(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024117944
(43)【公開日】2024-08-30
(54)【発明の名称】スピーカ
(51)【国際特許分類】
H04R 9/02 20060101AFI20240823BHJP
H04R 1/00 20060101ALI20240823BHJP
【FI】
H04R9/02 102E
H04R1/00 310C
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023024060
(22)【出願日】2023-02-20
(71)【出願人】
【識別番号】000010098
【氏名又は名称】アルプスアルパイン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085453
【弁理士】
【氏名又は名称】野▲崎▼ 照夫
(72)【発明者】
【氏名】江上 勝彦
【テーマコード(参考)】
5D012
【Fターム(参考)】
5D012AA03
5D012BB04
5D012BD04
5D012FA07
(57)【要約】 (修正有)
【課題】駆動アンプなどを構成する回路基板を実装しても全体を小型化でき、回路基板に実装された発熱部品に対する冷却効果を高くできるスピーカを提供する。
【解決手段】スピーカは、磁気回路部を構成する内側ヨーク11に、振動部の振動方向に沿って貫通する貫通穴11aを形成し、貫通穴11a内に回路基板21、22を配置している。回路基板21、22は、板表面21a、22a、21b、22bがボイスコイル7を有する振動部の振動方向に沿うように配置されている。また、回路基板21、22が対向する中央空間S1aの開口面積は、側方空間S1b、S1cの開口面積よりも大きい。
【効果】スピーカは、貫通穴11a内の空気の流量を確保でき、振動部の振動時の空気抵抗が増大するのを防止でき、また、風速を確保できるため回路基板21,22に実装された発熱部品への冷却効果も高めることができる。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
振動板およびボイスコイルを有する振動部と、前記ボイスコイルに磁束を与える磁気回路部と、を有するスピーカにおいて、
前記磁気回路部は、内側ヨークと、前記内側ヨークの外側に位置する外側ヨークと、前記内側ヨークと前記外側ヨークとの対向部に形成される磁気ギャップと、前記内側ヨークの外側に位置して前記磁気ギャップ内に位置する前記ボイスコイルを横断する磁束を形成する磁石とを有し、
前記内側ヨークに、前記振動部の振動方向に沿って貫通する貫通穴が形成され、前記貫通穴の内部に、発熱部品が実装された回路基板が配置されていることを特徴とするスピーカ。
【請求項2】
前記振動部には、前記ボイスコイルを有するコイルボビンの内部空間を覆うキャップが設けられており、
前記コイルボビンと前記キャップとで囲まれた動作空間に、前記貫通穴が連通している請求項1記載のスピーカ。
【請求項3】
前記回路基板はその板表面が前記振動部の振動方向に沿って配置されている請求項1または2記載のスピーカ。
【請求項4】
前記回路基板が複数枚設けられ、対向する2枚の前記回路基板は、一方の側端部の対向間隔が、他方の側端部の対向間隔よりも狭い請求項3記載のスピーカ。
【請求項5】
前記発熱部品は、前記回路基板において、対向間隔の広い他方の側端部よりも対向間隔が狭い一方の側端部に近い位置に実装されている請求項4記載のスピーカ。
【請求項6】
前記振動部の振動方向に沿って延びる仮想中心線に垂直な平面に投影した前記貫通穴の形状が真円形であり、前記仮想中心線が、2枚の前記回路基板の対向幅の中心に位置している請求項3記載のスピーカ。
【請求項7】
前記回路基板は2枚設けられ、前記貫通穴の内部空間が、2枚の前記回路基板で挟まれた中央空間と、それぞれの回路基板と前記貫通穴の内面とで挟まれた2つの側方空間とに区分されており、
