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特開2024-117964フッ化物イオン電池用正極活物質及びフッ化物イオン電池
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  • 特開-フッ化物イオン電池用正極活物質及びフッ化物イオン電池 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024117964
(43)【公開日】2024-08-30
(54)【発明の名称】フッ化物イオン電池用正極活物質及びフッ化物イオン電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/58 20100101AFI20240823BHJP
   H01M 10/0562 20100101ALI20240823BHJP
   H01M 10/05 20100101ALI20240823BHJP
【FI】
H01M4/58
H01M10/0562
H01M10/05
【審査請求】有
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023024082
(22)【出願日】2023-02-20
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)2021年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「電気自動車用革新型蓄電池開発/フッ化物電池の研究開発、亜鉛負極電池の研究開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100092624
【弁理士】
【氏名又は名称】鶴田 準一
(74)【代理人】
【識別番号】100147555
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 公一
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 宣夫
(74)【代理人】
【識別番号】100133835
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 努
(74)【代理人】
【識別番号】100202441
【弁理士】
【氏名又は名称】岩田 純
(72)【発明者】
【氏名】野井 浩祐
(72)【発明者】
【氏名】下田 景士
【テーマコード(参考)】
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5H029AJ05
5H029AK01
5H029AK18
5H029AL02
5H029AL06
5H029AL07
5H029AL11
5H029AL16
5H029AM03
5H029AM04
5H029AM07
5H029AM11
5H050AA07
5H050BA15
5H050CA01
5H050CA29
5H050CB02
5H050CB07
5H050CB08
5H050CB11
5H050CB20
(57)【要約】
【課題】フッ化物イオン電池のサイクル特性を向上させることが可能な正極活物質を開示する。
【解決手段】本開示のフッ化物イオン電池用正極活物質はAgCuFから構成される。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
AgCuFである、フッ化物イオン電池用正極活物質。
【請求項2】
フッ化物イオン電池であって、正極活物質層、電解質層及び負極活物質層を有し、
前記正極活物質層が、請求項1に記載の正極活物質を含む、
フッ化物イオン電池。
【請求項3】
前記電解質層が、固体電解質を含む、
