(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024117952
(43)【公開日】2024-08-30
(54)【発明の名称】液体噴射ヘッドの洗浄方法
(51)【国際特許分類】
B41J 2/165 20060101AFI20240823BHJP
B41J 2/18 20060101ALI20240823BHJP
【FI】
B41J2/165 203
B41J2/165 205
B41J2/18
B41J2/165 401
B41J2/165 501
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023024068
(22)【出願日】2023-02-20
(71)【出願人】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100179475
【弁理士】
【氏名又は名称】仲井 智至
(74)【代理人】
【識別番号】100216253
【弁理士】
【氏名又は名称】松岡 宏紀
(74)【代理人】
【識別番号】100225901
【弁理士】
【氏名又は名称】今村 真之
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 優
(72)【発明者】
【氏名】奥井 宏明
(72)【発明者】
【氏名】谷内 章紀
【テーマコード(参考)】
2C056
【Fターム(参考)】
2C056EA14
2C056EA16
2C056EB34
2C056EB38
2C056EB52
2C056EC53
2C056JB15
2C056JC13
2C056KA01
2C056KB16
2C056KB35
2C056KC02
(57)【要約】
【課題】簡単な構成で、ノズル内に固着した固化インクを除去することができる液体噴射ヘッドの洗浄方法を提供する。
【解決手段】液体噴射内に洗浄液を充填する充填工程と、充填工程によって洗浄液が液体噴射ヘッド内に充填された状態で第1期間、液体噴射ヘッドを放置する第1放置工程と、複数のノズルのうち閾値以上の一部のノズル(回復ノズル21A)が回復したかどうかを判断する第1判断工程と、第1判断工程で閾値以上の回復ノズル21Aがある場合、液体噴射ヘッドへ洗浄液を加圧供給することで、噴射面23を介して未回復ノズル21Bへ供給する加圧工程と、を備える。
【選択図】
図13
【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を噴射するための複数のノズルを有する噴射面を備える液体噴射ヘッドの洗浄方法であって、
前記液体噴射ヘッド内に洗浄液を充填する充填工程と、
前記充填工程によって洗浄液が前記液体噴射ヘッド内に充填された状態で第1期間、前記液体噴射ヘッドを放置する第1放置工程と、
前記複数のノズルのうち閾値以上の一部のノズルが回復したかどうかを判断する第1判断工程と、
前記第1判断工程で前記複数のノズルのうち閾値以上の一部のノズルが回復した場合、前記液体噴射ヘッドへ洗浄液を加圧供給することで、前記噴射面を介して前記複数のノズルの一部から排出された洗浄液を前記複数のノズルの残部へ供給する加圧工程と、
を備える
ことを特徴とする液体噴射ヘッドの洗浄方法。
【請求項2】
前記第1判断工程で前記複数のノズルのうち閾値以上の一部のノズルが回復した場合、前記加圧工程の後に、前記第1期間よりも短い第2期間の間、前記液体噴射ヘッドを放置する第2放置工程を備える、
ことを特徴とする請求項1に記載の液体噴射ヘッドの洗浄方法。
【請求項3】
前記第2放置工程の後、前記複数のノズルのうち一部のノズルから前記噴射面上に洗浄液が滲み出る程度に前記液体噴射ヘッドへ洗浄液を加圧供給する前記加圧工程を行い、
前記加圧工程後、再度、前記第2放置工程を行う、
ことを特徴とする請求項2に記載の液体噴射ヘッドの洗浄方法。
【請求項4】
前記第1判断工程で前記複数のノズルのうち閾値以上の一部のノズルが回復していない場合、再度、前記液体噴射ヘッド内の洗浄液を新しい洗浄液に置換する再充填工程を備える、
ことを特徴とする請求項1から請求項3の何れか一項に記載の液体噴射ヘッドの洗浄方法。
【請求項5】
前記再充填工程の後、前記第1期間よりも短い第3期間、前記液体噴射ヘッドを放置する第3放置工程を備える、
ことを特徴とする請求項4に記載の液体噴射ヘッドの洗浄方法。
【請求項6】
前記複数のノズルのそれぞれに連通する複数の個別流路と、前記複数の個別流路に液体を供給するための供給流路と、前記複数の個別流路から液体を回収するための回収流路と、を備える液体噴射ヘッドの洗浄方法であって、
前記充填工程は、洗浄液を前記供給流路、前記複数の個別流路、前記回収流路の順に流動させることで、前記液体噴射ヘッド内に充填されていた洗浄液とは異なる液体を洗浄液に置換する、
ことを特徴とする請求項1に記載の液体噴射ヘッドの洗浄方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体を噴射する液体噴射ヘッドの洗浄方法に関し、特に液体としてインクを噴射するインクジェット式記録ヘッドの洗浄方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液体噴射ヘッドの一例であるインクジェット式記録ヘッドは、例えば、ノズルに連通する圧力発生室が設けられた流路形成基板に、圧力発生室内のインクに圧力変化を生じさせる圧力発生手段を備え、この圧力発生手段の駆動によって圧力発生室を画定する振動板を変形させて圧力室内のインクに圧力変化を生じさせることで、ノズルからインク滴を噴射させる。
【0003】
このような液体噴射ヘッドに対して、洗浄液を含浸させた不織布に液体噴射ヘッドのノズル面を浸した状態で洗浄液に超音波振動を作用させることで、ノズル内に固着した固化インクを除去する方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来技術では、超音波洗浄装置を用意する必要があり、装置構成が複雑化し、高価となる問題がある。そこで、超音波洗浄装置のような特殊な洗浄装置を必要とせずに、ノズル内に固着した固化インクを除去する技術が要望されている。
【0006】
なお、このような問題は、インクを噴射するインクジェット式記録ヘッドの洗浄方法に限定されず、インク以外の液体を噴射する液体噴射ヘッドにおいても同様である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決する本発明の態様は、液体を噴射するための複数のノズルを有する噴射面を備える液体噴射ヘッドの洗浄方法であって、前記液体噴射ヘッド内に洗浄液を充填する充填工程と、前記充填工程によって洗浄液が前記液体噴射ヘッド内に充填された状態で第1期間、前記液体噴射ヘッドを放置する第1放置工程と、前記複数のノズルのうち閾値以上の一部のノズルが回復したかどうかを判断する第1判断工程と、前記第1判断工程で前記複数のノズルのうち閾値以上の一部のノズルが回復した場合、前記液体噴射ヘッドへ洗浄液を加圧供給することで、前記噴射面を介して前記複数のノズルの一部から排出された洗浄液を前記複数のノズルの残部へ供給する加圧工程と、を備えることを特徴とする液体噴射ヘッドの洗浄方法にある。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】実施形態1に係る液体噴射装置の概略構成を示す図である。
【
図6】ヘッドチップに形成される流路の平面図である。
【
図8】実施形態1の洗浄方法のフローチャートである。
【
図9】実施形態1の洗浄方法のフローチャートである。
【
図10】洗浄液を充填する充填工程における記録装置の図である。
【
図11】洗浄液からインクに置換する置換工程における記録装置の図である。
【
図12】インクを噴射する噴射工程における記録装置の図である。
【
図13】加圧工程を実行しているときのノズルの要部を拡大した断面図である。
【
図14】変形例1の洗浄方法のフローチャートである。
【
図15】変形例1の洗浄方法のフローチャートである。
【
図16】変形例2の洗浄方法のフローチャートである。
【
図17】変形例2の洗浄方法のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に本発明を実施形態に基づいて詳細に説明する。ただし、以下の説明は、本発明の一態様を示すものであって、本発明の範囲内で任意に変更可能である。
【0010】
各図においてX、Y、Zは、互いに直交する3つの空間軸を表している。正方向及び負方向を限定せず、それら3つの軸に沿った方向をX方向、Y方向、及びZ方向とする。各図の矢印が向かう方向をX1方向、Y1方向、Z1方向、矢印の反対方向をX2方向、Y2方向、Z2方向とする。Z1方向は鉛直方向の下向きであり、Z2方向は鉛直方向の上向きである。なお、Z方向は鉛直方向である必要はない。さらに、X軸、Y軸、Z軸は互いに直交するがこれに限定されず、例えば、80度以上100度以下の範囲内の角度で交差していてもよい。
【0011】
〈実施形態1〉
図1に示すインクジェット式記録装置(以下、単に「記録装置」と称する)1は、「液体噴射装置」の一例であり、「液体」の一種であるインクをインク滴として印刷用紙等の媒体Sに噴射・着弾させて、当該媒体Sに形成されるドットの配列により画像等の印刷を行う印刷装置である。なお、媒体Sとしては、記録用紙の他、樹脂フィルムや布等の任意の材質を用いることができる。
【0012】
記録装置1は、インクジェット式ヘッド2(以下、単に「ヘッド2」とも称する)と、制御部3と、媒体Sを送り出す搬送機構4と、ヘッド2を移動させる移動機構6と、液体循環装置500と、を具備する。インクジェット式ヘッド2は、「液体噴射ヘッド」の一例である。
【0013】
ヘッド2は、液体循環装置500から供給されるインクを複数のノズル21(
図5参照)から媒体Sに噴射する。ヘッド2の詳細な構成は後述する。制御部3は、例えば、CPU(Central Processing Unit)またはFPGA(Field Programmable Gate Array)等の制御装置と、半導体メモリー等の記憶装置と、を備えている。制御部3は、記憶装置に記憶されたプログラムを制御装置が実行することで記録装置1の各要素、すなわち、ヘッド2、搬送機構4等を統括的に制御する。
【0014】
搬送機構4は、媒体SをX方向に搬送するものであり、搬送ローラー5を有する。すなわち搬送機構4は、搬送ローラー5が回転することで媒体SをX軸方向に搬送する。なお媒体Sを搬送する搬送機構4は、搬送ローラー5を備えるものに限られず、例えば、ベルトやドラムによって媒体Sを搬送するものであってもよい。
【0015】
移動機構6は、搬送体6aと搬送ベルト6bとを具備する。搬送体6aは、液体噴射ヘッド2を収容する略箱形の構造体、所謂、キャリッジであり、搬送ベルト6bに固定される。搬送ベルト6bは、Y軸方向に沿って架設された無端ベルトである。搬送ベルト6bは、図示しない搬送モーターの駆動によって回転する。制御部3は、搬送モーターの駆動を制御することで搬送ベルト6bを回転させて、液体噴射ヘッド2を搬送体6aと共にY軸方向に図示しないガイドレールに沿って往復移動する。
【0016】
図2に液体循環装置500の構成を例示する。液体循環装置500は、ヘッド2への液体の供給、及びヘッド2からの液体の回収を行う装置であり、液体としてはインクIL及び洗浄液Wである。インクILは、ヘッド2が噴射可能なものであればよく、特に種類は限定されない。洗浄液Wは、例えばインクILの溶媒、つまり、色材を含まないものや、純水、水溶性アルコールなどの水溶性溶剤、水酸化カリウム等を用いることができ、必要に応じて界面活性剤や消泡剤を添加させたものであってもよい。
【0017】
