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特開2024-117854通信システム、受信機、等化信号処理回路、等化信号処理方法、及びプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024117854
(43)【公開日】2024-08-30
(54)【発明の名称】通信システム、受信機、等化信号処理回路、等化信号処理方法、及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   H04B 10/2507 20130101AFI20240823BHJP
   H04B 10/61 20130101ALI20240823BHJP
   H04B 3/06 20060101ALI20240823BHJP
【FI】
H04B10/2507
H04B10/61
H04B3/06 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023023898
(22)【出願日】2023-02-20
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和3年度、国立研究開発法人情報通信研究機構「革新的情報通信技術研究開発委託研究/Beyond 5G時代に向けた空間モード制御光伝送基盤技術の研究開発」産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】000004237
【氏名又は名称】日本電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【弁理士】
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】有川 学
【テーマコード(参考)】
5K046
5K102
【Fターム(参考)】
5K046AA08
5K046BA06
5K046BB05
5K046EE47
5K046EE61
5K046EF26
5K046EF46
5K102AA52
5K102AD15
5K102AH02
5K102AH11
5K102AH26
5K102AH27
5K102KA02
5K102KA39
5K102PB01
5K102PB11
5K102PH01
5K102PH13
5K102PH31
5K102RD26
5K102RD28
(57)【要約】
【課題】出力信号へのブロックの両端からの回り込みによる歪みの影響を抑えつつ、適応周波数領域フィルタの係数更新に必要な計算量を緩和することを可能にする。
【解決手段】周波数領域フィルタ23には、オーバーラッセーブ法によってブロック化された、周波数領域の入力信号が入力される。周波数領域フィルタ23は、周波数領域の入力信号に対し、周波数ごとに係数を乗算する。係数更新部24は、周波数領域フィルタ23のフィルタ係数を適応的に更新する。制約操作部25は、周波数領域フィルタ23のフィルタ係数に対し、出力信号へのブロックの両端からの回り込みによる歪みの影響がないための制約の操作を実施する。制約操作部25が制約の操作を実施する頻度は、係数更新部24が周波数領域フィルタ23のフィルタ係数を適応的に更新する頻度よりも低い。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
オーバーラップセーブ法によってブロック化された、周波数領域の入力信号に対し、周波数ごとに係数を乗算する周波数領域フィルタと、
前記周波数領域フィルタへの入力信号及び等化信号処理回路の出力信号と、前記等化信号処理回路の出力信号の所定の状態とに基づいて、前記周波数領域フィルタのフィルタ係数を適応的に更新する係数更新部と、
前記周波数領域フィルタのフィルタ係数に対し、前記出力信号へのブロックの両端からの回り込みによる歪みの影響がないための制約の操作を実施する制約操作部とを備え、
前記制約操作部が前記制約の操作を実施する頻度が、前記係数更新部が前記フィルタ係数を適応的に更新する頻度よりも低い、等化信号処理回路。
【請求項2】
前記制約操作部は、前記周波数領域フィルタのフィルタ係数を時間領域のフィルタ係数に変換し、該時間領域に変換されたフィルタ係数に対し、オーバーラップセーブ法によって除去されない入力信号のブロック両端における回り込みをもたらす領域を0へと置換し、0への置換が実施された時間領域のフィルタ係数を周波数領域のフィルタ係数に変換し、該変換された周波数領域のフィルタ係数を周波数領域フィルタに設定する、請求項1に記載の等化信号処理回路。
【請求項3】
前記係数更新部は、前記周波数領域フィルタへの入力信号及び前記等化信号処理回路の出力信号と、前記等化信号処理回路の出力信号の所定の状態とに基づいて、前記周波数領域フィルタの係数更新量を算出する係数更新量算出部を含む、請求項1又は2に記載の等化信号処理回路。
【請求項4】
ブロック間に一定のオーバーラップを設けつつ、前記入力信号をブロック化するブロック変換部と、
前記ブロック化された入力信号を周波数領域の信号に変換し、前記周波数領域フィルタに出力する周波数領域変換部と、
前記周波数領域フィルタが出力するブロック化された周波数領域の信号を時間領域の信号に変換する時間領域変換部と、
前記時間領域変換部で時間領域の信号のうち、前記入力信号のブロック両端における回り込みをもたらさない領域を残し、前記入力信号のブロック両端における回り込みをもたらす領域を除きつつ、前記時間領域変換部で時間領域の信号に変換された信号をシリアル信号に変換するシリアル変換部とを備える、請求項1又は2に記載の等化信号処理回路。
【請求項5】
前記係数更新部は、前記入力信号の第1の所定数のブロックごとに、前記周波数領域フィルタのフィルタ係数を更新し、
前記制約操作部は、前記入力信号の第2の所定数のブロックごとに、前記制約の操作を実施し、
前記第2の所定数は、前記第1の所定数よりも大きい、請求項1又は2に記載の等化信号処理回路。
【請求項6】
前記入力信号は、伝送路を介して伝送された信号を受信機がコヒーレント受信した信号である、請求項1又は2に記載の等化信号処理回路。
【請求項7】
伝送路を介して送信機から送信された信号をコヒーレント受信する検波器と、
前記コヒーレント受信された入力信号に対して等化信号処理を実施する等化信号処理回路とを備え、
前記等化信号処理回路は、
オーバーラップセーブ法によってブロック化された、周波数領域の前記入力信号に対し、周波数ごとに係数を乗算する周波数領域フィルタと、
前記周波数領域フィルタへの入力信号及び前記等化信号処理回路の出力信号と、前記等化信号処理回路の出力信号の所定の状態とに基づいて、前記周波数領域フィルタのフィルタ係数を適応的に更新する係数更新部と、
前記周波数領域フィルタのフィルタ係数に対し、前記出力信号へのブロックの両端からの回り込みによる歪みの影響がないための制約の操作を実施する制約操作部とを有し、
前記制約操作部が前記制約の操作を実施する頻度が、前記係数更新部が前記フィルタ係数を適応的に更新する頻度よりも低い、受信機。
