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特開2024-117656線維芽細胞の遊走阻害の抑制剤、線維芽細胞の遊走阻害抑制成分のスクリーニング方法、及び組成物の設計方法
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  • 特開-線維芽細胞の遊走阻害の抑制剤、線維芽細胞の遊走阻害抑制成分のスクリーニング方法、及び組成物の設計方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024117656
(43)【公開日】2024-08-29
(54)【発明の名称】線維芽細胞の遊走阻害の抑制剤、線維芽細胞の遊走阻害抑制成分のスクリーニング方法、及び組成物の設計方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/9789 20170101AFI20240822BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALI20240822BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240822BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20240822BHJP
   A61P 17/18 20060101ALI20240822BHJP
   A61P 39/06 20060101ALI20240822BHJP
   A61K 36/61 20060101ALI20240822BHJP
   A61P 17/16 20060101ALI20240822BHJP
   C12Q 1/06 20060101ALI20240822BHJP
【FI】
A61K8/9789
A61Q19/00
A61P43/00 105
A61P17/00
A61P17/18
A61P39/06
A61K36/61
A61P17/16
C12Q1/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023023871
(22)【出願日】2023-02-17
(71)【出願人】
【識別番号】000113470
【氏名又は名称】ポーラ化成工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100137338
【弁理士】
【氏名又は名称】辻田 朋子
(74)【代理人】
【識別番号】100196313
【弁理士】
【氏名又は名称】村松 大輔
(72)【発明者】
【氏名】後藤 悠
(72)【発明者】
【氏名】三谷 信
【テーマコード(参考)】
4B063
4C083
4C088
【Fターム(参考)】
4B063QA01
4B063QA18
4B063QQ02
4B063QQ08
4B063QQ61
4B063QQ70
4B063QQ91
4B063QR45
4B063QR51
4B063QR72
4B063QR77
4B063QS22
4B063QS36
4B063QX01
4C083AA121
4C083AA122
4C083AC102
4C083AC112
4C083AC122
4C083AC172
4C083AC302
4C083AC432
4C083AD112
4C083AD352
4C083BB51
4C083CC04
4C083DD23
4C083DD27
4C083EE12
4C083EE13
4C083FF01
4C088AB57
4C088AC05
4C088AC06
4C088BA09
4C088CA03
4C088MA59
4C088MA63
4C088NA14
4C088ZA89
4C088ZB21
(57)【要約】
【課題】線維芽細胞の遊走阻害の抑制に関する、新規な技術を提供すること。
【解決手段】メラレウカ・エリシフォリア(Melaleuca ericifolia)の抽出物を有効成分として含む、線維芽細胞の遊走阻害の抑制剤。
