IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日立ツール株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-ドリル 図1
  • 特開-ドリル 図2
  • 特開-ドリル 図3
  • 特開-ドリル 図4
  • 特開-ドリル 図5
  • 特開-ドリル 図6
  • 特開-ドリル 図7
  • 特開-ドリル 図8
  • 特開-ドリル 図9
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024117943
(43)【公開日】2024-08-30
(54)【発明の名称】ドリル
(51)【国際特許分類】
   B23B 51/00 20060101AFI20240823BHJP
【FI】
B23B51/00 S
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023024059
(22)【出願日】2023-02-20
(71)【出願人】
【識別番号】000233066
【氏名又は名称】株式会社MOLDINO
(74)【代理人】
【識別番号】100124316
【弁理士】
【氏名又は名称】塩田 康弘
(72)【発明者】
【氏名】藤原 繁栄
(72)【発明者】
【氏名】蒲谷 佑吾
【テーマコード(参考)】
3C037
【Fターム(参考)】
3C037AA02
3C037BB01
3C037BB04
3C037BB13
3C037DD01
(57)【要約】
【課題】切れ刃に折損を抑制するためのホーニング面が形成されたドリルにおいて、ホーニング面が形成された切れ刃、特にシンニング切れ刃の折損を生じにくくする。
【解決手段】シャンク部2の軸方向先端部側の刃部4が半径方向外周側の主切れ刃41とこれに連続する中心側のシンニング切れ刃42からなる複数枚の切れ刃4を持ち、主切れ刃41とシンニング切れ刃42にホーニング面41a、42aが形成されたドリル1において、刃部4を端面側から見たとき、主切れ刃41からシンニング切れ刃42に移行する移行区間44が回転方向前方側に向かって凸の曲線を描き、ホーニング面41aとホーニング面42aとの間に、前記軸方向と軸方向に直交する方向に対して傾斜した境界線43が表れ、ホーニング面42aに境界線43に沿った方向の研削筋45を形成する。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シャンク部の軸方向先端部側に、複数枚の切れ刃と、周方向に隣接する前記切れ刃間に切屑排出溝を有する刃部を備え、前記各切れ刃の逃げ面の回転方向後方側に、前記切屑排出溝に面するシンニング部が形成され、前記切れ刃が半径方向外周側の主切れ刃と、この主切れ刃に連続し、前記主切れ刃の半径方向中心側に位置するシンニング切れ刃からなり、前記主切れ刃と前記シンニング切れ刃にそれぞれホーニング面が形成されたドリルであり、
前記主切れ刃の前記ホーニング面と、前記シンニング切れ刃の前記ホーニング面との間には、前記シャンク部の軸方向と、この軸方向に直交する方向の双方に対して傾斜した境界線が表れ、前記シンニング切れ刃の前記ホーニング面には、前記境界線に沿った方向の研削筋が形成され、
前記刃部を軸方向に端面側から見たとき、前記主切れ刃から前記シンニング切れ刃に移行する移行区間は回転方向前方側に向かって凸の曲線を描き、前記主切れ刃の前記シンニング切れ刃寄りの部分における接線と前記シンニング切れ刃の前記主切れ刃寄りの部分における接線とのなす角度は150°より大きい劣角であることを特徴とするドリル。
【請求項2】
前記境界線の延長線と、前記シンニング切れ刃の内、前記移行区間を越えた部分における接線とのなす角度は170°を超える優角であることを特徴とする請求項1に記載のドリル。
【請求項3】
前記刃部を側面から見、前記境界線を正面に見たとき、前記境界線と前記軸方向とのなす角度は15°以上あり、前記軸方向に直交する平面と前記境界線とのなす角度は15°以上あることを特徴とする請求項1、もしくは請求項2に記載のドリル。
【請求項4】
シャンク部の軸方向先端部側に、複数枚の切れ刃と、周方向に隣接する前記切れ刃間に切屑排出溝を有する刃部を備え、前記各切れ刃の逃げ面の回転方向後方側に、前記切屑排出溝に面するシンニング部が形成され、前記切れ刃が半径方向外周側の主切れ刃と、この主切れ刃に連続し、前記主切れ刃の半径方向中心側に位置するシンニング切れ刃からなり、前記主切れ刃と前記シンニング切れ刃にそれぞれホーニング面が形成されたドリルであり、