液体循環装置500は、ヘッド2へのインクILの供給及び回収を行う構成として、メインタンク510と、供給側サブタンク511と、回収側サブタンク512と、第1供給ポンプ514と、戻しポンプ515と、供給チューブ501、回収チューブ502と、インク供給チューブ503と、インク回収チューブ505と、第1三方弁531と、第2三方弁532と、を備えている。
【0018】
メインタンク510はヘッド2から噴射されるインクILを貯留する。メインタンク510としては、例えば、記録装置1に着脱可能なカートリッジ、可撓性のフィルムで形成された袋状のインクパック、インクILを補充可能なインクタンクなどが挙げられる。
【0019】
第1供給ポンプ514は、メインタンク510に貯留されたインクILを供給側サブタンク511に供給するポンプである。第1供給ポンプ514と供給側サブタンク511との間には、第1逆止弁513が設けられている。第1逆止弁513は、メインタンク510から供給側サブタンク511へインクILが一方的に流通し、逆流しないように設けられている。戻しポンプ515は、供給側サブタンク511に貯留されたインクILをヘッド2に供給するためのポンプである。
【0020】
供給側サブタンク511は、メインタンク510から供給されるインクILを一時的に貯留する容器である。また、供給側サブタンク511は、回収側サブタンク512から戻しポンプ515によって供給されるインクILも貯留する。供給側サブタンク511は、インク供給チューブ503、第1三方弁531及び供給チューブ501を介してヘッド2に接続されている。インク供給チューブ503、第1三方弁531及び供給チューブ501は、この順で接続されており、供給側サブタンク511からヘッド2へ供給されるインクILの流路を構成している。
【0021】
供給側サブタンク511には、第1電磁弁541が設けられている。第1電磁弁541は、供給側サブタンク511の内部と外部とを連通させ、または遮断する。第1電磁弁541が開状態となることで供給側サブタンク511のインクILを貯留している部分が大気開放される。
【0022】
供給側サブタンク511には、第1コンプレッサー551が第1レギュレーター571を介して接続されている。第1コンプレッサー551は圧縮空気を生成する公知の装置であり、第1レギュレーター571はその圧縮空気を任意の圧力に調整する公知の装置である。本実施形態では第1コンプレッサー551及び第1レギュレーター571は圧縮空気を所望の圧力に調整して供給側サブタンク511に供給するように構成されている。
【0023】
供給側サブタンク511には、第1圧力センサー581及び第1液面センサー591が設けられている。第1圧力センサー581は、供給側サブタンク511のインクILに掛かる圧力を測定する公知の装置である。第1液面センサー591は、供給側サブタンク511に貯留されているインクILの液面を検出する公知の装置である。
【0024】
回収側サブタンク512は、ヘッド2から回収したインクILを一時的に貯留する容器である。回収側サブタンク512は、回収チューブ502、第2三方弁532及びインク回収チューブ505を介してヘッド2に接続されている。回収チューブ502、第2三方弁532及びインク回収チューブ505、この順で接続されており、ヘッド2から回収側サブタンク512へ回収されるインクILの流路を構成している。また、回収側サブタンク512は、貯留したインクILを戻しポンプ515によって供給側サブタンク511へ供給する。
【0025】
回収側サブタンク512には、第2電磁弁542が設けられている。第2電磁弁542は、回収側サブタンク512の内部と外部とを連通させる、または遮断する。第2電磁弁542が開状態となることで回収側サブタンク512のインクILを貯留している部分が大気開放される。
【0026】
回収側サブタンク512には、第1真空ポンプ561が第2レギュレーター572を介して接続されている。第1真空ポンプ561は真空または負圧を発生させる公知の装置であり、第2レギュレーター572は第1真空ポンプ561で発生させた負圧を任意の圧力に調整する公知の装置である。本実施形態では第1真空ポンプ561及び第2レギュレーター572は回収側サブタンク512内を任意の負圧にすることが可能となるように構成されている。
【0027】
回収側サブタンク512には、第2圧力センサー582及び第2液面センサー592が設けられている。第2圧力センサー582は、回収側サブタンク512のインクILに掛かる圧力を測定する公知の装置である。第2液面センサー592は、回収側サブタンク512に貯留されているインクILの液面を検出する公知の装置である。
【0028】
液体循環装置500は、ヘッド2への洗浄液Wの供給及び回収を行う構成として、洗浄液メインタンク520と、洗浄液サブタンク521と、廃液タンク522と、第2供給ポンプ524と、洗浄液供給チューブ504と、廃液回収チューブ506と、第1三方弁531と、第2三方弁532と、を備えている。
【0029】
洗浄液メインタンク520は、ヘッド2の流路を洗浄するための洗浄液Wを貯留する。洗浄液メインタンク520としては、例えば、洗浄液Wを貯留したタンク、洗浄液Wを補充可能なタンクなどが挙げられる。
【0030】
第2供給ポンプ524は、洗浄液メインタンク520に貯留された洗浄液Wを洗浄液サブタンク521に供給するポンプである。第2供給ポンプ524と洗浄液サブタンク521との間には、第2逆止弁523が設けられている。第2逆止弁523は、洗浄液メインタンク520から洗浄液サブタンク521へ洗浄液Wが一方的に流通し、逆流しないように設けられている。
【0031】
洗浄液サブタンク521は、洗浄液メインタンク520から供給される洗浄液Wを一時的に貯留する容器である。洗浄液サブタンク521は、洗浄液供給チューブ504、第1三方弁531及び供給チューブ501を介してヘッド2に接続されている。洗浄液供給チューブ504、第1三方弁531及び供給チューブ501は、この順で接続されており、洗浄液サブタンク521からヘッド2へ供給される洗浄液Wの流路を構成している。
【0032】
洗浄液サブタンク521には、第3電磁弁543が設けられている。第3電磁弁543は、洗浄液サブタンク521の内部と外部とを連通させ、または遮断する。第3電磁弁543が開状態となることで洗浄液サブタンク521の洗浄液Wを貯留している部分が大気開放される。
【0033】
洗浄液サブタンク521には、第2コンプレッサー552が第3レギュレーター573を介して接続されている。第2コンプレッサー552は圧縮空気を生成する公知の装置であり、第3レギュレーター573はその圧縮空気を任意の圧力に調整する公知の装置である。本実施形態では第2コンプレッサー552及び第3レギュレーター573は圧縮空気を所望の圧力に調整して洗浄液サブタンク521に供給するように構成されている。
【0034】
洗浄液サブタンク521には、第3圧力センサー583及び第3液面センサー593が設けられている。第3圧力センサー583は、洗浄液サブタンク521の洗浄液Wに掛かる圧力を測定する公知の装置である。第3液面センサー593は、洗浄液サブタンク521に貯留されている洗浄液Wの液面を検出する公知の装置である。
【0035】
廃液タンク522は、ヘッド2から回収した廃液を一時的に貯留する容器である。廃液とは、ヘッド2から廃液タンク522へ排出されたインクIL、ヘッド2から排出された洗浄液W、またはヘッド2から排出されたインクILを含む洗浄液Wをいう。廃液タンク522は、回収チューブ502、第2三方弁532及び廃液回収チューブ506を介してヘッド2に接続されている。回収チューブ502、第2三方弁532及び廃液回収チューブ506、この順で接続されており、ヘッド2から廃液タンク522へ回収される廃液の流路を構成している。
【0036】
廃液タンク522には、第4電磁弁544が設けられている。第4電磁弁544は、廃液タンク522の内部と外部とを連通させ、または遮断する。第4電磁弁544が開状態となることで廃液タンク522の廃液を貯留している部分が大気開放される。
【0037】
廃液タンク522には、第2真空ポンプ562が第4レギュレーター574を介して接続されている。第2真空ポンプ562は真空または負圧を発生させる公知の装置であり、第4レギュレーター574は第2真空ポンプ562で発生させた負圧を任意の圧力に調整する公知の装置である。本実施形態では第2真空ポンプ562及び第4レギュレーター574は廃液タンク522内を任意の負圧にすることが可能となるように構成されている。
【0038】
廃液タンク522には、第4圧力センサー584及び第4液面センサー594が設けられている。第4圧力センサー584は、廃液タンク522の廃液に掛かる圧力を測定する公知の装置である。第4液面センサー594は、廃液タンク522に貯留されている廃液の液面を検出する公知の装置である。
【0039】
供給チューブ501には、供給チューブ501の流路を開閉することが可能な第1開閉部材507が設けられている。回収チューブ502には、回収チューブ502の流路を開閉することが可能な第2開閉部材508が設けられている。第1開閉部材507及び第2開閉部材508は、ヘッド2へ液体が流入することを阻止し、ヘッド2から液体が流出することを阻止する機能を有する。第1開閉部材507及び第2開閉部材508は、公知の弁装置であってもよいし、供給チューブ501及び回収チューブ502が可撓性のある部材であれば、それらを変形させて流路を閉塞させるクリップ等の部材であってもよい。
【0040】
第1電磁弁541、第2電磁弁542、第3電磁弁543、及び第4電磁弁544は、制御部3により開閉を制御することが可能となっている。第1コンプレッサー551、第2コンプレッサー552、第1真空ポンプ561、及び第2真空ポンプ562は、制御部3により運転、停止及び回転数などを制御することが可能となっている。第1供給ポンプ514、第2供給ポンプ524、及び戻しポンプ515は、制御部3により運転、停止及び液体の移送量を制御することが可能となっている。第1開閉部材507及び第2開閉部材508は、制御部3により開閉を制御することが可能となっている。
【0041】
第1三方弁531及び第2三方弁532は、制御部3により流路の切替を制御することが可能となっている。具体的には、第1三方弁531は、供給チューブ501がインク供給チューブ503又は洗浄液供給チューブ504の何れか一方に接続するように制御部3により切り替えられる。第2三方弁532は、回収チューブ502がインク回収チューブ505又は廃液回収チューブ506の何れか一方に接続するように制御部3により切り替えられる。
【0042】
また、第1圧力センサー581、第2圧力センサー582、第3圧力センサー583、及び第4圧力センサー584は、検出した圧力値が制御部3により参照することが可能となっている。第1液面センサー591、第2液面センサー592、第3液面センサー593、及び第4液面センサー594は、検出した液面の位置が制御部3により参照することが可能となっている。
【0043】
後述するようにヘッド2は、一個のヘッドチップ100Aと一個のヘッドチップ100Bを備えている。これらをまとめてヘッドチップ100とも称する。また、ヘッドチップ100AにインクIL及び洗浄液Wを供給する供給チューブ501を供給チューブ501Aとも称する。ヘッドチップ100BにインクIL及び洗浄液Wを供給する供給チューブ501を供給チューブ501Bとも称する。ヘッドチップ100AからインクIL及び洗浄液Wを回収する回収チューブ502を回収チューブ502Aとも称する。ヘッドチップ100BからインクIL及び洗浄液Wを回収する回収チューブ502を回収チューブ502Bとも称する。
【0044】