前記振動部の振動方向に沿って延びる仮想中心線に垂直な平面に投影した前記中央空間の面積が、前記平面に投影したそれぞれの前記側方空間の面積よりも大きい請求項3記載のスピーカ。
【請求項8】
前記平面に投影した前記中央空間の面積が、前記平面に投影した2つの前記側方空間の面積の総和よりも大きい請求項7記載のスピーカ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発熱部品が実装された回路基板を搭載したスピーカに関する。
【背景技術】
【0002】
音響機器は、スピーカとこれを動作させる駆動アンプなどの電子機器で構成されるが、配置スペースの効果的利用のために駆動アンプなどをスピーカに搭載した一体型スピーカが実用化されている。この一体型スピーカは、配置スペースの制約を受けやすい車載用などに使用される。しかし、駆動アンプを一体化したスピーカを狭いスペース内に配置すると、駆動アンプに含まれる発熱部品から生じる熱が停滞し、さらにスピーカのボイスコイルの発熱と相まって、スピーカ周囲の温度が上昇する課題がある。
【0003】
そこで、以下の特許文献1と特許文献2に記載されたスピーカでは、磁気回路部が配置されているのと逆側である振動板の前方に、駆動アンプを構成する発熱部品が放熱部材に支持されて配置されている。この構造は、振動板の振動で前方に向けて生じる空気流を発熱部品に与えて放熱効果を高めることを期待したものである。
【0004】
特許文献3と特許文献4に記載されたスピーカは、振動板よりも後方に磁気回路部とともに駆動アンプを構成する発熱部品が配置されている。特許文献4には、振動板の振動に伴って発生する風を、後方に位置する駆動アンプの発熱部品の放熱に利用することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】実開昭61-119494号公報
【特許文献2】実開平1-149191号公報
【特許文献3】実開昭61-119489号公報
【特許文献4】実公平4-53112号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1と特許文献2に記載されたスピーカは、発音方向を前方としたときに、振動板からの音圧伝達経路に駆動アンプや放熱部材が位置している構造となる。これら部材は、振動板から前方へ発せられる音圧の伝達を阻害し、音圧伝達経路に回折現象を生じるさせるなどして、発音特性を低下させる原因となりやすい。また、特許文献3と特許文献4に記載されたスピーカは、駆動アンプが磁気回路部と同じ側に配置されているため、振動板の振動で発生する風を駆動アンプの発熱部品に効果的に与えることが難しく、高い冷却効果を期待しにくい。
【0007】
本発明は、上記従来の課題を解決するものであり、駆動アンプなどを構成する発熱部品が実装された回路基板を搭載することで小型化でき、しかも振動部の振動によって発熱部品に効果的に空気流を与えて冷却効果を向上できるスピーカを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、振動板およびボイスコイルを有する振動部と、前記ボイスコイルに磁束を与える磁気回路部と、を有するスピーカにおいて、
前記磁気回路部は、内側ヨークと、前記内側ヨークの外側に位置する外側ヨークと、前記内側ヨークと前記外側ヨークとの対向部に形成される磁気ギャップと、前記内側ヨークの外側に位置して前記磁気ギャップ内に位置する前記ボイスコイルを横断する磁束を形成する磁石とを有し、
前記内側ヨークに、前記振動部の振動方向に沿って貫通する貫通穴が形成され、前記貫通穴の内部に、発熱部品が実装された回路基板が配置されていることを特徴とするものである。
【0009】
本発明のスピーカは、前記振動部に、前記ボイスコイルを有するコイルボビンの内部空間を覆うキャップが設けられており、
前記コイルボビンと前記キャップとで囲まれた空間内に、前記貫通穴が連通しているものが好ましい。
