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特開2024-117951アモルファス合金軟磁性粉末、圧粉磁心、磁性素子および電子機器
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  • 特開-アモルファス合金軟磁性粉末、圧粉磁心、磁性素子および電子機器 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024117951
(43)【公開日】2024-08-30
(54)【発明の名称】アモルファス合金軟磁性粉末、圧粉磁心、磁性素子および電子機器
(51)【国際特許分類】
   H01F 1/153 20060101AFI20240823BHJP
   H01F 1/20 20060101ALI20240823BHJP
   H01F 27/255 20060101ALI20240823BHJP
   C22C 45/02 20060101ALI20240823BHJP
   B22F 3/00 20210101ALI20240823BHJP
   B22F 1/00 20220101ALI20240823BHJP
   B22F 1/05 20220101ALI20240823BHJP
   B22F 1/065 20220101ALI20240823BHJP
   B22F 1/16 20220101ALN20240823BHJP
【FI】
H01F1/153 108
H01F1/153 166
H01F1/20
H01F27/255
C22C45/02 A
B22F3/00 B
B22F1/00 Y
B22F1/05
B22F1/065
B22F1/16 100
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023024067
(22)【出願日】2023-02-20
(71)【出願人】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100179475
【弁理士】
【氏名又は名称】仲井 智至
(74)【代理人】
【識別番号】100216253
【弁理士】
【氏名又は名称】松岡 宏紀
(74)【代理人】
【識別番号】100225901
【弁理士】
【氏名又は名称】今村 真之
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 真侑
【テーマコード(参考)】
4K018
5E041
【Fターム(参考)】
4K018BA14
4K018BB03
4K018BB04
4K018BB07
4K018BC28
4K018KA43
4K018KA61
5E041AA11
5E041BB05
5E041BD03
5E041BD12
5E041NN01
5E041NN14
(57)【要約】
【課題】広い周波数域において透磁率が高い成形体を製造可能なアモルファス合金軟磁性粉末、かかるアモルファス合金軟磁性粉末を含む圧粉磁心および磁性素子、ならびに、かかる磁性素子を備える電子機器を提供すること。
【解決手段】原子数比における組成式(FeCo1-x100-(a+b)(Si1-y[Mは、C、S、P、Sn、Mo、CuおよびNbからなる群から選択される少なくとも1種であり、x、y、aおよびbは、0.73≦x≦0.85、0.02≦y≦0.10、13.0≦a≦19.0、0≦b≦2.0である。]で表される組成および不純物で構成され、平均円形度が0.85以上であり、平均アスペクト比が1.20以下であり、平均粒径が10μm以上40μm以下であり、周波数の上昇に伴う透磁率の減少率Dが15%以下であることを特徴とするアモルファス合金軟磁性粉末。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
原子数比における組成式(FeCo1-x100-(a+b)(Si1-y
[Mは、C、S、P、Sn、Mo、CuおよびNbからなる群から選択される少なくとも1種であり、
x、y、aおよびbは、
0.73≦x≦0.85、
0.02≦y≦0.10、
13.0≦a≦19.0、
0≦b≦2.0である。]
で表される組成および不純物で構成され、
平均円形度が0.85以上であり、
平均アスペクト比が1.20以下であり、
平均粒径が10μm以上40μm以下であり、
周波数100kHzにおける透磁率をμとし、周波数100MHzにおける透磁率をμとし、周波数の上昇に伴う透磁率の減少率Dを(μ-μ)/μとするとき、減少率Dが15%以下であることを特徴とするアモルファス合金軟磁性粉末。
【請求項2】
粒子の結晶化度が15%以下である請求項1に記載のアモルファス合金軟磁性粉末。
【請求項3】
2質量%のエポキシ樹脂と混合され、50℃で1時間乾燥させて、造粒粉末を得た後、前記造粒粉末を圧力294.2MPa(3t/cm)で加圧し、得られた圧粉体を、150℃で3時間加熱して、硬化させてなる成形体は、相対密度が65%以上である請求項1または2に記載のアモルファス合金軟磁性粉末。
【請求項4】
2質量%のエポキシ樹脂と混合され、50℃で1時間乾燥させて、造粒粉末を得た後、前記造粒粉末を圧力294.2MPa(3t/cm)で加圧し、得られた圧粉体を、150℃で3時間加熱して、硬化させてなる成形体について、最大磁束密度50mTおよび測定周波数900kHzで鉄損が測定されたとき、
前記鉄損が11000[kW/m]以下である請求項1または2に記載のアモルファス合金軟磁性粉末。
【請求項5】
振動試料型磁力計を用いて測定される最大磁化をMm[emu/g]とし、
真密度をρ[g/cm]とするとき、
4π/10000×ρ×Mm=Bsで求められる飽和磁束密度Bs[T]は、1.5T以上2.2T以下である請求項1または2に記載のアモルファス合金軟磁性粉末。
【請求項6】
請求項1または2に記載のアモルファス合金軟磁性粉末を含むことを特徴とする圧粉磁心。
【請求項7】
請求項6に記載の圧粉磁心を備えることを特徴とする磁性素子。
【請求項8】
請求項7に記載の磁性素子を備えることを特徴とする電子機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アモルファス合金軟磁性粉末、圧粉磁心、磁性素子および電子機器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、(FeCo(1-x)(100-(a+b))(Si(1-y)[ただし、Mは、C、S、P、Sn、Mo、CuおよびNbからなる群から選択される少なくとも1種であり、x、y、aおよびbは、0.73≦x≦0.85、0.02≦y≦0.10、13.0≦a≦19.0、0≦b≦2.0である。]で表される組成を有し、保磁力が、24[A/m]以上(0.3[Oe]以上)199[A/m]以下(2.5[Oe]以下)であり、飽和磁束密度が、1.60[T]以上2.20[T]以下であるアモルファス合金軟磁性粉末が開示されている。このようなアモルファス合金軟磁性粉末は、飽和磁束密度が高く、かつ、保磁力が低いため、磁性素子の小型化および高出力化に寄与できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2022-111641号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載のアモルファス合金軟磁性粉末は、低周波数での透磁率に比べて、高周波数での透磁率が相対的に低い。このため、特許文献1に記載のアモルファス合金軟磁性粉末は、高透磁率を実現できる周波数帯が限られることになり、汎用性や使い勝手の面で改善が求められている。
【0005】
そこで、広い周波数域において透磁率が高い成形体を製造可能なアモルファス合金軟磁性粉末の実現が課題となっている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の適用例に係るアモルファス合金軟磁性粉末は、
原子数比における組成式(FeCo1-x100-(a+b)(Si1-y