【請求項8】
伝送路を介して信号を送信する送信機と、
前記送信された信号を受信する受信機とを備え、
前記受信機は、
前記送信機から送信された信号をコヒーレント受信する検波器と、
前記コヒーレント受信された入力信号に対して等化信号処理を実施する等化信号処理回路とを有し、
前記等化信号処理回路は、
オーバーラップセーブ法によってブロック化された、周波数領域の前記入力信号に対し、周波数ごとに係数を乗算する周波数領域フィルタと、
前記周波数領域フィルタへの入力信号及び前記等化信号処理回路の出力信号と、前記等化信号処理回路の出力信号の所定の状態とに基づいて、前記周波数領域フィルタのフィルタ係数を適応的に更新する係数更新部と、
前記周波数領域フィルタのフィルタ係数に対し、前記出力信号へのブロックの両端からの回り込みによる歪みの影響がないための制約の操作を実施する制約操作部とを有し、
前記制約操作部が前記制約の操作を実施する頻度が、前記係数更新部が前記フィルタ係数を適応的に更新する頻度よりも低い、通信システム。
【請求項9】
等化信号処理を実施する等化信号処理方法であって、
前記等化信号処理は、
オーバーラップセーブ法によってブロック化された、周波数領域の入力信号に対し、周波数領域フィルタにおいて周波数ごとに係数を乗算し、
前記周波数領域フィルタへの入力信号及び前記等化信号処理の出力信号と、前記等化信号処理の出力信号の所定の状態とに基づいて、前記周波数領域フィルタのフィルタ係数を適応的に更新し、
前記フィルタ係数が適応的に更新される頻度よりも低い頻度で、前記周波数領域フィルタのフィルタ係数に対し、前記出力信号へのブロックの両端からの回り込みによる歪みの影響がないための制約の操作を実施することを有する、等化信号処理方法。
【請求項10】
等化信号処理をプロセッサに実行させるためのプログラムであって、
前記等化信号処理は、
オーバーラップセーブ法によってブロック化された、周波数領域の入力信号に対し、周波数領域フィルタにおいて周波数ごとに係数を乗算し、
前記周波数領域フィルタへの入力信号及び前記等化信号処理の出力信号と、前記等化信号処理の出力信号の所定の状態とに基づいて、前記周波数領域フィルタのフィルタ係数を適応的に更新し、
前記フィルタ係数が適応的に更新される頻度よりも低い頻度で、前記周波数領域フィルタのフィルタ係数に対し、前記出力信号へのブロックの両端からの回り込みによる歪みの影響がないための制約の操作を実施することを含む、プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、通信システム、受信機、等化信号処理回路、等化信号処理方法、及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
光ファイバ通信において、コヒーレント受信とデジタル信号処理とを組み合わせた、いわゆるデジタルコヒーレント技術が導入されて以来、デジタル信号処理による柔軟な受信側等化信号処理が可能となった。受信側等化信号処理では、例えば、光ファイバ伝送路で蓄積される波長分散が、受信側の装置において一括して補償される。
【0003】
光ファイバ通信では、一般的に高速かつ大容量の信号が扱われる。このため、光ファイバ通信を扱うデジタル信号処理にも、高いスループットが求められる。したがって、デジタル信号処理が必要とする計算量の大きさが、しばしば問題となる。適応等化フィルタは、伝送路の状態に応じて、その応答が適応的に制御される。適応等化フィルタは、光ファイバ通信における受信側等化信号処理の重要な要素の1つであり、この適応等化フィルタについても、計算量の効率化が求められている。
【0004】
適応等化フィルタが、時間広がりが大きい効果を補償する場合、時間広がりが大きい応答を表現可能な大きなフィルタが適応等化フィルタに使用され、適応等化フィルタにおいて、補償に必要な計算量は増大する。時間広がりが大きい効果の補償を効率的に行うための方法の1つとして、周波数領域フィルタの採用が考えられている。周波数領域では、時間領域での入力信号へのフィルタ応答の畳み込み演算を、単なる乗算として扱うことができる。また、時間領域信号の周波数領域への変換は、fast Fourier transform(FFT)によって効率的に行うことができる。このため、応答の時間広がりが大きい場合、周波数領域フィルタは、時間領域フィルタに比べて、必要な計算量が低減される。
【0005】
周波数領域フィルタでは、複数のサンプルからなるブロック単位で信号が処理される。ここでは、周波数領域信号の入力信号のブロックは下記式1で表され、出力信号のブロックは下記式2で表される場合を考える。
上記式1及び式2において、M,Mは、それぞれ入力ブロックのサイズ、及び出力ブロックのサイズである。
【0006】
時間領域でのフィルタの有限インパルス応答を
とする。上記式3において、Mは、フィルタの有限インパルス応答の長さである。有限インパルス応答の畳み込みの関係から、入力信号のブロックと出力信号のブロックとの間には、下記式4の関係が成り立つ。
畳み込みの関係から、M=M-M+1となる。上記式4を、
と書く。
【0007】
上記式5において、Hは、非正方行列であるが、Hを巡回行列になるように拡張して正方化すると、下記式6の関係が得られる。
上記式6を、
と書く。上記式7において、Hは巡回行列であるから、Hは、Discrete Fourier Transform(DFT)行列Dを用いて、下記式8のように対角化できる。
ここで、
であり、
である。したがって、
であり、式11において左からDを掛けると、
となる。ここで、D-1=D=Dを用いた。
【0008】
ある信号ブロック、すなわちベクトルにDを掛けることは、周波数領域への変換を意味する。x及びyの周波数領域表現を、それぞれX及びYとすると、
となる。これが有限インパルス応答hの周波数領域での演算であり、Hは、先述の通りhに適切な0を挿入したものの周波数領域表現である。このように、周波数領域では、有限インパルス応答hの畳み込みは、その周波数領域表現の周波数ごとの単なる乗算となる。信号の周波数領域への変換はFFTによって効率的に実現できるため、計算量が緩和される。
【0009】
周波数領域フィルタの出力Yを時間領域に変換することで、yが得られる。前述の式7において、yは、Hを巡回行列になるように拡張した際に付加された部分であり、入力信号ブロックの両端からの回り込みを含む。そこで、一般的なオーバーラップセーブ法による周波数領域フィルタでは、Yを時間領域の信号に変換したyから、yのみを残し、yが取り除かれる。出力信号ブロックは、yの分だけ入力信号ブロックよりも短くなるため、入力信号は、前後のブロックに、これに対応したオーバーラップ領域を設けてブロック化される。
【0010】
関連技術として、非特許文献1は、周波数領域フィルタの応答が適応的に制御される適応周波数領域フィルタを開示する。図8は、非特許文献1に記載される適応周波数領域フィルタの例を示す。図8に示される適応周波数領域フィルタ600において、ブロック変換部601は、時間領域入力信号を、周波数領域への変換のため、ある一定の長さのブロックの信号に変換する。すなわち、ブロック変換部601は、時間領域入力信号に対して、シリアル/ブロック変換を実施する。ブロック変換に際して、前後のブロックには、前述のオーバーラップが行われる。
