(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024117928
(43)【公開日】2024-08-30
(54)【発明の名称】電動圧縮機
(51)【国際特許分類】
F04B 39/00 20060101AFI20240823BHJP
F04B 39/12 20060101ALI20240823BHJP
F04B 39/06 20060101ALI20240823BHJP
【FI】
F04B39/00 106Z
F04B39/12 Z
F04B39/06 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023024029
(22)【出願日】2023-02-20
(71)【出願人】
【識別番号】000001845
【氏名又は名称】サンデン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098361
【弁理士】
【氏名又は名称】雨笠 敬
(72)【発明者】
【氏名】吉田 浩
(72)【発明者】
【氏名】下田 真之
【テーマコード(参考)】
3H003
【Fターム(参考)】
3H003AC03
3H003BE01
3H003CD01
3H003CF01
(57)【要約】
【課題】電源供給部からインバータ回路に伝わる熱の影響を効果的に低減することができる電動圧縮機を提供する。
【解決手段】電動圧縮機1は、基板導体を有する回路基板2が筐体27に取り付けられたものであって、回路基板2に構成されたインバータ回路4と、回路基板2に電源を供給するHVコネクタ17(電源供給部)を備え、インバータ回路4とHVコネクタ17の間の基板導体11を、絶縁された状態で筐体27と熱交換させる。HVコネクタ17は、車両の高電圧バッテリ7から回路基板2に電源を供給する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板導体を有する回路基板が筐体に取り付けられた電動圧縮機において、
前記回路基板に構成されたインバータ回路と、前記回路基板に電源を供給する電源供給部を備え、
前記インバータ回路と前記電源供給部の間の前記基板導体を、絶縁された状態で前記筐体と熱交換させることを特徴とする電動圧縮機。
【請求項2】
前記電源供給部は、車両のバッテリから前記回路基板に電源を供給することを特徴とする請求項1に記載の電動圧縮機。
【請求項3】
前記インバータ回路と前記電源供給部との間の前記回路基板に構成されたノイズフィルタを備え、
該ノイズフィルタと前記電源供給部の間の前記基板導体を、絶縁された状態で前記筐体と熱交換させることを特徴とする請求項1に記載の電動圧縮機。
【請求項4】
前記インバータ回路と前記ノイズフィルタの間の前記基板導体を、絶縁された状態で前記筐体と熱交換させることを特徴とする請求項3に記載の電動圧縮機。
【請求項5】
前記基板導体が、絶縁性の熱伝導部材を介して前記筐体と熱交換するように前記回路基板が配置されていることを特徴とする請求項1に記載の電動圧縮機。
【請求項6】
前記筐体は、少なくとも一面が開口するインバータ収容部が設けられた本体と、該本体に取り付けられて前記インバータ収容部の開口を閉塞するカバーを備え、
前記回路基板は前記インバータ収容部内に収容されると共に、
前記熱伝導部材を介して前記本体と前記カバーにより、前記回路基板の前記基板導体部分が挟み込まれる構成としたことを特徴とする請求項5に記載の電動圧縮機。
【請求項7】
前記本体と前記カバーは、前記インバータ収容部の周辺部よりも中央部側の位置にて前記回路基板の前記基板導体部分を挟み込む構成としたことを特徴とする請求項6に記載の電動圧縮機。
【請求項8】
前記インバータ回路と前記電源供給部との間の前記回路基板に構成されたノイズフィルタと、
該ノイズフィルタと前記電源供給部の間、及び/又は、前記インバータ回路と前記ノイズフィルタの間における前記本体から前記カバー側に突出する本体側抑え突起と、
該本体側抑え突起に対応する位置の前記カバーから前記本体側に突出するカバー側抑え突起を備え、
前記本体側抑え突起と前記カバー側抑え突起により、前記熱伝導部材を介して前記回路基板の前記基板導体部分が挟み込まれることを特徴とする請求項6に記載の電動圧縮機。
