(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024118016
(43)【公開日】2024-08-30
(54)【発明の名称】微細セルロース繊維、及び微細セルロース繊維組成物
(51)【国際特許分類】
C08B 5/14 20060101AFI20240823BHJP
D06M 13/262 20060101ALI20240823BHJP
D06M 101/04 20060101ALN20240823BHJP
【FI】
C08B5/14
D06M13/262
D06M101:04
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023024172
(22)【出願日】2023-02-20
(71)【出願人】
【識別番号】000006507
【氏名又は名称】横河電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】江川 紀章
(72)【発明者】
【氏名】望月 誠
(72)【発明者】
【氏名】佐古 尚裕
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 健
(72)【発明者】
【氏名】岩本 伸一朗
(72)【発明者】
【氏名】谷 遼太郎
(72)【発明者】
【氏名】横溝 智史
【テーマコード(参考)】
4C090
4L033
【Fターム(参考)】
4C090AA02
4C090BA27
4C090BB12
4C090BB36
4C090BB55
4C090BB63
4C090BB65
4C090BB95
4C090CA38
4C090DA28
4L033AA02
4L033AB01
4L033AC15
4L033BA29
(57)【要約】
【課題】本開示の目的は、微細セルロース繊維を粉の状態で高温保管した後に、該微細セルロース繊維を水に分散させた際の、粘度の低下、及びpHの低下が抑制された微細セルロース繊維を提供することである。
【解決手段】本実施形態の一つは、下記一般式(1)(一般式(1)において、nは1以上3以下の整数であり、M
n+はn価のカチオンであり、前記M
n+の少なくとも一部は、第4級アンモニウムカチオンであり、前記第4級アンモニウムカチオンの窒素(N
+)に結合している4つの基の主鎖の炭素数が、いずれも12以下であり、波線は他の原子との結合部位である。)で表される硫酸エステル基を有する微細セルロース繊維である。
【化1】
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される硫酸エステル基を有する微細セルロース繊維。
【化1】
(一般式(1)において、nは1以上3以下の整数であり、M
n+はn価のカチオンであり、前記M
n+の少なくとも一部は、第4級アンモニウムカチオンであり、
前記第4級アンモニウムカチオンの窒素(N
+)に結合している4つの基の主鎖の炭素数が、いずれも12以下であり、
波線は他の原子との結合部位である。)
【請求項2】
前記Mn+の少なくとも一部は、双性イオンに由来する第4級アンモニウムカチオンである、請求項1に記載の微細セルロース繊維。
【請求項3】
前記M
n+の少なくとも一部は、下記一般式(2)で表される第4級アンモニウムカチオンである、請求項1に記載の微細セルロース繊維。
【化2】
(一般式(2)において、R
1、R
2、及びR
3はそれぞれ独立に、エチレンオキシド部分及びグリセリル部分から選択される少なくとも一つの部分構造を有する基、アルキル基、並びにモノヒドロキシアルキル基から選択される炭素数が12以下の基であり、
R
4はアルキレン基又はヒドロキシアルキレン基であり、前記アルキレン基又はヒドロキシアルキレン基は、アセトキシ基、又はアセチル基で置換されていてもよく、Zは下記一般式(3)、(4)又は(5)で表される基であり、-CH
2-R
4-Zで表される基の炭素数が12以下であり、
R
1、R
2、R
3、及びR
4の二つが、互いに結合して環を形成してもよい。)
【化3】
(一般式(3)、(4)及び(5)においてそれぞれ独立に、mは1以上3以下の整数であり、X
m+はm価のカチオンであり、
波線はR
4との結合部位である。)
【請求項4】
前記一般式(3)で表される基が、式(3’)又は(3’’)で表される基であり、
前記一般式(4)で表される基が、式(4’)又は(4’’)で表される基であり、
前記一般式(5)で表される基が、式(5’)又は(5’’)で表される基である、請求項3に記載の微細セルロース繊維。
【化4】
【請求項5】
請求項1に記載の微細セルロース繊維と、緩衝作用を有する塩とを含む微細セルロース繊維組成物。
【請求項6】
前記緩衝作用を有する塩が、NH4
+で表されるアンモニウムイオンを含まない、請求項5に記載の微細セルロース繊維組成物。
【請求項7】
前記緩衝作用を有する塩が、リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、酢酸ナトリウム、及び第四級アンモニウムの酢酸塩から選ばれる少なくとも一種の塩である、請求項5に記載の微細セルロース繊維組成物。
【請求項8】
前記緩衝作用を有する塩が、前記微細セルロース繊維100質量部に対して、0.5質量部以上10質量部以下含まれる、請求項5に記載の微細セルロース繊維組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、微細セルロース繊維、及び微細セルロース繊維組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
環境意識の高まりからバイオマス由来材料の実用化を目指した検討が世界中で展開されている。例えば木質(木材チップ)から取り出されるセルロースの多くは紙として人々の生活と、CO2固定化の両方に大きく貢献している。
【0003】
セルロースの繊維をナノサイズに解繊したセルロースナノファイバー(微細セルロース繊維)が知られている。セルロースナノファイバーは水、溶剤、樹脂、ゴム等に配合して使用すること、セルロースナノファイバー自体を粉体、フィルム、不織布等に成形して使用すること等が提案されており、セルロースナノファイバーの増粘性や乳化作用、細胞賦活作用、抗ウィルス作用等を利用し、化粧品、医療品、食品等の様々な分野に応用されている。
【0004】
例えば、特許文献1には、カルバミド基を含有し、繊維幅が1000nm以下の硫酸エステル化繊維状セルロースであって、前記カルバミド基の導入量が0.05mmol/g以上である、硫酸エステル化繊維状セルロースが開示されている。特許文献1には、該硫酸エステル化繊維状セルロースは、質量減ピーク温度が高く、熱分解が生じにくい微細繊維状セルロースであることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者らは、硫酸エステル化セルロース繊維を、粉の状態で高温保管(例えば50℃~100℃で保管)した時の安定性について検討を行った。その結果一般的な、硫酸エステル化セルロース繊維を粉の状態で高温保管した後に、該硫酸エステル化セルロース繊維を水に分散させると、高温保管していない場合に比べ、粘度が大幅に低下し、且つ、pHが大幅に低下(酸性化)するとの欠点が存在することを見出した。
【0007】
本発明者らの検討によると、特許文献1に開示された、硫酸エステル化繊維状セルロースであっても、粉の状態で高温保管した後に、水に分散させると、高温保管していない場合に比べ、粘度が大幅に低下し、且つ、pHが大幅に低下(酸性化)することが分かった。
