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特開2024-117897船舶制御装置、船舶制御システム、船舶制御方法、および、船舶制御プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024117897
(43)【公開日】2024-08-30
(54)【発明の名称】船舶制御装置、船舶制御システム、船舶制御方法、および、船舶制御プログラム
(51)【国際特許分類】
   B63H 25/42 20060101AFI20240823BHJP
   B63H 21/21 20060101ALI20240823BHJP
【FI】
B63H25/42 Z
B63H21/21
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023023974
(22)【出願日】2023-02-20
(71)【出願人】
【識別番号】000166247
【氏名又は名称】古野電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000970
【氏名又は名称】弁理士法人 楓国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】植野 秀樹
(57)【要約】
【課題】ジョイスティックを利用しながら推進力の調整を容易に行う。
【解決手段】
船舶制御装置10は、スロットル開度設定部211、上限値設定部212、および、指令信号生成部215を備える。スロットル開度設定部211は、ユーザから操作された第1操作器30の傾倒状態に基づいてスロットル開度を設定する。上限値設定部212は、第1操作器30の回転状態に基づいてスロットル開度の上限値を設定する。指令信号生成部215は、スロットル開度と上限値とに基づいて、スロットル指令信号を生成する。
【選択図】 図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
船舶を操縦する操作器の傾倒状態に基づいてスロットル開度を設定するスロットル開度設定部と、
前記操作器の回転状態に基づいて前記スロットル開度の上限値を設定する上限値設定部と、
前記スロットル開度と前記上限値とに基づいて、スロットル指令信号を生成する指令信号生成部と、
を備える、船舶制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の船舶制御装置であって、
前記指令信号生成部は、前記スロットル開度を前記上限値で補正して前記スロットル指令信号を生成する、
船舶制御装置。
【請求項3】
請求項1に記載の船舶制御装置であって、
前記上限値設定部は、予め設定された前記回転状態と前記上限値との対応関係に基づいて前記上限値を設定する、
船舶制御装置。
【請求項4】
請求項3に記載の船舶制御装置であって、
前記対応関係には、
前記操作器の回転方向の一方端は、前記上限値の最小値が設定され、
前記操作器の前記回転方向の他方端は、前記上限値の最大値が設定される、
船舶制御装置。
【請求項5】
請求項3に記載の船舶制御装置であって、
前記対応関係には、
前記操作器の回転方向にしたがって複数の領域が割り当てられ、
前記上限値は、前記複数の領域毎に設定される、
船舶制御装置。
【請求項6】
請求項5に記載の船舶制御装置であって、
前記複数の領域に設定される各上限値は、前記回転方向の一方端から他方端に向けて段階的に大きくなる、
船舶制御装置。
【請求項7】
請求項5に記載の船舶制御装置であって、
前記複数の領域に割り当てられる回転範囲の大きさの少なくとも一部は、異なる、
船舶制御装置。
【請求項8】
請求項5に記載の船舶制御装置であって、
前記傾倒状態に基づいて、前記船舶の前進または後進を判定する前後進判定部を備え、
前記複数の領域は、前記前進に対応する第1割り当てパターンと、前記後進に対応する第2割り当てパターンと、を有し、
前記第1割り当てパターンと前記第2割り当てパターンは、前記複数の領域の割り当て方が異なる、
船舶制御装置。
【請求項9】
請求項1に記載の船舶制御装置であって、前記操作器は、回転が生じていない基準位置を有し、
前記傾倒状態に基づいて、船舶の前進または後進を判定する前後進判定部を備え、
前記後進に対応する前記基準位置での前記スロットル開度の上限値は、前記前進に対応する前記基準位置での前記スロットル開度の上限値よりも大きい、
船舶制御装置。
【請求項10】
請求項1に記載の船舶制御装置であって、
前記上限値設定部は、前記船舶の走航中に前記回転状態の変化を検知すると、変化後の回転状態に基づいた上限値を設定し、
前記指令信号生成部は、
前記変化後の回転状態に基づいた上限値に基づいて、前記スロットル指令信号を更新する、
船舶制御装置。
【請求項11】
請求項1に記載の船舶制御装置であって、
前記指令信号生成部は、
前記回転状態が前記スロットル開度の間欠制御条件に合うと、前記スロットル開度を間欠制御するスロットル指令信号を生成する、
船舶制御装置。
【請求項12】
請求項1に記載の船舶制御装置であって、
前記操作器の傾倒状態に基づいて指令舵角を指示する舵角指令信号を生成する舵角指令信号生成部を備え、
前記舵角指令信号生成部は、
前記傾倒状態が極小旋回制御条件に合うと、設定可能範囲内で最大の前記指令舵角を指示する舵角指令信号を生成し、
前記指令信号生成部は、
前記スロットル開度を間欠制御するスロットル指令信号を生成する、
船舶制御装置。
【請求項13】
請求項1に記載の船舶制御装置と、
前記操作器と、を備え、
前記操作器は、
前記傾倒状態に応じた前記船舶の船首尾方向に平行な方向のx軸方向位置および前記船舶の右左舷方向に平行なy軸方向位置と、前記回転状態に応じたz軸方向位置とを出力するジョイスティックであり、
前記x軸方向位置は、前記スロットル開度に対応して設定されており、
前記y軸方向位置は、指令舵角の大きさおよび方向に対応して設定されている、
船舶制御システム。
【請求項14】
船舶を操縦する操作器の傾倒状態に基づいてスロットル開度を設定し、
前記操作器の回転状態に基づいて前記スロットル開度の上限値を設定し、
前記スロットル開度と前記上限値とに基づいて、スロットル指令信号を生成する、
船舶制御方法。
【請求項15】
船舶を操縦する操作器の傾倒状態に基づいてスロットル開度を設定し、
前記操作器の回転状態に基づいて前記スロットル開度の上限値を設定し、
