(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024117920
(43)【公開日】2024-08-30
(54)【発明の名称】半水石膏を主材とする充填材
(51)【国際特許分類】
C04B 28/14 20060101AFI20240823BHJP
C04B 14/10 20060101ALI20240823BHJP
C04B 24/16 20060101ALI20240823BHJP
E21D 11/00 20060101ALI20240823BHJP
【FI】
C04B28/14
C04B14/10 Z
C04B24/16
E21D11/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023024015
(22)【出願日】2023-02-20
(71)【出願人】
【識別番号】000166432
【氏名又は名称】戸田建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104927
【弁理士】
【氏名又は名称】和泉 久志
(72)【発明者】
【氏名】田中 徹
(72)【発明者】
【氏名】守屋 健一
(72)【発明者】
【氏名】原田 匠
(72)【発明者】
【氏名】大橋 英紀
(72)【発明者】
【氏名】錦木 健二
【テーマコード(参考)】
2D155
4G112
【Fターム(参考)】
2D155JA00
2D155LA14
4G112PA06
4G112PB11
4G112PB22
(57)【要約】
【課題】周囲の土質や水質に及ぼす影響が低減でき、流動性を制御できるように充填材が添加されている。
【解決手段】半水石膏を主材とし、これに水と遅延剤が添加られている。中性域で硬化する半水石膏を主材としているため、周囲の土質や水質に及ぼす影響が低減できる。また、半水石膏に所定量の水と遅延剤を添加することにより、充填材の使用状況に合わせて注水後の経過時間における流動性を任意に制御することができるようになる。特に、水に対する半水石膏の比率を54~64%にすること、遅延剤としてアルキルアミノスルホン酸を使用した際、その添加率を3.0%以上にすること、粘土鉱物としてベントナイトを使用した際、その添加量を23kg/m
3以下とすることが有効である。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
空洞に充填される半水石膏を主材とする充填材であって、
半水石膏を主材とし、これに水と遅延剤が添加されていることを特徴とする半水石膏を主材とする充填材。
【請求項2】
前記水に対する前記半水石膏の比率が54~64%である請求項1記載の半水石膏を主材とする充填材。
【請求項3】
前記遅延剤がアルキルアミノスルホン酸であり、その添加率(前記半水石膏に対する重量比)が3.0%以上である請求項1記載の半水石膏を主材とする充填材。
【請求項4】
更に粘土鉱物が添加されている請求項1記載の半水石膏を主材とする充填材。
【請求項5】
前記粘土鉱物がベントナイトであり、その添加量が23kg/m3以下である請求項4記載の半水石膏を主材とする充填材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トンネル覆工背面と地山との空洞などに充填される半水石膏を主材とする充填材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、例えば特許文献1~2や非特許文献1~2などに示されるように、トンネル覆工背面と地山との間に形成された空洞や、河川・海の流れや湧水などに伴う洗掘により擁壁や護岸の背面に生じた空洞などに充填される裏込注入材として、セメントを主材としたセメント系の充填材が多く用いられている。
【0003】
このようなセメント系の充填材では、セメントスラリーの性質を作業条件に適したものとするため、各種の添加剤が添加される。例えば、発泡剤を添加して流動性を向上させ、充填部分の隅々にまで充填できるようにしたもの(特許文献1)、吸水性樹脂を配合することにより、吸水性樹脂が吸水膨張して空洞の所要箇所を緻密に充填できるようにしたもの(特許文献2)などが挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2015-59070号公報
【特許文献2】特開平10-237446号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】農林水産省農村振興局整備部設計課、農業水利施設の補修・補強工事に関するマニュアル[水路トンネル編]、令和3年6月
【非特許文献2】東日本高速道路株式会社、中日本高速道路株式会社、西日本高速道路株式会社、矢板工法トンネルの背面空洞注入工設計・施工要領、平成18年10月