【請求項9】
前記本体と前記熱伝導部材の間、及び/又は、前記カバーと前記熱伝導部材の間に設けられた放熱部材を備え、
前記本体、及び/又は、前記カバーは、前記熱伝導部材及び前記放熱部材を介して前記回路基板の前記基板導体部分を挟み込むことを特徴とする請求項6に記載の電動圧縮機。
【請求項10】
前記本体側抑え突起、及び/又は、前記カバー側抑え突起、又は、前記放熱部材は、前記熱伝導部材に面接触する壁にて構成されていることを特徴とする請求項8又は請求項9に記載の電動圧縮機。
【請求項11】
前記本体側抑え突起、及び/又は、前記カバー側抑え突起、又は、前記放熱部材は、放熱フィンを有することを特徴とする請求項8又は請求項9に記載の電動圧縮機。
【請求項12】
前記回路基板は、前記インバータ回路及び前記ノイズフィルタが含まれる高電圧回路と、前記インバータ回路のスイッチングを制御する制御回路に電源を供給する低電圧回路を有することを特徴とする請求項8又は請求項9に記載の電動圧縮機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インバータ回路を有する回路基板を筐体内に取り付けて成る電動圧縮機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
所謂車両用インバータ一体型電動圧縮機は、基板導体(銅パターン)が施された回路基板上にモータをスイッチング素子により駆動するためのインバータ回路や、ノイズを低減するためのノイズフィルタが取り付けられ、配線されている。そして、この回路基板は筐体に構成されたインバータ収容部内に収容されて取り付けられ、取り付けられた回路基板には車両の高電圧バッテリ(HVバッテリ)にハーネスを介して導通されたHVコネクタ(電源供給部)が接続され、回路基板に電源(高電圧の電力)が供給される構造とされていた(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
また、電動圧縮機のインバータ収容部は、回路基板が収容された後、カバーにて閉塞されるが、このカバーと筐体の本体間に防振部材を介設して振動を抑制するものも開発されていた(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2018-204492号公報
【特許文献2】特開2020-56376号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、HVコネクタ(電源供給部)は金属導体から構成されており、回路基板との接続部分には大電流が流れるため、発熱も大きくなる。そして、この熱は基板導体を介してインバータ回路等を構成する電子部品に伝わるため、電子部品の自己発熱による温度上昇よりも、HVコネクタから伝達される熱による温度上昇の方が大きくなると、その分、回路基板及び電子部品に熱的な余裕(ディレーティング)を持たせなければならなくなる。そのため、回路基板や電子部品の使用可能電圧や電流、温度範囲に制約が生じるという問題があった。
【0006】
本発明は、係る従来の技術的課題を解決するために成されたものであり、電源供給部からインバータ回路に伝わる熱の影響を効果的に低減することができる電動圧縮機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の電動圧縮機は、基板導体を有する回路基板が筐体に取り付けられたものであって、回路基板に構成されたインバータ回路と、回路基板に電源を供給する電源供給部を備え、インバータ回路と電源供給部の間の基板導体を、絶縁された状態で筐体と熱交換させることを特徴とする。
【0008】
請求項2の発明の電動圧縮機は、上記発明において電源供給部は、車両のバッテリから回路基板に電源を供給することを特徴とする。
【0009】
請求項3の発明の電動圧縮機は、請求項1の発明においてインバータ回路と電源供給部との間の回路基板に構成されたノイズフィルタを備え、このノイズフィルタと電源供給部の間の基板導体を、絶縁された状態で筐体と熱交換させることを特徴とする。
【0010】
請求項4の発明の電動圧縮機は、上記発明においてインバータ回路とノイズフィルタの間の基板導体を、絶縁された状態で筐体と熱交換させることを特徴とする。
