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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024117649
(43)【公開日】2024-08-29
(54)【発明の名称】立体造形方法、及び立体造形物
(51)【国際特許分類】
   B29C 64/135 20170101AFI20240822BHJP
   B29C 64/379 20170101ALI20240822BHJP
   B33Y 10/00 20150101ALI20240822BHJP
   B33Y 80/00 20150101ALI20240822BHJP
【FI】
B29C64/135
B29C64/379
B33Y10/00
B33Y80/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023023861
(22)【出願日】2023-02-17
(71)【出願人】
【識別番号】000219314
【氏名又は名称】東レエンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100096080
【弁理士】
【氏名又は名称】井内 龍二
(74)【代理人】
【識別番号】100194098
【弁理士】
【氏名又は名称】高田 一
(72)【発明者】
【氏名】神村 尊
(72)【発明者】
【氏名】金盛 一
(72)【発明者】
【氏名】津田 雄一郎
【テーマコード(参考)】
4F213
【Fターム(参考)】
4F213AA39
4F213AA43
4F213WA25
4F213WB01
4F213WL03
4F213WL13
4F213WL23
4F213WL24
4F213WL32
4F213WL55
4F213WL67
4F213WL87
4F213WW02
4F213WW06
(57)【要約】
【課題】硬化したコア材からシェルを機械加工によらずに容易に分離させることができる立体造形方法を提供すること。
【解決手段】立体造形物の外形を規定するシェルをシェル材を用いて造形するシェル造形工程と、シェルの内側面に囲われた部分であるコア部に液相材料であるコア材を充填するコア材充填工程と、コア部内のコア材を硬化させるコア材硬化工程と、シェルの少なくとも一部を硬化後のコア材から分離させ、コア部の形状に倣った外形を有し、主としてコア材からなる立体造形物を得る分離工程と、を含む立体造形方法であって、シェル造形工程が、シェルの外側面の一部に、分離工程で硬化後のコア材から分離させる起点となる分離起点部を造形する工程を含んでいる。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
立体造形物の外形を規定するシェルをシェル材を用いて造形するシェル造形工程と、
前記シェルの内側面に囲われた部分であるコア部に液相材料であるコア材を充填するコア材充填工程と、
前記コア部内の前記コア材を硬化させるコア材硬化工程と、
前記シェルの少なくとも一部を硬化後の前記コア材から分離させ、前記コア部の形状に倣った外形を有し、主として前記コア材からなる立体造形物を得る分離工程と、を含む立体造形方法であって、
前記シェル造形工程が、
前記シェルの外側面の一部に、前記分離工程で前記シェルの少なくとも一部を硬化後の前記コア材から分離させる起点となる分離起点部を造形する工程を含んでいることを特徴とする立体造形方法。
【請求項2】
前記分離起点部が、前記シェルの外側面から外方に向かって延在された延在部を含んでいることを特徴とする請求項1記載の立体造形方法。
【請求項3】
前記シェル造形工程が、
前記延在部と前記シェルとの境界部分に前記シェルの分離を容易にするための薄肉部を有するように前記シェルを造形することを特徴とする請求項2記載の立体造形方法。
【請求項4】
前記シェル造形工程が、
前記延在部と前記シェルとの境界部分に前記延在部を補強するための厚肉部を有するように前記シェルを造形することを特徴とする請求項2記載の立体造形方法。
【請求項5】
前記分離工程が、
前記分離起点部から前記シェルの少なくとも一部を硬化後の前記コア材から分離することを特徴とする請求項1~4のいずれかの項に記載の立体造形方法。
【請求項6】
外殻層を形成するシェルと、該シェルの内側面に囲われた部分であるコア部に硬化コア材とを有する構造を備えた立体造形物であって、
前記シェルの外側面の一部に、前記シェルの少なくとも一部を前記硬化コア材から分離させる起点となる分離起点部を備えていることを特徴とする立体造形物。
【請求項7】