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来より用いられているセメントを主材としたセメント系の充填材は、セメントの水和反応により生じた水酸化カルシウムを含んでいるため、強いアルカリ性を示すことが指摘されていた。このため、コンクリートから溶出する成分によって周囲の土質や水質などがアルカリ性に変化し、周辺環境の生物や植物などへ影響を及ぼす懸念がある。この対策として、充填材に化学混和剤を添加して水中不分離性を向上させることや、発泡ウレタンなどの非水溶性材料を用いた非セメント系の充填材を適用することがあるが、これら化学混和剤や発泡ウレタンは高価なため、極力使用量を抑えたいという実情があった。
【0007】
また、特許文献1に記載の発泡剤を添加したエアモルタルは軽量で流動性が大きいため、空洞部に限定して注入するのが難しいとともに、地盤内の地下水や湧水の影響を受けやすいという問題があった。更に、特許文献2に記載のように吸水性樹脂を配合したものは、高吸水性樹脂が吸水して流動性が低下するという問題があった。
【0008】
そこで本発明の主たる課題は、周囲の土質や水質に及ぼす影響を低減するとともに、流動性を制御できるようにした半水石膏を主材とする充填材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するために請求項1に係る本発明として、空洞に充填される半水石膏を主材とする充填材であって、
半水石膏を主材とし、これに水と遅延剤が添加されていることを特徴とする半水石膏を主材とする充填材が提供される。
【0010】
上記請求項1記載の発明では、中性域(pH6.5~8.5)で硬化する半水石膏を主材とした充填材であるため、セメントを用いたセメント系の充填材と比較して、周囲の土質や水質に及ぼす影響が低減できる。
【0011】
また、この半水石膏に所定量の水と遅延剤を添加しているため、注水直後から水和反応が開始し流動性が低下することにより可使時間が短いという半水石膏の欠点が解消し、特に遅延剤の添加率を調整することにより、充填材の使用状況に合わせて注水後の経過時間における流動性を任意に制御することができるようになる。
【0012】
請求項2に係る本発明として、前記水に対する前記半水石膏の比率が54~64%である請求項1記載の半水石膏を主材とする充填材が提供される。
【0013】
上記請求項2記載の発明では、背面空洞注入材の品質規格に適合する一軸圧縮強度(1.5N/mm2以上)とするため、水/半水石膏比の範囲を実験的に求めている。
【0014】
請求項3に係る本発明として、前記遅延剤がアルキルアミノスルホン酸であり、その添加率(前記半水石膏に対する重量比)が3.0%以上である請求項1記載の半水石膏を主材とする充填材が提供される。
【0015】
上記請求項3記載の発明では、前記遅延剤としてアルキルアミノスルホン酸を使用した場合において、注水60分後の打撃フローロスから、その添加率の適正範囲を実験的に求めている。
【0016】
請求項4に係る本発明として、更に粘土鉱物が添加されている請求項1記載の半水石膏を主材とする充填材が提供される。
【0017】
上記請求項4記載の発明では、更にベントナイト等の粘土鉱物を添加することにより、練上り直後の流動性を任意に制御することが可能になり、セメント系充填材と同様の取り扱いができるようになる。
【0018】
請求項5に係る本発明として、前記粘土鉱物がベントナイトであり、その添加量が23kg/m3以下である請求項4記載の半水石膏を主材とする充填材が提供される。
【0019】
上記請求項5記載の発明では、前記粘土鉱物としてベントナイトを使用した場合において、背面空洞注入材の品質規格に適合する練上り直後の打撃フロー値(130~205mm)とするため、ベントナイトの添加量の範囲を実験的に求めている。
【発明の効果】
【0020】
以上詳説のとおり本発明によれば、周囲の土質や水質に及ぼす影響が低減できるとともに、流動性が任意に制御できる半水石膏を主材とする充填材が提供できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明に係る充填材の適用例(その1)を示すトンネル1の断面図である。
【
図2】本発明に係る充填材の適用例(その2)を示す護岸の断面図である。
【
図3】水/半水石膏比と一軸圧縮強度との関係を示すグラフである。
【
図4】遅延剤添加率と注水60分後の打撃フローロスとの関係を示すグラフである。
【
図5】粘土鉱物添加量と練上り直後の打撃フロー値との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳述する。
