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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024117644
(43)【公開日】2024-08-29
(54)【発明の名称】鉄殿物の生成方法
(51)【国際特許分類】
   C01G 49/00 20060101AFI20240822BHJP
   C02F 1/62 20230101ALI20240822BHJP
   C02F 3/34 20230101ALI20240822BHJP
【FI】
C01G49/00 K
C02F1/62 Z
C02F3/34 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023023854
(22)【出願日】2023-02-17
(71)【出願人】
【識別番号】000224798
【氏名又は名称】DOWAホールディングス株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504147243
【氏名又は名称】国立大学法人 岡山大学
(71)【出願人】
【識別番号】511052026
【氏名又は名称】卯根倉鉱業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100179903
【弁理士】
【氏名又は名称】福井 敏夫
(72)【発明者】
【氏名】金尾 忠芳
(72)【発明者】
【氏名】上村 一雄
(72)【発明者】
【氏名】稲谷 博征
(72)【発明者】
【氏名】赤堀 文雄
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 王高
(72)【発明者】
【氏名】公文 翔一
(72)【発明者】
【氏名】加藤 彰悟
【テーマコード(参考)】
4D038
4D040
4G002
【Fターム(参考)】
4D038AA08
4D038AB70
4D038AB82
4D038BB13
4D038BB19
4D040DD05
4D040DD20
4G002AA13
4G002AB02
4G002AC02
4G002AE05
(57)【要約】
【課題】2価鉄含有水中の2価鉄を3価鉄に酸化して鉄殿物を効率よく生成することができる鉄殿物の生成方法を提供する。
【解決手段】本発明による鉄殿物の生成方法は、2価の鉄イオンと砒素とを含み、pHが2.50以上3.00以下である鉄塩水溶液に3価の鉄イオン源を添加しつつ、前記鉄塩水溶液のpHを3.60以上3.90以下に調整することにより沈殿物を形成し、前記鉄塩水溶液から前記沈殿物を分離することにより、前記鉄塩水溶液由来の砒素を除去して分離溶液を得る砒素除去工程と、前記分離溶液を鉄酸化細菌含有槽に注入して、前記分離溶液中の鉄イオンを酸化して鉄殿物を得る酸化工程と、を含む鉄殿物の生成方法であって、前記酸化工程では、pH調整剤を前記鉄酸化細菌含有槽に添加し前記鉄酸化細菌含有槽内のpHを3.00以上4.50以下に調整する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
2価の鉄イオンと砒素とを含み、pHが2.50以上3.00以下である鉄塩水溶液に3価の鉄イオン源を添加しつつ、前記鉄塩水溶液のpHを3.60以上3.90以下に調整することにより沈殿物を形成し、前記鉄塩水溶液から前記沈殿物を分離することにより、前記鉄塩水溶液由来の砒素を除去して分離溶液を得る砒素除去工程と、
前記分離溶液を鉄酸化細菌含有槽に注入して、前記分離溶液中の鉄イオンを酸化して鉄殿物を得る酸化工程と、を含む鉄殿物の生成方法であって、
前記酸化工程では、pH調整剤を前記鉄酸化細菌含有槽に添加し前記鉄酸化細菌含有槽内のpHを3.00以上4.50以下に調整する、鉄殿物の生成方法。
【請求項2】
前記酸化工程では前記鉄酸化細菌含有槽内のpHを3.25以上4.25以下に調整する、請求項1に記載の鉄澱物の生成方法。
【請求項3】
前記3価の鉄イオン源は、前記酸化工程で形成された鉄殿物、またはポリ硫酸第二鉄と前記酸化工程で形成された鉄殿物との混合物である、請求項1に記載の鉄澱物の生成方法。
【請求項4】