上述した構成の液体循環装置500は、メインタンク510、洗浄液メインタンク520、廃液タンク522については、2個のヘッドチップ100に共通して1個であり、その他の構成は個々のヘッドチップ100ごとに設けられている。つまり、一個のメインタンク510から2個のヘッドチップ100のそれぞれに対応した2個の供給側サブタンク511にインクILを供給するように構成されている。同様に、一個の洗浄液メインタンク520から2個のヘッドチップ100のそれぞれに対応した2個の洗浄液サブタンク521に洗浄液Wを供給するように構成されている。また、二個のヘッド2から2個のヘッドチップ100のそれぞれに対応した2個の回収側サブタンク512にインクILが回収されるように構成されている。2個のヘッド2から一個の廃液タンク522に廃液を回収するように構成されている。
【0045】
ヘッドチップ100が2個よりも多い個数である場合であっても同様に、メインタンク510、洗浄液メインタンク520、廃液タンク522を共通とし、その他の構成をヘッドチップ100ごとに設ければよい。もちろん、ヘッドチップ100と液体循環装置500を構成する各装置との対応はこのような例に限定されない。例えば、メインタンク510、洗浄液メインタンク520、廃液タンク522は、ヘッドチップ100ごとに設けられていてもよい。また、複数のメインタンク510を備える場合、色や成分等が異なるインクILの種類に応じて複数のメインタンク510を備える液体循環装置500を構成してもよい。
【0046】
ヘッド2は、制御部3による制御のもとで、メインタンク510から供給されたインクILを複数のノズル21のそれぞれからインク滴としてZ1方向に媒体Sに噴射する噴射動作を実行する。このヘッド2による噴射動作が搬送機構4による媒体Sの搬送、及び移動機構6によるヘッド2の往復移動と並行して行われることにより、媒体Sの表面にインクILによる画像が形成される、いわゆる印刷が行われる。また、ヘッド2は、制御部3による制御のもとで、洗浄液メインタンク520から供給された洗浄液Wによりノズル21の詰まりが除去される。このような洗浄についての具体的な動作は後述する。
【0047】
図3から
図4を用いてヘッド2を説明する。
図3はヘッドの分解斜視図であり、
図4はヘッドの断面図である。なお、以下にヘッド2の流路には液体が流通することについて説明するが、液体とはインクIL、洗浄液W、及びインクILを含んだ洗浄液Wのうちの何れか一つをいう。
【0048】
図示するように、ヘッド2は、ヘッドチップ100と、流路部材200と、中継基板300と、固定板400と、を備えている。本実施形態では、ヘッド2は2個のヘッドチップ100A及びヘッドチップ100Bを備えている。ヘッドチップ100A及びヘッドチップ100Bの構成は同じである。なお、ヘッドチップ100の個数は2個に限定されない。
【0049】
流路部材200は、第1流路部材210と、第2流路部材220と、第3流路部材230と、シール部材240と、を備えている。
【0050】
第1流路部材210は、液体の流路を備えた部材であり、Z2方向を向く面に、Z2方向に向けて突出した筒状の接続部215を有する。また、第1流路部材210は、第1導入路211A、第1導入路211B、第1導出路212A、及び第1導出路212Bを備えている。本実施形態では、第1導入路211A、第1導入路211B、第1導出路212A、及び第1導出路212Bのそれぞれに対応して計4個の接続部215が設けられている。
【0051】
第1導入路211A、第1導入路211B、第1導出路212A、及び第1導出路212BのZ2方向側のそれぞれの開口は、接続部215の先端に形成されている。供給チューブ501A(
図2参照)は接続部215に接続されて第1導入路211Aに連通し、供給チューブ501B(
図2参照)は接続部215に接続されて第1導入路211Bに連通する。回収チューブ502Aは接続部215に接続されて第1導出路212Aに連通し、回収チューブ502Bは接続部215に接続されて第1導出路212Bに連通する。
【0052】
第2流路部材220は、2つのヘッドチップ100を保持し、液体の流路を備えた部材である。具体的には、第2流路部材220は、Z1方向側にヘッドチップ100を収容可能な収容部223が設けられている。収容部223は、Z1方向側に向けて突出して、ヘッドチップ100を囲うように形成された壁部228により形成されている。本実施形態では2個のヘッドチップ100に共通して一つの収容部223が形成されているが、ヘッドチップ100ごとに収容部223を形成してもよい。
【0053】
第2流路部材220は、第2導入路221A、第2導入路221B、第2導出路222A、及び第2導出路222Bを備えている。第2導入路221A、第2導入路221B、第2導出路222A、及び第2導出路222BのZ2方向側のそれぞれの開口は、第2流路部材220のZ2方向を向く面に形成された収容凹部225の底部に開口し、後述する第3導入路231A、第3導入路231B、第3導出路232A、及び第3導出路232Bにそれぞれ連通している。第2導入路221A、第2導入路221B、第2導出路222A、及び第2導出路222BのZ1方向側のそれぞれの開口は、収容部223内に開口し、後述するヘッドチップ100の第5導入路53A、第5導入路53B、第5導出路54A、及び第5導出路54Bにそれぞれ連通している。
【0054】
また、第1流路部材210のZ1方向側には第1凹部214が形成されており、第2流路部材220のZ2方向側には第2凹部224が形成されており、第1流路部材210と第2流路部材220とが接合されることで、第1凹部214及び第2凹部224からなる基板収容部201が形成されている。基板収容部201は、第3流路部材230及び中継基板300が収容される大きさの空間である。
【0055】
第3流路部材230は、液体の流路を備えた部材であり、Z1方向を向く面に、Z1方向に向けて突出した筒状の接続部233を有する。また、第3流路部材230は、第3導入路231A、第3導入路231B、第3導出路232A、及び第3導出路232Bを備えている。本実施形態では第3導入路231A、第3導入路231B、第3導出路232A、及び第3導出路232Bのそれぞれに対応して計4個の接続部233が設けられている。
【0056】
第3導入路231A、第3導入路231B、第3導出路232A、及び第3導出路232BのZ2方向側のそれぞれの開口は、接続部233の先端に形成されている。また、第3導入路231A、第3導入路231B、第3導出路232A、及び第3導出路232BのZ1方向側のそれぞれの開口は、第3流路部材230のZ1方向を向く面に形成されている。
【0057】
第3流路部材230は、第2流路部材220の収容凹部225に嵌め込まれる形状を有している。第3流路部材230が収容凹部225に嵌め込まれて第2流路部材220に固定されている。そして、第3導入路231A、第3導入路231B、第3導出路232A、及び第3導出路232BのZ1方向側のそれぞれの開口は、第2導入路221A、第2導入路221B、第2導出路222A、及び第2導出路222Bにそれぞれ連通している。第3導入路231A、第3導入路231B、第3導出路232A、及び第3導出路232BのZ2方向側のそれぞれの開口は、後述する第4導入路241A、第4導入路241B、第4導出路242A、及び第4導出路242Bにそれぞれ連通している。
【0058】
シール部材240は、液体の流路を備えた部材であり、Z1方向を向く面に、Z1方向に向けて突出した筒状の接続部245を有する。また、シール部材240は、第4導入路241A、第4導入路241B、第4導出路242A、及び第4導出路242Bを備えている。本実施形態では、第4導入路241A、第4導入路241B、第4導出路242A、及び第4導出路242Bのそれぞれに対応して計4個の接続部245が設けられている。
【0059】
第4導入路241A、第4導入路241B、第4導出路242A、及び第4導出路242BのZ1方向側のそれぞれの開口は、接続部245の先端に形成されている。また、第4導入路241A、第4導入路241B、第4導出路242A、及び第4導出路242BのZ2方向側のそれぞれの開口は、シール部材240のZ2方向を向く面に形成されている。
【0060】
シール部材240は、第1流路部材210と第3流路部材230とに挟み込まれており、第1流路部材210と第3流路部材230の流路同士を接続している。具体的には、第4導入路241A、第4導入路241B、第4導出路242A、及び第4導出路242BのZ1方向側のそれぞれの開口は、第3導入路231A、第3導入路231B、第3導出路232A、及び第3導出路232Bにそれぞれ連通している。第4導入路241A、第4導入路241B、第4導出路242A、及び第4導出路242BのZ2方向側のそれぞれの開口は、第1導入路211A、第1導入路211B、第1導出路212A、及び第1導出路212Bにそれぞれ連通している。
【0061】
シール部材240は、液体に対して耐液体性を有し、且つ弾性変形可能な弾性材料で形成されている。このようなシール部材240を設けることで、第1導入路211Aから第4導入路241Aに液体が漏れずに供給される。同様に、第1導入路211Bから第4導入路241Bに液体が漏れずに供給される。また、第4導出路242Aから第1導出路212Aに液体が漏れずに回収される。同様に、第4導出路242Bから第1導出路212Bに液体が漏れずに回収される。
【0062】
中継基板300は、ヘッドチップ100の配線基板140と、制御部3とを電気的に中継する回路や電子部品を備えた基板である。また、中継基板300には、第3流路部材230の接続部233が挿通する貫通孔である挿通孔302が設けられている。本実施形態では、挿通孔302は、各接続部233に対応して計4個設けられている。
【0063】
また、中継基板300はZ方向に貫通した第1配線挿通孔301が形成されており、第2流路部材220はZ方向に貫通した第2配線挿通孔226が形成されており、第3流路部材230はZ方向に貫通した第3配線挿通孔234が形成されている。第1配線挿通孔301、第2配線挿通孔226、及び第3配線挿通孔234は、いずれもヘッドチップ100の配線基板140が挿通することが可能な形状である。本実施形態では、2個のヘッドチップ100のそれぞれの配線基板140に対応して第1配線挿通孔301、第2配線挿通孔226、第3配線挿通孔234がそれぞれ2個ずつ設けられている。
【0064】
中継基板300は、Z1側に配線基板140が接続される端子部310が設けられている。本実施形態では、第1配線挿通孔301の開口縁部に設けられている。配線基板140は、第1配線挿通孔301にZ2方向へ挿通され、先端部が折り曲げられて端子部310に電気的に接続されている。また、中継基板300のY1方向側にコネクタ320が設けられている。コネクタ320は、第2流路部材220のY1側に設けられた基板収容部201と外部とを連通するコネクタ挿入口227に対向している。コネクタ320は、図示しない配線が接続され、当該配線を介して制御部3に電気的に接続される。すなわち、制御部3から印刷するための各種の信号や電源からの電力が当該配線及びコネクタ320を介して中継基板300の回路に接続される。
【0065】
中継基板300は、第2流路部材220の収容凹部225に固定された第3流路部材230の接続部233が第1配線挿通孔301を挿通した状態で第2流路部材220のZ2方向側に載置されている。そして、中継基板300のZ2方向側にシール部材240が配置されており、シール部材240の接続部245と第3流路部材230の接続部233とが接続されている。第1流路部材210及び第2流路部材220は、これらの中継基板300及びシール部材240を挟持し、互いに接合されている。第1流路部材210及び第2流路部材220は図示しないネジなどの固定手段により固定されることで、基板収容部201に中継基板300を収容した流路部材200が構成されている。
【0066】
