(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024117735
(43)【公開日】2024-08-29
(54)【発明の名称】二次電池正極用金属化フィルム、およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 4/66 20060101AFI20240822BHJP
【FI】
H01M4/66 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024016101
(22)【出願日】2024-02-06
(31)【優先権主張番号】P 2023023069
(32)【優先日】2023-02-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】391057421
【氏名又は名称】東レKPフィルム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100186484
【弁理士】
【氏名又は名称】福岡 満
(72)【発明者】
【氏名】西村 大
(72)【発明者】
【氏名】荒井 崇
(72)【発明者】
【氏名】安藤 隆
(72)【発明者】
【氏名】藤 信男
(72)【発明者】
【氏名】都地 輝明
【テーマコード(参考)】
5H017
【Fターム(参考)】
5H017AA03
5H017AS10
5H017BB08
5H017BB17
5H017DD06
5H017EE05
5H017EE07
5H017HH00
5H017HH01
5H017HH03
5H017HH07
5H017HH10
(57)【要約】
【課題】本発明は、表面抵抗に比して、接触抵抗が低く、電極活物質との密着力に優れ、かつ活物質の体積変化に対して変形追随可能である金属化フィルムを提供する
【解決手段】樹脂フィルムの少なくとも一方の表面にアルミニウム金属層が形成された金属化フィルムであって、10%圧縮応力が10MPa以上200MPa以下であり、前記アルミニウム金属層のナノインデンテーション法による硬さが、1.0GPa以上2.0GPa以下である、二次電池用金属化フィルムである。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂フィルムの少なくとも一方の表面にアルミニウム金属層が形成された金属化フィルムであって、10%圧縮応力が10MPa以上200MPa以下であり、前記アルミニウム金属層のナノインデンテーション法による硬さが、1.0GPa以上2.0GPa以下である、二次電池正極用金属化フィルム。
【請求項2】
前記アルミニウム金属層のナノインデンテーション法による弾性率が、20.0GPa以上35.0GPa以下である、請求項1に記載の二次電池正極用金属化フィルム。
【請求項3】
最大試験応力250MPaでの圧縮復元率が10.0%以上である、請求項1または2に記載の二次電池正極用金属化フィルム
【請求項4】
前記樹脂フィルムと接していないアルミニウム金属層表面の表面粗さRaが15nm以上60nm以下である、請求項1または2に記載の二次電池正極用金属化フィルム。
【請求項5】
前記アルミニウム金属層の厚みが0.50μm以上3.00μm以下である、請求項1または2に記載の二次電池正極用金属化フィルム。
【請求項6】
前記樹脂フィルムの厚みが1.0μm以上20.0μm以下である、請求項1または2に記載の二次電池正極用金属化フィルム。
【請求項7】
前記樹脂フィルムの厚みをT1(μm)、アルミニウム金属層の厚みをT2(μm)としたとき、T2/T1の値が0.05以上0.5以下である、請求項1または2に記載の二次電池正極用金属化フィルム。
【請求項8】
前記アルミニウム金属層の4端子法で測定した表面抵抗A(Ω/□)と接触抵抗B(mΩ)が下式の範囲である、請求項1または2に記載の二次電池正極用金属化フィルム。
0.05 ≦ B/(A×1000) ≦ 0.50
【請求項9】
請求項1または2に記載の二次電池正極用金属化フィルムの製造方法であって、蒸着源のアルミニウムを、抵抗加熱、誘導加熱、および、電子ビームからなる群から選択される少なくとも一つにより加熱して気化させる際に、アルゴンガスを導入し、真空度9.0×10-3Pa以上、1×10-2Pa以下に制御する真空蒸着法により、樹脂フィルムに前記気化したアルミニウムを蒸着させて成膜する工程を含む、二次電池正極用金属化フィルムの製造方法。
【請求項10】
請求項1または2に記載の二次電池正極用金属化フィルムを備える蓄電素子。
【請求項11】
請求項10に記載の蓄電素子を備える蓄電モジュール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は二次電池正極用金属化フィルム、およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、スマートフォン、タブレット、携帯電話、ノートパソコン、デジタルカメラ、デジタルビデオカメラ、携帯ゲーム機などのポータブルデジタル機器用途、電動工具、電動バイク、電動アシスト補助自転車などのポータブル機器用途、および電気自動車、ハイブリッド車、プラグインハイブリッド車などの次世代自動車用途、さらには太陽光、風力など自然エネルギーによる発電などが普及し、ローカルな電気エネルギーの使用、蓄電の要求が高まり、蓄電池及び蓄電システムの必要性が高まっている。このような背景から蓄電池やキャパシタなどの蓄電素子の需要が高まり、特に、リチウムイオン電池が広く普及している。
【0003】
リチウムイオン電池は、一般的に、正極活物質を正極集電体に積層した正極と、負極活物質を負極集電体に積層した負極との間に、二次電池用セパレータと電解質が介在した構成を有している。また、電気電子機器の小型化や、次世代自動車の電費向上、航続距離延長などの要求から蓄電池の小型化、軽量化が求められると同時に、瞬時に大電流を充放電できる高出力密度化(レート特性の向上)も求められている。
【0004】
一般に、車両に搭載される蓄電池は、重量エネルギー密度を向上させるために、正極および負極がシート状に形成され、同じくシート状に形成されたセパレータを介して、シート状の正極および負極が巻回あるいは積層された状態で、ケース内に納められた構成を有している。シート状の電極板は、集電体となる金属箔の表面に、活物質を含む合剤層を形成した構造をしている。
【0005】
ところで、リチウムイオン電池等に用いられる活物質は、電荷担体(例えばリチウムイオン)を吸蔵・放出可能なものであり、電荷担体の吸蔵・放出に伴って活物質の体積変化が生じる。そのため、活物質の体積変化が繰り返されることにより、活物質自体の微粉化、合剤層の破壊、合剤層の集電体からの剥離、集電体やセパレータ等の破壊等が起こり、これにより蓄電素子のサイクル特性が低下し得る。特に、硫黄系化合物(正極)やケイ素合金やスズ合金といった合金系化合物(負極)のような、今後の電池高容量化を見据えた次世代活物質として検討され、一部採用がはじまっている活物質は、現在一般的に用いられている活物質である層状酸化物(正極)やカーボン系材料(負極)に対し、充放電に伴う体積変化が大きいことが知られている。そのため、今後より一層当該問題の解決が望まれる。
【0006】
かかる問題を解決するために特許文献1では、引張強度の異なる銅層を積層することで、プレス加工時及び充放電時においても皺や変形が入りにくく、かつ、負極活物質と銅箔との高い密着性を保持できる機械的強度(引張強さ)及び表面硬度を有する銅箔が開示されている。また、特許文献2では、特定の酸無水物とジアミンを原料にしたポリイミド樹脂をバインダーとして用いることで、合剤層における活物質同士および合剤層と集電体との接着強度を高める技術が開示されている。一方、特許文献3では、厚み弾性率を特定の値に制御したフィブリル化溶剤紡糸セルロース繊維を含有することで、圧力による変形性を高めたリチウムイオン電池用セパレータが開示されている。また、特許文献4では三次元網目構造を有する多孔質な集電体が開示されている。本技術の集電体はクッション性を有することから、活物質の体積変化が生じても合剤層と集電体との剥離を防止する効果があると思われる。特許文献5では、樹脂からなる基材上に湿式めっき法にて銅等の集電層を形成した集電体とすることにより、樹脂の延性により充放電時の応力を吸収あるいは緩和する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開第2014/112619号
【特許文献2】特開2011-216320号公報
【特許文献3】特開2021-180139号公報
【特許文献4】特許第6016136号公報