[Mは、C、S、P、Sn、Mo、CuおよびNbからなる群から選択される少なくとも1種であり、
x、y、aおよびbは、
0.73≦x≦0.85、
0.02≦y≦0.10、
13.0≦a≦19.0、
0≦b≦2.0である。]
で表される組成および不純物で構成され、
平均円形度が0.85以上であり、
平均アスペクト比が1.20以下であり、
平均粒径が10μm以上40μm以下であり、
周波数100kHzにおける透磁率をμとし、周波数100MHzにおける透磁率をμとし、周波数の上昇に伴う透磁率の減少率Dを(μ-μ)/μとするとき、減少率Dが15%以下である。
【0007】
本発明の適用例に係る圧粉磁心は、
本発明の適用例に係るアモルファス合金軟磁性粉末を含む。
【0008】
本発明の適用例に係る磁性素子は、
本発明の適用例に係る圧粉磁心を備える。
【0009】
本発明の適用例に係る電子機器は、
本発明の適用例に係る磁性素子を備える。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】回転水流アトマイズ法によりアモルファス合金軟磁性粉末を製造する装置の一例を示す縦断面図である。
図2】トロイダルタイプのコイル部品を模式的に示す平面図である。
図3】閉磁路タイプのコイル部品を模式的に示す透過斜視図である。
図4】実施形態に係る磁性素子を備える電子機器であるモバイル型のパーソナルコンピューターを示す斜視図である。
図5】実施形態に係る磁性素子を備える電子機器であるスマートフォンを示す平面図である。
図6】実施形態に係る磁性素子を備える電子機器であるディジタルスチルカメラを示す斜視図である。
図7】サンプルNo.3およびサンプルNo.17のアモルファス合金軟磁性粉末について測定された透磁率の周波数依存性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明のアモルファス合金軟磁性粉末、圧粉磁心、磁性素子および電子機器を添付図面に示す好適実施形態に基づいて詳細に説明する。
【0012】
1.アモルファス合金軟磁性粉末
実施形態に係るアモルファス合金軟磁性粉末は、軟磁性を示すアモルファス合金粉末である。アモルファス合金軟磁性粉末は、いかなる用途にも適用可能であるが、例えば、粒子同士を結着させて成形される。これにより、磁性素子に用いられる圧粉磁心が得られる。
【0013】
実施形態に係るアモルファス合金軟磁性粉末は、原子数比における組成式(FeCo1-x100-(a+b)(Si1-yで表される組成および不純物で構成される粉末である。
【0014】
ここで、Mは、C、S、P、Sn、Mo、CuおよびNbからなる群から選択される少なくとも1種である。
【0015】
また、x、y、aおよびbは、
0.73≦x≦0.85、
0.02≦y≦0.10、
13.0≦a≦19.0、
0≦b≦2.0である。
【0016】
そして、このアモルファス合金軟磁性粉末は、以下の4つの要素(a)~(d)を満たしている。
【0017】
(a)平均円形度が0.85以上である
(b)平均アスペクト比が1.20以下である
(c)平均粒径が10μm以上40μm以下である
(d)周波数100kHzにおける透磁率をμとし、周波数100MHzにおける透磁率をμとし、周波数の上昇に伴う透磁率の減少率Dを(μ-μ)/μとするとき、減少率Dが15%以下である
【0018】
このようなアモルファス合金軟磁性粉末は、広い周波数域において透磁率が高い成形体を製造可能な粉末となる。このため、かかるアモルファス合金軟磁性粉末を用いることにより、使用される周波数域を問わず、高い透磁率を有するため、汎用性や使い勝手が良好な磁性素子が得られる。
【0019】
1.1.組成
以下、アモルファス合金軟磁性粉末が有する組成について詳述する。実施形態に係るアモルファス合金軟磁性粉末は、前述したように、(FeCo1-x100-(a+b)(Si1-yで表される組成を有する。この組成式は、Fe、Co、Si、BおよびMの少なくとも5元素からなる組成における比率を表している。
【0020】
Fe(鉄)は、実施形態に係るアモルファス合金軟磁性粉末の基本的な磁気特性や機械的特性に大きな影響を与える。
【0021】
Feの含有率は、特に限定されないが、アモルファス合金軟磁性粉末においてFeが主成分、すなわち原子数の比率が最も高くなるように設定される。本実施形態に係るアモルファス合金軟磁性粉末では、Feの含有率が、61.0質量%以上71.0質量%以下であるのが好ましく、63.0質量%以上69.0質量%以下であるのがより好ましく、65.0質量%以上68.0質量%以下であるのがさらに好ましい。なお、Feの含有率が前記下限値を下回ると、組成によっては、アモルファス合金軟磁性粉末の磁束密度が低下するおそれがある。一方、Feの含有率が前記上限値を上回ると、組成によっては、アモルファス構造を安定的に形成することが困難になるおそれがある。
【0022】
xは、Feの原子数とCoの原子数との合計を1としたとき、合計の原子数に対するFeの原子数の割合を表す。本実施形態に係るアモルファス合金軟磁性粉末では、0.73≦x≦0.85とされる。また、好ましくは0.75≦x≦0.83とされ、より好ましくは0.77≦x≦0.81とされる。
【0023】
Co(コバルト)は、アモルファス合金軟磁性粉末の飽和磁束密度を高めることができる。
【0024】
Feの原子数とCoの原子数との合計を1としたとき、合計の原子数に対するCoの原子数の割合は、0.15≦1-x≦0.27とされる。また、好ましくは0.17≦1-x≦0.25とされ、より好ましくは0.19≦1-x≦0.23とされる。1-xを前記範囲内とすることにより、保磁力の上昇を抑えつつ、アモルファス合金軟磁性粉末の飽和磁束密度を高めることができる。
【0025】
なお、1-xが前記下限値を下回ると、Feの含有量に対するCoの含有量が少なくなりすぎるため、飽和磁束密度を十分に高めることができない。一方、1-xが前記上限値を上回ると、Feの含有量に対するCoの含有量が多くなりすぎるため、アモルファス構造を安定的に形成することが困難になり、保磁力が上昇する。
【0026】
Coの含有率は、好ましくは12.0原子%以上22.0原子%以下とされ、より好ましくは15.0原子%以上19.0原子%以下とされる。
【0027】
Si(ケイ素)は、アモルファス合金軟磁性粉末を原材料から製造するとき、アモルファス化を促進するとともに、アモルファス合金軟磁性粉末の透磁率を高める。これにより、低保磁力化と高透磁率化とを図ることができる。
【0028】
B(ホウ素)は、アモルファス合金軟磁性粉末を原材料から製造するとき、アモルファス化を促進する。特にSiとBとを併用することによって、両者の原子半径の差に基づき、相乗的にアモルファス化を促進することができる。これにより、低保磁力化および高透磁率化を十分に図ることができる。
【0029】
yは、Siの原子数とBの原子数との合計を1としたとき、合計の原子数に対するSiの原子数の割合を表す。本実施形態に係るアモルファス合金軟磁性粉末では、0.02≦y≦0.10とされる。また、好ましくは0.04≦y≦0.08とされ、より好ましくは0.05≦y≦0.07とされる。yを前記範囲内とすることにより、Siの原子数とBの原子数とのバランスを最適化することができる。これにより、FeおよびCoが比較的高濃度であっても、十分にアモルファス化を図ることができる。したがって、yを前記範囲内とすることにより、高い飽和磁束密度を損なうことなく、低保磁力化を図ることができる。
【0030】
なお、yが前記下限値を下回る場合、および、yが前記上限値を上回る場合には、Siの原子数とBの原子数とのバランスが崩れる。このため、FeおよびCoを比較的高濃度にした組成比においてアモルファス化を促進することができない。
【0031】
aは、SiおよびBと、FeおよびCoと、のバランスを左右する。本実施形態に係るアモルファス合金軟磁性粉末では、13.0≦a≦19.0とされる。また、好ましくは14.0≦a≦18.0とされ、より好ましくは15.0≦a≦17.0とされる。aを前記範囲内とすることにより、主にアモルファス化を促進するSiおよびBと、主に飽和磁束密度を高めるFeおよびCoと、のバランスが最適化される。
