(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024117969
(43)【公開日】2024-08-30
(54)【発明の名称】冷凍サイクル装置の制御装置
(51)【国際特許分類】
F25B 41/26 20210101AFI20240823BHJP
F24F 11/84 20180101ALI20240823BHJP
F25B 49/02 20060101ALI20240823BHJP
【FI】
F25B41/26 A
F24F11/84
F25B49/02 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023024090
(22)【出願日】2023-02-20
(71)【出願人】
【識別番号】505461072
【氏名又は名称】日本キヤリア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001380
【氏名又は名称】弁理士法人東京国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】寺田 昌功
(72)【発明者】
【氏名】石ヶ谷 章弘
(72)【発明者】
【氏名】鹿屋 宏気
【テーマコード(参考)】
3L260
【Fターム(参考)】
3L260AB02
3L260BA32
3L260CA32
3L260CB12
3L260FA09
3L260FB09
3L260FC34
(57)【要約】
【課題】周囲温度の低下に対する電磁コイルの抵抗値の低下を補償し、冷凍サイクル装置を良好に運転可能とする。
【解決手段】
冷凍サイクル装置の制御装置は、冷凍サイクルを循環する冷媒が流れる冷媒配管に介装され、冷媒が流れる方向を電磁コイルへの通電により切換可能に構成された四方弁を備える。冷媒が流れる方向を四方弁により切り換える流路切換時に電磁コイルに通電するコイル通電制御部と、電磁コイルの温度であるコイル温度Tsを検出するコイル温度検出部と、を備え、コイル通電制御部は、コイル温度検出部により検出されたコイル温度Tsの低下に対し、流路切換時に電磁コイルに流れるコイル電流Isの増大を抑制する。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷凍サイクルを循環する冷媒が流れる冷媒配管に介装され、前記冷媒が流れる方向を電磁コイルへの通電により切換可能に構成された四方弁を備える冷凍サイクル装置の制御装置であって、
前記冷媒が流れる方向を前記四方弁により切り換える流路切換時に前記電磁コイルに通電するコイル通電制御部と、
前記電磁コイルの温度であるコイル温度を検出するコイル温度検出部と、を備え、
前記コイル通電制御部は、前記コイル温度検出部により検出されたコイル温度の低下に対し、前記流路切換時に前記電磁コイルに流れるコイル電流の増大を抑制する、冷凍サイクル装置の制御装置。
【請求項2】
前記コイル通電制御部は、
前記電磁コイルに対して直列に接続された可変抵抗器を備え、
前記可変抵抗器の抵抗値を前記コイル温度が低いときほど増大させる、請求項1に記載の冷凍サイクル装置の制御装置。
【請求項3】
前記コイル通電制御部は、
前記流路切換時に、前記電磁コイルに対して切換後の方向に応じた向きに所定の時間に亘って通電し、
前記電磁コイルに通電する際の電圧のデューティ比を前記コイル温度が低いときほど減少させる、請求項1に記載の冷凍サイクル装置の制御装置。
【請求項4】
前記コイル通電制御部は、
出力電圧可変の直流電源回路を備え、
前記直流電源回路により前記電磁コイルに印加される電圧を前記コイル温度が低いときほど低下させる、請求項1に記載の冷凍サイクル装置の制御装置。
【請求項5】
前記コイル温度検出部は、
外気温を検出する外気温センサを備え、
前記外気温センサにより検出された外気温を、前記コイル温度とする、請求項1から4のいずれか一項に記載の冷凍サイクル装置の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明に係る実施形態は、冷凍サイクル装置の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