請求項2に記載のフッ化物イオン電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願はフッ化物イオン電池用正極活物質及びフッ化物イオン電池を開示する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、フッ化物イオン電池用の正極活物質として、フッ化銅(CuF)が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2008-537312号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示されたフッ化物イオン電池用正極活物質は、サイクル特性に関して改善の余地がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本願は上記課題を解決するための手段として、以下の複数の態様を開示する。
<態様1>
AgCuFである、フッ化物イオン電池用正極活物質。
<態様2>
フッ化物イオン電池であって、正極活物質層、電解質層及び負極活物質層を有し、
前記正極活物質層が、態様1の正極活物質を含む、
フッ化物イオン電池。
<態様3>
前記電解質層が、固体電解質を含む、
態様2のフッ化物イオン電池。
【発明の効果】
【0006】
本開示のフッ化物イオン電池用正極活物質によれば、フッ化物イオン電池のサイクル特性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】フッ化物イオン電池の構成の一例を概略的に示している。
図2】実施例1に係る正極活物質のX線回折ピークを示している。
図3】実施例1に係る評価セルの充電・放電曲線を示している。
図4】比較例1に係る評価セルの充電・放電曲線を示している。
図5】実施例1及び比較例1に係る各々の評価セルについて、サイクル毎の放電容量を示している。
図6】実施例1に係る正極合材であって放電後のものについてのX線回折ピーク、及び、充電後のものについてのX線回折ピークを各々示している。
【発明を実施するための形態】
【0008】
1.フッ化物イオン電池用正極活物質
本開示のフッ化物イオン電池用正極活物質は、AgCuFである。すなわち、本開示の正極活物質は、AgとCuとの複合フッ化物からなる。
【0009】
正極活物質は、フッ化物イオン電池の放電時に脱フッ素化され、充電時にフッ素化されるものと考えられる。ここで、従来の正極活物質(例えば、CuF)は、活物質内のフッ化物イオン拡散の律速により、充放電反応に寄与できる活物質の粒子サイズに限界がある(すなわち、大きな粒子では、その表面しか反応に寄与できない)。また、放電、充電を繰り返すうちに活物質の再結晶が生じ、粒子サイズがサイクル毎に大きくなる。よって、充放電に寄与できる活物質の割合が徐々に減り、結果としてサイクル毎の容量劣化が生じる。これに対し、AgCuFは、フッ化物イオン電池の放電時にFを放出してAgとCuとに分解する。分解によって生成したAgとCuとは、充電時にFとともに化合してAgCuFに戻る。充電時に生成するAgCuFは、従来の正極活物質によって生成するフッ化物(例えば、CuF)よりもFイオンの拡散が速いため、仮に正極活物質のサイズが大きくなったとしても、正極活物質の表面近傍だけでなく内部まで充放電反応に寄与できると考えられる。結果として、サイクル毎の容量劣化が生じ難くなる。このような充放電に伴う可逆反応を生じさせるためには、正極活物質として、AgとCuとの単なる混合物ではなく、AgとCuとの複合フッ化物を用いることが重要と考えられる。
【0010】
正極活物質の形状は、フッ化物イオン電池の正極活物質として機能し得る形状であればよい。正極活物質は、例えば、粒子状であってもよい。正極活物質粒子の平均粒子径(D50)は、例えば、1nm以上500μm以下、10nm以上100μm以下、又は、20nm以上50μm以下であってもよい。尚、本願にいう平均粒子径(D50)とは、レーザー回折・散乱法によって求めた体積基準の粒度分布における積算値50%での粒子径(メジアン径)である。
【0011】
2.フッ化物イオン電池用正極合材
