(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024011778
(43)【公開日】2024-01-25
(54)【発明の名称】電気化学セル
(51)【国際特許分類】
B01D 53/32 20060101AFI20240118BHJP
【FI】
B01D53/32
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022114042
(22)【出願日】2022-07-15
(71)【出願人】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(71)【出願人】
【識別番号】000004695
【氏名又は名称】株式会社SOKEN
(74)【代理人】
【識別番号】110001472
【氏名又は名称】弁理士法人かいせい特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】辰巳 裕規
(72)【発明者】
【氏名】松田 信彦
(72)【発明者】
【氏名】木下 翔太
(72)【発明者】
【氏名】太田 篤人
(57)【要約】
【課題】被回収ガスの吸着性能を向上できる電気化学セルを提供する。
【解決手段】電気化学セル101は、作用極130と対極と140とを備える。作用極130は、被回収ガスを含有する混合ガスから電気化学反応によって被回収ガスの吸着と脱離を行う。対極140は、作用極130との間で電子の授受を行う。作用極130の体積空隙率は、対極140の体積空隙率以上である。これによれば、作用極130において被回収ガスの拡散性を向上させることができるので、被回収ガスの透過性を確保することができる。その結果、被回収ガスの吸着性能を向上させることが可能となる。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被回収ガスを含有する混合ガスから電気化学反応によって前記被回収ガスの吸着と脱離を行う作用極(130)と、
前記作用極との間で電子の授受を行う対極(140)と、を備え、
前記作用極の体積空隙率は、前記対極の体積空隙率以上である電気化学セル。
【請求項2】
前記作用極の電極膜である作用極側電極膜(132)の体積空隙率は、前記対極の電極膜である対極側電極膜(142)の体積空隙率以上である請求項1に記載の電気化学セル。
【請求項3】
前記作用極側電極膜には、作用極側空孔(137)が設けられており、
前記対極側電極膜には、対極側空孔(147)が設けられており、
前記作用極側空孔の平均円相当直径は、前記対極側空孔の平均円相当直径以上である請求項2に記載の電気化学セル。
【請求項4】
前記作用極の電極膜である作用極側電極膜(132)には、作用極側空孔(137)が設けられており、
前記作用極側空孔の平均円相当直径は、作動温度における前記被回収ガスの平均自由行程の4倍以上である請求項1ないし3のいずれか1つに記載の電気化学セル。
【請求項5】
前記対極の電極膜である対極側電極膜(142)は、加圧成形されている請求項1ないし3のいずれか1つに記載の電気化学セル。
【請求項6】
前記作用極の電極膜である作用極側電極膜(132)の膜厚は、前記対極の電極膜である対極側電極膜(142)の膜厚以下である請求項1ないし3のいずれか1つに記載の電気化学セル。
【請求項7】
前記作用極の電極膜である作用極側電極膜(132)の膜厚は、前記被回収ガスの吸着速度が上限値となる膜厚以下である請求項1ないし3のいずれか1つに記載の電気化学セル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電気化学セルに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1では、電気化学反応によって、二酸化炭素(CO2)を含有する混合ガスから被回収ガスである二酸化炭素を分離する二酸化炭素回収システムに用いられる電気化学セルが提案されている。特許文献1では、電気化学セルのカソードとアノードとの間に電位差を与えた状態で、カソードに二酸化炭素含有ガスを供給することで、CO2からCO3
2-が生成する電気化学反応と、CO3
2-からCO2が生成する電気化学反応が行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、電気化学セルをEDLC(電気二重層キャパシタ)に用いる場合、エネルギ密度を向上させるために、電気化学セルをプレス加工等で高密度化する技術が採用されている。