【0032】
なお、aが前記下限値を下回ると、SiおよびBの量比が低下し、FeおよびCoの量比が上昇するため、アモルファス化が難しくなる。一方、aが前記上限値を上回ると、SiおよびBの量比が上昇し、FeおよびCoの量比が低下するため、飽和磁束密度を十分に高めることが難しくなる。
【0033】
Siの含有率は、好ましくは0.40原子%以上1.80原子%以下とされ、より好ましくは0.80原子%以上1.50原子%以下とされる。
【0034】
Bの含有率は、好ましくは11.0原子%以上18.0原子%以下とされ、より好ましくは14.0原子%以上16.0原子%以下とされる。
【0035】
Mは、C、S、P、Sn、Mo、CuおよびNbからなる群から選択される少なくとも1種である。Mを所定量含有することにより、飽和磁束密度をより高めることができる。また、Mが、上記元素の2種類以上を含むことにより、Mを含まない場合や1種類のMを含む場合に比べて、飽和磁束密度をさらに高めることができる。
【0036】
bは、Mの含有率を表す。Mとして複数の元素が含まれる場合には、bは複数の元素を合計した含有率である。本実施形態に係るアモルファス合金軟磁性粉末では、0≦b≦2.0とされる。また、好ましくは0.5≦b≦1.5とされ、より好ましくは0.7≦b≦1.2とされる。bを前記範囲内とすることにより、アモルファス化を阻害することなく、飽和磁束密度を高めることができる。
【0037】
なお、bが前記下限値を下回ると、上記効果が十分に得られないおそれがある。一方、bが前記上限値を上回ると、アモルファス化が阻害される。
【0038】
実施形態に係るアモルファス合金軟磁性粉末は、(FeCo1-x100-(a+b)(Si1-yで表される組成の他、不純物を含んでいてもよい。不純物としては、上記以外のあらゆる元素が挙げられるが、不純物の含有率の合計が1.0質量%以下であるのが好ましく、0.2質量%以下であるのがより好ましく、0.1質量%以下であるのがさらに好ましい。
【0039】
以上、実施形態に係るアモルファス合金軟磁性粉末の組成について詳述したが、上記組成および不純物は、以下のような分析手法により特定される。
【0040】
分析手法としては、例えば、JIS G 1257:2000に規定された鉄及び鋼-原子吸光分析法、JIS G 1258:2007に規定された鉄及び鋼-ICP発光分光分析法、JIS G 1253:2002に規定された鉄及び鋼-スパーク放電発光分光分析法、JIS G 1256:1997に規定された鉄及び鋼-蛍光X線分析法、JIS G 1211~G 1237に規定された重量・滴定・吸光光度法等が挙げられる。
【0041】
具体的には、例えばSPECTRO社製固体発光分光分析装置、特にスパーク放電発光分光分析装置、モデル:SPECTROLAB、タイプ:LAVMB08Aや、株式会社リガク製ICP装置CIROS120型が挙げられる。
【0042】
また、特にC(炭素)およびS(硫黄)の特定に際しては、JIS G 1211:2011に規定された酸素気流燃焼(高周波誘導加熱炉燃焼)-赤外線吸収法も用いられる。具体的には、LECO社製炭素・硫黄分析装置、CS-200が挙げられる。
【0043】
さらに、特にN(窒素)およびO(酸素)の特定に際しては、JIS G 1228:1997に規定された鉄及び鋼-窒素定量方法、JIS Z 2613:2006に規定された金属材料の酸素定量方法通則も用いられる。具体的には、LECO社製酸素・窒素分析装置、TC-300/EF-300が挙げられる。
【0044】
1.2.(a)平均円形度
実施形態に係るアモルファス合金軟磁性粉末の平均円形度は、0.85以上とされるが、0.88以上1.00以下であるのが好ましく、0.90以上0.95以下であるのがより好ましい。これにより、圧粉時の充填性が特に良好なアモルファス合金軟磁性粉末が得られる。その結果、透磁率が高い成形体を製造することができる。また、アモルファス合金軟磁性粉末の粒子表面に絶縁被膜を成膜するとき、均一にムラなくかつ薄く成膜することができる。これにより、粒子間の絶縁性、透磁率および飽和磁束密度に優れた圧粉体を製造することができる。
【0045】
なお、平均円形度が前記下限値を下回ると、アモルファス合金軟磁性粉末の圧粉時の充填性が低下し、圧粉体の透磁率が低下する。また、絶縁被膜の膜厚の均一性が低下するとともに膜厚が厚くなるおそれがある。一方、平均円形度が前記上限値を上回ってもよいが、製造難易度が高くなるおそれがある。
【0046】
アモルファス合金軟磁性粉末の平均円形度は、次のようにして測定される。
まず、走査型電子顕微鏡(SEM)でアモルファス合金軟磁性粉末の画像(二次電子像)を撮像する。次に、得られた画像を画像処理ソフトウェアに読み込ませる。画像処理ソフトウェアには、例えば、株式会社マウンテック製の画像解析式粒度分布測定ソフトウェア「Mac-View」等が用いられる。なお、1つの画像に50~100個の粒子が写るように、撮像倍率を調整する。そして、合計300個以上の粒子像が得られるように、複数枚の画像を取得する。
【0047】
次に、ソフトウェアを用いて、300個以上の粒子像の円形度を算出し、平均値を求める。得られた平均値が、アモルファス合金軟磁性粉末の平均円形度となる。なお、円形度をeとし、粒子像の面積をSとし、粒子像の周囲長をLとするとき、円形度eは、次式で求められる。
e=4πS/L
【0048】
1.3.(b)平均アスペクト比
実施形態に係るアモルファス合金軟磁性粉末の平均アスペクト比は、1.20以下とされるが、1.18以下であるのが好ましく、1.15以下であるのがより好ましい。アモルファス合金軟磁性粉末の平均アスペクト比が前記範囲内であれば、圧粉時の充填性が特に良好なアモルファス合金軟磁性粉末が得られる。その結果、透磁率が高い成形体を製造することができる。また、アモルファス合金軟磁性粉末の粒子表面に絶縁被膜を成膜するとき、均一にムラなくかつ薄く成膜することができる。これにより、粒子間の絶縁性、透磁率および飽和磁束密度に優れた圧粉体を製造することができる。
【0049】
なお、平均アスペクト比が前記下限値を下回ると、アモルファス合金軟磁性粉末の圧粉時の充填性が低下する。また、絶縁被膜の膜厚の均一性が低下するとともに膜厚が厚くなるおそれがある。一方、平均アスペクト比が前記上限値を上回ってもよいが、製造難易度が高くなるおそれがある。
【0050】
なお、アモルファス合金軟磁性粉末の平均アスペクト比は、次のようにして算出される。
【0051】
まず、走査型電子顕微鏡(SEM)でアモルファス合金軟磁性粉末の画像(二次電子像)を撮像する。次に、得られた画像を画像処理ソフトウェアに読み込ませる。画像処理ソフトウェアには、例えば、株式会社マウンテック製の画像解析式粒度分布測定ソフトウェア「Mac-View」等が用いられる。なお、1つの画像に50~100個の粒子が写るように、撮像倍率を調整する。そして、合計300個以上の粒子像が得られるように、複数枚の画像を取得する。
【0052】
次に、ソフトウェアを用いて、300個以上の粒子像のアスペクト比を算出し、平均値を求める。得られた平均値が、アモルファス合金軟磁性粉末の平均アスペクト比となる。なお、アスペクト比は、粒子像の最大長さを長径とし、長径の延在方向に直交する方向の最大長さを短径とするとき、長径/短径で求められる。
【0053】
1.4.(c)平均粒径
実施形態に係るアモルファス合金軟磁性粉末の平均粒径は、10μm以上40μm以下とされるが、好ましくは15μm以上35μm以下とされ、より好ましくは20μm以上30μm以下とされる。これにより、圧粉時の充填性が高く、かつ、圧粉体において渦電流損失を抑制可能なアモルファス合金軟磁性粉末が得られる。その結果、透磁率が高く、低鉄損の成形体を製造することができる。
【0054】
なお、アモルファス合金軟磁性粉末の平均粒径が前記下限値を下回ると、凝集が発生しやすくなり、圧粉体の密度が低下する。一方、アモルファス合金軟磁性粉末の平均粒径が前記上限値を上回ると、粒子間の隙間が多くなるため、圧粉体の密度が低下する。また、圧粉体において鉄損が増加するおそれがある。
