(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024118000
(43)【公開日】2024-08-30
(54)【発明の名称】炭素繊維の製造方法
(51)【国際特許分類】
D06M 13/352 20060101AFI20240823BHJP
D06M 11/74 20060101ALI20240823BHJP
D06M 101/40 20060101ALN20240823BHJP
【FI】
D06M13/352
D06M11/74
D06M101:40
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023024138
(22)【出願日】2023-02-20
(71)【出願人】
【識別番号】000004628
【氏名又は名称】株式会社日本触媒
(72)【発明者】
【氏名】郷田 隼
(72)【発明者】
【氏名】藤原 誠
【テーマコード(参考)】
4L031
4L033
【Fターム(参考)】
4L031AA27
4L031AB01
4L031BA02
4L031DA11
4L033AA09
4L033AB01
4L033AC15
4L033BA56
(57)【要約】
【課題】
炭素繊維強化プラスチックにおいて、樹脂との良好な相互作用を持つ炭素繊維の表面処理方法を提供することである。
【解決手段】
酸化グラフェンおよびオキサゾリン化合物で炭素繊維の表面処理をすることを特徴とする炭素繊維の製造方法である。該方法で得られた炭素繊維を用いることで、再生炭素繊維を用いた場合においても樹脂との密着性などの相互作用が良好となり、得られた炭素繊維強化プラスチックの高強度、高弾性を維持できる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化グラフェンおよびオキサゾリン化合物で表面処理することを特徴とする炭素繊維の製造方法。
【請求項2】
下記a,b,cのいずれかの表面処理をすることを特徴とする請求項1に記載の炭素繊維の製造方法。
a)酸化グラフェン、オキサゾリン化合物の順に炭素繊維の表面を処理する。
b)オキサゾリン化合物、酸化グラフェンの順に炭素繊維の表面を処理する。
c)酸化グラフェンとオキサゾリン化合物をあらかじめ複合化した複合体を用いて炭素繊維の表面を処理する。
【請求項3】
該炭素繊維が酸化処理されたものであることを特徴とする請求項1または2に記載の炭素繊維の製造方法。
【請求項4】
該炭素繊維が使用済み炭素繊維強化プラスチックから回収された炭素繊維であることを特徴とする請求項1または2に記載の炭素繊維の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂との良好な相互作用を持つ炭素繊維の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素繊維強化プラスチック(CFRP)は高強度と高弾性率を示す材料として構造材料として広く利用されている。CFRPにはマトリックス樹脂として、エポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂や、ビニルエステルなどの熱可塑性樹脂が利用されている(特に熱可塑性樹脂の場合はCFRTPと呼ばれる)。しかしながら炭素繊維と樹脂の相互作用が低く、CFRPとした時の強度に課題があった。これまでに炭素繊維の樹脂への相互作用向上のために、炭素繊維自体を酸化処理したり、サイジング処理と呼ばれる有機成分での表面処理が盛んに検討されている(特許文献1、2)。また、酸化グラフェンを表面処理に用いる報告もなされている(特許文献3)。しかしながらこれら表面処理では相互作用の向上が不十分であり、さらなる表面処理方法が求められている。さらに、近年では炭素繊維のリサイクルも盛んに検討されており、CFRPから回収された炭素繊維の再利用のためにも新たな表面処理が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭59-30914号公報
【特許文献2】特開2022-117562号公報
