(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024117733
(43)【公開日】2024-08-29
(54)【発明の名称】バッテリの反応性インピーダンスを測定するシステムおよび方法
(51)【国際特許分類】
G01R 31/389 20190101AFI20240822BHJP
G01R 27/02 20060101ALI20240822BHJP
H01M 10/48 20060101ALI20240822BHJP
【FI】
G01R31/389
G01R27/02 A
H01M10/48 P
【審査請求】未請求
【請求項の数】20
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2024014834
(22)【出願日】2024-02-02
(31)【優先権主張番号】63/483,323
(32)【優先日】2023-02-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】18/541,385
(32)【優先日】2023-12-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】518364964
【氏名又は名称】ルネサス エレクトロニクス アメリカ インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】RENESAS ELECTRONICS AMERICA INC.
【住所又は居所原語表記】1001 Murphy Ranch Road, Milpitas, California 95035, U.S.A.
(74)【代理人】
【識別番号】110002066
【氏名又は名称】弁理士法人筒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】アンソニー・ジョン・アレン
(57)【要約】
【課題】 バッテリの反応性インピーダンスを測定するシステムおよび方法を提供する。
【解決手段】
該方法は、バッテリセルの電圧を測定するステップを含む。さらに、該方法は、バッテリセル内を流れる電流を測定するステップを含む。さらに、該方法は、電圧と電流に基づいて時間オフセットを決定するステップを含むことができる。時間オフセットによって、電圧と電流が同位相になることができる。さらに、該方法は、時間オフセットに基づいて電圧と電流をサンプリングするステップを含む。さらに、該方法は、サンプリングされた電圧とサンプリングされたシフト電流に基づいてバッテリセルのインピーダンスを決定するステップを含むことができる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
バッテリセルの電圧を測定するステップと、
前記バッテリセル内を流れる電流を測定するステップと、
前記電圧と前記電流に基づいて時間オフセットを決定するステップであって、前記時間オフセットによって前記電圧と前記電流が同位相になる、ステップと、
前記時間オフセットに基づいて前記電圧と前記電流をサンプリングするステップと、
サンプリングされた前記電圧とサンプリングされたシフトされた前記電流に基づいて前記バッテリセルのインピーダンスを決定するステップと、
を含む、方法。
【請求項2】
前記バッテリセルに刺激信号を注入するステップをさらに含み、前記刺激信号は、前記電流および前記電圧のうちの一方である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記時間オフセットを決定する前記ステップは、
・ 複数の時間オフセット候補を選択するステップと、
・ 前記複数の時間オフセット候補に対して複数のデータセットを生成するステップと、
・ 前記複数のデータセットに対して複数の標準偏差を決定するステップと、
・ 前記複数の標準偏差に基づいて前記時間オフセットを決定するステップと、
を含む、
請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記複数の時間オフセット候補は、3つの時間オフセット候補を含み、前記複数のデータセットは、3つのデータセットを含み、前記複数の標準偏差は、3つの標準偏差を含む、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記複数の時間オフセット候補は、所定の時間範囲内にある、請求項3に記載の方法。
【請求項6】
前記複数のデータセットを生成する前記ステップは、前記時間オフセット候補の各々に対して、
・ 時間オフセット候補だけ前記電流をシフトするステップと、
・ 前記時間オフセット候補に基づいて前記電圧と前記電流をサンプリングするステップと、
・ サンプリングされた前記電圧をサンプリングされた前記電流で除算して、前記時間オフセット候補に対応するデータセットを生成するステップと、
を含む、
請求項3に記載の方法。
