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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024117863
(43)【公開日】2024-08-30
(54)【発明の名称】ダイナミックダンパー
(51)【国際特許分類】
   F16F 15/02 20060101AFI20240823BHJP
【FI】
F16F15/02 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023023921
(22)【出願日】2023-02-20
(71)【出願人】
【識別番号】000158840
【氏名又は名称】鬼怒川ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086232
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 博通
(74)【代理人】
【識別番号】100092613
【弁理士】
【氏名又は名称】富岡 潔
(74)【代理人】
【識別番号】100205682
【弁理士】
【氏名又は名称】高嶋 一彰
(72)【発明者】
【氏名】高橋 勇輝
【テーマコード(参考)】
3J048
【Fターム(参考)】
3J048AD07
3J048BB06
3J048BF02
3J048BF09
3J048CB01
3J048CB18
3J048CB22
(57)【要約】
【課題】要求仕様に応じて上下方向の共振周波数に対して左右方向の共振周波数を相対的かつ任意に調整することが可能なダイナミックダンパーを提供する。
【解決手段】ダイナミックダンパー11は、振動源に取り付けられたベースプレート12の上面12aに固定された両側壁16,17を備えた外側金具13と、外側金具の内側に配置されたマス部材14と、両側壁の両内側面とマス部材の両外側面との間に設けられた左右の各一対の4つのゴム製の弾性体19a~20bと、を備えている。4つの弾性体は、全体が正面から視てX字形状の傾斜状に形成されて、各弾性体の傾斜角度θを調整することによって振動源の上下方向の共振周波数に対して左右方向の共振周波数を相対的に調整可能とした。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
振動源に取り付けられ、左右一対の側壁と、該両側壁の長手方向の各一端部の間に設けられた端壁と、を有する金属材からなる外側部材と、該外側部材の内側に配置されたマス部材と、前記外側部材の両側壁の各内側面と前記両内側面に対向する前記マス部材の両外側面との間に設けられ、互いに上下方向の位置に一定の隙間をもって配置された上下左右の4つの弾性体と、を備え、
前記4つの弾性体は、それぞれが前記外側部材の両側壁の両内側面から前記マス部材の両外側面に向かって傾斜状に形成されていると共に、前記各弾性体の傾斜角度を調整することによって前記振動源の上下方向の共振周波数に対して左右方向の共振周波数を相対的に調整可能としたことを特徴とするダイナミックダンパー。
【請求項2】
請求項1に記載のダイナミックダンパーであって、
前記4つの弾性体の傾斜角度を、それぞれ約20°~約70°に設定して、上下方向の共振周波数に対して左右方向の共振周波数を約1.2~約1.7倍としたことを特徴とするダイナミックダンパー。
【請求項3】
請求項1に記載のダイナミックダンパーであって、
前記4つの弾性体は、正面視ほぼX字形状に傾斜状に配置されて、前記マス部材の幅方向の中心線と上下方向の中心線を中心とした上下左右の対称位置に配置されて、前記4つの弾性体の配置の中心位置と前記マス部材の重心位置を合致させたことを特徴とするダイナミックダンパー。
【請求項4】
振動源に取り付けられ、左右一対の側壁と、該両側壁の長手方向の各一端部の間に設けられた端壁と、を有する金属材からなる外側部材と、該外側部材の内側に配置されて、前記外側部材の両側壁に対向する両側片を有する金属材の内側部材と、前記内側部材の内側に配置されたマス部材と、前記外側部材の両側壁の各内側面と前記両内側面に対向する前記内側部材の両側片の両外側面との間に設けられ、互いに上下方向の位置に一定の隙間をもって配置された上下左右の4つの弾性体と、を備え、