前記刃部を軸方向に端面側から見たとき、前記主切れ刃から前記シンニング切れ刃に移行する移行区間は回転方向前方側に向かって凸の曲線を描き、
前記主切れ刃の前記ホーニング面と、前記シンニング切れ刃の前記ホーニング面との間には、前記シャンク部の軸方向と、この軸方向に直交する方向の双方に対して傾斜した境界線が表れ、前記シンニング切れ刃の前記ホーニング面には、前記境界線に沿った方向の研削筋が形成され、
前記主切れ刃の前記ホーニング面と、前記シンニング切れ刃の前記ホーニング面との間の前記境界線から、前記主切れ刃のすくい面と前記シンニング切れ刃のすくい面との間に移行する中間区間の少なくとも前記ホーニング面寄りの一部は凸の稜線を描かず、平面、もしくは曲面をなしていることを特徴とするドリル。
【請求項5】
前記刃部を軸方向に端面側から見たとき、前記主切れ刃の前記シンニング切れ刃寄りの部分における接線と前記シンニング切れ刃の前記主切れ刃寄りの部分における接線とのなす角度は150°より大きい劣角であることを特徴とする請求項4に記載のドリル。
【請求項6】
前記境界線の延長線と、前記シンニング切れ刃の内、前記移行区間を越えた部分における接線とのなす角度は170°を超える優角であることを特徴とする請求項4、もしくは請求項5に記載のドリル。
【請求項7】
刃径Dが1mm≦D≦4mmで、全長L/刃径Dが20以上の小径ロングドリルであり、前記シンニング切れ刃のホーニング幅dが0.020mm以上で、前記シンニング切れ刃のホーニング幅dの最大値と最小値の差が0.005mm以内であることを特徴とする請求項1、もしくは請求項4に記載のドリル。
【請求項8】
刃径Dが1mm≦D≦4mmで、全長L/刃径Dが20以上の小径ロングドリルであり、ホーニング角γは30°≦γ≦40°であることを特徴とする請求項1、もしくは請求項4に記載のドリル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は主に金属加工用に使用され、切れ刃に折損を抑制するためのホーニング面が形成されたドリルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
金属加工用等に使用される小径ロングドリル等のドリルの切れ刃には切削時の折損を抑制するためのホーニング面が形成されることが多い(特許文献1~6参照)。切れ刃は半径方向外周側の主切れ刃と主切れ刃の半径方向中心側に位置するシンニング切れ刃とに区分されるが、ホーニング面は両切れ刃のそれぞれに連続的に形成される(特許文献1~6)。
【0003】
一般的に、刃部の径が4mm以上のドリルでは機械ホーニングでホーニング面が形成されるが、刃部の径が4mm未満の小径ドリルでは手ホーニングでホーニング面が形成されることが多い。手ホーニングの場合、ホーニング面に現れる研削筋はシンニング切れ刃の長さ方向に(シンニング切れ刃に沿って)不均一となり、ホーニング幅もバラつきが生じ易い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実開昭60-175513号公報(請求項1、明細書第6頁第11行~第9頁第5行、第4図~第11図)
【特許文献2】特開2003-39220号公報(請求項1、段落0016~0021)
【特許文献3】特開2003-266225号公報(請求項2、段落0011~0013、図2
【特許文献4】特開2006-212724号公報(段落0018)
【特許文献5】特開2009-18360号公報(請求項1、段落0016~0025、図3図5
【特許文献6】特開2015-131384号公報(請求項4、段落0019~0020、0041、図2図4
【特許文献7】特開2021-88007号公報(段落0006~0008)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者は小径ロングドリルで高硬度材を加工した場合、ホーニング角を大きくするだけではシンニング切れ刃の折損を十分に抑制できないことを確認した。
【0006】
本発明は上記背景より、ホーニング面が形成された切れ刃、特にシンニング切れ刃の折損を生じにくくする形態のドリルを提案するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に記載の発明のドリルは、シャンク部の軸方向先端部側に、複数枚の切れ刃と、周方向に隣接する前記切れ刃間に切屑排出溝を有する刃部を備え、前記各切れ刃の逃げ面の回転方向後方側に、前記切屑排出溝に面するシンニング部が形成され、前記切れ刃が半径方向外周側の主切れ刃と、この主切れ刃に連続し、前記主切れ刃の半径方向中心側に位置するシンニング切れ刃からなり、前記主切れ刃と前記シンニング切れ刃にそれぞれホーニング面が形成されたドリルであり、