【0055】
なお、平均粒径とは、レーザー回折式粒度分布測定装置を用いて取得されたアモルファス合金軟磁性粉末の体積基準での累積粒度分布において、頻度の累積が小径側から50%である粒子径D50のことをいう。
【0056】
そして、上記(a)~(c)を満たすことにより、アモルファス合金軟磁性粉末は、圧粉時の充填性が特に高くなる。その結果、透磁率が高い成形体が得られる。このような成形体は、広い周波数域において透磁率が高く、汎用性や使い勝手が良好な成形体が得られる。
【0057】
1.5.(d)透磁率の減少率
アモルファス合金軟磁性粉末の周波数100kHzにおける透磁率をμとし、周波数100MHzにおける透磁率をμとし、周波数の上昇に伴う透磁率の減少率Dを(μ-μ)/μとする。実施形態に係るアモルファス合金軟磁性粉末の透磁率の減少率Dは、15%以下とされるが、好ましくは13%以下とされ、より好ましくは11%以下とされる。透磁率の減少率Dが前記範囲内にあることで、100kHzという比較的低い周波数から、100MHzという比較的高い周波数まで、透磁率の変化が小さくなる。このように、実施形態に係るアモルファス合金軟磁性粉末を用いて製造された成形体は、3桁もの広い周波数域において透磁率の変化が小さいため、汎用性や使い勝手が特に良好である。つまり、使用周波数が異なる様々な用途に適用可能な成形体が得られる。
【0058】
また、透磁率μおよび透磁率μは、それぞれ15.0以上であるのが好ましく、17.0以上であるのがより好ましい。このようなアモルファス合金軟磁性粉末は、高い磁界をかけた場合でも、磁束密度が飽和しにくい、つまり高い飽和磁束密度を持つ成形体の実現に寄与する。なお、透磁率の上限値は、特に限定されないが、安定して製造することを考慮すれば、30.0以下とされる。
【0059】
なお、アモルファス合金軟磁性粉末の透磁率は、アモルファス合金軟磁性粉末を用いて作製された圧粉体で測定される。圧粉体の透磁率とは、例えば、トロイダル形状の圧粉体に閉磁路磁心コイルを作製し、その自己インダクタンスから求められる比透磁率、すなわち実効透磁率のことである。透磁率の測定には、インピーダンスアナライザーを用い、測定周波数は100kHzまたは100MHzとする。また、巻線の巻き数は7回、巻線の線径は0.6mmとする。また、圧粉体のサイズは、外径φ14mm、内径φ8mm、厚さ3mmとし、成形圧力は、294MPaとする。
【0060】
1.6.その他の特性
アモルファス合金軟磁性粉末の粒子におけるアモルファス化度は、結晶化度に基づいて特定することができる。アモルファス合金軟磁性粉末の粒子における結晶化度は、アモルファス合金軟磁性粉末についてX線回折により取得されたスペクトルから、以下の式に基づいて算出される。
【0061】
結晶化度={結晶由来強度/(結晶由来強度+非晶質由来強度)}×100
また、X線回折装置としては、例えば株式会社リガク製のRINT2500V/PCが用いられる。
【0062】
このような方法で測定された結晶化度は、15%以下であるのが好ましく、10%以下であるのがより好ましい。これにより、アモルファス化に伴う軟磁性の向上がより顕著になる。その結果、十分な高透磁率化および低保磁力化が図られたアモルファス合金軟磁性粉末が得られる。また、結晶化度を前記範囲内まで下げることができれば、広い周波数域において透磁率が高い圧粉体を製造可能なアモルファス合金軟磁性粉末が得られる。
【0063】
実施形態に係るアモルファス合金軟磁性粉末の保磁力は、24[A/m]以上(0.3[Oe]以上)199[A/m]以下(2.5[Oe]以下)であるのが好ましく、40[A/m]以上(0.5[Oe]以上)175[A/m]以下(2.2[Oe]以下)であるのがより好ましく、56[A/m]以上(0.7[Oe]以上)159[A/m]以下(2.0[Oe]以下)であるのがさらに好ましい。
【0064】
このように保磁力が比較的小さいアモルファス合金軟磁性粉末を用いることにより、高周波数下であってもヒステリシス損失を十分に抑制可能な成形体を製造することができる。
【0065】
なお、保磁力が前記下限値を下回ると、そのような低保磁力のアモルファス合金軟磁性粉末を安定して製造することが難しくなるとともに、保磁力を追求しすぎると、飽和磁束密度に影響が及んで、飽和磁束密度の低下を招くおそれがある。一方、保磁力が前記上限値を上回ると、高周波数下においてヒステリシス損失を増大させるため、圧粉磁心の鉄損が大きくなるおそれがある。
【0066】
アモルファス合金軟磁性粉末の保磁力は、例えば、株式会社玉川製作所製、TM-VSM1230-MHHLのような振動試料型磁力計により測定することができる。
【0067】
実施形態に係るアモルファス合金軟磁性粉末の飽和磁束密度は、1.60[T]以上2.20[T]以下であるのが好ましく、1.60[T]以上2.10[T]以下であるのがより好ましく、1.65[T]以上2.00[T]以下であるのがさらに好ましい。
【0068】
このように飽和磁束密度が比較的大きいアモルファス合金軟磁性粉末を用いることにより、飽和磁束密度が高い圧粉磁心を得ることができる。このような圧粉磁心によれば、磁性素子の小型化および高出力化を図ることができる。
【0069】
なお、飽和磁束密度が前記下限値を下回ると、磁性素子の小型化および高出力化が難しくなるおそれがある。一方、飽和磁束密度が前記上限値を上回ると、そのような飽和磁束密度のアモルファス合金軟磁性粉末を安定して製造することが難しくなるとともに、飽和磁束密度を追求しすぎると、保磁力に影響が及んで、保磁力の上昇を招くおそれがある。
【0070】
アモルファス合金軟磁性粉末の飽和磁束密度は、以下の方法で測定される。
まず、全自動ガス置換式密度計、マイクロメリティックス社製、AccuPyc1330により、軟磁性粉末の真比重ρを測定する。次に、振動試料型磁力計、株式会社玉川製作所製VSMシステム、TM-VSM1230-MHHLにより、軟磁性粉末の最大磁化Mmを測定する。そして、以下の式により、飽和磁束密度Bsを算出する。
Bs=4π/10000×ρ×Mm
【0071】
アモルファス合金軟磁性粉末では、見かけ密度およびタップ密度が所定の範囲内にあることが好ましい。具体的には、アモルファス合金軟磁性粉末の見かけ密度[g/cm]を100としたとき、タップ密度[g/cm]は103以上120以下であるのが好ましく、105以上115以下であるのがより好ましく、107以上113以下であるのがさらに好ましい。このようなアモルファス合金軟磁性粉末は、タップ(加振)されないときには比較的充填されにくく、タップされたときには充填されやすい粉末であるといえる。このことから、タップ密度が前記範囲内にある場合、アモルファス合金軟磁性粉末は、異形状の粒子が比較的少なく、充填性(流動性)が高い粉末であるといえる。
【0072】
アモルファス合金軟磁性粉末の見かけ密度は、4.55[g/cm]以上4.80[g/cm]以下であるのが好ましく、4.58[g/cm]以上4.70[g/cm]以下であるのがより好ましい。
【0073】
アモルファス合金軟磁性粉末のタップ密度は、4.95[g/cm]以上5.30[g/cm]以下であるのが好ましく、5.00[g/cm]以上5.20[g/cm]以下であるのがより好ましい。
【0074】
アモルファス合金軟磁性粉末の見かけ密度およびタップ密度が前記範囲内であることにより、成形体の透磁率および飽和磁束密度を特に高めることができる。
【0075】
なお、タップ密度の相対値が前記下限値を下回ると、アモルファス合金軟磁性粉末を圧粉して成形体を得るとき、アモルファス合金軟磁性粉末の充填性が低下するおそれがある。一方、タップ密度の相対値が前記上限値を上回ると、アモルファス合金軟磁性粉末を圧粉して成形体を得るとき、収縮率が大きくなるおそれがある。このため、成形体が変形し易くなり、寸法精度が低下するおそれがある。
【0076】
アモルファス合金軟磁性粉末の見かけ密度は、JIS Z 2504:2012に規定の金属粉-見掛密度測定方法に準拠して測定される。
【0077】
