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特開2024-117865熱伝導フィルムの製造方法およびその製造装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024117865
(43)【公開日】2024-08-30
(54)【発明の名称】熱伝導フィルムの製造方法およびその製造装置
(51)【国際特許分類】
   C08J 5/18 20060101AFI20240823BHJP
   C08K 3/013 20180101ALI20240823BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20240823BHJP
   C08K 3/38 20060101ALI20240823BHJP
   C08K 7/00 20060101ALI20240823BHJP
   C01B 21/064 20060101ALN20240823BHJP
【FI】
C08J5/18 CER
C08J5/18 CEZ
C08K3/013
C08L101/00
C08K3/38
C08K7/00
C01B21/064 M
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023023923
(22)【出願日】2023-02-20
(71)【出願人】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100113664
【弁理士】
【氏名又は名称】森岡 正往
(74)【代理人】
【識別番号】100108833
【弁理士】
【氏名又は名称】早川 裕司
(74)【代理人】
【識別番号】100149320
【弁理士】
【氏名又は名称】井川 浩文
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 友美
(72)【発明者】
【氏名】笹山 俊貴
【テーマコード(参考)】
4F071
4J002
【Fターム(参考)】
4F071AA12
4F071AA22
4F071AA32
4F071AA41
4F071AA42
4F071AA50
4F071AA61
4F071AA67
4F071AB27
4F071BA06
4F071BB05
4F071BB13
4F071BC01
4F071BC17
4J002AA001
4J002BB151
4J002BB181
4J002BC031
4J002BG061
4J002CC031
4J002CD001
4J002CG001
4J002CN011
4J002CP031
4J002DK006
4J002FA016
4J002FD016
4J002GF00
4J002GQ00
4J002GT00
4J002HA06
(57)【要約】
【課題】熱伝導フィルムの新たな製造方法を提供する。
【解決手段】本発明は、板状粒子と樹脂を含むスラリーを成形路へ流入させて、板状粒子が樹脂中に分散した熱伝導フィルムを得る製造方法である。具体的にいうと、その成形路の上流側に成形路よりも狭幅な狭流路からなる配向路を設ける。配向路を構成する狭流路は、単数でも複数でもよい。配向路は、狭流路の高さ(t)、狭流路の幅(w)、板状粒子のサイズ(f)から算出される流路指数(K=(t/w)1/2 ×(1-2f/t))が0.3~3となる断面形状であるとよい。板状粒子は、例えば、面内方向の熱伝導率(λ1)が板厚方向の熱伝導率(λ2)よりも大きい窒化ホウ素粒子である。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
板状粒子と樹脂を含むスラリーを成形路へ流入させて、該板状粒子が該樹脂中に分散した熱伝導フィルムを得る製造方法であって、
該成形路の上流側に該成形路よりも狭幅な狭流路からなる配向路を設ける熱伝導フィルムの製造方法。
【請求項2】
前記狭流路は、前記成形路の流路幅内で略均等に複数配置されている請求項1に記載の熱伝導フィルムの製造方法。
【請求項3】
下式に示す流路指数(K)が0.3~3となる請求項1または2に記載の熱伝導フィルムの製造方法。
K=(t/w)1/2 ×(1-2f/t) (但し、f/t≦0.5)
t:狭流路の高さ
w:狭流路の幅
f:板状粒子のサイズ
【請求項4】
前記板状粒子は、面内方向の熱伝導率(λ1)が板厚方向の熱伝導率(λ2)よりも大きい請求項1に記載の熱伝導フィルムの製造方法。