前記4つの弾性体は、それぞれが前記外側部材の両側壁の両内側面から前記内側部材の両側片の両外側面に向かって傾斜状に形成されていると共に、前記各弾性体の傾斜角度を調整することによって前記振動源の上下方向の共振周波数に対して左右方向の共振周波数を相対的に調整可能としたことを特徴とするダイナミックダンパー。
【請求項5】
請求項4に記載のダイナミックダンパーであって、
前記4つの弾性体の傾斜角度を、それぞれ約20°~約70°に設定して、上下方向の共振周波数に対して左右方向の共振周波数を約1.2~約1.7倍としたことを特徴とするダイナミックダンパー。
【請求項6】
請求項5に記載のダイナミックダンパーであって、
前記4つの弾性体は、正面から視て菱形形状に傾斜状に配置されて、前記マス部材の幅方向の中心線と長手方向の中心線を中心とした左右対称に配置されて、前記4つの弾性体の配置の中心位置と前記マス部材の重心位置を合致させたことを特徴とするダイナミックダンパー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、自動車の車体などの振動源に取り付けられて、特定周波数の振動を減衰するダイナミックダンパーに関する。
【背景技術】
【0002】
従来のダイナミックダンパーとしては、以下の特許文献1に記載されたものが知られている。図6は従来のダイナミックダンパーを示す正面図である。
【0003】
このダイナミックダンパー1は、図6に示すように、自動車の車体のメンバーなどの振動源に取り付けられる門型のアウター金具2と、該アウター金具2に有する一対の側壁3,3と該両側壁3、3の上端部を結合する上端壁4とによって囲まれた内部に配置されたマス部材5と、マス部材5の両外側面と前記両側壁3、3の対向内面との間に加硫接着された左右一対の2つのゴム弾性体6、6と、を有している。
【0004】
また、アウター金具2は、両側壁3、3の下端部に一体に有する一対の固定用ブラケット片3a、3aに設けられた取付孔を挿通する固定用ボルト7,7によって車体を構成するメンバーなどの振動部材8に固定されている。
【0005】
なお、上端壁4の中央には、貫通孔4aが形成されていると共に、マス部材5の上面に前記貫通孔4aから上方へ突出するゴム材からなる係合突起部9が設けられており、ゴム弾性体6、6が破断してマス部材5が落下しても、アウター金具2と振動部材8との間で係合突起部9が貫通孔4aに引っ掛かってマス部材5の抜け落ちが防止されるようになっている。
【0006】
そして、このダイナミックダンパー1は、車体のメンバーなどの振動部材8の車両上下方向(図中X方向)の振動を低減するのに用いられ、ゴム弾性体6、6のばね定数とマス部材5の質量とをチューニングすることにより所望の共振周波数(Hz)に設定されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004-353826号公報(図1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に記載のダイナミックダンパー1にあっては、各ゴム弾性体6,6が、マス部材5に対して左右水平方向(図中Y方向)へ直線状に配置されていることから、各ゴム弾性体6,6とマス部材5の質量をチューニングして上下垂直方向(X方向)の所望の共振周波数に合わせると、Y方向の共振周波数はX方向の共振周波数に対応して一定の共振周波数に固定的に設定されてしまう。つまり、Y方向の共振周波数は、X方向の共振周波数に依存して決定されてしまいX方向とY方向の相対的な共振周波数の設定ができない。
【0009】
換言すれば、従来のゴム弾性体6,6は、マス部材5に対してY方向に直線状に配置されていることから、X方向に純せん断力が作用する一方、Y方向に直線的な純圧縮力が作用して、Y方向の共振周波数がX方向の共振周波数に対して例えば約2~2.5倍と大きくなってしまうおそれがある。この結果、Y方向の共振周波数を低く設定することができなくなると共に、チューニング領域も小さくなってしまうおそれがある。