【特許文献3】特開2020-169424号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、樹脂との良好な相互作用を持つ炭素繊維の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、上記目的を達成する為に種々検討を行ない、本発明に想到した。
すなわち、本発明の炭素繊維の製造方法は、酸化グラフェンおよび、オキサゾリン化合物で表面処理することを特徴とする、炭素繊維の製造方法である。
【発明の効果】
【0006】
本発明の炭素繊維の製造方法によって得られる炭素繊維は、成形加工性に優れ、CFRPとしたときの強度に優れる。本発明の実施形態によって、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂など種々の樹脂に適応可能であり、また、無処理炭素繊維、酸化処理炭素繊維、リサイクル炭素繊維など、種々の炭素繊維に適用可能である。炭素繊維と樹脂間の相互作用を向上し、強度向上させたCFRP,CFRTPを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、本発明を詳細に説明する。
なお、以下において記載する本発明の個々の好ましい形態を2つ以上組み合わせたものもまた、本発明の好ましい形態である。
【0008】
[炭素繊維の製造方法]
本発明の炭素繊維の製造方法は、酸化グラフェンおよびオキサゾリン化合物で表面処理することを特徴とする製造方法である。酸化グラフェンとオキサゾリン化合物を併用することにより、炭素繊維と樹脂間の相互作用が向上し、CFRP、CFRTPとしての機械強度を向上させることができる。酸化グラフェンおよびオキサゾリン化合物での表面処理は後述の方法で行うことができる。
【0009】
[炭素繊維]
本発明で用いられる炭素繊維は、特に限定されず、PAN系炭素繊維・ピッチ系炭素繊維をあげることができる。また、これら炭素繊維を酸化処理したもの、サイジング処理したものもあげることができる。さらにこれら炭素繊維を使用済みCFRP,CFRTPから回収したリサイクル炭素繊維もあげることができる。
【0010】
[酸化グラフェンおよび酸化グラフェン分散液]
本発明に用いられる酸化グラフェンは黒鉛を酸化し、剥離することで得られる。酸化グラフェンの製造方法は特には限定されないが、例えば黒鉛を硫酸中、酸化剤を用いることで酸化し、精製後に剥離した酸化グラフェンが好ましい。
【0011】
本発明の酸化グラフェンは10層以下であることが好ましい。層数は電子顕微鏡等で分析することができる。より効果的に付着させる観点からは酸化グラフェンの層数は1~10層が好ましく、1~7層がより好ましく、1~5層がさらに好ましく、1~3層が最も好ましい。また、繊維への付着能や、分散性の観点から酸化グラフェン中の炭素酸素元素比(O/C)は0.1~2の範囲が好ましく、0.2~1.5がより好ましく、0.3~1.2が最も好ましい。これらO/Cを適宜調整することで、後述するが、組み合わせる樹脂や添加剤との混合性を調製することが可能である。O/Cは酸化グラフェン合成時の酸化剤量を増やしたり、酸化条件をより強くしたりすることで大きくすることができ、また、酸化グラフェンを還元することで小さくすることが可能である。
【0012】
本発明に用いられる酸化グラフェンは分散液の形態が好ましい。分散液とすることで、酸化グラフェン同士の(凝集)を抑制し、炭素繊維表面に効果的に酸化グラフェンを作用させることが可能である。好ましい分散媒としては、特に限定されないが、例えば水;メタノール、エタノール、2-プロパノール等のアルコール系溶媒;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン系溶媒;ジエチルエーテル、シクロペンチルメチルエーテル等のエーテル系溶媒;クロロホルム等のハロゲン系溶媒などが挙げられる。この中でも水またはアルコール系溶媒が好ましく、水が最も好ましい。分散液の濃度は0.0001~10%が好ましく、生産性と性能の観点からは0.0001~5%がより好ましく、0.001~3%がさらに好ましく、0.01~2%が最も好ましい。上記範囲であれば、炭素繊維に対して酸化グラフェンを良好に付着させることが可能となる。また、分散液は分散性を向上するために、分散処理したものが好ましい。分散処理としては、ホモジナイザー等のせん断処理や、超音波処理が挙げられる。
【0013】
[オキサゾリン化合物]
