(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024117983
(43)【公開日】2024-08-30
(54)【発明の名称】ツーピース金属缶およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
B65D 1/16 20060101AFI20240823BHJP
B21D 22/28 20060101ALI20240823BHJP
B21D 51/26 20060101ALI20240823BHJP
【FI】
B65D1/16 111
B21D22/28 L
B21D51/26 X
B21D51/26 R
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023024113
(22)【出願日】2023-02-20
(71)【出願人】
【識別番号】000208455
【氏名又は名称】大和製罐株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083998
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邉 丈夫
(74)【代理人】
【識別番号】100096644
【弁理士】
【氏名又は名称】中本 菊彦
(72)【発明者】
【氏名】福永 稔
(72)【発明者】
【氏名】村上 知行
(72)【発明者】
【氏名】矢島 悠
【テーマコード(参考)】
3E033
4E137
【Fターム(参考)】
3E033AA07
3E033BA07
3E033CA05
3E033CA14
3E033DD02
3E033FA01
4E137AA02
4E137AA19
4E137BA05
4E137BB01
4E137CA07
4E137CA09
4E137CA11
4E137EA01
4E137GA02
4E137GB17
(57)【要約】
【課題】強度を損なうことなく薄肉化して資源の有効利用に資することのできるツーピース金属缶およびその製造方法を提供する。
【解決手段】ドーム部5は、所定の第1曲率半径Raの第1円弧面部5Aと、第1円弧面部5Aからカウンタ部6に繋がっている所定の第2曲率半径Rbの第2円弧面部5Bとが滑らかに繋がった形状を成し、第2円弧面部5Bの外周端部から頂部7までの寸法であるドーム部高さをYとし、かつドーム部5の外径であるドーム部径をDPとした場合に、第1曲率半径Raと第2曲率半径Rbとの比率である(第1曲率半径÷第2曲率半径)が下記の下限値と下記の上限値との範囲に入っている。
下限値=-(0.148×Y)+(0.025×DP)+1.92
上限値=(0.140×Y)-(0.054×DP)+3.97
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状の胴部と前記胴部の下端部を閉じている缶底とが一体になっており、前記缶底は、前記胴部の径より小さい径で下側に突き出た全体として環状のリム部と、前記リム部の内周側で前記リム部の下端側から上側に向けて延びて内周壁部となっているカウンタ部と、前記カウンタ部の上端に続けて上側に凸となって前記胴部の中心部が頂部となっているドーム部とによって構成されているツーピース金属缶であって、
前記ドーム部は、前記ドーム部の中心側で断面形状が所定の第1曲率半径の円弧をなす第1円弧面部と、前記第1円弧面部から前記カウンタ部に繋がっている部分で断面形状が所定の第2曲率半径の円弧をなす第2円弧面部とが滑らかに繋がった形状を成し、
前記第2円弧面部の外周端部から前記頂部までの寸法であるドーム部高さをYとし、かつ前記ドーム部の外径であるドーム部径をDPとした場合に、前記第1曲率半径と前記第2曲率半径との比率である(第1曲率半径÷第2曲率半径)が下記の下限値と下記の上限値との範囲に入っている
ことを特徴とするツーピース金属缶。
下限値=-(0.148×Y)+(0.025×DP)+1.92
上限値=(0.140×Y)-(0.054×DP)+3.97
【請求項2】
