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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024117807
(43)【公開日】2024-08-29
(54)【発明の名称】トラクタ
(51)【国際特許分類】
   A01B 69/00 20060101AFI20240822BHJP
   G05D 1/43 20240101ALI20240822BHJP
   G05D 1/622 20240101ALI20240822BHJP
   G05D 1/248 20240101ALN20240822BHJP
【FI】
A01B69/00 303J
A01B69/00 303D
A01B69/00 303E
A01B69/00 303Z
G05D1/43
G05D1/622
G05D1/248
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024098868
(22)【出願日】2024-06-19
(62)【分割の表示】P 2022171292の分割
【原出願日】2017-04-21
(71)【出願人】
【識別番号】000001052
【氏名又は名称】株式会社クボタ
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】西 啓四郎
(72)【発明者】
【氏名】新海 敦
(72)【発明者】
【氏名】小林 篤史
(72)【発明者】
【氏名】福永 智章
(57)【要約】
【課題】車体が障害物に接触することを適切に回避できるようにする。
【解決手段】
車体と、車体に作業装置Wを装着可能な昇降装置と、車体に設けられたキャビンと、キャビンの前側に設けられたボンネット4と、障害物探知器102と障害物探査器68と、を備えたトラクタであって、キャビン4の後側であって昇降装置の後方を検出する障害物探知器102が設えられ、キャビン4のドアの側方に第1の障害物探査器68が設けられ、ボンネットの前側に複数の第2の障害物探査器68に設けられている。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体と、
前記車体に作業装置を装着可能な昇降装置と、
前記車体に設けられたキャビンと、
前記キャビンの前側に設けられたボンネットと、
障害物探知器と障害物探査器と、
を備えたトラクタであって、
前記キャビンの後側であって前記昇降装置の後方を検出する前記障害物探知器が設えられ、前記キャビンのドアの側方に第1の障害物探査器が設けられ、前記ボンネットの前側に複数の第2の障害物探査器が設けられているトラクタ。
【請求項2】
前記キャビンに設けられた前記障害物探知器は、前記キャビンのルーフの下側に設けられている請求項1に記載のトラクタ。
【請求項3】
前記第1の障害物探査器は、前記キャビン側部のリアフェンダに設けられている請求項1または請求項2に記載のトラクタ。
【請求項4】
複数の前記第2の障害物探査器の探査対象領域とは少なくとも一部が重なる探知対象領域を有する第2の障害物探知器が設けられている請求項1~3のいずれか一項に記載のトラクタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トラクタに関する。
【背景技術】
【0002】
上記作業車(トラクタ)の一例が、例えば下記特許文献1に記載されている。同文献に記載の作業車には、車体の前部に、車体の前方に存在する障害物を検出可能な障害物検出手段が備えられている。この作業車では、障害物検出手段により障害物が検出されると、車体の自動運転(自律走行)を停止させることで、車体の前方に存在する障害物に車体が接触することを回避するようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008-92818号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記従来の技術では、障害物検出手段で検出可能なのは車体の前方に存在する障害物のみであり、車体の後部側に存在する障害物は検出されないので、車体の後部側に位置する作業装置等に障害物が接触する可能性があった。
【0005】
上記実情に鑑み、車体が障害物に接触することを適切に回避できるようにすることが望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のトラクタは、車体と、
前記車体に作業装置を装着可能な昇降装置と、
前記車体に設けられたキャビンと、
前記キャビンの前側に設けられたボンネットと、
障害物探知器と障害物探査器と、
を備えたトラクタであって、
前記キャビンの後側であって前記昇降装置の後方を検出する前記障害物探知器が設えられ、前記キャビンのドアの側方に第1の障害物探査器が設けられ、前記ボンネットの前側に複数の第2の障害物探査器に設けられている。
また、本発明の作業車は、
車体を自動で運転する自動運転用の電子制御システムが備えられ、
前記電子制御システムに、障害物の有無を検出する障害物検出モジュールと、前記障害物検出モジュールが前記障害物を検出すると前記車体の走行を抑制する走行抑制制御部と、が備えられ、
前記障害物検出モジュールは、所定の高さ以上の高さの前記障害物を検出する。
本発明の作業車は、車体を自動で運転する自動運転用の電子制御システムが備えられ、前記電子制御システムに、障害物の有無を検出する障害物検出モジュールと、前記障害物検出モジュールが障害物を検出すると前記車体の走行を抑制する走行抑制制御部と、が備えられ、前記障害物検出モジュールに、探査対象領域に存在する障害物を検出する障害物探査器と、前記探査対象領域とは少なくとも一部が異なる探知対象領域に存在する障害物を検出する障害物探知器とが備えられている。
また、本発明の作業車は、
車体を自動で運転する自動運転用の電子制御システムが備えられ、
前記電子制御システムに、障害物の有無を検出する障害物検出モジュールと、前記障害物検出モジュールが障害物を検出すると前記車体の走行を抑制する走行抑制制御部と、が備えられ、
前記障害物検出モジュールに、探査対象領域に存在する障害物を検出する複数の障害物探査器が備えられ、
前記障害物探査器として、前記車体の本体における後端部の側方を前記探査対象領域とする左右一対の第1障害物探査器が備えられているものである。
【0007】
本発明によると、左右一対の第1障害物探査器により車体の本体における後端部の近傍に存在する障害物を検出できる。左右一対の第1障害物探査器により障害物が検出されると、車体の走行が抑制される。このため、例えば、車体の後端部に位置する作業装置と車体の本体との間に障害物が存在している状態で、車体が停止状態から走行状態に移行することを回避できる。これにより、例えば、作業装置で障害物を轢いてしまう等の不都合が回避され、自動運転の信頼性を高めることができる。