【0008】
そこで、本開示の目的は、微細セルロース繊維を粉の状態で高温保管した後に、該微細セルロース繊維を水に分散させた際の、粘度の低下、及びpHの低下が抑制された微細セルロース繊維を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を行ったところ、特定の微細セルロース繊維は、前記目的を達成できることを見出し、本開示に至った。
【0010】
本実施形態の態様例は、以下の通りに記載される。
【0011】
[1] 下記一般式(1)で表される硫酸エステル基を有する微細セルロース繊維。
【化1】
(一般式(1)において、nは1以上3以下の整数であり、M
n+はn価のカチオンであり、前記M
n+の少なくとも一部は、第4級アンモニウムカチオンであり、
前記第4級アンモニウムカチオンの窒素(N
+)に結合している4つの基の主鎖の炭素数が、いずれも12以下であり、
波線は他の原子との結合部位である。)
[2] 前記M
n+の少なくとも一部は、双性イオンに由来する第4級アンモニウムカチオンである、[1]に記載の微細セルロース繊維。
[3] 前記M
n+の少なくとも一部は、下記一般式(2)で表される第4級アンモニウムカチオンである、[1]又は[2]に記載の微細セルロース繊維。
【化2】
(一般式(2)において、R
1、R
2、及びR
3はそれぞれ独立に、エチレンオキシド部分及びグリセリル部分から選択される少なくとも一つの部分構造を有する基、アルキル基、並びにモノヒドロキシアルキル基から選択される炭素数が12以下の基であり、
R
4はアルキレン基又はヒドロキシアルキレン基であり、前記アルキレン基又はヒドロキシアルキレン基は、アセトキシ基、又はアセチル基で置換されていてもよく、Zは下記一般式(3)、(4)又は(5)で表される基であり、-CH
2-R
4-Zで表される基の炭素数が12以下であり、
R
1、R
2、R
3、及びR
4の二つが、互いに結合して環を形成してもよい。)
【化3】
(一般式(3)、(4)及び(5)においてそれぞれ独立に、mは1以上3以下の整数であり、X
m+はm価のカチオンであり、
波線はR
4との結合部位である。)
[4] 前記一般式(3)で表される基が、式(3’)又は(3’’)で表される基であり、
前記一般式(4)で表される基が、式(4’)又は(4’’)で表される基であり、
前記一般式(5)で表される基が、式(5’)又は(5’’)で表される基である、[3]に記載の微細セルロース繊維。
【化4】
[5] [1]~[4]のいずれかに記載の微細セルロース繊維と、緩衝作用を有する塩とを含む微細セルロース繊維組成物。
[6] 前記緩衝作用を有する塩が、NH
4
+で表されるアンモニウムイオンを含まない、[5]に記載の微細セルロース繊維組成物。
[7] 前記緩衝作用を有する塩が、リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、酢酸ナトリウム、及び第四級アンモニウムの酢酸塩から選ばれる少なくとも一種の塩である、[5]又は[6]に記載の微細セルロース繊維組成物。
[8] 前記緩衝作用を有する塩が、前記微細セルロース繊維100質量部に対して、0.5質量部以上10質量部以下含まれる、[5]に記載の微細セルロース繊維組成物。
【発明の効果】
【0012】
本開示により、微細セルロース繊維を粉の状態で高温保管した後に、該微細セルロース繊維を水に分散させた際の、粘度の低下、及びpHの低下が抑制された微細セルロース繊維を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本実施形態の、微細セルロース繊維、及び微細セルロース繊維組成物について、詳細に説明する。
【0014】
本実施形態の一態様は、下記一般式(1)で表される硫酸エステル基を有する微細セルロース繊維である。
【0015】
また、本実施形態の一態様は、前記微細セルロース繊維と、緩衝作用を有する塩とを含む微細セルロース繊維組成物である。
【0016】
本実施形態の微細セルロース繊維は、微細セルロース繊維を粉の状態で高温保管した後に、該微細セルロース繊維を水に分散させた際の、粘度の低下、及びpHの低下を抑制することができる。本実施形態の微細セルロース繊維は、高温保管による物性の低下が抑制されているため、様々な使用環境、様々な分野において、安定した品質の微細セルロース繊維として使用することが可能である。なお、本発明者らの検討によると、保管安定性を評価する際には、常温(例えば20℃~30℃)における評価では不十分であることが分かった。これは微細セルロース繊維や微細セルロース繊維組成物、或いはこれらの水分散液を保管する際には、夏場の倉庫内や、輸送時の車内等では、例えば40℃~60℃のような高温となることがあり、常温では保管安定性に問題が無い場合でもこのような温度に晒されることにより、問題が顕在化することがあるためである。そこで、本開示では、高温(実施例では80℃)保管した際の物性を評価した。
【0017】
本実施形態の微細セルロース繊維組成物は、微細セルロース繊維組成物を粉の状態で高温保管した後に、該微細セルロース繊維組成物を水に分散させた際の、粘度の低下、及びpHの低下を抑制することができる。また、本発明者らは、硫酸エステル化セルロース繊維を含む水分散液を高温保管(例えば50℃~100℃で保管)した時の安定性についても検討を行っており、その結果一般的な、硫酸エステル化セルロース繊維を含む水分散液を高温保管した後に、該水分散液の粘度及びpHを測定すると、高温保管していない場合(例えば高温保管前)に比べ、粘度が大幅に低下し、且つ、pHが大幅に低下(酸性化)するとの欠点が存在することを見出している。本実施形態の微細セルロース繊維組成物は、微細セルロース繊維組成物を用いて調製された水分散液を高温保管した際の、粘度の低下、及びpHの低下についても抑制することができる。すなわち、本実施形態の微細セルロース繊維組成物は、該組成物の粉を高温保管した際、及び水分散液を高温保管した際の物性の低下が抑制されているため、様々な使用環境、様々な分野において、安定した品質の微細セルロース繊維組成物として使用することが可能である。
【0018】
以下、本実施形態について、詳細に説明する。
【0019】
(微細セルロース繊維)
本実施形態の微細セルロース繊維は、下記一般式(1)で表される硫酸エステル基を有する微細セルロース繊維である。
【0020】
【化5】
(一般式(1)において、nは1以上3以下の整数であり、M
n+はn価のカチオンであり、前記M
n+の少なくとも一部は、第4級アンモニウムカチオンであり、
前記第4級アンモニウムカチオンの窒素(N
+)に結合している4つの基の主鎖の炭素数が、いずれも12以下であり、
波線は他の原子との結合部位である。)
【0021】
一般的なセルロース(未変性セルロース)は、グルコースがβ-1,4-グリコシド結合した多糖類であり、(C6H10O5)nで示されるが、本実施形態における微細セルロース繊維は、硫酸エステル基を有することからも明らかなように、変性されたセルロースから構成される繊維である。
【0022】
微細セルロース繊維の平均繊維幅は、1nm~1000nmであり、1nm~100nmであることが好ましく、2nm~10nmであることがより好ましい。微細セルロース繊維の平均繊維長は、特に制限はないが、通常は0.1μm~6μmであり、0.1μm~2μmであることが好ましい。