【0010】
本発明は、前記従来のダイナミックダンパーの技術的課題に鑑みて案出されたもので、外側部材とマス部材との間に設けられた左右各一対の弾性体の傾斜角度を調整することによって、上下方向の共振周波数に対して左右方向の共振周波数を相対的かつ任意に調整することが可能なダイナミックダンパーを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本願請求項1に係る発明は、振動源に取り付けられ、左右一対の側壁と、該両側壁の長手方向の各一端部の間に設けられた端壁と、を有する金属材からなる外側部材と、該外側部材の内側に配置されたマス部材と、前記外側部材の両側壁の各内側面と前記両内側面に対向する前記マス部材の両外側面との間に設けられ、互いに上下方向の位置に一定の隙間をもって配置された上下左右の4つの弾性体と、を備え、
前記4つの弾性体は、それぞれが前記外側部材の両側壁の両内側面から前記マス部材の両外側面に向かって傾斜状に形成されていると共に、前記各弾性体の傾斜角度を調整することによって前記振動源の上下方向の共振周波数に対して左右方向の共振周波数を相対的に調整可能としたことを特徴としている。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、各弾性体の傾斜角度を調整することによって、上下方向の共振周波数に対して左右方向の共振周波数を相対的かつ任意に調整することが可能になることから、ダイナミックダンパーの要求仕様に応じて所望の上下左右方向の共振周波数に対して減衰することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明に係るダイナミックダンパーの第1実施形態を示す平面図である。
図2図1のA-A線断面図である。
図3】第1実施形態におけるダイナミックダンパーのY/X共振周波数比と各弾性体の傾斜角度の関係を示す特性図である。
図4】本発明のダイナミックダンパーの第2実施形態を示す平面図である。
図5】同第2実施形態の正面図である。
図6】従来のダイナミックダンパーを示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に係るダイナミックダンパーの各実施形態を図面に基づいて説明する。本実施形態では、ダイナミックダンパーを自動車のフロントサスペンションメンバーに取り付けたものを示している。図1は本発明に係るダイナミックダンパーの第1実施形態を示す平面図、図2図1のA-A線断面図である。
【0015】
自動車の振動源である図外のフロントサスペンションメンバーは、周知のように、走行時の車体の捩れを抑え、路面からの衝撃を緩和し、乗り心地、操縦安定性を向上させるもので、剛性の高い溶接構造用熱間圧延鋼板などによって成形された四角形のフレームによって構成されている。このフロントサスペンションメンバーは、フロントサスペンションの他に、エンジンやステアリングなどを支持するようになっている。
【0016】
ダイナミックダンパー11は、図2に示すように、上下方向(矢印X方向)が車体上下方向と、左右方向(矢印Y方向)が車体幅方向にほぼ一致するように配置されている。
【0017】
そして、このダイナミックダンパー11は、図1及び図2に示すように、振動源(振動部材)であるフロントサスペンションメンバーのフレームに図外の2本のボルトによって固定されるベースプレート12と、このベースプレート12の上面12aに溶接によって固定される門型の外側部材である外側金具13と、この外側金具13の内側に配置された質量部材であるマス部材14と、外側金具13とマス部材14との間に配置された上下左右各一対の合計4つのゴム製の弾性体19a、19b、20a、20bと、を備えている。
【0018】
ベースプレート12は、金属板によって図中横方向に長い矩形状に形成されて、下面がフロントサスペンションメンバーのフレームの所定の上面に当接配置されると共に、長手方向の両端部に前記2本のボルトが挿入される2つのボルト挿入孔12b、12bが上下方向に沿って貫通形成されている。
【0019】
