記第一~五の自動点眼装置のいずれかにおいて、
前記送風手段の送風により発生する気流が通過する領域と、所定の方向へ誘導された前記液滴が移動する領域とが区分されて構成されている
ことを特徴とする。
【0016】
本発明に係る第七の自動点眼装置は、前記第六の自動点眼装置において、前記送風手段の送風により発生する気流が通過する領域における該気流の下流側には、該気流を吸収する風排出手段が設けられている
ことを特徴とする。
【0017】
本発明に係る点眼方法は、所定の位置に座位または立位とする状態において正面を直視させた姿勢を維持する点眼対象の患者に対して、本発明に係る第一~七の自動点眼装置いずれかを使用する点眼方法であって、
前記自動点眼装置は、予め前記患者の顔面側に設置されるものであり、
前記患者が瞬きするときの開閉動作の時間的間隔の演算結果に基づき、該患者の眼が開いた状態において液滴を眼に到達できる時間的タイミングによりアクチュエーターを作動させ、容器から落下する液滴を前記患者の顔面側から該患者の眼に向かって誘導させる
ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る自動点眼装置により、患者は身体を仰向けにしたり、顔面を上向きに固定したりする姿勢をとらずに、所定の位置に座位または立位の状態で正面を直視した姿勢をとり、自ら点眼できるようになる。さらに、本発明によれば、液滴の滴下位置を正確に誘導でき、瞬きを検出することにより眼に適切に滴下できるようになる。また、液滴は噴霧されず眼に誘導されるため、滴下した液滴数から液滴量(つまり、1液滴の量×滴下数)を算出できるため、より正確に眼に滴下された薬液等の量を知ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の実施の形態である自動点眼装置の構成を示す模式図である。
図2】本発明の実施の形態である自動点眼装置の動作を示すフロー図である。
図3】本発明の実施の形態である送風手段により液滴を誘導するための構成を示す模式図である。
図4】送風手段による液滴の滴下と液滴の誘導に関し眼が占める領域と同等の矩形領域を誘導された液滴が通過する確率を示すグラフである。
図5】本発明の実施の形態である眼を検出するための画像処理に関するフロー図である。
図6】本発明の実施の形態である眼の検出結果を示すグラフである。
図7】本発明の実施の形態である瞬きの検出動作を示すフロー図である。
図8】本発明の実施の形態である瞬きの検出を人の正面から行った結果を示すグラフである。
図9】本発明の実施の形態である瞬きの検出を人の横顔から行った結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
発明を実施するための形態について図面を参照して説明する。
【0021】
本発明の実施の形態に係る自動点眼装置の模式図を図1に示す。自動点眼装置は、一つの筐体内に、点眼液を貯蔵する点眼液容器、および所要の液滴量を滴下するために作動させるアクチュエーターと、これら液滴を滴下するための要素手段を一体として、互いに直交する3軸xyz方向に沿って各3方向に移動させるステージ1(以下にxyzステージということがある。)と、このステージ1に設置され液滴が滴下されたことを検出するフォトセンサと、液滴を気流により所定の位置へ誘導する送風手段としての送風機と、前記送風時の気流により液滴の誘導を妨げないための風排出手段としての風排出パイプと、前記ステージ1に固定され患者との略水平距離を測定する距離計と、前記ステージ1とは別のxyzステージであるステージ2に、瞬きを検出するCCDカメラ(撮影手段)が設置され、図示していないが信号処理および自動点眼装置を制御する処理手段としてのPC等が信号を伝達するインターフェースを介して電気的に接続され(以下、制御器ということがある。)、さらに患者が点眼を開始する信号を当該PC等へインターフェースを介して送信するための簡便なスイッチから構成される。
【0022】
アクチュエーターは、モーターにより金属棒を点眼液容器に押し当てて、制御器からの信号により所定の液滴量とするために当該金属棒を点眼液容器の外側から内側へ向けて必要な長さだけ伸ばして圧力を加えられるようになっている。このほか点眼液容器を保持するための取付枠を所定の長さだけ締め付けるなどして必要な圧力を加えてもよい。
【0023】
フォトセンサは、液滴が通過することを検出した信号を制御器に送信し、当該制御器は検出信号に従って送風手段として送風機ファンを作動させ、所定の気流で液滴を誘導するように動作する。
