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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024117879
(43)【公開日】2024-08-30
(54)【発明の名称】曲面吸着装置
(51)【国際特許分類】
   B25B 11/00 20060101AFI20240823BHJP
【FI】
B25B11/00 B
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023023943
(22)【出願日】2023-02-20
(71)【出願人】
【識別番号】000189154
【氏名又は名称】カネテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001726
【氏名又は名称】弁理士法人綿貫国際特許・商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】堀 元正
(72)【発明者】
【氏名】滝澤 優
【テーマコード(参考)】
3C020
【Fターム(参考)】
3C020WW03
(57)【要約】      (修正有)
【課題】簡易な構成で被吸着体の曲面に対して十分な吸着力が得られる反面、簡単な操作で被吸着体の曲面より剥離可能な曲面吸着装置を提供する。
【解決手段】希土類磁石7a,7bは、一対の磁極部材4a,4bから発生する磁束密度が長手方向に漸進変化するように装置本体の一部に偏在しており、装置本体は被吸着体の曲面に一対の磁極部材4a,4bの曲面が各々線接触して当該被吸着体を通過する磁気回路が形成されて吸着される。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
装置本体を磁性体である被吸着体の曲面に吸着させることが可能な曲面吸着装置であって、
前記装置本体に配置され被吸着体との間に磁気回路を形成する磁束を発生させる希土類磁石と、
前記希土類磁石の磁極と磁性材よりなる突条部材が各々隣接配置され、少なくとも被吸着体との接触面が曲面に形成され互いに平行配置された一対の磁極部材と、を備え、
前記希土類磁石は、前記一対の磁極部材から発生する磁束密度が長手方向に漸進変化するように前記装置本体の一部に偏在しており、前記装置本体は被吸着体の曲面に前記一対の磁極部材の曲面が各々線接触して当該被吸着体を通過する磁気回路が形成されて吸着される曲面吸着装置。
【請求項2】
前記一対の磁極部材の長手方向で前記希土類磁石と隣接する磁束密度が最も高い部位を軸として前記装置本体を回転操作することで、前記一対の磁極部材と被吸着体との吸着状態が解除可能となる請求項1記載の曲面吸着装置。
【請求項3】
前記装置本体に作業者が把持する取手部を備えている請求項1又は請求項2記載の曲面吸着装置。
【請求項4】
前記取手部は、前記装置本体に配置された前記希土類磁石と離れる方向に延設されている請求項3記載の曲面吸着装置。
【請求項5】
前記装置本体である磁性材と、当該磁性材の長手方向一端側に偏って重ねて配置された一対の希土類磁石に前記一対の磁極部材が曲面を外方に向けて各々重ねて平行配置されている請求項1又は請求項2記載の曲面吸着装置。
【請求項6】
前記装置本体である磁性材と、当該磁性材の長手方向中央部に重ねて配置された一対の希土類磁石に前記一対の磁極部材が曲面を外方に向けて重ねて平行配置されている請求項1又は請求項2記載の曲面吸着装置。
【請求項7】
前記装置本体である非磁性材と、当該非磁性材の長手方向一端側に偏って希土類磁石が配置され、前記希土類磁石を挟んで一対の磁極部材が曲面を外方に向けて平行配置されている請求項1又は請求項2記載の曲面吸着装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、装置本体を磁性体である被吸着体の曲面に吸着させることが可能な曲面吸着装置に関する。
【背景技術】
【0002】