【選択図】図3

【特許請求の範囲】
【請求項1】
メラレウカ・エリシフォリア(Melaleuca ericifolia)の抽出物を有効成分として含む、線維芽細胞の遊走阻害の抑制剤。
【請求項2】
前記抽出物が精油である、請求項1に記載の抑制剤。
【請求項3】
前記線維芽細胞の遊走阻害が、活性酸素種によって誘導される、請求項1に記載の抑制剤。
【請求項4】
前記活性酸素種が、過酸化水素及び/又はヒドロキシルラジカルである、請求項3に記載の抑制剤。
【請求項5】
皮膚外用剤である、請求項1~4の何れか一項に記載の抑制剤。
【請求項6】
混合肌又は脂性肌用である、請求項1~4の何れか一項に記載の抑制剤。
【請求項7】
肌におけるシワ、たるみ、ハリの低下、毛穴の目立ち、及び肌荒れから選ばれる1種又は2種以上を、予防、抑制又は改善するためのものである、請求項1~4の何れか一項に記載の抑制剤。
【請求項8】
活性酸素種の存在下における線維芽細胞の遊走距離を指標として、線維芽細胞の遊走阻害を抑制する成分をスクリーニングすることを特徴とする、スクリーニング方法。
【請求項9】
前記活性酸素種及び被験物質の存在下で線維芽細胞を培養する工程と、
培養後の前記線維芽細胞の遊走距離を測定する工程と、
前記遊走距離が、前記活性酸素種の存在下、かつ前記被験物質の非存在下で培養した線維芽細胞の遊走距離と比較して大きい場合に、前記被験物質を前記線維芽細胞の遊走阻害を抑制する成分として選択する工程と、
を備える、請求項8に記載のスクリーニング方法。
【請求項10】
請求項8又は9に記載のスクリーニング方法により選択された線維芽細胞の遊走阻害を抑制する成分と、線維芽細胞における成長因子の産生を促進する成分を、組み合わせる工程を含む、組成物の設計方法。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、線維芽細胞の遊走阻害の抑制剤、線維芽細胞の遊走阻害抑制成分のスクリーニング方法、及び組成物の設計方法に関する。
【背景技術】
【0002】
線維芽細胞は、皮膚の真皮等の結合組織に存在し、細胞外マトリックスの構成成分であるコラーゲン、エラスチン、ヒアルロン酸等を産生する。そして、線維芽細胞は、組織の創傷治癒にも関与することが知られている。例えば、皮膚組織が損傷を受けると、皮膚線維芽細胞は、炎症細胞から放出された増殖因子等に誘引されて損傷部へ遊走し、当該損傷部でコラーゲン線維等を産生することで真皮層を修復する。
【0003】
近年、線維芽細胞の遊走を促進させ、損傷部の治癒に有効に作用する成分の探索が行われている。特許文献1には、ヒュウガナツ抽出物を有効成分とする線維芽細胞遊走促進剤が開示されている。また、特許文献2には、特定のアミノ酸配列を有するポリペプチドが、線維芽細胞の遊走促進活性を有することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2013-241382号公報
【特許文献2】特開2022-025155号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記先行技術のあるところ、本発明は、線維芽細胞の遊走阻害の抑制に関する、新規な技術を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
ところで、紫外線等による環境ストレスに曝された皮膚組織は、活性酸素種が発生することが知られている。本発明者らは、鋭意研究の結果、活性酸素種が存在すると線維芽細胞の遊走が阻害されることを見出した。そして、活性酸素種等により線維芽細胞の遊走が阻害される環境下において、線維芽細胞の遊走を回復させることのできる成分を探索し、本発明を完成させた。
【0007】
上記課題を解決する本発明は、メラレウカ・エリシフォリア(Melaleuca ericifolia)の抽出物を有効成分として含む、線維芽細胞の遊走阻害の抑制剤である。
本発明によれば、線維芽細胞の遊走阻害を抑制することができる。
【0008】