本発明に用いられるオキサゾリン化合物は、2以上のオキサゾリン基を有する化合物である。中でも、合成の容易性などの点から、オキサゾリン基を有するモノマー由来の構成単位を含む(共)重合体が好ましく、炭素材料との反応性などの点から、オキサゾリン基含有単量体の構成単位を含む重合体が好ましい。
【0014】
オキサゾリル基含有単量体としては、2-ビニル-2-オキサゾリン、4-メチル-2-ビニル-2-オキサゾリン、5-メチル-2-ビニル-2-オキサゾリン、4-エチル-2-ビニル-2-オキサゾリン、5-エチル-2-ビニル-2-オキサゾリン、4,4-ジメチル-2-ビニル-2-オキサゾリン、4,4-ジエチル-2-ビニル-2-オキサゾリン、4,5-ジメチル-2-ビニル-2-オキサゾリン、4,5-ジエチル-2-ビニル-2-オキサゾリン、2-イソプロペニル-2-オキサゾリン、4-メチル-2-イソプロペニル-2-オキサゾリン、5-メチル-2-イソプロペニル-2-オキサゾリン、4-エチル-2-イソプロペニル-2-オキサゾリン、5-エチル-2-イソプロペニル-2-オキサゾリン、4,4-ジメチル-2-イソプロペニル-2-オキサゾリン、4,4-ジエチル-2-イソプロペニル-2-オキサゾリン、4,5-ジメチル-2-イソプロペニル-2-オキサゾリン、4,5-ジエチル-2-イソプロペニル-2-オキサゾリン等が挙げられる。中でも、酸性基等との反応性の点から、2-ビニル-2-オキサゾリン、2-イソプロペニル-2-オキサゾリン、5-メチル-2-ビニル-2-オキサゾリン、又は4,4-ジメチル-2-ビニル-2-オキサゾリンが好ましく、工業的な入手容易性から2-イソプロペニル-2-オキサゾリンが更に好ましい。オキサゾリン基含有単量体は1種類を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0015】
前記オキサゾリン基含有単量体と共重合可能な単量体(以下、単に「共重合可能な単量体」という)としては、例えば、アルキル基含有(メタ)アクリル酸エステル単量体、水酸基含有(メタ)アクリル酸エステル単量体、カルボキシル基含有単量体、芳香族ビニル単量体、マレイミド基含有単量体、アミド基含有単量体、N-置換(メタ)アクリルアミド単量体、オレフィン系単量体、ハロゲン含有単量体などが挙げられ、アルキル基含有(メタ)アクリル酸エステル単量体、芳香族ビニル単量体、マレイミド基含有単量体、シアン化ビニル系単量体が好ましく、共重合性の観点から、アルキル基含有(メタ)アクリル酸エステル単量体が好ましい。
【0016】
芳香族ビニル単量体としては、例えば、スチレン、o-メチルスチレン、m-メチルスチレン、p-メチルスチレン、o-エチルスチレン、m-エチルスチレン、p-エチルスチレン、ジメチルスチレン、tert-メチルスチレン、α-クロロスチレン、β-クロロスチレン、ジビニルベンゼンなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらの芳香族ビニル単量体は、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。芳香族ビニル単量体は、ベンゼン環にメチル基、tert-ブチル基などのアルキル基、ニトロ基、ニトリル基、アルコキシル基、アシル基、スルホン基、ヒドロキシル基などの官能基が存在していてもよい。
【0017】
アルキル基含有(メタ)アクリル酸エステル単量体としては、例えば、炭素数が1~20の直鎖又は分岐鎖状のアルキル基含有(メタ)アクリル酸エステル単量体などが挙げられる。
【0018】
アルキル基含有(メタ)アクリル酸エステル単量体としては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸s-ブチル、(メタ)アクリル酸t-ブチル、(メタ)アクリル酸ペンチル、(メタ)アクリル酸イソペンチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸ヘプチル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸イソオクチル、(メタ)アクリル酸ノニル、(メタ)アクリル酸イソノニル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸イソデシル、(メタ)アクリル酸ウンデシル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸トリデシル、(メタ)アクリル酸テトラデシル、(メタ)アクリル酸ペンタデシル、(メタ)アクリル酸ヘキサデシル、(メタ)アクリル酸ヘプタデシル、(メタ)アクリル酸オクタデシル、(メタ)アクリル酸ノナデシル、(メタ)アクリル酸エイコシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシルなどが挙げられる。前記アルキル基含有(メタ)アクリル酸エステル単量体は、単独で、又は2種以上組み合せて用いてもよい。
