(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024117882
(43)【公開日】2024-08-30
(54)【発明の名称】微細セルロース繊維組成物、微細セルロース繊維の水分散液、ポリマー組成物、成形体、及び微細セルロース繊維組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
C08B 5/14 20060101AFI20240823BHJP
C08L 7/00 20060101ALI20240823BHJP
C08L 75/04 20060101ALI20240823BHJP
C08L 1/08 20060101ALI20240823BHJP
【FI】
C08B5/14
C08L7/00 ZAB
C08L75/04
C08L1/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023023948
(22)【出願日】2023-02-20
(71)【出願人】
【識別番号】000006507
【氏名又は名称】横河電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】望月 誠
(72)【発明者】
【氏名】佐古 尚裕
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 健
(72)【発明者】
【氏名】岩本 伸一朗
(72)【発明者】
【氏名】谷 遼太郎
(72)【発明者】
【氏名】江川 紀章
(72)【発明者】
【氏名】横溝 智史
【テーマコード(参考)】
4C090
4J002
【Fターム(参考)】
4C090AA06
4C090BA27
4C090BB12
4C090BB54
4C090BB63
4C090BB95
4C090BD24
4C090BD36
4C090CA47
4C090DA26
4C090DA32
4J002AA00W
4J002AB01X
4J002AB02X
4J002AC01W
4J002CK02W
4J002FD01X
4J002HA09
(57)【要約】
【課題】本開示の目的は、微細セルロース繊維を含むフィルム等の成形体を製造する際の成膜性に優れる微細セルロース繊維組成物、微細セルロース繊維の水分散液、これらを用いて得られるポリマー組成物、成形体、及び微細セルロース繊維組成物の製造方法を提供することである。
【解決手段】本実施形態の一つは、微細セルロース繊維と、金属塩及びアンモニウム塩から選択される1種以上の塩とを含む微細セルロース繊維組成物であり、前記微細セルロース繊維の平均繊維幅が、1nm以上1000nm以下であり、前記微細セルロース繊維は、下記一般式(1)で表される硫酸エステル基を有し、前記微細セルロース繊維は、硫酸エステル基に起因する硫黄導入量が、0.3mmol/g以上3.0mmol/g以下であり、前記微細セルロース繊維100質量部に対し、前記塩を0.002質量部以上10質量部以下含む、微細セルロース繊維組成物である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
微細セルロース繊維と、金属塩及びアンモニウム塩から選択される1種以上の塩とを含む微細セルロース繊維組成物であり、
前記微細セルロース繊維の平均繊維幅が、1nm以上1000nm以下であり、
前記微細セルロース繊維は、下記一般式(1)で表される硫酸エステル基を有し、
前記微細セルロース繊維は、硫酸エステル基に起因する硫黄導入量が、0.3mmol/g以上3.0mmol/g以下であり、
前記微細セルロース繊維100質量部に対し、前記塩を0.002質量部以上10質量部以下含む、微細セルロース繊維組成物。
【化1】
(一般式(1)において、nは1以上3以下の整数であり、M
n+はn価のカチオンであり、波線は他の原子との結合部位である。)
【請求項2】
前記塩が、硫酸塩、カルボン酸塩、ホウ酸塩、リン酸塩、及びアンモニウム塩から選択される1種以上の塩である、請求項1に記載の微細セルロース繊維組成物。
【請求項3】
含水率が10質量%以下である、請求項1に記載の微細セルロース繊維組成物。
【請求項4】
粉末状である、請求項1に記載の微細セルロース繊維組成物。
【請求項5】
微細セルロース繊維と、金属塩及びアンモニウム塩から選択される1種以上の塩と、水とを含む微細セルロース繊維の水分散液であり、
前記微細セルロース繊維の平均繊維幅が、1nm以上1000nm以下であり、
前記微細セルロース繊維は、下記一般式(1)で表される硫酸エステル基を有し、
前記微細セルロース繊維は、硫酸エステル基に起因する硫黄導入量が、0.3mmol/g以上3.0mmol/g以下であり、
前記微細セルロース繊維100質量部に対し、前記塩を0.002質量部以上10質量部以下含み、
前記微細セルロース繊維及び前記塩の合計1質量部に対し、水を10質量部以上含む、微細セルロース繊維の水分散液。
【化2】
(一般式(1)において、nは1以上3以下の整数であり、M
n+はn価のカチオンであり、波線は他の原子との結合部位である。)
【請求項6】
前記塩が、硫酸塩、カルボン酸塩、ホウ酸塩、リン酸塩、及びアンモニウム塩から選択される1種以上の塩である、請求項5に記載の微細セルロース繊維の水分散液。
【請求項7】
モノマー、プレポリマー及びポリマーから選択される少なくとも1種以上の化合物を含む、請求項5に記載の微細セルロース繊維の水分散液。
【請求項8】
前記微細セルロース繊維100質量部に対し、前記モノマー、プレポリマー及びポリマーから選択される少なくとも1種以上の化合物を400質量部以上20,000質量部以下含む、請求項7に記載の微細セルロース繊維の水分散液。
【請求項9】
微細セルロース繊維と、金属塩及びアンモニウム塩から選択される1種以上の塩と、ポリマーとを含むポリマー組成物であり、
前記微細セルロース繊維の平均繊維幅が、1nm以上1000nm以下であり、
前記微細セルロース繊維は、下記一般式(1)で表される硫酸エステル基を有し、
前記微細セルロース繊維は、硫酸エステル基に起因する硫黄導入量が、0.3mmol/g以上3.0mmol/g以下であり、
前記微細セルロース繊維100質量部に対し、前記塩を0.002質量部以上10質量部以下含む、ポリマー組成物。
【化3】
(一般式(1)において、nは1以上3以下の整数であり、M
n+はn価のカチオンであり、波線は他の原子との結合部位である。)
【請求項10】
前記塩が、硫酸塩、カルボン酸塩、ホウ酸塩、リン酸塩、及びアンモニウム塩から選択される1種以上の塩である、請求項9に記載のポリマー組成物。
【請求項11】
前記微細セルロース繊維100質量部に対し、前記ポリマーを400質量部以上20,000質量部以下含む、請求項9に記載のポリマー組成物。
【請求項12】
請求項9に記載のポリマー組成物から形成される層を有する、成形体。
【請求項13】
金属塩及びアンモニウム塩から選択される1種以上の塩の水溶液と、微細セルロース繊維とを混合し、微細セルロース繊維の水分散液を得る工程、
前記微細セルロース繊維の水分散液を乾燥し、微細セルロース繊維と、金属塩及びアンモニウム塩から選択される1種以上の塩とを含む微細セルロース繊維組成物を得る工程を有し、
前記微細セルロース繊維の平均繊維幅が、1nm以上1000nm以下であり、
前記微細セルロース繊維は、下記一般式(1)で表される硫酸エステル基を有し、
前記微細セルロース繊維は、硫酸エステル基に起因する硫黄導入量が、0.3mmol/g以上3.0mmol/g以下であり、
前記微細セルロース繊維の水分散液を得る工程において、前記微細セルロース繊維100質量部に対し、前記塩を0.002質量部以上10質量部以下使用する、微細セルロース繊維組成物の製造方法。
【化4】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、微細セルロース繊維組成物、微細セルロース繊維の水分散液、ポリマー組成物、成形体、及び微細セルロース繊維組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
環境意識の高まりからバイオマス由来材料の実用化を目指した検討が世界中で展開されている。例えば木質(木材チップ)から取り出されるセルロースの多くは紙として人々の生活と、CO2固定化の両方に大きく貢献している。
【0003】
塗料・コーティング・化粧品業界におけるバイオマス由来材料の活用機運が高まっている。さらには、これらの業界で使用される原材料の製造においてもバイオマス由来材料の活用機運が高まっている。また、これらの分野を始めとする多くの分野において、安全性やクオリティーオブライフの観点から、人体に悪影響な有機溶剤を水系溶剤に変更することが求められている。
【0004】
セルロースの中でもセルロースナノファイバーは、多くの分野で利用されている、又は利用することが望まれている。セルロースナノファイバーはセルロースの繊維をナノサイズにまで解繊したバイオマス由来の化合物であり、水に良分散し、分散液を乾燥させることで容易に透明なナノセルロース膜を得る事ができる。また、樹脂やゴムと混合させると強度・柔軟性・伸び率の向上といった各種物性の向上につながり、環境適合型の新材料として着目されており、様々な提案が従来から行われている。
【0005】
例えば、特許文献1には、セルロースナノファイバーと金属塩と珪素原子含有疎水化剤とを含むものであることを特徴とする金属塩含有セルロースナノファイバーが開示されている。特許文献1では、セルロースナノファイバーとして、2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-N-オキシル(以下、TEMPO)を触媒としてセルロース分子の水酸基を酸化した酸化セルロースナノファイバーが開示されている。特許文献1には、金属塩含有セルロースナノファイバーであれば、樹脂やゴムの組成物にセルロースナノファイバーを容易に均一分散させることができ、組成物に添加することによって樹脂やゴムの物理的特性を改善することができる旨が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