工場や工事現場等で金属円筒管や金属円柱材など曲面を有するワークを搬送したり、金属管どうしを接続するために位置合わせたりする際に、作業者が安全にワークをハンドリングするためにワークに磁石を有する操作部材を吸着させて操作することが試行されている。
【0003】
一般にフェライト磁石などの板状固形磁石は、柔軟性に乏しく、磁石吸着面と被吸着体の曲面との間にエアギャップを生じ易いため、十分な吸着力が得られない。板状磁石をV字状にして複数箇所で吸着させたとしても、吸着力は不足する。これに対して、希土類磁石を用いた板状固形磁石は、吸着力が強すぎて、一旦被吸着体に吸着すると、容易に剥離させることが困難になる。特に、平面どうしが吸着した場合は剥がし難くなる。
【0004】
尚、被吸着体からの剥離性を高めるため、磁束発生源として永久磁石に替えて電磁石を用いることも考えられる。しかしながら、電流をオンオフする際のスイッチを設ける必要があるため、部品点数が増えるうえに、屋外で使用する場合には防水性を確保する必要があるため、製造コストが増えて使い難さも伴う。
【0005】
作業現場で用いられる操作部材ではないが、曲面を有する金属製の被吸着体にワークを吸着固定する技術としては以下のものが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭55-23763号公報
【特許文献2】特許第4378668号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上述した特許文献1の構成では、板状磁石吸着面と被吸着体の曲面との間にエアギャップを生じ易く、フェライト磁石では十分な吸着力が得られない。
特許文献2の構成では、被吸着体の吸着面に対峙するヨーク端面に、曲面の曲率に応じた加工が必要なため、工数が増えて製造コストが嵩む。希土類磁石を用いているため、曲面に対して十分な吸着力は得られる反面、一旦吸着したヨークを作業者の力のみで曲面から剥離するのは容易ではない。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明はこれらの課題を解決すべくなされたものであり、その目的とするところは、簡易な構成で被吸着体の曲面に対して十分な吸着力が得られる反面、簡単な操作で被吸着体の曲面より剥離可能な曲面吸着装置を提供することにある。
【0009】
本発明は上記目的を達成するため、磁気吸着装置は次の構成を備える。
装置本体を磁性体である被吸着体の曲面に吸着させることが可能な曲面吸着装置であって、前記装置本体に配置され被吸着体との間に磁気回路を形成する磁束を発生させる希土類磁石と、前記希土類磁石の磁極と磁性材よりなる突条部材が各々隣接配置され、少なくとも被吸着体との接触面が曲面に形成され互いに平行配置された一対の磁極部材と、を備え、前記希土類磁石は、前記一対の磁極部材から発生する磁束密度が長手方向に漸進変化するように前記装置本体の一部に偏在しており、前記装置本体は被吸着体の曲面に前記一対の磁極部材の曲面が各々線接触して当該被吸着体を通過する磁気回路が形成されて吸着されることを特徴とする。
上記構成によれば、一対の磁極部材と被吸着体は曲面どうしが各々線接触して希土類磁石より発生した磁束が被吸着体を通過する磁気回路を形成して吸着される。よって、簡易な構成により作業者は一対の磁極部材を被吸着体に向かって曲面どうしを各々線接触させるだけで装置本体が吸着し、希土類磁石を用いているため曲面どうしが線接触するだけでも十分な吸着力で吸着状態を維持することができる。
また、一対の磁極部材から発生する磁束密度が長手方向に漸進変化するようになっているため、一対の磁極部材のうち長手方向に比較的磁束密度の低い部位を利用して装置本体を変位させ易く、装置本体と被吸着体の吸着状態を曲面どうしの線接触状態から点接触状態へ変位させることにより容易に剥離させることができる。
【0010】
前記一対の磁極部材の長手方向で前記希土類磁石と隣接する磁束密度が最も高い部位を軸として前記装置本体を回転操作することで、前記一対の磁極部材と被吸着体との吸着状態が解除可能となるようにしてもよい。