前記分離起点部が、前記シェルの外側面から外方に向かって延在された形状を有する延在部を含んで構成されていることを特徴とする請求項6記載の立体造形物。
【請求項8】
前記延在部と前記シェルとの境界部分に前記硬化コア材から前記シェルの分離を容易にするための薄肉部を備えていることを特徴とする請求項7記載の立体造形物。
【請求項9】
前記延在部と前記シェルとの境界部分に前記延在部を補強するための厚肉部を備えていることを特徴とする請求項7記載の立体造形物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は立体造形方法、及び立体造形物に関し、より詳細には、3Dプリンティングなどの付加製造技術を用いて立体造形物を造形する立体造形方法、及び立体造形物に関する。
【背景技術】
【0002】
3Dプリンティング技術を用いた製造装置の名称として、広く3Dプリンタという言葉が使われている。3Dプリンタは、3次元のCADデータをもとにコンピュータで造形物の断面形状を計算し、該造形物を薄い輪切り状の断面構成要素に分割して、その断面構成要素を種々の方法で形成し、それを積層させて目的とする造形物を造形する立体造形装置である。3Dプリンティング技術は、国際的にはAdditive Manufacturing Technologyと同義語として使われる場合が多く、日本語訳として、付加製造技術が用いられている。
【0003】
近年は、3Dプリンタで造形した造形物に対しても、実製品の量産前の評価目的で外観だけでなく剛性や強度が要求されるようになり、金属3Dプリンタや複合材3Dプリンタなどが注目されている。
【0004】
本出願人は、上記した付加製造技術に関連する技術の一つとして、下記の特許文献1記載の立体造形方法を提案している。特許文献1記載の立体造形方法は、造形槽内で複数回のシェルの造形とコア材の充填とを繰り返した後、活性エネルギー線の照射又は熱エネルギーの付与により前記コア材を一括して硬化させることを特徴としている。係る立体造形方法により、前記コア材により造形された部分に積層界面が存在しない、換言すれば、剛性、強度に方向性が無い立体造形物を造形することが可能となった。
【0005】
上記特許文献1記載の立体造形方法(以下この方法をコアシェル方式とも言う。)で立体造形物を得るにあたり、一般には外殻層を形成するシェルと、該シェルの内側の硬化したコア材とを合わせたものを立体造形物と呼んでいる。
[発明が解決しようとする課題]
【0006】
一方で、このコアシェル方式で立体造形物を得るにあたり、立体造形物の一体性が重視されたり、前記シェルの強度が問題視されたりする場合に、硬化した前記コア材から前記シェルの少なくとも一部を分離させて、硬化した前記コア材を主とする立体造形物が求められる場合がある。
【0007】
この場合、前記コア材を硬化させた段階では、硬化した前記コア材と前記シェルとは密着しているため、従来の立体造形方法では、前記コア材を硬化させた後、切削工具を用いて前記シェルを切削するなどして、すなわち機械加工を行って硬化した前記コア材から前記シェルを分離して、硬化した前記コア材を主とする立体造形物を得る工程が必要であった。
【0008】
しかしながら、前記シェルがエポキシ系などの樹脂によって造形されている場合、前記切削工具を用いて前記シェルを切削すると、粉状の削り屑ではなく、粘り気のあるゼリー状の削り屑が排出される。そして、切削加工を進めると、前記ゼリー状の削り屑が前記切削工具の刃と刃の間に入り込んでいき、さらに加工時の切削熱で軟化(溶融)した前記シェルが前記切削工具にまとわりつく現象が生じる。
【0009】
前記ゼリー状の削り屑は粘り気があるためエアブローを行っても前記切削工具から全てを除去することが難しく、このような状態のままで切削加工を続けると、前記切削工具が弾かれるような状態となり、切削がうまくできないばかりか前記切削工具が折れたり欠けたりするおそれが生じる。このように機械加工では、硬化した前記コア材から前記シェルを分離させることが難しいという課題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2019―136923号公報
【発明の概要】
【課題を解決するための手段及びその効果】
【0011】
本発明は上記課題に鑑みなされたものであって、いわゆるコアシェル方式の立体造形方法において、硬化したコア材からシェルを容易に分離させることができる立体造形方法、及び立体造形物を提供することを目的とする。
【0012】
上記目的を達成するために本発明に係る立体造形方法(1)は、
立体造形物の外形を規定するシェルをシェル材を用いて造形するシェル造形工程と、