一般的にセルロースナノファイバーは繊維長が数百nmから最大数10μmであり、繊維幅が1nmから数100nmの繊維である。セルロースナノファイバーの水分散液を用いて、セルロースナノファイバーフィルムを製造する際、水分散液を塗布後、乾燥が進行する際に、塗膜と、基材との間に局所的な膜浮きが生じるため、成膜性の観点から改善が求められていた。
【0008】
そこで、本開示の目的は、微細セルロース繊維を含むフィルム等の成形体を製造する際の成膜性に優れる微細セルロース繊維組成物、微細セルロース繊維の水分散液、これらを用いて得られるポリマー組成物、成形体、及び微細セルロース繊維組成物の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を行ったところ、特定の塩を含む微細セルロース繊維組成物、特定の塩を含む微細セルロース繊維の水分散液を用いることにより、平滑性の高い成形体を得ることができることを見出し、本開示に至った。
【0010】
本実施形態の態様例は、以下の通りに記載される。
【0011】
[1] 微細セルロース繊維と、金属塩及びアンモニウム塩から選択される1種以上の塩とを含む微細セルロース繊維組成物であり、
前記微細セルロース繊維の平均繊維幅が、1nm以上1000nm以下であり、
前記微細セルロース繊維は、下記一般式(1)で表される硫酸エステル基を有し、
前記微細セルロース繊維は、硫酸エステル基に起因する硫黄導入量が、0.3mmol/g以上3.0mmol/g以下であり、
前記微細セルロース繊維100質量部に対し、前記塩を0.002質量部以上10質量部以下含む、微細セルロース繊維組成物。
【化1】
(一般式(1)において、nは1以上3以下の整数であり、M
n+はn価のカチオンであり、波線は他の原子との結合部位である。)
[2] 前記塩が、硫酸塩、カルボン酸塩、ホウ酸塩、リン酸塩、及びアンモニウム塩から選択される1種以上の塩である、[1]に記載の微細セルロース繊維組成物。
[3] 含水率が10質量%以下である、[1]又は[2]に記載の微細セルロース繊維組成物。
[4] 粉末状である、[1]~[3]のいずれかに記載の微細セルロース繊維組成物。
[5] 微細セルロース繊維と、金属塩及びアンモニウム塩から選択される1種以上の塩と、水とを含む微細セルロース繊維の水分散液であり、
前記微細セルロース繊維の平均繊維幅が、1nm以上1000nm以下であり、
前記微細セルロース繊維は、下記一般式(1)で表される硫酸エステル基を有し、
前記微細セルロース繊維は、硫酸エステル基に起因する硫黄導入量が、0.3mmol/g以上3.0mmol/g以下であり、
前記微細セルロース繊維100質量部に対し、前記塩を0.002質量部以上10質量部以下含み、
前記微細セルロース繊維及び前記塩の合計1質量部に対し、水を10質量部以上含む、微細セルロース繊維の水分散液。
【化2】
(一般式(1)において、nは1以上3以下の整数であり、M
n+はn価のカチオンであり、波線は他の原子との結合部位である。)
[6] 前記塩が、硫酸塩、カルボン酸塩、ホウ酸塩、リン酸塩、及びアンモニウム塩から選択される1種以上の塩である、[5]に記載の微細セルロース繊維の水分散液。
[7] モノマー、プレポリマー及びポリマーから選択される少なくとも1種以上の化合物を含む、[5]又は[6]に記載の微細セルロース繊維の水分散液。
[8] 前記微細セルロース繊維100質量部に対し、前記モノマー、プレポリマー及びポリマーから選択される少なくとも1種以上の化合物を400質量部以上20,000質量部以下含む、[7]に記載の微細セルロース繊維の水分散液。
[9] 微細セルロース繊維と、金属塩及びアンモニウム塩から選択される1種以上の塩と、ポリマーとを含むポリマー組成物であり、
前記微細セルロース繊維の平均繊維幅が、1nm以上1000nm以下であり、
前記微細セルロース繊維は、下記一般式(1)で表される硫酸エステル基を有し、
前記微細セルロース繊維は、硫酸エステル基に起因する硫黄導入量が、0.3mmol/g以上3.0mmol/g以下であり、
前記微細セルロース繊維100質量部に対し、前記塩を0.002質量部以上10質量部以下含む、ポリマー組成物。
【化3】
(一般式(1)において、nは1以上3以下の整数であり、M
n+はn価のカチオンであり、波線は他の原子との結合部位である。)
[10] 前記塩が、硫酸塩、カルボン酸塩、ホウ酸塩、リン酸塩、及びアンモニウム塩から選択される1種以上の塩である、[9]に記載のポリマー組成物。
[11] 前記微細セルロース繊維100質量部に対し、前記ポリマーを400質量部以上20,000質量部以下含む、[9]又は[10]に記載のポリマー組成物。
[12] [9]~[11]のいずれかに記載のポリマー組成物から形成される層を有する、成形体。
[13] 金属塩及びアンモニウム塩から選択される1種以上の塩の水溶液と、微細セルロース繊維とを混合し、微細セルロース繊維の水分散液を得る工程、
前記微細セルロース繊維の水分散液を乾燥し、微細セルロース繊維と、金属塩及びアンモニウム塩から選択される1種以上の塩とを含む微細セルロース繊維組成物を得る工程を有し、
前記微細セルロース繊維の平均繊維幅が、1nm以上1000nm以下であり、
前記微細セルロース繊維は、下記一般式(1)で表される硫酸エステル基を有し、
前記微細セルロース繊維は、硫酸エステル基に起因する硫黄導入量が、0.3mmol/g以上3.0mmol/g以下であり、
前記微細セルロース繊維の水分散液を得る工程において、前記微細セルロース繊維100質量部に対し、前記塩を0.002質量部以上10質量部以下使用する、微細セルロース繊維組成物の製造方法。
【化4】
【発明の効果】
【0012】
本開示により、微細セルロース繊維を含むフィルム等の成形体を製造する際の成膜性に優れる微細セルロース繊維組成物、微細セルロース繊維の水分散液、これらを用いて得られるポリマー組成物、成形体、及び微細セルロース繊維組成物の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本実施形態の、微細セルロース繊維組成物、微細セルロース繊維の水分散液、ポリマー組成物、成形体、及び微細セルロース繊維組成物の製造方法について、詳細に説明する。
【0014】
本実施形態の一態様は、微細セルロース繊維と、金属塩及びアンモニウム塩から選択される1種以上の塩とを含む微細セルロース繊維組成物であり、前記微細セルロース繊維の平均繊維幅が、1nm以上1000nm以下であり、前記微細セルロース繊維は、下記一般式(1)で表される硫酸エステル基を有し、前記微細セルロース繊維は、硫酸エステル基に起因する硫黄導入量が、0.3mmol/g以上3.0mmol/g以下であり、前記微細セルロース繊維100質量部に対し、前記塩を0.002質量部以上10質量部以下含む、微細セルロース繊維組成物である。
【0015】
本実施形態の一態様は、微細セルロース繊維と、金属塩及びアンモニウム塩から選択される1種以上の塩と、水とを含む微細セルロース繊維の水分散液であり、前記微細セルロース繊維の平均繊維幅が、1nm以上1000nm以下であり、前記微細セルロース繊維は、下記一般式(1)で表される硫酸エステル基を有し、前記微細セルロース繊維は、硫酸エステル基に起因する硫黄導入量が、0.3mmol/g以上3.0mmol/g以下であり、前記微細セルロース繊維100質量部に対し、前記塩を0.002質量部以上10質量部以下含み、前記微細セルロース繊維及び前記塩の合計1質量部に対し、水を10質量部以上含む、微細セルロース繊維の水分散液である。
【0016】
本実施形態の一態様は、微細セルロース繊維と、金属塩及びアンモニウム塩から選択される1種以上の塩と、ポリマーとを含むポリマー組成物であり、前記微細セルロース繊維の平均繊維幅が、1nm以上1000nm以下であり、前記微細セルロース繊維は、下記一般式(1)で表される硫酸エステル基を有し、前記微細セルロース繊維は、硫酸エステル基に起因する硫黄導入量が、0.3mmol/g以上3.0mmol/g以下であり、前記微細セルロース繊維100質量部に対し、前記塩を0.002質量部以上10質量部以下含む、ポリマー組成物である。
【0017】
本実施形態の一態様は、前記ポリマー組成物から形成される層を有する、成形体である。
【0018】
本実施形態の一態様は、金属塩及びアンモニウム塩から選択される1種以上の塩の水溶液と、微細セルロース繊維とを混合し、微細セルロース繊維の水分散液を得る工程、前記微細セルロース繊維の水分散液を乾燥し、微細セルロース繊維と、金属塩及びアンモニウム塩から選択される1種以上の塩とを含む微細セルロース繊維組成物を得る工程を有し、前記微細セルロース繊維の平均繊維幅が、1nm以上1000nm以下であり、前記微細セルロース繊維は、下記一般式(1)で表される硫酸エステル基を有し、前記微細セルロース繊維は、硫酸エステル基に起因する硫黄導入量が、0.3mmol/g以上3.0mmol/g以下であり、前記微細セルロース繊維の水分散液を得る工程において、前記微細セルロース繊維100質量部に対し、前記塩を0.002質量部以上10質量部以下使用する、微細セルロース繊維組成物の製造方法である。
【0019】
本実施形態の微細セルロース繊維組成物、微細セルロース繊維の水分散液は、微細セルロース繊維を含むフィルム等の成形体を製造する際の成膜性に優れる。これらを用いて得られるポリマー組成物、成形体は、局所的な浮き等の発生が抑制されているため、所望の形状とすることが容易である。
【0020】
以下、本実施形態について、詳細に説明する。
【0021】
(微細セルロース繊維)
本実施形態の微細セルロース繊維組成物、微細セルロース繊維の水分散液、ポリマー組成物、及び成形体は、微細セルロース繊維を含有し、本実施形態の微細セルロース繊維組成物の製造方法では、微細セルロース繊維が用いられる。なお、一般的なセルロース(未変性セルロース)は、グルコースがβ-1,4-グリコシド結合した多糖類であり、(C6H10O5)nで示されるが、本実施形態における微細セルロース繊維は、硫酸エステル基を有することからも明らかなように、変性されたセルロースから構成される繊維である。
