(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024117913
(43)【公開日】2024-08-30
(54)【発明の名称】車両用制御装置
(51)【国際特許分類】
B60W 20/10 20160101AFI20240823BHJP
B60K 6/48 20071001ALI20240823BHJP
B60W 10/08 20060101ALI20240823BHJP
B60W 10/02 20060101ALI20240823BHJP
B60L 7/14 20060101ALI20240823BHJP
B60L 15/20 20060101ALI20240823BHJP
B60L 50/16 20190101ALI20240823BHJP
【FI】
B60W20/10
B60K6/48 ZHV
B60W10/08 900
B60W10/02 900
B60L7/14
B60L15/20 K
B60L50/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023024002
(22)【出願日】2023-02-20
(71)【出願人】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】110002066
【氏名又は名称】弁理士法人筒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉本 和貴
(72)【発明者】
【氏名】高山 幸哉
【テーマコード(参考)】
3D202
5H125
【Fターム(参考)】
3D202AA08
3D202BB00
3D202BB01
3D202BB11
3D202BB37
3D202BB53
3D202BB65
3D202BB67
3D202CC05
3D202CC22
3D202CC23
3D202DD01
3D202DD02
3D202DD06
3D202DD18
3D202DD20
3D202DD24
3D202DD41
3D202FF06
3D202FF12
3D202FF13
5H125AA01
5H125AC08
5H125AC12
5H125BA00
5H125BD17
5H125BE05
5H125CA02
5H125CB02
5H125CC01
5H125EE44
(57)【要約】
【課題】車両制動時のエンジンストールを防止する。
【解決手段】車両用制御装置は、エンジンおよびモータジェネレータからなる動力源と、前記動力源と車輪とを接続する動力伝達経路に設けられる摩擦クラッチと、前記モータジェネレータを制御する制御システムと、を有する。前記制御システムは、前記摩擦クラッチが締結される走行状態であり、かつエンジンストールを発生させる車両制動状態であると判定した場合に、前記モータジェネレータのモータトルクをパルス状に変化させるトルク変動制御を実行し、前記摩擦クラッチを締結状態からスリップ状態に移行させる。
【選択図】
図13
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に設けられる車両用制御装置であって、
エンジンおよびモータジェネレータからなる動力源と、
前記動力源と車輪とを接続する動力伝達経路に設けられる摩擦クラッチと、
互いに通信可能に接続されるプロセッサおよびメモリを備え、前記モータジェネレータを制御する制御システムと、
を有し、
前記制御システムは、
前記摩擦クラッチが締結される走行状態であり、かつエンジンストールを発生させる車両制動状態であると判定した場合に、
前記モータジェネレータのモータトルクをパルス状に変化させるトルク変動制御を実行し、前記摩擦クラッチを締結状態からスリップ状態に移行させる、
車両用制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の車両用制御装置において、
前記トルク変動制御は、前記モータトルクをパルス状に変化させ、前記摩擦クラッチの負荷トルクをパルス状に増加させる制御である、
車両用制御装置。
【請求項3】
請求項2に記載の車両用制御装置において、
前記トルク変動制御は、前記モータトルクである力行トルクをパルス状に増加させ、前記負荷トルクをパルス状に増加させる制御である、
車両用制御装置。
【請求項4】
請求項2に記載の車両用制御装置において、
前記トルク変動制御は、前記モータトルクである回生トルクをパルス状に減少させ、前記負荷トルクをパルス状に増加させる制御である、
車両用制御装置。
【請求項5】
請求項1に記載の車両用制御装置において、
前記トルク変動制御は、前記モータトルクを第1変化量でパルス状に変化させた後に、前記モータトルクを前記第1変化量よりも大きな第2変化量でパルス状に変化させる制御である、
車両用制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に設けられる車両用制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両に搭載されるエンジンは、トランスミッション等の動力伝達経路を介して車輪に接続されている。このため、車輪回転速度の急速な低下を伴う急制動時には、エンジン回転数が急速に低下してエンジンストールを招いてしまう虞がある。そこで、エンジンと車輪との間に設けられる摩擦クラッチを滑らせることにより、急制動時におけるエンジン回転数の過度な低下を抑制する技術が提案されている(特許文献1-3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2012-91583号公報
【特許文献2】特許第5419627号公報
【特許文献3】特許第2857666号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、車両制動時に滑らせる摩擦クラッチの応答速度によっては、クラッチ機構の解放タイミングが遅れ、エンジンストールを発生させてしまう虞がある。
【0005】