【特許文献5】特開2008-171788号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら特許文献1や2の技術は、活物質の体積変化による応力に耐えうる技術の開示であることから、当該技術範囲外の他部材へそのストレスを逃がしているだけであり、本質的な解決とならない場合がある。特許文献3の技術では、活物質の体積変化を吸収する部材が、充放電中のイオンの通り道であるセパレータであるため、充放電中に刻一刻とセパレータ部のイオン透過性が変化する。この場合、電池抵抗が安定せず、レート特性が悪化する場合がある。特許文献4も同様で、充放電中に集電体部の電子伝導性が刻一刻と変化するため、同様にレート特性が悪化する場合がある。特許文献5においては、湿式めっきによって形成された金属層は均一性に劣るほか、剛直なものである。そのため、電池の高エネルギー密度化が進む昨今、特に充放電に伴う体積変化の大きな高容量次世代活物質を用いる場合には、アンカー効果が十分でなかったり、金属層自体が体積変化に耐えられない場合があり、二次電池用金属化フィルムのより一層の改善が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記の課題に鑑み鋭意検討した結果、真空蒸着法を用いて蒸着膜の表面形状、蒸着層機械特性を制御し、さらに金属化フィルム全体としての厚み方向機械特性を制御することで、表面抵抗に比して、接触抵抗が低く、電極活物質との密着力に優れ、かつ活物質の体積変化に対して変形追随可能である金属化フィルム、および、その製造方法を得るに至った。また、その金属化フィルムを用いて作成した正極集電体を使用することで、レート特性、およびサイクル特性に優れる蓄電素子、ならびに蓄電モジュールを得られることを見出した。
【0010】
すなわち、本発明は以下の構成を満たす。
<1>樹脂フィルムの少なくとも一方の表面にアルミニウム金属層が形成された金属化フィルムであって、10%圧縮応力が10MPa以上200MPa以下であり、前記アルミニウム金属層のナノインデンテーション法による硬さが、1.0GPa以上2.0GPa以下である、二次電池正極用金属化フィルム。
<2>前記アルミニウム金属層のナノインデンテーション法による弾性率が、20.0GPa以上35.0GPa以下である、<1>に記載の二次電池正極用金属化フィルム。
<3>最大試験応力250MPaでの圧縮復元率が10.0%以上であることを特徴とする、<1>または<2>に記載の二次電池正極用金属化フィルム。
<4>前記樹脂フィルムと接していないアルミニウム金属層表面の表面粗さRaが15nm以上60nm以下である、<1>または<2>に記載の二次電池正極用金属化フィルム。
<5>前記アルミニウム金属層の厚みが0.50μm以上3.00μm以下である、<1>または<2>に記載の二次電池正極用金属化フィルム。
<6>前記樹脂フィルムの厚みが1.0μm以上20.0μm以下である、<1>または<2>に記載の二次電池正極用金属化フィルム。
<7>前記樹脂フィルムの厚みをT1(μm)、アルミニウム金属層の厚みをT2(μm)としたとき、T2/T1の値が0.05以上0.5以下である、<1>または<2>に記載の二次電池正極用金属化フィルム。
<8>前記アルミニウム金属層の4端子法で測定した表面抵抗A(Ω/□)と接触抵抗B(mΩ)が下式の範囲である、<1>または<2>に記載の二次電池正極用金属化フィルム。
0.05 ≦ B/(A×1000) ≦ 0.50
<9><1>または<2>に記載の二次電池正極用金属化フィルムの製造方法であって、蒸着源のアルミニウムを、抵抗加熱、誘導加熱、および、電子ビームからなる群から選択される少なくとも一つにより加熱して気化させる際に、アルゴンガスを導入し、真空度9.0×10-3Pa以上、1×10-2Pa以下に制御する真空蒸着法により、樹脂フィルムに前記気化したアルミニウムを蒸着させて成膜する工程を含む、二次電池正極用金属化フィルムの製造方法。
<10><1>または<2>に記載の二次電池正極用金属化フィルムを備える蓄電素子。
<11><10>に記載の蓄電素子を備える蓄電モジュール。
【発明の効果】
【0011】
本発明によると、真空蒸着法を用いて蒸着膜の表面形状、蒸着層の厚み方向の機械特性を制御することで、表面抵抗に比して、接触抵抗が低く、電極活物質との密着力に優れ、かつ活物質の体積変化に対して変形追随可能である金属化フィルム、および、その製造方法が得られる。また、その金属化フィルムを用いて作成した正極集電体を使用することで、レート特性、およびサイクル特性に優れる蓄電素子、ならびに蓄電モジュールが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の金属化フィルムの断面概略図である。
【
図2】本発明の金属化フィルムの断面概略図である。
【
図3】本発明の金属化フィルムの断面概略図である。
【
図4】カーボンルツボを用いた誘導加熱方式の蒸着源を用いて結晶粒を大きく緻密に成長させたときのアルミニウム金属層(膜厚1.02μm)表面の電子顕微鏡(SEM)写真である。
【
図5】カーボンルツボを用いた誘導加熱方式の蒸着源を用いて形成したアルミニウム金属層(膜厚1.06μm)の断面の透過電子顕微鏡(TEM)写真である
【
図6】抵抗加熱のボートにアルミニウム金属ワイヤーを連続的に供給するボート加熱方式で成長させたときのアルミニウム金属層(膜厚1.02μm)表面のSEM写真である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明について以下詳細に説明する。
【0014】
<金属化フィルム>
本発明の二次電池正極用金属化フィルム4は、樹脂フィルム1の一方、もしくは両方の面にアルミニウム金属層3を有する(
図1、
図2、
図3)。
【0015】
本発明の金属化フィルムは、10%圧縮応力が10MPa以上200MPa以下である。なおここで10%圧縮応力とは、厚みT0の金属化フィルムにおいて、直径が50μmの平面圧子を用いて、最大荷重490mN(250MPa)、最小荷重4.9mN(2.5MPa)、保持時間2.5秒、負荷速度19.3681mN/秒(9.86MPa/秒)の条件で負荷-除荷試験を行ったとき、負荷時の変位がT0×0.1となったとき(すなわち、金属化フィルム厚みの10%に相当する量だけ圧子が押し込まれたとき)の試験力を言う。測定は、微小圧縮試験機が用いられ、たとえば島津製作所製の「MCTシリーズ」またはこれらと同等品が使用され得る。10%圧縮応力がかかる範囲であることは、従来から知られている金属のみからなる集電箔に比べて、小さな力で厚み方向に変形しやすいことを意味する。このため、活物質の体積変化に対して容易に変形追随可能と考えられる。本発明の金属化フィルムにおいて、樹脂フィルムの選定や金属層の製法や化学種を工夫することにより、10%圧縮応力をかかる範囲にすることができる。10%圧縮応力は、120MPa以下が好ましく、100MPa以下がより好ましく、70MPa以下がなお好ましい。ただし、10%圧縮応力が10MPa未満であると、電極作成時のプレス工程で破断しやすくなるなど、工程通過性が低下する場合があり好ましくない。
【0016】
また、本発明の金属化フィルムは、最大試験応力250MPaでの圧縮復元率が10.0%以上であることが好ましい。なおここで最大試験応力250MPaでの圧縮復元率とは、厚みT0の金属化フィルムにおいて前述の負荷-除荷試験を行ったとき、最大荷重(250MPa)に達したときの変位量をTmax、除荷完了時(2.5MPa)の変位をTminとしたとき、下式で求められる。
式 {(Tmax-Tmin)/T0}×100。
【0017】
最大試験応力250MPaでの圧縮復元率がかかる範囲であることは、従来から知られている金属のみからなる集電箔に比べて、活物質の体積変化への追従度合いが高いことを意味する。本発明の金属化フィルムにおいて、樹脂フィルムの選定や金属層の製法や化学種を工夫することにより、最大試験応力250MPaでの圧縮復元率をかかる範囲にすることができる。最大試験応力250MPaでの圧縮復元率は12.0%以上が好ましく、15.0%以上がより好ましい。最大試験応力250MPaでの圧縮復元率は大きければ大きいほど好ましいが、樹脂フィルムを用いる本発明において、たとえば35.0%以上とするのは実質的に困難である。
【0018】
<アルミニウム金属層>
本発明にかかるアルミニウム金属層3は、アルミニウムを主成分とする層を1層または2層以上積層したアルミニウム金属の集合体である。主成分とは層全体を100原子%としたとき、80原子%を超えることをさす。
【0019】
本発明におけるアルミニウム金属層3の厚みは0.50μm以上3.00μm以下が好ましく、0.70μm以上2.50μm以下であることがより好ましく、0.70μm以上1.50μm以下がさらに好ましい。なお、アルミニウム金属層を樹脂フィルムの両面に形成した場合は、各々の層の厚みが前記厚みを満たすことが好ましい。