【0010】
本発明のスピーカでは、前記回路基板はその板表面が前記振動部の振動方向に沿って配置されていることが好ましい。
【0011】
さらに、本発明のスピーカは、前記回路基板が複数枚設けられ、対向する2枚の前記回路基板は、一方の側端部の対向間隔が、他方の側端部の対向間隔よりも狭いことが好ましい。
【0012】
前記構成において、前記発熱部品は、前記回路基板において、対向間隔の広い他方の側端部よりも対向間隔が狭い一方の側端部に近い位置に実装されていることがさらに好ましい。
【0013】
本発明のスピーカは、前記振動部の振動方向に沿って延びる仮想中心線に垂直な平面に投影した前記貫通穴の形状が真円形であり、前記仮想中心線が、2枚の前記回路基板の対向幅の中心に位置しているものである。
【0014】
本発明のスピーカは、前記回路基板は2枚設けられ、前記貫通穴の内部空間が、2枚の前記回路基板で挟まれた中央空間と、それぞれの回路基板と前記貫通穴の内面とで挟まれた2つの側方空間とに区分されており、
前記振動部の振動方向に沿って延びる仮想中心線に垂直な平面に投影した前記中央空間の面積が、前記平面に投影したそれぞれの前記側方空間の面積よりも大きいことが好ましい。
【0015】
さらに、本発明のスピーカは、前記平面に投影した前記中央空間の面積が、前記平面に投影した2つの前記側方空間の面積の総和よりも大きいことが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明のスピーカは、磁気回路部の内側ヨークに形成された貫通穴内に発熱部品が実装された回路基板が配置されているため、駆動アンプなどを構成する回路部をスピーカの体積内にほぼ収めることができ、回路部と一体化したスピーカを小型に構成することができる。また、振動板の前方に回路基板が位置していないため、振動板から前方に発せられる音圧が回路基板の影響を受けることがない。さらに、振動部の振動によって貫通穴内に生じる空気流を発熱部品に与えることで、発熱部品から発せられる熱をスピーカの外部に放出することができ、発熱部品に対する冷却効果を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の実施形態のスピーカを示す断面斜視図、
【
図3】(A)は、第1実施形態のスピーカをIII-III線で切断した断面図、(B)は前記(A)に表れている貫通穴内の中央空間を平面に投影した説明図、
【
図4】(A)は、第2実施形態のスピーカを示す
図3(A)に対応する断面図、(B)は前記(A)に表れている貫通穴内の中央空間を平面に投影した説明図、
【
図5】(A)は第1実施形態における貫通穴内の空気流を説明する説明図、(B)は第2実施形態における貫通穴内の空気流を説明する説明図、
【発明を実施するための形態】
【0018】
図1と
図2に本発明の実施形態のスピーカ1の全体構造が示されている。スピーカ1は車載用である。ただし、スピーカ1を車載用以外の用途で使用することも可能である。スピーカ1は、Y1-Y2方向が前後方向で、Y1方向が前方でY2方向が後方である。Y1-Y2方向は、振動板3を主体とする振動部の振動方向である。スピーカ1は、前方(Y1方向)が発音方向である。ただし、後方(Y2方向)が発音方向となるように使用することも可能である。
【0019】
スピーカ1は、フレーム2を有している。フレーム2は前方(Y1方向)または後方(Y2方向)から見た形状が真円形である。フレーム2の前方の内部に振動板3が支持されている。振動板3は円錐状のいわゆるコーン形状であり、前方または後方から見た形状が真円形である。ただし、フレーム2および振動板3は、前方または後方から見た形状が長円形状や楕円形状であってもよい。振動板3の外周端3aに弾性変形可能なエッジ部材4が接着剤により接合されており、エッジ部材4の外周端4aが、フレーム2の前方の外周支持部2aに接着されて固定されている。
【0020】