【0011】
FFT602は、ブロック化された入力信号を、周波数領域の信号に変換する。周波数領域フィルタ603は、周波数ごとに、入力信号にフィルタ係数を乗算する。inverse FFT(IFFT)604は、周波数領域フィルタ603の出力信号を、周波数領域の信号から時間領域の信号に変換する。シリアル変換部605は、IFFT604で時間領域の信号に変換された、ブロック化された信号を、シリアル信号に変換する。すなわち、シリアル変換部605は、IFFT604の出力信号に対して、ブロック/シリアル変換を実施する。シリアル変換部605は、シリアル信号への変換では、IFFT604の出力信号のうち、ブロック両端の回り込みの影響を受けない領域のみを残し、他の領域は取り除く。周波数領域フィルタ603の係数は、周波数領域フィルタ603の入力信号と、シリアル変換部605の出力信号とを用いて、適応的に制御される。
【0012】
フィルタ係数の更新にLeast mean square(LMS)アルゴリズムが用いられる場合、周波数領域フィルタ603の係数は、次のように更新される。
上記式14において、αはステップサイズであり、eは、下記式15で表されるように、出力信号yと所望の状態dの差である。
適応周波数領域フィルタ600において、誤差計算部611は、上記式15で表される誤差eを計算する。周波数領域フィルタへの入力信号が2倍オーバーサンプリングで、かつ、yが2倍オーバーサンプリングの時間領域信号である場合、所望の状態dは、下記式16で表される。
所望のシンボルは、data-aided LMSの場合、既知のトレーニング信号によって定まる。0挿入部612は、上記誤差eに、yと同じ大きさの0ベクトルを連結し、(e 0)を出力する。FFT613は、ベクトル(e 0)にDFT行列Dを乗算し、誤差信号ベクトルを周波数領域の信号D(e 0)に変換する。
【0013】
複素共役計算部614は、FFT602が出力する入力周波数領域信号Xの複素共役Xを計算する。アダマール積計算部615は、入力周波数領域信号の複素共役Xと、FFT613で周波数領域の信号に変換された誤差信号ベクトルとのアダマール積を計算する。アダマール積計算部615は、アダマール積の計算結果X〇D(e 0)を出力する。
【0014】
アダマール積の計算結果は、確率的勾配降下法による、周波数領域フィルタ係数Hに対する係数更新量となる。しかしながら、前述したように、Hは(h 0)の周波数領域表現である、という制約がある。この制約が満たされないと、yからyを取り除いたとしても、yにブロックの両端からの回り込みに起因する歪みの影響が残る。
【0015】
そこで、非特許文献1に記載されるような一般的な適応周波数領域フィルタでは、IFFT616において上記係数更新量を時間領域の信号に変換し、0置換部617において、時間領域の係数更新量の一部を0に置き換える。すなわち、
を用いて、c〇(D-1(X〇D(e 0)))が計算される。FFT618は、0への置換が実施された信号を、周波数領域の信号、すなわち周波数領域の係数更新量に変換する。FFT618の出力信号は、前述の式14で表されるフィルタ係数更新式の右辺第2項に現れている。係数更新部619は、FFT618の出力にステップサイズαを乗算し、周波数領域フィルタ603のフィルタ係数を更新する。以上は入出力信号が1次元の場合の説明であるが、上記説明は、フィルタがmulti-input multi-output(MIMO)フィルタの場合に容易に拡張される。
【0016】
上記したように、一般的な適応周波数領域フィルタでは、係数更新量を時間領域に変換し、適切な領域を0に置き換え、再度周波数領域に変換し、最終的な周波数領域フィルタの係数更新量が計算される。このようにすることで、出力信号へのブロックの両端からの回り込みに起因する歪みの影響が残らないようにすることができる。これは、係数に対する制約などと呼ばれる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0017】
【非特許文献1】S. Haykin, Adaptive filter theory 4th edition, (Prentice Hall, 2002, chap. 7).
【非特許文献2】S. Randel et al., “Complexity analysis of adaptive frequency-domain equalization for MIMO-SDM transmission”, ECOC 2013, Th.2.C.4.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
しかしながら、上記制約を行うためには、係数更新量の時間領域への変換、及び再度周波数領域への変換が必要であり、係数更新のたびにIFFT及びFFTが必要となる。これは、適応周波数領域フィルタの係数更新において、無視できない計算量の増大を招く。これに関し、非特許文献2は、係数更新量に対する制約の操作を全く行わない方法を開示している。非特許文献2では、制約の操作に伴うIFFT及びFFTに起因する計算量の増大は生じない。しかしながら、非特許文献2に記載の方法では、出力信号へのブロックの両端からの回り込みによる歪みの影響がそのまま残る。このため、非特許文献2に記載の方法は、常に実施可能な方法ではない。
【0019】
本開示は、上記事情に鑑み、出力信号へのブロックの両端からの回り込みによる歪みの影響を抑えつつ、適応周波数領域フィルタの係数更新に必要な計算量を緩和することができる通信システム、受信機、等化信号処理回路、等化信号処理方法、及びプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
上記目的を達成するために、本開示は、第1の態様として、等化信号処理回路を提供する。等化信号処理回路は、オーバーラップセーブ法によってブロック化された、周波数領域の入力信号に対し、周波数ごとに係数を乗算する周波数領域フィルタと、前記周波数領域フィルタへの入力信号及び等化信号処理回路の出力信号と、前記等化信号処理回路の出力信号の所定の状態とに基づいて、前記周波数領域フィルタのフィルタ係数を適応的に更新する係数更新部と、前記周波数領域フィルタのフィルタ係数に対し、前記出力信号へのブロックの両端からの回り込みによる歪みの影響がないための制約の操作を実施する制約操作部とを含む。等化信号処理回路において、前記制約操作部が前記制約の操作を実施する頻度は、前記係数更新部が前記フィルタ係数を適応的に更新する頻度よりも低い。
【0021】
