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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024117978
(43)【公開日】2024-08-30
(54)【発明の名称】鉄道車両用歯車装置の吊り装置
(51)【国際特許分類】
   B61C 9/38 20060101AFI20240823BHJP
【FI】
B61C9/38 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023024106
(22)【出願日】2023-02-20
(71)【出願人】
【識別番号】000003115
【氏名又は名称】東洋電機製造株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000305
【氏名又は名称】弁理士法人青莪
(72)【発明者】
【氏名】武藤 康史
(57)【要約】
【課題】鉛直方向に交差する方向に延び、鉛直方向に第1貫通孔が開設された吊り受け2aと、中空で、内周面部に雌ねじが刻設された軸部3a及び軸部3aの軸方向一端部に第2貫通孔が開設された座部3bを有する吊り部材3と、吊り受け2aに配置される第1緩衝部材4と、座部3bに固定される第2緩衝部材5と、軸部3aの雌ねじに螺合するボルト6とを備える鉄道車両用歯車装置Aの吊り装置1において、噛み合い反力Fを受ける第1緩衝部材4及び第2緩衝部材5の一方の撓みを軽減して芯違い量を減少させる。
【解決手段】第1緩衝部材4及び第2緩衝部材5の弾性係数は可変であり、噛み合い反力Fを受ける第1緩衝部材4及び第2緩衝部材5の一方の弾性係数を他方の弾性係数よりも大きくすると共に、第1緩衝部材4及び第2緩衝部材5の弾性係数の大小を噛み合い反力Fの方向に応じて切り換える制御部11を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
主電動機の回転軸に、入力側と出力側との軸心の変位を許容する継手を介して連結される小歯車軸に固定された小歯車と、この小歯車に噛み合う、車軸に固定された大歯車とが歯車箱内に収納される鉄道車両用歯車装置を台車枠に吊持する鉄道車両用歯車装置の吊り装置であって、
台車枠に設けられ、鉛直方向に交差する方向に延び、第1貫通孔が鉛直方向に開設された吊り受けと、中空で、内周面部に雌ねじが刻設された軸部及びこの軸部の軸方向一端部に、軸部の内部に連通する第2貫通孔が開設された座部を有し、鉄道車両用歯車装置に連結される吊り部材と、吊り受けの鉛直方向上端面に配置される第1緩衝部材と、吊り部材の座部における軸部の軸方向外端面に固定される第2緩衝部材と、吊り部材の軸部の雌ねじに螺合するボルトとを備え、吊り受けの鉛直方向下端面に第2緩衝部材が接触するように、吊り部材の軸部を吊り受けの鉛直方向下方に配置し、吊り受けの第1貫通孔と吊り部材の座部の第2貫通孔とを一致させた状態で、ボルトを第1緩衝部材側から吊り部材の軸部の雌ねじに螺合させることによって、吊り部材が吊り受けに固定されるものにおいて、
第1緩衝部材及び第2緩衝部材の弾性係数は可変であり、小歯車及び大歯車の回転時に発生する噛み合い反力を受ける第1緩衝部材及び第2緩衝部材の一方の弾性係数を第1緩衝部材及び第2緩衝部材の他方の弾性係数よりも大きくすると共に、第1緩衝部材及び第2緩衝部材の弾性係数の大小を、鉄道車両の力行時と回生時とで逆転する噛み合い反力の方向に応じて切り換える制御部を備えることを特徴とする鉄道車両用歯車装置の吊り装置。
【請求項2】
