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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024118008
(43)【公開日】2024-08-30
(54)【発明の名称】塗料組成物
(51)【国際特許分類】
   C09D 201/02 20060101AFI20240823BHJP
   C09D 163/00 20060101ALI20240823BHJP
【FI】
C09D201/02
C09D163/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023024154
(22)【出願日】2023-02-20
(71)【出願人】
【識別番号】507164722
【氏名又は名称】日塗化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100132230
【弁理士】
【氏名又は名称】佐々木 一也
(74)【代理人】
【識別番号】100088203
【弁理士】
【氏名又は名称】佐野 英一
(74)【代理人】
【識別番号】100100192
【弁理士】
【氏名又は名称】原 克己
(74)【代理人】
【識別番号】100198269
【弁理士】
【氏名又は名称】久本 秀治
(74)【代理人】
【識別番号】100226894
【弁理士】
【氏名又は名称】佐々木 夏詩子
(72)【発明者】
【氏名】三嶋 恵子
(72)【発明者】
【氏名】藤本 省吾
(72)【発明者】
【氏名】中嶋 泰治
【テーマコード(参考)】
4J038
【Fターム(参考)】
4J038BA221
4J038DB001
4J038DG022
4J038DG262
4J038DH002
4J038GA03
4J038GA07
4J038GA09
4J038GA11
4J038HA526
4J038HA536
4J038KA03
4J038KA06
4J038KA08
4J038MA06
4J038MA09
4J038NA27
4J038PA01
4J038PA18
4J038PB05
4J038PB07
4J038PB09
(57)【要約】
【課題】カーボンニュートラルの実現に向け、得られる乾燥塗膜中の樹脂成分のバイオマス度が10%以上を達成でき、かつ、従来の石油由来のエポキシ樹脂を用いた防食塗料と同等乃至はそれ以上の防食性を発現せしめることができる塗料組成物を提供する。
【解決手段】主剤としてポリオール樹脂又はエポキシ樹脂と、オリゴマーとを含有し、硬化剤としてイソシアネート樹脂又はアミン樹脂を含有する塗料組成物であって、前記塗料組成物における樹脂成分のバイオマス度が乾燥塗膜中で10%以上であることを特徴とする塗料組成物である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
主剤としてポリオール樹脂又はエポキシ樹脂と、オリゴマーとを含有し、硬化剤としてイソシアネート樹脂又はアミン樹脂を含有する塗料組成物であって、前記塗料組成物における樹脂成分のバイオマス度が乾燥塗膜中で10%以上であることを特徴とする塗料組成物。
【請求項2】
オリゴマーの含有量が、主剤100質量部に対して、固形分換算で2.0~8.0質量部であることを特徴とする請求項1に記載の塗料組成物。
【請求項3】
前記オリゴマーが芳香族オリゴマーからなることを特徴とする請求項1に記載の塗料組成物。
【請求項4】
鋼構造物の防食塗料として用いられることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の塗料組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主剤と硬化剤とを有した塗料組成物に関し、詳しくは、カーボンニュートラル社会実現の一助として、植物由来の原料を用いた塗料組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
地球規模の課題である気候変動問題の解決に向けて、2015年にパリ協定が採択され、温室効果ガスの排出量と吸収量を均衡させるカーボンニュートラルの実現に向けて、世界120以上の国と地域が、「2050年カーボンニュートラル」の目標を掲げている。カーボンニュートラル実現の一環として、日本国内においてもバイオマス由来製品の普及のため、製品中のバイオマス由来成分の割合(バイオマスプラスチック度)が25.0wt%以上のプラスチック製品を認定する「バイオマスプラマーク」(JBPA)、製品中のバイオマス度が10%以上であることを認定する「バイオマスマーク」(JORA)等の認定制度が設けられている。