【0024】
CCDカメラおよびステージ2は、患者が座位または立位の姿勢で、所定の顔や顎など頭部を固定できる器具に頭部を固定すると、まず患者の眼および瞳孔を検出して、次に瞬きを検出するために、患者の瞳孔をCCDカメラの所定の画素位置となるようにステージ2を移動手段により移動させる。このとき、患者の瞳孔のCCDカメラ画像上の画素位置に従って、点眼が確実に行えるようにステージ1の位置座標(例えば、画像上xy座標)が移動手段により移動調整される。
【0025】
次に、患者との略水平方向の距離は距離計により測定され、所定の気流を発生させて液滴が患者の眼に到達できるように、制御器からの信号により適切な位置座標(例えば、画像と直交するz座標)へステージ1をさらに移動させる。なお、ステージ1の移動は、前記画像上の位置座標上および前記画像と直交する軸方向の座標上の移動を同時に、すなわちステージ1の3軸に沿って同時に行ってもよい。
【0026】
前記ステージ1および2の位置座標の調整の後、自動で点眼が実行される。このとき、スイッチを使って患者自ら点眼のタイミングを装置へ入力するセミオート式としてもよい。
【0027】
図2に示すように、患者は座位または立位の姿勢で、所定の顔や顎など頭部を固定できる器具に頭部を固定すると、距離計等により頭部の固定を検出して制御器においてCCDカメラ画像から眼を検出するプロセスを開始する。
眼を検出できた場合、制御器において患者の眼が液滴誘導の範囲内にあるか判断して、目標に到達していなければxyzステージおよびその移動手段を制御して移動させ目標に到達するまでxyzステージを移動させる。目標に到達したと判断すれば点眼プロセスに移行する。
【0028】
点眼プロセスでは、距離計により頭部もしくは眼までの長さを測定して液滴を誘導するための送風量、すなわち送風機ファンの回転数を求める。送風量が決定されるとアクチュエーターにより所望の長さだけ点眼液容器に適宜圧力を与えて、必要量の液滴を落下させる。落下した液滴をフォトセンサにより検出し直ちに送風機ファンを作動させる。このように発生した気流により落下中の液滴は眼の表面まで誘導される。液滴の誘導後の気流は風排出パイプにより液滴誘導に影響しない空間へ向け排出される。
【0029】
なお、アクチュエーターによる液滴の落下は、CCDカメラによる瞬きの計測によりそのタイミングが制御される。この制御も前記の制御器によって行うものであり、具体的には、液滴の落下開始から眼へ到達するまでの誘導時間があらかじめ求められており、患者の瞬きによる眼の開閉動作の時間的タイミングに合わせてアクチュエーターを作動させるものである。すなわち、CCDカメラによる画像の変化に基づき、実際の瞬きの時間的間隔(開閉動作の間隔ならびに開時間および閉時間)を制御器において算出するものであり、眼が開いた状態の時間(開時間)は、瞳の検出面積から算出するものとしている。従って、患者の瞬きによる眼の開閉動作が規則的であれば、液滴の誘導時間を考慮しつつ患者の眼が開時間となる範囲内に液滴を眼に到達させるために、落下を開始させるタイミングを求めることができる。そこで、制御器によって求められたタイミングによりアクチュエーターを作動させることで、患者の眼に液滴を供給させている。
【0030】
また、自動点眼装置は、立位または座位による姿勢の患者の眼に対して点眼することを目的としていることから、送風機による液滴の誘導方向は略水平方向としている。この場合、送風機による送風の流動によって、液滴は略水平方向へ移動を開始するが、液滴の自由落下にともなって移動軌跡は放物線となる。そのため、自動点眼装置と患者の眼との距離を所定の範囲内とすることにより、立位または座位による姿勢の患者の眼に点眼することが可能となるのである。
【0031】
本発明の実施形態は上記のとおりであるが、上記実施形態は本発明の一例であって、本発明が上記の実施形態に限定されるものではない。従って、上記実施形態の各要素を変更し、または他の要素を追加するものであってもよい。例えば、上記実施形態における「フォトセンサ」は、本発明の液滴検出手段の一例であるから、他のセンサを用いることができる。また、実施形態の「送風機」は本発明の送風手段の一例であり、ファンにより送風する構成のほか、圧縮空気を噴射させる構成でもよい。さらに、送風機は、液滴を検出したときに作動させる構成とする場合のほか、液滴検出手段(フォトセンサ)を省略するときは、常時送風させるような構成としてもよい。
【0032】