【0023】
平均繊維幅及び平均繊維長は、例えば原子間力顕微鏡(SPM-9700HT、株式会社島津製作所製)を用いて、任意に選択した50本の繊維における繊維幅(繊維径(円相当直径))及び繊維長を計測し、それぞれ加算平均値をとることで測定することができる。平均繊維幅及び平均繊維長は硫酸エステル化反応時間や試薬の配合比を調整することにより、所望の範囲に設定することができる。
【0024】
微細セルロース繊維は、一般式(1)で表される硫酸エステル基を有する。なお、微細セルロース繊維を、硫酸エステル化セルロースナノファイバーとも記す。微細セルロース繊維は、通常は繊維を構成するセルロース中のOH基の一部を、一般式(1)で表される硫酸エステル基で置換することにより、硫酸エステル基が導入されている。この場合、一般式(1)における波線は前記OH基が結合していた炭素原子への結合部位である。
【0025】
Mn+はn価のカチオンであり、nが2又は3の場合、すなわちMn+が多価陽イオンである場合、Mn+は、2つ又は3つの-OSO3
-との間でイオン結合を形成する。Mn+としては、nが1、すなわちMn+がM+(1価陽イオン)であることが好ましい態様の一つである。
【0026】
前記Mn+の少なくとも一部は、第4級アンモニウムカチオンである。また、前記第4級アンモニウムカチオンの窒素(N+)に結合している4つの基の主鎖の炭素数が、いずれも12以下である。第4級アンモニウムカチオンとしては、1種のみでも、2種以上であってもよい。Mn+の少なくとも一部が、特定の第4級アンモニウムカチオンであることにより、粉の状態での保管安定性が向上する。この理由は明らかではないが、本発明者らは以下の知見を得ている。
【0027】
本発明者らの検討の結果、従来の硫酸エステル化セルロースナノファイバーを高温保管した後に、水に分散させると、高温保管を行っていない場合と比べて、水分散液の粘度及びpHが低下するのは、高温保管により、硫酸エステル化セルロースナノファイバーを構成する、硫酸エステル基の一部が加水分解するためであることを見出した。なお、従来の硫酸エステル化セルロースナノファイバーは、高温保管の前後で、セルロースに結合している硫酸エステル基の量が少なくなっていることが分析により確かめられている。本発明者らのさらなる検討により、前記Mn+の少なくとも一部を、特定の第4級アンモニウムカチオンとすることにより、粉の状態で高温保管を行った後に、水に分散させた際の、水分散液の粘度及びpHの低下が抑制されることが分かった。これは第3級アミン(又はそのイオン)や、本実施形態に含まれない第4級アンモニウムカチオンでは見られない現象であった。この理由は明らかではないが、本発明者らは、特定の第4級アンモニウムカチオンは、その親水性、吸湿性により、硫酸エステル化セルロースナノファイバーの分子内で乾燥剤のような役割を果たし、硫酸エステル基への水分子の攻撃を妨げ、硫酸エステル基が加水分解することを抑制しているためであると推測した。
【0028】
前記第4級アンモニウムカチオンとしては、窒素(N+)に結合している4つの基の主鎖の炭素数が、いずれも10以下である態様、及びいずれも8以下である態様も好ましい。
【0029】
前記Mn+の少なくとも一部は、双性イオンに由来する第4級アンモニウムカチオンであることが好ましい態様の一つである。Mn+の少なくとも一部が、双性イオンに由来する第4級アンモニウムカチオンであると、Mn+中の第4級アンモニウムカチオンが双性イオンに由来しない場合と比べて、第4級アンモニウムカチオンの量が少ない場合でも、十分な効果を発揮するため好ましい。
【0030】
双性イオンに由来しない第4級アンモニウムカチオンとしては、特に制限はないが、例えばコリン((CH3)3N+-C2H4-OH)、テトラメチルアンモニウム、テトラエチルアンモニウム、テトラプロピルアンモニウム、ベンジルトリメチルアンモニウム等が挙げられる。
【0031】
前記双性イオンとしては、特に制限はないが、ベタイン(トリメチルグリシン)、カルニチン、アセチルカルニチン、ラウリルジメチルアミノ酢酸等が挙げられる。
【0032】
前記Mn+の少なくとも一部は、下記一般式(2)で表される第4級アンモニウムカチオンであることが好ましい態様の一つである。
【0033】
【化6】
(一般式(2)において、R
1、R
2、及びR
3はそれぞれ独立に、エチレンオキシド部分及びグリセリル部分から選択される少なくとも一つの部分構造を有する基、アルキル基、並びにモノヒドロキシアルキル基から選択される炭素数が12以下の基であり、
R
4はアルキレン基又はヒドロキシアルキレン基であり、前記アルキレン基又はヒドロキシアルキレン基は、アセトキシ基、又はアセチル基で置換されていてもよく、Zは下記一般式(3)、(4)又は(5)で表される基であり、-CH
2-R
4-Zで表される基の炭素数が12以下であり、
R
1、R
2、R
3、及びR
4の二つが、互いに結合して環を形成してもよい。)
【0034】
【化7】
(一般式(3)、(4)及び(5)においてそれぞれ独立に、mは1以上3以下の整数であり、X
m+はm価のカチオンであり、
波線はR
4との結合部位である。)
【0035】
R1、R2、及びR3はそれぞれ独立に、エチレンオキシド部分及びグリセリル部分から選択される少なくとも一つの部分構造を有する基、アルキル基、並びにモノヒドロキシアルキル基から選択される炭素数が12以下の基である。
【0036】
エチレンオキシド部分とは、オキシエチレン部分(-CH2-CH2-O-)を意味し、グリセリル部分とは、-O-CH2-CH(-O-)-CH2-O-を意味する。エチレンオキシド部分及びグリセリル部分から選択される少なくとも一つの部分構造を有する基としては、0~3個のエチレンオキシド部分及び0又は1個のグリセリル部分を有する、但し、エチレンオキシド部分及びグリセリル部分が同時に0個ではない、基が挙げられ、0~3個のエチレンオキシド部分及び0又は1個のグリセリル部分を有する、但し、エチレンオキシド部分及びグリセリル部分が同時に0個ではない、置換アルキル基が挙げられる。
【0037】
アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基が挙げられる。アルキル基としては、直鎖アルキル基でもよく、分岐を有するアルキル基でもよい。モノヒドロキシアルキル基としては、前述のアルキル基が有する水素原子の一つをヒドロキシ基で置換した基が挙げられる。
【0038】
エチレンオキシド部分及びグリセリル部分から選択される少なくとも一つの部分構造を有する基、アルキル基、並びにモノヒドロキシアルキル基から選択される炭素数が12以下の基としては、炭素数が10以下である態様、8以下である態様も好ましい。
【0039】
R4はアルキレン基又はヒドロキシアルキレン基であり、前記アルキレン基又はヒドロキシアルキレン基は、アセトキシ基、又はアセチル基で置換されていてもよい。R4と結合するZは上記一般式(3)、(4)又は(5)で表される基である。また、-CH2-R4-Zで表される基の炭素数が12以下である。R4のアルキレン基又はヒドロキシアルキレン基としては、-CH2-R4-Zで表される基の炭素数が12以下となる範囲内で、前述のアルキル基、モノヒドロキシアルキル基から水素原子を一つ取り除いたものを用いることができる。前記アルキレン基又はヒドロキシアルキレン基は、アセトキシ基、又はアセチル基で置換されていてもよく、例えば、アルキレン基又はヒドロキシアルキレン基を構成する水素原子の1~3個、好ましくは1個が、アセトキシ基(-O-C(=O)-CH3)、又はアセチル基(-C(=O)-CH3)で置換されていてもよい。