【0003】
カーボンニュートラルの実現に向け、塗装業界においても、製品ライフサイクル全体での二酸化炭素排出の削減の一環として、塗料の原材料の非化石燃料化、つまり、前記バイオマスプラマークやバイオマスマークの基準を満たす、バイオマス(動植物から生まれた、再利用可能な有機性の資源で石油などの化石燃料を除いたもの)を原料とした塗料の開発が望まれている。
【0004】
塗料は、被塗物の保護・美観と共に、特別な機能を付与する役割を担っており、その使用目的、被塗物の違いに応じて求められる機能が異なる。例えばモバイル製品、自動車の内装、外装部品等のように、多くの衝撃が加わるようなものに用いられる塗料は、耐摩耗性等が求められ、一方で、雨風にさらされる鋼構造物に用いられる塗料は主として金属の腐食を防ぐ防食性等が求められている。
【0005】
鋼構造物に用いられる塗料は、金属の腐食を防ぐため、通常は一次プライマー、下塗塗料、中塗塗料、上塗塗料のように数種の塗料を塗り重ねて塗膜全体で初期の目的を達成するような塗装仕様が構築される。このうち、上塗塗料は被塗物に色彩、光沢、平滑性を付与するために防汚性、断熱性、耐候性が高いことが求められ、下塗塗料は素地表面を腐食や分解から守るために防食性が高いこと、また素地表面との高い密着性が求められる。
【0006】
カーボンニュートラルの実現に向け、塗料業界でも、植物由来の原料を用いた塗料の開発が進められている。特許文献1では、モバイル製品、自動車の内装、外装部品等に用いる塗料として、従来の化石燃料を原料とした塗料と同等の耐摩耗性を得るため、植物油由来の原料を用いて得られたポリエステルポリオールにビニル重合体部を結合させたビニル変性ポリエステルポリオール、及び当該ビニル変性ポリエステルポリオールとポリイソシアネートとからなる二液硬化型塗料が提案されている。
【0007】
また、特許文献2では、(メタ)アクリル酸エステルモノマーと、ビニル基を有するモノマーと、反応性シリコーンモノマーと、植物由来原料からなるポリオールおよび大豆アクリレートのうち少なくともいずれか一方とが共重合することにより、耐候性、耐薬品性及び耐水性に優れたアクリル樹脂組成物、及び当該アクリル樹脂組成物とバイオマス由来原料を含むポリイソシアネート硬化剤を含む二液硬化型塗料組成物が提案されている。
【0008】
一方、鋼構造物に用いる、特に防水性や耐食性等の防食性を必要とする下塗塗料については、防食性を高める目的でエポキシ骨格を有するエポキシポリオールを原料として用いることが主流であり、エポキシ骨格を有さない植物由来のポリオールを原料として用いた防食塗料についての報告は出願人が知る限りにおいてはまだ無い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第5291569号公報
【特許文献2】特許第6823629号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上述のように、植物由来の原料を使用した、耐摩耗性に優れた塗料や、耐候性、耐薬品性及び耐水性に優れた塗料については既にいくつか提案されているが、これらは鋼構造物に用いる防食性を備えた塗料ではない。そのため、鋼構造物に用いる塗料においても、植物由来の原料を用いた、従来のエポキシ樹脂系塗料と同等の防食性を備える塗料の開発が望まれる。
【0011】
そこで、本発明の目的は、カーボンニュートラルの実現に向け、得られる乾燥塗膜中の樹脂成分のバイオマス度が10%以上を達成でき、かつ、従来の石油由来のエポキシ樹脂を用いた防食塗料と同等乃至はそれ以上の防食性を発現せしめることができる塗料組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
すなわち、本発明は、主剤としてポリオール樹脂又はエポキシ樹脂と、オリゴマーとを含有し、硬化剤としてイソシアネート樹脂又はアミン樹脂を含有する塗料組成物であって、前記塗料組成物における樹脂成分のバイオマス度が乾燥塗膜中で10%以上であることを特徴とする。ここで、樹脂成分とは、樹脂由来で乾燥塗膜を形成する成分であって、好適には、塗料組成物中、主剤として用いるポリオール樹脂及び/又はエポキシ樹脂、オリゴマーと、硬化剤として用いるイソシアネート樹脂及び/又はアミン樹脂とからなる必須樹脂成分を指す。