請求項1に記載のツーピース金属缶であって、
前記第2円弧面部と前記カウンタ部との間に、前記第2円弧面部と前記カウンタ部とのそれぞれに滑らかに連続し、かつ断面形状が第3曲率半径の円弧をなす第3円弧面部が設けられ、
前記第3曲率半径が1.5mm以上3.5mm以下である
ことを特徴とするツーピース金属缶。
【請求項3】
請求項1または2に記載のツーピース金属缶であって、
前記リム部の直径は、46mm以上48mm以下である
ことを特徴とするツーピース金属缶。
【請求項4】
金属製薄板に絞り・しごき加工を施して、胴部と一体となっている底部を、前記胴部の径より小さい径で下側に突き出た全体として環状のリム部と、前記リム部の内周側で前記リム部の下端側から上側に向けて延びて内周壁部となっているカウンタ部と、前記カウンタ部の上端に続けて上側に凸となって前記胴部の中心部が頂部となっているドーム部とを有する形状に成形するツーピース金属缶の製造方法であって、
前記ドーム部は、前記ドーム部の中心側で断面形状が所定の第1曲率半径の円弧をなす第1円弧面部と、前記第1円弧面部から前記カウンタ部に繋がっている部分で断面形状が所定の第2曲率半径の円弧をなす第2円弧面部とが滑らかに繋がった形状であり、かつ
前記第2円弧面部の外周端部から前記頂部までの寸法であるドーム部高さをYとし、かつ前記ドーム部の外径であるドーム部径をDPとした場合に、前記第1曲率半径と前記第2曲率半径との比率である(第1曲率半径÷第2曲率半径)が下記の下限値と下記の上限値との範囲に入っている形状に、ドーミングパンチで前記底部を成形する
ことを特徴とするツーピース金属缶の製造方法。
下限値=-(0.148×Y)+(0.025×DP)+1.92
上限値=(0.140×Y)-(0.054×DP)+3.97
【請求項5】
請求項4に記載のツーピース金属缶の製造方法であって、
前記ドーム部径は、前記ドーミングパンチの外径である
ことを特徴とするツーピース金属缶の製造方法。
【請求項6】
請求項4または5に記載のツーピース金属缶の製造方法であって、
前記第2円弧面部と前記カウンタ部との間に、前記第2円弧面部と前記カウンタ部とのそれぞれに滑らかに連続し、かつ断面形状が1.5mm以上3.5mm以下の曲率半径の円弧をなす第3円弧面部を成形する
ことを特徴とするツーピース金属缶の製造方法。
【請求項7】
請求項4または5に記載のツーピース金属缶の製造方法であって、
前記リム部を、直径が46mm以上48mm以下の環状に成形する
ことを特徴とするツーピース金属缶の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウムやその合金などの金属薄板を素材として、胴部と底部とを一体に成形したツーピース金属缶およびその製造方法に関し、特にその底部の構造もしくは形状およびその構造もしくは形状を得るための方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
この種の金属缶における底部の構造の一例が特許文献1によって提案されている。特許文献1に記載された缶は、底部の強度を向上させることを目的として開発された缶であり、環状の接地部の内側に形成されるドーム部の形状を特定した缶である。特許文献1の記載によれば、環状の接地部の内周側に連続してカウンタ部が形成され、そのカウンタ部から更に上側(缶の内部側)に向けて凸形状(缶の外側に対しては凹形状)のドーム部が形成されている。接地部は、断面形状が下向きの凸円弧状をなし、全体としては環状をなす部分である。カウンタ部は、缶の中心軸線に向けてわずかに傾斜したテーパ状のいわゆる傾斜壁部である。ドーム部は、そのカウンタ部より内周側の部分であって、缶の中心部に向けて滑らかに湾曲しており、中心側の湾曲部の曲率半径が55mm以上62mm以下とされ、その中心側の湾曲部から半径方向で外側に続く湾曲部の曲率半径が33mm以上37mm以下とされている。特許文献1に記載されたこのような構成とすることにより、中心側の湾曲部とその外側の湾曲部とが、曲率の急変点を生じることなく連続し、その結果、応力集中が生じないので、缶の内部から掛かる荷重に対する強度を向上させることができる、とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