本発明の好ましい形態では、前記抽出物が精油である。
【0009】
本発明の好ましい形態では、前記線維芽細胞の遊走阻害が、活性酸素種によって誘導される。
上記形態を有する本発明は、活性酸素種に起因する線維芽細胞の遊走阻害を抑制することができる。
【0010】
本発明の好ましい形態では、前記活性酸素種が、過酸化水素及び/又はヒドロキシルラジカルである。
【0011】
本発明の好ましい形態では、本発明は皮膚外用剤である。
【0012】
本発明の好ましい形態では、混合肌又は脂性肌用である。
上記形態を備える本発明によれば、皮脂分泌量が多く、皮膚における活性酸素種の産生量が多い対象者であっても、線維芽細胞の遊走阻害の抑制効果を好適に発揮させることができる。
【0013】
本発明の好ましい形態では、肌におけるシワ、たるみ、ハリの低下、毛穴の目立ち、及び肌荒れから選ばれる1種又は2種以上を、予防、抑制又は改善するためのものである。
【0014】
また、本発明は、活性酸素種の存在下における線維芽細胞の遊走距離を指標として、線維芽細胞の遊走阻害を抑制する成分をスクリーニングすることを特徴とする、スクリーニング方法にも関する。
本発明のスクリーニング方法によれば、活性酸素種の存在下であっても線維芽細胞の遊走阻害の抑制効果を発揮し得る成分、又はその候補成分をスクリーニングすることができる。
【0015】
本発明の好ましい形態では、前記スクリーニング方法は、前記活性酸素種及び被験物質の存在下で線維芽細胞を培養する工程と、
培養後の前記線維芽細胞の遊走距離を測定する工程と、
前記遊走距離が、前記活性酸素種の存在下、かつ前記被験物質の非存在下で培養した線維芽細胞の遊走距離と比較して大きい場合に、前記被験物質を前記線維芽細胞の遊走阻害を抑制する成分として選択する工程と、を備える。
【0016】
また、本発明は、上記スクリーニング方法により選択された線維芽細胞の遊走阻害を抑制する成分と、線維芽細胞における成長因子の産生を促進する成分を、組み合わせる工程を含む、組成物の設計方法にも関する。
本発明の組成物の設計方法によれば、線維芽細胞の遊走阻害の抑制作用と、線維芽細胞の活性化作用の両方を有する組成物を設計することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、線維芽細胞の遊走阻害の抑制に関する、新規な技術を提供することができる。具体的には、本発明の線維芽細胞の遊走阻害の抑制剤によれば、活性酸素種の存在下における線維芽細胞の遊走阻害を抑制することができる。また、本発明によれば、線維芽細胞の遊走阻害を抑制する成分をスクリーニングする方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】試験例1における、過酸化水素を添加した場合における線維芽細胞の移動距離を示すグラフである。
図2】試験例2における、ローズマリー精油、ロザリーナ精油、又はラベンダー精油を添加した場合における、DPPHラジカル残存率(%)を示すグラフである。
図3】試験例3における、過酸化水素と、各種精油(ベルガモット精油、マジョラム精油、フランキンセンス精油、ローズマリー精油、ロザリーナ精油、又はラベンダー精油)を添加した場合における、線維芽細胞の移動距離を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
<線維芽細胞の遊走阻害の抑制剤>
(1)配合成分
本発明の線維芽細胞の遊走阻害の抑制剤は、フトモモ科(Myrtaceae)メラレウカ属(Melaleuca)のメラレウカ・エリシフォリア(Melaleuca ericifolia)の抽出物を有効成分として含む。
メラレウカ・エリシフォリアは、別名ラベンダーティーツリーとも呼ばれる。
【0020】
メラレウカ・エリシフォリアの抽出物(以下、エリシフォリア抽出物ともいう。)の抽出部位は、適宜選択することができ、例えば、葉部、茎部、枝部、花部、果実部、根部などが挙げられる。本発明においては、葉及び/又は枝を用いることが好ましい。
【0021】