前記主切れ刃の前記ホーニング面と、前記シンニング切れ刃の前記ホーニング面との間には、前記シャンク部の軸方向と、この軸方向に直交する方向の双方に対して傾斜した境界線が表れ、前記シンニング切れ刃の前記ホーニング面には、前記境界線に沿った方向の研削筋が形成され、
前記刃部を軸方向に端面側から見たとき、前記主切れ刃から前記シンニング切れ刃に移行する移行区間が回転方向前方側に向かって凸の曲線を描き、前記主切れ刃の前記シンニング切れ刃寄りの部分における接線と前記シンニング切れ刃の前記主切れ刃寄りの部分における接線とのなす角度が150°より大きい劣角であることを特徴とする。
【0008】
「刃部3を軸方向に端面側から見たとき」とは、図1図3図9に示すドリル1の刃部3の先端面30をその側から軸方向(回転軸Oの方向)にシャンク部2側へ向かって見たときの端面を言う。
【0009】
「主切れ刃41からシンニング切れ刃42に移行する移行区間44が回転方向前方側に向かって凸の曲線を描き」とは、刃部3を端面(先端面30)側から見たときに、主切れ刃41からシンニング切れ刃42に移行する、図4図7に示す移行区間(移行部分)44が回転方向前方側に凸となる曲線を描き、主切れ刃41とシンニング切れ刃42が連続する曲線で移行するように形成されることを言う。
【0010】
このことには、シンニング切れ刃42の逃げ面7(2番面71)の回転方向の幅が大きめに確保される意味がある。「凸となる曲線」は全体的に凸の曲線を意味し、一部に平面を含む場合もある。シンニング切れ刃42の逃げ面7は主切れ刃41の逃げ面7でもある。シンニング切れ刃42の逃げ面7の回転方向の幅が大きめに確保されることで、シンニング切れ刃42を回転方向後方側で支える部分の剛性が増すため、シンニング切れ刃42の折損に対する安全性が向上する。
【0011】
移行区間44が描く回転方向前方側に凸となる曲線の曲がり具合を表す一指標が、「主切れ刃のシンニング切れ刃寄りの部分における接線とシンニング切れ刃の主切れ刃寄りの部分における接線とのなす角度αを150°より大きい劣角にすること(150°<α<180°)」である(請求項1、請求項5)。劣角は180°より小さい角度である。
【0012】
「主切れ刃41のシンニング切れ刃42寄りの部分における接線L1とシンニング切れ刃42の主切れ刃41寄りの部分における接線L2とのなす角度αが150°より大きい劣角である」とは、刃部3を端面側から見たときに、主切れ刃41からシンニング切れ刃42までの移行区間44の曲線の曲がり具合が緩やかで、急激でないことの尺度を表している。
【0013】
「主切れ刃41のシンニング切れ刃42寄りの部分における接線L1」は図5図7に示すように主切れ刃41の区間の内、主切れ刃41からシンニング切れ刃42に移行しかけた部分(移行区間44に入った部分)における接線を言う。「シンニング切れ刃42の主切れ刃41寄りの部分における接線L2」はシンニング切れ刃42の区間の内、シンニング切れ刃42から主切れ刃41に移行しかけた部分における接線(図7)、または移行区間44でのシンニング切れ刃42に移行しかけた部分における接線(図5図6)を言う。
【0014】
この両接線L1、L2間のなす角度が150°であることが、刃部3を端面側から見たときの移行区間44が描く曲線の曲率が大きくならず、移行区間44での被削材の切削時に移行区間44に折損を生じさせにくくなる一基準になる。言い換えれば、「両接線L1、L2間のなす角度が150°より大きいこと」が移行区間44に折損を生じさせないための一尺度(目安)である。両接線L1、L2間のなす角度が150°以下であれば、移行区間44の曲線が角張った形状に近づき、移行区間44に折損を生じさせ易くなることに因る。
【0015】
以上のように請求項1では刃部3を軸方向に見たときの移行区間44が回転方向前方側に向かって凸の曲線を描き、主切れ刃41の接線L1とシンニング切れ刃42の接線L2とのなす角度を150°より大きい劣角にすることで、移行区間44が描く曲線の曲率が大きくならず、移行区間44での被削材の切削時に移行区間44に折損を生じさせにくくすることが可能になる。
【0016】
