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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024117995
(43)【公開日】2024-08-30
(54)【発明の名称】壁体構築方法
(51)【国際特許分類】
   B65D 88/06 20060101AFI20240823BHJP
   B65D 90/00 20060101ALI20240823BHJP
   F17C 3/00 20060101ALI20240823BHJP
   E04H 7/18 20060101ALI20240823BHJP
【FI】
B65D88/06 B
B65D90/00 P
F17C3/00 A
E04H7/18 301Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023024132
(22)【出願日】2023-02-20
(71)【出願人】
【識別番号】000001373
【氏名又は名称】鹿島建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100122781
【弁理士】
【氏名又は名称】近藤 寛
(72)【発明者】
【氏名】松浦 正典
(72)【発明者】
【氏名】綱川 浩文
(72)【発明者】
【氏名】吉原 知佳
【テーマコード(参考)】
3E170
3E172
【Fターム(参考)】
3E170AA03
3E170AB29
3E170BA10
3E170DA02
3E170DA05
3E170JA05
3E170JA07
3E170JA08
3E170LA06
3E170NA01
3E170NA04
3E170VA01
3E172AA03
3E172AA06
3E172AB04
3E172AB20
3E172BA06
3E172BB04
3E172BB12
3E172BB17
3E172BD05
3E172CA03
3E172DA13
3E172DA15
3E172DA23
(57)【要約】
【課題】施工の安全性を向上する壁体構築方法を提供する。
【解決手段】壁体構築方法は、壁面方向に並ぶプレキャストコンクリートブロック12を含んで形成されるコンクリート躯体11と、コンクリート躯体11の内側に設けられ液密性及び気密性をもつバリア層13と、バリア層13の内側に設けられた保冷層15と、保冷層15の内側に設けられた金属内槽17と、を備えるタンク1の側壁5を構築する壁体構築方法であって、バリア層13hが表面に形成されたプレキャストコンクリートブロック12を準備するプレキャスト部材準備工程と、バリア層13hが表面に形成されたプレキャストコンクリートブロック12を側壁5の構築予定位置6に設置するプレキャスト部材設置工程と、構築予定位置6で隣接するプレキャストコンクリートブロック12同士の目地部23にバリア層13jを形成する目地部処理工程と、を備える。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
壁面方向に並ぶプレキャスト部材を含んで形成されるコンクリート躯体と、前記コンクリート躯体の内側に設けられ液密性及び気密性をもつバリア層と、前記バリア層の内側に設けられた保冷層と、前記保冷層の内側に設けられた内槽と、を備えるタンクの壁体を構築する壁体構築方法であって、
前記バリア層が表面に形成された前記プレキャスト部材を準備するプレキャスト部材準備工程と、
前記バリア層が表面に形成された前記プレキャスト部材を前記壁体の構築予定位置に設置するプレキャスト部材設置工程と、
前記構築予定位置で隣接する前記プレキャスト部材同士の目地部に前記バリア層を形成する目地部処理工程と、を備える、壁体構築方法。
【請求項2】
前記目地部処理工程では、
前記プレキャスト部材同士の間の継手間詰部の間詰コンクリートを打設するための埋設型枠が前記継手間詰部に設置され、前記埋設型枠の表面には予め前記バリア層が形成されている、請求項1に記載の壁体構築方法。
【請求項3】
前記目地部処理工程では、
前記プレキャスト部材同士の間の継手間詰部の間詰コンクリートを打設するための金属製埋設型枠が前記継手間詰部に設置され、前記金属製埋設型枠が前記目地部における前記バリア層を構成する、請求項1に記載の壁体構築方法。