本発明の目的は、車両制動時のエンジンストールを防止することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
一実施形態に係る車両用制御装置は、車両に設けられる車両用制御装置であって、エンジンおよびモータジェネレータからなる動力源と、前記動力源と車輪とを接続する動力伝達経路に設けられる摩擦クラッチと、互いに通信可能に接続されるプロセッサおよびメモリを備え、前記モータジェネレータを制御する制御システムと、を有し、前記制御システムは、前記摩擦クラッチが締結される走行状態であり、かつエンジンストールを発生させる車両制動状態であると判定した場合に、前記モータジェネレータのモータトルクをパルス状に変化させるトルク変動制御を実行し、前記摩擦クラッチを締結状態からスリップ状態に移行させる。
【発明の効果】
【0007】
本発明の一態様によれば、車両制動時のエンジンストールを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の一実施形態である車両用制御装置を備えた車両の一例を示す図である。
【
図3】制御ユニットの基本構造の一例を示す図である。
【
図4】クラッチ学習制御の実行手順の一例を示すフローチャートである。
【
図5】入力クラッチに作用する負荷トルクの一例を示す図である。
【
図7】ストールフラグ設定制御の実行手順の一例を示すフローチャートである。
【
図8】初期トルク設定制御の実行手順の一例を示すフローチャートである。
【
図10】初期目標トルクの設定状況を示す図である。
【
図11】ストール防止制御の実行手順の一例を示すフローチャートである
【
図12】ストール防止制御の実行状況の一例を示すタイミングチャートである。
【
図13】
図12の範囲βを拡大して示すタイミングチャートである。
【
図14】初期目標トルクの設定状況の他の例を示す図である。
【
図15】初期目標トルクの設定状況の他の例を示す図である。
【
図16】他の車両用制御装置のパワーユニットを簡単に示した図である。
【
図17】他の車両用制御装置のパワーユニットを簡単に示した図である。
【
図18】他の車両用制御装置のパワーユニットを簡単に示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、以下の説明において、同一または実質的に同一の構成や要素については、同一の符号を付して繰り返しの説明を省略する。
【0010】
<実施形態1>
<車両概要>
図1は本発明の一実施形態である車両用制御装置10を備えた車両11の一例を示す図である。
図1に示すように、車両11は、エンジン12およびトランスミッション13からなるパワーユニット14を有している。トランスミッション13の出力軸である回転軸15には、プロペラ軸16、デファレンシャル機構17およびドライブ軸18を介して車輪19が連結されている。なお、図示するパワーユニット14は、後輪駆動用のパワーユニットであるが、これに限られることはなく、前輪駆動用や全輪駆動用のパワーユニットであっても良い。
【0011】
図2は車両用制御装置10の一例を示す図である。
図2に示すように、パワーユニット14は、エンジン12とこれに連結されるトランスミッション13とを有している。トランスミッション13は、トルクコンバータ20、モータジェネレータ21、入力クラッチ22および変速機構23等を有している。つまり、パワーユニット14は、エンジン12およびモータジェネレータ21からなる動力源24を有している。また、動力源24と車輪19とは動力伝達経路25を介して互いに接続されており、動力伝達経路25には入力クラッチ22が設けられている。図示する例において、動力伝達経路25は、ロータ軸26、入力クラッチ22、回転軸27、変速機構23、回転軸15、プロペラ軸16、デファレンシャル機構17およびドライブ軸18等によって構成されている。
【0012】
動力伝達経路25に設けられる入力クラッチ22は、互いに対向する複数の摩擦プレート30,31を備えた摩擦クラッチである。入力クラッチ22は、摩擦プレート30,31に向けてピストン32を押し出す締結油室33を有している。締結油室33に作動油が供給されると、入力クラッチ22は締結状態に作動する一方、締結油室33から作動油が排出されると、入力クラッチ22は解放状態に作動する。また、締結油室33に供給される作動油圧を調整することにより、入力クラッチ22をスリップ状態に制御することが可能である。なお、入力クラッチ22は、図示しない遊星歯車列等からなる前後進切替機構の一部を構成するクラッチである。
【0013】
トルクコンバータ20は、クランク軸34に連結されるポンプシェル40と、ポンプシェル40に固定されるポンプインペラ41と、タービン軸42を備えるタービンランナ43と、を有している。また、トルクコンバータ20は、ポンプインペラ41とタービンランナ43とを直結する摩擦クラッチ、つまりクランク軸34とタービン軸42とを直結するロックアップクラッチ44を有している。ロックアップクラッチ44は、ポンプシェル40のフロントカバー45に対向して配置されるとともに、アプライ室46とリリース室47とを区画するプレッシャプレート48を有している。アプライ室46に作動油が供給されてリリース室47から作動油が排出されると、プレッシャプレート48はフロントカバー45に押し付けられ、ロックアップクラッチ44は締結状態に作動する。一方、リリース室47に作動油が供給されてアプライ室46から作動油が排出されると、プレッシャプレート48はフロントカバー45から離れ、ロックアップクラッチ44は解放状態に作動する。
【0014】
トルクコンバータ20、入力クラッチ22および変速機構23等を制御するため、トランスミッション13は、複数の電磁バルブや油路等からなるバルブボディ50を有している。このバルブボディ50には、エンジン12や電動モータによって駆動されるオイルポンプ51が接続されている。オイルポンプ51から圧送される作動油は、バルブボディ50を介してトルクコンバータ20や入力クラッチ22等に供給される。また、バルブボディ50を制御するため、バルブボディ50にはミッション制御ユニット52が接続されている。