なお、本発明の塗料組成物は主剤と硬化剤を有することから、二液硬化型塗料組成物である。
【0013】
本発明における塗料組成物は、樹脂成分のバイオマス度が乾燥塗膜中10%以上、好ましくは15%以上、より好ましくは20%以上、更に好ましくは25%以上である。樹脂成分のバイオマス度が高ければ高いほど、カーボンニュートラルの面では有利であるが、塗料組成物であること、なかでも鋼構造物の防食塗料として顔料等の他の成分の配合を考慮すると樹脂成分のバイオマス度を35%より高めるのは困難であることから、この値が実質的な上限(35%以下)である。
【0014】
ここで、バイオマス度(%)とは、一般財団法人日本有機資源協会(JORA)で規定されるように、生物(植物)由来の物質にしか含まれない放射性炭素(C14)がどの程度含まれているかを測ることで求められるものである。本発明では、乾燥塗膜中でのバイオマス度を規定することから、乾燥塗膜に含まれる樹脂成分の放射性炭素の濃度を加速器質量分析等により測定して、バイオマス度(%)を算出してもよいが、乾燥塗膜を得る際に使用した樹脂成分における植物由来の原料の質量の割合から算出することもできる。後者について、詳しくは、塗料組成物を構成する樹脂成分の各原料のバイオマス度を加重平均して求め、溶剤等の揮発するものを除いた塗料組成物の固形分質量を基準にして、算出することができる。本発明では、このように後者の方法で算出したものを乾燥塗膜中の樹脂成分のバイオマス度(%)とした。
【0015】
また、本発明の塗料組成物において、オリゴマーの含有量は、主剤100質量部に対して、固形分換算で2.0~8.0%であるのが好ましい。また、前記オリゴマーは、芳香族オリゴマーであることが好ましい。
【0016】
更に、本発明における塗料組成物は、好適には、鋼構造物の防食塗料として用いられる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、従来の石油由来の原料のかわりに植物由来の原料を用いた二液硬化型の塗料組成物を提供することができる。なかでも、鋼構造物の防食塗料とした際に、従来の石油を原料としたエポキシ骨格を有する樹脂を用いるかわりに、植物由来の樹脂を原料として、これまでと同等もしくはそれ以上の防食性を発現せしめることができることから、環境にやさしい塗料組成物を実現することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらの記載に限定されるものではなく、以下の例示以外についても、本発明の主旨を損なわない範囲で適宜変更実施し得る。
【0019】
<主剤>
本発明における塗料組成物は、主剤としてポリオール樹脂又はエポキシ樹脂と、オリゴマーとを含有する。
【0020】
先ず、ポリオール樹脂としては、植物由来のポリオール樹脂であってもよく、石油由来のポリオール樹脂であってもよく、これらを単独あるいは2種以上混合して使用することができる。
【0021】
植物由来のポリオール樹脂としては、1分子中に水酸基を2個以上有し、イソシアネート系硬化剤と反応して架橋塗膜を形成することができるものであるのがよく、水酸基価100~400mgKOH/gの植物由来のポリオール樹脂が好ましい。より好ましくは水酸基価が100~200mgKOH/gである。このような植物ポリオールは、液状、固形を問わず使用できる。具体的には、カシューナッツシェル油ポリオール、ひまし油ポリオール、パーム油ポリオール、大豆油ポリオール、ヤシ油ポリオール、オリーブ油ポリオール、綿実油ポリオール、サフラワー油ポリオール、ごま油ポリオール、ひまわり油ポリオール、アマニ油ポリオール、きり油ポリオール、綿実油ポリオール、または、これらの変性ポリオール等が挙げられるが、これに限定されない。工業的利用などの理由から、好ましくはカシューナッツシェル油ポリオール、及びひまし油ポリオールである。これらの植物由来のポリオールを1種あるいは2種以上混合して使用することができる。
【0022】