【0040】
Xm+はm価のカチオンであり、mが2又は3の場合、すなわちXm+が多価陽イオンである場合、Xm+は、2つ又は3つの-CO2
-、-SO3
-、又は-OSO3
-との間でイオン結合を形成する。Xm+としては、mが1、すなわちXm+がX+(1価陽イオン)であることが好ましい態様の一つである。Xm+としては、水素イオン(H+)、金属イオン、アンモニウムイオン等が挙げられる。m価のカチオンは1種でも2種以上でもよい。
【0041】
Mn+は前述のように少なくとも一部は、第4級アンモニウムカチオンである。Mn+の全部が第4級アンモニウムカチオンでもよく、Mn+の一部が第4級アンモニウムカチオンであり、一部(残部)が、第4級アンモニウムカチオン以外のn価のカチオンであってもよい。第4級アンモニウムカチオン以外のn価のカチオンとしては、水素イオン(H+)、金属イオン、アンモニウムイオン(第4級アンモニウムカチオンを除く)等が挙げられる。第4級アンモニウムカチオン以外のn価のカチオンとしては1種でも2種以上でもよい。
【0042】
Mn+の一部が第4級アンモニウムカチオンであり、一部(残部)が、第4級アンモニウムカチオン以外のn価のカチオンである場合には、その割合としては特に制限はないが、第4級アンモニウムカチオン:第4級アンモニウムカチオン以外のn価のカチオン(モル比)が、0.5:9.5~9.9:0.1であることが好ましく、0.8:9.2~9.5:0.5であることがより好ましく、1:9~9:1であることが特に好ましい。第4級アンモニウムカチオンが、双性イオンに由来する第4級アンモニウムカチオンである場合には、前記モル比のいずれであっても、十分な効果を発揮することができる。一方で、第4級アンモニウムカチオンが、双性イオンに由来しない第4級アンモニウムカチオンである場合には、双性イオンに由来しない第4級アンモニウムカチオンが少量であると、十分な効果を発揮しない場合があるため、1:9~9.9:0.1であることが好ましく、1.5:8.5~9.5:0.5であることがより好ましく、2:8~9:1であることが特に好ましい。
【0043】
金属イオンとしては、アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン、遷移金属イオン、その他の金属イオンが挙げられる。
【0044】
アルカリ金属イオンとしては、リチウムイオン(Li+)、ナトリウムイオン(Na+)、カリウムイオン(K+)、ルビジウムイオン(Rb+)、セシウムイオン(Cs+)等が挙げられる。アルカリ土類金属イオンとしては、カルシウムイオン(Ca2+)、ストロンチウムイオン(Sr2+)等が挙げられる。遷移金属イオンとしては、鉄イオン、ニッケルイオン、パラジウムイオン、銅イオン、銀イオン等が挙げられる。その他の金属イオンとしては、ベリリウムイオン、マグネシウムイオン、亜鉛イオン、アルミニウムイオン等が挙げられる。
【0045】
アンモニウムイオンとしては、NH4
+だけでなく、NH4
+の1つ以上の水素原子が有機基に置き換わってできる各種アミン由来のアンモニウムイオンも挙げられる。アンモニウムイオンとしては、例えば、NH4
+、第一級~第三級アンモニウムカチオン、アルカノールアミンイオン、ピリジニウムイオン等が挙げられる。但し、NH4
+が存在すると、粉の状態での保管安定性を悪化させる場合や、褐色への変化等の着色の原因となることがあるため、アンモニウムイオンとしては、NH4
+でないことが好ましい態様の一つである。
【0046】
Xm+及びMn+の第4級アンモニウムカチオン以外のn価のカチオンとしては、微細セルロース繊維の各用途における加工性の観点、特に保管安定性に優れる観点から、水素イオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、カルシウムイオンが好ましく、水素イオン、ナトリウムイオン(Na+)であることが特に好ましい。Mn+及びXm+としては1種のみであってもよく、2種以上であってもよい。
【0047】
すなわち、前記一般式(3)で表される基が、式(3’)又は(3’’)で表される基であることが好ましい態様の一つであり、前記一般式(4)で表される基が、式(4’)又は(4’’)で表される基であることが好ましい態様の一つであり、前記一般式(5)で表される基が、式(5’)又は(5’’)で表される基であることが好ましい態様の一つである。
【0048】
【0049】
微細セルロース繊維は、上記一般式(1)で表される硫酸エステル基の他に、他の置換基を有していてもよい。ここで、微細セルロース繊維が、上記一般式(1)で表される硫酸エステル基以外の基、すなわち、他の置換基を有する場合、他の置換基は通常微細セルロース繊維を構成するセルロース中のOH基の少なくとも1つと置換されている。他の置換基としては、例えば、特に限定されないが、アニオン性置換基及びその塩、エステル基、エーテル基、アシル基、アルデヒド基、アルキル基、アルキレン基、アリール基、これらの2種以上の組み合わせ等が挙げられる。他の置換基が2種以上の組み合わせの場合、それぞれの置換基の含有比率は限定されない。他の置換基としては、中でも、ナノ分散性の観点からアニオン性置換基及びその塩、又はアシル基が好ましい。アニオン性置換基及びその塩としては、特にカルボキシ基、リン酸エステル基、亜リン酸エステル基、ザンテート基が好ましい。アニオン性置換基が塩の形態である場合、ナノ分散性の観点からナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩が特に好ましい。また特に好ましいアシル基としては、ナノ分散性の観点からアセチル基が好ましい。
【0050】
微細セルロース繊維は、硫酸エステル基に起因する硫黄導入量が、0.3mmol/g以上、3.0mmol/g以下である。硫酸エステル基導入量は、前記範囲内で、用途等に応じて任意の適切な値に設定することができる。微細セルロース繊維の、硫酸エステル基に起因する硫黄導入量は、微細セルロース繊維1g当たりの硫黄含有率(mmol)で表すことができる。硫黄導入量は、0.5mmol/g以上、3.0mmol/g以下であることが好ましく、0.7mmol/g以上、3.0mmol/g以下であることがより好ましい。硫黄導入量が前記範囲内であると、微細セルロース繊維が高い水分散性を有する傾向にあるため好ましい。
【0051】
硫黄導入量は、例えば実施例で記載した燃焼吸収-イオンクロマトグラフィー(IC)法(燃焼吸収-IC法、燃焼IC法)により求めることができる。硫黄導入量は、例えばパルプを解繊する際に用いる溶液(解繊溶液)中の硫酸等の試薬の濃度、解繊溶液に対するパルプの量、反応時間や温度等を制御することにより、調整することができる。
【0052】
微細セルロース繊維は、微細セルロース繊維を、微細セルロース繊維の濃度が0.6質量%となるように水に分散させることにより調製した、微細セルロース繊維の濃度が0.6質量%の水分散液の25℃における6rpmで測定される粘度が、1000mPa・s以上であることが好ましく、3000mPa・s以上であることがより好ましく、5000mPa・s以上であることが特に好ましい。また、70000mPa・s以下であることが好ましく、50000mPa・s以下であることがより好ましい。