【請求項4】
プレキャスト部材準備工程では、
前記プレキャスト部材を平置きにした状態で、当該前記プレキャスト部材の表面に対して前記バリア層が塗布又は吹付けにより形成される、請求項1に記載の壁体構築方法。
【請求項5】
前記プレキャスト部材設置工程の前に前記プレキャスト部材の表面上の前記バリア層の検査を行なうバリア層検査工程を更に備える、請求項1に記載の壁体構築方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は壁体構築方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、このような分野の技術として、下記特許文献1に記載のタンクが知られている。このタンクは、LNG等の低温の液体を貯蔵するためのものであり、タンクの側壁は、防液堤、外槽、内槽、断熱層等を含む多層構造をなしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010-106501号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この種のタンクの側壁は、例えば数十メートルの高さをもつものである。従って、タンクの側壁に含まれる上記のような複数の層の構築は、多くの高所作業を含む場合が多く、このため、施工の安全管理の負担が大きい。本発明は、施工の安全性を向上する壁体構築方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の要旨は以下の通りである。
【0006】
〔1〕壁面方向に並ぶプレキャスト部材を含んで形成されるコンクリート躯体と、前記コンクリート躯体の内側に設けられ液密性及び気密性をもつバリア層と、前記バリア層の内側に設けられた保冷層と、前記保冷層の内側に設けられた内槽と、を備えるタンクの壁体を構築する壁体構築方法であって、前記バリア層が表面に形成された前記プレキャスト部材を準備するプレキャスト部材準備工程と、前記バリア層が表面に形成された前記プレキャスト部材を前記壁体の構築予定位置に設置するプレキャスト部材設置工程と、前記構築予定位置で隣接する前記プレキャスト部材同士の目地部に前記バリア層を形成する目地部処理工程と、を備える、壁体構築方法。
【0007】
〔2〕前記目地部処理工程では、前記プレキャスト部材同士の間の継手間詰部の間詰コンクリートを打設するための埋設型枠が前記継手間詰部に設置され、前記埋設型枠の表面には予め前記バリア層が形成されている、〔1〕に記載の壁体構築方法。
【0008】
〔3〕前記目地部処理工程では、前記プレキャスト部材同士の間の継手間詰部の間詰コンクリートを打設するための金属製埋設型枠が前記継手間詰部に設置され、前記金属製埋設型枠が前記目地部における前記バリア層を構成する、〔1〕に記載の壁体構築方法。
【0009】
〔4〕プレキャスト部材準備工程では、前記プレキャスト部材を平置きにした状態で、当該前記プレキャスト部材の表面に対して前記バリア層が塗布又は吹付けにより形成される、〔1〕~〔3〕の何れか1項に記載の壁体構築方法。
【0010】
〔5〕前記プレキャスト部材設置工程の前に前記プレキャスト部材の表面上の前記バリア層の検査を行なうバリア層検査工程を更に備える、〔1〕~〔4〕の何れか1項に記載の壁体構築方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、施工の安全性を向上する壁体構築方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本実施形態の壁体構築方法が適用される地上タンクの一部破断斜視図である。
図2】地上タンクの側壁の一部を拡大して示す鉛直断面図である。
図3】本実施形態の壁体構築方法のフローチャートである。
図4】(a),(b)は、プレキャスト部材準備工程におけるPCaブロックを示す図である。
図5】(a)は、プレキャスト部材設置工程におけるPCaブロック同士の継手部近傍の水平断面図であり、(b)は、プレキャスト部材設置工程における構築予定位置をタンク内側から見た状態を示す斜視図である。