缶底部におけるドーム部を構成している2つの円弧部(断面形状としての円弧部)の曲率半径を、特許文献1に記載されているように設定すれば、それらの円弧部が滑らかに連続して曲率の急変点を解消できるので、ドーム部の強度を向上させることができ、あるいはいわゆるバックリングの起点となる脆弱部を解消することができる。しかしながら、本発明者が種々検討したところ、ドーム部の強度には、局部的な応力集中が影響するだけでなく、ドーム部自体やその近隣の部分の形状などが大きく影響し、それらの部分の形状にはドーム部のバックリングを防止できる最適形状が存在することを見いだした。
【0005】
ドーム部のバックリングなどの変形は、缶の内圧が高くなったり、落下した場合に大きい衝撃荷重が掛かったりすることにより発生する。その変形は、例えば、上向きに凸となっているドーム部の中央部が、平坦形状を越えて下向きに凸となるように反転する変形や、ドーム部の周縁部(カウンタ部との境界部分)より内周側の全体が下向きに凸となるように反転する変形などである。したがって、ドーム形状の形状を、上向きに大きく凸となる形状とすれば、下向きに凸となるように反転する際の抗力が大きくなるので、ドーム部の強度を高くすることができる。しかしながら、ドーム部が上向きに大きく突出していると、缶の内容量が減少してしまう。そのため、ドーム部の高さには制限があり、その制限の範囲で、強度を損なわない高さに設定する必要がある。
【0006】
また、ドーム部は、特許文献1にも開示されているように、その断面形状として、複数の円弧が滑らかに連続した形状とするのが一般的である。それらの円弧は、滑らかに連続している必要があるので、その点での曲率半径の制限があり、これに加えて、それぞれの円弧に掛かる荷重に応じた曲率半径であることが好ましい。すなわち、ドーム部の中央部では、落下などによる衝撃荷重が垂直に近い角度で作用し、これに対して周辺部分では缶の中心軸線に対して傾斜しているから衝撃荷重は表面に対して斜めに作用することになる。そのため、ドーム部の中央部側の円弧の曲率半径を周辺部分での円弧の曲率半径より大きくするが、強度を高くするためには、それらの曲率半径の間に所定の関係が成立していると考えられる。
【0007】
さらに、ドーム部の径あるいは接地部(もしくはリム部)の径が小さいほど、ドーム部は、相対的に、大きく凸となった形状となるので、強度が高くなる。しかしながら、接地部は缶を安定して起立させておくための部分であるから、ある程度大きい径であることが必要である。したがって、ドーム部あるいは接地部の径をある程度大きい径に維持した状態で、強度を損なわないように上向きに凸となったドーム形状を設定する必要がある。すなわち、ドーム部あるいは接地部の径は、ドーム部の強度に大きく影響する。
【0008】
特許文献1に記載された缶では、ドーム部を構成している2つの円弧面の曲率半径を特定しているが、それは局部的な応力集中が生じる急変点を避けるためであり、変形荷重の作用の仕方や、強度に影響する他の要因を考慮したものとはなっていない。そのため、金属缶の底部におけるドーム部のバックリングなどの変形に対する強度を向上させるため、言い換えれば、変形強度を維持しつつ薄肉化するためには、未だ改良の余地がある。本発明者は、これらの事情を考慮して、また上述した強度に対する影響要因を詳細に検討して本発明をなすに到った。
【0009】