本開示は、第2の態様として、受信機を提供する。受信機は、伝送路を介して送信機から送信された信号をコヒーレント受信する検波器と、前記コヒーレント受信された入力信号に対して等化信号処理を実施する等化信号処理回路とを含む。等化信号処理回路は、オーバーラップセーブ法によってブロック化された、周波数領域の前記入力信号に対し、周波数ごとに係数を乗算する周波数領域フィルタと、前記周波数領域フィルタへの入力信号及び前記等化信号処理回路の出力信号と、前記等化信号処理回路の出力信号の所定の状態とに基づいて、前記周波数領域フィルタのフィルタ係数を適応的に更新する係数更新部と、前記周波数領域フィルタのフィルタ係数に対し、前記出力信号へのブロックの両端からの回り込みによる歪みの影響がないための制約の操作を実施する制約操作部とを含む。等化信号処理回路において、前記制約操作部が前記制約の操作を実施する頻度は、前記係数更新部が前記フィルタ係数を適応的に更新する頻度よりも低い。
【0022】
本開示は、第3の態様として、通信システムを提供する。通信システムは、伝送路を介して信号を送信する送信機と、前記送信された信号を受信する受信機とを含む。受信機は、前記送信機から送信された信号をコヒーレント受信する検波器と、前記コヒーレント受信された入力信号に対して等化信号処理を実施する等化信号処理回路とを含む。等化信号処理回路は、オーバーラップセーブ法によってブロック化された、周波数領域の前記入力信号に対し、周波数ごとに係数を乗算する周波数領域フィルタと、前記周波数領域フィルタへの入力信号及び前記等化信号処理回路の出力信号と、前記等化信号処理回路の出力信号の所定の状態とに基づいて、前記周波数領域フィルタのフィルタ係数を適応的に更新する係数更新部と、前記周波数領域フィルタのフィルタ係数に対し、前記出力信号へのブロックの両端からの回り込みによる歪みの影響がないための制約の操作を実施する制約操作部とを含む。等化信号処理回路において、前記制約操作部が前記制約の操作を実施する頻度は、前記係数更新部が前記フィルタ係数を適応的に更新する頻度よりも低い。
【0023】
本開示は、第4の態様として、等化信号処理を実施する等化信号処理方法を提供する。等化信号処理は、オーバーラップセーブ法によってブロック化された、周波数領域の入力信号に対し、周波数領域フィルタにおいて周波数ごとに係数を乗算し、前記周波数領域フィルタへの入力信号及び等化信号処理の出力信号と、前記等化信号処理の出力信号の所定の状態とに基づいて、前記周波数領域フィルタのフィルタ係数を適応的に更新し、前記フィルタ係数が適応的に更新される頻度よりも低い頻度で、前記周波数領域フィルタのフィルタ係数に対し、前記出力信号へのブロックの両端からの回り込みによる歪みの影響がないための制約の操作を実施することを含む。
【0024】
本開示は、第5の態様として、等化信号処理をプロセッサに実行させるためのプログラムを提供する。等化信号処理は、オーバーラップセーブ法によってブロック化された、周波数領域の入力信号に対し、周波数領域フィルタにおいて周波数ごとに係数を乗算し、前記周波数領域フィルタへの入力信号及び前記等化信号処理の出力信号と、前記等化信号処理の出力信号の所定の状態とに基づいて、前記周波数領域フィルタのフィルタ係数を適応的に更新し、前記フィルタ係数が適応的に更新される頻度よりも低い頻度で、前記周波数領域フィルタのフィルタ係数に対し、前記出力信号へのブロックの両端からの回り込みによる歪みの影響がないための制約の操作を実施することを含む。
【発明の効果】
【0025】
本開示に係る通信システム、受信機、等化信号処理回路、等化信号処理方法、及びプログラムは、出力信号へのブロックの両端からの回り込みによる歪みの影響を抑えつつ、適応周波数領域フィルタの係数更新に必要な計算量を緩和することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】本開示に係る通信システムの構成例を概略的に示すブロック図。
図2】本開示に係る受信機の概略的な構成例を示すブロック図。
図3】本開示の一実施形態に係る通信システムを示すブロック図。
図4】等化部におけるデジタル信号処理の例を示すブロック図。
図5】偏波分離/キャリア位相補償の構成例を示すブロック図。
図6】周波数領域フィルタのフィルタ係数に対して制約の操作を行った場合のシミュレーション結果を示すコンステレーション図。
図7】係数更新量に対して制約の操作を行った場合のシミュレーション結果を示すコンステレーション図。
図8】非特許文献1に記載される適応周波数領域フィルタの例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本開示の実施の形態の説明に先立って、本開示の概要を説明する。図1は、本開示に係る通信システムの構成例を概略的に示す。通信システム10は、送信機11、及び受信機15を有する。送信機11と受信機15とは、伝送路13を介して相互に接続される。送信機11は、伝送路13を介して信号を送信する。受信機15は、送信機11から送信された信号を、伝送路13を介して受信する。
【0028】
図2は、受信機15の概略的な構成例を示す。受信機15は、検波器21、及び等化信号処理回路22を有する。検波器21は、送信機11から送信された信号をコヒーレント受信する。等化信号処理回路22には、検波器21でコヒーレント受信された信号が入力信号として入力される。等化信号処理回路22は、入力信号に対して等化信号処理を実施する。
【0029】
等化信号処理回路22は、周波数領域フィルタ23、係数更新部24、及び制約操作部25を有する。周波数領域フィルタ23には、オーバーラップセーブ法によってブロック化された、周波数領域の入力信号が入力される。周波数領域フィルタ23は、周波数領域の入力信号に対し、周波数ごとに係数を乗算する。係数更新部24は、周波数領域フィルタ23への入力信号及び等化信号処理回路22の出力信号と、等化信号処理回路22の出力信号の所定の状態とに基づいて、周波数領域フィルタ23のフィルタ係数を適応的に更新する。
【0030】
制約操作部25は、周波数領域フィルタ23のフィルタ係数に対し、出力信号へのブロックの両端からの回り込みによる歪みの影響がないための制約の操作を実施する。例えば、制約操作部25は、周波数領域フィルタ23のフィルタ係数を時間領域のフィルタ係数に変換し、変換されたフィルタ係数に対し、オーバーラップセーブ法によって除去されない入力信号のブロック両端における回り込みをもたらす領域を0へと置換する。制約操作部25は、0への置換が実施された時間領域のフィルタ係数を周波数領域のフィルタ係数に変換し、変換した周波数領域のフィルタ係数を周波数領域フィルタ23に設定する。等化信号処理回路22において、制約操作部25が制約の操作を実施する頻度は、係数更新部24が周波数領域フィルタ23のフィルタ係数を適応的に更新する頻度よりも低い。
【0031】
本開示では、制約操作部25は、出力信号へのブロックの両端からの回り込みによる歪みの影響がないための制約の操作を、周波数領域フィルタ23のフィルタ係数に対して実施する。制約操作部25は、係数更新部24が周波数領域フィルタ23のフィルタ係数を適応的に更新する頻度よりも低い頻度で、制約の操作を実施する。このようにすることで、出力信号へのブロックの両端からの回り込みによる歪みの影響を抑えつつ、フィルタ係数の係数更新量に対して制約の操作を実施する場合に比べて、周波数領域フィルタ23の係数更新に必要な計算量を緩和することができる。