図6】(a)は、目地部処理工程における目地部近傍の水平断面図であり、(b)は、目地部処理工程における構築予定位置をタンク内側から見た状態を示す斜視図である。
図7】第2実施形態のプレキャスト部材設置工程におけるPCaブロック同士の継手部近傍の水平断面図である。
図8】(a)は、埋設型枠とPCaブロックとの境界部の処理の一例を示す水平断面図であり、(b)は、その処理の他の例を示す水平断面図である。
図9】第3実施形態のプレキャスト部材設置工程におけるPCaブロック同士の継手部近傍の水平断面図である。
図10】(a)は、変形例に係るコンクリート躯体を示す鉛直断面図であり、(b)は、そのコンクリート躯体を構築するための埋設型枠を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照しながら本発明に係る壁体構築方法の実施形態について詳細に説明する。
【0014】
〔第1実施形態〕
第1実施形態の壁体構築方法について説明する。図1は、本実施形態の壁体構築方法が適用される地上タンク1の一部破断斜視図である。タンク1は円筒平底低温PCタンクであり、例えば、LNGやアンモニア等の低温の液体を貯蔵するものである。図1に示されるように、タンク1は、円形の底版3と、底版3の円周縁から鉛直に立ち上がる円筒状の側壁5(壁体)と、側壁5の上端開口を塞ぐ屋根部7と、を備えている。側壁5は、例えば約40mの高さに設けられる。図2は、タンク1の側壁5の一部(図1のII部分)を拡大して示す鉛直断面図である。図2に示されるように、側壁5は、タンク1の外側から内側に向かって、コンクリート躯体11と、バリア層13と、保冷層15と、金属内槽17と、が順に積層されて構成されている。
【0015】
コンクリート躯体11は、側壁5の壁面方向(周方向及び鉛直方向)に2次元的に配列された複数のプレキャストコンクリートブロック12(以下「PCaブロック12」という)が互いに所定の継手構造で接合されて構成されている。コンクリート躯体11の厚さは例えば、0.5~1.0mである。
【0016】
バリア層13は、コンクリート躯体11の内側面上に設けられ、液密性及び気密性を有している。万一、貯蔵液体が金属内槽17から漏出したとき、漏出液体は保冷層15を通過してバリア層13に到達し得るが、バリア層13の液密性によって外部への液体の漏出は阻止される。また、金属内槽17とバリア層13との気密性により、金属内槽17とバリア層13との間の空間(保冷層15の空間)は気密空間とされ、当該気密空間は窒素置換されている。これにより、漏出液体の気化で上記気密空間内に発生したガスを感度良く検出することができ、当該ガスの検出をもって金属内槽17からの貯蔵液体の漏出を検出することができる。
【0017】
バリア層13は、コンクリート躯体11の内側面上に吹付け又は塗布(例えば刷毛塗)された樹脂材料Rで構成される。当該樹脂材料Rは、前述の気密性及び液密性、コンクリート躯体11の挙動への追随性(例えば、ひび割れ追随性)、貯蔵液体との化学的作用に対する耐性、等を考慮して選択される。上記樹脂材料Rは例えば高分子系のポリウレタン樹脂であり、バリア層13の厚さは例えば約2~5mmである。
【0018】
保冷層15は、側壁5の壁面方向(周方向及び鉛直方向)に2次元的に配列された複数の保冷パネル16によって構成されている。各保冷パネル16はバリア層13を間に挟んでコンクリート躯体11の内側面にボルト止めされ、隣接する保冷パネル16同士の間にはグラスウール等の充填材15tが詰められている。上記のような保冷パネル16のボルト止めを可能にするために、PCaブロック12には有底のインサートナット19aが埋め込まれている。保冷パネル16の材料は、例えばポリウレタンフォーム又はパーライトコンクリートパネルであり、保冷層15の厚さは例えば10~20cmである。
【0019】
金属内槽17は、側壁5の壁面方向(周方向及び鉛直方向)に2次元的に配列された複数の金属板18によって構成されている。各金属板18は保冷層15及びバリア層13を間に挟んでコンクリート躯体11の内壁面にボルト止めされている。隣接する金属板18の両端部同士は板厚方向に重ねられて溶接されている。上記のような金属板18のボルト止めを可能にするために、PCaブロック12には有底のインサートナット19bが埋め込まれている。金属内槽17は、液密性を有し、内側の空間に貯蔵液体を収容する。また、金属内槽17は前述した通り気密性を有している。金属板18の材料は例えばステンレスであり、金属板18の厚さは例えば2mmである。