【0005】
しかしながら、本発明者らの検討によると、電気化学セルを二酸化炭素回収システムに用いる場合、電気化学セルをプレス加工等により圧縮すると、二酸化炭素の吸着性能が低下することが明らかになった。
【0006】
本開示は、上記点に鑑みて、被回収ガスの吸着性能を向上できる電気化学セルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、請求項1に記載の電気化学セルは、被回収ガスを含有する混合ガスから電気化学反応によって被回収ガスの吸着と脱離を行う作用極(130)と、
作用極との間で電子の授受を行う対極(140)と、を備え、
作用極の体積空隙率は、前記対極の体積空隙率以上である。
【0008】
これによれば、作用極(130)において被回収ガスの拡散性を向上させることができるので、被回収ガスの透過性を確保することができる。その結果、被回収ガスの吸着性能を向上させることが可能となる。
【0009】
なお、この欄および特許請求の範囲で記載した各手段の括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものである。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】一実施形態における二酸化炭素回収システムの全体構成を示す概念図である。
【
図2】一実施形態における二酸化炭素回収装置を示す説明図である。
【
図3】一実施形態における電気化学セルを示す断面図である。
【
図4】作用極の構造を説明するための説明図である。
【
図6】作用極側空孔を説明するための説明図である。
【
図8】サイクル数と吸着ファラデー効率との関係を示す図である。
【
図9】サイクル数と積算吸着量との関係を示す図である。
【
図10】作用極側空孔の平均円相当直径と二酸化炭素の分子拡散係数との関係を示す図である。
【
図11】作用極側電極膜の膜厚と二酸化炭素吸着速度の計算値との関係を示す図である。
【
図12】作用極側電極膜の膜厚と二酸化炭素吸着速度の実測値との関係を示す図である。
【
図13】作用極側電極膜の膜厚と拡散到達濃度との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本開示における一実施形態について、図面を参照して説明する。本実施形態は、本開示における電気化学セルを、二酸化炭素を含有する混合ガスから二酸化炭素を分離して回収する二酸化炭素回収システムに適用している。したがって、本実施形態の被回収ガスは、二酸化炭素である。
【0012】
図1に示すように、本実施形態の二酸化炭素回収システム10は、圧縮機11、二酸化炭素回収装置100、流路切替弁12、二酸化炭素利用装置13、制御装置14が設けられている。
【0013】
二酸化炭素回収装置100は、混合ガスから二酸化炭素を分離して回収する装置である。二酸化炭素回収装置100は、混合ガスから二酸化炭素が回収された後の二酸化炭素除去ガス、あるいは混合ガスから回収した二酸化炭素を排出する。二酸化炭素回収装置100の構成については、後で詳細に説明する。
【0014】
混合ガスは、二酸化炭素を含有する二酸化炭素含有ガスである。混合ガスは、二酸化炭素以外のガスも含有している。混合ガスは、大気、若しくは、大気よりも二酸化炭素含有濃度の高い高濃度ガスである。当該高濃度ガスは、例えば、内燃機関や工場から排出される。本実施形態の混合ガスは、大気である。
【0015】
圧縮機11は、混合ガスを二酸化炭素回収装置100に圧送する。流路切替弁12は、二酸化炭素回収装置100の排出ガスの流路を切り替える三方弁である。流路切替弁12は、二酸化炭素回収装置100から二酸化炭素除去ガスが排出される場合は、排出ガスの流路を大気側に切り替え、二酸化炭素回収装置100から二酸化炭素が排出される場合は、排出ガスの流路を二酸化炭素利用装置13側に切り替える。
【0016】
二酸化炭素利用装置13は、二酸化炭素を利用する装置である。二酸化炭素利用装置13としては、例えば二酸化炭素を貯蔵する貯蔵タンクや二酸化炭素を燃料に変換する変換装置を用いることができる。変換装置は、二酸化炭素をメタン等の炭化水素燃料に変換する装置を用いることができる。炭化水素燃料は、常温常圧で気体の燃料であってもよく、常温常圧で液体の燃料であってもよい。
【0017】