アモルファス合金軟磁性粉末のタップ密度は、JIS Z 2512:2012に規定の金属粉-タップ密度測定方法に準拠して測定される。
【0078】
実施形態に係るアモルファス合金軟磁性粉末は、2質量%のエポキシ樹脂と混合され、50℃で1時間乾燥させて、造粒粉末を得た後、得られた造粒粉末を圧力294.2MPa(3t/cm)で加圧し、得られた圧粉体を、150℃で3時間加熱して、硬化させてなる成形体は、相対密度が65%以上であることが好ましく、66%以上であるのがより好ましく、67%以上であるのがさらに好ましい。成形体の相対密度が前記範囲内であれば、成形体における樹脂や隙間の占有率が十分に抑えられ、その結果、アモルファス合金の占有率を十分に高められる。これにより、成形体の透磁率および飽和磁束密度をより高めることができる。また、上限値は、特に設定されなくてもよいが、圧粉体の機械的強度や粒子間の絶縁性を考慮すると、72%以下であるのが好ましく、70%以下であるのがより好ましい。なお、上記相対密度は、圧粉体の密度をアモルファス合金軟磁性粉末の真密度で除して求められる。
【0079】
実施形態に係るアモルファス合金軟磁性粉末は、上記の方法で作製した成形体は、最大磁束密度50mTおよび測定周波数900kHzで測定された鉄損が、11000[kW/m]以下であることが好ましく、10500[kW/m]以下であることがより好ましい。これにより、効率の高い磁性素子が得られる。
【0080】
実施形態に係るアモルファス合金軟磁性粉末は、飽和磁束密度Bsが1.5T以上2.2T以下であることが好ましく、1.6T以上1.8T以下であることがより好ましい。これにより、飽和磁束密度の高い磁性素子が得られる。
なお、アモルファス合金軟磁性粉末の飽和磁束密度Bsは、以下のように求められる。
【0081】
振動試料型磁力計を用いて測定されるアモルファス合金軟磁性粉末の最大磁化をMm[emu/g]とし、アモルファス合金軟磁性粉末の真密度をρ[g/cm]とする。このとき、アモルファス合金軟磁性粉末の飽和磁束密度Bsは、Bs=4π/10000×ρ×Mmで求められる。
【0082】
なお、実施形態に係るアモルファス合金軟磁性粉末は、他の軟磁性粉末や非軟磁性粉末と混合され、混合粉末として各種の用途に用いられてもよい。
【0083】
2.アモルファス合金軟磁性粉末の製造方法
次に、アモルファス合金軟磁性粉末を製造する方法について説明する。
【0084】
アモルファス合金軟磁性粉末は、いかなる製造方法で製造されたものであってもよく、例えば、水アトマイズ法、ガスアトマイズ法、回転水流アトマイズ法のようなアトマイズ法、還元法、カルボニル法、粉砕法等の各種粉末化法により製造される。
【0085】
アトマイズ法には、冷却媒の種類や装置構成の違いによって、水アトマイズ法、ガスアトマイズ法、回転水流アトマイズ法等がある。このうち、アモルファス合金軟磁性粉末は、アトマイズ法により製造されたものであるのが好ましく、水アトマイズ法または回転水流アトマイズ法により製造されたものであるのがより好ましく、回転水流アトマイズ法により製造されたものであるのがさらに好ましい。アトマイズ法は、溶融させた原料を高速で噴射された液体または気体のような流体に衝突させることにより、微粉化するとともに冷却して、粉末を製造する方法である。このようなアトマイズ法を用いることにより、アモルファス化が良好に図られているとともに、充填性に優れたアモルファス合金軟磁性粉末を効率よく製造することができる。
【0086】
なお、本明細書における「水アトマイズ法」とは、冷却液として水または油のような液体を使用し、これを一点に集束する逆円錐状に噴射した状態で、この集束点に向けて溶融金属を流下させ、衝突させることにより、金属粉末を製造する方法のことを指す。
【0087】
一方、回転水流アトマイズ法によれば、溶湯を極めて高速で冷却することができるので、アモルファス化を特に図りやすい。
【0088】
アモルファス合金軟磁性粉末を製造するとき、溶融金属の冷却速度は、10[K/秒]超であるのが好ましく、10[K/秒]以上であるのがより好ましい。これにより、アモルファス化が十分に図られたアモルファス合金軟磁性粉末が得られる。つまり、FeやCoの含有率が比較的高い組成であっても、アモルファス化を図ることができる。特に回転水流アトマイズ法によれば、10[K/秒]以上の冷却速度を容易に実現することができる。
【0089】
以下、回転水流アトマイズ法によるアモルファス合金軟磁性粉末の製造方法についてさらに説明する。
【0090】
回転水流アトマイズ法では、冷却用筒体の内周面に沿って冷却液を噴出供給し、冷却用筒体の内周面に沿って旋回させることにより、内周面に冷却液層を形成する。一方、アモルファス合金軟磁性粉末の原料を溶融し、得られた溶融金属を自然落下させつつ、これに液体または気体のジェットを吹き付ける。このようにして溶融金属を飛散させると、飛散した溶融金属は冷却液層に取り込まれる。その結果、飛散して微粉化した溶融金属が急速冷却されて固化し、アモルファス合金軟磁性粉末が得られる。
【0091】
図1は、回転水流アトマイズ法によりアモルファス合金軟磁性粉末を製造する装置の一例を示す縦断面図である。
【0092】
図1に示す粉末製造装置30は、冷却用筒体1と、坩堝15と、ポンプ7と、ジェットノズル24と、を備えている。冷却用筒体1は、内周面に冷却液層9を形成するための筒体である。坩堝15は、冷却液層9の内側の空間部23に溶融金属25を流下供給するための供給容器である。ポンプ7は、冷却用筒体1に冷却液を供給する。ジェットノズル24は、流下した細流状の溶融金属25を液滴に分断するガスジェット26を噴出する。
溶融金属25は、アモルファス合金軟磁性粉末の組成に応じて調製されている。
【0093】
冷却用筒体1は円筒状をなし、筒体軸線が鉛直方向に沿うように、または鉛直方向に対して30°以下の角度で傾くように設置される。
【0094】
冷却用筒体1の上端開口は蓋体2によって閉塞している。蓋体2には、流下する溶融金属25を冷却用筒体1の空間部23に供給するための開口部3が形成されている。
【0095】
冷却用筒体1の上部には、冷却用筒体1の内周面に冷却液を噴出させる冷却液噴出管4が設けられている。冷却液噴出管4の吐出口5は、冷却用筒体1の周方向に沿って等間隔に複数個設けられている。
【0096】
冷却液噴出管4は、ポンプ7が接続された配管を介してタンク8に接続されており、ポンプ7で吸い上げられたタンク8内の冷却液が冷却液噴出管4を介して冷却用筒体1内に噴出供給される。これにより、冷却液が冷却用筒体1の内周面に沿って回転しながら徐々に流下し、それに伴って内周面に沿う冷却液層9が形成される。なお、タンク8内や循環流路の途中には、必要に応じて冷却器を介在させるようにしてもよい。冷却液としては水の他、シリコーンオイルのような油が用いられ、さらに各種添加物が添加されていてもよい。また、冷却液中の溶存酸素をあらかじめ除去しておくことにより、製造される粉末の酸化を抑えることができる。
【0097】
また、冷却用筒体1の下部には、円筒状の液切り用網体17が連設されており、この液切り用網体17の下側には漏斗状の粉末回収容器18が設けられている。液切り用網体17の周囲には液切り用網体17を覆うように冷却液回収カバー13が設けられ、この冷却液回収カバー13の底部に形成された排液口14は、配管を介してタンク8に接続されている。
【0098】
ジェットノズル24は、空間部23に設けられている。ジェットノズル24は、蓋体2の開口部3を介して挿入されたガス供給管27の先端に取り付けられ、その噴出口が、細流状の溶融金属25を指向するように配置されている。
【0099】
このような粉末製造装置30においてアモルファス合金軟磁性粉末を製造するには、まず、ポンプ7を作動させ、冷却用筒体1の内周面に冷却液層9を形成する。次に、坩堝15内の溶融金属25を空間部23に流下させる。流下する溶融金属25にガスジェット26を吹き付けると、溶融金属25が飛散し、微粉化された溶融金属25が冷却液層9に巻き込まれる。その結果、微粉化された溶融金属25が冷却固化し、アモルファス合金軟磁性粉末が得られる。
【0100】