【請求項7】
前記複数の標準偏差に基づいて前記時間オフセットを決定する前記ステップは、
・ 前記複数の標準偏差に線形近似を実行して、前記時間オフセットに対応する最小標準偏差を特定するステップを含む、
請求項3に記載の方法。
【請求項8】
サンプリングされた前記電圧とサンプリングされたシフトされた前記電流に基づいてバッテリセルのインピーダンスを決定する前記ステップは、
・ 前記時間オフセットに対応するデータセットを生成するステップと、
・ 前記データセット内の値の平均を決定するステップと、
・ 前記平均をインピーダンスとして設定するステップと、
を含む、
請求項1に記載の方法。
【請求項9】
コントローラを備える半導体装置であって、前記コントローラは、
・ バッテリセルの電圧を取得するように構成され、
・ 前記バッテリセル内を流れる電流を取得するように構成され、
・ 前記電圧と前記電流に基づいて時間オフセットを決定するように構成され、ここで、前記時間オフセットによって前記電圧と前記電流が同位相になり、
・ 前記時間オフセットに基づいて前記電圧と前記電流をサンプリングするように構成され、
・ サンプリングされた前記電圧とサンプリングされたシフトされた前記電流に基づいて前記バッテリセルのインピーダンスを決定するように構成される、
半導体装置。
【請求項10】
前記コントローラは、前記バッテリセルに刺激信号を注入するように構成され、前記刺激信号は、前記電流および前記電圧のうちの一方である、請求項9に記載の半導体装置。
【請求項11】
前記コントローラは、
・ 複数の時間オフセット候補を選択し、
・ 前記複数の時間オフセット候補に対して複数のデータセットを生成し、
・ 前記複数のデータセットに対して複数の標準偏差を決定し、
・ 前記の標準偏差に基づいて前記時間オフセットを決定するように構成される、
請求項9に記載の半導体装置。
【請求項12】
前記複数の時間オフセット候補は、3つの時間オフセット候補を含み、前記複数のデータセットは、3つのデータセットを含み、前記複数の標準偏差は、3つの標準偏差を含む、請求項11に記載の半導体装置。
【請求項13】
前記複数の時間オフセット候補は、所定の時間範囲内にある、請求項11に記載の半導体装置。
【請求項14】
前記コントローラは、前記時間オフセット候補の各々に対して、
・ 時間オフセット候補だけ前記電流をシフトし、
・ 前記時間オフセット候補に基づいて前記電圧と前記電流をサンプリングし、
・ サンプリングされた前記電圧をサンプリングされた前記電流で除算して、前記時間オフセット候補に対応するデータセットを生成するように構成される、
請求項11に記載の半導体装置。
【請求項15】
前記コントローラは、
・ 前記複数の標準偏差に線形近似を実行して、前記時間オフセットに対応する最小標準偏差を特定するように構成される、
請求項11に記載の半導体装置。
【請求項16】
前記コントローラは、
・ 前記時間オフセットに対応するデータセットを生成し、
・ 前記データセット内の値の平均を決定し、
・ 前記平均をインピーダンスとして設定するように構成される、
請求項9に記載の半導体装置。
【請求項17】
システムであって、
・ バッテリセルと、
・ 前記バッテリセルの電圧を測定するように構成されたセルモニタと、
・ 前記バッテリセル内を流れる電流を測定するように構成されたパックモニタと、
・ コントローラと、
を備え、前記コントローラは、
・ 前記電圧と前記電流に基づいて時間オフセットを決定するように構成され、ここで、前記時間オフセットによって前記電圧と前記電流が同位相になり、
・ 前記時間オフセットに基づいて前記電圧と前記電流をサンプリングするように構成され、
・ サンプリングされた前記電圧とサンプリングされたシフトされた前記電流に基づいて前記バッテリセルのインピーダンスを決定するように構成される、
システム。
【請求項18】
前記コントローラは、
・ 複数の時間オフセット候補を選択し、
・ 前記複数の時間オフセット候補に対して複数のデータセットを生成し、
・ 前記複数のデータセットに対して複数の標準偏差を決定し、
・ 前記複数の標準偏差に線形近似を実行して、前記時間オフセットに対応する最小標準偏差を特定するように構成される、
請求項17に記載のシステム。
【請求項19】
前記複数の時間オフセット候補は、3つの時間オフセット候補を含み、前記複数のデータセットは、3つのデータセットを含み、前記複数の標準偏差は、3つの標準偏差を含む、請求項18に記載のシステム。
【請求項20】
前記コントローラは、
・ 前記時間オフセットに対応するデータセットを生成し、
・ 前記データセット内の値の平均を決定し、
・ 前記平均をインピーダンスとして設定するように構成される、
請求項17に記載のシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願の相互参照]
