(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024117728
(43)【公開日】2024-08-29
(54)【発明の名称】床下地材及び床構造
(51)【国際特許分類】
E04F 15/18 20060101AFI20240822BHJP
E04F 15/00 20060101ALI20240822BHJP
【FI】
E04F15/18 602C
E04F15/00 101D
E04F15/18 602F
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024013218
(22)【出願日】2024-01-31
(31)【優先権主張番号】P 2023023856
(32)【優先日】2023-02-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000131810
【氏名又は名称】株式会社ジェイエスピー
(71)【出願人】
【識別番号】303059990
【氏名又は名称】三昌フォームテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094547
【弁理士】
【氏名又は名称】岩根 正敏
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 修
(72)【発明者】
【氏名】菅原 正憲
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 臣司
【テーマコード(参考)】
2E220
【Fターム(参考)】
2E220AA19
2E220AA55
2E220AB06
2E220AC03
2E220CA12
2E220CA30
2E220CA54
2E220CA74
2E220DB15
2E220FA15
2E220GA02Y
2E220GA06Y
2E220GA09Y
2E220GA27Y
2E220GA28Y
2E220GA32Y
2E220GB33Y
2E220GB35Y
2E220GB37Y
2E220GB46X
(57)【要約】 (修正有)
【課題】躯体の不陸に追随し、床面の水平面を容易に形成可能であると共に、軽量衝撃音及び重量衝撃音を共に効果的に低減し得る床下地材を提供する。
【解決手段】可撓性発泡樹脂成形体により長尺な柱状体に形成されており、上面1Aに面材側の部材と当接する面材側当接部10を有し、下面1Bに躯体側の部材と当接する躯体側当接部20、及び躯体側の部材と間隔を隔てて位置する躯体側非当接部30とを有し、上記躯体側当接部と上記躯体側非当接部との間にスリット40が形成されている床下地材1とした。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造物の床を構成する躯体と面材との間に配置される床下地材であって、
上記床下地材は、可撓性発泡樹脂成形体により幅90~300mm、厚み30~300mm、長さ500mm以上の長尺な柱状体に形成されており、
該床下地材は、上面に面材側の部材と当接する面材側当接部を有し、下面に躯体側の部材と当接する躯体側当接部、及び躯体側の部材と間隔を隔てて位置する躯体側非当接部とを有し、
上記躯体側当接部は、少なくとも床下地材の下面の幅方向両端に形成されていると共に、躯体側当接部の躯体側の部材との当接面積[X]と、床下地材が配置される躯体側の部材の面積[Y]との比率[X/Y]が0.1~0.5となるように床下地材の下面に形成されており、
上記躯体側非当接部は、厚み方向における躯体側の部材との間隔が1~10mmとなるように床下地材の下面に形成されており、
上記躯体側当接部と上記躯体側非当接部との間には、床下地材の下面に開口し、厚み方向に延びるスリットが形成されていることを特徴とする、
床下地材。
【請求項2】
上記床下地材の長さが、500~2000mmであることを特徴とする、請求項1に記載の床下地材。
【請求項3】
上記スリットの深さが、15~200mmであることを特徴とする、請求項1又は2に記載の床下地材。
【請求項4】
上記躯体側当接部が、床下地材の下面の周縁に沿って連続的に形成されていることを特徴とする、請求項1又は2に記載の床下地材。
【請求項5】
上記躯体側当接部の幅が、10~50mmであることを特徴とする、請求項1又は2に記載の床下地材。
【請求項6】