移行区間44からシンニング切れ刃42までの区間での被削材の切削時に移行区間44とシンニング切れ刃42に折損を生じさせにくくする他の一尺度として、「主切れ刃のホーニング面とシンニング切れ刃のホーニング面との間の境界線の延長線と、シンニング切れ刃の内、主切れ刃からシンニング切れ刃へ移行する移行区間44を越えた部分における接線とのなす角度βを170°を超える優角(170°<θ<360°)にすること」(請求項2、請求項6)が挙げられる。
【0017】
「主切れ刃41のホーニング面41aとシンニング切れ刃42のホーニング面42aとの間の境界線43」は「移行区間44」のほぼ開始位置であり、境界線43の延長線L3は境界線43上の線である。「シンニング切れ刃42の内、主切れ刃41からシンニング切れ刃42へ移行する移行区間44を越えた部分における接線L4」は「移行区間44」のほぼ終了位置であるから、移行区間44からシンニング切れ刃42までの区間における曲線の曲がり具合を示す指標になる。この区間の曲線は主切れ刃41からシンニング切れ刃42までの区間中、曲率が最も大きくなる部分である。角度βは刃部3を端面側から見たときの角度である。「優角」は曲線が凸となる側に取った角度を指し、170°より大きい角度である。
【0018】
「境界線43が表れ」とは、図4に示すように主切れ刃41とシンニング切れ刃42の各ホーニング面41a、42aを回転軸Oに直交する方向に詳細に見たときに、境界線43が両ホーニング面41a、42aを区画する境界線として形成されていることを言う。移行区間44は境界線43から、図5図7中、シンニング切れ刃42における接線までの、凸の曲線を描く区間を指す。
【0019】
「ホーニング面41aとホーニング面42aとの間に、シャンク部2の軸方向と、この軸方向に直交する方向の双方に対して傾斜した境界線43が表れ」とは、主切れ刃41のホーニング面41aと、シンニング切れ刃42のホーニング面42aとの間に境界線43が表れることと、この境界線43の方向が、シャンク部2の軸方向(工具軸O方向)に対して傾斜し、シャンク部2の軸方向に直交する方向に対しても傾斜していることを言う。
【0020】
境界線43の延長線L3とシンニング切れ刃42の移行区間44を越えた部分における接線L4とのなす角度が170°より大きいことは、170°以下の場合より移行区間44における曲線の曲がり具合い(曲率)が大きいことを言う。このことからは、170°以下の場合より主切れ刃41からシンニング切れ刃42にかけてチゼルエッジ46側へ向かっていることが言え、それだけ、170°以下の場合よりシンニング切れ刃42のホーニング面42aの幅dを大きく確保し易くなることが言える。ホーニング面42aの幅dが大きく確保され易いことで、シンニング切れ刃42の折損に対する安全性が向上する。
【0021】
具体的には刃径Dが1mm≦D≦4mmで、L/D(全長/刃径)が20以上の小径ロングドリルの場合で言えば、図8に示すシンニング切れ刃42のホーニング幅dが0.020mm以上で、シンニング切れ刃42のホーニング幅dの最大値と最小値の差が0.005mm以内であることである(請求項7)。ホーニング角γで言えば、刃径DとL/Dが上記条件を満たす場合に、30°≦γ≦40°であることが適切である(請求項8)。「ホーニング幅d」は図8に示すようにホーニング面42aを工具軸Oの方向に見たときの幅である。
【0022】
「シンニング切れ刃42のホーニング幅dが0.020mm以上で、ホーニング幅dの最大値と最小値の差が0.005mm以内であること」と「30°≦γ≦40°であること」は1mm≦D≦4mmで、20≦L/Dの場合に、「境界線43の延長線L3とシンニング切れ刃42の移行区間44を越えた部分における接線L4とのなす角度が170°より大きいこと」から導出される。
【0023】
請求項1における「シンニング切れ刃42のホーニング面42aに境界線43に沿った方向の研削筋45が形成され」とは、研削筋45が境界線43に沿った方向を向いて形成されることを言う。「境界線43に沿った方向」とは、図4に示すように回転軸Oに直交する方向に、研削筋45を正面に見たときに、見た方向に垂直な平面に投影したとすれば、境界線43に実質的に平行に配列することを言う。
【0024】
このことは、更に詳しく言えば、研削筋45が配列方向に実質的に一定の間隔を置き、一様(均一)に配列すること、とも言える。「研削筋45が配列方向に実質的に一様に配列する」状態はホーニング面42aを機械加工(機械ホーニング)することで得られる。研削筋45は主切れ刃41のホーニング面41aに形成されることもある。これによりシンニング切れ刃42におけるホーニング面41aの面性状が均一となり工具損傷が安定すると考えられる。