本出願は、2023年2月6日に出願された「SYSTEM AND METHOD FOR DETERMINING REACTIVE IMPEDANCE OF A BATTERY」と題する米国特許出願第63/483,323号の優先権を主張する。その全文は、参照により本出願に組み込まれる。
【0002】
本開示は、バッテリの反応性インピーダンスを決定するためのシステムおよび方法に関する。
【背景技術】
【0003】
電気自動車や固定ベースエネルギー貯蔵システムで使用されるようなマルチセルバッテリは、バッテリパック内のセルの電圧を測定する複数の回路を有することができるが、この場合、パック内の電流を測定する回路は1つしかない。さらに、これらの電圧測定回路および電流測定回路は、バッテリパック内の異なる位置にある場合もある。これらのバッテリパック内の各セルの複素インピーダンスは、測定された電圧および電流に基づいて決定され得る。この複素インピーダンスを使用して、セルの健全性を監視したり、測定されたインピーダンスのインピーダンス特性から温度情報などを含むセルの様々な情報を抽出したりすることができる。
【発明の概要】
【0004】
一実施形態において、一般に、バッテリの反応性インピーダンスを測定する方法が提供される。該方法は、バッテリセルの電圧を測定するステップを含むことができる。さらに、該方法は、バッテリセル内を流れる電流を測定するステップを含むことができる。さらに、該方法は、電圧と電流に基づいて時間オフセットを決定するステップを含むことができる。時間オフセットによって、電圧と電流が同位相になることができる。さらに、該方法は、時間オフセットに基づいて電圧と電流をサンプリングするステップを含むことができる。さらに、該方法は、サンプリングされた電圧とサンプリングされたシフト電流に基づいてバッテリセルのインピーダンスを決定するステップを含むことができる。
【0005】
一実施形態において、一般に、バッテリの反応性インピーダンスを測定する半導体装置が提供される。半導体装置は、バッテリセルの電圧を取得するように構成されたコントローラを含むことができる。さらに、コントローラは、バッテリセル内を流れる電流を取得することができる。さらに、コントローラは、電圧と電流に基づいて時間オフセットを決定することができる。時間オフセットによって、電圧と電流が同位相になることができる。さらに、コントローラは、時間オフセットに基づいて電圧と電流をサンプリングすることができる。さらに、コントローラは、サンプリングされた電圧とサンプリングされたシフト電流に基づいてバッテリセルのインピーダンスを決定することができる。
【0006】
一実施形態において、一般に、バッテリの反応性インピーダンスを測定するシステムが提供される。システムは、バッテリセルを含むことができる。さらに、システムは、バッテリセルの電圧を測定するように構成されたセルモニタを含むことができる。さらに、システムは、バッテリセル内を流れる電流を測定するように構成されたパックモニタを含むことができる。さらに、システムは、電圧と電流に基づいて時間オフセットを決定するように構成されたコントローラを含むことができる。時間オフセットによって、電圧と電流が同位相になることができる。さらに、コントローラは、時間オフセットに基づいて電圧と電流をサンプリングすることができる。さらに、コントローラは、サンプリングされた電圧とサンプリングされたシフト電流に基づいてバッテリセルのインピーダンスを決定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
以下、添付の図を参照して本発明の様々な実施形態のさらなる特徴、構造、および動作を詳細に説明する。図において、同様の参照符号は同一または機能的に同様の要素を示す。
【
図1】一実施形態における、バッテリの反応性インピーダンスの測定を実現することができる例示的なシステムを示す図である。
【
図2】一実施形態における、バッテリの反応性インピーダンスの測定の実装例を示す図である。
【
図3】一実施形態における、バッテリの反応性インピーダンスの測定のための時間オフセットの決定方法を示す図である。
【
図4】一実施形態における、バッテリの反応性インピーダンスの測定を実現するプロセスを示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下の説明では、本願の様々な実施形態の理解を促すために、特定の構造、構成要素、材料、寸法、処理ステップ、および技術などを含む多数の具体的な詳細が記載されている。しかしながら、当業者であれば、本願の様々な実施形態が、これらの具体的な詳細なしに実現され得ることを理解するであろう。場合によっては、本願を不明瞭にしないために、既知の構造または処理ステップの詳細に関する説明を省略する。
【0009】