このように、一対の磁極部材が希土類磁石と隣接する磁束密度が高い部位を軸として装置本体を回転操作することで、曲面どうしが線接触状態から点接触状態に変位して磁気抵抗が増大するので、装置本体を被吸着体より容易に剥離させることができる。
【0011】
前記装置本体に作業者が把持する取手部を備えていてもよい。また、前記取手部は、前記装置本体に配置された前記希土類磁石と離れる方向に延設されていてもよい。
これにより、作業者が取手部を把持して装置本体を変位操作できるので、作業性や操作性が向上する。特に、希土類磁石より離れた延設側の取手部を把持したまま回転操作することができるので操作性が良く、少ない回転力で装置本体を磁束密度が高い部位を軸として回転させて剥離させることができる。
【0012】
前記装置本体である磁性材と、当該磁性材の長手方向一端側に偏って重ねて配置された一対の希土類磁石に前記一対の磁極部材が曲面を外方に向けて各々重ねて平行配置されていてもよい。
これにより、一対の磁極部材の曲面を被吸着体の曲面に各々線接触させることで吸着保持され、一対の磁極部材の磁束密度が高い長手方向一端側を軸として長手方向他端側を回転操作することで、曲面どうしが線接触状態から点接触状態に変位し装置本体を被吸着体より容易に剥離させることができる。
【0013】
前記装置本体である磁性材と、当該磁性材の長手方向中央部に重ねて配置された一対の希土類磁石に前記一対の磁極部材が曲面を外方に向けて重ねて平行配置されていてもよい。
これにより、一対の磁極部材の曲面を被吸着体の曲面に各々線接触させることで吸着保持され、一対の磁極部材の磁束密度が高い長手方向中央部を軸として長手方向一端側又は他端側を回転操作することで、曲面どうしが線接触状態から点接触状態に変位し装置本体を被吸着体より容易に剥離させることができる。
【0014】
前記装置本体である非磁性材と、当該非磁性材の長手方向一端側に偏って希土類永久磁石が配置され、前記希土類磁石を挟んで一対の磁極部材が曲面を外方に向けて平行配置されていてもよい。
これにより、一対の磁極部材の曲面を被吸着体の曲面に各々線接触させることで吸着保持され、一対の磁極部材の磁束密度が高い長手方向一端側を軸として長手方向他端側を回転操作することで、曲面どうしが線接触状態から点接触状態に変位し装置本体を被吸着体より容易に剥離させることができる。
【発明の効果】
【0015】
簡易な構成で被吸着体の曲面に対して十分な吸着力が得られる反面、簡単な操作で被吸着体の曲面より剥離可能な曲面吸着装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】曲面吸着装置の正面図、平面図、左側面図、底面図である。
図2図1の曲面吸着装置を円筒管に吸着させた状態を示す斜視図である。
図3図1の曲面吸着装置を円筒管より取り外す手順を示す説明図である。
図4】実施例1の曲面吸着装置の正面図、平面図、左側面図である。
図5図4の曲面吸着装置の分解斜視図である。
図6図4の曲面吸着装置の変形例を示す正面図、平面図、左側面図である。
図7図4の曲面吸着装置の変形例を示す正面図、平面図、左側面図である。
図8図4の曲面吸着装置の変形例を示す正面図、平面図、左側面図である。
図9図8の曲面吸着装置を円筒管より取り外す手順を示す説明図である。
図10】実施例2の曲面吸着装置の正面図、平面図、左側面図、底面図である。
図11図10の曲面吸着装置の分解斜視図である。
図12】実施例3の曲面吸着装置の正面図、平面図、左側面図、底面図である。
図13図12の曲面吸着装置の分解斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
[実施例1]
以下、実施例1に係る曲面吸着装置の概略構成について図1乃至図9を参照して説明する。曲面吸着装置1は、一例として工場や工事現場等で作業者が装置本体を磁性体である被吸着体(金属円筒体、金属円柱体など)の曲面に吸着させたまま搬送作業や位置合わせ作業などを行い、簡単な操作により被吸着体から容易に剥離させることが可能な用具である。
【0018】
図1(A)~(C)において、曲面吸着装置1は、カバー2に覆われた装置本体の天面に環状の取手部3が設けられており、装置本体の底面側には磁性材よりなる一対の磁極部材4a,4bが突設されている。一対の磁極部材4a,4bは、後述するように、被吸着体5の曲面に当接して吸着するようになっている(図1(C)参照)。