このように各部材が接合されることにより、第1導入路211A、第4導入路241A、第3導入路231A、第2導入路221A、第5導入路53Aの順で連通した供給流路83Aが形成されている。同様に、第1導入路211B、第4導入路241B、第3導入路231B、第2導入路221B、第5導入路53Bの順で連通した供給流路83Bが形成されている。第1導出路212A、第4導出路242A、第3導出路232A、第2導出路222A、第5導出路54Aの順で連通した回収流路84Aが形成されている。第1導出路212B、第4導出路242B、第3導出路232B、第2導出路222B、第5導出路54Bの順で連通した回収流路84Bが形成されている。
【0067】
供給流路83Aは、供給チューブ501Aからヘッドチップ100Aの供給側共通液室81に供給される液体の流路である。供給流路83Bは、供給チューブ501Bからヘッドチップ100Bの供給側共通液室81に供給される液体の流路である。回収流路84Aは、ヘッドチップ100Aの回収側共通液室82から回収チューブ502Aに回収される液体の流路である。回収流路84Bは、ヘッドチップ100Bの回収側共通液室82から回収チューブ502Bに回収される液体の流路である。
【0068】
供給流路83A及び供給流路83Bに共通した説明をする場合は供給流路83と記載し、それぞれの特有の説明をする場合は供給流路83A及び供給流路83Bと記載する。回収流路84A及び回収流路84Bに共通した説明をする場合は回収流路84と記載し、それぞれの特有の説明をする場合は回収流路84A及び回収流路84Bと記載する。
【0069】
このように中継基板300を収容し、供給流路83及び回収流路84を備えた流路部材200は、Z1方向側に固定板400が設けられている。固定板400は、本実施形態では、収容部223のZ1方向側の開口を覆う大きさを有する。また、固定板400には、ノズル21を露出する露出開口401が設けられている。本実施形態では、2個のヘッドチップ100のそれぞれに対応して2個の露出開口401が設けられている。このようにヘッドチップ100ごとに複数の露出開口401を設けてもよいし、複数のヘッドチップ100に共通した露出開口401を設けてもよい。
【0070】
図5はヘッドチップ100の分解斜視図であり、
図6はヘッドチップ100に形成される流路の平面図である。
図7は
図6のA-A線断面図である。なお、ヘッドチップ100A及びヘッドチップ100Bの各構成は同じであるため、
図5乃至
図7では、両者を区別せず、ヘッドチップ100として図示している。
【0071】
ヘッドチップ100は、液体が流通する流路が形成される流路形成基板110と、振動板120と、圧電アクチュエーター130とを具備する。
【0072】
流路形成基板110を構成するノズル基板20には、インクILを噴射する複数のノズル21が形成されている。本実施形態では、ノズル基板20には、複数のノズル21がX1方向に並ぶことで構成されたノズル列22が設けられている。なおノズル基板20は、例えば、エッチング等の半導体製造技術を利用してシリコンの単結晶基板を加工することで製造される。ただし、ノズル基板20の材料や製造方法は特に限定されず、公知の材料及び製法を任意に採用できる。
【0073】
流路形成基板110は、Z方向に積層される複数枚の基板で構成され、内部に液体が流通する流路が形成されている。本実施形態では、流路形成基板110は、Z方向に積層されるノズル基板20、連通板30、圧力室基板40及び液室形成基板50を含んで構成されている。
【0074】
ヘッドチップ100は、複数の個別流路60が設けられている。本実施形態では、
図6に示すように、Z方向に見て個別流路60はY方向に延在しており、複数の個別流路60がX方向に間隔を空けて配置されている。各個別流路60は各ノズル21に連通している。
【0075】
ヘッドチップ100は、複数の個別流路60に接続されることで複数の個別流路60を介して複数のノズル21へ液体を供給するための供給側共通液室81と、複数の個別流路60に接続され、複数の個別流路60を介して複数のノズル21から排出されなかった液体を回収するための回収側共通液室82と、が設けられている。本実施形態では、供給側共通液室81は、X方向に延在しており、個別流路60に対してY1方向に設けられている。回収側共通液室82は、X方向に延在しており、個別流路60に対してY2方向に設けられている。
【0076】
ヘッドチップ100は、供給側共通液室81に連通する第5導入路53と、回収側共通液室82に連通する第5導出路54と、が設けられている。具体的には、
図4に示すように、第5導入路53Aは、第1導入路221Aと連通しており、供給流路83Aの一部を構成している。第5導入路53Bは、第2導入路221Bと連通しており、供給流路83Bの一部を構成している。第5導出路54Aは、第1導出路222Aと連通しており、回収流路84Aの一部を構成している。第5導出路54Bは、第2導出路222Bと連通しており、回収流路84Bの一部を構成している。
【0077】
ヘッドチップ100Aの供給側共通液室81には供給流路83AからインクILが供給され、ヘッドチップ100Bの供給側共通液室81には供給流路83BからインクILが供給される。供給側共通液室81のインクILは、各個別流路60に供給され、各個別流路60に供給されたインクILは各ノズル21から噴射される。各個別流路60に供給されたインクILのうちノズル21から噴射されないものが回収側共通液室82に排出される。そして、ヘッドチップ100Aの回収側共通液室82のインクILは、回収流路84Aを経由して液体循環装置500に回収され、ヘッドチップ100Bの回収側共通液室82のインクILは、回収流路84Bを経由して液体循環装置500に回収される。後述するように、洗浄液Wについても同様にヘッドチップ100に供給され、回収される。ただし、洗浄液Wを媒体Sなどに向けてノズル21から噴射されることはなく、ノズル21からノズル基板20のZ1側の表面を経由して他のノズル21に到達する程度には排出される。
【0078】
ヘッドチップ100は、液体循環装置500から供給された液体が、供給側共通液室81、個別流路60及び回収側共通液室82を介して循環するように構成されている。
【0079】
次に、ヘッドチップ100の流路形成基板110の構成についてより具体的に説明する。圧力室基板40には、各ノズル21に対応する複数の圧力室41及び圧力室42が設けられている。圧力室41及び圧力室42は、圧力室基板40を厚さ方向であるZ方向に貫通して設けられている。本実施形態では、一本の個別流路60は1個の圧力室41と1個の圧力室42とを含んでいる。個別流路60のうちノズル21よりも供給側共通液室81側の一部が圧力室41となっている。個別流路60のうちノズル21よりも回収側共通液室82側の一部が圧力室42となっている。圧力室41及び圧力室42は、Y方向に沿って一列に並設されている。また、複数の圧力室41は、X方向に沿って一列に並設されており、複数の圧力室42は、X方向に沿って一列に並設されている。なお、1つのノズル21に対応して設けられる圧力室の数は1つでもよく、換言すれば、1つのノズル21に対して圧力室41及び圧力室42のうちいずれか一方が設けられている構成であってもよい。
【0080】
圧力室基板40は、例えば、半導体製造技術を利用してシリコンの単結晶基板を加工することで製造される。ただし、圧力室基板40の材料および製造方法は、特に限定されず、任意の材料や製造方法を採用できる。
【0081】
圧力室基板40のZ2方向側には、振動板120及び圧電アクチュエーター130が形成される。圧電アクチュエーター130は、振動板120上の圧力室41及び圧力室42に対応する位置に設けられている。
【0082】
圧電アクチュエーター130は、圧電素子とも呼ばれ、第1電極、圧電体層及び第2電極を含む部分を言う。一般的には、圧電アクチュエーター130の何れか一方の電極を共通電極とし、他方の電極及び圧電体層を圧力室41及び圧力室42毎にパターニングして構成する。本実施形態では、第1電極を圧電アクチュエーターの共通電極とし、第2電極を圧電アクチュエーターの個別電極としているが、駆動回路や配線の都合でこれを逆にしても支障はない。なお圧電アクチュエーター130の第2電極には、リード電極がそれぞれ接続されており、このリード電極を介して各圧電アクチュエーター130に選択的に電圧が印加されるようになっている。
【0083】
振動板120のZ2方向側の面には、配線基板140が実装され、圧電アクチュエーター130と接続されている。この配線基板140には、圧電アクチュエーター130を駆動するための駆動IC等である駆動回路141が実装されている。
【0084】
連通板30には、個別流路60の一端が接続される第1供給流路部31と、第1回収流路部32とが形成されている。
【0085】
第1供給流路部31は、連通板30のY1方向側の端部付近に、X方向に沿って個別流路60に対応する領域に亘って連続的に設けられている。第1供給流路部31は、液室形成基板50に設けられる第2供給流路部57と連通して供給側共通液室81を構成する。
【0086】
第1回収流路部32は、連通板30のY2方向側の端部付近に、X方向に沿って個別流路60に対応する領域に亘って連続的に設けられている。第1回収流路部32は、液室形成基板50に設けられる第2回収流路部58と連通して回収側共通液室82を構成する。
【0087】
連通板30には、個別流路60を構成する流路として、第1連通流路33A、第1連通流路33B、第1連通流路33Cと、第2連通流路34A,第2連通流路34B,第2連通流路34C,第2連通流路34Dとが設けられている。
第1連通流路33Aは、連通板30のZ1方向側に開口してY方向に延在し、その一方の端部が第1供給流路部31に連通している。
第1連通流路33Bは、連通板30のZ1方向側に開口してY方向に延在し、ノズル21と連通している。
第1連通流路33Cは、連通板30のZ1方向側に開口してY方向に延在し、その一方の端部が第1回収流路部32に連通している。
【0088】
第2連通流路34Aは、連通板30をZ方向に貫通し、第1連通流路33Aと圧力室41とを連通する。
第2連通流路34Bは、連通板30をZ方向に貫通し、圧力室41と第1連通流路33Bとを連通する。
第2連通流路34Cは、連通板30をZ方向に貫通し、第1連通流路33Bと圧力室42とを連通する。
第2連通流路34Dは、連通板30をZ方向に貫通し、圧力室42と第1連通流路33Cとを連通する。
【0089】
連通板30は、例えば、半導体製造技術を利用してシリコンの単結晶基板を加工することで製造される。ただし、連通板30の材料および製造方法は、特に限定されず、任意の材料や製造方法を採用できる。
【0090】
連通板30のZ1方向側の面には、コンプライアンス基板70が設けられている。本実施形態では、コンプライアンス基板70は、ノズル基板20の周囲を囲うような形状に形成され、Z2方向側からZ1方向に向かい、可撓性を有する薄膜からなる封止膜71、金属等の硬質の材料からなる固定基板72がこの順で接合された構成となっている。
【0091】
コンプライアンス基板70は、第1供給流路部31、第1回収流路部32、第1連通流路33A、第1連通流路33C、第2連通流路34A、第2連通流路34Dの開口を閉塞している。第1連通流路33A、第2連通流路34A、第2連通流路34D及び第1連通流路33Cがコンプライアンス基板70により閉塞され、第2連通流路34B、第1連通流路33B及び第2連通流路34Cがノズル基板20に閉塞されることで、個別流路60が形成されている。つまり、本実施形態の個別流路60は、第1連通流路33A、第2連通流路34A、圧力室41、第2連通流路34B、第1連通流路33B、第2連通流路34C、圧力室42、第2連通流路34D及び第1連通流路33Cで構成されている。
【0092】