【0020】
続いて、上記の側壁5を構築するための壁体構築方法について説明する。この壁体構築方法は、図3に示されるように、プレキャスト部材準備工程S201、バリア層検査工程S203、プレキャスト部材設置工程S205、目地部処理工程S207、目地検査工程S209、保冷層構築工程S211、及び金属内槽構築工程S213を備えている。以下、図2図6を参照しながら各工程について説明する。
【0021】
(プレキャスト部材準備工程S201)
プレキャスト部材準備工程S201では、コンクリート躯体11(図2)を構築するためのPCaブロック12が準備される。ここで準備されるPCaブロック12の表面には、予めバリア層13が形成される。このようなPCaブロック12は、事前に、タンク1の施工現場とは別の工場で製作され、タンク1の施工現場に搬入される。
【0022】
具体的には、図4に示されるように、工場において、PCaブロック12が公知の手法で製作される。PCaブロック12は、側壁5のカーブに対応して僅かに湾曲している。PCaブロック12には、端面から突き出す鉄筋12rや前述のインサートナット19a,19b(図2)が埋め込まれている。製作されたPCaブロック12は所定の台座Bに載置されて平置きにされる。ここでは、PCaブロック12のうちコンクリート躯体11の内側面に対応する表面12aが略水平で上方を向く姿勢で、PCaブロック12が載置される。
【0023】
このようにPCaブロック12が平置きにされた状態で、バリア層13の樹脂材料Rが表面12a全体に対して吹付けされて、表面12a上にバリア層13が形成される。なお、厳密には、ここで形成されるのはバリア層13のうち当該PCaブロック12上に存在する一部分であるので、区別する場合には「バリア層13h」と呼ぶ。その後、吹付けられた樹脂材料Rが経時的に硬化することで、図4(b)に示されるように、表面12aにバリア層13hが形成されたPCaブロック12が完成する。なお、PCaブロック12には、表面12aに沿ってインサートナット19a,19b(図2)のフランジが存在しているので、バリア層13hは当該フランジとPCaブロック12のコンクリート部分との境界を跨ぐように形成される。なお、このプレキャスト部材準備工程S201では、表面12aに樹脂材料Rが塗布(例えば刷毛塗)されることによってバリア層13hが形成されてもよい。
【0024】
プレキャスト部材準備工程S201にはバリア層検査工程S203が含まれている。バリア層検査工程S203では、PCaブロック12の表面12a上のバリア層13hの品質確認検査が行なわれる。前述の通り、バリア層13には液密性及び気密性が求められるので、ここでは、バリア層13hの外観検査や、ピンホール探傷機を用いたピンホール試験等が行なわれる。このバリア層検査工程S203は、樹脂材料Rの吹付け時(図4(a))と同様に、PCaブロック12が平置きにされた状態で実行される。バリア層検査工程S203を経た後、PCaブロック12は工場からタンク1の施工現場に搬送される。すなわち、タンク1の施工現場には、バリア層13hが表面に形成されたPCaブロック12が準備される。
【0025】
(プレキャスト部材設置工程S205)
図5(a)は、プレキャスト部材設置工程S205において、側壁5の構築予定位置6に設置され周方向に隣接するPCaブロック12,12の継手部近傍の水平断面図である。図5(a)における上方がタンク内側であり下方がタンク外側である。図5(b)は、プレキャスト部材設置工程S205における構築予定位置6をタンク内側から見た状態を示す斜視図である。図5(b)における手前側がタンク内側であり奥側がタンク外側である。
【0026】