【0008】
このように、本発明であれば、車体の後部に障害物が接触することを回避できるようになる。
【0009】
本発明において、
前記第1障害物探査器が、リアフェンダの後部に取り付けられていると好適である。
【0010】
上記構成によれば、リアフェンダの下方に位置する後輪の後端部付近に存在する障害物を、第1障害物探査器により精度良く検出可能となる。
【0011】
本発明において、
前記障害物探査器として、前記車体における前後中央部の側方を前記探査対象領域とする左右一対の第2障害物探査器が備えられていると好適である。
【0012】
上記構成によれば、車体における前後中央部の側方に存在する障害物を、第2障害物探査器により精度良く検出可能となる。
【0013】
本発明において、
前記第2障害物探査器が、リアフェンダの前部に取り付けられていると好適である。
【0014】
上記構成によれば、リアフェンダの下方に位置する後輪の前端部付近に存在する障害物を、第2障害物探査器により精度良く検出可能となる。
【0015】
本発明において、
前記障害物検出モジュールに、前記障害物探査器と異なる検出方式で探知対象領域に存在する障害物を検出する障害物探知器が備えられ、
前記障害物探査器の前記探査対象領域に、前記障害物探知器の前記探知対象領域よりも下方に位置する領域が含まれていると好適である。
【0016】
上記構成によれば、障害物探査器の探知対象領域よりも下方の領域を、障害物探査器の探査対象領域でカバーすることで、障害物を検出できない死角となる領域を少なくし、自動運転の妨げとなりうる車体周辺に存在する障害物を漏れずに検出できる。
【0017】
本発明において、
前記障害物探査器が、超音波ソナーであると好適である。
【0018】
上記構成によれば、比較的安価な超音波ソナーを障害物の検出に用いることで、全体のコストアップを抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】障害物探査器や障害物探知器の配置等を示すトラクタの左側面図である。
図2】障害物探査器や障害物探知器の配置等を示すトラクタの上面図である。
図3】障害物探査器や障害物探知器の配置等を示すトラクタの斜視図である。
図4】制御系の概略構成を示すブロック図である。
図5】障害物探査器による探査対象領域、障害物探知器による探知対象領域を示す左側面視の模式図である。
図6】障害物探査器による探査対象領域、障害物探知器による探知対象領域を示す上面視の模式図である。
図7】障害物探知器による探知対象領域を示す前面視の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の一例である実施形態を図面に基づいて説明する。なお、図1図2に示す符号Fの矢印の方向が「前」であり、図1に示す符号Uの矢印の方向が「上」であり、図1図2に示す符号Rの矢印の方向が「右」である。
【0021】
図1図3等に示すように、トラクタ(「作業車」の一例)には、車体の前後両端にわたる車体フレーム1、車体フレーム1の左右に配置された左右の走行装置2、車体フレーム1の前部側に配置された原動部3、車体フレーム1の後部側に配置されたキャビン4、車体フレーム1の後端部に昇降揺動可能に取り付けられた作業装置W(図5図6参照)を連結するための3点リンク機構5等が備えられている。図1図2に示すように、車体フレーム1の前端部には、ウェイト1Aが取り付けられている。
【0022】
図1図3等に示すように、車体フレーム1は、原動部3に配置されたエンジン6の下部から車体前側に延出する前部フレーム7、エンジン6の後端下部から車体後側に延出する後部フレーム兼用のケースユニット8等が備えられている。図示は省略するが、ケースユニット8の内部には、エンジン6からの動力を断続するペダル操作式の主クラッチ、主クラッチを経由した動力を走行用と作業用とに分岐して変速する変速伝動ユニット、及び、左右の走行装置2に作用する左右のサイドブレーキ等が備えられている。
【0023】
図1図3等に示すように、左右の走行装置2には、駆動可能な操舵輪として機能する左右の前輪9と、駆動輪として機能する左右の後輪10と、が備えられている。左右の前輪9は、前部フレーム7にローリング可能に支持された車輪支持部材11の左右両端部に操舵可能な状態で駆動可能に支持されている。車輪支持部材11は、前輪駆動用の伝動軸等を内部に備えた前車軸ケースである。左右の後輪10は、ケースユニット8に駆動可能に支持されるとともに、各後輪10の上部側が、車体の後部側に配置された左右のリアフェンダ12によって覆われている。
【0024】
図1図3に示すように、原動部3には、原動部3の冷却方向下手側となる原動部3の車体後部側に配置された水冷式のエンジン6、エンジン6よりも冷却方向上手側となる車体前側に配置された冷却ファン13、冷却ファン13よりも車体前側に配置されたラジエータ14、ラジエータ14よりも車体前側に配置されたバッテリ(図示せず)、エンジン6の後部上方に配置された排気処理装置(図示せず)、エンジン6の前部上方に配置されたエアクリーナ(図示せず)、及び、エンジン6やラジエータ14等を上方から覆う揺動開閉式のボンネット16等が備えられている。エンジン6には、コモンレールシステムが備えられた電子制御式のディーゼルエンジンが採用されている。排気処理装置の内部には、DOC(Diesel Oxidation Catalyst)とDPF(Diesel Particulate Filter)等が備えられている。
【0025】
図1図3等に示すように、キャビン4は、車体の後部側に運転部17と搭乗空間とを形成している。運転部17には、主クラッチの操作を可能にするクラッチペダル18、左右のサイドブレーキの操作を可能にする左右のブレーキペダル(図示せず)、左右の前輪9の手動操舵を可能にする手動操舵用のステアリングホイール19、前後進切り換え用のシャトルレバー20、右腕用のアームレスト21を有する運転座席22、及び、タッチ操作可能な液晶パネル等を有する表示ユニット23等が備えられている。ステアリングホイール19は、全油圧式のパワーステアリングユニット(以下、PSユニット24と称する)を有するステアリング機構25を介して左右の前輪9に連係されている。アームレスト21には、主変速レバー26(図4参照)、作業装置Wの高さ位置を設定する昇降レバー27(図4参照)、及び、作業装置Wの昇降を指令する昇降スイッチ28(図4参照)が備えられている。
【0026】