【0022】
微細セルロース繊維の平均繊維幅は、1nm~1000nmであり、1nm~100nmであることが好ましく、2nm~10nmであることがより好ましい。微細セルロース繊維の平均繊維長は、特に制限はないが、通常は0.1μm~6μmであり、0.1μm~2μmであることが好ましい。
【0023】
平均繊維幅及び平均繊維長は、例えば原子間力顕微鏡(SPM-9700HT、株式会社島津製作所製)を用いて、任意に選択した50本の繊維における繊維幅(繊維径(円相当直径))及び繊維長を計測し、それぞれ加算平均値をとることで測定することができる。平均繊維幅及び平均繊維長は硫酸エステル化反応時間や試薬の配合比を調整することにより、所望の範囲に設定することができる。
【0024】
微細セルロース繊維は、下記一般式(1)で表される硫酸エステル基を有する。なお、微細セルロース繊維を、硫酸エステル化セルロースナノファイバーとも記す。微細セルロース繊維は、通常は繊維を構成するセルロース中のOH基の一部を、一般式(1)で表される硫酸エステル基で置換することにより、硫酸エステル基が導入されている。微細セルロース繊維は、例えば、実施例で示したように、原料パルプを硫酸エステル化及び解繊することにより製造することができる。
【0025】
【化5】
(一般式(1)において、nは1~3の整数であり、M
n+はn価の陽イオンであり、波線は他の原子への結合部位である。)
【0026】
Mn+としては、水素イオン(H+)、金属イオン、アンモニウムイオン等が挙げられる。nが2又は3の場合、すなわちMn+が多価陽イオンである場合、Mn+は、2つ又は3つの-OSO3
-との間でイオン結合を形成する。Mn+としては、nが1、Mn+がM+(1価陽イオン)であることが好ましい態様の一つである。
【0027】
金属イオンとしては、アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン、遷移金属イオン、その他の金属イオンが挙げられる。
【0028】
ここで、アルカリ金属イオンとしては、リチウムイオン(Li+)、ナトリウムイオン(Na+)、カリウムイオン(K+)、ルビジウムイオン(Rb+)、セシウムイオン(Cs+)等が挙げられる。アルカリ土類金属イオンとしては、カルシウムイオン(Ca2+)、ストロンチウムイオン(Sr2+)等が挙げられる。遷移金属イオンとしては、鉄イオン、ニッケルイオン、パラジウムイオン、銅イオン、銀イオン等が挙げられる。その他の金属イオンとしては、ベリリウムイオン、マグネシウムイオン、亜鉛イオン、アルミニウムイオン等が挙げられる。
【0029】
アンモニウムイオンとしては、NH4
+だけでなく、NH4
+の1つ以上の水素原子が有機基に置き換わってできる各種アミン由来のアンモニウムイオンも挙げられる。アンモニウムイオンとしては、例えば、NH4
+、第四級アンモニウムカチオン、アルカノールアミンイオン、ピリジニウムイオン等が挙げられる。
【0030】
Mn+としては、微細セルロース繊維固形物の各用途における加工性の観点から、水素イオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、カルシウムイオン、又は第四級アンモニウムカチオンが好ましく、水素イオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、又はカルシウムイオンであることがより好ましく、ナトリウムイオン(Na+)であることが特に好ましい。上記一般式(1)で表される硫酸エステル基が有するMn+としては1種のみであってもよく、2種以上であってもよい。
【0031】
微細セルロース繊維が、繊維を構成するセルロース中のOH基の一部を、一般式(1)で表される硫酸エステル基で置換することにより、硫酸エステル基が導入されている場合には、波線は前記OH基が結合していた炭素原子への結合部位である。
【0032】
微細セルロース繊維は、上記一般式(1)で表される硫酸エステル基の他に、他の置換基を有していてもよい。ここで、微細セルロース繊維が、上記一般式(1)で表される硫酸エステル基以外の基、すなわち、他の置換基を有する場合、他の置換基は通常微細セルロース繊維を構成するセルロース中のOH基の少なくとも1つと置換されている。他の置換基としては、例えば、特に限定されないが、アニオン性置換基及びその塩、エステル基、エーテル基、アシル基、アルデヒド基、アルキル基、アルキレン基、アリール基、これらの2種以上の組み合わせ等が挙げられる。他の置換基が2種以上の組み合わせの場合、それぞれの置換基の含有比率は限定されない。他の置換基としては、中でも、ナノ分散性の観点からアニオン性置換基及びその塩、又はアシル基が好ましい。アニオン性置換基及びその塩としては、特にカルボキシ基、リン酸エステル基、亜リン酸エステル基、ザンテート基が好ましい。アニオン性置換基が塩の形態である場合、ナノ分散性の観点からナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩が特に好ましい。また特に好ましいアシル基としては、ナノ分散性の観点からアセチル基が好ましい。
【0033】
微細セルロース繊維は、硫酸エステル基に起因する硫黄導入量が、0.3mmol/g以上、3.0mmol/g以下である。硫酸エステル基導入量は、前記範囲内で、用途等に応じて任意の適切な値に設定することができる。微細セルロース繊維の、硫酸エステル基に起因する硫黄導入量は、微細セルロース繊維1g当たりの硫黄含有率(mmol)で表すことができる。硫黄導入量は、0.5mmol/g以上、3.0mmol/g以下であることが好ましく、0.7mmol/g以上、3.0mmol/g以下であることがより好ましい。硫黄導入量が前記範囲内であると、微細セルロース繊維組成物が高い水分散性を有する傾向にあるため好ましい。
【0034】
硫黄導入量は、例えば実施例で記載した燃焼吸収-イオンクロマトグラフィー(IC)法(燃焼吸収-IC法、燃焼IC法)により求めることができる。硫黄導入量は、例えばパルプを解繊する際に用いる溶液(解繊溶液)中の硫酸等の試薬の濃度、解繊溶液に対するパルプの量、反応時間や温度等を制御することにより、調整することができる。
【0035】
(塩)
本実施形態の微細セルロース繊維組成物、微細セルロース繊維の水分散液、ポリマー組成物、及び成形体は、金属塩及びアンモニウム塩から選択される1種以上の塩を含有し、本実施形態の微細セルロース繊維組成物の製造方法では、金属塩及びアンモニウム塩から選択される1種以上の塩が用いられる。前記塩は1種単独でも、2種以上であってもよい。前記塩が、硫酸塩、カルボン酸塩、ホウ酸塩、リン酸塩、及びアンモニウム塩から選択される1種以上の塩であることが好ましい態様の一つである。
【0036】
硫酸塩としては、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、硫酸マグネシウム、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、硫酸ストロンチウム、硫酸銀(I)、及び硫酸アンモニウムから選択される1種以上の塩が挙げられる。
【0037】
カルボン酸塩とは、1分子中にカルボキシル基を1個以上有する化合物(カルボン酸)と塩基との塩である。カルボン酸塩としては特に制限はないが、高分子(例えばゴムや樹脂)と複合化する場合には、水及び有機溶媒いずれにも可溶なものを用いることが好ましい。カルボン酸としては、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、3-クロロプロピオン酸、2-クロロプロピオン酸等の脂肪族カルボン酸類、乳酸、3-ヒドロキシ酪酸、4-ヒドロキシ酪酸、マンデル酸等のヒドロキシカルボン酸類、又は脂肪族ヘテロ環カルボン酸類等が挙げられる。カルボン酸としては酢酸が好ましい態様の一つである。脂肪族ヘテロ環カルボン酸類は脂肪族ヘテロ環にカルボキシル基が結合した化合物であり、カルボキシル基以外の置換基を有していてもよい。カルボン酸と塩を作る塩基はナトリウムイオン、カリウムイオン、リチウムイオン等のアルカリ金属のイオン、カルシウムイオン等のアルカリ土類金属のイオン、又はメチルアミン、エチルアミン、トリエチルアミン等のアミン類等を挙げることができる。カルボン酸塩としては、カルボン酸ナトリウム塩、カルボン酸カルシウム塩が好ましい態様の一つである。
【0038】
ホウ酸塩としては、ホウ酸(B(OH)3)、又はホウ酸が脱水縮合したメタホウ酸やポリホウ酸等と、アルカリ金属、アルカリ土類金属又はアンモニウムとの塩が挙げられる。ホウ酸塩としては、例えば含む四ホウ酸ナトリウム、四ホウ酸リチウム、四ホウ酸カリウム、四ホウ酸カルシウム、メタホウ酸ナトリウム、メタホウ酸カリウム、メタホウ酸リチウム、メタホウ酸カルシウム、四ホウ酸アンモニウム等を挙げることができる。
【0039】
リン酸塩としては、リン酸(PO4
3-)又はその重合体であるポリリン酸と、アルカリ金属、アルカリ土類金属又はアンモニウムとの塩が挙げられる。リン酸塩としては、例えばリン酸ナトリウム、リン酸カリウム、リン酸カルシウム、リン酸リチウム、リン酸アンモニウム、ポリリン酸ナトリウム、ポリリン酸カリウム、ポリリン酸カルシウム、ポリリン酸リチウム、ポリリン酸アンモニウム等を挙げることができる。
【0040】
アンモニウム塩としては、NH4X(Xは1価の塩基である)又はNR4X(Rはそれぞれ独立に水素原子又はアルキル基であり、Xは1価の塩基である)で表される。Xとしては、例えばハロゲンイオン、硫酸イオン、酢酸イオン、硝酸イオン、又はヒドロキシドイオンが、分散性の観点から好ましい。Rは、それぞれ独立に炭素数1~4のアルキル基であると、高分子(例えば、ゴム又は樹脂)と複合化する際の分散性に優れるため好ましい。アンモニウム塩としては、例えば硫酸アンモニウム、酢酸アンモニウム、ギ酸アンモニウム、テトラメチルアンモニウムクロライド、テトラエチルアンモニウムクロライド、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド等を挙げることができる。
【0041】
(微細セルロース繊維組成物)