このような植物由来のポリオール樹脂については特に制限されないが、市販品を挙げるとすれば、例えば、カードライトジャパン社製商品名:LITE9001、三井化学SKCポリウレタン社製商品名:エコニコールEBT-380、BASFジャパン社製商品名:Sovermol805、815、伊藤製油社製商品名:F-15、H-854等を例示することができる。また、本発明の塗料において、ポリオール以外の樹脂成分であるオリゴマーやイソシアネート樹脂に植物由来の原料を用いた場合、乾燥塗膜中の樹脂成分のバイオマス度は10%以上を達成することができるため、植物由来のポリオール樹脂のバイオマス度については特に制限はないが、ポリオール樹脂のみに植物由来の原料を用いた場合は、原料のバイオマス度が55%以上を満たせば、乾燥塗膜におけるバイオマス度は10%以上を達成することができるため、植物由来のポリオール樹脂のバイオマス度は55%以上であるのがよく、より好ましくは85%以上であるのがよい。
【0023】
また、石油由来のポリオール樹脂を使用する場合についても、1分子中に水酸基を2個以上有し、イソシアネート系硬化剤と反応して架橋塗膜を形成することができるものであればよい。耐水性、密着性の観点から水酸基価が30~300mgKOH/gのものがよく、より好ましくは50~200mgKOH/gである。このようなポリオール樹脂としては、例えばエポキシポリオール、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、アクリルポリオール、キレートポリオール、又はこれらの変性ポリオールなどが挙げられるがこれらに限定されない。これらのポリオール樹脂のうち、防食性の観点からエポキシポリオールが好ましい。具体的なエポキシポリオールとしては、ビスフェノール型エポキシ樹脂やフェノールノボラック型エポキシ樹脂とジエタノールアミンやジイソプロパノールアミン等のアルカノールアミン類を付加反応させ得たエポキシ変性ポリオールが挙げられるがこれに限定されない。なお、これらの石油由来ポリオールを1種あるいは2種以上混合して使用することができる。
【0024】
一方、植物由来のエポキシ樹脂としては、具体的には、上記に挙げた植物由来のポリオールのエポキシ化物等が挙げられるが、これらに限定されない。なお、これらの植物由来エポキシ樹脂を1種あるいは2種以上混合して使用することができる。このような植物由来のエポキシ樹脂について、市販品を挙げるとすれば、例えば、ナガセケムテックス社製商品名:デナコールEX―614B等を例示することができる。また、植物由来のエポキシ樹脂は、これら市販品の例を含めて、バイオマス度が25%以上であるのがよい。
【0025】
また、石油由来のエポキシ樹脂としては、1分子中にエポキシ基を2個以上有し、アミン系硬化剤と反応して架橋塗膜を形成することができるものであればよく、公知のものを使用することができる。中でも好ましくは、エポキシ当量が100~1000のエポキシ樹脂を用いるのがよい。より好ましくは、エポキシ当量が100~300のエポキシ樹脂である。加えて、塗膜の耐食性や施工性の観点から、エポキシ樹脂の重量平均分子量としては、好ましくは200~4000であるのがよく、より好ましくは300~2000である。上記の範囲内であれば、液状、固形を問わず使用できる。このようなエポキシ樹脂としては、例えばビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールAD型エポキシ樹脂等のビスフェノール型エポキシ樹脂や、キレート変性エポキシ樹脂、ダイマー酸変性エポキシ樹脂、プロピレンオキサイド変性エポキシ樹脂、及びスルフィド含有エポキシ樹脂等の特殊エポキシ樹脂などが挙げられるが、これに限定されない。なお、これらの石油由来のエポキシ樹脂を1種あるいは2種以上混合して使用することができる。
【0026】
主剤中のポリオール樹脂の含有量については、15~40質量%であるのがよく、好ましくは17~25質量%であるのがよい。ポリオール樹脂の含有量がこの範囲であれば、主剤としてポリオール樹脂を単独で用いた場合でも、例えば、防食塗料として十分な耐食性を備えた塗膜を得る上で好都合である。また、主剤としてエポキシ樹脂を使用する場合についても、その含有量は上記と同様である。
【0027】
また、本発明の塗料組成物には、主剤として、オリゴマーを配合する。オリゴマーは、植物由来のオリゴマーであってもよく、石油又は石炭由来(総じて化石由来という)のオリゴマーであってもよい。またオリゴマーは単独あるいは2種以上を混合して使用することもできる。オリゴマーを含有させることで、乾燥塗膜を得た際の塗膜の耐水性や気密性を高めることができ、特に、防食塗料とした場合に耐食性能の向上が図られる。
【0028】
