(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024117738
(43)【公開日】2024-08-29
(54)【発明の名称】フツリン酸塩系光学ガラス及び光学素子
(51)【国際特許分類】
C03C 3/247 20060101AFI20240822BHJP
G02B 1/00 20060101ALI20240822BHJP
【FI】
C03C3/247
G02B1/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024018731
(22)【出願日】2024-02-09
(31)【優先権主張番号】P 2023023228
(32)【優先日】2023-02-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000128784
【氏名又は名称】株式会社オハラ
(74)【代理人】
【識別番号】100166372
【弁理士】
【氏名又は名称】山内 博明
(72)【発明者】
【氏名】荻野 道子
(72)【発明者】
【氏名】永島 莉那
【テーマコード(参考)】
4G062
【Fターム(参考)】
4G062AA04
4G062BB09
4G062CC10
4G062DA01
4G062DA02
4G062DA03
4G062DB04
4G062DB05
4G062DC01
4G062DC02
4G062DC03
4G062DD04
4G062DE01
4G062DE02
4G062DE03
4G062DE04
4G062DF01
4G062EA01
4G062EA02
4G062EA03
4G062EB01
4G062EB02
4G062EB03
4G062EC01
4G062EC02
4G062EC03
4G062ED02
4G062ED03
4G062ED04
4G062EE02
4G062EE03
4G062EE04
4G062EF02
4G062EF03
4G062EF04
4G062EG02
4G062EG03
4G062EG04
4G062FA01
4G062FA10
4G062FB01
4G062FB02
4G062FB03
4G062FC01
4G062FC02
4G062FC03
4G062FD01
4G062FD02
4G062FD03
4G062FE01
4G062FE02
4G062FE03
4G062FF01
4G062FG01
4G062FG02
4G062FG03
4G062FH01
4G062FH02
4G062FH03
4G062FJ01
4G062FJ02
4G062FJ03
4G062FK01
4G062FK02
4G062FK03
4G062FL01
4G062GA01
4G062GA02
4G062GA03
4G062GB01
4G062GC01
4G062GD01
4G062GD02
4G062GD03
4G062GE06
4G062GE07
4G062HH01
4G062HH03
4G062HH05
4G062HH07
4G062HH08
4G062HH09
4G062HH11
4G062HH13
4G062HH15
4G062HH17
4G062HH20
4G062JJ01
4G062JJ03
4G062JJ05
4G062JJ07
4G062JJ10
4G062KK01
4G062KK03
4G062KK04
4G062KK05
4G062KK06
4G062KK07
4G062KK08
4G062KK10
4G062MM02
4G062NN01
4G062NN40
(57)【要約】
【課題】所望のアッベ数(νd)を得つつも、光学ガラスの脈理や白金材料からなる装置の劣化を招き難いフツリン酸塩系光学ガラス、光学素子を提供すること。
【解決手段】カチオン成分として、Bi3+成分、Ti4+成分、Nb5+成分、W6+成分のいずれか1種以上を含有し、アニオン成分として、F-成分をアニオン%(モル%)表示で50.99%超含有し、Cl-成分をアニオン%(モル%)表示で0%以上0.10%未満とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
カチオン成分として、Bi3+成分、Ti4+成分、Nb5+成分、W6+成分のいずれか1種以上をカチオン%(モル%)表示で0%超含有し、
アニオン成分として、F-成分をアニオン%(モル%)表示で50.00%超含有し、Cl-成分をアニオン%(モル%)表示で0%以上0.10%未満含有する、
アッベ数(νd)が50.00以上であるフツリン酸塩系光学ガラス。
【請求項2】
Mg2+成分、Ca2+成分、Sr2+成分、Ba2+成分、K+成分、Li+成分、Zn2+成分のいずれかのカチオン成分を更に含有する、請求項1に記載のフツリン酸塩系光学ガラス。
【請求項3】
前記Bi3+成分、Ti4+成分、Nb5+成分、W6+成分、のいずれか1種以上の含有率は、カチオン%(モル%)表示で2.00%以上7.00%以下である、請求項1に記載のフツリン酸塩系光学ガラス。
【請求項4】
