(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024118020
(43)【公開日】2024-08-30
(54)【発明の名称】脊椎固定具、ロッド、ロッドの製造方法
(51)【国際特許分類】
A61B 17/70 20060101AFI20240823BHJP
C22C 14/00 20060101ALI20240823BHJP
C22C 27/02 20060101ALI20240823BHJP
C22C 30/00 20060101ALI20240823BHJP
C22F 1/16 20060101ALI20240823BHJP
C22F 1/18 20060101ALI20240823BHJP
A61B 17/86 20060101ALI20240823BHJP
C22F 1/00 20060101ALN20240823BHJP
【FI】
A61B17/70
C22C14/00 Z
C22C27/02 103
C22C30/00
C22F1/16 Z
C22F1/18 G
C22F1/18 H
A61B17/86
C22F1/00 602
C22F1/00 624
C22F1/00 630A
C22F1/00 630C
C22F1/00 630K
C22F1/00 630Z
C22F1/00 631A
C22F1/00 675
C22F1/00 683
C22F1/00 684B
C22F1/00 684C
C22F1/00 685Z
C22F1/00 686A
C22F1/00 686B
C22F1/00 691B
C22F1/00 691C
C22F1/00 691Z
C22F1/00 694A
C22F1/00 686Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023024177
(22)【出願日】2023-02-20
(71)【出願人】
【識別番号】390022806
【氏名又は名称】日本ピストンリング株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】502350504
【氏名又は名称】学校法人上智学院
(74)【代理人】
【識別番号】100112689
【弁理士】
【氏名又は名称】佐原 雅史
(74)【代理人】
【識別番号】100128934
【弁理士】
【氏名又は名称】横田 一樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128141
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 圭一
(72)【発明者】
【氏名】久保 敬純
(72)【発明者】
【氏名】新澤 真洋
(72)【発明者】
【氏名】木村 勇貴
(72)【発明者】
【氏名】中崎 史也
(72)【発明者】
【氏名】久森 紀之
(72)【発明者】
【氏名】山本 直樹
【テーマコード(参考)】
4C160
【Fターム(参考)】
4C160LL24
4C160LL56
4C160LL63
4C160LL70
(57)【要約】
【課題】様々な特性を付与可能な合金を含んで構成される脊椎固定具を提供する。
【解決手段】本発明の脊椎固定具は、ロッドと、前記ロッドを利用者の脊椎に沿って取り付ける取付機構と、を備え、前記ロッドの少なくとも一部が、チタン、タンタル、スズ及び酸素を含有する合金を含んで構成され、前記合金は、全体を100原子%とした場合に、15原子%~27原子%のタンタル、1原子%~8原子%のスズ、及び0.4~1.7原子%の酸素を含有し、残部がチタンおよび不可避不純物で構成される。前記ロッドは、硬度が高い高硬度部と、前記高硬度部よりも硬度が低い低硬度部と、を有する。前記高ヤング率部と前記低ヤング率部は、それぞれ前記ロッドの長さ方向における一部区間に設けられ、前記ロッドの長さ方向に沿って交互に複数並ぶ。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロッドと、
前記ロッドを利用者の脊椎に沿って取り付ける取付機構と、
を備え、
前記ロッドの少なくとも一部が、チタン、タンタル、スズ及び酸素を含有する合金を含んで構成され、
前記合金は、全体を100原子%とした場合に、15原子%~27原子%のタンタル、1原子%~8原子%のスズ、及び0.4~1.7原子%の酸素を含有し、残部がチタンおよび不可避不純物で構成されることを特徴とする、
脊椎固定具。
【請求項2】
前記ロッドは、
硬度が高い高硬度部と、
前記高硬度部よりも硬度が低い低硬度部と、
を有することを特徴とする、
請求項1に記載の脊椎固定具。
【請求項3】
前記高硬度部と前記低硬度部は、それぞれ前記ロッドの長さ方向における一部区間に設けられ、前記ロッドの長さ方向に沿って交互に複数並ぶことを特徴とする、
請求項2に記載の脊椎固定具。
【請求項4】
前記高硬度部と前記低硬度部は、前記ロッドの長さ方向に沿って螺旋状に設けられることを特徴とする、
請求項2に記載の脊椎固定具。
【請求項5】
前記ロッドは、
ヤング率が大きい高ヤング率部と、
前記高ヤング率部よりもヤング率が小さい低ヤング率部と、
を有することを特徴とする、
請求項1に記載の脊椎固定具。
【請求項6】
前記高ヤング率部と前記低ヤング率部は、それぞれ前記ロッドの長さ方向における一部区間に設けられ、前記ロッドの長さ方向に沿って交互に複数並ぶことを特徴とする、
請求項5に記載の脊椎固定具。
【請求項7】
前記高ヤング率部と前記低ヤング率部は、前記ロッドの長さ方向に沿って螺旋状に設けられることを特徴とする、
請求項5に記載の脊椎固定具。
【請求項8】
前記ロッドは、
ヤング率が大きい高ヤング率部と、
前記高ヤング率部よりもヤング率が小さい低ヤング率部と、
を有し、
前記高硬度部は、前記高ヤング率部を兼ね、
前記低硬度部は、前記低ヤング率部を兼ねることを特徴とする、
請求項2に記載の脊椎固定具。
【請求項9】
前記ロッドは、前記ロッドの長さ方向における異なる加工率を有する区間が前記ロッドの長さ方向に沿って交互に複数並ぶことを特徴とする、
請求項1に記載の脊椎固定具。
【請求項10】
前記取付機構は、
前記ロッドを拘束するロッド拘束機構と、
前記ロッド拘束機構を前記脊椎に連結する連結部と、
を有し、
前記ロッド拘束機構に接触する前記ロッドの接触領域には、前記高硬度部が含まれることを特徴とする、
請求項2又は8に記載の脊椎固定具。
【請求項11】
前記取付機構は、
前記ロッドを拘束する複数のロッド拘束機構と、
前記ロッド拘束機構を前記脊椎に連結する複数の連結部と、
を有し、
前記連結部により前記ロッド拘束機構が前記脊椎に沿って複数配置された場合において、
前記ロッド拘束機構に接触する前記ロッドの接触領域には、前記高硬度部が含まれ、
隣接する前記ロッド拘束機構同士の間の前記ロッドの区間には、前記低硬度部が含まれることを特徴とする、
請求項2又は8に記載の脊椎固定具。
【請求項12】
利用者の脊椎に沿わせて取り付けられる脊椎固定用のロッドであって、
少なくとも一部が、チタン、タンタル、スズ及び酸素を含有する合金を含んで構成され、
前記合金は、全体を100原子%とした場合に、15原子%~27原子%のタンタル、1原子%~8原子%のスズ、及び0.4~1.7原子%の酸素を含有し、残部がチタンおよび不可避不純物で構成されることを特徴とする、