図1は、一実施形態における、バッテリの反応性インピーダンスの測定を実現することができる例示的なシステムを示す図である。システム100は、1つまたは複数の半導体装置を用いてバッテリパックを実装することができる。システム100は、バッテリ回路101とコントローラ102とを備えることができる。バッテリ回路101は、バッテリセル108a、...108n(本明細書では「セル108」と総称する)などの少なくとも1つのバッテリセルと、電圧供給部111と、少なくとも抵抗110と、を含むことができる。例示的な一実施形態において、コントローラ102は、少なくとも1つのセルモニタ104a、...104m(本明細書では「セルモニタ104」と総称する)およびパックモニタ106に接続され得る。別の実施形態において、コントローラ102は、少なくとも1つのセルモニタ104とパックモニタ106とを含むことができる。
【0010】
セル108の各々は、例えば、装置または電気/ハイブリッド車の電力を生成するために協働するアノード、カソード、および電解質から構成されたエネルギー貯蔵ユニットであり得る。バッテリセルを構築するために、それぞれ異なる要素を利用した様々なタイプのバッテリセルを採用することができる。例えば、リチウムイオン電池はリチウムベースのアノードを特徴とし、ニッケルマンガンコバルト(NMC)電池タイプはNMCカソード成分を組み込んでいる。電圧供給部111は、例えば10アンペア(A)などの特定の振幅の正弦波電流をバッテリセル108に印加するように構成された電気化学的インピーダンス分光法(EIS)の励起負荷であり得る。正弦波電流の周波数は、0キロヘルツ(kHz)~1kHzの範囲で変化することができる。また、EISの励起負荷は、電圧を使用して励起を加えるように構成され得る。セルモニタ104の各々は、例えば、電圧測定値を含むバッテリセルの情報を監視および受信するように構成された集積回路(IC)であり得る。セルモニタ104の各々は、バッテリセル108のうちの1つまたは複数のバッテリセルに接続され得る。
図1に示す実施形態において、n個のセル108とm個のセルモニタ104が存在することができる。パックモニタ106は、例えば、電流測定値を含む、少なくとも1つのバッテリセルからなるバッテリパック全体の情報を監視および受信するように構成されたICであり得る。セルモニタ104およびパックモニタ106によって取得された情報または測定値は、バッテリの損傷や安全上のリスクにつながる可能性がある過充電、過放電および過熱などの潜在的な危険を防止することができる。抵抗110は、電圧供給部111とバッテリセル108との間に接続され得る。パックモニタ106は、抵抗110を横切る電流を感知し、感知した電流をコントローラ102に供給することができる。抵抗として説明しているが、抵抗110は電流を感知するように構成された抵抗に限定されない。抵抗110は、バッテリ回路101内の電流を感知するように構成された他の任意の回路(例えばホール効果センサ)を備えてもよい。
【0011】
コントローラ102は、例えばプロセッサ、マイクロコントローラ、中央処理装置(CPU)、フィールドプログラマブルゲートアレイ(FPGA)、またはバッテリ回路101を制御して動作させるように構成された他の任意の回路を実装することができる1つまたは複数の半導体装置を含むことができる。図に示す実施形態においてCPUとして説明しているが、コントローラ102はこれらの実施形態においてCPUに限定されない。コントローラ102は、バッテリ回路101を制御して動作させるように構成された他の任意の回路を備えてもよい。コントローラ102は、セルモニタ104やパックモニタ106など、システム100の様々な構成要素を制御するように構成され得る。
【0012】
一態様において、セル108のインピーダンスを測定するために、従来型のシステムがセル108に励起電流を注入することができる。従来型のシステムは、注入された励起電流から生成された、セル108間の電圧と抵抗110を横切る電流を測定することができる。これらの従来型のシステムは、測定された電圧を復調し、高速フーリエ変換(FFT)を使用して復調された電圧を複数回サンプリングして、セル108の大きさや位相インピーダンスなどの情報を取得することができる。別の態様において、同位相および直交(I/Q)復調技術を使用して、インピーダンスの大きさと位相の情報を抽出することができる。しかしながら、FFTおよびI/Q復調技術は比較的高価である場合があり、励起電流は一意である必要があり、励起電流の完全な知識が要求される。さらに、これらの技術では、複素インピーダンスを計算するのに必要な電圧と電流の測定に、正確なタイミング制御を適用する必要がある場合がある。例えばFFT技術では、電圧と電流の両方が同じクロックタイミングで高周波サンプリングされる必要があり、I/Q技術では、一方の成分(電圧または電流)の位相が他方の成分の復調のために知られている必要がある。
【0013】