【0011】
請求項5の発明の電動圧縮機は、請求項1の発明において基板導体が、絶縁性の熱伝導部材を介して筐体と熱交換するように回路基板が配置されていることを特徴とする。
【0012】
請求項6の発明の電動圧縮機は、上記発明において筐体は、少なくとも一面が開口するインバータ収容部が設けられた本体と、この本体に取り付けられてインバータ収容部の開口を閉塞するカバーを備え、回路基板はインバータ収容部内に収容されると共に、熱伝導部材を介して本体とカバーにより、回路基板の基板導体部分が挟み込まれる構成としたことを特徴とする。
【0013】
請求項7の発明の電動圧縮機は、上記発明において本体とカバーは、インバータ収容部の周辺部よりも中央部側の位置にて回路基板の基板導体部分を挟み込む構成としたことを特徴とする。
【0014】
請求項8の発明の電動圧縮機は、請求項6の発明においてインバータ回路と電源供給部との間の回路基板に構成されたノイズフィルタと、このノイズフィルタと電源供給部の間、及び/又は、インバータ回路とノイズフィルタの間における本体からカバー側に突出する本体側抑え突起と、この本体側抑え突起に対応する位置のカバーから本体側に突出するカバー側抑え突起を備え、本体側抑え突起とカバー側抑え突起により、熱伝導部材を介して回路基板の基板導体部分が挟み込まれることを特徴とする。
【0015】
請求項9の発明の電動圧縮機は、請求項6の発明において本体と熱伝導部材の間、及び/又は、カバーと熱伝導部材の間に設けられた放熱部材を備え、本体、及び/又は、カバーは、熱伝導部材及び放熱部材を介して回路基板の基板導体部分を挟み込むことを特徴とする。
【0016】
請求項10の発明の電動圧縮機は、請求項8又は請求項9の発明において本体側抑え突起、及び/又は、カバー側抑え突起、又は、放熱部材は、熱伝導部材に面接触する壁にて構成されていることを特徴とする。
【0017】
請求項11の発明の電動圧縮機は、請求項8又は請求項9の発明において本体側抑え突起、及び/又は、カバー側抑え突起、又は、放熱部材は、放熱フィンを有することを特徴とする。
【0018】
請求項12の発明の電動圧縮機は、請求項8又は請求項9の発明において回路基板は、インバータ回路及びノイズフィルタが含まれる高電圧回路と、インバータ回路のスイッチングを制御する制御回路に電源を供給する低電圧回路を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、基板導体を有する回路基板が筐体に取り付けられた電動圧縮機において、回路基板に構成されたインバータ回路と、回路基板に電源を供給する電源供給部を備え、インバータ回路と電源供給部の間の基板導体を、絶縁された状態で筐体と熱交換させるようにしたので、電源供給部において発生し、基板導体を伝ってインバータ回路に影響する熱を、筐体に伝わらせて放出することができるようになる。
【0020】
これにより、電源供給部からインバータ回路に影響する熱が遮断、若しくは、抑制されるので、ディレーティングを決定する必要がある回路基板やインバータ回路を構成する電子部品の使用可能電圧、電流、温度範囲を拡大することができるようになる。
【0021】
これは特に請求項2の発明のように電源供給部により車両のバッテリから回路基板に電源が供給される電動圧縮機において有効である。
【0022】
ここで、インバータ回路と電源供給部との間の回路基板には通常ノイズフィルタが構成されるので、実際には請求項3の発明の如くノイズフィルタと電源供給部の間の基板導体を、絶縁された状態で筐体と熱交換させることになる。
【0023】
また、請求項4の発明の如くインバータ回路とノイズフィルタの間の基板導体も、絶縁された状態で筐体と熱交換させるようにすれば、ノイズフィルタで発生し、基板導体を介してインバータ回路に伝わる熱も遮断、若しくは、抑制することができるようになる。
【0024】
また、基板導体を筐体と熱交換させる場合、請求項5の発明の如く基板導体が、絶縁性の熱伝導部材を介して筐体と熱交換するように回路基板を配置することで、安全且つ円滑に基板導体と筐体を熱交換させることができるようになる。
【0025】