回転水流アトマイズ法では、冷却液を連続供給することにより、極めて大きい冷却速度を安定的に維持することができるため、製造されるアモルファス合金軟磁性粉末のアモルファス化が促進される。
【0101】
また、ガスジェット26によって一定の大きさに微細化された溶融金属25は、冷却液層9に巻き込まれるまで惰性落下するので、その際に液滴の球形化が図られる。その結果、比較的小径であるにもかかわらず、平均円形度および平均アスペクト比が良好なアモルファス合金軟磁性粉末を製造することができる。
【0102】
例えば、坩堝15から流下させる溶融金属25の流下量については、装置サイズ等によって異なるが、1.0[kg/分]超20.0[kg/分]以下であるのが好ましく、2.0[kg/分]以上10.0[kg/分]以下であるのがより好ましい。これにより、一定時間に流下する溶融金属25の量を最適化することができるので、アモルファス化が十分に図られたアモルファス合金軟磁性粉末を効率よく製造することができる。また、単位量当たりの溶融金属25の冷却速度を高め、アモルファス化度を高めることができる。
【0103】
また、ガスジェット26の圧力は、ジェットノズル24の構成に応じて若干異なるが、2.0MPa以上20.0MPa以下であるのが好ましく、3.0MPa以上10.0MPa以下であるのがより好ましい。これにより、溶融金属25を飛散させるときの粒径を最適化して、アモルファス化が十分に図られたアモルファス合金軟磁性粉末を製造することができる。すなわち、ガスジェット26の圧力が前記下限値を下回ると、十分に細かく飛散させることが難しくなり、粒径が大きくなりやすい。そうすると、液滴内部の冷却速度が低下して、アモルファス化が不十分になるおそれがある。一方、ガスジェット26の圧力が前記上限値を上回ると、飛散後の液滴の粒径が小さくなりすぎるおそれがある。そうすると、液滴がガスジェット26で徐冷されてしまい、冷却液層9による急冷を行えなくなって、アモルファス化が不十分になるおそれがある。
【0104】
また、ガスジェット26の流量は、特に限定されないが、1.0[Nm/分]以上20.0[Nm/分]以下であるのが好ましい。
【0105】
冷却用筒体1に供給する冷却液の噴出時の圧力は、好ましくは5MPa以上200MPa以下程度とされ、より好ましくは10MPa以上100MPa以下程度とされる。これにより、冷却液層9の流速の最適化が図られ、微粉化された溶融金属25が異形状になりにくくなる。その結果、より充填性に優れたアモルファス合金軟磁性粉末が得られる。また、冷却液による溶融金属25の冷却速度を十分に高めることができる。
【0106】
また、各種アトマイズ法では、原材料の鋳込み温度(溶融温度)に応じて、特に平均円形度を高め、かつ、平均アスペクト比を低くすることができる。
【0107】
鋳込み温度は、アモルファス合金軟磁性粉末の構成材料の融点Tm[℃]に対し、Tm+100℃以上Tm+300℃以下に設定されるのが好ましく、Tm+180℃以上Tm+270℃以下に設定されるのがより好ましい。これにより、各種アトマイズ法で微細化されて固化に至るとき、溶融金属として存在している時間を従来よりも長く確保することができる一方、結晶化に至るのを抑制できる。その結果、結晶化度が低く、かつ、平均円形度および平均アスペクト比が特に良好なアモルファス合金軟磁性粉末が得られる。
【0108】
なお、鋳込み温度が前記下限値を下回ると、平均円形度および平均アスペクト比が前記範囲内に収まらなくなるおそれがある。一方、鋳込み温度が前記上限値を上回ると、結晶化度が上昇し、粉末の透磁率が低下したり、保磁力が増加したりするおそれがある。
【0109】
また、各種アトマイズ法では、溶融金属を細い開口から流下させ、得られる溶融金属の細流を流体ジェットに衝突させる。溶融金属の細流の外径は、特に限定されないが、3.0mm以下であるのが好ましく、0.3mm以上2.0mm以下であるのがより好ましく、0.5mm以上1.5mm以下であるのがさらに好ましい。これにより、溶融金属に流体ジェットを均一に当て易くなるので、適度な大きさの液滴が均一に飛散し易くなる。その結果、上述したような平均粒径で、かつ、平均円形度および平均アスペクト比が良好なアモルファス合金軟磁性粉末が得られる。また、一定時間に供給される溶融金属の量が適量に制御されることになるので、各液滴の冷却速度も均一になり、粒径によらず、結晶化度が抑えられる。その結果、広い周波数域において透磁率が高い圧粉体を製造可能なアモルファス合金軟磁性粉末が得られる。さらに、粒度分布が比較的狭くなるため、見かけ密度に対するタップ密度の比を高めやすくなる。
【0110】
また、製造したアモルファス合金軟磁性粉末に対し、必要に応じて、分級を行ってもよい。分級の方法としては、例えば、ふるい分け分級、慣性分級、遠心分級のような乾式分級、沈降分級のような湿式分級等が挙げられる。
【0111】
上記のようにして製造されたアモルファス合金軟磁性粉末には、必要に応じて熱処理を施すようにしてもよい。熱処理の条件としては、例えば、加熱温度が200℃以上500℃以下とされ、この温度での保持時間が2時間以下とされる。また、熱処理雰囲気としては、例えば、窒素、アルゴンのような不活性ガス雰囲気、水素、アンモニア分解ガスのような還元性ガス雰囲気、またはこれらの減圧雰囲気等が挙げられる。
【0112】
また、必要に応じて、得られた軟磁性粉末の各粒子表面に絶縁膜を成膜するようにしてもよい。この絶縁膜の構成材料は、特に限定されないが、例えば、リン酸マグネシウム、リン酸カルシウム、リン酸亜鉛、リン酸マンガン、リン酸カドミウムのようなリン酸塩、ケイ酸ナトリウムのようなケイ酸塩、酸化ケイ素、酸化アルミニウムのような酸化物等の無機材料等が挙げられる。
【0113】
3.圧粉磁心および磁性素子
次に、実施形態に係る圧粉磁心および磁性素子について説明する。
【0114】
実施形態に係る磁性素子は、例えば、チョークコイル、インダクター、ノイズフィルター、リアクトル、トランス、モーター、アクチュエーター、電磁弁、発電機等のような、磁心を備えた各種磁性素子に適用可能である。また、実施形態に係る圧粉磁心は、これらの磁性素子が備える磁心に適用可能である。
【0115】
以下、磁性素子の一例として、2種類のコイル部品を代表に説明する。
3.1.トロイダルタイプ
まず、実施形態に係る磁性素子であるトロイダルタイプのコイル部品について説明する。
【0116】
図2は、トロイダルタイプのコイル部品を模式的に示す平面図である。図2に示すコイル部品10は、リング状の圧粉磁心11と、この圧粉磁心11に巻き回された導線12と、を有する。
【0117】
圧粉磁心11は、前述したアモルファス合金軟磁性粉末と結合材とを混合し、得られた混合物を成形型に供給するとともに、加圧、成形して得られる。すなわち、圧粉磁心11は、実施形態に係るアモルファス合金軟磁性粉末を含む圧粉体である。このような圧粉磁心11は、広い周波数域で透磁率が高いものとなる。このため、圧粉磁心11を有するコイル部品10を電子機器等に搭載したとき、電子機器の小型化および高出力化を図ることができる。
【0118】
また、コイル部品10は、このような圧粉磁心11を備えているので、電子機器の小型化および高出力化に寄与する。
【0119】
圧粉磁心11の作製に用いられる結合材の構成材料としては、例えば、シリコーン系樹脂、エポキシ系樹脂、フェノール系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリフェニレンサルファイド系樹脂等の有機材料、リン酸マグネシウム、リン酸カルシウム、リン酸亜鉛、リン酸マンガン、リン酸カドミウムのようなリン酸塩、ケイ酸ナトリウムのようなケイ酸塩等の無機材料等が挙げられる。
【0120】
導線12の構成材料としては、導電性の高い材料が挙げられ、例えば、Cu、Al、Ag、Au、Ni等を含む金属材料が挙げられる。また、導線12の表面には、必要に応じて絶縁膜が設けられる。
【0121】
なお、圧粉磁心11の形状は、図2に示すリング状に限定されず、例えばリングの一部が欠損した形状であってもよく、長手方向の形状が直線状である形状であってもよい。
【0122】