【0023】
本発明に係る半水石膏を主材とする充填材は、
図1に示されるように、トンネル1の覆工コンクリート2背面と地山3との間に形成された空洞Cや、
図2に示されるように、河川・海岸の護岸4や擁壁の背面と地山3との間に生じた河川・海の流れや湧水・地下水などの洗掘による空洞Cなどに充填される裏込注入材である。
【0024】
前記半水石膏とは、石膏を化学組成上、(1)二水石膏(CaSO4・2H2O)、(2)半水石膏(CaSO4・1/2H2O)、(3)無水石膏(CaSO4)の3つに大別したうちの一つであり、焼石膏とも呼ばれ、水と混練することで水和反応を生じ、二水石膏の針状結晶を析出して凝結する性質を有するものである。半水石膏の水和反応は、水と接触した直後から始まり、水だけを添加した場合は数分~十数分の間に流動性が低下し硬化が開始する。半水石膏を含む材料としては、各種の化学工業(例えばリン酸製造など)から副生する副産石膏や、廃石膏ボード由来の再生石膏などが用いられる。
【0025】
本発明に係る半水石膏を主材とする充填材は、半水石膏を主材とし、これに水と遅延剤が添加されて成るものである。ここで、「半水石膏を主材とする」とは、水を含む半水石膏以外の添加物と比較して、重量比で半水石膏の比率が最も高いことを意味し、更には充填材を構成する総重量に対し、半水石膏が重量比で50%を超えていることを意味する。
【0026】
本発明では、セメントを用いずに半水石膏を主材としているため、練混ぜた充填材スラリー及びその固化物は、水素イオン濃度が中性域(pH6.5~8.5)となる。したがって、充填材施工後における坑内排水のpHの変動が抑制できるとともに、周辺の土質や水質などの変化が抑えられ、周辺に生息する生物や植物などの周辺環境に及ぼす影響を低減できる、などの効果を有する。
【0027】
また、遅延剤を添加することにより半水石膏の凝結が遅延されるため、水と接触してからの可使時間が短いという半水石膏の欠点が解消でき、遅延剤の添加率に応じて充填材の使用状況に合わせて注水後の経過時間における流動性を任意に制御することが可能になる。つまり、遅延剤を所定の添加率で添加することにより、練上り直後の打撃フロー値と所定時間経過後の打撃フロー値との差(打撃フローロス)を任意の値に設定することが可能になり、混練後の充填材の運搬や、充填作業に要する時間などを考慮して、充填材の流動性を任意に制御することができるようになる。
【0028】
前記遅延剤は、添加することにより半水石膏の凝結速度を任意に調整する(遅くする)ことができる添加剤であり、半水石膏粒子の表面に吸着して水と半水石膏の接触を一時的に遮断し、半水石膏の凝結を遅延させるものである。JIS A 0203によれば、セメントの水和反応を遅らせ、凝結に要する時間を長くするために用いる混和剤が凝結遅延剤であると定義されている。凝結遅延剤は一般に遅延剤と超遅延剤に分類され、数時間以内の短時間の遅延作用を示す混和剤を遅延剤と呼び、数時間から数日間の長時間の遅延作用を有する混和剤を超遅延剤と呼んでいる。本発明で使用するものは主に前者の「遅延剤」であるが、使用状況によっては後者の「超遅延剤」を用いてもよい。
【0029】
前記遅延剤としては、例えば、アルキルアミノスルホン酸、オキシカルボン酸、ポリオール複合体、リグニンスルホン酸のいずれかを主成分とした化学混和剤を使用することができる。特に、本発明では、半水石膏との吸着性がよく、半水石膏に対する凝結遅延効果が高いアルキルアミノスルホン酸を主成分とした遅延剤を用いるのが好ましい。
【0030】
前記水に対する前記半水石膏の比率(水/半水石膏比)は、54~64%であるのが好ましい。これは、後述の実験から、上記非特許文献2に記載のJIS A 1108「コンクリートの圧縮強度試験方法」に準じて測定した材齢28日の一軸圧縮強度が1.5N/mm2以上を満足する範囲としたものである。つまり、水/半水石膏比が64%を超えると圧縮強度が規定値より低くなる。また、半水石膏を主材とする充填材とするためには、少なくとも水/半水石膏比で54%を確保する必要がある。
【0031】
前記遅延剤としてアルキルアミノスルホン酸を使用した場合、その添加率(前記半水石膏に対する重量比)は、3.0%以上であるのが好ましい。後述の実験から、遅延剤の添加率が3.0%より低い場合(2.5%とした場合)、注水60分後には固化してしまい、注水60分後の打撃フローロスが測定できなかったため、3.0%以上の範囲とした。前記遅延剤の添加率として、より好ましい範囲は、3.0~4.5%である。
【0032】