【0025】
「研削筋45がシャンク部2の軸方向と軸方向に直交する方向に対して傾斜する方向を向くこと」は具体的には、図4に示すように刃部3を側面から見、境界線43を正面に見たときに、境界線43(研削筋45)と軸方向とのなす角度θが15°以上あり(15°≦θ)、軸方向に直交する平面と境界線43(研削筋45)とのなす角度ηが15°以上ある(15°≦η)ことが(請求項3)、より合理的である。角度θと角度ηは鋭角側の角度を指す。「境界線43(研削筋45)と軸方向とのなす角度が15°以上あり、軸方向に直交する平面とのなす角度が15°以上あること」は、軸方向とその直交方向に対して45°の方向を中心とした60°の範囲に境界線(研削筋)が位置することである。
【0026】
前記のように主切れ刃41のホーニング面41aとシンニング切れ刃42のホーニング面42aとの間に境界線43は「移行区間44」の開始位置であり、主切れ刃41のすくい面41aとシンニング切れ刃42のすくい面42aとの間の境界部分に連続する位置にある。一方、「移行区間44」を挟んで主切れ刃41とシンニング切れ刃42とは上記のように端面側から見たときに角度α、βが付くため、すくい面41aとすくい面42aは連続した面にはなりにくく、主切れ刃41のすくい面41aとシンニング切れ刃42のすくい面42aとの間の中間区間47には明確な境界線が凸の稜線として表れ易い(特許文献1、5~7)。
【0027】
主切れ刃41のすくい面41aとシンニング切れ刃42のすくい面42aとの間の境界部分である中間区間47は主切れ刃41とシンニング切れ刃42による被削材の切削時に、それぞれの軸方向後方側(進行方向後方側)で主切れ刃41とシンニング切れ刃42を支える部分になる。このため、中間区間47は移行区間44を介して主切れ刃41とシンニング切れ刃42を折損に対して補剛する役割を果たし得る部分になる。この補剛部分になり得る中間区間47の表面に凸の稜線が表れ、尖った部分があれば、その部分に応力が集中し易く、弱点になり易いため、切れ刃4を補剛する機能が損なわれる可能性がある。
【0028】
例えば特許文献1、5~7では主切れ刃すくい面とシンニング切れ刃すくい面との間に境界線(稜線)が明確に現れている(特許文献1の図5、特許文献5の図1、特許文献6の図4、特許文献7の図13)。
【0029】
主切れ刃41とシンニング切れ刃42による被削材の切削時に、主切れ刃41とシンニング切れ刃42が受ける抵抗(反力)は軸方向後方側の部分である両ホーニング面41a、42aを含む両すくい面41b、42b間の境界部分である中間区間47が負担し得る。ここで、中間区間47に剛性の小さい尖った部分があれば、主切れ刃41とシンニング切れ刃42に生じる圧縮応力に起因して中間区間47の尖った部分に応力の集中が生じ、切れ刃4の折損時の影響(応力負担)が及び、破損する可能性がないとは言えない。
【0030】
そこで、主切れ刃41のホーニング面41aと、シンニング切れ刃42のホーニング面42aとの間の境界線43から、主切れ刃41のすくい面41bとシンニング切れ刃42のすくい面42bとの間に移行する中間区間47の少なくともホーニング面41a、42a寄りの一部区間を、凸の稜線を描かず、平面、もしくは曲面をなすように形成することで(請求項4)、尖った部分をなくすことができる。
【0031】
言い換えれば、主切れ刃31のすくい面41bとシンニング切れ刃42のすくい面42bとの間(中間区間47)の、両ホーニング面41a、42a側の一部区間には尖った部分ができなくなる。この結果、中間区間47全体の剛性を、凸の稜線が表れる場合より高め易くなるため、主切れ刃41とシンニング切れ刃42の剛性を補う機能が高まり、主切れ刃41とシンニング切れ刃42の折損の可能性を低下させることが可能になる。
【0032】
「尖った部分がない」とは、中間区間47を回転軸Oに直交する断面で見たときに、表面側に鋭角になる部分がないことを言うが、中間区間47には回転軸Oに直交する断面上、表面側に鈍角になる部分しかないことが好ましい。
【0033】
このように請求項4では境界線43から中間区間47の少なくとも一部を、平面か曲面をなすように形成するため、中間区間47の剛性を、凸の稜線が表れる場合より高めることができる。この結果、主切れ刃41とシンニング切れ刃42の剛性を補う機能が高まり、結果的に主切れ刃41とシンニング切れ刃42の折損の可能性を低下させることが可能になる。