振動板3の中央部に開口部が形成されている。開口部の縁部3bは、前方または後方から見た形状が真円形状である。振動板3の開口部内に円筒形状のコイルボビン6が位置しており、開口部の縁部3bがコイルボビン6の外周面に接着されて固定されている。コイルボビン6の後方(Y2方向)の端部の外周面にボイスコイル7が設けられている。ボイスコイル7を構成する被覆導線は、コイルボビン6の外周面において所定のターン数で巻かれている。
図1と
図2に、仮想中心線Oが示されている。仮想中心線Oは、振動板3の開口部の中心およびコイルボビン6の円筒の中心を通り、振動板3の振動方向であるY1-Y2方向に沿って延びている。フレーム2の内部に、
図1と
図2に示す断面図に現れる形状がコルゲート形状の弾性変形可能なダンパー部材5が設けられている。ダンパー部材5の外周部5aは、フレームの前後方向の中間部に設けられた中間支持部2bに接着されて固定されている。ダンパー部材5の中央部に、前方または後方から見た形状が真円形状の開口部が形成されており、この開口部の縁部5bが、コイルボビン6の外周面に接着されて固定されている。
【0021】
振動板3の中央部の前面にキャップ8が固定されている。キャップ8は前方に突方向が向けられたドーム形状であり、周縁部8aが、振動板3の前方に向く正面に接着されて固定されている。振動板3とキャップ8およびコイルボビン6とボイスコイル7は、エッジ部材4とダンパー部材5の弾性変形により、フレーム2に対して前後方向(Y1-Y2方向)に振動自在に支持されている。振動板3とキャップ8およびコイルボビン6とボイスコイル7が、フレーム2を含む駆動支持部に対して前後方向に振動する振動部を構成している。
【0022】
フレーム2の後方支持部2cの後面に磁気回路部10が接着やねじ止めなどの手段で固定されている。磁気回路部10は、ボイスコイル7を横断する磁束を形成するためのものである。フレーム2と磁気回路部10とで、前記振動部を振動自在に支持する駆動支持部が構成されている。
【0023】
磁気回路部10は、内側ヨーク11を有している。内側ヨーク11の後部に後方支持ヨーク12が一体に形成されている。なお、内側ヨーク11と後方支持ヨーク12が別体に形成されて、互いに固定されていてもよい。磁気回路部10は、さらに外側ヨーク13と磁石14を有している。内側ヨーク11と後方支持ヨーク12および外側ヨーク13は、鉄系金属材料などの磁性材料で形成されている。後方支持ヨーク12は、内側ヨーク11の外周から外側に向けて張り出す円板形状である。外側ヨーク13は円板の中心部に真円形の穴が形成されたリング形状であり、内側ヨーク11の外側に位置している。内側ヨーク11の外側にリング形状の磁石14が位置している。磁石14は、後方支持ヨーク12と外側ヨーク13とで前後方向から挟まれている。
【0024】
外側ヨーク13の中心部の穴の内周面13aと内側ヨーク11の外周面との間の隙間が磁気ギャップGとして機能しており、ボイスコイル7は磁気ギャップG内に位置している。磁石14は前後方向(Y1-Y2)に向けて着磁されており、
図2に示される実施形態では、磁石14の前方(Y1方向)に向く面がN極で、後方(Y2方向)に向く面がS極である。
図2には磁気回路部10内の磁束Φの経路が示されている。磁束Φは、磁石14のN極から外側ヨーク13を経て磁気ギャップG内に位置するボイスコイル7を横断し、内側ヨーク11から後方支持ヨーク12を通過して、磁石14のS極に戻る。
【0025】
内側ヨーク11は、中心部に貫通穴11aを有している。
図3(A)に示されるように、仮想中心線Oに垂直な平面に投影したときの貫通穴11aの縁部の形状は真円形であり、仮想中心線Oは、その真円形の中心(図心)を通過している。貫通穴11aの内部に複数枚の回路基板が位置しており、実施形態のスピーカ1では、2枚の回路基板21,22が位置している。