【0020】
二次電池電極用途では、表面抵抗および接触抵抗が高い場合、電池内部で抵抗となり、発熱の原因となるため、いずれの電気抵抗も低いほど好ましい。金属化フィルムに、活物質を塗布、充填密度を高めるためのプレス加工を行い、集電体として用いた場合、その面方向の電流拡散、均一性などに関わる表面抵抗では、金属膜表面抵抗が0.15Ω/□以下であることが好ましく、0.05Ω/□以下であることがさらに好ましい。
【0021】
また、金属化フィルムとその表面に形成される活物質層との間の電子移動には、金属化フィルム金属層表面の接触抵抗が影響する。この接触抵抗は、10mm厚のNRスポンジゴムの上に、金属化フィルム4のアルミニウム金属層3が上向きになるようにのせ、25mm×25mmの大きさの金メッキを施した銅板2枚を1mmの間隔をあけてそれぞれの銅板に500gのおもりを乗せ、その2枚の銅板間の抵抗値を言う。内部抵抗上昇を低減するためには金属膜接触抵抗が30mΩ以下であることが好ましく、20mΩ以下であることがさらに好ましい。
【0022】
一方、体積エネルギー密度向上のためには金属化フィルムを薄膜化する必要があり、重量エネルギー密度向上のためには金属化フィルムを軽量化する必要があるため、金属膜を単純に厚くすることは好ましくない。電極の電気抵抗を考慮すれば、アルミニウム金属層の厚みは0.70μm以上が好ましく、1.00μm以上であればより低抵抗となり、内部抵抗の上昇を低減できる。一方、体積エネルギー密度、重量エネルギー密度向上の目的からは電極基材の薄膜化や比重の重い金属の使用量低減を進める必要がある。従って、アルミニウム金属層の厚みは3.00μm以下が好ましく、2.50μm以下であることがより好ましく、1.50μm以下であることが更に好ましい。
【0023】
通常、金属膜の厚みと表面抵抗、接触抵抗の間には相関があり、さらに表面抵抗と接触抵抗の間にも相関がある。金属膜の厚みを大きくすると、表面抵抗は減少し、界面抵抗も低下傾向となる。また、ここでの接触抵抗値は25mm×25mmの2枚の電極面積の接触抵抗と2枚の電極間の膜抵抗(表面抵抗)を含んだ値である。よって、接触抵抗値と表面抵抗値の比[接触抵抗値]/[表面抵抗値]は、表面抵抗の影響が少ない値を示すことができる。また、表面抵抗A(Ω/□)と接触抵抗B(mΩ)の比を表す下式で求められる値が小さいほど、表面抵抗値、または、金属膜の膜厚に比して、接触抵抗が低い、つまり、より薄く、より軽い金属膜で低い接触抵抗を実現していることになる。
式 (接触抵抗B)/(表面抵抗A×1000)。
【0024】
上式で求められる値は0.05以上0.50以下であることが好ましい。上式で求められる値が0.50を超えている場合、接触抵抗が高い、すなわち活物質と金属層とのアンカー効果が弱く、活物質の密着性が低いので好ましくない。上式で求められる値は低ければ低いほど好ましいが、樹脂フィルムの表層にアルミニウム金属層を設ける本発明においては0.05未満とすることは実質的に困難である。
【0025】
本発明にかかるアルミニウム金属層3について、発明者らの鋭意検討の結果、以下に述べるアルミニウム金属層の構造、結晶成長制御によって、アルミニウム金属層自体が適度に柔軟であり、電気抵抗特性に優れ、表面抵抗、金属膜厚みに比して、優れた接触抵抗特性を示すアルミニウム金属層を樹脂フィルム上に形成することに成功し、よって、より薄く、より軽く、電気抵抗特性に優れた二次電池正極用金属化フィルムを得ることができた。
【0026】
具体的には、真空蒸着法でのアルミニウム金属層成膜時にアルミニウム結晶の配向が均一に揃わないように制御し、なおかつ、金属膜の結晶成長を制御することにより、特定の結晶配向に極端な偏りがなく、それによってアルミニウム金属層自体が柔軟になるものである。なおかつ、アルミニウム金属層の最表面側には制御された結晶サイズのアルミニウム結晶を成長させて、表面凹凸を大きくすることで、前述の抵抗特性を実現するとともに、後加工で塗布・プレスして形成される活物質層との密着力やロールトゥロール構成における搬送性や、耐傷性などをも両立させるため、金属膜最表面までアルミニウム結晶を大きく成長させた場合には、アルミニウム金属層の表面近傍は粗密になることを防止している。このようにして、アルミニウム金属層3を形成することで、表面抵抗に比して、接触抵抗を低くできる特徴をもつ。
【0027】
金属膜のアルミニウム金属の結晶成長を制御して接触抵抗低減、加工適性の向上、活物質層との密着力を高めたアルミニウム金属層3は、ナノインデンテーション法による硬さが、1.0GPa以上2GPa以下という特徴を持つ。ナノインデンテーション法による硬さは、活物質と金属層とのアンカー効果の発現や、活物質体積変化への追従の観点から、1.0GPa以上1.7GPa以下が好ましく、1.0GPa以上1.5GPa以下がより好ましい。ナノインデンテーション法による硬さが2.0GPaを超えると、活物質と金属層とのアンカー効果が発現しにくくなり、活物質と金属化フィルムとの密着力が低下し、サイクル特性が低下する場合がある。ナノインデンテーション法による硬さが1.0GPa未満であると、活物質が金属層に過度にめり込んでしまい、金属層が破断する虞がある。
【0028】
ここで、ナノインデンテーション法による硬さとは、超微小硬度計を用い、圧子としてダイヤモンド製三角錐圧子を用いて下記のナノインデンテーション法(連続剛性測定法)による測定を行い、測定結果から下記の算出法によって求めたものであり、金属化フィルム状の金属層の特性を、樹脂フィルムの影響を受けずに表すものである。
【0029】
金属薄膜層に対し、三角錐圧子(Berkovich圧子)を用いて押し込み負荷/除荷試験を行い、荷重-押しこみ深さ線図を取得する。
【0030】
最大荷重時の硬さHは、荷重Pと、押し込み後に弾性変形分が回復し、残存する圧痕の投影面積Aを用いて下記式(1)のように定義される。
H=P/A (1)。
【0031】
圧痕の投影面積Aは、下記式(2)から求められる。
A=ηkhc
2 (2)
ここで、ηは圧子先端形状の補正係数であり、kは圧子の幾何学形状から求まる定数であり、Berkovich圧子ではk=24.56であり、hcは有効接触深さであり、下記式(3)で表される。
hc=h-ε{P/(dP/dh)} (3)
ここで、hは測定される全変位であり、dP/dhは得られた荷重-押しこみ深さ線図における除荷時の初期勾配であり、εは圧子の幾何学形状から求まる定数であり、Berkovich圧子では0.75となる。
【0032】
式(1)、式(2)および式(3)から、最大荷重Pmaxにおける硬さH、すなわち本発明における金属化フィルムのナノインデンテーション法による硬さが下記式(4)から算出される。
H=Pmax/(ηkhc
2) (4)
なお、式(3)におけるdP/dhは、下記の連続剛性測定法を用いて算出される。
【0033】
連続剛性測定法とは、押しこみ試験中に圧子を微小振動させ、振動に対する応答振幅、位相差を時間の関数として取得し、押しこみ深さの連続的変化に対応して、dP/dhを連続的に算出する方法である。以下にその原理を示す。
【0034】
金属薄膜層に圧子が侵入する方向の力の総和(検出荷重成分)F(t)は、下記式(5)で表される。
F(t)=m(d2h/dt2)+D(dh/dt)+Kh (5)
ただし、式(5)の第1項は圧子軸由来の力(m:圧子軸の質量)であり、式(5)の第2項は金属薄膜層および圧子系の粘性的成分由来の力(D:損失定数)であり、式(5)の第3項は金属薄膜層、荷重系枠(ロードフレーム)のコンプライアンス、圧子軸を支える板ばねの剛性が複合された力(K:複合剛性)であり、tは時間である。
【0035】
式(5)のDおよびKは下記式(6)、式(7)で表される。
K={(dh/dP)+Cf}-1+Ks (6)
D=Ds+Di (7)
ただし、Cfはロードフレームのコンプライアンスであり、Ksは圧子軸を支える板ばねの剛性であり、Dsは圧子系の損失定数であり、Diは金属薄膜層の損失定数である。
【0036】
また、式(5)のF(t)は、時間に依存することから下記式(8)のように表される。
F(t)=F0exp(iωt) (8)
ただし、F0は定数であり、ωは角振動数である。
【0037】
(8)式を(5)式に代入し、常微分方程式の特別解である下記式(9)式を代入して方程式を解くと、下記式(10)のようにdP/dhが計算される。
h=h0exp{i(ωt-φ)} (9)
dP/dh=[1/{(F0/h0)cosφ-(Ks-mω2)}-Cf]-1 (10)