後述するように、コントローラ102は、高周波サンプリングや、個々の電圧または電流波形の位相などの電圧や電流の正確な知識を用いることなく、セル108の複素インピーダンスを測定するように構成され得る。その代わりに、時間領域ベースのインピーダンス測定システム(ZIS)を採用することで、よりコスト効率がよく、効率的なインピーダンス分光法を実現することができる。本明細書に記載の時間領域ZIS技術は、入力信号の位相に依存する必要がなく、入力信号の周波数への依存性も最小限に抑えることができる。これにより、システムの性能が測定された大きさに大きな影響を与えないことを保証することができる。パックモニタ106による周波数測定値を使用することで、位相誤差も最小限に抑えることができる。さらに、較正なしの2線式バッテリ接続で実装することで、追加の配線が不要になり、4線式システムと比較して製造コストが削減され、効率が向上する。このシステムは、既存の入力フィルタや既存の励起生成システムと互換性があるので、既存のバッテリ監視システムに統合することができる。
【0014】
図2は、一実施形態における、バッテリの反応性インピーダンスの測定の実装例を示す図である。
図2の説明は、
図1に示す構成要素を参照する場合がある。
図2は、電圧波形201と電流波形202の2つの波形を示している。この例示的な実施形態において、電圧波形201は、セルモニタ104によって感知されたセル108のうちの特定のセルの電圧を表すことができ、電流波形202は、パックモニタ106によって感知された電流を表すことができる。電圧波形201および電流波形202によって表される電圧および電流は、時間Tに応じて変化する場合ができる。
【0015】
コントローラ102は、複数の電圧V1、V2、V3などをサンプリングするように構成され得る。ここで、V1、V2、およびV3は、時間t1、t2、およびt3でそれぞれサンプリングされる。また、コントローラ102は、複数の電流値I1、I2、I3などをサンプリングすることができる。ここで、I1、I2、およびI3は、時間t1、t2、およびt3でそれぞれサンプリングされる。コントローラ102は、データセットV(t)/I(t)={V1/I1,V2/I2,V3/I3,...}を生成することができる。純粋に抵抗性のあるバッテリセルにおいて、電圧波形201および電流波形202は同位相である(例えば時間的に整列している)ことができ、データセット内の値は、V1/I1=V2/I2=V3/I3のように互いに等価であることができる。バッテリセルのインピーダンスは、データセットV(t)/I(t)内の値の平均であり得る。したがって、V1/I1=V2/I2=V3/I3のとき、データセットV(t)/I(t)内の値の平均は、値V1/I1、V2/I2、V3/I3のいずれか1つであり得、インピーダンスは、値V1/I1、V2/I2、V3/I3のいずれか1つであり得る。さらに、データセット内の値は互いに等価であるので、データセットV(t)/I(t)の標準偏差はゼロと等価になる。したがって、純粋に抵抗性のあるバッテリセルにおいて、コントローラ102は、対応するセルモニタ104で感知した電圧とパックモニタ106で感知した電流をサンプリングし、サンプリングされた電圧をサンプリングされた電流で割ることで、バッテリセルのインピーダンスを決定することができる。
【0016】
しかしながら、
図2に示すように、電圧波形201と電流波形202の位相がずれている。電圧波形201と電流波形202の位相がずれている場合、データセットのV1/I1、V2/I2、V3/I3のうちの各値は、バッテリセルのインピーダンスからずれることがあり、V1/I1≠V2/I2≠V3/I3のように互いに異なることがある。さらに、電圧と電流の位相がずれている場合、データセットの標準偏差はゼロ以外の値(例えばゼロよりも大きい値)になる。したがって、電圧波形201と電流波形202の位相がずれている場合、コントローラ102は、サンプリングされた電圧とサンプリングされた電流だけに頼ってバッテリセルのインピーダンスを決定することはできない。バッテリセルの電圧と電流の位相がずれているときにバッテリセルのインピーダンスを決定するには、コントローラ102は、
図2に示す時間オフセットdtを決定する時間領域ZIS技術を実行することができる。時間オフセットdtは、電圧波形201と電流波形202を同位相にする時間シフト量であり得る。例えば、
図2に示すように、電流波形202が時間オフセットdtだけ時間シフトされると、電圧波形201と電流波形202が同位相になることができる。なお、純粋に抵抗性のあるバッテリセルにおいて、時間オフセットは、ゼロとみなすことができることに留意されたい。
【0017】
時間オフセットdtを決定すると、コントローラ102は、時間オフセットdtを使用して、バッテリセルのインピーダンスの決定につながる電流値を特定することができる。