また、請求項6の発明の如く筐体が、少なくとも一面が開口するインバータ収容部が設けられた本体と、この本体に取り付けられてインバータ収容部の開口を閉塞するカバーを備えた構成とされ、回路基板がインバータ収容部内に収容される構成とされている場合、熱伝導部材を介して本体とカバーにより、回路基板の基板導体部分が挟み込まれる構成とすることで、簡単な構成で熱伝導部材を介し、基板導体と筐体とを熱交換させることができるようになる。
【0026】
更に、本体とカバーにより回路基板の基板導体部分を挟み込む構成とすることで、カバーにおいて発生する振動も抑制することができるようになる効果もある。この場合、請求項7の発明の如く本体とカバーを、インバータ収容部の周辺部よりも中央部側の位置にて、回路基板の基板導体部分を挟み込む構成とすることで、カバーの防振効果をより向上させることができるようになる。
【0027】
また、請求項8の発明の如くインバータ回路と電源供給部との間の回路基板に構成されたノイズフィルタと電源供給部の間、及び/又は、インバータ回路とノイズフィルタの間における本体からカバー側に突出する本体側抑え突起と、この本体側抑え突起に対応する位置のカバーから本体側に突出するカバー側抑え突起を設け、本体側抑え突起とカバー側抑え突起により、熱伝導部材を介して回路基板の基板導体部分が挟み込まれるようにすれば、本体とカバーの両抑え突起により回路基板の基板導体部分が挟み込まれることになる。
【0028】
これにより、少ない部品点数で基板導体と筐体とを熱交換させることができるようになると共に、ノイズフィルタに外部から影響する電磁ノイズ、或いは、ノイズフィルタから外部に影響する電磁ノイズも抑制することができるようになる。
【0029】
尚、上記によらず、請求項9の発明の如く本体と熱伝導部材の間、及び/又は、カバーと熱伝導部材の間に放熱部材を設け、本体、及び/又は、カバーが、熱伝導部材及び放熱部材を介して回路基板の基板導体部分を挟み込むようにしてもよい。即ち、この場合は回路基板の基板導体部分が、放熱部材が介在したかたちで挟み込まれ、熱伝導部材及び放熱部材を介して基板導体と筐体が熱交換することになるので、本体、及び/又は、カバーの形状を簡素化することができる。
【0030】
また、請求項10の発明の如く本体側抑え突起、及び/又は、カバー側抑え突起、又は、放熱部材を、熱伝導部材に面接触する壁にて構成すれば、熱伝導部材との接触面積が増えるので、安定的に回路基板を挟み込み、基板導体の放熱性能も向上させることになる。
【0031】
また、請求項11の発明の如く本体側抑え突起、及び/又は、カバー側抑え突起、又は、放熱部材に、放熱フィンを設ければ、基板導体の放熱性能が増加することになる。
【0032】
更に、請求項12の発明の如く回路基板に、インバータ回路及びノイズフィルタが含まれる高電圧回路と、インバータ回路のスイッチングを制御する制御回路に電源を供給する低電圧回路が設けられている場合には、各抑え突起や放熱部材が隔壁となるため、低電圧回路からノイズフィルタに影響する電磁ノイズを効果的に抑制することができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【
図1】本発明の一実施例の電動圧縮機の電気回路図である(実施例1)。
【
図2】
図1の電動圧縮機のインバータ収容部部分の概略断面図である。
【
図5】本発明の他の実施例を説明するための図である(
図3のA-A線断面に相当。実施例2)。
【
図6】本発明の更に他の実施例の電動圧縮機の抑え突起等の断面図である(実施例3)。
【
図7】本発明の更に他の実施例の電動圧縮機の抑え突起等の断面図である(実施例4)。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、本発明の実施の形態について、図面に基づき詳細に説明する。
【実施例0035】
図1は本発明の一実施例の電動圧縮機1の電気回路図、
図2は電動圧縮機1の回路基板2を収容するインバータ収容部3部分の概略断面図をそれぞれ示している。実施例の電動圧縮機1は、例えば電気自動車やハイブリッド自動車等の車両に搭載されて車室内を空調する車両用空気調和装置の冷媒回路の一部を構成するものであり、インバータ回路(PWMインバータ)4や、ノイズフィルタとしてのHVノイズフィルタ6等を備えた回路基板2は、この電動圧縮機1に一体に設けられる。即ち、実施例の電動圧縮機1は車両用インバータ一体型電動圧縮機である。