化石由来のオリゴマーとしては、芳香族オリゴマーが好ましい。芳香族系オリゴマーは、数平均分子量が200~6000が好ましく、より好ましくは300~2000である。また、不揮発分50重量%以上であるのがよく、さらには、塗料組成物中の他の配合成分と反応しないものや、反応しないように変性したものなどが好ましい。このような芳香族系オリゴマーとしては、キシレン樹脂、クマロン樹脂、石油樹脂、イソプロペニルトルエンの液状低重合物、イソプロペニルトルエンとα-メチルスチレンとの共重合物、スチレンオリゴマー、フェノール類で変性されたクマロン樹脂などが挙げられるが、これに限定されない。なお、これらの化石由来のオリゴマーを1種あるいは2種以上混合して使用することができる。
【0029】
また、植物由来のオリゴマーとしても、化石由来のオリゴマーと同様に芳香族オリゴマーが好ましく、数平均分子量の条件は特に限定されないが、上記化石由来オリゴマーと同様であることが好ましい。例えば、ロジン樹脂、テルペン樹脂等が挙げられるがこれらに限定されない。なお、これら植物由来のオリゴマーを1種あるいは2種以上混合して使用することができる。
また、本発明の塗料組成物において、オリゴマー以外の樹脂成分であるポリオールやイソシアネートに植物由来の原料を用いた場合、乾燥塗膜中の樹脂成分のバイオマス度は10%以上を達成することができるため、植物由来のオリゴマーのバイオマス度については特に制限はないが、塗料の乾燥塗膜におけるバイオマス度を高くすることを考慮に入れると、20%以上であるのがよく、好ましくは、40%以上である。
【0030】
オリゴマーの含有量は、主剤100質量部に対して、固形分換算で2.0~8.0質量部が好ましい。より好ましくは2.0~7.5、さらに好ましくは2.5~7.0である。オリゴマーをこの範囲で含有することで、塗膜の耐水性や気密性を高める上で好適である。
【0031】
本発明の塗料組成物について、鋼構造物用の防食用塗料として用いる場合には、増量剤および強度の改善を目的とした体質顔料、塗膜の着色を目的とした場合は着色顔料、防錆を目的とした防錆顔料を用いることができる。
【0032】
まず、体質顔料としては、例えばタルク、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、カオリンクレー、貝殻未焼成カルシウム、卵殻粉末などが挙げられる。これらの体質顔料の配合割合は、主剤における含有量として15~60質量%であるのがよく、好ましくは30~50質量%がよい。このような範囲であれば、塗料組成物の塗装作業性を特に低下させることなく、十分な性能を発現させることができる。
【0033】
また、着色顔料としては、酸化チタン等の公知の有機又は無機の着色顔料を使用することができる。着色顔料を用いる場合、塗料を希望の色調とすることなどから、主剤における含有量として0.05~15質量%であるがのよく、好ましくは0.05~12質量%であるのがよい。
【0034】
また、防錆顔料としては、リン酸アルミニウム等の公知の無機の顔料を使用することができる。防錆顔料を用いる場合、主剤における含有量として1~10重量%であるがのよく、好ましくは3~8質量%であるのがよい。なお、体質顔料、着色顔料、防錆顔料を併用する場合には、塗装作業性等を考慮して、体質顔料及び着色顔料との合計は、20~70質量%にするのが望ましいが、特にこれに限定されない。
【0035】
<硬化剤>
本発明の塗料組成物に用いる硬化剤としては、主剤に含まれる樹脂がポリオール樹脂の場合は、イソシアネート系硬化剤(イソシアネート樹脂)であり、主剤に含まれる樹脂がエポキシ樹脂の場合は、アミン系硬化剤(アミン樹脂)を用いるのがよい。
【0036】
硬化剤に用いるイソシアネート樹脂としては、植物由来イソシアネート樹脂であってもよく、石油由来のイソシアネート樹脂であってもよく、これらを単独あるいは2種以上混合して用いることができる。
【0037】
主剤とイソシアネート樹脂との混合比率は、イソシアネート樹脂のイソシアネート基(NCO基)とポリオール樹脂のヒドロキシル基(OH基)との比率(当量比)を表すイソシアネート基(NCO基)/ヒドロキシル基(OH基)が0.3~1.5の範囲であるのがよく、得られる塗膜性能の面から0.3~1.0の範囲となるように含有されることが好ましい。
【0038】
また、イソシアネート樹脂のNCO当量としては、耐食性と反応性の観点から50~2000が好ましく、より好ましくは50~1000である。これらは使用するイソシアネート樹脂が溶剤希釈された状態であっても同様である。また、固形分の分子量としては、耐食性と反応性の観点から100~4000が好ましく、より好ましくは100~2000である。
【0039】