【0053】
微細セルロース繊維の濃度が0.6質量%の水分散液の25℃における6rpmで測定される粘度及び60rpmで測定される粘度から求めたチキソトロピックインデックス(TI値)が、3~30であることが好ましく、3.5~20であることがより好ましく、3.8~15であることが特に好ましい。なお、また、TI値は下記式より算出することができる。なお、6rpm、60rpmは、粘度の測定に用いられる粘度計(例えばB型粘度計)の回転数を意味する。
TI値=(6rpmで測定される粘度)/(60rpmで測定される粘度)
【0054】
微細セルロース繊維の製造方法としては、特に制限はなく、従来の硫酸エステル基を有する微細セルロース繊維の製造方法において、中和(硫酸エステル基の中和)の少なくとも一部が第4級アンモニウムカチオンで行われるように、試薬を選択することにより実施することができる。例えば、セルロース(未変性)の繊維をナノサイズにまで解繊する際に、硫酸エステル基を導入し、中和、精製を行い、水や水以外の分散媒に分散させることにより微細セルロース繊維の分散液を調製し、該分散液から分散媒を除去することにより、微細セルロース繊維を得ることができる。微細セルロース繊維は、例えば、実施例で示したように、原料パルプを硫酸エステル化及び解繊することにより製造してもよく、或いは実施例で示した方法を改良して実施してもよい。
【0055】
水以外の分散媒としては、ジメチルスルホキシド、アルコールやポリオール等の極性有機溶媒、第四級アンモニウム化合物等のイオン液体が挙げられるが、分散媒としては、水又は水と有機溶媒との混合溶媒を用いることが好ましく、安全性等の観点から水を用いることが好ましい。
【0056】
微細セルロース繊維の分散液から分散媒を除去する方法としては、乾燥が挙げられる。乾燥により、微細セルロース繊維の乾燥体を得ることができる。乾燥方法としては、公知の方法を用いることができ、特に限定されない。例えば、凍結乾燥、スプレードライ、圧搾、風乾、熱風乾燥、晶析法、真空乾燥を挙げることができる。乾燥装置は、特に限定されないが、コニカル乾燥装置、連続式のトンネル乾燥装置、バンド乾燥装置、縦型乾燥装置、垂直ターボ乾燥装置、多重段円板乾燥装置、通気乾燥装置、回転乾燥装置、気流乾燥装置、スプレードライヤー乾燥装置、噴霧乾燥装置、円筒乾燥装置、ドラム乾燥装置、ベルト乾燥装置、スクリューコンベア乾燥装置、加熱管付回転乾燥装置、振動輸送乾燥装置、回分式の箱型乾燥装置、真空箱型乾燥装置、及び撹拌乾燥装置等を単独で又は2つ以上組み合わせて用いることができる。乾燥方法としては、微細セルロース繊維を損傷させにくく、さらに粉の状態にさせやすいポーラスな乾燥体を得ることができる理由から、凍結乾燥、晶析及び真空乾燥(晶析法と真空乾燥との組み合わせ)、スプレードライを行うのが好ましい。乾燥体を必要に応じて粉砕、好ましくは乾式粉砕機によって粉砕することにより粉の状態で微細セルロース繊維を得ることができる。
【0057】
(微細セルロース繊維組成物)
本実施形態の微細セルロース繊維組成物は、前述の微細セルロース繊維と、緩衝作用を有する塩とを含む微細セルロース繊維組成物である。
【0058】
緩衝作用を有する塩を含む微細セルロース繊維組成物は、該組成物を用いて調製された水分散液を高温保管した際の、粘度の低下、及びpHの低下を抑制することができる。すなわち、本実施形態の微細セルロース繊維組成物は、前述の微細セルロース繊維の特性である粉としての高温保管安定性に加えて、水分散液とした際の高温保管安定性にも優れるため好ましい。水分散液とした際の高温保管安定性に優れる理由を、本発明者らは、緩衝作用を有する塩を含むと、水分散液のpHを中性付近に保つことが可能であり、これにより、硫酸エステルの加水分解、具体的には酸による加水分解の触媒作用、を抑制することが可能であるためと推測した。
【0059】
緩衝作用のある塩としては、酢酸ナトリウム、酢酸テトラエチルアンモニウム、リン酸、リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、クエン酸、クエン酸ナトリウム、ホウ酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、酢酸アンモニウム、炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム、酒石酸ナトリウム等が挙げられる。安定性、中性付近への優れた緩衝作用の観点から特に酢酸ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素ナトリウムが好ましい。また、後述する実施例において、合成時に用いる、カルボン酸成分や、硫酸成分を第四級アンモニウムの水酸化物で中和した際に得られる、第四級アンモニウムのカルボン酸塩(例えば第四級アンモニウムの酢酸塩)、硫酸塩も緩衝作用のある塩として好適であり、これを用いてもよい。
【0060】
緩衝作用のある塩としては、NH4
+で表されるアンモニウムイオンを含まない塩であることが好ましい態様の一つである。NH4
+で表されるアンモニウムイオンを含む塩は、加熱されると分解し、アンモニアが発生する。その結果、硫酸エステル化セルロースが黄色あるいは褐色に着色され、無色透明が求められる用途には使えず、商品としての価値を損なう場合がある。よって、NH4
+で表されるアンモニウムイオンを含まない塩が好ましい。
【0061】
緩衝作用のある塩としては、リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、酢酸ナトリウム、及び第四級アンモニウムの酢酸塩から選ばれる少なくとも一種の塩であることが特に好ましい態様である。
【0062】
緩衝作用のある塩の量は、微細セルロース繊維100質量部に対して、0.01質量部以上20質量部以下が好ましく、0.1質量部以上15質量部以下がより好ましく、0.5質量部以上10質量部以下がさらに好ましい。前記範囲内では、微細セルロース繊維組成物を水に分散させた時の緩衝作用と、高温保管した時の安定性とを確保でき、粘度低下を十分に抑制することができるため好ましい。
【0063】
本実施形態の微細セルロース繊維組成物の製造方法としては、特に制限はなく、例えば前述の微細セルロース繊維と、緩衝作用を有する塩とを混合することにより得ることができる。通常、微細セルロース繊維は粉末状であり、緩衝作用を有する塩は、固体(例えば粉末状、粒状、塊状)であるため、これらを、混合機や乳鉢等を用いて混合することにより、微細セルロース繊維組成物を得ることができる。
【0064】
(添加物)
微細セルロース繊維組成物は、他の添加物を含んでいてもよい。また、微細セルロース繊維は、添加物が添加された組成物として、各種用途に使用されてもよい。添加物としては無機添加物であってもよく、有機添加物であってもよい。
【0065】
無機添加物としては、例えば無機微粒子が挙げられる。無機微粒子の例として、シリカ、マイカ、タルク、クレー、カーボン、炭酸塩(例えば炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム)、酸化物(例えば酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化鉄)、セラミックス(例えばフェライト)、又はこれらの混合物の微粒子が挙げられる。
【0066】