請求項1に記載のフツリン酸塩系光学ガラスからなる光学素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フツリン酸塩系光学ガラス及び光学素子に関する。
【背景技術】
【0002】
フツリン酸塩系光学ガラスは、例えば、撮影用のレンズにおいて、色収差を補正するため部分分散比及び分散が相互に異なる複数のものを組み合わせて使用される。光学ガラスは、一般に、ガラス融解時に特定成分が揮発することによって組成変動が生じると、脈理の原因となるので、その種の成分の含有量を適正な範囲に調整することも必要である。
【0003】
特許文献1には、高温プロセスにおけるフツリン酸ガラスの揮発性を低減しつつ、部分分散比が高く色収差補正に好適な光学ガラスが開示されている。この光学ガラスは、液相温度における粘性が10.0dPa・s以上であり、Pg,F>-0.0004νd+0.5720を満たし、屈折率(nd)が1.45000以上、1.65000以下であり、アッベ数(νd)が45.0以上、85.0以下であり、カチオン%でP5+5%以上、55%以下、Al3+5%以上、50%以下、Ba2+3%以上、50%以下の成分を含む、とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示されている光学ガラスは、低分散化するとともに、ガラスの異常分散性を付与する働きや、ガラス転移温度を低下させる働きや、化学的耐久性を改善させる働きがあることに着目し、O-やF-に加えて、Cl-を0.18%~0.19%含有させた実施例が開示されている。
【0006】
しかし、Cl-は、適正量が含有されるのであれば、特許文献1に記載されているようなパイプ外周へのガラス融液の濡れ上がりを抑制し、濡れ上がりによるガラスの品質低下を抑制するというメリットが期待できるかもしれないが、この種の働きをする成分はCl-のみではないため、これを必ずしも必須成分としなくてもよい反面、Cl-が適正量を超えて過剰に含有されると、それ自体の揮発によって光学ガラスの脈理や白金材料からなる装置の劣化を招くというデメリットがある。
【0007】
したがって、光学ガラスにおけるCl-の含有量は、そのメリットばかりではなくデメリットとなり得る他の要因も踏まえ、含有しないことも含めて決定すべきであるが、いずれにしても、特許文献1に記載された光学ガラスは、相対的に多量のCl-を含有しており、光学ガラスの脈理や白金材料からなる装置の劣化を招くというデメリットが生じる可能性がある。
【0008】
そこで、本発明は、所望のアッベ数(νd)を得つつも、光学ガラスの脈理や白金材料からなる装置の劣化を招き難いフツリン酸塩系光学ガラス、光学素子を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記課題を解決するために、鋭意試験研究を重ねた結果、典型例として、カチオン成分として、Bi3+成分、Ti4+成分、Nb5+成分、W6+成分のいずれか1種以上を含有し、アニオン成分として、F-成分をアニオン%(モル%)表示で50.99%超含有し、Cl-成分をアニオン%(モル%)表示で0%以上0.10%未満とすると、所望の屈折率(nd)やアッベ数(νd)を得つつも、光学ガラスの脈理や白金材料からなる装置の劣化を招き難いフツリン酸塩系光学ガラスを得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
(1)本発明のフツリン酸塩系光学ガラスは、
カチオン成分として、Bi3+成分、Ti4+成分、Nb5+成分、W6+成分のいずれか1種以上をカチオン%(モル%)表示で0%超含有し、
アニオン成分として、F-成分をアニオン%(モル%)表示で50.00%超含有し、アニオン成分として、Cl-成分をアニオン%(モル%)表示で0%以上0.10%未満含有する、
アッベ数(νd)が50.00以上である。
【0011】
(2)Mg2+成分、Ca2+成分、Sr2+成分、Ba2+成分、K+成分、Li+成分、Zn2+成分のいずれかのカチオン成分を更に含有する、(1)に記載のフツリン酸塩系光学ガラス。
【0012】
(3)前記Bi3+成分、Ti4+成分、Nb5+成分、W6+成分、のいずれか1種以上の含有率は、カチオン%(モル%)表示で2.00%以上7.00%以下である、(1)に記載の光学ガラス。
【0013】
(4)上記(1)に記載のフツリン酸塩系光学ガラスからなる光学素子。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、所望のアッベ数(νd)を得つつも、光学ガラスの脈理や白金材料からなる装置の劣化を招き難いフツリン酸塩系光学ガラス、光学素子を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の光学ガラスの実施形態について説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。なお、説明が冗長とならないように重複説明を省略する場合があるが、これは発明の趣旨を限定するものではない。
【0016】
<光学ガラスの構成成分>