ロッド。
【請求項13】
利用者の脊椎に沿わせて取り付けられる脊椎固定用のロッドの製造方法であって、
全体を100原子%とした場合に、15原子%~27原子%のタンタル、1原子%~8原子%のスズ、及び0.4~1.7原子%の酸素を含有し、残部がチタンおよび不可避不純物で構成される合金により構成される棒状部材に対して、加工率が大きい大加工率区間と、該大加工率区間における加工率よりも加工率が小さい小加工率区間が前記棒状部材の長さ方向に沿う方向に交互に複数並ぶように前記棒状部材を加工して、前記棒状部材から前記ロッドを設けることを特徴とする、
ロッドの製造方法。
【請求項14】
前記棒状部材を加工して、前記棒状部材の軸直角方向に切った前記棒状部材の断面積が大きい断面積大区間と、前記断面積大区間の断面積よりも断面積が小さい断面積小区間が交互に複数並ぶ中間体を形成する中間体形成工程と、
前記中間体の複数の前記断面積大区間の断面積が複数の前記断面積小区間の断面積と同一となるように、少なくとも複数の前記断面積大区間に対して冷間加工を行う冷間加工工程と、
を備え、
前記冷間加工工程で、複数の前記断面積大区間に対応する区間は、前記大加工率区間となり、複数の前記断面積小区間に対応する区間は、前記小加工率区間となることを特徴とする、
請求項13に記載のロッドの製造方法。
【請求項15】
前記中間体に対して焼鈍処理を行う焼鈍処理工程を備え、
前記焼鈍処理を施された前記中間体は、前記断面積大区間と前記断面積小区間の加工率がリセットされ、
前記冷間加工工程は、前記焼鈍処理を施された前記中間体に対して行うことを特徴とする、
請求項14に記載のロッドの製造方法。
【請求項16】
前記ロッドに対して時効処理を行う時効処理工程を備え、
前記時効処理を施された前記ロッドの前記大加工率区間は、高硬度部となり、前記小加工率区間は、前記高硬度部よりも硬度が低い低硬度部となることを特徴とする、
請求項15に記載のロッドの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脊椎固定具、脊椎固定具で用いられるロッド、そのロッドの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
側弯症の患者の治療において、ロッドと、患者の脊椎に沿ってそのロッドを固定する複数の脊椎インプラントが用いられる。脊椎インプラントは、スクリューと、ハウジングと、ワッシャー(スクリュー頭部保持部材)と、インサートと、セットスクリューと、を備えている(例えば、特許文献1参照)。複数の各脊椎インプラントは、隣接する複数の脊椎のそれぞれに対して各脊椎インプラントのスクリューが螺合されることにより、各脊椎に対して固定される。そして、スクリューに繋がるハウジングのスリットでロッドは保持され、セットスクリューでロッドはハウジングに固定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記脊椎インプラントにおいて、ハウジングのスリットで保持されるロッドがセットスクリューに押圧されてハウジングに固定される際、ロッドには強い押圧力が掛かる。このため、セットスクリューからの押圧力によりロッドが損傷しないように、セットスクリューとの接触部分においてロッドはある程度の硬度が必要である。同時に、ロッドは、医師が手の力で容易に形状付けすることが求められたり、或いは形状付した際にスプリングバックの抑制が求められたり、或いは、ストレスシールディング防止の観点から脊椎にある程度の外部負荷がかかるように構成されることが求められたりと、様々な特性が求められる。
【0005】
本発明は、斯かる実情に鑑み、様々な特性を付与可能な合金を含んで構成される脊椎固定具、脊椎固定具で用いられるロッド、及びそのロッドの製造方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、本発明の脊椎固定具は、ロッドと、前記ロッドを利用者の脊椎に沿って取り付ける取付機構と、を備え、前記ロッドの少なくとも一部が、チタン、タンタル、スズ及び酸素を含有する合金を含んで構成され、前記合金は、全体を100原子%とした場合に、15原子%~27原子%のタンタル、1原子%~8原子%のスズ、及び0.4~1.7原子%の酸素を含有し、残部がチタンおよび不可避不純物で構成されることを特徴とする。
【0007】
また、本発明の脊椎固定具において、前記ロッドは、硬度が高い高硬度部と、前記高硬度部よりも硬度が低い低硬度部と、を有することを特徴とする。
【0008】
また、本発明の脊椎固定具において、前記高硬度部と前記低硬度部は、それぞれ前記ロッドの長さ方向における一部区間に設けられ、前記ロッドの長さ方向に沿って交互に複数並ぶことを特徴とする。
【0009】
また、本発明の脊椎固定具において、前記高硬度部と前記低硬度部は、前記ロッドの長さ方向に沿って螺旋状に設けられることを特徴とする。
【0010】
また、本発明の脊椎固定具において、前記ロッドは、ヤング率が大きい高ヤング率部と、前記高ヤング率部よりもヤング率が小さい低ヤング率部と、を有することを特徴とする。
【0011】
また、本発明の脊椎固定具において、前記高ヤング率部と前記低ヤング率部は、それぞれ前記ロッドの長さ方向における一部区間に設けられ、前記ロッドの長さ方向に沿って交互に複数並ぶことを特徴とする。
【0012】
また、本発明の脊椎固定具において、前記高ヤング率部と前記低ヤング率部は、前記ロッドの長さ方向に沿って螺旋状に設けられることを特徴とする、
請求項5に記載の脊椎固定具。
【0013】
また、本発明の脊椎固定具において、前記ロッドは、ヤング率が大きい高ヤング率部と、前記高ヤング率部よりもヤング率が小さい低ヤング率部と、を有し、前記高硬度部は、前記高ヤング率部を兼ね、前記低硬度部は、前記低ヤング率部を兼ねることを特徴とする。
【0014】
また、本発明の脊椎固定具において、前記ロッドは、前記ロッドの長さ方向における異なる加工率を有する区間が前記ロッドの長さ方向に沿って交互に複数並ぶことを特徴とする。
【0015】
また、本発明の脊椎固定具において、前記取付機構は、前記ロッドを拘束するロッド拘束機構と、前記ロッド拘束機構を前記脊椎に連結する連結部と、を有し、前記ロッド拘束機構に接触する前記ロッドの接触領域には、前記高硬度部が含まれることを特徴とする。
【0016】
また、本発明の脊椎固定具において、前記取付機構は、前記ロッドを拘束する複数のロッド拘束機構と、前記ロッド拘束機構を前記脊椎に連結する複数の連結部と、を有し、前記連結部により前記ロッド拘束機構が前記脊椎に沿って複数配置された場合において、前記ロッド拘束機構に接触する前記ロッドの接触領域には、前記高硬度部が含まれ、隣接する前記ロッド拘束機構同士の間の前記ロッドの区間には、前記低硬度部が含まれることを特徴とする。
【0017】
また、本発明のロッドは、利用者の脊椎に沿わせて取り付けられる脊椎固定用のロッドであって、少なくとも一部が、チタン、タンタル、スズ及び酸素を含有する合金を含んで構成され、前記合金は、全体を100原子%とした場合に、15原子%~27原子%のタンタル、1原子%~8原子%のスズ、及び0.4~1.7原子%の酸素を含有し、残部がチタンおよび不可避不純物で構成されることを特徴とする。
【0018】