有機添加物としては、例えば、樹脂及びゴムからなる群から選択される少なくとも1種の物質が挙げられる。樹脂及びゴムとしては、例えば、フェノール樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、アルキド樹脂、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエチレン樹脂(例えば、高密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン)、ポリプロピレン樹脂、ポリスチレン樹脂、アクリル樹脂、ポリビニルアルコール、アクリルアミド樹脂、シリコーン樹脂、天然ゴム、合成ゴムが挙げられる。また、微細セルロース繊維組成物は、有機添加物として、機能性化合物を含んでもよい。機能性化合物としては、色素、UV吸収剤、酸化防止剤、帯電防止剤、界面活性剤が挙げられる。
【0067】
本実施形態の微細セルロース繊維及び微細セルロース繊維組成物は、保管安定性に優れている、言い換えると従来より品質が低下することが少ないため、微細セルロース繊維が用いられる各種用途に使用することが可能である。
【実施例0068】
以下、実施例を挙げて本実施形態を説明するが、本開示はこれらの例によって限定されるものではない。
【0069】
[実施例1]
ジメチルスルホキシド(DMSO)150g、無水酢酸16.5g(解繊溶液における濃度:14質量%)及び硫酸3.35g(解繊溶液における濃度:1.87質量%)を300mlのサンプル瓶に入れ、23℃の室温下で磁性スターラーを用いて約30秒撹拌し、解繊溶液を調製した。
【0070】
次いで、解繊溶液に針葉樹クラフトパルプNBKP(日本製紙製)5.0gを加え、23℃の室温下でさらに120分撹拌した。撹拌後、セルロースを含む解繊溶液に蒸留水を250ml加えて反応を停止させ、続いてコリン(コリンヒドロキシド)水溶液をpHが7になるまで加え、硫酸を中和した。その後、遠心分離により上澄みを除いた。なお、各操作における遠心分離の速度は12000rpm、遠心分離時間は50分であった。
【0071】
さらに蒸留水1350mlとエタノール1350mlを加えて均一分散するまで撹拌した後、遠心分離して上澄みを除いた。同じ手順を繰り返し合計3回洗浄した。遠心分離により洗浄した後に蒸留水を加え、全体の重さが1000gになるまで希釈した。
【0072】
次に、ミキサー(G5200、Biolomix製)を用いて3分撹拌することにより0.5質量%の均一な硫酸エステル基を有する微細セルロース繊維の水分散液1000gを得た。続いて、得られた微細セルロース繊維の水分散液を、凍結乾燥機(FDU-2110、東京理化器械製)を用いて72時間乾燥させることで微細セルロース繊維乾燥体5gを得た。
【0073】
同様の操作を計3回行うことで微細セルロース繊維乾燥体15gを得た。続いて、微細セルロース繊維乾燥体15gを乾式粉砕機(ワンダーブレンダー WB1、大阪ケミカル製)で3分間処理することで微細セルロース繊維の粉である試料No.1を得た。
【0074】
[実施例2]
中和する際の試薬を、コリン水溶液からテトラプロピルアンモニウムヒドロキシド水溶液に変更した以外は実施例1と同様に行い、微細セルロース繊維の粉である試料No.2を得た。
【0075】
[実施例3]
中和する際の試薬を、コリン水溶液からベンジルトリメチルアンモニウムヒドロキシド水溶液に変更した以外は実施例1と同様に行い、微細セルロース繊維の粉である試料No.3を得た。
【0076】
[実施例4]
中和する際の試薬を、コリン水溶液からテトラエチルアンモニウムヒドロキシド水溶液に変更した以外は実施例1と同様に行い、微細セルロース繊維の粉である試料No.4を得た。
【0077】
[実施例5]
中和する際の試薬を、コリン水溶液からテトラエチルアンモニウムヒドロキシドと水酸化ナトリウムとの混合水溶液に変更した以外は実施例1と同様に行い、微細セルロース繊維の粉である試料No.5を得た。テトラエチルアンモニウムヒドロキシドと水酸化ナトリウムとのモル比、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド(mol)/水酸化ナトリウム(mol)は、1/1とした。
【0078】
[実施例6]
中和する際の試薬を、コリン水溶液からカルニチンと水酸化ナトリウムとの混合水溶液に変更した以外は実施例1と同様に行い、微細セルロース繊維の粉である試料No.6を得た。カルニチンと水酸化ナトリウムとのモル比、カルニチン(mol)/水酸化ナトリウム(mol)は、1/1とした。
【0079】
[実施例7]
中和する際の試薬を、コリン水溶液からラウリルジメチルアミノ酢酸と水酸化ナトリウムとの混合水溶液に変更した以外は実施例1と同様に行い、微細セルロース繊維の粉である試料No.7を得た。ラウリルジメチルアミノ酢酸と水酸化ナトリウムとのモル比、ラウリルジメチルアミノ酢酸(mol)/水酸化ナトリウム(mol)は、1/1とした。
【0080】
[実施例8]
中和する際の試薬を、コリン水溶液からベタイン(トリメチルグリシン)と水酸化ナトリウムとの混合水溶液に変更した以外は実施例1と同様に行い、微細セルロース繊維の粉である試料No.8を得た。ベタインと水酸化ナトリウムとのモル比、ベタイン(mol)/水酸化ナトリウム(mol)は、4/1とした。
【0081】
[実施例9]
中和する際の試薬を、コリン水溶液からベタインと水酸化ナトリウムとの混合水溶液に変更した以外は実施例1と同様に行い、微細セルロース繊維の粉である試料No.9を得た。ベタインと水酸化ナトリウムとのモル比、ベタイン(mol)/水酸化ナトリウム(mol)は、1/1とした。
【0082】
[実施例10]
中和する際の試薬を、コリン水溶液からベタインと水酸化ナトリウムとの混合水溶液に変更した以外は実施例1と同様に行い、微細セルロース繊維の粉である試料No.10を得た。ベタインと水酸化ナトリウムとのモル比、ベタイン(mol)/水酸化ナトリウム(mol)は、1/4とした。
【0083】
[実施例11]
中和する際の試薬を、コリン水溶液からベタインと水酸化ナトリウムの混合水溶液に変更した以外は実施例1と同様に行い、微細セルロース繊維の粉である試料No.11を得た。ベタインと水酸化ナトリウムとのモル比、ベタイン(mol)/水酸化ナトリウム(mol)は、1/9とした。
【0084】
[実施例12]
解繊溶液に針葉樹クラフトパルプNBKP(日本製紙製)5.0gを加えた際の攪拌時間を120分から30分に変更した以外は実施例9と同様に行い、微細セルロース繊維の粉である試料No.12を得た。
【0085】
[実施例13]
解繊溶液に針葉樹クラフトパルプNBKP(日本製紙製)5.0gを加えた際の攪拌時間を120分から180分に変更した以外は実施例9と同様に行い、微細セルロース繊維の粉である試料No.13を得た。
【0086】
[実施例14]
実施例4と同様の操作を行い、微細セルロース繊維の粉である試料No.4を製造した。さらに、100質量部の試料No.4に、リン酸水素二ナトリウムとリン酸二水素ナトリウムとの混合粉末(モル比がリン酸水素二ナトリウム:リン酸二水素ナトリウム=3:2)を10質量部添加し、乳鉢で混合した。得られた微細セルロース繊維組成物を試料No.14とした。
【0087】
[実施例15]
実施例4と同様の操作を行い、微細セルロース繊維の粉である試料No.4を製造した。さらに、100質量部の試料No.4に、リン酸水素二ナトリウムとリン酸二水素ナトリウムの混合粉末(モル比がリン酸水素二ナトリウム:リン酸二水素ナトリウム=3:2)を1質量部添加し、乳鉢で混合した。得られた微細セルロース繊維組成物を試料No.15とした。