固定基板72のうち第1供給流路部31及び第1回収流路部32のそれぞれに対向する領域は、厚さ方向であるZ方向に完全に除去された開口部75となっている。開口部75に露出した封止膜71の一部は、第1コンプライアンス部73及び第2コンプライアンス部74である。開口部75のZ1方向側は、固定板400によって閉塞される。つまり、封止膜71のZ1方向を向く面、固定板400の開口部75が形成された内周面、及び、固定板400のZ2方向を向く面は、コンプライアンス空間76を画定する。コンプライアンス空間76は、不図示の大気連通路を介して大気に連通している。
【0093】
液室形成基板50は、Z2方向側に開口した凹部である第2供給流路部57及び第2回収流路部58を備えている。第2供給流路部57はZ1方向にみた平面視において第1供給流路部31と同形状に形成されており、第2回収流路部58はZ1方向にみた平面視において第1回収流路部32と同形状に形成されている。液室形成基板50、連通板30、コンプライアンス基板70が接合されることで、第1供給流路部31と第2供給流路部57とが連通し、第1コンプライアンス部73により封止された供給側共通液室81が形成されている。また、第1回収流路部32と第2回収流路部58とが連通し、第2コンプライアンス部74により封止された回収側共通液室82が形成されている。
【0094】
第1コンプライアンス部73は封止膜71のうち第1供給流路部31のZ1方向側の開口を封止した部分である。第1コンプライアンス部73は、供給側共通液室81内の液体の圧力変動を吸収する。第2コンプライアンス部74は封止膜71のうち第1回収流路部32のZ1方向側の開口を封止した部分である。第2コンプライアンス部74は、回収側共通液室82内の液体の圧力変動を吸収する。
【0095】
液室形成基板50の中央部には、開口55が設けられており、圧力室基板40は、開口55の内側に配置されている。配線基板140は開口55、第1配線挿通孔301、第2配線挿通孔226、及び第3配線挿通孔234を挿通して中継基板300に電気的に接続される。なお、液室形成基板50は、例えば、樹脂材料の射出成形により形成される。ただし、液室形成基板50の材料や製造方法は、特に限定されず、任意の材料や製造方法を採用できる。
【0096】
以下に、
図8から
図13を用いて、ヘッド2の洗浄方法を説明する。この洗浄方法は、ノズル21内でインクILが固化することで、洗浄液Wを用いない通常のクリーニングでノズル21を回復できない場合に実行することが好ましい。
図8及び
図9は本実施形態の洗浄方法のフローチャートである。
図10は洗浄液を充填する充填工程における記録装置の図であり、
図11は洗浄液からインクに置換する置換工程における記録装置の図であり、
図12はインクを噴射する噴射工程における記録装置の図である。
図13は加圧工程を実行しているときのノズル21の要部を拡大した断面図である。
【0097】
まず、洗浄液Wをヘッド2に充填する充填工程を実行する(
図8ステップS1)。なお、ステップS1を行う前においてヘッド2の流路にはインクILが充填されているので、充填工程は、インクILを洗浄液Wへ置換する工程とも言える。
【0098】
洗浄液Wをヘッド2に充填するとは、ヘッド2の流路を洗浄液Wで充填することをいう。上述した実施形態のヘッド2では、流路は、ノズル21、供給流路83、回収流路84、供給側共通液室81、回収側共通液室82、個別流路60を含んで構成されている。
【0099】
図10に示すように、充填工程は、制御部3が次のように各機器を制御することによりに実現される。
1.第3電磁弁543及び第4電磁弁544を閉じる。
2.第1三方弁531を制御して供給チューブ501と洗浄液供給チューブ504とを接続する。
3.第2三方弁532を制御して回収チューブ502と廃液回収チューブ506とを接続する。
4.第1開閉部材507及び第2開閉部材508を開ける。
5.第3圧力センサー583による圧力が任意に定めた第3設定圧力を維持するように第2コンプレッサー552及び第3レギュレーター573を制御する。第3設定圧力は、大気圧に対して正圧である。
6.第4圧力センサー584による圧力が任意に定めた第4設定圧力を維持するように第2真空ポンプ562及び第4レギュレーター574を制御する。第4設定圧力は第3設定圧力よりも低い圧力又は負圧となっている。これにより、洗浄液サブタンク521から廃液タンク522へ向かう洗浄液Wの流れが発生する。
7.第3液面センサー593による水位が任意に定めた所定値未満であるならば、第2供給ポンプ524を制御して洗浄液メインタンク520から洗浄液サブタンク521へ洗浄液Wを供給する。
8.第3液面センサー593による水位が任意に定めた所定値以上であるならば、第2供給ポンプ524を停止させ、洗浄液メインタンク520から洗浄液サブタンク521への洗浄液Wの供給を停止する。
9.第4液面センサー594による水位が任意に定めた所定値以上であるならば、第2供給ポンプ524、第2コンプレッサー552、第3レギュレーター573、第2真空ポンプ562及び第4レギュレーター574を停止させ、洗浄液メインタンク520から洗浄液サブタンク521への洗浄液Wの供給および洗浄液サブタンク521から廃液サブタンク522への洗浄液Wの供給を停止する。
【0100】
充填工程により、洗浄液サブタンク521からヘッド2に洗浄液Wが供給され、ヘッド2の流路に洗浄液Wが充填された状態となる。また、ヘッド2の流路から排出された洗浄液Wが廃液タンク522に回収される。また、洗浄液サブタンク521には、一定量の洗浄液Wが維持されるように洗浄液メインタンク520から洗浄液Wが供給される。さらに、洗浄液サブタンク521又は廃液タンク522が一定量以上の洗浄液Wが貯留されたら洗浄液メインタンク520から洗浄液サブタンク521への洗浄液Wの供給が停止する。
【0101】
ヘッド2の流路に洗浄液Wが充填されて充填工程を終了する態様としては次のようなものが挙げられるが、これらの態様に限定されない。
・洗浄液Wの供給開始から、ヘッド2に洗浄液Wが充填されるまでの時間を予め計測しておく。この時間は、ヘッド2の流路の容量を十分に上回る洗浄液Wをヘッド2に供給するまでに要する時間を測定することにより得られる。制御部3に当該時間を設定しておき、制御部3は洗浄液Wの供給開始から当該時間に達したらヘッド2に洗浄液Wが充填されたとして充填工程を終了する。
・充填前における廃液タンク522の水位から、ヘッド2に洗浄液Wが充填されたときの廃液タンク522の水位を差し引いた変位量を予め計測しておく。制御部3に当該変位量を設定しておき、制御部3は充填前後における第4液面センサー594の水位の変位量が予め設定した変位量に達したらヘッド2に洗浄液Wが充填されたとして充填工程を終了する。
【0102】
次に、第1放置工程を行う(
図8ステップS2)。第1放置工程は、充填工程によって洗浄液Wがヘッド2内、すなわちヘッド2の流路に充填された状態で第1期間、ヘッド2を放置する。ヘッド2を放置するとは、洗浄液Wの流動に関わる制御を行わないことを言う。例えば、第1開閉部材507及び第2開閉部材508を閉じる。これにより、ヘッド2に充填された洗浄液Wはヘッド2から流出せず、かつヘッド2に洗浄液Wが流入しないので、洗浄液Wが流動せず、放置した状態が維持される。他にも、記録装置1全体や液体循環装置500の電源を切ることで洗浄液Wの流動に関わる制御を停止してもよい。
【0103】
第1放置工程により、ノズル21内で固化したインクILが洗浄液Wによって融解され、相当数のノズル21の目詰まりが解消される。第1期間は、特に限定はないが例えば16時間程度とする。他の第1期間としては、全てのノズル21の目詰まりが解消するために必要な時間より短い時間とする。つまり、第1放置工程が終了した際に、いくつかのノズル21については固化したインクILによる目詰まりが残っていてもよい。他にも、実験的に様々な第1期間を適宜設定して後述する吐出検査を行い、第1判断工程で閾値以上のノズル21が回復したと判断されたときの第1期間を実際の洗浄方法で用いることが好ましい。
【0104】
次に、ヘッド2の流路内の洗浄液WをインクILに置換する(
図8ステップS3)。まずは洗浄液Wをヘッド2から排出する。
図11に示すように、洗浄液Wを排出する工程は制御部3が次のように各機器を制御することにより実現される。
1.第2供給ポンプ524を停止させたままにする。
2.第1開閉部材507及び第2開閉部材508を開ける。
3.第3液面センサー593による水位が任意に定めた所定値となるまで、第2コンプレッサー552及び第3レギュレーター573を制御して空気をヘッド2の流路へ送り続け、且つ、第2真空ポンプ562及び第4レギュレーター574を制御することで廃液タンク522内を負圧にする。当該所定値は洗浄液サブタンク521の洗浄液Wが空になったとみなせる値とする。
4.第4液面センサー594の液面の位置が当該所定位置となって一定時間にわたって変化がないならば、第2コンプレッサー552、第3レギュレーター573、第2真空ポンプ562及び第4レギュレーター574を停止させる。
【0105】
このような洗浄液Wの排出工程により、洗浄液サブタンク521、ヘッド2の流路、供給チューブ501、回収チューブ502から洗浄液Wを廃液タンク522へ排出、換言すれば、空気に置換することができる。
【0106】
次にヘッド2にインクILを充填する。これにより、ヘッド2の流路内が空気からインクILへ置換される。具体的には、
図12に示すように、インクILを充填する工程は制御部3が次のように各機器を制御することにより実現される。
1.第1電磁弁541及び第2電磁弁542を閉じる。
2.第1三方弁531を制御して供給チューブ501とインク供給チューブ503とを接続する。
3.第2三方弁532を制御して回収チューブ502とインク回収チューブ505とを接続する。
4.第1開閉部材507及び第2開閉部材508を開ける。
5.第1圧力センサー581による圧力が任意に定めた第1設定圧力を維持するように第1コンプレッサー551及び第1レギュレーター571を制御する。第1設定圧力は、大気圧に対して正圧である。
6.第2圧力センサー582による圧力が任意に定めた第2設定圧力を維持するように第1真空ポンプ561及び第2レギュレーター572を制御する。第2設定圧力は、大気圧に対して負圧である。これにより、洗浄液サブタンク521から廃液タンク522へ向かう洗浄液Wの流れが発生する。なお、第1設定圧力と第2設定圧力との差圧は、ノズル21からインクILが溢れ出ない程度、且つ、ノズル21からヘッド2内に空気を引き込まない程度に設定することが好ましい。
7.第1液面センサー591による水位が任意に定めた所定値未満であり、第2液面センサー592による水位が任意に定めた所定値以上であるならば、戻しポンプ515を制御して回収側サブタンク512から供給側サブタンク511へインクILを供給する。
8.第1液面センサー591による水位が任意に定めた所定値未満であり、第2液面センサー592による水位が任意に定めた所定値未満であるならば、第1供給ポンプ514を制御してメインタンク510から供給側サブタンク511にインクILを供給する。
9.第1液面センサー591による水位が任意に定めた所定値以上であるならば、第1供給ポンプ514及び戻しポンプ515を停止させ、供給側サブタンク511へのインクILの供給を停止する。
【0107】
このようなインクILの充填工程により、供給側サブタンク511からヘッド2にインクILが供給され、ヘッド2からインクILが回収側サブタンク512に回収される。また、供給側サブタンク511には、一定量のインクILが維持されるようにメインタンク510又は回収側サブタンク512からインクILが供給される。
【0108】
次に、ヘッド2が有する複数のノズル21のうち閾値以上の一部のノズル21が回復したかどうかを判断する第1判断工程を行う。第1判断工程では、第1放置工程にて目詰まりが回復したノズル21(以下、回復ノズル21Aという。回復ノズル21Aは元々目詰まりしていないノズル21も含む)の数に基づいて判定する。回復ノズル21Aの数を得る手段の一つとしては、印字検査を挙げることができる。具体的には、印字検査を行い(