【0036】
回路基板2に構成されたインバータ回路4は、直流電源として車両に搭載された高電圧バッテリ7(HVバッテリ。例えばDC350V)からの直流電圧を任意の周波数の交流電圧に変換して電動圧縮機1のモータ8に供給し、運転するものであり、HVノイズフィルタ(ノイズフィルタ)6は、インバータ回路4にて発生するノイズの伝搬を低減するために設けられるものである。
【0037】
回路基板2は、
図3、
図4に拡大して示すような絶縁性の基材9の両面に基板導体(銅パターン)11A、11Bが配線されたものであり、この回路基板2上に、前述したインバータ回路4と、このインバータ回路4を制御する制御回路12と、前述したHVノイズフィルタ6と、LVノイズフィルタ13と、電源回路14が配線され、後述する(
図2に示す)如くインバータ収容部3内に収容される。
【0038】
尚、車両には電動圧縮機1のモータ8や、図示しない走行用のモータに給電して駆動するための前述した高電圧バッテリ7と、DC12V程の低電圧バッテリ(LVバッテリ)16が搭載されており、HVノイズフィルタ6の一端が電源供給部としてのHVコネクタ17により高電圧バッテリ7に接続され、HVノイズフィルタ6の他端がインバータ回路4に接続されている。また、LVノイズフィルタ13の一端はLVコネクタ18により低電圧バッテリ16に接続されている。
【0039】
インバータ回路4は、三相ブリッジ接続の6個のスイッチング素子21(
図2)を備えており、各スイッチング素子21は制御回路12が有するゲートドライバが生成するゲート駆動信号により制御される。制御回路12はマイクロプロセッサ(CPU)から構成されており、インバータ回路4の各スイッチング素子21をゲートドライバによりスイッチングしてPWM変調を行うことで、高電圧バッテリ7の直流電圧を所定周波数の交流電圧としてモータ8に供給する。
【0040】
HVノイズフィルタ6は、前述した如く高電圧バッテリ7とインバータ回路4の間に接続されたEMIフィルタであり、インバータ回路4のスイッチングにより発生するEMIノイズを低減させる作用を奏する。LVノイズフィルタ13は、低電圧バッテリ16と電源回路14の間に接続され、電源回路14でのスイッチングにより発生するEMIノイズを低減させる作用を奏する。
【0041】
電源回路14は、低電圧バッテリ16(DC12V)をスイッチングして所定の直流電圧(HV15V、HV5V)を生成し、制御回路12に給電するためのDC-DCコンバータである。電源回路14は、一次巻線22と、この一次巻線22とは絶縁された二次巻線23から成る絶縁トランス(カップリングトランス)にて構成されたスイッチングトランス24と、一次巻線22に接続されたスイッチング素子26(実施例ではMOSFET)を有している。そして、スイッチングトランス24の巻数比に応じて、DC15V(HV15V)とDC5V(HV5V)が出力されるようにスイッチング素子26がスイッチング制御される。
【0042】
電源回路14は、低電圧バッテリ16をスイッチングして制御回路12に電源を供給すると共に、スイッチングトランス24により、一次巻線22が位置する低電圧バッテリ16側の低電圧回路29と、二次巻線23が位置する高電圧バッテリ7側の高電圧回路28とを絶縁する。そして、このように絶縁された高電圧回路28と低電圧回路29が回路基板2上で近接した状態で構成され、後述する如くインバータ収容部3内に収容される。
【0043】
また、27は電動圧縮機1の筐体(アルミダイカスト製)である。前述したHVコネクタ17は、シールドされたHVハーネス28を介して高電圧バッテリ7に導通接続されているので、このHVコネクタ17により回路基板2のHVノイズフィルタ6が高電圧バッテリ7に着脱可能に接続され、高電圧バッテリ7から回路基板2に電源が供給されることになる。
【0044】
ここで、
図2は電動圧縮機1のインバータ収容部3部分の概略断面図を示している。実施例の筐体27は、
図2に示す如きアルミダイカスト製の本体31と、アルミダイカスト或いは板金製のカバー32から成り、本体31内に前述したモータ8や、このモータ8で駆動される図示しない圧縮機構が収納されている。
