(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024117642
(43)【公開日】2024-08-29
(54)【発明の名称】AlN単結晶の製造方法およびAlN単結晶
(51)【国際特許分類】
C30B 29/38 20060101AFI20240822BHJP
C30B 19/04 20060101ALI20240822BHJP
【FI】
C30B29/38 C
C30B19/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023023851
(22)【出願日】2023-02-17
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和2年度-4年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、研究成果展開事業(研究成果最適展開支援プログラム)産学共同(育成型)、「新たな指導原理に基づく窒化アルミニウム単結晶の液相成長法の技術展開」、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(71)【出願人】
【識別番号】000224798
【氏名又は名称】DOWAホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100179903
【弁理士】
【氏名又は名称】福井 敏夫
(72)【発明者】
【氏名】福山 博之
(72)【発明者】
【氏名】大塚 誠
(72)【発明者】
【氏名】安達 正芳
(72)【発明者】
【氏名】朴 ▲民▼秀
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 康弘
【テーマコード(参考)】
4G077
【Fターム(参考)】
4G077AA02
4G077AB01
4G077AB02
4G077AB08
4G077BE13
4G077CC04
4G077ED02
4G077HA06
(57)【要約】
【課題】安価かつ高い成長速度でAlN単結晶を製造することができるAlN単結晶の製造方法およびAlN単結晶を提供する。
【解決手段】窒素含有ガス雰囲気下において、Alを含む合金の融液を、窒化ホウ素に接触させた状態で、前記融液中でAlN結晶が分解される温度範囲のうちの最低温度より高い温度に加熱する加熱工程と、前記加熱工程の後、前記融液の一部または全部を、前記合金の液相線温度以上かつ前記最低温度よりも低い温度まで低下させることにより、前記融液中でAlN結晶を析出させる析出工程と、を含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒素含有ガス雰囲気下において、Alを含む合金の融液を、窒化ホウ素に接触させた状態で、前記融液中でAlN結晶が分解される温度範囲のうちの最低温度より高い温度に加熱する加熱工程と、
前記加熱工程の後、前記融液の一部または全部を、前記合金の液相線温度以上かつ前記最低温度よりも低い温度まで低下させることにより、前記融液中でAlN結晶を析出させる析出工程と、を含むAlN単結晶の製造方法。
【請求項2】
下記式(A)で表される前記AlN単結晶の形成の反応が平衡しているときの前記融液中のAlの活量をa
eq.
Al、前記式(A)の平衡定数をK、ボルツマン定数をk、絶対温度をTとし、析出時の前記窒素含有ガスのN
2の分圧をpN
2とすると、
下記式(B)で表される前記AlN単結晶の成長の駆動力Δμの値が0となるときの温度(T
0)を前記最低温度とし、前記加熱工程の温度をT
0よりも高くし、前記析出工程の温度を前記合金の液相線の温度以上かつT
0よりも低くする、請求項1に記載のAlN単結晶の製造方法。
2Al(l)+N
2(g)→2AlN(s) (A)
【数1】
【請求項3】
前記加熱工程では、T0+30K以上の温度に加熱する、請求項2に記載のAlN単結晶の製造方法。
【請求項4】
前記析出工程では、前記融液の温度を前記合金の液相線温度以上かつ前記最低温度よりも低い温度まで低下させた状態で、前記融液中に、少なくとも表面にAlNを有する成長用の基板を浸漬させることにより、前記成長用の基板の表面に前記AlN結晶を析出させる、請求項1に記載のAlN単結晶の製造方法。
【請求項5】
前記析出工程の後、成長用の基板を前記融液から引き上げる回収工程を有し、
前記成長用の基板の表面に析出した前記AlN結晶の上に、繰り返しAlN結晶が析出して成長するよう、前記加熱工程と前記析出工程と前記回収工程とを複数回繰り返す、請求項1に記載のAlN単結晶の製造方法。
【請求項6】
前記成長用の基板が、C面サファイア単結晶上にC面AlN単結晶をエピタキシャル成長させたAlNテンプレート基板であり、前記C面AlN単結晶の(10-12)面のX線ロッキングカーブの半値幅が300arcsec以下である、請求項4に記載のAlN単結晶の製造方法。
【請求項7】
前記Alを含む合金がNi-Al合金である、請求項1に記載のAlN単結晶の製造方法。