本実施形態の微細セルロース繊維組成物は、微細セルロース繊維と、金属塩及びアンモニウム塩から選択される1種以上の塩とを含み、前記微細セルロース繊維100質量部に対し、前記塩を0.002質量部以上10質量部以下含む。微細セルロース繊維組成物は、前記微細セルロース繊維及び前記塩以外の成分を含んでいてもよいが、前記微細セルロース繊維及び前記塩のみから形成されていてもよい。また、微細セルロース繊維組成物は完全に水を含まない状態である必要は無く、通常は水を少量含んでいる。
【0042】
本実施形態の微細セルロース繊維組成物の含水率は、微細セルロース繊維組成物に含まれる成分、特に前記微細セルロース繊維及び前記塩以外の成分の種類や量によっても異なる。本実施形態の微細セルロース繊維組成物は例えば、含水率が10質量%以下であってもよく、7質量%以下であってもよく、5質量%以下であってもよい。前記微細セルロース繊維組成物の含水率の下限としては特に制限はなく、例えば1質量%以上であってもよく、3質量%以上であってもよい。特に、本実施形態の微細セルロース繊維組成物が、前記微細セルロース繊維、前記塩及び水を主成分とする場合、具体的には微細セルロース繊維組成物100質量%中に、前記微細セルロース繊維、前記塩及び水を合計で95質量%以上、好ましくは97質量%以上含む場合に、含水量が前記範囲であることが好ましい態様の一つである。本実施形態の微細セルロース繊維組成物の外観は、通常は固体状である。本発明において水としては、例えば、水道水、イオン交換水、蒸留水、精製水及び天然水が挙げられ、水道水、イオン交換水、蒸留水、精製水が好ましく、イオン交換水、蒸留水、精製水がより好ましい。
【0043】
微細セルロース繊維組成物の含水率は、例えばJIS P8203に準拠して、求めることができる。
【0044】
微細セルロース繊維組成物に含まれる微細セルロース繊維の量としては、通常は70質量%以上であり、90質量%以上であることが好ましく、95質量%以上であることがより好ましい。また、微細セルロース繊維の量は99質量%以下であることが好ましく、97質量%以下であることがより好ましい。
【0045】
微細セルロース繊維組成物に含まれる塩の量としては、前記微細セルロース繊維100質量部に対し、前記塩を0.002質量部以上10質量部以下であり、0.01質量部以上5質量部以下であることが好ましく、0.02質量部以上1質量部以下であることがより好ましい。前記範囲内では膜を形成した時の浮き抑制と、水分散液とした際の分散性とを両立する観点から好ましい。
【0046】
微細セルロース繊維組成物の形状としては、特に制限はないが、粉末状、チップ状、フレーク状、フィルム状等が挙げられ、粉末状が好ましい。粉末状とは、例えばメジアン径が0.1~1000μmの粉末を意味する。なお、微細セルロース繊維組成物のメジアン径は、例えばレーザ回折・散乱法の規格ISO 13320及びJIS Z 8825に準拠した乾式粒度分布計を用いて測定することができる。なお、粉末状とは、微細セルロース繊維や塩が凝集した粉末状であり、セルロース粒子を意味するものではない。
【0047】
微細セルロース繊維組成物は、前述の微細セルロース繊維及び塩を含み、水を含んでいてもよい。微細セルロース繊維組成物は、前記微細セルロース繊維、及び塩以外の成分を含んでいてもよい。微細セルロース繊維組成物が、前記微細セルロース繊維、及び塩以外の成分を含む場合には、例えば添加物を含んでいてもよい。添加物としては無機添加物であってもよく、有機添加物であってもよい。
【0048】
無機添加物としては、例えば無機微粒子が挙げられる。無機微粒子の例として、シリカ、マイカ、タルク、クレー、カーボン、炭酸塩(例えば炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム)、酸化物(例えば酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化鉄)、セラミックス(例えばフェライト)、又はこれらの混合物の微粒子が挙げられる。無機微粒子は例えば微細セルロース繊維組成物中に、0.09~5質量%の範囲内の量で含まれていてもよい。
【0049】
微細セルロース繊維組成物は、有機添加物として、機能性化合物を含んでもよい。機能性化合物としては、色素、UV吸収剤、酸化防止剤、帯電防止剤、界面活性剤が挙げられる。有機添加物は例えば微細セルロース繊維組成物中に、0.09~5質量%の範囲内の量で含まれていてもよい。
【0050】
本実施形態の微細セルロース繊維組成物は、例えば後述の微細セルロース繊維の水分散液として、各種用途に使用可能である。本実施形態の微細セルロース繊維組成物は、例えば実施例記載の方法により、フィルムやシート等の成形体を得る際の材料として使用することができる。すなわち、一実施態様において、微細セルロース繊維組成物は、成形体用微細セルロース繊維組成物(例えば、フィルム・シート形成用微細セルロース繊維組成物)である。また、本開示には成形体の製造における微細セルロース繊維組成物の使用、フィルム又はシートの製造における微細セルロース繊維組成物の使用が含まれる。
【0051】
(微細セルロース繊維組成物の製造方法)
本実施形態の微細セルロース繊維組成物の製造方法は、金属塩及びアンモニウム塩から選択される1種以上の塩の水溶液と、微細セルロース繊維とを混合し、微細セルロース繊維の水分散液を得る工程、前記微細セルロース繊維の水分散液を乾燥し、微細セルロース繊維と、金属塩及びアンモニウム塩から選択される1種以上の塩とを含む微細セルロース繊維組成物を得る工程を有し、前記微細セルロース繊維の水分散液を得る工程において、前記微細セルロース繊維100質量部に対し、前記塩を0.002質量部以上10質量部以下使用する。本実施形態の製造方法により、上述の微細セルロース繊維組成物を得ることができる。
【0052】
前記水分散液を得る工程では例えば、予め調製した金属塩及びアンモニウム塩から選択される1種以上の塩の水溶液と、微細セルロース繊維とを混合する。該工程に用いる微細セルロース繊維としては、固体状の微細セルロース繊維(例えば粉末)であってもよいが、前記塩が混合されていない微細セルロース繊維の水分散液を、前記塩の水溶液とは別に調製し、前記塩の水溶液と、前記塩が混合されていない微細セルロース繊維の水分散液とを混合することにより、前記水分散液を得る工程を実施してもよい。
【0053】
また、前記水分散液を得る工程では、前記微細セルロース繊維100質量部に対し、前記塩を0.002質量部以上10質量部以下使用するが、0.01質量部以上5質量部以下使用することが好ましく、0.02質量部以上1質量部以下使用することがより好ましい。前記範囲内では水分散液とした際の分散性が良好のため好ましい。
【0054】
前記水分散液を得る工程で得られる微細セルロース繊維の水分散液における微細セルロース繊維の濃度としては、特に制限はないが、通常は0.05~10質量%であり、好ましくは0.3~2質量%である。前記水分散液を得る工程で得られる微細セルロース繊維の水分散液は、前記微細セルロース繊維及び前記塩の合計1質量部に対し、水を10質量部以上含むことが好ましく、90質量部以上含むことがより好ましく、98質量部以上含むことが特に好ましい。なお、水の量の上限としては特に制限はないが、取り扱い性の観点から前記水分散液を得る工程で得られる微細セルロース繊維の水分散液は、前記微細セルロース繊維及び前記塩の合計1質量部に対し、水を99.9質量部以下含むことが好ましく、99.5質量部以下含むことがより好ましい。
【0055】
前記塩が混合されていない微細セルロース繊維の水分散液は、例えば実施例に記載の方法により、セルロースの繊維をナノサイズにまで解繊する際に、硫酸エステル基を導入し、精製を行い、水に分散することにより得ることができる。
【0056】
微細セルロース繊維組成物を得る工程では、微細セルロース繊維の水分散液から分散媒を除去(乾燥)することにより、金属塩及びアンモニウム塩から選択される1種以上の塩を含む微細セルロース繊維組成物を得ることができる。乾燥方法としては、公知の方法を用いることができ、特に限定されない。例えば、凍結乾燥、スプレードライ、圧搾、風乾、熱風乾燥、晶析法、真空乾燥を挙げることができる。乾燥装置は、特に限定されないが、凍結乾燥装置、コニカル乾燥装置、連続式のトンネル乾燥装置、バンド乾燥装置、縦型乾燥装置、垂直ターボ乾燥装置、多重段円板乾燥装置、通気乾燥装置、回転乾燥装置、気流乾燥装置、スプレードライヤー乾燥装置、噴霧乾燥装置、円筒乾燥装置、ドラム乾燥装置、ベルト乾燥装置、スクリューコンベア乾燥装置、加熱管付回転乾燥装置、振動輸送乾燥装置、回分式の箱型乾燥装置、真空箱型乾燥装置、及び撹拌乾燥装置等を単独で又は2つ以上組み合わせて用いることができる。乾燥方法としては、短時間かつ熱による何らかの劣化リスク抑制の観点から凍結乾燥が好ましい。
【0057】
微細セルロース繊維組成物は、必要に応じて乾式粉砕機等を用いて粉砕してもよく、所望の大きさの粉末として、使用、保管、流通に供してもよい。
【0058】
微細セルロース繊維組成物の製造方法で得られる、微細セルロース繊維組成物は、前記微細セルロース繊維、塩及び水以外の成分を含んでいてもよい。具体的には上述の(微細セルロース繊維組成物)の項で記載した添加物を含んでいてもよい。
【0059】
(微細セルロース繊維の水分散液)
本実施形態の微細セルロース繊維の水分散液は、微細セルロース繊維と、金属塩及びアンモニウム塩から選択される1種以上の塩と、水とを含む微細セルロース繊維の水分散液であり、前記微細セルロース繊維100質量部に対し、前記塩を0.002質量部以上10質量部以下含み、前記微細セルロース繊維及び前記塩の合計1質量部に対し、水を10質量部以上含む。微細セルロース繊維の水分散液は、前記微細セルロース繊維、前記塩及び水以外の成分を含んでいてもよいが、前記微細セルロース繊維、前記塩及び水のみから形成されていてもよい。
【0060】
微細セルロース繊維の水分散液に含まれる塩の量としては、前記微細セルロース繊維100質量部に対し、前記塩を0.002質量部以上10質量部以下であり、0.01質量部以上5質量部以下であることが好ましく、0.02質量部以上1質量部以下であることがより好ましい。前記範囲内では水分散液とした際の分散性が良好であるため好ましい。