上記床下地材を構成する可撓性発泡樹脂成形体が、圧縮強さ3~40N/cm2、見掛け密度12~40kg/m3のポリスチレン系樹脂発泡粒子成形体であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の床下地材。
【請求項7】
請求項1又は2に記載の床下地材が、構造物の床を構成する躯体と面材との間に、200~700mmの間隔ごとに平行に配置されていることを特徴とする、床構造。
【請求項8】
平行に配置された床下地材の上面がカットされ、該カットされた上面により面材側の部材とその略全面が当接する上記面材側当接部が形成されていることを特徴とする、請求項7に記載の床構造。
【請求項9】
平行に配置された床下地材同士の間に、厚み10~200mm、見掛け密度10~30kg/m3の板状発泡樹脂成形体が躯体側の部材と当接するように配置されていることを特徴とする、請求項7に記載の床構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、床下地材に関するもので、特に、躯体の不陸に追随し、床面の水平面を容易に形成可能であると共に、軽量衝撃音及び重量衝撃音を共に効果的に低減し得る床下地材、及び該床下地材を用いた床構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
集合住宅において、上の階から下の階に伝わる歩行音や物の落下音は、居住者にとって気になる騒音である。特に最近の住宅は、気密性の向上により部屋内が反響し易い構造となっており、床衝撃音或いは楽器騒音等のトラブルは増加傾向にある。床衝撃音の種類としては、軽量衝撃音(例えば、スプーンやおもちゃを床に落としたときに響く衝撃音)と重量衝撃音(例えば、走ったり、ジャンプしたりしたときに響く衝撃音)に分類される。
【0003】
床衝撃音の対策技術としては、基礎面(床スラブ)に床支持脚を設け、該支持脚上に床材を敷く構造により、防振対策を床支持脚部分で行い、さらに、圧縮及び引張型の張力調整用の防振ダンパー及び防振体を支持脚部に設け、床衝撃音を減衰させる方法がある(特許文献1)。
【0004】
また、基礎床上に弾性台座を介し支持脚(中空ボルト)を敷設し、床材は、フローリング、溝形成の木質材、フェルト材、板の積層構造で支持脚により支え、衝撃音は、支持脚台座及び溝形成の木質材とフェルト部構造で可撓性を出すことにより遮断する技術がある(特許文献2)。
【0005】
更には、二重構造を採用しない床板構造としての床衝撃音の対策として、可塑性のある床板の技術が開示されている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003-321930号公報
【特許文献2】特開2004-244972号公報
【特許文献3】特開平8-82079号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ここで、特許文献1、2に開示の技術によれば、床構造は、床下に空間を持つ二重構造(浮床)であり、衝撃音を低減するために支持脚部及び床板部材の積層部組合せ、材料への溝加工等の工夫がなされている。これにより衝撃音の低減に効果が出るとしても、床材を伝搬する衝撃音の減衰対策がない。その他にも、床板を支持する支持脚でレベル調整をするため、レベル調整が簡単にできず床の構築に手間がかかる、また支持脚設置により床厚さが増大し、居住空間が狭くなる等の課題もあった。
【0008】
また、特許文献3に開示された技術は、空気層を持つ二重構造ではない点が特許文献1、2の開示技術とは異なるが、床材を伝搬する衝撃音の減衰対策がなされていない点では共通する。その他にも、衝撃音の対策のために木質材に溝加工が必要となり、積層構造を複雑化し、手間の掛かる構造である等の課題を有していた。
【0009】
本発明は、上述した背景技術が有する課題に鑑みなされたものであって、その目的は、躯体の不陸に追随し、床面の水平面を容易に形成可能であると共に、軽量衝撃音及び重量衝撃音を共に効果的に低減し得る新たな床下地材及び該床下地材を用いた床構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記した目的を達成するため、本発明は、次の〔1〕~〔9〕に記載した床下地材及び床構造とした。
〔1〕構造物の床を構成する躯体と面材との間に配置される床下地材であって、
上記床下地材は、可撓性発泡樹脂成形体により幅90~300mm、厚み30~300mm、長さ500mm以上の長尺な柱状体に形成されており、