本発明の光学ガラスを構成する各成分について説明する。本明細書中において、各成分の含有率は特に断りがない場合は、全てモル比に基づくカチオン%又はアニオン%で表示されるものとする。ここで、「カチオン%」及び「アニオン%」(以下、「カチオン%(モル%)」及び「アニオン%(モル%)」と表記することがある)は、本発明の光学ガラスの構成成分をカチオン成分及びアニオン成分に分離し、それぞれにおいて合計割合を100モル%としてから、所定の有効数字で光学ガラス中に含有される各成分の含有率を表記したものである。
【0017】
なお、各成分のイオン価は便宜的に代表値を用いているに過ぎないため、他のイオン価のものと区別するものではない。光学ガラス中に存在する各成分のイオン価は、代表値以外である可能性がある。例えば、Pは、通常イオン価が5価の状態で光学ガラス中に存在するので、本明細書中では「P5+」と表しているが、他のイオン価の状態で存在する可能性がある。このように、厳密には他のイオン価の状態で存在するものであっても、本明細書では、各成分が代表値のイオン価で光学ガラス中に存在するものとして扱う。
【0018】
本発明の光学ガラスはフツリン酸塩系光学ガラスであり、リン酸とフッ素とを含む光学ガラスを指す。本発明中ではフツリン酸塩系光学ガラスについて、単に光学ガラスと記載する場合がある。
【0019】
[カチオン成分について]
P5+は、光学ガラス形成成分であり、光学ガラスの失透を低減し、光学ガラスの屈折率を高める性質を有する。P5+の含有率は、好ましくは10.00%以上、より好ましくは11.00%以上、さらに好ましくは12.00%以上、さらに好ましくは13.00%以上、最も好ましくは14.00%以上を下限とする。他方で、P5+の含有率は、好ましくは30.00%以下、より好ましくは29.00%以下、さらに好ましくは28.00%以下を上限とする。
【0020】
Al3+は、光学ガラスの失透を低減し、光学ガラスの安定性を高める性質を有する。Al3+の含有率は、好ましくは10.00%以上、より好ましくは12.00%以上、さらに好ましくは14.00%以上、さらに好ましくは16.00%以上、さらに好ましくは17.00%以上、さらに好ましくは18.00%以上、さらに好ましくは19.00%以上を下限とする。他方で、Al3+の含有率は、Al3+を過剰に含有しても光学ガラスが失透するから、その抑制の観点から、好ましくは35.00%以下、より好ましくは34.0%以下、さらに好ましくは33.00%以下、さらに好ましくは32.00%以下を上限とする。
【0021】
Mg2+、Ca2+、Sr2+、Ba2+は、光学ガラスの失透を低減し、光学ガラスの熔融性を高める性質を有する。他方で、これらの成分の含有量が多いと光学ガラスの耐失透性の低下につながるから、このことを踏まえると、各成分は例えば以下のようにすることができる。
【0022】
Mg2+の含有率の下限は、好ましくは0%超、より好ましくは0.50%以上、さらに好ましくは1.00%以上、さらに好ましくは2.00%以上、さらに好ましくは3.00%以上とする。他方で、Mg2+の含有率は、好ましくは15.00%以下、より好ましくは13.00%以下、さらに好ましくは10.00%以下、さらに好ましくは9.00%以下、さらに好ましくは8.00%以下を上限とする。
【0023】
Ca2+の含有率の下限は、好ましくは0%超、より好ましくは3.00%以上、さらに好ましくは5.00%以上、さらに好ましくは8.00%以上、さらに好ましくは10.00%以上、さらに好ましくは13.00%以上、さらに好ましくは15.00%以上とする。他方で、Ca2+の含有率は、好ましくは30.00%以下、より好ましくは28.00%以下、さらに好ましくは27.00%以下、さらに好ましくは26.00%以下、さらに好ましくは25.00%以下を上限とする。
【0024】
Sr2+の含有率の下限は、好ましくは0%超、より好ましくは3.00%以上、さらに好ましくは6.00%以上、さらに好ましくは8.00%以上、さらに好ましく10.00%以上を下限とする。他方で、Sr2+の含有率は、好ましくは35.00%以下を上限とし、より好ましくは30.00%以下、さらに好ましくは25.00%以下、さらに好ましくは22.00%以下、さらに好ましくは20.00%以下を上限とする。
【0025】
Ba2+の含有率の下限は、好ましくは0%超、より好ましくは0.50%以上、さらに好ましくは1.00%以上、さらに好ましくは1.50%以上、さらに好ましくは2.00%以上とする。他方で、Ba2+の含有率は、好ましくは15.00%以下、より好ましくは13.00%以下、さらに好ましくは10.00%以下、さらに好ましくは9.00%以下、さらに好ましくは8.00%以下を上限とする。
【0026】
R2+の含有率(R2+は、Mg2+、Ca2+、Sr2+及びBa2+からなる群から選ばれる1種以上)は、30.00%~63.00%の範囲内にすることで、より耐失透性の高い光学ガラスを得ることができる。R2+の含有率は、好ましくは30.00%以上、より好ましくは33.00%以上、さらに好ましくは35.00%以上、さらに好ましくは38.00%以上、さらに好ましくは40.00%以上、さらに好ましくは42.00%以上を下限とする。また、R2+の含有率は、好ましくは63.00%以下、より好ましくは60.00%以下、さらに好ましくは57.00%以下、さらに好ましくは54.00%以下を上限する。