【0045】
前述したインバータ収容部3は、この筐体27の本体31の軸方向の一端部に構成されており、一面が開口している。そして、この開口から回路基板2がインバータ収容部3内に収容され、図示しないボルトにて本体31に取り付けられる。そして、回路基板2がインバータ収容部3内に取り付けられた後、カバー32が図示しないボルトにて本体31に取り付けられ、インバータ収容部3を開閉可能に閉塞する構造とされている。
【0046】
インバータ回路4のスイッチング素子21は、
図2に示す如くインバータ収容部3の底壁3A(筐体27の本体31)に熱交換関係に配置され、これにより、本体31内の前述した圧縮機構に吸入される低温冷媒により、スイッチング素子21は冷却される構成とされている。
【0047】
次に、
図2~
図4を参照しながら、本発明の目的とする回路基板2の基板導体11A、11Bの放熱構造について詳細に説明する。実施例ではHVコネクタ17とHVノイズフィルタ6との間、及び、このHVノイズフィルタ6とインバータ回路4の間(実施例ではインバータ回路4、制御回路12及び電源回路14と、HVノイズフィルタ6との間。
図2)の基板導体11Aに対応する位置の底壁3A(本体31)からは、カバー32側に突出する本体側抑え突起33、34が一体に形成されている。
【0048】
また、これら本体側抑え突起33、34に対応する位置のカバー32には、本体31側に突出するカバー側抑え突起36、37が一体に形成されている。尚、このカバー側抑え突起36、37も基板導体11Bに対応する位置にある。
【0049】
これら抑え突起33、34、36、37は、インバータ収容部3内に収容された回路基板2の両面の基板導体11A、11B部分(基板導体11A、11Bの何れかの箇所)に対応し、それぞれ近接する位置まで突出している。更に、抑え突起33、34、36、37が対応する位置における両面の基板導体11A、11B及びそれらの間の回路基板2には、基板導体11Aから基板導体11bに渡る複数の熱伝導用スルーホール38が貫設されている。
【0050】
そして、抑え突起33、34、36、37と、それらに対応する位置の基板導体11A、11B間には、絶縁性の熱伝導部材39がそれぞれ介設されている。尚、
図3では熱伝導部材39及び抑え突起36を透視して示している。この熱伝導部材39は、例えばシリコンにて構成されたシートにて構成される。ここで、本体側抑え突起33とカバー側抑え突起36との間隔、及び、本体側抑え突起34とカバー側抑え突起37の間隔は、カバー32が本体31に取り付けられた状態で、本体側抑え突起33、34、及び、カバー側抑え突起36、37が熱伝導部材39にそれぞれ面接触で当接し、各熱伝導部材39を介して、基板導体11A、11Bと本体31及びカバー32との間の良好な熱交換が得られる適切な寸法に設定される。
【0051】
組立手順は、例えば、HVコネクタ17とHVノイズフィルタ6との間、及び、HVノイズフィルタ6とインバータ回路4の間(実施例ではインバータ回路4、制御回路12及び電源回路14と、HVノイズフィルタ6との間)に位置する回路基板2の両面の基板導体11A、11Bに熱伝導部材39を配置する。このとき、熱伝導部材39は、例えば回路基板2に貼り付けられる。その状態で回路基板2をインバータ収容部3内に収容してボルトにて固定する。このとき、本体側抑え突起33、34は底壁3A側の熱伝導部材39に当接する。
【0052】
その状態でカバー32を本体31に取り付ける。このとき、カバー側抑え突起36、37はカバー32側の熱伝導部材39に当接する。これにより、回路基板2の両面の基板導体11A、11B部分は、熱伝導部材39をそれぞれ介し、絶縁された状態で、本体側抑え突起33、34とカバー側抑え突起36、37により挟み込まれ、相互に熱交換関係となる(
図4)。
【0053】
即ち、HVノイズフィルタ6とインバータ回路4との間の回路基板2の両面の基板導体11A、11B部分は、熱伝導部材39をそれぞれ介して、絶縁された状態で本体側抑え突起33とカバー側抑え突起36により挟み込まれ、HVノイズフィルタ6とHVコネクタ17との間の回路基板2の両面の基板導体11A、11B部分は、熱伝導部材39をそれぞれ介して、絶縁された状態で本体側抑え突起34とカバー側抑え突起37により挟み込まれる(