抽出に際して、エリシフォリア抽出物の抽出部位又はその乾燥物は、予め、粉砕或いは細切して抽出効率を向上させるように加工することが好ましい。抽出部位の乾燥は、天日で行ってもよいし、通常使用されている乾燥機を用いて行ってもよい。
【0022】
抽出は、常圧、若しくは加圧、減圧下で、室温、冷却又は加熱した状態で抽出溶媒に浸漬させて抽出する方法、水蒸気蒸留などの蒸留法を用いて抽出する方法並びに抽出部位を圧搾して抽出物を得る圧搾法などが例示され、これらの方法を単独で、又は2種以上を組み合わせて抽出を行うこともできる。本発明では、水蒸気蒸留法を用いることが好ましい。
【0023】
本発明で使用するエリシフォリア抽出物は、精油(エッセンシャルオイル)であることが好ましい。エリシフォリアの精油は、ロザリーナオイル(Rosalina oil)とも呼ばれる。エリシフォリアの精油は、市販品を用いることができる。
【0024】
また、本発明の線維芽細胞の遊走阻害の抑制剤は、エリシフォリア抽出物以外の植物抽出物を含有してもよい。配合する植物抽出物としては、精油が好ましく挙げられ、具体的には、マヨラナ葉油(別名:マジョラム油、Marjoram oil)、フランキンセンス油(別名:ニュウコウジュ油、Olibanum oil)、ローズマリー油(Rosemary oil)、ベルガモット油(Bergamot oil)、ラベンダー油(Lavender oil)等が好ましく例示できる。
【0025】
(2)用途及び効能
本発明は、線維芽細胞の遊走阻害を抑制する効果を有する。
線維芽細胞は、真皮等の皮膚組織、皮膚支帯等の皮下組織、筋組織、神経組織に存在する細胞である。本発明にかかる線維芽細胞は、例えば、皮膚線維芽細胞、肺線維芽細胞、靭帯線維芽細胞であり、好ましくは皮膚線維芽細胞であり、中でも真皮線維芽細胞が好ましい。
【0026】
また、本発明者らは、上述の通り、活性酸素種存在下で機能が低下した線維芽細胞に、エリシフォリア抽出物を添加することで、該線維芽細胞の遊走能が回復することを見出した。
すなわち、本発明の線維芽細胞の遊走阻害の抑制剤は、活性酸素種によって誘導される線維芽細胞の遊走阻害に対して好適に適用することができる。
【0027】
本発明にかかる活性酸素種は、特に限定されないが、具体的には過酸化水素、ヒドロキシルラジカル(水酸基ラジカル)、一重項酸素、スーパーオキシド等が例示できる。好ましくは、本発明は、過酸化水素及び/又はヒドロキシルラジカル、より好ましくは過酸化水素によって誘導される、線維芽細胞の遊走阻害を阻害する。
【0028】
線維芽細胞は、組織が損傷を受けると、損傷部へ遊走することで組織の修復を開始する。
すなわち、本発明の線維芽細胞の遊走阻害の抑制剤は、線維芽細胞が分布する組織における損傷の改善又は予防のために用いることができる。そして、本発明は、線維芽細胞の有する皮膚組織の損傷部の修復能を回復することから、肌状態の改善、肌状態の低下の予防又は抑制のために用いることができる。なお、本発明において、「改善」とは「治療」を含む。
【0029】
本発明に適用される皮膚の損傷や肌状態としては、肌におけるシワ、タルミ、ハリの低下、色素沈着(シミ)、くすみ、皮膚の肥厚、毛穴の開き、ニキビ痕、表皮、真皮及び/又は皮下組織における創傷(切創、裂創、刺傷、咬創、挫創、挫傷、擦過傷等)、褥瘡、熱傷、瘢痕、ケロイド等が挙げられ、薄毛や脱毛等の頭皮や毛髪の損傷も含まれる。
【0030】
本発明の線維芽細胞の遊走阻害の抑制剤は、肌におけるシワ、たるみ、ハリの低下、毛穴の開き、及び肌荒れから選ばれる1種又は2種以上の予防、抑制又は改善のために用いることが好ましい。
また、本発明では、上記の肌におけるシワ、たるみ等の肌状態の低下は、紫外線、皮脂の増加、ストレス、大気汚染物質に起因するものとすることが好ましい。
【0031】
また、本発明の線維芽細胞の遊走阻害の抑制剤は、混合肌又は脂性肌用のものであることが好ましい。