【0061】
微細セルロース繊維の水分散液は、前記微細セルロース繊維及び前記塩の合計1質量部に対し、水を10質量部以上含み、90質量部以上含むことが好ましく、98質量部以上含むことがより好ましい。なお、水の量の上限としては特に制限はないが、取り扱い性の観点から前記微細セルロース繊維の水分散液は、前記微細セルロース繊維及び前記塩の合計1質量部に対し、水を99.9質量部以下含むことが好ましく、99.5質量部以下含むことがより好ましい。
【0062】
本実施形態の微細セルロース繊維の水分散液は、前記微細セルロース繊維、塩及び水以外の成分を含んでいてもよい。前記微細セルロース繊維、塩及び水以外の成分としては、微細セルロース繊維の水分散液の用途によっても異なるが、例えば材料、塗料・コーティング・化粧品業界等で、水系組成物に配合される各種成分を用いることができる。具体的には上述の(微細セルロース繊維組成物)の項で記載した添加物を含んでいてもよい。
【0063】
本実施形態の微細セルロース繊維の水分散液は、モノマー、プレポリマー及びポリマーから選択される少なくとも1種以上の化合物を含んでいてもよい。該態様では、微細セルロース繊維の水分散液を、塗工し、層を形成する際に、モノマー、プレポリマーの場合には、重合が進行する条件で実施することにより、ポリマー組成物、具体的には、微細セルロース繊維、塩及びポリマーを含む組成物、から形成される層を得ることが可能である。また、微細セルロース繊維の水分散液を、塗工し、層を形成する際に、架橋が進行する条件で実施することにより、ポリマー組成物において、架橋されたゴムを含んでいてもよい。
【0064】
ポリマーとしては、例えば樹脂及びゴムから選択される少なくとも一種のポリマーが挙げられ、例えば、フェノール樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、アルキド樹脂、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエチレン樹脂(例えば、高密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン)、ポリプロピレン樹脂、ポリスチレン樹脂、アクリル樹脂、ポリビニルアルコール、アクリルアミド樹脂、シリコーン樹脂、天然ゴム、合成ゴムが挙げられる。モノマー及びプレポリマーとしては、例えば重合することにより前記ポリマーとなる、モノマー及びプレポリマーが挙げられる。
【0065】
本実施形態の微細セルロース繊維の水分散液が、モノマー、プレポリマー及びポリマーから選択される少なくとも1種以上の化合物を含む場合には、前記微細セルロース繊維100質量部に対し、前記モノマー、プレポリマー及びポリマーから選択される少なくとも1種以上の化合物を400質量部以上20,000質量部以下含むことが好ましく、10,000質量部以上15,000質量部以下含むことがより好ましく、5,000質量部以上10,000質量部以下含むことが更に好ましい。
【0066】
本実施形態の微細セルロース繊維の水分散液は、その調製方法としては特に制限はなく、例えば、前述の(微細セルロース繊維組成物の製造方法)の項で記載した、水分散液を得る工程で得られる水分散液であってもよく、前述の(微細セルロース繊維組成物)の項で記載した微細セルロース繊維組成物を、再度水に分散することにより得られる水分散液であってもよい。また、微細セルロース繊維、塩及び水以外の成分、例えばモノマー、プレポリマー及びポリマーから選択される少なくとも1種以上の化合物は、水分散液を調製する任意のタイミングで添加すればよく、その方法としては特に制限されない。
【0067】
本実施形態の微細セルロース繊維の水分散液は、例えば実施例記載の方法により、フィルムやシート等の成形体を得る際の材料として使用することができる。すなわち、一実施態様において、微細セルロース繊維の水分散液は、成形体用微細セルロース繊維の水分散液(例えば、フィルム・シート形成用微細セルロース繊維の水分散液)である。また、本開示には成形体の製造における微細セルロース繊維の水分散液の使用、フィルム又はシートの製造における微細セルロース繊維の水分散液の使用が含まれる。
【0068】
(ポリマー組成物)
本実施形態のポリマー組成物は、微細セルロース繊維と、金属塩及びアンモニウム塩から選択される1種以上の塩と、ポリマーとを含むポリマー組成物であり、前記微細セルロース繊維100質量部に対し、前記塩を0.002質量部以上10質量部以下含む。
【0069】
ポリマー組成物に含まれる塩の量としては、前記微細セルロース繊維100質量部に対し、前記塩を0.002質量部以上10質量部以下であり、0.01質量部以上5質量部以下であることが好ましく、0.02質量部以上1質量部以下であることがより好ましい。前記範囲内ではポリマー組成物中で塩が良分散するため好ましい。
【0070】
ポリマー組成物に含まれるポリマーとしては例えば、前述の(微細セルロース繊維の水分散液)の項で記載したポリマーが挙げられる。ポリマー組成物は、前記微細セルロース繊維100質量部に対し、前記ポリマーを400質量部以上20,000質量部以下含むことが好ましく、1,000質量部以上15,000質量部以下含むことがより好ましく、5,000質量部以上10,000質量部以下含むことが更に好ましい。
【0071】
本実施形態のポリマー組成物は、その調製方法としては特に制限はなく、例えば、前述の(微細セルロース繊維の水分散液)の項で記載した、ポリマーを含む微細セルロース繊維の水分散液を乾燥すること、又はモノマー若しくはプレポリマーを含む微細セルロース繊維の水分散液を、モノマー若しくはプレポリマーの重合が進む条件下で、乾燥、必要に応じて熱処理を行うことにより得ることができる。
【0072】
(成形体)
本実施形態の成形体は、前述のポリマー組成物から形成される層を有する。成形体は、ポリマー組成物から形成される層を有していればよく、ポリマー組成物から形成される層のみを有する成形体(一層構造の成形体)であっても、ポリマー組成物から形成される層と、他の層とを有する成形体(積層体)であってもよい。
【0073】
本実施形態の成形体は、例えば前述のポリマー組成物を、基材上で特定の形状、例えばフィルム状、シート状で得ることにより、基材及びポリマー組成物から形成される層から構成される成形体(積層体)を得ることができる。また、該成形体(積層体)から、基材を剥離することにより、一層構造の成形体を得ることができる。本実施形態の成形体の形状としては特に制限はないが、フィルム、シート等が挙げられる。
【0074】
基材としては、特に制限はなく、ポリマー、ガラス、金属、紙、布(織布、不織布)等が挙げられる。
【実施例0075】
以下、実施例を挙げて本実施形態を説明するが、本開示はこれらの例によって限定されるものではない。
【0076】
[平均繊維幅]
実施例、比較例における微細セルロース繊維の平均繊維幅は、原子間力顕微鏡(SPM-9700HT、株式会社島津製作所製)を用いて、任意に選択した50本の繊維における繊維幅を計測し、加算平均値をとることで測定した。なお、評価サンプルは以下の方法で調整したものを用いた。
【0077】
微細セルロース繊維が3gとなるように粉末状の微細セルロース繊維組成物(試料)を秤量し、試料を、試料との合計が1000gになるように秤量した蒸留水に加え、ミキサー(G5200、Biolomix製)を用いて3分撹拌することにより0.3質量%の均一な微細セルロース繊維の水分散液(微細セルロース繊維水分散液)を得た。続いて、高圧分散処理機である高圧ホモジナイザー(M-110EH-30、Microfluidics社製)に200μm補助処理モジュールおよび87μmインターアクションチャンバーを取り付け、200MPa条件下で3パス処理する事で、高分散処理を行った。続いて、高分散処理後の0.3質量%の均一な微細セルロース繊維の水分散液1.0gに蒸留水149.0gを加え、ミキサー(G5200、Biolomix製)を用いて3分撹拌することにより0.002質量%の均一な微細セルロース繊維の水分散液を得た。続いて天然マイカ(天然白雲母)基板(15mm×15mm×厚さ0.15mm)にマイクロピペットで0.002質量%の均一な微細セルロース繊維の水分散液を30μL滴下し、0.5時間自然乾燥する事で評価サンプルを得た。
【0078】
[硫黄導入量]
実施例、比較例における微細セルロース繊維の硫黄導入量(mmol/g)は、以下の方法で求めた。
【0079】
微細セルロース繊維の硫黄導入量は、日本ダイオネクス株式会社製のICS-1500を用いた燃焼吸収-IC法により定量した。磁性ボードに乾燥した微細セルロース繊維(0.01g)を入れ、酸素雰囲気(流量:1.5L/分)環状炉(1350℃)にて燃焼させ、発生したガス成分を3%過酸化水素水(20ml)に吸収させて吸収液を得た。得られた吸収液を純水で100mlにメスアップし、希釈液をイオンクロマトグラフィーに供した。測定結果から微細セルロース繊維中の硫酸イオン濃度(質量%)を測定し、微細セルロース繊維1gあたりの硫酸導入量(mmol/g)を算出した。なお、乾燥した微細セルロース繊維は、微細セルロース繊維の水分散液を105℃の雰囲気下で、恒量になるまで乾燥させることにより得た。
【0080】
[含水率評価法]
実施例、比較例で得た微細セルロース繊維と、金属塩及びアンモニウム塩を含む微細セルロース繊維組成物(微細セルロース繊維乾燥体)の水分率(含水率)(質量%)は、JIS P8203に準拠して、微細セルロース繊維組成物の質量に対する水分量で表すことができる。つまり、水分率(質量%)は、下記式から求めることができる。
【0081】
水分率(質量%)=((微細セルロース繊維組成物の質量-微細セルロース繊維組成物の固形分質量)/微細セルロース繊維組成物の質量)×100
(微細セルロース繊維組成物の質量は、測定に供した微細セルロース繊維組成物の質量(g)を意味する。微細セルロース繊維組成物の固形分質量は、測定に供した微細セルロース繊維組成物と同量の微細セルロース繊維組成物を105℃の雰囲気下で2時間、恒量になるまで乾燥させた後に残った固形物の質量(g)を意味する。)