図2)。
【0054】
これにより、HVノイズフィルタ6とインバータ回路4との間の回路基板2の両面の基板導体11A、11Bは、絶縁された状態で筐体27と熱交換し、HVノイズフィルタ6とHVコネクタ17との間の回路基板2の両面の基板導体11A、11Bも、絶縁された状態で筐体2と熱交換することになる。
【0055】
この場合、何れの抑え突起33、34、36、37もインバータ回路4のHVコネクタ17側に位置しているので、これにより、インバータ回路4とHVコネクタ17(電源供給部)との間の基板導体11A、11Bが、絶縁された状態で筐体2と熱交換することになる。
【0056】
また、本体側抑え突起34とカバー側抑え突起37により、HVノイズフィルタ6とHVコネクタ17との間の基板導体11A、11Bが、絶縁された状態で筐体2と熱交換し、本体側抑え突起33とカバー側抑え突起36により、HVノイズフィルタ6とインバータ回路4との間の基板導体11A、11Bが、絶縁された状態で筐体2と熱交換する状態となる。
【0057】
ここで、低電圧回路29は
図2における各抑え突起33、34、36、37のインバータ回路4側に位置するものとする。即ち、これら抑え突起33、34、36、37が隔壁となり、HVノイズフィルタ6はそれ以外の高電圧回路28、及び、低電圧回路29からシールドされたかたちとなる。更に、実施例の場合、本体側抑え突起34とカバー側抑え突起37は、インバータ収容部3の周辺部よりも中央側の位置にて回路基板2の両面の基板導体11A、11B部分をそれぞれ挟み込むと共に、本体側抑え突起33とカバー側抑え突起36は、各抑え突起34、37よりも更に中央側の位置にて回路基板2の両面の基板導体11A、11B部分をそれぞれ挟み込むかたちとなる。
【0058】
HVバッテリ7から高電圧が回路基板2に供給されると、金属導体から構成されたHVコネクタ17では回路基板2との接続部分に大電流が流れるため、発熱が大きくなるが、本発明では以上詳述した如く、インバータ回路4とHVコネクタ17(電源供給部)の間の基板導体11A、11Bを、絶縁された状態で筐体27と熱交換させるようにしたので、HVコネクタ17において発生し、基板導体11A、11Bを伝ってインバータ回路4に影響する熱を、筐体27に伝わらせて放出することができるようになる。これにより、HVコネクタ17からインバータ回路4に影響する熱が遮断、若しくは、抑制されるので、ディレーティングを決定する必要がある回路基板2やインバータ回路4を構成する電子部品の使用可能電圧、電流、温度範囲を拡大することができるようになる。
【0059】
また、実施例ではHVノイズフィルタ6とHVコネクタ17の間の基板導体11A、11Bを、絶縁された状態で筐体27と熱交換させると共に、インバータ回路4とHVノイズフィルタ6の間の基板導体11A、11Bも、絶縁された状態で筐体27と熱交換させるようにしているので、HVノイズフィルタ6で発生し、基板導体11A、11Bを介してインバータ回路4に伝わる熱も遮断、若しくは、抑制することができるようになる。
【0060】
また、基板導体11A、11Bが、絶縁性の熱伝導部材39を介して筐体27と熱交換するように回路基板2を配置しているので、安全且つ円滑に基板導体11A、11Bと筐体27を熱交換させることができるようになる。
【0061】
また、この実施例では熱伝導部材39を介して筐体27の本体31と、インバータ収容部3のカバー32により回路基板2の基板導体11A、11B部分が挟み込まれる構成としているので、簡単な構成で熱伝導部材39を介し、基板導体11A、11Bと筐体27とを熱交換させることができるようになる。
【0062】
更に、筐体27の本体31とカバー32により回路基板2の基板導体11A、11B部分を挟み込む構成としているので、本体31に取り付けられたカバー32において発生する振動も抑制することができるようになる効果もある。この場合、実施例では本体31とカバー32を、インバータ収容部3の周辺部よりも中央部側の位置にて回路基板2の基板導体11A、11B部分を挟み込む構成としているので、カバー32の防振効果をより向上させることができるようになる。