すなわち、本発明は、胴部と一体に成形されているドーム形状の底部の強度を向上させることができ、したがって強度を損なうことなく薄肉化して資源の有効利用に資することのできるツーピース金属缶およびその製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の金属缶は、上述した目的を達成するために、筒状の胴部と前記胴部の下端部を閉じている缶底とが一体になっており、前記缶底は、前記胴部の径より小さい径で下側に突き出た全体として環状のリム部と、前記リム部の内周側で前記リム部の下端側から上側に向けて延びて内周壁部となっているカウンタ部と、前記カウンタ部の上端に続けて上側に凸となって前記胴部の中心部が頂部となっているドーム部とによって構成されているツーピース金属缶であって、前記ドーム部は、前記ドーム部の中心側で断面形状が所定の第1曲率半径の円弧をなす第1円弧面部と、前記第1円弧面部から前記カウンタ部に繋がっている部分で断面形状が所定の第2曲率半径の円弧をなす第2円弧面部とが滑らかに繋がった形状を成し、前記第2円弧面部の外周端部から前記頂部までの寸法であるドーム部高さをYとし、かつ前記ドーム部の外径であるドーム部径をDPとした場合に、前記第1曲率半径と前記第2曲率半径との比率である(第1曲率半径÷第2曲率半径)が下記の下限値と下記の上限値との範囲に入っていることを特徴とするものである。
下限値=-(0.148×Y)+(0.025×DP)+1.92
上限値=(0.140×Y)-(0.054×DP)+3.97
【0011】
本発明の金属缶では、前記第2円弧面部と前記カウンタ部との間に、前記第2円弧面部と前記カウンタ部とのそれぞれに滑らかに連続し、かつ断面形状が第3曲率半径の円弧をなす第3円弧面部が設けられ、前記第3曲率半径が1.5mm以上3.5mm以下であってよい。
【0012】
本発明の金属缶では、前記リム部の直径は、46mm以上48mm以下であってよい。 本発明の金属缶の製造方法は、金属製薄板に絞り・しごき加工を施して、胴部と一体となっている底部を、前記胴部の径より小さい径で下側に突き出た全体として環状のリム部と、前記リム部の内周側で前記リム部の下端側から上側に向けて延びて内周壁部となっているカウンタ部と、前記カウンタ部の上端に続けて上側に凸となって前記胴部の中心部が頂部となっているドーム部とを有する形状に成形するツーピース金属缶の製造方法であって、前記ドーム部は、前記ドーム部の中心側で断面形状が所定の第1曲率半径の円弧をなす第1円弧面部と、前記第1円弧面部から前記カウンタ部に繋がっている部分で断面形状が所定の第2曲率半径の円弧をなす第2円弧面部とが滑らかに繋がった形状であり、かつ前記第2円弧面部の外周端部から前記頂部までの寸法であるドーム部高さをYとし、かつ前記ドーム部の外径であるドーム部径をDPとした場合に、前記第1曲率半径と前記第2曲率半径との比率である(第1曲率半径÷第2曲率半径)が下記の下限値と下記の上限値との範囲に入っている形状に、ドーミングパンチで前記底部を成形することを特徴とする方法である。
下限値=-(0.148×Y)+(0.025×DP)+1.92
上限値=(0.140×Y)-(0.054×DP)+3.97
【0013】
本発明の金属缶の製造方法では、前記ドーム部径は、前記ドーミングパンチの外径であってよい。
【0014】
本発明の金属缶の製造方法では、前記第2円弧面部と前記カウンタ部との間に、前記第2円弧面部と前記カウンタ部とのそれぞれに滑らかに連続し、かつ断面形状が1.5mm以上3.5mm以下の曲率半径の円弧をなす第3円弧面部を成形することとしてよい。
【0015】
本発明の金属缶の製造方法では、前記リム部を、直径が46mm以上48mm以下の環状に成形することとしてよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明の金属缶あるいはその製造方法においては、ドーム部高さYは、金属缶の内容量に基づいて決まり、金属缶を安定して起立させておくためのリム部の径に基づいてドーム部径DPが決まり、これらドーム部高さYおよびドーム部径DPに基づいて第1曲率半径と第2曲率半径との比率の上限値と下限値とが決まる。その上限値では、ドーム部の強度すなわちバックリングを起こさない最大内圧やバックリングを生じさせない最大落下高さである落下強度が最大になり、前記比率が上限値を超えると、ドーム部の強度が急激に低下する。すなわち、上記の比率の上限値が、ドーム部の強度の点での臨界値となっている。本発明では、ドーム部の形状を、最大強度ないしそれ以下の所定の範囲の強度を示す曲率半径の比率で規定される形状としてあるので、金属缶もしくはその素材の板厚を、ドーム部の強度を損なうことなく、もしくは強度を維持しつつ、薄くすることができ、その結果、金属缶を低廉化し、また資源の有効利用に資することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明に係る金属缶の製造過程における底部が成形された中間品を模式的に示す断面図である。