前記シェルの内側面に囲われた部分であるコア部に液相材料であるコア材を充填するコア材充填工程と、
前記コア部内の前記コア材を硬化させるコア材硬化工程と、
前記シェルの少なくとも一部を硬化後の前記コア材から分離させ、前記コア部の形状に倣った外形を有し、主として前記コア材からなる立体造形物を得る分離工程と、を含む立体造形方法であって、
前記シェル造形工程が、
前記シェルの外側面の一部に、前記分離工程で硬化後の前記コア材から分離させる起点となる分離起点部を造形する工程を含んでいることを特徴としている。
【0013】
上記立体造形方法(1)によれば、前記シェル造形工程において、前記シェルの外側面の一部に、前記分離工程で硬化後の前記コア材から分離させる起点となる分離起点部が造形される。そのため前記分離工程において、前記分離起点部を硬化後の前記コア材から前記シェルを分離させる起点にして、例えば、手作業によって前記シェルの分離を行うことが可能となり、機械加工を施すことなく硬化後の前記コア材から前記シェルを容易に分離させることができる。
【0014】
また本発明に係る立体造形方法(2)は、上記立体造形方法(1)において、
前記分離起点部が、前記シェルの外側面から外方に向かって延在された延在部を含んでいることを特徴としている。
【0015】
上記立体造形方法(2)によれば、前記分離起点部が、前記シェルの外側面から外方に向かって延在された延在部を含んでいるので、前記分離工程において、前記延在部を硬化後の前記コア材から前記シェルを分離させる起点となる持ち手(掴み代)として機能させることが可能となる。
したがって、例えば作業者が手で前記延在部を持った状態のまま、該延在部と繋がっている部分の前記シェルを硬化後の前記コア材から分離させる方向に前記延在部を動かすことによって、前記延在部と繋がっている部分の前記シェルを前記コア材から容易に分離させることができる。
【0016】
また本発明に係る立体造形方法(3)は、上記立体造形方法(2)において、
前記シェル造形工程が、
前記延在部と前記シェルとの境界部分に前記シェルの分離を容易にするための薄肉部を有するように前記シェルを造形することを特徴としている。
【0017】
上記立体造形方法(3)によれば、前記シェル造形工程において、前記延在部と前記シェルとの境界部分に前記シェルの分離を容易にするための薄肉部を有するように前記シェルが造形される。
したがって、前記シェルが前記境界部分に前記薄肉部を有する構造となり、前記分離工程において、前記延在部と繋がっている部分の前記シェルを硬化後の前記コア材から分離させる方向に前記延在部を動かした際に、前記境界部分の前記シェルをより小さな力で容易に分離することができる。
【0018】
また本発明に係る立体造形方法(4)は、上記立体造形方法(2)において、
前記シェル造形工程が、
前記延在部と前記シェルとの境界部分に前記延在部を補強するための厚肉部を有するように前記シェルを造形することを特徴としている。
【0019】
上記立体造形方法(4)によれば、前記シェル造形工程において、前記延在部と前記シェルとの境界部分に前記延在部を補強するための厚肉部を有するように前記シェルが造形される。
したがって、前記シェルが前記境界部分に前記厚肉部を有する構造となり、前記分離工程において、前記延在部と繋がっている部分の前記シェルを硬化後の前記コア材から分離させる方向に前記延在部を動かした際に、前記境界部分の前記シェルが分離されるより前に、前記延在部が前記境界部分で折れたり、前記延在部の部分だけが前記シェルから分離したりする現象を防止することができる。
【0020】
また本発明に係る立体造形方法(5)は、上記立体造形方法(1)~(4)のいずれかにおいて、
前記分離工程が、前記分離起点部から前記シェルの少なくとも一部を硬化後の前記コア材から分離することを特徴としている。
【0021】
上記立体造形方法(5)によれば、前記分離工程において、前記分離起点部から前記シェルの少なくとも一部を硬化後の前記コア材から分離するので、特に機械加工を実施することなく手作業で前記シェルを硬化後の前記コア材から容易に分離することができる。
【0022】
また本発明に係る立体造形物(1)は、外殻層を形成するシェルと、該シェルの内側面に囲われた部分であるコア部に硬化コア材とを有する構造を備えた立体造形物であって、
前記シェルの外側面の一部に、前記シェルの少なくとも一部を前記硬化コア材から分離させる起点となる分離起点部を備えていることを特徴としている。
【0023】
上記立体造形物(1)によれば、前記分離起点部を前記硬化コア材から前記シェルを分離させる起点にして、例えば、手作業によって前記シェルの分離を行うことが可能となり、機械加工を施すことなく前記硬化コア材から前記シェルを容易に分離させることができる。