【0082】
[成膜時の膜浮き抑制評価]
<微細セルロース繊維組成物(微細セルロース繊維乾燥体)>
10cm×10cm×3cmのポリスチレン樹脂容器に微細セルロース繊維及び塩を含む固形分濃度0.5%の水分散液を30g流し込み、自然乾燥を5日間行うことでポリスチレン上に、厚さ10μmの乾燥膜を積層した。
【0083】
前記微細セルロース繊維及び塩を含む固形分濃度0.5%の水分散液は、実施例1~17、比較例1~5で得られた粉末状の微細セルロース繊維組成物(微細セルロース繊維乾燥体)を水に分散させることにより調製した。
【0084】
<天然ゴムシート>
各実施例、比較例で得られた、テフロン(登録商標)上の厚さ10μmの天然ゴムシートを、観察対象(乾燥膜)とした。
【0085】
<ウレタン樹脂シート>
各実施例、比較例で得られた、テフロン(登録商標)上の厚さ10μmのウレタン樹脂シートを、観察対象(乾燥膜)とした。
【0086】
<膜浮き抑制評価>
照度750lx(ルクス)の室内で拡大倍率10倍のルーペ(MAGDEPOアイルーペ、Magnifierfactory社製)を用いて乾燥膜の膜浮き状況を観察し、膜浮き部の外周を油性ペン(マッキーペン 極細、ゼブラ社製)でマーキングした。続いて乾燥膜全体を基材のポリスチレン樹脂容器から剥離させ、電子天秤(AUW220D、島津製作所製)を用いて秤量することにより乾燥膜全体質量を測定した。続いて事前に乾燥膜に油性ペンでマーキングしたラインに沿って膜浮き部をカッターナイフで全て切り取り、切り出した全量を膜浮き部として電子天秤(AUW220D、島津製作所製)を用いて秤量することにより膜浮き部の膜質量を測定した。続いて膜浮き部の面積割合を、膜浮き部の面積割合=膜浮き部の膜質量/乾燥膜全体質量×100[%]として算出し、以下の基準で成膜時の膜浮き抑制評価を行った。
【0087】
AA: 膜浮き部の面積割合が0.5%未満
BB: 膜浮き部の面積割合が0.5%以上、2%未満
CC: 膜浮き部の面積割合が2%以上、5%未満
DD: 膜浮き部の面積割合が5%以上
【0088】
[引張強度評価]
実施例18~26及び比較例6~9で得た天然ゴムシート又はウレタン樹脂シートを幅10mm、長さ100mmとなるように試料裁断機(SDL200、株式会社ダンベル製)で裁断することにより、ダンベル型サンプルを作製した。同様の手法により微細セルロース繊維を含まない天然ゴムシート(比較品)のダンベル型サンプル及びウレタン樹脂シート(比較品)のダンベル型サンプルを作製し、比較品とした。なお、天然ゴムシート(比較品)及びウレタン樹脂シート(比較品)は以下の方法で製造した。
【0089】
ダンベル型サンプルを、JIS-C-2151、ASTM-D-882に準じて、テンシロンRTF-2410(株式会社エー・アンド・デイ製)を用いて、グリップ間隔50mm、速度200mm/minで引っ張り、切断(破断)したときの破断強度をそれぞれ3回測定し平均値を求めた。
【0090】
続いて、得られた破断強度の平均値について、天然ゴムシートの破断強度の向上率(実施例18、20、22、24又は比較例6の破断強度/天然ゴムシート(比較品)の破断強度)を求め、以下の基準で破断強度を評価した。
【0091】
同様に、ウレタン複合材膜の破断強度の向上率(実施例19、21、23、25、26又は比較例7~9の破断強度/ウレタン樹脂シート(比較品)の破断強度)を求め、以下の基準で破断強度を評価した。
【0092】
AA: 破断強度の向上率が2.0倍以上
BB: 破断強度の向上率が1.2倍以上2.0倍未満
CC: 破断強度の向上率が1.2倍未満
【0093】
(天然ゴムシート(比較品)の製造方法)
固形分濃度50質量%の天然ゴムラテックス(ケニス株式会社製)20gに蒸留水2,000g、ラジカル発生剤(日油株式会社製「パーヘキサ25B-40」)0.3gを加え、混合物を10cm×10cm×3cmのテフロン(登録商標)のトレイに20g入れて80℃で3日間乾燥させ、膜厚10μmの天然ゴムシート(比較品)を得た。
【0094】
(ウレタン樹脂シート(比較品)の製造方法)
固形分濃度35質量%のウレタンエマルション(ユーコートUWS-145、三洋化成製)28.5gに蒸留水1,977g、ブロックイソシアネート硬化剤(旭化成製「デュラネート17B-60P」)0.05gを加え、混合物を10cm×10cm×3cmのテフロン(登録商標)のトレイに20g入れて室温で7日間乾燥させ、膜厚10μmのウレタン樹脂シート(比較品)を得た。
【0095】
実施例、比較例では、以下の原料を使用した。
<原料>
DMSO(ジメチルスルホキシド)(富士フイルム和光純薬社製)
無水酢酸(富士フイルム和光純薬社製)
98%硫酸(サンワ化学社製)
水酸化ナトリウム(富士フイルム和光純薬社製)
NaCl(富士フイルム和光純薬社製)
酢酸ナトリウム(富士フイルム和光純薬社製)
硫酸ナトリウム(富士フイルム和光純薬社製)
硫酸アンモニウム(富士フイルム和光純薬社製)
酢酸カルシウム一水和物(富士フイルム和光純薬社製)
リン酸ナトリウム(富士フイルム和光純薬社製)
四ホウ酸リチウム(富士フイルム和光純薬社製)
ケイ酸リチウム(富士フイルム和光純薬社製)
2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-N-オキシル(富士フイルム和光純薬社製)
臭化ナトリウム(富士フイルム和光純薬社製)
【0096】
[実施例1]
DMSO150g、無水酢酸25g及び98%硫酸3.35gを300mlのサンプル瓶に入れ、23℃の室温下で磁性スターラーを用いて約30秒撹拌し、解繊溶液を調製した。
【0097】
次いで、解繊溶液に針葉樹クラフトパルプNBKP(日本製紙製)5.0gを加え、23℃の室温下でさらに120分間撹拌し、硫酸エステル化反応を行った。撹拌後、セルロースを含む解繊溶液に蒸留水を250ml加えて反応を停止させ、続いて5質量%の水酸化ナトリウム水溶液をpHが7になるまで加え、反応液を中和した。その後、遠心分離により上澄みを除いた。
【0098】
さらに蒸留水1350mlとエタノール1350mlとを加えて均一分散するまで撹拌した後、遠心分離により上澄みを除いた。同じ手順を繰り返し、合計6回洗浄を行った。なお、各操作における遠心分離の速度は12000rpm、遠心分離時間は50分であった。遠心分離により洗浄した後に蒸留水を加え、全体の重さが1000gになるまで希釈した。
【0099】
次に、ミキサー(G5200、Biolomix製)を用いて3分撹拌することにより硫酸エステル基を有する微細セルロース繊維(0.5質量%)の水分散液を得た。なお、硫酸エステル基を有する微細セルロース繊維の硫黄導入量(硫酸エステル基に起因する硫黄導入量)は、2.5mmol/gであった。なお、硫酸エステル基を有する微細セルロース繊維を、硫酸エステル化微細セルロース繊維とも記す。
【0100】
硫酸エステル基を有する微細セルロース繊維(0.5質量%)の水分散液400gに、20質量%NaCl水溶液を0.1g添加し、スターラーを用いて5分間攪拌を行う事で、硫酸エステル化微細セルロース繊維100質量部に対して1質量部のNaClを含む水分散液(1)を得た。
【0101】
続いて、得られた水分散液(1)を凍結乾燥機(FDU-2110、東京理化器械製)を用いて72時間乾燥させた。続いて、乾式粉砕機(ワンダーブレンダー WB1、大阪ケミカル製)で1分間処理することで硫酸エステル化微細セルロース繊維(硫黄導入量2.5mmol/g)100質量部に対して1質量部のNaClを含む、粉末状の微細セルロース繊維組成物(微細セルロース繊維乾燥体)(1)を得た。
【0102】
[実施例2]
実施例1における20質量%NaCl水溶液の濃度を、0.04質量%に変えた以外は実施例1と同様の操作を行う事により、硫酸エステル化微細セルロース繊維(硫黄導入量2.5mmol/g)100質量部に対して0.002質量部のNaClを含む、粉末状の微細セルロース繊維組成物(微細セルロース繊維乾燥体)(2)を得た。
【0103】
[実施例3]
実施例1における20質量%NaCl水溶液を、20質量%硫酸ナトリウム水溶液に変えた以外は実施例1と同様の操作を行う事により、硫酸エステル化微細セルロース繊維(硫黄導入量2.5mmol/g)100質量部に対して1質量部の硫酸ナトリウムを含む、粉末状の微細セルロース繊維組成物(微細セルロース繊維乾燥体)(3)を得た。
【0104】
[実施例4]
実施例3における20質量%硫酸ナトリウム水溶液の濃度を0.04質量%に変えた以外は実施例3と同様の操作を行う事により、硫酸エステル化微細セルロース繊維(硫黄導入量2.5mmol/g)100質量部に対して0.002質量部の硫酸ナトリウムを含む、粉末状の微細セルロース繊維組成物(微細セルロース繊維乾燥体)(4)を得た。
【0105】
[実施例5]
実施例1における20質量%NaCl水溶液を、20質量%酢酸ナトリウム水溶液に変えた以外は実施例1と同様の操作を行う事により、硫酸エステル化微細セルロース繊維(硫黄導入量2.5mmol/g)100質量部に対して1質量部の酢酸ナトリウムを含む、粉末状の微細セルロース繊維組成物(微細セルロース繊維乾燥体)(5)を得た。
【0106】
[実施例6]
実施例5における20質量%酢酸ナトリウム水溶液の濃度を0.04質量%に変えた以外は実施例5と同様の操作を行う事により、硫酸エステル化微細セルロース繊維(硫黄導入量2.5mmol/g)100質量部に対して0.002質量部の酢酸ナトリウムを含む、粉末状の微細セルロース繊維組成物(微細セルロース繊維乾燥体)(6)を得た。
【0107】
[実施例7]
実施例1における20質量%NaCl水溶液を、20質量%硫酸アンモニウム水溶液に変えた以外は実施例1と同様の操作を行う事により、硫酸エステル化微細セルロース繊維(硫黄導入量2.5mmol/g)100質量部に対して1質量部の硫酸アンモニウムを含む、粉末状の微細セルロース繊維組成物(微細セルロース繊維乾燥体)(7)を得た。
【0108】
[実施例8]