前記スロットル開度と前記上限値とに基づいて、スロットル指令信号を生成する、
処理を、演算処理装置に実行させる船舶制御プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船舶の推進力を制御する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、ジョイスティックを用いて操船を行うシステムが記載されている。
【0003】
特許文献1のシステムは、ジョイスティックの傾倒方向および傾倒量に応じて、スラストの方向およびスラスト量を設定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2022-85659号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に示すような従来のシステムでは、推進力の調整が容易ではない。具体的には、ジョイスティックは、ユーザが把持して傾倒量および傾倒方向を操作する。しかしながら、ジョイスティックの可動域は大きくない。したがって、傾倒量によって推進力を調整するだけの従来の構成では、ユーザにとって所望の推進力、すなわち傾倒量にすることが難しい。
【0006】
したがって、本発明の目的は、ジョイスティックを利用しながら推進力の調整を容易に行うことができる船舶制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明の船舶制御装置は、スロットル開度設定部、上限値設定部、および、指令信号生成部を備える。スロットル開度設定部は、船舶を操縦する操作器の傾倒状態に基づいてスロットル開度を設定する。上限値設定部は、操作器の回転状態に基づいてスロットル開度の上限値を設定する。指令信号生成部は、スロットル開度と上限値とに基づいて、スロットル指令信号を生成する。
【0008】
この発明では、操作器の回転状態によって、スロットル開度の上限値を設定できる。したがって、船舶制御装置は、操作器の回転状態によってスロットル開度の上限値を設定した状態で、傾倒によってスロットル開度を調整できる。これにより、船舶制御装置は、推進力の調整を容易に行うことができる。
【0009】
また、この発明の船舶制御装置では、指令信号生成部は、スロットル開度を上限値で補正してスロットル指令信号を生成する。
【0010】
この構成では、スロットル指令信号の生成方法の具体的な一例を示している。この方法によって、操作器の傾倒状態と回転状態からスロットル指令信号を容易に生成できる。
【0011】
また、この発明の船舶制御装置では、上限値設定部は、予め設定された回転状態と上限値との対応関係に基づいて上限値を設定する。
【0012】
この構成では、予め設定された対応関係を用いることで、上限値を容易に設定できる。
【0013】
また、この発明の船舶制御装置は、対応関係において、操作器の回転方向の一方端は上限値の最小値が設定され、操作器の回転方向の他方端は、上限値の最大値が設定される。
【0014】
この構成では、上限値の最小値と最大値が分かり易く、上限値の設定操作が容易になる。
【0015】
また、この発明の船舶制御装置では、対応関係には、回転方向にしたがって複数の領域が割り当てられる。上限値は、複数の領域毎に設定される。
【0016】
この構成では、上限値が回転方向において幅を持つ複数の領域で設定されるので、上限値を選択的に容易に設定できる。
【0017】
また、この発明の船舶制御装置では、複数の領域に設定される各上限値は、回転方向の一方端から他方端に向けて段階的に大きくなる。
【0018】
この構成では、操作器を回転させる方向に応じて、上限値が単調増加または単調減少するので、上限値を容易に設定できる。
【0019】
また、この発明の船舶制御装置では、複数の領域に割り当てられる回転範囲の大きさの少なくとも一部は、異なる。
【0020】
この構成では、利用頻度が高い上限値と、利用頻度が低い上限値とで、対応する領域の大きさを変更できる。これにより、例えば、利用頻度が高い上限値を容易に設定でき、利用頻度が低い上限値に意図せず設定されることを抑制できる。
【0021】
また、この発明の船舶制御装置は、前後進判定部を備える。前後進判定部は、傾倒状態に基づいて、船舶の前進または後進を判定する。複数の領域は、前進に対応する第1割り当てパターンと、後進に対応する第2割り当てパターンと、を有する。第1割り当てパターンと第2割り当てパターンは、複数の領域の割り当て方が異なる。
【0022】
この構成では、前進と後進とで上限値の設定仕様を異ならせることができる。
【0023】
また、この発明の船舶制御装置は、前後進判定部を備える。操作器は、回転が生じていない基準位置を有する。前後進判定部は、傾倒状態に基づいて、船舶の前進または後進を判定する。基準位置でのスロットル開度の上限値は、前進に対応する基準位置でのスロットル開度の上限値よりも大きい。
【0024】
この構成では、通常の操船において前進よりも推進力が必要な後進において、スロットル開度を容易に大きく設定できる。
【0025】
また、この発明の船舶制御装置では、上限値設定部は、船舶の走航中に回転状態の変化を検知すると、変化後の回転状態に基づいた上限値を設定する。指令信号生成部は、変化後の回転状態に基づいた上限値に基づいて、スロットル指令信号を更新する。
【0026】
この構成では、船舶の走航中の操作によって、スロットル開度の調整を行うことができる。
【0027】
また、この発明の船舶制御装置では、指令信号生成部は、回転状態がスロットル開度の間欠制御条件に合うと、スロットル開度を間欠制御するスロットル指令信号を生成する。
【0028】
この構成では、上述のスロットル開度の調整のし易さを実現し、さらに、推進力が過度に大きくなることを抑制できる。
【0029】
また、この発明の船舶制御装置は、舵角指令信号生成部を備える。舵角指令信号生成部は、操作器の傾倒状態に基づいて指令舵角を指示する舵角指令信号を生成する。舵角指令信号生成部は、傾倒状態が極小旋回制御条件に合うと、設定可能範囲内で最大の指令舵角を指示する舵角指令信号を生成する。指令信号生成部は、スロットル開度を間欠制御するスロットル指令信号を生成する。
【0030】
この構成では、上述のスロットル開度の調整のし易さを実現し、さらに、舵角の制御とスロットル開度の間欠制御とを組み合わせて船舶の現在位置から可能な限り小さい半径で旋回を行うことができる。