冷暖房運転を切換可能なヒートポンプ式の空気調和機等の冷凍サイクル装置では、冷媒が流れる方向を切り換えることにより、冷房、暖房および暖房時の除霜等の運転モードを切り換えることが可能である。冷媒が流れる方向の切り換え、つまり、運転モードの切り換えには、四方流路弁(以下「四方弁」という)が用いられるのが一般的であり、四方弁には、流路切換用のスライドバルブと呼ばれる弁体部と、この弁体部を駆動する作動圧を生じさせるパイロット電磁弁と、が設けられる。パイロット電磁弁には、駆動源として電磁コイルが用いられ、電磁コイルに対する通電により弁体部が移動して冷媒の流路が切り換えられ、運転モードが切り換えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、電磁コイルは、温度の低下に対して抵抗値が減少する特性を有する。ヒートポンプ式の空気調和機において、四方弁は、室外機に収容されて室外に配置されるため、例えば、寒冷地や冬期における運転等、外気温が低い条件での運転の際には、四方弁および電磁コイルが外気により冷やされ、電磁コイルの抵抗値が減少する。このような状態で常温時と同様に電磁コイルに通電すると、電磁コイルおよびその電源回路に流れる電流が抵抗値の減少により増大し、電源回路に異常な発熱が生じたり、電源回路を過大な負荷から保護するための保護動作により電源が遮断されるなどの弊害が生じたりすることが懸念される。
【0005】
このような実状に鑑み、本発明は、温度の低下に対する電磁コイルの抵抗値の低下を補償し、電磁コイルの電源回路に異常な発熱が生じたり、電源回路の保護のために電源が停止するなどの弊害が生じたりする事態を回避して、空気調和機等の冷凍サイクル装置をより良好に運転させることのできる冷凍サイクル装置の制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記の課題を解決するため、本発明の実施形態は、冷凍サイクルを循環する冷媒が流れる冷媒配管に介装され、前記冷媒が流れる方向を電磁コイルへの通電により切換可能に構成された四方弁を備える冷凍サイクル装置の制御装置であって、前記冷媒が流れる方向を前記四方弁により切り換える流路切換時に前記電磁コイルに通電するコイル通電制御部と、前記電磁コイルの温度であるコイル温度を検出するコイル温度検出部と、を備え、前記コイル通電制御部は、前記コイル温度検出部により検出されたコイル温度の低下に対し、前記流路切換時に前記電磁コイルに流れるコイル電流の増大を抑制する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】本発明の一実施形態に係る空気調和機の構成を模式的に示す概略図である。
【
図2】同空気調和機に備わる四方弁の外観を示す平面図である。
【
図4】同四方弁に備わるパイロット電磁弁の駆動回路の構成を示す回路図である。
【
図5】同パイロット電磁弁に備わる電磁コイルの、運転モード切換時における通電状態を示す説明図である。
【
図6】同電磁コイルの温度特性とコイル抵抗値の低下に対する補償動作とを示す説明図である。
【
図7】同補償動作の概略的な内容を示すフローチャートである。
【
図8】本発明の他の実施形態に係る空気調和機に備わる四方弁の駆動回路の構成を示す回路図である。
【
図9】コイル抵抗値の低下に対する同空気調和機における補償動作(デューティ比の減少)を示す説明図である。
【
図10】コイル抵抗値の低下に対する同空気調和機における補償動作(コイル印加電圧の低下)を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下に図面を参照して、本発明の実施の形態について説明する。
【0009】
<第1実施形態>
(冷凍サイクル装置の構成)
以下、四方弁を備えた冷凍サイクル装置として、
図1に示す冷暖房可能な空気調和機1を例に説明する。この空気調和機1は、圧縮機21と、四方弁22と、室外熱交換器23と、膨張弁24と、室内熱交換器31と、これらの冷凍サイクル要素を接続する冷媒配管4と、からなる。
【0010】
圧縮機21、四方弁22、室外熱交換器23および膨張弁24は、室外機2に収容され、空調対象空間の外部、つまり、屋外に設置される。室内熱交換器31は、室内機3に収容され、空調対象空間の内部、つまり、屋内に設置される。
【0011】
室外機2は、室外熱交換器23に屋外の空気(つまり、外気)を送風する室外送風機23aを備える。さらに、室外機3は、空気調和機1を制御する制御器であるコントローラ101を収納している。室内機3は、室内熱交換器31に屋内の空気を送風する室内送風機31aおよび室内制御器(図示せず)を備える。室内制御器は、コントローラ101と通信可能に構成され、コントローラ101と連携して動作する。コントローラ101は、マイクロコンピュータおよびその周辺回路を備え、ROM等の記憶素子に記録されたプログラムを読み取り、プログラムに従って動作し、指令信号等の出力を実行する。