【0024】
また本発明に係る立体造形物(2)は、上記立体造形物(1)において、
前記分離起点部が、前記シェルの外側面から外方に向かって延在された形状を有する延在部を含んで構成されていることを特徴としている。
【0025】
上記立体造形物(2)によれば、前記延在部を前記硬化コア材から前記シェルを分離させる起点となる持ち手(掴み代)として機能させることが可能となる。したがって、例えば作業者が手で前記延在部を持った状態のまま、該延在部と繋がっている部分の前記シェルを前記硬化コア材から分離させる方向に前記延在部を動かすことによって、前記延在部と繋がっている部分の前記シェルを前記硬化コア材から容易に分離させることができる。
【0026】
また本発明に係る立体造形物(3)は、上記立体造形物(2)において、
前記延在部と前記シェルとの境界部分に前記硬化コア材から前記シェルの分離を容易にするための薄肉部を備えていることを特徴としている。
【0027】
上記立体造形物(3)によれば、前記延在部と前記シェルとの境界部分に前記薄肉部を備えているので、前記延在部と繋がっている部分の前記シェルを前記硬化コア材から分離させる方向に前記延在部を動かした際に、前記境界部分の前記シェルをより小さな力で容易に分離することができる。
【0028】
また本発明に係る立体造形物(4)は、上記立体造形物(2)において、
前記延在部と前記シェルとの境界部分に前記延在部を補強するための厚肉部を備えていることを特徴としている。
【0029】
上記立体造形物(4)によれば、前記延在部と前記シェルとの境界部分に前記厚肉部を備えているので、前記延在部と繋がっている部分の前記シェルを前記硬化コア材から分離させる方向に前記延在部を動かした際に、前記境界部分の前記シェルが分離されるより前に、前記延在部が前記境界部分で折れたり、前記延在部の部分だけが前記シェルから分離したりする現象を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】本発明の実施の形態に係る立体造形方法に用いる立体造形装置の構成例を示す概略図である。
図2】実施の形態に係る立体造形方法の一例を説明するための図であり、(a)はシェル造形工程を説明するための図であり、(b)はシェル造形工程後のシェルの平面図である。
図3】実施の形態に係る立体造形方法の一例を説明するための図であり、コア材充填工程を説明するための図である。
図4】実施の形態に係る立体造形方法におけるコア材硬化工程の一例を説明するための図であり、(a)はコア材硬化前、(b)はコア材硬化後の状態を示す断面図である。
図5】実施の形態に係る立体造形方法における分離工程の一例を説明するための図であり、(a)はシェル分離前、(b)、(c)はシェル分離途中、(d)はシェル分離後の状態を示す平面図である。
図6】別の実施の形態に係る立体造形方法で造形されたコア材硬化工程後の立体造形物の一例を説明するための斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明に係る立体造形方法、及び立体造形物の実施の形態を図面に基づいて説明する。なお、図面に記載しているシェルやコア部の形態などは、本発明の主旨が容易に理解できるように模式的に描かれており、これらの形態に限定されるものではない。
【0032】
図1は、実施の形態に係る立体造形方法に用いる立体造形装置の構成例を示す概略図である。
立体造形装置10は、複合材3Dプリンタとしての機能を備え、造形が行われる造形槽11、レーザー光学系12、コア材供給系13、及び熱硬化手段16を主たる構成要素としている。
【0033】
造形槽11内には、シェル材2として、例えば、液相材料である光硬化性樹脂が貯留されており、図示しない光硬化性樹脂調整系により、その液面位置を所定位置に維持、調整可能となっている。シェル材2には、例えば、エポキシ系、アクリル系などの公知の紫外線硬化樹脂などが使用可能である。また、造形槽11内には造形台15が設けられている。造形台15は、造形中の造形物を支持するためのものであり、図示しない駆動機構により図中z軸方向の任意の位置に移動(昇降)かつ設置可能となっている。
【0034】
レーザー光学系12は、紫外線レーザー光源12a、及び走査光学系12bを備えている。紫外線レーザー光源12aから紫外線レーザー光12cが出射され、出射された紫外線レーザー光12cは、走査光学系12bの駆動により、シェル材2の液面上(すなわちxy平面)の所定範囲を走査させることが可能となっている。
【0035】