ここで、植物由来のイソシアネート樹脂としては、イソシアネート基を1分子中に2個以上有する化合物であればよく、特に制限されないが、具体的には、三井化学社製の1,5-ペンタメチレンジイソシアネート(STABiO (スタビオ:登録商標) PDI)およびそれを用いた誘導体(ポリイソシアネート硬化剤)等が挙げられる。なお、本発明の塗料組成物において、イソシアネート樹脂以外の樹脂成分であるポリオール樹脂やオリゴマーに植物由来の原料を使用した場合、乾燥塗膜中の樹脂成分のバイオマス度は10%以上を達成することができるため、植物由来のイソシアネート樹脂のバイオマス度については特に制限はないが、塗料の乾燥塗膜におけるバイオマス度を高くすることを考慮に入れると、そのバイオマス度は30%以上であるのがよく、より好ましくは50%以上であるのがよい。
【0040】
また、石油由来のイソシアネート樹脂としては、イソシアネート基を1分子中に2個以上有する化合物であればよく、汎用型、難黄変型(紫外線暴露下での変色性)、及び無黄変型(紫外線暴露下での変色性)などを用いることができる。具体的には、まず、汎用型としては、トリレンジイソシアネート(TDIと略称する)、TDIの3量化物であるイソシアヌレート、4,4'-ジフェニルジフェニルメタンジイソシアネート(MDIと略称する)、ポリメリックジフェニルメタンジイソシアネート(ポリメリックMDIと略称する)などが挙げられる。また、難黄変型としては、キシリレンジイソシアネート(XDIと略称する)が挙げられる。更に無黄変型としては、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDIと略称する)、イソホロンジイソシアネート、水添XDI及び水添MDI等が挙げられ、さらに上記イソシアネート類をトリメチロールプロパン(TMPと略称する)等の多価アルコール、多価フェノール類で変性したアダクトも使用できる。これらのうち、コストと性能のバランスの点から、TDIのTMPアダクト物及びポリメリックMDIが好ましい。イソシアネート硬化剤の使用量は、先に述べたイソソアネート基/ヒドロキシル基のモル比で0.3~1.5、好ましくは0.5~1.0がよい。
【0041】
一方で、硬化剤に用いるアミン樹脂としては、植物由来のポリアミド樹脂であってもよく、石油由来のポリアミド樹脂であってもよく、これらを単独あるいは2種以上混合して用いることができる。
【0042】
アミン系硬化剤であるアミン樹脂の当量としては、塗膜性能の観点からアミン樹脂の活性水素量とエポキシ樹脂のエポキシ基と比が、0.3~1.5の範囲が好ましく、さらに塗膜性能の面から0.3~1.0の範囲となるように含有されることがより好ましい。
【0043】
植物由来のポリアミド樹脂としては、トウゴマ由来、ひまし油由来等のものが挙げられるが、これに限定されない。
【0044】
また、石油由来のポリアミド樹脂は、脂肪族若しくは芳香族アミン、又はこれらのマンニッヒ変性、アダクト変性等の変性アミン、ケチミン系硬化剤などが挙げられるがこれらに限定されない。なお、これらの石油由来のポリアミド樹脂を1種あるいは2種以上混合して使用することができる。
アミン系硬化剤であるポリアミド樹脂の使用量は、アミン/エポキシ当量で0.5~1.5、好ましくは0.5~1.0がよい。これが0.5より少ないと硬化不良のため良好な硬化塗膜を得ることができず、1.5より多いと塗膜表面が白化したり、耐水性が低下する。
【0045】
本発明の塗料組成物は、上述した成分の他に、例えば顔料分散剤、消泡剤、レベリング剤、揺変剤(タレ止め剤)等の各種添加剤を配合することができる。揺変剤は、塗装1回当たりの膜厚を大きくし、塗膜のタレを小さくし、更に塗装中の粘度を小さくし作業性を高める目的で添加されるものであり、具体的には酸化ポリエチレンワックス、脂肪酸アミドワックス、有機ベントナイトなどが一般的に挙げられるが、特にこれらに制限されるものではない。
【0046】
また、本発明の塗料組成物には、調合の際の原料の分散性を高めること、または調合した塗料の塗装作業性を上げる等の目的から、溶剤を含めるようにしてもよい。このような溶剤としては、リモネン等の植物由来溶剤のほか、石油系溶剤として例えばトルエン、キシレン等の芳香族系溶剤、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン系溶剤、酢酸エチル、酢酸ブチル等の脂肪族エステル系溶剤、あるいはこれらの混合溶剤などを適宜使用できる。さらに、塗料組成物の粘度や硬化塗膜の物性を調整するため単官能アルコール類を希釈剤として用いることもできる。溶剤を含める場合には、主剤における割合で5.0~20.0質量%であるのがよく、好ましくは5~15質量%なるようにするのがよい。