ただし、φは位相差である。式(10)式において、Cf、m、Ksは測定時に既知であることから、金属化フィルムについて測定している時に、変位の振動振幅(h0)、位相差(φ)と励起振動振幅(F0)を計測することによって、式(10)から押しこみ深さの連続的変化に対応して、dP/dhを連続的に算出できる。こうして得られた値を、式(3)に代入する。
【0038】
金属膜のアルミニウム金属の結晶成長を制御して接触抵抗低減、加工適性の向上、活物質層との密着力を高め、さらに活物質の体積変化に対して柔軟に追従できうるアルミニウム金属層3は、ナノインデンテーション法による弾性率が、20.0GPa以上35.0GPa以下であることが好ましい。活物質と金属層とのアンカー効果の発現や、活物質体積変化への追従の観点から、ナノインデンテーション法による弾性率は20.0GPa以上32.0GPa以下が好ましく、25.0GPa以上32.0GPa以下がより好ましい。ナノインデンテーション法による弾性率が35.0GPaを超えると、活物質体積変化に金属層が追従できなくなることがあり、合剤層と金属化フィルムとが剥離し、サイクル特性が低下する場合がある。ナノインデンテーション法による弾性率が20.0GPa未満であると、電極作成時のプレス工程等で金属層が破断する虞がある。
【0039】
ここで、ナノインデンテーション法による弾性率とは、超微小硬度計を用い、圧子としてダイヤモンド製三角錐圧子を用いて下記のナノインデンテーション法(連続剛性測定法)による測定を行い、測定結果から下記の算出法によって求めたものであり、金属化フィルムの金属層の特性を、樹脂フィルムの影響を受けずに表すものである。
【0040】
前述のナノインデンテーション法による硬さの算出と同様に荷重-押しこみ深さ線図を取得する。圧子の弾性変形の寄与を含んだ複合弾性率E*と荷重-押し込み深さの線図における除荷時の初期勾配dP/dhとの間には式(11)の関係が成立する。
dP/dh=β・2/√π・√A・E* (11)
ここでβは圧子の圧子の形状で決まる定数であり、Berkovich圧子ではβ=1.034となる。
【0041】
また、複合弾性率は式(12)のように表される。
1/E*={(1-ν2)/E}+{(1-νi
2)/Ei} (12)
ここでν、Eは試料のポアソン比と弾性率、νiとEiは圧子のポアソン比と弾性率である。ダイヤモンド圧子を用いる場合、既知のEi、νiを用いることができ、式(2)(3)(11)(12)および式(10)を用い、金属層のポアソン比込みの弾性率E/(1-ν2)、すなわち本発明における金属化フィルムのナノインデンテーション法による弾性率が算出される。
【0042】
金属膜のアルミニウム金属の結晶成長を制御して接触抵抗低減、加工適性の向上、活物質層との密着力を高め、金属層の厚み方向の機械特性が適度に柔軟なアルミニウム金属層3の表面の特徴として、アルミニウム金属層3の樹脂フィルム1と接していない表面の表面粗さRaが15nm以上60nm以下であることが好ましく、20nm以上55nm以下であることが更に好ましい。アルミニウム表面が十分粗化され、凸部と凹部の高さにある程度の大きさが確保された時に接触抵抗が低くなる傾向があり、表面粗さRaは大きい程好ましい傾向になる。ただし、表面粗さRaが大きすぎると薄いアルミニウム金属層3の最表面近傍はアルミニウム密度が粗密になり、結晶粒界も比較的大きくなるために、搬送時など金属膜に応力負荷がかかった際に、金属膜が破断する原因になり得るため、60nm以下であることが好ましい。
【0043】
アルミニウム金属層3の結晶構造・配向、最表面の表面構造、金属層の厚み方向の機械特性を制御する手段として、蒸着時の基材、すなわち、樹脂フィルムの表面温度を上げることで、柱状結晶は大きく緻密に、そして1つの配向に偏ることなく緻密な膜の形成を実現する。
【0044】
ただし、基材が樹脂フィルムの場合、基材温度を上昇させると溶融して破断してしまうため、工夫せず作製すると、基材温度を上げることができず、真空蒸着法で作製したアルミニウム金属層化フィルムの金属粒子は隙間が大きい柱状結晶膜になってしまう。
【0045】
本発明では基材が樹脂フィルムであっても、基材の表面温度を上げながらアルゴンガスを導入しながら、蒸着時の真空度を適切な範囲に制御することで、アルミニウム金属層の柱状結晶を大きく緻密に成長させ、結晶粒を大きくし、なおかつ、金属層自体の柔軟性、具体的にはナノインデンテーション法による弾性率や硬さを制御することに成功した。このようにアルミニウム金属層を形成することで、アルミニウム金属層表面に適度な凹凸を形成させることにも成功した。樹脂フィルムを裏面から強制的に冷却しながら、蒸着源の発熱量を大きくすることで、蒸着源に向かって露出している樹脂フィルムの表面近傍のみの温度を上昇させて、柱状結晶は大きく緻密にすることが可能となった。また、蒸着時の真空度は9.0×10-3Pa以上、2×10-2Pa以下の範囲に制御することが好ましく、9.0×10-3Pa以上、1×10-2Pa以下の範囲に制御することがさらに好ましい。
【0046】
また、基材表面温度が上昇しやすいように蒸着源の発熱量を出来るだけ大きくし短時間で成膜することが好ましく、その観点では、発熱量の大きい、カーボンルツボを用いた誘導加熱方式や、電子ビームにより加熱する方式の蒸着源を用いることで、蒸着源の発熱量を大きくし、結晶粒を大きく緻密に成長させることが好ましい。ただし、そのままでは樹脂フィルムは熱により溶融してしまうので、溶融しない直前の温度まで、樹脂フィルムを裏面から強制的に冷却することでアルミニウム金属層の柱状結晶を大きく緻密に成長させることが好ましい。樹脂フィルムへの熱影響の観点では、ボート方式の抵抗加熱式蒸着が好ましい。さらにアルゴンガスを蒸着中に導入することでアルミニウム金属層表面に更に凹凸を形成させることが可能となる。
【0047】
図4および
図5は、樹脂フィルム(ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム)の表面粗さRaが38nmであるその上に、発熱量の大きいカーボンルツボを用いた誘導加熱方式の蒸着源を用いて、結晶粒を大きく緻密に成長させたときのアルミニウム金属層表面および断面のSEMまたは断面TEM写真である。
図4は1.02μmの厚さのアルミニウム金属層の表面SEM写真、
図5は1.06μmの厚さのアルミニウム金属層の断面TEM写真である。
図4および
図5から、結晶粒を大きくすることで、アルミニウム金属層表面に適度な凹凸を形成できていることが判別できる。このときの表面粗さRaは
図4で49nmであった。なお、
図5の断面TEM写真からは、アルミニウム金属層が柱状結晶であり、アルミニウム金属層表面の凹凸の凸部が一つの柱状結晶に相当することが判別できる。これより、アルミニウム金属層表面の凹凸の凸部の大きさが大きいほど柱状結晶が大きく緻密であることが推測される。
【0048】
一方、
図6は、抵抗加熱のボートにアルミニウム金属ワイヤーを連続的に供給する、ボート加熱方式で成長させたときのアルミニウム金属層表面のSEM写真である。
図6は1.02μmの厚さのアルミニウム金属層を本発明で見出したアルゴンガスの導入、真空度の精密な制御を行い、アルミニウム結晶成長を制御した結果であり、表面SEM写真が示す通り、適度な凹凸を形成できて、このときの表面粗さRaは34nmであった。結晶粒を大きく、緻密な金属膜にさせるためには、熱源である蒸着源にある程度の時間露出させる必要があり、結果的に蒸着時間を長くすることが必要であり、アルミニウム金属層厚は0.50μm以上の厚みであることが好ましく、0.70μm以上であればさらに好ましく、1.00μm以上であれば特に好ましい。
【0049】
<アルミニウム金属層の作製方法>
アルミニウム金属層3の成膜方法としては、薄い電極作製を作製する目的で、接着剤を用いず、薄い樹脂フィルムに金属膜を形成できる真空蒸着法が好ましい。真空蒸着法には誘導加熱蒸着法、抵抗加熱蒸着法、レーザービーム蒸着法、電子ビーム蒸着法などがあるが、その中でも蒸着源の発熱量の大きい電子ビーム蒸着法、レーザービーム蒸着法、誘導加熱蒸着法が好適に用いられる。蒸着源の発熱量は、アルミニウム金属層3の結晶粒を大きくかつ緻密に形成するまで、大きくする必要があり、基材表面温度が十分高いことが必要であるが、実測することが困難であるため、蒸着後のアルミニウム金属層3が必要な物性であることを確認して、十分な熱量であるかどうかを判断する。ただし、蒸着源の発熱量を必要な熱量まで上昇させると、通常の真空蒸着法の冷却機能の管理では樹脂フィルムの温度が上昇して溶解しまう可能性があるため、蒸着中は温度が上昇しすぎないように、フィルムを均一に冷却出来るように冷却機能を管理しながら蒸着する必要がある。具体的には、冷媒で十分冷やされた金属製の板もしくは金属ロールからなる冷却機構で蒸着面の裏面から均一に冷却する必要がある。均一に冷却するためには樹脂フィルムと冷却機構の間に隙間を作らずに密着させることが必須となる。