【0032】
なお、本開示において、等化信号処理回路22は、適応的に係数が制御される周波数領域フィルタ23に加えて、他のフィルタを含んでいてもよい。例えば、等化信号処理回路22は、周波数領域フィルタ23の前段に、例えば波長分散補償フィルタや整合フィルタなどの、静的係数の等化フィルタを有していてもよい。
【0033】
以下、図面を参照しつつ、本開示の実施の形態を詳細に説明する。図3は、本開示の一実施形態に係る通信システムを示す。本実施形態において、通信システムは、偏波多重quadrature amplitude modulation(QAM)方式が採用され、コヒーレント受信を行う光ファイバ通信システムであることを想定する。光ファイバ通信システム100は、光送信機110、伝送路130、及び光受信機150を有する。光ファイバ通信システム100は、例えば光海底ケーブルシステムを構成する。光ファイバ通信システム100は、図1に示される通信システム10に対応する。光送信機110は、図1に示される送信機11に対応する。伝送路130は、図1に示される伝送路13に対応する。光受信機150は、図1に示される受信機15に対応する。
【0034】
光送信機110は、送信データを、偏波多重光信号に変換する。光送信機110は、符号化部111、予等化部112、DAC(Digital analog converter)113、光変調器114、及びLD(Laser diode)115を有する。符号化部111は、送信データを符号化し、光変調のための信号系列を生成する。偏波多重QAM方式の場合、符号化部111は、X偏波(第1の偏波)及びY偏波(第2の偏波)のそれぞれのin-phase(I)成分、及びquadrature(Q)成分の計4系列の信号を生成する。なお、図3では、図面簡略化のため、符号化された4系列の信号は、1つの実線として示されている。以下、図3に示される1つの実線は、物理的実体として、所定数の信号系列をまとめて表し得る。
【0035】
予等化部112は、符号化された4系列の信号に対し、光送信機内のデバイスの既知の歪みなどをあらかじめ補償する予等化を実施する。DAC113は、予等化が実施された4系列の信号を、それぞれアナログ電気信号に変換する。LD115は、CW(Continuous wave)光を出力する。光変調器114は、LD115から出力されたCW光を、DAC113から出力される4系列の信号に応じて変調し、偏波多重QAMの光信号を生成する。光変調器114が生成した光信号、すなわち偏波多重光信号は、伝送路130に出力される。
【0036】
伝送路130は、光送信機110から出力された偏波多重光信号を光受信機150に伝送する。伝送路130は、光ファイバ132、及び光増幅器133を有する。光ファイバ132は、光送信機110から送信された光信号を導波する。光増幅器133は、光信号を増幅し、光ファイバ132における伝搬損失を補償する。光増幅器は133、例えば、エルビウム添加ファイバ増幅器(EDFA:erbium doped fiber amplifier)として構成される。伝送路130は、複数の光ファイバ132、及び複数の光増幅器133を含み得る。
【0037】
光受信機150は、伝送路130から光信号を受信する。光受信機150は、LD151、コヒーレント受信機152、ADC(Analog digital converter)153、等化部154、及び復号部155を有する。光受信機150において、等化部(等化器)154、及び復号部(復号器)155など回路は、例えばdigital signal processor(DSP)などのデバイスを用いて構成され得る。
【0038】
LD151は、ローカルオシレータ光となるCW光を出力する。本実施形態において、コヒーレント受信機152は、偏波ダイバーシティ型コヒーレント受信機として構成される。コヒーレント受信機152は、LD151から出力されるCW光を用いて、伝送路130を伝送された光信号に対してコヒーレント検波を実施する。コヒーレント受信機152は、コヒーレント検波されたX偏波及びY偏波のI成分及びQ成分に相当する4系列の受信信号(電気信号)を出力する。コヒーレント受信機152は、図2に示される検波器21に対応する。
【0039】
ADC153は、コヒーレント受信機152から出力される受信信号をサンプリングし、受信信号をデジタル領域の信号に変換する。等化部154は、ADC153でサンプリングされた4系列の受信信号に対して受信側等化信号処理を行う。等化部154は、受信信号に対して等化信号処理を行うことで、光ファイバ通信システムにおける各種の歪みを補償する。復号部155は、等化部154で等化信号処理が実施された信号に対して復号を行い、送信されたデータを復元する。復号部155は、復元したデータを、図示しない他の回路に出力する。
【0040】
図4は、等化部154におけるデジタル信号処理の例を示す。等化部154は、波長分散補償161、及び偏波分離/キャリア位相補償162を有する。等化部154は、任意のデジタル信号処理回路として構成され得る。等化部154には、サンプリングされた4系列の受信信号を偏波ごとに複素フェーザ表示へと変換した2系列の複素信号が入力される。波長分散補償161は、偏波ごとに波長分散補償を行う。波長分散補償161は、フィルタ係数が光伝送路で蓄積した波長分散を補償するように決められた、固定的又は準静的なフィルタを含む。
【0041】
偏波分離/キャリア位相補償162には、波長分散補償161にて波長分散補償が行われた、各偏波に対応する2系列の複素信号が入力される。偏波分離/キャリア位相補償162は、入力される2系列の複素信号に対して、偏波分離とキャリア位相補償を行う。光伝送路で生じる偏波状態の変化は、光ファイバへの微小な圧力や温度変化に起因して時間的に変動する。このため、偏波状態の変化を補償するためのフィルタは、適応的に制御される必要がある。本実施形態に係る等化信号処理回路は、偏波分離/キャリア位相補償162に使用される。なお、本実施形態に説明する方法は、Widely linearフィルタや、Volterraフィルタに代表される非線形フィルタを用いて、光送信機110および光受信機150内で生じた線形・非線形歪みを適応等化する場合にも拡張して適用され得る。
【0042】
図5は、偏波分離/キャリア位相補償162の構成例を示す。偏波分離/キャリア位相補償162は、ブロック変換部181、FFT182、周波数領域フィルタ183、IFFT184、シリアル変換部185、係数更新量算出部190、係数更新部196、及び制約操作部200を有する。偏波分離/キャリア位相補償162は、図2に示される等化信号処理回路22に対応する。例えば、等化信号処理回路である偏波分離/キャリア位相補償162は、1以上のプロセッサ及び1以上のメモリを含む回路として構成されてもよい。その場合、偏波分離/キャリア位相補償162内の各部の機能の少なくとも一部は、プロセッサがメモリに格納されたプログラムを読み出して実行することで、実現され得る。偏波分離/キャリア位相補償162の動作は、等化信号処理方法とも呼ばれる。