前記第1緩衝部材及び前記第2緩衝部材の夫々には、中央部に、前記ボルトが内挿される開孔が開設され、第1緩衝部材及び第2緩衝部材の夫々は中空であり、内部が、開孔よりも径方向外側に配置される内室と、この内室よりも径方向外側に配置される外室とに画成され、内室と外室とは連通路によって互いに連通され、内室及び外室内に磁性流体が両室を行き来可能に封入され、内室と外室との仕切り部分に電磁石が設けられ、前記吊り受けは、第1緩衝部材及び第2緩衝部材の夫々の内室に対応する部分に当接し、前記制御部は、前記噛み合い反力を受ける第1緩衝部材及び第2緩衝部材の一方の電磁石に通電し、電磁石に発生する磁界によって、内室に存在している磁性流体の粘度を大きくして当該磁性流体を内室に滞留させ、第1緩衝部材及び第2緩衝部材の一方の弾性係数を第1緩衝部材及び第2緩衝部材の他方の弾性係数よりも大きくすることを特徴とする請求項1記載の鉄道車両用歯車装置の吊り装置。
【請求項3】
前記第1緩衝部材及び前記第2緩衝部材の夫々には、中央部に、前記ボルトが内挿される開孔が開設され、第1緩衝部材及び第2緩衝部材の夫々は中空であり、内部に、開孔の外周外側の部分から外周寄りの部分まで至る、圧縮空気が給排される空気室を備え、第1緩衝部材及び第2緩衝部材の夫々には、圧縮空気を空気室に給排する給排気路が接続され、前記吊り受けは、第1緩衝部材及び第2緩衝部材の夫々の空気室に対応する部分に当接し、前記制御部は、前記噛み合い反力を受ける第1緩衝部材及び第2緩衝部材の一方の空気室の空気圧を、第1緩衝部材及び第2緩衝部材の他方の空気室の空気圧よりも高くして、第1緩衝部材及び第2緩衝部材の一方の弾性係数を第1緩衝部材及び第2緩衝部材の他方の弾性係数よりも大きくすることを特徴とする請求項1記載の鉄道車両用歯車装置の吊り装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主電動機の回転軸に、入力側と出力側との軸心の変位を許容する継手を介して連結される小歯車軸に固定された小歯車と、この小歯車に噛み合う、車軸に固定された大歯車とが歯車箱内に収納される鉄道車両用歯車装置を台車枠に吊持する鉄道車両用歯車装置の吊り装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の鉄道用歯車装置の吊り装置として、台車枠に設けられ、鉛直方向に交差する方向に延び、第1貫通孔が鉛直方向に開設された吊り受けと、中空で、内周面部に雌ねじが刻設された軸部及びこの軸部の軸方向一端部に、軸部の内部に連通する第2貫通孔が開設された座部を有し、鉄道車両用歯車装置に連結される吊り部材と、吊り受けの鉛直方向上端面に配置される第1緩衝部材と、吊り部材の座部における軸部の軸方向外端面に固定される第2緩衝部材と、吊り部材の軸部の雌ねじに螺合するボルトとを備え、吊り受けの鉛直方向下端面に第2緩衝部材が接触するように、吊り部材の軸部を吊り受けの鉛直方向下方に配置し、吊り受けの第1貫通孔と吊り部材の座部の第2貫通孔とを一致させた状態で、ボルトを第1緩衝部材側から吊り部材の軸部の雌ねじに螺合させることによって、吊り部材が吊り受けに固定されるものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
ところで、鉄道車両用歯車装置には、小歯車及び大歯車の回転時に噛み合い反力が発生する。また、この噛み合い反力は、鉄道車両の力行時と回生時とで逆転する。このような噛み合い反力によって、第1緩衝部材及び第2緩衝部材には、噛み合い反力の方向に圧縮又は伸長する撓みが生じる。この撓みは、主電動機の回転軸の軸心と小歯車軸の軸心との径方向の変位、すなわち、芯違い量として現れる。上記の通り、従来、その芯違い量を継手によって吸収するようにしているが、継手が許容する芯違い量には所定の限度がある。