外側金具13は、細長い金属板をコ字形に折り曲げて形成されており、矩形状の両側壁16、17と、該両側壁16、17の長手方向の各上端縁の間に設けられた上端壁18と、を有している。前記両側壁16、17は、垂直な平板状に形成されて、それぞれの内側面16a、17aが対向配置されていると共に、各下端縁16b、17bがベースプレート12の上面12aに例えばアーク溶接法などによって溶接固定されている。この溶接部21、22は、各下端縁16b、17bのそれぞれの内側に位置している。
【0020】
上端壁18は、水平な平板状に形成されて、長手方向の中央位置には後述する落下防止機構23の一部を構成する保持孔24が上下方向に貫通形成されている。
【0021】
マス部材14は、図2に示すように、所定質量のほぼ立方体形状に形成されて、両外側面14a、14bが外側金具13の両側壁16,17の各内側面16a、17aに左右方向から対向配置されていると共に、下面14cがベースプレート12の上面12aから所定距離Sだけ離間して配置されている。また、マス部材14の上面14dは、後述する落下防止機構23の保持ボルト25を介して上端壁18の下面から所定距離だけ離間して配置されている。また、マス部材14は、上面14dの中央位置には、保持ボルト25の軸部25bの雄ねじ部25cが螺着する雌ねじ孔14eが上下方向に沿って形成されている。
【0022】
前記4つの弾性体19a~20bは、軸方向の各外端部が前記両側壁16,17の対向する内側面16a、17aに加硫接着されていると共に、軸方向の各内端部がマス部材14の両外側面14a、14bに加硫接着されている。
【0023】
そして、この各弾性体19a~20bは、外側金具13の両側壁16,17の両内側面16a、17aからマス部材14の両外側面14a、14bに向かって傾斜状に形成されていると共に、マス部材14の幅方向の中心線P及びマス部材14の上下方向の中心線P1を中心とした上下左右の対称位置に配置されている。すなわち、図2中、左側の上下一対の弾性体19a、19bと図中右側の上下一対の弾性体20a、20bは、それぞれの軸方向の各外端部から各内端部方向へマス部材14の重心位置GP方向に向かって傾斜状に形成されて、全体が正面から視てX字形状に配置されていると共に、マス部材14の幅方向の中心線Pと上下方向の中心線P1を中心とした上下左右の対称位置に配置されている。
【0024】
したがって、各弾性体19a~20bは、図2に示すように、マス部材14の上下左右の中心線P、P1の交点上にある4つの弾性体19a~20bの配置の中心位置OPがマス部材14の重心位置GPに合致するように配置されている。なお、ここで「合致させる」とは、重心位置GPと中心位置OPの位置が完全に合致する場合と完全ではないがこれに近い場合も含む概念である。
【0025】
さらに、各弾性体19a~20bは、水平方向を基準としたそれぞれの傾斜角度θが約20°~70°の範囲内に設定されている。この各弾性体19a~20bの傾斜角度θは、ダイナミックダンパー11の要求仕様の上下方向(X方向)と左右方向(Y方向)の共振周波数(Hz)の比率に合わせて決定される。
【0026】
このように、本発明において、各弾性体19a~20bの傾斜角度θを約20°~70°に設定したのは、本願発明者によって図3に示したY/X共振周波比率と前記傾斜角度θの関係について解析実験を行ったことによって求められたものである。この解析実験では、図3に示すように、弾性体19a~20bの傾斜角度θ(°)を横線とし、左右のY方向/上下のX方向の共振周波数比率を縦線として示している。
【0027】
この解析実験によれば、各弾性体19a~20bの傾斜角度θによってY/X共振周波数比率が変化することが判明し、傾斜角度θを0°とし、つまり前記公報記載の従来技術と同じく水平方向へ直線状に設定した場合は、Y/X共振周波数比率が1.80倍以上の2.0~2.5倍の大きなものとなり、また、傾斜角度θを漸次大きくして例えば約80°以上にまで大きく設定した場合は、Y/X共振周波数比率が約1.00倍以下になり、十分に小さくなることが判明した。
【0028】