図1に示されるように、磁気回路部10を構成する後方支持ヨーク12の後面に支持部材23が固定されており、それぞれの回路基板21,22の後端部が支持部材23に固定されている。貫通穴11a内を流れる空気の抵抗とならないように、仮想中心線Oに垂直な平面に投影したときの支持部材23の面積はなるべく小さいほうが好ましい。
【0026】
それぞれの回路基板21,22の板表面に電子部品24が実装されている。回路基板21,22に実装された電子部品24は、駆動アンプなど、スピーカ1を動作させるための電子回路を形成しており、電子部品24には発熱部品が含まれている。発熱部品は、電源回路を構成するIC、CPUを構成するIC、コイル部品、抵抗器などである。
【0027】
図3(A)には、第1実施形態のスピーカ1における回路基板21,22の配置構造が示されている。回路基板21は、内側の板表面21aと外側の板表面21bを有しており、回路基板22は、内側の板表面22aと外側の板表面22bを有している。回路基板21の板表面21a,21bと回路基板22の板表面22a,22bは、振動板3を含む振動部の振動方向(Y1-Y2)に沿って配置されており、板表面21a,21bと板表面22a,22bは、仮想中心線Oと並行である。
【0028】
貫通穴11a内では、回路基板21の板表面21aと回路基板22の板表面22aとが対向し、仮想中心線Oが、板表面21aと板表面22aとの対向幅の中心に位置している。すなわち、仮想中心線Oと垂直な平面に投影した形状では、仮想中心線Oから板表面21aまでの垂直距離と、仮想中心線Oから板表面22aまでの垂直距離が等しい。
図3(A)に示される第1実施形態では、回路基板21の板表面21aと回路基板22の板表面22aとが平行ではなく、回路基板21の一方の側端部21cと回路基板22の一方の側端部22cとの対向距離が、回路基板21の他方の側端部21dと回路基板22の他方の側端部22dとの対向距離よりも狭くなっている。
【0029】
貫通穴11aの内部は、回路基板21の内側の板表面21aと回路基板22の内側の板表面22aとの間に挟まれ且つ貫通穴11aの内面で囲まれた中央空間S1aと、回路基板21の外側の板表面21bと貫通穴11aの内面とで挟まれた側方空間S1bと、回路基板22の外側の板表面22bと貫通穴11aの内面とで挟まれた側方空間S1cとに区分される。
図3(B)に示されるように、仮想中心線Oと垂直な平面に投影したときの、中央空間S1aの形状はほぼ扇形状である。前記平面に投影したときの中央空間S1aの面積は、側方空間S1bの面積よりも大きく、側方空間S1cの面積よりも大きい。また、中央空間S1aの面積が、側方空間S1bの面積と側方空間S1cの面積の総和よりも大きいことが好ましい。
【0030】
図4(A)に示す第2実施形態では、回路基板21の内側の板表面21aと回路基板22の内側の板表面22aとが互いに平行である。そして、仮想中心線Oは、板表面21aと板表面22aの対向幅の中心に位置している。
図4(B)に示されるように、第2実施形態では、仮想中心線Oと垂直な平面に投影したときの中央空間S2aの形状がほぼ長方形である。第2実施形態においても、前記平面に投影したときの中央空間S2aの面積は、側方空間S2bの面積よりも大きく、側方空間S2cの面積よりも大きい。また、中央空間S2aの面積が、側方空間S2bの面積と側方空間S2cの面積の総和よりも大きいことが好ましい。
【0031】
次に、スピーカ1の発音動作を説明する。
このスピーカ1は、回路基板21,22に実装された電子部品24で駆動アンプなどの電子回路が構成されているため、この電子回路によりボイスコイル7に流されるボイス電流が制御される。ボイスコイル7に流れる電流量と、磁気ギャップG内でボイスコイル7を横断する磁束Φとによる電磁力により、ボイスコイル7に前後方向(Y1-Y2方向)の振動力が与えられ、振動板3とキャップ8を含む振動部が振動して、視聴者が位置する前方(Y1方向)へ音圧が発せられる。あるいは、振動板3から後方(Y2方向)に位置する視聴者に音圧が与えられてもよい。
【0032】