【0050】
例えば、冷却機構の金属ロールにキズがあるとキズの部分が隙間となり、キズ部分で樹脂フィルムが冷却できず、溶解してしまう。例えば、異物が樹脂フィルムと冷却機構の金属ロールに入り込むと、異物で樹脂フィルムが冷却できず溶解してしまう。蒸着源の発熱量を必要な熱量まで上昇させると、通常の真空蒸着法では許容される金属ロールのキズや異物混入が問題となるため、金属ロールのキズや異物混入の管理は更に厳しくする必要がある。これらの蒸着源の発熱量の増加および冷却機能の管理の強化により、アルミニウム金属層3の結晶粒を大きく成長させかつ緻密に形成させ、接触抵抗を含む内部抵抗の低下、および金属層の厚み方向の機械特性、具体的にはナノインデンテーション法による弾性率や硬さの制御につなげることが可能となる。特に電子ビーム蒸着法、レーザービーム蒸着法の場合は、蒸着ルツボにカーボンルツボよりも保温性に優れたアルミナルツボを採用することで、より蒸着源の発熱量を大きくすることが出来るため、更に好ましい。
【0051】
また、金属を蒸着しているときの真空度は9.0×10-3Pa以上、1×10-2Pa以下であることが好ましい。本発明において表面凹凸を好ましい表面粗さ範囲にするが、真空蒸着での金属膜表面の凹凸の大きさは、蒸着中の被蒸着物である基材温度と真空度に大きく影響を受ける。本発明において被蒸着物である樹脂フィルム1の温度を限界まで高めるとともに、真空度を真空度は9.0×10-3Pa以上、1×10-2Pa以下にすることで、好ましい表面粗さ範囲にコントロールする。具体的にはアルゴンガスを導入しながら真空ポンプに排気することで金属表面の凹凸が大きくなりやすい真空度9.0×10-3Pa以上を保つ。また、蒸着金属膜の成膜速度を維持するために、アルゴンガスを入れ過ぎないように調整し、1×10-2Pa以下を維持する。
【0052】
なお、本発明において、二次電池の体積あたりの電池容量(エネルギー密度)向上のために、集電体の両面に活物質層を設けることは好ましい。
図3は、樹脂フィルム1の両方の面にアルミニウム金属層3を設ける構成を示す。そのような構成は、上記の工程にて作成したもの(樹脂フィルム1の片方の面にアルミニウム金属層3を設けたもの)の反対の面について、同様の工程を行うことで得ることができる。
【0053】
<樹脂フィルム>
本発明で用いられる樹脂フィルム1は、合成樹脂などの高分子を薄い膜状に成型したものが好ましい。また、リチウムイオン電池などの二次電池で使用される電解液と反応しない、耐性を有する樹脂が好ましい。本発明で好適に用いられる樹脂フィルムとして、例えば、ポリエステルフィルム、ポリエステルフィルムの中でもポリエチレンテレフタレートフィルムやポリエチレンナフタレートフィルム、または、ポリイミドフィルム、ポリフェニレンサルファイドフィルム、ポリプロピレンフィルムが例示される。このうち、厚み方向の機械特性が適度に柔軟であることから、ポリプロピレンフィルムまたはポリエチレンテレフタレートフィルムが好ましく用いられ、ポリエチレンテレフタラートフィルムが特に好ましく用いられる。これらの樹脂フィルムは単独で用いても構わないし、複合されたものを用いても構わない。また樹脂フィルム表面に樹脂や粘着剤等をコーティングしたものを用いても構わない。また、樹脂フィルムはその機械特性や熱寸法安定性などの観点から、二軸延伸された二軸延伸フィルムであることが好ましい。一軸延伸フィルムや未延伸フィルムでは熱寸法安定性の不足や機械特性の不足によって寸法が変化し、二次電池の安全性が低下する、あるいは電池容量がばらつくなどの原因となり好ましくない。
【0054】
かかる樹脂フィルム1の厚さは1μm以上20μm以下であることが好ましく、3μm以上10μm以下であることがさらに好ましく、4μm以上8μm以下であることが特に好ましい。電極基材の薄膜化、しいては蓄電素子、蓄電素子を使用した蓄電モジュールの小型化、軽量化、エネルギー密度向上のために、樹脂フィルムの厚さは薄い方がより好ましく、20μm以下であることが好ましく、10μm以下であることが更に好ましく、8μm以下であることが特に好ましい。ただし、あまりに薄いと金属化フィルム全体として厚み方向に過度に剛直になりすぎてしまい、活物質体積変化への追従がしにくくなる場合がある。そのため、樹脂フィルムの厚さは1μm以上であることが好ましく、3μm以上であることが更に好ましく、4μm以上であることが特に好ましい。
【0055】
なお、樹脂フィルムの厚さは、金属化フィルムから塩酸等を用いてアルミニウム金属層を除去したものにつき、ダイヤルゲージを用い、JIS K7130(1992年)A-2法に準じて測定することができる。
【0056】
前記樹脂フィルムの表面粗さRaは任意で良いが、極端に平滑性が高い場合は搬送性、巻取り性やアルミニウム金属層の密着力を悪化させ、また、巻き取った後に貼り付いてしまうブロッキング現象を生じるケースがあり、一方、逆に、表面粗さRaが非常に大きい場合には、すべり性や工程適性などには優れるものの、アルミニウム金属層を形成する際に、アルミニウム金属層が粗密になる、クラックを生じやすい、アルミニウム金属層の密着力を悪化させるといったケースがあり、やはり好ましくない。そのため、樹脂フィルム表面の表面粗さRaが10nm以上60nm以下であることが好ましい。樹脂フィルムとしては搬送するために必要な最小限の凹凸を形成し、出来るだけ平滑であることが好ましいため、表面粗さRaは60nm以下であることが好ましく、50nm以下であることがさらに好ましい。
【0057】
<アンカー層>
本発明の二次電池正極用金属化フィルム4の樹脂フィルムとアルミニウム金属層3との間には、アンカー層2を有していても構わない。アンカー層2を設けることにより、樹脂フィルムとアルミニウム金属層の密着力向上が期待できる。アンカー層2としては樹脂フィルム上にスパッタリング法により金属層を形成することが好ましい。スパッタリング法ではアンカー層厚みを薄くすることが可能で、より薄膜化が要求される蓄電池用途では最適である。
【0058】
アンカー層2としてはアルミニウム、ニッケル、チタン、ニクロム、及びクロムからなる群より選ばれる1つ以上を含む金属層であることが好ましいが、アンカー層2がスパッタリング法で形成されるアルミニウム金属層であることが更に好ましい。このとき注意すべきとして、アンカー層2として選択されたアルミニウム、ニッケル、チタン、クロム、ニクロムなどの金属表面を酸化させない状態を維持しながら、その上にアルミニウム層を形成することが重要となる。具体的にはスパッタリングにてアンカー層2として金属層を形成したあと、大気開放せず、真空を維持したままアルミニウム金属層3を形成することが重要となる。アンカー層2として選択されたアルミニウム、ニッケル、チタン、クロム、ニクロムなどの金属表面が酸化されると、安定した金属酸化膜が形成され、その上に形成されるアルミニウム金属層3との界面との金属結合が困難となり、密着力が確保できず、アルミニウム金属層3がアンカー層2から剥離してしまうことがある。そのため、アンカー層2として選択されたアルミニウム、ニッケル、チタン、クロム、ニクロムなどは酸化させないことが重要となる。アンカー層2がスパッタリング法で形成されるアルミニウム金属層である場合、その上にアルミニウム金属層3が真空蒸着されると、柱状結晶をさらに大きく緻密に成長させるため、アルミニウム金属層の接触抵抗を更に抑制することになり、好ましい。
【0059】
アンカー層2の厚みは3nm以上40nm以下であることが好ましく、5nm以上20nm以下であることがより好ましい。厚みが3nm未満であると十分な密着力が得られないことがある。一方で、アンカー層を40nmから大きくしても、密着力向上の効果は大きくなることはないため、40nm以下であることが好ましく、成膜速度が遅いスパッタリング法にてアンカー層を作製している場合、アンカー層は20nm以下にして生産性向上させた方が更に好ましい。
【0060】
<樹脂フィルムの厚さとアルミニウム金属層の厚さとの関係>
本発明の金属化フィルムを構成する樹脂フィルムの厚みをT1(μm)、アルミニウム金属層の厚みをT2(μm)としたとき、T2/T1の値が0.05以上0.5以下であることが好ましく、0.08以上0.38以下がより好ましい。T2/T1の値が0.5を超えるということは、金属化フィルムの厚み全体に占める樹脂フィルム厚みが薄いことを意味し、厚み方向に過度に剛直になりすぎてしまい、活物質体積変化への追従がしにくくなる場合がある。一方、T2/T1の値が0.05未満であるということは、金属化フィルムの厚み全体に占めるアルミニウム金属層の厚みが薄いことを意味し、柔軟な金属層に起因する活物質と金属層とのアンカー効果や、活物質体積変化への追従の効果が低くなる場合がある。