本開示のフッ化物イオン電池用正極合材は、正極活物質としてのAgCuFを含む。当該正極合材は、AgCuFとともに、AgCuF以外の正極活物質を含んでいてもよい。また、当該正極合材は、電解質を含んでいてもよい。また、当該正極合材は、導電材を含んでいてもよい。また、当該正極合材は、バインダーを含んでいてもよい。一実施形態において、フッ化物イオン電池用正極合材は、少なくとも、正極活物質としてのAgCuFと、電解質とを含んでいてもよい。一実施形態において、フッ化物イオン電池用正極合材は、少なくとも、正極活物質としてのAgCuFと、電解質と、導電材とを含んでいてもよい。一実施形態において、フッ化物イオン電池用正極合材は、少なくとも、正極活物質としてのAgCuFと、電解質と、導電材と、バインダーとを含んでいてもよい。
【0012】
2.1 正極活物質
正極合材における正極活物質の含有量は、例えば、20質量%以上100質量%以下、30質量%以上100質量%以下、又は、40質量%以上100質量%以下であってもよい。正極合材に含まれる正極活物質は、AgCuFのみであってもよいし、AgCuFとAgCuF以外の正極活物質との組み合わせであってもよい。AgCuF以外の正極活物質としては、例えば、フッ化銅等のフッ化物イオン電池用正極活物質として公知のものが採用され得る。正極合材に含まれる正極活物質の合計(100質量%)に占めるAgCuFの割合は、例えば、30質量%以上100質量%以下、40質量%以上100質量%以下、50質量%以上100質量%以下、60質量%以上100質量%以下、70質量%以上100質量%以下、80質量%以上100質量%以下、90質量%以上100質量%以下、95質量%以上100質量%以下、99質量%以上100質量%以下、又は、100質量%であってもよい。
【0013】
2.2 電解質
正極合材は、電解質を含んでいてもよい。電解質は、固体電解質であっても液体電解質(電解液)であってもよい。特に、正極合材が固体電解質を含む場合に、高い性能が確保され易い。正極合材における固体電解質の含有量は、例えば、0質量%以上80質量%以下、0質量%以上70質量%以下、又は、0質量%以上60質量%以下であってもよい。電解質は、1種のみであってもよく、2種以上の組み合わせであってもよい。
【0014】
固体電解質は、例えば、金属元素及びフッ素元素を含む無機固体電解質であってもよい。無機固体電解質は、金属元素を1種のみ含んでいてもよく、2種以上含んでいてもよい。無機固体電解質は、例えば、La、Ce等のランタノイド元素のフッ化物;Li、Na、K、Rb、Cs等のアルカリ元素のフッ化物;Ca、Sr、Ba等のアルカリ土類元素のフッ化物等から選ばれる少なくとも1種であってもよい。具体的には、La及びBaのフッ化物(例えば、La0.9Ba0.12.9)、La及びSrのフッ化物(例えば、La0.95Sr0.052.95)、Ca及びBaのフッ化物(例えば、Ca0.5Ba0.5)、Pb及びSnのフッ化物等から選ばれる少なくとも1種であってもよい。一実施形態において、固体電解質は、少なくともLa、Sr及びFを含むものであってもよい。一実施形態において、固体電解質は、少なくとも、Ca、Ba及びFを含むものであってもよい。一実施形態において、固体電解質は、少なくとも、Pb、Sn及びFを含むものであってもよい。固体電解質におけるフッ素元素は、キャリアであるフッ化物イオン(F)として機能し得る。固体電解質の形状は、特に限定されるものではない。固体電解質は、例えば、粒子状であってもよい。
【0015】
液体電解質は、例えば、溶媒と前記溶媒に溶解した塩とを含む。溶媒は、例えば、有機溶媒であってよい。有機溶媒は、塩を溶解可能なものであればよい。有機溶媒は、例えば、トリエチレングリコールジメチルエーテル(G3)、テトラエチレングリコールジメチルエーテル(G4)等のR-O(CHCHO)-R(R及びRは、それぞれ独立に、炭素数4以下のアルキル基、又は、炭素数4以下のフルオロアルキル基であり、nは2~10の範囲内である)で表されるグライム;エチレンカーボネート(EC)、フルオロエチレンカーボネート(FEC)、ジフルオロエチレンカーボネート(DFEC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート(BC)等の環状カーボネート;ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、エチルメチルカーボネート(EMC)等の鎖状カーボネート、から選ばれる少なくとも1種であってもよい。