【
図2】その底部の半分を拡大して示す断面図である。
【
図3】実施例1で得られた曲率半径比とリム固定耐圧との関係を示すグラフである。
【
図4】実施例2で得られた曲率半径比とリム固定耐圧との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
つぎに本発明に係る金属缶およびその製造方法の実施形態について説明する。なお、以下に説明する実施形態は本発明を実施した場合の一例に過ぎないのであって、本発明を限定するものではない。
【0019】
図1および
図2に本発明に係る金属缶1の一例をその加工(製造)過程の形状で模式的に示してある。ここに示す例は、アルミニウムなどの金属薄板を素材とし、絞り・しごき加工によって成形したツーピース缶であり、胴部2と底部3とが一体に形成されている。胴部2は単純な円筒状であり、その下端側に繋がっている底部3は、
図2に拡大して示してあるように、胴部2の下端部を径が小さくなるように(すなわち縮径して)加工したリム部4となっている。リム部4は接地部と称されることがあり、その内周側の部分は、いわゆるドーミング加工が施されて、胴部2の内部に向けて(すなわち
図1の上側に向けて)凸となるように湾曲しているドーム部5となっている。これは、発泡飲料などを充填した場合の金属缶1の内圧に耐え、また落下させたり乱雑に取り扱ったりした場合の衝撃荷重に耐える構造とするためである。
【0020】
リム部4は、金属缶1を置いた場合の接地面もしくは脚となる部分であり、外周側から絞られ、かつ内周側が上側に湾曲していることにより、下側に凸となりかつ全体として環状をなしている。リム部4の直径D4は、金属缶1を安定して起立させておくために、一例として46mm以上48mm以下とされている。なお、リム部4の先端部(下端部)は、所定の曲率半径の凸曲面を滑らかに連続させた下向きの凸形状に成形されている。
【0021】
リム部4の内周壁面は、金属缶1の中心軸線と平行な円筒状の壁面、もしくは上側が幾分小径になるように傾斜したテーパ状の壁面であるカウンタ部6となっている。ドーム部5はこのカウンタ部6の上端部に連続して形成されており、カウンタ部6との境界部分を含むドーム部5の全体が滑らかな曲面(上側に凸となる曲面)となっている。
【0022】
図2に示す例では、滑らかに連続する複数の円弧面によってドーム部5が構成されている。中心側の所定の範囲の部分が第1円弧面部5Aであり、金属缶1の中心軸線に沿って切断した場合の断面形状が所定の曲率半径Raの円弧をなす曲面となっている。この第1円弧面部5Aの半径方向で外側に続く所定の範囲の部分が第2円弧面部5Bであり、金属缶1の中心軸線に沿って切断した場合の断面形状が所定の曲率半径Rbの円弧をなす曲面となっている。なお、第1円弧面部5Aと第2円弧面部5Bとの境界部分の位置(中心軸線から測った半径r)は、第2円弧面部5Bの外周端の中心軸線からの半径の半分程度である。なお、当該境界部分の位置は、各曲率半径Ra,Rbに応じて変化する。
【0023】
第2円弧面部5Bの外周端は上記のカウンタ部6の上端部に接近しており、これら第2円弧面部5Bとカウンタ部6とは第3円弧面部5Cによって接続されている。言い換えれば、第2円弧面部5Bの外周端とカウンタ部6の上端部との間に第3円弧面部5Cが形成されている。この第3円弧面部5Cは、第2円弧面部5Bとカウンタ部6とを滑らかに接続するために設けられた部分であり、その曲率半径(中心軸線に沿って切断した場合の断面として現れる円弧の曲率半径)は、一例として1.5mm以上3.5mm以下である。なお、上記の各円弧面部5A,5B,5Cならびにカウンタ部6が「滑らかに連続している」とは、それらの境界部もしくは接続部における接線が共通接線になっていること、もしくはそれらの接線が完全に一致していないとしてもそれらの接線の角度差が微少であることを意味している。