【請求項8】
不純物としてFe、Ni、Cu、Co、Siのいずれか一種以上を1×1016/cm3以上含有し、ホウ素を1×1016~1×1021/cm3含有するAlN単結晶。
【請求項9】
不純物としてNiとホウ素とを共に1×1016~1×1021/cm3含有する、請求項8に記載のAlN単結晶。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、AlN単結晶の製造方法およびAlN単結晶に関する。
【背景技術】
【0002】
紫外発光素子は、殺菌光源や蛍光体と組み合わせた高輝度白色光源、高密度情報記録光源、樹脂硬化光源など、幅広い用途での使用が期待される次世代光源である。この紫外発光素子は、AlGaN系窒化物半導体から成っている。
【0003】
このAlGaN系窒化物半導体の基板材料の候補に、AlGaNとの格子整合性の高さから、SiC、GaN、およびAlN(窒化アルミニウム)が挙げられる。しかし、SiCやGaNは、それぞれ波長380nm、365nmよりエネルギーの高い光を吸収するため、取り出せる波長領域が制限されてしまう。一方、AlNは、AlGaNよりも広いバンドギャップを有し、SiCやGaNのような波長領域の制限がないため、基板材料として最も優れていると考えられる。しかし、AlNは、高温において高い解離圧を示すため、常圧下では融液状態にはならない。このため、シリコン単結晶のように、自身の融液からAlN単結晶を作製することは、極めて困難である。
【0004】
そこで、従来、AlN単結晶を作製するために、ハイドライド気相成長(HVPE)法や液相成長法、昇華法などの製造方法が試みられている。例えば、高圧下でIII族元素とアルカリ金属とを含む融液に基板を接触させることにより、III族窒化物結晶を成長させる方法や、III族金属元素の融液に、窒素原子を含有するアンモニアガスを注入して、III族元素の融液内でIII族窒化物微結晶を製造する方法が提案されている。しかし、これらのAlN単結晶の製造方法では、高圧や高温が必要となり、サイズ、品質およびコストに対して、実用化に耐えうる結晶を製造することは困難であった。
【0005】
この問題を解決するために、本発明者らは、低温、常圧下で、安価かつ良質なAlN単結晶を得る方法として、Alを含む合金の融液の表面に、窒素を含む気体を接触させることにより、融液の表面に結晶を成長させるAlN単結晶の液相成長法を開発し(特許文献1参照)、さらに、AlNるつぼを用いての液相成長法を見出した(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2019-194133号公報
【特許文献2】特開2022-37713号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載のAlN単結晶の液相成長法は、融液の表面を被覆するように結晶成長が進むため、AlN結晶が形成された液面からは窒素の供給が遮断される。特許文献2では、融液の温度を高くして窒素を取り込む工程と、融液の温度を低くすると共に種結晶を融液に浸漬してAlN単結晶の成長を行う工程を繰り返すことで、窒素供給の遮断は回避することができるようになったが、結晶の成長速度に改善の余地があった。
【0008】
本発明は、このような課題に着目してなされたもので、安価かつ高い成長速度でAlN単結晶を製造することができるAlN単結晶の製造方法およびAlN単結晶を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明に係るAlN単結晶の製造方法では、るつぼとして窒化ホウ素を用いる。すなわち、本発明の要旨構成は以下の通りである。
【0010】
(1)窒素含有ガス雰囲気下において、Alを含む合金の融液を、窒化ホウ素に接触させた状態で、前記融液中でAlN結晶が分解される温度範囲のうちの最低温度より高い温度に加熱する加熱工程と、前記加熱工程の後、前記融液の一部または全部を、前記合金の液相線温度以上かつ前記最低温度よりも低い温度まで低下させることにより、前記融液中でAlN結晶を析出させる析出工程と、を含むAlN単結晶の製造方法。
【0011】
(2)下記式(A)で表される前記AlN単結晶の形成の反応が平衡しているときの前記融液中のAlの活量をa
eq.
Al、前記式(A)の平衡定数をK、ボルツマン定数をk、絶対温度をTとし、析出時の前記窒素含有ガスのN
2の分圧をpN
2とすると、下記式(B)で表される前記AlN単結晶の成長の駆動力Δμの値が0となるときの温度(T
0)を前記最低温度とし、前記加熱工程の温度をT
0よりも高くし、前記析出工程の温度を前記合金の液相線の温度以上かつT
0よりも低くする、(1)に記載のAlN単結晶の製造方法。
2Al(l)+N
2(g)→2AlN(s) (A)
【数1】
【0012】
(3)前記加熱工程では、T0+30K以上の温度に加熱する、(2)に記載のAlN単結晶の製造方法。
【0013】