また、有機溶媒は、イオン液体であってもよい。上記の溶媒に溶解させる塩は、例えば、フッ化物塩であってもよい。フッ化物塩は、例えば、無機フッ化物塩、有機フッ化物塩及びイオン液体等から選ばれる少なくとも1種であってもよい。無機フッ化物塩は、例えば、XF(Xは、Li、Na、K、Rb及びCsから選ばれる少なくとも1種である)であってもよい。有機フッ化物塩は、テトラメチルアンモニウムカチオン等のアンモニウムカチオンとフッ素含有アニオンとを有するものであってもよい。液体電解質は、例えば、上記の溶媒と、当該溶媒1Lに対して0.1mol以上40mol以下、又は、1mol以上10mol以下の濃度で溶解した上記の塩と、を含むものであってもよい。
【0016】
2.3 導電材
正極合材は、導電材を含んでいてもよい。導電材は、電子伝導性を有するものであればよい。導電材は、1種のみであってもよく、2種以上の組み合わせであってもよい。導電材は、例えば、炭素材料からなるものであってもよい。導電材としての炭素材料は、例えば、アセチレンブラック、ファーネスブラック、サーマルブラック等のカーボンブラック、グラフェン、フラーレン、カーボンナノチューブ等から選ばれる少なくとも1種であってもよい。導電材の形状は、特に限定されるものではない。導電材は、例えば、粒子状又は繊維状であってもよい。
【0017】
2.4 バインダー
正極合材は、バインダーを含んでいてもよい。バインダーは、フッ化物イオン電池において、化学的及び電気的に安定なものであればよい。バインダーは、1種のみであってもよく、2種以上の組み合わせであってもよい。バインダーは、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)系バインダーやポリテトラフルオロエチレン(PTFE)系バインダーのようなフッ素系バインダーであってもよいし、スチレンブタジエンゴム(SBR)のようなゴム系バインダーであってもよい。
【0018】
2.5 補足
正極合材は、上記の各成分以外の各種の添加剤を含んでいてもよい。正極合材は、上記の各成分を混合することにより得ることができる。混合方法は、特に限定されるものではなく、例えば、ボールミルによる乾式又は湿式混合、或いは、スラリー混練等であってもよい。また、混合の前に、正極活物質のプレ粉砕処理を行ってもよい。
【0019】
3.フッ化物イオン電池
図1に一実施形態に係るフッ化物イオン電池100の構成を概略的に示す。フッ化物イオン電池100は、正極活物質層10、電解質層20及び負極活物質層30を有する。前記正極活物質層10は、本開示の正極活物質(すなわち、AgCuF)を含む。
【0020】
3.1 正極活物質層
正極活物質層10は、例えば、上記の正極合材からなるものであってよい。正極活物質層10の形状は、特に限定されるものではなく、例えば、略平面を有するシート状であってもよい。正極活物質層10の厚みは、特に限定されるものではなく、フッ化物イオン電池100の構成等に応じた適切な厚みであればよい。正極活物質層10は、例えば、100nm以上1mm以下の厚みを有していてもよい。
【0021】
3.2 電解質層
電解質層20は、正極活物質層10と負極活物質層30との間に配置される。電解質層20は、少なくとも電解質を含む。一実施形態において、電解質層20は、少なくとも固体電解質を含んでいてもよい。一実施形態において、電解質層20は、固体電解質とバインダーとを含んでいてもよい。一実施形態において、電解質層20は、液体電解質と当該液体電解質を保持するためのセパレータとを含んでいてもよい。
【0022】
電解質層20に含まれる電解質は、固体電解質であっても液体電解質であってもよい。特に、電解質層20が固体電解質を含む場合に、高い性能が確保され易い。電解質は、1種のみであってもよく、2種以上の組み合わせであってもよい。固体電解質や液体電解質は、上述の正極合材に含まれ得るものとして例示されたものの中から、適宜選択されればよい。正極合材に含まれ得る電解質と、電解質層20に含まれる電解質とは、同じ種類であってもよいし、異なる種類であってもよい。
【0023】