【0024】
図2に示すように、ドーム部5の中心部が上側に最も凸となっている頂部7であり、ここから所定の半径rまでの範囲が上述した第1円弧面部5Aであり、この第1円弧面部5Aは頂部7に向けて次第に水平になっている。これに対してその外周側の所定の範囲が第2円弧面部5Bであって、外周側が次第に下がるように傾斜している。したがって、内容物を充填した金属缶1を落下させるなどのことにより衝撃力が生じた場合、第1円弧面部5Aを第2円弧面部5Bで下側から支える状態になる。そして、衝撃力による上下方向の変形荷重は、傾斜している第2円弧面部5Bよりも水平に近い第1円弧面部5Aで大きくなると考えられる。ドーム部5にバックリングを生じさせるこのような変形荷重の掛かり方を考慮すると、ドーム部5の強度を高くするためには、リム部4もしくはドーム部5の径を小さくし、またドーム部5を上側に大きく凸となるように高くすることが好ましいと考えられる。ここで、「ドーム部5の強度」とは、ドーム部5に缶内圧が掛かったり、下向きの衝撃荷重が掛かったりした場合にバックリングを生じさせない強度のことである。このドーム部5の強度には、ドーム部5を構成している各円弧面部5A,5B,5Cの曲率半径だけでなく、その径や高さが関係する。また、ドーム部5の径は金属缶1の起立安定性を左右するリム部4の直径D4に関係するので、その点での制約がある。さらに、ドーム部5の高さは、金属缶1の内容量に関係するので、その点での制約がある。
【0025】
本発明者は、ドーム部5にバックリングを生じさせる荷重の掛かり方や各種の制約を考慮して、ドーム部5の好ましい形状を鋭意検討し、各円弧面部5A,5B,5Cならびにドーム部5の径DPおよび高さYの強度に対する影響を検討した。以下、その検討の内容および結果を説明する。
【0026】
先ず、
図1に示す形状のテストピースを用意する。本発明の製造方法では、テストピースは、金属製薄板であるブランクに絞り・しごき加工を施してカップ形状に成形し、その底部を以下に説明するドーミングパンチで押圧して所定の形状に成形する。その成形手順は、従来知られている手順と同様であってよい。
【実施例0027】
板厚が0.24mmの金属薄板(アルミニウム合金板)を使用し、リム部4の直径(接地径)D4を48mm、ボトム深さDDを11.7mm、11.4mm、11.1mm、10.8mmの
図1に示す形状の缶体を作った。なお、ボトム深さDDは、リム部4の下端(金属缶1の下端)からドーム部5の頂部7までの寸法である。また、使用したドーミングパンチ8(
図2参照)は、成形するべきドーム部5と同一の凸曲面(成形面)を上端部に有し、外径DPは45.14mmである。本発明の実施形態ではこれをドーム部径DPとしている。さらに、ドーム部5の実質的な高さYは、第2円弧面部5Bと第3円弧面部5Cとの境界部分からドーム部5の頂部7までの高さであり、そのドーム部高さYは、ボトム深さDDが11.7mmの場合には6.95mm、ボトム深さDDが11.4mmの場合には6.61mm、ボトム深さDDが11.1mmの場合には6.26mm、ボトム深さDDが10.8mmの場合には5.93mmである。
【0028】
前述した第1円弧面部5Aから第3円弧面部5Cに到る全体が滑らかな凸曲面となるように第1円弧面部5Aの曲率半径Raおよび第2円弧面部5Bの曲率半径Rbを適宜に設定した缶体(金属缶)についてリム固定耐圧を求めた。リム固定耐圧は、リム部4をその下側および外周側から固定し、その状態で金属缶の内部に充填した液体(具体的には水)を加圧した場合のドーム部にバックリングが生じる圧力である。したがって、リム固定耐圧はドーム部の強度に相当している。
【0029】
得られたリム固定耐圧を
図3に示してある。
図3は、第1円弧面部5Aの曲率半径Raと第2円弧面部5Bの曲率半径Rbとの比率(Ra/Rb)(以下、曲率半径比と記すことがある。)を横軸に採り、その曲率半径比ごとのリム固定耐圧(MPa)を縦軸に採った線図である。