【0088】
[実施例16]
実施例4と同様の操作を行い、微細セルロース繊維の粉である試料No.4を製造した。さらに、100質量部の試料No.4に、酢酸ナトリウムを1質量部添加し、乳鉢で混合した。得られた微細セルロース繊維組成物を試料No.16とした。
【0089】
[実施例17]
実施例4と同様の操作を行い、微細セルロース繊維の粉である試料No.4を製造した。さらに、100質量部の試料No.4に、酢酸とテトラエチルアンモニウムヒドロキシド(TEAH)との塩(酢酸テトラエチルアンモニウム)を1質量部添加し、乳鉢で混合した。得られた微細セルロース繊維組成物を試料No.17とした。酢酸テトラエチルアンモニウムは、酢酸水溶液をテトラエチルアンモニウムヒドロキシドでpH7に中和し、次いで水を蒸発させることによって得た。
【0090】
[実施例18]
実施例4と同様の操作を行い、微細セルロース繊維の粉である試料No.4を製造した。さらに、100質量部の試料No.4に、酢酸テトラエチルアンモニウムを0.5質量部添加し、乳鉢で混合した。得られた微細セルロース繊維組成物を試料No.18とした。
【0091】
[実施例19]
実施例9と同様の操作を行い、微細セルロース繊維の粉である試料No.9を製造した。さらに、100質量部の試料No.9に、リン酸水素二ナトリウムとリン酸二水素ナトリウムの混合粉末(モル比がリン酸水素二ナトリウム:リン酸二水素ナトリウム=3:2)を1質量部添加し、乳鉢で混合した。得られた微細セルロース繊維組成物を試料No.19とした。
【0092】
[実施例20]
実施例9と同様の操作を行い、微細セルロース繊維の粉である試料No.9を製造した。さらに、100質量部の試料No.9に、酢酸ナトリウムを1質量部添加し、乳鉢で混合した。得られた微細セルロース繊維組成物を試料No.20とした。
【0093】
[実施例21]
実施例9と同様の操作を行い、微細セルロース繊維の粉である試料No.9を製造した。さらに、100質量部の試料No.9に、酢酸アンモニウムを1質量部添加し、乳鉢で混合した。得られた微細セルロース繊維組成物を試料No.21とした。
【0094】
[実施例22]
実施例9と同様の操作を行い、微細セルロース繊維の粉である試料No.9を製造した。さらに、100質量部の試料No.9に、炭酸アンモニウムを1質量部添加し、乳鉢で混合した。得られた微細セルロース繊維組成物を試料No.22とした。
【0095】
[実施例23]
実施例9と同様の操作を行い、微細セルロース繊維の粉である試料No.9を製造した。さらに、100質量部の試料No.9に、炭酸水素アンモニウムを1質量部添加し、乳鉢で混合した。得られた微細セルロース繊維組成物を試料No.23とした。
【0096】
[比較例1]
中和する際の試薬を、コリン水溶液からヘキサデシルトリメチルアンモニウムヒドロキシド水溶液に変更した以外は実施例1と同様に行い、微細セルロース繊維の粉である試料No.1cを得た。比較例1で得られた微細セルロース繊維は水への分散性が悪いため、水中で微細セルロース繊維が沈殿しやすいものであった。
【0097】
[比較例2]
中和する際の試薬を、コリン水溶液から水酸化ナトリウム水溶液に変更した以外は実施例1と同様に行い、微細セルロース繊維の粉である試料No.2cを得た。
【0098】
[比較例3]
中和する際の試薬を、コリン水溶液からモノエチルアミン水溶液に変更した以外は実施例1と同様に行い、微細セルロース繊維の粉である試料No.3cを得た。
【0099】
[比較例4]
中和する際の試薬を、コリン水溶液からジエチルアミン水溶液に変更した以外は実施例1と同様に行い、微細セルロース繊維の粉である試料No.4cを得た。
【0100】
[比較例5]
中和する際の試薬を、コリン水溶液からトリエチルアミン水溶液に変更した以外は実施例1と同様に行い、微細セルロース繊維の粉である試料No.5cを得た。
【0101】
[比較例6]
中和する際の試薬を、コリン水溶液からモノエタノールアミン水溶液に変更した以外は実施例1と同様に行い、微細セルロース繊維の粉である試料No.6cを得た。
【0102】
[比較例7]
中和する際の試薬を、コリン水溶液からジエタノールアミン水溶液に変更した以外は実施例1と同様に行い、微細セルロース繊維の粉である試料No.7cを得た。
【0103】
[比較例8]
特開2021-42350の実施例1に従って得られた微細セルロース繊維(Na中和、カルバミド基含有)のスラリーを、凍結乾燥機(FDU-2110、東京理化器械製)を用いて72時間乾燥させることで微細セルロース繊維乾燥体を得て、次いで微細セルロース繊維乾燥体を乾式粉砕機(ワンダーブレンダー WB1、大阪ケミカル製)で3分間処理することで微細セルロース繊維の粉である試料No.8cを得た。
【0104】
[硫黄導入量]
試料中の微細セルロース繊維の硫黄導入量は、日本ダイオネクス株式会社製のICS-1500を用いた燃焼吸収-IC法により定量した。磁性ボードに乾燥した微細セルロース繊維(0.01g)を入れ、酸素雰囲気(流量:1.5L/分)環状炉(1350℃)にて燃焼させ、発生したガス成分を3%過酸化水素水(20ml)に吸収させて吸収液を得た。得られた吸収液を純水で100mlにメスアップし、希釈液をイオンクロマトグラフィーに供した。測定結果から微細セルロース繊維中の硫酸イオン濃度(重量%)を測定し、微細セルロース繊維1gあたりの硫酸導入量(mmol/g)を算出した。なお、乾燥した微細セルロース繊維は、試料を105℃の雰囲気下で、恒量になるまで乾燥させることにより得た。
【0105】
[平均繊維幅]
実施例、比較例で得た試料中の微細セルロース繊維の平均繊維幅は、原子間力顕微鏡(SPM-9700HT、株式会社島津製作所製)を用いて、任意に選択した50本の繊維における繊維幅を計測し、加算平均値をとることで測定した。なお、評価サンプルは以下の方法で調整したものを用いた。
【0106】
微細セルロース繊維が3gとなるように試料を秤量し、試料を、試料との合計が1000gになるように秤量した蒸留水に加え、ミキサー(G5200、Biolomix製)を用いて3分撹拌することにより0.3質量%の均一な微細セルロース繊維の水分散液(微細セルロース繊維水分散液)を得た。続いて、高圧分散処理機である高圧ホモジナイザー(M-110EH-30、Microfluidics社製)に200μm補助処理モジュールおよび87μmインターアクションチャンバーを取り付け、200MPa条件下で3パス処理する事で、高分散処理を行った。続いて、高分散処理後の0.3質量%の均一な微細セルロース繊維の水分散液1.0gに蒸留水149.0gを加え、ミキサー(G5200、Biolomix製)を用いて3分撹拌することにより0.002質量%の均一な微細セルロース繊維の水分散液を得た。続いて天然マイカ(天然白雲母)基板(15mm×15mm×厚さ0.15mm)にマイクロピペットで0.002質量%の均一な微細セルロース繊維の水分散液を30μL滴下し、0.5時間自然乾燥する事で評価サンプルを得た。
【0107】
[微細セルロース繊維水分散液の作製]
実施例、比較例で得た試料、及び、実施例、比較例で得た試料を高温(80℃)保管した後の試料を用いて、微細セルロース繊維水分散液を作製した。
【0108】