【0043】
なお、図5において、偏波分離/キャリア位相補償162における補償は、2×2の適応MIMOフィルタを用いて実施されるが、説明簡略化のため、図5は入出力が1系列の複素信号である場合の例を説明する。偏波分離/キャリア位相補償162に入力される信号は、例えば、2倍オーバーサンプリングの複素信号系列である。以下に説明する動作は、適応MIMOフィルタに容易に拡張できる。
【0044】
ブロック変換部181は、時間領域の入力信号を、周波数領域への変換のため、ブロック間に一定のオーバーラップを設けつつシリアル/ブロック変換する。オーバーラップ率は、例えば50%に設定され得る。FFT182は、周波数領域変換部であり、ブロック化された入力信号を周波数領域の信号に変換する。周波数領域フィルタ183は、周波数領域の入力信号に対してフィルタ処理を実施する。フィルタ処理において、周波数領域フィルタ183は、入力信号に対し、周波数ごとにフィルタ係数を乗算する。周波数領域フィルタ183は、図2に示される周波数領域フィルタ23に対応する。
【0045】
IFFT184は、時間領域変換部であり、周波数領域フィルタ183から出力される周波数領域信号を、時間領域のブロック信号に変換する。シリアル変換部185は、IFFT184で変換された時間領域のブロック信号を、時間領域のシリアル信号に変換する。シリアル変換部185は、シリアル信号への変換では、時間領域のブロック信号において、ブロック両端の回り込みの影響を受けない領域のみを残し、他は取り除く。
【0046】
なお、図5では省略されているが、等化信号処理回路は、シリアル変換が行われた時間領域の信号に対して、キャリア位相補償、及び周波数オフセット補償を実施する1以上のフィルタを更に有していてもよい。また、等化信号処理回路は、時間領域の出力信号に対して、1倍オーバーサンプリングへのダウンサンプリングを行う機能部を有していてもよい。
【0047】
周波数領域フィルタ183のフィルタ係数は、フィルタの入出力信号を用いて、適応的に制御される。係数更新量算出部190は、入出力信号、及び出力信号に対する所望の信号を用いて、周波数領域フィルタ183のフィルタ係数に対する係数更新量を算出する。フィルタ係数を制御する基準に応じて、Constant modulus algorithm(CMA)やdata-aided LMSなど、係数更新量を算出するためのいくつかのアルゴリズムが知られている。ここでは、data-aided LMSが用いられる例を説明する。周波数領域フィルタへの入力信号は2倍オーバーサンプリングの信号であり、出力信号yも2倍オーバーサンプリングの時間領域信号であるとする。
【0048】
係数更新量算出部190は、誤差計算部191、0挿入部192、FFT193、複素共役計算部194、及びアダマール積計算部195を有する。誤差計算部191は、出力信号と所望の状態の差である誤差を計算する。周波数領域フィルタへの入力信号が2倍オーバーサンプリングで、かつ、yが2倍オーバーサンプリングの時間領域信号である場合、所望の状態dは、下記式18で表される。
誤差計算部191は、下記式19により、出力信号yと所望の状態dの差である誤差eを計算する。
0挿入部192は、上記誤差eに、yと同じ大きさの0ベクトルを連結し、(e 0)を出力する。FFT193は、ベクトル(e 0)にDFT行列Dを乗算し、誤差信号ベクトルを周波数領域の信号D(e 0)に変換する。
【0049】
複素共役計算部194は、FFT182が出力する入力周波数領域信号Xの複素共役Xを計算する。アダマール積計算部195は、入力周波数領域信号の複素共役Xと、FFT193で周波数領域の信号に変換された誤差信号ベクトルとのアダマール積を計算する。アダマール積計算部195は、アダマール積の計算結果X〇D(e 0)を、係数更新部196に出力する。アダマール積の計算結果は、確率的勾配降下法による、周波数領域フィルタ係数Hに対する係数更新量となる。係数更新量の計算は、図8に示される適応周波数領域フィルタ600における係数更新量の計算と同様でよい。
【0050】
係数更新部196は、係数更新量に所定にステップサイズαを乗算し、周波数領域フィルタ183のフィルタ係数を更新する。周波数領域フィルタ183の係数更新は、下記式20で表される。
係数更新量算出部190、及び係数更新部196は、図2に示される係数更新部24に対応する。
【0051】
ここで、出力信号へのブロックの両端からの回り込みによる歪みの影響がないための制約は、Hが(h 0)の周波数領域表現となっていることである。このような事情に鑑み、本実施形態では、係数更新量に対してではなく、係数そのものに対して制約を課す操作を行う。係数更新時に毎回係数更新量に対して制約を課すことでも、Hは(h 0)の周波数領域表現である、つまり、周波数領域フィルタ係数の時間領域表現の適切な一部が0である、という制約を満たすことができる。しかしながら、周波数領域フィルタのフィルタ係数そのものに時間領域表現の適切な一部が0であるという制約を課しても、上記と同じことが実現できる。
【0052】
係数更新量に対する制約の操作は、高頻度で、例えば係数更新のたびに実施される。これは、毎回の係数更新量は小さいため、制約の操作を低頻度に行っても、あまり有効ではないためである。制約の操作が低頻度に実施される場合、係数更新量に対しての制約が満たされない影響が蓄積され続ける。一方、フィルタ係数Hそのものへの制約は、これを低頻度に行っても、制約を課すごとに、周波数領域フィルタ係数の時間領域表現の適切な一部が0である、という状況となる。したがって、低頻度に制約を課すことが有効となる。また、周波数領域フィルタがMIMOフィルタの場合、毎回の係数更新時にMIMOフィルタの各々のフィルタの係数更新量に対して同時に制約を施す代わりに、この構成では、MIMOフィルタの各々のフィルタの係数に対して、異なるタイミングで順番に制約を課すこともできる。これにより、MIMOフィルタの各々のフィルタに対する制約を同時に扱う必要がなくなるため、計算量が緩和される。
【0053】
本実施形態において、制約操作部200は、周波数領域フィルタ183のフィルタ係数に対し、出力信号へのブロックの両端からの回り込みによる歪みの影響がないための制約の操作を実施する。制約操作部200は、IFFT201、0置換部202、及びFFT203を有する。制約操作部200は、図2に示される制約操作部25に対応する。
【0054】
IFFT201は、周波数領域フィルタ183のフィルタ係数Hを時間領域の係数に変換する。0置換部202は、時間領域に変換された係数の適切な領域、すなわち、オーバーラップセーブ法によって除去されない入力信号のブロック両端における回り込みをもたらす領域を0に置換する。FFT203は、適切な領域が0に置換された時間領域の係数を、周波数領域のフィルタ係数に変換する。周波数領域フィルタ183は、FFT203が変換したフィルタ係数を用いて、フィルタ処理を実施する。この制約の操作は、前述の式17に示されるcを用いて、下記式21で表すことができる。