(4)前記析出工程では、前記融液の温度を前記合金の液相線温度以上かつ前記最低温度よりも低い温度まで低下させた状態で、前記融液中に、少なくとも表面にAlNを有する成長用の基板を浸漬させることにより、前記成長用の基板の表面に前記AlN結晶を析出させる、(1)~(3)のいずれかに記載のAlN単結晶の製造方法。
【0014】
(5)前記析出工程の後、成長用の基板を前記融液から引き上げる回収工程を有し、
前記成長用の基板の表面に析出した前記AlN結晶の上に、繰り返しAlN結晶が析出して成長するよう、前記加熱工程と前記析出工程と前記回収工程とを複数回繰り返す、(1)~(4)のいずれかに記載のAlN単結晶の製造方法。
【0015】
(6)前記成長用の基板が、C面サファイア単結晶上にC面AlN単結晶をエピタキシャル成長させたAlNテンプレート基板であり、前記C面AlN単結晶の(10-12)面のX線ロッキングカーブの半値幅が300arcsec以下である、(4)又は(5)に記載のAlN単結晶の製造方法。
【0016】
(7)前記Alを含む合金がNi-Al合金である、(1)~(6)のいずれかに記載のAlN単結晶の製造方法。
【0017】
(8)不純物としてFe、Ni、Cu、Co、Siのいずれか一種以上を1×1016/cm3以上含有し、ホウ素を1×1016~1×1021/cm3含有するAlN単結晶。
【0018】
(9)不純物としてNiとホウ素とを共に1×1016~1×1021/cm3含有する、(8)に記載のAlN単結晶。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、安価かつ高い成長速度でAlN単結晶を製造することができるAlN単結晶の製造方法およびAlN単結晶を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】
図1は、本発明の実施の形態のAlN単結晶の製造方法に係るAlN単結晶成長装置の概要を示す概略図である。
【
図2A】
図2Aは、本発明の実施の形態の、加熱工程の温度と析出工程の温度のフロー図の一例である。
【
図2B】
図2Bは、本発明の実施の形態の、加熱工程の温度と析出工程の温度のフロー図の一例である。
【
図2C】
図2Cは、本発明の実施の形態の、加熱工程の温度と析出工程の温度のフロー図の一例である。
【
図3】
図3は、Ni-Al合金の各組成でのAlN単結晶の成長の駆動力Δμと温度T(K)との関係を示すグラフである。
【
図4A】
図4Aは、本発明の実施例1におけるAlNテンプレート上のAlN単結晶の断面SEM像である。
【
図4B】
図4Bは、本発明の実施例1におけるAlNテンプレート上のAlN単結晶の鳥瞰SEM像(10°傾斜)である。
【
図5A】
図5Aは、本発明の比較例1におけるAlNテンプレート上のAlN単結晶の断面SEM像である。
【
図5B】
図5Bは、本発明の比較例1におけるAlNテンプレート上のAlN単結晶の鳥瞰SEM像(10°傾斜)である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施の形態について説明する。なお、本明細書において単に「窒素」と記載する場合はN2とNの両方を意味するものとする。
【0022】
(AlN単結晶の製造方法)
本実施形態に係るAlN単結晶の製造方法は、窒素含有ガス雰囲気下において、Alを含む合金の融液を、窒化ホウ素に接触させた状態で、前記融液中でAlN結晶が分解される温度範囲のうちの最低温度より高い温度に加熱する加熱工程と、前記加熱工程の後、前記融液の一部または全部を、前記合金の液相線温度以上かつ前記最低温度よりも低い温度まで低下させることにより、前記融液中でAlN結晶を析出させる析出工程と、を含む。
【0023】
ここで、融液中でAlN結晶が分解される温度範囲とは、融液中で固体のAlNが減量する温度範囲である。融液中で固体のAlNが減量する(分解する)温度範囲と、融液中で固体のAlNが増量する(析出する)温度範囲との境界となる温度が、上記の融液中でAlN結晶が分解される温度範囲のうちの最低温度であり、融液中でAlNが析出する温度範囲のうちの最高温度とも言い換えることができる。
【0024】
なお「窒素含有ガス」とは、融液181への窒素の供給源とすることができるガスである。「窒素含有ガス」は前記合金の融液を酸化しないガスであることが好ましく、窒素ガス(N2ガス)を主に含むことが好ましい。窒素原子を含むガス(例えば、アンモニアガス等)をさらに含んでもよい。窒素含有ガスは、80%より多くの窒素(N2)を含むことが好ましく、産業用に使用されている高純度の窒素ガスを使用することが好ましい。
【0025】
各工程の詳細を説明するに先立ち、
図1に概略的に図示した本発明方法に適用可能なAlN単結晶成長装置100を説明する。このAlN単結晶成長装置100のるつぼ170は、窒素含有ガス雰囲気下に設置されている。るつぼ170内にはAlを含む合金を補充することができ、この合金を加熱すると融液181が得られる。ホルダー195は上下方向に動作し、成長用の基板190を保持したホルダー195を融液181に含浸したり、融液181から取り出したりすることができる。