【0027】
K+、Li+及びNa+は、光学ガラスの熔融性及び粘性を高め、ガラス転移点(Tg)を下げる性質を有する成分である。特に、Li+はK+及びNa+よりもプレス成形時に光学ガラスを失透させやすい成分であるから、このことを踏まえると、各成分は例えば以下のようにすることができる。
【0028】
K+の含有率は、好ましくは5.00%以下、より好ましくは4.00%以下、さらに好ましくは3.80%以下、さらに好ましくは3.60%以下、さらに好ましくは3.40%以下、さらに好ましくは3.00%以下を上限とするが、含有しなくてもよい。
【0029】
Li+の含有率は、好ましくは4.00%以下、より好ましくは2.50%以下、さらに好ましくは2.00%未満、さらに好ましくは1.50%以下、さらに好ましくは1.00%以下、さらに好ましくは0.70%以下、さらに好ましくは0.30%以下、さらに好ましくは0.20%以下、さらに好ましくは0.10%以下を上限とするが、含有しなくてもよい。
【0030】
Na+の含有率は、好ましくは4.00%以下、より好ましくは3.80%以下、さらに好ましくは3.60%未満、さらに好ましくは3.40%以下、さらに好ましくは3.00%以下、さらに好ましくは2.20%以下、さらに好ましくは2.00%以下を上限とするが、含有しなくてもよい。
【0031】
Rn+の含有率(Rn+は、K+、Li+及びNa+からなる群から選択される1種以上)は、10.00%以下にすることで、プレス成形の際の光学ガラスの失透の抑制、光学ガラスの成形性の向上、光学ガラスの屈折率の低下を抑えることができる。Rn+の含有率は、好ましくは10.00%以下、より好ましくは8.00%以下、さらに好ましくは5.00%
以下、さらに好ましくは3.00%以下、より好ましくは2.50%以下、さらに好ましくは2.00%未満、さらに好ましくは1.40%以下、さらに好ましくは0.80%以下を上限とする。
【0032】
Bi3+及びTi4+は、光学ガラスの屈折率及び分散を高めながら、光学ガラスの部分分散比を高める成分である。
【0033】
Bi3+の含有率は、好ましくは0%超、より好ましくは0.10%以上、さらに好ましくは0.30%以上、さらに好ましくは0.50%以上を下限とする。他方で、Bi3+の含有率は、Bi3+の比重が相対的に大きいため、光学ガラスの比重を大きくしないという観点から、好ましくは5.00%以下、より好ましくは4.00%以下、さらに好ましくは3.00%以下、さらに好ましくは2.00%以下を上限とする。
【0034】
Ti4+は、光学ガラスの屈折率及び分散を高めながら、光学ガラスの部分分散比を高める成分である。特に、Ti4+は他の高屈折率化成分と比べて比重が小さく、高分散化作用の高い成分である。Ti4+の含有率は、好ましくは0%超、より好ましくは0.10%以上、さらに好ましくは0.20%以上を下限とする。他方で、Ti4+は、光学ガラスの耐失透性を高める観点から、好ましくは5.00%以下、より好ましくは4.00%以下、さらに好ましくは3.50%以下を上限とする。
【0035】
Nb5+は、光学ガラスの屈折率及び分散を高めながら、光学ガラスの部分分散比を高める成分である。Nb5+の含有率は、好ましくは0%超、より好ましくは0.10%以上、さらに好ましくは0.30%以上、さらに好ましくは0.50%以上、さらに好ましくは1.00%以上、さらに好ましくは1.50%以上、さらに好ましくは2.00%以上を下限とする。他方で、Nb5+の含有率は、好ましくは10.00%以下、より好ましくは8.00%以下、さらに好ましくは5.00%以下、さらに好ましくは3.00%以下を上限とする。
【0036】
W6+は、光学ガラスの屈折率を高められる性質を有する成分である。W6+の含有率は、好ましくは3.00%以下、より好ましくは2.00%以下、さらに好ましくは1.00%以下、さらに好ましくは0.50%以下を上限とする。W6+は、比重が大きいため、比重の小さい光学ガラスを得る観点ではW6+の含有率は0%であってもよい。
【0037】
Zn2+は、ガラス転移点を低くし、光学ガラスの熔融性及び耐失透性を高める性質を有する。Zn2+の含有率は、好ましくは0%超、より好ましくは0.20%以上、さらに好ましくは0.50%以上とする。他方で、Zn2+の含有率は、好ましくは15.00%以下、より好ましくは12.00%以下、さらに好ましくは10.00%以下、さらに好ましくは8.00%以下、さらに好ましくは5.00%以下、さらに好ましくは2.00%以下、さらに好ましくは1.00%以下を上限とするが、含有率が0%であってもよい。
【0038】