継手には、撓み継手、歯車継手等が適用され、通常、TD継手(撓み継手)又はWN継手(歯車継手)が用いられるが、TD継手の場合、芯違い量が所定の限度を超えると、TD継手の内部の構成部材の一つである撓み板の変形量が所定の限度を超え、撓み板が破損することがある。また、WN継手の場合、芯違い量が所定の限度を超えると、WN継手の内部を構成する歯車が破損することがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005-193880号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、以上の点に鑑み、鉄道車両の力行時及び回生時のいずれにおいても、噛み合い反力を受ける第1緩衝部材及び第2緩衝部材の一方の撓みを軽減して芯違い量を減少させ、芯違い量を許容する継手の各種構成部材の損傷を抑制することができる鉄道車両用歯車装置の吊り装置を提供することをその課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明は、主電動機の回転軸に、入力側と出力側との軸心の変位を許容する継手を介して連結される小歯車軸に固定された小歯車と、この小歯車に噛み合う、車軸に固定された大歯車とが歯車箱内に収納される鉄道車両用歯車装置を台車枠に吊持する鉄道車両用歯車装置の吊り装置であって、台車枠に設けられ、鉛直方向に交差する方向に延び、第1貫通孔が鉛直方向に開設された吊り受けと、中空で、内周面部に雌ねじが刻設された軸部及びこの軸部の軸方向一端部に、軸部の内部に連通する第2貫通孔が開設された座部を有し、鉄道車両用歯車装置に連結される吊り部材と、吊り受けの鉛直方向上端面に配置される第1緩衝部材と、吊り部材の座部における軸部の軸方向外端面に固定される第2緩衝部材と、吊り部材の軸部の雌ねじに螺合するボルトとを備え、吊り受けの鉛直方向下端面に第2緩衝部材が接触するように、吊り部材の軸部を吊り受けの鉛直方向下方に配置し、吊り受けの第1貫通孔と吊り部材の座部の第2貫通孔とを一致させた状態で、ボルトを第1緩衝部材側から吊り部材の軸部の雌ねじに螺合させることによって、吊り部材が吊り受けに固定されるものにおいて、第1緩衝部材及び第2緩衝部材の弾性係数は可変であり、小歯車及び大歯車の回転時に発生する噛み合い反力を受ける第1緩衝部材及び第2緩衝部材の一方の弾性係数を第1緩衝部材及び第2緩衝部材の他方の弾性係数よりも大きくすると共に、第1緩衝部材及び第2緩衝部材の弾性係数の大小を、鉄道車両の力行時と回生時とで逆転する噛み合い反力の方向に応じて切り換える制御部を備えることを特徴とする。
【0007】
本発明によれば、第1緩衝部材及び第2緩衝部材の弾性係数は可変であり、制御部は、噛み合い反力を受ける第1緩衝部材及び第2緩衝部材の一方の弾性係数を第1緩衝部材及び第2緩衝部材の他方の弾性係数よりも大きくする。また、制御部は、第1緩衝部材及び第2緩衝部材の弾性係数の大小を、鉄道車両の力行時と回生時とで逆転する噛み合い反力の方向に応じて切り換える。したがって、鉄道車両の力行時及び回生時のいずれにおいても、噛み合い反力を受ける第1緩衝部材及び第2緩衝部材の一方の撓みを軽減して芯違い量を減少させ、芯違い量を許容する継手の各種構成部材の損傷を抑制することができる。
【0008】