従来、皮脂の多い皮膚では、アクネ菌が増殖しやすく、アクネ菌が代謝物として産生するポルフィリンに紫外線があたると活性酸素種が大量発生することが知られている。本発明の線維芽細胞の遊走阻害の抑制剤は、このような混合肌又は脂性肌の皮膚に対し適用することで、線維芽細胞の遊走阻害を阻害し、線維芽細胞の組織修復能を回復させることができる。
【0032】
なお、本発明において「脂性肌」とは、皮脂の分泌が多いためにべたつきやすい肌質をいう。
また、「混合肌」とは、脂性肌と乾燥肌の両方が混在する状態をいう。乾燥肌は、皮膚の水分量が少なく、乾燥している肌質を意味する。
【0033】
(3)剤形
本発明の線維芽細胞の遊走阻害の抑制剤は、有効成分であるエリシフォリア抽出物を原液で体内投与等により利用しても良いし、該エリシフォリア抽出物を任意の濃度に希釈して利用してもよい。エリシフォリア抽出物の原液又は希釈液を投与する場合、その投与形態は限定されないが、経皮又は経鼻投与であることが好ましい。
【0034】
また、本発明の線維芽細胞の遊走阻害の抑制剤は、製剤化に用いられる任意の成分と適宜組み合わせて配合することにより、化粧料、医薬部外品、医薬品等の形態とすることができる。本発明では、日常的に使用できることから、化粧料、医用部外品がより好ましい。また、それらの剤形は特に制限されないが、皮膚外用剤又は経鼻製剤であることが好ましい。
【0035】
化粧料として利用する場合には、ローション剤、乳化剤、ゲル剤、クリーム剤、軟膏剤等の形態とすることが好ましい。より具体的には、化粧水、乳液、クリーム、ジェル、パック、ヘアクリーム、スプレー、サンケア品等の形態が挙げられ、特に化粧水、ジェル、乳液、クリーム、クレンジング、又は洗顔料の形態とすることが好ましい。
【0036】
本発明の線維芽細胞の遊走阻害の抑制剤を皮膚外用剤又は経鼻製剤とする場合、有効成分であるエリシフォリア抽出物は、皮膚外用剤又は経鼻製剤全量に対し、好ましくは0.000001質量%~10質量%、より好ましくは、0.00005質量%~5質量%、さらに好ましくは、0.0001質量%~3質量%含有することができる。上記下限値以上であれば、本発明の皮膚外用剤又は経鼻製剤の効果が発揮され、上限値以下であれば効果の頭打ちを避けることができると考えられる。
【0037】
皮膚外用剤及び経鼻製剤中には、炭化水素類、エステル類、トリグリセライド類、脂肪酸、高級アルコール等の油性成分、アニオン界面活性剤類、両性界面活性剤類、カチオン界面活性剤類、非イオン界面活性剤類等の界面活性剤、多価アルコール類、増粘・ゲル化剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、色剤、防腐剤、粉体等を任意に配合することができる。
また、本発明の線維芽細胞の遊走阻害の抑制剤の効果を妨げない限り、本発明にかかるエリシフォリア抽出物以外の有効成分を含有してもよい。有効成分としては、特に限定されないが、美白成分、シワ改善成分、抗炎症成分、動植物由来の抽出物等が挙げられる。
【0038】
本発明の皮膚外用剤の好ましい形態では、有効成分であるエリシフォリア抽出物に加え、線維芽細胞における成長因子の産生を促進する成分をさらに含む。
線維芽細胞における成長因子の産生を促進する成分としては、サフラン(Crocus sativus)抽出物が好ましく例示できる。産生が促進される成長因子としては、血小板由来成長因子(Platelet-Derived Growth Factor,PDGF))及び/又は上皮成長因子(Keratinocyte Growth Factor,KGF)が好適に挙げられる。
線維芽細胞における成長因子の産生を促進する成分を含むことで、線維芽細胞の遊走後における、皮膚等の組織の損傷部の修復を促進することができる。すなわち、エリシフォリア抽出物と共に線維芽細胞における成長因子の産生を促進する成分を含む形態では、組織における損傷の改善又は予防に対し好ましい効果を発揮する。
【0039】
また、本発明の皮膚外用剤及び経鼻製剤は、有効成分であるエリシフォリア抽出物と、上記に記載の任意成分等を常法により処理することにより調製することができる。
【0040】
(4)表示