【0019】
図4(A)~(D)において、曲面吸着装置1は、装置本体となる台板6を構成する矩形の磁性板材を備えている。磁性板材は、例えば鉄、鉄合金、SUS(ステンレススチール)などが用いられる。尚、以下の実施例では台板6と称して磁性板材として説明するが、更に板厚を増した磁性ブロック材を用いてもよい。図4(C)に示すように希土類磁石7a,7bは、台板6と一対の磁極部材4a,4bとの間に配置され、磁気回路を形成する磁束を発生させる。希土類磁石7a,7bとしては、例えばネオジム磁石、サマリウムコバルト磁石等が好適に用いられる。図4(A)(B)(D)に示すように、一対の希土類磁石7a,7bは、台板6の長手方向一端側に偏って対向配置されている。各希土類磁石7a,7bの着磁方向は、N極又はS極が後述する磁極部材4a,4bに各々隣接し、S極又はN極が台板6に各々隣接している。これにより、図4(C)の二点鎖線矢印Pに示すように、希土類磁石7a→台板6→希土類磁石7b→磁極部材4b→磁極部材4aに連なる磁路が形成される。尚、希土類磁石7a,7bの着磁方向は反対であってもよく、その場合の磁路は図4(C)の矢印Pと逆向きとなる。
【0020】
図4(A)(C)に示すように一対の磁極部材4a,4bは、磁性材が用いられ、図1(C)に示すように少なくとも被吸着体5との接触面が曲面に形成されている。具体的には、一対の磁極部材4a,4bは、台板6の長手方向に沿って設けられた半円柱状の突条部材が互いに平行配置されている。突条部材としては、例えば鉄、鉄合金、SUSなどが用いられる。本実施例のように一対の磁極部材4a,4bの接触面が半円柱状の曲面のみの構成とした場合、図3(A)の実線に示すように、装置本体が被吸着体5に吸着した状態では、一対の磁極部材4a,4bは曲面の母線方向に沿った線接触となるが、図3(B)に示すように90度向きを変えるように変位させると、曲面どうしが点接触となるため、取り外しが極めて容易になるという利点がある。本実施例では、一対の磁極部材4a,4bは、長手方向一端側(図4(A)右端)で希土類磁石7a,7bと隣接し、長手方向他端側(図4(A)左端)では、台板6との間に空隙部8a,8bが各々形成されている(図4(A)(D)参照)。
【0021】
尚、図4(C)に示すように一対の磁極部材4a,4bのカバー2からの突出高さは同じに形成されているが、被吸着体5(図1(c)参照)の曲面形状に合わせて高さを変えてもよい。
本実施例では、一対の磁極部材4a,4bは、半円柱状に連なる突条部材を例示したが、他の形状、例えばかまぼこ状に連なる突条部材であってもよい。このように被吸着体5との接触面に曲面を含むことで、曲面吸着装置1を平板以外の丸棒やアングル鋼材などにも適用することができ、使用範囲が広がるうえに角部の変形や消耗で磁気低下を抑えることができる。
また、一対の磁極部材4a,4bの接触面は、被吸着体5の曲面と線接触するような曲面を一部に備えていれば、必ずしも曲面のみの突条部材に限らず曲面が面取りされていてもよい。更には、一対の磁極部材4a,4bの両端部4cは磁束が集中し易いエッジ部が形成されないよう、曲面状に各々形成されているのが好ましい。
【0022】
図4(A)に示すように、取手部3は、台板6を覆うカバー2の上面に設けられている。すなわち、取手部3は、台板6に対して一対の磁極部材4a,4bが設けられた吸着面側とは反対面側に設けられている。取手部3は、図5に示すように両端部を台板6に止めねじ9a,9bによりねじ止め固定され、中途部は作業者が把持する環状に形成されている。
また、カバー2は、非磁性材(アルミ材若しくは非磁性のステンレススチール材など)が用いられ、曲面吸着装置1の一対の磁極部材4a,4bが露出する吸着面以外を覆っている。カバー2は、希土類磁石7a,7bを覆うことで、防水性や耐久性を向上させるために用いられる。また、カバー2が存在すると、希土類磁石7a,7bの端面から漏れた磁束により不用意な吸着動作が生ずることを防ぐことができる。カバー2は予め成形されたものを用いてもよいが、台板6と共にインサート成形により設けてもよい。