【請求項5】
前記板状粒子は、窒化ホウ素(BN)からなる粒子を含む請求項4に記載の熱伝導フィルムの製造方法。
【請求項6】
板状粒子と樹脂を含むスラリーを流入させる成形路と、
該成形路の上流側に該成形路よりも狭幅な狭流路を形成する壁体とを備え、
該板状粒子が該樹脂中に分散した熱伝導フィルムを得る製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱伝導フィルムの製造方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
素子、機器、装置等は、高密度化や高性能化等に伴い発熱量が増加する。それらの機能や寿命等を確保するために十分な放熱が必要となる。
【0003】
電子機器類(半導体素子、半導体モジュール等)から冷却部材(ヒートスプレッダ、ヒートシンク、基板等)へ放熱する場合、両者を密着させて熱伝達性を高めるために、両者間に熱伝導シートが介装されることも多い。
【0004】
このような熱伝導シート(その原材(原反)である熱伝導フィルムも同様)は、柔軟性と共に高熱伝導性が求められるため、通常、熱伝導性フィラーをマトリックス(例えば、エラストマー、ゴム等を含む樹脂)中に分散・保持させた複合材からなる。
【0005】
熱伝導シートは、その厚さ方向が主な伝熱方向となる。このため、球状粒子または繊維状粒子(AlN、SiO、Al等)に替えて、特定方向(面内方向)に高熱伝導率な板状(扁平状)粒子(BN等)が、フィラーとして多く用いられる。但し、そのような熱伝導シートの熱伝導率は、そのフィラー(板状粒子)の配向度(特定方向の配向割合)により大きな影響を受ける。
【0006】
このような熱伝導シート(フィルム)に関する提案は多くなされており、例えば、下記の特許文献に関連した記載がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2011-74303
【特許文献2】特開2011-218504
【特許文献3】特開2015-45019
【特許文献4】特開2015-216387
【特許文献5】特開2018-14534
【特許文献6】特開2019-214663
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1~4は、押出成形体をスライスして熱伝導シートを製作している。しかし、それらの引用文献中に、フィラーの配向を成形中に制御する旨の記載はない。
【0009】
特許文献5、6は、押出成形機の出口側(下流側)に所定形状のポートを有するダイを設けて、フィラーが波状に配向した成形体を製作した後、その成形体をスライスして熱伝導シートを得ている。このような方法は効率的ではなく、熱伝導シート(フィルム)の量産に適さない。
【0010】
本発明はこのような事情に鑑みて為されたものであり、新たな熱伝導フィルムの製造方法等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者はこの課題を解決すべく鋭意研究した結果、板状粒子(フィラー)と樹脂(マトリックス)のスラリー(流動性混合物)を流入させる流路を工夫することにより、板状粒子を高配向させた熱伝導フィルムを成形できることを新たに見出した。この成果を発展させることにより、以降に述べる本発明を完成するに至った。
【0012】
《熱伝導フィルム》
(1)本発明は、板状粒子と樹脂を含むスラリーを成形路へ流入させて、該板状粒子が該樹脂中に分散した熱伝導フィルムを得る製造方法であって、該成形路の上流側に該成形路よりも狭幅な狭流路からなる配向路を設ける熱伝導フィルムの製造方法である。
【0013】
(2)本発明の製造方法によれば、板状粒子の面(内)方向が厚さ方向に揃った配向度の高い熱伝導フィルムを得ることが可能となる。また本発明によれば、成形体のスライス等に依らず、板状粒子が配向した熱伝導フィルムを射出成形等により効率的に量産可能となる。
【0014】
このような優れた効果が発現される機序は明確ではないが、スラリーが配向路(狭流路)を流動する際に、そのスラリーに含まれる板状粒子が狭流路の内壁面に沿って移動するためと考えられる。ちなみに、一般的な従来の射出成形や加圧成形では、フィラーの面内方向と熱伝導フィルムの厚み方向(熱流束の方向)が略直交し易く、フィラーの高熱伝導率が熱伝導フィルムの熱伝導率の向上に反映され難かった。
【0015】
《熱伝導フィルムの製造装置》