電解質層20に含まれ得るバインダーは、1種のみであってもよく、2種以上の組み合わせであってもよい。バインダーは、上述の正極合材に含まれ得るものとして例示されたものの中から、適宜選択されればよい。正極合材に含まれ得るバインダーと、電解質層20に含まれ得るバインダーとは、同じ種類であってもよいし異なる種類であってもよい。
【0024】
電解質層20が液体電解質を保持するためのセパレータを有する場合、当該セパレータは、フッ化物イオン電池のセパレータとして公知のものをいずれも採用可能である。
【0025】
電解質層20は、例えば、充電によって一部が負極活物質層30となるものであってもよい。具体的には、電解質層20は、フッ化物イオン電池100の充電時に、電解質層20と負極集電体50との界面で固体電解質としての金属フッ化物の脱フッ化反応が生じさせ、当該界面に負極活物質層30としての金属層(例えばPb層)を生成させ得るものであってもよい。
【0026】
電解質層20の形状は、特に限定されるものではなく、例えば、略平面を有するシート状であってもよい。電解質層20の厚みは、特に限定されるものではなく、フッ化物イオン電池100の構成等に応じた適切な厚みであればよい。電解質層20は、例えば、100nm以上1mm以下の厚みを有していてもよい。
【0027】
3.3 負極活物質層
負極活物質層30は、少なくとも、負極活物質を含む。負極活物質層30は、負極活物質とともに、電解質、導電材及びバインダーのうちの少なくとも1種を含んでいてもよい。負極活物質層30における各成分の含有量は、従来と同様であってよい。
【0028】
負極活物質層30に含まれる負極活物質は、例えば、金属単体、合金、金属酸化物、金属フッ化物、炭素材料、及び、ポリマー材料から選ばれる少なくとも1種であってもよい。負極活物質を構成する金属元素は、例えば、La、Ca、Al、Eu、Li、Si、Ge、Sn、In、V、Cd、Cr、Fe、Zn、Ga、Ti、Nb、Mn、Yb、Zr、Sm、Ce、Mg及びPbから選ばれる少なくとも1種であってもよい。負極活物質を構成する炭素材料は、例えば、黒鉛、コークス及びカーボンナノチューブから選ばれる少なくとも1種であってもよい。負極活物質を構成するポリマー材料は、ポリアニリン、ポリピロール、ポリアセチレン及びポリチオフェンから選ばれる少なくとも1種であってもよい。
【0029】
負極活物質層30に含まれる電解質は、固体電解質であっても液体電解質であってもよい。特に、負極活物質層30が固体電解質を含む場合に、高い性能が確保され易い。電解質は、1種のみであってもよく、2種以上の組み合わせであってもよい。固体電解質や液体電解質は、上述の正極合材に含まれ得るものとして例示されたものの中から、適宜選択されればよい。正極合材に含まれ得る電解質と、負極活物質層30に含まれ得る電解質とは、同じ種類であってもよいし、異なる種類であってもよい。
【0030】
負極活物質層30に含まれ得る導電材は、1種のみであってもよく、2種以上の組み合わせであってもよい。導電材は、上述の正極合材に含まれ得るものとして例示されたものの中から、適宜選択されればよい。正極合材に含まれ得る導電材と、負極活物質層30に含まれ得る導電材とは、同じ種類であってもよいし異なる種類であってもよい。
【0031】
負極活物質層30に含まれ得るバインダーは、1種のみであってもよく、2種以上の組み合わせであってもよい。バインダーは、上述の正極合材に含まれ得るものとして例示されたものの中から、適宜選択されればよい。正極合材に含まれ得るバインダーと、負極活物質層30に含まれ得るバインダーとは、同じ種類であってもよいし異なる種類であってもよい。
【0032】
負極活物質層30の形状は、特に限定されるものではなく、例えば、略平面を有するシート状であってもよい。負極活物質層30の厚みは、特に限定されるものではなく、フッ化物イオン電池100の構成等に応じた適切な厚みであればよい。負極活物質層30は、例えば、100nm以上1mm以下の厚みを有していてもよい。
【0033】
3.4 その他の構成