【0019】
アルキル基含有(メタ)アクリル酸エステル単量体としては、炭素数が1~14のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルが好ましく、炭素数が2~10のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルがより好ましく、炭素数が4~8のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルがさらに好ましい。
【0020】
また、本開示のアルキル基含有(メタ)アクリル酸エステル単量体としては、炭素数が1~14のアルキル基を有するアクリル酸アルキルエステルが好ましく、炭素数が2~10のアルキル基を有するアクリル酸アルキルエステルがより好ましく、炭素数が4~8のアルキル基を有するアクリル酸アルキルエステルがさらに好ましい。
【0021】
マレイミド基含有単量体としては、例えば、マレイミド、N-メチルマレイミド、N-エチルマレイミド、N-プロピルマレイミド、N-イソプロピルマレイミド、N-ブチルマレイミド、N-sec-ブチルマレイミド、N-tert-ブチルマレイミド、N-アミルマレイミド、N-ヘキシルマレイミド、N-ヘプチルマレイミド、N-オクチルマレイミド、N-ノニルマレイミド、N-デシルマレイミド、N-デシルマレイミド、N-ウンデシルマレイミド、N-ドデシルマレイミド(N-ラウリルマレイミド)、N-トリデシルマレイミド、N-テトラデシルマレイミド、N-ペンタデシルマレイミド、N-ヘキサデシルマレイミド、N-ヘプタデシルマレイミド、N-オクタデシルマレイミド(N-ステアリルマレイミド)、N-ノナデシルマレイミド、N-アリルマレイミド、N-シクロヘキシルマレイミド、N-フェニルマレイミド、N-ヒドロキシフェニルマレイミド、N-メチルフェニルマレイミド、N-ジメチルフェニルマレイミド、N-エチルフェニルマレイミド、N-ジエチルフェニルマレイミド、N-フェニルメチルマレイミド、N-メトキシフェニルマレイミド、N-クロロフェニルマレイミド、N-ジクロロフェニルマレイミド、N-トリクロロフェニルマレイミド、N-トリブロモフェニルマレイミドなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらのマレイミド基含有単量体は、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0022】
水酸基含有(メタ)アクリル酸エステル単量体としては、(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキル(例えば、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチルなどが挙げられる。
【0023】
カルボキシル基含有単量体としては、(メタ)アクリル酸、マレイン酸、フマル酸、クロトン酸、イタコン酸、シトラコン酸、無水マレイン酸、マレイン酸モノメチルエステル、マレイン酸モノブチルエステル、イタコン酸モノメチルエステル、イタコン酸モノブチルエステル、ビニル安息香酸などのカルボキシル基含有単量体などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0024】
窒素原子含有単量体としてN-ビニルピロリドン、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチル、アクリロニトリル、ジアセトンアクリルアミドなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