前記pH調整剤は水酸化ナトリウムである、請求項1に記載の鉄澱物の生成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄殿物の生成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
2価鉄を含有する酸性廃液として金属鉱山から発生する鉱山廃水がある。金属鉱山では、主として硫化鉱物を採掘するため、採掘後には黄鉄鉱、黄銅鉱、閃亜鉛鉱等の鉱物が残り、これらが地下水及び空気中の酸素と反応して酸性で2価鉄、更には重金属として砒素を含んだ鉱山廃水が発生する。
【0003】
この鉱山廃水は2価鉄が平均で1000mg/L~1200mg/Lと多量に含まれている上に、pHが2~3程度と低いため、そのまま公共用水域に放流することはできない。このような鉱山廃水を公共用水域に放流するには、含有されている砒素と併せて2価鉄を分離除去する必要がある。
【0004】
2価鉄の除去法としては、2価鉄を3価鉄に酸化し、水酸化第二鉄として沈澱除去する方法がある。例えば、特許文献1及び特許文献2には、鉄酸化細菌によって2価鉄を3価鉄に酸化する鉄酸化工程を含む酸性抗廃水の処理方法が提案されている。また、鉄酸化細菌を含む処理槽に空気を吹き込むこと(曝気処理)についても記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005-058955号公報
【特許文献2】特開2013-107027号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1及び特許文献2に記載された発明における鉄酸化方法では、未だ回収率が低く、更なる改良の余地があるものと考えられた。そこで、本発明では、2価鉄を3価鉄に酸化して鉄殿物を効率よく生成することができる鉄殿物の生成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の鉄殿物の生成方法の要旨構成は以下のとおりである。
【0008】
(1)2価の鉄イオンと砒素とを含み、pHが2.50以上3.00以下である鉄塩水溶液に3価の鉄イオン源を添加しつつ、前記鉄塩水溶液のpHを3.60以上3.90以下に調整することにより沈殿物を形成し、前記鉄塩水溶液から前記沈殿物を分離することにより、前記鉄塩水溶液由来の砒素を除去して分離溶液を得る砒素除去工程と、
前記分離溶液を鉄酸化細菌含有槽に注入して、前記分離溶液中の鉄イオンを酸化して鉄殿物を得る酸化工程と、を含む鉄殿物の生成方法であって、
前記酸化工程では、pH調整剤を前記鉄酸化細菌含有槽に添加し前記鉄酸化細菌含有槽内のpHを3.00以上4.50以下に調整する、鉄殿物の生成方法。
【0009】
(2)前記酸化工程では前記鉄酸化細菌含有槽内のpHを3.25以上4.25以下に調整する、前記(1)に記載の鉄澱物の生成方法。
【0010】
(3)前記3価の鉄イオン源は、前記酸化工程で形成された鉄殿物、またはポリ硫酸第二鉄と前記酸化工程で形成された鉄殿物との混合物である、前記(1)又は(2)に記載の鉄澱物の生成方法。
【0011】
(4)前記pH調整剤は水酸化ナトリウムである、前記(1)~(3)のいずれか一項に記載の鉄澱物の生成方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、2価鉄を3価鉄に酸化して鉄殿物を効率よく生成することができる鉄殿物の生成方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本実施形態に係る鉄殿物の生成方法の工程図である。
図2】本実施形態に係る鉄殿物を生成する設備の一例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照しつつ、本実施形態に係る鉄殿物の生成方法について説明する。なお、以下に示す実施形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。
【0015】
(鉄殿物の生成方法)
図1は、本発明の鉄殿物の生成方法の一例を示す工程図である。本発明の鉄殿物の生成方法は、鉄塩水溶液由来の砒素を除去して分離溶液を得る砒素除去工程と、砒素除去工程で得られた分離溶液を鉄酸化細菌含有槽に注入して、分離溶液中の鉄イオンを酸化して鉄殿物を得る酸化工程と、を含む。またこのとき、酸化工程ではpH調整剤を鉄酸化細菌含有槽に添加し鉄酸化細菌含有槽内のpHを3.00以上4.50以下に調整する。以下、各工程の詳細を順次説明する。