シェル材2は、活性エネルギー線の一つである紫外線レーザー光12cの照射により、硬化済み紫外線硬化樹脂層3で示すように液面から所定の深さだけ硬化するようになっている。この硬化深度は、紫外線レーザー光源12aの出力を調整することにより、ある程度の幅で調整可能となっており、例えば、0.1mm~0.4mm程度の範囲で調整されている。
【0036】
したがって、造形台15上面をシェル材2の液面から所定の硬化深度だけ沈めた深さに位置させ、シェル材2の液面の任意の位置へ紫外線レーザー光12cを照射することにより、造形台15上に任意の面積の硬化済み紫外線硬化樹脂層3が形成される。そして、造形台15上に硬化済み紫外線硬化樹脂層3が形成された後、硬化深度分だけ造形台15を下降させ、シェル材2の液面の任意の位置へ紫外線レーザー光12cを照射することにより、硬化済み紫外線硬化樹脂層3の上に硬化済み紫外線硬化樹脂層3が積層されるようになっている。
【0037】
そして、造形台15の下降とシェル材2液面への紫外線レーザー光12cの照射とを繰り返し実施することにより、硬化済み紫外線硬化樹脂層3の積層が進行し、3次元形状の硬化済み紫外線硬化樹脂層3を得ることが可能となっている。
本実施の形態では、このようにして造形された造形物をシェル4(図2参照)と呼ぶ。また、このシェル4は、コア材6を充填するための外殻層として機能するものであり、シェル4の内側面に囲われた部分のうち底面を有する部分をコア部5(図2参照)と呼ぶ。
【0038】
コア材供給系13は、コア材6を内部に貯留するコア材タンク13a中から、ポンプ13bで配管系13c、13dを順に介して圧送しながらコア材6を供給し、ノズル14先端からコア材6を吐出する。ノズル14は図示しないノズル移動機構により、図中xyz各方向に移動かつ固定可能となっている。このため配管系13dはノズル14の移動に追随するようフレキシブルな構造及び材料で構成されている。
【0039】
コア材6は、例えば、エポキシ系、アクリル系など公知の液相材料である熱硬化性樹脂の中に強化材が均一に分散された複合材で構成されている。前記強化材は、例えば、炭素繊維、ガラス繊維、及びアラミド繊維のうちの少なくとも1つを含む繊維状の強化材でもよいし、シリカ等の無機材料粉などでもよい。コア材6にはシェル材2よりも高比重なものが使用されている。また、コア材6の粘度は、シェル材2の粘度よりも2倍以上であることが好ましい。
【0040】
熱硬化手段16は、加熱対象を密閉可能なチャンバを有する加熱炉で構成されている。ここでの加熱対象は、造形槽11から取り出された、コア材6が充填されたシェル4(図4参照)であり、熱硬化手段16は、その加熱炉内をコア材6の熱硬化温度よりも高い温度まで昇降させることが可能となっている。シェル4は、物性としてガラス転移温度Tgsを有し、例えば、ガラス転移温度Tgsはコア材6の熱硬化温度Tpcよりも低い値となっている。
【0041】
そして、熱硬化手段16によって、シェル4に充填されているコア材6に熱エネルギーを付与し、コア材6の熱硬化温度Tpcよりも高い温度まで昇温させて、コア材6の全体を一括して熱硬化させることが可能となっている。
【0042】
この硬化したコア材6を本実施の形態では硬化コア材6a(図4参照)と呼び、この硬化コア材6aが本実施の形態における立体造形物を主として構成する。
コア部5が後に形成される立体造形物における所望の形状を有するようにシェル4が造形され、このコア部5全体にコア材6を充填してからコア材6を熱硬化させることにより、前記所望の形状の立体造形物を得ることが可能となる。
また、本方法によると、硬化コア材6aには積層界面が存在しないため、剛性、強度に方向性が無い立体造形物を造形することが可能となっている。
【0043】
次に、実施の形態に係る立体造形方法の一例について、図2~5を用いて説明する。
図2(a)はシェル造形工程の一場面を示す図であり、図2(b)はシェル造形工程後のシェルの平面図である。
図3は、コア材充填工程の一場面を示す図である。
図4は、コア材硬化工程の一例を説明するための図であり、(a)はコア材硬化前、(b)はコア材硬化後の状態を示す断面図である。
図5は、分離工程の一例を説明するための図であり、(a)はシェル分離前、(b)、(c)はシェル分離途中、(d)はシェル分離後の状態を示す平面図である。
【0044】
実施の形態に係る立体造形方法では、最初に立体造形装置10によってシェル4の造形、造形されたシェル4内へのコア材6の充填が行われる。
具体的には、まず、図2(a)に示すように、ノズル14が紫外線レーザー光12cの照射範囲から退避した状態において、造形台15上のシェル材2の液面の任意の位置への紫外線レーザー光12cの照射、及び硬化深度分の造形台15の降下が交互に行われる。この動作により、所望の形状のコア部5を有するシェル4が造形されていく。上記のようにしてシェル4を造形する工程をシェル造形工程という。