【0061】
<蓄電素子>
本発明の蓄電素子は、電極組立体と、電極組立体を収容する電池ケースとを備える。電極組立体は、正極、負極、及び正極と負極との間に介されたセパレータを含む。
【0062】
このような蓄電素子としては、例えば、一次電池、二次電池、電気二重層キャパシタ、アルミ電解コンデンサ等が挙げられるが、本発明において二次電池を指す。
【0063】
二次電池としては、例えば、リチウム二次電池、ナトリウム二次電池、鉛蓄電池、ニッケル・カドニウム電池、ニッケル・水素電池、ニッケル・鉄蓄電池、酸化銀・亜鉛蓄電池、二酸化マンガン・リチウム二次電池、コバルト酸リチウム・炭酸系二次電池、バナジウム・リチウム二次電池等が挙げられる。
【0064】
これらの中でも、長期に利用できることから、二次電池が好ましく、有機溶媒を利用することにより高エネルギー密度を実現しているリチウム二次電池がより好ましい。
【0065】
電池ケースとしては、例えば、アルミニウム製のケース、内面がニッケルメッキされた鉄製のケース、アルミニウムラミネートフィルムからなるケース等を用いることができる。
【0066】
電池ケースの形状は、パウチ型、円筒型、角型、コイン型等が挙げられる。これらの中でも、高エネルギー密度を実現でき、低コストで自由に形状を設計できることから、パウチ型が好ましい。
【0067】
正極は、活物質、バインダー樹脂、および導電助剤からなる正極材が集電体上に積層されたものである。本発明の集電体を用いることが好ましい。
【0068】
活物質としては、LiCoO2、LiNiO2、Li(NiCoMn)O2などの層状構造のリチウム含有遷移金属酸化物、LiMn2O4などのスピネル型マンガン酸化物、およびLi(FeMn)PO4などのオリビン系化合物、単体硫黄(S)や硫化リチウム(Li2S)を含む硫黄系材料などが挙げられる。
【0069】
バインダー樹脂としては、耐酸化性が高い樹脂を使用すればよい。具体的には、フッ素含有樹脂、アクリル樹脂、スチレン-ブタジエン樹脂、水素化ニトリルゴムなどが挙げられる。
【0070】
導電助剤としては、カーボンブラック、黒鉛などの炭素材料などが挙げられる。
【0071】
負極は、活物質およびバインダー樹脂からなる負極材が集電体上に積層されたものである。
【0072】
活物質としては、人造黒鉛、天然黒鉛、ハードカーボン、ソフトカーボンなどの炭素材料、スズ、シリコンなどのリチウム合金系材料、リチウムなどの金属材料、およびチタン酸リチウム(Li4Ti5O12)などが挙げられる。
【0073】
バインダー樹脂としては、フッ素含有樹脂、アクリル樹脂、スチレン-ブタジエン樹脂などが挙げられる。
【0074】
集電体としては、金属箔が好適であり、特に銅箔が用いられることが多い。
【0075】
本発明の蓄電素子は、電解液を含有することが好ましい。電解液は、二次電池等の電気化学素子の中で正極と負極との間でイオンを移動させる場となっており、電解質を有機溶媒にて溶解させた構成をしている。
【0076】
電解質としては、LiPF6、LiBF4、およびLiClO4などが挙げられるが、有機溶媒への溶解性、イオン電導度の観点からLiPF6が好適に用いられている。
【0077】
有機溶媒としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネートなどが挙げられ、これらの有機溶媒を2種類以上混合して使用してもよい。
【0078】
以下、蓄電素子の中でも好ましく用いられるリチウム二次電池の作製方法について説明する。
【0079】
リチウム二次電池の作製方法としては、まず活物質と導電助剤をバインダー樹脂溶液中に分散して電極用塗布液を調製し、この塗布液を集電体上に塗工して、溶媒を乾燥させることで正極、負極がそれぞれ得られる。乾燥後の塗工膜の膜厚は50μm以上500μm以下とすることが好ましい。さらに、好ましくはロールプレス法などの方法で、集電体上に形成した活物質層に圧力を加え、緻密化し、集電体を薄膜化することが好ましい。
【0080】
得られた正極と負極の間にリチウム二次電池用セパレータを、それぞれの電極の活物質層と接するように配置し、アルミニウムラミネートフィルム等の外装材に封入し、電解液を注入後、負極リードや安全弁を設置し、外装材を封止する。
【0081】
このようにして得られたリチウム二次電池は、電極との接着性が高く、かつ優れた電池特性を有し、また、低コストでの製造が可能となる。
【0082】
<蓄電モジュール>
前述の方法などで作成する蓄電素子は、蓄電素子の用途や要求される電池容量に対応するために、複数の蓄電素子を直列に接続し、蓄電モジュールとして使用する場合がある。その場合、蓄電素子同士をタブリード線(電流取り出し線)で接続し、樹脂製あるいは金属製のモジュールケースに収容することで、蓄電モジュールとして使用される。
【実施例0083】
以下に、本発明を実施例に基づいて説明する。なお、本発明は、これらの実施例に限定されるものではなく、これらの実施例を本発明の趣旨に基づいて変形、変更することが可能であり、それらを発明の範囲から除外するものではない。
【0084】
(マグネトロンスパッタリング)
バッチ式真空蒸着装置(アルバック製EBH-800)内に樹脂フィルムを設置し、50mm×550mmサイズのターゲットを用い、アルゴンガス雰囲気中で真空到達度5×10-1Pa以下に調整して、DC電源を所定の金属膜厚になる時間連続して印加した。
【0085】
もしくは、ロール式真空蒸着装置(アルバック製EWC-060)内に樹脂フィルムを設置し、70mm×550mmサイズのターゲットを用い、アルゴンガス雰囲気中で真空到達度1×10-2Pa以下に調整して、パルス電源を印加して金属層を形成した。
【0086】
なお、特に記載のない限り、スパッタリングと真空蒸着については連続して処理を行い、アンカー層とアルミニウム金属層間で大気と触れさせないようにした。
【0087】
(真空蒸着)
バッチ式真空蒸着装置(アルバック製EBH-800)内に樹脂フィルムを設置し、蒸着ボート上にアルミニウムを目的厚みになる量を載置した後に、真空到達度9.0×10-3Pa以下になるまで真空引きをしてから、蒸着ボートを加熱して真空蒸着を実施し、アルミニウム金属層を形成した。
【0088】
もしくは、ロール式真空蒸着装置(アルバック製EWC-060)内に樹脂フィルムを設置し、アルミニウム金属層厚が所定の値になる搬送速度、出力条件でカーボンルツボを採用した誘導加熱蒸着法にてアルミニウムインゴットを加熱することで真空蒸着を実施し、アルミニウム金属層を形成した。
【0089】
もしくは、ロール式真空蒸着装置(アルバック製EWC-060)内に樹脂フィルムを設置し、アルミニウム金属層厚が所定の値になる搬送速度、抵抗加熱にて加熱した蒸着ボートにアルミニウムワイヤーを投入することで真空蒸着を実施し、アルミニウム金属層を形成した。
【0090】
なお、いずれの方式であっても、所望のアルミニウム金属層厚を1回の蒸着(巻き出し、蒸着、巻取りの一式を1回の蒸着と定義する)で形成する方法が生産性、抵抗特性および品位・品質の観点からは好ましいが、例えば、1回の蒸着で50nm厚のアルミニウム蒸着層を形成する薄膜蒸着を20回繰り返して(前記の一式を20回繰り返す)、総厚み1μmのアルミニウム金属層を形成するなどしても良い。
【0091】
(アルゴンガスの導入について)
アルゴンガスの導入はマグネトロンスパッタリング時に導入するアルゴンガスを使用する。バッチ式真空蒸着装置(アルバック製EBH-800)内ではスパッタリングと真空蒸着は同時に行わなかったため、真空蒸着時にアルゴンガスは導入しなかった。
【0092】
ロール式真空蒸着装置(アルバック製EWC-060)内ではスパッタリングと真空蒸着は連続して処理を行うため、同じ蒸着チャンバー内で同時にスパッタリングと真空蒸着を行うことになり、真空蒸着の蒸着源に常にアルゴンガスが導入された。
【0093】
(二次電池正極用金属化フィルムの二次電池用正極への加工)
コバルト酸リチウム(LiCoO2)にアセチレンブラック黒鉛とポリフッ化ビニリデンとを加え、N-メチル-2-ピロリドン中に分散させてスラリーにした。このスラリーを、実施例または参考例または比較例の二次電池正極用金属化フィルムの片面あるいは両面に均一に塗布したのち乾燥して正極合材層を形成した。その後、ロールプレス機により圧縮成形して、集電体を除いた正極層の密度が3.6g/cm3の帯状の正極を作製した。
【0094】
(金属化フィルム、および、樹脂フィルム厚み(T1)の測定)
接触式膜厚計((株)ミツトヨ製「ライトマチック」(登録商標)series318)を使用して測定した。測定は、超硬球面測定子φ9.5mmを用いて、加重0.01Nの条件で20点を測定し、得られた測定値の平均値を厚み(μm)とした。 (10%圧縮応力および最大試験応力250MPaでの圧縮復元率)