【0047】
本発明の塗料組成物は、主剤と硬化剤の二液として調製・保存し、使用前に混合すればよい。すなわち、塗料樹脂、顔料、溶剤及び各種添加剤をディスパー、ボールミル等により所定割合で混合分散して主剤液を調製し、硬化剤に適宜溶剤を加えて硬化剤液を調製する。なお、本発明の塗料組成物は、二液とされた塗料組成物及びこれを混合した塗料組成物の両者を含む。
【実施例0048】
以下、本発明の実施例により、さらに詳細に説明する。なお、実施例における「部」及び「%」はとくに断らない限り質量を基準とする。
【0049】
実施例及び比較例で用いた薬剤は次のとおりである。
<植物由来ポリオール樹脂>
LITE9001(カードライトジャパン社製、カシューナッツシェル油、固形分98%、水酸基価130~190mgKOH/g、バイオマス度88%)
エコニコールEBT-380(三井化学SKCポリウレタン社製、ひまし油、固形分98%、水酸基価116mgKOH/g、バイオマス度98%)
<石油由来エポキシポリオール>
U-150-60MT(DIC社製、固形分60%、水酸基価135~165mgKOH/g)
<植物系オリゴマー>
ハリマックR-80(ハリマ化成社製、ロジン樹脂、固形分100%、バイオマス度80%以上)
YSポリスターN125(ヤスハラケミカル社製、テルペン樹脂、固形分100%、数平均分子量500~1000、バイオマス度50%以上)
<芳香族オリゴマー>
SF-6X(日塗化学社製、固形分82%、重量平均分子量300~310)
H-100(日塗化学社製、固形分100%)
L-20(ニットレジンクマロンL-20〔日塗化学社製商品名、固形分85%、数平均分子量 220)
<植物由来イソシアネート樹脂>
スタビオD-376N(三井化学社製、固形分100%、バイオマス度67%、NCO24%(NCO当量175))
<石油由来イソシアネート樹脂>
タケネートD-103H(三井化学社製、固形分75%、NCO13%(NCO当量323))
デュラネートTKA-100(旭化成ケミカルズ社製、固形分100%, NCO21.7%(NCO当量194))
<顔料>
TITONE R-5N(着色顔料、酸化チタン、堺化学工業社製商品名、平均粒径0.26μm)
FT-2タルク(体質顔料、タルク、福岡タルク工業社製商品名)
K-WHITE G-105(防錆顔料、テイカ社製商品名)
<添加剤>
KBM-403(シランカップリング剤、信越化学工業社製商品名)
<溶剤>
酢酸ブチル
【0050】
実施例1~12、比較例1~3
主剤と硬化剤を含む二液型の塗料を製造する。先ず、表1に示したポリオール樹脂、オリゴマー、溶剤、各種顔料を規定量加えた後に、顔料が十分に分散されるまで撹拌を行ったものを主剤とした。そして、下記の評価で用いる試験片作製の直前に、主剤と硬化剤を当量比(イソシアネート基(NCO基)/ヒドロキシル基(OH基)が1となるように十分に混合し、実施例1~12、比較例1~3に係る塗料組成物を得た。それぞれの使用した原料とその配合割合の詳細を表1に示す。なお、表1の各実施例及び比較例における、乾燥塗膜中の樹脂成分のバイオマス度(%)は、実施例1~12、比較例1~3のそれぞれの塗料組成物を構成する樹脂成分の各原料のバイオマス度を加重平均して求め、揮発成分である溶剤を除いた塗料組成物中の固形分を基準にして算出した。
【0051】
<評価方法>
上述したように、表1に示した主剤と硬化剤を当量比1となるように十分に混合し、実施例1~12及び比較例1~3に係るポリウレタン樹脂塗料組成物を用意した。この塗料組成物をブラスト処理した金属鋼板に刷毛で塗布(乾燥膜厚が120μm)し、耐食性の促進試験(塩水噴霧試験)を行った。
【0052】
耐食性の促進試験方法は塩水噴霧試験(JIS K5600-7-2)に準じ、1400時間後の試験をおこなった。耐食性の評価はクロスカット部からのハツリ幅を測定し、以下の基準で評価した。結果を表1に示す。
<評価基準>
○:3.0mm以上6.5mm未満。
△:6.5mm以上10.0mm未満。
×:10.0mm以上
【0053】
【表1】
【0054】
表1の結果から植物由来の原料を用いた本発明の塗料組成物は、従来の石油を原料としたエポキシ骨格を有する塗料組成物(比較例3)と比較して同等もしくはそれ以上の防食性を有することが示された。