図1図3等に示す3点リンク機構5は、図4に示すように、車体に備えられた電子油圧制御式の昇降駆動ユニット29の作動によって上下方向に揺動駆動される。図5図6に示すように、3点リンク機構5には、ロータリ耕耘装置、プラウ、ディスクハロー、カルチベータ、サブソイラ、播種装置、及び、散布装置等の各種の作業装置Wを連結できる。そして、3点リンク機構5に連結される作業装置Wが、車体からの動力によって駆動されるロータリ耕耘装置等である場合は、変速ユニットから取り出された作業用の動力が外部伝動軸を介して作業装置Wに伝達される。
【0027】
図4に示すように、車体には、メインの電子制御ユニット(以下、メインECU30と称する)と、エンジン用の電子制御ユニット(以下、エンジンECU31と称する)と、が搭載されている。メインECU30は、前述した電子油圧制御式の昇降駆動ユニット29、エンジン用の電子制御ユニット(以下、エンジンECU31と称する)、変速伝動ユニットに備えられた電子制御式の主変速装置32と前後進切換装置33とPTOクラッチ34、左右のサイドブレーキの自動操作を可能にする電子油圧式のブレーキ操作ユニット35、及び、車速を含む車内情報を取得する車内情報取得ユニット36等に、CAN(Controller Area Network)等の車内LANまたは通信線を介して通信可能に接続されている。メインECU30及びエンジンECU31は、CPU及びEEPROM等を有するマイクロプロセッサが備えられている。メインECU30には、車体の走行に関する制御を行う走行制御部30A、及び、作業装置Wに関する制御を行う作業制御部30B等が備えられている。
【0028】
主変速装置32には、走行用の動力を無段階で変速する静油圧式の無段変速装置が採用されている。前後進切換装置33は、走行用の動力を断続する走行クラッチを兼ねている。図示は省略するが、変速伝動ユニットには、主変速装置32等とともに、走行用の動力を有段階で変速する副変速装置、及び、作業用の動力を有段階で変速するPTO変速装置等が備えられている。
【0029】
図4に示すように、車内情報取得ユニット36には、エンジン6の出力回転数を検出する回転センサ37、副変速装置の出力回転数を車速として検出する車速センサ38、主変速レバー26の操作位置を検出する第1レバーセンサ39、運転部17に備えられた副変速レバー40の操作位置を検出する第2レバーセンサ41、シャトルレバー20の操作位置を検出する第3レバーセンサ42、昇降レバー27の操作位置を検出する第4レバーセンサ43、前述した昇降スイッチ28、運転部17に備えられた旋回上昇スイッチ44と後進上昇スイッチ45とPTOスイッチ46、昇降駆動ユニット29における左右のリフトアーム(図示せず)の上下揺動角度を作業装置Wの高さ位置として検出する高さセンサ47、及び、前輪9の舵角を検出する舵角センサ48等の各種センサ及びスイッチ類が含まれている。
【0030】
走行制御部30Aは、車体の走行に関する制御を可能にする各種の制御プログラム等を有している。走行制御部30Aは、回転センサ37の出力と車速センサ38の出力と第1レバーセンサ39の出力と第2レバーセンサ41の出力とに基づいて、車速が、エンジン回転数と主変速レバー26の操作位置と副変速レバー40の操作位置とから求めた制御目標車速に達するように、主変速装置32のトラニオン軸(図示せず)を操作する車速制御を行う。これにより、運転者は、主変速レバー26を任意の操作位置に操作することで、車速を任意の速度に変更できる。
【0031】
走行制御部30Aは、第3レバーセンサ42の出力に基づいて、シャトルレバー20の操作位置に応じた伝動状態に前後進切換装置33を切り換える前後進切り換え制御を行う。これにより、運転者は、シャトルレバー20を前進位置に操作することで、車体の進行方向を前進方向に設定できる。運転者は、シャトルレバー20を後進位置に操作することで、車体の進行方向を後進方向に設定できる。
【0032】
作業制御部30Bは、作業装置Wに関する制御を可能にする各種の制御プログラム等を有している。作業制御部30Bは、第4レバーセンサ43の出力と高さセンサ47の出力とに基づいて、昇降レバー27の操作位置に応じた高さ位置に作業装置Wが位置するように昇降駆動ユニット29の作動を制御するポジション制御を行う。これにより、運転者は、昇降レバー27を任意の操作位置に操作することで、作業装置Wの高さ位置を任意の高さ位置に変更できる。
【0033】
作業制御部30Bは、昇降スイッチ28の手動操作によって昇降スイッチ28が上昇指令状態に切り換えられると、昇降スイッチ28からの上昇指令と高さセンサ47の出力とに基づいて、作業装置Wが予め設定された上限位置まで上昇するように昇降駆動ユニット29の作動を制御する上昇制御を行う。これにより、運転者は、昇降スイッチ28を上昇指令状態に切り換えることで、作業装置Wを上限位置まで自動的に上昇させることができる。
【0034】
作業制御部30Bは、昇降スイッチ28の手動操作によって昇降スイッチ28が下降指令状態に切り換えられると、昇降スイッチ28からの下降指令と第4レバーセンサ43の出力と高さセンサ47の出力とに基づいて、作業装置Wが昇降レバー27によって設定された作業高さ位置まで下降するように昇降駆動ユニット29の作動を制御する下降制御を行う。これにより、運転者は、昇降スイッチ28を下降指令状態に切り換えることで、作業装置Wを作業高さ位置まで自動的に下降させることができる。
【0035】
作業制御部30Bは、旋回上昇スイッチ44の手動操作によって旋回連動上昇制御の実行が選択された場合は、前輪9の舵角を検出する舵角センサ48の出力に基づいて、前輪9の舵角が畦際旋回用の設定角度に達したことを検出したときに、前述した上昇制御を自動的に行う。これにより、運転者は、旋回連動上昇制御の実行を選択しておくことで、畦際旋回の開始に連動して、作業装置Wを上限位置まで自動的に上昇させることができる。
【0036】
作業制御部30Bは、後進上昇スイッチ45の手動操作によって後進連動上昇制御の実行が選択された場合は、第3レバーセンサ42の出力に基づいて、シャトルレバー20の後進位置への手動操作を検出したときに、前述した上昇制御を自動的に行う。これにより、運転者は、後進連動上昇制御の実行を選択しておくことで、後進走行への切り換えに連動して、作業装置Wを上限位置まで自動的に上昇させることができる。
【0037】
作業制御部30Bは、PTOスイッチ46の手動操作によってPTOスイッチ46の操作位置が入り位置に切り換えられると、入り位置への切り換えに基づいて、作業用の動力が作業装置Wに伝達されるようにPTOクラッチ34を入り状態に切り換えるクラッチ入り制御を行う。これにより、運転者は、PTOスイッチ46を入り位置に操作することによって作業装置Wを作動させることができる。
【0038】
作業制御部30Bは、PTOスイッチ46の手動操作によってPTOスイッチ46の操作位置が切り位置に切り換えられると、切り位置への切り換えに基づいて、作業用の動力が作業装置Wに伝達されないようにPTOクラッチ34を切り状態に切り換えるクラッチ切り制御を行う。これにより、運転者は、PTOスイッチ46を切り位置に操作することによって作業装置Wを停止させることができる。