そして、車体のフロントサスペンションメンバーにおけるダイナミックダンパー11の通常の要求仕様においては、Y/X共振周波数比率は、1.70~1.20倍であるから、本発明では、Y/X共振周波数比率を満足する傾斜角度θを20°~70°の間に設定した。本実施形態では、要求仕様のY/X共振周波数比率をさらに狭めた約1.55~1.40倍とするために、傾斜角度θを約35°~50°に設定したものであり、ダイナミックダンパー11の要求仕様に応じて任意に調整することができる。
【0029】
前記上端壁18とマス部材14との間には、マス部材14の落下防止機構23が設けられている。この落下防止機構23は、上端壁18のほぼ中央に上下方向へ貫通形成された保持孔24と、この保持孔24の孔縁で保持可能な落下防止部材である保持ボルト25と、を有している。
【0030】
保持孔24は、所定の内径dを有し、保持ボルト25の後述する頭部25aの外径d1よりも小さく形成されている。
【0031】
保持ボルト25は、ほぼ六角状の頭部25aと、該頭部25aの下部に一体に設けられて、前記保持孔24に挿入されつつマス部材14の上端部に固定された軸部25bと、を有している。頭部25aは、保持孔24よりも上方に配置され、外径d1が前述のように保持孔24の内径dよりも大きく形成されて、マス部材14が不用意に落下した際に、下端面の外周部が保持孔24の孔縁に引っ掛かるようになっている。軸部25bは、頭部25a側の大径部が保持孔24内に挿入配置され、大径部よりも下部に有する段差小径状の先端部の外周に雄ねじ部25cが形成されている。
【0032】
また、前記保持ボルト25の雄ねじ部25cが、マス部材14の雌ねじ孔14eに螺着固定している状態では、頭部25aの下面と上端壁18の上面との間の距離S1が、ベースプレート12の上面とマス部材14の下面との間の距離Sよりも小さく設定されている。
〔本実施形態におけるダイナミックダンパーの作用効果〕
以上の構成を有する本実施形態のダイナミックダンパー11によれば、各弾性体19a~20bの傾斜角度θを調整することによって、上下方向(X方向)の共振周波数に対して左右方向(Y方向)の共振周波数に相対的かつ任意に調整することが可能になることから、ダイナミックダンパー11の要求仕様に応じた上下左右方向の共振周波数に対して減衰することが可能になる。
【0033】
本実施形態では、各弾性体19a~20bの傾斜角度θを、例えば、約35°~50°の範囲内に調整することによって、要求仕様のY/X共振周波数比率をさらに狭めた約1.55~1.40倍にすることが可能になった。
【0034】
このように、特に、X方向の共振周波数に対してY方向の共振周波数を低くすることが可能になると共に、チューニング領域を広げることができる。この結果、ダイナミックダンパー11の取り付け対象や取り付け方向などに応じた優れた振動減衰効果を得ることができる。
【0035】
また、この実施形態によれば、4つの弾性体19a~20bの配置の中心位置OPとマス部材14の重心位置GPを合致させることによって、共振によるマス部材14の重心位置GPと共に行う並進運動に対して重心位置GPまわりの回転運動の影響を受けなくなる。このため、マス部材14の質量効果、つまり質量による減衰効果の減少を抑制することができる。この結果、マス部材14による上下左右方向の共振抑制効果が高くなる。
【0036】
換言すれば、4つの弾性体19a~20bの配置の中心位置OPが、マス部材14の重心位置GPに対して例えば上下方向にずれた場合には、並進運動に伴って回転運動が発生することからマス部材14による減衰効果が減少してしまうおそれがある。しかし、本実施形態では、各弾性体19a~20bの配置の中心位置OPを、マス部材14の重心位置GPと一致させたことによって、前記回転運動の発生を抑制することができるので、マス部材14による共振抑制効果が高くなる。
【0037】
また、外側金具13の両側壁16、17の各下端縁16b、17bがベースプレート12の上面12aに溶接固定されていることから、特に両側壁16、17に対する支持力、つまり両側壁16、17の左右方向の振動に対する支持力が大きくなる。したがって、外側金具13の左右方向の振動が抑制されて、ダイナミックダンパー11の左右方向の振動減衰効果が大きくなる。