本発明は、熱伝導フィルムの製造装置としても把握される。例えば、本発明は、板状粒子と樹脂を含むスラリーを流入させる成形路と、該成形路の上流側に該成形路よりも狭幅な狭流路を形成する壁体とを備え、該板状粒子が該樹脂中に分散した熱伝導フィルムを得る製造装置でもよい。この製造装置は、上述した製造方法の実施に適する。
【0016】
《熱伝導フィルム》
さらに本発明は、上述した製造方法や製造装置を用いて得られた熱伝導フィルム、その熱伝導フィルムを所望の形態(形状や大きさ)に分割や切取等して得られる熱伝導シート、その熱伝導シートを用いた電気・電子機器類等としても把握される。
【0017】
本発明でいう「熱伝導フィルム」は、板状粒子(熱伝導フィラー)と樹脂(マトリックス)を含む複合材からなり、シート状であればよい。つまり「熱伝導フィルム」は、具体的な形態を問わず、熱源(半導体素子、半導体装置等)と放熱体(基板、ヒートスプレッダ、ヒートシンク、筐体等)の間に介装される熱伝導シート(単品)、その熱伝導シートを得るための原材(素材)、熱伝導シートを採取するため原反(ロール、テープ)等を含む。本明細書では、それらを含めて、単に「フィルム」ともいう。
【0018】
《その他》
特に断らない限り、本明細書でいう「x~y」は下限値xおよび上限値yを含む。本明細書に記載した種々の数値または数値範囲に含まれる任意の数値を新たな下限値または上限値として「a~b」のような範囲を新設し得る。本明細書でいう「x~yμm」はxμm~yμmを意味する。他の単位系についても同様である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】解析モデル(一例)の説明図である。
図2】流路指数と配向度の関係を示す散布図である。
図3】板状粒子の配向を例示した分布図である。
図4】解析モデルの他例を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の構成要素に、本明細書中から任意に選択した一つまたは二つ以上の構成要素を付加し得る。本明細書で説明する内容は、熱伝導フィルム、その製造方法、その製造装置等に該当し得る。方法的な構成要素であっても物に関する構成要素となり得る。いずれの実施形態が最良であるか否かは、対象、要求性能等によって異なる。
【0021】
《流路》
成形路では、上流側から供給されたスラリー(液相状の樹脂と板状粒子の混合物)が層状に流動する。成形路の下流側(出口)から、スラリーが固化して層状に成形された熱伝導フィルムが取り出される。
【0022】
配向路は、成形路の上流側に設けられ、成形路よりも流路幅が狭い流路(狭流路)からなる。配向度の下流側(出口)から流出したスラリーは、成形路の上流側へ流入(合流)する。配向路は成形路に連接されるが、両者は一体でも別体でもよい。
【0023】
配向路を構成する狭流路は、例えば、単数または複数の仕切(壁体)を流路内に配置することにより形成される。複数の狭流路は、流路断面(例えば、流路幅および/または流路高さ)、配置等がそれぞれ同じでも異なっていてもよい。例えば、複数の狭流路は、略同じ断面形状であり、成形路の流路幅内で略均等に配置されるとよい。
【0024】
流路は、隅部(角部)に丸みがあってもよいし、外周面が湾曲面等であってもよい。つまり、流路断面は、必ずしも方形状(流路幅×流路高さ)でなくてもよい。また配向路に配設される仕切(壁体)の形態(幅、高さ、端部形状等)を適宜選択される。その仕切の形態を調整して、スラリーの流れ制御等を行なってもよい。
【0025】
配向路は、例えば、下式に示す流路指数(K)が0.3~3、0.4~2、0.42~1.7または0.5~1.5となる形状であるとよい。
K=(t/w)1/2 ×(1-2f/t) (但し、f/t≦0.5)
t:狭流路の高さ、w:狭流路の幅、f:板状粒子のサイズ
【0026】
狭流路の幅(w)や高さ(t)は、スラリーの流れ方向に垂直な断面に基づいて定める。方形状でない断面は、直交2方向の各最大長を採用する。なお、板状粒子が狭流路を安定的に通過できる範囲内(f/t≦0.5)で考えれば十分である。同様に、狭流路の幅(w)も、板状粒子の厚さより十分に大きい範囲内に設定すればよい。
【0027】