微細セルロース繊維が0.6gとなるように試料を秤量し、試料を、試料との合計が100gになるように秤量した蒸留水に加え、ミキサー(G5200、Biolomix製)を用いて3分撹拌することにより0.6質量%の均一な微細セルロース繊維の水分散液(微細セルロース繊維水分散液)を得た。
【0109】
[粘度]
実施例、比較例で得た試料、及び、実施例、比較例で得た試料を高温(80℃)保管した後の試料から作製された微細セルロース繊維水分散液の粘度は、以下の条件で脱泡及び24時間静置した後、B型粘度計を用いて、粘度測定開始後(回転開始後)10分の時点の粘度を記録(N=3)し、平均値を算出することにより求めた。
【0110】
微細セルロース繊維水分散液100gを脱泡装置(泡とり練太郎ARE-310、シンキー製)で10秒間脱泡処理し、24時間静置した。続いてB型粘度計(DV-II+、Brookfield社製)を用いて、回転数6rpmおよび60rpmで粘度測定を行い、測定開始後(回転開始後)10分の時点の粘度を記録した。同様の方法で別に調整した計3つの微細セルロース繊維水分散液の粘度測定を記録(N=3)し、その3回の平均値を微細セルロース繊維水分散液の粘度とした。なお、測定は水分散液の温度が25℃となる環境で実施した。
【0111】
[pH(水素イオン濃度)]
実施例、比較例で得た試料、及び、実施例、比較例で得た試料を高温(80℃)保管した後の試料から作製された微細セルロース繊維水分散液のpHは、以下の条件で求めた。
【0112】
微細セルロース繊維水分散液100gを脱泡装置(泡とり練太郎ARE-310、シンキー製)で10秒間脱泡処理し、24時間静置した。続いてpHメータ(905 Titrando、Metorohm社製)を用いて、pH測定を行い、測定開始後10分の時点のpHを記録した。同様の方法で別に調整した計3つの微細セルロース繊維水分散液のpH測定を記録(N=3)し、その3回の平均値を微細セルロース繊維水分散液のpHとした。なお、測定は水分散液の温度が25℃となる環境で実施した。
【0113】
[保管安定性]
粉の状態及び、水分散液の状態の高温での保管安定性を判定するために、下記のような試験を行った。
【0114】
<粉の状態での保管安定性>
まず、実施例、比較例で得た試料を高温で保管することなく用いて、前述の方法で作製した微細セルロース繊維水分散液の粘度、pHを前述の測定方法により測定した。高温で保管されていない試料を用いて測定した物性を、初期の物性とした。
【0115】
別の試料を粉の状態で、温度80℃で安定した状態のオーブンに入れ、12時間後又は24時間後に取り出し、高温保管後(高温保管12時間後又は高温保管24時間後)の試料とした。高温保管24時間後の試料を目視観察し、着色の無い試料を着色なし、黄色や褐色等の着色が観察されたものを着色ありと評価した。
【0116】
高温保管後の試料を用いて、前述の方法で作製した微細セルロース繊維水分散液の粘度、pHを前述の測定方法により測定した。高温保管後の試料を用いて測定した物性を、高温保管12時間後の物性、高温保管24時間後の物性とした。
【0117】
安定性の判定として、高温保管24時間後も、6rpmで測定した粘度が3000mPa・s以上且つ、pHが4以上であるものを、良好(AA)と判断した。24時間の高温保管後に6rpmで測定した粘度が1000mPa・s未満及び、pHが4未満の少なくとも一方を満たすものを、不良(BB)と判断した。
【0118】
<水分散液での保管安定性>
まず、実施例、比較例で得た試料を高温で保管することなく用いて、前述の方法で作製した微細セルロース繊維水分散液の粘度、pHを前述の測定方法により測定した。高温で保管されていない試料を用いて測定した物性を、初期の物性とした。
【0119】
次に、実施例、比較例で得た試料を高温で保管することなく用いて、前述の方法で作製した微細セルロース繊維水分散液を、温度80℃で安定した状態のオーブンに入れ、12時間後又は24時間後に取り出し、高温保管後(高温保管12時間後又は高温保管24時間後)の微細セルロース繊維水分散液とした。高温保管後の水分散液の粘度、pHを前述の測定方法により測定した。高温保管後の水分散液を用いて測定した物性を、高温保管12時間後の物性、高温保管24時間後の物性とした。
【0120】
安定性の判定として、高温保管24時間後も、6rpmで測定した粘度が3000mPa・s以上且つ、pHが4以上であるものを、良好(AA)と判断した。24時間の高温保管後に6rpmで測定した粘度が1000mPa・s未満及び、pHが4未満の少なくとも一方を満たすものを、不良(BB)と判断した。
【0121】
保管安定性の総合評価として、粉の状態での保管安定性及び水分散液での保管安定性の両方が良好(AA)であるものは、保管安定性に特に優れると評価した。
【0122】
実施例及び比較例で得た試料の微細セルロース繊維、微細セルロース繊維組成物の硫黄導入量、平均繊維幅を表1-1~1-3に示し、実施例14~23の微細セルロース繊維に添加した塩の種類と量を表2に示す。また、実施例及び比較例で得た試料の粉の状態での保管安定性を表3-1~3-3に示し、実施例及び比較例で得た試料の水分散液での保管安定性を表4-1~4-3に示す。なお、表中の粘度(mPa/s)0は、粘度が測定レンジの下限(回転数6rpmの場合100mPa/s、60rpmの場合10mPa/s)未満のため、測定できなかったことを意味する。
【0123】
【0124】
【0125】
【0126】
【0127】
【0128】
【0129】
【0130】
【0131】
【0132】
【0133】
全ての実施例において、得られた試料は粉の状態での保管安定性に優れていた。これは硫酸エステル基の中のMn+の少なくとも一部が、特定の第4級アンモニウムカチオンであることによる効果であると考えられる。実施例6~実施例13は、Mn+の少なくとも一部が双性イオンに由来する第4級アンモニウムカチオンであり、Mn+中の第4級アンモニウムカチオンの割合が小さい場合であっても、十分に粉の状態での保管安定性に優れていた。
【0134】
実施例14~23で得られた試料は、微細セルロース繊維と、緩衝作用を有する塩とを含む微細セルロース繊維組成物であり、緩衝作用を有する塩を含むため、粉の状態での保管安定性に優れるのに加えて、水分散液の保管安定性にも優れていた。実施例21~23は、緩衝作用を有する塩が、リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、酢酸ナトリウム、及び第四級アンモニウムの酢酸塩の何れにも該当しない例であり、保管安定性には優れていたが、粉の状態で保管した場合には着色が発生した。一方で本実施形態に該当しない、比較例1~8は、明らかに保管安定性に劣っていた。
【0135】
本明細書中に記載した数値範囲の上限値及び/又は下限値は、それぞれ任意に組み合わせて好ましい範囲を規定することができる。例えば、数値範囲の上限値及び下限値を任意に組み合わせて好ましい範囲を規定することができ、数値範囲の上限値同士を任意に組み合わせて好ましい範囲を規定することができ、また、数値範囲の下限値同士を任意に組み合わせて好ましい範囲を規定することができる。また、本願において、記号「~」を用いて表される数値範囲は、記号「~」の前後に記載される数値のそれぞれを下限値及び上限値として含む。
【0136】
以上、本実施形態を詳述したが、具体的な構成はこの実施形態に限定されるものではなく、本開示の要旨を逸脱しない範囲における設計変更があっても、それらは本開示に含まれるものである。