【0026】
<加熱工程>
加熱工程では、窒素含有ガス雰囲気下において、Alを含む合金の融液を、窒化ホウ素に接触させた状態で、融液中でAlN結晶が分解される温度範囲のうちの最低温度より高い温度に加熱する。
【0027】
融液181となるAlを含む合金の組成は特に限定されないが、AlとAlよりも窒化物を形成しにくい金属元素とを主成分としていることが好ましく、その合金の液相線温度は熱力学的にAlNが分解する温度よりも低いことが好ましい。Al以外の合金成分は、主成分としてFe、Ni、Cu、Co、Siのうちの少なくとも一種の元素を含むことが好ましく、Fe、Ni、Cu、Coのうちの少なくとも一種の元素を含むことがより好ましい。これらの合金の融液181を用いることで、効率よくAlN単結晶を製造することができ、中でもNi-Al合金を用いることが最も好ましい。それらの合金の中でも、後述するAlN単結晶の成長の駆動力Δμの値がゼロをなるときの温度(T0)が、1700K以上2100K以下である合金組成とすることが好ましく、1750K以上2000K以下の間にある合金組成とすることがより好ましい。Ni-Al合金ではAl組成を15mol%以上35mol%以下とすることが好ましい。
【0028】
融液181と接触させる窒化ホウ素は、焼結体であっても、結晶化(パイオリテック)窒化ホウ素であっても良い。融液181を窒化ホウ素に接触させた状態で加熱するためには、融液181を収納するるつぼ170は、材質が窒化ホウ素であるか、少なくともるつぼ表面の材料が窒化ホウ素であることが好ましい。窒化ホウ素はAlNよりも熱力学的に不安定な材質であるため、AlNをるつぼ170の材質に用いた場合に比べて、窒化ホウ素の解離によって融液181へ、より多くの窒素を供給することができる。
【0029】
本発明において窒素を含むガス雰囲気下で加熱工程を行うことにより、合金の融液の表面180を介して窒素を融液181中に溶解させることができる。窒素を融液181中に溶解させるための温度は、窒素ガス雰囲気の任意の窒素分圧下で、AlN単結晶の成長の駆動力Δμの値がゼロをなるときの温度(T0)よりも高温とすることが好ましく、T0+30K以上の温度に加熱することがより好ましい。本発明では、窒素を含むガスから融液181へ窒素が溶解すると共に、融液181と接している窒化ホウ素からの融液181への窒素の溶解(および、融液181へのホウ素の溶解)も行われるため、融液181に入る窒素の量を多くすることができ、後述の析出工程での結晶成長を促進することができる。
【0030】
このような温度ではAlN結晶は融液中に分解するため、加熱工程ではホルダー195を上昇させて融液181内には成長用の基板190を浸漬させないようにすることが好ましい。
【0031】
<析出工程>
析出工程では、上記の加熱工程の後に、融液181の一部または全部を合金の液相線温度以上(すなわち、合金が固化しない温度範囲)かつ融液中でAlN結晶が分解される温度範囲のうちの最低温度よりも低い温度まで低下させることにより、融液中でAlN単結晶を析出させる。この工程も窒素を含むガス雰囲気中で行うことが好ましい。そして、この析出工程を行う温度は、窒素ガス雰囲気の任意の窒素分圧下で、AlN単結晶の成長の駆動力Δμの値がゼロをなるときの温度(T0)よりも低温にすることが好ましく、AlN結晶が融液中で分解しない温度となってから、成長用の基板190を保持したホルダー195を下降させて融液181内に浸漬させ、基板190上への析出を開始することが好ましい。他の実施形態として、ホルダー195が冷却機能を有していて高温の融液181に浸漬しても成長用の基板190の周囲を温度(T0)よりも低温にすることが可能である場合には、加熱工程を経て、成長用の基板190を浸漬して融液181の一部(成長用の基板の周囲)のみをT0よりも低い温度にすることで析出工程へ移行することも可能である。
【0032】
融液181の全部を冷却する場合、窒化ホウ素から供給される窒素を考慮しない場合、加熱工程時に蓄えられた融液181中の窒素は結晶成長に伴い減少する。一方、本発明では、以下の反応式で示される反応によって、窒化ホウ素がAlNの析出で消費されるNを補填するため、AlNの結晶成長速度を高めることができる。
BN+Al→AlN+B
そして、生じるホウ素(B)が結晶成長するAlN中に一部取り込まれる。
【0033】
また、融液181の一部として基板190周りを温度(T0)より低い温度まで冷却し、融液の表面180の一部において温度(T0)より高い温度を維持した場合には、高温部での窒素ガスからの融液181への窒素の溶解も維持されるため、析出工程における上記の加熱工程時に蓄えられた融液中の窒素の減少量を低減することも可能である。
【0034】
<成長用の基板>
成長用の基板190は、表面にAlN単結晶を成長させることができる基板であり、基板表面にAlN単結晶を有することが、結晶成長させるAlN単結晶の結晶性向上の面で好ましい。特に、サファイア基板上にAlN単結晶をエピタキシャル成長させたAlNテンプレート基板を用いることが好ましい。成長用の基板190は、結晶成長用の基板に代えてAlN単結晶そのもの(単結晶のAlN種結晶)を用いてもよい。