【0015】
エンジン12の吸気マニホールド55には、吸入空気量を調整するスロットルバルブ56が設けられている。また、エンジン12には、吸気ポートやシリンダ内に燃料を噴射するインジェクタ57が設けられており、点火コイルや点火プラグ等からなる点火装置58が設けられている。エンジントルクやエンジン回転数を制御するため、スロットルバルブ56、インジェクタ57および点火装置58等には、エンジン制御ユニット59が接続されている。
【0016】
モータジェネレータ21は、ステータコイル60が巻かれるステータ61と、ステータ61の内側に収容されるロータ62と、を有している。ステータ61にはインバータ63が接続されており、インバータ63にはバッテリパック64が接続されている。また、インバータ63を介してモータジェネレータ21を制御するため、インバータ63にはモータ制御ユニット65が接続されている。モータ制御ユニット65は、複数のスイッチング素子等からなるインバータ63を駆動することにより、ステータコイル60の通電状態を制御してモータジェネレータ21のモータトルク(力行トルク,発電トルク)を制御する。
【0017】
また、車両11には、車輪19を制動するブレーキ装置70が設けられている。ブレーキ装置70は、ブレーキペダル71に連動してブレーキ液圧を出力するマスターシリンダ72と、車輪19のディスクロータ73を制動するキャリパ74と、を有している。また、マスターシリンダ72とキャリパ74との間には、各キャリパ74に供給されるブレーキ液圧を制御するブレーキアクチュエータ75が設けられている。さらに、ブレーキアクチュエータ75には、ブレーキアクチュエータ75を制御するブレーキ制御ユニット76が接続されている。
【0018】
<制御システム>
図2に示すように、車両用制御装置10は、複数の電子制御ユニットからなる制御システム80を有している。制御システム80を構成する電子制御ユニットとして、前述したミッション制御ユニット52、エンジン制御ユニット59、モータ制御ユニット65およびブレーキ制御ユニット76がある。また、制御システム80を構成する電子制御ユニットとして、前述した各制御ユニット52,59,65,76に制御信号を出力する車両制御ユニット81がある。これらの制御ユニット52,59,65,76,81は、CAN等の車載ネットワーク82を介して互いに通信可能に接続されている。車両制御ユニット81は、各種制御ユニットや後述する各種センサからの入力情報に基づき、パワーユニット14等の作動目標を設定する。そして、車両制御ユニット81は、パワーユニット14等の作動目標に応じた制御信号を生成し、これらの制御信号をエンジン制御ユニット59、モータ制御ユニット65、ミッション制御ユニット52およびブレーキ制御ユニット76等に出力する。
【0019】
車両制御ユニット81に接続されるセンサとして、アクセルペダルの操作量を検出するアクセルセンサ83、ブレーキペダル71の操作量を検出するブレーキセンサ84、車両11の走行速度である車速を検出する車速センサ85、および車両11に作用する前後加速度を検出する加速度センサ86がある。また、車両制御ユニット81に接続されるセンサとして、クランク軸34の回転速度であるエンジン回転数を検出する回転センサ87、タービン軸42の回転速度を検出する回転センサ88、およびロータ軸26の回転速度を検出する回転センサ89がある。また、車両制御ユニット81に接続されるセンサとして、回転軸27の回転速度を検出する回転センサ90、車輪19の回転速度である車輪速度を検出する回転センサ91、およびキャリパ74に供給されるブレーキ液圧を検出する圧力センサがある。さらに、車両制御ユニット81には、制御システム80の起動時に運転手に操作されるスタートスイッチ93が接続されている。
【0020】
図3は制御ユニット52,59,65,76,81の基本構造の一例を示す図である。
図3に示すように、電子制御ユニットである制御ユニット52,59,65,76,81は、プロセッサ100およびメインメモリ(メモリ)101等が組み込まれたマイクロコントローラ102を有している。メインメモリ101には所定のプログラムが格納されており、プロセッサ100によってプログラムが実行される。プロセッサ100とメインメモリ101とは、互いに通信可能に接続されている。なお、マイクロコントローラ102に複数のプロセッサ100を組み込んでも良く、マイクロコントローラ102に複数のメインメモリ101を組み込んでも良い。
【0021】
また、制御ユニット52,59,65,76,81は、入力回路103、駆動回路104、通信回路105、外部メモリ106および電源回路107を有している。入力回路103は、各種センサから入力される信号を、マイクロコントローラ102に入力可能な信号に変換する。駆動回路104は、マイクロコントローラ102から出力される信号に基づき、前述したインバータ63やバルブボディ50等の各種装置に対する駆動信号を生成する。通信回路105は、マイクロコントローラ102から出力される信号を、他の制御ユニットに向けた通信信号に変換する。また、通信回路105は、他の制御ユニットから受信した通信信号を、マイクロコントローラ102に入力可能な信号に変換する。さらに、電源回路107は、マイクロコントローラ102、入力回路103、駆動回路104、通信回路105および外部メモリ106等に対し、安定した電源電圧を供給する。また、不揮発性メモリ等からなる外部メモリ106には、プログラムおよび各種データ等が記憶される。
【0022】
<クラッチ学習制御>
続いて、入力クラッチ22の制御油圧と滑り始めとの関係を学習するクラッチ学習制御について説明する。なお、入力クラッチ22の制御油圧とは、入力クラッチ22の締結油室33に供給される作動油圧である。ここで、
図4はクラッチ学習制御の実行手順の一例を示すフローチャートである。
図4に示されるクラッチ学習制御の各ステップは、制御システム80を構成するプロセッサ100によって実行されるステップである。また、
