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特開2024-117757積層シート、積層シートの製造方法および容器
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024117757
(43)【公開日】2024-08-29
(54)【発明の名称】積層シート、積層シートの製造方法および容器
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/32 20060101AFI20240822BHJP
   B32B 27/00 20060101ALI20240822BHJP
   B65D 65/40 20060101ALI20240822BHJP
   B65D 1/00 20060101ALI20240822BHJP
   B65D 77/20 20060101ALI20240822BHJP
【FI】
B32B27/32
B32B27/00 H
B65D65/40 D
B65D1/00 111
B65D77/20 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】26
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024021974
(22)【出願日】2024-02-16
(31)【優先権主張番号】P 2023023391
(32)【優先日】2023-02-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】500163366
【氏名又は名称】出光ユニテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000637
【氏名又は名称】弁理士法人樹之下知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】橋本 季和
(72)【発明者】
【氏名】石黒 隆洋
【テーマコード(参考)】
3E033
3E067
3E086
4F100
【Fターム(参考)】
3E033AA08
3E033BA15
3E033BA16
3E033BB08
3E033CA07
3E033DA08
3E033FA01
3E033FA04
3E067AB01
3E067BA02A
3E067BA07A
3E067BB14A
3E067BB15A
3E067BB16A
3E067BB25A
3E067BB26A
3E067BC07A
3E067CA04
3E067EA06
3E067EA29
3E067EA35
3E067EB11
3E067EB27
3E086AA21
3E086AB01
3E086AC07
3E086AD05
3E086AD06
3E086AD24
3E086BA04
3E086BA15
3E086BA33
3E086BB01
3E086BB51
3E086CA01
4F100AK03B
4F100AK04A
4F100AK05B
4F100AK06B
4F100AK07A
4F100AK16C
4F100AK69C
4F100AL05A
4F100AL05B
4F100AR00B
4F100AR00C
4F100AT00
4F100BA02
4F100BA03
4F100GB16
4F100JJ05
4F100JK06
(57)【要約】
【課題】凝集破壊を利用して開封される容器において、耐熱性を確保しながら凝集破壊層の凝集強度を低くして開封性を向上させる。
【解決手段】ポリプロピレン系樹脂およびポリエチレン系樹脂を含む樹脂組成物で形成される表面層と、前記表面層とは異なる樹脂組成物で形成される少なくとも1層の表下層とを含む積層シートであって、前記表面層において前記ポリエチレン系樹脂は前記ポリプロピレン系樹脂で構成されるマトリックス相内でMD(Machine Direction)について引き伸ばされた形状の分散相を形成する積層シートが提供される。
【選択図】図4B
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリプロピレン系樹脂およびポリエチレン系樹脂を含む樹脂組成物で形成される表面層と、前記表面層とは異なる樹脂組成物で形成される少なくとも1層の表下層とを含む積層シートであって、
前記表面層において前記ポリエチレン系樹脂は前記ポリプロピレン系樹脂で構成されるマトリックス相内でMD(Machine Direction)について引き伸ばされた形状の分散相を形成する積層シート。
【請求項2】
前記分散相のフェレ長径平均が0.60μm以上である、請求項1に記載の積層シート。
【請求項3】
前記分散相のフェレ径比平均が30.0度以下である、請求項1に記載の積層シート。
【請求項4】
前記分散相のフェレ長径が0.4μm以上のドメイン%が30%以上である、請求項1に記載の積層シート。
【請求項5】
JIS K7210-1に従って荷重2.16kgで測定されたメルトフローレートについて、前記ポリプロピレン系樹脂の230℃測定条件でのメルトフローレートと、前記ポリエチレン系樹脂の190℃測定条件でのメルトフローレートとの差が0.1g/10分以上15.0g/10分以下である、請求項1に記載の積層シート。
【請求項6】
ポリプロピレン系樹脂およびポリエチレン系樹脂を含む樹脂組成物で形成される表面層と、前記表面層とは異なる樹脂組成物で形成される少なくとも1層の表下層とを含む積層シートであって、
前記表面層とポリプロピレン系樹脂を主成分とするシーラントフィルムとをヒートシールしたときの剥離強度曲線のシール温度に対する収束値が21.6N/15mm以下である積層シート。
【請求項7】
厚みが0.05mm以上、2.5mm以下である、請求項1または請求項6に記載の積層シート。
【請求項8】
前記表下層は、少なくとも一対の基材層を含む、請求項1または請求項6に記載の積層シート。
【請求項9】
前記少なくとも一対の基材層は、一対の第1の基材層と、前記一対の第1の基材層の間に積層される単一または一対の第2の基材層とを含む、請求項8に記載の積層シート。
【請求項10】
前記表下層は、バリア層を含み、