プレキャスト部材設置工程S205では、図5(a)及び図5(b)に示されるように、上記のプレキャスト部材準備工程S201で準備された複数のPCaブロック12が側壁5の構築予定位置6に設置される。その後、周方向又は鉛直方向に隣接するPCaブロック12,12同士が、間詰コンクリート21を含む所定の継手構造で接合され、目地部23が形成される。また、更に、PCaブロック12,12同士は、別途設置されたPC鋼材(図示せず)の緊張によりプレストレスが付与されることで強固に接合される。
【0027】
目地部23の形成方法の一例は次の通りである。PCaブロック12が構築予定位置6に配置されたとき、隣接するPCaブロック12,12の端面同士の間隙として継手間詰部24が形成される。継手間詰部24には、PCaブロック12,12の端面からそれぞれ鉄筋12r(図4)が突き出している。図5(a)に示されるように、この継手間詰部24の壁厚方向の両側にそれぞれ型枠27,27が設置され、上記鉄筋12rを埋め込むように継手間詰部24に間詰コンクリート21が打設される。その後、型枠27が除去されて、図5(b)に示されるように目地部23が完成する。また、鉛直方向に隣接するPCaブロック12,12同士の間にも同様に目地部23が形成される。
【0028】
(目地部処理工程S207)
図6(a)は、目地部処理工程S207における目地部23近傍の水平断面図である。図6(b)は、目地部処理工程S207における構築予定位置6をタンク内側から見た状態を示す斜視図である。目地部処理工程S207では、目地部23にバリア層13が形成される。すなわち、プレキャスト部材設置工程S205の完了時点(図5(b))では、各PCaブロック12の表面12a上にはバリア層13hが形成されているが、目地部23でバリア層13が途切れているので、目地部処理工程S207では、目地部23上にバリア層13が形成される。なお、厳密には、ここで形成されるのはバリア層13のうち目地部23上に形成される一部分であるので、区別する場合には「バリア層13j」と呼ぶ。
【0029】
具体的には、目地部23に沿って樹脂材料Rが吹付けられることで、目地部23上にバリア層13jが形成される。このとき、目地部23を挟んで隣接する両方のバリア層13h,13hにオーバーラップする幅で樹脂材料Rが吹付けられバリア層13jが形成されることで、バリア層13は、コンクリート躯体11の内側面上で一連に繋がる。このような吹付け作業は、例えば、コンクリート躯体11に沿って設置されるクライミング足場又はゴンドラ等を用いて実行される。ここでは、目地部23に対して樹脂材料Rが塗布(例えば刷毛塗)されることによってバリア層13jが形成されてもよい。
【0030】
(目地検査工程S209)
目地検査工程S209では、目地部処理工程S207で形成されたバリア層13jの品質確認検査が行なわれる。ここでは、前述のバリア層検査工程S203と同じく、バリア層13jの外観検査や、ピンホール探傷機を用いたピンホール試験等が行なわれる。PCaブロック12の表面12a上のバリア層13hはバリア層検査工程S203で検査済みであるので、ここでは、バリア層13jのみを検査すればよい。この検査の作業は、例えば、コンクリート躯体11に沿って設置されるクライミング足場又はゴンドラ等を用いて実行される。
【0031】
(保冷層構築工程S211)
保冷層構築工程S211では、図2に示されるように、バリア層13の内側に複数の保冷パネル16が設置され、保冷層15が構築される。各保冷パネル16はバリア層13を間に挟んでコンクリート躯体11のインサートナット19aにボルト止めされる。隣接する保冷パネル16同士の間にはグラスウール等の充填材15tが詰められる。
【0032】
(金属内槽構築工程S213)
金属内槽構築工程S213では、図2に示されるように、保冷層15の内側に複数の金属板18が設置され、金属内槽17が構築される。各金属板18は保冷層15及びバリア層13を間に挟んでコンクリート躯体11のインサートナット19bにボルト止めされる。隣接する金属板18の両端部同士は板厚方向に重ねられて溶接される。
【0033】
なお、図2に示されるように、保冷パネル16や金属板18をボルト止めするためのインサートナット19a,19bは有底であり、保冷層15とコンクリート躯体11とがナット穴を通じて連通することはない。また、バリア層13はインサートナット19a,19bのフランジとPCaブロック12のコンクリート部分との境界を跨ぐように形成されている。この構造により、バリア層13の液密性及び気密性がインサートナット19a,19bの存在によって損なわれることはない。