図8ステップS4)、印字検査により得られた回復ノズル21Aの数に基づいて第1判断工程を行う(
図8ステップS5)。
【0109】
印字検査は、各ノズル21からインクILが噴射されているか否かを検査することをいい、公知の検査方法である。例えば、ヘッド2に検査用の第1画像データを媒体Sに印刷させる。そして、媒体Sに印刷された画像を撮像して得られた第2画像データと、第1画像データとを比較する。第2画像データ中に第1画像データと同じドットがあればそのドットに対応するノズル21は目詰まりしていない、すなわち回復ノズル21Aであると判定する。このような画像処理により回復ノズル21Aの数を得ることができる。
【0110】
印字検査は、複数のノズル21が形成されたノズル基板20ごとに行う。本実施形態では1個のヘッド2には2枚のノズル基板20が設けられているので、ノズル基板20ごとに印字検査を実行し、ノズル基板20ごとに回復ノズル21Aの数を取得する。
【0111】
第1判断工程では、印字検査により得られた回復ノズル21Aの数が閾値以上であるかを判定する。閾値は特に限定はないが、ノズル21の総数の50%以上とすることが好ましい。ノズル21の総数とは、1枚のノズル基板に形成されたノズル21の総数である。複数のノズル基板20を有する場合は、ノズル基板20ごとに前述の判定を行い、全てのノズル基板20について回復ノズル21Aの数が閾値以上となれば、第1判断工程において閾値以上のノズル21が回復したと判断する。本実施形態では1個のヘッド2には2枚のノズル基板20が設けられているので、ノズル基板20ごとにノズル21の総数と回復ノズル21Aの数を比較して閾値以上のノズル21が回復したか否かを判断する。もちろん、第1判断工程は、回復ノズル21Aの数が閾値以上であるかをノズル基板20ごとに判断する場合に限定されない。例えば、第1判断工程では、どのノズル基板20の回復ノズル21であるかに関係なく、印字検査により得られた回復ノズル21の数が閾値以上であるかを判定してもよい。このような第1判断工程は、複数のノズル基板20を備えたノズルチップ100であって、一のノズル基板20から直接他のノズル基板20に洗浄液が到達することが可能なヘッドチップ100、又は一のノズル基板20から固定板400などノズル基板20以外の部材を介して他のノズル基板20に洗浄液Wが到達することが可能なヘッドチップ100に適用することができる。
【0112】
第1判断工程において、複数のノズル21のうち閾値以上の一部のノズル21が回復していない場合(
図8ステップS5;No)、洗浄液Wをヘッド2に再充填する再充填工程を行う(
図8ステップS6)。再充填工程によりヘッド2に充填されているインクILが廃液タンク522に排出され、ヘッド2に新しい洗浄液Wが充填される。再充填工程は、ステップS1の充填工程と同じ工程である。ただし、再充填工程では、後述する加圧工程とは洗浄液Wがヘッド2内に流入する量が異なる。言い換えれば再充填工程(及び充填工程)では加圧工程よりも廃液タンク522へ排出される洗浄液Wの量が多い。また、再充填工程(及び充填工程)では、廃液タンク522に負圧を付与して洗浄液Wを吸引しているが、加圧工程では廃液タンク522に負圧を付与しない点で異なる。
【0113】
再充填工程の後、第1期間よりも短い第3期間、例えば4時間、ヘッド2を放置する第3放置工程を実行する(
図8ステップS7)。第3放置工程は、第1放置工程と同様に、洗浄液Wによってノズル21に目詰まりした固化インクIS(
図13参照)を融解させ、回復ノズル21Aを増やすことができる。
【0114】
第1判断工程において、複数のノズル21のうち閾値以上の一部のノズル21が回復した場合(
図8ステップS5;Yes)、洗浄液Wをヘッド2に再充填する再充填工程を行う(
図9ステップS8)。再充填工程によりヘッド2に充填されているインクILが廃液タンク522に排出され、ヘッド2に新しい洗浄液Wが充填される。再充填工程は、
図8ステップS6の再充填工程と同じ工程である。
【0115】
次に、制御部3はカウンターAを1に初期化する(
図9ステップS9)。カウンターAは、後述する加圧工程及び第2放置工程を繰り返す回数を管理するために使用される。
【0116】
次に、
図13に示すように、制御部3は、加圧工程を実行する(
図9ステップS10)。加圧工程は、ヘッド2へ洗浄液Wを加圧供給することで、噴射面23を介して複数のノズル21の一部から排出された洗浄液Wを複数のノズル21の残部へ供給する工程である。ここでいうノズル21の一部とは固化インクISが固着していないノズル21であり、回復ノズル21Aと称する。ノズル21の残部とは固化インクISが固着されたノズル21であり、未回復ノズル21Bと称する。また噴射面23はノズル21が形成されたノズル基板20のZ1方向側の面である。なお、噴射面23は、固定板400のZ1方向側の面を含んでいてもよい。
【0117】
加圧工程の具体的な制御は、ステップS1の洗浄液Wの充填工程とほぼ同様である。ただし、加圧工程は、洗浄液Wを加圧供給する前に、第4電磁弁544を開くことで廃液タンク522内を大気開放させ、第2真空ポンプ562及び第4レギュレーター574を停止させることで、廃液タンク522の内部を負圧にしない点で、ステップS1の充填工程と相違する。つまり、加圧工程は、ヘッド2から廃液タンク522へ積極的に洗浄液Wを排出させない。少なくとも加圧工程では充填工程よりもヘッド2内に流入する洗浄液Wの量が少ない。言い換えれば加圧工程では充填工程よりも廃液タンク522へ排出される洗浄液Wの量が少ない。また、洗浄液Wに付与する圧力は、回復ノズル21Aから噴射面23上に洗浄液Wが滲み出る程度とする。本実施形態では、液体循環装置500の第2コンプレッサー552及び第3レギュレーター573を制御することにより洗浄液Wに付与する圧力を調整する。この際、ヘッド2内を正圧にすることでノズル21から洗浄液Wを排出させやすくするために、第2コンプレッサー552及び第3レギュレーター573によって洗浄液サブタンク512内を加圧する前に、第4電磁弁544を閉じておくことが好ましい。なお、加圧工程は、第2開閉部材508を閉じた状態で、第2コンプレッサー552及び第3レギュレーター573によって洗浄液サブタンク512内を加圧することで、ノズル21から洗浄液Wを滲みださせてもよい。この場合、廃液タンク522とヘッド2との接続が解除されているため、廃液タンク522内は負圧であってもよい。
【0118】
加圧工程においてヘッド2へ洗浄液Wを加圧供給すると、回復ノズル21Aから洗浄液Wが噴射面23に滲み出る。そして洗浄液Wは噴射面23を伝って未回復ノズル21Bに入り込む。これにより、未回復ノズル21B内の固化インクISは、未回復ノズル21BのZ2方向側の開口(個別流路60に接続された開口)から供給された洗浄液Wと、噴射面23を伝って未回復ノズル21BのZ1方向側の開口から供給された洗浄液Wとの双方により融解される。
【0119】
加圧工程を実行した後に、第2放置工程(
図9ステップS11)を実行する。第2放置工程は、第1期間よりも短い第2期間、例えば1時間、ヘッド2を放置する工程である。第2放置工程を実行することで、未回復ノズル21Bにおいて、Z1方向側及びZ2方向側から固化インクISが洗浄液Wに接触した状態が維持されるので、固化インクISをより確実に融解させることができる。なお、第2期間は、第3期間よりも短くてもよい。
【0120】
上述した第1放置工程では、未回復ノズル21BについてはZ2方向側のみから洗浄液Wが固化インクISに接液していたが、第2放置工程ではZ1方向側及びZ2方向側から洗浄液Wが固化インクISに接液する。このため第2放置工程では第1放置工程よりも固化インクISを早く融解できることから、第2期間を第1期間より短くしても未回復ノズル21Bを回復ノズル21Aに回復させることができる。
【0121】
このように加圧工程の実行後に第2放置工程を実行することで、未回復ノズル21Bは、Z1方向側及びZ2方向側の両方向から洗浄液Wが供給されて固化インクISが融解されるので未回復ノズル21Bを回復ノズル21Aに短時間で回復させることができる。また、従来技術の超音波洗浄による洗浄では洗浄液Wを貯留した容器にヘッド2を浸すことで未回復ノズル21Bの外側から洗浄を行えるものの、全てのノズル21が洗浄液Wに浸されるように相当量の洗浄液Wを必要とする。しかしながら、本実施形態の洗浄方法によればヘッド2の回復ノズル21Aから滲み出る程度の洗浄液Wによって未回復ノズル21Bの外側(噴射面23のZ1側)から洗浄できるので、従来技術と比較して洗浄液Wの使用量を低減することができる。
【0122】
次に、第2期間が経過したら制御部3はカウンターAを1つ増やす(
図9ステップS12)。次に、制御部3は、カウンターAが繰返し回数Nに一致したかを判定する(
図9ステップS13)。繰返し回数Nは、予め設定した2以上の自然数である。繰返し回数Nに特に限定はないが、実験的に様々な繰返し回数Nを適宜設定して後述する印字検査を行い、第2判断工程にて全てのノズル21が回復したと判断されたときの繰返し回数Nを実際の洗浄方法で用いることが好ましい。
【0123】
カウンターAが繰返し回数Nに一致していなければ(
図9ステップS13;No)、上述した加圧工程(
図9ステップS10)、第2放置工程(
図9ステップS11)を再度実行する。カウンターAが繰返し回数Nに一致していれば(
図9ステップS13;Yes)、ヘッド2にインクILを供給してヘッド2にインクILを充填する置換工程を実行する(
図9ステップS14)。この置換工程は、ヘッド2の流路内の洗浄液WをインクILに置換する工程であり、
図8のステップS3と同様であるので詳細な説明は省略する。
【0124】
次に、置換工程の実行を終えたら、印字検査を実行する(
図9ステップS15)。この印字検査は
図8のステップS4と同様であるので詳細な説明は省略する。
【0125】
次に、第2判断工程を実行する(
図9ステップS16)。第2判断工程は、全てのノズル21が回復したか否かを判定する。例えば、本実施形態では印字検査により回復ノズル21Aの数が得られるので、回復ノズル21Aの数とノズル21の総数とを比較することにより判定する。回復ノズル21Aの数とノズル21の総数とが一致すれば、全てのノズル21が回復したと判定し、不一致であれば全てのノズル21が回復していないと判定する。なお、ヘッド2に複数のノズル基板20が設けられている場合は、全てのノズル基板20について、回復ノズル21Aの数とノズル21の総数が一致していれば、全てのノズル21が回復したと判定する。複数のノズル基板20のうち1枚でも回復ノズル21Aの数とノズル21の総数が不一致であれば、全てのノズル21が回復していないと判定する。もちろん、第2判断工程は、回復ノズル21Aの数がノズル21の総数と一致するか否かをノズル基板20ごとに判断する場合に限定されない。例えば、第2判断工程では、ノズル21の総数を、全ノズル基板20に形成されたノズル21の総数とし、どのノズル基板20の回復ノズル21であるかに関係なく、印字検査により得られた回復ノズル21の数がノズルの総数と一致するか否かを判定してもよい。このような第2判断工程は、複数のノズル基板20を備えたノズルチップ100であって、一のノズル基板20から直接他のノズル基板20に洗浄液が到達するヘッドチップ100、又は一のノズル基板20から固定板400などノズル基板20以外の部材を介して他のノズル基板20に洗浄液Wが到達するヘッドチップ100に適用することができる。
【0126】
第2判断工程において、複数のノズル21の全てについて回復していなければ(
図9ステップS16;No)、ステップS8の再充填工程に戻る。第2判断工程において、複数のノズル21の全てについて回復していれば(