前記少なくとも一対の基材層は、前記バリア層の両側にそれぞれ積層される、請求項8に記載の積層シート。
【請求項11】
前記表下層は、前記バリア層の両側で前記少なくとも一対の基材層との間に積層される接着層を含む、請求項10に記載の積層シート。
【請求項12】
前記表下層は、前記表面層側に積層される第1の基材層と、前記表面層とは反対側に積層される第2の基材層とを含む、請求項1または請求項6に記載の積層シート。
【請求項13】
請求項1または請求項6に記載の積層シートの製造方法であって、
押出成形によって前記表面層および前記表下層を成形する工程と、
成形後の前記積層シートを無端ベルトと冷却ロールとの間に挟み込むことによって冷却する工程と
を含む積層シートの製造方法。
【請求項14】
請求項1または請求項6に記載の積層シートを、前記表面層を内側にして凹部および前記凹部の周縁から外方に延出するフランジ部を含む形状に成形した容器本体を含む容器。
【請求項15】
基材層およびポリプロピレン系樹脂を主成分とするシール層を含み、前記シール層が前記フランジ部に形成される接合領域で前記容器本体の前記表面層に接合される蓋体をさらに含む、請求項14に記載の容器。
【請求項16】
ポリプロピレン系樹脂およびポリエチレン系樹脂を含む樹脂組成物で形成される表面層と、前記表面層とは異なる樹脂組成物で形成される少なくとも1層の表下層とを含み、前記表面層を内側にして凹部および前記凹部の周縁から外方に延出するフランジ部を含む形状を有する容器本体を含む容器であって、
前記フランジ部の表面層において前記ポリエチレン系樹脂は前記ポリプロピレン系樹脂で構成されるマトリックス相内でMD(Machine Direction)について引き伸ばされた形状の分散相を形成する容器。
【請求項17】
前記分散相のフェレ長径平均が0.60μm以上である、請求項16に記載の容器。
【請求項18】
前記分散相のフェレ径比平均が30.0度以下である、請求項16に記載の容器。
【請求項19】
前記分散相のフェレ長径が0.4μm以上のドメイン%が30%以上である、請求項16に記載の容器。
【請求項20】
ポリプロピレン系樹脂およびポリエチレン系樹脂を含む樹脂組成物で形成される表面層と、前記表面層とは異なる樹脂組成物で形成される少なくとも1層の表下層とを含み、前記表面層を内側にして凹部および前記凹部の周縁から外方に延出するフランジ部を含む形状を有する容器本体を含む容器であって、
前記表面層とポリプロピレン系樹脂を主成分とするシーラントフィルムとをヒートシールしたときの剥離強度曲線のシール温度に対する収束値が45N/15mm以下である容器。
【請求項21】
基材層およびポリプロピレン系樹脂を主成分とするシール層を含み、前記シール層が前記フランジ部に形成される接合領域で前記容器本体の前記表面層に接合される蓋体をさらに含む、請求項16から請求項20のいずれか1項に記載の容器。
【請求項22】
前記表面層の凝集強度は、前記表面層と前記表下層との間の層間接合強度、および前記表面層と前記シール層との間の層間接合強度よりも弱い、請求項21に記載の容器。
【請求項23】
前記接合領域の内周側に、前記表面層および前記表下層に含まれる少なくとも1つの層を形成する樹脂からなり前記凹部側に傾いた瘤状断面の第1樹脂溜まり部と、前記シール層を形成する樹脂からなり前記第1樹脂溜まり部よりも前記凹部側に位置する瘤状断面の第2樹脂溜まり部とが形成される、請求項21に記載の容器。
【請求項24】
表面層および表下層を含む積層シートが前記表面層を内側にして凹部および前記凹部の周縁から外方に延出するフランジ部を含む形状に成形された容器本体と、
基材層およびポリプロピレン系樹脂を主成分とするシール層を含み、前記シール層が前記フランジ部に形成される接合領域で前記容器本体の前記表面層に接合される蓋体と、
を備える容器であって、
前記接合領域における前記表面層と前記シール層との間の剥離強度曲線のシール温度に対する収束値が45N/15mm以下である容器。
【請求項25】
前記表面層はポリプロピレン系樹脂およびポリエチレン系樹脂を含む樹脂組成物で形成され、
前記フランジ部の表面層において前記ポリエチレン系樹脂は、前記ポリプロピレン系樹脂で構成されるマトリックス相内でMD(Machine Direction)について引き伸ばされた形状の分散相を形成する、請求項24に記載の容器。
【請求項26】
前記表面層の凝集強度は、前記表面層と前記表下層との間の層間接合強度、および前記表面層と前記シール層との間の層間接合強度よりも弱い、請求項24または請求項25に記載の容器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層シート、積層シートの製造方法および容器に関する。
【背景技術】
【0002】
容器本体および蓋体からなる食品などの容器において、開封性、すなわち開封時に蓋体を容器本体から容易に剥離できるようにすることと、密封性、すなわち開封時以外には容器本体と蓋体とが接合された状態を確実に維持することとを両立することは容易ではない。容器本体と蓋体との間の接合強度を高くすれば密封性は向上するが開封性は低下し、逆に接合強度を低くすれば開封性が向上する代わりに密封性が低下するためである。このような課題を解決するための技術は、これまでに種々提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1、特許文献2および特許文献3には、容器本体の表面層または蓋体のシール層のいずれかを凝集破壊層、すなわち凝集強度が隣接する層との間の接合強度よりも弱い層とすることで開封性と密封性とを両立させる技術が記載されている。これらの文献ではさらに、容器本体のフランジ部と蓋体とをヒートシールする際に接合領域の内周縁近傍に瘤状の樹脂溜まりを形成することによって、開封性を維持しながら密封性をさらに高めることも記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4610357号公報
【特許文献2】特許第5001962号公報
【特許文献3】特許第5523933号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