また、本発明のロッドの製造方法は、利用者の脊椎に沿わせて取り付けられる脊椎固定用のロッドの製造方法であって、全体を100原子%とした場合に、15原子%~27原子%のタンタル、1原子%~8原子%のスズ、及び0.4~1.7原子%の酸素を含有し、残部がチタンおよび不可避不純物で構成される合金により構成される棒状部材に対して、加工率が大きい大加工率区間と、該大加工率区間における加工率よりも加工率が小さい小加工率区間が前記棒状部材の長さ方向に沿う方向に交互に複数並ぶように前記棒状部材を加工して、前記棒状部材から前記ロッドを設けることを特徴とする。
【0019】
また、本発明のロッドの製造方法は、前記棒状部材を加工して、前記棒状部材の軸直角方向に切った前記棒状部材の断面積が大きい断面積大区間と、前記断面積大区間の断面積よりも断面積が小さい断面積小区間が交互に複数並ぶ中間体を形成する中間体形成工程と、前記中間体の複数の前記断面積大区間の断面積が複数の前記断面積小区間の断面積と同一となるように、少なくとも複数の前記断面積大区間に対して冷間加工を行う冷間加工工程と、を備え、前記冷間加工工程で、複数の前記断面積大区間に対応する区間は、前記大加工率区間となり、複数の前記断面積小区間に対応する区間は、前記小加工率区間となることを特徴とする。
【0020】
また、本発明のロッドの製造方法は、更に、前記中間体に対して焼鈍処理を行う焼鈍処理工程を備え、前記焼鈍処理を施された前記中間体は、前記断面積大区間と前記断面積小区間の加工率がリセットされ、前記冷間加工工程は、前記焼鈍処理を施された前記中間体に対して行うことを特徴とする。
【0021】
また、本発明のロッドの製造方法は、更に、前記ロッドに対して時効処理を行う時効処理工程を備え、前記時効処理を施された前記ロッドの前記大加工率区間は、高硬度部となり、前記小加工率区間は、前記高硬度部よりも硬度が低い低硬度部となることを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
本発明の脊椎固定具、脊椎固定具で用いられるロッド、そのロッドの製造方法によれば、脊椎固定具、ロッドが様々な特性を有することができるという優れた効果を奏し得る。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】(A)は、本発明の第一実施形態における脊椎固定具の概略図である。(B)は、本発明の第一実施形態における脊椎固定具を利用者の脊椎に取り付けた様子を示す概略図である。
【
図2】(A)は、本発明の第一実施形態における脊椎固定具の取付機構の正面側概略図である。(B)は、本発明の第一実施形態における脊椎固定具の取付機構の側面側概略図である。
【
図3】(A)は、本発明の第一実施形態における脊椎固定具のロッドを取付機構に取り付けた際の正面側概略図である。(B)は、本発明の第一実施形態における脊椎固定具のロッドを取付機構に取り付けた際の側面側概略図である。
【
図4】(A)は、本発明の第一実施形態における脊椎固定具のロッドの位置による硬度の変化を表すグラフ付きのロッドの概略図である。(B)は、本発明の第一実施形態における脊椎固定具のロッドの位置によるヤング率の変化を表すグラフ付きのロッドの概略図である。
【
図6】全体を100原子%(at%)とした時、タンタルの含有率が23原子%で、スズの含有率がx原子%で、Oの含有率が0.7原子%で、残部がチタンおよび不可避不純物からなるチタン合金(Ti-23Ta-xSn-0.7O)についての冷間加工性評価試験の結果を示したグラフである。
【
図7】(A)は、Ti-23Ta-3Sn-0.7O合金(全体を100原子%(at%)とした場合に、23原子%のタンタル、3原子%のスズ、及び0.7原子%の酸素を含有し、残部がチタンおよび不可避不純物からなるチタンタンタル合金:以下も同様))製の試料に対して所定の特性(硬度、ヤング率、0.2%耐力、引張強度、伸び、弾性限)を測定する試験を行った結果を加工率別(0%,25%,50%,75%)に示す表である。(B)は、(A)の表に基づいて、Ti-23Ta-3Sn-0.7O合金製の試料の加工率と硬度の関係を表したグラフである。
【
図8】(A)は、Ti-23Ta-3Sn-0.7O合金製の試料に対して500℃で時効処理を行った際の時効処理時間とTi-23Ta-3Sn-0.7O合金の硬度の関係を加工率別(0%,25%,50%,75%)に示す表である。(B)は、(A)に基づいてTi-23Ta-3Sn-0.7O合金製の試料の時効処理時間と硬度の関係を加工率別(0%,25%,50%,75%)に表す折れ線図である。
【
図9】Ti-23Ta-3Sn-0.7O合金製の第1~第10試料に対して所定の特性(硬度、ヤング率、0.2%耐力、引張強度、伸び)を測定する試験を行った結果を示す表である。
【
図10】(A)は、
図9の表に基づいて、第1~第10試料のそれぞれを加工率別(0%,25%,50%,75%)に整理して、Ti-23Ta-3Sn-0.7O合金の時効処理時間とヤング率の関係を表したグラフである。(B)は、
図9の表に基づいて、第1~第10試料を、時効処理を施していない試料と、時効処理を施した試料に区別して作成したTi-23Ta-3Sn-0.7O合金の硬度とヤング率の関係を表すグラフである。
【
図11】(A)は、
図9の表に基づいて、Ti-23Ta-3Sn-0.7O合金の第1~第10試料の硬度を示すグラフである。(B)は、
図9の表に基づいて、Ti-23Ta-3Sn-0.7O合金の第1~第10試料のヤング率を示すグラフである。
【
図12】(A)~(D)は、本発明の第一実施形態におけるロッドの製造方法を時系列に並べた図である。
【
図13】(A)は、本発明の第二実施形態におけるロッドの一部区間を示す概略図である。(B)は、本発明の第二実施形態におけるロッドの変形例の一部区間を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施の形態について添付図面を参照して説明する。
図1~
図13は発明を実施する形態の一例であって、図中、同一の符号を付した部分は同一物を表わす。
【0025】
<第一実施形態>
本発明の第一実施形態における脊椎固定具1は、例えば、側弯症等の脊椎の変形に関する治療に用いられ、脊椎の変形を矯正して固定するものである。
図1(A)に示すように、本実施形態における脊椎固定具1は、取付機構2と、脊椎固定用のロッド3と、を備える。
【0026】
<取付機構>
取付機構2は、
図1(B)に示すように、ロッド3を利用者(患者)の脊椎900に沿って取り付けるものである。取付機構2は、
図1(A),(B)に示すように、ロッド拘束機構20と、連結部21と、を有する。ロッド拘束機構20は、ロッド3を拘束するものである。本実施形態においてロッド拘束機構20は、ロッド3の一部区間を保持可能なハウジング部22と、ハウジング部22にロッド3を固定するロッド固定部23と、有する。
【0027】
ハウジング部22は、
図2(A)に示すように、凹部24を有する。なお、ハウジング部22は、凹部24を有すれば、どのような形状であってもよい。
【0028】
図2(A)に示すように、凹部24は、ハウジング部22の高さ方向(以下、ハウジング高さ方向と呼ぶ。)Aの上端部22Aを起点としてハウジング高さ方向Aの下方側に凹む。また、凹部24は、ハウジング高さ方向Aに直交する直交方向(以下、ハウジング高さ直交方向と呼ぶ。)Bにハウジング部22を貫通する。結果、凹部24で取り囲まれる空間Sは、ハウジング部22の上端部22A側の上端開口220、ハウジング部22の正面側側面部22B1側の第一側面側開口221、及び背面側側面部22B2側の第二側面側開口222を通じて外部に開放される。