図4に示されるクラッチ学習制御は、制御システム80が起動された後に、制御システム80によって所定周期毎に実行される制御である。
【0023】
図4に示すように、ステップS10において、制御システム80は、車速がほぼ一定に保持される定速走行中であるか否かを判定する。制御システム80は、ステップS10において定速走行中であると判定すると、ステップS11に進み、入力クラッチ22の制御油圧を所定の基準油圧に設定する。制御システム80は、ステップS11において制御油圧を基準油圧に設定すると、ステップS12に進み、入力クラッチ22が締結状態からスリップ状態に移行するか否かを判定する。なお、制御システム80は、ロータ軸26と回転軸27との回転速度差がゼロ近傍の所定値以下である場合に、入力クラッチ22が締結状態であると判定する。一方、制御システム80は、ロータ軸26と回転軸27との回転速度差が所定値を上回る場合に、入力クラッチ22がスリップ状態であると判定する。
【0024】
制御システム80は、ステップS12において入力クラッチ22が締結状態であると判定すると、ステップS13に進み、入力クラッチ22の制御油圧を所定値だけ低下させる。また、制御システム80は、ステップS13において入力クラッチ22の制御油圧を低下させた後に、ステップS12に進み、入力クラッチ22が締結状態からスリップ状態に移行するか否かを判定する。つまり、制御システム80は、入力クラッチ22が締結状態からスリップ状態に移行するまで、入力クラッチ22の制御油圧を徐々に低下させる。制御システム80は、ステップS12において入力クラッチ22がスリップ状態に移行したと判定すると、ステップS14に進み、スリップ発生時における制御油圧と後述する負荷トルクとの関係を学習する。そして、制御システム80は、ステップS15に進み、ステップS14で得られた学習情報に基づき制御油圧マップを補正し、ステップS16に進み、制御油圧マップに基づき制御油圧を上昇させて入力クラッチ22の通常制御を実行する。
【0025】
ここで、
図5は入力クラッチ22に作用する負荷トルクの一例を示す図であり、
図6は制御油圧マップの一例を示す図である。
図5に示すように、入力クラッチ22の負荷トルクTLとは、入力クラッチ22の入力側と出力側とに作用するトルク差である。例えば、クラッチ学習制御が実行される定常走行時においては、入力クラッチ22の入力側にエンジントルクTeおよびモータトルクTmが作用し、入力クラッチ22の出力側に転がり抵抗等のフリクショントルクTfが作用する。このとき、入力クラッチ22の負荷トルクTLは、各トルクTe,Tm,Tfの合計値である。
【0026】
前述したように、制御システム80は、入力クラッチ22が滑り始めるタイミングつまりスリップ発生時点の制御油圧と負荷トルクとの関係について学習し、この学習結果に基づいて制御油圧マップを補正する。つまり、
図6に示すように、負荷トルクTaかつ制御油圧Paであるときに入力クラッチ22が滑り始めた場合や、負荷トルクTbかつ制御油圧Pbであるときに入力クラッチ22が滑り始めた場合に、制御システム80は、制御油圧マップの特性線を「L1」に補正する。そして、制御システム80は、特性線L1に所定量を加算することにより、通常制御に用いられる特性線L2を設定する。なお、
図6に示した例では、特性線L1,L2を直線によって現しているが、これに限られることはなく、特性線L1,L2が曲線であっても良いことはいうまでもない。
【0027】
これまで説明したように、入力クラッチ22の通常制御において、制御ユニットは、エンジントルクやモータトルク等に基づき入力クラッチ22の負荷トルクを推定し、この負荷トルクに基づき入力クラッチ22の制御油圧を決定する。例えば、制御システム80は、入力クラッチ22の負荷トルクを「Tc」と推定した場合に、入力クラッチ22の制御油圧を「Pc」に設定する。これにより、
図5に示すように、入力クラッチ22の上限負荷トルクTLmax、つまり入力クラッチ22が締結状態を維持可能な負荷トルクの上限値を、現在の負荷トルクTLよりも高く設定することができる。このように、入力クラッチ22の締結力つまりトルク容量を適切に設定することができ、入力クラッチ22を滑らせることなく適切に制御することができる。
【0028】
<ストールフラグ設定制御>
ところで、車輪速度の急速な低下を伴う車両制動状態においては、エンジン回転数が急速に低下してエンジンストールを招いてしまう虞がある。そこで、車両用制御装置10は、後述するストール防止制御を実行することにより、入力クラッチ22を積極的にスリップさせてエンジンストールを回避する。以下、ストール防止制御に用いられるストールフラグ設定制御および初期トルク設定制御を説明した後に、入力クラッチ22を積極的にスリップさせるストール防止制御について説明する。
【0029】
まず、エンジンストールが懸念される制動状況を検出するストールフラグ設定制御について説明する。
図7はストールフラグ設定制御の実行手順の一例を示すフローチャートである。
図7に示されるストールフラグ設定制御の各ステップは、制御システム80を構成するプロセッサ100によって実行されるステップである。また、
図7に示されるストールフラグ設定制御は、制御システム80が起動された後に、制御システム80によって所定周期毎に実行される制御である。
【0030】
図7に示すように、ステップS20において、制御システム80は、エンジン12が運転状態に制御される車両走行中、つまり車両11がエンジン走行中であるか否かを判定する。制御システム80は、ステップS20においてエンジン走行中であると判定すると、ステップS21に進み、ロックアップクラッチ44が締結状態であるか否かを判定する。また、制御システム80は、ステップS21においてロックアップクラッチ44が締結状態であると判定すると、ステップS22に進み、入力クラッチ22が締結状態であるか否かを判定する。なお、制御システム80は、ステップS21において、クランク軸34とタービン軸42との回転速度差がゼロ近傍の所定値以下である場合に、ロックアップクラッチ44が締結状態であると判定する。また、制御システム80は、ステップS22において、ロータ軸26と回転軸27との回転速度差がゼロ近傍の所定値以下である場合に、入力クラッチ22が締結状態であると判定する。