例えば上記の文献に記載されたように凝集破壊を利用して開封される容器において、凝集破壊層の凝集強度をより低くすることには利点がある。凝集破壊層の凝集強度が低くなれば、開封時に必要な力が少なくて済む。また、後述するように樹脂溜まりを形成する容器においてCPP(無延伸ポリプロピレン)シーラントフィルムを蓋体のシール層に使用した場合に生じうる問題を解決することができる。例えば凝集破壊層を形成する樹脂組成物におけるLDPE(低密度ポリエチレン)の含有量を多くすれば凝集強度を低下させることができるが、融点が比較的低い樹脂であるLDPEの含有量が多くなると樹脂組成物の融点は低下するため、容器の耐熱性を維持することは難しい。
【0006】
そこで、本発明は、凝集破壊を利用して開封される容器において、耐熱性を確保しながら凝集破壊層の凝集強度を低くして開封性を向上させることが可能な積層シート、積層シートの製造方法および容器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
[1]ポリプロピレン系樹脂およびポリエチレン系樹脂を含む樹脂組成物で形成される表面層と、前記表面層とは異なる樹脂組成物で形成される少なくとも1層の表下層とを含む積層シートであって、前記表面層において前記ポリエチレン系樹脂は前記ポリプロピレン系樹脂で構成されるマトリックス相内でMD(Machine Direction)について引き伸ばされた形状の分散相を形成する積層シート。
[2]前記分散相のフェレ長径平均が0.60μm以上である、[1]に記載の積層シート。
[3]前記分散相のフェレ径比平均が30.0度以下である、[1]に記載の積層シート。
[4]前記分散相のフェレ長径が0.4μm以上のドメイン%が30%以上である、[1]に記載の積層シート。
[5]JIS K7210-1に従って荷重2.16kgで測定されたメルトフローレートについて、前記ポリプロピレン系樹脂の230℃測定条件でのメルトフローレートと、前記ポリエチレン系樹脂の190℃測定条件でのメルトフローレートとの差が0.1g/10分以上15.0g/10分以下である、[1]に記載の積層シート。
[6]ポリプロピレン系樹脂およびポリエチレン系樹脂を含む樹脂組成物で形成される表面層と、前記表面層とは異なる樹脂組成物で形成される少なくとも1層の表下層とを含む積層シートであって、前記表面層とポリプロピレン系樹脂を主成分とするシーラントフィルムとをヒートシールしたときの剥離強度曲線のシール温度に対する収束値が21.6N/15mm以下である積層シート。
[7]厚みが0.05mm以上、2.5mm以下である、[1]または[6]に記載の積層シート。
[8]前記表下層は、少なくとも一対の基材層を含む、[1]または[6]に記載の積層シート。
[9]前記少なくとも一対の基材層は、一対の第1の基材層と、前記一対の第1の基材層の間に積層される単一または一対の第2の基材層とを含む、[8]に記載の積層シート。
[10]前記表下層は、バリア層を含み、前記少なくとも一対の基材層は、前記バリア層の両側にそれぞれ積層される、[8]に記載の積層シート。
[11]前記表下層は、前記バリア層の両側で前記少なくとも一対の基材層との間に積層される接着層を含む、[10]に記載の積層シート。
[12]前記表下層は、前記表面層側に積層される第1の基材層と、前記表面層とは反対側に積層される第2の基材層とを含む、[1]または[6]に記載の積層シート。
[13][1]または[6]に記載の積層シートの製造方法であって、押出成形によって前記表面層および前記表下層を成形する工程と、成形後の前記積層シートを無端ベルトと冷却ロールとの間に挟み込むことによって冷却する工程とを含む積層シートの製造方法。
[14][1]または[6]に記載の積層シートを、前記表面層を内側にして凹部および前記凹部の周縁から外方に延出するフランジ部を含む形状に成形した容器本体を含む容器。
[15]基材層およびポリプロピレン系樹脂を主成分とするシール層を含み、前記シール層が前記フランジ部に形成される接合領域で前記容器本体の前記表面層に接合される蓋体をさらに含む、[14]に記載の容器。
[16]ポリプロピレン系樹脂およびポリエチレン系樹脂を含む樹脂組成物で形成される表面層と、前記表面層とは異なる樹脂組成物で形成される少なくとも1層の表下層とを含み、前記表面層を内側にして凹部および前記凹部の周縁から外方に延出するフランジ部を含む形状を有する容器本体を含む容器であって、前記フランジ部の表面層において前記ポリエチレン系樹脂は前記ポリプロピレン系樹脂で構成されるマトリックス相内でMD(Machine Direction)について引き伸ばされた形状の分散相を形成する容器。
[17]前記分散相のフェレ長径平均が0.60μm以上である、[16]に記載の容器。
[18]前記分散相のフェレ径比平均が30.0度以下である、[16]に記載の容器。
[19]前記分散相のフェレ長径が0.4μm以上のドメイン%が30%以上である、[16]に記載の容器。
[20]ポリプロピレン系樹脂およびポリエチレン系樹脂を含む樹脂組成物で形成される表面層と、前記表面層とは異なる樹脂組成物で形成される少なくとも1層の表下層とを含み、前記表面層を内側にして凹部および前記凹部の周縁から外方に延出するフランジ部を含む形状を有する容器本体を含む容器であって、前記表面層とポリプロピレン系樹脂を主成分とするシーラントフィルムとをヒートシールしたときの剥離強度曲線のシール温度に対する収束値が45N/15mm以下である容器。
[21]基材層およびポリプロピレン系樹脂を主成分とするシール層を含み、前記シール層が前記フランジ部に形成される接合領域で前記容器本体の前記表面層に接合される蓋体をさらに含む、[16]から[20]のいずれか1項に記載の容器。
[22]前記表面層の凝集強度は、前記表面層と前記表下層との間の層間接合強度、および前記表面層と前記シール層との間の層間接合強度よりも弱い、[21]に記載の容器。
[23]前記接合領域の内周側に、前記表面層および前記表下層に含まれる少なくとも1つの層を形成する樹脂からなり前記凹部側に傾いた瘤状断面の第1樹脂溜まり部と、前記シール層を形成する樹脂からなり前記第1樹脂溜まり部よりも前記凹部側に位置する瘤状断面の第2樹脂溜まり部とが形成される、[21]に記載の容器。