一方、CCDカメラは、本発明の撮影手段の一例であり、画像を取得し、制御器(制御手段)によって、その変化に基づく眼の開閉動作を検出するものであるが、映像を取得する装置を使用し、任意のフレーム間隔における画像変化を制御器(制御手段)によって処理させるものとしてもよい。
【0033】
さらに、図3に示すように、送風機の送風により発生する気流が通過する領域と、所定の向きに誘導された液滴が移動する領域とを、防風カバーによって区分するように構成することができる。防風カバーの設置により、所定の向きに誘導された液滴に対し、その移動を妨害させないようにすることができる。この場合には、風排出パイプ(風排出手段)を省略することができる。ただし、このような構成においても風排出パイプ(風排出手段)を設けることにより、送風機の風が患者に到達することを防止でき、患者に対する不快感の排除と、患者に衝突した風の逆流を防止させることができる。
【実施例0034】
液滴の誘導プロセスの好適な条件を求めるため、送風機と点眼液容器(点眼液滴)を配置し、眼の範囲をたて7mm、よこ10mmの矩形領域に見立てて、点眼液容器ノズル口から当該矩形領域までの距離と液滴が該矩形領域を通過する確率の関係を求めた(図3参照)。
【0035】
送風機を水平に固定したときの送風による誘導では、点眼液容器ノズル口から前記の矩形領域までの距離が20mmのとき、該矩形領域を通過する確率は96%であった。距離が長くなるにつれ矩形領域を通過する確率は低下する(図4参照)。
【0036】
送風を上向き20度だけ傾けた場合は、前記の矩形領域を通過する確率は、送風機を水平に固定したときより低くなる。つまり、送風機は水平に固定することが好適である。さらに、遮蔽版を設けることにより、送風により液滴の誘導への影響を低減できた。
【実施例0037】
CCDカメラはELECOM社製、受像素子1/3インチ CMOSセンサ、オートフォーカス方式、有効画素200万画素、撮影画角:対角76度のものを用いる。CCDカメラによる眼の検出は、カメラと眼の距離が100mmより小さな距離では眼球表面で反射して投影される物体像の影響を受けて検出の確率が低下した。検出確率は、出力映像で目視による確認およびCCDカメラによる眼の検出座標と瞳の半径のずれを比較して、大きくずれているとき誤検出としている。
カメラと眼の距離が100mmから300mmであれば、ひとつのカメラで左右両方の眼を検出できた(図6参照)。
【0038】
CCDカメラからの画像は前記の制御器において画像処理がなされる。まず、ガウシアンフィルター、グレースケール変換、2値化を順次行い、最終的に白黒画像とする。瞳や影の部分が黒色、白目の部分が白色で表現される。
次に、Canny法によるエッジ検出、最小外接円検出法を順次適用して輪郭画像を得る。この輪郭画像および前記の白黒画像から眼や瞳の半径を求め、白色画像と黒色画像それぞれの面積を求める。以上から、瞳の半径と眼の位置(理想的には瞳の中心と重なる)が決定できる(図5参照)。
【0039】
瞬きの検出は、まぶたが動くことを利用して、カメラの対象フレーム画像と、当該画像に対し1つ前のフレーム画像との変化を検出することで実現した。まぶたの開放時と閉鎖時の画像データの比較から判別できる。二つのフレーム画像の差分から移動した画素が抽出され、まぶたを判別できる。そこで、まぶたの画像面積が所定の設定値以下になり、かつ、前回の瞬きからの時間間隔があれば瞬きありと判定するようにした(図7のフロー図参照)。
【0040】
CCDカメラにより瞬きは一定の時間間隔でフレーム間の画素情報の変化としてとらえられている。この時間間隔を用いて点眼の滴下のタイミングを設定することができる。
一方、CCDカメラで横顔を撮影する場合でも、正面から測定するときと同様にして瞬きをとらえることができた(図8および図9参照)。
【0041】
実施例1に記載の液滴の送風による誘導手段と実施例2に記載の瞬きの検出手段、二つのxyzステージ、距離計および制御器から本発明係る自動点眼装置を構築して、点眼の動作を確認した。複数の点眼液容器を用いて順次、液滴を点眼するように構成してもよい(多種点眼液の自動点眼)。さらに、通信モジュールと制御器を電気的に接続して、点眼の実施回数などをデータ通信で行う構成としてもよい。
【符号の説明】
【0042】
1 点眼薬容器
2 アクチュエーター
3 フォトセンサ
4 液滴誘導の軌道
5 送風機
6 ステージ
7 風排出パイプ
8 CCDカメラ
9 点眼薬液滴
10 矩形枠または矩形領域(7mm×10mm)

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9