【0031】
制御システム80は、ステップS22において入力クラッチ22が締結状態であると判定すると、ステップS23に進み、エンジン回転数Neが所定値N1を下回るか否かを判定する。また、制御システム80は、ステップS23においてエンジン回転数Neが所定値N1を下回ると判定すると、ステップS24に進み、車速Vが所定値V1を下回るか否かを判定する。また、制御システム80は、ステップS24において車速Vが所定値V1を下回ると判定すると、ステップS25に進み、車輪速度の回転低下速度Sdが所定値S1を上回るか否かを判定する。また、制御システム80は、ステップS25において回転低下速度Sdが所定値S1を上回ると判定すると、ステップS26に進み、ブレーキ液圧Pbrが所定値P1を上回るか否かを判定する。
【0032】
前述したステップS20~24において、制御システム80が「Yes」と判定する状況とは、ロックアップクラッチ44および入力クラッチ22を介してエンジン12と車輪19とが互いに接続される状況であり、エンジン回転数Neおよび車速Vが低下している状況である。さらに、ステップS25~26において、制御システム80が「Yes」と判定する状況とは、ブレーキ装置70の作動によって車輪速度が急速に低下している状況である。すなわち、ステップS20~26の全てにおいて、制御システム80が「Yes」と判定する走行状態とは、ロックアップクラッチ44および入力クラッチ22が締結される走行状態であり、かつエンジン回転数Neの急速な低下によってエンジンストール発生の虞がある車両制動状態である。
【0033】
前述したように、制御システム80は、ステップS20~26の全てにおいて「Yes」と判定した場合、つまりエンジンストールを発生させる車両制動状態であると判定した場合には、ステップS27に進み、ストールフラグFL1を設定する(FL1=1)。一方、制御システム80は、ステップS20~26の何れかにおいて「No」と判定した場合、つまりエンジンストールを発生させる車両制動状態ではないと判定した場合には、ステップS28に進み、ストールフラグFL1を解除する(FL1=0)。
【0034】
<初期トルク設定制御>
続いて、モータジェネレータ21の初期目標トルクを設定する初期トルク設定制御について説明する。なお、モータジェネレータ21の初期目標トルクとは、入力クラッチ22をスリップさせる後述のトルク変動制御において、最初に設定されるモータトルクの目標値である。
【0035】
図8は初期トルク設定制御の実行手順の一例を示すフローチャートである。また、
図9および
図10は初期目標トルクの設定状況を示す図である。
図8に示される初期トルク設定制御の各ステップは、制御システム80を構成するプロセッサ100によって実行されるステップである。また、
図8に示される初期トルク設定制御は、制御システム80が起動された後に、制御システム80によって所定周期毎に実行される制御である。
【0036】
図8に示すように、ステップS30において、制御システム80は、現在の入力クラッチ22の制御油圧に基づき、入力クラッチ22の上限負荷トルクTmaxを算出する。前述したように、上限負荷トルクTLmaxは、入力クラッチ22の締結状態を維持可能な負荷トルクの上限値である。また、換言すれば、上限負荷トルクTLmaxは、スリップ状態への移行に必要な負荷トルクの下限値である。
【0037】
制御システム80は、ステップS30において上限負荷トルクTLmaxを算出すると、ステップS31に進み、エンジントルクTe、モータトルクTmおよび車両減速度に基づいて、入力クラッチ22に作用する現在の負荷トルクTL1を算出する。つまり、
図9に示すように、入力クラッチ22の入力側にエンジントルクTeおよびモータトルク(力行トルク)Tmが作用し、入力クラッチ22の出力側にフリクショントルクTfおよびブレーキトルクTbrが作用する。このとき、入力クラッチ22の負荷トルクTL1は、各トルクTe,Tm,Tf,Tbrの合計値である。なお、ブレーキ装置70の作動によって生じるブレーキトルクTbrは、車両制動時の車両減速度に基づき算出することが可能である。
【0038】
図8に示すように、制御システム80は、ステップS31において負荷トルクTL1を算出すると、ステップS32に進み、上限負荷トルクTLmaxおよび負荷トルクTL1に基づいて、入力クラッチ22を滑らせるための必要トルク変化量αを算出する。ここで、
図9に示すように、必要トルク変化量αとは、負荷トルクTL1が上限負荷トルクTLmaxを超えるために必要なモータトルクTmの変化量である。つまり、必要トルク変化量αは、上限負荷トルクTLmaxと負荷トルクTL1とのトルク差ΔTに所定値を加算することで得られる変化量である。
【0039】
図8に示すように、制御システム80は、ステップS32において必要トルク変化量αを算出すると、ステップS33に進み、モータトルクTmに必要トルク変化量αを加算して初期目標トルクTmxを算出する。この初期目標トルクTmxを用いてモータトルクを制御すると、
図10に示すように、上限負荷トルクTLmaxを超える負荷トルクTL2を入力クラッチ22に与えることができる。すなわち、ステップS33で算出された初期目標トルクTmxを用いてモータトルクを制御することにより、入力クラッチ22を締結状態からスリップ状態に移行させることが可能である。
【0040】
<ストール防止制御(フローチャート)>
以下、入力クラッチ22を積極的にスリップさせるストール防止制御について説明する。
図11はストール防止制御の実行手順の一例を示すフローチャートである。
図11に示されるストール防止制御の各ステップは、制御システム80を構成するプロセッサ100によって実行されるステップである。また、
図11に示されるストール防止制御は、制御システム80が起動された後に、制御システム80によって所定周期毎に実行される制御である。
【0041】