本発明においては、上記第1緩衝部材及び上記第2緩衝部材の夫々には、中央部に、上記ボルトが内挿される開孔が開設され、第1緩衝部材及び第2緩衝部材の夫々は中空であり、内部が、開孔よりも径方向外側に配置される内室と、この内室よりも径方向外側に配置される外室とに画成され、内室と外室とは連通路によって互いに連通され、内室及び外室内に磁性流体が両室を行き来可能に封入され、内室と外室との仕切り部分に電磁石が設けられ、上記吊り受けは、第1緩衝部材及び第2緩衝部材の夫々の内室に対応する部分に当接し、上記制御部は、上記噛み合い反力を受ける第1緩衝部材及び第2緩衝部材の一方の電磁石に通電し、電磁石に発生する磁界によって、内室に存在している磁性流体の粘度を大きくして当該磁性流体を内室に滞留させ、第1緩衝部材及び第2緩衝部材の一方の弾性係数を第1緩衝部材及び第2緩衝部材の他方の弾性係数よりも大きくすることが望ましい。これによれば、制御部は、噛み合い反力を受ける第1緩衝部材及び第2緩衝部材の一方の電磁石に通電し、電磁石に磁界を発生させる。発生する磁界によって、第1緩衝部材及び第2緩衝部材の一方の内室に存在している磁性流体の粘度が上昇し、連通路を通じて内室から外室に流動する磁性流体の移動速度が遅くなる。このため、粘度の高い磁性流体が内室に滞留し、第1緩衝部材及び第2緩衝部材の一方の弾性係数が、第1緩衝部材及び第2緩衝部材の他方の弾性係数よりも大きくなる。また、吊り受けは、第1緩衝部材及び第2緩衝部材の夫々の内室に対応する部分に当接するため、噛み合い反力を受ける、弾性係数の大きい第1緩衝部材及び第2緩衝部材の一方の撓みが軽減され、その結果、芯違い量が減少する。また、鉄道車両の力行時と回生時とでは、噛み合い反力の方向が逆転するが、制御部は、噛み合い反力を受ける第1緩衝部材及び第2緩衝部材の一方の電磁石に通電するため、芯違い量の減少は、鉄道車両の力行時及び回生時のいずれの時にも実現される。
【0009】
また、本発明においては、上記第1緩衝部材及び上記第2緩衝部材の夫々には、中央部に、上記ボルトが内挿される開孔が開設され、第1緩衝部材及び第2緩衝部材の夫々は中空であり、内部に、開孔の外周外側の部分から外周寄りの部分まで至る、圧縮空気が給排される空気室を備え、第1緩衝部材及び第2緩衝部材の夫々には、圧縮空気を空気室に給排する給排気路が接続され、上記吊り受けは、第1緩衝部材及び第2緩衝部材の夫々の空気室に対応する部分に当接し、上記制御部は、上記噛み合い反力を受ける第1緩衝部材及び第2緩衝部材の一方の空気室の空気圧を、第1緩衝部材及び第2緩衝部材の他方の空気室の空気圧よりも高くして、第1緩衝部材及び第2緩衝部材の一方の弾性係数を第1緩衝部材及び第2緩衝部材の他方の弾性係数よりも大きくすることも望ましい。これによれば、制御部は、第1緩衝部材及び第2緩衝部材の夫々の空気室に供給する圧縮空気の量を制御し、噛み合い反力を受ける第1緩衝部材及び第2緩衝部材の一方の空気室の空気圧を、第1緩衝部材及び第2緩衝部材の他方の空気室の空気圧よりも高くする。このため、第1緩衝部材及び第2緩衝部材の一方の弾性係数が第1緩衝部材及び第2緩衝部材の他方の弾性係数よりも大きくなる。弾性係数の大きい、第1緩衝部材及び第2緩衝部材の一方が吊り受けに当接することによって、第1緩衝部材及び第2緩衝部材の一方の撓みが軽減され、その結果、芯違い量が減少する。また、鉄道車両の力行時と回生時とでは、噛み合い反力の方向が逆転するが、制御部は、噛み合い反力を受ける第1緩衝部材及び第2緩衝部材の一方の空気室の空気圧を第1緩衝部材及び第2緩衝部材の他方の空気室の空気圧よりも高くするため、芯違い量の減少は、鉄道車両の力行時及び回生時のいずれの時にも実現される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】(a)及び(b)は共に、本発明の鉄道車両用歯車装置の吊り装置の一実施形態の概要を示す構成図であり、(a)は鉄道車両の力行時、(b)は鉄道車両の回生時の状態を示す。
図2図1(a)(b)に示す鉄道用歯車装置の吊り装置における吊り受け、鉛直方向上側に位置する吊り部材の部分、並びに、第1緩衝部材及び第2緩衝部材の一形態を示す鉛直方向の要部断面図。