【0012】
圧縮機21は、アキュムレータ21aを備え、アキュムレータ21aは、冷媒の気液の分離を行い、分離後のガス冷媒を圧縮機21に供給する。圧縮機21は、供給されたガス冷媒を圧縮し、高温高圧のガス冷媒を吐出する。
【0013】
空気調和機1は、コントローラ101からの指令信号に基づき四方弁22の流路を切り換えることにより、冷房運転と暖房運転とで運転モードを切り換えることが可能である。さらに、空気調和機1は、暖房運転中に、四方弁22を一時的に冷房運転時の流路に切り換えることにより、除霜運転を実施する。以下に、それぞれの運転モードにおける空気調和機1の動作について説明する。
【0014】
(冷房運転)
冷房運転時における冷媒の流れを、
図1に太線の矢印により示す。
【0015】
冷房運転時において、冷媒は、圧縮機21を出た後、四方弁22、室外熱交換器23、膨張弁24、室内熱交換器31の順に冷媒配管4を流れる。圧縮機21により圧縮された高温高圧のガス冷媒は、室外熱交換器23を通過する際に、外気との熱交換により冷却され、凝縮する。凝縮後の気液混合冷媒は、膨張弁24を通過する際にその圧力が下げられ、低圧の液冷媒となって室内熱交換器31に供給される。室内熱交換器31に流入した液冷媒は、屋内の空気との熱交換により加熱されて蒸発し、蒸発後の気液混合冷媒が四方弁22を経て、圧縮機21に戻る。この結果、室内熱交換器31と熱交換した冷気により屋内の冷房が実施される。
【0016】
(暖房運転)
暖房運転時における冷媒の流れを、
図1に破線の矢印により示す。
【0017】
暖房運転時において、コントローラ101は、四方弁22内部のスライドバルブ2216を、
図1に破線により示す位置に移動させる。これにより、冷媒は、圧縮機21を出た後、四方弁22、室内熱交換器31、膨張弁24、室外熱交換器23の順に冷媒配管4を流れる。圧縮機21により圧縮された高温高圧のガス冷媒は、室内熱交換器31を通過する際に、室内の空気との熱交換により冷却され、凝縮する。凝縮後の気液混合冷媒は、膨張弁24を通過する際にその圧力が下げられ、低圧の液冷媒となって室外熱交換器23に供給される。室外熱交換器23に流入した液冷媒は、外気との熱交換により加熱されて蒸発し、蒸発後の気液混合冷媒が四方弁22を経て、圧縮機21に戻る。この結果、室内熱交換器31と熱交換した暖気により屋内の暖房が実施される。
【0018】
(除霜運転)
暖房運転時において、室外熱交換器23で冷媒が蒸発する際に、外気から熱が奪われることにより、外気中の水蒸気が凝縮し、水滴となって室外熱交換器23に付着する。ここで、外気温が低いことにより、付着した水分が凍結し、霜を生じる場合がある。この場合は、霜が熱交換の障害となり、熱交換効率が低下する原因となるため、霜を除去する除霜運転を実行する。
【0019】
除霜運転時では、四方弁22を冷房運転時と同様の状態とし、冷媒を冷房運転時と同じ流路で循環させる。ただし、室外送風機23aおよび室内送風機31aは、いずれも停止させる。これにより、圧縮機21から送り出される高温高圧のガス冷媒により室外熱交換器23の熱交換部材を加熱することで、霜を溶解させ、溶解後の水を室外熱交換器23から落下させ、ドレンとして室外機2から排出する。
【0020】
ここで、四方弁22の構成について、
図2および
図3を参照してさらに説明する。
【0021】
図2に示すように、四方弁22は、弁本体221とパイロット電磁弁222とを備える。弁本体221は、4つの継手管j1~j4を備え、パイロット電磁弁222の動作により、継手管j1~j4の接続関係が切り換えられる。第1継手管j1は、圧縮機21の吐出口に接続され、第2継手管j2は、圧縮機21の吸込口(第1実施形態では、アキュムレータ21aの冷媒導入口)に接続されている。第3継手管j3は、室外熱交換器23に備わるガス冷媒用の流出入口に接続され、第4継手管j4は、室内熱交換器31に備わるガス冷媒用の流出入口に接続されている。
【0022】
図3に示すように、弁本体221は、円筒状をなす本体部2211を有するとともに、その内部に設けられた弁座部2212を有し、弁座部2212に形成された3つの開口のそれぞれに、第2継手管j2、第3継手管j3、第4継手管j4が接続されている。弁本体221は、さらに、連結竿2213、第1ピストン2214および第2ピストン2215を有し、第1ピストン2214および第2ピストン2215は、連結竿2213により互いに連結されている。本体部2211の内部は、これら2つのピストン2214、2215により、3つの室(高圧室Ch、第1圧力変換室Ct1、第2圧力変換室Ct2)に区画されている。連結竿2213には、弁座部2212に密着した状態でスライドバルブ2216が取り付けられ、スライドバルブ2216により、第2継手部j2と連通させる継手部を、第3継手部j3と第4継手部j4とで切り換えることが可能である。