【0029】
図3(A),(B)に示すように、凹部24は、凹部24で取り囲まれる空間Sにロッド3の長さ方向の一部区間Tを挿入可能な大きさを有する。つまり、凹部24は、ハウジング部22においてロッド3をハウジング高さ直交方向Bに通すための通路として機能する。そして、
図3(A),(B)に示すように、ロッド3を空間Sの開放側(ハウジング部22の上端部22A側、ハウジング部22の正面側側面部22B1側、及び背面側側面部22B2側のいずれか)から空間Sにロッド3を挿入すると、ロッド3は、凹部24を構成する凹面の少なくとも一部に当接して支持される。つまり、上記凹面は、ロッド3の支持面として機能する。
【0030】
ロッド固定部23は、凹部24においてロッド3を固定する。
図2(A),(B)に示すように、ロッド固定部23は、例えば、少なくとも一部を凹部24に挿入可能な大きさ・形状を有し、ロッド3を凹部24に押し付ける押し付け部材で構成される。また、ロッド固定部23の外周面には、例えば、ネジ山23Aが設けられる。そして、ハウジング部22の凹部24には、ネジ山23Aに螺合可能なネジ溝24Aが設けられる。
図3(A),(B)に示すように、ロッド固定部23のネジ山23Aをネジ溝24Aに螺合させて、ネジ締め方向に回転させると、ロッド固定部23は、ハウジング高さ方向Aの下方側に移動し、ロッド3を凹部24の凹面に押し付ける。これにより、ロッド3は、凹部24において固定される。
【0031】
連結部21は、
図1(B)に示すように、ロッド拘束機構20を利用者の脊椎900に連結させるものである。連結部21は、
図2(A),(B)に示すように、例えば、係合部26と、係合部26から突出するネジ部27と、を有する。係合部26は、ロッド拘束機構20(ハウジング部22)の内部でロッド拘束機構20(ハウジング部22)に係合する。この際、ネジ部27は、ハウジング部22の下端部22Cから突出する。係合部26とネジ部27は、連結されてもよいし、一体形成されてもよい。
【0032】
そして、連結部21は、係合部26を揺動支点としてロッド拘束機構20に対してネジ部27が揺動可能に構成されてもよいし、ロッド拘束機構20に対して姿勢を変更不能にロッド拘束機構20に固定されていてもよい。更に、連結部21は、ロッド拘束機構20(ハウジング部22)に一体形成されるネジ部27として構成されてもよい。
【0033】
<ロッド>
ロッド3は、脊椎固定用のものであり、
図1(B)に示すように、取付機構2により利用者の脊椎900に沿わせて取り付けられる。取り付けられたロッド3は、利用者の脊椎900の変形を矯正してその状態を維持させる。本実施形態におけるロッド3は、
図1(A)に示すように、硬度が高い高硬度部30と、高硬度部30よりも硬度が低い低硬度部31と、を有する。
【0034】
なお、硬度とは、材料の硬さ(特に、材料の表面硬さ)の度合いを表すものであり、材料が異物によって変形や傷を与えられようとする時の物体の変形しにくさ、物体の傷つきにくさ等を表す。材料の硬度には、いろいろな表し方があり、例えば、ビッカース硬さ、微小硬さ、ヌープ硬さ、ブリネル硬さ、ロックウェル硬さ、ショア硬さ、リーブ硬さ等のいずれかにより表される。
【0035】
高硬度部30は、
図1(A)に示すように、ロッド3の長さ方向(以下、ロッド長さ方向と呼ぶ。)Cに延びる一部区間に設けられる。そして、高硬度部30は、一部区間の全体に設けられることが好ましいが、一部区間の一部領域に設けられてもよい。また、ロッド3のうち、ロッド固定部23及び凹部24に接触する接触領域(接触区間)34には、ロッド固定部23及び凹部24から大きな負荷が掛けられるので、
図1(B)に示すように、その接触領域(接触区間)34には、ロッド3の高硬度部30が位置することが好ましい。そして、高硬度部30は、ロッド固定部23及び凹部24からの上記負荷に耐え得る程度の硬度を有することが好ましい。その意味で、高硬度部30は、上記負荷に耐え得る最小硬度(適宜、負荷耐久最小硬度と呼ぶ。)以上の硬度を有することが好ましく、例えば、Hv(0.1)240以上の硬度を有することが好ましい。なお、本明細書において「Hv(0.1)」は、JIS Z2244:2009に規定されたビッカース硬さ試験において、荷重(試験力)を0.1kgf(0.9807N)としてビッカース硬さ(上記硬度に相当)を測定したことを表す。
【0036】
また、
図4(A)に示すように、高硬度部30は、負荷耐久最小硬度以上の硬度であれば、硬度が位置に応じて連続又は不連続に変化する変化区間があってもよいし、硬度が位置に無関係に一定となる一定区間があってもよい。なお、
図4(A)に示す高硬度部30の硬度の変化は一例であって、高硬度部30の全区間で硬度が一定であってもよいし、連続又は不連続に変化してもよい。
【0037】
低硬度部31は、
図1(A)に示すように、ロッド長さ方向Cの一部区間に設けられ、高硬度部30よりも硬度が低い。なお、低硬度部31は、高硬度部30よりも硬度が低ければ、
図4(A)に示すように、負荷耐久最小硬度よりも硬度が高い区間があってもよいし、負荷耐久最小硬度よりも硬度が低い区間があってもよい。そして、低硬度部31は、一部区間の全体に設けられることが好ましいが、一部区間の一部領域に設けられてもよい。また、ロッド3が取付機構2に取り付けられた際、低硬度部31は、隣接するハウジング部22の間に含まれることが好ましい。
【0038】
また、本実施形態におけるロッド3は、
図1(A)に示すように、ヤング率が大きい高ヤング率部32と、高ヤング率部32よりもヤング率が小さい低ヤング率部33と、を有する。そして、本実施形態において高ヤング率部32は高硬度部30も兼ね、低ヤング率部33は低硬度部31も兼ねる。
【0039】
低ヤング率部33は、
図1(A)に示すように、低硬度部31と同様の区間に設けられる。低ヤング率部33は、ロッド3を手の力で形状付けできる程度のヤング率を有するものであってもよい。また、低ヤング率部33は、ストレスシールディング防止の観点から、利用者の脊椎900に外部負荷が掛かる際、脊椎900にもある程度の負荷が掛かるような、利用者の脊椎900のヤング率に近いヤング率(例えば、40~100GPa)を有するものであってもよい。また、低ヤング率部33は、高ヤング率部32よりもヤング率が小さいだけでなく、予め定めたヤング率の閾値である境界ヤング率以下のヤング率を有するように構成されてもよい。境界ヤング率として、例えば、70GPaが挙げられるが、これに限定されるものではない。境界ヤング率を70GPaとした場合、低ヤング率部33におけるヤング率(低ヤング率)Y1は、70GPa未満となる。また、低ヤング率部33におけるヤング率(低ヤング率)Y1は、40GPa以上であることが好ましい。つまり、40GPa≦Y1<70GPaとなることが好ましい。
【0040】
また、
図4(B)に示すように、低ヤング率部33は、ヤング率が連続又は不連続に変化する変化区間があってもよいし、ヤング率が一定となる一定区間があってもよい。なお、