図2に示す実施例を参照すると、コントローラ102は、時間t1-dtで電流I1’をサンプリングし、時間t2-dtで電流I2’をサンプリングし、時間t3-dtで電流I3’をサンプリングすることができる。時間オフセットdtだけ電流波形202をシフトさせる(またはdtだけ電圧波形201をシフトさせる)と、電流波形202と電圧波形201とを整列させることができるので、データセットV(t)/I’(t)={V1/I1’,V2/I2’,V3/I3’,...}は、互いに等価な値を含むことができ(例えば、V1/I1’=V2/I2’=V3/I3’)、値V1/I1’、V2/I2’、V3/I3’のいずれか1つをバッテリセルのインピーダンス値とすることができる。なお、純粋に抵抗性のあるバッテリセルの場合と同様に、データセットV(t)/I’(t)の標準偏差がゼロと等価になることに留意されたい。したがって、コントローラ102は、時間オフセットdtを決定し、時間オフセットdtを使用して
図2に示すV1/I1’、またはV2/V2’、またはV3/V3’などの電圧・電流比を特定して、純粋に抵抗性ではないバッテリセルのインピーダンスを決定することができる。
【0018】
図3は、一実施形態における、バッテリの反応性インピーダンスの測定のための時間オフセットの決定方法を示す図である。
図3の説明は、
図1および
図2に示す構成要素を参照する場合がある。
図3に示す実施形態において、コントローラ102は、複数の時間オフセット候補を使用して、時間オフセットdtに対応する位相値を推定することで、時間オフセットdtを決定することができる。
図1を参照すると、一実施形態において、コントローラ102は、バッテリセル108を介して、刺激電流または刺激電圧などの刺激信号を注入することができる。一実施形態において、コントローラ102は、電圧供給部111を制御して刺激信号を供給することができる。セルモニタ104は、対応するバッテリセルに印加されている刺激電圧を感知するように構成され得る。また、パックモニタ106は、バッテリセル108内を流れる刺激電流を感知するように構成され得る。コントローラ102は、dt1、dt2、dt3などの複数の時間オフセット候補を選択することができる。コントローラ102によって選択される時間オフセット候補の数は任意であり得る。コントローラ102は、感知された電圧および電流を取得し、取得した電流に各時間オフセット候補を適用して電流を位相シフトさせる(あるいは時間オフセット候補を適用して電圧を位相シフトさせる)。位相シフト後の各時間オフセット候補について、コントローラ102は、電圧と位相シフトされた電流(または電流と位相シフトされた電圧)をサンプリングして、適用された時間オフセット候補に対応するデータセットを生成することができる。例えば、
図2を参照すると、コントローラ102は、電流波形202をdt1だけ位相シフトし、時間オフセット候補dt1に対応するV(t)/I(t)値を含むデータセットを生成することができる。また、コントローラ102は、電流波形202をdt2だけ位相シフトし、dt2に対応するV(t)/I(t)値を含む別のデータセットを生成し、電流波形202をdt3だけ位相シフトし、dt3に対応するV(t)/I(t)値を含む別のデータセットを生成することができる。
【0019】
一態様において、データセットの標準偏差は、ラジアン単位で表され、
図3に示す実施例では位相値で表されるdtの値の違いによって変化する可能性がある。例えば、時間オフセット候補は、位相値φ1、φ2、φ3として表される。一実施形態において、位相値φで表される時間オフセットdt(ターゲット時間オフセットである)によって電圧と電流が同位相になるので、位相値φに対応するデータセットV(t)/I(t)の標準偏差は、
図3に示す標準偏差曲線301のサンプルで示すように、ゼロまたは最小値となる。コントローラ102が感知された電圧および感知された電流をセルモニタ104およびパックモニタ106から取得すると、位相値φはコントローラ102にとって未知となる。位相値φを特定するために、コントローラ102は、時間オフセット候補dt1、dt2、dt3に対応するデータセットの標準偏差σ1、σ2、σ3をそれぞれ決定することができる。コントローラ102は、決定した標準偏差σ1、σ2、σ3を、時間オフセット候補dt1、dt2、dt3を表す位相値φ1、φ2、φ3にそれぞれ対応付けすることができる。コントローラ102は、標準偏差σ1、σ2、σ3に基づいて位相値φを決定することができる。
【0020】
例えば、コントローラ102は、標準偏差σ1、σ2、σ3を使用して位相値φを推定するために、様々な線形近似技術を実行することができる。
図3に示す実施形態において、コントローラ102は、標準偏差σ1、σ2、σ3のうちの2つ(σ2、σ3など)の間の最適な線303を決定し、残りの標準偏差σ1と交差し、且つ最適な線303に直交する線302を決定することができる。線302と線303が互いに交差する標準偏差値は、コントローラ102によって最小標準偏差として決定され、コントローラ102は、この最小標準偏差に対応付けられた位相を位相値φとして特定することができる。コントローラ102は、位相値φを、時間オフセットdtとして設定可能な時間単位に変換することができる。
【0021】