本発明を皮膚外用剤又は経鼻製剤の形態とする場合、本発明は、「線維芽細胞の遊走阻害の抑制のため」といった用途の表示が付された形態とすることも好ましい。また、用途の表示は、「線維芽細胞の活性化」「肌修復能の改善」「肌のシワ、たるみ、ハリ、毛穴の開き、肌荒れの予防、抑制又は改善」「皮膚の傷の改善」等であってもよい。
【0041】
前記「表示」は、需要者に対して前記用途を知らしめる機能を有する全ての表示を含む。すなわち、前記用途を想起・類推させうるような表示であれば、表示の目的、表示の内容、表示する対象物・媒体等の如何に拘わらず、全て前記「表示」に該当する。
また、前記「表示が付された」とは、前記表示と、皮膚外用剤又は経鼻製剤(製品)を関連付けて認識させようとする表示行為が存在していることをいう。
【0042】
表示行為は、需要者が前記用途を直接的に認識できるものであることが好ましい。具体的には、本発明の線維芽細胞の遊走阻害の抑制剤に係る商品又は商品の包装への前記用途の記載行為、商品に関する広告、価格表もしくは取引書類(電磁的方法により提供されるものを含む)への前記用途の記載行為が例示できる。
【0043】
<スクリーニング方法>
本発明は、活性酸素種の存在下における線維芽細胞の遊走距離を指標として、線維芽細胞の遊走阻害を抑制する成分をスクリーニングすることを特徴とする、スクリーニング方法にも関する。
【0044】
本発明においてスクリーニングする線維芽細胞の活性阻害を抑制する成分は、線維芽細胞の活性阻害を抑制する成分の候補成分も含む。
【0045】
次いで、好ましい実施形態であるスクリーニング方法について説明を加える。当該スクリーニング方法は、培養工程、測定工程、及び選択工程を備える。以下、各工程について詳述する。
【0046】
(i)培養工程
培養工程は、被験物質の存在下で線維芽細胞を培養する工程である。細胞培養の方法は特に限定されず、付着培養(接着培養)等を適宜採用することができる。
【0047】
本発明で使用する線維芽細胞は、特に限定されないが、主に皮膚組織において好適に作用する成分をスクリーニングするという観点からは、皮膚線維芽細胞、より好ましくは真皮線維芽細胞を用いることが好ましい。
【0048】
培養のための培地も特に限定されず、公知のものを使用することができる。DMEM(Dulbecco’s Modified Eagle Medium)などが好適に例示できる。
【0049】
本発明では、活性酸素種の存在下において、培養工程を実施する。添加する活性酸素種は特に限定されず、過酸化水素、DMNQ(2,3-dimethoxy-1,4-naphthoquinone)を用いることができる。本発明では、過酸化水素を用いることが好ましい。
添加する活性酸素種の濃度は、適宜設定することができるが、好ましくは20~100μMであり、具体的には30μMとすることが好ましい。
【0050】
培養工程の期間は特に限定されず、好ましくは3時間以上、より好ましくは6時間以上、さらに好ましくは12時間以上、特に好ましくは1日以上である。培養期間の上限も特に限定されず、目安として、好ましくは1カ月以下、より好ましくは3週間以下、さらに好ましくは2週間以下、特に好ましくは1週間以下である。
【0051】
培養工程においては被験物質の存在下で培養を行う。具体的には培地に被験物質を添加して培養を行う実施形態が挙げられる。被験物質の種類は限定されず、低分子化合物、高分子化合物、タンパク質、ペプチド、核酸など際限なく適用することができる。被験物質は純粋な化合物であってもよいし、2以上の成分を含む混合物、例えば植物や動物の抽出物であってもよい。
【0052】
培養工程では、1種の被験物質を用いてもよいし、2種以上の被験物質を用いてもよい。ここで、被験物質の組み合わせによる相乗効果を評価する場合には、2種以上の被験物質を添加することが好ましい。
【0053】
培養工程においては被験物質の存在下での培養と並行して、比較対象として被験物質の非存在下での細胞培養を実施してもよい。この場合、培養条件は被験物質の有無を除き、一致させておくことが好ましい。
【0054】