図4(B)に示す低ヤング率部33のヤング率の変化は一例であって、低ヤング率部33の全区間でヤング率が一定であってもよいし、連続又は不連続に変化してもよい。また、低ヤング率部33は、高ヤング率部32よりもヤング率が小さければ、境界ヤング率を超えるヤング率を有するように構成されてもよいし、低ヤング率部33の全区間で境界ヤング率以下のヤング率を有するように構成されてもよい。
【0041】
高ヤング率部32は、
図1(A)に示すように、高硬度部30と同様の区間に設けられる。なお、高ヤング率部32は、低ヤング率部33よりも硬度が大きければ、上記境界ヤング率よりもヤング率が大きくても小さくてもよい。また、高ヤング率部32は、低ヤング率部33よりもヤング率が大きいだけでなく、上記境界ヤング率以上のヤング率を有するように構成されてもよい。境界ヤング率を70GPaとした場合、高ヤング率部32におけるヤング率(高ヤング率)Y2は、70GPa以上となる。また、高ヤング率部32におけるヤング率(高ヤング率)Y2は、100GPa以下であることが好ましい。つまり、70GPa≦Y2≦100GPaとなることが好ましい。
【0042】
図1(A),(B)に示すように、高硬度部30(高ヤング率部32)と、低硬度部31(低ヤング率部33)は、ロッド3の長さ方向Cに沿って交互に複数並ぶ。そして、高硬度部30(高ヤング率部32)は、ロッド3のうち、ロッド固定部23及び凹部24に接触する接触領域(接触区間)34に形成されれば足り、且つ低硬度部31(低ヤング率部33)は、ある程度の区間長を有した方がロッド3を手で形状付けすることなどが容易にできるので、少なくとも高硬度部30の区間長は、低ヤング率部33の区間長よりも短い方が好ましい。
【0043】
各高硬度部30(高ヤング率部32)の区間長は、略同一であることが好ましい。そして、各低硬度部31(低ヤング率部33)の区間長も、略同一にして、各高硬度部30(高ヤング率部32)、各低硬度部31(低ヤング率部33)のそれぞれは、ロッド長さ方向Cにおいて等間隔に並ぶようにしてもよい。また、各高硬度部30(高ヤング率部32)、各低硬度部31(低ヤング率部33)の全て、又は一部の区間長を異なるものにしてもよい。
【0044】
<ロッドの材料>
次に、ロッド3の具体的な材料について説明する。ロッド3は、少なくともチタン(Ti)およびタンタル(Ta)を含有するチタン合金から構成される。ロッド3を構成するチタン合金は、少なくともチタンおよびタンタルを含有するものであれば特に限定されるものではなく、チタンおよびタンタル以外の元素を含有するものであってもよい。そして、チタンおよびタンタル以外の元素として、例えば、スズ(Sn)が挙げられる。このため、ロッド3を構成するチタン合金は、チタンおよびタンタルに加え、スズ(Sn)を含有するものであってもよく、この場合、より良好な機械的性質を得ることが可能となる。
【0045】
そして、本実施形態におけるロッド3は、全体を100原子%(at%)としたときに、15~27原子%のタンタル(Ta)と、0~8原子%のスズ(Sn)と、0.4~1.7原子%の酸素(O)と、残部がチタン(Ti)及び不可避不純物から成るチタン合金により構成されることが好ましい。なお、残部のチタン(Ti)の含有率は特に限定されるものではなく、原子比率で考えたときに、含有元素中で最も多い元素がチタン(Ti)であればよい。
【0046】
また、チタン合金は、最密六方晶(HCP)であるα相を母相とするα型チタン合金、体心立方晶(BCC)であるβ相を母相とするβ型チタン合金、最密六方晶(HCP)であるα相と体心立方晶(BCC)であるβ相とが共存するα+β型チタン合金の3種類に大きく分類されるが、本発明に係るチタン合金の種類は特に限定されない。
【0047】
<タンタル(Ta)>
タンタル(Ta)は、本実施形態におけるチタン合金を、熱弾性型マルテンサイト変態を起こすチタン合金にする。Taは、β相からα相への変態温度を低温側に下げ、室温においてβ相を安定化させるとともに、すべり変形(塑性変形)を起こしにくくする機能を有する。
【0048】
Taの含有率の上限値は、チタン合金の融点に基づいて設定される。
図5は、Ta-Tiの2元系状態図である。
図5に示されるように、Taの含有率が27原子%を超えると、チタン合金の融点が約2000K以上となる可能性があるため、特殊な溶解炉が必要となり、生産コストが増大する。また、Ta原料の溶融が不完全となる可能性が生じるため、チタン合金の品質低下を招くこととなる。
【0049】
Taの含有率の下限値は、上述のβ相安定化機能、およびチタン合金の医療機器用材料や生体用材料等としての機械的性質に基づいて設定される。すなわち、β相安定化機能は、Taの含有率が低下する程低下し、Taの含有率を15原子%未満とした場合にはβ相を常温まで維持することが困難となる。このため、Taの含有率が15原子%未満である場合、例えスズ(Sn)を添加したとしても医療機器用材料や生体用材料等に要求される機械的性質(ヤング率、引張強度、および弾性変形ひずみ)を得ることが難しくなる。従って、チタン合金全体を100原子%としたときのTaの含有率は、15原子%以上であることが好ましく、19原子%以上であればより好ましく、22原子%以上であることが最も好ましい。
【0050】
以上から、Taの含有率は、チタン合金全体を100原子%(原子%)としたときに、15~27原子%とするのが好ましく、19~25原子%であればより好ましく、22~24原子%であることが最も好ましい。
【0051】
<スズ(Sn)>
スズ(Sn)は、変態温度を上昇させ、α相を安定させるα相安定化機能を有する。また、Snは、ヤング率を上昇させる要因となるω相の析出を抑制し、チタン合金の超弾性効果を高める機能を有する。
【0052】
Snの含有率の上限値は、チタン合金の加工性(冷間加工性)に基づいて設定される。
図6は、チタン合金全体を100原子%としたときのTaの含有率が23原子%のチタン合金(Ti-23Ta-xSn-0.7O)についての冷間加工性評価試験の結果を示したグラフである。なお、xはチタン合金全体を100原子%としたときのSnの含有率(原子%)である。本冷間加工性評価試験では、まずチタン合金全体を100原子%としたときのSnの含有率xを0原子%、1.5原子%、3原子%、6原子%および9原子%と変化させた複数の試験片(厚さ:1mm、熱処理なし)を用意した。そして、これらの試験片を0.1mmの厚さまで冷間圧延(加工率86%)し、冷間圧延後の各試験片における1mm以上の長さの亀裂の個数をカウントした。なお、この亀裂のカウントは、各試験片における圧延方向に140mmの範囲内で行った。なお、加工率とは、伸線や圧延などの冷間塑性加工において、加工前の材料の断面積と加工後の断面積の差を加工前の材料の断面積で割った百分率(%)を指す。
【0053】
図6に示されるように、この評価試験の結果、Snの含有率を9原子%とした場合に、急激に1mm以上の亀裂の発生が増加する、すなわち加工性が急激に悪化することが確認された。また、Taの含有率が異なる場合においても、同様の傾向を示す結果となった。従って、チタン合金全体を100原子%としたときのSnの含有率は、良好な加工性を得るためには、8原子%以下であることが好ましく、6原子%以下であればより好ましい。
【0054】