このスピーカ1は、キャップ8と振動板3とを含む振動部が振動するときに、キャップ8の内面とコイルボビン6の内周面とで囲まれた空間が動作空間MSとなって前後方向に動く。磁気ギャップGは非常に狭い隙間で無視できるため、前記動作空間と貫通穴11aの内部空間は実質的に隙間が介在することなく一体的に連通している。そのため、動作空間MSの内部変化が貫通穴11aの内部に直接に作用することになり、振動部が前後方向に振動したときに、動作空間MSの動きに追従して、貫通穴11aの内部に、前後方向への比較的大きな空気の流れを形成することができる。この空気流により、回路基板21,22に実装されている電子部品24のうちの発熱部品から発せられた熱が貫通穴11a内から後方(Y2方向)へ放出されて、発熱部品に対する冷却効果を高めることができる。
【0033】
回路基板21と回路基板22は、その板表面が、前後方向に沿う向きで仮想中心線Oと平行に配置されており、
図3(A)および
図4(A)に示されるように、仮想中心線Oと垂直な平面に投影したときに、貫通穴11aの開口面積に対して回路基板21,22の断面積の占める割合はわずかである。そのため、動作空間MSが前後方向に振動するときの貫通穴11a内の空気の移動を回路基板21,22が妨げることがほとんどなく、回路基板21,22の存在によって、振動部の振動時の負荷が増大することがない。
【0034】
スピーカ1の動作中は、交流電流が流れるボイスコイル7が発熱する問題がある。しかし、貫通穴11a内では、中央空間S1a,S2aのみならず側方空間S1b,S1c,S2b,S2c内にも空気流が形成され、内側ヨーク11が貫通穴11aの内面側から冷却されるので、ボイスコイル7からの異常な発熱も抑制できる。また、駆動支持部を構成するフレーム2または磁気回路部10に磁気センサを設け、振動部を構成するコイルボビン6または振動板3などに小型の磁石を設け、磁気センサからの検知出力で振動部の動作位置を検出できるようにすることが好ましい。回路基板21,22で構成された駆動アンプ内に設定された最適化アルゴリズムにより、前記検知出力に基づいてボイスコイル7に与えられるボイス電流を最適化することで、スピーカ1の動作中におけるボイスコイル7の過剰な発熱そのものを抑制することができる。これにより、ボイスコイル7の発熱が内側ヨーク11の貫通穴11a内に位置する発熱部品に与える影響を低減し、発熱部品の冷却効果を高めることが可能になる。
【0035】
図5(A)に、第1実施形態のスピーカ1の貫通穴11a内の風速分布が示され、
図5(B)に、第2実施形態における貫通穴11a内の空気の風速分布が示されている。
図5(A),(B)は、いずれも貫通穴11aの内径を60mmとし、キャップ8部分が前後方向へ振幅14mmで振動し、貫通穴11a内で平均風速5m/sの空気流を生成したときの風速分布を示すシミュレーション結果である。
【0036】
貫通穴11a内に回路基板21,22が存在しない状態を想定すると、貫通穴11a内の風速および空気の流量は、仮想中心線Oで最も大きく、貫通穴11aの内面に向かうにしたがって徐々に低下する分布となる。
図3(A)に示されるように、第1実施形態のスピーカ1では、仮想中心線Oを含む中央空間S1aを平面に投影した面積が、側方空間S1bと側方空間S1cのいずれの面積よりも大きく、好ましくは、中央空間S1aの面積が、側方空間S1bの面積と側方空間S1cの面積の総和よりも大きい。流量が最大となる中央空間S1aの開口面積を大きくしているため、回路基板21,22が存在していても、中央空間S1a内の仮想中心線O付近の空気の流れに作用する抵抗力を小さくでき、
図5(A)に示されるように、中央空間S1a内の空気の流量を大きいままに維持できる。そのため、キャップ8および振動板3が前後に振動するときに貫通穴11a内の空気抵抗の増大を抑制でき、振動板3を安定して動作させることができる。また、貫通穴11a内でさほど抵抗なく空気流を形成できるため、回路基板21,22に実装された発熱部品の冷却効果も高めることができる。