【0016】
<砒素除去工程>
砒素除去工程では、2価の鉄イオン(以下、単に「2価鉄」ともいう)と砒素とを含み、pHが2.50以上3.00以下である鉄塩水溶液に3価の鉄イオン源を添加しつつ、鉄塩水溶液のpHを3.60以上3.90以下に調整することにより沈殿物を形成し、鉄塩水溶液から前記沈殿物を分離する。また、3価の鉄イオン源は、細菌酸化殿物又はポリ硫酸第二鉄と細菌酸化殿物との混合物を用いてもよく、ここでいう細菌酸化殿物は後述する酸化工程で形成される鉄殿物を用いてもよい。
【0017】
砒素除去工程において、3価の鉄イオン源を添加した後の鉄塩水溶液のpHを3.60以上3.90以下に調整することで、鉱山廃水中の砒素を効率よく除去することができる。
【0018】
<<鉄塩水溶液>>
鉄塩水溶液としては、2価の鉄イオンと砒素とを含み、pHが2.50以上3.00以下であれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、(1)金属鉱山から発生する鉱山廃水、(2)鋼板表面のスケール、汚れ、酸化膜、錆等を除去するため硫酸又は塩酸による鋼板の洗浄後の排水、(3)亜鉛めっき、錫めっき等により表面処理鋼板を製造する際の洗浄排水などが挙げられる。
【0019】
鉄塩水溶液中の2価鉄の濃度は、鉄塩水溶液の種類などによって異なり一概には規定できないが、500mg/L以上2000mg/L以下とすることが好ましい。
鉄塩水溶液には、2価鉄及び砒素以外に重金属を含んでいてもよい。ここでいう重金属としては、例えば、銅、鉛、鉄、亜鉛、マンガン、カドミウム、アンチモン、ウラニウムなどが挙げられる。
【0020】
-鉱山廃水-
鉄塩水溶液の原料の一例は鉱山廃水である。2価の鉄イオンと砒素とを含み、pHが2.50以上3.00以下の鉱山廃水であれば特に制限はなく、目的に応じて鉱山廃水を適宜選択することができる。
【0021】
また、鉱山廃水の種類に特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、工業由来の鉱山廃水、鉱業由来の鉱山廃水、農業由来の鉱山廃水などの各種産業において発生する鉱山廃水などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、鉱業由来の鉱山廃水は、鉄、砒素濃度を調整することがないまま、排出されるため、その処理が困難であるが、本発明の処理において処理可能となる。
【0022】
鉱業由来の鉱山廃水を用いる場合も特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、硫化鉄鉱床の鉱山跡地からの廃水(廃鉱山由来の鉱山廃水)などが挙げられる。
【0023】
また、鉱山廃水中に含まれる砒素としては、例えば、3価の砒素(亜ヒ酸)イオン、5価の砒素(ヒ酸)イオンなどが挙げられ、これらは、混在していても構わない。
【0024】
鉱山廃水中に含まれる砒素の含有量としては、0.3質量ppm以下が好ましく、0.15質量ppm以下がより好ましい。なお、鉱山廃水中に含まれる砒素の含有量が、1質量ppmを超える場合は、鉄イオン濃度が10質量%以上である中和沈殿物の坑内還元法を用いて前処理することによりある程度の砒素を(好ましくは砒素の含有量が1質量ppm以下になるまで)除去しておくことが好ましく、これにより、廃水中の砒素濃度を低コストで低下させることができる。
【0025】
鉱山廃水中には、これまでに説明した2価の鉄イオンや砒素以外にも、その他の成分を含有することができる。その他の成分としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、3価の鉄イオン、銅イオン、亜鉛イオン、硫酸イオンなどが挙げられる。鉱山廃水中に含まれる3価の鉄イオンの濃度としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、pH調整が煩雑とならず、pH調整剤の使用量が増大しない点から、100質量ppm以下が好ましい。鉱山廃水中に含まれる銅イオンの鉱山廃水中に含まれる濃度としては、同様の理由から20質量ppm以下とすることが好ましい。