【0034】
以上説明した壁体構築方法による作用効果について説明する。
【0035】
本実施形態の壁体構築方法では、プレキャスト部材準備工程S201において、構築予定位置6に設置される前のPCaブロック12の表面にバリア層13hが形成される。そして、その後のプレキャスト部材設置工程S205で、このPCaブロック12が側壁5の構築予定位置6に設置される。この時点で、構築予定位置6におけるバリア層13は目地部23を残して概ね形成済みである。従って、目地部処理工程S207では目地部23に対してバリア層13jを形成すれば済む。すなわち、クライミング足場又はゴンドラ等を用いる構築予定位置6での高所作業では、PCaブロック12の表面12aの部分の処理は必要がなく、目地部23のバリア層13jのみを形成すれば済む。例えば、バリア層13全体の面積のうち約90%は形成済みであり、目地部処理工程S207では残りの約10%のみを形成すれば済むといったことが可能になる。このように、高所作業が削減されるので、側壁5の施工の安全性が向上する。
【0036】
また、プレキャスト部材準備工程S201では、構築予定位置6に設置される前のPCaブロック12に対してバリア層検査工程S203が実行される。従って、PCaブロック12が側壁5の構築予定位置6に設置された時点で、構築予定位置6におけるバリア層13hは既に検査済みである。従って、目地検査工程S209における高所作業では、目地部23のバリア層13jのみを検査すればよい。従って、バリア層13の品質確認検査に必要な高所作業も削減されるので、側壁5の施工の安全性が更に向上する。
【0037】
また、プレキャスト部材準備工程S201におけるバリア層13hの形成や品質確認検査は、構築予定位置6ではなく、例えばPCaブロック12の工場等で実行することができる。従って、クライミング足場又はゴンドラ等を用いて構築予定位置6でバリア層13hの形成や品質確認検査を実行する場合に比較して、緻密な集中品質管理が可能であり、その結果バリア層13hの品質が向上する。また、プレキャスト部材準備工程S201では、PCaブロック12が平置きにされた状態で表面12a上にバリア層13hが形成される。従って、バリア層13hの樹脂材料の塗布ダレ等が抑えられ、バリア層13hの品質が更に向上する。また、バリア層検査工程S203では、PCaブロック12が平置きにされた状態でバリア層13hの品質確認検査が行なわれるので、より緻密な検査が可能であり、バリア層13hの品質が更に向上する。
【0038】
また、この種の側壁5の施工においては、バリア層13の完成後に更に内側に保冷層15及び金属内槽17が順に構築されるので、バリア層13を形成する工程は、側壁5の施工全体のクリティカルパスになる傾向にある。これに対して、本実施形態の壁体構築方法によれば、前述の通り構築予定位置6でのバリア層13の形成作業が削減され作業時間が短くなるので、側壁5の施工の工期短縮が可能である。また、バリア層13が構築予定位置6で形成される場合には樹脂材料Rの塗布ダレ等の懸念により歩掛が低下する場合がある。本実施形態の壁体構築方法によれば、構築予定位置6で形成すべきバリア層13の面積が低減されるので、上記のような歩掛低下が抑えられ、更に工期短縮が可能である。
【0039】
また、この種のタンク1の側壁5においては、バリア層13を金属板で形成することも考えられる。この場合には、金属板同士の溶接で生じる溶接ひずみで金属板が波打ち、バリア層13の表面に凹凸が残留する場合がある。バリア層13と金属内槽17との間にパーライト等の粒状物が注入充填されて保冷層15が形成されるものであればバリア層13の表面に凹凸があっても大きな問題はないが、保冷層15が保冷パネル16で形成される場合には、次の問題がある。すなわち、バリア層13の表面の凹凸によりバリア層13の表面から保冷パネル16が一部浮いた状態になりやすい。そうすると、タンク1の貯蔵液体の液圧により保冷パネル16がバリア層13に向けて押し付けられるときに、保冷パネル16には曲げ挙動が発生し得る。従って、保冷パネル16には曲げ変形に耐えうる強度が必要であり、保冷パネル16の補強が必要になる場合もある。