La3+、Gd3+、Y3+、Yb3+は、光学ガラスの低い分散性(高いアッベ数)を維持し、光学ガラスの屈折率を高め、さらに光学ガラスの耐失透性に寄与する性質を有する成分である。La3+、Gd3+、Y3+、Yb3+の含有率は、それぞれ好ましくは3.00%以下、より好ましくは2.00%以下、さらに好ましくは1.50%以下と、さらに好ましくは1.00%以下、さらに好ましくは0.80%以下、さらに好ましくは0.50%以下、さらに好ましくは0.30%以下、さらに好ましくは0.10%以下を上限とする。La3+、Gd3+、Y3+、Yb3+は、比重が大きい成分であるため、比重の小さい光学ガラスを得る観点ではLa3+、Gd3+、Y3+、Yb3+の含有率は0%であってもよい。
【0039】
Ln3+の合計含有率(Ln3+は、La3+、Gd3+、Y3+、Yb3+からなる群から選択される1種以上)は、5.00%以下にすることで、光学ガラスの熔融性を高め、光学ガラスの比重を小さくすることができる。Ln3+の合計含有率は、好ましくは5.00%以下、さらに好ましくは3.00%未満、さらに好ましくは2.00%以下、さらに好ましくは1.00%以下、さらに好ましくは0.80%以下、さらに好ましくは0.50%以下を上限とする。
【0040】
Si4+は、光学ガラス形成成分であり、光学ガラスの耐失透性を高める成分である。Si4+の含有率は、好ましくは5.00%以下、より好ましくは3.00%以下、さらに好ましくは1.00%以下を上限とし、最も好ましくは含有しない。
【0041】
B3+は、光学ガラス形成成分であり、光学ガラスの耐失透性を高める成分である。B3+の含有率は、好ましくは5.00%以下、より好ましくは3.00%以下、さらに好ましくは1.00%以下を上限とし、最も好ましくは含有しない。
【0042】
Zr4+は、光学ガラスの屈折率を高める性質を有する成分である。Zr4+の含有率は、好ましくは5.00%以下、より好ましくは3.00%以下、さらに好ましくは1.00%以下、さらに好ましくは0.50%以下、さらに好ましくは0.30%以下を上限とする。
【0043】
Ta5+は、光学ガラスの屈折率を高める性質を有する成分である。Ta5+の含有率は、好ましくは3.00%以下、より好ましくは2.00%以下、さらに好ましくは1.00%以下、さらに好ましくは0.50%以下を上限とする。
【0044】
Ge4+の含有率は、好ましくは3.00%以下、より好ましくは2.00%以下、さらに好ましくは1.00%以下を上限とし、さらに好ましくは含有しない。
【0045】
Te4+の含有率は、好ましくは3.00%以下、より好ましくは2.00%以下、さらに好ましくは1.00%以下を上限とし、さらに好ましくは含有しない。
【0046】
Sn4+の含有率は、好ましくは3.00%以下、より好ましくは2.00%以下、さらに好ましくは1.00%以下を上限とし、さらに好ましくは含有しない。
【0047】
Er3+、Mo6+、Tb3+、Eu3+の含有率は、好ましくは1.00%以下、より好ましくは0.50%以下、さらに好ましくは0.10%以下を上限とし、さらに好ましくは含有しない。
【0048】
[アニオン成分について]
O2-は、光学ガラスの失透を抑制する性質を有する。O2-の含有率は、好ましくは10.00%以上、より好ましくは15.00%以上、さらに好ましくは18.00%以上、さらに好ましくは20.00%以上を下限とする。他方で、O2-は、光学ガラスの部分分散比を小さくしてしまうため、O2-の含有率は、好ましくは50.00%以下、より好ましくは48.00%以下、さらに好ましくは45.00%以下を上限とする。
【0049】
F-は、光学ガラスのアッベ数及び部分分散比を高める性質を有する。F-の含有率は、好ましくは50.00%以上、より好ましくは53.00%以上、さらに好ましくは55.00%以上を下限とする。他方で、F-は揮発性が高いので光学ガラスの屈折率を低下させる性質を有する。F-の含有率は、好ましくは90.00%以下、より好ましくは85.00%以下、さらに好ましくは83.00%以下、さらに好ましくは80.00%以下を上限とする。
【0050】
Cl-は、光学ガラスを、低分散化するとともに、ガラスの異常分散性を付与する働きや、ガラス転移温度を低下させる働きや、化学的耐久性を改善させる働きがある。Cl-の含有率は、好ましくは0.01%以上、より好ましくは0.03%以上、さらに好ましくは0.09%以上を下限とする。他方で、Cl-は揮発性が高いので光学ガラスの屈折率を低下させる性質を有する。Cl-の含有率は、好ましくは0.10%未満、より好ましくは0.09%以下を上限とする。
【0051】
また、光学ガラスの失透を抑制する観点から、O2-の含有率とF-の含有率との合計は、好ましくは98.00%以上、より好ましくは99.00%以上を下限とし、さらに好ましくは99.50%以下、さらに好ましくは99.90%以下を上限とし、最も好ましくは100%とする。すなわち、O2-とF-以外のアニオン成分、例えばCl-やBr-、I-からなる群から選択される1種以上の含有率の合計は、好ましくは2.00%以下、より好ましくは1.00%以下、さらに好ましくは0.50%以下、さらに好ましくは0.10%以下を上限とし、最も好ましくは0%とする。
【0052】