板状粒子のサイズ(「フィラーサイズ」ともいう。)は、その大きさを指標する代表値とする。板状粒子のサイズは、通常、板状粒子の厚さではなく、その面方向の大きさにより定まる。板状粒子の形状が不定なら、面方向の最大長またはその算術平均値を板状粒子のサイズとしてもよい。粉末状なら、レーザ回折法で得られる粒度分布から定まる50%径(D50:メディアン径)を、板状粒子のサイズとしてもよい。粉末に関する公称値(カタログ値に掲載されている「粒径」等)を、板状粒子のサイズとしてもよい。
【0028】
熱伝導フィルムに分散した板状粒子なら、例えば、観察像の視野内(650μm×450μm)にある各粒子の最大長またはその算術平均値を板状粒子のサイズとしてもよい。熱伝導フィルム(複合材)から分離・抽出された板状粒子なら、上述したメディアン径(D50)を板状粒子のサイズとしてもよい。
【0029】
《板状粒子》
板状粒子は、その種類や特性等を問わない。板状粒子は、面内方向の熱伝導率(λ1)が板厚方向の熱伝導率(λ2)よりも大きいとよい。このような板状粒子として、例えば、六方晶系の窒化ホウ素(h-BN)からなる粒子(単に「BN粒子」という。)がある。BN粒子の熱伝導率は、例えば、λ1=150~250W/mK、λ2=1~5W/mKである。
【0030】
BN粒子以外の板状粒子、球状粒子、繊維状粒子等がフィラーとして含まれてもよい。板状粒子は、例えば、その最小長(厚さ)に対する粒子の最大長(粒径)の割合であるアスペクト比が3~300さらには20~200でもよい。
【0031】
板状粒子は、具体的なサイズは問わないが、例えば、0.1~100μm、0.5~50μm、0.7~35μmまたは1.5~25μmである。
【0032】
フィラーの全体または一部は、マトリックスとの親和性を高める表面処理がなされてもよい。表面処理は、例えば、疎水化処理またはカップリング処理である。
【0033】
《樹脂》
樹脂は、その種類や特性等を問わない。樹脂には、ゴム・エラストマー等が含まれる。樹脂は、加熱等により流動性が確保される限り、熱可塑性樹脂でも、熱硬化性樹脂でもよい。射出成形する場合なら、通常、熱可塑性樹脂が用いられる。熱硬化性樹脂を用いたときは、熱硬化処理(キュア処理)がなされてもよい。
【0034】
熱可塑性樹脂は、例えば、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート、ポリカーボネート、ポリフェニレンサルファイド等である。熱硬化性樹脂は、例えば、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、シリコーン樹脂等である。ゴムは、例えば、エチレン-プロピレン-ジエンゴム(EPDM)、ブチルゴム等である。電気・電子機器類に用いられる熱伝導フィルムなら、絶縁抵抗または絶縁電圧が高い樹脂を用いてもよい。
【0035】
《スラリー》
スラリーは、樹脂と板状粒子を含む流動性混合物である。樹脂は、全体が液相状態でもよいし、固液共存状態でもよい。スラリー全体に対してフィラー(板状粒子)は、例えば、1~80体積%、20~75体積%、40~70体積%または45~65体積%含まれる。樹脂と板状粒子の他、各種の添加剤や溶媒等がスラリー中に含まれてもよい。
【0036】
《射出成形》
熱伝導フィルムは、例えば、射出成形して得られる。その射出圧力は、例えば、10~100MPaさらには20~50MPaである。その射出温度は、少なくとも配向路の下流側(成形路の上流域)でも、スラリーの流動性(例えば、樹脂の溶融状態)が維持される温度であるとよい。
【0037】
《熱伝導フィルム》
熱伝導フィルムは、具体的な用途、仕様、特性等を問わないが、例えば、電気・電子機器類の放熱シート等に用いられる。その熱伝導率は、通常、異方的であり、厚さ方向の熱伝導率は、例えば、5~50W/mKまたは10~25W/mKである。その比抵抗は問わないが、例えば、10~1012Ωmまたは10~1010Ωmであってもよい。
【実施例0038】
配向路の形態が板状粒子(フィラー)の配向度に及ぼす影響をシミュレーションにより評価した。このような具体例を示しつつ、本発明をより詳しく説明する。
【0039】
《モデル》
解析に用いたモデルを図1に示した。本実施例では、横断面が幅5mm×厚さ0.15~0.3mmであるテープ状の熱伝導フィルム(単に「フィルム」という。)を連続的に射出成形する場合を想定した。成形路の流路断面(内幅×内高)はフィルムと同じとした。
【0040】