【0045】
また、本実施の形態では、シェル造形工程が、シェル4の外側面の一部に、コア材硬化工程後に行う分離工程で硬化コア材6a(図4、5参照)から分離させる起点となる分離起点部4aを造形する工程を含んでいることを特徴の一つとしている。
【0046】
また、本実施の形態では、分離起点部4aが、シェル4の外側面から外方に向かって延在された延在部4bを含んでいることを特徴の一つとしている。
図2(a)、(b)に示すシェル4は上面に開口を有する有底箱形状に造形され、延在部4bはシェル4の一外側面の一縁部から外方に向かって延在された板形状に造形されている。延在部4bは、シェル4を造形する上記動作と同様の動作により造形することが可能となっている。なお、延在部4bは、シェル4の外周面の2カ所以上に造形されてもよい。
【0047】
さらに、本実施の形態では、シェル造形工程が、延在部4bとシェル4との境界部分にシェル4の分離を容易にするための薄肉部4cを有するようにシェル4を造形することを特徴の一つとしている。
シェル造形工程では、シェル4の厚さが、例えば3mm程度の厚さを有し、薄肉部4cが、これよりも薄い、例えば、1mm前後の厚さを有する形態に造形することが可能となっている。なお、シェル4の厚さは、コア材硬化工程において容易に変形しない厚さに設計されている。
【0048】
さらに、本実施の形態では、シェル造形工程が、延在部4bとシェル4との境界部分に延在部4bを補強するための厚肉部4dを有するようにシェル4を造形することを特徴の一つとしている。
図2(b)に示す厚肉部4dは角錐台形状を有しているが、厚肉部4dの形状はこれに限定されることなく、延在部4bが補強できる形状であればよい。
【0049】
次に、図3に示すようにシェル4内に形成されたコア部5内へノズル14が移動し、ノズル14からコア部5へコア材6が吐出されることにより、コア部5内へのコア材6の充填が進行する。上記のようにしてシェル4の内側面に囲われた部分であるコア部5へコア材6を充填する工程をコア材充填工程という。
【0050】
本実施の形態では、コア材充填工程は、シェル4が造形槽11内のシェル材2に浸漬した状態で実施され、コア材6の充填前には、図2(a)に示すようにコア部5にシェル材2が存在する。そして、シェル材2より比重が大きいコア材6がコア部5に充填されていくにしたがって、コア部5内のシェル材2は押し上げられ、図3に示すように、シェル4の上部に設けられた開口を経てコア部5からシェル4の外部へシェル材2が押し出されて、シェル材2からコア材6への置換が行われる。
【0051】
なお、上記のシェル造形工程、及びコア材充填工程は交互に複数回ずつ実施されてもよい。すなわち、所定の高さまでシェル4(薄肉部4c、厚肉部4dを含む)及び延在部4bを造形し、そのシェル4によって形成されるコア部5にコア材6を充填した後、さらにシェル4及び延在部4bを増築し、そして増築されたシェル4によって新たに形成されたコア部5にコア材6を充填する、という工程を繰り返し行っても良い。このようにシェル4の造形を複数回に分割することで、特にコア部5が複雑な形状(例えば、狭い、細い、薄い、など)を有する場合にも、段階的にコア材6を充填することによってコア部5の隅々までコア材6を充填することが可能となる。なお、上記シェル造形工程およびコア材充填工程は、通常室温(例えば、20℃~30℃)環境下にて実施される。
【0052】
そして、コア材充填工程が完了すると、次に造形槽11内にある造形台15をシェル材2の液面よりも上に上昇させて、造形台15からコア材6が充填されたシェル4を取り外し、次のコア材硬化工程に進む。
【0053】
コア材硬化工程では、図4(a)に示すように、コア材6が充填されたシェル4を熱硬化手段16に投入して、コア材6の熱硬化処理を開始する。
すなわち、コア材6が充填されたシェル4を熱硬化手段16内に載置し、熱硬化手段16内をコア材6の熱硬化温度Tpcよりも高い温度まで上昇させることにより、シェル4及びコア材6が加熱されて、コア材6の硬化が開始、進行する。そこから所定時間経過するとコア材6全体の硬化が完了して、図4(b)に示すように、コア部5に硬化コア材6aが形成され、いわゆる、コアシェル構造を備えた立体造形物が形成される。
【0054】
なお、コア部5に充填されたコア材6全体を積層界面が存在しないように硬化させるためには、本実施の形態のようにコア材6として熱硬化性樹脂からなる材料を使用し、コア材硬化工程では、熱エネルギーの付与によるコア材6の硬化を実施することが好ましい。
【0055】