本発明の光学ガラスは、La3+、Y3+、Yb3+の合計量に対するGd3+の比Gd3+/(La3++Y3++Yb3+)は1.60以下とすることで、光学ガラスの比重を小さくし、光学ガラスの軽量化を図ることができる。Gd3+/(La3++Y3++Yb3+)は、好ましくは1.60以下、より好ましくは1.50以下、さらに好ましくは1.30以下、さらに好ましくは1.15以下、さらに好ましくは1.00以下、さらに好ましくは0.80以下、さらに好ましくは0.50以下、さらに好ましくは0.30以下、さらに好ましくは0.10以下を上限とする。
【0053】
本発明の光学ガラスは、Bi3+、Ti4+、Nb5+、W6+の和であるBi3++Ti4++Nb5++W6+を0%超15.0%以下にすることで、光学ガラスの部分分散比を高めつつ、光学ガラスの低分散化を抑制することができる。Bi3++Ti4++Nb5++W6+は、好ましくは0%超、より好ましくは0.1%以上、さらに好ましくは0.2%以上、さらに好ましくは0.3%以上、さらに好ましくは0.4%以上、さらに好ましくは0.5%以上を下限とする。他方で、Bi3++Ti4++Nb5++W6+は、好ましくは15.0%以下、より好ましくは13.0%以下、さらに好ましくは10.0%以下、さらに好ましくは8.0%以下を上限とする。
【0054】
本発明の光学ガラスは、F-に対する、Bi3+、Ti4+、Nb5+、及び、W6+成分の合計量に100を掛けた値の比(Bi3++Ti4++Nb5++W6+)×100/F-を0超~20.0の範囲にすることで、光学ガラスの部分分散比を高めつつ、光学ガラスの低分散化を抑制することができる。ただし(Bi3++Ti4++Nb5++W6+)×100/F-は、好ましくは0超、より好ましくは0.10以上、さらに好ましくは0.20以上、さらに好ましくは0.30以上、さらに好ましくは0.4以上、さらに好ましくは0.5以上を下限とする。他方で、(Bi3++Ti4+)×100/F-は、好ましくは20.0以下、より好ましくは18.0以下、さらに好ましくは15.0以下、さらに好ましくは13.0以下を上限とする。
【0055】
[その他の成分について]
本発明の光学ガラスには、他の成分を本願発明のガラスの特性を損なわない範囲で必要に応じ、添加できる。
【0056】
[含有すべきでない成分について]
つぎに、本発明の光学ガラスに含有すべきでない成分、及び含有することが好ましくない成分について説明する。
【0057】
Ti、Zr、Nb、W、La、Gd、Y、Yb、Luを除く、Cu、Nd、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Ag及びMo等の遷移金属のカチオンは、それぞれを単独又は複合して少量含有した場合でもガラスが着色し、可視域の特定の波長に吸収を生じる性質があるため、特に可視領域の波長を使用する光学ガラスにおいては、実質的に含まないことが好ましい。
【0058】
Pb、As、Th、Cd、Tl、Os、Be、及びSeのカチオンは、近年有害な化学物質として使用を控える傾向にあり、ガラスの製造工程のみならず、加工工程、及び製品化後の処分に至るまで環境対策上の措置が必要とされる。また、S(硫黄)のカチオンも、有害な化学物質(SOx等)を生成しうる。従って、環境上の影響を重視する場合には、これらのうち1種以上の含有率を、好ましくは1.00%未満、より好ましくは0.50%未満とし、最も好ましくは、これらのうち1種以上を実質的に含有しない。
【0059】
なお、本明細書における「実質的に含有しない」とは、好ましくは含有率を0.10%未満にすることであり、より好ましくは不可避不純物として含まれるものを除いて含有しないことである。
【0060】
SbやCeのカチオンは、脱泡剤として有用ではあるが、環境に不利益を及ぼす成分として、近年光学ガラスに含めないようにする傾向がある。本発明の光学ガラスでは、このような点からSbやCeも実質的に含有しないことが好ましい。
【0061】
[光学ガラスの製造方法]
本発明の光学ガラスの製造方法は特に限定されない。例えば、上記各成分を所定の含有率の範囲内になるように均一に混合し、その混合物を石英坩堝、アルミナ坩堝又は白金坩堝に投入して粗熔融した後、白金坩堝、白金合金坩堝又はイリジウム坩堝に入れて800℃~1200℃の温度範囲で2時間~10時間熔融し、攪拌均質化して泡切れ等を行った後、850℃以下の温度に下げてから、金型に鋳込んで徐冷することにより製造することができる。
【0062】
[物性]
本発明の光学ガラスは、屈折率(nd)が1.45000以上1.55000以下であることが好ましい。より具体的には、本発明の光学ガラスは、屈折率の下限が、好ましくは1.45000以上、より好ましくは1.46000以上、さらに好ましくは1.47000以上、さらに好ましくは1.48000以上である。他方で、本発明の光学ガラスは、屈折率(nd)の上限が、好ましくは1.55000以下、より好ましくは1.54000以下である。
【0063】