[24]表面層および表下層を含む積層シートが前記表面層を内側にして凹部および前記凹部の周縁から外方に延出するフランジ部を含む形状に成形された容器本体と、基材層およびポリプロピレン系樹脂を主成分とするシール層を含み、前記シール層が前記フランジ部に形成される接合領域で前記容器本体の前記表面層に接合される蓋体と、を備える容器であって、前記接合領域における前記表面層と前記シール層との間の剥離強度曲線のシール温度に対する収束値が45N/15mm以下である容器。
[25]前記表面層はポリプロピレン系樹脂およびポリエチレン系樹脂を含む樹脂組成物で形成され、前記フランジ部の表面層において前記ポリエチレン系樹脂は、前記ポリプロピレン系樹脂で構成されるマトリックス相内でMD(Machine Direction)について引き伸ばされた形状の分散相を形成する、[24]に記載の容器。
[26]前記表面層の凝集強度は、前記表面層と前記表下層との間の層間接合強度、および前記表面層と前記シール層との間の層間接合強度よりも弱い、[24]または[25]に記載の容器。
【発明の効果】
【0008】
上記の構成によれば、融点の低い樹脂の含有量を多くしなくても積層シートの表面層の凝集強度を低くすることができるため、凝集破壊を利用して開封される容器において、耐熱性を確保しながら凝集破壊層の凝集強度を低くして開封性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の実施形態に係る積層シートを成形した容器本体を含む容器を示す図である。
図2図1に示す容器の開封時の動作の例を示す断面図である。
図3図1に示す容器の開封時の動作の別の例を示す断面図である。
図4A】本発明の実施形態に係る積層シートにおいて凝集破壊層の凝集強度を低くするための構成について模式的に説明する図である。
図4B】本発明の実施形態に係る積層シートにおいて凝集破壊層の凝集強度を低くするための構成について模式的に説明する図である。
図5】分散相のフェレ径について説明する図である。
図6】本発明の実施形態に係る積層シートの製造工程の例を示す図である。
図7】積層シートの構成の第1の例を示す図である。
図8】積層シートの構成の第2の例を示す図である。
図9】積層シートの構成の第3の例を示す図である。
図10】積層シートの構成の第4の例を示す図である。
図11】本発明の実施例を示すグラフである。
図12】実施例に係る積層シート表面層の透過電子顕微鏡(TEM)写真である。
図13】比較例に係る積層シート表面層のTEM写真である。
図14】実施例および比較例における分散相のフェレ径の測定について説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0011】
なお、本明細書において、樹脂組成物の主成分は、樹脂組成物の成分のうち最も含有率が多い成分を意味する。従って、樹脂組成物は主成分のみを含んでもよいし、主成分に加えて他の成分を含んでもよい。樹脂組成物の主成分は、例えばIR法によって確認することができる。また、本明細書において、樹脂組成物の成分の含有率は、別途記載がない限り樹脂組成物全体に対する質量%で表記する。
【0012】
図1は、本発明の実施形態に係る積層シートを成形した容器本体を含む容器を示す図である。容器100は、容器本体110および蓋体130を含む。図示された例において容器本体110は略円形の平面形状を有し、カップ状の凹部111と、凹部111の周縁から外方に延出するフランジ部112とを含む。蓋体130は、凹部111の開口を覆うフィルム状の部材であり、フランジ部112に形成される環状の接合領域140でヒートシールまたは超音波シールなどによって容器本体110に接合される。蓋体130には、フランジ部112の周縁から延出したタブ131が形成されている。図1(A)および図1(B)に示すように、タブ131を引っ張ることによって蓋体130を容器本体110から引き剥がし、容器100を開封することができる。なお、容器本体110に蓋体130が接合される前の状態では、容器本体110のみによって容器が構成されてもよい。
【0013】
図2は、図1に示す容器の開封時の動作の例を示す断面図である。図示されるように、容器本体110は、表面層11および表下層12A,12Bを含む積層シート10を、真空成形または圧空成形などによって、表面層11を内側にして凹部111およびフランジ部112を含む形状に成形したものである。積層シート10において、表面層11はポリプロピレン系樹脂およびポリエチレン系樹脂を含む樹脂組成物で形成され、以下で説明する開封時の動作において凝集破壊層を構成する。表下層12A,12Bは積層シート10における表面層11以外の層である。図示された例では2層の表下層12A,12Bが例示されているが、表下層として積層される層の数は限定されない。後述するように、表下層は、基材層やバリア層などの積層シート10に必要とされる機能を発揮する層を含む。
【0014】
一方、蓋体130は、基材層31およびシール層32を含む積層フィルム30で形成され、シール層32が接合領域140で容器本体110の表面層11に接合される。基材層31は、例えばPET(ポリエチレンテレフタレート)フィルム、またはO-Ny(二軸延伸ナイロン)フィルムなどで形成される。シール層32は、例えばRPP(ランダムポリプロピレン)、BPP(ブロックポリプロピレン)、またはLLDPE(直鎖状低密度ポリエチレン)などのポリオレフィン系樹脂を含む樹脂組成物で形成される。なお、積層フィルム30には、基材層31およびシール層32以外に追加の層が含まれてもよい。
【0015】