図1では基板の態様を図示した。
【0035】
AlNテンプレート基板は、C面サファイア単結晶上にC面AlN単結晶をエピタキシャル成長させたAlNテンプレート基板を用いることが好ましく、C面AlN単結晶の(10-12)面のX線ロッキングカーブの半値幅が300arcsec以下であることが好ましい。さらに、C面サファイア単結晶上のC面AlN単結晶の膜厚は0.3μm以上1.2μm以下であることがより好ましく、C面AlN単結晶の(0002)面のX線ロッキングカーブの半値幅が150arcsec以下であることがより好ましい。
【0036】
C面サファイア単結晶上に成長させたC面AlN単結晶の(10-12)面のX線ロッキングカーブの半値幅が300arcsec以下であるAlNテンプレート基板を用いることにより、本発明の製造方法で作製するAlN単結晶の結晶品質を向上させることができる。また、AlNテンプレート基板を融液に浸漬させてAlNを液相成長させる際にAlNテンプレート基板の表面のAlN単結晶がエッチングにより分解及び消失することを抑制することができる。融液181に接触するAlNが多結晶である場合や、単結晶であっても、(10-12)面のX線ロッキングカーブの半値幅が300arcsecより大きい場合では分解しやすく、融液181に浸漬する際にそのAlN結晶が無くなってしまう場合がある。単結晶のAlN種結晶を用いる場合でも、同じ理由によりAlN単結晶の(10-12)面のX線ロッキングカーブの半値幅が300arcsec以下の品質であることが好ましい。
【0037】
AlNテンプレート基板に用いるサファイア基板は、C面が0.05°以上0.55°以下のオフ角で傾斜した面であることが好ましい。サファイアの代わりC面SiC単結晶を用いることもできる。
【0038】
C面サファイア単結晶上にC面AlN単結晶をエピタキシャル成長させ、AlN単結晶の(10-12)面のX線ロッキングカーブの半値幅が300arcsec以下である、AlNテンプレート基板の製法としては、MOCVD法で成長したAlNテンプレート基板を、窒素雰囲気中で、1823K以上(例えば1873K)でアニールすることによる低転位化処理を施すことで得ることができる。
【0039】
なお、C面サファイア単結晶上のAlNの成長方法としては、原料ガスとして、トリメチルアルミニウム(TMA)とアンモニアを用いるMOCVD法とすることが好ましいが、HVPEやスパッタを用いることも可能である。
【0040】
これまで説明してきた加熱工程及び析出工程を含む一連のフロー図の一例を
図2A~
図2Cに示す。
図2Aのフローでは析出工程において一定温度で析出させる。
図2Bに示すフローでは、加熱工程及び析出工程を繰り返す。
図2Cに示す析出工程のフローでは、第一の温度から第二の温度へ温度変化をさせる。いずれのフローを用いてもよい。結晶成長に伴い低下する融液181内のAl量の補充を行うために、AlN焼結片やAlN多結晶などのAlを含む材料の添加を別途行っても良い。
【0041】
<回収工程>
上記の析出工程の後、AlNを析出させた後の成長用の基板を融液から引き上げる工程を回収工程とする。
図2Bや
図2Cに示すフローのように、回収工程の後に再び加熱工程を行い、加熱工程と析出工程と回収工程からなる一連の工程を複数回繰り返すことも好ましい。工程を終了するときは、成長用の基板を融液から引き上げた状態で、室温まで冷却することが好ましい。
【0042】
<AlN単結晶の成長の駆動力Δμ>
ここで、AlN単結晶の成長の駆動力Δμについて説明し、本実施形態のより好ましい態様を説明する。本発明に係るAlN単結晶の製造方法では、融液181中のAlと融液181中に供給された窒素とが反応してAlN単結晶が形成される。窒素供給源の窒素含有ガスがN2ガスを含む場合、このときの反応式は下記(1)式で示される。
2Al(l)+N2(g)→2AlN(s) (1)
【0043】
このとき、上記(1)式の反応が平衡しているときのAlNの活量をa
eq.
AlN、融液181中のAlの活量をa
eq.
Al、N
2の分圧をP
eq.
N2とすると、上記(1)式の平衡定数Kは、下記(2)式で表される。
【数2】
【0044】
ここで、AlNはほぼ純粋な固体であるため、AlNの活量a
eq.
AlNは1となる。また、AlN単結晶の成長の駆動力Δμは、雰囲気中のN
2の分圧をPN
2とすると、雰囲気中のN
2の化学ポテンシャルと、上記(1)式が平衡しているときのN
2の化学ポテンシャルとの差により与えられ、下記(3)式で表される。さらに上記(2)式の平衡関係を用いれば、最終的にAlN単結晶の成長の駆動力Δμは下記(4)式で表すことができる。(3)、(4)式中のkはボルツマン定数、Tは絶対温度を表す。
【数3】
【0045】
上記(4)式より、融液181中でのAlN単結晶の成長の駆動力Δμは、雰囲気中のN2分圧PN2、平衡定数K、ボルツマン定数k、絶対温度Tおよび融液181中のAlの活量aeq.