図11に示すように、ステップS40において、制御システム80は、車両11がエンジン走行中であるか否かを判定する。制御システム80は、ステップS40においてエンジン走行中であると判定した場合に、ステップS41に進み、前述のストールフラグ設定制御によってストールフラグFL1が「1」に設定されているか否かを判定する。前述したように、ストールフラグFL1が「1」である状況とは、エンジンストールを発生させ得る制動状況である。
【0042】
制御システム80は、ステップS41においてストールフラグFL1が「1」であると判定すると、ステップS42に進み、前述の初期トルク設定制御によって設定された初期目標トルクTmxを取得する。続いて、制御システム80は、ステップS43に進み、所定時間に亘ってモータトルクを初期目標トルクTmxに制御するトルク変動制御を実行する。このモータジェネレータ21のトルク変動制御とは、所定時間(例えば、数十msec~数百msec)に亘ってモータトルクを一時的に変化させる制御、つまりモータトルクをパルス状に変化させる制御である。
【0043】
制御システム80は、ステップS43においてトルク変動制御を実行すると、ステップS44に進み、入力クラッチ22が締結状態からスリップ状態に移行するか否かを判定する。制御システム80は、ステップS44において入力クラッチ22が締結状態であると判定すると、ステップS45に進み、負荷トルクを増加させるようにモータジェネレータ21の目標トルクを変更する。そして、制御システム80は、ステップS43に進み、新たな目標トルクに向けてモータトルクをパルス状に変化させるトルク変動制御を実行し、ステップS44に進み、入力クラッチ22が締結状態からスリップ状態に移行するか否かを判定する。つまり、制御システム80は、入力クラッチ22が締結状態からスリップ状態に移行するまで、負荷トルクを増加させるように目標トルクを更新しながらトルク変動制御を実行する。
【0044】
このように、モータトルクをパルス状に変化させるトルク変動制御を実行することにより、入力クラッチ22を締結状態からスリップ状態に移行させることができる。これにより、車輪19とエンジン12との間の動力伝達係数を下げることができるため、エンジン回転数の過度な低下を抑制してエンジンストールを回避することができる。また、入力クラッチ22を解放せずにスリップ状態に制御することから、車両制動中にアクセルペダルが踏み込まれた場合であっても、入力クラッチ22の締結力を素早く引き上げて車両11の加速応答性を高めることができる。しかも、モータトルクによってエンジン回転数を引き上げるのではなく、モータトルクをパルス状に変化させることで入力クラッチ22を滑らせるようにしたので、モータジェネレータ21の電力消費を抑制しつつエンジンストールを回避することができる。
【0045】
なお、制御システム80は、ステップS44において入力クラッチ22がスリップ状態に移行したと判定すると、ステップS46に進み、ストールフラグFL1が解除されているか否かを判定する。制御システム80は、ステップS46においてストールフラグFL1が「1」であると判定した場合、つまりエンジンストールを発生させる制動状況が継続していると判定した場合には、再びステップS40に進み、ストール防止制御を継続する。一方、制御システム80は、ステップS46においてストールフラグFL1が「0」であると判定した場合、つまりエンジンストールを発生させる制動状況が解消されたと判定した場合には、ストール防止制御を終えてルーチンを抜ける。
【0046】
<ストール防止制御(タイミングチャート)>
次いで、前述したストール防止制御をタイミングチャートに沿って説明する。
図12はストール防止制御の実行状況の一例を示すタイミングチャートであり、
図13は
図12の範囲βを拡大して示すタイミングチャートである。なお、
図12および
図13には、入力クラッチ22の入力回転数に相当するエンジン回転数Neが実線で示されている。また、
図12および
図13には、回転軸27の回転速度つまり入力クラッチ22の出力回転数Noutが破線で示されている。
【0047】
図13に示すように、時刻t1において、ストールフラグFL1が「1」に設定されると、時刻t2において、モータジェネレータ21のトルク変動制御が開始される。つまり、モータジェネレータ21の力行トルクは、所定時間に亘って「Tm1」から「Tm2」に増加した後に、「Tm2」から「Tm1」に減少する。なお、時刻t2における力行トルクTm2は、前述の初期目標トルクTmxに相当するトルクである。このトルク変動制御を実行したとしても、入力クラッチ22がスリップ状態に移行しない場合、つまりエンジン回転数Neが出力回転数Noutに収束する場合には(符号a1)、目標トルクを「Tm3」に増やしてトルク変動制御が継続される。
【0048】
つまり、時刻t3で示すように、モータジェネレータ21の力行トルクを、所定時間に亘って「Tm1」から「Tm3」に増加させた後に、「Tm3」から「Tm1」に減少させる。このトルク変動制御を実行したとしても、入力クラッチ22がスリップ状態に移行しない場合、つまりエンジン回転数Neが出力回転数Noutに収束する場合には(符号b1)、目標トルクを「Tm4」に増やしてトルク変動制御が継続される。すなわち、時刻t4で示すように、モータジェネレータ21の力行トルクを、所定時間に亘って「Tm1」から「Tm4」に増加させた後に、「Tm4」から「Tm1」に減少させる。このトルク変動制御によって入力クラッチ22がスリップ状態に移行した場合、つまりエンジン回転数Neと出力回転数Noutとが継続的に乖離した場合には(符号c1)、トルク変動制御を終了させる。
【0049】
このように、力行トルクを段階的に増加させてトルク変動制御を実行することにより、入力クラッチ22を適切にスリップ状態に移行させることができる。つまり、時刻t2においては、力行トルクを第1変化量Δtm1でパルス状に変化させ、その後の時刻t3においては、力行トルクを第1変化量Δtm1よりも大きな第2変化量Δtm2でパルス状に変化させている。さらに、時刻t4においては、力行トルクを第2変化量Δtm2よりも大きな第3変化量Δtm3でパルス状に変化させている。これにより、入力クラッチ22の負荷トルクを段階的に増加させることができ、入力クラッチ22を適切にスリップ状態に移行させることができる。