図1に示す冷房運転時では、第2継手部j2と第4継手部j4とが連通し、
図2に示す暖房運転時では、第2継手部j2と第3継手部j3とが連通する。
【0023】
パイロット電磁弁222は、円筒状をなすプランジャチューブ2221と、プランジャチューブ2221の一端部に取り付けられたバルブハウジング2222と、他端部に取り付けられた吸引子2223と、を有するとともに、プランジャチューブ2221と同心に、他端部の周囲に配置された電磁コイル2224を有する。プランジャチューブ2221には、プランジャ2225が収容され、プランジャ2225には、バルブハウジング2222に近い先端部にスライドバルブ2226が取り付けられている。
【0024】
第1実施形態において、パイロット電磁弁222は、いわゆる自己保持型のソレノイド弁であり、具体的には、単安定型のラッチングソレノイド弁である。電磁コイル2224を挟んで吸引子2223の反対側に永久磁石2227が配置され、プランジャ2225の基端部と吸引子2223との間には、バルブスプリング2228が圧縮状態で介装されている。プランジャ2225は、バルブスプリング2227によりバルブハウジング2222の方向に付勢された状態にある。バルブハウジング2222には、弁座部2229が設けられた一側とは径方向に対向する他側に、第1継手管j1から延びる第1連通管p1が接続されている。さらに、弁座部2229に対し、第2継手管j2から延びる第2連通管p2、第1圧力変換室Ct1から延びる第3連通管p3および第2圧力変換室Ct2から延びる第4連通管p4が接続されている。
【0025】
以上の構成を有する四方弁22において、プランジャ2225の位置は、電磁コイル2224に対する順方向または逆方向への通電により切り換えられる。
【0026】
暖房運転時には、電磁コイル2224に対して順方向の電圧を印加し、電磁コイル2224に対して順方向に通電する。プランジャ2225に電磁コイル2224の吸着力が働き、プランジャ2225は、バルブハウジング2222に対する近位側の第1位置から遠位側の第2位置に移動する。これにより、パイロット電磁弁222を介して第1連通管p1と第4連通管p4とが接続される一方、第2連通管p2と第3連通管p3とが接続され、第1圧力変換室Ct1には、第2継手管j2を介して低圧側の圧力が導入され、第2圧力変換室Ct2には、第1継手管j1を介して高圧側の圧力(つまり、高圧室Chの圧力)が導入される。第2圧力変換室Ct2と第1圧力変換室Ct1との差圧により、スライドバルブ2216が
図3中、右方に移動し、
図1に示す暖房運転時の流路が形成される。プランジャ2225は、電磁コイル2224への通電を停止した後も永久磁石2227の磁力により第2位置を保持する。
【0027】
暖房運転後における冷房運転の開始時または暖房運転中における除霜運転の開始時には、電磁コイル2224に対して逆方向の電圧を印加し、電磁コイル2224に対して逆方向に通電する。プランジャ2225に対して永久磁石2227の磁力よりも大きな反発力(電磁コイル2224の電磁力とバルブスプリング2228の弾性力との合力)が働き、プランジャ2225は、第2位置から第1位置に移動する。これにより、パイロット電磁弁222を介して第2連通管p2と第4連通管p4とが接続される一方、第1連通管p1と第3連通管p3とが接続され、第1圧力変換室Ct1には、第1継手管j1を介して高圧側の圧力が導入され、第2圧力変換室Ct2には、第2継手管j2を介して低圧側の圧力が導入される。第1圧力変換室Ct1と第2圧力変換室Ct2との差圧により、スライドバルブ2216が
図3中、左方に移動し、
図1に示す冷房運転時の流路が形成される。プランジャ2225は、電磁コイル2224への通電を停止した後もバルブスプリング2228の弾性力により第1位置を保持する。
【0028】
電磁コイル2224への通電は、
図4に示す駆動回路により制御される。
【0029】