制御装置14は、CPU、ROMおよびRAM等を含む周知のマイクロコンピュータとその周辺回路から構成されている。制御装置14は、ROM内に記憶された制御プログラムに基づいて各種演算、処理を行い、各種制御対象機器の作動を制御する。本実施形態の制御装置14は、圧縮機11の作動制御、二酸化炭素回収装置100の作動制御、流路切替弁12の流路切替制御等を行う。
【0018】
図2に示すように、二酸化炭素回収装置100は、電気化学セル101が設けられている。電気化学セル101は、作用極130、対極140およびセパレータ150を有している。二酸化炭素回収装置100の内部には、複数の電気化学セル101が積層して配置されている。
【0019】
図2に示す例では、作用極130、対極140およびセパレータ150をそれぞれ板状に構成している。なお、
図2では、作用極130、対極140およびセパレータ150を、それぞれ間隔を設けて図示しているが、実際はこれらの構成要素は接するように配置されている。
【0020】
電気化学セル101は、図示しない容器内に収容されるようにしてもよい。容器には、混合ガスを容器内に流入させるガス流入口と、二酸化炭素除去ガスや二酸化炭素を容器内から流出させるガス流出口を設けることができる。
【0021】
二酸化炭素回収装置100は、電気化学反応によって二酸化炭素の吸着および脱離を行い、混合ガスから二酸化炭素を分離して回収する。二酸化炭素回収装置100は、作用極130と対極140に所定の電圧を印加する制御電源120が設けられており、作用極130と対極140の電位差を変化させることができる。作用極130は負極であり、対極140は正極である。
【0022】
電気化学セル101は、作用極130と対極140の電位差を変化させることで、作用極130で二酸化炭素を回収する回収モードと、作用極130から二酸化炭素を放出する放出モードを切り替えて作動することができる。回収モードは電気化学セル101を充電する充電モードであり、放出モードは電気化学セル101を放電する放電モードである。
【0023】
回収モードでは、作用極130と対極140の間に第1電圧V1が印加され、対極140から作用極130に電子が供給される。第1電圧V1では、作用極電位<対極電位となっている。第1電圧V1は、例えば0.5~2.0Vの範囲内とすることができる。
【0024】
放出モードでは、作用極130と対極140の間に第1電圧V1より低い第2電圧V2が印加され、作用極130から対極140に電子が供給される。第2電圧V2は、第1電圧V1より低い電圧であればよく、作用極電位と対極電位の大小関係は限定されない。つまり、放出モードでは、作用極電位<対極電位でもよく、作用極電位=対極電位でもよく、作用極電位>対極電位でもよい。
【0025】
図3および
図4に示すように、電気化学セル101における作用極130は、作用極側集電材131及び作用極側電極膜132を有する。作用極側集電材131は、制御電源120に接続されるとともに、混合ガスを通過させることができる多孔質状の導電性部材である。
【0026】
作用極側集電材131として、例えば炭素質材料や金属材料を用いることができる。作用極側集電材131を構成する炭素質材料として、例えばカーボン紙、炭素布、不織炭素マット、多孔質ガス拡散層(GDL)等を用いることができる。作用極側集電材131を構成する金属材料として、例えばAl、Ni、SUS等の金属をメッシュ状にした構造体を用いることができる。
【0027】
作用極側電極膜132は、混合ガスから電気化学反応によって二酸化炭素の吸着と脱離を行う。作用極側電極膜132は、二酸化炭素吸着材133、作用極側導電助剤134および作用極側バインダ135を有する。
【0028】
以下、二酸化炭素吸着材133、作用極側導電助剤134および作用極側バインダ135等の作用極側電極膜132を構成する材料を、作用極側構成材料136とも言う。本実施形態では、作用極側構成材料136は、粒子状に形成されている。
【0029】
二酸化炭素吸着材133は、電子を受け取ることで二酸化炭素を吸着し、電子を放出することで吸着していた二酸化炭素を脱離する電気活性種である。二酸化炭素吸着材133としては、例えば、カーボン材、金属酸化物、ポリアントラキノン等を用いることができる。
【0030】
作用極側導電助剤134は、二酸化炭素吸着材133への導電路を形成する導電物質である。作用極側導電助剤134として、例えばカーボンナノチューブ、カーボンブラック、グラフェン等の炭素材料を用いることができる。
【0031】