【0038】
また、本実施形態における落下防止機構23は、通常時は、図2に示すように、保持ボルト25の雄ねじ部25cを、マス部材14の雌ねじ孔14eに螺着固定した状態では、頭部25aが軸部25bの大径部を介して保持孔24の上方に位置している。しかし、各弾性体15が経時的な劣化などに起因して破断してマス部材14が落下した場合は、頭部25aの下面が保持孔24の孔縁に引っ掛かって、マス部材14は保持ボルト25と保持孔24を介して上端壁18に宙吊り状態になり、ベースプレート12の上面12aに干渉することがなくなる。
【0039】
また、落下防止機構23は、単に保持孔24と保持ボルト25によって構成されて構造が簡素化されていることから、製造が簡単になりコストの高騰が抑制できる。
〔本発明の第2実施形態〕
以下、本発明の第2実施形態を説明する。図4は本発明のダイナミックダンパーの第2実施形態を示す平面図、図5は同第2実施形態の正面図である。
【0040】
この第2実施形態のダイナミックダンパー11は、図4及び図5に示すように、フロントサスペンションメンバーのフレームに図外の3本のボルトによって固定されるベースプレート12と、このベースプレート12の上面12aのほぼ中央位置に配置されて、左右一対の一側壁16及び他側壁17を有する門型の外側金具13と、該外側金具13の内側に配置された内側部材である内側金具27と、内側金具27の内側に配置されたマス部材14と、外側金具13の両側壁16、17の各内側面16a、17aと内側金具27の両側片27b、27cの各外側面との間に加硫接着された複数(本実施形態では上下4つ)のゴム製の弾性体19a~20bと、内側金具27にマス部材14を固定させる4本の連結部材である締結ボルト28と、を備えている。
【0041】
ベースプレート12は、金属板によって平面から視てく字形状の異形状に形成され、図4中の両端部と中央位置に前記3本のボルトが挿入される3つのボルト挿入孔12bが貫通形成されている。
【0042】
外側金具13は、第1実施形態のもの同じく金属板をほぼコ字形に折曲形成されており、左右の両側壁16、17と、該両側壁16、17の上端縁を連結する上端壁18と、を有している。両側壁16、17は、第1実施形態のものよりも上下方向に長く形成されていると共に、図5の右側の他側壁17は、上端部18aが他部品との干渉を避けるために傾斜凹状に形成されている。
【0043】
内側金具27は、外側金具13と同じく金属板材を逆コ字形状に折曲されてなり、底壁片27aと、該底壁片27aの長手方向の両側縁から立設され、前記両側壁16,17に左右から対向配置された両側片27b、27cと、を有している。また、内側金具27は、板材の肉厚t1が外側金具13の肉厚tよりも薄肉に形成されていると共に、両側片27b、27cが外側金具13の両側壁16、17との間に所定のすき間をもって平行に配置されている。
【0044】
前記底壁片27aは、ベースプレート12と並行な水平状に形成されて、下面とベースプレート12の上面との間に所定距離Sの隙間が形成されている。
【0045】
前記両側片27b、27cは、上端部に後述する各締結ボルト28の軸部の先端に有する小径な雄ねじ部が挿通される図外の挿入孔がそれぞれ貫通形成されている。
【0046】
マス部材14は、例えば鉄系金属材によって上下方向に長いほぼ長方体に形成されて、上下方向(X方向)の長さLが左右横方向(Y方向)の長さL1より長さよりも大きく形成されて、内側金具27の内部に収容配置されている。また、マス部材14は、上端部の両側が4本の締結ボルト28によって内側金具27の両側片27b、27cに固定されている。
【0047】
前記4つの弾性体19a~20bは、図4及び図5に示すように、それぞれ円柱状に形成されていると共に、軸方向の各外端部と各内端部が外側金具13の両側壁16、17の各内側面16a、17aと内側金具27の両側片27b、27cの各外側面に加硫接着されている。
【0048】