図2(A)および図2(B)に示すように、容器100は、容器本体110の表面層11を凝集破壊層として開封される。ここで、凝集破壊層は、凝集強度、すなわち層を構成する樹脂を結合させている分子間力(凝集力)によって発揮される強度が、隣接する層との間の層間接合強度よりも弱い層である。具体的には、図示された例において、表面層11の凝集強度は、表面層11と表下層12Aとの間の層間接合強度、および表面層11と蓋体130のシール層32との間の層間接合強度よりも弱い。従って、タブ131を引っ張った場合、表面層11と表下層12Aとの間や表面層11とシール層32との間が層間剥離するのではなく、表面層11が凝集破壊されることによって蓋体130が容器本体110から引き剥がされる。凝集破壊層を設けず、例えば表面層11とシール層32との間を層間剥離させることによって開封する場合はヒートシールの温度調節などによって層間接合強度を弱める必要があるが、ヒートシールの温度調節による接合強度の微調整は容易ではない。これに対して、凝集破壊層の凝集強度は材料の組成や製造工程によって安定して調節できるため、上記のような凝集破壊を利用した開封には利点がある。
【0016】
加えて、図2に示される例では、接合領域140の内周側に樹脂溜まり部120が形成される。樹脂溜まり部120は、容器本体110の表面層11および表下層12Aを形成する樹脂からなり凹部111側に傾いた瘤状断面の第1樹脂溜まり部121と、蓋体130のシール層32を形成する樹脂からなり、第1樹脂溜まり部121よりも凹部111側に位置する瘤状断面の第2樹脂溜まり部122とを含む。このような樹脂溜まり部120は、例えば容器本体110に蓋体130をヒートシールなどで接合するときに用いられるシール盤の内周側に傾斜やR部を形成した上で押圧力を調整して溶融した樹脂を押し出すことによって形成される。図示されているように、樹脂溜まり部120の凹部111側で第2樹脂溜まり部122が第1樹脂溜まり部121を完全には覆わないことによって、図2(B)に示すように開封時の表面層11の凝集破壊によって第1樹脂溜まり部121が破断され、蓋体130を引き剥がすことができる。その一方で、容器100の内圧上昇時には樹脂溜まり部120によって力が分散され、表面層11が凝集破壊しないことによって容器本体110と蓋体130との間の接合が維持される。このように、凝集破壊層を設けるのに加えて樹脂溜まり部120を形成することによって、容器100の耐内圧性を高めつつ開封性を維持することができる。
【0017】
図3は、図1に示す容器の開封時の動作の別の例を示す断面図である。図2に示した例のように接合領域140の内周側に樹脂溜まり部120を形成する場合、開封時に容器本体110側の第1樹脂溜まり部121が破断されるように、蓋体130側の第2樹脂溜まり部122は第1樹脂溜まり部121を完全には覆わないことが意図されている。しかしながら、例えば蓋体130のシール層32にCPPシーラントフィルムを使用した場合や、それ以外の場合でも例えばヒートシール時の温度や押圧力がうまく調整されなかった場合には、図3(A)に示すようにシール層32の樹脂が大きく押し出されて第2樹脂溜まり部122が第1樹脂溜まり部121を覆い、開封時の表面層11の凝集破壊による第1樹脂溜まり部121の破断が阻害される結果として容器100が開封されない可能性がある。しかしながら、このような場合であっても、表面層11の凝集強度が低ければ、第1樹脂溜まり部121と第2樹脂溜まり部122との界面に沿って表面層11がさらに凝集破壊し、第2樹脂溜まり部122を容器本体110から分離することによって容器100を開封することができる。
【0018】
以上で例示したような凝集破壊を利用して開封される容器100において、凝集破壊層、具体的には容器本体110を構成する積層シート10の表面層11の凝集強度を低くすることには利点がある。具体的には、図2および図3の例、ならびに樹脂溜まりを形成しない容器に共通して、表面層11の凝集強度が低くなれば開封時にタブ131を引っ張る力が少なくて済む。また、図3の例のように第2樹脂溜まり部122が第1樹脂溜まり部121を覆っている場合であっても、表面層11の凝集強度が低ければ容器100を開封することができる。ただし、既に述べたようにLDPEのような融点が比較的低い樹脂の含有量を多くすることによって凝集強度を低くすると容器本体110の耐熱性が低下してしまう。そこで、以下では、耐熱性を確保しながら表面層11の凝集強度を低くするための積層シート10の構成について説明する。
【0019】
図4Aおよび図4Bは、本発明の実施形態に係る積層シートにおいて凝集破壊層の凝集強度を低くするための構成について模式的に説明する図である。既に説明したように、積層シート10は、表面層11と少なくとも1層の表下層12とを含む。本実施形態において、表面層11は、例えばHPP(ホモポリプロピレン)およびm-RPPなどのポリプロピレン系樹脂、ならびにLDPEなどのポリエチレン系樹脂を含む樹脂組成物で形成され、ポリプロピレン系樹脂PPの中にポリエチレン系樹脂PEの分散相が形成される海島構造を有する。図4Aに参考例として示す積層シート10Pの場合、表面層11Pにおけるポリエチレン系樹脂PEの分散相は略球状である。これに対して、図4Bとして示す本実施形態に係る積層シート10の場合、表面層11におけるポリエチレン系樹脂PEの分散相は、例えば後述するような製造工程によってMD(Machine Direction)について引き伸ばされた形状になっている。本実施形態に係る積層シート10では、参考例の積層シート10Pに比べてポリエチレン系樹脂PEの分散相によって形成される単位体積あたりの欠陥量が大きくなることによって表面層11の凝集強度がさらに弱められていると考えられる。積層シート10を容器本体110に成形した場合は、フランジ部112の表面層11においてポリエチレン系樹脂の分散相がMDについて引き伸ばされた形状になっている。なお、フランジ部112以外の表面層11では、積層シート10を容器本体110に成形する時に加わる力のために、必ずしもポリエチレン系樹脂の分散相がMDについて引き伸ばされているとは限らない。
【0020】