作用極側バインダ135は、二酸化炭素吸着材133および作用極側導電助剤134を作用極側集電材131に保持する。具体的には、二酸化炭素吸着材133、作用極側導電助剤134、および作用極側バインダ135の混合物が形成され、この混合物が作用極側集電材131に接着される。
【0032】
作用極側バインダ135としては、例えば導電性樹脂を用いることができる。導電性樹脂としては、導電性フィラーとしてAg等を含有するエポキシ樹脂やPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、PVDF(ポリフッ化ビニリデン)等のフッ素樹脂等を用いることができる。
【0033】
図3および
図5に示すように、電気化学セル101における対極140は、対極側集電材141及び対極側電極膜142を有する。対極側集電材141は、制御電源120に接続される導電性部材である。対極側集電材141は、作用極側集電材131と同じ材料を用いても良く、異なる材料を用いても良い。
【0034】
対極側電極膜142は、作用極側電極膜132との間で電子の授受を行う。対極側電極膜142は、対極側活物質143、対極側導電助剤144および対極側バインダ145を有する。
【0035】
以下、対極側活物質143、対極側導電助剤144および対極側バインダ145等の対極側電極膜142を構成する材料を、対極側構成材料146とも言う。本実施形態では、対極側構成材料146は、粒子状に形成されている。
【0036】
対極側活物質143は、二酸化炭素吸着材133との間で電子の授受を行う補助的な電気活性種である。対極側活物質143は、金属の価数変化やπ電子雲への電荷出入によって電子を出し入れすることができる物質である。
【0037】
対極側活物質143として、例えば金属イオンの価数が変化することで、電子の授受を可能とする金属錯体を用いることができる。このような金属錯体として、フェロセン、ニッケロセン、コバルトセン等のシクロペンタジエニル金属錯体、あるいはポルフィリン金属錯体等を挙げることができる。
【0038】
本実施形態では、対極側活物質143として、フェロセン骨格を持った化合物を用いる。具体的には、対極側活物質143として、フェロセンが重合化したPVFc(ポリビニルフェロセン)を用いる。
【0039】
対極側導電助剤144は、対極側活物質143への導電路を形成する導電物質である。対極側導電助剤144は、対極側活物質143と混合して用いられる。対極側導電助剤144は、作用極側導電助剤134と同じ材料を用いても良く、異なる材料を用いても良い。対極側導電助剤144は、例えば粒子状である。
【0040】
対極側バインダ145は、対極側活物質143及び対極側導電助剤144を対極側集電材141に保持させることができ、かつ、導電性を有する材料である。対極側バインダ145は、作用極側バインダ135と同じ材料を用いても良く、異なる材料を用いても良い。本実施形態では、対極側バインダ145としてPVDFを用いている。
【0041】
セパレータ150は、作用極側電極膜132と対極側電極膜142との間に配置される。セパレータ150は、作用極側電極膜132と対極側電極膜142とを分離する。すなわち、セパレータ150は、作用極側電極膜132と対極側電極膜142との物理的な接触を防ぐ。また、セパレータ150は、作用極側電極膜132と対極側電極膜142との電気的短絡を抑制する。
【0042】
セパレータ150として、セルロース膜やポリマー、ポリマーとセラミックの複合材料等からなるセパレータを用いることができる。セパレータ150として、多孔質体のセパレータを用いても良い。
【0043】
作用極側電極膜132とセパレータ150との間、および対極側電極膜142とセパレータ150との間には、電解質材料である電解液160が設けられている。作用極130および対極140は、電解液160により覆われている。電解液160は、二酸化炭素吸着材133への導電を促進する。
【0044】
電解液160は、例えばイオン液体を用いることができる。イオン液体は、常温常圧下で不揮発性を有する液体の塩である。電解液160としてイオン液体を用いる場合には、電気化学セル101からの溶出を防ぐために、イオン液体をゲル化してもよい。
【0045】
図4および
図6に示すように、作用極側電極膜132は、作用極側構成材料136が充填されることにより形成されている。作用極側電極膜132には、充填された作用極側構成材料136同士の隙間に作用極側空孔137が形成されている。なお、
図6では、説明の便宜のため、作用極側構成材料136および作用極側空孔137を模式的に示している。作用極側電極膜132では、作用極側電極膜132の表面から作用極側空孔137に二酸化炭素分子が流入し、作用極側空孔137を流れて拡散される。