前記充填材には、更に粘土鉱物を添加してもよい。前記粘土鉱物としては、層状粘土鉱物、繊維状粘土鉱物、非晶質粘土鉱物、シリカ鉱物、長石、沸石、ドロマイト、及びこれらの焼成物、並びにこれらの2種以上の混合物が挙げられる。前記層状粘土鉱物としては、ベントナイト、カオリン鉱物、蛇紋岩及び類緑鉱物、バイロフェライト、タルク、雲母粘土鉱物等が挙げられる。これらのうち、半水石膏の混練物に対するフロー値の制御効果が得られやすいという観点から、ベントナイトが好ましい。
【0033】
前記粘土鉱物としてベントナイトを使用した場合、その添加量(単位量)は、23kg/m3以下であるのがよい。後述の実験から、添加量が23kg/m3を超えると、練上り直後の打撃フロー値の規定値(130~205mm)の下限値を下回るおそれがあるためである。ベントナイトの添加量を増加するに従って、練上り直後の打撃フロー値は小さくなる傾向にある。23kg/m3以下であるから、ベントナイトを全く添加しない0の場合も含まれる。粘土鉱物の添加量として、より好ましい範囲は、6~23kg/m3である。
【実施例0034】
本発明に係る半水石膏を主材とする充填材について、以下の試験を行い、本発明の効果を検証した。
【0035】
(1)圧縮試験
水/半水石膏比を変化させた複数の供試体を製作し、各供試体について、上記非特許文献2に記載されるようにJIS A 1108「コンクリートの圧縮試験方法」に準じて圧縮試験を行い、材齢28日の一軸圧縮強度を測定した。遅延剤としてアルキルアミノスルホン酸を使用し、粘土鉱物としてベントナイトを使用した。
【0036】
使用した充填材の配合と材齢28日の一軸圧縮強度の測定結果を表1に示す。
【表1】
【0037】
また、水/半水石膏比と材齢28日の一軸圧縮強度との関係を示すグラフを
図3に示す。
【0038】
表1及び
図3の結果から、半水石膏に対して水の割合を多くすると、圧縮強度が低くなる傾向にある。また、上記非特許文献2に記載の背面空洞注入材の品質規格として、材齢28日の一軸圧縮強さが1.5N/mm
2以上であることが規定されている。この要件を満たす水/半水石膏比は、54~64%である。
【0039】
(2)遅延剤の効果
遅延剤としてアルキルアミノスルホン酸を使用し、遅延剤の添加率を変化させて練り混ぜた充填材について、打撃フローロスを測定した。前記打撃フローロスは、JIS R 5201「セメントの物理試験方法」のフロー試験に準じて測定した練上り直後のフロー値(打撃時)と、同フロー試験に準じて測定した注水60分後のフロー値(打撃時)との差、すなわち(練上り直後の打撃フロー値)-(注水60分後の打撃フロー値)から得た値である。ただし、前記フロー試験では、フローコーンに代わって、JHS313コンシステンシー試験方法のシリンダー法で適用する硬化プラスチック製シリンダーを用いる。フロー試験は、生成した充填材をテーブルの上で規定の型枠に充填し、型枠を外した後の充填材の広がりを計測することで、充填材の流動性を測定する静置時のフロー試験と、生成した充填材をテーブル上で規定の型枠に充填し、型枠を外した後、例えば15秒内に15回の落下運動による振動を与えた後の充填材の広がりを計測することで、充填材の流動性を測定する打撃時のフロー試験とがあるが、本実施例で用いた試験方法は、後者の打撃時のフロー試験である。
【0040】
使用した充填材の配合と、練上り直後の打撃フロー値、注水60分後の打撃フロー値及び打撃フローロスとの測定結果を表2に示す。
【表2】
【0041】
また、遅延剤添加率と打撃フローロスの関係を示すグラフを
図4に示す。なお、遅延剤添加率2.5%(実施例4)における注水60分後の打撃フロー値は、充填材が固化してしまったため、測定できなかった。
【0042】
表2及び
図4の結果から、遅延剤添加率が3.0%以上で注水60分後の流動性の制御効果を有し、遅延剤の添加率3.0~4.5%において遅延剤の添加量を増加させるとフローロスが低下し、遅延剤の添加率に応じて充填材の流動性を任意に制御することが可能となる。なお、遅延剤の添加率を4.5%より多くしてもよいが、遅延剤の添加率の増加割合に対してフローロスの低減効果が小さくなる。
【0043】
(3)粘土鉱物の効果
粘土鉱物としてベントナイトを使用し、粘土鉱物の添加量を変化させて練り混ぜた充填材について、練上り直後の打撃フロー値を測定した。
【0044】
使用した充填材の配合と練上り直後の打撃フロー値の測定結果を表3に示す。
【表3】
【0045】
また、粘土鉱物の添加量(単位量)と練上り直後の打撃フロー値との関係を示すグラフを
図5に示す。
【0046】
表3及び
図5の結果から、粘土鉱物の添加量を増加することによって練上り直後のフロー値が低減する効果があり、粘土鉱物の添加量を変化させることで、初期のフロー値を任意に制御することが可能となる。上記非特許文献2では、練上り直後の打撃フロー値が130~205mmであることが規定されているため、これに適合するベントナイトの添加量として、6~23kg/m
3とするのがよい。