【0050】
これまで説明したように、モータジェネレータ21のトルク変動制御を実行することにより、入力クラッチ22をスリップ状態に移行させることができ、車輪19とエンジン12との間の動力伝達係数を下げることができる。これにより、
図12に示すように、エンジン回転数Neの過度な低下を抑制してエンジンストールを回避することができ、エンジン回転数Neを所定のアイドリング回転数Nidに収束させることができる。すなわち、入力クラッチ22やロックアップクラッチ44を解放状態に制御することなく、エンジンストールを回避することができる。しかも、トルク変動制御によって入力クラッチ22を滑らせることにより、エンジン回転数Neを大きく変動させることなく、エンジン回転数Neを緩やかにアイドリング回転数Nidに収束させることができる。
【0051】
例えば、ストールフラグFL1の設定タイミング(時刻t1)で、入力クラッチ22の解放制御を開始した場合には、油圧制御の応答遅れから時刻t4よりも遅い時刻t5で入力クラッチ22が解放される。つまり、入力クラッチ22の解放時点ではエンジン回転数Neが過度に低下しているため、一点鎖線X1で示すように、クラッチ解放に伴ってエンジン回転数Neが大きく変動することになる。しかしながら、前述のトルク変動制御を実行することにより、入力クラッチ22の解放を待つ必要がないため、エンジン回転数Neの過度な変動を抑制することができる。
【0052】
同様に、ストールフラグFL1の設定タイミング(時刻t1)で、ロックアップクラッチ44の解放制御を開始した場合には、油圧制御の応答遅れから時刻t4よりも遅い時刻t6でロックアップクラッチ44が解放される。つまり、ロックアップクラッチ44の解放時点ではエンジン回転数Neが過度に低下しているため、二点鎖線X2で示すように、クラッチ解放に伴ってエンジン回転数Neが大きく変動することになる。しかしながら、前述のトルク変動制御を実行することにより、ロックアップクラッチ44の解放を待つ必要がないため、エンジン回転数Neの過度な変動を抑制することができる。
【0053】
<実施形態2>
前述の説明では、トルク変動制御を実行することにより、モータジェネレータ21の力行トルクをパルス状に増加させ、入力クラッチ22の負荷トルクをパルス状に増加させているが、これに限られることはない。例えば、トルク変動制御によってモータジェネレータ21の回生トルクをパルス状に減少させても良い。ここで、
図14および
図15は初期目標トルクの設定状況の他の例を示す図である。
【0054】
図14に示すように、入力クラッチ22の入力側にエンジントルクTeおよびモータトルク(回生トルク)Tmが作用し、入力クラッチ22の出力側にフリクショントルクTfおよびブレーキトルクTbrが作用する。このとき、入力クラッチ22の負荷トルクTL1は、各トルクTe,Tm,Tf,Tbrの合計値である。そして、前述したように、制御システム80は、上限負荷トルクTLmaxおよび負荷トルクTL1に基づいて、入力クラッチ22を滑らせるための必要トルク変化量αを算出する。この必要トルク変化量αは、負荷トルクTL1が上限負荷トルクTLmaxを超えるために必要なトルク変化量である。つまり、必要トルク変化量αは、上限負荷トルクTLmaxと負荷トルクTL1とのトルク差ΔTに所定値を加算することで得られる変化量である。
【0055】
次いで、制御システム80は、モータトルクTmに必要トルク変化量αを加算して初期目標トルクTmxを算出する。この初期目標トルクTmxを用いてモータトルクを制御すると、
図15に示すように、上限負荷トルクTLmaxを超える負荷トルクTL2を入力クラッチ22に与えることができる。つまり、初期目標トルクTmxを用いてモータトルクを制御することにより、入力クラッチ22をスリップ状態に移行させることができる。すなわち、モータジェネレータ21の回生トルクをパルス状に減少させ、入力クラッチ22の負荷トルクをパルス状に増加させることにより、入力クラッチ22を締結状態からスリップ状態に移行させることができる。
【0056】
<実施形態3>
前述の説明では、モータジェネレータ21と変速機構23との間に位置する入力クラッチ22をスリップ状態に制御しているが、これに限られることはなく、トルク変動制御によって他のクラッチをスリップ状態に制御しても良い。
図16は他の車両用制御装置110のパワーユニット111を簡単に示した図である。なお、
図16において、
図2に示した部材と同様の部材については、同一の符号を付してその説明を省略する。
【0057】
図16に示すように、車両用制御装置110が備えるパワーユニット111は、エンジン12およびモータジェネレータ21からなる動力源24を有している。また、動力源24と車輪19とは動力伝達経路112を介して互いに接続されており、動力伝達経路112には入力クラッチ22および出力クラッチ(摩擦クラッチ)113が設けられている。図示する例において、動力伝達経路112は、ロータ軸26、入力クラッチ22、回転軸27、変速機構23、出力クラッチ113、回転軸15、プロペラ軸16、デファレンシャル機構17およびドライブ軸18等によって構成されている。
【0058】
図16に示したパワーユニット111を備える車両用制御装置110においては、変速機構23の出力側に設けられる出力クラッチ113を、モータジェネレータ21のトルク変動制御を用いてスリップ状態に制御することが可能である。急制動時には出力クラッチ113をスリップ状態に制御することにより、車輪19とエンジン12との間の動力伝達係数を下げることができ、エンジン回転数の過度な低下を抑制してエンジンストールを回避することができる。なお、
図16に示したパワーユニット111の構成であっても、トルク変動制御を用いて入力クラッチ22をスリップ状態に制御しても良いことはいうまでもない。
【0059】
<実施形態4>