【0026】
<<3価の鉄イオン源>>
3価の鉄イオン源は、上述の鉄塩水溶液中に含まれるものではなく、外部より、鉄塩水溶液中に添加するものであり、鉄塩水溶液中に含まれる砒素の共沈剤として機能する。本明細書において「イオン源」とは、溶液となったときイオンを生成する化合物のことであり、3価の鉄イオン源とは、溶液となったとき3価の鉄イオンを生成する化合物のことをいう。3価の鉄イオン源は、鉄塩水溶液中に添加すると3価の鉄イオンとなり、砒素と共沈するので、鉄塩水溶液中に含まれる2価の鉄イオンが砒素と共沈することなく、鉄塩水溶液中から砒素を分離することができる。
【0027】
また、3価の鉄イオン源としては、pH調整剤の使用量を削減できると共に、最終的な廃棄物としての中和殿物の発生量を減少でき、高い砒素除去率が得られる点から、細菌酸化殿物、またはポリ硫酸第二鉄と細菌酸化殿物との混合物を用いることが好ましい。また、この細菌酸化殿物は、後述する酸化工程で得られる鉄殿物としての細菌酸化殿物を用いてもよい。
【0028】
砒素除去工程における3価の鉄イオン源として細菌酸化殿物、またはポリ硫酸第二鉄と細菌酸化殿物を用いることにより、砒素除去工程におけるpH調整剤の使用量を少なくすることができる。
【0029】
3価の鉄イオン源は、主に組成式:Fe(OH)8-2X(SO)X・nHO(ただし、1<x<1.75)で表される鉱物(シュベルトマナイト)であり、FeO(OH)八面体で作られるトンネル構造の中に硫酸イオンSO 2-を保持している。この硫酸イオンSO 2-を砒素イオンなどと置換できるので、砒素(As)を構造内に取り込むことができる。また、細菌酸化殿物は、低結晶性の構造を有しているため、pH調整剤としてのNaOHを消費しない。一方、ポリ硫酸第二鉄は、NaOHを消費して水酸化鉄を形成する。このように、細菌酸化殿物を3価の鉄イオン源とすれば、ポリ硫酸第二鉄添加におけるNaOH消費源である水酸化鉄形成過程でのNaOHの添加を抑制することができ、NaOHの消費量を少なくすることができるため、好ましい。
【0030】
ポリ硫酸第二鉄は、組成式:[Fe(OH)(SO3-n/2で表される。ポリ硫酸第二鉄としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、3価の鉄イオンの濃度が11質量%以上であり、かつ硫酸濃度が28質量%以上のものが好ましい。
【0031】
鉄塩水溶液中の3価の鉄イオンの含有率としては、鉄塩水溶液中に含まれる砒素濃度に応じて適宜選択することができるが、pH調整剤の使用量を増大しない点から、5質量ppm以上200質量ppm以下が好ましく、50質量ppm以上150質量ppm以下がより好ましい。さらに鉄塩水溶液中の3価の鉄イオンの含有率を140質量ppm以下に制御してもよい。
【0032】
<<pH調整(砒素除去工程)>>
また、砒素除去工程では、pH調整により、3価の鉄イオン源を添加した鉄塩水溶液のpHを3.60以上3.90以下に調整することにより、鉄塩水溶液中に含まれる砒素と、鉄塩水溶液中の3価の鉄イオンとからなる沈殿物を効率よく形成することができる。
【0033】
3価の鉄イオン源を添加した鉄塩水溶液のpHを調整する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、鉄塩水溶液中に3価の鉄イオン源を添加した後に、鉄塩水溶液中の2価の鉄イオンが酸化しないように嫌気攪拌しながら、pH調整剤を添加する方法などが挙げられる。
【0034】
3価の鉄イオン源を添加した鉄塩水溶液中のpHとしては、pH3.60以上3.90以下の範囲内であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。これにより、鉄塩水溶液中に含まれる砒素の価数に関係なく、砒素を除去することができる。
【0035】