該床下地材は、上面に面材側の部材と当接する面材側当接部を有し、下面に躯体側の部材と当接する躯体側当接部、及び躯体側の部材と間隔を隔てて位置する躯体側非当接部とを有し、
上記躯体側当接部は、少なくとも床下地材の下面の幅方向両端に形成されていると共に、躯体側当接部の躯体側の部材との当接面積[X]と、床下地材が配置される躯体側の部材の面積[Y]との比率[X/Y]が0.1~0.5となるように床下地材の下面に形成されており、
上記躯体側非当接部は、厚み方向における躯体側の部材との間隔が1~10mmとなるように床下地材の下面に形成されており、
上記躯体側当接部と上記躯体側非当接部との間には、床下地材の下面に開口し、厚み方向に延びるスリットが形成されていることを特徴とする、
床下地材。
〔2〕上記床下地材の長さが、500~2000mmであることを特徴とする、上記〔1〕に記載の床下地材。
〔3〕上記スリットの深さが、15~200mmであることを特徴とする、上記〔1〕又は〔2〕に記載の床下地材。
〔4〕上記躯体側当接部が、床下地材の下面の周縁に沿って連続的に形成されていることを特徴とする、上記〔1〕~〔3〕のいずれかに記載の床下地材。
〔5〕上記躯体側当接部の幅が、10~50mmであることを特徴とする、上記〔1〕~〔4〕のいずれかに記載の床下地材。
〔6〕上記床下地材を構成する可撓性発泡樹脂成形体が、圧縮強さ3~40N/cm2、見掛け密度12~40kg/m3のポリスチレン系樹脂発泡粒子成形体であることを特徴とする、上記〔1〕~〔5〕のいずれかに記載の床下地材。
〔7〕上記〔1〕~〔6〕のいずれかに記載の床下地材が、構造物の床を構成する躯体と面材との間に、200~700mmの間隔ごとに平行に配置されていることを特徴とする、床構造。
〔8〕平行に配置された床下地材の上面がカットされ、該カットされた上面により面材側の部材とその略全面が当接する上記面材側当接部が形成されていることを特徴とする、上記〔7〕に記載の床構造。
〔9〕平行に配置された床下地材同士の間に、厚み10~200mm、見掛け密度10~30kg/m3の板状発泡樹脂成形体が躯体側の部材と当接するように配置されていることを特徴とする、上記〔7〕又は〔8〕に記載の床構造。
【発明の効果】
【0011】
上記した本発明によれば、躯体の不陸に追随し、床面の水平面を容易に形成可能であると共に、軽量衝撃音及び重量衝撃音を共に効果的に低減し得る床下地材及び床構造となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明に係る床下地材の一実施形態を示した斜視図である。
【
図2】本発明に係る床下地材の他の実施形態を示した斜視図である。
【
図3】
図1或いは
図2に示した床下地材のA-A線に沿う部分の拡大断面図である。
【
図4】本発明に係る床下地材の他の実施形態を示した断面図である。
【
図5】本発明に係る床下地材を構造物の床を構成する躯体と面材との間に配置し、軽量衝撃音を受けた際の状態を示した概念的な断面図である。
【
図6】本発明に係る床下地材を構造物の床を構成する躯体と面材との間に配置し、重量衝撃音を受けた際の状態を示した概念的な断面図である。
【
図7】本発明に係る床構造の一実施形態を示した斜視図である。
【
図8】本発明に係る床構造の一実施形態を示した断面図である。
【
図9】本発明に係る床構造の他の実施形態を示した断面図である。
【
図10】実施例として作製した種々の床下地材の断面図である。
【
図11】比較例として作製した種々の床下地材の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、上記した本発明に係る床下地材及び床構造の実施形態を、詳細に説明する。
【0014】
本発明に係る床下地材は、構造物の床を構成する躯体と面材との間に配置されるものである。構造物の床を構成する躯体は、構造物の骨格部材であり、通常、コンクリート系の場合にはコンクリートスラブが対象となり、鉄骨系の場合には軽量気泡コンクリートパネル、プレキャストコンクリートパネルなどが対象となる。また木質系の場合には合板、パーティクルボード等の硬質且つ厚肉の木質パネルなどが対象となる。また面材は、フローリング材、合板、樹脂タイル、又はこれらの組合せなどが挙げられる。これらの面材は、主として構造物の床の表層を形成するものである。
なお、本発明に係る床下地材は、上記したように躯体と面材との間に配置されるものであり、その間に他の部材、例えば後に記載するように緩衝材等を介在させた状態で躯体と面材との間に配置される場合を含むものである。