【0046】
図5および
図7に示すように、対極側電極膜142は、対極側構成材料146が充填されることにより形成されている。対極側電極膜142には、充填された対極側構成材料146同士の隙間に対極側空孔147が形成されている。なお、
図7では、説明の便宜のため、対極側構成材料146および対極側空孔147を模式的に示している。
【0047】
図4~
図7に示すように、作用極側空孔137の平均円相当直径は、対極側空孔147の円相当直径以上である。したがって、作用極側電極膜132の体積空隙率は、対極側電極膜142の体積空隙率以上である。このため、作用極130の体積空隙率は、対極140の体積空隙率以上である。
【0048】
より詳細には、本実施形態では、作用極側空孔137の平均円相当直径は、対極側空孔147の円相当直径より大きい。したがって、作用極側電極膜132の体積空隙率は、対極側電極膜142の体積空隙率より大きい。このため、作用極130の体積空隙率は、対極140の体積空隙率より大きい。
【0049】
次に、本実施形態の電気化学セル101の作用極130を形成する作用極形成工程について説明する。作用極形成工程では、まず、作用極側構成材料136を混合する作用極側混合工程を行う。
【0050】
続いて、混合された作用極側構成材料136を加熱する加熱工程を行う。本実施形態の加熱工程では、混合された作用極構成材料を作用極側集電材131に塗布した後、焼成する。これにより、作用極側集電材131の表面に作用極側電極膜132が成膜される。こうして、作用極形成工程が終了する。
【0051】
次に、本実施形態の電気化学セル101の対極140を形成する対極形成工程について説明する。対極形成工程では、まず、対極側構成材料146を混合する対極側混合工程を行う。
【0052】
続いて、混合された対極側構成材料146を圧縮する圧縮工程を行う。本実施形態の圧縮工程では、混合された対極側構成材料146を、プレス機によりプレス加工を施して対極側集電材141に圧着させる。これにより、対極側集電材141の表面に対極側電極膜142が成膜される。つまり、対極側電極膜142は、加圧成形されている。こうして、対極形成工程が終了する。
【0053】
次に、電気化学セル101における二酸化炭素の吸着効率および吸着量を、実施例および比較例を用いて説明する。具体的には、回収モードと放出モードとの組み合わせを1サイクルとして、各サイクルにおける吸着ファラデー効率および二酸化炭素吸着量を測定した。その結果を
図8および
図9に示す。
【0054】
図8の縦軸である規格化ファラデー効率は、後述する実施例における1サイクル目の吸着ファラデー効率を1として規格化した吸着ファラデー効率である。吸着ファラデー効率は、電気化学セル101の二酸化炭素吸着材133に流れた電子の数に対する二酸化炭素吸着材133に吸着された二酸化炭素分子の数の割合を示している。
【0055】
図9の縦軸である規格化吸着量は、後述する実施例における1サイクル目の積算吸着量を1として規格化した積算吸着量である。積算吸着量は、各サイクルまでの二酸化炭素吸着量の合計を示している。
【0056】
実施例は、対極側電極膜142が加圧成形されるとともに、作用極側電極膜132が加圧成形されていない電気化学セル101を用いている。比較例1は、作用極側電極膜132が加圧成形されるとともに、対極側電極膜142が加圧成形されていない電気化学セル101を用いている。比較例2は、対極側電極膜142および作用極側電極膜132の双方が加圧成形されていない電気化学セル101を用いている。
【0057】
図8に示すように、実施例に係る電気化学セル101の吸着ファラデー効率は、比較例1に係る電気化学セル101の吸着ファラデー効率の約4倍であった。一方、実施例と比較例2では、電気化学セル101における吸着ファラデー効率がほぼ変わらなかった。
【0058】
図9に示すように、実施例に係る電気化学セル101における二酸化炭素の積算吸着量は、比較例1に係る電気化学セル101における二酸化炭素の積算吸着量の約4倍であった。一方、実施例と比較例2では、電気化学セル101における二酸化炭素の積算吸着量はほぼ変わらなかった。
【0059】
図8および
図9に示す結果により、作用極側電極膜132を加圧成形すると、作用極側電極膜132において二酸化炭素の拡散性が低下してしまい、二酸化炭素の吸着性能が低下することがわかった。一方で、対極側電極膜142を加圧成形して高密度化しても、対極側電極膜142を加圧成形しない場合と比較して、二酸化炭素の吸着性能にほぼ影響がないことがわかった。