また、圧粉磁心11は、必要に応じて、前述した実施形態に係るアモルファス合金軟磁性粉末以外の軟磁性粉末や非磁性粉末を含んでいてもよい。
【0123】
3.2.閉磁路タイプ
次に、実施形態に係る磁性素子である閉磁路タイプのコイル部品について説明する。
図3は、閉磁路タイプのコイル部品を模式的に示す透過斜視図である。
【0124】
以下、閉磁路タイプのコイル部品について説明するが、以下の説明では、トロイダルタイプのコイル部品との相違点を中心に説明し、同様の事項については、その説明を省略する。
【0125】
図3に示すコイル部品20は、チップ状の圧粉磁心21と、この圧粉磁心21の内部に埋設され、コイル状に成形された導線22と、を有する。すなわち、圧粉磁心21は、実施形態に係るアモルファス合金軟磁性粉末を含む圧粉体である。このような圧粉磁心21は、広い周波数域で透磁率が高いものとなる。
【0126】
また、コイル部品20は、このような圧粉磁心21を備えているので、電子機器の小型化および高出力化に寄与する。
【0127】
なお、圧粉磁心21は、必要に応じて、前述した実施形態に係るアモルファス合金軟磁性粉末以外の軟磁性粉末や非磁性粉末を含んでいてもよい。
【0128】
4.電子機器
次いで、実施形態に係る磁性素子を備える電子機器について、図4図6に基づいて説明する。
【0129】
図4は、実施形態に係る磁性素子を備える電子機器であるモバイル型のパーソナルコンピューターを示す斜視図である。図4に示すパーソナルコンピューター1100は、キーボード1102を備えた本体部1104と、表示部100を備えた表示ユニット1106と、を備える。表示ユニット1106は、本体部1104に対しヒンジ構造部を介して回動可能に支持されている。このようなパーソナルコンピューター1100には、例えばスイッチング電源用のチョークコイルやインダクター、モーター等の磁性素子1000が内蔵されている。
【0130】
図5は、実施形態に係る磁性素子を備える電子機器であるスマートフォンを示す平面図である。図5に示すスマートフォン1200は、複数の操作ボタン1202、受話口1204および送話口1206を備える。また、操作ボタン1202と受話口1204との間には、表示部100が配置されている。このようなスマートフォン1200には、例えばインダクター、ノイズフィルター、モーター等の磁性素子1000が内蔵されている。
【0131】
図6は、実施形態に係る磁性素子を備える電子機器であるディジタルスチルカメラを示す斜視図である。ディジタルスチルカメラ1300は、被写体の光像をCCD(Charge Coupled Device)等の撮像素子により光電変換して撮像信号を生成する。
【0132】
図6に示すディジタルスチルカメラ1300は、ケース1302の背面に設けられた表示部100を備える。表示部100は、被写体を電子画像として表示するファインダーとして機能する。また、ケース1302の正面側、すなわち図中裏面側には、光学レンズやCCDなどを含む受光ユニット1304が設けられている。
【0133】
撮影者が表示部100に表示された被写体像を確認し、シャッターボタン1306を押下すると、その時点におけるCCDの撮像信号が、メモリー1308に転送・格納される。このようなディジタルスチルカメラ1300にも、例えばインダクター、ノイズフィルター等の磁性素子1000が内蔵されている。
【0134】
なお、実施形態に係る電子機器としては、図4のパーソナルコンピューター、図5のスマートフォン、図6のディジタルスチルカメラの他に、例えば、携帯電話、タブレット端末、時計、インクジェットプリンターのようなインクジェット式吐出装置、ラップトップ型パーソナルコンピューター、テレビ、ビデオカメラ、ビデオテープレコーダー、カーナビゲーション装置、ページャー、電子手帳、電子辞書、電卓、電子ゲーム機器、ワードプロセッサー、ワークステーション、テレビ電話、防犯用テレビモニター、電子双眼鏡、POS端末、電子体温計、血圧計、血糖計、心電図計測装置、超音波診断装置、電子内視鏡のような医療機器、魚群探知機、各種測定機器、車両、航空機、船舶の計器類、自動車制御機器、航空機制御機器、鉄道車両制御機器、船舶制御機器のような移動体制御機器類、フライトシミュレーター等が挙げられる。
【0135】
このような電子機器は、前述したように、実施形態に係る磁性素子を備えている。これにより、広い周波数域で高透磁率であるという磁性素子の効果を享受し、電子機器の小型化および高出力化を図ることができる。
【0136】
5.実施形態が奏する効果
以上のように、実施形態に係るアモルファス合金軟磁性粉末は、
原子数比における組成式(FeCo1-x100-(a+b)(Si1-y
[Mは、C、S、P、Sn、Mo、CuおよびNbからなる群から選択される少なくとも1種であり、
x、y、aおよびbは、
0.73≦x≦0.85、
0.02≦y≦0.10、
13.0≦a≦19.0、
0≦b≦2.0である。]
で表される組成および不純物で構成されている。
【0137】
また、実施形態に係るアモルファス合金軟磁性粉末は、平均円形度が0.85以上であり、平均アスペクト比が1.20以下であり、平均粒径が10μm以上40μm以下であり、周波数100kHzにおける透磁率をμとし、周波数100MHzにおける透磁率をμとし、周波数の上昇に伴う透磁率の減少率Dを(μ-μ)/μとするとき、減少率Dが15%以下である。
【0138】
このような構成によれば、粒径、円形度およびアスペクト比が最適化されているため、充填性に優れるアモルファス合金軟磁性粉末が得られる。このようなアモルファス合金軟磁性粉末は、高密度で、透磁率が高い成形体を製造可能である。また、周波数が異なっても透磁率の変化が小さく、広い周波数域で透磁率が高い成形体を製造可能である。
【0139】
また、実施形態に係るアモルファス合金軟磁性粉末では、粒子の結晶化度が15%以下であることが好ましい。
【0140】
このような構成によれば、アモルファス化に伴う軟磁性の向上がより顕著になる。その結果、十分な高透磁率化および低保磁力化が図られたアモルファス合金軟磁性粉末が得られる。また、広い周波数域において透磁率が高い圧粉体を製造可能なアモルファス合金軟磁性粉末が得られる。
【0141】
また、実施形態に係るアモルファス合金軟磁性粉末が、2質量%のエポキシ樹脂と混合され、50℃で1時間乾燥させて、造粒粉末を得た後、得られた造粒粉末を圧力294.2MPa(3t/cm)で加圧し、得られた圧粉体を、150℃で3時間加熱して、硬化させてなる成形体を得たとき、成形体の相対密度が65%以上であることが好ましい。
【0142】
このような構成によれば、成形体における樹脂や隙間の占有率が十分に抑えられ、その結果、アモルファス合金の占有率を十分に高められる。これにより、成形体の透磁率および飽和磁束密度をより高めることができる。
【0143】
また、実施形態に係るアモルファス合金軟磁性粉末が、2質量%のエポキシ樹脂と混合され、50℃で1時間乾燥させて、造粒粉末を得た後、得られた造粒粉末を圧力294.2MPa(3t/cm)で加圧し、得られた圧粉体を、150℃で3時間加熱して、硬化させてなる成形体を得たとき、成形体について最大磁束密度50mTおよび測定周波数900kHzで測定された鉄損は、11000[kW/m]以下であることが好ましい。
【0144】
このような構成によれば、効率の高い磁性素子を製造可能なアモルファス合金軟磁性粉末が得られる。
【0145】
また、実施形態に係るアモルファス合金軟磁性粉末は、振動試料型磁力計を用いて測定される最大磁化をMm[emu/g]とし、真密度をρ[g/cm]とするとき、4π/10000×ρ×Mm=Bsで求められる飽和磁束密度Bs[T]が、1.5T以上2.2T以下であることが好ましい。
【0146】
このような構成によれば、飽和磁束密度が高い磁性素子を製造可能なアモルファス合金軟磁性粉末が得られる。
【0147】
また、実施形態に係る圧粉磁心は、実施形態に係るアモルファス合金軟磁性粉末を含む。これにより、広い周波数域で透磁率が高い圧粉磁心が得られる。
【0148】
また、実施形態に係る磁性素子は、実施形態に係る圧粉磁心を備える。これにより、電子機器の小型化および高出力化に寄与する磁性素子が得られる。