【0039】
作業制御部30Bは、PTOスイッチ46の手動操作によってPTOスイッチ46の操作位置が自動位置に切り換えられると、前述した上昇制御の実行に連動して前述したクラッチ切り制御を自動的に行い、また、前述した下降制御の実行に連動して前述したクラッチ入り制御を自動的に行う。これにより、運転者は、PTOスイッチ46を自動位置に操作しておくことで、作業装置Wの上限位置への自動上昇に連動して作業装置Wを停止させることができ、また、作業装置Wの作業高さ位置への自動下降に連動して作業装置Wを作動させることができる。
【0040】
図4に示すように、このトラクタは、運転モードにおける手動運転モードや自動運転モード等の選択を可能にする選択スイッチ50と、自動運転モードが選択された場合に車体を自動で運転する自動運転用の電子制御システム51とが備えられている。電子制御システム51は、前述したメインECU30、左右の前輪9の自動操舵を可能にする自動操舵ユニット52、車体の位置及び方位を測定する測位ユニット53、及び、車体の周囲を監視する監視ユニット54等が備えられている。
【0041】
図2図4に示すように、自動操舵ユニット52は、前述したPSユニット24によって構成されている。PSユニット24は、手動運転モードが選択された場合は、ステアリングホイール19の回動操作に基づいて左右の前輪9を操舵する。また、PSユニット24は、自動運転モードが選択された場合は、メインECU30からの制御指令に基づいて左右の前輪9を操舵する。
【0042】
つまり、自動操舵専用のステアリングユニットを備えることなく、左右の前輪9を自動で操舵できる。また、PSユニット24の電気系に不具合が生じた場合は、搭乗者による手動操舵に簡単に切り換えることができ、車体の運転を継続できる。
【0043】
図1図4に示すように、測位ユニット53は、全地球航法衛星システム(GNSS:Global Navigation Satellite System)の一例である周知のGPS(Global Positioning System)を利用して車体の位置及び方位を測定する衛星航法装置60が備えられている。GPSを利用した測位方法には、DGPS(Differential GPS)やRTK-GPS(Real
Time Kinematic GPS)等があるが、本実施形態においては、移動体の測位に適したRTK-GPSが採用されている。
【0044】
衛星航法装置60には、GPS衛星(図示せず)から送信された電波と、既知位置に設置された基準局(図示せず)から送信された測位データとを受信する衛星航法用のアンテナユニット61が備えられている。基準局は、GPS衛星からの電波を受信して得た測位データを衛星航法装置60に送信する。衛星航法装置60は、GPS衛星からの電波を受信して得た測位データと、基準局からの測位データとに基づいて、車体の位置及び方位を求める。
【0045】
アンテナユニット61は、GPS衛星からの電波の受信感度が高くなるように、車体の最上部に位置するキャビン4のルーフ62に取り付けられている。そのため、GPSを利用して測定した車体の位置及び方位には、車体のヨーイング、ピッチング、または、ローリングに伴うアンテナユニット61の位置ズレに起因した測位誤差が含まれている。
【0046】
そこで、車体には、上記の測位誤差を取り除く補正を可能にするために、3軸のジャイロスコープ(図示せず)と3方向の加速度センサ(図示せず)とを有して車体のヨー角、ピッチ角、ロール角等を計測する慣性計測装置63(IMU:Inertial Measurement Unit)が備えられている。慣性計測装置63は、前述したアンテナユニット61の位置ズレ量を求め易くするために、アンテナユニット61の内部に備えられている。アンテナユニット61は、上面視において車体におけるトレッドTの中央部でホイールベースLの中央部に位置するように、キャビン4のルーフ62における前部上面の左右中央箇所に取り付けられている(図2参照)。
【0047】
図4に示すように、メインECU30には、車体の自動運転を可能にする各種の制御プログラム等を有する自動運転制御部30Cが備えられている。自動運転制御部30Cは、車体が予め設定された圃場の目標走行経路を設定速度で適正に作業を行いながら自動走行するように、目標走行経路及び測位ユニット53の測位結果等に基づいて、走行制御部30A及び作業制御部30B等に各種の制御指令を適切なタイミングで送信する。走行制御部30Aは、自動運転制御部30Cからの各種の制御指令及び車内情報取得ユニット36の各種取得情報等に基づいて、主変速装置32及び前後進切換装置33等に各種の制御指令を適切なタイミングで送信して主変速装置32及び前後進切換装置33等の作動を制御する。作業制御部30Bは、自動運転制御部30Cからの各種の制御指令及び車内情報取得ユニット36の各種取得情報等に基づいて、昇降駆動ユニット29及びPTOクラッチ34等に各種の制御指令を適切なタイミングで送信して昇降駆動ユニット29及びPTOクラッチ34等の作動を制御する。
【0048】
図1図4等に示すように、監視ユニット54には、障害物の有無を検出する障害物検出モジュール64、障害物検出モジュール64が障害物を検出すると車体の走行を抑制する走行抑制制御(障害物との接触を回避する接触回避制御)を行う走行抑制制御部30D、車体の周囲を撮影する4台の監視カメラ66、監視カメラ66が撮影した画像を処理する画像処理装置67等が備えられている。
【0049】
図4に示す障害物検出モジュール64には、探査対象領域Yに存在する障害物を検出する複数の障害物探知器65と、探知対象領域Xに存在する障害物を検出する複数の障害物探査器68と、各障害物探査器68からの探査情報に基づいて車体に対する至近距離内に障害物が接近したか否かの判別処理を行う2台の探査情報処理装置69と、が備えられている。障害物探知器65は、車体に対する近距離(例えば10m以内)での障害物の接近を検出する。各障害物探査器68は、車体に対する至近距離内(例えば1m以内)での障害物の有無を検出する。すなわち、障害物検出モジュール64には、障害物探査器68と異なる検出方式で探知対象領域Xに存在する障害物を検出する障害物探知器65が備えられている。
【0050】
図5図7には、障害物探知器65の探知対象領域Xと障害物探査器68による探査対象領域Yとを模式的に示してある。障害物探査器68の探査対象領域Yには、障害物探知器65の探知対象領域Xよりも下方に位置する領域が含まれている。なお、図5図7においては、図示の都合上、探知対象領域X及び探査対象領域Yをある程度省略している。
【0051】