【0031】
また、この発明の船舶制御システムは、上述の船舶制御装置と操作器とを備える。操作器は、傾倒状態に応じた前記船舶の船首尾方向に平行な方向のx軸方向位置および船舶の右左舷方向に平行なy軸方向位置と、回転状態に応じたz軸方向位置とを出力するジョイスティックである。x軸方向位置は、スロットル開度に対応して設定されており、y軸方向位置は、指令舵角の大きさおよび方向に対応して設定されている。
【0032】
この構成では、船首尾方向とスロットル開度の関係、右左舷方向と指令舵角との関係が分かり易い。したがって、ユーザは、所望の操縦を行い易い。
【図面の簡単な説明】
【0033】
図1図1は、本発明の実施形態に係る船舶制御装置を含む船舶制御システムの構成の一例を示す機能ブロック図である。
図2図2(A)は、ジョイスティックの外観斜視図であり、図2(B)は、ジョイスティックを平面視した図であり、図2(C)、図2(D)は、ジョイスティックの挙動の一例を示す側面図である。
図3図3は、本発明の実施形態に係る船舶制御装置の制御部の一例を示す機能ブロック図である。
図4図4(A)は、各指令値に対する設定概念を示す図であり、図4(B)は、前後進(シフト)およびスロットル開度に対する設定概念を示す表であり、図4(C)は、指令舵角に対する設定概念を示す表である。
図5図5(A)は、前進時の各指令値に対する設定概念を示す図であり、図5(B)は、前進時の対応関係テーブルを示す。
図6図6(A)は、後進時の各指令値に対する設定概念を示す図であり、図6(B)は、後進時の対応関係テーブルを示す。
図7図7は、本発明の実施形態に係るスロットル指令信号生成部の一例を示す機能ブロックである。
図8図8は、本発明の実施形態に係るスロットル指令信号の生成方法の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0034】
本発明の実施形態に係る船舶制御技術(船舶制御装置、船舶制御方法、および、船舶制御プログラム)について、図を参照して説明する。図1は、本発明の実施形態に係る船舶制御装置を含む船舶制御システムの構成の一例を示す機能ブロック図である。
【0035】
(船舶制御システム1および船舶制御装置10の構成)
図1に示すように、船舶制御システム1は、船舶制御装置10、第1操作器30、第2操作器40、推進力発生部91、舵機92、および、舵角センサ920を備える。船舶制御装置10は、制御部20、AP操作部50、センサ60、表示部70、入力部201、および、切替部202を備える。船舶制御システム1は、例えば、オートパイロット制御(自動航行制御)を行う船舶の船舶90に装備される。
【0036】
制御部20、AP操作部50、センサ60、および、表示部70は、例えば、船舶用のデータ通信ネットワーク100によって互いに接続する。また、制御部20は、入力部201、および、切替部202に接続する。
【0037】
第1操作器30は、入力部201に接続する。第1操作器30は、所謂ジョイスティックである。第1操作器30が本発明の「操作器」に対応する。入力部201は、電気信号の入力インターフェースである。
【0038】
第2操作器40は、切替部202に接続する。第2操作器40は、例えば、スロットルレバー、ステアリングホイールである。第1操作器30および第2操作器40は、例えば、船舶90の操舵室に装備されている。
【0039】
推進力発生部91、舵機92、および、舵角センサ920は、制御部20に接続する。制御部20と推進力発生部91とは、例えば、切替部202および推進力用通信網(CAN等)を通じて接続する。制御部20と舵機92は、切替部202およびアナログまたはデジタル通信ラインを通じて接続する。制御部20と舵角センサ920とは、例えば、アナログまたはデジタル通信ラインを通じて接続する。
【0040】
推進力発生部91および舵機92は、例えば、船外機、船内機、船内外機他、各種の推進器等に備えられている。舵機92は、例えば、油圧駆動方式で舵を回動させ、舵角を調整する。
【0041】
推進力発生部91および舵機92は、例えば、船舶に1つずつ備えられている。すなわち、本実施形態の船舶制御装置10が装備される船舶90は、所謂、1軸1舵の船舶である。なお、1軸1舵の船舶とは、多機掛けであっても指令系統は1つであり、舵角およびシフト・スロットルの動作が同期する装備を有する船舶を意味する。
【0042】
舵角センサ920は、舵機92の舵角(実舵角)を計測し、制御部20に出力する。
【0043】
(制御部20の概略制御および概略処理)
制御部20は、例えば、後述する機能を実行させるためのプログラム、当該プログラムを記憶する記憶媒体、当該プログラムを実行する演算処理装置によって実現される。
【0044】
制御部20は、入力部201を通じて、第1操作器30からジョイスティック指令値を受ける。また、制御部20は、AP操作部50からオートパイロット制御に関する設定を受ける。制御部20は、ジョイスティック指令値やオートパイロット制御に関する設定に基づいて、スロットル指令信号および指令舵角を生成する。
【0045】
制御部20は、切替部202を通じてスロットル指令信号を推進力発生部91に出力する。制御部20は、舵角センサ920で計測した実舵角と指令舵角との差分値から舵角指令信号を生成する。制御部20は、切替部202を通じて舵角指令信号を舵機92に出力する。スロットル指令信号は、推進力発生部91におけるシフト設定(F/N/R)およびスロットル開度を指定する信号である。舵角指令信号は、舵機92の転舵量を指定する信号である。
【0046】
(船舶制御装置10の制御部20以外の概略構成および処理)
切替部202は、制御部20からの入力と第2操作器40からの入力とを切り替えて、推進力発生部91および舵機92に出力する。例えば、着桟、離岸、停止状態を含む低速域にある場合は、切替部202は、制御部20からの入力を推進力発生部91および舵機92に出力する。それ以外の場合には、切替部202は、第2操作器40からの入力を推進力発生部91および舵機92に出力する。
【0047】
AP操作部50は、例えば、タッチパネル、物理的なボタンやスイッチ等によって実現される。AP操作部50は、オートパイロット制御に関連する設定を制御部20に出力する。なお、第1操作器30(例えば、ジョイスティック)を用いた操船は、AP操作部50と制御部20とによって実行されるオートパイロット制御の一部として、実行される。ただ、第1操作器30を用いた操船をオートパイロット制御から切り離して実行することも可能である。例えば、低速域に入ると第1操作器30による操船を実行可能にすることもできる。