【0055】
本実施形態において、周波数領域フィルタ183のフィルタ係数の更新は、前述の式20を用いて、入力信号の第1の所定数のブロックごとに実施される。これに対し、フィルタ係数に対する制約の操作は、入力信号の第2の所定数のブロックごとに実施される。ここで、第2の所定数は、第1の所定数よりも大きい。例えば、第1の所定数は1であり、周波数領域フィルタ183のフィルタ係数の更新は、ブロック変換部181で変換されたブロックごとに実施される。一方、第2の所定数は2以上であり、フィルタ係数に対する制約の操作は、複数のブロックごとに実施される。
【0056】
本実施形態において、フィルタ係数に対する制約の操作は、フィルタ係数の更新よりも低頻度で実施される。フィルタ係数に対する制約の操作を、フィルタ係数の更新の頻度よりも低頻度で実施する場合、制約の操作に伴うIFFT及びFFTの回数を抑制することができ、従って、周波数領域フィルタ183の係数更新に必要な計算量が緩和される。また、本実施形態では、副次的に、通信路の環境に合わせて、制約を課す頻度を調整することも可能となる。
【0057】
本発明者は、本実施形態に係る受信側適応等化信号処理方式の動作を、シミュレーションによって検証した。シミュレーションでは、32Gbaud偏波多重Quadrature Phase Shift Keying(QPSK)信号に対し、シングルモードファイバ(SMF:Single Mode Fiber)6000km伝送をシミュレートした。シミュレーションにおいて、QPSK信号に対し、SMF6000km相当の波長分散とランダムな偏波回転とを与えた。また、Optical signal-to-noise ratio(OSNR)を30dB/0.1nmに設定した。受信機において、QPSK信号をコヒーレント受信し、2倍のオーバーサンプリングでサンプリングした。送信側及び受信側の光源の線幅を100kHzとし、送信光源とローカルオシレータとなる受信光源との間に、100kHzの周波数オフセットを与えた。
【0058】
2倍のオーバーサンプリングでサンプリングした信号に対し、偏波ごとに波長分散補償を行い、適応周波数領域2×2MIMOフィルタを用いて偏波分離とキャリア位相補償及び周波数オフセット補償とを行った。入力信号ブロックのサイズを256とし、オーバーラップサイズを128とした。適応係数制御には、初めにdata-aided LMSアルゴリズムを使用し、フィルタ係数が概ね収束した後、使用するアルゴリズムをdecision-directed LMSアルゴリズムに切り替えた。適応周波数領域フィルタでは、周波数領域フィルタの時間領域に変換された出力信号に対し、キャリア位相補償及び周波数オフセット補償を行う構成を使用した。また、キャリア位相補償及び周波数オフセット補償にはphase-locked loop(PLL)方式を用いた。
【0059】
図6は、上述のシミュレーションによって得られた、周波数領域フィルタのフィルタ係数に対して制約の操作を行った場合の、適応周波数領域フィルタ出力信号のコンステレーションである。本発明者は、適応係数制御に使用されるアルゴリズムがdecision-directed LMSアルゴリズムに切り替えられた後、十分にフィルタ係数を収束させた後の、適応周波数領域フィルタ出力信号のコンステレーションを評価した。
【0060】
また、本発明者は、比較例として、係数更新量に対して、ブロックごとに制約の操作を実施する場合についても、上記条件でシミュレーションを実施した。図7は、シミュレーションによって得られた、係数更新量に対して制約の操作を行った場合の、適応周波数領域フィルタ出力信号のコンステレーションである。比較例においては、ブロックごとに制約を課した係数の更新が行われる。これに対し、周波数領域フィルタのフィルタ係数に対する制約の操作は、10ブロックに1度の頻度で行った。なお、図6及び図7には、X偏波の信号のコンステレーションが示されている。
【0061】
図6図7とを比較すると、どちらにおいても、良好なQPSK信号のコンステレーションが得られていることがわかる。シミュレーションの結果から、制約の操作を実施する頻度を1/10としても、ブロックごとに制約を課した係数更新を行う場合と比べて、遜色ない特性が得られることが確認できた。
【0062】
以上、本開示の実施形態を詳細に説明したが、本開示は、上記した実施形態に限定されるものではなく、本開示の趣旨を逸脱しない範囲で上記実施形態に対して変更や修正を加えたものも、本開示に含まれる。
【0063】
例えば、上記の実施形態の一部又は全部は、以下の付記のようにも記載され得るが、以下には限られない。
【0064】
[付記1]
オーバーラップセーブ法によってブロック化された、周波数領域の入力信号に対し、周波数ごとに係数を乗算する周波数領域フィルタと、
前記周波数領域フィルタへの入力信号及び等化信号処理回路の出力信号と、前記等化信号処理回路の出力信号の所定の状態とに基づいて、前記周波数領域フィルタのフィルタ係数を適応的に更新する係数更新部と、
前記周波数領域フィルタのフィルタ係数に対し、前記出力信号へのブロックの両端からの回り込みによる歪みの影響がないための制約の操作を実施する制約操作部とを備え、
前記制約操作部が前記制約の操作を実施する頻度が、前記係数更新部が前記フィルタ係数を適応的に更新する頻度よりも低い、等化信号処理回路。
【0065】
[付記2]
前記制約操作部は、前記周波数領域フィルタのフィルタ係数を時間領域のフィルタ係数に変換し、該時間領域に変換されたフィルタ係数に対し、オーバーラップセーブ法によって除去されない入力信号のブロック両端における回り込みをもたらす領域を0へと置換し、0への置換が実施された時間領域のフィルタ係数を周波数領域のフィルタ係数に変換し、該変換された周波数領域のフィルタ係数を周波数領域フィルタに設定する、付記1に記載の等化信号処理回路。
【0066】
[付記3]
前記係数更新部は、前記周波数領域フィルタへの入力信号及び前記等化信号処理回路の出力信号と、前記等化信号処理回路の出力信号の所定の状態とに基づいて、前記周波数領域フィルタの係数更新量を算出する係数更新量算出部を含む、付記1又は2に記載の等化信号処理回路。
【0067】
[付記4]
ブロック間に一定のオーバーラップを設けつつ、前記入力信号をブロック化するブロック変換部と、
前記ブロック化された入力信号を周波数領域の信号に変換し、前記周波数領域フィルタに出力する周波数領域変換部と、
前記周波数領域フィルタが出力するブロック化された周波数領域の信号を時間領域の信号に変換する時間領域変換部と、
前記時間領域変換部で時間領域の信号のうち、前記入力信号のブロック両端における回り込みをもたらさない領域を残し、前記入力信号のブロック両端における回り込みをもたらす領域を除きつつ、前記時間領域変換部で時間領域の信号に変換された信号をシリアル信号に変換するシリアル変換部とを備える、付記1から3何れか1項に記載の等化信号処理回路。
【0068】
[付記5]
前記係数更新部は、前記入力信号の第1の所定数のブロックごとに、前記周波数領域フィルタのフィルタ係数を更新し、