図5図7に示す探知対象領域Xと探査対象領域Yは、夫々、車速に応じて変化するようになっている。具体的には、探知対象領域Xと探査対象領域Yは、夫々、車速が増加するにつれて大きくなるようになっている。
【0052】
各障害物探査器68には、測距センサの一例として測距に超音波を使用する超音波ソナーが採用されている。8個の障害物探査器68は、車体の前方と左右両側方とが探査対象領域Yになるように、車体の前端部と左右両端部とに分散して配置されている。各障害物探査器68は、略円錐状の探査対象領域Yを有している。各障害物探査器68は、それらの探査で得た探査情報を対応する探査情報処理装置69に送信する。
【0053】
各探査情報処理装置69は、対応する各障害物探査器68における超音波の発信から受信までの時間に基づいて、車体に対する至近距離内に障害物が接近したか否かの判別処理を行い、この判別結果を走行抑制制御部30Dに出力する。
【0054】
これにより、自動運転中の車体の前方または左右の横側方において障害物が車体に対する至近距離内に異常接近した場合は、この障害物の接近が障害物検出モジュール64によって検出される。
【0055】
ちなみに、障害物検出モジュール64は、例えば、車体が自動運転によって畦に向かって走行しているとき、または、車体が自動運転によって畦際で畦に沿って走行しているときに、畦が車体に対する至近距離内に異常接近した場合は、この畦を障害物として検出する。また、移動体が車体に対する至近距離内に異常接近した場合は、この移動体を障害物として検出する。
【0056】
〔障害物探知器について〕
各障害物探知器65には、平面状の探知対象領域Xを有するとともに最大で約270度程度の検出角度を有するレーザースキャナが採用されている。各障害物探知器65は、障害物の探知を行う探知部と、探知部からの探知情報を処理する処理部とが備えられている。探知部は、探知対象領域Xにレーザ光線を照射して反射光を受け取る。処理部は、レーザ光線の照射から受光までの時間に基づいて、車体に対する近距離において障害物が接近しているか否か等を判別し、判別結果を走行抑制制御部30Dに出力する。
【0057】
前側の障害物探知器65は、車体前側の領域が探知対象領域Xに設定されている。車体の本体の前方及び側方を第1探知対象領域X1とし、第1探知対象領域X1に存在する障害物を検出する左右一対の障害物探知器65が備えられている。また、車体の作業装置Wよりも後方を第2探知対象領域X2とし、第2探知対象領域X2に存在する障害物を検出する後障害物探知器102が備えられている。
【0058】
図5等に示すように、第1探知対象領域X1、及び、第2探知対象領域X2は、例えば、作業走行中に、圃場の起伏等に応じて車体がローリングまたはピッチングを多少したとしても、圃場の地面を検出しない範囲に設定されている。
【0059】
図1図3図4等に示すように、各障害物探知器65は、夫々、上下方向に沿って延びる支持フレームに取り付けられている。ここで、支持フレームは、キャビン4に備えられるフロントピラー73である。
【0060】
つまり、図2に示すように、各障害物探知器65は、夫々、左右方向においてボンネット16の外端と車体の本体における最外位置Mとの間に配置されている。また、各障害物探知器65は、夫々、上下方向においてボンネット16の上端部と前輪9の上端部との間に配置されている。また、各障害物探知器65は、夫々、車体の本体における前後中間部に配置されている。ここで、車体の本体における前後中間部は、車体の本体における前後中央部を中心に前後にある程度の拡がりを持つ領域を意味している。
【0061】
また、各障害物探知器65は、前後方向における前輪9の前車軸9Aと後輪10の後車軸10Aとの間に配置されている。これにより、複雑な地形における車体の傾斜にも対応して障害物を良好に探知できるように第1探知対象領域X1を設定可能となる。
【0062】
図5図7に示すように、各障害物探知器65の第1探知対象領域X1は、夫々、水平面に対して前後左右に傾斜して設定されている。説明を加えると、図5に示すように、各障害物探知器65の探知対象領域Xは、前下がり、かつ、後上がりとなるように傾斜している。また、各障害物探知器65の第1探知対象領域X1は、夫々、前輪9の前上側を通るように設定されている。また、各障害物探知器65の第1探知対象領域X1は、夫々、ウェイト1Aの前上側を通るように設定されている。また、図7に示すように、各障害物探知器65の第1探知対象領域X1は、機体横内側から機体横外側に向けて下り傾斜している。
【0063】
図5図6に示すように、後障害物探知器102は、車体後側で作業装置Wよりも後側の領域が第2探知対象領域X2に設定されている。後障害物探知器102の第2探知対象領域X2は、後下がりの傾斜角度を持つように設定されている。第2探知対象領域X2は、左右方向において、作業装置Wの横幅よりも幅広に設定されている。
【0064】
ここで、図4に示す走行抑制制御部30Dは、走行抑制制御の実行を可能にする制御プログラム等を有している。走行抑制制御部30Dは、各障害物探知器65及び後障害物探知器102の判別結果に基づいて、車体に対する近距離での障害物の接近を確認したときに、自動運転制御部30Cの制御作動に基づく自動運転に優先して走行抑制制御を開始する。そして、走行抑制制御部30Dは、各障害物探知器65、後障害物探知器102及び各探査情報処理装置69の判別結果に基づいて走行抑制制御を行う。
【0065】
走行抑制制御において、走行抑制制御部30Dは、走行抑制制御の開始とともに走行制御部30Aに減速指令を出力する。これにより、走行抑制制御部30Dは、走行制御部30Aの制御作動によって主変速装置32を減速作動させて、車速を通常走行用の設定速度から接触回避用の設定速度まで低下させる。走行抑制制御部30Dは、この低速走行状態において、いずれかの探査情報処理装置69の判別結果に基づいて、車体に対する至近距離内への障害物の接近を確認したときに、走行制御部30A及び作業制御部30Bに緊急停止指令を出力する。これにより、走行抑制制御部30Dは、走行制御部30Aの制御作動によって前後進切換装置33を中立状態に切り換えるとともに、ブレーキ操作ユニット35の作動によって左右のブレーキを作動させて左右の前輪9と左右の後輪10とを制動させる。また、走行抑制制御部30Dは、作業制御部30Bの作動によってPTOクラッチ34を切り状態に切り換えて作業装置Wの作動を停止させる。その結果、車体に対する至近距離内への障害物の接近に基づいて、車体の走行停止と作業装置Wの作動停止とを迅速に行うことができ、車体が障害物に接触するおそれを回避できる。走行抑制制御部30Dは、この低速走行状態において、各障害物探知器65の判別結果に基づいて、車体に対する近距離内において障害物が存在しないことを確認したときに、走行制御部30Aに増速指令を出力し、その後、走行抑制制御を終了する。これにより、走行抑制制御部30Dは、走行制御部30Aの制御作動によって主変速装置32を増速作動させて、車速を接触回避用の設定速度から通常走行用の設定速度まで上昇させた後、自動運転制御部30Cの制御作動に基づく自動運転を再開させる。