図9ステップS16;Yes)、洗浄を終了する。
【0127】
以上に説明した本実施形態の洗浄方法は、インクILを噴射するための複数のノズル21を有する噴射面23を備えるヘッド2の洗浄方法であって、ヘッド2内に洗浄液Wを充填する充填工程(
図8ステップS1)と、前記充填工程によって洗浄液Wがヘッド2内に充填された状態で第1期間、ヘッド2を放置する第1放置工程(
図8ステップS2)と、複数のノズル21のうち閾値以上の一部のノズル21が回復したかどうかを判断する第1判断工程(
図8ステップS5)と、前記第1判断工程で複数のノズル21のうち閾値以上の一部のノズル21が回復した場合、ヘッド2へ洗浄液Wを加圧供給することで、噴射面23を介して複数の回復ノズル21Aから排出された洗浄液Wを複数の未回復ノズル21Bへ供給する加圧工程と、を備える。
【0128】
本実施形態の洗浄方法によれば、ヘッド2を洗浄するための特殊な洗浄装置を設けずに、ノズル21内に固着した固化インクISを除去することができる。また、第1放置工程で回復した回復ノズル21Aから、加圧工程によって洗浄液Wを排出させることで、噴射面23を介して未回復ノズル21Bの外側であるZ1方向側から洗浄液Wを供給することができる。ヘッド2の内側となる個別流路60およびヘッド2の外側となる噴射面23の双方からノズル21内の固化インクISを融解することができ、少量の洗浄液W且つ短時間でヘッドの洗浄が可能となる。
【0129】
また、本実施形態の洗浄方法は、第1判断工程で複数のノズル21のうち閾値以上の一部のノズル21が回復した場合(
図8ステップS5;Yes)、加圧工程(
図9ステップS10)の後に、第1期間よりも短い第2期間の間、ヘッド2を放置する第2放置工程(
図9ステップS11)と、を備える。第2放置工程では第1放置工程よりも固化インクISを早く融解できることから、未回復ノズル21Bを回復ノズル21Aに回復させる時間を短縮することができる。
【0130】
また、本実施形態の洗浄方法は、第2放置工程の後、複数のノズル21のうち一部のノズル21である回復ノズル21Aから噴射面23上に洗浄液Wが滲み出る程度にヘッド2へ洗浄液Wを加圧供給する加圧工程を行い、加圧工程後、再度、第2放置工程を行う(
図9ステップ10からステップS13の繰り返し)。即ち、噴射面23側から未回復ノズル21B内に供給された洗浄液Wの量は少ないため、洗浄効果が落ちやすい。これは、固化インクISを融解させるために洗浄液Wが固化インクISと反応することで、洗浄液Wの洗浄力が徐々に落ちていくためである。しかしながら、第1期間よりも短い第2期間による第2放置工程及び加圧工程を繰り返す。これにより洗浄液Wによる洗浄効果が落ちにくくなり、結果として洗浄に必要な時間を短縮することができる。
【0131】
なお、第2放置工程を実行するたびに印字検査を行ってもよい。しかしながら、印字検査を行ったあとにステップS16の第2判断工程の結果がNoの場合には洗浄液Wを再充填する再充填工程が必要となるため、洗浄液Wを多く消費してしまう。したがって、第2放置工程を行うたびに印字検査を行わず、第2放置工程及び加圧工程を繰り返すことで、全てのノズル21が回復する確率を高めてから印字検査(
図9ステップS15)を実行することが好ましい。
【0132】
また、本実施形態の洗浄方法は、再充填工程(
図8ステップS6)の後、第1期間よりも短い第3期間、ヘッド2を放置する第3放置工程(
図8ステップS7)を備える。第1判断工程において閾値以上のノズル21が回復されていないと判断された後(
図8ステップS5)に再充填工程及び第3放置工程を実行するので、洗浄液Wによってノズル21に目詰まりした固化インクISを融解させ、回復ノズル21Aを増やし、第1判断工程において閾値以上のノズル21が回復したと判断されるようになる。
【0133】
さらに、第1放置工程において、相当数のノズル21、例えばノズル21の総数のうち25%から49%のノズル21について固化インクISが融解されている場合では、閾値、例えば50%以上までノズル21を回復させるために要する第3期間は比較的短いと考えられる。したがって第3期間を第1期間よりも短く設定することで、第3放置工程に要する時間を第1放置工程に要する時間よりも短縮することができる。一方、第1放置工程で回復状況が悪い場合、例えば25%未満のノズル21が回復した場合であっても、第3放置工程の時間を短くすれば、ステップS5のNo、再充填工程(ステップS6)、第3放置工程(ステップS7)の工程の組を高頻度で実行することになる。これらの工程の組を実行するたびに洗浄液Wが入れ替わるので高い洗浄効果を期待できる。このように高い洗浄効果を期待できる第3放置工程を高頻度で実行することができるので、閾値以上のノズル21が回復するまでに要する時間を短縮することができる。
【0134】
また、本実施形態の洗浄方法は、複数のノズル21のそれぞれに連通する複数の個別流路60と、複数の個別流路60に液体を供給するための供給流路である供給流路83と、複数の個別流路60から液体を回収するための回収流路である回収流路84と、を備える。充填工程は、洗浄液Wを供給流路83、複数の個別流路60、回収流路84の順で流動させることで、ヘッド2内に充填されていた、洗浄液Wとは異なる液体を洗浄液Wに置換する。異なる液体とは、顔料などの色材を含むインクILでもよいし、インクILと反応することで色材を凝集させる反応液やオーバーコート液などの処理液でもよい。ヘッド2は液体が供給流路、個別流路、回収流路を流動する、いわゆる循環型の液体噴射ヘッドであるため、仮に全てのノズル21にインクILが固化していたとしてもヘッド2の内部にある流路のうちノズル21の近傍までインクILや処理液などを洗浄液Wに置換することができる。このようにノズル21の近傍まで洗浄液Wを行き渡らせることができるので、ノズル21の固化インクISを洗浄液Wで融解させ、最終的には全てのノズル21を回復することができる。
【0135】
なお、第1判断工程及び第2判断工程において回復ノズル21Aの数を得るために、印字検査(
図8ステップS4、
図9ステップS15)を実行したが、回復ノズル21Aの数を得る手段は印字検査に限定されない。たとえば、圧電アクチュエーター130を駆動した際の圧力室内の液体の残留振動を、圧電アクチュエーター130に圧電効果によって生じた電力として検出し、当該残留振動に基づいて回復ノズル21Aであるか未回復ノズル21Bであるかを判断してもよい。例えば、ヘッドチップ100に、複数の圧電アクチュエーター130のそれぞれで生じる残留振動を検出する検出回路を設ける。このような検出回路は公知のものであるので詳細な説明は省略する。検出回路により得られた残留振動は、圧電アクチュエーター130の駆動後に振動板120及び圧電アクチュエーター130に残留する振動を示す。ノズル21に固化インクISが存在しているか否かによって残留振動の形態は異なると考えられる。したがって、残留振動の形態に応じてノズル21に固化インクISが存在するか否かを判定することができる。したがって全てのノズル21について対応する圧電アクチュエーター130から残留振動を取得し、残留振動の形態に応じて固化インクISが存在していない回復ノズル21Aまたは固化インクISが存在する未回復ノズル21Bであるかを判別し、回復ノズル21Aの数を得ることができる。なお、印字検査(
図8ステップS4、
図9ステップS15)の代わりに上述の残留振動を検出することで第1判断工程を行う場合には、ヘッド2の流路内の洗浄液WをインクILに置換する工程(
図8ステップS3)、再充填工程(
図9ステップS8)および置換工程(
図8ステップS14)を省略できる。また、
図8ステップS6の再充填工程は、ヘッド2内の古い洗浄液Wを、新しい洗浄液Wに置換する工程とする。これらの点は、後述の変形例1と同様である。
【0136】
〈変形例1〉
上述した実施形態1では、第1判断工程及び第2判断工程の実行に先立ち、回復ノズル21Aの数を得るため洗浄液WをインクILに置換し(
図8ステップS3、
図9ステップS14)、印字検査(
図8ステップS4、
図9ステップS15)を実行したがこのような方法に限定されない。
【0137】
本変形例では、洗浄液WをインクILに置換せず、印字検査を行わずに第1判断工程及び第2判断工程を行う場合について説明する。本変形例では、ノズル21から噴射される洗浄液Wの液滴を撮像できるカメラを用いる。
【0138】
図14及び
図15は本変形例の洗浄方法のフローチャートである。制御部3は、充填工程(
図14ステップS20)、第1放置工程(
図14ステップS21)を実行する。これらはそれぞれ
図8のステップS1で説明した充填工程と、ステップS2の第1放置工程と同様である。
【0139】
第1放置工程の終了後、ヘッド2には洗浄液Wが充填されている。制御部3はヘッド2の全てのノズル21から洗浄液Wを噴射させる。洗浄液Wの噴射のさせ方に特に限定はないが、全てのノズル21について同時に洗浄液Wを噴射させてもよいし、複数のノズル21について時間差を設けてノズル21の一つずつに洗浄液Wを噴射させてもよい。上述したカメラによりヘッド2から噴射されたノズル21を撮像する。ノズル21から洗浄液Wが噴射されたタイミングでカメラにより撮像された画像中に洗浄液Wの液滴を検出できれば当該ノズル21は回復ノズル21Aであると判定でき、当該画像中に液滴を検出できなければ当該ノズル21は未回復ノズル21Bであると判定できる。このような判定を全てのノズル21について実行することで、ヘッド2内の洗浄液WをインクILに置換することなく回復ノズル21Aの数を得ることができる。
【0140】
以降、閾値以上のノズル21が回復したかを判断する第1判断工程を実行する(
図14ステップS22)。閾値以上のノズル21が回復していなければ(
図14ステップS22;No)、洗浄液Wを再充填する再充填工程を実行する(
図14ステップS23)。この再充填工程は、
図8のステップS6と同様に行えるが、インクILを洗浄液Wに置換するようにしてヘッド2に洗浄液Wを充填するのではなく、ステップS20でヘッド2内に充填されていた、固化インクISと反応済みの古い洗浄液Wを新しい洗浄液Wに置換するようにして、ヘッド2内に洗浄液Wを充填する。次に第3放置工程を実行する(
図14ステップS24)。この第3放置工程は
図8のステップS7と同様であり、終了後は上述したようにカメラを用いて洗浄液Wがヘッド2に充填されたまま回復ノズル21Aの数を得る。
【0141】
第1判断工程において閾値以上のノズル21が回復したならば(
図14ステップS22;Yes)、カウンターAを1に初期化し(
図15ステップS25)、洗浄液Wを加圧供給する加圧工程を実行し(
図15ステップS26)、第2放置工程を実行し(
図15ステップS27)、カウンターAを1増加し(
図15ステップS28)、カウンターAが繰り返し回数Nに一致したかを判定する(
図15ステップS29)。これらの工程は、
図9で説明したステップS9からステップS13と同様であるので詳細な説明は省略する。
【0142】
カウンターAが繰返し回数Nに一致したならば(
図15ステップS29;Yes)、ヘッド2に洗浄液Wが充填されているので、上述したようにカメラを用いて回復ノズル21Aの数を得て、全てのノズル21が回復したかを判定する第2判断工程(
図15ステップ30)を実行する。全てのノズル21が回復しなければ(
図15ステップS30;No)、ステップS25に戻る。全てのノズル21が回復していれば(
図15ステップS31;Yes)、洗浄を終了する。
【0143】
以上に説明した本変形例の洗浄方法は、第1判断工程で複数のノズル21のうち閾値以上の一部のノズル21が回復していない場合(
図14ステップS22;No)、再度、ヘッド2内の洗浄液Wを新しい洗浄液Wに置換する再充填工程と、を備える。
【0144】