前記制約操作部は、前記入力信号の第2の所定数のブロックごとに、前記制約の操作を実施し、
前記第2の所定数は、前記第1の所定数よりも大きい、付記1から4何れか1項に記載の等化信号処理回路。
【0069】
[付記6]
前記入力信号は、伝送路を介して伝送された信号を受信機がコヒーレント受信した信号である、付記1から5何れか1項に記載の等化信号処理回路。
【0070】
[付記7]
前記入力信号は偏波多重信号であり、前記周波数領域フィルタは、前記伝送路における偏波状態の変化を補償する、付記6に記載の等化信号処理回路。
【0071】
[付記8]
前記周波数領域フィルタは、multi-input multi-output(MIMO)フィルタである、付記1から7何れか1項に記載の等化信号処理回路。
【0072】
[付記9]
伝送路を介して送信機から送信された信号をコヒーレント受信する検波器と、
前記コヒーレント受信された入力信号に対して等化信号処理を実施する等化信号処理回路とを備え、
前記等化信号処理回路は、
オーバーラップセーブ法によってブロック化された、周波数領域の前記入力信号に対し、周波数ごとに係数を乗算する周波数領域フィルタと、
前記周波数領域フィルタへの入力信号及び前記等化信号処理回路の出力信号と、前記等化信号処理回路の出力信号の所定の状態とに基づいて、前記周波数領域フィルタのフィルタ係数を適応的に更新する係数更新部と、
前記周波数領域フィルタのフィルタ係数に対し、前記出力信号へのブロックの両端からの回り込みによる歪みの影響がないための制約の操作を実施する制約操作部とを有し、
前記制約操作部が前記制約の操作を実施する頻度が、前記係数更新部が前記フィルタ係数を適応的に更新する頻度よりも低い、受信機。
【0073】
[付記10]
前記制約操作部は、前記周波数領域フィルタのフィルタ係数を時間領域のフィルタ係数に変換し、該時間領域に変換されたフィルタ係数に対し、オーバーラップセーブ法によって除去されない入力信号のブロック両端における回り込みをもたらす領域を0へと置換し、0への置換が実施された時間領域のフィルタ係数を周波数領域のフィルタ係数に変換し、該変換された周波数領域のフィルタ係数を周波数領域フィルタに設定する、付記9に記載の受信機。
【0074】
[付記11]
前記係数更新部は、前記周波数領域フィルタへの入力信号及び前記等化信号処理回路の出力信号と、前記等化信号処理回路の出力信号の所定の状態とに基づいて、前記周波数領域フィルタの係数更新量を算出する係数更新量算出部を含む、付記9又は10に記載の受信機。
【0075】
[付記12]
伝送路を介して信号を送信する送信機と、
前記送信された信号を受信する受信機とを備え、
前記受信機は、
前記送信機から送信された信号をコヒーレント受信する検波器と、
前記コヒーレント受信された入力信号に対して等化信号処理を実施する等化信号処理回路とを有し、
前記等化信号処理回路は、
オーバーラップセーブ法によってブロック化された、周波数領域の前記入力信号に対し、周波数ごとに係数を乗算する周波数領域フィルタと、
前記周波数領域フィルタへの入力信号及び前記等化信号処理回路の出力信号と、前記等化信号処理回路の出力信号の所定の状態とに基づいて、前記周波数領域フィルタのフィルタ係数を適応的に更新する係数更新部と、
前記周波数領域フィルタのフィルタ係数に対し、前記出力信号へのブロックの両端からの回り込みによる歪みの影響がないための制約の操作を実施する制約操作部とを有し、
前記制約操作部が前記制約の操作を実施する頻度が、前記係数更新部が前記フィルタ係数を適応的に更新する頻度よりも低い、通信システム。
【0076】
[付記13]
前記制約操作部は、前記周波数領域フィルタのフィルタ係数を時間領域のフィルタ係数に変換し、該時間領域に変換されたフィルタ係数に対し、オーバーラップセーブ法によって除去されない入力信号のブロック両端における回り込みをもたらす領域を0へと置換し、0への置換が実施された時間領域のフィルタ係数を周波数領域のフィルタ係数に変換し、該変換された周波数領域のフィルタ係数を周波数領域フィルタに設定する、付記12に記載の通信システム。
【0077】
[付記14]
前記係数更新部は、前記周波数領域フィルタへの入力信号及び前記等化信号処理回路の出力信号と、前記等化信号処理回路の出力信号の所定の状態とに基づいて、前記周波数領域フィルタの係数更新量を算出する係数更新量算出部を含む、付記12又は13に記載の通信システム。
【0078】
[付記15]
等化信号処理を実施する等化信号処理方法であって、
前記等化信号処理は、
オーバーラップセーブ法によってブロック化された、周波数領域の入力信号に対し、周波数領域フィルタにおいて周波数ごとに係数を乗算し、
前記周波数領域フィルタへの入力信号及び前記等化信号処理の出力信号と、前記等化信号処理の所定の状態とに基づいて、前記周波数領域フィルタのフィルタ係数を適応的に更新し、
前記フィルタ係数が適応的に更新される頻度よりも低い頻度で、前記周波数領域フィルタのフィルタ係数に対し、前記出力信号へのブロックの両端からの回り込みによる歪みの影響がないための制約の操作を実施することを有する、等化信号処理方法。
【0079】
[付記16]
等化信号処理をプロセッサに実行させるためのプログラムであって、
前記等化信号処理は、
オーバーラップセーブ法によってブロック化された、周波数領域の入力信号に対し、周波数領域フィルタにおいて周波数ごとに係数を乗算し、
前記周波数領域フィルタへの入力信号及び前記等化信号処理の出力信号と、前記等化信号処理の出力信号の所定の状態とに基づいて、前記周波数領域フィルタのフィルタ係数を適応的に更新し、
前記フィルタ係数が適応的に更新される頻度よりも低い頻度で、前記周波数領域フィルタのフィルタ係数に対し、前記出力信号へのブロックの両端からの回り込みによる歪みの影響がないための制約の操作を実施することを含む、プログラム。
【符号の説明】
【0080】
10:通信システム
11:送信機
13:伝送路
15:受信機
21:検波器
22:等化信号処理回路
23:周波数領域フィルタ
24:係数更新部
25:制約操作部
100:光ファイバ通信システム
110:光送信機
111:符号化部
112:予等化部
113:DAC
114:光変調器
115:LD
130:伝送路
132:光ファイバ
133:光増幅器
150:光受信機
151:LD
152:コヒーレント受信機
153:ADC
154:等化部
155:復号部
161:波長分散補償
162:偏波分離/キャリア位相補償
181:ブロック変換部
182:FFT
183:周波数領域フィルタ
184:IFFT
185:シリアル変換部
190:係数更新量算出部
191:誤差計算部
192:0挿入部
193:FFT
194:複素共役計算部
195:アダマール積計算部
196:係数更新部
200:制約操作部
201:IFFT
202:0置換部
203:FFT
図1
図2
図3
図4
図5
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図7
図8