砒素除去工程においてpH調整に用いる薬品としては、3価の鉄イオン源を添加した鉄塩水溶液中のpHを3.60以上3.90以下に調整することができるものであれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カルシウム、水酸化アンモニウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カルシウムなどのアルカリ性を示すpH調整剤などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0036】
以上により、2価の鉄イオンと砒素とを含み、pHが2.50以上3.00以下である鉄塩水溶液から3価鉄及び砒素を含む沈殿物を形成することにより、鉄塩水溶液由来の砒素を分離、除去して分離溶液を得ることができる。こうして得られた、2価の鉄イオンを含む分離溶液中に含まれる砒素の含有率は、0.1質量ppm以下となっていることが好ましい。
【0037】
<酸化工程>
酸化工程は、砒素除去工程で得られた分離溶液を鉄酸化細菌含有槽に注入して、分離溶液中の鉄イオンを酸化して鉄殿物を得る酸化工程である。酸化工程では、pH調整剤を鉄酸化細菌含有槽に添加し鉄酸化細菌含有槽内のpHを3.00以上4.50以下に調整し、砒素除去後鉄塩水溶液中の2価の鉄イオンを3価の鉄イオンに酸化することにより鉄殿物を得る。
【0038】
分離溶液の鉄酸化細菌含有槽への注入は、一度に行ってもよいが、数回に分けて行ってもよい。また、連続酸化処理を行う場合には、鉄酸化細菌を適宜補充することが好ましい。鉄酸化細菌の添加及び補充方法としては、鉄酸化細菌を用いたバクテリア酸化処理により生成する鉄殿物を回収し、返送する方法が好適である。
【0039】
鉄酸化細菌による2価鉄の酸化反応は、以下の式で表される。
Fe2++H+1/4O→Fe3++1/2H
【0040】
<<鉄酸化細菌>>
鉄酸化細菌としては、2価鉄含有水中で酸化力を有するものであれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、Tiobacillus ferooxidans(チオバチルス フェロオキシダンス)、Gallionella ferruginea、Leptothrix ochracea等が挙げられる。
【0041】
2価鉄を含む分離溶液を注入する鉄酸化細菌含有槽における鉄酸化細菌の量は、分離溶液の2価鉄の濃度などに応じて適宜選択することができるが、例えば、反応槽(鉄酸化細菌含有槽)内部のスラッジを60分間沈降させた時の安定堆積(SV60)が10v/v%~20v/v%となるようにすることが最適である。
【0042】
また、上述のとおり、砒素除去工程で得られた2価の鉄イオンを含む分離溶液中に含まれる砒素の含有率は、0.1質量ppm以下であることが好ましい。
【0043】
<<pH調整(酸化工程)>>
2価の鉄イオンを含む分離溶液の酸化処理前のpHとしては、pH3.00以上4.50以下の範囲内であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、鉄殿物の回収率が高い点から、pH3.25以上4.25以下が好ましい。ここで、pHの調整はpH調整剤を鉄酸化細菌含有槽に添加することで行い、pH調整剤としては、水酸化ナトリウム、水酸化カルシウム、水酸化アンモニウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カルシウムなどのアルカリ性を示すpH調整剤などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよいが、アルカリ成分に由来する副沈殿物を生じにくい点から、水酸化ナトリウム(NaOH)が好ましい。
【0044】
2価の鉄イオンから3価の鉄イオンへの酸化としては、上述の分離溶液中に含まれる2価の鉄イオンを、3価の鉄イオンに酸化する、鉄酸化細菌による生物酸化処理により行う。具体的には、予め鉄酸化細菌を酸化処理槽に入れておき(鉄酸化細菌含有槽)、2価の鉄イオンを含む分離溶液を注入することにより、酸化処理を実施する。酸化処理はブロアーなどで2価の鉄イオンを含む分離溶液と鉄酸化細菌の入った酸化処理槽としての鉄酸化細菌含有槽に空気を送り込みながら実施することが好ましい。2価の鉄イオンを含む分離溶液を連続(あるいは間欠)的に鉄酸化細菌含有槽に注入して酸化処理し、酸化処理後の細菌酸化殿物を含む溶液をオーバーフローによりシックナーなどに移送することにより、連続(或いは間欠)的に酸化処理できる設備で酸化してもよい。