フッ化物イオン電池100は、正極活物質層10に電気的に接続された正極集電体40、及び、負極活物質層30に電気的に接続された負極集電体50を有していてもよい。正極集電体40及び負極集電体50は、公知のものと同様であってよく、例えば、箔状、メッシュ状、多孔質状等の各種の集電体が採用され得る。
【0034】
フッ化物イオン電池100は、液体成分を含まない全固体電池であってもよいし、液体成分を含む電池であってもよい。また、フッ化物イオン電池100は、一次電池であってもよく、二次電池であってもよい。また、フッ化物イオン電池100の形状は、例えば、コイン型、ラミネート型、円筒型又は角型であってもよい。フッ化物イオン電池100は、上述の各層を乾式又は湿式にて成形すること等を経て、容易に製造することができる。
【0035】
4.フッ化物イオン電池を有する車両
上述の通り、本開示の技術によれば、フッ化物イオン電池のサイクル特性を向上させることができる。このようなフッ化物イオン電池は、例えば、ハイブリッド車(HEV)、プラグインハイブリッド車(PHEV)及び電気自動車(BEV)から選ばれる少なくとも1種の車両において好適に使用され得る。すなわち、本開示の技術は、フッ化物イオン電池を有する車両であって、前記フッ化物イオン電池が、正極活物質層、電解質層及び負極活物質層を有し、前記正極活物質層が、正極活物質としてのAgCuFを含むもの、としての側面も有する。フッ化物イオン電池の詳細については、上述した通りである。
【実施例0036】
以下、実施例を示しつつ、本開示の技術についてさらに詳細に説明するが、本開示の技術は以下の実施例に限定されるものではない。
【0037】
1.実施例1
1.1 正極活物質の作製
AgFとCuFとを、モル比で1:1となるように秤量したうえで、ボールミル装置(フリッチュ社製、遊星型ボールミルプレミアムラインPL-7)を用いて、メカニカルミリングによって混合・反応させることで、AgCuFからなる正極活物質を得た。尚、メカニカルミリングは、回転数400rpmで1時間、乾燥アルゴン雰囲気中で行った。図2に、実施例1に係る正極活物質のX線回折測定の結果を示す。尚、X線回折測定は、リガク社製の全自動多目的X線回折装置SmartLabを用い、CuKα線を照射する集中法により行った。図2に示されるように、実施例1に係る正極活物質は、AgCuF相を主相として含むものであった。
【0038】
1.2 固体電解質の作製
LaFとSrFとを、モル比で0.95:0.05となるように秤量したうえで混合し、乾燥アルゴン雰囲気中で、800℃にて10時間焼成して、La0.95Sr0.052.95からなる結晶を作製した。得られた結晶を、ボールミル装置(PL-7)を用いて、乾燥アルゴン雰囲にて、回転数300rpmで3時間粉砕処理することで、La0.95Sr0.052.95からなる粉末状の固体電解質を得た。
【0039】
1.3 正極合材の作製
上記の正極活物質と、上記の固体電解質と、導電材としてのアセチレンブラックとを、ボールミル装置(PL-7)を用いて、メカニカルミリングによって混合して、粉末状の正極合材を得た。尚、メカニカルミリングは、回転数200rpmで3時間、乾燥アルゴン雰囲気中で行った。正極合材の組成は、質量比で、正極活物質:固体電解質:導電材=35:59:5であった。
【0040】
1.4 フッ化物イオン電池の作製
負極活物質層として、220mgのPb金属板を用意した。また、当該Pb金属板の上に、バッファー層として、PbF粉末とアセチレンブラック粉末との混合物50mgからなる圧粉層を形成した。上記バッファー層中のPbFは、フッ化物イオン電池の充電時に補助的な負極活物質として機能し、Pb金属板の放電、充電により生じる不可逆容量を補うことが期待される。尚、混合物におけるアセチレンブラックは、混合物全体に対して5質量%であった。
【0041】
上述のLa0.95Sr0.052.95からなる固体電解質の粉末150mgを圧粉成形して、電解質層である成形体Aを得た。
【0042】
上述の正極合材15mgを圧粉成形して、正極活物質層である成形体Bを得た。
【0043】