【発明の効果】
【0034】
請求項1では刃部を軸方向に端面側から見たとき、主切れ刃からシンニング切れ刃に移行する移行区間が回転方向前方側に向かって凸の曲線を描き、主切れ刃のシンニング切れ刃寄りの部分における接線とシンニング切れ刃の主切れ刃寄りの部分における接線とのなす角度を150°より大きい劣角にするため、移行区間が描く曲線の曲率が大きくならず、移行区間での被削材の切削時に移行区間に折損を生じさせにくくすることができる。
【0035】
請求項4では主切れ刃のホーニング面と、シンニング切れ刃のホーニング面との間の境界線から、主切れ刃のすくい面とシンニング切れ刃のすくい面との間に移行する中間区間の少なくとも一部を、平面か曲面をなすように形成するため、境界部分の剛性を、凸の稜線が表れる場合より高めることができる。この結果、主切れ刃とシンニング切れ刃の剛性を補う機能が高まり、結果的に主切れ刃とシンニング切れ刃の折損の可能性を低下させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
図1】本発明のドリルの刃部を先端面側から軸方向に見たときのドリルの製作例を示した端面図である。
図2図1のx-x線矢視図である。
図3図1のy-y線矢視図である。
図4図2の主切れ刃とシンニング切れ刃を含む部分の拡大図である。
図5】刃部を軸方向に端面側から見たとき、主切れ刃のシンニング切れ刃寄りの部分における接線とシンニング切れ刃の主切れ刃寄りの部分における接線とのなす角度αが150°より大きい劣角である場合の例を示した端面図である。
図6】主切れ刃のシンニング切れ刃寄りの部分における接線とシンニング切れ刃の主切れ刃寄りの部分における接線とのなす角度αが150°より大きい劣角である場合の他の例を示した端面図である。
図7】主切れ刃のシンニング切れ刃寄りの部分における接線とシンニング切れ刃の主切れ刃寄りの部分における接線とのなす角度αが150°より大きい劣角である場合の他の例を示した端面図である。
図8図5のz-z線断面図である。
図9】ドリル全体を示した立面図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
図1図3はシャンク部2の軸方向の先端部側に、複数枚の切れ刃4と、周方向に隣接する切れ刃4、4間に切屑排出溝5を有する刃部3を備え、各切れ刃4の逃げ面7の回転方向後方側に切屑排出溝5に面するシンニング部6が形成された図9に示すドリル1の製作例を示す。シャンク部2の軸はドリル本体(ドリル1)の回転軸Oを指す。
【0038】
ドリル1は図9に示すようにドリル本体の軸方向後方側に位置するシャンク部2とそれより軸方向先端側に形成される刃部3とに軸方向に区分され、刃部3の軸方向先端の先端面30に主に一対(2本)の切れ刃4、4が形成される。図面では刃部3がドリル本体に一体化したソリッド型のドリル1の例を示しているが、刃部3がドリル本体に対して着脱自在に固定され、保持される刃先交換型のドリル1の場合もある。
【0039】
「先端面30」はドリル本体の先端面30を回転軸Oの方向に見たときの、切屑排出溝5とシンニング面61を除いた領域(部分)を指し、逃げ面7の領域を指す。図面は切れ刃4の回転方向後方側に、逃げ面7としての2番面71が連続して形成され、2番面71の回転方向後方側に3番面72が連続して形成された場合の例を示している。この場合、逃げ面7は2番面71と3番面72を合わせた領域になる。
【0040】
切れ刃4は図1に示すようにチゼルエッジ46の端部から先端面30の半径方向外周側へ形成され、半径方向には、半径方向外周側の主切れ刃41と、主切れ刃41に連続し、主切れ刃41の半径方向中心側に位置し、チゼルエッジ46の端部に接するシンニング切れ刃42からなる。シンニング部6はシンニング切れ刃42の後述のすくい面42bとこれに回転方向前方側に、2番取り面8まで連続する曲面、もしくは連続的な曲面をなすシンニング面61から構成される。図2の拡大図である図4に示すように主切れ刃41とシンニング切れ刃42にはそれぞれホーニング面41a、42aが形成される。
【0041】
刃部3を軸方向に先端面30側から見たとき、主切れ刃41からシンニング切れ刃42に移行する移行区間44は図1図5図7に示すように回転方向前方側に向かって凸の曲線を描く。移行区間44は図4図5に示すように切れ刃4の移行区間であり、シンニング切れ刃42までの短い区間を指す。移行区間44が描く凸の曲線の曲がり具合は具体的には以下のように調整される。図2図4はホーニング面41a、42aを正面に見たときの様子を示している。凸の曲線は直線の組み合わせを含む。