【0015】
本発明における床下地材は、熱伝導率が好ましくは0.02~0.04W/m・K、更に好ましくは0.023~0.038W/m・K、特に好ましくは0.025~0.035W/m・Kの可撓性発泡樹脂成形体からなるものである。熱伝導率が上記範囲を満足する場合には、十分な断熱性を有する床下地材或いは床構造を形成することができる。
なお、本明細書における上記熱伝導率は、JIS A1412-2:1999の平板比較法(平均温度23℃)により測定することができる。
【0016】
本発明における床下地材は、可撓性発泡樹脂成形体からなる。可撓性発泡樹脂成形体の基材樹脂としては、ポリスチレン,耐衝撃性ポリスチレン等のポリスチレン系樹脂、ポリプロピレン,ポリエチレン等のポリオレフィン系樹脂、ポリエチレンサクシネート,ポリエチレンテレフタレート,ポリ乳酸等のポリエステル系樹脂などを挙げることができる。これらの中でも、圧縮等の機械的物性、軽量性に優れるポリスチレン系樹脂が好ましい。
【0017】
上記ポリスチレン系樹脂には、ポリスチレン、基材樹脂中のスチレン成分単位が50モル%以上であるスチレンと他のコモノマー成分との共重合体(スチレン系共重合体)やポリスチレンと他の熱可塑性樹脂との混合物や複合樹脂が包含される。より具体的には、ポリスチレンやスチレンを主成分とするスチレン-無水マレイン酸共重合体、スチレン-ポリフェニレンエーテル共重合体、スチレン-アクリロニトリル共重合体、スチレン-ブタジエン共重合体、スチレン-アクリロニトリル-ブタジエン共重合体、耐衝撃性ポリスチレン、ポリスチレンまたはスチレン系共重合体とポリオレフィン系樹脂との複合樹脂などが挙げられる。スチレン系共重合体におけるスチレン成分含有量は60モル%以上が好ましく、80モル%以上がより好ましく、特に95モル%以上が好ましい。
【0018】
本発明における床下地材を構成する可撓性発泡樹脂成形体は、特有の目的形状を容易に成形できることから、上記基材樹脂を用いた合成樹脂発泡粒子成形体であることが好ましい。この合成樹脂発泡粒子成形体は、例えば合成樹脂粒子を発泡させて発泡ビーズを得、該発泡ビーズを所定形状の金型内に充填し、蒸気等で加熱して発泡ビーズを融着させることで得られる。
【0019】
上記ポリスチレン系樹脂を用いた合成樹脂発泡粒子成形体を床下地材として用いる場合には、該ポリスチレン系樹脂発泡粒子成形体の圧縮強さは、配置される床の防振性能等の観点から、好ましくは3~40N/cm2、更に好ましくは5~30N/cm2、特に好ましくは10~20N/cm2である。また、見掛け密度は、断熱性能、曲げや圧縮などの機械的強度の観点から、好ましくは12~40kg/m3、更に好ましくは15~35kg/m3、特に好ましくは15~30kg/m3である。
なお、本明細書における上記圧縮強さは、JIS K7220:2006に準拠して求められる10%圧縮強さとして測定される値である。また、上記見掛け密度は、発泡樹脂成形体の重量(kg)を水没法にて求められる発泡樹脂成形体の体積(m3)で除して得られる値である。
【0020】
本発明における床下地材1は、上記した可撓性発泡樹脂成形体からなるものであって、
図1~
図3に示したように、幅Wが90~300mm、厚みTが30~300mm、長さLが500mm以上の長尺な柱状体に形成されたものである。かかる形状寸法の床下地材1とすることにより、取り扱いが良好なものとなり、床構造の構築作業性に優れるものとなると共に、上面を加熱したニクロム線等によるカット作業が容易に行えるものとなり、後に詳述する躯体の不陸調整がし易いものとなる。かかる観点から、幅Wが100~250mm、厚みTが50~200mm、長さLが500~2000mmの柱状体に形成されていることがより好ましく、更には、幅Wが120~200mm、厚みTが50~150mm、長さLが600~1500mmの柱状体に形成されていることが特に好ましい。
なお、床下地材の上記幅W、厚さT、長さLは、それぞれ無作為に選択した5か所以上の測定値の算術平均値である。また、幅は、該床下地材の型内成形時における抜き勾配を考慮し、上方端の幅と下方端の幅との間で数mm~十数mmの差異があるものとすることができる。
【0021】