負極集電体としてのアルミニウム箔と、負極活物質層と、バッファー層と、成形体A(電解質層)と、成形体B(正極活物質層)と、正極集電体としての白金箔とをこの順に積層して、全固体フッ化物イオン電池を作製した。全固体フッ化物イオン電池の直径(電極面の直径)はφ11.28mmであった。作製された全固体フッ化物イオン電池を、セラミックス製の内径11.28mmの円筒容器内に配置し、負極集電体と正極集電体との両側から直径11.28mmのステンレス鋼製の円柱で挟んで固定した。
【0044】
2.比較例1
正極活物質としてAgCuFに替えてCuFを用いたこと以外は、実施例1と同様にして粉末状の正極合材及び全固体フッ化物イオン電池を得た。
【0045】
3.フッ化物イオン電池の評価
各々の全固体フッ化物イオン電池について、密閉容器中で真空引きしつつ、試験温度200℃、電流密度0.05mA/cmで10回、放電及び充電を繰り返した。放電終止電圧、充電終止電圧はそれぞれ-0.3V、1.5Vとした。放電・充電試験には、電気化学測定システム(バイオロジック社製、VMP-300 高性能電気化学測定システム)を用いた。
【0046】
図3及び図4に、放電・充電試験の結果を示す。図3が実施例1、図4が比較例1に係る結果である。また、図5に、各々の電池の放電容量について、サイクル毎にプロットした結果を示す。図3~5において、各々の電池の充電容量及び放電容量の値は、正極合材の重量(15mg)当たりで規格化した。
【0047】
図3~5に示されるように、正極活物質としてAgCuFを用いた実施例1は、CuFを用いた比較例1と比べて、サイクル毎の容量劣化が抑制され、すなわち高いサイクル特性を示した。
【0048】
正極活物質による作用、効果を確認するために、実施例1のフッ化物イオン電池の正極活物質層(正極合材)について、放電後及び充電後の各々において、X線回折測定を行い、正極活物質の結晶構造の変化を確認した。その結果を図6に示す。尚、ここでのX線回折測定は、ピーク分離能を上げるためにX線回折装置(SmartLab)にヨハンソンモノクロメータを取り付けて、CuKα1線を照射する集中法により行った。
【0049】
図6に示されるように、AgCuFを含む正極活物質層においては、放電後にAg単体及びCu単体の生成が確認された。一方、充電後にはAgCuFが再生成することが確認された。
【0050】
フッ化物イオン電池の正極活物質は、充放電を繰り返すうちに、粗大化(粒凝集や粒成長など)する場合がある。比較例1のCuFは、活物質内のフッ化物イオン拡散の律速により、充放電反応に寄与できる活物質の粒子サイズに限界がある(すなわち、大きな粒子では、その表面しか反応に寄与できない)。そのため、活物質の粗大化とともに、充放電に寄与できる活物質の割合が徐々に減り、結果としてサイクル毎の容量劣化が生じる。これに対し、AgCuFは、CuFよりもFイオンの拡散が速いものと考えられ、仮に正極活物質が粗大化したとしても、正極活物質の表面近傍だけでなく内部まで十分に放電・充電反応に寄与できると考えられる。結果として、実施例1では、サイクル毎の容量劣化が抑制されたものと推察される。
【0051】
以上の通り、フッ化物イオン電池の正極活物質としてAgCuFを用いた場合、CuFを用いた場合よりも、フッ化物イオン電池のサイクル特性が向上することが分かった。
【0052】
尚、上記の実施例では、メカニカルミリングによってAgCuFからなる正極活物質を作製する場合を例示したが、AgCuFからなる正極活物質はこれ以外の方法(例えば、焼成法)によっても作製可能である。
【0053】
また、上記の実施例では、正極合材において、正極活物質とともに固体電解質や導電材を用いた場合を例示したが、正極合材の構成成分はこれに限定されるものではない。正極合材は少なくとも正極活物質を含むものであればよく、任意にその他の成分を含み得る。
【0054】
また、上記の実施例では、フッ化物イオン電池として全固体電池を例示したが、フッ化物イオン電池の形態はこれに限定されるものではない。液体電解質等の各種液体を含むフッ化物イオン電池においても、正極活物質としてAgCuFを用いることで、サイクル特性向上効果が得られるものと考えられる。
【符号の説明】
【0055】
10 正極活物質層
20 電解質層
30 負極活物質層
40 正極集電体
50 負極集電体
100 フッ化物イオン電池
図1
図2
図3
図4
図5
図6