【0040】
この問題に対し、本実施形態の側壁5のバリア層13は、吹付け又は塗布された樹脂材料からなるので、バリア層13の表面を平滑に形成し易い。従って、上記のようにバリア層13の表面の凹凸に起因して発生する保冷パネル16の曲げ挙動を抑えることができる。また、本実施形態のタンク1の保冷層15は保冷パネル16で構成されるので、上記のように粒状物が注入充填された保冷層に比較して高い保冷性が得られる。
【0041】
〔第2実施形態〕
続いて、第2実施形態の壁体構築方法について説明する。本実施形態の壁体構築方法は、第1実施形態と比較して、プレキャスト部材設置工程S205及び目地部処理工程S207の一部が異なり、それ以外については第1実施形態と同様であるので、重複する説明は省略する。
【0042】
図7は、プレキャスト部材設置工程S205において構築予定位置6で周方向に隣接するPCaブロック12,12の継手部の水平断面図である。本実施形態のプレキャスト部材設置工程S205及び目地部処理工程S207では、継手間詰部24の外側に通常の型枠27が設置され、継手間詰部24の内側にはコンクリート製の埋設型枠31がボルト止めで設置される。タンク1の内側に面する埋設型枠31の表面31aは、PCaブロック12,12の内側の表面12aとほぼ面一に位置する。そして、埋設型枠31の内側の表面31aには予めバリア層13jが形成されている。このようにバリア層13jが表面に設けられた埋設型枠31は、予め工場で製作される。例えば、埋設型枠31の表面31aに対して樹脂材料Rが吹付けられ、又は塗布されてバリア層13jが形成されればよい。
【0043】
その後、継手間詰部24に間詰コンクリート21が打設され、型枠27が除去されて、目地部23が完成する。埋設型枠31は目地部23の一部として残置されるので、コンクリート躯体11の内側の面上にはPCaブロック12上のバリア層13hと、目地部23上のバリア層13jと、が存在している。
【0044】
その後、図8(a)に拡大して示されるように、埋設型枠31とPCaブロック12との周方向の隙間を塞ぐように、埋設型枠31の表面31a及びPCaブロック12の表面12aに鋼板33がボルト止めされる。そして、鋼板33とバリア層13hとの境界部と、鋼板33とバリア層13jとの境界部と、をそれぞれ塞ぐように、バリア層13の樹脂材料Rが吹付け又は塗布されてバリア層13kが形成される。この構造により、バリア層13hとバリア層13jとの境界部は鋼板33及びバリア層13kにより塞がれ、液密性及び気密性を有する一体的なバリア層13が完成する。この一体的なバリア層13の一部は鋼板33で構成されることになる。埋設型枠31では、当該埋設型枠31のボルト止め部分にタンク1供用時の目開きが集中し易いところ、この構造によれば、鋼板33により目開きが分散される。
【0045】
図8(a)の構造に代えて、図8(b)に示されるように、埋設型枠31とPCaブロック12との周方向の隙間を塞ぐように、繊維シート35(例えばガラスクロスシート)が埋設型枠31の表面31a及びPCaブロック12の表面12aに接着されてもよい。そして、この繊維シート35上には、当該繊維シート35を越える幅でバリア層13の樹脂材料Rが吹付け又は塗布されてバリア層13kが形成される。この構造により、バリア層13hとバリア層13jとの境界部は繊維シート35及びバリア層13kにより塞がれ、液密性及び気密性を有する一体的なバリア層13が完成する。また、この構造によれば、繊維シート35及びバリア層13kが、タンク1供用時の目開きに追随し、バリア層13の液密性及び気密性が確保される。
【0046】
〔第3実施形態〕
続いて、第3実施形態の壁体構築方法について説明する。本実施形態の壁体構築方法は、第1又は第2実施形態と比較して、プレキャスト部材設置工程S205及び目地部処理工程S207の一部が異なり、それ以外については第1又は第2実施形態と同様であるので、重複する説明は省略する。
【0047】