【0060】
次に、本実施形態の作用極側電極膜132における、作用極側空孔137の平均円相当直径と二酸化炭素の分子拡散係数との関係を
図10に示す。
【0061】
図10のグラフの横軸は、作用極側空孔137の平均円相当直径を、二酸化炭素の平均自由行程で除した値を示している。なお、本明細書における「二酸化炭素の平均自由行程」とは、電気化学セル101の作動温度における二酸化炭素の平均自由行程を意味している。
【0062】
図10のグラフの縦軸は、気体中での二酸化炭素の分子拡散係数との比を示している。分子拡散係数との比が0.5より大きいと、分子拡散が優勢である。
【0063】
図10に示すように、作用極側空孔137の平均円相当直径を二酸化炭素の平均自由行程の4倍以上とすることで、二酸化炭素の分子拡散が8割以上となる。作用極側空孔137の平均円相当直径を二酸化炭素の平均自由行程の10倍以上とすることで、二酸化炭素の分子拡散が9割以上となる。
【0064】
したがって、作用極側空孔137の平均円相当直径を二酸化炭素の平均自由行程の4倍以上とすることが望ましい。また、作用極側空孔137の平均円相当直径を二酸化炭素の平均自由行程の10倍以上とすることがより望ましい。
【0065】
次に、本発明者らは、作用極側電極膜132の膜厚について検討を行った。作用極側電極膜132の膜厚と計算により算出された二酸化炭素吸着速度との関係(以下、計算データという)を
図11に示す。
【0066】
図11の縦軸である規格化CO
2吸着速度は、計算データにおける二酸化炭素吸着速度の飽和値を1として規格化した二酸化炭素吸着速度である。計算データにおける二酸化炭素吸着速度の飽和値とは、作用極側電極膜132の膜厚が50~500μmの場合における二酸化炭素吸着速度の平均値をいう。
【0067】
図11に示すように、作用極側電極膜132の膜厚を増大させると、二酸化炭素吸着速度が上昇していく。そして、作用極側電極膜132の膜厚が特定の膜厚より大きくなると、二酸化炭素吸着速度はそれ以上上昇せず、頭打ちとなる。このときの二酸化炭素吸着速度を上限値という。本実施形態では、作用極側電極膜132の膜厚を、二酸化炭素吸着速度が上限値となる膜厚(本例では30μm)以下としている。また、作用極側電極膜132の膜厚は、対極側電極膜142の膜厚以下である。
【0068】
ここで、本実施形態の二酸化炭素回収システム10について、気体の拡散方程式から拡散到達濃度cを導出する式に変換したものを数式1に示す。
【0069】
【0070】
ただし、xは作用極側電極膜132の膜厚であり、tは二酸化炭素回収システム10の運転時間であり、aは作用極側電極膜132の比表面積であり、ηは距離変換係数であり、Dは二酸化炭素の拡散係数である。
【0071】
距離変換係数ηは1~100の数値である。本実施形態の作用極側電極膜132における二酸化炭素の拡散距離は、作用極側電極膜132の膜厚を比表面積aで補正した値であり、作用極側電極膜132の比表面積aと幾何表面積との比を用いる。具体的には、距離変換係数ηは、以下のように算出することができる。
【0072】
作用極側電極膜132の膜厚と、実際に計測した吸着速度との関係(以下、実測データという)を
図12に示す。
【0073】
図12の縦軸である規格化CO
2吸着速度は、実測データにおける二酸化炭素吸着速度の飽和値を1として規格化した二酸化炭素吸着速度である。実測データにおける二酸化炭素吸着速度の飽和値とは、
図12中の右側4点における二酸化炭素吸着速度の平均値をいう。
【0074】
図12に示す実測データに、
図11に示す計算データがフィッティングするときの距離変換係数ηを算出する。本実施形態では、算出された距離変換係数ηは25であった。
【0075】
このようにして算出された距離変換係数ηを上記数式1に用いて、作用極側電極膜132の膜厚xと拡散到達濃度cとの関係を算出した結果を
図13に示す。
【0076】
図13に示すように、作用極側電極膜132の表面から約40μmの深さでは、二酸化炭素は、全量のうち10の-2乗、つまり1%が到達できる。換言すると、99%量の二酸化炭素が、作用極側電極膜132の表面から深さ40μmの間に存在している。したがって、本実施形態では、作用極側電極膜132の膜厚xを、上記数式1においてc>10
-4を満たすように設定している。
【0077】