【0048】
センサ60は、船舶制御装置10が備えられた船舶の船舶90の位置、および、船首方位、船速等の船舶の状態を計測し、制御部20に出力する。例えば、センサ60は、GNSS(例えば、GPS)の測位信号を利用した測位センサ、慣性センサ(速度センサ、加速度センサ、角速度センサ等)、磁気センサ等によって実現される。
【0049】
表示部70は、例えば、液晶パネル等によって実現される。表示部70は、船舶制御に関連する各種の情報や船舶の状態等を表示する。なお、表示部70は、省略することも可能であるが、あることが好ましい。表示部70があることによって、ユーザは、船舶制御の状態、船舶の状態、船舶の制御状態等を容易に把握できる。例えば、表示部70は、後述するスロットル開口度等を表示することができ、ユーザは、これら船舶の制御状態に関連する情報を容易に把握できる。
【0050】
(第1操作器30の構造および操船指令値の決定概念)
図2(A)は、ジョイスティックの外観斜視図であり、図2(B)は、ジョイスティックを平面視した図であり、図2(C)、図2(D)は、ジョイスティックの挙動の一例を示す側面図である。
【0051】
図2(A)、図2(B)に示すように、第1操作器30は、ヘッド31およびシャフト32を備える。シャフト32の根本は、平面的な位置が変化しないように、ベース(例えば、船舶90の操舵室のデッキ等)に固定される。シャフト32の先端には、ヘッド31が装着されている。
【0052】
シャフト32の先端、すなわち、ヘッド31の位置は、ユーザのヘッド31への操作によって、シャフト32の根本に対して変化する。具体的には、デフォルト状態(ユーザがヘッド31を操作していない状態)でのシャフト32の根本の位置を基準点Poにして、シャフト32の軸に直交する二次元平面におけるヘッド31の位置は、ユーザの操作(操縦)によって変化する。例えば、ユーザがヘッド31を押したり引いたりして、シャフト32を傾けることによって、ヘッド31の位置は変化する。
【0053】
さらに、ヘッド31は、シャフト32の軸を中心として回転可能な構造である。
【0054】
第1操作器30は、図示しないジョイスティック指令値生成部を備える。ジョイスティック指令値生成部は、例えば、ヘッド31の二次元平面上での位置、および、ヘッド31の回転量を検出するセンサである。ジョイスティック指令値生成部は、ヘッド31の位置およびヘッド31の回転量に応じて、制御部20に出力するジョイスティック指令値を生成する。
【0055】
具体的には、ジョイスティック指令値生成部は、船首尾方向に平行な方向のヘッド31の位置を、x軸方向の位置として検出し、この位置に基づくジョイスティック指令値(x)を生成する。この際、例えば、ジョイスティック値生成部は、図2(C)に示すように、前進方向を+x方向とし、後進方向を-x方向とする。ヘッド31のx軸方向の位置(ジョイスティックのx軸方向の傾斜量に対応)が、スロットル開度に対応する。スロットル開度は、x軸方向における基準点Poから距離が大きいほど、大きくなるように設定されている。
【0056】
ジョイスティック指令値生成部は、船首尾方向に直交する方向(右左舷方向)のヘッド31の位置を、y軸方向の位置として検出し、この位置に基づくジョイスティック指令値(y)を生成する。この際、例えば、ジョイスティック値生成部は、図2(D)に示すように、右舷方向(右旋方向)を+y方向とし、左舷方向(左旋方向)を-y方向とする。ヘッド31のy軸方向の位置(ジョイスティックのy軸方向の傾斜量に対応)が、指令舵角に対応する。指令舵舵角の絶対値は、y軸方向における基準点Poから距離が大きいほど、大きくなるように設定されている。
【0057】
ジョイスティック指令値生成部は、ヘッド31の回転方向および回転角度(回転量)を検出し、この回転方向と回転角度とに基づいてジョイスティック指令値(z)を生成する。より具体的には、ジョイスティック指令値生成部は、ヘッド31が回転操作されていない状態を基準状態としてヘッド31の回転方向を検出し、例えば右回り(時計回り)を+z方向とし、左回り(反時計回り)を-z方向とし、基準状態から回転量を検出して、ジョイスティック指令値(z)を生成する。
【0058】
ジョイスティック指令値生成部は、これらジョイスティック指令値(x)、ジョイスティック指令値(y)、および、ジョイスティック指令値(z)を船舶制御装置10に出力する。
【0059】
(制御部20)
図3は、本発明の実施形態に係る船舶制御装置の制御部の一例を示す機能ブロック図である。制御部20は、スロットル指令信号生成部21および舵角指令信号生成部22を備える。
【0060】
スロットル指令信号生成部21には、ジョイスティック指令値(x)およびジョイスティック指令値(z)が入力される。スロットル指令信号生成部21は、ジョイスティック指令値(x)およびジョイスティック指令値(z)に基づいて、スロットル開度を指示するスロットル指令信号を生成する。
【0061】
舵角指令信号生成部22には、ジョイスティック指令値(y)が入力される。舵角指令信号生成部22は、ジョイスティック指令値(y)と、後述するジョイスティック指令値(y)と指令舵角との関係に基づいて、指令舵角を指示する舵角指令信号を生成する。
【0062】
(ジョイスティック指令値(x)とスロットル開度との関係、および、ジョイスティック指令値(y)と指令舵角との関係)
図4(A)は、各指令値に対する設定概念を示す図であり、図4(B)は、前後進(シフト)およびスロットル開度に対する設定概念を示す表であり、図4(C)は、指令舵角に対する設定概念を示す表である。なお、図4(B)に示すモードは、それぞれのシフトおよびスロットル開度を実行する操船状態の一例を示すものである。
【0063】
図4(A)、図4(B)に示すように、ジョイスティック指令値(x)は、ヘッド31がデフォルト状態の場合を、x=0(座標原点)とする。ジョイスティック指令値(x)は、前進方向にデフォルト位置から最も遠い場合に最大値+100となる。ジョイスティック指令値(x)は、二次元平面においてヘッド31の位置が+x方向にデフォルト位置からの遠ざかるほど、値が大きくなるように設定される。ジョイスティック指令値(x)は、後進方向にデフォルト位置から最も遠い場合に最小値-100となる。ジョイスティック指令値(x)は、二次元平面においてヘッド31の位置が-x方向にデフォルト位置から遠ざかるほど、値が小さくなるように設定される。