このような本変形例の洗浄方法によれば、第1判断工程で閾値以上のノズル21が回復していなければ、第3放置工程に先だって新しい洗浄液Wに切り替える。このため、ノズル21の固化インクISをより確実に融解して除去することができ、ノズル21を早期に回復させることができる。なお、第2判断工程に先立って、洗浄液WをインクILに置換する置換工程(
図9ステップS14と同等の工程)を実行し、印字検査(
図9ステップS15と同等の工程)を実行してもよい。この場合、第2判断工程にて全てのノズル21が回復していなければ、インクILを洗浄液Wに置換してヘッド2に再充填する再充填工程(
図9ステップS8と同等の工程)を実行して、ステップS25に戻る。
【0145】
本変形例では、カメラによってノズル21から洗浄液Wが噴射されているか否かを検出することに基づいて、第1判断工程及び第2判断工程を行っていたが、これには限られない。例えば、複数のノズル21の夫々から所定回数の洗浄液Wを凹部形状の容器内に噴射し、当該容器の重量を計測することに基づいても、第1判断工程及び第2判断工程を行うことが可能である。具体的には、第1判断工程(又は第2判断工程)としてノズル21から洗浄液Wを噴射する前に容器の重量を測定しておき、複数のノズル21の夫々から洗浄液Wを容器内に所定回数噴射した後に容器の重量を測定する。そして、噴射前の容器の重量と噴射後の容器の重量との差である複数のノズル21から噴射された洗浄液Wの総重量と、仮に複数のノズル21の全てから所定回数、正常に洗浄液Wが噴射された場合の洗浄液Wの総重量と、を比較することにより、回復ノズル21Aの数を推定することができる。
【0146】
〈変形例2〉
図16及び
図17を用いて本変形例に係る洗浄方法について説明する。
図16及び
図17は本変形例の洗浄方法のフローチャートである。
【0147】
制御部3は、充填工程(
図16ステップS30)を実行する。これは
図8のステップS1で説明した充填工程と同様である。次に制御部3は放置工程A(
図16ステップS31)を実行する。放置工程Aは洗浄液Wがヘッド2に充填された状態で期間Aの間、ヘッド2を放置する工程であり、ステップS2の第1放置工程と同様である。期間Aは第1期間に相当する。
【0148】
放置工程Aの終了後、洗浄液Wを加圧供給する加圧工程Aを実行する。加圧工程Aは
図9のステップS10と同様の工程である。この加圧工程Aの実行により、洗浄液Wが回復ノズル21Aから滲みだし噴射面23(
図13参照)に排出される。
【0149】
次に、閾値以上のノズル21が回復したかを判断する(
図16ステップS33)。具体的には、加圧工程Aによって回復ノズル21Aから噴射面23上に排出された洗浄液Wの液溜まりによって閾値以上のノズル21が覆われているかを判定することにより行う。回復ノズル21Aからしか洗浄液Wは噴射面23上に滲みでないため、洗浄液Wの液溜まりが、複数のノズル21のうちどの程度、覆われているかによって、回復ノズル21Aの数の概算を推定できる。このような回復ノズル21Aの数を得る手段としては、カメラによって噴射面23を撮像し、画像処理によって洗浄液Wの液溜まりに覆われたノズル21と覆われていないノズル21とを判別することにより行うことができる。
【0150】
ステップS33にてNoの場合、すなわち閾値以上のノズル21が回復していないならば、再充填工程(
図16ステップS34)を実行する。この再充填工程は
図14ステップS23と同様である。再充填工程後、期間Cの間、放置工程Cを実行する(
図16ステップS35)。放置工程Cは、
図8ステップS7の第3放置工程と同様である。期間Cは第3期間に相当する。放置工程Cの終了後、ステップS32の加圧工程Aに戻る。
【0151】
ステップS33にてYesの場合、すなわち閾値以上のノズル21が回復しているならば、放置工程B(
図16ステップS36)を実行する。放置工程Bは
図9ステップS11の第2放置工程と同様である。期間Bは第2期間に相当する。
【0152】
次に、カウンターAを1に初期化し(
図17ステップS37)、洗浄液Wを加圧供給する加圧工程Bを実行し(
図17ステップS38)、放置工程Bを実行し(
図17ステップS39)、カウンターAを1増加し(
図17ステップS40)、カウンターAが繰り返し回数Nに一致したかを判定する(
図17ステップS41)。ステップS37、ステップS38、ステップS40、ステップ41の工程は、
図15で説明したステップS25、ステップS26、ステップS28、ステップS29と同様であるので詳細な説明は省略する。
図17ステップS39の放置工程Bは
図16のステップS36と同様である。
【0153】
カウンターAが繰返し回数Nに一致したならば(
図17ステップS41;Yes)、ヘッド2に洗浄液Wが充填されているので、インクILに置換する置換工程を行い(
図17ステップS42)、印字検査を行う(
図17ステップS43)。これらの置換工程及び印字検査は、
図9ステップS14の置換工程、
図9ステップS15の印字検査と同様である。
【0154】
次に、全てのノズル21が回復したか、すなわち印字検査の結果で得られた回復ノズル21Aの数がノズル21の総数に一致したかを判断する(
図17ステップS45)。全てのノズル21が回復していないならば(
図17ステップS45;No)、ヘッド2のインクILを洗浄液Wに置換する置換工程を実行する(
図17ステップS46)。この置換工程は、
図9ステップS8の再充填工程と同様である。全てのノズル21が回復したならば(
図17ステップS45;Yes)、洗浄を終了する。
【0155】
以上に説明した本変形例の洗浄方法は、実施形態1及び変形例1と同等の作用効果を奏する。
【0156】
〈他の実施形態)
以上、本発明の各実施形態について説明したが、本発明の基本的な構成は上述したものに限定されるものではない。
【0157】
上述した実施形態では、ノズル21に固着した固化インクを洗浄する対象としたがこれに限定されない。洗浄液Wに融解可能な固形物であれば本発明は適用できる。また、
図1に例示した記録装置1はいわゆるシリアル型であるがこれに限定されない。例えば、記録装置は、X方向における噴射範囲が媒体SのY方向の幅よりも広く、媒体SのY方向の幅全体に亘ってインク滴を噴射することが可能なヘッドと、一方向に媒体Sを搬送させる搬送機構を備えた、いわゆるライン型であってもよい。このようなライン型の記録装置では、ヘッドによる噴射動作が搬送機構による媒体Sの搬送と並行して行われることにより、媒体Sの表面にインクILによる画像が形成される。
【0158】
(付記)
以上に例示した形態から、例えば以下の構成が把握される。
【0159】
好適な態様である態様1に係る液体噴射ヘッドの洗浄方法は、液体を噴射するための複数のノズルを有する噴射面を備える液体噴射ヘッドの洗浄方法であって、前記液体噴射ヘッド内に洗浄液を充填する充填工程と、前記充填工程によって洗浄液が前記液体噴射ヘッド内に充填された状態で第1期間、前記液体噴射ヘッドを放置する第1放置工程と、前記複数のノズルのうち閾値以上の一部のノズルが回復したかどうかを判断する第1判断工程と、前記第1判断工程で前記複数のノズルのうち閾値以上の一部のノズルが回復した場合、前記液体噴射ヘッドへ洗浄液を加圧供給することで、前記噴射面を介して前記複数のノズルの一部から排出された洗浄液を前記複数のノズルの残部へ供給する加圧工程と、を備える。これによれば、液体噴射ヘッドを洗浄するための特殊な洗浄装置を設けずに、ノズル内に詰まった固形物を洗浄液で融解して除去することができる。また、第1放置工程で回復したノズルから、加圧工程によって洗浄液を排出させることで、噴射面を介して未回復のノズルの外側から洗浄液を供給することができる。液体噴射ヘッドの内側および液体噴射ヘッドの外側となる噴射面の双方からノズル内の固形物を融解することができ、少量の洗浄液且つ短時間でヘッドの洗浄が可能となる。
【0160】
態様1の具体例である態様2において、前記第1判断工程で前記複数のノズルのうち閾値以上の一部のノズルが回復した場合、前記加圧工程の後に、前記第1期間よりも短い第2期間の間、前記液体噴射ヘッドを放置する第2放置工程を備える。第2放置工程では第1放置工程よりもインクなどの固形物を早く融解できることから、未回復のノズルを回復させる時間を短縮することができる。
【0161】
態様2の具体例である態様3において、前記第2放置工程の後、前記複数のノズルのうち一部のノズルから前記噴射面上に洗浄液が滲み出る程度に前記液体噴射ヘッドへ洗浄液を加圧供給する前記加圧工程を行い、前記加圧工程後、再度、前記第2放置工程を行う。第1期間よりも短い第2期間による第2放置工程及び加圧工程を繰り返すので、洗浄液による洗浄効果が落ちにくくなり、結果として洗浄に必要な時間を短縮することができる。
【0162】
態様1から態様3の具体例である態様4において、前記第1判断工程で前記複数のノズルのうち閾値以上の一部のノズルが回復していない場合、再度、前記液体噴射ヘッド内の洗浄液を新しい洗浄液に置換する再充填工程を備える。ノズルにあるインクなどの固形物をより確実に融解して除去することができ、ノズルを早期に回復させることができる。
【0163】
態様4の具体例である態様5において、前記再充填工程の後、前記第1期間よりも短い第3期間、前記液体噴射ヘッドを放置する第3放置工程を備える。第1放置工程において、相当数のノズル、例えばノズルの総数のうち25%から49%のノズルについて固化インクが融解されている場合では、閾値、例えば50%以上までノズルを回復させるために要する第3期間は短いと考えられる。したがって第3期間を第1期間よりも短く設定することで、第3放置工程に要する時間を第1放置工程に要する時間よりも短縮することができる。一方、第1放置工程で回復状況が悪い場合、例えば25%未満のノズルが回復した場合であっても、第3放置工程の時間を短くすれば、再充填工程、第3放置工程の組を高頻度で実行することになる。これらの工程の組を実行するたびに洗浄液が入れ替わるので高い洗浄効果を期待できる。このように高い洗浄効果を期待できる第3放置工程を高頻度で実行することができるので、閾値以上のノズルが回復するまでに要する時間を短縮することができる。
【0164】
態様1の具体例である態様6において、前記複数のノズルのそれぞれに連通する複数の個別流路と、前記複数の個別流路に液体を供給するための供給流路と、前記複数の個別流路から液体を回収するための回収流路と、を備える液体噴射ヘッドの洗浄方法であって、前記充填工程は、洗浄液を前記供給流路、前記複数の個別流路、前記回収流路の順に流動させることで、前記液体噴射ヘッド内に充填されていた洗浄液とは異なる液体を洗浄液に置換する。液体噴射ヘッドは液体が供給流路、個別流路、回収流路を流通する、いわゆる循環型の液体噴射ヘッドであるため、仮に全てのノズルにインクなどの固形物があったとしても液体噴射ヘッドの内部にある流路のうちノズルの近傍までインクや処理液などを洗浄液に置換することができる。このようにノズルの近傍まで洗浄液を行き渡らせることができるので、ノズルにあるインクなどの固化物を洗浄液で融解させ、最終的には全てのノズルを回復することができる。
【符号の説明】
【0165】
W…洗浄液、1…記録装置(液体噴射装置)、2…インクジェット式ヘッド(ヘッド、液体噴射ヘッド)、20…ノズル基板、21…ノズル、21A…回復ノズル、21B…未回復ノズル、23…噴射面、30…連通板、40…圧力室基板、41、42…圧力室、50…液室形成基板、60…個別流路、70…コンプライアンス基板、81…供給側共通液室、82…回収側共通液室、83、83A、83B…供給流路、84、84A、84B…回収流路、100、100A、100B…ヘッドチップ、110…流路形成基板、120…振動板、130…圧電アクチュエーター、140…配線基板、500…液体循環装置、501、501A、501B…供給チューブ、502、502A、502B…回収チューブ