本実施形態におけるプレキャスト部材設置工程S205及び目地部処理工程S207では、第2実施形態のコンクリート製の埋設型枠31に代えて、図9に示されるように、鋼板からなる鋼製埋設型枠37(金属製埋設型枠)が継手間詰部24の内側にボルト止めで設置される。その後、継手間詰部24に間詰コンクリート21が打設され、型枠27が除去されて、目地部23が完成する。その後、鋼製埋設型枠37とバリア層13h,13hとの境界部のそれぞれを跨ぐように、バリア層13の樹脂材料Rが吹付け又は塗布されてバリア層13kが形成される。鋼製埋設型枠37は液密性及び気密性を有し目地部23におけるバリア層13jとして機能するので、鋼製埋設型枠37の表面37aに樹脂材料Rを吹付け又は塗布することは必要ない。すなわち、このバリア層13の一部は、鋼製埋設型枠37で構成されることになる。また、鋼製埋設型枠37が複数の鋼板で構成される場合、鋼板同士は溶接接合をしない、又は、鋼板同士を溶接接合した場合には事前に溶接ひずみが矯正される。これにより、鋼製埋設型枠37の平坦性が確保され、すなわち、バリア層13の平坦性が確保される。
【0048】
本発明は、上述した実施形態を始めとして、当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した様々な形態で実施することができる。また、上述した実施形態に記載されている技術的事項を利用して変形例を構成することも可能である。各実施形態等の構成を適宜組み合わせて使用してもよい。
【0049】
例えば、各実施形態では、コンクリート躯体11は、複数のPCaブロック12(プレキャスト部材)が壁面方向に配列されて構成されるものであるが、これには限定されない。例えば、図10(a)に示されるように、コンクリート躯体11は、当該コンクリート躯体11の内側の一部分をなすコンクリート製の埋設型枠41(プレキャスト部材)と、当該埋設型枠41の外側に場所打ちされるコンクリート部43と、で構成されるものであってもよい。この場合、プレキャスト部材準備工程S201では、図10(b)に示されるように、例えば工場において、埋設型枠41が製作されるとともに、埋設型枠41を平置きにした状態で、埋設型枠41のうちタンク1の内側に対応する表面41aにバリア層13hが形成される。
【0050】
そして、プレキャスト部材設置工程S205では、図10(a)に示されるように、表面41aにバリア層13hが形成された状態の埋設型枠41が構築予定位置6に設置される。そして、埋設型枠41の外側にコンクリート部43が打設されることで、コンクリート躯体11が構築される。その後、目地部処理工程S207では、隣接する埋設型枠41同士の目地部において、図6(b)に示される第1実施形態と同様に、バリア層13h,13h同士の隙間を塞ぐようにバリア層13jが形成されることで、一体的なバリア層13が形成される。
【0051】
また、各実施形態では、PCaブロック12の表面12a上にバリア層13hを形成する処理は工場で実行されるが、このようなバリア層13hの形成は、プレキャスト部材設置工程S205の前に現地で実行されてもよい。また、各実施形態における保冷層15は複数の保冷パネル16で構成されるものであるが、保冷層15はバリア層13と金属内槽17との間にパーライト等の粒状物が注入充填されて形成されるものであってもよい。また、各実施形態におけるタンク1は地上タンクであるが、本発明は地下タンクに適用されてもよい。また、各実施形態におけるタンク1は低温タンクであるが、所定の層が予め表面に形成されたプレキャスト部材がタンクの壁体の構築予定位置に設置された後、プレキャスト部材同士の目地部にも上記の所定の層が形成される、といった工程は、低温タンクに限らず水タンク等に適用されてもよい。
【符号の説明】
【0052】
1…地上タンク、5…側壁(壁体)、6…構築予定位置、11…コンクリート躯体、12…PCaブロック(プレキャスト部材)、12a…表面、13,13h,13j,13k…バリア層、15…保冷層、17…金属内槽、21…間詰コンクリート、23…目地部、24…継手間詰部、31…埋設型枠、31a…表面、37…鋼製埋設型枠(金属製埋設型枠)、41…埋設型枠(プレキャスト部材)、41a…表面、S201…プレキャスト部材準備工程、S205…プレキャスト部材設置工程、S207…目地部処理工程、S203…バリア層検査工程。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10