なお、スズ(Sn)の含有率の下限値は、特に限定されないが、上記のように0原子%であってもよい。Snを添加しなくとも、Taの含有率が15原子%以上であれば、ロッド3に要求される機械的性質(ヤング率、引張強度、および弾性変形ひずみ)を有するチタン合金を得ることが可能であるからである。
【0055】
但し、機械的性質をより向上させるためには、チタン合金にスズ(Sn)を添加することが好ましい。例えば、チタン合金の超弾性効果の観点から見ると、スズ(Sn)は、ヤング率を上昇させる要因となるω相の析出を抑制し、チタン合金の超弾性効果を高める機能を有する。この超弾性は、意図しない変形に柔軟に対応できることになる。このため、スズ(Sn)をチタン合金に添加することは好ましい。なお、上記ω相抑制機能を十分に発揮させるためには、チタン合金全体を100原子%としたときのSnの含有率は、1原子%以上であることが好ましい。
【0056】
以上から、Snの含有率は、チタン合金全体を100原子%(at%)としたときに、1~8原子%とするのが好ましく、2~6原子%であればより好ましい。
【0057】
また、スズ(Sn)を含有する上記チタン合金は、構成元素であるTi、Ta、Snの金属イオンの溶出量が極めて少ない上に、優れた耐食性を示し、細胞毒性が低く、生体親和性が高く、外部の磁界により磁化がされにくい非磁性体であって磁気を嫌う医療機器(MRI等)に悪影響を及ぼすおそれが極めて低く、高弾性で適度な剛性を有し、加工性の高い合金である。すなわち、スズ(Sn)を含有する上記チタン合金は、従来のチタン合金に比べて細胞毒性が低く、磁気特性、耐食性、機械的性質および加工性に優れたチタン合金となっている。
【0058】
<酸素(O)>
酸素(O)は、変態温度を上昇させ、α相を安定させるα相安定化機能を有する。そして、Oは、Snよりもα相安定化機能が強い。また、酸素(O)は、結晶の変形を拘束し、形状記憶性の発現や軟化を防ぐ機能を有する。Oの含有率は、チタン合金全体を100原子%(at%)としたときに、0.4~1.7原子%とするのが好ましく、0.6~1.0原子%であればより好ましい。
【0059】
<本チタン合金の特性>
本願発明者は、スズ(Sn)を含有するチタン合金(以下、本チタン合金と呼ぶ。)の特性を測定するため、Ti-23Ta-3Sn-0.7O合金(全体を100原子%(at%)とした場合に、23原子%のタンタル、3原子%以下のスズ、及び0.7原子%の酸素を含有し、残部がチタンおよび不可避不純物からなるチタンタンタル合金:以下も同様)で形成され、断面の径が5(mm)の丸棒材で構成される4種類の試料を用意した。4種類の試料のそれぞれの加工率はそれぞれ0%、25%、50%、75%であり、時効処理を施していない。本願発明者は、4種類の試料のそれぞれの硬度、ヤング率、0.2%耐力、引張強度、伸び、弾性限を求めるべく4種類の試料に対して所定の試験を行った。所定の試験を行った結果得られた値を
図7(A)の表に示す。
【0060】
なお、4種類の試料のそれぞれの硬度を測定するに当たって、マイクロビッカース硬さ試験機で上記4種類の試料の硬度を測定した。なお、マイクロビッカース硬さ試験は、各丸棒材の軸方向に略垂直な断面において外周縁から中心に向かって等間隔(0.2mm間隔)に並ぶ13箇所を測定点として行い、13箇所の平均値を試験結果とした。
【0061】
ヤング率は、JIS H 7103(2002)に基づき、4種類の試料のそれぞれに対して引張試験機により引張試験を行い、応力-歪曲線を測定し、降伏点以下の応力での応力増加直線の勾配から求めた。0.2%耐力、引張強度も上記応力-歪曲線に基づいて求めた。
【0062】
また、伸び、弾性限は、4種類の試料のそれぞれに対して繰り返し応力-歪を付与して4種類の試料のそれぞれを破断させ、0.5%歪が残存した場合のものである。
【0063】
<本チタン合金における加工率と硬度の関係>
図7(B)を参照して本チタン合金における硬度と加工率の関係について説明する。
図7(A)の表に示す試験結果に基づいて作成した、各試料の加工率と硬度の関係を示すグラフを
図7(B)に示す。
図7(B)に示すグラフから明らかなように、加工率が0%の試料に比べて、加工率が25%、50%、75%の試料の方が、硬度が高くなっている。そして、加工率が25%の試料よりも加工率が50%、75%の試料の方が、硬度が高くなっている。また、加工率が50%、75%の試料の硬度の大きさは、近い範囲にあることがわかる。以上から、本チタン合金に加工率を付与すると硬度が増大するが、加工率が特定の閾値以上(例えば、50%以上)になると、加工率の大きさに関わらず、ある一定範囲において相互に近似する硬度になると推定される。
【0064】
<本チタン合金に対する時効処理>
次に、
図8を参照して本チタン合金に対して時効処理を行った際の上記本チタン合金の硬度について説明する。本願発明者は、上記<本チタン合金の特性>で説明したものと同様の加工率の異なる4種類の試料に対して500℃で時効処理を行った。時効処理は、真空炉に上記試料を投入し、2時間、8時間、24時間の3パターン行った。そして、マイクロビッカース硬さ試験機で、上記3パターンの時効処理を行った上記4種類の試料の硬度を測定した。なお、マイクロビッカース硬さ試験は、各試料の軸方向に略垂直な断面において外周縁から中心に向かって等間隔(0.2mm間隔)に並ぶ13箇所を測定点として行い、13箇所の平均値を試験結果とした。
【0065】
図8(B)に示すように、加工率が0%、25%、50%、75%のいずれの試料も、時効処理時間が長くなる程に硬度が上がる。そして、試料の加工率によらず時効処理時間帯が0~2時間では、各試料は、急激に硬度が上がり、時効処理時間帯が2~8時間では硬度が上がる勾配が緩やかになり、8時間以上の時効処理時間帯では、硬度が上がる勾配がさらに緩やかになる。つまり、各試料に時効処理を施すと、時効処理時間が経過するに連れて、各試料の硬度は大きくなるが、硬度が上がる度合は徐々に小さくなっていく。
【0066】
図8(A)を参照して具体的に試料の硬度増加量を見ると、加工率が0%の試料に2時間の時効処理を施した場合、硬度が73.7増大する。一方、加工率が25%の試料に2時間の時効処理を施した場合、硬度が145.8増大する。また、加工率が50%の試料に2時間の時効処理を施した場合、硬度が134.6増大する。また、加工率が75%の試料に2時間の時効処理を施した場合、硬度が138.8増大する。以上から、時効処理時間が2時間までの範囲では、加工率が0%の試料の硬度増加量は、加工率が25%、50%、75%の試料の硬度増加量の約2倍弱程度高くなることが確認できた。
【0067】
時効処理時間が2時間から8時間の範囲では、加工率が0%の試料は、硬度が33.6増大する。一方、時効処理時間が2時間から8時間の範囲では、加工率が25%の試料は、硬度が16.1増大する。また、同条件で、加工率が50%の試料は、硬度が19.8増大する。同条件で、加工率が75%の試料は、硬度が8.4増大する。以上から、時効処理時間が2時間から8時間の範囲の場合、時効処理時間が2時間までの範囲の場合と比べると、加工率が0%、25%、50%、75%の試料のそれぞれの硬度増加量はかなり低くなることが確認できた。また、時効処理時間が2時間から8時間の範囲では、加工率が25%、50%、75%の試料の硬度増加量は、加工率が0%の試料の硬度増加量の約59%以下になることが確認できた。
【0068】