図3】(a)は図2に示す第1緩衝部材及び第2緩衝部材を示す径方向の断面図、(b)は(a)のA-A断面図、(c)は(a)のB-B断面図。
図4】本発明の鉄道車両用歯車装置の吊り装置の別の実施形態の概要を示す要部構成図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1(a)(b)を参照して、本実施形態の鉄道車両用歯車装置Aの吊り装置1の概要を説明する。吊り装置1は、図外の鉄道車両の台車枠2に設けられ、水平方向に延びる、鉛直方向に第1貫通孔(図示省略)が開設された吊り受け2aと、中空で内周面部に雌ねじ(図示省略)が刻設された軸部3a及び軸部3aの軸方向一端部(上端部)に、軸部3aの内部に連通する第2貫通孔(図示省略)が開設された座部3bとを有する、鉄道車両用歯車装置Aに連結される吊り部材3とを備えている。また、吊り装置1は、吊り受け2aの鉛直方向上端面に配置される第1緩衝部材4と、吊り部材3の座部3bにおける軸部3aの軸方向外端面に固定される第2緩衝部材5と、吊り部材3の軸部3aの雌ねじに螺合するボルト6とを備えている。
【0012】
このような吊り装置1では、吊り受け2aの鉛直方向下端面に第2緩衝部材5が接触するように、吊り部材3の軸部3aを吊り受け2aの鉛直方向下方に配置し、吊り受け2aの第1貫通孔と吊り部材3の上端部に位置する座部3bの第2貫通孔とを一致させた状態で、ボルト6を第1緩衝部材4側から、例えば、ワッシャ7等を介して吊り部材3の軸部3aの雌ねじに螺合させることによって、吊り部材3が吊り受け2aに固定される。
【0013】
本実施形態では、吊り受け2aの鉛直方向下方に位置し、鉄道車両用歯車装置Aの歯車箱A1の底部側の部分に、吊り支えA2が設けられている。吊り支えA2は、水平方向に延び、吊り受け2aと対向している。また、吊り支えA2には、吊り受け2aと同様に、第1貫通孔(図示省略)が鉛直方向に開設されている。さらに、吊り部材3の軸部3aは、軸方向他端部(下端部)に、軸部3aの内部に連通する第2貫通孔(図示省略)が開設された座部3bを有している。さらにまた、吊り支えA2の鉛直方向下端面に第1緩衝部材4が配置され、吊り部材3の他端部の座部3bにおける軸部3aの軸方向外端面に第2緩衝部材5が固定されている。そして、吊り支えA2の鉛直方向上端面に第2緩衝部材5が接触するように、吊り部材3の軸部3aが吊り支えA2の鉛直方向上方に配置され、吊り支えA2の第1貫通孔と吊り部材3の他端部に位置する座部3bの第2貫通孔とを一致させた状態で、ボルト6を第1緩衝部材4側から、例えば、ワッシャ7等を介して吊り部材3の軸部3aの雌ねじに螺合させることによって、吊り部材3が吊り支えA2に固定される。
【0014】
こうして、本実施形態の吊り装置1は、各ボルト6が、吊り部材3の軸部3aの雌ねじに螺合することによって、吊り部材3が吊り受け2aと吊り支えA2の両方に固定される時、鉄道車両用歯車装置Aを台車枠2に吊持する。
【0015】
なお、鉄道車両用歯車装置Aの歯車箱A1には、図外の主電動機の回転軸に、入力側と出力側との軸心の変位、すなわち、芯違い量を許容する、図外の継手を介して連結される小歯車軸8に固定された小歯車A3と、小歯車A3に噛み合う、図外の鉄道車両の車輪9の車軸(図示省略)に固定された大歯車A4とが収納されている。符号10は、車輪9の転動をガイドするレールである。
【0016】
また、本実施形態の吊り装置1では、各第1緩衝部材4及び各第2緩衝部材5の弾性係数は可変であり、さらに、本実施形態の吊り装置1は、小歯車A3及び大歯車A4の回転時に発生する噛み合い反力Fを受ける各第1緩衝部材4及び各第2緩衝部材5の一方の弾性係数を各第1緩衝部材4及び各第2緩衝部材5の他方の弾性係数よりも大きくすると共に、各第1緩衝部材4及び各第2緩衝部材5の弾性係数の大小を、鉄道車両の力行時と回生時とで逆転する噛み合い反力Fの方向に応じて切り換える制御部11を備えている。