(ii)測定工程
測定工程は、培養工程を経た線維芽細胞の遊走距離を測定する工程である。
線維芽細胞の遊走距離の測定は、特に限定されず、既存の方法を適宜採用することができる。例えば、被験物質及び過酸化水素を添加前に、細胞の一部をスクラッチして溝を作製する。次いで、被験物質等を添加して培養後、該溝部分の面積を求めることで線維芽細胞の伸展の長さを算出し、線維芽細胞の遊走距離とすることができる。
【0055】
(iii)選択工程
選択工程は、測定工程にて測定した線維芽細胞の遊走距離に基づいて、線維芽細胞の遊走阻害を抑制する成分を選択する工程である。より具体的には、被験物質の存在下で培養した線維芽細胞の遊走距離が、被験物質の非存在下で細胞を培養した線維芽細胞の遊走距離と比較して大きい場合に、前記被験物質を線維芽細胞の活性阻害を抑制する成分として選択する。
【0056】
ここで、選択工程にて選択した被験物質を、そのまま有効成分として判別してもよいし、または、2次スクリーニングに供するための有効成分の候補として判別しても構わない。
【0057】
<組成物の設計方法>
本発明は、上記のスクリーニング方法により選択された線維芽細胞の遊走阻害を抑制する成分と、線維芽細胞における成長因子の産生を促進する成分を、組み合わせる工程を含む、組成物の設計方法にも関する。
本発明の組成物の設計方法によれば、線維芽細胞の遊走阻害の抑制作用と、線維芽細胞の活性化作用の両方を有する組成物を設計することができる。すなわち、本発明の設計方法では、線維芽細胞の機能をより活性化できる組成物を設計することが可能となる。
【0058】
本発明の組成物の設計方法にかかる、線維芽細胞の遊走阻害を抑制する成分をスクリーニングする方法の実施形態は、上記<スクリーニング方法>の記載を援用する。
【0059】
また、本発明にかかる線維芽細胞の成長因子としては、血小板由来成長因子(Platelet-Derived Growth Factor,PDGF))及び/又は上皮成長因子(Keratinocyte Growth Factor,KGF)が好適に挙げられる。
【0060】
また、本発明で設計する組成物は、好ましくは化粧料である。化粧料の具体的な形態としては、上記<線維芽細胞の遊走阻害の抑制剤>の剤形の記載を好適に採用することができる。
【実施例0061】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、これらは本発明の例示であり、本発明の範囲はこれらに限定されるものではない。
【0062】
なお、以下の試験例で使用するロザリーナ精油は、メラレウカ・エリシフォリア(Melaleuca ericifolia)の葉及び枝から水蒸気蒸留法により抽出されたものである。
【0063】
<試験例1> 活性酸素種による線維芽細胞の遊走阻害の確認
正常ヒト真皮線維芽細胞(NHDF)(クラボウ、Lot No.05884、新生児、Asian/Caucasian)を6×10細胞/wellとなるように24ウェルプレートに播種し、10%ウシ胎児血清(FBS)を含有したDMEM培地でコンフルエントになるまで培養した。次いで、1%FBSを含有したDMEM培地に交換し、オーバーナイトで培養した。
【0064】
得られた細胞について、1mLピペットの先端でウェルの中央をスクラッチして溝を作り、ウェルの様子を顕微鏡にて撮影し、過酸化水素添加前の画像とした。
【0065】
次いで、30μMの過酸化水素を含有したDMEM培地に交換し、16時間培養した。コントロールでは、過酸化水素を含有しないDMEM培地に交換し、同様に培養した。培養後、4%パラホルムアルデヒドで細胞を固定し、ウェルの様子を顕微鏡にて撮影し、過酸化水素添加後の画像とした。
【0066】
得られた過酸化水素添加前後の画像の解析を行った。具体的には、過酸化水素添加前後の画像について、細胞が存在しない溝の部分を選択し、当該選択範囲のピクセル数をImage Jを用いて算出した。次いで、過酸化水素添加前後の画像の溝部分のピクセル数の差分を算出し、細胞の移動距離とした。コントロールの細胞の移動距離を基準値(1)とした場合における、細胞の移動距離の比を、図1に示す。