【0045】
2価の鉄イオンを含む分離溶液がpH3.00以上4.50以下の範囲であれば、酸化処理により得られる3価の鉄イオンは、鉄殿物として溶液中に析出され、例えば、鉄酸化細菌による生物酸化処理によって生成する細菌酸化殿物としての鉄殿物は、シュベルトマナイト[Fe(OH)8-2X(SO)X・nHO(ただし、1<x<1.75)
]を含む。
【0046】
以上により、酸化工程により得られた2価の鉄イオンを含む分離溶液から、3価の鉄イオンを含む細菌酸化殿物としての鉄殿物を形成することができる。そして、2価の鉄イオンを含む分離溶液を当該pH範囲とすることにより、分離溶液中の2価鉄を90%以上の高い回収率で除去することができる。また、上述のとおり、この酸化工程で得られた鉄殿物は、単体またはポリ硫酸第二鉄と鉄殿物との混合物にして、砒素除去工程における3価の鉄イオン源として用いることができる。また、細菌酸化殿物中における3価の鉄イオンに対する砒素の質量の割合(砒素/鉄)は50ppm以下となる。なお、細菌酸化殿物が回収された後の残液には、銅イオンや亜鉛イオンなどの他の金属イオンが残存する。
【0047】
酸化工程で生成された鉄殿物を回収する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、鉄殿物を含む溶液を濾過して回収する方法、シックナー、ヌッチェ、フィルタープレス、遠心分離機などにより固液分離して回収する方法などが挙げられる。なお、回収方法で得られる鉄殿物は、通常、スラリー状あるいは水分を含んだ状態である。
【0048】
以上のようにして、2価鉄含有水中の2価鉄を3価鉄に酸化して鉄殿物を効率よく生成することができる鉄殿物の生成方法を提供することができる。
【0049】
ここで、図2は、本発明における鉄殿物を生成する設備の一例を示す概略図である。まず、砒素除去工程では、砒素除去反応槽において2価の鉄イオンと砒素とを含む鉱山廃水(鉄塩水溶液)に、3価の鉄イオン源として及びpH調整用の水酸化ナトリウム(NaOH)を添加しpHを3.60以上3.90以下に調整して、砒素と3価の鉄イオンとの沈殿物を形成する。次に、沈殿物を固液分離して分離溶液を得る。
【0050】
そして、酸化工程では、砒素除去工程で得られた2価の鉄イオンを含む分離溶液を鉄酸化細菌の入った鉄酸化細菌含有槽に注入し、さらにpH調整剤として水酸化ナトリウム(NaOH)を添加しpHを3.00以上4.50以下に調整して、2価の鉄イオンを3価の鉄イオンに酸化し、細菌酸化殿物としての鉄殿物を形成する。さらに固液分離を行うことで鉄殿物を得ることができる。なお、鉄殿物から分離された溶液は、さらにCa系中和剤等を用いて、微量の鉄イオン及び残留元素を析出させ、廃棄物としての中和殿物となる。
【0051】
本発明の鉄殿物の生成方法は、2価鉄を3価鉄に酸化して鉄殿物を効率よく生成することができる。
【実施例0052】
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明は、これらの実施例に何ら限定されるもの
ではない。
【0053】
(実施例1)
-砒素除去工程-
砒素除去工程における鉄塩水溶液としては、2価の鉄イオンを含む柵原鉱山(岡山県:硫化鉄鉱鉱山)の鉱山廃水を用いた。この鉱山廃水は、2価の鉄イオンを0.8g/L以上、1.1g/L以下含んでいた。また、pHは、2.50以上3.00以下の硫酸酸性であった。この鉱山廃水に対し、NaOHを添加してpHを3.60以上3.90以下に調整しつつ、3価の鉄イオン源としての無機凝集剤(商品名:バイオフェリック、主成分は、ポリ硫酸第二鉄)を添加して鉱山廃水中のヒ素を除去して分離溶液を得た。分離溶液中の鉄イオン濃度は1010mg/Lであった。
【0054】
-酸化工程-
そして、この分離溶液を、51Lの鉄酸化細菌含有槽へ708mL/minの送液速度で注入しつつ、NaOHを添加して鉄酸化細菌含有槽内のpHを3.00に調整した。また、鉄酸化細菌含有槽内の下方より鉛直方向に空気を6L/minでブロアーを用いて吹き込んだ。鉄酸化細菌により鉱山廃水中に含まれる2価の鉄イオンが3価の鉄イオンへと酸化した。その後、バクテリア反応槽の液を沈殿槽へ移送し鉄殿物を回収した。このときの沈殿槽の上澄みにおける鉄イオン濃度は37mg/Lであった。