実施例7における20質量%硫酸アンモニウム水溶液の濃度を0.04質量%に変えた以外は実施例7と同様の操作を行う事により、硫酸エステル化微細セルロース繊維(硫黄導入量2.5mmol/g)100質量部に対して0.002質量部の硫酸アンモニウムを含む、粉末状の微細セルロース繊維組成物(微細セルロース繊維乾燥体)(8)を得た。
【0109】
[実施例9]
実施例1における20質量%NaCl水溶液を、2質量%リン酸ナトリウム水溶液に変えた以外は実施例1と同様の操作を行う事により、硫酸エステル化微細セルロース繊維(硫黄導入量2.5mmol/g)100質量部に対して0.1質量部のリン酸ナトリウムを含む、粉末状の微細セルロース繊維組成物(微細セルロース繊維乾燥体)(9)を得た。
【0110】
[実施例10]
実施例1における20質量%NaCl水溶液を、2質量%四ホウ酸リチウム水溶液に変えた以外は実施例1と同様の操作を行う事により、硫酸エステル化微細セルロース繊維(硫黄導入量2.5mmol/g)100質量部に対して0.1質量部の四ホウ酸リチウムを含む、粉末状の微細セルロース繊維組成物(微細セルロース繊維乾燥体)(10)を得た。
【0111】
[実施例11]
実施例1における20質量%NaCl水溶液を、2質量%ケイ酸リチウム水溶液に変えた以外は実施例1と同様の操作を行う事により、硫酸エステル化微細セルロース繊維(硫黄導入量2.5mmol/g)100質量部に対して0.1質量部のケイ酸リチウムを含む、粉末状の微細セルロース繊維組成物(微細セルロース繊維乾燥体)(11)を得た。
【0112】
[実施例12]
実施例1における0.1gの20質量%NaCl水溶液を、0.05gの2質量%硫酸ナトリウム水溶液及び0.05gの2質量%酢酸ナトリウム水溶液に変えた以外は実施例1と同様の操作を行う事により、硫酸エステル化微細セルロース繊維(硫黄導入量2.5mmol/g)100質量部に対して0.05質量部の硫酸ナトリウム及び0.05質量部の酢酸ナトリウムを含む、粉末状の微細セルロース繊維組成物(微細セルロース繊維乾燥体)(12)を得た。
【0113】
[実施例13]
実施例12における硫酸ナトリウム水溶液及び酢酸ナトリウム水溶液の濃度をそれぞれ0.2質量%に変えた以外は実施例12と同様の操作を行う事により、硫酸エステル化微細セルロース繊維(硫黄導入量2.5mmol/g)100質量部に対して0.005質量部の硫酸ナトリウム及び0.005質量部の酢酸ナトリウムを含む、粉末状の微細セルロース繊維組成物(微細セルロース繊維乾燥体)(13)を得た。
【0114】
[実施例14]
実施例5における解繊溶液に針葉樹クラフトパルプNBKP(日本製紙製)を加え23℃の室温下で撹拌する際の時間を120分間から30分間に変え、酢酸ナトリウム水溶液の濃度を20質量%から2質量%に変えた以外は実施例5と同様の操作を行う事により、硫酸エステル化微細セルロース繊維(硫黄導入量0.4mmol/g)100質量部に対して0.1質量部の酢酸ナトリウムを含む、粉末状の微細セルロース繊維組成物(微細セルロース繊維乾燥体)(14)を得た。
【0115】
[実施例15]
実施例5における酢酸ナトリウム水溶液の濃度を20質量%から2質量%に変えた以外は実施例5と同様の操作を行う事により、硫酸エステル化微細セルロース繊維(硫黄導入量2.5mmol/g)100質量部に対して0.1質量部の酢酸ナトリウムを含む、粉末状の微細セルロース繊維組成物(微細セルロース繊維乾燥体)(15)を得た。
【0116】
[実施例16]
実施例15における解繊溶液の調製に使用した98%硫酸の添加量を3.35gから3.75gに変えた以外は実施例15と同様の操作を行う事により、硫酸エステル化微細セルロース繊維(硫黄導入量2.8mmol/g)100質量部に対して0.1質量部の酢酸ナトリウムを含む、粉末状の微細セルロース繊維組成物(微細セルロース繊維乾燥体)(16)を得た。
【0117】
[比較例1]
実施例1において硫酸エステル基を有する微細セルロース繊維(0.5質量%)の水分散液400gに対する、20質量%NaCl水溶液の添加を行わなかった以外は実施例1と同様の操作を行う事により、塩を含まない、且つ硫酸エステル化微細セルロース繊維(硫黄導入量2.5mmol/g)を含む、粉末状の微細セルロース繊維組成物(微細セルロース繊維乾燥体)(c1)を得た。
【0118】
[比較例2]
実施例14における解繊溶液の調製に使用した98%硫酸の添加量を3.35gから1.70gに変えた以外は実施例14と同様の操作を行う事により、硫酸エステル化微細セルロース繊維(硫黄導入量0.2mmol/g)100質量部に対して0.1質量部の酢酸ナトリウムを含む、粉末状の微細セルロース繊維組成物(微細セルロース繊維乾燥体)(c2)を得た。
【0119】
[比較例3]
実施例15における解繊溶液の調製に使用した98%硫酸の添加量を3.35gから4.69gに変えた以外は実施例15と同様の操作を行う事により、硫酸エステル化微細セルロース繊維(硫黄導入量3.5mmol/g)100質量部に対して0.1質量部の酢酸ナトリウムを含む、粉末状の微細セルロース繊維組成物(微細セルロース繊維乾燥体)(c3)を得た。
【0120】
[比較例4]
2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-N-オキシル(TEMPO)0.13mmol及び臭化ナトリウム10mmolを水に溶解させて、250mLの水溶液を得た。
【0121】
この水溶液に、針葉樹クラフトパルプNBKP(日本製紙製)5gを加え、パルプが均一に分散するまで撹拌した。混合物の温度を20℃にした後、次亜塩素酸ナトリウム水溶液(富士フイルム和光純薬株式会社製)32mmolを添加して酸化反応を開始させた。反応中、反応系の温度を20℃に保ち、3N水酸化ナトリウム水溶液を逐次添加することによりpHを10に維持した。3時間反応させた後、結果物をガラスフィルターでろ過し、ろ物を十分に水洗した。以上の操作により、酸化処理されたパルプを得た。
【0122】
イオン交換水を酸化処理されたパルプに添加してスラリーの固形分濃度を0.5質量%に調整し、超高圧ホモジナイザーを用いてこのスラリーを140MPaで3回処理し、TEMPO酸化された微細セルロース繊維(0.5質量%)の水分散液を得た。
【0123】
TEMPO酸化された微細セルロース繊維(0.5質量%)の水分散液400gに、2質量%酢酸ナトリウム水溶液を0.1g添加し、スターラーを用いて5分間攪拌を行う事で、TEMPO酸化された微細セルロース繊維100質量部に対して0.1質量部の酢酸ナトリウムを含む水分散液(c4)を得た。
【0124】
続いて、得られた水分散液(c4)を凍結乾燥機(FDU-2110、東京理化器械製)を用いて72時間乾燥させることで、TEMPO酸化された微細セルロース繊維100質量部に対して0.1質量部の酢酸ナトリウムを含む、粉末状の微細セルロース繊維組成物(微細セルロース繊維乾燥体)(c4)を得た。
【0125】
[比較例5]
針葉樹クラフトパルプNBKP(日本製紙製)に対し、ナイヤガラビーターを用いて2時間30分かけて予備叩解を行った。次いで、石臼型機械解繊器(増幸産業社製「スーパーマスコロイダー」)を用いた解繊処理を2回施し、機械解繊法で作製した微細セルロース繊維(0.5質量%)の水分散液を得た。
【0126】
機械解繊法で作製した微細セルロース繊維(0.5質量%)の水分散液400gに、2質量%酢酸ナトリウム水溶液を0.1g添加し、スターラーを用いて5分間攪拌を行う事で、機械解繊法で作製した微細セルロース繊維100質量部に対して0.1質量部の酢酸ナトリウムを含む水分散液(c5)を得た。
【0127】
続いて、得られた水分散液(c5)を凍結乾燥機(FDU-2110、東京理化器械製)を用いて72時間乾燥させることで、微細セルロース繊維100質量部に対して0.1質量部の酢酸ナトリウムを含む、粉末状の微細セルロース繊維組成物(微細セルロース繊維乾燥体)(c5)を得た。
【0128】
[実施例17]
実施例1における20質量%NaCl水溶液を、2質量%酢酸カルシウム水溶液に変えた以外は実施例1と同様の操作を行う事により、硫酸エステル化微細セルロース繊維(硫黄導入量2.5mmol/g)100質量部に対して0.1質量部の酢酸カルシウムを含む、粉末状の微細セルロース繊維組成物(微細セルロース繊維乾燥体)(17)を得た。
【0129】
実施例1~17及び比較例1~5で得た粉末状の微細セルロース繊維組成物に含まれる微細セルロース繊維(セルロースナノファイバー)(CNF)の種類、該繊維の平均繊維幅、該繊維の硫黄導入量、塩の種類、及び微細セルロース100質量部に対する塩の量を表1に示し、微細セルロース繊維組成物の含水率、成膜時の膜浮き抑制評価の結果を表2に示す。
【0130】
【0131】
【0132】
実施例は比較例と比べて成膜性に優れていることが確認された。
【0133】
[実施例18]
実施例3における20質量%硫酸ナトリウム水溶液の濃度を2質量%に変えた以外は実施例3と同様の操作を行う事により、硫酸エステル化微細セルロース繊維(硫黄導入量2.5mmol/g)100質量部に対して0.1質量部の硫酸ナトリウムを含む、粉末状の微細セルロース繊維組成物(微細セルロース繊維乾燥体)(18)を得た。
【0134】
続いて得られた微細セルロース繊維乾燥体(18)0.5gに蒸留水2,150gを加えて、スターラーを用いて30分間攪拌を行う事で、水分散液を得た。この水分散液と、固形分濃度50質量%の天然ゴムラテックス(ケニス株式会社製)20gとを、常温でスターラーを用いて1時間撹拌した。ここにラジカル発生剤(日油株式会社製「パーヘキサ25B-40」)0.3gを加え、混合物を10cm×10cm×3cmのテフロン(登録商標)のトレイに20g入れて80℃で3日間乾燥させ、テフロン上に、硫酸エステル化微細セルロース繊維及び硫酸エステル化微細セルロース繊維100質量部に対して0.1質量部の硫酸ナトリウムを含む厚さ10μmの天然ゴムシートを得た。
【0135】
[実施例19]
実施例3における20質量%硫酸ナトリウム水溶液の濃度を2質量%に変えた以外は実施例3と同様の操作を行う事により、硫酸エステル化微細セルロース繊維(硫黄導入量2.5mmol/g)100質量部に対して0.1質量部の硫酸ナトリウムを含む、粉末状の微細セルロース繊維組成物(微細セルロース繊維乾燥体)(19)を得た。