【0066】
図1図4等に示す各監視カメラ66には、広角の可視光用CCDカメラが採用されている。4台の監視カメラ66のうちの1台は、車体の前方撮影用であり、この監視カメラ66は、撮影方向が前下方向きになる傾斜姿勢で、キャビン4の上端部における前端の左右中央箇所に設置されている。4台の監視カメラ66のうちの1台は、車体の右方撮影用であり、これらの監視カメラ66は、撮影方向が右下方向きになる傾斜姿勢で、キャビン4の上端部における右端箇所に前後に所定間隔をあけて設置されている。4台の監視カメラ66のうちの1台は、車体の左方撮影用であり、これらの監視カメラ66は、撮影方向が左下方向きになる傾斜姿勢で、キャビン4の上端部における左端箇所に前後に所定間隔をあけて設置されている。4台の監視カメラ66のうちの1台は、車体の後方撮影用であり、この監視カメラ66は、撮影方向が後下方向きになる傾斜姿勢で、キャビン4の上端部における後端の左右中央箇所に設置されている。これにより、車体の周囲を漏れなく撮影できる。
【0067】
図4に示す画像処理装置67は、各監視カメラ66からの映像信号を処理して、車体前方画像、車体右側方画像、車体左側方画像、車体後方画像、及び、車体の真上から見下ろしたような俯瞰画像等を生成して表示ユニット23等に送信する。表示ユニット23は、液晶パネル23Aに表示される各種の操作スイッチ(図示せず)の人為操作等に基づいて、液晶パネル23Aに表示される画像を切り換える制御部23B等を有している。
【0068】
上記の構成により、手動運転時においては、運転者は、画像処理装置67からの画像を液晶パネル23Aに表示させることで、運転中の車体の周辺状況や作業状況を容易に視認できる。これにより、運転者は、作業の種類等に応じた良好な車体の運転を容易に行うことができる。また、自動運転時に管理者が車体に搭乗する場合においては、管理者は、画像処理装置67からの画像を液晶パネル23Aに表示させることで、自動運転中の車体の周辺状況や作業状況を容易に視認できる。そして、管理者は、自動運転中の車体周辺または作業状況等における異常を視認した場合は、その異常の種類や程度等に応じた適切な処置を速やかに行うことができる。
【0069】
図4に示すように、電子制御システム51は、選択スイッチ50の人為操作によって協調運転モードが選択された場合に、車体を同じ仕様の他車と協調して自動走行させる協調制御ユニット70が備えられている。協調制御ユニット70は、車体の位置情報を含む他車との協調走行に関する情報を他車との間で無線通信する通信モジュール71と、他車からの情報に基づいて協調運転制御を行う協調運転制御部30Eとが備えられている。協調運転制御部30Eは、協調運転制御の実行を可能にする制御プログラム等を有してメインECU30に備えられている。
【0070】
協調運転モードにおいて、自動運転制御部30Cは、車体が予め設定された併走用の目標走行経路を設定速度で適正に作業を行いながら自動走行するように、併走用の目標走行経路及び測位ユニット53の測位結果等に基づいて、走行制御部30A及び作業制御部30B等に各種の制御指令を適切なタイミングで送信する。協調運転制御部30Eは、自車の併走用の目標走行経路、測位ユニット53の測位結果、他車の併走用の目標走行経路、及び、他車の位置情報等に基づいて、先行する他車と自車との進行方向での車間距離、及び、先行する他車と自車との併走方向での車間距離等が適正であるか否かを判別する。そして、いずれかの車間距離が適正でない場合は、その車間距離が適正になるように、自動運転制御部30Cの制御作動に基づく自動運転に優先して協調運転制御を開始する。
【0071】
協調運転制御において、協調運転制御部30Eは、進行方向での車間距離が適正距離よりも短い場合は、走行制御部30Aに減速指令を出力する。これにより、協調運転制御部30Eは、走行制御部30Aの制御作動によって主変速装置32を減速作動させて、進行方向での車間距離を適正距離に復帰させる。そして、協調運転制御部30Eは、進行方向での車間距離が適正距離に復帰するのに伴って、自動運転制御部30Cの制御作動に基づく自動運転を再開させることで、車速を通常走行用の設定速度まで上昇させて進行方向での車間距離を適正距離に維持する。
【0072】
協調運転制御部30Eは、進行方向での車間距離が適正距離よりも長い場合は、走行制御部30Aに増速指令を出力する。これにより、協調運転制御部30Eは、走行制御部30Aの制御作動によって主変速装置32を増速作動させて、進行方向での車間距離を適正距離に復帰させる。そして、協調運転制御部30Eは、進行方向での車間距離が適正距離に復帰するのに伴って、自動運転制御部30Cの制御作動に基づく自動運転を再開させることで、車速を通常走行用の設定速度まで低下させて進行方向での車間距離を適正距離に維持する。
【0073】
協調運転制御部30Eは、併走方向での車間距離が適正距離よりも長い場合は、走行制御部30Aに他車側への操舵指令を出力する。これにより、協調運転制御部30Eは、走行制御部30Aの制御作動によって左右の前輪9を他車側に操舵させて、併走方向での車間距離を適正距離に復帰させる。そして、協調運転制御部30Eは、併走方向での車間距離が適正距離に復帰するのに伴って、自動運転制御部30Cの制御作動に基づく自動運転を再開させることで、車体の進行方向を通常走行用の進行方向に戻して併走方向での車間距離を適正距離に維持する。
【0074】
協調運転制御部30Eは、併走方向での車間距離が適正距離よりも短い場合は、走行制御部30Aに他車から離れる側への操舵指令を出力する。これにより、協調運転制御部30Eは、走行制御部30Aの制御作動によって左右の前輪9を他車から離れる側に操舵させて、併走方向での車間距離を適正距離に復帰させる。そして、協調運転制御部30Eは、併走方向での車間距離が適正距離に復帰するのに伴って、自動運転制御部30Cの制御作動に基づく自動運転を再開させることで、車体の進行方向を通常走行用の進行方向に戻して併走方向での車間距離を適正距離に維持する。
【0075】
これにより、自車を、先行する他車に対して、進行方向での車間距離と併走方向での車間距離とを訂正に維持しながら自動で適正に併走させることができる。
【0076】
図1図4等に示すように、キャビン4には、ルーフ62等を支持するルーフフレーム72、ルーフフレーム72の前端部を支持する左右のフロントピラー73、ルーフフレーム72の前後中間部を支持する左右のセンタピラー74、ルーフフレーム72の後部側を支持する左右のリアピラー75、キャビン4の前面を形成するフロントパネル76、左右のセンタピラー74に開閉揺動可能に支持された左右のドアパネル77、キャビン4の後部側面を形成する左右のサイドパネル78、及び、ルーフフレーム72に開閉揺動可能に支持されたリヤパネル79等が備えられている。