コア材硬化工程が完了した後、熱硬化手段16内からコアシェル構造を備えた立体造形物を取り出し、次の分離工程に進む。コア材硬化工程後の立体造形物は、外殻層を形成するシェル4と、シェル4の内側面に囲われた部分であるコア部5に硬化コア材6aとを有するコアシェル構造を備え、シェル4の外側面の一部に分離起点部4aとなる延在部4bを備え、さらに、延在部4bとシェル4との境界部分に薄肉部4cと厚肉部4dとを備えている。
この分離工程は、分離起点部4aを起点にして、延在部4bとともにシェル4の少なくとも一部を硬化コア材6aから分離させる工程である。
【0056】
分離工程では、図5(a)に示すように、作業者が指20又はペンチなどの工具で延在部4bを持った状態のまま、延在部4bと繋がっている部分のシェル4を硬化コア材6aから分離させる方向(図中の矢印方向)に延在部4bを移動させる。
そうすると、図5(b)に示すように、シェル4の薄肉部4cの部分が破断されるとともに、延在部4bと繋がっている部分のシェル4が硬化コア材6aから分離されてゆき、ある程度の面積だけ分離された時点でシェル4が破断し、シェル4に破断部4eが形成される。
【0057】
なお、延在部4bの根元部分(シェル4と延在部4bとの境界部分)に厚肉部4dが形成されているので、延在部4bを図中の矢印方向に動かした際に、延在部4bが根元部分で折れたりすることを防止できる。
【0058】
そして、シェル4の内側面と硬化コア材6aの外側面とは互いに密着している状態であるが、互いに接着されていない状態となっており、シェル4に形成された破断部4eを起点にして、シェル4に物理的な力を加えることにより、手作業でシェル4の分離を継続して行うことが可能となっている。
【0059】
すなわち、図5(c)に示すように、シェル4の破断部4eの部分から、作業者の指20等でシェル4を硬化コア材6aから分離させる方向(図中の矢印方向)に力を加えると、シェル4が硬化コア材6aから分離されてゆき、ある程度の面積だけ分離された時点でシェル4が破断し、破断片4fが形成され、シェル4に次の破断部4eが形成される。
この操作を繰り返すことによって、シェル4を硬化コア材6aから順次分離させていくことができ、図5(d)に示すように、コア部5の形状に倣った形状を有する硬化コア材6aからなる立体造形物1が得られる。
【0060】
なお、図5(d)に示す例では、シェル4が全て分離されて硬化コア材6aのみからなる立体造形物1が得られているが、これに限らず、シェル4の一部が残され、この一部のシェル4と硬化コア材6aとを合わせたものを立体造形物1と呼んでもよい。
この分離工程は、室温(例えば、20℃~30℃)環境下にて実施可能であるが、シェル4は軟化するが、硬化コア材6aは軟化せずに硬い状態を維持できる温度環境下に所定時間放置した後に実施するようにしてもよい。
【0061】
上記実施の形態に係る立体造形方法によれば、シェル造形工程において、シェル4の外側面の一部に、分離工程で硬化コア材6aから分離させる起点となる分離起点部4aが造形され、分離起点部4aが、シェル4の外側面から外方に向かって延在された延在部4bを含んで構成されている。そのため分離工程において、延在部4bを硬化コア材6aからシェル4を分離させる起点となる持ち手(掴み代)として機能させることが可能となる。
したがって、作業者が指20等で延在部4bを持った状態で、延在部4bと繋がっている部分のシェル4を硬化コア材6aから分離させる方向に延在部4bを動かすことによって、特に機械加工を施すことなく手作業で硬化コア材6aからシェル4を容易に分離させることができる。
【0062】
また、実施の形態に係る立体造形方法によれば、シェル造形工程において、延在部4bとシェル4との境界部分にシェル4の分離を容易にするための薄肉部4cを有するようにシェル4が造形される。
したがって、シェル4が前記境界部分に薄肉部4cを有する構造となり、分離工程において、延在部4bと繋がっている部分のシェル4を硬化コア材6aから分離させる方向に延在部4bを動かした際に、前記境界部分のシェル4をより小さな力で分離することができる。
【0063】
また、実施の形態に係る立体造形方法によれば、シェル造形工程において、延在部4bとシェル4との境界部分に延在部4bを補強するための厚肉部4dを有するようにシェル4が造形される。
したがって、シェル4が前記境界部分に厚肉部4dを有する構造となり、分離工程において、延在部4bと繋がっている部分のシェル4を硬化コア材6aから分離させる方向に延在部4bを動かした際に、前記境界部分のシェル4が分離されるより前に、延在部4bが前記境界部分で折れたりする現象を防止することができる。
【0064】