【0064】
シフトおよびスロットル開度は、ジョイスティック指令値(x)によって設定される。例えば、+100≧x≧+10の範囲は、シフトFに設定され、スロットル開度は、FmaxからFminの間に設定される。すなわち、ジョイスティック指令値(x)が+100であれば、スロットル開度はFmaxに設定され、ジョイスティック指令値(x)が+10であれば、スロットル開度はFminに設定される。さらに、ジョイスティック指令値(x)が+100と+10との間には、ジョイスティック指令値(x)に応じたスロットル開度がFmaxとFminとの間の値に設定される。この際、ジョイスティック指令値(x)の変化とスロットル開度の変化とは、例えば単調減少の関係にある。
【0065】
同様に、例えば、-10≧x≧-100の範囲は、シフトRに設定され、スロットル開度は、RminからRmaxの間に設定される。すなわち、ジョイスティック指令値(x)が-10であれば、スロットル開度はRminに設定され、ジョイスティック指令値(x)が-100であれば、スロットル開度はRmaxに設定される。さらに、ジョイスティック指令値(x)が-10と-100との間には、ジョイスティック指令値(x)に応じたスロットル開度がRminとRmaxとの間の値に設定される。この際、ジョイスティック指令値(x)の-方向への変化とスロットル開度の変化とは、例えば単調増加の関係にある。
【0066】
なお、スロットル開度のFmaxおよびRmaxは、推進力発生部91が実現可能なスロットル開度100[%]に限定する必要は無く、適宜設定される。同様に、スロットル開度のFminおよびRminは、スロットル開度0[%]ではなく、適宜(例えば、20[%])設定される。
【0067】
+10>x>-10の範囲はシフトNに設定され、スロットル開度は0[%]に設定される。
【0068】
ジョイスティック指令値(x)とシフトおよびスロットル開度との関係は、スロットル指令信号生成部21等に記憶されていてもよく、これらの関係式を記憶しており、この関係式によって、ジョイスティック指令値(x)からスロットル開度を算出してもよい。
【0069】
図4(A)、図4(C)に示すように、ジョイスティック指令値(y)は、ヘッド31が右舷方向にデフォルト位置から最も遠い場合に最大値+100となる。ジョイスティック指令値(y)は、二次元平面においてヘッド31の位置がデフォルト位置から+y方向に遠ざかるほど、値が大きくなるように設定される。ジョイスティック指令値(y)は、ヘッド31が左舷方向にデフォルト位置から最も遠い場合に最小値-100となる。ジョイスティック指令値(y)は、二次元平面においてヘッド31の位置がデフォルト位置から-y方向に遠ざかるほど、値が小さくなるように設定される。
【0070】
指令舵角は、ジョイスティック指令値(y)によって設定される。例えば、+100≧y≧+10の範囲は、右旋回に設定され、指令舵角は、SH(右旋最大指令舵角)[°]から0[°]の間に設定される。すなわち、ジョイスティック指令値(y)が+100であれば、指令舵角はSH[°]に設定され、ジョイスティック指令値(y)が+10であれば、指令舵角は0[°]に設定される。さらに、ジョイスティック指令値(y)が+100と+10との間には、ジョイスティック指令値(y)に応じた指令舵角がSH[°]と0[°]との間の値に設定される。この際、ジョイスティック指令値(y)の変化と指令舵角とは、例えば単調減少にある。
【0071】
同様に、例えば、-10≧y≧-100の範囲は、左旋回に設定され、指令舵角は、0[°]からPH(左旋最大指令舵角)[°]の間に設定される。すなわち、ジョイスティック指令値(y)が-10であれば、指令舵角は0[°]に設定され、ジョイスティック指令値(y)が-100であれば、指令舵角はPH[°]に設定される。さらに、ジョイスティック指令値(y)が-10と-100との間には、ジョイスティック指令値(y)に応じた指令舵角が0[°]とPH[°]との間の値に設定される。この際、ジョイスティック指令値(y)の変化と指令舵角の変化とは、例えば単調増加の関係にある。
【0072】
+10>y>-10の範囲は舵角制御の不感帯に設定され、指令舵角は0[°]に設定される。
【0073】
ジョイスティック指令値(y)と指令舵角との関係は、舵角指令信号生成部23に記憶されていてもよく、これらの関係式を記憶しており、この関係式によって、ジョイスティック指令値(y)から指令舵角を算出してもよい。
【0074】
(ジョイスティック指令値(z)とスロットル開度の上限値との関係)
(前進(シフトF)時)
図5(A)は、前進時の各指令値に対する設定概念を示す図であり、図5(B)は、前進時の対応関係テーブルを示す。なお、図5(B)に示す用途は、それぞれの領域、z変位、および、スロットル開度の上限値に適する操船状態の一例を示すものである。
【0075】
図5(A)に示すように、ジョイスティック指令値(z)は、ヘッド31がデフォルト状態の場合を、z=0(z変位基準)とする。ヘッド31がデフォルト状態とは、ヘッド31に対する回転操作が行われていない状態である。
【0076】
ジョイスティック指令値(z)は、ヘッド31の回転状態(回転方向および回転量)を表し、z変位によって定義される。z変位は、ヘッド31の先端側から視て右回転方向にデフォルト位置から最も回転している場合に最大値z=+100[%]となる。右回転時には、z変位は、デフォルト状態からの回転量(回転角度の絶対値)が大きくなるほど、値が大きくなるように設定される。z変位は、ヘッド31の先端側から視て左回転方向にデフォルト位置から最も回転している場合に最小値-100となる。左回転時には、z変位は、デフォルト状態からの回転量(回転角度の絶対値)が大きくなるほど、値が小さくなるように設定される。
【0077】
前進時のz変位(ジョイスティック指令値(z))とスロットル開度の上限値との対応関係は、図5(B)に示すような対応関係テーブルに記憶されている。
【0078】
図5(A)、図5(B)に示すように、ヘッド31のz変位とスロットル開度の上限値とは、対応関係が設定されている。例えば、図5(A)、図5(B)の場合、z変位の最小値(z=-100[%])と最大値z=+100[%]との間は、z変位で定義される複数の前進用領域1F、2F、3F、4Fに割り当てられる。