また、本発明における床下地材1は、躯体と面材との間に配置された状態において、上面1Aに面材側の部材、即ち、面材、或いは面材と本発明の床下地材との間に緩衝材等の他の部材を配した場合には該部材と当接する面材側当接部10を有し、下面1Bに躯体側の部材、即ち、躯体、或いは躯体と本発明の床下地材との間に緩衝材等の他の部材を配した場合には該部材と当接する躯体側当接部20、及び躯体側の部材と間隔を隔てて位置する躯体側非当接部30とを有し、上記躯体側当接部20と上記躯体側非当接部30との間には、床下地材の下面に開口し、厚み方向に延びるスリット40が形成されているものである。かかる構成の床下地材1とすることにより、躯体の不陸に追随し、床面の水平面を容易に形成可能であると共に、軽量衝撃音及び重量衝撃音を共に効果的に低減し得るものとなる。
【0022】
上記床下地材1の上面1Aに有する面材側当接部10は、躯体の不陸(凹凸)に応じて、必要な場合は該床下地材の上面を加熱したニクロム線等によってカットすることにより形成されたものであり、該カットされた上面などにより面材側の部材とその略全面(床下地材の上面の90%以上、好ましくは95%以上)が当接する上記面材側当接部10に形成されていることが、断熱性、防音性、更には歩行感の良好な床構造を提供できるものとなることから好ましい。本発明の床下地材1は、上記したように幅Wが90~300mm、厚みTが30~300mmの長尺な柱状体に形成されたものであるので、上記した上面を加熱したニクロム線等によりカットする作業が容易に行えるものとなる。
【0023】
上記床下地材1の下面1Bに存在する躯体側当接部20は、
図1に示した実施形態のように、床下地材1の下面1Bの少なくとも幅方向両端に形成されているものであり、好ましくは
図2に示した実施形態のように、床下地材1の下面1Bの周縁に沿って連続的に形成されているものである。このような躯体側当接部20を下面に有する床下地材1とすることにより、躯体の不陸(凹凸)を回避して安定的に躯体側の部材上に設置することが可能なものとなると共に、衝撃音、特に軽量衝撃音を効果的に低減し得る床下地材となる。
なお、躯体側当接部20が形成される幅方向両端とは、厳密な幅方向両端のみに限定されるものではなく、本発明の目的効果を阻害しない範囲において、床下地材1の幅方向端の一部に切り欠き等を有していても構わない。例えば、
図4に示したように幅方向両端に切り欠き41が設けられていてもよい。
【0024】
また、上記躯体側当接部20は、該躯体側当接部の躯体側の部材、即ち、躯体、或いは躯体と本発明の床下地材との間に緩衝材等の他の部材を配した場合には該部材との当接面積[X]と、床下地材が配置される躯体側の部材の面積[Y]との比率[X/Y]が、0.1~0.5となるように床下地材1の下面1Aに形成されているものである。かかる比率の躯体側当接部20が床下地材の下面に形成されていることにより、
図5に示したように躯体側の部材との設置面積が小さく、軽量衝撃音が伝播し難い床構造を構築できると共に、重量衝撃音が加わった場合には、
図6に示したように該躯体側当接部20が撓み、躯体側非当接部30が躯体側の部材と接して重量衝撃音が伝播し難いものとなる。かかる観点から、上記比率[X/Y]が0.2~0.4となるように形成されていることがより好ましい。
なお、上記躯体側当接部の躯体側の部材との当接面積[X]は、躯体側当接部20の幅wと躯体側当接部の長さとを掛けることにより求めることができる。また、床下地材が配置される躯体側の部材の面積[Y]は、床下地材の躯体側の部材への投影面積と言えるものであり、床下地材の最大幅と最大長さを掛けることにより算出したものである。
【0025】
また、上記床下地材1の下面1Bに存在する躯体側当接部20は、幅wが10~50mmのものであることが好ましく、15~40mmのものであることがより好ましく、17~35mmのものであることが特に好ましい。この範囲の幅の躯体側当接部20を形成することにより、躯体の不陸(凹凸)に追随して変形(撓み)し易く、床面の水平面を容易に形成可能であると共に、衝撃音、特に軽量衝撃音を効果的に低減し得る床下地材となる。
なお、上記躯体側当接部の幅wは、
図1~
図3に示した該当部分において無作為に選択した5か所以上の測定値の算術平均値である。
【0026】
上記床下地材1の下面1Bに存在する躯体側非当接部30は、厚み方向における躯体側の部材、即ち、躯体、或いは躯体と本発明の床下地材との間に緩衝材等の他の部材を配した場合には該部材との間隔αが、1~10mmとなるように床下地材の下面に形成されているものである。躯体側の部材との間にこのような間隙を有する躯体側非当接部30を形成することにより、軽量衝撃音が作用した場合には躯体側当接部20が変形しても該躯体側非当接部30は躯体側の部材に接触することはなく、軽量衝撃音を伝播し難い床構造を構築でき、重量衝撃音が作用した場合には、該躯体側非当接部30が躯体側の部材と接触し、重量衝撃音を伝播し難い床構造となる。かかる観点から、上記間隔αが1~8mmとなるように床下地材の下面に形成されていることがより好ましく、1~5mmとなるように床下地材の下面に形成されていることが特に好ましい。