【0017】
鉄道車両が進行方向Tに進む場合、鉄道車両用歯車装置Aの小歯車A3及び大歯車A4は、力行時及び回生時共に、図中に示す方向に回転するが、回生時には主電動機は発電用になるため、噛み合い反力Fの向きは、力行時と回生時とで逆向きになる。具体的には、力行時の噛み合い反力Fの向きは、鉛直方向上方であり、回生時の噛み合い反力Fの向きは、鉛直方向下方になる。
【0018】
このことを考慮して、力行時には、制御部11は、吊り部材3の軸部3aの上端部及び下端部の夫々に設けられる各第2緩衝部材5の弾性係数を、吊り受け2aの鉛直方向上端面に配置される第1緩衝部材4及び吊り支えA2の鉛直方向下端面に配置される第1緩衝部材4の弾性係数よりも大きくする。回生時には、制御部11は、各第1緩衝部材4の弾性係数を各第2緩衝部材5の弾性係数よりも大きくする。こうすることによって、力行時及び回生時のいずれにおいても、噛み合い反力Fを受ける各第1緩衝部材4及び各第2緩衝部材5一方の撓みが軽減され、主電動機の回転軸の軸心と小歯車軸8の軸心との芯違い量を減少させることができ、芯違い量を許容する継手の各種構成部材の損傷が抑制される。
【0019】
なお、各第1緩衝部材4及び各第2緩衝部材5の一方の弾性係数よりも弾性係数が低い、各第1緩衝部材4及び各第2緩衝部材5の他方は、走行中の鉄道車両に発生する振動等に伴う衝撃力を吸収し、乗客の乗心地等を良好にする機能を担う。
【0020】
図2及び図3(a)(b)(c)を参照して、各第1緩衝部材4及び各第2緩衝部材5の一形態を説明する。各第1緩衝部材4及び各第2緩衝部材5は共に、同一の構造を有している。すなわち、各第1緩衝部材4及び各第2緩衝部材5には、中央部に、ボルト6が内挿される開孔12が開設されている。また、各第1緩衝部材4及び各第2緩衝部材5は中空であり、内部が、開孔12よりも径方向外側に配置される内室13と、内室13よりも径方向外側に配置される外室14とに画成されている。内室13と外室14とは、連通路15によって互いに連通され、内室13及び外室14内に磁性流体16が両室13,14を行き来可能に封入されている。また、内室13と外室14との仕切り部分17に電磁石18が設けられている。本形態では、連通路15は、各第1緩衝部材4及び各第2緩衝部材5の径方向に直交する4箇所に設けられ、電磁石18は、各連通路15を挟んで各第1緩衝部材4及び各第2緩衝部材5の開孔12の孔軸方向の両側(上下両側)に1個ずつ配置され、各第1緩衝部材4及び各第2緩衝部材5には、計8個の電磁石18が設けられている。
【0021】
なお、連通路15の数及び位置、並びに電磁石18の数及び仕切り部分17での配置位置については、特に限定的ではない。連通路15の数及び位置は、磁性流体16の流動性等を考慮し、内室13と外室14との行き来が可能になる数及び位置にすることができる。また、電磁石18の数及び配置位置は、励磁することによって磁性流体16の粘度を効率的に上昇させることができる数及び配置位置にすることができる。例えば、各第1緩衝部材4及び各第2緩衝部材5の小型化等を図るために、1個の電磁石18を、各連通路15における開孔12の孔軸方向の一方側(上側又は下側)に設けることができる。ただし、全ての電磁石18で発生する磁界を大きくし、磁性流体16の粘度をより効率的に上昇させるためには、同程度の磁界が発生する電磁石を採用する場合、本形態のように、電磁石18を、開孔12の孔軸方向の両側(上下両側)に1個ずつ配置することが望ましい。
【0022】