時効処理時間が8時間から24時間の範囲では、加工率が0%の試料は、硬度が42.7増大する。一方、時効処理時間が8時間から24時間の範囲では、加工率が25%の試料は、硬度が10.1増大する。また、同条件で、加工率が50%の試料は、硬度が5.6増大する。また、同条件で、加工率が75%の試料は、硬度が18.8増大する。以上から、時効処理時間が8時間から24時間の範囲では、加工率が25%、50%、75%の試料は、硬度増加量がかなり低く、時効処理時間が8時間以上になっても硬度の増加はわずかであるため、時効処理において分単位、秒単位の厳密な管理をしなくても大きな問題にならない。これにより、本チタン合金に対する時効処理において、時効処理時間を8~24時間のいずれかにすれば、製造品質を簡単に安定させることができ、更には、品質管理コストを低減することができる。
【0069】
また、
図8(A),(B)に示すように、時効処理時間が2時間、8時間、24時間のそれぞれにおける加工率が25%、50%、75%の試料のそれぞれの硬度は、近似した値になる。このことは、25%~75%範囲の加工率を付与された試料でも、同様の結果になると推定される。更に拡張して10%以上の範囲の加工率を付与された試料でも同様の結果になると推定される。更により拡張して5%以上の範囲の加工率を付与された試料でも同様の結果になると推定される。加工率の厳密な値がわからなくても加工率を付与された試料であれば、時効処理時間を変えることにより試料のおおよその硬度を把握することができるので、加工率の厳密な制御をしなくても硬度を制御可能である。
【0070】
また、加工率が0%の試料は、時効処理時間が8時間から24時間の範囲では、硬度増加量は低下するが、加工率が25%、50%、75%の試料に比べて、硬度増加量は高いので、時効処理時間を24時間まで行う実益はある。一方、加工率が25%、50%、75%の試料では、時効処理時間が24時間の時の硬度を基準として、時効処理時間が8時間でも95%~99%の硬度を得られ、時効処理時間が2時間でも94%前後の硬度を得られる。また、時効処理時間が8時間以上では、加工率が25%、50%、75%の試料の硬度増加量がかなり低いので、時効処理時間を24時間に延長しても試料の硬度はわずかしか上がらないと推定される。以上のことは、Ti-23Ta-3Sn-0.7O合金以外のその他の本チタン合金全体にも同様に適用できると推定される。
【0071】
また、24時間以上も時効処理を継続することは、製造コストの関係であまり合理的ではない。結果、本チタン合金に対する時効処理は、製造コストと、合金の硬度の安定性を両立させる観点からすると、適正な時効処理温度での時効処理時間が2時間以上24時間以下であることが好ましく、2時間以上8時間以下であればより好ましい。また、時効処理時間が2時間以内では急激に本チタン合金の硬度が上がるため、比較的低い硬度の範囲で硬度のコントロールが必要な場合、時効処理時間が2時間以内であることが好ましい。
【0072】
また、
図8(A),(B)に示すように、時効処理前後のいずれの場合も全体的に見て加工率が0%の試料よりも加工率が25%、50%、75%の試料の方が、硬度の値が大きい。したがって、本チタン合金を硬くするには、本チタン合金に変形加工処理を施すことが好ましい。変形加工処理として、例えば、熱間加工や冷間加工等が一例として挙げられる。
【0073】
<本チタン合金に対する様々な処理>
本願発明者は、Ti-23Ta-3Sn-0.7O合金で形成され、断面の径が5(mm)で加工率0%の4本の第一丸棒材(棒状部材)、加工率25%の1本の第二丸棒材(棒状部材)、加工率50%の4本の第三丸棒材(棒状部材)、加工率75%の1本の第四丸棒材(棒状部材)を用意した。なお、第一~第四丸棒材は、加工率が異なるだけで形状・大きさは同様である。そして、4本の第一丸棒材のそれぞれに対して条件を変えた4つの処理(第1~第4処理)を行い、第1~第4試料を作製した。また、処理を加えていない1本の第二丸棒材、1本の第三丸棒材、1本の第四丸棒材のそれぞれを第5試料、第6試料、第10試料とした。また、3本の第三丸棒材のそれぞれに対して条件を変えた3つの処理(第5~第7処理)を行い、第7~第9試料を作製した。また、本願発明者は、比較例として、純チタン、Ti合金(ASTM F136)のELI材、コバルトクロム(CoCr)合金(ASTM F1537)で形成され、断面の径が5(mm)の丸棒材で構成された第1~第3比較例試料を用意した。第1~第10試料及び第1~第3比較例試料の作製の過程でいずれの試料にも焼鈍処理が施される。そして、本願発明者は、第1~第10試料、及び第1~第3比較例試料のそれぞれの硬度、引張強さ、0.2%耐力、ヤング率、伸び、絞りを測定した。測定結果を
図9の表に示す。なお、第1~第10試料に対する引張強さ、0.2%耐力、ヤング率、伸び、絞りのそれぞれは、複数回測定し、それぞれの平均を第1~第10試料における引張強さ、0.2%耐力、ヤング率、伸び、絞りとした。また、
図9の表に基づいて、第1~第10試料のそれぞれを加工率別に整理して、Ti-23Ta-3Sn-0.7O合金の時効処理時間とヤング率の関係を表したグラフを
図10(A)に示す。また、
図9の表に基づいて、第1~第10試料を、時効処理を施していない試料と、時効処理を施した試料に区別して作成したTi-23Ta-3Sn-0.7O合金の硬度とヤング率の関係を表すグラフを
図10(B)に示す。また、
図9の表に基づいて、第1~第10試料、及び第1~第3比較例試料のそれぞれの硬度を比較するグラフを
図11(A)に示す。また、
図9の表に基づいて、第1~第10試料、及び第1~第3比較例試料のそれぞれのヤング率を比較するグラフを
図11(B)に示す。
【0074】
なお、第1試料に施された第1処理では、試料に対して750℃で15分熱した後に水冷する焼鈍処理のみを行う。第2試料に施された第2処理では、試料に対して750℃で15分熱した後に水冷する溶体化処理を行い、真空炉で上記試料に対して500℃で2時間熱した後に炉冷する時効処理を行う。第3試料に施された第3処理では、試料に対して750℃で15分熱した後に水冷する溶体化処理を行い、その後、真空炉で試料に対して500℃で8時間熱した後に炉冷する時効処理を行う。第4試料に施された第4処理では、試料に対して750℃で15分熱した後に水冷する溶体化処理を行い、その後、真空炉で、500℃で24時間熱した後に炉冷する時効処理を行う。第7試料に施された第5処理では、真空炉で試料に対して500℃で2時間熱した後に炉冷する時効処理を行う。第8試料に施された第6処理では、真空炉で試料に対して500℃で8時間熱した後に炉冷する時効処理を行う。第9試料に施された第7処理では、真空炉で試料に対して500℃で24時間熱した後に炉冷する時効処理を行う。なお、溶体化処理温度750℃は、Ti-23Ta-3Sn-0.7O合金が(α+β)相に相変態する温度(以下、(α+β)相変態温度と呼ぶ。)である。なお、(α+β)相とは、α相とβ相の2相組織を指す。
【0075】
まず、
図9に示す第1~第10試料の時効処理時間とヤング率を参照して作成したTi-23Ta-3Sn-0.7O合金の加工率別の時効処理時間とヤング率の関係を表すグラフを
図10(A)に示す。ここで、
図9の表、及び