一実施形態において、コントローラ102は、1つまたは複数の所定の基準に基づいて時間オフセット候補dt1、dt2、dt3を選択することができる。例えば、コントローラ102は、所定の時間オフセット候補値をdt2として設定し、dt3=dt2+t’となるようにdt2に所定の値t’を加算し、dt1=dt2-t’となるようにdt2から所定の値t’を減算することができる。所定の値t’は、(ラジアン単位で)6度以下に変換できる時間値など、比較的小さくすることができる。別の実施例において、コントローラ102は、Xマイクロ秒(μs)のような比較的短い時間だけ、注入されている刺激信号を意図的にシフトさせることができる。ここで、Xは、dt2として設定され、dt1およびdt3は、所定の値t’を加算および減算することでコントローラ102によって決定され得る。
【0022】
一実施形態において、コントローラ102は、標準偏差σ1、σ2、σ3をインピーダンスの決定に使用できるかどうかを判定することができる。例えば、コントローラ102は、標準偏差σ1、σ2、σ3をサンプル標準偏差曲線301にフィッティングすることができる。フィッティング後に、コントローラ102は、標準偏差σ1、σ2、σ3がサンプル標準偏差曲線301の最小点から両側(左右)にあるかどうかを判定することができる。標準偏差σ1、σ2、σ3が最小点から両側にある場合、コントローラ102は、標準偏差σ1、σ2、σ3をインピーダンスの決定に使用できることを判定することができる。すべての標準偏差σ1、σ2、σ3が最小点から片側(左側または右側)にある場合、コントローラ102は、標準偏差σ1、σ2、σ3をインピーダンスの決定に使用できないと判定することができる。標準偏差σ1、σ2、σ3をインピーダンスの決定に使用できない場合、コントローラ102は、時間オフセット候補dt1、dt2、dt3を再選択することができる。
【0023】
コントローラ102は、時間オフセットdtを使用して、バッテリセルのインピーダンスを決定することができる。一実施形態において、
図2に示すように、コントローラ102は、時間t1-dtで電流I1’をサンプリングし、時間t2-dtで電流I2’をサンプリングし、時間t3-dtで電流I3’をサンプリングすることができる。コントローラ102は、データセットV(t)/I’(t)={V1/I1’,V2/I2’,V3/I3’,...}を生成することができ、データセットV(t)/I’(t)内の値の平均を決定することができる。ここで、平均はインピーダンスである。別の実施形態において、
図2を参照すると、コントローラ102は、電流I1’、I2’、I3’がV1、V2、V3とそれぞれ整列するように、dtだけ電流(または電流波形202)をシフト(例えば位相シフト)させることができる。シフト後に、コントローラ102は、時間t1、t2、t3でI1’、I2’、I3’およびV1、V2、V3をサンプリングし、データセットV(t)/I’(t)={V1/I1’,V2/I2’,V3/I3’,...}を生成することができる。コントローラ102は、データセットV(t)/I’(t)内の値の平均を決定することができる。ここで、平均はインピーダンスである。
図1を参照すると、コントローラ102は、バッテリセル108の各々に対して、本明細書に記載のインピーダンスの決定を実行する。
【0024】
図4は、一実施形態における、バッテリの反応性インピーダンスの測定を実現するプロセスを示すフロー図である。プロセス400は、1つまたは複数のブロック402、404、406、および/または408によって示される1つまたは複数の操作、動作、または機能を含むことができる。個別のブロックとして図に示されているが、所望の用途に応じて、様々なブロックを追加のブロックに分割したり、より少ない数のブロックに組み合わせたり、省略したり、異なる順序で実行されたり、並行して実行されたりすることができる。
【0025】
プロセス400は、コントローラ(例えば本明細書に記載のコントローラ102)によって実施され得る。プロセス400は、ブロック402で開始することができる。ブロック402において、コントローラは、バッテリセルの電圧を測定することができる。プロセス400は、ブロック402からブロック404に進むことができる。ブロック404において、コントローラは、バッテリセル内を流れる電流を測定することができる。プロセス400は、ブロック404からブロック406に進むことができる。ブロック406において、コントローラは、電圧と電流に基づいて時間オフセットを決定することができる。時間オフセットによって、電圧と電流が同位相になることができる。プロセス400は、ブロック406からブロック408に進むことができる。ブロック408において、コントローラは、時間オフセットに基づいて電圧と電流をサンプリングすることができる。プロセス400は、ブロック408からブロック410に進むことができる。ブロック410において、コントローラは、サンプリングされた電圧とサンプリングされたシフト電流に基づいてバッテリセルのインピーダンスを決定することができる。
【0026】