オキサゾリン化合物が、オキサゾリン基含有単量体由来の構成単位を含む重合体である場合、オキサゾリン基含有単量体の割合は、化合物構成する構成単位全量に対して、1~90モル%であることが好ましい。またその重合体の重量平均分子量は、1,000~500,000が好ましく、2,000~200,000がより好ましく、4,000~100,000が更に好ましい。重量平均分子量が1,000以上であれば、炭素繊維表面への接着性に優れている。また、重量平均分子量が500,000以下であれば、粘度の上昇が抑制され、取り扱い性に優れている。
【0025】
オキサゾリン基含有単量体由来の構成単位を含む重合体は、例えば、溶液重合、懸濁重合、乳化重合、塊状重合法など公知のラジカル重合法により製造することができる。
【0026】
[酸化グラフェンでの炭素繊維の処理方法]
本発明の炭素繊維の酸化グラフェン処理は、炭素繊維の表面に酸化グラフェンが付着および/または結合した炭素繊維を得るものである。酸化グラフェンは薄い厚みと大きな面を有し、面同士の相互作用で高い密着性を発現する。特に、炭素繊維を用いた場合、酸化グラフェンはともに炭素材料であることから、特に相互作用が強い。樹脂への混合性向上の観点からは、炭素繊維に対する酸化グラフェンの最低必要量は用いる炭素繊維の直径および密度に依存する。例えば、炭素繊維を例とした場合、直径が7μm、密度1.78とすると炭素繊維1kgあたりの表面積は320m2となり、これを覆うのに必要な酸化グラフェン(理論面積1315m2/g)は約0.25g(0.25ppm)となる。炭素繊維と酸化グラフェンの複合量比はこれ以上であればよいが、ハンドリングや、付着率を考慮して1ppm以上が好ましい。また炭素繊維自身の効果を薄めない観点からは1%以下の付着量比であることが好ましい。
【0027】
本発明の酸化グラフェンでの処理方法は特に限定されないが、酸化グラフェン分散液と炭素繊維を接触させる工程を含むことが好ましい。接触時の分散媒は、特に限定されないが、例えば水;メタノール、エタノール、2-プロパノール等のアルコール系溶媒;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン系溶媒;ジエチルエーテル、シクロペンチルメチルエーテル等のエーテル系溶媒;クロロホルム等のハロゲン系溶媒などが挙げられる。この中でも水またはアルコール系溶媒が好ましく、水が最も好ましい。
【0028】
酸化グラフェン分散液と炭素繊維との接触方法は、特に限定されないが、酸化グラフェンを効率的に使用する観点からは酸化グラフェン分散液に炭素繊維に投入する方法、炭素繊維に酸化グラフェン分散液を噴霧する方法が好ましい。例えば、酸化グラフェン分散液が流れている流路に炭素繊維を逐次含侵する方法、炭素繊維が繊維方向に移送されている(例えば繊維の巻取り工程など)プロセスにおいて、酸化グラフェン分散液を噴霧して炭素繊維に付着させる方法等が挙げられる。
【0029】
酸化グラフェン分散液と炭素繊維を接触させる工程の温度は特に限定されないが、酸化グラフェンが効果的に付着される観点からは0~90℃の範囲が好ましい。この範囲を外れると酸化グラフェンの付着能が下がる。より好ましくは10~80℃であり、さらに好ましくは20~70℃である。
【0030】
酸化グラフェン分散液と炭素繊維を接触させる工程では、第3の成分が含まれていてよい。例えば酸化グラフェンの付着能をより高める添加剤や、酸化グラフェンを還元する還元剤等である。これらの添加剤は酸化グラフェン分散液に含まれていても良いし、接触工程で同時、あるいはあとで追加することも可能である。付着能を高める添加剤としては、アミン、アンモニウムが好ましい。この中でも低分子化合物のアルキルアミン(例えばラウリルアミン)やアルキルアンモニウム(例えば塩化ベンザルコニウム)、高分子化合物のポリアミン類(例えばポリエチレンイミン、ポリアリルアミン等)、ポリアンモニウム類(ポリジメチルアリルアミン塩酸塩等)が好ましい。
【0031】
還元剤としては、ヒドラジン、ヨウ化水素、L-アスコルビン酸等が好ましい。
【0032】
酸化グラフェン分散液と炭素繊維を接触させる工程のあとに、余分な酸化グラフェンや添加剤を除去する精製工程を含むことも好ましい。炭素繊維として炭素繊維を用いた場合、酸化グラフェンは炭素繊維との相互作用が強いことから、条件によっては過剰に付着されることから、この余分な酸化グラフェンを除去することが好ましい。精製工程は溶媒による洗浄が好ましく、溶媒は前述した分散媒が好ましく、中でも水が好ましい。