Alで表されることがわかる。
このことから、雰囲気中のN2分圧、温度、および融液181の合金組成により、融液181中でのAlN単結晶の成長の駆動力Δμを制御することができる。AlN単結晶の成長の駆動力Δμの値がゼロをなるときの温度をT0とする。この場合、前述するAlN結晶が分解される温度範囲のうちの最低温度は、上記T0と同じであるとすることができる。
【0046】
例として、融液181がAlとNiとを主成分として含むNi-Al合金から得られている場合を説明する。ここで、融液181中のAlの活量a
eq.
Alは、温度1873KにおけるNi-Al中のAlの活量の組成依存性が、Desai PD. Thermodynamic properties of selected binary aluminum alloy systems. J Phys Chem Ref data. 1987;16:109-24.で報告されており、その組成依存性のデータを用いることができる。また、Ni-Alが正則溶体であるとして、1873K以外の温度におけるNi-Al中のAlの活量を求めることができる。雰囲気中のN
2の分圧PN
2を1barとしたとき、上記(4)式から、Ni-Al合金の各組成におけるAlN単結晶の成長の駆動力Δμと温度(T)との関係を求めることができる。そのようにして求めた各合金組成における関係を、
図3に示す。なお、
図3に示す各合金組成に対応する線での低温側の端点は、その合金組成における液相線の温度を示している。液相線の温度は、Adachi M, Sato A, Hamaya S, Ohtsuka M, Fukuyama H. Containerless measurements of the liquid-state density of Ni-Al alloys for use as turvine blade materials. SN Appl Sci. 2019;1:18-1-7.のデータを用いることができる。
【0047】
各合金組成において、AlN単結晶の成長の駆動力Δμ=0となる温度が、(1)式の反応が平衡する温度であり、Δμ>0のときAlNが析出し、Δμ<0のときAlNが分解する。
図3から分かるように、各合金組成において、融液181の温度を制御することによってAlN単結晶の成長の駆動力Δμの値を調整することができ、AlNを析出させるか(Δμ>0)、AlNを分解させるか(Δμ<0)を制御することができる。例えば、融液181がNi-20mol%Alの合金組成のとき、T
0の値は1832Kである。この場合、1832Kより高い温度ではΔμが負となるため、AlNは融液181中に分解する一方、1832Kより低い温度ではΔμが正となるため、AlNが析出する。窒素供給源の窒素含有ガスがN
2ガスを含む場合、融液181をΔμ=0となる温度よりも高い温度で保持しながら窒素含有ガスを融液に接触させることで、融液181とガスとの接触面にAlN単結晶を析出することなく窒素が合金の融液181に溶解する。別の例では、合金の融液181の組成がNi-30mol%Alの合金組成のとき、T
0の値は1998Kである。融液181となる合金の組成は、T
0の値が1700以上2000K以下となるような組成を選択することが好ましい。
【0048】
なお、析出工程においてAlN単結晶を成長させていくと、融液181中のAlが消費されるため融液181の合金組成は変化しうる。例えば、Ni-Al合金においてAl割合が減少すると、当該組成における温度T0は小さくなるため、低温においてはΔμの絶対値が減るため、よりAlNが析出し難くなり、高温ではΔμの絶対値が増えるため、気相から液相への窒素の供給が多くなる。そこで、融液181の温度を融液181の組成変化に追従させるように、析出工程の途中で融液181の温度を調整することも好ましい。他にも、AlN単結晶を連続的に成長させていくときの融液内の窒素の消費と、融液への窒素の供給とのバランスを補うように、析出工程の途中で気相部分のN2分圧が大きくなるように調整してもよい。
【0049】
次に、本発明の実施形態に係るAlN単結晶の製造方法に適用可能な、AlN単結晶成長装置の一例について、さらに詳細を説明する。以下では、符号の下二桁が既述の構成と重複する場合、説明簡略化のため重複する説明を省略する。AlN単結晶成長装置の構成は以下で説明する構成は例示に過ぎず、限定されるものではない。
【0050】
<AlN単結晶成長装置>
図1に本発明の実施形態に係るAlN単結晶成長装置の一例を示す。AlN単結晶成長装置100は、反応容器110と高周波コイル120とサセプター130と断熱材140とガス給気管150とガス排気管155とを備える。サセプター130は、内側にるつぼ170を収納し、収納したるつぼ170の側面を覆うよう、反応容器110の内部に設けられている。高周波コイル120に通電することで、サセプター130が加熱され、るつぼ170を加熱することができる。るつぼ170は、上記の通り、融液181に窒化ホウ素が接しているものとする。断熱材140は、サセプター130およびるつぼ170の周囲を覆うよう、反応容器110の内部に設けられている。ガス給気管150は、反応容器110の内部に雰囲気ガスを供給可能に設けられ、ガス排気管155は、反応容器110の内部の雰囲気ガスを排出可能に設けられている。