【0063】
また、実施例ではHVノイズフィルタ6とHVコネクタ17の間、及び、インバータ回路4とHVノイズフィルタ6の間における本体31からカバー32側に突出する本体側抑え突起34、33と、これら本体側抑え突起34、33に対応する位置のカバー32から本体31側に突出するカバー側抑え突起37、36を設け、本体側抑え突起33、34とカバー側抑え突起36、37自体により、熱伝導部材39を介して回路基板2の基板導体11A、11B部分が挟み込まれるようにしたので、少ない部品点数で基板導体11A、11Bと筐体27とを熱交換させることができるようになる。
【0064】
更に、本体31とカバー32の両抑え突起33、34、36、37が隔壁となり、HVノイズフィルタ6を外部から遮蔽するので、HVノイズフィルタ6に外部から影響する電磁ノイズ、或いは、HVノイズフィルタ6から外部に影響する電磁ノイズも抑制することができるようになる。
【0065】
特に、実施例の如く回路基板2に、インバータ回路4及びHVノイズフィルタ6が含まれる高電圧回路28と、インバータ回路4のスイッチングを制御する制御回路12に電源を供給する低電圧回路29が設けられている場合には、低電圧回路29からHVノイズフィルタ6に影響する電磁ノイズ(主に放射ノイズ)を効果的に抑制することができるようになる。
【0066】
尚、上記実施例ではHVノイズフィルタ6とHVコネクタ17の間、及び、インバータ回路4とHVノイズフィルタ6の間における本体31からカバー32側に突出する本体側抑え突起34、33と、これら本体側抑え突起34、33に対応する位置のカバー32から本体31側に突出するカバー側抑え突起37、36を設けて、HVノイズフィルタ6とHVコネクタ17の間の基板導体11A、11B、及び、インバータ回路4とHVノイズフィルタ6の間の基板導体11A、11Bを絶縁された状態で筐体27と熱交換させるようにしたが、請求項1及び請求項2の発明ではそれに限らず、HVノイズフィルタ6とHVコネクタ17の間の基板導体11A、11Bと、インバータ回路4とHVノイズフィルタ6の間の基板導体11A、11Bのうちの何れか一方を絶縁された状態で筐体27と熱交換させるようにしてもよい。また、請求項3の発明では、HVノイズフィルタ6とHVコネクタ17の間の基板導体11A、11Bのみを絶縁された状態で筐体27と熱交換させるようにしてもよい。
前述した実施例(実施例1)では、筐体27の本体31に本体側抑え突起33、34を一体に形成し、カバー32にもカバー側抑え突起36、37を一体に形成して、これら抑え突起33、34、36、37により回路基板2の基板導体11A、11B部分を、熱伝導部材39を介して挟み込むようにしたが、本体31やカバー32に抑え突起(33、34、36、37)を形成すること無く、金属等の熱伝導が良好な素材で形成された放熱部材を別途用意し、この放熱部材と熱伝導部材39を介して、回路基板2の基板導体11A、11B部分を本体31とカバー32により挟み込む構成としてもよい。
これにより、HVノイズフィルタ6とHVコネクタ17の間の基板導体11A、11B、及び、インバータ回路4とHVノイズフィルタ6の間の基板導体11A、11Bは、熱伝導部材39により絶縁された状態で、当該熱伝導部材39及び放熱部材41を介して筐体27(本体31及びカバー32)と熱交換関係となる。
即ち、この実施例では回路基板2の基板導体11A、11B部分が、放熱部材41が介在したかたちで挟み込まれ、熱伝導部材39及び放熱部材41を介して基板導体11A、11Bと筐体2が熱交換することになるので、本体31やカバー32の形状を簡素化することができる効果がある。
尚、この実施例では本体31と熱伝導部材39の間、及び、カバー32と熱伝導部材39の間の双方に放熱部材41を設けるようにしたが、それに限らず、本体31及びカバー32のうちの一方に前述した実施例(実施例1)のような抑え突起を形成し、他方と熱伝導部材39の間のみに放熱部材41を設けるようにしてもよい。更に、HVノイズフィルタ6とHVコネクタ17の間、及び、インバータ回路4とHVノイズフィルタ6の間のうちの一方を前述した実施例(実施例1)のような抑え突起で挟み込み、他方は放熱部材41を介して挟み込む構成としてもよい。