第1実施形態において、電磁コイル2224の駆動回路は、直流電源回路Eを備えるとともに、直流電源回路Eにより電磁コイル2224に印加される電圧の向きを順方向と逆方向とで切り換えるスイッチ回路SWを備える。直流電源回路Eは、空気調和機1の電源である商用の交流電源ACの交流電圧を所定の低電圧の直流電圧、例えば、DC15V程度の直流に変換して出力する。スイッチ回路SWは、直列に接続された一対のスイッチ素子s11、s12と直列に接続された一対のスイッチ素子s21、s22とを互いに並列に接続し、一方の対s11、s12の中間点c1と他方の対s21、s22の中間点c2との間に電磁コイル2224を接続した構成である。スイッチ回路SWの動作、つまり、スイッチ素子s11、s12、s21、s22の開閉は、コントローラ101からの指令信号による。各スイッチ素子s11、s12、s21、s22には、トランジスタ等の半導体素子が用いられる。
【0030】
暖房運転時と冷房運転時とのそれぞれにおける電磁コイル2224の通電状態を、
図5に模式的に示す。
【0031】
暖房運転時には、冷房運転時の位置にあるプランジャ2225およびスライドバルブ2216を移動させ、四方弁22を暖房運転時の状態に切り替えるため、その暖房運転の開始時または圧縮機21の運転開始から若干の時間遅れをもってスイッチ素子s11、s22を所定の時間Thに亘って閉じる一方、他のスイッチ素子s12、s21を開いた状態に維持することにより、電磁コイル2224に対して所定の時間Thに亘って順方向に直流電源回路Eの出力電圧を印加する。
【0032】
冷房運転時には、暖房運転時の位置にあるプランジャ2225およびスライドバルブ2216を移動させ、四方弁22を冷房運転時の状態に切り替えるため、その冷房運転の開始時または圧縮機21の運転開始から若干の時間遅れをもってスイッチ素子s12、s21を所定の時間Tcに亘って閉じる一方、他のスイッチ素子s11、s22を開いた状態に維持することにより、電磁コイル2224に対して所定の時間Tcに亘って逆方向に直流電源回路Eの出力電圧を印加する。なお、除霜運転の開始時においてもこの冷房運転時と同様に動作する。
【0033】
第1実施形態において、電磁コイル2224に通電する際の電圧波形は、
図5(a)に示すように、所定の時間Th、Tcに亘って通電を継続する波形である。
図5(a)に示す波形に代えて、
図5(b)に示すように、一周期Tcyl当たりの通電時間Tonを定めるデューティ比Dの設定により、通電のオンとオフとを所定の時間Th、Tcに亘って繰り返す波形を採用してもよい。後述する第2実施形態では、この
図5(b)に示す通電動作を採用する。
【0034】
ここで、電磁コイル2224は、銅線またはアルミ線で形成されているため、一般的な物性として温度の低下に対して抵抗値(コイル抵抗値)Rsが減少する。電磁コイル2224の温度特性を
図6(a)に示す。空気調和機1において、四方弁22は、室外機2に収容されて室外に配置されるため、寒冷地や冬期における運転等、外気温が低い条件での運転の際には、四方弁22および電磁コイル2224がその周囲の外気により冷やされ、電磁コイル2224の抵抗値Rsが減少する。このような状態で常温時と同様に電磁コイル2224に通電すると、直流電源回路Eから電磁コイル2224に流れる電流が増大し、直流電源回路Eに過大な負荷がかかるおそれがある。この際、直流電源回路Eを保護のために緊急停止すれば、四方弁22が作動せず、空気調和機1が運転を開始できないという問題が生じる。
【0035】
第1実施形態では、コイル温度Tsに相当する外気温Toの低下に対し、コイル抵抗値Rsの減少を補償する制御を実施して、コイル電流Isの増大を抑制し、直流電源回路Eに過大な負荷がかかったり、それによる緊急停止に至る事態を回避する。
【0036】
コイル抵抗値Rsの減少に対する第1実施形態に係る補償動作を
図6(b)から
図6(d)に示す。
【0037】
第1実施形態では、
図4に示すように、スイッチ素子s11、s12の中間点c1とスイッチ素子s21、s22の中間点c2との間で、電磁コイル2224に対して直列に可変抵抗器201を接続する。そして、コイル抵抗値Rsの減少に対する補償動作として、可変抵抗器201の抵抗値Raをコイル抵抗値Rsの減少に対して増大させる制御を実施する。抵抗値Raの調整は、コントローラ101からの指令信号による。コントローラ101は、外気温センサ111からの信号を入力し、外気温Toを検出する。そして、可変抵抗器201に対し、外気温Toが低いときほど抵抗値Raを増大させる指令信号を出力する。外気温Toは、コイル温度Tsに対して高い相関性を有する状態パラメータであることから、外気温Toをコイル温度Tsとして採用することが可能である。外気温センサ111は、例えば、外気の流れに対して室外送風機23aの上流側、第1実施形態では、室外送風機23aの外気導入口付近に設置され、室外機2に送り込まれる外気の温度である外気温Toを検出する。