成形路の上流側には、圧送されたスラリーを分流させる仕切(壁体)を配置した。仕切の両側にできる狭流路により、配向路が形成される。仕切数は単数または複数とした。複数の仕切は、成形路の流路幅(5mm)内に均等に配置した。これにより、仕切数がm(自然数)なら、同じ流路幅の狭流路がm+1(=N)形成され、それらが成形路の上流側に均等に配置される。狭流路の幅(w)は、仕切数(m)と仕切幅により調整した。狭流路の高さ(t)は0.15mmまたは0.30mmとした。
【0041】
なお、配向路の上流側には、スラリーの導入路を設けた。その入口断面は、幅5mm×厚さ0.3mm(一定)とした。各流路の流れ方向の長さは、導入路:7.5mm、配向路:7.5mm、成形路:20mmとした。
【0042】
フィラーは、図1に示すように、正方形の板状粒子とした。その一辺の長さをフィラーサイズ(f)とし、BN粒子を想定して0.001~0.04mmとした。なお、フィラーの慣性の影響は小さいと仮定して解析したため、フィラー密度は特に設定しなかった。
【0043】
表1に示すように、狭流路の数および断面(流路幅×流路高さ)とフィラーサイズとを種々変更した多数のモデルを設定した。各モデルについて、次のような数値解析を行なった。
【0044】
《数値解析》
配向路の上流側から、スラリーを圧送した場合に、成形路内で生じるフィラー(板状粒子)の配向度をシミュレーションした。解析ソフトウェアには、3D TIMON(東レエンジニアリングDソリューションズ社製)を用いた。
【0045】
スラリーの密度および粘度は、解析ソフトウェアにプリインストールされている一般的な熱可塑性樹脂のデータを用いた。板状粒子の動きが溶融樹脂の流れに影響を与えないと仮定して、配向度の算出に必要な数の板状粒子について計算を行った。
【0046】
導入路の入口から射出するスラリーは、流量(Q):5~15cc/sec、温度:250℃、加圧力(射出圧):200MPaとした。金型温度は、導入路の上流端から、配向路を経て、成形路の下流端にかけて、200℃とした。
【0047】
《解析結果》
各条件下で算出された配向度を表1に示した。表1中の試料C1は、配向路に仕切を設けず、狭流路を形成しなかった場合である。表1には流路指数(K=(t/w)1/2 ×(1-2f/t))も併せて示した。
【0048】
試料1~36(t:0.15mm、Q:5cc/sec)について得られた流路指数(K)と配向度(P)の関係を図2に示した。配向度は、フィルム長(流れ方向の長さ):5mmの範囲で、板状粒子の面方向の傾きが±30°以内にあるフィラー数(x)を、その範囲内にあるフィラーの全数(x)で除して求めた(P(%)=100×x/x)。その傾きの基準(0°)は成形路の厚さ方向の内壁面とした。
【0049】
一例として、試料16について得られた解析結果(フィラーの配向分布)を図3に示した。図3の濃い領域は、フィラー(板状粒子)が厚さ方向(紙面に垂直な方向)に配向していることを示す。
【0050】
《評価》
(1)表1に示した試料1~36を観ると、狭流路の流路幅が小さくなるほど、狭流路の流路高さが大きくなるほど、またはフィラーサイズが小さくなるほど、配向度も大きくなった。つまり流路指数が増加するほど、配向度も増加することがわかった。試料25と試料41を比較するとわかるように、そのような傾向は、スラリーの流量が増加しても同様であった。
【0051】
上述のように配向度が向上する理由は次のように推察される。板状粒子は、狭流路の流路幅が小さくその流路高さが大きくなるほど、狭流路の内壁面に沿って通過する傾向が大きくなるためと考えられる。また、狭流路を通過した板状粒子は、フィラーサイズが小さくなるほど、その姿勢を保持して成形路で倒れ難くなるためと考えられる。
【0052】
(2)図2から明らかなように、流路指数(K)が特定範囲内(例えばK≧3)にあるとき、配向度が顕著に大きくなることがわかった。また図3から明らかなように、狭流路を通過した板状粒子は、成形路の内壁面に沿って配向し易いこともわかった。なお、狭流路から流出したスラリーが合流する領域(図3なら中央付近)でも、板状粒子が厚さ方向に配向し易いこともわかった。
【0053】
参考までに、仕切数を増加させて、狭流路の流路幅(w)をさらに小さくしたモデルを図4に示した。このようなモデルについても解析したところ、高配向度の板状粒子が幅方向に均一的に分布した状態となることが確認された。
【0054】
以上から、本発明によれば、フィラー(板状粒子)を厚さ方向に高配向させた熱伝導フィルムを、射出成形等により効率的に生産され得ることが確認された。
【0055】
【表1】
図1
図2
図3
図4