なお、上記間隔αは、
図3及び
図5に示した該当部分において無作為に選択した5か所以上の測定値の算術平均値である。
【0027】
上記躯体側当接部20と上記躯体側非当接部30との間に形成されたスリット40は、重量衝撃音が作用した場合に躯体側当接部20を撓み易いものとするために形成されたものであり、躯体側当接部20が撓むことにより躯体側非当接部30が躯体側の部材と接触し、重量衝撃音を伝播し難くすることができる。かかる観点から、躯体側当接部20と躯体側非当接部30との間に連続的に形成されていることが好ましく、
図2に示した実施形態のように、床下地材1の下面1Bの周縁に沿って連続的に躯体側当接部20が形成されている場合には、該躯体側当接部20とその内方に形成された躯体側非当接部30との間の全周に亘って、スリット40を連続的に形成したものとすることが好ましい。
【0028】
また、上記スリット40は、躯体側当接部20を撓み易いものとする観点及び床下地材1の強度を維持する観点から、床下地材1の厚さTの50~90%の深さで形成されていることが好ましく、65~85%の深さで形成されていることが更に好ましい。スリットの深さhの値としては15~200mmが好ましく、50~150mmがより好ましい。さらにスリットの幅sは、重量衝撃音が作用した場合に躯体側当接部20を撓み易いものとする観点から2~30mmが好ましく、3~28mmがより好ましく、4~26mmが更に好ましい。床下地材1は、上記スリット40が形成された箇所のスリット40の深さhを除いた残りの部分の肉厚tが、強度の観点から、該床下地材1の上面を不陸調整のためにカットした場合においても、10mm以上となるように設計されていることが好ましい。
なお、スリット40の上記深さh、幅s、更には該スリットを除く厚みtは、
図3に示したそれぞれの該当部分において無作為に選択した5か所以上の測定値の算術平均値である。
【0029】
上記した本発明に係る床下地材1は、例えば
図7及び
図8に示したように、構造物の床を構成する躯体Pと面材Qとの間に、特定の間隔βごとに平行に配置され、床構造100が構築される。床下地材1は、構造物の床を構成する躯体Pと面材Qとの間に、200~700mmの間隔βごとに平行に配置されていることが好ましい。この際、床下地材1の上面を、躯体Pの不陸(凹凸)を無くして面材Qが水平となるように、加熱したニクロム線等によってカットすることにより、該カットされた上面などにより面材Qとその略全面(床下地材の上面の90%以上、好ましくは95%以上)が当接する面材側当接部10を形成したものとすることが、上記したように断熱性、防音性、更には歩行感の良好な床構造100を提供できるものとなることから好ましい。また、床下地材1の面材側当接部10と躯体側当接部20は、それぞれ面材Qと躯体Pに接着剤等により接着固定されているものとすることが好ましいが、必ずしも接着されていなくてもよい。なお、面材は2枚以上の積層体であってもよい。また、面材が積層体である場合、面材同士の間に制振材等の遮音材料を入れてもよい。
【0030】
上記平行に配置された床下地材1,1同士の間には、繊維系断熱材、板状発泡樹脂成形体のどちらか一方、又は繊維系断熱材と板状発泡樹脂成形体との組み合わせが躯体Pと当接するように配置されていることが好ましい。このような繊維系断熱材、板状発泡樹脂成形体のどちらか一方、又は繊維系断熱材と板状発泡樹脂成形体との組み合わせを床下地材1,1同士の間にすき間なく配置することにより、断熱性の良好な床構造100を構築することができる。但し、
図7、
図8に示したように、板状発泡樹脂成形体50が床下地材1,1同士の間にすき間なく配置される場合には、板状発泡樹脂成形体50と床下地材1とを交互に配置することによって容易に床下地材1の設置間隔βを所望の値とすることできる。上記観点からは、床下地材1,1同士の間にすき間なく板状発泡樹脂成形体50が配置されていることが好ましい。