【0077】
左右のフロントピラー73は、車体の本体におけるホイールベースLの中央部よりも車体前側に配置されている。左右のフロントピラー73は、前面視においては上半部の上側ほど車体の左右中央側に位置し、かつ、側面視においては上半部の上側ほど車体の前後中央側に位置するように上半部が湾曲している。左右のフロントピラー73には、夫々、方向指示器100(ウィンカ)が支持されている。また、左右のフロントピラー73における方向指示器100よりも上側箇所には、縦軸心周りに回動調節自在及び鏡面を前後左右に調節可能なバックミラー101が支持されている。
【0078】
図1図4に示すように、キャビン4には、左右のリアピラー75の上端部から後方に延出する補助フレーム90が備えられている。補助フレーム90は、後障害物探知器102及び後方撮影用の監視カメラ66等を支持している。
【0079】
〔障害物探査器について〕
図1図3図4に示すように、各障害物探査器68は、少なくとも車体における左右の前輪9よりも上側の部位に設置されている。これにより、例えば、作業走行中に、圃場の起伏等に応じて車体がローリングまたはピッチングすることで、いずれかの障害物探査器68が圃場の地面に近付いた場合であっても、このときの各障害物探査器68の地面からの離間距離を、各障害物探査器68の探査距離よりも長い状態に維持できる。
【0080】
つまり、各障害物探査器68は、作業走行中に圃場の起伏等に応じて車体がローリングまたはピッチングした場合であっても、圃場の地面が、各障害物探査器68の探査距離内に入り込むおそれを回避できる適切な高さ位置に配置されている。これにより、作業走行中の車体のローリングまたはピッチングに起因して、各障害物探査器68が圃場の地面を障害物として誤検出するおそれを回避できる。
【0081】
障害物探査器68の探査対象領域Yには、第1探査対象領域Y1、第2探査対象領域Y2、第3探査対象領域Y3、第4探査対象領域Y4が含まれている。
【0082】
障害物探査器68として、車体の本体における後端部の側方を第1探査対象領域Y1とする左右一対の第1障害物探査器68A、車体における前後中央部の側方を第2探査対象領域Y2とする左右一対の第2障害物探査器68B、車体における前後中央部のうち第2障害物探査器68Bよりも前側箇所の側方を第3探査対象領域Y3とする左右一対の第3障害物探査器68Cと、車体の前側を第4探査対象領域Y4とする左右一対の第4障害物探査器68Dが備えられている。
【0083】
図1図3に示すように、2個の第1障害物探査器68Aは、リアフェンダ12の後部に取り付けられている。説明を加えると、各第1障害物探査器68Aは、左右のリアフェンダ12における左右の後輪10の後車軸10Aよりも後側の部位に取り付けられている。各第1障害物探査器68Aは、夫々、第1探査対象領域Y1に存在する障害物を検出可能となっている。第1探査対象領域Y1は、第1障害物探査器68Aから横外下がりに延びるように設定されている。
【0084】
2個の第2障害物探査器68Bは、リアフェンダ12の前部に取り付けられている。各第2障害物探査器68Bは、夫々、第2探査対象領域Y2に存在する障害物を検出可能となっている。第2探査対象領域Y2は、第2障害物探査器68Bから横外下がりに延びるように設定されている。
【0085】
2個の第3障害物探査器68Cは、キャビン4における車体の前後中間部に位置する左右のフロントピラー73に取り付けられている。各第3障害物探査器68Cは、夫々、第3探査対象領域Y3に存在する障害物を検出可能となっている。第3探査対象領域Y3は、第3障害物探査器68Cから横外下がりに延びるように設定されている。
【0086】
図1図4に示すように、前述した8個の障害物探査器68のうち、左右一対の第4障害物探査器68Dは、ボンネット16における前端部の上下中央部に、左右方向に互いに所定間隔をあけて取り付けられている。各第4障害物探査器68Dは、夫々、第4探査対象領域Y4に存在する障害物を検出可能となっている。左右の第4障害物探査器68Dにより、車体前方の探査対象領域Yを左右方向に広くできる。第4探査対象領域Y4は、第4障害物探査器68Dから横外下がりに延びるように設定されている。
【0087】
図1等に示すように、第3障害物探査器68C、及び、障害物探知器65は、バックミラー101の下方に配置されている。
【0088】
図5図6に示す第1障害物探査器68Aによる第1探査対象領域Y1、後障害物探知器102による第2探知対象領域X2は、夫々、作業装置Wの種類や左右幅に応じて、最適に調整されるようになっている。
【0089】
また、探知対象領域Xは、障害物ではなく地面を検知することを防止するため、領域の外縁に限度が設定されている。なお、図6では、第1探知対象領域X1の左右方向における端部が直線になっているが、図示の都合上、これは模式的に示しているものである。
【0090】
上記の取り付けにより、左右のリアフェンダ12等が配置された車体の本体の後部側の左右両側方は、左右の第1障害物探査器68Aの第1探査対象領域Y1になり、左右のリアフェンダ12等が配置された車体の本体における後輪10の前側は、左右の第2障害物探査器68Bの第2探査対象領域Y2になり、左右のフロントピラー73等が配置された車体の前後中央側の左右両側方は、左右の第3障害物探査器68Cの第3探査対象領域Y3になる。つまり、左右の第1障害物探査器68Aと、左右の第2障害物探査器68Bと、左右の第3障害物探査器68Cとにより、前後方向に広い車体横側方の広い領域を探査対象領域Yにできる。その結果、車体に対する車体横側方の至近距離に存在する障害物を漏れなく探査できる。
【0091】
その結果、各障害物探査器68の探査に基づいて、停止状態の車体に動く障害物(動物や風で転がる物等)が車体に近付いた状態で走行状態に移行することが回避され、また、自動運転中に車体が障害物に接触することを、より確実に回避できる。
【0092】
図2に示すように、左右の第1障害物探査器68Aは、左右の支持部材を介して左右のリアフェンダ12に取り付けられている。つまり、左右の第1障害物探査器68Aは、夫々、左右の後輪10における横外側端の上方に配置されている。これにより、左右の第1障害物探査器68Aによる障害物の探査を、左右の後輪10によって阻害されることなく良好に行うことができる。
【0093】