前述の説明では、エンジン12の出力側にモータジェネレータ21を配置しているが、これに限られることはなく、エンジン12の入力側にモータジェネレータ21を配置しても良い。
図17は他の車両用制御装置120のパワーユニット121を簡単に示した図である。なお、
図17において、
図2および
図16に示した部材と同様の部材については、同一の符号を付してその説明を省略する。
【0060】
図17に示すように、車両用制御装置120が備えるパワーユニット121は、エンジン12と、これにベルト機構123を介して連結されるモータジェネレータ124と、を有している。つまり、パワーユニット121は、エンジン12およびモータジェネレータ124からなる動力源125を有している。また、動力源125と車輪19とは動力伝達経路126を介して互いに接続されており、動力伝達経路126にはロックアップクラッチ(摩擦クラッチ)44、入力クラッチ22および出力クラッチ113が設けられている。図示する例において、動力伝達経路126は、クランク軸34、トルクコンバータ20、タービン軸42、入力クラッチ22、回転軸27、変速機構23、回転軸15、出力クラッチ113、プロペラ軸16、デファレンシャル機構17およびドライブ軸18等によって構成されている。
【0061】
図17に示したパワーユニット121を備える車両用制御装置120においては、トルクコンバータ20のロックアップクラッチ44を、モータジェネレータ124のトルク変動制御を用いてスリップ状態に制御することが可能である。急制動時にはロックアップクラッチ44をスリップ状態に制御することにより、車輪19とエンジン12との間の動力伝達係数を下げることができ、エンジン回転数の過度な低下を抑制してエンジンストールを回避することができる。なお、
図17に示したパワーユニット121の構成であっても、トルク変動制御を用いて入力クラッチ22をスリップ状態に制御しても良く、トルク変動制御を用いて出力クラッチ113をスリップ状態に制御しても良いことはいうまでもない。
【0062】
<実施形態5>
前述の説明では、変速機構23と別個にモータジェネレータ21を配置しているが、これに限られることはなく、変速機構23にモータジェネレータ21を組み込んでも良い。
図18は他の車両用制御装置130のパワーユニット131を簡単に示した図である。なお、
図18において、
図2および
図16に示した部材と同様の部材については、同一の符号を付してその説明を省略する。
【0063】
図18に示すように、車両用制御装置130が備えるパワーユニット131は、自動変速機や無段変速機等の変速機構132に組み込まれるモータジェネレータ133を有している。つまり、パワーユニット131は、エンジン12およびモータジェネレータ133からなる動力源134を有している。また、動力源134と車輪19とは動力伝達経路135を介して互いに接続されており、動力伝達経路135には出力クラッチ113が設けられている。図示する例において、動力伝達経路135は、出力クラッチ113、回転軸15、プロペラ軸16、デファレンシャル機構17およびドライブ軸18等によって構成されている。
【0064】
図18に示したパワーユニット131を備える車両用制御装置130においては、変速機構132の出力側に設けられる出力クラッチ113が、トルク変動制御を用いてスリップ状態に制御される。出力クラッチ113をスリップ状態に制御することにより、車輪19とエンジン12との間の動力伝達係数を下げることができ、エンジン回転数の過度な低下を抑制してエンジンストールを回避することができる。
【0065】
本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることはいうまでもない。例えば、前述の説明では、5つの制御ユニット52,59,65,76,81によって制御システム80を構成しているが、これに限られることはない。例えば、1つの制御ユニットによって制御システム80を構成しても良く、複数の制御ユニットによって制御システム80を構成しても良い。前述の説明では、トルク変動制御だけを用いてエンジンストールを回避しているが、これに限られることはない。例えば、トルク変動制御と入力クラッチ22の解放制御とを併用してエンジンストールを回避しても良い。また、トルク変動制御とロックアップクラッチ44の解放制御とを併用してエンジンストールを回避しても良い。さらに、トルク変動制御、入力クラッチ22の解放制御、およびロックアップクラッチ44の解放制御を併用し、エンジンストールを回避しても良い。
【0066】
図13に示した例では、同一の所定時間に渡ってモータトルクを一時的に変化させているが、これに限られることはなく、モータトルクを一時的に変化させる時間を変化させても良い。また、
図13に示した例では、トルク変動制御において、パルス状に増加させる力行トルクを段階的に増やしているが、これに限られることはなく、パルス状に増加させる力行トルクを一定に保持しても良い。つまり、
図13に示した各時刻t2,t3,t4において、第1変化量Δtm1を維持したままトルク変動制御を実行しても良い。同様に、トルク変動制御において、パルス状に減少させる回生トルクを段階的に減らしても良く、パルス状に減少させる回生トルクを一定に保持しても良い。さらに、トルク変動制御において、モータトルクを回生側から力行側に制御しても良いことはいうまでもない。
【符号の説明】
【0067】
10 車両用制御装置
11 車両
12 エンジン
19 車輪
22 入力クラッチ(摩擦クラッチ)
24 動力源
25 動力伝達経路
44 ロックアップクラッチ(摩擦クラッチ)
80 制御システム
100 プロセッサ
101 メインメモリ(メモリ)
110 車両用制御装置
112 動力伝達経路
113 出力クラッチ(摩擦クラッチ)
120 車両用制御装置
124 モータジェネレータ
125 動力源
126 動力伝達経路
130 車両用制御装置
133 モータジェネレータ
134 動力源
135 動力伝達経路
TL,TL1,TL2 負荷トルク
Tm モータトルク(力行トルク,回生トルク)
Δtm1 第1変化量
Δtm2 第2変化量