【0038】
なお、コイル温度Tsの検出に用いる専用のセンサを四方弁22の近傍に設けてもよいが、新たなセンサの追加が必要となり、構成が複雑となるうえ、製造コストも増加する。これに対し、外気温センサ111は、冷暖房可能な空気調和機1において、除霜運転を実施するか否かの判定や室外送風機23aの回転数制御、各種保護制御等を実施するため、コントローラ101に予め装備されている。よって、外気温センサ111の採用により、新たなセンサの設置を必要とせず、簡素な構成を維持することができる。
【0039】
図6に示すように、コイル抵抗値Rsが減少する低温の温度領域において、電磁コイル2224の抵抗値Rsの減少を可変抵抗器201によって補い、電磁コイル2224と可変抵抗器201との直列合成抵抗値Rtを適正な値に保つことで、コイル電流Isの過度な増大を抑制することが可能となる。補償動作を実施しない場合のコイル電流Isの変化を、
図6(d)に破線により示す。
【0040】
第1実施形態では、外気温Toが予め設定されている閾値、つまり、所定の温度Ts1よりも高い領域では、可変抵抗器201の抵抗値Raを0とする一方、外気温Toが温度Ts1以下の領域では、コイル抵抗値Rsの減少に合わせて抵抗値Raを増大させることで、直列合成抵抗値Rtを外気温Toが温度Ts1であるときのコイル抵抗値Rs(=R1)またはその近傍に維持する。なお、外気温Toが温度Ts1である場合に抵抗値Rsの電磁コイル2224に流れるコイル電流Isは、直流電源回路Eの保護のために緊急停止する設定電流よりも低くなるように設定されている。
【0041】
第1実施形態に係る補償動作の内容を、
図7に示すフローチャートを参照してさらに説明する。この制御は、コントローラ101により、空気調和機1の運転中、所定の時間ごとに繰り返し実行される。
【0042】
S101では、電磁コイル2224に通電する要求(以下「コイル通電要求」という)があるか否かを判定する。コイル通電要求は、四方弁22の流路を切り換える際、具体的には、暖房運転の開始時、冷房運転の開始時、暖房運転中における除霜運転の開始時および除霜運転から暖房運転への復帰時に発生する。ここで、コイル通電要求がある場合(S101のYES)は、S102へ進み、コイル通電要求がない場合(S101のNO)は、最初(S101)に戻る。
【0043】
S102では、外気温センサ111により検出された外気温Toを読み込んで、S103へ進む。
【0044】
S103では、検出された外気温Toが所定の温度Ts1以下であるか否かを判定する。所定の温度Ts1以下である場合(S103のYES)は、S104へ進み、所定の温度Ts1よりも高い場合(S103のNO)は、S105進み、可変抵抗器201の抵抗値Raを変更することなく、すなわち可変抵抗器201の抵抗値Raをほぼ0としたままで、電磁コイル2224に通電し、今回の処理を終了する。
【0045】
S104では、コイル抵抗値Rsの減少によるコイル電流Isの増加を抑制する処理、つまり、コイル抵抗値Rsの減少に対する補償動作を実施する。具体的には、外気温Toが低いときほど可変抵抗器201の抵抗値Raを増大させ、電磁コイル2224と可変抵抗器201との直列合成抵抗値Rtの減少を抑制する。
【0046】
S105では、スイッチ回路SWを制御して、
図5(a)に示すように電磁コイル2224に所定の方向で直流電源回路Eの電圧を印加し、電磁コイル2224に通電する。
【0047】
第1実施形態に係る空気調和機1の制御装置は、コントローラ101、外気温センサ111、可変抵抗器201およびスイッチ回路SWにより構成される。これらのうち、コントローラ101、可変抵抗器201およびスイッチ回路SWにより「コイル通電制御部」が構成され、コントローラ101および外気温センサ111により「コイル温度検知部」が構成される。そして、
図7に示すフローチャートのS101、S103からS105の処理は、コントローラ101が第1実施形態に係る「コイル通電制御部」として実施する動作に相当し、S102の処理は、コントローラ101が第1実施形態に係る「コイル温度検知部」として実施する動作に相当する。
【0048】
第1実施形態に係る空気調和機1の制御装置は、以上の構成により、四方弁22の流路を切り換える流路切換時に、コイル温度Tsの低下に対する電磁コイル2224の抵抗値(コイル抵抗値Rs)の減少を補償し、電磁コイル2224への通電時に生じるコイル電流Isの増大を抑制する。これにより、電磁コイル2224に過度に大きな電流が流れる事態を回避して、直流電源回路Eに過剰な負荷がかかったり、直流電源回路Eが保護のために緊急停止して、空気調和機1が運転を開始できなくなるなどの弊害が生じたりすることなく、空気調和機1を良好に運転させることが可能となる。