分散相がMDについて引き伸ばされた形状であることは、例えば分散相のフェレ径(Feretdiameter)で確認することができる。図5に示すように、引き伸ばされた分散相のドメインに外接する矩形の長辺の長さをフェレ長径H、短辺の長さをフェレ短径Vとする。フェレ径比θは分散相のドメインに外接する長方形の対角線の角度、すなわちtanθ=V/Hとなる角度で表される。フェレ長径Hおよびフェレ短径Vは、表面層の透過電子顕微鏡(TEM)写真を観察することによって測定できる。より具体的には、試料表面にオスミウム(Os)コーティングを行って樹脂包埋したものについてミクロトームで断面を切り出し、ルテニウム染色(RuClおよびNaClOからRuOを生成する)を行った上で、再度ミクロトームで切片を作製したもののTEM写真を画像解析してフェレ長径Hおよびフェレ短径Vを測定する。画像において寸法が測定可能な面積(例えば0.005μm超)を有する分散相のドメインについて、フェレ長径平均、フェレ径比平均、およびフェレ長径が0.4μm以上のドメイン%を算出することができる。積層シートが容器に成形されている場合は、容器のフランジ部で測定する。
【0021】
分散相がMDについて引き伸ばされた形状である場合、分散相のフェレ長径平均は例えば0.60μm以上になる。分散相のフェレ長径平均は好ましくは0.65μm以上であり、より好ましくは0.75μm以上であり、さらに好ましくは1.00μm以上であり、特に好ましくは1.50μm以上である。分散相のフェレ長径平均の上限値は特に限定されないが、例えば50.0μm以下である。なお、画像解析の範囲によって測定値の上限が制約される場合は、その上限値(後述する例では9.12μm)を分散相のフェレ長径平均の上限値としてもよい。
【0022】
また、分散相がMDについて引き伸ばされた形状である場合、分散相のフェレ径比平均は例えば30.0度以下になる。分散相のフェレ径比平均は好ましくは27.0度以下であり、より好ましくは25.0度以下であり、さらに好ましくは23.0度以下であり、特に好ましくは21.0度以下である。分散相のフェレ径比平均の下限値は特に限定されないが、例えば1度以上である。なお、なお、後述するような測定方法によって測定値の上限が制約される場合は、その上限値(後述する例では9.12μm)を長径として分散相のフェレ径比平均を算出してもよい。
【0023】
また、分散相がMDについて引き伸ばされた形状である場合、分散相のフェレ長径が0.4μm以上のドメイン%は例えば30%以上になる。分散相のフェレ長径が0.4μm以上のドメイン%は、好ましくは32%以上であり、より好ましくは35%以上であり、さらに好ましくは40%以上であり、特に好ましくは45%以上である。分散相のフェレ長径が0.4μm以上のドメイン%の上限値は特に限定されないが、例えば100%以下である。
【0024】
表面層において上記のような海島構造を形成して凝集強度を低くするという観点で、JIS K7210-1に従って荷重2.16kgで測定されたメルトフローレートについて、ポリプロピレン系樹脂の230℃測定条件でのメルトフローレートと、ポリエチレン系樹脂の190℃測定条件のメルトフローレートとの差は、0.1g/10分以上15.0g/10分以下であることが好ましく、より好ましくは0.15g/10分以上10.0g/10分以下であり、さらに好ましくは1.0g/10分以上7.5g/10分以下である。ポリプロピレン系樹脂に2種類以上のポリプロピレンが配合される場合、およびポリエチレン系樹脂に2種類以上のポリエチレンが配合される場合は、ポリプロピレン系樹脂またはポリエチレン系樹脂のメルトフローレートMについて、それぞれのポリプロピレンまたはポリエチレンについてメルトフローレートM,Mを算出した上で、配合比率X,X(X+x=1)を用いてlog10M=Xlog10+Xlog10として算出することができる。
【0025】
図6は、本発明の実施形態に係る積層シートの製造工程の例を示す図である。図示された例において、押出機のTダイ501によって共押出された積層シート10は、金属製無端ベルト502とともに一対の冷却ロール503,504の間に挟み込まれ、冷却ロール504の周面に沿って搬送された後、さらに冷却ロール505の周面に沿って搬送される。金属製無端ベルト502は、冷却ロール503,504,505および搬送ロール506によって連続的に搬送されており、共押出による成形後の積層シート10は金属製無端ベルト502および冷却ロール503,504,505の周面との直接的または間接的な接触によって冷却される。なお、各冷却ロールには水冷管などの図示しない冷却手段が備えられている。また、金属製無端ベルト502と冷却ロール504の周面との間に積層シート10が挟み込まれている区間では、金属製無端ベルト502裏面側に吹き付けノズル507を用いて冷却水が吹き付けられる。吹き付けられた冷却水は水槽508を用いて回収され、金属製無端ベルト502の裏面に付着した水は吸水ロール509で除去される。冷却ロール505の周面を離れた積層シート10は金属製無端ベルト502からも離れ、搬送ロール510によりガイドされて次工程に搬送される。
【0026】
上記のように押出成形による成形後の積層シート10を無端ベルトと冷却ロールとの間に挟み込むことによって冷却する製造工程によれば、無端ベルトおよび冷却ロールとの接触、ならびに冷却水の吹き付けによって成形後の積層シート10が急冷される。このような製造工程では例えば積層シートの機械物性や透明性などを発揮させることができるが、後述する実施例のように積層シート10の表面層11におけるポリエチレン系樹脂の分散相をMDについて引き伸ばし、凝集強度を弱める効果もある。
【0027】
なお、本発明の実施形態に係る積層シートの製造工程は図6に示した例には限定されず、例えば積層シートを冷却するためのベルトやロールの配置は適宜変更可能である。また、例えばベルトやロールとの接触によらずに積層シートを急冷する製造工程など、他の製造工程でも本発明の実施形態に係る積層シートを製造することは可能でありうる。
【0028】
上述のような本発明の実施形態に係る積層シート10の表面層11を形成する樹脂組成物におけるポリプロピレン系樹脂(PP)とポリエチレン系樹脂(PE)との含有量の割合は、例えばPP:PE=20:80~95:5の範囲にあり、PP:PE=40:60~95:5の範囲が好ましく、PP:PE=60:40~80:20の範囲がより好ましい。なお、表面層11を形成する樹脂組成物はポリプロピレン系樹脂およびポリエチレン系樹脂以外の樹脂や添加剤などを含んでもよい。
【0029】