一実施形態において、バッテリセルに刺激信号を注入することができる。刺激信号は、刺激電流または刺激電圧であり得る。別の実施形態において、時間オフセットを決定するステップは、複数の時間オフセット候補を選択するステップを含むことができる。さらに、時間オフセットを決定するステップは、複数の時間オフセット候補に対して複数のデータセットを生成するステップを含むことができる。さらに、時間オフセットを決定するステップは、複数のデータセットに対して、複数の標準偏差を決定するステップを含むことができる。さらに、時間オフセットを決定するステップは、複数の標準偏差に基づいて時間オフセットを決定するステップを含むことができる。
【0027】
別の実施形態において、複数の時間オフセット候補は、3つの時間オフセット候補を含むことができる。複数のデータセットは、3つのデータセットを含むことができる。複数の標準偏差は、3つの標準偏差を含むことができる。別の実施形態において、複数の時間オフセット候補は、所定の時間範囲内にあることができる。別の実施形態において、複数のデータセットを生成するステップは、時間オフセット候補の各々に対して、時間オフセット候補だけ電流をシフトするステップを含む。さらに、複数のデータセットを生成するステップは、時間オフセット候補の各々に対して、時間オフセット候補に基づいて電圧と電流をサンプリングするステップを含むことができる。複数のデータセットを生成するステップは、時間オフセット候補の各々に対して、サンプリングされた電圧をサンプリングされた電流で除算して、時間オフセット候補に対応するデータセットを生成するステップを含むことができる。
【0028】
別の実施形態において、複数の標準偏差に基づいて時間オフセットを決定するステップは、複数の標準偏差に線形近似を実行して、時間オフセットに対応する最小標準偏差を特定するステップを含むことができる。別の実施形態において、サンプリングされた電圧とサンプリングされたシフト電流に基づいてバッテリセルのインピーダンスを決定するステップは、時間オフセットに対応するデータセットを生成するステップを含むことができる。さらに、サンプリングされた電圧とサンプリングされたシフト電流に基づいてバッテリセルのインピーダンスを決定するステップは、データセット内の値の平均を決定するステップを含むことができる。さらに、サンプリングされた電圧とサンプリングされたシフト電流に基づいてバッテリセルのインピーダンスを決定するステップは、平均をインピーダンスとして設定するステップを含むことができる。
【0029】
図におけるフローチャートおよびブロック図は、本発明の様々な実施形態によるシステム、方法、およびコンピュータプログラム製品の可能な実装のアーキテクチャ、機能性、および動作を示している。これに関して、フローチャートまたはブロック図における各ブロックは、指定された論理機能を実現するための1つまたは複数の実行可能命令を含む命令のモジュール、セグメント、またはその一部を表すことができる。いくつかの代替的な実装例において、ブロックに示された機能は、図に示す順序からはずれて発生してもよい。例えば、連続して示されている2つのブロックは、実際には、実質的に同時に実現されてもよく、関係する機能に応じて、場合によっては逆の順序で実現されてもよい。また、ブロック図および/またはフローチャートの各ブロック、ならびにそれらのブロックの組み合わせは、指定された機能または動作を実行する、または特別な目的のハードウェアおよびコンピュータ命令の組み合わせを実行する、特別な目的のハードウェアベースのシステムよって実現され得ることに留意されたい。
【0030】
本明細書で使用される用語は、特定の実施形態を説明するためにのみ使用されており、本発明を限定することを意図していない。本明細書で使用される単数を表す用語は、特に明示されない限り、その複数を含むことも意図している。また、本明細書で使用される「備える」という用語は、記載されている特徴、整数、ステップ、動作、要素、および/または構成要素の存在を画定するが、1つまたは複数の特徴、整数、ステップ、動作、要素、構成要素、および/またはそれらの群の存在または追加を排除しないことに留意されたい。
【0031】
添付の特許請求の範囲に記載のすべての手段またはステップと機能要素の対応する構造、材料、操作、およびそれらの等価物は、具体的に記載されている他の要素と組み合わせて機能を実現するための任意の構造、材料、または操作を包含することを意図している。本発明の開示されている実施形態の説明は、例示および説明のために提供されているが、網羅的であること、あるいは開示された形態に限定されることを意図していない。当業者には、本発明の範囲および精神から逸脱することなく、多くの修正および変形を適用することができることが明らかであろう。上述した実施形態は、本発明の原理および実用化を最適に説明するために、また、検討される特定の用途に適するように種々の修正を伴う様々な実施形態について本発明を当業者が理解できるように、選択および説明されたものである。
【外国語明細書】