【0049】
また、電磁コイル2224に直列に接続された可変抵抗器201を設け、コイル温度Tsに相当する外気温Toの低下に対してこの可変抵抗器201の抵抗値Raを増大させることで、外気温Toの低下により電磁コイル2224自体に生じた抵抗値Rsの減少を可変抵抗器201により補い、電磁コイル2224と可変抵抗器201との直列合成抵抗値Rtの減少を抑制して、コイル電流Isの増大を抑制することが可能となる。
【0050】
さらに、コイル温度Tsの検出に、冷暖房可能な空気調和機1の室外機2に一般的に備わる外気温センサ111を用いることで、特別なセンサを追加することを必要とせず、製造コストの増大を抑制して、補償動作を実施することが可能となる。
【0051】
<第2実施形態>
図8は、本発明の第2実施形態として、流路切換時に
図5(b)に示す電圧波形により通電する場合の電磁コイル2224の駆動回路の一例を示す。第2実施形態では、流路切換時に電磁コイル2224に通電する際の電圧のデューティ比を変化させる。
図9は、第2実施形態に係る補償動作の基本となる、コイル温度Tsと電磁コイル2224に印加する電圧のデューティ比Dとの関係を示す。なお、第1実施形態において、
図5(b)に示す通電動作を採用する場合は、電磁コイル2224に通電する際の電圧のデューティ比Dは、固定となっている。
【0052】
第2実施形態に係る駆動回路は、第1の実施形態の可変抵抗器201を削除した回路となっている。直流電源回路Eと電磁コイル2224とは、
図4と同様のスイッチ回路SWを介して接続されている。このような構成のもと、電磁コイル2224に対して順方向に通電する場合は、スイッチ素子s11、s22の一方を閉じるとともに、他方を
図5(b)に示す電圧波形により間欠的に開閉させる。他のスイッチ素子s12、s21は、閉じた状態に維持する。電磁コイル2224に対して逆方向に通電する場合は、スイッチ素子s12、s21の一方を閉じるとともに、他方を
図5(b)に示す電圧波形により間欠的に開閉させる。他のスイッチ素子s11、s22は、閉じた状態に維持する。そして、第2実施形態では、コイル抵抗値Rsの減少に対する補償動作として、電磁コイル2224に印加する電圧のデューティ比D(=Ton/Tcyl)を、コイル温度Tsの低下に対して減少させる。第2実施形態においても外気温Toをコイル温度Tsとする。デューティ比Dの調整は、例えば、コントローラ101からの指令信号に基づき、スイッチ回路SWの各スイッチ素子s11、s12、s21、s22のオン・オフタイミングを制御することにより実施する。
【0053】
第2実施形態に係る補償動作の内容は、可変抵抗器201の抵抗値Raを変化させる第1実施形態に対し、
図7に示すフローチャートのS104の処理においてのみ、相違する。具体的には、外気温Toが所定の温度Ts1以下である場合(S103のYES)に、
図9に示すように、外気温To、つまり、コイル温度Tsが低いときほどデューティ比Dを減少させる。他方で、外気温Toが所定の温度Ts1よりも大きい場合(S103のNO)は、デューティ比Dを変化させることなく、初期値である最大値で固定する。ここで、最大値を1(=100%)とすることにより、必要なスイッチ素子s11、s12、s21、s22を連続的にオンするようにしてもよい。
【0054】
第2本施形態に係る空気調和機1の制御装置は、コントローラ101、外気温センサ111およびスイッチ回路SWにより構成される。これらのうち、コントローラ101およびスイッチ回路SWにより、第2実施形態に係る「コイル通電制御部」が構成され、コントローラ101および外気温センサ111により、第2実施形態に係る「コイル温度検知部」が構成される。
【0055】
このように、コイル温度Tsの低下に対し、電磁コイル2224に通電する際の電圧のデューティ比Dを減少させることで、電磁コイル2224の抵抗値Rsの減少に合わせてコイル印可電圧Vsの実効値を低下させて、コイル電流Isの増大を抑制することが可能となる。
【0056】
<第3実施形態>
本発明の第3実施形態では、流路切換時に電磁コイル2224に印加される電圧を変化させる。
【0057】
第3実施形態において、電磁コイル2224の駆動回路は、直流電源回路Eの出力電圧Vsが、