【0023】
希土類磁石7a,7bは、一対の磁極部材4a,4bから発生する磁束密度が長手方向に漸進変化するように台板6の一部に偏在している。具体的には図4(B)において、台板6の長手方向右端側に偏って重ねて配置された一対の希土類磁石7a,7bに一対の磁極部材4a,4bが曲面を外方に向けて各々重ねて互いに平行配置されている。希土類磁石7a,7bが設けられていない一対の磁極部材4a,4bの長手方向左端側は台板6との間に空隙部8a,8bが各々形成されている(図4(A)(D)参照)。
【0024】
図5において、曲面吸着装置1の組み立ての一例について説明する。台板6には、6本の止めねじ10a,10b,10c,10d,10e,10f(スリーブボルト)を用いて各々ねじ止めする。止めねじ10a,10bは、台板6に希土類磁石7a及び磁極部材4aをこの順に重ね合わせて台板6及び希土類磁石7aを貫通して磁極部材4aを長手方向一端側でねじ止め固定する。止めねじ10cは台板6を貫通して長手方向他端側で空隙部8aを介して磁極部材4aをねじ止め固定する。また、止めねじ10d,10eは台板6に希土類磁石7b及び磁極部材4bをこの順に重ね合わせて台板6及び希土類磁石7bを貫通して磁極部材4bを長手方向一端側でねじ止め固定する。また、止めねじ10fは、台板6を貫通して長手方向他端側で空隙部8bを介して磁極部材4bをねじ止め固定する。これらを、カバー2内に収容して、カバー2上に取手部3を重ね合わせて、止めねじ9a,9bを取手部3及び台板6に各々ねじ止めすることにより一体に組み付けられる。
尚、上記実施形態は装置各部をねじ止め固定する組み立て例を示したが、ねじ止めだけではなく、部材同士を接着剤のみによる固定でもよいし、ねじ止め固定と接着固定を併用してもよい。希土類磁石以外の部材は、溶接固定でもよい。
【0025】
台板6に対する希土類磁石7a,7bの偏在から、図4(A)に示すように、一対の磁極部材4a,4bから発生する磁束密度は長手方向右端が最も高く長手方向左端に向かって漸進低くなるように変化している。一対の磁極部材4a,4bは被吸着体5の曲面に各々線接触すると、一対の磁極部材4a,4bから被吸着体を通過する磁気回路が形成されて吸着するようになっている。すなわち、図4(C)の矢印Pに示すように、磁気回路は、希土類磁石7a→台板6→希土類磁石7b→磁極部材4b→被吸着体5(図1(C)参照)→磁極部材4aを経て希土類磁石7aに戻る磁路が形成される。図2に示すように、被吸着体5である円筒管の円筒面(曲面)に一対の磁極部材4a,4bが母線方向に沿って各々線接触して希土類磁石7a,7bより発生した磁束が被吸着体7を通過する磁気回路が形成されるので、曲面吸着装置1を十分な吸着力で曲面を有する被吸着体5に吸着させることができる。
【0026】
次に図2に示す被吸着体5に吸着した曲面吸着装置1を剥離させる手順の一例を、図3(A)~(C)を参照して説明する。図2に示すように、曲面吸着装置1は、一対の磁極部材4a,4bは、これらの長手方向が被吸着体5である円筒管の母線方向に沿うように線接触で各々吸着されている。図3(A)に示すように、一対の磁極部材4a,4bの長手方向で磁束密度が最も高い取手部3の上端側(図4(A)参照)を軸として希土類磁石7a,7bより離れた磁束密度が低い取手部3の下端側を把持して装置本体を矢印方向(反時計回り方向)に例えば90度回転させる。これにより、図3(B)に示すように、一対の磁極部材4a,4bと被吸着体5の曲面どうしが各々線接触した状態から点接触した状態となるように変位する。このように、一対の磁極部材4a,4bと被吸着体5の曲面どうしが線接触から点接触となるため磁気抵抗が増大するため、吸着力が弱まる。次いで、図3(C)に示すように、取手部3の長手方向左端側を外方に引っ張ると、一対の磁極部材4a,4bのうち長手方向で磁束密度が最も低い長手方向右端側が最後に残るため、曲面吸着装置1を被吸着体5から容易に剥離することができる。
【0027】