金属化フィルム試料を樹脂系接着剤によりガラス板の表面に固定し、微小圧縮試験機の下部加圧板上に配置した。その後、下記条件により試験を実施し、上述の方法にて10%圧縮応力および最大試験応力250Mpaでの圧縮復元率を算出する。試験は場所を変えて5回実施し、その算術平均値を採用した。
測定装置:(株)島津製作所製微小圧縮試験機MCTW-500
使用圧子:ダイヤモンド製平面圧子(φ=50μm)
負荷速度:19.3681mN/s(負荷速度一定方式)
最大荷重:490mN
最小荷重:4.9mN
測定雰囲気:23℃65%RH。
【0095】
(ナノインデンテーション法による硬さおよび弾性率)
金属化フィルム試料を樹脂系接着剤によりシリコンウエハーの表面に固定し、超微小硬度計のステージ上に配置した。その後、下記条件により試験を実施し、上述の方法にて硬さおよび弾性率を算出した。
測定装置:Hysitron社製Triboindenter TI950
測定方法:ナノインデンテーション法(連続剛性測定法)
使用圧子:ダイヤモンド製三角錐圧子(Berkovich圧子)
振幅:1~2nm程度
測定周波数:100Hz
測定雰囲気:23℃65%RH
なお、値の算出においては、樹脂フィルム層の影響を排除するため、押し込み深さが浅い領域を選択して算出を行った。具体的には、弾性率算出には押し込み深さが20~30nmの領域を、硬さ算出には押し込み深さが30~40nmの領域のデータを選択した。
【0096】
(接触抵抗測定)
10mm厚のNRスポンジゴム(和気産業株式会社製NRS-06)の上に金属化フィルムを金属膜が上向きになるようにのせ、25mm×25mmの大きさの、金メッキを施した銅板2枚を1mmの間隔をあけてそれぞれの銅板に500gのおもりを乗せた。その2枚の銅板間の抵抗値を、日置電機株式会社製抵抗計RM3544で測定し、接触抵抗とした。
【0097】
(表面抵抗測定)
金属化フィルムを約300mm×約80mmの大きさにカットして、簡易型低抵抗率計(株式会社三菱ケミカルアナリテック製“ロレスタ(登録商標)”EP MCP-T360)を使って、4端子法にて3カ所の表面抵抗を測定し、平均値を表面抵抗値として採用した。
【0098】
(アルミニウム金属層厚さ(T2))
金属化フィルム試料から、FIB法で断面観察用極薄切片を採取した。次に、前記の前処理方法で採取した極薄切片(断面)に対して、原子分解能分析電子顕微鏡 (JEOL製JEM-ARM200F)を用いて、TEM観察像を撮像し、その観察像から樹脂フィルム表面とアルミニウム金属層最表層部間の距離を計測し、アルミニウム金属層厚み(T2)(μm)を算出した。
【0099】
(表面粗さRa)
株式会社日立ハイテクサイエンス製 走査型白色干渉顕微鏡にて表面粗さRaを測定した。測定条件は測定モード「wave」、光源は530White、対物レンズは50倍で行い、付属の解析ソフトを用いて面補正は4次、補完は「完全」、ガウシングガウシアンフィルタは「カットオフ2μm」の条件で算出した数値を用いた。
【0100】
(樹脂フィルムとアルミニウム金属層界面の密着力評価)
幅18mmの紙粘着テープ(NITTO製、No.720)をアルミニウム金属層表面に貼り合わせ、その後、前記の紙粘着テープを剥離する際に蒸着膜が樹脂フィルムから剥がれるかどうかで判断した。蒸着膜が樹脂フィルムから剥離した場合は×(不合格)、剥離しなかった場合は〇(合格)とし、二次電池正極用金属化フィルムとして使用できるかどうかの目安とした。
【0101】
(アルミニウム金属層と正極活物質層間の密着力評価)
正極活物質が塗布・プレスされた表面に1.5cm×8cmの両面テープ(NITTO製、No.5000NS)を用いてステンレス板にハンドローラーで押さえながら均一に貼り付けた。その後、AND製テンシロン万能試験機RTG-1210を用いて試料を速度200mm/minでステンレス板に対して90度方向に剥がして剥離試験を実施した。剥離する際に正極活物質がアルミニウム金属層から剥がれるかどうかで判断した。正極活物質がアルミニウム金属膜から剥離した場合は×(不合格)、剥離しなかった場合は〇(合格)とし、二次電池用正極として使用できるかどうかの目安とした。
【0102】
(使用適性の評価)
前述の方法で得られた二次電池正極用金属化フィルムの両面、樹脂フィルムと接していないアルミニウム金属層面に、実施例に記載の方法で正極活物質を連続塗布し、加熱乾燥後、カレンダープレス加工して、正極用集電体へ加工した。この加工の際に、塗布はじき(欠点)、搬送あるいは巻取り工程でのしわ、折れ、すべり不良などが起こらないか良く観察し、これらの不良が生じない場合は使用適性○、これらの不具合が発生した場合には使用適性×と判定した。
【0103】
(実施例1)
樹脂フィルムとして厚さ5.7μmの2軸配向ポリエチレンテレフタレートフィルム(東レ(株)製“ルミラー(登録商標)”、タイプ:F53)を使用した。この樹脂フィルムの平均表面粗さRaは38nmであった。この樹脂フィルムのロール原反をロール式真空蒸着装置(アルバック製EWC-060)内に設置し、パルス電源を印加してアルミニウムを5nmの厚さにスパッタリングにて蒸着した。条件として、スパッタリング出力はパルス電源を用いて2.0kWを採用した。その後、カーボンルツボを採用した誘導加熱蒸着法にてアルミニウムインゴットを加熱することで真空蒸着法によってアルミニウム金属層を1.02μmの厚さに真空蒸着した。得られた片面蒸着金属化フィルムを再度巻き出し側に設置し、同様の条件にて反対面にもアルミニウム金属層を1.02μmの厚さに真空蒸着し、樹脂フィルムの両面に金属層が設けられた金属化フィルムを得た。
【0104】
このように作製した金属化フィルムについて、その樹脂フィルムと接していないアルミニウム金属層(最初に蒸着した面)表面の表面粗さRaは49nmであった。
【0105】
この金属フィルムの樹脂フィルムと接していないアルミニウム金属層(最初に蒸着した面)表面の表面抵抗値(A)は0.049Ω/□、接触抵抗値(B)は9.90mΩ、接触抵抗値と表面抵抗値の相関を示す[接触抵抗(B)/(表面抵抗(A)×1000)]は0.20であった。
【0106】
接触抵抗値は15mΩ以下であり、接触抵抗が十分小さく、さらには金属化フィルムおよび金属層の厚み方向機械特性は適度に柔軟であり、電極集電体として実用可能と判定した。
【0107】
さらに、樹脂フィルムと接していないアルミニウム金属層(最初に蒸着した面)表面に、三元系リチウム含有遷移金属酸化物Li(NiCoMn)O2(Ni/Co/Mn=6/2/2)、バインダー樹脂ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、導電助剤カーボンブラックを重量比が94/3/3となるように希釈溶剤N-メチルピロリドンを加えて混合し、正極活物質分散液を得た。この正極活物質分散液をダイコートヘッドを備えた塗工機で、ロールトゥロール連続塗布し、加熱乾燥後、カレンダープレス加工を行うことで、電極塗布密度が2.8g/ccとなるように加工した。この加工において、塗布不良、搬送性不良などは見られず、使用適性は○と判定した。
【0108】
(実施例2~4)
アルミニウム金属層の厚みおよび製造条件を表1に記載の通りとした以外は、実施例1と同様に金属化フィルムを作製し、評価した。結果を表1および表2に示す。
【0109】
(実施例5)
樹脂フィルムとして厚さ12.0μmの2軸配向ポリエチレンテレフタレートフィルム(東レ(株)製“ルミラー(登録商標)”、タイプ:F65)を使用した。この樹脂フィルムのロール原反をロール式真空蒸着装置(アルバック製EWC-060)内に設置し、パルス電源を印加してアルミニウムを5nmの厚さにスパッタリングにて蒸着した。条件として、スパッタリング出力はパルス電源を用いて2.0kWを採用した。その後、カーボンルツボを採用した誘導加熱蒸着法にてアルミニウムインゴットを加熱することで真空蒸着法によってアルミニウム金属層を0.70μmの厚さに真空蒸着した。得られた片面蒸着金属化フィルムを再度巻き出し側に設置し、同様の条件にて反対面にもアルミニウム金属層を0.70μmの厚さに真空蒸着し、樹脂フィルムの両面に金属層が設けられた金属化フィルムを得た。評価結果を表1および表2に示す。
【0110】
(実施例6)