なお、上記実施の形態では、シェル造形工程において、分離起点部4aとしての延在部4bと、延在部4bの根元部分のシェル4に薄肉部4c及び厚肉部4dとが造形される形態について説明した。
別の実施の形態では、シェル造形工程において、分離起点部4aとしての延在部4bと、延在部4bの根元部分のシェル4に薄肉部4cとが造形される形態としてもよい。また、さらに別の実施の形態では、シェル造形工程において、分離起点部4aとしての延在部4bと、延在部4bの根元部分のシェル4に厚肉部4dとが造形される形態としてもよいし、分離起点部4aとしての延在部4bが造形されるだけの形態としてもよい。なお、延在部4bの形態は、図2図5に示した形態に限定されるものではなく、種々の形態に変更することが可能である。
【0065】
図6は、別の実施の形態に係る立体造形方法で造形されたコア材硬化工程後の立体造形物の一例を説明するための斜視図である。なお、図5に示したコア材硬化工程後の立体造形物の各部と同一機能を有する構成部分には、同一符号を付しその説明を省略する。
【0066】
図6に示したコア材硬化工程後の立体造形物では、有底箱形状をしたシェル4の一外側面の四隅に分離起点部4aとしての延在部4bが形成され、シェル4の前記一側面の両側に薄肉部4cが形成されている。
また、シェル4の前記一側面と直交する両側面に薄肉部4hが形成されている。薄肉部4hは、前記両側面の高さ方向の中央部分が内側にくびれた形状に形成されている。
【0067】
延在部4bは、シェル4の前記一外側面の一縁部側の上部から外方に向かって延在された断面略三角形状をした棒状に形成されている。
【0068】
分離工程では、作業者が指20(図5参照)又はペンチなどの工具で延在部4bを持った状態のまま、延在部4bと繋がっている部分のシェル4を硬化コア材6aから分離させる方向に延在部4bをそれぞれ動かす。
そうすると、シェル4の薄肉部4cの部分が破断されるとともに、延在部4bと繋がっている部分のシェル4が硬化コア材6aから分離されてゆき、ある程度の面積だけ分離された時点でシェル4が破断し、シェル4に破断部がそれぞれ形成される。
【0069】
そして、シェル4の前記破断部の部分から、作業者の指20等でシェル4を硬化コア材6aから分離させる方向に力を加えると、シェル4が硬化コア材6aから分離されてゆき、図5で示したようにシェル4に次の破断部4eが形成される。
【0070】
この操作を繰り返すことによって、シェル4を硬化コア材6aから順次分離させていくことができ、図5(d)に示したようなコア部5の形状に倣った形状を有する硬化コア材6aからなる立体造形物1が得られる。図6に示した形態によれば、シェル4の外側面に延在部4bを形成することにより、分離工程での分離作業の効率を高めることができる。
【0071】
本発明は、以上の実施の形態に限定されるものではなく、上記したシェル造形工程において造形される分離起点部の形態、延在部の形態は種々の変更が可能であり、また、延在部とシェルとの境界部分に造形される薄肉部や肉厚部の形状も種々の変更が可能であり、それらも本発明の範囲内に包含されるものであることは言うまでもない。
【0072】
なお、上記実施の形態では、分離起点部4aを含むシェル4の造形に用いられるシェル材2が液相材料である場合について説明したが、シェル4の造形は、液相材料を硬化させる方法(液相重合法)に限定されるものではなく、たとえば熱溶解積層方式(Fused Deposition Molding、FDM)等の他の付加製造の方法などが適用されてもよい。
また、コア材6はコア部5に充填後一度に硬化させることが可能であれば、熱硬化性樹脂に限らずたとえば光硬化性樹脂などから構成されていても構わない。
【0073】
本発明は、3Dプリンタなどの付加製造技術の分野において広く適用可能であり、係る分野に本発明を適用することにより、例えば、自動車、航空機、ロボットなどの各種産業機器に用いられる部品、介護用品、スポーツ用品など、特に、軽量且つ高強度が要求される部品、製品の試作のみならず、量産化を実現することが可能となる。
【符号の説明】
【0074】
1 立体造形物
2 シェル材
3 硬化済み紫外線硬化樹脂層
4 シェル
4a 分離起点部
4b 延在部
4c、4h 薄肉部
4d 厚肉部
4e 破断部
4f 破断片
5 コア部
6 コア材
6a 硬化コア材
10 立体造形装置
11 造形槽
12 レーザー光学系
12a 紫外線レーザー光源
12b 走査光学系
12c 紫外線レーザー光
13 コア材供給系
13a コア材タンク
13b ポンプ
13c、13d 配管系
14 ノズル
15 造形台
16 熱硬化手段
20 指
図1
図2
図3
図4
図5
図6