上記のような積層シート10の表面層11、および以下で説明する表下層12において、ポリエチレン系樹脂の少なくとも一部はバイオマス由来のポリエチレン系樹脂(バイオポリエチレン)であってもよい。バイオポリエチレンは、例えばトウモロコシ、キャッサバ、サトウキビ、さとう大根、パームヤシ、大豆、ヒマなどを原料として、発酵、菌発酵、化学変化または培養抽出などによって製造される。また、ポリプロピレン系樹脂の少なくとも一部は、バイオマス由来のポリプロピレン系樹脂(バイオポリプロピレン)であってもよい。バイオポリプロピレンは、例えば、非可食植物であるソルゴーの糖蜜を微生物で発酵させて中間素材を生成し、脱水することにより得ることができる。なお、ポリエチレン系樹脂およびポリプロピレン系樹脂は、全量がバイオポリエチレンまたはバイオポリプロピレンであってもよいし、化石燃料由来のポリエチレン系樹脂またはポリプロピレン系樹脂とバイオポリエチレンまたはバイオポリプロピレンとが併用されてもよい。また、ポリプロピレン系樹脂およびポリエチレン系樹脂は、上記で例示された樹脂のいずれか1種によって構成されてもよく、あるいは2種以上が併用されてもよい。
【0030】
以下では、本発明の実施形態に係る積層シートの表下層の構成の例について、さらに説明する。既に述べたように、積層シート10は、表面層11とは異なる樹脂組成物で形成される少なくとも1層の表下層12を含み、表下層12は基材層やバリア層などの積層シート10に必要とされる機能を発揮する層を含む。それぞれの例において、積層シート10は、容器本体110として使用するのに適した厚み、具体的には例えば0.05mm以上、2.5mm以下で成形されるが、この例には限られない。積層シート10の厚みは、好ましくは0.2mm以上、より好ましくは0.3mm以上である。また、積層シート10の厚みは、好ましくは1.8mm以下、より好ましくは1.2mm以下である。
【0031】
図7は、積層シートの構成の第1の例を示す図である。図示された例において、積層シート10は、表面層11と、表下層を構成する第1基材層12C,12Fおよび第2基材層12D,12Eとを含む。第2基材層12D,12Eは、第1基材層12C,12Fの間に積層される。第1基材層12C,12Fおよび第2基材層12D,12Eはそれぞれ、例えばHPP、BPPまたはRPPのようなポリプロピレン系樹脂と、HDPE(高密度ポリエチレン)、LDPEまたはLLDPEのようなポリエチレン系樹脂とを含む樹脂組成物で形成される。第1基材層12C,12Fおよび第2基材層12D,12Eには、ポリスチレン系樹脂、ポリエステル系樹脂、またはこれらの混合物などの樹脂がさらに含有されてもよく、剛性を向上させるためのタルクなどの無機フィラーのような各種の添加材が添加されてもよい。
【0032】
図8は、積層シートの構成の第2の例を示す図である。図示された例において、積層シート10は、表下層を構成する層として図7の例と同様の第1基材層12C,12Fおよび第2基材層12D,12Eに加えて、バリア層12Gおよび接着層12Hを含む。バリア層12Gは、例えばEVOH(エチレン-ビニルアルコール共重合体)、MXNy(MXナイロン)、PVDC(ポリ塩化ビニリデン)またはPAN(ポリアクリロニトリル)のうち1種または2種以上の混合物を含む樹脂組成物を押出成形するか、またはシリカ、アルミナ、アルミニウムまたは窒化ケイ素などの無機系材料、PVA(ポリビニルアルコール)などの有機系材料、もしくはシリカ/PVAなどの有機無機ハイブリッド材料の層をコーティングすることによって形成される。表下層がバリア層12Gを含む場合、第2基材層12D,12Eはバリア層12Gの両側に積層される。接着層12Hは、例えばウレタン系エラストマー、スチレン系エラストマー、無水マレイン酸変性ポリエチレン、無水マレイン酸変性ポリプロピレンまたはエチレン酢酸ビニル(EVA)などで形成され、バリア層12Gと第2基材層12D,12Eとの間に積層される。上記のようなバリア層12Gを積層することによって、積層シート10にガスバリア性をもたせ、例えば容器100の内容物の酸化を抑制することができる。
【0033】
図9および図10は、積層シートの構成の第3および第4の例を示す図である。図示された例において、積層シート10は、表面層11と、表下層を構成する基材層12Iおよび裏面層12Jとを含む。基材層12Iは、図7および図8の例における基材層と同様に、ポリプロピレン系樹脂およびポリエチレン系樹脂を含む樹脂組成物で形成される。裏面層12Jは、上述した表面層11と同様の樹脂組成物で形成される。図9の例において、表面層11および裏面層12Jは、例えばソルビトール系結晶核剤のような造核剤を含んでもよい。なお、積層シート10は必ずしも裏面層12Jを含まなくてもよく、図10の例のように表下層として基材層12Iのみが積層されてもよい。この場合、積層シート10の表下層は1つの層だけを含む。
【実施例0034】
図11は、本発明の実施例を示すグラフである。上述したような本発明の実施形態の効果を検証するために、表面層がHPP(融点150℃~165℃、230℃測定条件でのMFR(メルトフローレート)0.5g/10分)50%、m-RPP(融点125℃、230℃測定条件でのMFR2.0g/10分)20%、LDPE(融点128℃、190℃測定条件でのMFR4.3g/10分)30%を含む樹脂組成物で形成された積層シートについて、図6に示したようなロールを用いた急冷を含む製造工程で製造されたもの(実施例1および実施例2)、および通常の製造工程で製造されたもの(比較例1および比較例2)を用意した。表面層に含まれるポリプロピレン系樹脂であるHPPとm-RPPとの配合割合は71:29であるため、ポリプロピレン系樹脂の230℃測定条件でのMFRは上述した計算方法によって約0.7g/10分と算出される。これに対して、ポリエチレン系樹脂であるLDPEの190℃測定条件でのMFRは4.3g/10分であるため、MFRの差は約3.6g/10分である。これらの積層シートをシール層の主成分がBPP(融点150℃~165℃、MFR3.0g/10分)である積層フィルムにヒートシールしたものについて、シール温度を変化させながら剥離強度を測定した。ヒートシールには株式会社東洋精機製作所製の熱傾斜試験機を使用し、加圧力は0.2MPa、加熱および加圧の継続時間は1.0秒間とした。ヒートシール後の試験片を15mm幅に切断し、積層シートのTD(Traverse Direction)に向けて180°方向で剥離させたときの剥離強度を株式会社イマダ製のデジタルフォースゲージで測定した。なお、実施例および比較例のすべてのシール温度で積層シートの表面層と積層フィルムのシール層との間の接合強度は表面層の凝集強度よりも強く、従って積層シートから積層フィルムを剥離させた場合には積層シートの表面層が凝集破壊する。