図1図3に示すように、左右の第3障害物探査器68Cは、左右のフロントピラー73に取り付けられている。つまり、左右の第3障害物探査器68Cは、夫々、左右の前輪9と左右の後輪10との間に配置されている。これにより、左右の前輪9と左右の後輪10との間の領域を左右の第3障害物探査器68Cの探査対象領域Yに含むことができ、左右の前輪9と左右の後輪10との間における障害物の有無を、左右の第3障害物探査器68Cによって検出できる。
【0094】
図1図4に示すように、左側の第1障害物探査器68Aの取り付け姿勢は、送受信面が左下向きになる左下向き姿勢に設定されている。右側の第1障害物探査器68Aの取り付け姿勢は、送受信面が右下向きになる右下向き姿勢に設定されている。左側の第2障害物探査器68Bの取り付け姿勢は、送受信面が左横向きになる左向き姿勢に設定されている。右側の第2障害物探査器68Bの取り付け姿勢は、送受信面が右横向きになる右向き姿勢に設定されている。左側の第3障害物探査器68Cの取り付け姿勢は、送受信面が左下向きになる左下向き姿勢に設定されている。右側の第3障害物探査器68Cの取り付け姿勢は、送受信面が右下向きになる右下向き姿勢に設定されている。左右の第4障害物探査器68Dの取り付け姿勢は、夫々、送受信面が前向きになる前向き姿勢に設定されている。
【0095】
図6において太字の一点鎖線で示す領域は、障害物探知器65によって所定の高さよりも低い箇所に存在する障害物を検出可能な領域を示している。また、図6において細字の一点鎖線で示す領域は、障害物探知器65によって所定の高さよりも低い箇所に存在する障害物を検出できない領域を示している。
【0096】
図5図6に示すように、第1障害物探査器68Aの第1探査対象領域Y1、第2障害物探査器68Bの第2探査対象領域Y2、第3障害物探査器68Cの第3探査対象領域Y3は、障害物探知器65の探知対象領域Xに含まれない車体の側方の領域(障害物探知器65の死角となる領域)をカバーし、障害物を検出可能となっている。
【0097】
このように、各障害物探知器65の探知対象領域Xに含まれない領域を、各障害物探査器68の探査対象領域Yでカバーすることにより、車体の周辺において障害物が検出されない死角の領域を減らすことが可能となる。これにより、走行状態において車体の周辺の障害物を精度良く検出し、障害物に接触する前に車体の走行を停止させることができる。
また、停止状態において車体の近傍に動く障害物(例えば、動物、風で移動するもの等)が移動してきた場合に、その障害物を精度良く検出し、停止状態から走行状態に移行させないようにすることで、走行装置2や作業装置Wで障害物を踏み付ける等の不都合を回避できる。
【0098】
〔別実施形態〕
以下、上記実施形態に変更を施した別実施形態について説明する。各別実施形態は、矛盾が生じない限り複数組み合わせて上記実施形態に適用できる。なお、本発明の範囲は、各実施形態に示した内容に限られるものではない。
【0099】
(1)障害物探知器65が、左右一対で備えられていなくてもよい。具体的には、左の障害物探知器65による第1探知対象領域X1と右の障害物探知器65による第1探知対象領域X1とが左右非対称になっていてもよい。また、障害物探知器65が、左右いずれか一方のみに備えられていてもよい。
【0100】
(2)障害物探知器65が、フロントピラー73に取り付けられていなくてもよい。例えば、障害物探知器65をバックミラー101に取り付けるようにしてもよい。また、例えば、障害物探知器65を方向指示器100の近傍のフレームに取り付けるようにしてもよい。障害物探知器65を方向指示器100の近傍に配置することにより、障害物探知器65についてのハーネスと方向指示器100についてのハーネスをまとめて配線できるものとなる。
【0101】
(3)キャビン4に代えて、運転座席22の後方に位置し、左右一対の支柱部と左右の支柱部の上端部を連結するはり部を有する門型のロプスフレームが備えられていてもよい。
この場合、障害物探知器65を、ロプスフレームに取り付けてもよい。具体的には、障害物探知器65を、ロプスフレームの支柱部に取り付けたり、ロプスフレームのはり部に取り付けたりすることができる。
【0102】
(4)運転部17において搭乗者の足が位置する足場の先端部からボンネット16にかけて設けられた延設フレームが備えられていてもよい。この場合、障害物探知器65を、延設フレームに取り付けることができる。
【0103】
(5)第1障害物探査器68Aや第2障害物探査器68Bが、リアフェンダ12以外の部材に取り付けられていてもよい。
【0104】
(6)障害物探知器65が、レーザースキャナ以外の装置であってもよい。
【0105】
(7)障害物探知器65が、左右方向においてボンネット16の外端と車体の本体における最外位置Mとの間から逸れた箇所に配置されていてもよい。
【0106】
(8)障害物探知器65が、車体の本体における前後中間部以外の箇所に配置されていてもよい。
【0107】
(9)障害物探知器65の第1探知対象領域X1が、水平面に対して前後にのみ傾斜して設定されていたり、水平面に対して左右にのみ傾斜して設定されていたりしてもよい。
【0108】
(10)障害物探査器68が、超音波センサ以外の装置であってもよい。例えば、障害物探査器68として、赤外線測距センサ等を採用してもよい。
【0109】
(11)左右の第1障害物探査器68Aは、ボンネット16の前端部におけるヘッドライト107よりも上方の位置に配置されていてもよい。
【0110】
(12)障害物探査器68の数量を10個以上にしてもよく、作業車の全長が短ければ、障害物探査器68の数量を6個以下にしてもよい。
【0111】
(13)左右の後輪10に代えて左右のクローラが備えられたセミクローラ仕様に構成されていてもよい。
【0112】
(14)左右の前輪9及び左右の後輪10に代えて左右のクローラが備えられたフルクローラ仕様に構成されていてもよい。
【0113】
(15)左右の前輪9と左右の後輪10とのいずれか一方が駆動される二輪駆動式であってもよい。
【0114】
(16)エンジン6の代わりに電動モータが備えられた電動仕様に構成されていてもよい。
【0115】
(17)エンジン6と電動モータとが備えられたハイブリッド仕様に構成されていてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0116】
本発明は、車体を自動で運転する自動運転用の電子制御システムが備えられた作業車に利用でき、例えば、上記トラクタ以外にも、乗用草刈機、コンバイン、乗用田植機、及び、ホイルローダ等に利用できる。
【符号の説明】
【0117】
12 :リアフェンダ
30D :走行抑制制御部
51 :電子制御システム
64 :障害物検出モジュール
65 :障害物探知器
68 :障害物探査器
68A :第1障害物探査器
68B :第2障害物探査器
X :探知対象領域
Y :探査対象領域
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7