図3において、線L1はボトム深さが11.7mmの金属缶1についての測定値、線L2はボトム深さが11.4mmの金属缶1についての測定値、線L3はボトム深さが11.1mmの金属缶1についての測定値、線L4はボトム深さが10.8mmの金属缶1についての測定値をそれぞれ示す。これを表にして示すと、表1のとおりである。
【表1】
【0030】
これら
図3および表1から知られるように、前記比率が増大するのに伴ってリム固定耐圧が次第に増大するが、リム固定耐圧が最大値となる比率が存在する。しかも、前記比率が、リム固定耐圧が最大値となる値(すなわち上限値)を超えるとリム固定耐圧が急激に低下する。すなわち、前記比率の上限値は、リム固定耐圧を増大させる臨界値となっていることが認められる。そして、その上限値は、ボトム深さDDが浅くなるのに応じて次第に小さくなっていることが認められる。
【0031】
一方、表1には、リム固定耐圧について、その最大値に対する比率(対max比)を記載してある。最大値に対して3%程度小さいリム固定耐圧、すなわち97%程度のリム固定耐圧となる曲率半径比(Ra/Rb)は、ボトム深さDDが浅くなるのに応じて大きくなっていることが認められる。本発明では、このリム固定耐圧が最大値に対して97%程度になる曲率半径比を下限値としている。ここで「97%程度」としたのは、素材や加工の僅かなばらつきを考慮すると、表1に示す97%程度以上のリム固定耐圧が、実質的に、最大値とほぼ等しくなると考えられるからである。
【0032】
曲率半径比(Ra/Rb)の上記の上限値および下限値と、ボトム深さDDによって決まるドーム部高さYならびに接地径D4に関連するドーミングパンチ径(ドーム部径)DPとの関係を表2にまとめて示してある。
【表2】
【0033】
また、上述した各曲率半径比となる各曲率半径Ra,Rbの例を表3に挙げてある。
【表3】
前述した第1円弧面部5Aから第3円弧面部5Cに到る全体が滑らかな凸曲面となるように第1円弧面部5Aの曲率半径Raおよび第2円弧面部5Bの曲率半径Rbを適宜に設定した缶体(金属缶)についてリム固定耐圧を求めた。リム固定耐圧は、リム部4をその下側および外周側から固定し、その状態で金属缶の内部に充填した液体(具体的には水)を加圧した場合のドーム部にバックリングが生じる圧力である。したがって、リム固定耐圧はドーム部の強度に相当している。
一方、表4には、リム固定耐圧について、その最大値に対する比率(対max比)を記載してある。最大値に対して3%程度小さいリム固定耐圧、すなわち97%程度のリム固定耐圧となる曲率半径比(Ra/Rb)は、ボトム深さDDが浅くなるのに応じて大きくなっていることが認められる。本発明では、このリム固定耐圧が最大値に対して97%程度になる曲率半径比を下限値としている。ここで「97%程度」とした理由は、実施例1で述べたのと同様である。
なお、上記の各式は、ドーム部5を構成する第1円弧面部5Aおよび第2円弧面部5Bの曲率半径Ra,Rbの比率を与える式であるが、ドーム部5の高さYや径DPを設計上決めることができるので、各曲率半径Ra,Rbは、その比率が上記の限界値の範囲内に入り、かつ各円弧面部5A,5Bが滑らかに繋がるように作図して幾何学的に求めることができる。その例が前掲の表3および表6である。
上述したように、この発明の実施形態によれば、強度が最も高くなるドーム部5の形状を得ることができる。上述した実施形態では、リム固定耐圧を測定したが、ツーピース金属缶のリム固定耐圧と内容物による衝撃力に対する衝撃強度(もしくは落下強度)とは相関していてリム固定耐圧が高ければ落下強度も高くなる。したがって、本発明の実施形態によれば、ドーム部5の形状を強度が最大となる形状とすることができるので、金属缶もしくはその素材の板厚を従来以上に薄くすることが可能となり、その結果、金属缶のコストの低廉化を図り、また資源の有効利用に資することができる。
なお、本発明の金属缶およびその製造方法は、上述した実施形態に限定されないのであり、ドーム部径やその高さ、板厚、各円弧面部の曲率半径などを、本発明を逸脱しない範囲で適宜に変更して実施することができる。