本発明の光学ガラスは、アッベ数(νd)が50.00以上88.00以下であることが好ましい。より具体的には、本発明の光学ガラスは、アッベ数(νd)の下限が、好ましくは50.00以上、より好ましくは52.00以上、さらに好ましくは54.00以上、さらに好ましくは58.00以上、さらに好ましくは59.00以上ある。他方で、本発明の光学ガラスは、アッベ数(νd)の上限が、好ましくは88.00以下、より好ましくは87.00以下、さらに好ましくは86.00以下、さらに好ましくは85.00以下である。
【0064】
本発明の光学ガラスは、高い部分分散比(θg,F)を有する。より具体的には、本発明の光学ガラスの部分分散比(θg,F)は、上限は特に限定されないが、好ましくは0.5800以下、より好ましくは0.5700以下であってもよい。他方で、本発明の光学ガラスの部分分散比(θg,F)は、好ましくは0.5300以上、より好ましくは0.5320以上、さらに好ましくは0.5380以上を下限とする。このように、本発明の光学ガラスでは、従来公知のフツリン酸ガラスよりも高い部分分散比(θg,F)を有する。この光学ガラスから形成される光学素子を、色収差の補正に好ましく用いることができる。
【0065】
ここで、本発明の光学ガラスのアッベ数(νd)との関係における部分分散比(θg,F)は、好ましくは(θg,F=-0.0005νd+0.5750)超、より好ましくは(θg,F=-0.0005νd+0.5770)以上、さらに好ましくは(θg,F=-0.0005νd+0.5790)以上、さらに好ましくは(θg,F=-0.0005νd+0.5810)以上、さらに好ましくは(θg,F=-0.0005νd+0.5830)以上とする。他方で、本発明の光学ガラスのアッベ数(νd)との関係における部分分散比(θg,F)の上限は特に限定されないが、好ましくは(θg,F=-0.0005νd+0.6050)以下、より好ましくは(θg,F=-0.0005νd+0.6030)以下としてもよい。
【0066】
[光学ガラス及び光学素子]
作製されたガラスから、例えば研磨加工の手段、又は、リヒートプレス成形や精密プレス成形等のモールドプレス成形の手段を用いて、ガラス成形体を作製することができる。なお、ガラス成形体を作製する手段は、これらの手段に限定されない。
【0067】
本発明の光学ガラスは、様々な光学素子及び光学設計に有用である。本発明の光学ガラスは、例えばレンズ、プリズム、ミラー等の光学素子の用途に用いることができる。
【実施例0068】
表1は、本発明の光学ガラスである各実施例及び比較例の光学ガラスの組成を示している(カチオン%表示又はアニオン%表示のモル%で示す)。表2は、表1に示す各実施例及び比較例の屈折率(nd)、アッベ数(νd)、部分分散比(θg,F)の計測結果等を示している。なお、以下の実施例はあくまで例示の目的のものであり、本発明がこれらの実施例にのみ限定されるものではない。
【0069】
各実施例及び比較例では、いずれも各成分の原料として各々相当する酸化物、炭酸塩、硝酸塩、弗化物、メタ燐酸化合物等の通常の弗燐酸塩ガラスに使用される高純度原料を選定し、表に示した各実施例の組成になるように秤量して均一に混合した後、白金坩堝に投入して坩堝に蓋をし、電気炉を用いて950℃~1100℃で2時間にわたり加熱して、原料を熔解するとともに攪拌均質化して泡切れ等を行い、その後、850℃以下に温度を下げてから金型に鋳込み、徐冷して光学ガラスを作製した。
【0070】
各実施例及び比較例の光学ガラスの屈折率(nd)、アッベ数(νd)は、JIS B 7071-2:2018に規定されるVブロック法に準じて測定した。ここで、屈折率(nd)は、ヘリウムランプのd線(587.56nm)に対する測定値で示した。また、アッベ数(νd)は、ヘリウムランプのd線に対する屈折率(nd)と、水素ランプのF線(486.13nm)に対する屈折率(nF)、C線(656.27nm)に対する屈折率(nC)の値を用いて、アッベ数(νd)=[(nd-1)/(nF-nC)]の式から算出した。これらの屈折率(nd)、アッベ数(νd)は、徐冷降温速度を-25℃/hrにして得られた光学ガラスについて測定を行うことで求めた。
【0071】
また、部分分散比(θg,F)は、Hgランプのg線に対する屈折率(ng)と、水素ランプのF線(486.13nm)に対する屈折率(nF)、C線(656.27nm)に対する屈折率(nC)の値を用いて、部分分散比(θg,F)=(ng-nF)/(nF-nC)の式から算出した。これらの屈折率(nd)、アッベ数(νd)及び部分分散比(θg,F)は、徐冷降温速度を-25℃/hrにして得られたガラスについて測定を行うことで求めた。
【0072】
そして、測定により得られたアッベ数(νd)及び部分分散比(θg,F)の値から、関係式(θg,F)=-a×νd+bにおける、傾きaが-0.00030152のときの切片b2を求めた。
【0073】
各実施例及び比較例の光学ガラス中の比重は、JISZ8807:2012の液中ひょう量法による密度及び比重の測定方法に基づいて行った。さらに、各実施例及び比較例の光学ガラスの製造装置のうち、白金材料からなる製造装置の劣化具合を目視によって確認した。
【0074】
【0075】
【0076】