【0079】
前進用領域1Fは、z変位が-100から-90までであり、前進用領域2Fは、z変位が-90から-45までである。前進用領域3Fは、z変位が-45から+90までであり、前進用領域4Fは、z変位が+90から+100までである。なお、これらの領域に割り当てる数値は一例であり、適宜設定できる。
【0080】
そして、前進用領域1Fには、上限値25[%]が設定されており、前進用領域2Fには、上限値30[%]が設定されている。前進用領域3Fには、上限値35[%]が設定されており、前進用領域4Fには、上限値40[%]が設定されている。上限値とは、第1操作器30が最大に傾倒された場合にスロットル開度(Fmax)の補正に用いる値である。
【0081】
(後進(シフトR)時)
図6(A)は、後進時の各指令値に対する設定概念を示す図であり、図6(B)は、後進時の対応関係テーブルを示す。なお、図6(B)に示す用途は、それぞれの領域、z変位、および、スロットル開度の上限値に適する操船状態の一例を示すものである。
【0082】
図6(A)に示すように、後進時も、z変位(ジョイスティック指令値(z))は、前進時と同様に定義される。
【0083】
後進時のz変位(ジョイスティック指令値(z))とスロットル開度の上限値との対応関係は、図6(B)に示すような対応関係テーブルに記憶されている。
【0084】
図6(A)、図6(B)に示すように、ヘッド31のz変位とスロットル開度の上限値とは、対応関係が設定されている。例えば、図6(A)、図6(B)の場合、z変位の最小値(z=-100[%])と最大値z=+100[%]との間は、z変位で定義される複数の後進用領域1R、2R、3R、4Rに割り当てられる。
【0085】
後進用領域1Rは、z変位が-100から-90までであり、後進用領域2Rは、z変位が-90から+45までである。後進用領域3Rは、z変位が+45から+90までであり、後進用領域4Rは、z変位が+90から+100までである。なお、これらの領域に割り当てる数値は一例であり、適宜設定できる。
【0086】
そして、後進用領域1Rには、上限値35[%]が設定されており、後進用領域2Rには、上限値50[%]が設定されている。後進用領域3Rには、上限値55[%]が設定されており、後進用領域4Rには、上限値60[%]が設定されている。この場合の上限値とは、第1操作器30が最大に傾倒された場合にスロットル開度(Rmax)の補正に用いる値である。
【0087】
このように、前進用と後進用とのそれぞれにおいて、z変位(ジョイスティック指令値(z))に応じて、スロットル開度の上限値が関連付けられている。この際、上限値は、z変位を所定の数値範囲で定義した複数の領域毎に設定される。また、上限値は、z変位の最小値からz変位の最大値に向かって段階的に大きくなるように設定される。
【0088】
また、前進用領域1F-4Fの割り当てパターン(第1割り当てパターン)と、後進用領域1R-4Rの割り当てパターン(第2割り当てパターン)とは、その一部が異なる。具体的には、前進用領域2Fは-90<(z変位)<-45であるのに対して、後進用領域2Rは-90<(z変位)<+45である。また、前進用領域3Fは-45<(z変位)<+90であるのに対して、後進用領域2Rは+45<(z変位)<+90である。なお、これらの領域に割り当てる数値および割当てパターンやその分割数は一例であり、適宜設定できる。
【0089】
(スロットル指令信号生成部21)
図7は、本発明の実施形態に係るスロットル指令信号生成部の一例を示す機能ブロックである。スロットル指令信号生成部21は、スロットル開度設定部211、上限値設定部212、第1データベース213、第2データベース214、および、指令信号生成部215を備える。
【0090】
ジョイスティック指令値(x)は、スロットル開度設定部211に入力される。ジョイスティック指令値(z)は、上限値設定部212に入力される。
【0091】
第1データベース213には、ジョイスティック指令値(x)とシフトおよびスロットル開度との対応関係テーブル、すなわち、図4(B)に示した対応関係を記憶した対応関係テーブルが記憶されている。
【0092】
第2データベース214には、ジョイスティック指令値(z)すなわちz変位とスロットル開度の上限値との対応関係テーブル、すなわち、図5(B)、図6(B)に示した対応関係を記憶した対応関係テーブルが記憶されている。
【0093】
スロットル開度設定部211は、ジョイスティック指令値(x)と第1データベースに記憶された対応関係テーブル(図4(B)参照)とに基づいて、シフトおよびスロットル開度を設定する。すなわち、スロットル開度設定部211は、第1操作器30(ジョイスティック)の傾倒方向および傾倒量に基づいてシフトおよびスロットル開度を設定する。
【0094】
スロットル開度設定部211は、シフトおよびスロットル開度を指令信号生成部215に出力する。スロットル開度設定部211は、シフトを上限値設定部212に出力する。
【0095】
上限値設定部212は、z変位に対応するジョイスティック指令値(z)、第2データベースに記憶された対応関係テーブル(図5(B)、図6(B)参照)、および、スロットル開度設定部211で設定されたシフトに基づいて、上限値を設定する。
【0096】
より具体的には、上限値設定部212は、シフトがF(前進)であれば、z変位に対応するジョイスティック指令値(z)、第2データベースに記憶された前進用の対応関係テーブル(図5(B)参照)に基づいて、上限値を設定する。
【0097】
上限値設定部212は、シフトがR(後進)であれば、z変位に対応するジョイスティック指令値(z)、第2データベースに記憶された前進用の対応関係テーブル(図6(B)参照)に基づいて、上限値を設定する。
【0098】
上限値設定部212は、設定した上限値を指令信号生成部215に出力する。
【0099】
指令信号生成部215は、スロットル開度設定部211からのスロットル開度を、上限値設定部212からの上限値で補正する。具体的には、指令信号生成部215は、スロットル開度設定部211からのスロットル開度に、上限値設定部212からの上限値を乗算する。指令信号生成部215は、上限値での補正後のスロットル開度に基づいて、スロットル指令信号を生成する。
【0100】