また、図1(a)(b)に示すように、吊り受け2a及び吊り支えA2は共に、板状部材であり、図2に示すように、各第1緩衝部材4及び各第2緩衝部材5の内室13に対応する部分に当接する部分2aを有し、外室14に対応する部分には当接しないようにしている。そして、本形態では、図1(a)(b)に示す制御部11は、噛み合い反力Fを受ける各第1緩衝部材4及び各第2緩衝部材5の一方の電磁石18に通電し、電磁石18に磁界を発生させる。発生する磁界の磁力線の向きは同一方向にし、本形態では、各第1緩衝部材4及び各第2緩衝部材5の開孔12の孔軸方向の一方側又は他方側から、他方側又は一方側に向かうようにしている。磁性流体16に分散している磁性粒子は、磁力線の向きに配列するため、磁性流体16は粘度が上昇する。したがって、吊り受け2a及び吊り支えA2の部分2aに当接する各第1緩衝部材4及び各第2緩衝部材5の内室13に存在している磁性流体16の、連通路15を通じて外室14に流動する移動速度は遅くなる。このため、粘度の高い磁性流体16が内室13に滞留し、各第1緩衝部材4及び各第2緩衝部材5の一方の弾性係数が、各第1緩衝部材4及び各第2緩衝部材5の他方の弾性係数よりも大きくなる。その結果、各第1緩衝部材4及び各第2緩衝部材5の一方の撓みが軽減されて芯違い量が減少する。したがって、芯違い量を許容する継手の各種構成部材の損傷が抑制される。
【0023】
また、鉄道車両の力行時と回生時とでは、図1(a)(b)に示すように、噛み合い反力Fの方向が逆転するが、制御部11は、噛み合い反力Fを受ける各第1緩衝部材4及び各第2緩衝部材5の一方の電磁石18に通電するため、芯違い量の減少は、鉄道車両の力行時及び回生時のいずれの時にも実現される。このような制御部11は、例えば、鉄道車両に設けられている各種制御装置等に組み込むことができる。また、各第1緩衝部材4及び各第2緩衝部材5の一方の電磁石18に通電するための電源も、鉄道車両に設けられている電力供給源19を利用することができる。この場合、制御部11は、電力供給源19を制御して各第1緩衝部材4及び各第2緩衝部材5の一方の電磁石18に通電する。
【0024】
図4を参照して、本発明の鉄道車両用歯車装置Aの吊り装置1の別の実施形態の概要を説明する。図1(a)(b)に示す実施形態と同一の部材等には同一の符号を付し、その説明を簡略化する。また、図2に示す各第1緩衝部材4及び各第2緩衝部材5についても同様である。本実施形態の吊り装置1では、各第1緩衝部材4及び各第2緩衝部材5も中空であるが、各第1緩衝部材4は、内部に、開孔12の外周外側の部分から外周寄りの部分まで至る、圧縮空気が給排される空気室20を備えている。そして、各第1緩衝部材4及び各第2緩衝部材5には、圧縮空気を空気室20に給排する給排気路21が接続されている。
【0025】
また、図1(a)(b)及び図4に示すように、吊り受け2a及び吊り支えA2は、各第1緩衝部材4及び各第2緩衝部材5の空気室20に対応する部分に当接する部分2aを有している。さらに、制御部11は、各第1緩衝部材4及び各第2緩衝部材5の空気室20に給排気路21を通じて供給する圧縮空気の量を制御し、図1(a)(b)に示す噛み合い反力Fを受ける各第1緩衝部材4及び各第2緩衝部材5の一方の空気室20の空気圧を、各第1緩衝部材4及び各第2緩衝部材5の他方の空気室20の空気圧よりも高くする。具体的には、制御部11は、図1(a)(b)に示すに示す実施形態と同様に、鉄道車両に設けられる各種制御装置に組み込むことができる。また、空気室20に圧縮空気を供給する圧縮空気供給源22は、鉄道車両に設けられる、ドアの開閉やブレーキの作動及び解除等を行う圧縮空気源と兼用することができる。この場合、各給排気路21には、圧縮空気供給源22から各空気室20までに至る途中に電磁弁23(例えば、三方弁等)を介設し、制御部11は、電磁弁23を制御して、各第1緩衝部材4及び各第2緩衝部材5の空気室20への圧縮空気の給排を行い、圧縮空気の量を制御することができる。