このように、簡易な装置構成で作業者は取手部3を把持したまま一対の磁極部材4a,4bを被吸着体5に向かって各々線接触させるだけで吸着し、希土類磁石7a,7bを用いているため曲面どうしが線接触しているだけでも十分な吸着力で曲面吸着装置1の吸着状態を維持することができる。
また、一対の磁極部材4a,4bから発生する磁束密度が台板6の長手方向に漸進変化するようになっているため、一対の磁極部材4a,4bのうち比較的磁束密度の低い部位を利用して装置本体を変位させ易く、曲面吸着装置1と被吸着体5の吸着状態を曲面どうしの線接触状態から点接触状態へ変位させることにより容易に剥離させることができる。
【0028】
尚、取手部3は、曲面吸着装置1の投影面積内で組み付けられる場合に限らず、図6乃至図8に示すように、取手部3が装置本体の投影面積より外方にはみ出して(オーバーハング状態で)組み付けられていてもよい。曲面吸着装置1の内部の構成は実施例1と同様である。図6(A)~(C)は、台板6の長手方向両側に取手部3が延設された実施形態を示す。取手部3は、台板6より長いベース部3aに環状部3bが止めねじ9a,9bによりねじ止め固定されている。このように、取手部3が、台板6の長手方向両側に延設されていると、作業者が把持する環状部3bの長さが長くなり、操作性が良いうえに、装置本体を変位させる際にてこの原理により希土類磁石7a,7bより離れた延設側の環状部3bを把持したまま曲面吸着装置1を一対の磁極部材4a,4bの磁束密度が高い部位を軸として少ない回転力で回転操作することが可能となる。尚、取手部3は台板6に対してねじ止め固定、接着固定、溶接固定、或いはこれらの併用のうちいずれでもよい。
【0029】
図7(A)~(C)は、取手部3が装置本体の投影面積よりはみ出して組み付決られる他例を示す。取手部3は、台板6より長いベース部3aに環状部3bが止めねじ9a,9bによりねじ止め固定されている。この場合、ベース部3a及び環状部3bを備えた取手部3は、台板6の長手方向一端側(右端側)に重ね合わせて設けられた一対の希土類磁石7a,7bとは反対側である長手方向他端側(左端側)において台板6より外方に延設されている。このように、取手部3が、台板6の長手方向他端側に延設されていると、作業者が把持する環状部3bの長さが長くなり、操作性が良いうえに、装置本体を変位させる際に、希土類磁石7a,7bより離れた延設側の環状部3bを把持したまま、てこの原理により曲面吸着装置1を一対の磁極部材4a,4bの磁束密度が高い部位を軸として少ない回転力で回転操作することが可能となる。尚、取手部3は台板6に対してねじ止め固定、接着固定、溶接固定、或いはこれらの併用のうちいずれでもよい。
【0030】
図8(A)~(C)は、取手部3が装置本体の投影面積よりはみ出して組み付決られる他例を示す。取手部3は、台板6より長いベース部3aに環状部3bが止めねじ9a,9bによりねじ止め固定されている構成は同様である。この場合、ベース部3a及び環状部3bを備えた取手部3は、台板6に一対の希土類磁石7a,7bが重ねて設けられた長手方向一端側(右端側)において、台板6から外方に延設されている。
【0031】
図9(A)~(C)は、被吸着体5に吸着した図8に示す曲面吸着装置1を剥離させる手順の一例を示す。図9(A)に示すように、曲面吸着装置1は、一対の磁極部材4a,4bの長手方向が被吸着体5である円筒管の母線方向に沿うように線接触で各々吸着されている。一対の磁極部材4a,4bの長手方向で磁束密度が最も高い下端側を軸として、台板6より外方に延設された取手部3を把持して装置本体を矢印方向(反時計回り方向)に例えば90度回転させる。これにより、図9(B)に示すように一対の磁極部材4a,4bと被吸着体5の曲面どうしが各々線接触した状態から点接触した状態に変位する。このように、一対の磁極部材4a,4bと被吸着体5の曲面どうしが線接触から点接触となるため磁気抵抗が増大して吸着力が弱まる。次いで、図9(C)に示すように、台板6よりオーバーハングした取手部3を外方に引っ張ると、一対の磁極部材4a,4bの長手方向で磁束密度が最も低い長手方向左端側が最後に残るため曲面吸着装置1を被吸着体5から容易に剥離することができる。