図8中に破線で示すようにコントローラ101から直流電源回路Eへの出力電圧指示に基づき変更可能となっている。直流電源回路Eは、例えば、出力電圧可変のAC/DCコンバータであり、交流電源ACの交流電圧を整流回路により直流に変換するとともに、可変電圧の直流電圧に変換して出力する。そして、第3実施形態では、コイル抵抗値Rsの減少に対する補償動作として、電磁コイル2224に印可する電圧、つまり、直流電源回路Eの出力電圧Vsを、
図10に示すように、コイル温度Tsの低下に対して減少させる。
【0058】
第3実施形態に係る補償動作の内容は、可変抵抗器201の抵抗値Raを変化させる第1実施形態に対し、
図7に示すフローチャートのS104の処理においてのみ、相違する。具体的には、外気温Toが所定の温度Ts1以下である場合(S103のYES)に、
図10に示すように、外気温To、つまり、コイル温度Tsが低いときほどコイル印可電圧、すなわち直流電源回路Eの出力電圧Vsを減少させる。他方で、外気温Toが所定の温度Ts1よりも大きい場合(S103のNO)は、直流電源回路Eの出力電圧Vsを初期値である最大値に固定する。そして、S104またはS103のNOに続くS105では、第1実施形態と同様に、
図5(a)に示すように、スイッチ回路SWの各スイッチ素子s11、s12、s21、s22のオン・オフタイミングを適宜に制御して、電磁コイル2224に通電する。
【0059】
第3実施形態に係る空気調和機1の制御装置は、コントローラ101、外気温センサ111、出力電圧可変の直流電源回路Eおよびスイッチ回路SWにより構成される。これらのうち、コントローラ101、直流電源回路Eおよびスイッチ回路SWにより、第3実施形態に係る「コイル通電制御部」が構成され、コントローラ101および外気温センサ111により、第3実施形態に係る「コイル温度検知部」が構成される。
【0060】
このように、コイル温度Tsの低下に対し、電磁コイル2224に印可される電圧Vs自体を減少させることで、電磁コイル2224の抵抗値Rsの減少によりコイル電流Isの増大を抑制することが可能となる。
【0061】
以上の説明では、四方弁22のパイロット電磁弁222として単安定型のラッチングソレノイド弁を適用したが、適用可能なラッチングソレノイド弁は、単安定型に限らず、双安定型のものであってもよい。双安定型のラッチングソレノイド弁は、プランジャの往復方向に間隔を空けて配置された2つの電磁コイルを備えるとともに、それら2つの電磁コイルの間に介装された永久磁石を備える。そして、いずれか一方または他方の電磁コイルへの通電によりプランジャを暖房運転時または冷房運転時における所定の位置に移動させた後、電磁コイルへの通電を遮断する。プランジャは、永久磁石の磁力により移動後の位置に保持することが可能である。
【0062】
さらに、パイロット電磁弁222は、ラッチングソレノイド弁に限らず、通常のソレノイド弁であってもよい。例えば、電磁コイルへの通電によりプランジャに吸着力を働かせ、プランジャを暖房運転時における所定の位置に移動させる。他方で、電磁コイルへの通電を遮断することにより、プランジャをバルブスプリングの弾性力により元の位置、つまり、冷房運転時における所定の位置に移動させる。プランジャの位置の保持は、暖房運転時では電磁コイルへの通電を継続することにより、冷房運転時ではバルブスプリングの弾性力による。
【0063】
パイロット電磁弁222に通常のソレノイド弁を採用する場合は、コイル抵抗値Rsの減少に対する補償動作により、電磁コイル2224に過度に大きな電流が流れる状態が継続することにより電磁コイル2224に生じる異常な発熱を、直流電源回路Eにおける弊害と併せて回避することが可能となる。
【0064】
また、以上の説明では、四方弁22として直線移動式のスライドバルブ2216を備えたものを適用したが、四方弁22は、これに限らず、回転式のスライドバルブを備えるものであってもよい。
【0065】
さらに、実施の形態として空気調和機1を適用する場合を例に説明したが、空気調和機1に限らず、ヒートポンプ式の給湯器や温水を生成するヒートポンプ式のチラー等、四方弁を有する各種の冷凍サイクル装置を適用することも可能である。
【0066】
本発明の幾つかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0067】
1…空気調和機、2…室外機、21…圧縮機、21a…アキュムレータ、22…四方弁、2224…電磁コイル、23…室外熱交換器、24…膨張弁、3…室内機、31…室内熱交換器、4…冷媒配管、101…コントローラ、111…外気温センサ、201…可変抵抗器、E…直流電源回路。