【0026】
本実施形態の吊り装置1では、図1(a)(b)に示す噛み合い反力Fを受ける各第1緩衝部材4及び各第2緩衝部材5の一方の空気室20の空気圧を、各第1緩衝部材4及び各第2緩衝部材5の他方の空気室20の空気圧よりも高くすると、吊り受け2a及び吊り支えA2は、図4に示す部分2aで、噛み合い反力Fを受ける、弾性係数の大きい各第1緩衝部材4及び各第2緩衝部材5の一方の空気室20に対応する部分に当接する。このため、各第1緩衝部材4及び各第2緩衝部材5の一方の撓みが軽減され、その結果、芯違い量が減少する。したがって、芯違い量を許容する継手の各種構成部材の損傷が抑制される。また、図1(a)(b)に示すように、鉄道車両の力行時と回生時とでは、噛み合い反力Fの方向が逆転するが、制御部11は、噛み合い反力Fを受ける各第1緩衝部材4及び各第2緩衝部材5の一方の空気室20の空気圧を、各第1緩衝部材4及び各第2緩衝部材5の他方の空気室20の空気圧よりも高くするため、芯違い量の減少は、鉄道車両の力行時及び回生時のいずれの時にも実現される。
【0027】
以上、本発明の実施形態について図面を参照して説明したが、本発明はこれに限定されない。例えば、鉄道車両用歯車装置Aの吊り支えA2は省略することができる。この場合、第1緩衝部材4及び第2緩衝部材5は、吊り受け2a側にのみ設けられることになるが、制御部11によって、第1緩衝部材4及び第2緩衝部材5の一方の弾性係数が、第1緩衝部材4及び第2緩衝部材5の他方の弾性係数よりも大きくなるため、芯違い量の減少は、鉄道車両の力行時及び回生時のいずれの時にも上記実施形態と同様に実現される。ただし、吊り支えA2の省略に伴い、吊り部材3の軸部3aの構成を一部変更する。例えば、第2緩衝部材5が固定された座部3b側の軸方向一端部(上端部)と反対側に位置する軸部3aの軸方向他端部(下端部)を鉄道車両用歯車装置Aの歯車箱A1に連結する。この場合、歯車箱A1の構成によっては、軸部3aは、軸方向一端部(上端部)から軸方向他端部(下端部)までの途中で歯車箱A1に向かって折曲してもよい。なお、軸部3aの軸方向他端部(下端部)の歯車箱A1への連結方式は特に限定的ではなく、固定、軸着等の様々な態様が適用可能である。
【0028】
また、第1緩衝部材4及び第2緩衝部材5の外殻を構成する材料としては、ゴム、その他の樹脂の内で所望の弾性を有するものを選択することができる。さらに、吊り受け2aの鉛直方向上端面への第1緩衝部材4の配置は、単に配置にとどまらず、固定をも含む形態とすることができる。固定する場合、吊り部材3の軸部3aの雌ねじへのボルト6の螺合に先立ち、予め吊り受け2aの鉛直方向上端面に第1緩衝部材4を固定しておくことができる。このような第1緩衝部材4の固定は、図1(a)(b)に示す実施形態の場合、吊り支えA2の鉛直方向下端面への第1緩衝部材4の配置にも適用することができる。また、第1緩衝部材4の固定は、吊り受け2aの鉛直方向上端面及び吊り支えA2の鉛直方向下端面の一方のみに適用することも可能である。さらに、吊り受け2a及び吊り支えA2は、必ずしも水平方向に延びるものに限定されず、鉛直方向に交差する方向に延びるものであればよい。
【符号の説明】
【0029】
A…鉄道車両用歯車装置、A1…歯車箱、A3…小歯車、A4…大歯車、1…吊り装置、2…台車枠、2a…吊り受け、3…吊り部材、3a…軸部、3b…座部、4…第1緩衝部材、5…第2緩衝部材、6…ボルト、8…小歯車軸、11…制御部、12…開孔、13…内室、14…外室、15…連通路、16…磁性流体、17…仕切り部分、18…電磁石、20…空気室、21…給排気路、F…噛み合い反力。
図1
図2
図3
図4