なお、床下地材1に重量衝撃音が加わった場合には、躯体側当接部20が撓み、躯体側非当接部30が躯体と接するようになる。そのため、床下地材1,1同士の間に板状発泡樹脂成形体50が配置される場合には、板状発泡樹脂成形体50の厚みは、躯体側非当接部の厚み方向における躯体との間隔と同じかそれ以上の隙間ができる厚みとすることが好ましい。かかる観点及び断熱性、強度等の観点から、床下地材1,1同士の間に板状発泡樹脂成形体50が配置される場合には、厚みが10~200mm、見掛け密度が10~30kg/m
3の板状発泡樹脂成形体50であることが好ましい。
【0031】
上記繊維系断熱材としては、例えば、グラスウール、ロックウールが挙げられる。上記板状発泡樹脂成形体50の基材樹脂としては、例えば、ポリ塩化ビニル等の塩化ビニル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリエチレン系樹脂やポリプロピレン系樹脂等のポリオレフィン系樹脂、ポリメチルメタクリレート等のアクリル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂が挙げられる。上記の中でも切削加工性や切り出し易さの観点から、ポリスチレン系樹脂が好ましい。
【0032】
また、本発明に係る床下地材1は、躯体との間及び/又は面材との間に他の部材、例えば緩衝材を介在させた状態で躯体と面材との間に配置され、床構造が構築される。
図9は、面材Qとの間に緩衝材60を介在させた状態で、床下地材1が躯体Pと面材Qとの間に配置され、床構造100が構築された実施形態を示す。このような緩衝材60を介在させた床構造は、さらに軽量衝撃音及び重量衝撃音を共に効果的に低減し得るものとなる。緩衝材60は、床構造の構築にあたって、躯体Pと床下地材1の下面1Bとの間、及び/又は、床下地材1の上面1Aと面材Qとの間にその都度配置することにより介在させてもよいが、床下地材1の上面1A及び/又は下面1Bに、予め緩衝材60を積層させておくことは好ましい。このような緩衝材を積層させた床下地材1とすることにより、
図9に示したような、軽量衝撃音及び重量衝撃音を共に効果的に低減し得る床構造100を容易に構築することができるものとなる。
【0033】
上記緩衝材60としては、例えば、不織布、軟質ウレタン発泡体が挙げられる。緩衝材として不織布を使用する場合には、密度が10~70kg/m3であることが好ましく、15~60kg/m3であることがより好ましい。緩衝材として軟質ウレタン発泡体を使用する場合には、密度が30~150kg/m3であること好ましく、40~130kg/m3であることがより好ましい。軽量衝撃音及び重量衝撃音を共に効果的に低減するとともに良好な歩行感を維持する観点から、上記緩衝材の厚みは、3mm以上20mm以下が好ましく、5mm以上15mm以下がより好ましい。
【0034】
以上、本発明に係る床下地材及び床構造の実施形態を説明したが、本発明は、既述の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した本発明の技術的思想の範囲内において、種々の変形及び変更が可能であることは当然である。
【実施例0035】
以下、上記した本発明に係る床下地材及び床構造を見出した実施例及び比較例を記載するが、本発明は、何らこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0036】
-使用材料-
・床下地材
株式会社ジェイエスピー社製の発泡性ポリスチレンビーズ(商品名;スチロダイアFA200)を原料に用いたポリスチレン発泡粒子ブロック成形体(10%圧縮強さ;14N/cm
2、見掛け密度;20kg/m
3、熱伝導率;0.034W/m・K)を用い、表1及び
図10,
図11に示した種々の形状寸法の床下地材を作製した。
なお、表1において、形状の項に記載した「両側」は、
図1に示した幅方向両端に躯体側当接部を形成したもの、「周縁」は、
図2に示した下面の周縁に躯体側当接部を形成したものである。「角柱」は、下面に凹凸を付けることなく全面を躯体側当接部としたもの、「スリットなし」は、躯体側当接部と躯体側非当接部との間にスリットを設けなかったものである。また、「断熱材」とは、「板状発泡樹脂成形体」のことである。更に、表1に記載した、床下地材の長さL、幅W、厚さT、躯体側当接部の幅w、躯体側非当接部の間隔α、スリットの深さh及びスリットの幅sは、それぞれの該当部分において無作為に選択した10か所の測定値の算術平均値である。また、躯体側当接部の躯体側の部材との当接面積[X]は、躯体側当接部の幅と躯体側当接部の長さとを掛けることにより求め、床下地材が配置される躯体側の部材の面積[Y]は、床下地材の躯体側の部材への投影面積と言えるものであり、床下地材の最大幅と最大長さを掛けることにより算出したものである。