【0037】
図4に示されるように、第2実施形態においても、中央空間S2aを平面に投影した面積が、側方空間S2bと側方空間S2cのいずれの面積よりも大きく、好ましくは、中央空間S2aの面積が、側方空間S2bの面積と側方空間S2cの面積の総和よりも大きい。流量が最大となる中央空間S2aの開口面積が大きいため、
図5(B)に示されるように、回路基板21,22が存在していても、中央空間S2a内の流量が損なわれることがなく、キャップ8および振動板3が前後に振動するときに貫通穴11a内の空気抵抗の増大を抑制できる。また空気の流量が大きいため、回路基板21,22に実装された発熱部品の冷却効果も高めることができる。
【0038】
図3(A)と
図4(A)では、回路基板21の側端部21c,21dから貫通穴11aの内面までの距離および回路基板22の側端部22c,22dから前記内面までの距離が、第1実施形態と第2実施形態とで同じになるように、各回路基板21,22が配置されている。
図3(B)には第1実施形態での中央空間S1aの平面での投影形状が示され、
図4(B)には第2実施形態の中央空間S2aの投影形状が示されている。
図3に示される第1実施形態では、回路基板21と回路基板22は、一方の側端部21c,2cの対向距離が狭く、他方の側端部21d,22dの対向距離が広くなるように、板表面21a,22aが非平行の配置となっている。
図3(B)に示される第1実施形態の中央空間S1aの面積と、
図4(B)に示される第2実施形態の中央空間S2aの面積は同じであるが、
図3(B)に示される第1実施形態では、第2実施形態に比べて、板表面21aと板表面22aとの図の左右方向での対向距離Wが長くなる領域が広くなっている。
【0039】
その結果、シミュレーション結果では、
図5(A)に示される回路基板21,22が非平行の第1実施形態での中央空間S1a内の空気の流量が、
図5(B)に示される回路基板21,22が平行な第2実施形態での中央空間S2a内の空気の流量よりも大きくなっている。そのため、
図3に示される第1実施形態では、
図4に示される第2実施形態よりも振動部の前後方向の振動時の空気抵抗を比較的低下させることが可能になる。
【0040】
図3と
図5(A)に示される第1実施形態では、回路基板21,22が非平行のため、板表面21aと板表面22aの対向距離が接近している接近領域αにおいて、中央空間S1aでの風速が他の領域よりも大きくなっている。シミュレーションによると、接近領域αでの平均風速は5.8m/s程度で、回路基板21,22が平行であるときの中央空間S2aでの平均風速が5.3m/s程度である。したがって、接近領域αにおいて、回路基板21の内側の板表面21aと回路基板22の板表面22aに発熱部品を実装することで、この発熱部品に対する冷却効果を高めることができる。したがって、第1実施形態では、回路基板21の板表面21aにおいて、発熱部品を側端部21dよりも側端部21cに近い位置に実装し、回路基板22の板表面22aにおいて、発熱部品を側端部22dよりも側端部22cに近い位置に実装することが好ましい。
【0041】
また、貫通穴11a内では、開口面積の狭い側方空間S1b,S1c,S2a,S2cでも内部を流れる空気の速度が速くなるため、回路基板21,22の外側の板表面21b,22bに発熱部品を実装したときも風速の早い空気流で冷却効果を期待できる。
【符号の説明】
【0042】
1 スピーカ
2 フレーム
3 振動板
6 コイルボビン
7 ボイスコイル
8 キャップ
10 磁気回路部
11 内側ヨーク
11a 貫通穴
12 後方支持ヨーク
13 外側ヨーク
14 磁石
21,22 回路基板
21a,22a 内側の板表面
21b,22b 外側の板表面
21c,22c 一方の側端部
21d,22d 他方の側端部
G 磁気ギャップ
S1a,S2a 中央空間
S1b,S1c,S2b,S2c 側方空間