このような構成によって、船舶制御装置10は、第1操作器30(例えば、ジョイスティック)の回転操作によって、スロットル開度を調整できる。例えば、ユーザは、スロットル開度を意識しすぎることなく第1操作器30を傾倒させて前進や後進を選択した上で、傾倒操作よりも微調整がし易い回転操作によってスロットル開度を調整できる。言い換えれば、ユーザは、第1操作器30を把持しながら、微調整が難しい傾倒操作を行わなくても、回転操作によってスロットル開度を調整できる。
【0101】
これにより、船舶制御装置10は、第1操作器30の傾倒操作のみでスロットル開度を設定するよりも容易に、所望のスロットル開度、すなわち、船舶の推進力を設定できる。したがって、ユーザは、所望の船速を、より容易に操作できる。
【0102】
さらに、上述の構成によって、前進旋回中または後進旋回中に、第1操作器30(より具体的な一例としては、ジョイスティックのヘッド31の位置)を操作可能範囲の4つ角(図4(A)に示す最大の四角形の角部に対応)のいずれかに押し当てたまま、回転操作によるスロットル開度を行うこともできる。これにより、前進旋回中または更新旋回中において、推力の強弱調整をより細かく、かつ容易にでき、外乱や行き脚で膨らみがちな旋回半径を抑制できる。
【0103】
また、図5(B)、図6(B)に示すように、船舶制御装置10では、第1操作器30の回転方向の一方端(上述の場合、左回転の最大位置)に上限値の最小値が設定され、第1操作器30の回転方向の他方端(上述の場合、右回転の最大位置)に上限値の最大値が設定される。これにより、ユーザは、回転方向と上限値の大小関係とを容易に把握でき、上限値を容易に設定できる。
【0104】
また、図5(B)、図6(B)に示すように、船舶制御装置10では、上限値は、z変位を所定の数値範囲で定義した複数の領域毎に設定される。これにより、ユーザは、代表的な複数の上限値、例えば、操船に活用し易い複数の上限値をより容易に設定できる。
【0105】
また、図5(B)、図6(B)に示すように、船舶制御装置10では、上限値は、z変位の最小値からz変位の最大値に向かって段階的に大きくなるように設定される。これにより、第1操作器30を回転操作する方向と上限値の変化の方向とが分かり易い。したがって、ユーザは、上限値をより容易に設定できる。
【0106】
また、図5(A)、図5(B)、図6(A)、図6(B)に示すように、船舶制御装置10では、前進用と後進用とで、複数の領域の割り当てが異なる。これにより、ユーザは、前進用に適した上限値の設定と、後進用に適した上限値の設定とを、より容易に行うことができる。
【0107】
また、図5(A)、図5(B)、図6(A)、図6(B)に示すように、船舶制御装置10では、前進用領域1F-4Fの割り当てパターン(第1割り当てパターン)と、後進用領域1R-4Rの割り当てパターン(第2割り当てパターン)とは、異なる。これにより、前進用と後進用のそれぞれに適した上限値の設定が可能になり、ユーザは、前進用と後進用とでそれぞれに応じて、所望の上限値をより容易に設定できる。
【0108】
また、船舶制御装置10では、第1操作器30のx方向の傾倒量が最大のときのスロットル開度が、第1操作器30を回転操作していないときの上限値と同じである。これにより、ユーザは、第1操作器30の傾倒量を意識せず、最大限傾倒させた状態から、第1操作器30の回転操作によって所望のスロットル開度に設定できる。これにより、スロットル開度の設定し易さはさらに向上し、ユーザは、直進時であっても旋回時であっても、所望の船速での操船をより容易に実現できる。
【0109】
また、図5(B)、図6(B)に示すように、複数の領域における上限値に対して、後進用の上限値は、前進用の上限値よりも大きい。通常、操船において、前進よりも後進の方が大きな推進力を必要とする。したがって、後進用の上限値を前進用の上限値よりも大きくすることで、前進と後進とのそれぞれに適したスロットル開度を設定できる。これにより、ユーザは、前進時も後進時も、所望の推進力を容易に実現でき、所望の操船を容易に実現できる。
【0110】
また、上述の第1操作器30の回転操作による上下値の設定は、船舶の走行中にも実現できる。この場合、船舶制御装置10は、回転操作によって変化したz変位(ジョイスティック指令値(z))に基づいて上限値を設定する。これにより、ユーザは、船舶の走航中の操作によって、スロットル開度の調整を行うことができ、より所望の操船をより容易に実現できる。
【0111】
また、図5(A)、図5(B)、図6(A)、図6(B)に示すように、船舶制御装置10では、スロットル開度の上限値の着桟時最適値を、第1操作器30が回転操作されていないデフォルト状態(z変位が0を含む領域(前進用領域3Fまたは後進用領域2R))に設定している。これにより、ユーザは、第1操作器30の回転操作を意識することなく、着桟に適したスロットル開度(スロットル開度の上下値)を設定できる。
【0112】
また、図5(A)、図5(B)、図6(A)、図6(B)に示すように、船舶制御装置10では、スロットル開度の上限値の離岸時最適値を、z変位が最小値を含む領域(前進用領域1Fまたは後進用領域1R)に設定している。これにより、ユーザは、第1操作器30の回転操作を分かり易い位置に固定しながら、離岸に適したスロットル開度(スロットル開度の上下値)を設定できる。
【0113】
なお、上述の制御に加えて、船舶制御装置10は、スロットル開度の間欠制御を行ってもよい。例えば、船舶制御装置10の制御部20は、間欠制御の有効化の操作入力等を検出した状態において、ジョイスティック指令値(z)がスロットル開度の間欠制御条件に合うか否かを判定する。間欠制御の有効化、および、無効化は、例えば、第1操作器30の周辺に配置された押しボタン式の別の操作子等によって実現できる。例えば、間欠制御の有効化の操作子を操作する(例えば押す)ことで、間欠制御を有効化できる。
【0114】
制御部20のスロットル指令信号生成部21は、ジョイスティック指令値(z)がスロットル開度の間欠制御条件に合うと、スロットル開度を間欠制御するスロットル指令信号を生成する。
【0115】
これにより、船舶制御装置10は、上述のスロットル開度の調整のし易さを実現し、さらに、推進力が過度に大きくなることを抑制できる。これにより、ユーザは、より所望の操船を実現できる。
【0116】