【0033】
該製造方法には乾燥工程、還元工程を含んでいても良い。乾燥工程は常温または加熱下での乾燥が好ましく、雰囲気は不活性雰囲気、大気、真空でもよい。還元工程は加熱による還元や、還元剤による還元が適当である。加熱による還元は好ましくは120℃以上、より好ましくは150℃以上である。酸化グラフェンの分解を防ぐ観点からは、700℃以下が好ましい。雰囲気は不活性雰囲気、大気、真空でもよい。還元剤を用いる場合は前述の通り、混合工程で添加した還元剤を使用しても良いし、別途還元剤を酸化グラフェンで被覆した炭素繊維に適用しても良い。
【0034】
[オキサゾリン化合物での炭素繊維処理方法]
本発明のオキサゾリン化合物で処理した炭素繊維は、炭素繊維の表面にオキサゾリン化合物が付着および/または結合したものである。樹脂への混合性向上の観点からは、炭素繊維に対するオキサゾリン化合物の最低必要量はハンドリングや、付着率を考慮して1ppm以上が好ましい。また炭素繊維自身の効果を薄めない観点からは5%以下の付着量比であることが好ましく、1%以下の付着量比であることが更に好ましい。
【0035】
本発明のオキサゾリン化合物での処理方法は特に限定されないが、オキサゾリン化合物の溶液と炭素繊維を接触させる工程を含むことが好ましい。接触時の溶媒、分散媒は、特に限定されないが、例えば水;メタノール、エタノール、2-プロパノール等のアルコール系溶媒;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン系溶媒;ジエチルエーテル、シクロペンチルメチルエーテル等のエーテル系溶媒;クロロホルム等のハロゲン系溶媒などが挙げられる。この中でも水またはアルコール系溶媒が好ましく、水が最も好ましい。
【0036】
オキサゾリン化合物の溶液と炭素繊維との接触方法は、特に限定されないが、オキサゾリ化合物を効率的に使用する観点からはオキサゾリン化合物の溶液に炭素繊維に投入する方法、炭素繊維にオキサゾリン化合物の溶液を噴霧する方法が好ましい。例えば、オキサゾリン化合物の溶液が流れている流路に炭素繊維を逐次含侵する方法、炭素繊維が繊維方向に移送されている(例えば繊維の巻取り工程など)プロセスにおいて、オキサゾリン化合物の溶液を噴霧して炭素繊維に付着させる方法等が挙げられる。
【0037】
オキサゾリン化合物の溶液と炭素繊維を接触させる工程の温度は特に限定されないが、オキサゾリン化合物が効果的に付着される観点からは0~180℃の範囲が好ましい。この範囲を外れるとオキサゾリン化合物の付着能が下がる。より好ましくは10~140℃であり、さらに好ましくは20~120℃である。
【0038】
該製造方法には、余分なオキサゾリン化合物や添加剤を除去する精製工程を含むことも好ましい。炭素繊維として炭素繊維を用いた場合、オキサゾリン化合物は炭素繊維との相互作用が強いことから、条件によっては過剰に付着されることから、この余分なオキサゾリン化合物を除去することが好ましい。精製工程は溶媒による洗浄が好ましく、溶媒は前述した分散媒が好ましく、中でも水が好ましい。
【0039】
該製造方法には乾燥工程を含んでいても良い。乾燥工程は常温または加熱下での乾燥が好ましく、雰囲気は不活性雰囲気、大気、真空でもよい。炭素繊維表面の酸基とオキサゾリン基の反応性の観点から、乾燥時の加熱温度は、例えば、80~240℃であり、100~220℃が好ましく、120~200℃がより好ましい。焼成温度を240℃以下とすることで、オキサゾリン化合物の熱分解や酸化を抑制できる。
【0040】
[酸化グラフェンとオキサゾリン化合物の複合体]および[酸化グラフェンとオキサゾリン化合物の複合体での炭素繊維処理方法]
本発明の酸化グラフェンとオキサゾリン化合物の複合方法は特に限定されないが、酸化グラフェン分散液とオキサゾリン化合物溶液を混合する工程を含むことが好ましい。接触時の分散媒は、特に限定されないが、例えば水、メタノール、エタノール、2-プロパノール等のアルコール、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン溶媒、ジエチルエーテル、シクロペンチルメチルエーテル等のエーテル溶媒、クロロホルム等のハロゲン系溶媒が挙げられる。この中でも水、アルコール溶媒が好ましく、水が最も好ましい。