【0035】
各実施例および比較例における積層シートの全層厚みおよび表面層厚みを表1に、シール温度ごとの剥離強度を表2に、それぞれ示す。なお、剥離強度は3回の測定の平均値であるため、標準偏差もあわせて表2に示す。
【0036】
【表1】
【0037】
【表2】
【0038】
図11のグラフには、表2と同じ結果がシール温度を横軸、剥離強度を縦軸とした剥離強度曲線として示されている。表2およびグラフに示されるように、実施例1および実施例2において、剥離強度曲線のシール温度に対する収束値は概ね1.00kgf/15mm=9.8N/15mm以下である。これに対して、比較例1および比較例2の剥離強度曲線のシール温度に対する収束値は2.21kgf/15mm=21.7N/15mm以上である。この結果から、実施例に係る積層シートでは、凝集破壊層である表面層の凝集強度が比較例よりも低くなっていることがわかる。また、表面層の樹脂組成は実施例および比較例で同じであるため、耐熱性についても確保されているといえる。なお、剥離強度曲線のシール温度に対する収束値とは、上記の実施例および比較例のように10℃単位でシール温度を変化させながら剥離強度を測定した場合に、ある温度と当該温度よりも10℃高い温度との間での剥離強度の比が0.95~1.05の範囲内となる温度における剥離強度をいう。
【0039】
図12は実施例1における積層シート表面層の透過電子顕微鏡(TEM)写真であり、図13は比較例1における積層シート表面層のTEM写真である。これらのTEM写真は、試料表面にオスミウム(Os)コーティングを行って樹脂包埋したものについてミクロトームで断面を切り出し、ルテニウム染色(RuClおよびNaClOからRuOを生成する)を行った上で、再度ミクロトームで切片を作製したものを観察して得られたものである。TEMは日本電子株式会社製 JEM-2100Plusを使用し、加速電圧200kV、TEM本体倍率は2000倍および6000倍の2通りとした。TEM写真から、実施例に係る積層シート表面層では、比較例に係る積層シート表面層に比べてポリエチレン系樹脂の分散相が引き伸ばされていることがわかる。
【0040】
図14は、実施例および比較例における分散相のフェレ径の測定について説明する図である。実施例1および比較例1のそれぞれのTEM写真について、図示するように積層シート表面層の表面から深さ7.07μm、幅9.12μmの範囲について画像解析を実施し、画像において0.005μm超の面積を有する分散相のドメインについて、フェレ長径平均、フェレ径比平均、およびフェレ長径が0.4μm以上のドメイン%を算出した結果を表3および表4に示す。
【0041】
【表3】
【表4】
【0042】
以上で説明したような本発明の実施形態に係る積層シートは、表面層の断面を顕微鏡で観察した場合にポリエチレン系樹脂の分散相がポリプロピレン系樹脂内でMD方向について引き伸ばされていること、または表面層とポリプロピレン系樹脂を主成分とするシーラントフィルムとをヒートシールしたときの剥離強度曲線のシール温度に対する収束値が16N/15mm以下であることによって特定できる。剥離強度曲線のシール温度に対する収束値は、好ましくは21.6N/15mm以下であり、より好ましくは18N/15mm以下であり、さらに好ましくは16N/15mm以下であり、最も好ましくは12N/15mm以下である。下限値は特に限定はないが、例えば3N/15mm以上である。積層シートを容器本体に成形し、ポリプロピレン系樹脂を主成分とするシール層を含む蓋体を容器本体の表面層に接合した場合、成形条件にもよるが、加熱によりフランジ部においてポリプロピレン系樹脂内でMD方向について引き伸ばされている程度が緩和され、剥離強度曲線の収束値は上昇すると考えられる。樹脂溜まりを作成することによって剥離強度が上昇した場合、容器本体の表面層と蓋体のシール層との間の剥離強度曲線の収束値は上記の値に概ね23N/15mmを加えた値、具体的には45N/15mm以下になる。すなわち容器本体の表面層と蓋体のシール層との間の剥離強度曲線の収束値は41N/15mm以下が好ましく、39N/15mm以下がより好ましく、35N/15mm以下がさらに好ましい。下限値は特に限定はないが、例えば5N/15mm以上である。樹脂溜まりを作成しない場合、容器本体の表面層と蓋体のシール層との間の剥離強度曲線の収束値は、30N/15mm以下になる。すなわち容器本体の表面層と蓋体のシール層との間の剥離強度曲線の収束値は25N/15mm以下が好ましく、23N/15mm以下がより好ましく、18N/15mm以下がさらに好ましい。下限値は特に限定はないが、例えば5N/15mm以上である。
【符号の説明】
【0043】
10…積層シート、10P…積層シート、11…表面層、11P…表面層、12…表下層、12A…表下層、12B…表下層、12C…第1基材層、12D…第2基材層、12E…第2基材層、12F…第1基材層、12G…バリア層、12H…接着層、12I…基材層、12J…裏面層、30…積層フィルム、31…基材層、32…シール層、100…容器、110…容器本体、111…凹部、112…フランジ部、120…樹脂溜まり部、121…第1樹脂溜まり部、122…第2樹脂溜まり部、130…蓋体、131…タブ、140…接合領域、501…Tダイ、502…金属製無端ベルト、503…冷却ロール、504…冷却ロール、505…冷却ロール、506…搬送ロール、507…吹き付けノズル、508…水槽、509…吸水ロール、510…搬送ロール、PE…ポリエチレン系樹脂、PP…ポリプロピレン系樹脂。
図1
図2
図3
図4A
図4B
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14