【0051】
AlN単結晶成長装置100には、反応容器110の上部からるつぼ170の内部まで伸びる成長用の基板190のホルダー195が設けられている。ホルダー195の下端部に取り付けた成長用の基板190を昇降させることで、融液181に成長用の基板190を浸漬でき、融液181から成長用の基板190を引き上げることができる。
【0052】
図1は融液181の全部を冷却する場合であるが、融液181の一部を冷却する場合には、ホルダー195が冷却機構を備えていることが好ましく、ホルダー195を二重管構造とすることも好ましい。それにより融液181の一部として、成長用の基板190の周囲の融液温度を冷却することができる。
【0053】
<AlN単結晶>
本発明により得られるAlN単結晶(融液181で結晶成長されたAlN単結晶)は、不純物としてFe、Ni、Cu、Co、Siのいずれか一種以上を1×1016/cm3以上含有し、1×1017/cm3以上含有することが好ましく、さらに、ホウ素を1×1016~1×1021/cm3含有する。これらの不純物は、上記の融液(Al以外の合金成分は、主成分としてFe、Ni、Cu、Co、Siのうちの少なくとも一種の元素を含む)におけるAl以外の成分であり、融液に接する窒化ホウ素に含まれるホウ素である。ここで、AlN単結晶に含まれる不純物の濃度とは、SIMS分析プロファイルでのAlN単結晶の厚さ中央部における厚さ半分の範囲の平均値であるものとする。特に、AlN単結晶には、不純物としてNiとホウ素とを、共に1×1016~1×1021/cm3含有することが好ましく、Niは1×1017/cm3以上含有することがより好ましい。また、上記のAlN単結晶は、単結晶のAlN種結晶又は結晶成長用の基板の上に形成されたAlN単結晶であることが好ましい。
【0054】
本発明により得られるAlN単結晶(融液181で結晶成長されたAlN単結晶)に含まれる炭素は5×1016cm-3以下であることが好ましい。
【実施例0055】
以下、実施例を用いて、本発明によるAlN単結晶の製造方法について詳細に説明する。
【0056】
(実施例1)
まず、AlNテンプレート基板を作製した。AlNテンプレート基板表面のAlN単結晶は、直径2インチ、厚み430μmのC面サファイア基板上(M面方向のオフ角0.11°)に、原料ガスとしてトリメチルアルミニウム(TMA)とアンモニアを用いるMOCVD法で形成した。このとき、成長温度は1613K、成長圧力は13.3mbarであり、C面サファイア基板上には、C面AlN単結晶が0.5μm成長した。さらに、前記MOCVD法でAlN単結晶成長させた後、窒素雰囲気中で1873K、4時間アニールすることにより低転位化処理を施した。作製された当該AlNテンプレート基板表面のAlN単結晶の(10-12)面のX線ロッキングカーブの半値幅を測定したところ、265arcsecであった。同様に測定したAlN単結晶の(0002)面のX線ロッキングカーブの半値幅は49arcsecであった。
【0057】
そして、
図1を参照して上述したAlN単結晶成長装置と同様の構造の装置において、
図2Aのフロー図で示す一連の工程を実施した。まず、BN(窒化ホウ素)焼結体製のるつぼにNi-20mol%Al合金を入れ、反応容器の内部を真空排気した後、ガス供給管からN
2ガスを供給することで反応容器内をN
2で置換し、反応容器を1barのN
2ガス雰囲気とし、実験中はN
2ガスをチャンバーへ供給し続けて内圧を1barに維持した。結晶成長用の基板として、上記の0.5μmの膜厚のAlN単結晶を有するAlNテンプレート基板を用い、ホルダーの側面に配置した。次に、AlNテンプレート基板を保持したホルダーを融液と接触しないように保持した状態で、高周波コイルに通電してサセプターを加熱することで、るつぼと合金の融液の温度が1882Kとなるまで合金の融液を加熱した。その後、融液の温度(1882K)を1時間保持して、融液中に窒素を十分に溶解させた。Ni-20mol%Al合金のT
0の値は1832Kであるため、融液の温度はT
0+50Kである(加熱工程)。
【0058】
サセプターの加熱温度を下げて融液の温度を低下させ、T0の値である1832Kを下回った直後にホルダーを下降して上記のAlNテンプレート基板を合金の融液に浸漬させた。そして、融液の温度を1720Kに設定して7時間保持し、AlNテンプレート基板上にAlNを析出させた(析出工程)。Ni-20mol%Al合金の液相線温度は1669Kであり、析出工程の温度は当該液相線の温度よりも高い。その後、ホルダーを上昇し、AlNを析出させたAlNテンプレート基板を融液から引き上げ(回収工程)、そのまま室温まで冷却した。
【0059】
AlNが析出した後のAlNテンプレート基板の断面SEM像を
図4Aに示す。