【0041】
得られた複合体は乾燥させて取り出しても良いし、混合液のまま使用しても良い。また、混合工程の後に精製工程を含んでいてもよい。酸化グラフェンとオキサゾリン化合物の複合体による炭素繊維の処理方法は前述した酸化グラフェンでの炭素繊維の処理方法、およびオキサゾリン化合物での炭素繊維処理方法が適用できる。
【0042】
[本発明の炭素繊維の表面処理方法a、b、c]
本発明の炭素繊維の表面処理方法は上述した通り、[酸化グラフェンでの炭素繊維の処理方法]、[オキサゾリン化合物での炭素繊維処理方法]、および[酸化グラフェンとオキサゾリン化合物の複合体での炭素繊維処理方法]の組み合わせが好ましい。すなわち下記処理方法a、b、cが好ましい。
a)酸化グラフェン、オキサゾリン化合物の順に処理する。すなわち[酸化グラフェンでの炭素繊維の処理方法]により処理したのち、[オキサゾリン化合物での炭素繊維処理方法]により処理する方法。
b)オキサゾリン化合物、酸化グラフェンの順に処理する。すなわち[オキサゾリン化合物での炭素繊維処理方法]により処理したのち、[酸化グラフェンでの炭素繊維の処理方法]により処理する方法。
c)酸化グラフェンとオキサゾリン化合物をあらかじめ複合化したのちに処理する。すなわち、[酸化グラフェンとオキサゾリン化合物の複合体での炭素繊維処理方法]により処理する方法。である。
【0043】
[炭素繊維強化プラスチックおよびその成形方法]
本発明の炭素繊維強化プラスチック(CFRP,CFRTP)は、酸化グラフェンおよびオキサゾリン化合物で処理された炭素繊維と、マトリックス樹脂を含むCFRP,CFRTPである。
【0044】
本発明CFRP,CFRTPの成型方法としては、特に限定されないが、型に繊維骨材を敷き、硬化剤を混合した樹脂を脱泡しながら多重積層してゆくハンドレイアップ法やスプレーアップ法のほか、あらかじめ骨材と樹脂を混合したシート状のものを金型で圧縮成型するSMCプレス法、インジェクション成形の様に繊維を敷き詰めた合わせ型に樹脂を注入するRTM法、オートクレーブで熱硬化性樹脂を硬化させて成形する方法が挙げられる。
【0045】
繊維強化プラスチックの成形に際して、特に限定はないが適宜必要量の硬化剤、促進剤、助促進剤、鎖移動剤等を用いてもよい。
【0046】
[マトリクス樹脂]
本発明の炭素繊維強化プラスチックのマトリックス樹脂としては、特に制限されず、熱硬化性樹脂であってもよく、熱可塑性樹脂であってもよい。熱硬化性樹脂としては、具体的には、アニリン樹脂;ノボラック型フェノール樹脂、レゾール型フェノール樹脂などのフェノール樹脂;ビスフェノール型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂などのエポキシ樹脂;メラミン樹脂;尿素樹脂;シアネート樹脂;フラン樹脂;ケトン樹脂;不飽和ポリエステル樹脂;ウレタン樹脂;シリコーン樹脂などが挙げられる。
【0047】
また、熱可塑性樹脂としては、具体的には、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリアクリロニトリル、環状ポリオレフィン樹脂、アクリロニトリル-スチレン(AS)樹脂、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン(ABS)樹脂、塩化ビニル、酢酸ビニル、メタクリル樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、セルローストリアセテート、セルロースジアセテート、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリアセタール、ポリフェニレンエーテル、ポリブチレンテレフタレート、ポリフェニレンサルファイド、ポリサルホン、ポリエーテルサルホン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルイミド、ポリアミドイミド、ポリイミド、ポリフタルアミドなどが挙げられる。中でも高強度・高弾性の観点からエポキシ樹脂を用いることが好ましい。
【0048】