【0136】
続いて得られた微細セルロース繊維乾燥体(19)0.5gに蒸留水2,127gを加えて、スターラーを用いて30分間攪拌を行う事で、水分散液を得た。この水分散液と、固形分濃度35質量%のウレタンエマルション(ユーコートUWS-145、三洋化成製)28.5gとを、常温でスターラーを用いて1時間撹拌した。ここにブロックイソシアネート硬化剤(旭化成製「デュラネート17B-60P」)0.05gを加え、混合物を10cm×10cm×3cmのテフロン(登録商標)のトレイに20g入れて室温で7日間乾燥させ、テフロン上に、硫酸エステル化微細セルロース繊維及び硫酸エステル化微細セルロース繊維100質量部に対して0.1質量部の硫酸ナトリウムを含む厚さ10μmのウレタン樹脂シートを得た。
【0137】
[実施例20]
実施例18における2質量%硫酸ナトリウム水溶液の代わりに2質量%酢酸ナトリウム水溶液に変えた以外は実施例18と同様の操作を行う事により、テフロン上に、硫酸エステル化微細セルロース繊維及び硫酸エステル化微細セルロース繊維100質量部に対して0.1質量部の酢酸ナトリウムを含む厚さ10μmの天然ゴムシートを得た。
【0138】
[実施例21]
実施例19における2質量%硫酸ナトリウム水溶液の代わりに2質量%酢酸ナトリウム水溶液に変えた以外は実施例19と同様の操作を行う事により、テフロン上に、硫酸エステル化微細セルロース繊維及び硫酸エステル化微細セルロース繊維100質量部に対して0.1質量部の酢酸ナトリウムを含む厚さ10μmのウレタン樹脂シートを得た。
【0139】
[実施例22]
実施例18における0.1gの2質量%硫酸ナトリウム水溶液を、0.05gの2質量%硫酸ナトリウム水溶液及び0.05gの2質量%酢酸ナトリウム水溶液に変えた以外は実施例18と同様の操作を行う事により、テフロン上に、硫酸エステル化微細セルロース繊維並びに硫酸エステル化微細セルロース繊維100質量部に対して0.05質量部の硫酸ナトリウム及び0.05質量部の酢酸ナトリウムを含む厚さ10μmの天然ゴムシートを得た。
【0140】
[実施例23]
実施例19における0.1gの2質量%硫酸ナトリウム水溶液を、0.05gの2質量%硫酸ナトリウム水溶液及び0.05gの2質量%酢酸ナトリウム水溶液に変えた以外は実施例19と同様の操作を行う事により、テフロン上に、硫酸エステル化微細セルロース繊維並びに硫酸エステル化微細セルロース繊維100質量部に対して0.05質量部の硫酸ナトリウム及び0.05質量部の酢酸ナトリウムを含む厚さ10μmのウレタン樹脂シートを得た。
【0141】
[実施例24]
実施例18における2質量%硫酸ナトリウム水溶液を、2質量%硫酸アンモニウム水溶液に変えた以外は実施例18と同様の操作を行う事により、テフロン上に、硫酸エステル化微細セルロース繊維及び硫酸エステル化微細セルロース繊維100質量部に対して0.1質量部の硫酸アンモニウムを含む厚さ10μmの天然ゴムシートを得た。
【0142】
[実施例25]
実施例19における2質量%硫酸ナトリウム水溶液を、2質量%硫酸アンモニウム水溶液に変えた以外は実施例19と同様の操作を行う事により、テフロン上に、硫酸エステル化微細セルロース繊維及び硫酸エステル化微細セルロース繊維100質量部に対して0.1質量部の硫酸アンモニウムを含む厚さ10μmのウレタン樹脂シートを得た。
【0143】
[比較例6]
実施例18において2質量%硫酸ナトリウム水溶液の添加を行わなかった以外は実施例18と同様の操作を行う事により、テフロン上に、硫酸エステル化微細セルロース繊維を含む厚さ10μmの天然ゴムシートを得た。
【0144】
[比較例7]
実施例19において2質量%硫酸ナトリウム水溶液の添加を行わなかった以外は実施例19と同様の操作を行う事により、テフロン上に、硫酸エステル化微細セルロース繊維を含む厚さ10μmのウレタン樹脂シートを得た。
【0145】
[比較例8]
2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-N-オキシル(TEMPO)0.13mmol及び臭化ナトリウム10mmolを水に溶解させて、250mLの水溶液を得た。
【0146】
この水溶液に、針葉樹クラフトパルプNBKP(日本製紙製)5gを加え、パルプが均一に分散するまで撹拌した。混合物の温度を20℃にした後、次亜塩素酸ナトリウム水溶液(富士フイルム和光純薬株式会社製)32mmolを添加して酸化反応を開始させた。反応中、反応系の温度を20℃に保ち、3N水酸化ナトリウム水溶液を逐次添加することによりpHを10に維持した。3時間反応させた後、結果物をガラスフィルターでろ過し、ろ物を十分に水洗した。以上の操作により、酸化処理されたパルプを得た。
【0147】
イオン交換水を酸化処理されたパルプに添加してスラリーの固形分濃度を0.5質量%に調整し、超高圧ホモジナイザーを用いてこのスラリーを140MPaで3回処理し、TEMPO酸化された微細セルロース繊維(0.5質量%)の水分散液を得た。
【0148】
TEMPO酸化された微細セルロース繊維(0.5質量%)の水分散液400gに、2質量%酢酸ナトリウム水溶液を0.1g添加し、スターラーを用いて5分間攪拌を行う事で、TEMPO酸化された微細セルロース繊維100質量部に対して0.1質量部の酢酸ナトリウムを含む水分散液(c8)を得た。
【0149】
続いて、得られた水分散液(c8)を凍結乾燥機(FDU-2110、東京理化器械製)を用いて72時間乾燥させることで、TEMPO酸化された微細セルロース繊維100質量部に対して0.1質量部の酢酸ナトリウムを含む、粉末状の微細セルロース繊維組成物(微細セルロース繊維乾燥体)(c8)を得た。
【0150】
続いて得られた微細セルロース繊維乾燥体(c8)0.5gに蒸留水2,127gを加えてスターラーを用いて30分間撹拌し、水分散液を得た。この水分散液と、固形分濃度35質量%のウレタンエマルション(ユーコートUWS-145、三洋化成製)28.5gとを、常温でスターラーを用いて1時間撹拌した。ここにブロックイソシアネート硬化剤(旭化成製「デュラネート17B-60P」)0.05gを加え、混合物を10cm×10cm×3cmのテフロン(登録商標)のトレイに20g入れて室温で7日間乾燥させ、テフロン上に、TEMPO酸化された微細セルロース繊維及びTEMPO酸化された微細セルロース繊維100質量部に対して0.1質量部の酢酸ナトリウムを含む厚さ10μmのウレタン樹脂シートを得た。
【0151】
[比較例9]
針葉樹クラフトパルプNBKP(日本製紙製)に対し、ナイヤガラビーターを用いて2時間30分かけて予備叩解を行った。次いで、石臼型機械解繊器(増幸産業社製「スーパーマスコロイダー」)を用いた解繊処理を2回施し、機械解繊法で作製した微細セルロース繊維(0.5質量%)の水分散液を得た。
【0152】
機械解繊法で作製した微細セルロース繊維(0.5質量%)の水分散液400gに、2質量%酢酸ナトリウム水溶液を0.1g添加し、スターラーを用いて5分間攪拌を行う事で、機械解繊法で作製した微細セルロース繊維100質量部に対して0.1質量部の酢酸ナトリウムを含む水分散液(c9)を得た。
【0153】
続いて、得られた水分散液(c9)を凍結乾燥機(FDU-2110、東京理化器械製)を用いて72時間乾燥させることで、微細セルロース繊維100質量部に対して0.1質量部の酢酸ナトリウムを含む、粉末状の微細セルロース繊維組成物(微細セルロース繊維乾燥体)(c9)を得た。
【0154】
続いて得られた微細セルロース繊維乾燥体(c9)0.5gに蒸留水2,127gを加えてスターラーを用いて30分間撹拌し、水分散液を得た。この水分散液と、固形分濃度35質量%のウレタンエマルション(ユーコートUWS-145、三洋化成製)28.5gとを、常温でスターラーを用いて1時間撹拌した。ここにブロックイソシアネート硬化剤(旭化成製「デュラネート17B-60P」)0.05gを加え、混合物を10cm×10cm×3cmのテフロン(登録商標)のトレイに入れて室温で7日間乾燥させ、テフロン上に、機械解繊法で作製した微細セルロース繊維及び機械解繊法で作製した微細セルロース繊維100質量部に対して0.1質量部の酢酸ナトリウムを含む厚さ10μmのウレタン樹脂シートを得た。
【0155】
[実施例26]
実施例19における2質量%硫酸ナトリウム水溶液を、2質量%酢酸カルシウム水溶液に変えた以外は実施例19と同様の操作を行う事により、テフロン上に、硫酸エステル化微細セルロース繊維及び硫酸エステル化微細セルロース繊維100質量部に対して0.1質量部の酢酸カルシウムを含む厚さ10μmのウレタン樹脂シートを得た。
【0156】
実施例18~26及び比較例6~9で得た粉末状の微細セルロース繊維組成物に含まれる微細セルロース繊維(セルロースナノファイバー)(CNF)の種類、該繊維の平均繊維幅、該繊維の硫黄導入量、塩の種類及び微細セルロース100質量部に対する塩の量を表3に示し、シート形成に使用した材料(天然ゴム又はウレタン樹脂)、成膜時の膜浮き抑制評価、及び引張強度評価の結果を表4に示す。
【0157】
【0158】
【0159】
ゴムや樹脂を含む系においても、実施例は比較例と比べて成膜性に優れていることが確認され、更に実施例は比較例と比べ明らかに強度が向上することが確認された。
【0160】
本明細書中に記載した数値範囲の上限値及び/又は下限値は、それぞれ任意に組み合わせて好ましい範囲を規定することができる。例えば、数値範囲の上限値及び下限値を任意に組み合わせて好ましい範囲を規定することができ、数値範囲の上限値同士を任意に組み合わせて好ましい範囲を規定することができ、また、数値範囲の下限値同士を任意に組み合わせて好ましい範囲を規定することができる。また、本願において、記号「~」を用いて表される数値範囲は、記号「~」の前後に記載される数値のそれぞれを下限値及び上限値として含む。
【0161】
以上、本実施形態を詳述したが、具体的な構成はこの実施形態に限定されるものではなく、本開示の要旨を逸脱しない範囲における設計変更があっても、それらは本開示に含まれるものである。