・緩衝材
アキレス株式会社製の軟質ウレタンフォーム(商品名:マーブルフォームLXS、密度45kg/m
3、厚み10mm)を用いた。
・板状発泡樹脂成形体
株式会社ジェイエスピー社製の発泡性ポリスチレンビーズ(商品名;スチロダイアFA200)を原料に用いたポリスチレン発泡粒子ブロック成形体(見掛け密度;15kg/m
3)を用い、厚み25mmと、15mmの2種の板状発泡樹脂成形体を作製した。
・面材
20mm厚みのパーティクルボードの上に12mm厚みの木質系フローリングを積層したものを用いた。
【0037】
-床構造の構築-
・実施例1~6、比較例1~3
厚さ200mmのコンクリートスラブの上に、上記した種々の形状寸法の床下地材をそれぞれ455mmの間隔βを隔てて平行に配置し、その配置した床下地材同士の間に、上記した2種の厚さのいずれかの板状発泡樹脂成形体(表1)をコンクリートスラブと当接するように配置し、その上方に上記した面材を配置することにより、種々の床構造(試験体)を構築した(
図7、
図8参照)。
なお、試験面積は、1.82m×1.82m(3.3m
2)とした。また、躯体であるコンクリートスラブの不陸(凹凸)の存在により、配置した床下地材の上面の略全面が面材側当接部となっていない場合は、該床下地材の上面を加熱したニクロム線によりカットし、面材とその上面の全面(100%)が当接する面材側当接部を形成したものとして上記床構造を構築した。
・実施例7
実施例4と同じ床下地材を使用し、該床下地材の上面にさらに上記した緩衝材を積層した以外は、実施例4と同様にして床構造を構築した(
図9参照)。
【0038】
-衝撃音試験-
各試験体について、軽量床衝撃音レベル低減量の測定を、JIS A1440-1に準拠して行ない、重量床衝撃音レベル低減量の測定を、JIS A1440-2に準拠して行なった。
具体的には、各種の試験体上面の中心を打撃点とし、タッピングマシンによる軽量衝撃(500gのハンマーによるタッピング)、或いはタイヤ衝撃源の重量衝撃をそれぞれ加え、階下に設置したマイクロホンで衝撃音レベルを計測し、コンクリスラブ素面の衝撃音レベルから差し引くことにより軽量および重量床衝撃音レベル低減量を算出した。
各試験体の測定結果を、表2に記載する。
【0039】
【0040】
【0041】
-試験結果-
実施例1~6の床下地材を用いた床構造は、いずれも測定した全ての周波数帯域において、(財)日本建築総合試験所が設定した軽量床衝撃音低減性能の等級ΔLL-3及び重量床衝撃音低減量の等級ΔLH-2の規格値をクリアしており、軽量衝撃音及び重量衝撃音ともに優れた防音効果を有するものであることが分かる。
特に、実施例7の床下地材及び緩衝材を用いた床構造は、測定した全ての周波数帯域において、(財)日本建築総合試験所が設定した軽量床衝撃音低減性能の等級ΔLL-3及び重量床衝撃音低減量の等級ΔLH-4の規格値をクリアしており、軽量衝撃音及び重量衝撃音ともに特に優れた防音効果を有するものであることが分かる。
一方、比較例1~3の床下地材を用いた床構造においては、軽量床衝撃音低減性能の等級ΔLL-3において250Hz及び500Hzが規格値をクリアしておらず、軽量衝撃音における防音効果が十分ではないことが分かる。
なお、軽量床衝撃音低減性能の等級ΔLL-3は、125Hz帯域の低減量が5dB以上、250Hz帯域の低減量が14dB以上、500Hz帯域の低減量が20dB以上、1kHz帯域の低減量が24dB以上、2kHz帯域の低減量が26dB以上の全てを満足するものを、合格とする規格である。
重量床衝撃音低減性能の等級ΔLH-2は、63Hz帯域の低減量が-5dB以上、125Hz帯域の低減量が-10dB以上、250Hz帯域の低減量が-10dB以上、500Hz帯域の低減量が-10dB以上の全てを満足するものを、合格とする規格である。
重量床衝撃音低減性能の等級ΔLH-4は、63Hz帯域の低減量が5dB以上、125Hz帯域の低減量が-5dB以上、250Hz帯域の低減量が-8dB以上、500Hz帯域の低減量が-8dB以上の全てを満足するものを、合格とする規格である。
本発明に係る床下地材は、躯体の不陸に追随し、床面の水平面を容易に形成可能であると共に、軽量衝撃音及び重量衝撃音を共に効果的に低減し得るものであるので、床構造、特に集合住宅における床構造を構築するのに好適に利用することができる。