そして、この左右の各一対の弾性体19a~20bは、図5に示すように、外側金具13の両側壁16,17の両内側面16a、17aから内側金具27の両側片27b、27cの各外側面に向かって傾斜状に形成されて、全体が図5の正面から視て菱形状に形成されている。すなわち、図5中、左側の上下一対の弾性体19a、19bと図中右側の上下一対の弾性体20a、20bは、それぞれの軸方向の各外端部から内側金具27の両側片27b、27側の各内端部に向かって互いに上下方向へ離れる方向へ傾斜状に形成されて、全体が正面から視て菱形状に配置されている。また各弾性体19a~20bは、第1実施形態と同じく、マス部材14の幅方向の中心線Pと上下方向の中心線P1を中心とした上下左右の対称位置に配置されている。したがって、4つの弾性体19a~20bは、配置の中心位置OPがマス部材14の重心位置GPに合致している。
【0049】
さらに、各弾性体19a~20bの傾斜角度θは、基本的にダイナミックダンパー11の通常の要求仕様においては、Y/X共振周波数比率は1.70~1.20倍であるから、本発明では、Y/X共振周波数比率を満足する傾斜角度θを20°~70°の間に設定するが、本実施形態では、第1実施形態と同じく、ダイナミックダンパー11の要求仕様のY/X共振周波数比率を約1.55~1.40倍とするために、約35°~50°に設定されている。
【0050】
また、落下防止機構23は、各実施形態のものと同一であるから同一符番を付して具体的な説明を省略する。
【0051】
以上のように、第2実施形態のダイナミックダンパー11は、第1実施形態と同じく各弾性体19a~20bを水平ではなく、それぞれ傾斜状に形成し、この傾斜角度θを調整することによって、上下方向(X方向)の共振周波数に対して左右方向(Y方向)の共振周波数を相対的かつ任意に調整することが可能になることから、ダイナミックダンパー11の要求仕様に応じた上下左右方向の共振周波数に対して減衰することが可能になる。特に、X方向の共振周波数に対してY方向の共振周波数を低くすることが可能になると共に、チューニング領域を広げることができる。この結果、ダイナミックダンパー11の取り付け対象や取り付け方向などに応じた優れた振動減衰効果を得ることができる。
【0052】
また、この第2実施形態も各弾性体19a~20bの配置の中心位置OPとマス部材14の重心位置GPが合致していることによって、第1実施形態と同じく共振によるマス部材14の重心位置GPと共に行う並進運動に対して重心位置GPまわりの回転運動の影響を受けなくなる。このため、マス部材14の質量効果、つまり質量による減衰効果の減少を抑制することができる。この結果、マス部材14による上下左右方向の共振抑制効果が高くなる。
【0053】
また、第2実施形態では、第1実施形態とは異なり、内側金具27を設けていることから、振動源をさらに異なる対象の特定の固定周波数に合わせて設定することができる。
【0054】
また、落下防止機構23によって、マス部材14の不用意な落下が防止されることは第1実施形態と同じである。
【0055】
本発明は、前記各実施形態の構成に限定されるものではなく、例えば、外側金具13の形状や、マス部材5の形状をさらに変更することも可能である。また、各弾性体19a~20bの外径や長さ、さらに傾斜角度θなどは、ダイナミックダンパー11の取り付け対象、つまり低減すべき振動の固有周波数に応じて任意に変更することが可能である。
【0056】
また、ダイナミックダンパーの適用対象部材としては、車体の他の振動部材や自動車以外の船舶などの振動部材に適用することも可能であり、振動部材に対する取り付け位置を任意に設定することも可能である。
【符号の説明】
【0057】
11…ダイナミックダンパー
12…ベースプレート
13…外側金具(外側部材)
14…マス部材
14a・14b…両外側面
16…一側壁
16a…内側面
17…他側壁
17a…内側面
18…上端壁
19a・19b・20a・20b…弾性体
23…落下防止機構
25…ボルト
27…内側金具(内側部材)
27a…底壁片
27b・27c…両側片
θ…弾性体の傾斜角度
GP…マス部材の重心位置
OP…各弾性体の配置の中心位置
P…マス部材の幅方向の中心線
P1…マス部材の上下方向の中心線
図1
図2
図3
図4
図5
図6