【0032】
このように、希土類磁石7a,7bが配置された台板6の長手方向一端側から取手部3が外方に延設されていても、延設された取手部3を把持して操作することにより、てこの原理により曲面吸着装置1を一対の磁極部材4a,4bの磁束密度が高い部位を軸として少ない回転力で回転操作することが可能となる。
【0033】
いずれの場合も、希土類磁石7a,7bより離れた延設側の取手部3を把持したまま曲面吸着装置1を一対の磁極部材4a,4bの磁束密度が高い部位を軸として少ない回転力で回転操作することで被吸着体5の吸着面より剥離させることができるので操作性が向上する。
尚、取手部3は、環状の形態に限らず、他の形態、例えば台板6に対してL字型やT字型等に接続する形状であってもよい。また、作業者が台板6を直接把持して操作可能であれば、外付けの取手部3を省略してもよい。
【0034】
[実施例2]
以下、曲面吸着装置1の他例について説明する、実施例1と同一部材には同一番号を付して説明を援用するものとし、以下では異なる構成を中心に説明する。
図10(A)(B)(D)に示すように、台板6の長手方向中央部に一対の希土類磁石7a,7bが隣接して配置されている。具体的には、図10(A)において、平行配置された一対の磁極部材4a,4bの長手方向中央部に希土類磁石7a,7bが重ね合わせて配置されている。希土類磁石7a,7bが設けられていない一対の磁極部材4a,4bの両側部分は台板6との間に空隙部8a,8bが各々形成されている。
【0035】
図10(A)(C)に示すように一対の磁極部材4a,4bは、台板6の長手方向に沿って設けられた半円柱状の突条部材が互いに平行配置されている。突条部材としては、例えば鉄、鉄合金、SUSなどが用いられ、本実施例では、一対の磁極部材4a,4bは、長手方向中央部で希土類磁石7a,7bと重ね合わされ、長手方向両側では、台板6との間に空隙部8a,8bが各々形成されている(図10(A)(D)参照)。
【0036】
図10(A)に示すように、希土類磁石7a,7bの配置から、一対の磁極部材4a,4bから発生する磁束密度は、長手方向中央部が最も高くそれから左右両端に向かって漸進低くなるように変化している。図10(C)の二点鎖線矢印Pに示すように、希土類磁石7a→台板6→希土類磁石7b→磁極部材4b→被吸着体5(図1(C)参照)→磁極部材4aに連なる磁路が形成される。尚、希土類磁石7a,7bの着磁方向は反対であってもよく、その場合の磁路は図10(C)の矢印Pと逆向きとなる。
これにより、一対の磁極部材4a,4bの曲面を被吸着体5の曲面に線接触させることで曲面吸着装置1が吸着保持され(図2参照)、磁極部材4a,4bの磁束密度が高い長手方向中央部を軸として長手方向一端側又は他端側の取手部3を把持して回転操作することで、曲面どうしが線接触状態から点接触状態に変位し装置本体を被吸着体5より容易に剥離させることができる(図3参照)。
【0037】
図11において、図10に示す曲面吸着装置1の組み立ての一例について説明する。台板6には、8本の止めねじ10a,10b,10c,10d,10e,10f,10g,10h(スリーブボルト)を用いて各々ねじ止めする。止めねじ10b,10cは、台板6に希土類磁石7a及び磁極部材4aをこの順に重ね合わせて台板6及び希土類磁石7aを貫通して磁極部材4aを長手方向中央部でねじ止め固定する。また、止めねじ10f,10gは台板6に希土類磁石7b及び磁極部材4bをこの順に重ね合わせ台板6及び希土類磁石7bを貫通して磁極部材4bを長手方向中央部でねじ止め固定する。また、止めねじ10a,10dは、台板6を貫通して空隙部8aを介して対峙する磁極部材4aを長手方向両端側で各々ねじ止め固定する。止めねじ10e,10hは、台板6を貫通し空隙部8bを介して対峙する磁極部材4bを長手方向両端側で各々ねじ止め固定する。これらを、カバー2内に収容して、カバー2上に取手部3を重ね合わせて、止めねじ9a,9bを取手部3及び台板6に各々ねじ止めすることにより一体に組み付けられる。
尚、上記実施形態は装置各部をねじ止め固定する組み立て例を示したが、ねじ止めだけではなく、部材同士を接着剤のみによる固定でもよいし、ねじ止め固定と接着固定を併用してもよい。希土類磁石以外の部材は、溶接固定でもよい。