樹脂フィルムとして厚さ4.1μmの2軸配向ポリエチレンテレフタレートフィルム(東レ(株)製“ルミラー(登録商標)”、タイプ:F53)を使用した。この樹脂フィルムのロール原反をロール式真空蒸着装置(アルバック製EWC-060)内に設置し、パルス電源を印加してアルミニウムを5nmの厚さにスパッタリングにて蒸着した。条件として、スパッタリング出力はパルス電源を用いて2.0kWを採用した。その後、カーボンルツボを採用した誘導加熱蒸着法にてアルミニウムインゴットを加熱することで真空蒸着法によってアルミニウム金属層を0.99μmの厚さに真空蒸着した。得られた片面蒸着金属化フィルムを再度巻き出し側に設置し、同様の条件にて反対面にもアルミニウム金属層を0.99μmの厚さに真空蒸着し、樹脂フィルムの両面に金属層が設けられた金属化フィルムを得た。評価結果を表1および表2に示す。 (実施例7)
樹脂フィルムとして厚さ3.0μmの2軸配向ポリエチレンテレフタレートフィルムを使用した。この樹脂フィルムのロール原反をロール式真空蒸着装置(アルバック製EWC-060)内に設置し、パルス電源を印加してアルミニウムを5nmの厚さにスパッタリングにて蒸着した。条件として、スパッタリング出力はパルス電源を用いて2.0kWを採用した。その後、カーボンルツボを採用した誘導加熱蒸着法にてアルミニウムインゴットを加熱することで真空蒸着法によってアルミニウム金属層を1.08μmの厚さに真空蒸着した。得られた片面蒸着金属化フィルムを再度巻き出し側に設置し、同様の条件にて反対面にもアルミニウム金属層を1.08μmの厚さに真空蒸着し、樹脂フィルムの両面に金属層が設けられた金属化フィルムを得た。評価結果を表1および表2に示す。
【0111】
(実施例8)
樹脂フィルムとして厚さ2.2μmの2軸配向ポリエチレンテレフタレートフィルム(東レ(株)製“ルミラー(登録商標)”、タイプ:F51)を使用した。この樹脂フィルムのロール原反をロール式真空蒸着装置(アルバック製EWC-060)内に設置し、パルス電源を印加してアルミニウムを5nmの厚さにスパッタリングにて蒸着した。条件として、スパッタリング出力はパルス電源を用いて2.0kWを採用した。その後、カーボンルツボを採用した誘導加熱蒸着法にてアルミニウムインゴットを加熱することで真空蒸着法によってアルミニウム金属層を1.09μmの厚さに真空蒸着した。得られた片面蒸着金属化フィルムを再度巻き出し側に設置し、同様の条件にて反対面にもアルミニウム金属層を1.09μmの厚さに真空蒸着し、樹脂フィルムの両面に金属層が設けられた金属化フィルムを得た。評価結果を表1および表2に示す。
【0112】
(実施例9)
樹脂フィルムとして厚さ5.7μmの2軸配向ポリエチレンテレフタレートフィルム(東レ(株)製“ルミラー(登録商標)”、タイプ:F53)を使用した。この樹脂フィルムの表面粗さRaは38nmであった。この樹脂フィルムのロール原反をロール式真空蒸着装置(アルバック製EWC-060)内に樹脂フィルムを設置し、アルゴンガス導入しながらで真空到達度1×10-2Pa以下に調整してから抵抗加熱にて加熱した蒸着ボートにアルミニウムワイヤーを投入することで真空蒸着を実施し、アルミニウム金属層を1.04μmの厚さに真空蒸着した。得られた片面蒸着金属化フィルムを再度巻き出し側に設置し、同様の条件にて反対面にもアルミニウム金属層を1.04μmの厚さに真空蒸着し、樹脂フィルムの両面に金属層が設けられた金属化フィルムを得た。評価結果を表1および表2に示す。
【0113】
(実施例10~11)
樹脂フィルムとして厚さ5.7μmの2軸配向ポリエチレンテレフタレートフィルム(東レ(株)製“ルミラー(登録商標)”、タイプ:F53)を使用した。この樹脂フィルムの表面粗さRaは38nmであった。この樹脂フィルムのロール原反をロール式真空蒸着装置(アルバック製EWC-060)内に樹脂フィルムを設置し、パルス電源を印加してアルミニウムを5nmの厚さにスパッタリングにて蒸着した。条件として、スパッタリング出力はパルス電源を用いて2.0kWを採用した。その後、抵抗加熱にて加熱した蒸着ボートにアルミニウムワイヤーを投入することで真空蒸着を実施し、アルミニウム金属層をそれぞれ、1.02μm、0.78μmの厚さに真空蒸着した。得られた片面蒸着金属化フィルムを再度巻き出し側に設置し、同様の条件にて反対面にもアルミニウム金属層をそれぞれ1.02、0.78μmの厚さに真空蒸着し、樹脂フィルムの両面に金属層が設けられた金属化フィルムを得た。評価結果を表1および表2に示す。
【0114】
(参考例1)
樹脂フィルムとして厚さ5.7μmの2軸配向ポリエチレンテレフタレートフィルム(東レ(株)製“ルミラー(登録商標)”、タイプ:F53)を使用した。この樹脂フィルムの表面粗さRaは38nmであった。この樹脂フィルムをバッチ式真空蒸着装置(アルバック製EBH-800)内に樹脂フィルムを設置し、パルス電源を印加してアルミニウムを5nmの厚さにスパッタリングにて蒸着した。条件として、スパッタリング出力はパルス電源を用いて2.0kWを採用した。その後、蒸着ボートを加熱する抵抗加熱蒸着法によってアルミニウム金属層を1.44μmの厚さに真空蒸着した。得られた片面蒸着金属化フィルムを再度巻き出し側に設置し、同様の条件にて反対面にもアルミニウム金属層を1.44μmの厚さに真空蒸着し、樹脂フィルムの両面に金属層が設けられた金属化フィルムを得た。
【0115】
このように作製した金属化フィルムについて、その樹脂フィルムと接していないアルミニウム金属層(最初に蒸着した面)表面の表面粗さRaは52nmであった。 この金属フィルムの樹脂フィルムと接していないアルミニウム金属層表面(最初に蒸着した面)の表面抵抗値(A)は0.038Ω/□、接触抵抗値(B)は15.38mΩ、接触抵抗値と表面抵抗値の相関を示す[接触抵抗(B)/(表面抵抗(A)×1000)]は0.41であった。
【0116】
接触抵抗値が高く、アルミニウム金属層厚みと相関する表面抵抗と比較しても、接触抵抗が高く、[接触抵抗(B)/(表面抵抗(A)×1000)]の値は0.41と実施例に記載の金属フィルムと比較して大きい。また、金属層の厚み方向機械特性が剛直であり、電極集電体として実用性に乏しいと判定した。
【0117】
(参考例2~3)
アルミニウム金属層の厚みを表1に記載の通りとした以外は、参考例1と同様に金属化フィルムを作製し、評価した。結果を表1および表2に示す。
【0118】
(比較例1)
樹脂フィルムとして厚さ2.2μmの2軸配向ポリエチレンテレフタレートフィルム(東レ(株)製“ルミラー(登録商標)”、タイプ:F51)を使用した。この樹脂フィルムのロール原反をロール式真空蒸着装置(アルバック製EWC-060)内に設置し、パルス電源を印加してアルミニウムを5nmの厚さにスパッタリングにて蒸着した。条件として、スパッタリング出力はパルス電源を用いて2.0kWを採用した。その後、カーボンルツボを採用した誘導加熱蒸着法にてアルミニウムインゴットを加熱することで真空蒸着法によってアルミニウム金属層を1.51μmの厚さに真空蒸着した。得られた片面蒸着金属化フィルムを再度巻き出し側に設置し、同様の条件にて反対面にもアルミニウム金属層を1.51μmの厚さに真空蒸着し、樹脂フィルムの両面に金属層が設けられた金属化フィルムを得た。評価結果を表1および表2に示す。
【0119】
金属化フィルムの厚み方向機械特性のうち、10%圧縮応力が208MPaと高く、活物質の体積変化に対して追随が難しいと考えられた。
【0120】
(比較例2~3)
樹脂フィルムとして厚さ5.7μmの2軸配向ポリエチレンテレフタレートフィルム(東レ(株)製“ルミラー(登録商標)”、タイプ:F53)を使用した。この樹脂フィルムの表面粗さは38nmであった。この樹脂フィルムのロール原反をロール式真空蒸着装置(アルバック製EWC-060)内に樹脂フィルムを設置し、アルゴンガス導入しながらで真空到達度1×10-2Pa以下に調整してから抵抗加熱にて加熱した蒸着ボートにアルミニウムワイヤーを投入することでアルミニウム金属層の厚みが約50nmとなるように真空蒸着を実施し、比較例1では、この蒸着加工を合計19回、比較例2では合計8回、それぞれ行い、アルミニウム金属層を比較例1では1.05μmの厚さに、比較例2では0.41μmの厚さに真空蒸着した。得られた片面蒸着金属化フィルムを再度巻き出し側に設置し、同様の条件にて反対面にもアルミニウム金属層をそれぞれ1.05、0.41μmの厚さに真空蒸着し、樹脂フィルムの両面に金属層が設けられた金属化フィルムを得た。評価結果を表1および2に示す。
【0121】
金属フィルムの特性のうち、樹脂フィルムとアルミニウム金属層との間の界面密着力が弱く、正極活物質を塗布した後のプレス加工工程では、一部分に樹脂フィルムから、アルミニウム金属層/正極活物質の複合層が剥離する不具合を生じた。また、樹脂フィルムと接していないアルミニウム金属層表面の表面粗さRaは19nm、17nmと小さく、搬送工程適性で一部、しわが発生するなどの不具合もあった。また接触抵抗も実施例と比較して高く、金属化フィルムおよび金属層の厚み方向機械特性が剛直であることから、総合的には実用性に乏しいと判定した。
【0122】
【0123】