本発明の実施例及び比較例の光学ガラスは、アッベ数(νd)に対する部分分散比(θg,F)は特許文献1と同等程度に大きく、また、比重が小さいため、色収差の補正に好適なものであった。さらに、各実施例について考察するが、それに先立って、各実施例における含有成分について整理する。
【0077】
まず、いずれの実施例及び比較例についても、カチオン必須成分として、光学ガラスの失透を低減することに寄与する、P5+、Al3+、R2+を含有している。なかでも、P5+の含有量は、光学ガラスの屈折率を高める性質を有する他の成分に比して多いが、とはいえ、特許文献1のものに比して相当程度少なく、その一方で、Mg2+の含有量が相対的に多く、これは光学ガラスの失透を低減し光学ガラスの熔融性を高めることに寄与している。
【0078】
また、各実施例及び比較例では、カチオン選択成分ではあるが必須成分の群から選ばれる1種以上の成分として、光学ガラスの屈折率を高めることに寄与する、Bi3+、Ti4+、Nb5+、W6+のいずれか(以下、「Nb5+等」という。)を含有している。これらの相対的な含有量としては、実施例1~4では多量、実施例4~10及び比較例では中量、実施例11~12では少量とした。
【0079】
さらに、実施例6,8~10では、カチオン選択成分として、光学ガラスの熔融性及び粘性を高め、ガラス転移点(Tg)を下げることに寄与する、K+及びLi+を含有している。なお、これらの成分の一方を他方に代えることも双方の成分を用いることもできるし、これらの成分に代えて又はこれらの成分とともに、同様の性質を有するN+を含有することも可能である。
【0080】
なお、各実施例及び比較例で採用しなかったが、既述のように、光学ガラスの屈折率を高めることに寄与する成分として、La3+、Gd3+、Y3+、Yb3+があり、これらを適量含有させてもよいことは、当業者にとって自明なことである。他の成分についても、製造対象の光学ガラスにおいて発揮させたい機能(例えば、耐失透性を高めたり、熔融性を高めたりすること)に応じて、そのことに寄与する成分を適量含有させてもよいことは、当業者にとって自明なことである。
【0081】
つぎに、各実施例及び比較例では、アニオン必須成分として、光学ガラスの失透を抑制することに寄与するO2-と、光学ガラスのアッベ数及び部分分散比を高めることに寄与するF-を含有している。さらに、Nb5+等を相対的に中量含有している実施例5~10及び比較例のうち、実施例9~10及び比較例では、光学ガラスを、低分散化するとともに、ガラスの異常分散性を付与すること、ガラス転移温度を低下させること、それぞれに寄与する、Cl-を、特許文献1に比して少量ではあるが含有した。
【0082】
そして、全ての実施例においては、白金材料からなる装置の劣化が生じないことが確認された。具体的には、揮発成分が当該装置である熔解設備にこびりつき白っぽくなることもなかった。一方、比較例においては、揮発が多く光学ガラスの製造数がある程度に達すると当該劣化が生じやすいことが確認された。したがって、全ての実施例のものは、光学ガラスの脈理、失透の誘発をもたらすことはないが、比較例のものはそうでないことがわかった。
【0083】
実施例1~4のものは、全実施例を俯瞰的に対比した場合、Nb5+等の含有量が他のものに比して非常に多い点が特徴的である。実施例1~4のものは、Cl-の含有量がゼロであるため、Cl-自体の揮発によって光学ガラスの脈理不良や白金材料からなる装置の劣化を招くというデメリットはなく、それでいて、特許文献1に開示されている光学レンズと比較して、それと同等程度の屈折率(nd)やアッベ数(νd)を得ることができた。
【0084】
とりわけ、実施例1~2では、屈折率(nd)が「1.480000」~「1.520000」の範囲、アッベ数(νd)が「59.00」~「85.00」の範囲、部分分散比が「0.5380」~「0.600」という、既述の最も好ましい範囲に含まれていた。
【0085】
実施例5~10のものは、全実施例を俯瞰的に対比した場合、Nb5+等の含有量が他のものに比して多い点が特徴的である。うち実施例5~8のものは、Cl-の含有量がゼロであるため、実施例1~4のものと組成は同様であった。一方、実施例9~10は、Cl-が含有されているものの、その量は0.10%にも満たない僅かなものであって、Cl-自体の揮発によって光学ガラスの脈理不良や白金材料からなる装置の劣化を招くというデメリットはない一方で、濡れ上がりによるガラスの品質低下の抑制が期待できる。
【0086】
実施例11~12のものは、全実施例を俯瞰的に対比した場合、Nb5+等の含有量が他のものに比して若干多い点が特徴的である。実施例11~12のものは、Cl-の含有量がゼロであるため、Cl-自体の揮発によって光学ガラスの脈理不良や白金材料からなる装置の劣化を招くというデメリットはなく、それでいて、特許文献1に開示されている光学レンズと比較して、それと同等程度の屈折率(nd)やアッベ数(νd)を得ることができた。
【0087】
以上、本発明を例示の目的で詳細に説明したが、本実施例はあくまで例示の目的のみであって、本発明の思想及び範囲を逸脱することなく多くの改変を当業者により成し得ることが理解されよう。