また、図6乃至図8に示すように、取手部3が装置本体の投影面積より外方にはみ出して(オーバーハング状態で)組み付けられていてもよい。
【0038】
[実施例3]
次に曲面吸着装置1の他例について説明する、実施例1と同一部材には同一番号を付して説明を援用するものとし、以下では異なる構成を中心に説明する。
図12(A)に示すように、装置本体である台板6´として矩形状の非磁性板材が用いられる。この台板6´の長手方向一端側(右端)に希土類永久磁石7aが偏在している。具体的には、図12(B)において、台板6´の長手方向に沿って平行配置された一対の磁極部材4a,4bが、重ね合わせて保持されている。一対の磁極部材4a,4bはかまぼこ状に成形された先端部が曲面を有する突条部材が用いられる。突条部材としては、例えば鉄、鉄合金、SUSなどの磁性材が用いられる。台板6´に隣接する一対の磁極部材4a,4bに挟まれて台板6´の長手方向一端側に偏って希土類磁石7aが重ね合わせて設けられている。希土類磁石7aが設けられていない長手方向他端側は空隙部8aが形成されている(図12D参照)。
【0039】
この希土類磁石7aの配置から、図12(A)に示すように、一対の磁極部材4a,4bから発生する磁束密度は、長手方向右端が最も高く長手方向左端に向かって漸進低くなるように変化している。図12(C)の二点鎖線矢印Pに示すように、例えば、希土類磁石7a→磁極部材4b→被吸着体5(図1(C)参照)→磁極部材4a→希土類磁石7aに連なる磁路が形成される。尚、希土類磁石7aの着磁方向は反対であってもよく、その場合の磁路は図12(C)の矢印Pと逆向きとなる。
これにより、一対の磁極部材4a,4bの曲面を被吸着体5の曲面に線接触させることで曲面吸着装置1が吸着保持され(図2参照)、磁極部材4a,4bの磁束密度が高い長手方向右端側を軸として長手方向左端側の取手部3を把持して回転操作することで、曲面どうしが線接触状態から点接触状態に変位し装置本体を被吸着体5より容易に剥離させることができる(図3参照)。
【0040】
図13において、図12に示す曲面吸着装置1の組み立ての一例について説明する。台板6´には、6本の止めねじ10a,10b,10c,10d,10e,10fが用いられ、希土類磁石7aを磁極部材4a,4b間に固定する2本の止めねじ10g,10hが用いられる。止めねじ10a~10cは、台板6´に磁極部材4aを重ね合わせてねじ止め固定する。また、止めねじ10d~10fは台板6´に磁極部材4bを重ね合わせて磁極部材4aと平行配置となるようにねじ止め固定する。また、止めねじ10g,10hは、磁極部材4b及び希土類磁石7aを貫通して磁極部材4aとねじ止め固定する。これにより、希土類磁石7aを磁極部材4a,4b間に長手方向一端部(右端部)に偏ってねじ止め固定する。これらを、カバー2内に収容して、カバー2上に取手部3を重ね合わせて、止めねじ9a,9bを取手部3及び台板6に各々ねじ止め固定することにより一体に組み付けられる。
尚、上記実施形態は装置各部をねじ止め固定する組み立て例を示したが、ねじ止めだけではなく、部材同士を接着剤のみによる固定でもよいし、ねじ止め固定と接着固定を併用してもよい。希土類磁石以外の部材は、溶接固定でもよい。また、図6乃至図8に示すように、取手部3が装置本体の投影面積より外方にはみ出して(オーバーハング状態で)組み付けられていてもよい。
【0041】
上述した実施例1~3に示す曲面吸着装置1は、装置本体2の吸着面以外がカバー6に覆われていたが、吸着面を含めて全面をモールド樹脂で覆われていてもよい。
【符号の説明】
【0042】
1 曲面吸着装置 2 カバー 3 取手部 3a ベース部 3b 環状部 4a,4b 磁極部材 4c 端部 5 被吸着体 6,6´ 台板 7a,7b 希土類磁石 8a,8b 空隙部 9a,9b,10a,10b,10c,10d,10e,10f,10g,10h 止めねじ
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