【0067】
図1に示す通り、過酸化水素を添加した場合、過酸化水素を添加しなかったコントロールと比して、線維芽細胞の遊走距離比が低下していた。よって、活性酸素種の一種である過酸化水素の存在下では、線維芽細胞の遊走が阻害されることが明らかとなった。
【0068】
<試験例2> 活性酸素種存在下における、各種精油のDPPHラジカル残存率の確認
試験サンプルとして、ローズマリー精油、ロザリーナ精油、及びラベンダー精油を、エタノールで20%となるように希釈した。DPPH Antioxidant Assay Kit(株式会社同仁化学研究所)を用いて、製品マニュアルに従い、DPPHラジカル消去能の測定試験を実施した。結果を、図2に示す。
【0069】
図2に示す通り、ローズマリー精油、ロザリーナ精油、及びラベンダー精油の何れを添加した場合も、コントロールと比してDPPHラジカル残存率が有意に低下していた。また、ロザリーナ精油よりも、ローズマリー精油又はラベンダー精油を添加した場合の方が、DPPHラジカル残存率が低くなることが明らかとなった。
よって、ロザリーナ精油は、ラジカル消去能を有するが、その作用はローズマリー精油及びラベンダー精油の方が高いことが示された。
【0070】
<試験例3> 活性酸素種存在下における、各種精油の線維芽細胞の遊走阻害抑制効果の確認
試験サンプルとして、ベルガモット精油、マジョラム精油、フランキンセンス精油、ローズマリー精油、ロザリーナ精油、及びラベンダー精油を、各々、エタノールで10倍に希釈した。
【0071】
試験例1と同様の手順で、NHDFの培養、及び被験物質添加前の画像の撮影まで行った。
次いで、30μM過酸化水素と、最終濃度が0.005%となるように各種精油を添加したDMEM培地で培地交換を行い、24時間培養した。コントロールでは、30μM過酸化水素と、エタノールを添加したDMEM培地で培地交換を行い、同様に培養した。
【0072】
培養後、4%パラホルムアルデヒドで細胞を固定し、ウェルの様子を顕微鏡にて撮影し、被験物質後の画像とした。次いで、試験例1と同様の手順で、被験物質添加前後の画像の解析を行い、各種サンプルの細胞の移動距離を算出した。コントロールの細胞の移動距離を基準値(1)とした場合における、細胞の移動距離比を、図3に示す。
【0073】
図3に示す通り、過酸化水素及びロザリーナ精油を添加した場合には、コントロールと比して細胞の移動距離比が増加していた。すなわち、ロザリーナ精油は、過酸化水素の存在下で阻害されていた線維芽細胞の遊走能を、回復させることができることが示された。
【0074】
一方、ロザリーナ精油以外の精油は、線維芽細胞の遊走能を回復させる効果は見られなかった。ここで、ローズマリー精油及びラベンダー精油は、試験例2によれば、ロザリーナ精油よりもラジカル消去能が高い成分であるといえる。しかしながら、ローズマリー精油及びラベンダー精油を添加しても線維芽細胞の遊走能は回復しないことが、試験例3から明らかとなった。この結果は、単にラジカル消去能が高い成分であっても、過酸化水素等の活性酸素種に起因する線維芽細胞の遊走阻害を抑制できるわけではないことを示している。
【0075】
以上の試験例の結果より、エリシフォリア抽出物(ロザリーナ精油)は、活性酸素種存在下において誘導された線維芽細胞の遊走阻害を、抑制できることが明らかとなった。
よって、エリシフォリア抽出物は、線維芽細胞の遊走阻害の抑制剤として用いることができるといえる。
【0076】
<製造例1>
下記の表1の処方例1に従って、本発明の皮膚外用剤である化粧水を調整した。本処方例は、本分野において公知の方法で製造することができる。
【0077】
【表1】
【0078】
処方例1の化粧水を肌に塗布することにより、線維芽細胞の遊走阻害の抑制効果が期待される。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明は、医薬品及び化粧料等に応用できる。
図1
図2
図3