マトリックス樹脂には本発明の主旨に反しない限りで各種添加剤を用いても良い。添加剤としては、紫外線吸収剤、帯電防止剤、離型剤、増量剤、着色剤、難燃剤、滑剤、可塑剤等を上げることができる。
【実施例0049】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「部」は「質量部」を、「%」は「質量%」を意味するものとする。
【0050】
[ラマンスペクトル測定]
ラマン分光分析は以下の装置、条件により行った。
測定装置:顕微ラマン(日本分光NRS-3100)
測定条件:532nmレーザー使用、対物レンズ20倍、CCD取り込み時間1秒、積算
32回(分解能=4cm-1)
測定内容:酸化グラフェンに特徴的なG、Dバンドの有無により存在を確認する。
【0051】
[X線光電子分光(XPS)]
以下の条件で分析し、酸素、炭素含有量を確認した。
島津クレイトス社製 AXIS-NOVAX線線源・出力 AlKα―100Wパスエネルギー40eV中和銃ON
[マイクロドロップレット試験]
炭素繊維に樹脂ドロップレット(エポキュア2(アルテコ社製)、主剤:硬化剤比4:1、55℃3時間で硬化)を成形後、東栄産業製・複合材界面特性評価装置HM410を用いて、引き抜き速度0.12mm/mの速度で5回実施し、界面せん断強度を分析した。最小最大の値は排除し、中間3値の平均をその試験での結果とした。
【0052】
[調製例1]酸化グラフェン分散液の調製
酸化グラフェン分散液を以下の工程で合成した。反応容器にあらかじめ黒鉛(伊藤黒鉛株式会社製Z-25)15g、硫酸(富士フイルム和光純薬株式会社製)640gを入れ、30℃に調整しながら過マンガン酸カリウム(富士フイルム和光純薬株式会社製)45gを入れた。投入後、30分、35℃に昇温し2時間反応させた。
【0053】
反応後反応液を水1070ml、30%過酸化水素水(富士フイルム和光純薬株式会社製)42mlを加え反応停止させた。得られた反応液は静置沈降により、上澄みの除去とイオン交換水による再分散を繰り返し精製した。精製後、ホモジナイザーにより剥離操作を行い、酸化グラフェン分散液(1)(0.1%水分散体)を調製した。得られた酸化グラフェンは電子顕微鏡観察により単層であるとわかった。XPS分析より求められたO/Cは0.55であった。
【0054】
[炭素繊維例]
炭素繊維(繊維径7μm、日精株式会社製、そのままおよび、大気下350℃1時間加熱し表面の不純物を除去したもの、CF-PおよびCF-Hと呼ぶ)を用いた。加熱処理は炭素繊維表面のサイジング剤を焼き飛ばすための処理である。
【0055】
[処理例1]酸化グラフェンでの炭素繊維処理
酸化グラフェン分散液(1)に炭素繊維(未処理、もしくは後述するオキサゾリン化合物で表面処理(処理例2)した炭素繊維)を1分間含侵させたのち、水洗し余分な酸化グラフェンを除去した。40℃で送風乾燥させることで、酸化グラフェンで被覆された炭素繊維を得た。
【0056】
[処理例2]オキサゾリン化合物での炭素繊維処理
オキサゾリン化合物(日本触媒製、エポクロス、品番「WS-300」)をイオン交換水にて1.0wt%になるように溶解し、これを炭素繊維(未処理、もしくは前述する酸化グラフェンで表面処理(処理例1)した炭素繊維)の全体に浸るように加えた。これをオイルバス中100℃にて3時間加熱した後、水洗し余分な成分を除去した。得られた炭素繊維を140℃にて10分間乾燥し、オキサゾリン化合物で被覆された炭素繊維を得た。
【0057】
[調製例2]酸化グラフェンとオキサゾリン化合物の複合化
酸化グラフェン分散液(1)に重量比(酸化グラフェン:オキサゾリン化合物)が1:1となるようにWS-300を混合し、複合体液(1)を得た。
【0058】
[処理例3]酸化グラフェンとオキサゾリン化合物の複合体での炭素繊維処理
複合体液(1)に炭素繊維を1分間含侵させたのち、水洗し余分な成分を除去した。40℃で送風乾燥させることで、酸化グラフェンとオキサゾリン化合物の複合体で被覆された炭素繊維を得た。
【0059】
[実施例および比較例]
炭素繊維2種(CF-PおよびCF-H)を処理例1-3で処理した。得られた炭素繊維をマイクロドロップレット試験により界面せん断強度評価した。比較例として未処理のCF-PおよびCF-Hも評価した。結果を表1に示す。実施例1-6と比較例1-2を比較すると界面せん断強度が向上し、炭素繊維と樹脂との相互作用が向上していることが分かる。
【0060】