以上説明したように、本実施形態の電気化学セル101では、作用極130の体積空隙率を対極140の体積空隙率以上としている。より詳細には、作用極側電極膜132の体積空隙率を、対極側電極膜142の体積空隙率以上としている。具体的には、作用極側電極膜132の体積空隙率を、対極側電極膜142の体積空隙率より大きくしている。
【0078】
これによれば、作用極側電極膜132において二酸化炭素の拡散性を向上させることができるので、二酸化炭素の透過性を確保することができる。その結果、二酸化炭素の吸着性能を向上させることが可能となる。
【0079】
ここで、対極140では二酸化炭素を拡散させる必要がなく、電解液160がしみこんでさえすればよい。このため、本実施形態では、対極側電極膜142の体積空隙率を小さくし、高密度化している。具体的には、対極側電極膜142を加圧成形している。
【0080】
これによれば、電気化学セル101全体としての厚み寸法(すなわち、電気化学セル101の積層方向の長さ)が小さくなるので、1つの二酸化炭素回収装置100に収容される電気化学セル101の個数を増加させることができる。その結果、二酸化炭素回収装置100全体としての二酸化炭素の吸着量を増加させることができる。すなわち、単位体積当たりの二酸化炭素の吸着能力を向上させることができる。
【0081】
また、本実施形態の電気化学セル101では、作用極側空孔137の平均円相当直径を、対極側空孔147の平均円相当直径以上としている。具体的には、作用極側空孔137の平均円相当直径を、対極側空孔147の平均円相当直径より大きくしている。
【0082】
これによれば、作用極130において、作用極側電極膜132の表面から作用極側空孔137に流入した二酸化炭素分子が拡散され易くなる。このため、作用極側電極膜132において、二酸化炭素の拡散速度が速くなる。これにより、二酸化炭素の吸着速度を向上させることができる。その結果、二酸化炭素の吸着性能を向上させることが可能となる。
【0083】
また、本実施形態では、作用極側空孔137の平均円相当直径を、作動温度における二酸化炭素の平均自由行程の4倍以上としている。これによれば、作用極側空孔137における二酸化炭素の拡散速度を向上させて、二酸化炭素の吸着速度を向上させることができる。その結果、二酸化炭素の吸着性能を向上させることが可能となる。
【0084】
(他の実施形態)
本開示は上述の実施形態に限定されることなく、本開示の趣旨を逸脱しない範囲内で、以下のように種々変形可能である。
【0085】
例えば、上述した実施形態では、対極形成工程の圧縮工程において、プレス機によりプレス加工を施した例について説明したが、プレス加工はこの態様に限定されない。例えば、ロールプレスや水圧プレスによりプレス加工を施してもよい。
【0086】
(その他)
本明細書に開示された電気化学セルの特徴を以下の通り示す。
(項目1)
被回収ガスを含有する混合ガスから電気化学反応によって前記被回収ガスの吸着と脱離を行う作用極(130)と、
前記作用極との間で電子の授受を行う対極(140)と、を備え、
前記作用極の体積空隙率は、前記対極の体積空隙率以上である電気化学セル。
(項目2)
前記作用極の電極膜である作用極側電極膜(132)の体積空隙率は、前記対極の電極膜である対極側電極膜(142)の体積空隙率以上である項目1に記載の電気化学セル。
(項目3)
前記作用極側電極膜には、作用極側空孔(137)が設けられており、
前記対極側電極膜には、対極側空孔(147)が設けられており、
前記作用極側空孔の平均円相当直径は、前記対極側空孔の平均円相当直径以上である項目2に記載の電気化学セル。
(項目4)
前記作用極の電極膜である作用極側電極膜(132)には、作用極側空孔(137)が設けられており、
前記作用極側空孔の平均円相当直径は、作動温度における前記被回収ガスの平均自由行程の4倍以上である項目1ないし3のいずれか1つに記載の電気化学セル。
(項目5)
前記対極の電極膜である対極側電極膜(142)は、加圧成形されている項目1ないし4のいずれか1つに記載の電気化学セル。
(項目6)
前記作用極の電極膜である作用極側電極膜(132)の膜厚は、前記対極の電極膜である対極側電極膜(142)の膜厚以下である項目1ないし5のいずれか1つに記載の電気化学セル。
(項目7)
前記作用極の電極膜である作用極側電極膜(132)の膜厚は、前記被回収ガスの吸着速度が上限値となる膜厚以下である項目1ないし6のいずれか1つに記載の電気化学セル。
【符号の説明】
【0087】
130 作用極
140 対極