【0042】
移行区間44での被削材の切削時に移行区間44からシンニング切れ刃42に折損を生じさせにくくする上では、刃部3を軸方向に先端面30側から見たとき、図5図7に示すように主切れ刃41のシンニング切れ刃42寄りの部分における接線L1とシンニング切れ刃42の主切れ刃41寄りの部分における接線L2とのなす角度αが150°より大きい劣角(150°<α<180°)になることが適切である。角度αは移行区間44の曲がり具合を示し、刃部3を軸方向に先端面30側から見たときの曲線の曲がり具合が緩やかで、急激でないことの尺度を表している。
【0043】
またシンニング切れ刃42の、図8に示すホーニング面42aの幅dとして、シンニング切れ刃42の折損防止に有効な大きさを確保する上では、図5図7に示すように主切れ刃41のホーニング面41aとシンニング切れ刃42のホーニング面42aとの間の、図4に示す境界線43の延長線L3と、シンニング切れ刃42の内、主切れ刃41からシンニング切れ刃42へ移行する移行区間44を越えた部分における接線L4とのなす角度βが170°を超える優角(170°<β<360°)になることが適切である。
【0044】
境界線43は主切れ刃41のホーニング面41aと上記した移行区間44におけるホーニング面とを区画する境界線であり、延長線L3は境界線43自体の延長線を指す。170°<β<360°であることは、角度βが170°以下(β≦170°)の場合より移行区間44における曲線の曲がり具合い(曲率)が大きく、170°以下の場合よりシンニング切れ刃42のホーニング面42aの幅dを大きく確保し易くなる尺度になる。
【0045】
具体例として図5は角度αが165°で、角度βが193.5°の例を示し、150°<α<180°と170°<β<360°の要件を満たしている。図6は角度αが162°で、角度βが212°の例を示し、150°<α<180°と170°<β<360°の要件を満たしている。図7は角度αが152°で、角度βが177°の例を示し、150°<α<180°と170°<β<360°の要件を満たしている。いずれの例でもシンニング切れ刃42の折損を抑制するに十分な大きさのホーニング面42aの幅dが確保されている。図5図6の例に着目すれば、角度βは厳格には180°<β<360°の要件を満たすことがより好ましいと言える。
【0046】
「境界線43の延長線L3とシンニング切れ刃42の移行区間44を越えた部分における接線L4とのなす角度βが170°より大きいこと」を具体的に刃径Dが1mm≦D≦4mmで、L/D(全長/刃径)が20以上の小径ロングドリルの例で言えば、図8に示すシンニング切れ刃42のホーニング幅dが0.020mm以上で、シンニング切れ刃42のホーニング幅dの最大値と最小値の差が0.005mm以内であることが適切である。図8に示すホーニング角γで表現すれば、30°≦γ≦40°であることが適切である。
【0047】
「シンニング切れ刃42のホーニング幅dが0.020mm以上で、ホーニング幅dの最大値と最小値の差が0.005mm以内であること」と「30°≦γ≦40°であること」は1mm≦D≦4mmで、20≦L/Dの場合に、「境界線43の延長線L3とシンニング切れ刃42の移行区間44を越えた部分における接線L4とのなす角度βが170°より大きいこと」の数値上の要件と、「シンニング切れ刃42の折損を抑制するに十分な大きさのホーニング面42aの幅dが確保されること」の具体的な要件から導き出される。
【0048】
主切れ刃41のホーニング面41aと、シンニング切れ刃42のホーニング面42aとの間には、図4に示すように両ホーニング面41a、42aを正面にした拡大図で見たときに、回転軸Oの方向と、回転軸Oの方向に直交する方向の双方に対して傾斜した境界線43が表れる。シンニング切れ刃42のホーニング面42aには、境界線43に沿った方向の、一様な、あるいは均一な間隔の研削筋45が形成されている。境界線43は必ずしも表面側に凸の稜線を描くような線ではなく、ホーニング面41aとホーニング面42aとを区分するように表れる。境界線43に沿った方向の研削筋45は機械加工で形成される。
【0049】
図4に示すようにホーニング面41aの切屑排出溝5側には主切れ刃41のすくい面41bが形成され、ホーニング面41aとすくい面41bとの間には主切れ刃側境界線W1が表れる。同様にホーニング面42aのシンニング部6側にはシンニング切れ刃42のすくい面42bが形成され、ホーニング面42aとすくい面42bとの間にはシンニング切れ刃側境界線W2が表れる。図4では主切れ刃側境界線W1とシンニング切れ刃側境界線W2が凸の稜線になるように描かれているが、両W1、W2は必ずしも凸の稜線になるとは限らず、曲面をなすこともある。