【0149】
また、実施形態に係る電子機器は、実施形態に係る磁性素子を備える。これにより、電子機器の高性能化および小型化を図ることができる。
【0150】
以上、本発明のアモルファス合金軟磁性粉末、圧粉磁心、磁性素子および電子機器について、好適な実施形態に基づいて説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、前記実施形態に任意の構成物が付加されたものであってもよい。
【0151】
また、前記実施形態では、本発明のアモルファス合金軟磁性粉末の用途例として圧粉磁心を挙げて説明したが、用途例はこれに限定されず、例えば磁性流体、磁気遮蔽シート、磁気ヘッド等の磁性デバイスであってもよい。また、圧粉磁心や磁性素子の形状も、図示したものに限定されず、いかなる形状であってもよい。
【実施例0152】
次に、本発明の具体的実施例について説明する。
6.圧粉磁心の製造
6.1.サンプルNo.1
まず、原料を高周波誘導炉で溶融するとともに、回転水流アトマイズ法により粉末化してアモルファス合金軟磁性粉末を得た。粉末製造時の鋳込み温度と融点との差および溶融金属の細流の外径を、それぞれ表3に示す。
【0153】
次に、得られたアモルファス合金軟磁性粉末を、窒素雰囲気下において、360℃で5分間加熱した。
【0154】
次に、公称目開き53μmのJIS試験用ふるいを用いて、アモルファス合金軟磁性粉末の分級を行った。分級後のアモルファス合金軟磁性粉末の合金組成を表1に示す。なお、合金組成の特定には、SPECTRO社製固体発光分光分析装置、モデル:SPECTROLAB、タイプ:LAVMB08Aを用いた。
【0155】
次に、得られたアモルファス合金軟磁性粉末について、平均粒径を測定した。なお、この測定は、レーザー回折方式の粒度分布測定装置である、日機装株式会社製マイクロトラック、HRA9320-X100により行った。また、得られたアモルファス合金軟磁性粉末について、平均円形度、平均アスペクト比、および、結晶化度を測定した。測定結果を表3に示す。
【0156】
次に、得られたアモルファス合金軟磁性粉末と、結合材であるエポキシ樹脂および有機溶媒であるトルエンと、を混合して、混合物を得た。なお、エポキシ樹脂の添加量は、アモルファス合金軟磁性粉末100質量部に対して2質量部とした。
【0157】
次に、得られた混合物を撹拌したのち、大気雰囲気下、50℃で1時間乾燥させ、塊状の乾燥体を得た。次いで、この乾燥体を、目開き400μmのふるいにかけ、乾燥体を粉砕して、造粒粉末を得た。
【0158】
次に、得られた造粒粉末を、成形型に充填し、下記の成形条件に基づいて圧粉体を得た。
【0159】
・成形方法 :プレス成形
・成形体の形状:リング状
・成形体の寸法:外径14mm、内径8mm、厚さ3mm
・成形圧力 :3t/cm(294.2MPa)
【0160】
次に、圧粉体を、大気雰囲気下、150℃で3時間加熱して、結合材を硬化させた。これにより、成形体(圧粉磁心)を得た。
【0161】
6.2.サンプルNo.2~17
アモルファス合金軟磁性粉末として表1に示すものをそれぞれ用いるようにした以外は、サンプルNo.1と同様にして成形体を得た。また、粉末の製造条件および各種特性を表3に示す。
【0162】
6.3.サンプルNo.18~30
アモルファス合金軟磁性粉末として表2に示すものをそれぞれ用いるようにした以外は、サンプルNo.1と同様にして成形体を得た。また、粉末の製造条件および各種特性を表4に示す。
【0163】
6.4.サンプルNo.31
回転水流アトマイズ法に代えて水アトマイズ法を用いるようにした以外は、サンプルNo.1と同様にしてアモルファス合金軟磁性粉末を製造するとともに、成形体を得た。なお、水アトマイズ法による冷却速度は、表2に示すとおりである。また、粉末の製造条件および各種特性を表4に示す。
【0164】
6.5.サンプルNo.32
アモルファス合金軟磁性粉末として表2に示すものを用いるようにした以外は、サンプルNo.31と同様にして成形体を得た。また、粉末の製造条件および各種特性を表4に示す。
【0165】
【表1】
【0166】
【表2】
【0167】
【表3】
【0168】
【表4】
【0169】
なお、表1ないし表4においては、各サンプルNo.のアモルファス合金軟磁性粉末のうち、本発明に相当するものについては「実施例」、本発明に相当しないものについては「比較例」と示した。
【0170】
7.アモルファス合金軟磁性粉末および成形体の評価
7.1.粉末特性
製造したアモルファス合金軟磁性粉末について、見かけ密度ADおよびタップ密度TDを測定した。また、見かけ密度ADを100としたときのタップ密度TDの相対値、すなわち見かけ密度に対するタップ密度の比を算出した。測定結果および算出結果を表5および表6に示す。
【0171】
7.2.透磁率
各実施例および各比較例のアモルファス合金軟磁性粉末について、測定周波数100kHzおよび100MHzにおける各透磁率を測定した。また、周波数の上昇に伴う透磁率の減少率Dを算出した。測定結果および算出結果を表5および表6に示す。
【0172】
7.3.保磁力
各実施例および各比較例のアモルファス合金軟磁性粉末について、保磁力を測定した。測定結果を表5および表6に示す。
【0173】
7.4.飽和磁束密度
各実施例および各比較例で得られた成形体について、最大磁化を測定後、その測定結果に基づいて飽和磁束密度を算出した。算出結果を表5および表6に示す。
【0174】
7.5.相対密度
各実施例および各比較例で得られた成形体について、密度を測定し、相対密度を算出した。算出結果を表5および表6に示す。
【0175】
7.6.鉄損
各実施例および各比較例で得られた成形体について、鉄損を測定した。測定結果を表5および表6に示す。
【0176】
【表5】
【0177】
【表6】
【0178】
表5および表6から明らかなように、各実施例のアモルファス合金軟磁性粉末は、平均粒径が最適化されていて圧粉時の充填性が高い。また、平均円形度および平均アスペクト比の双方が良好である。このため、各実施例のアモルファス合金軟磁性粉末は、成形体になったとき、アモルファス合金の占有率が高く、透磁率を高められる。また、各実施例のアモルファス合金軟磁性粉末は、測定周波数が100kHzおよび100MHzの双方で透磁率が高い。このため、各実施例のアモルファス合金軟磁性粉末は、広い周波数域において透磁率が高い成形体を製造可能であることがわかった。
【0179】
図7は、サンプルNo.3およびサンプルNo.17のアモルファス合金軟磁性粉末について測定された透磁率の周波数依存性を示すグラフである。
【0180】
図7に示すように、比較例であるサンプルNo.17のアモルファス合金軟磁性粉末について測定された透磁率は、測定周波数が100kHzから100000kHz(100MHz)まで変化する間で、比較的大きく減少している。これに対し、実施例であるサンプルNo.3のアモルファス合金軟磁性粉末について測定された透磁率は、減少率が相対的に少なく抑えられていることがわかる。
【符号の説明】
【0181】
1…冷却用筒体、2…蓋体、3…開口部、4…冷却液噴出管、5…吐出口、7…ポンプ、8…タンク、9…冷却液層、10…コイル部品、11…圧粉磁心、12…導線、13…冷却液回収カバー、14…排液口、15…坩堝、17…液切り用網体、18…粉末回収容器、20…コイル部品、21…圧粉磁心、22…導線、23…空間部、24…ジェットノズル、25…溶融金属、26…ガスジェット、27…ガス供給管、30…粉末製造装置、100…表示部、1000…磁性素子、1100…パーソナルコンピューター、1102…キーボード、1104…本体部、1106…表示ユニット、1200…スマートフォン、1202…操作ボタン、1204…受話口、1206…送話口、1300…ディジタルスチルカメラ、1302…ケース、1304…受光ユニット、1306…シャッターボタン、1308…メモリー
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7