また、上述の制御に加えて、船舶制御装置10は、極小旋回制御を行ってもよい。この場合、舵角指令信号生成部22は、ジョイスティック指令値(x)とジョイスティック指令値(y)とが極小旋回制御条件に合うか否かを判定する。例えば、舵角指令信号生成部22は、ジョイスティック指令値(x)が極小旋回制御用の閾値よりも小さく、ジョイスティック指令値(y)が極小旋回制御用の閾値よりも大きければ、極小旋回制御条件に合うと判定する。
【0117】
舵角指令信号生成部22は、極小旋回制御条件に合うと判定すると、設定可能範囲内で最大の指令舵角を指示する舵角指令信号を生成する。極小旋回とは、実舵角が指令舵角に達してから推進力を発生させて旋回することである。この際、スロットル指令信号生成部21は、スロットル開度を間欠制御するスロットル指令信号を生成する。
【0118】
これにより、上述のスロットル開度の調整のし易さを実現し、さらに、舵角の制御とスロットル開度の間欠制御とを組み合わせて船舶の現在位置から可能な限り小さい半径で旋回を行うことができる。これにより、ユーザは、より多様で所望の操船を実現できる。
【0119】
(スロットル指令信号の生成方法)
図8は、本発明の実施形態に係るスロットル指令信号の生成方法の一例を示すフローチャートである。なお、図8に示す各処理の詳細な内容は、上述の構成および処理の説明において行っているので、必要な箇所を除き、説明は省略する。
【0120】
船舶制御装置10は、第1操作器30からジョイスティック指令値(x)を取得する(S11)。船舶制御装置10は、ジョイスティック指令値(x)に基づいて、スロットル開度を設定する(S12)。
【0121】
船舶制御装置10は、第1操作器30からジョイスティック指令値(z)を取得する(S13)。船舶制御装置10は、ジョイスティック指令値(z)に基づいて、上限値を設定する(S14)。
【0122】
船舶制御装置10は、スロットル開度と上限値とに基づいて、スロットル指令信号を生成する(S15)。
【0123】
<1> 船舶を操縦する操作器の傾倒状態に基づいてスロットル開度を設定するスロットル開度設定部と、
前記操作器の回転状態に基づいて前記スロットル開度の上限値を設定する上限値設定部と、
前記スロットル開度と前記上限値とに基づいて、スロットル指令信号を生成する指令信号生成部と、を備える、船舶制御装置。
【0124】
<2> <1>の船舶制御装置であって、
前記指令信号生成部は、前記スロットル開度を前記上限値で補正して前記スロットル指令信号を生成する、船舶制御装置。
【0125】
<3> <1>または<2>の船舶制御装置であって、
前記上限値設定部は、予め設定された前記回転状態と前記上限値との対応関係に基づいて前記上限値を設定する、船舶制御装置。
【0126】
<4> <3>の船舶制御装置であって、
前記対応関係には、
前記操作器の回転方向の一方端は、前記上限値の最小値が設定され、
前記操作器の前記回転方向の他方端は、前記上限値の最大値が設定される、船舶制御装置。
【0127】
<5> <3>または<4>の船舶制御装置であって、
前記対応関係には、
前記回転方向にしたがって複数の領域が割り当てられ、
前記上限値は、前記複数の領域毎に設定される、船舶制御装置。
【0128】
<6> <5>の船舶制御装置であって、
前記複数の領域に設定される各上限値は、前記回転方向の一方端から他方端に向けて段階的に大きくなる、船舶制御装置。
【0129】
<7> <5>または<6>の船舶制御装置であって、
前記複数の領域に割り当てられる回転範囲の大きさの少なくとも一部は、異なる、船舶制御装置。
【0130】
<8> <5>乃至<7>のいずれかの船舶制御装置であって、
前記傾倒状態に基づいて、前記船舶の前進または後進を判定する前後進判定部を備え、
前記複数の領域は、前記前進に対応する第1割り当てパターンと、前記後進に対応する第2割り当てパターンと、を有し、
前記第1割り当てパターンと前記第2割り当てパターンは、前記複数の領域の割り当て方が異なる、船舶制御装置。
【0131】
<9> <1>乃至<8>のいずれかの船舶制御装置であって、前記操作器は、前記回転が生じていない基準位置を有し、
前記傾倒状態に基づいて、船舶の前進または後進を判定する前後進判定部を備え、
前記後進に対応する前記基準位置での前記スロットル開度の上限値は、前記前進に対応する前記基準位置での前記スロットル開度の上限値よりも大きい、
船舶制御装置。
【0132】
<10> <1>乃至<9>のいずれかの船舶制御装置であって、
前記上限値設定部は、前記船舶の走航中に前記回転状態の変化を検知すると、変化後の回転状態に基づいた上限値を設定し、
前記指令信号生成部は、
前記変化後の回転状態に基づいた上限値に基づいて、前記スロットル指令信号を更新する、船舶制御装置。
【0133】
<11> <1>乃至<10>のいずれかの船舶制御装置であって、
前記指令信号生成部は、
前記回転状態が前記スロットル開度の間欠制御条件に合うと、前記スロットル開度を間欠制御するスロットル指令信号を生成する、船舶制御装置。
【0134】
<12> <1>乃至<11>のいずれかの船舶制御装置であって、
前記操作器の傾倒状態に基づいて指令舵角を指示する舵角指令信号を生成する舵角指令信号生成部を備え、
前記舵角指令信号生成部は、
前記傾倒状態が極小旋回制御条件に合うと、設定可能範囲内で最大の前記指令舵角を指示する舵角指令信号を生成し、
前記指令信号生成部は、
前記スロットル開度を間欠制御するスロットル指令信号を生成する、船舶制御装置。
【0135】
<13> <1>乃至<12>のいずれかの船舶制御装置と、
前記操作器と、を備え、
前記操作器は、
前記傾倒状態に応じた前記船舶の船首尾方向に平行な方向のx軸方向位置および前記船舶の右左舷方向に平行なy軸方向位置と、前記回転状態に応じたz軸方向位置とを出力するジョイスティックであり、
前記x軸方向位置は、前記スロットル開度に対応して設定されており、
前記y軸方向位置は、指令舵角の大きさおよび方向に対応して設定されている、
船舶制御システム。
【符号の説明】
【0136】
1:船舶制御システム
10:船舶制御装置
20:制御部
21:スロットル指令信号生成部
22:舵角指令信号生成部
30:第1操作器
40:第2操作器
50:AP操作部
60:センサ
70:表示部
91:推進力発生部
92:舵機
201:入力部
202:切替部
211:スロットル開度設定部
212:上限値設定部
213:第1データベース
214:第2データベース
215:指令信号生成部
920:舵角センサ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8