【0055】
実施例1における、酸化工程における鉄酸化細菌含有槽内のpH、砒素除去工程後の、鉱山廃水から砒素を除去した分離溶液の鉄酸化細菌含有槽への送液速度、分離溶液中の鉄イオン濃度及び酸化工程後の沈殿槽の上澄みにおける鉄イオン濃度の評価結果を表1に示した。また、反応容器の容積と分離溶液の送液速度から算出される鉄酸化細菌含有槽におけるHRT(水理学的滞留時間)及び酸化工程前後の鉄イオン濃度から算出される鉄殿物としての鉄回収率も併せて示した。
【0056】
(比較例1)
酸化工程において、鉄酸化細菌含有槽内のpHを2.50に調整した以外は実施例1と同様の処理を実施することにより比較例1に係る鉄殿物を得た。各工程において測定した評価結果を実施例1と同様に表1に示した。
【0057】
(実施例2)
酸化工程において、鉄酸化細菌含有槽内のpHを3.30に調整した以外は実施例1と同様の処理を実施することにより実施例2に係る鉄殿物を得た。各工程において測定した評価結果を実施例1と同様に表1に示した。
【0058】
(実施例3)
酸化工程において、鉄酸化細菌含有槽内のpHを3.50に調整した以外は実施例1と同様の処理を実施することにより実施例3に係る鉄殿物を得た。各工程において測定した評価結果を実施例1と同様に表1に示した。
【0059】
(実施例4)
酸化工程において、鉄酸化細菌含有槽内のpHを3.70に調整した以外は実施例1と同様の処理を実施することにより実施例4に係る鉄殿物を得た。各工程において測定した評価結果を実施例1と同様に表1に示した。
【0060】
(実施例5)
酸化工程において、鉄酸化細菌含有槽内のpHを4.00に調整した以外は実施例1と同様の処理を実施することにより実施例5に係る鉄殿物を得た。各工程において測定した評価結果を実施例1と同様に表1に示した。
【0061】
(実施例6)
酸化工程において、鉄酸化細菌含有槽内のpHを4.20に調整した以外は実施例1と同様の処理を実施することにより実施例6に係る鉄殿物を得た。各工程において測定した評価結果を実施例1と同様に表1に示した。
【0062】
(実施例7)
酸化工程において、鉄酸化細菌含有槽内のpHを4.40に調整した以外は実施例1と同様の処理を実施することにより実施例7に係る鉄殿物を得た。各工程において測定した評価結果を実施例1と同様に表1に示した。
【0063】
(比較例2)
酸化工程において、鉄酸化細菌含有槽内のpHを5.00に調整した以外は実施例1と同様の処理を実施することにより比較例2に係る鉄殿物を得た。各工程において測定した評価結果を実施例1と同様に表1に示した。
【0064】
(実施例8)
酸化工程において、分離溶液を、51Lの鉄酸化細菌含有槽へ428mL/minの送液速度で注入しつつ、鉄酸化細菌含有槽内のpHを3.80に調整した以外は実施例1と同様の処理を実施することにより実施例8に係る鉄殿物を得た。各工程において測定した評価結果を実施例1と同様に表1に示した。
【0065】
(実施例9)
酸化工程において、分離溶液を、51Lの鉄酸化細菌含有槽へ236mL/minの送液速度で注入しつつ、鉄酸化細菌含有槽内のpHを3.80に調整した以外は実施例1と同様の処理を実施することにより実施例9に係る鉄殿物を得た。各工程において測定した評価結果を実施例1と同様に表1に示した。
【0066】
【表1】
【0067】
表1の結果から、酸化工程において、分離溶液のpHを3.00以上4.50以下とすることで、鉄回収率を90%以上とすることができ、さらにpHを3.25以上4.25以下とすることで、鉄回収率を98%以上とすることができることがわかった。また、実施例5、6及び8、9等の結果からは、pHが所望の範囲内であれば、HRTの違いによらず高い鉄回収率を維持できることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明の鉄殿物の生成方法は、2価鉄を3価鉄に酸化して鉄殿物を効率よく生成することができる。金属鉱山から発生する鉱山廃水、鋼板表面のスケール、汚れ、酸化膜、錆等を除去するため硫酸又は塩酸による鋼板の洗浄後の排水、亜鉛めっき、錫めっき等により表面処理鋼板を製造する際の洗浄排水などから2価鉄を分離除去するのに好適に用いられる。
図1
図2