【0050】
主切れ刃41のすくい面41bは切屑排出溝5に連続し、シンニング切れ刃42のすくい面42bは上記のようにシンニング面61に連続する。切屑排出溝5とシンニング面61との間には、ホーニング面41a、42a間の境界線43寄りの部分である後述の中間区間47を除き、シンニング部境界線W3が表れる。シンニング部境界線W3も必ずしも凸の稜線になるとは限らない。少なくとも境界線43寄りの中間区間47は凸の稜線をなさない。
【0051】
主切れ刃41とシンニング切れ刃42による切削時の各ホーニング面41a、42aの摩耗、特に研削筋45の摩耗を抑制する上では、刃部3を側面から見、境界線43を正面に見たときに、図4に示すように境界線43の延長線L3と回転軸Oの方向とのなす角度θは鋭角側で15°以上あることが適切である。同時に、回転軸Oの方向に直交する平面と境界線43とのなす角度ηは鋭角側で15°以上あることが適切である。
【0052】
言い換えれば、境界線43を正面に見たときに、境界線43は回転軸Oの方向から直交する方向に15°傾斜した直線と、直交する方向から回転軸Oの方向に15°傾斜した直線とで挟まれた60°の範囲内に位置することが適切である。
【0053】
また境界線43から主切れ刃41のすくい面41bとシンニング切れ刃42のすくい面42bとの間に移行する、図4に示す中間区間47の少なくともホーニング面41a、42a寄りの一部区間の剛性を高め、この部分に移行区間44を介して主切れ刃41とシンニング切れ刃42に対する補剛効果を持たせる上では、中間区間47に尖った部分をなくすことが有効である。
【0054】
中間区間47に補剛効果を持たせるために、図4に示すように中間区間47の一部を含む領域は凸の稜線を描かず、平面、もしくは曲面をなすように形成される。この部分はホーニング面41aとホーニング面42aとの間の境界線43から、主切れ刃41のすくい面41bとシンニング切れ刃42のすくい面42bとの間に移行する中間区間47の少なくともホーニング面41a、42a寄りの一部である。
【0055】
中間区間47は回転軸Oの方向には、主切れ刃41とシンニング切れ刃42が被削材を切削するときの後方側に位置することで、主切れ刃41とシンニング切れ刃42を支え、主切れ刃41とシンニング切れ刃42を折損に対して補剛する役割を果たす。このことから、中間区間47の一部、または全体は回転軸Oに直交する断面上、表面側に凸の稜線が表れない形状、特に表面側のいずれの部分の近い2本の接線間のなす角度が鈍角になるような曲線に形成されることが適切である。
【符号の説明】
【0056】
1……ドリル(ドリル本体)、O……回転軸、
2……シャンク部、
3……刃部、30……先端面、
4……切れ刃、
41……主切れ刃、41a……ホーニング面、41b……すくい面、
42……シンニング切れ刃、42a……ホーニング面、42b……すくい面、
43……境界線、44……移行区間、45……研削筋、46……チゼルエッジ、47……中間区間、
5……切屑排出溝、
6……シンニング部、61……シンニング面、
7……逃げ面、71……2番目、72……3番面、
8……2番取り面、
W1……主切れ刃側境界線、W2……シンニング切れ刃側境界線、W2……シンニング部境界線、
L1……主切れ刃のシンニング切れ刃寄りの部分における接線、L2……シンニング切れ刃の主切れ刃寄りの部分における接線、
L3……主切れ刃のホーニング面とシンニング切れ刃のホーニング面との間の境界線の延長線、L4……主切れ刃からシンニング切れ刃へ移行する移行区間を越えた部分における接線、
d……シンニング切れ刃のホーニング幅、γ……シンニング切れ刃のホーニング角、
α……主切れ刃のシンニング切れ刃寄りの部分における接線L1とシンニング切れ刃の主切れ刃寄りの部分における接線L2とのなす角度、
β……主切れ刃のホーニング面とシンニング切れ刃のホーニング面との間の境界線の延長線L3と、シンニング切れ刃の内、主切れ刃からシンニング切れ刃へ移行する移行区間を越えた部分における接線L4とのなす角度、
θ……境界線と回転軸Oとのなす角度、η……回転軸Oに直交する平面と境界線とのなす角度。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9