図4Aより、サファイア上に予め存在した0.5μmのAlN層の上に、厚さ1.7μmの層が形成され、合計厚みが2.2μmとなる板状の結晶部があることが確認された。また、実施例1のAlNが析出した後のAlNテンプレート基板の鳥瞰SEM像(10°傾斜)を
図4Bに示す。析出した結晶のSEM-EDXプロファイルよりその層がAlN結晶であることが確認された。また、成長したAlN結晶に対し、ND、TD、RDの各方向での電子線後方散乱回折(EBSD)による逆極点図結晶方位マップ(図示せず)を確認した結果から、成長したAlN結晶は単結晶であることを確認した。
【0060】
実施例のAlNテンプレート基板上のAlN単結晶について、SIMS分析を行った。SIMS分析結果におけるAlの二次イオン強度と酸素の挙動から、Ni-20mol%Al合金中で結晶成長した(液相成長したともいう)AlN単結晶の厚さ範囲と、成長用の基板であるAlNテンプレートのAlN層の厚さ範囲を決定した。なお、AlN標準試料を用いて定量を行った。
【0061】
SIMS分析について、Niの分析は、SIMS測定装置(CAMECA IMS-7f)を用いて、一次イオン種をO2+、一次加速電圧を8.0kVとし、検出領域を直径30μmとして分析を行った。C、O、Bの分析は、SIMS測定装置(CAMECA IMS-6f)を用いて、一次イオン種をCs+、一次加速電圧を15.0kVとし、検出領域を直径30μmとして分析を行った。
【0062】
SIMS分析の結果、実施例1のNi-20mol%Al合金中で結晶成長したAlN単結晶には、不純物として合金融液に含まれるNiが、厚さ中央部における厚さ半分の範囲の平均で1.5×1017cm-3含まれていることが確認された。また、AlNテンプレートのAlN層にもNiの拡散がみられ、2~3×1016cm-3程度含まれることが分かった。そして、るつぼに含まれるBが、厚さ中央部における厚さ半分の範囲の平均で5×1016cm-3含まれていることが確認された。AlNテンプレートのAlN層へのBの拡散は少なかった。Niは、AlN単結晶内でのP型伝導の作用も期待できる。
【0063】
Ni-20mol%Al合金中で結晶成長したAlN単結晶は、厚さ中央部における厚さ半分の範囲の平均で炭素濃度が4.5×1016cm-3であった。この量は、MOCVD法で製造されたAlNテンプレート基板のAlN領域(炭素濃度は6×1016cm-3以上)や、一般に昇華法で製造されたものよりも低い値であった。
【0064】
以上から、本発明の製造方法で作製されたAlN単結晶には、Alを含む合金を成すAl以外の成分とBNるつぼ起因のホウ素が、不純物として含まれることが分かった。また、結晶の透過率を低下させることが知られている炭素濃度を低くすることが可能であった。
【0065】
(比較例)
るつぼを、BN焼結体からAlN焼結体に変更した以外は、実施例と同様の条件でAlNテンプレート基板上にAlNを析出させた。
【0066】
AlNが析出した後のAlNテンプレート基板の断面SEM像を
図5Aに示す。
図5Aより、サファイア上に予め存在した0.5μmのAlN層の上に、厚さ0.2μmの結晶部が形成され、合計厚みが0.7μmとなる島状の結晶部があることが確認された。また、比較例のAlNが析出した後のAlNテンプレート基板の鳥瞰SEM像(10°傾斜)を
図5Bに示す。
【0067】
以上のようにして、本発明の実施の形態のAlN単結晶の製造方法は、るつぼをBN製とすることで結晶成長速度が増加し、厚さが増すことが分かった。また、島状ではなく層状の結晶が得られやすいことが分かった。
【0068】
(実施例2)
図2Cのフロー図で示す、加熱工程と析出工程と回収工程からなる一連の工程を複数回繰り返し実施した以外は、実施例1と同様の条件でAlNテンプレート基板上にAlNを析出させた。まず、るつぼと合金の融液の温度が1882Kとなるまで合金の融液を加熱して1時間保持した後、サセプターの加熱温度を下げて融液の温度を低下させ、T
0の値である1832Kを下回った後にホルダーを下降して上記のAlNテンプレート基板を合金の融液に浸漬させた。そして、融液の温度を1750Kまで下げた後、1690Kまで3時間かけて徐冷し、AlNテンプレート基板上にAlNを析出させた(析出工程)。その後、ホルダーを上昇させ、AlNを析出させたAlNテンプレート基板を融液から引き上げ(回収工程)、引き続き再度るつぼの中の融液の温度を1882Kまで加熱し(加熱工程2回目)、その後析出工程、回収工程からなる一連の工程を計3回繰り返し実施した。
【0069】
AlNが析出した後のAlNテンプレート基板の断面SEM像より、サファイア上に計5μm程度のAlN単結晶があることが確認された。このように複数回繰り返すことによる厚膜化が可能であった。
【0070】
実施例1及び実施例2の結果より、るつぼにBN焼結体を用いることで、AlNテンプレート基板上に効率よくAlN単結晶が成長することが確認された。また、実施例2の結果から、加熱、析出、回収工程を繰り返して実施することによってもAlN単結晶の成長量を増大できることがわかった。