図10(A)のグラフを参照して加工率が0%の試料のヤング率を見ると、時効処理時間が0時間、つまり、時効処理が施されていない場合、加工率が0%の試料では、ヤング率が56.3(GPa)である。また、時効処理時間が2時間における加工率が0%の試料では、ヤング率は71.8(GPa)となる。また、時効処理時間が8時間における加工率が0%の試料では、ヤング率は74.8(GPa)となる。また、時効処理時間が24時間における加工率が0%の試料では、ヤング率は80.1(GPa)となる。時効処理が施されていない場合と施された場合を比較すると、加工率が0%の試料では、時効処理が施された方がヤング率は増加する。ただし、時効処理時間が0時間の際の加工率が0%の試料のヤング率を基準としたヤング率の増加率は、時効処理時間が2時間までの範囲では略28%、2時間~8時間までの範囲では略5%、及び8時間~24時間までの範囲では略9%となる。このため、時効処理時間が2時間までの範囲の上記ヤング率の増加率は、それ以降の時効処理時間の範囲の上記ヤング率の増加率と比較して大きいと言える。
【0076】
一方で、
図9の表、及び
図10(A)のグラフを参照して加工率が50%の試料のヤング率を見ると、時効処理時間が0時間、つまり、時効処理が施されていない場合、加工率が50%の試料では、ヤング率が58.0(GPa)である。また、時効処理時間が2時間における加工率が50%の試料では、ヤング率が81.5(GPa)となる。また、時効処理時間が8時間における加工率が50%の試料では、ヤング率が94.3(GPa)となる。また、時効処理時間が24時間における加工率が50%の試料では、ヤング率が92.7(GPa)となる。時効処理が施されていない場合と施された場合を比較すると、加工率が50%の試料では、時効処理が施された方がヤング率は増加する。ただし、時効処理時間が0時間の際の加工率が50%の試料のヤング率を基準としたヤング率の増加率は、時効処理時間が2時間までの範囲では略41%、2時間~8時間までの範囲では略22%、及び8時間~24時間までの範囲では略-3%となる。このため、時効処理時間が2時間までの範囲の上記ヤング率の増加率は、それ以降の時効処理時間の範囲の上記ヤング率の増加率と比較して大きいと言える。また、時効処理時間が2時間~8時間までの範囲の上記ヤング率の増加率も比較的大きく、加工率が50%の試料は、8時間まで時効処理を施す実益がある。以上のことは、25%、75%、及びそれ以外の加工率を有するTi-23Ta-3Sn-0.7O合金のみならず、その他の本チタン合金でも同様に適用できると推定される。このため、加工率を付与された本チタン合金では時効処理時間が2時間の範囲まではヤング率の増加率が大きいので、時効処理の分単位、秒単位の厳密な管理により様々なヤング率を付与することができる。一方で、加工率を付与された本チタン合金では、時効処理時間が8時間を超えるとヤング率の増加率は小さいので、分単位、秒単位の厳密な管理をしなくてもよいことがわかる。なお、時効処理時間が2時間~8時間の範囲では、付与された加工率によりヤング率の増加率が変わり得るため、求めるヤング率に応じてある程度の時間管理は必要になり得る。
【0077】
また、
図10(A)に示すように、時効処理を施す前は、加工率が0%の試料のヤング率と加工率が50%の試料のヤング率は近似した値である。しかしながら、時効処理を施した後は、加工率が50%の試料のヤング率の方が、加工率が0%の試料のヤング率よりも大きくなる。この結果から、加工率が0%のTi-23Ta-3Sn-0.7O合金と加工率を付与したTi-23Ta-3Sn-0.7O合金を比較すると、時効処理によるヤング率の増加率は加工率が大きい後者の方が大きいことがわかる。以上のことは、Ti-23Ta-3Sn-0.7O合金のみならず、本チタン合金全体も同様に適用できると推定される。
【0078】
次に、
図9に示す第1~第10試料の硬度とヤング率を参照して時効処理を施していない試料と、時効処理を施した試料を区別して作成したTi-23Ta-3Sn-0.7O合金の硬度とヤング率の関係を表すグラフを
図10(B)に示す。
図10(B)から明らかなように、硬度が大きい試料の方がヤング率が高く、硬度が小さい試料の方がヤング率が低い。そして、ヤング率の観点から
図10(B)のグラフを見ると、時効処理を施した試料は、ヤング率が70GPa以上の領域に分布し、時効処理を施していない試料は、ヤング率が70GPa未満の領域に分布する。境界ヤング率を70GPaとした場合、時効処理を施したものが高ヤング率部32となり、時効処理を施していないものが低ヤング率部33となる。
【0079】
次に、
図11を参照して、第1~第10試料、及び第1~第3比較例試料のそれぞれの硬度を比較する。
図9の表に基づいて作成された
図11(A)から明らかなように、第1~第4試料の順に硬度が増大しており、第7~第9試料の順に硬度が増大している。結果、加工率に大きさに依存すること無く、Ti-23Ta-3Sn-0.7O合金に時効処理を施すと硬度が上がることが確認できた。
【0080】
次に、第1~第10試料、及び第1~第3比較例試料のそれぞれのヤング率を比較する。
図9の表に基づいて作成された
図11(B)から明らかなように、時効処理を施していない第1試料よりも時効処理を施した第2~第4試料の方がヤング率が高い。また、第2試料、第3試料、第4試料の順にヤング率は増加するが、増加率は順に低減している。また、時効処理を施していない第6試料に比べて、時効処理を施した第7~第9試料の方が、ヤング率が高い。また、第7試料、第8試料、第9試料の順に、ヤング率の増加率は低減している。このため、加工率を付与されたTi-23Ta-3Sn-0.7O合金に時効処理を施すと、ヤング率は増加するが、時効処理時間が閾値以上になれば、ヤング率の増加率が低減することが確認できた。以上の硬度及びヤング率については、Ti-23Ta-3Sn-0.7O合金のみならず、本チタン合金全体にも同様に適用できると推定される。
【0081】
<本チタン合金に対する部分的熱処理>
溶体化処理、時効処理等の熱処理に対して以上のような特性を有する本チタン合金で形成されるロッド3は、ロッド3の成形前の材料全体または一部、または成形後のロッド3全体または一部に、時効処理等の熱処理を行ってロッド3全体または一部の硬度やヤング率を調整することができる。
【0082】
ロッド3の成形前の材料の一部、または成形後のロッド3の一部に、時効処理等の熱処理を行う場合、例えば、該当部分にレーザー光を照射して加熱することが、一例として挙げられるが、これに限定されるものではなく、高周波誘導加熱、炎による加熱、電子ビームの照射による加熱をはじめとする様々なものであってもよい。
【0083】
なお、取付機構2の材料の全部又は一部もロッド3の材料と同じ材料により構成されてもよい。そして、少なくとも取付機構2とロッド3が接触する部分が同材料で構成されていれば、ガルバニック腐食の抑制を期待することができる。
【0084】
<ロッドの製造方法>
図12を参照して、本実施形態におけるロッド3の製造方法について説明する。
図12(A)に示す本チタン合金製の棒状部材300に対して長さ方向に沿って間隔を空けて段差加工を複数箇所に行う(第一工程:段差加工工程)。
【0085】
なお、段差加工は、棒状部材300の軸直角方向に切った棒状部材300の所定区間における断面積を、所定区間に隣接する隣接区間の同断面積よりも小さくして棒状部材300の表面に長さ方向の段差をつける加工を指す。本実施形態において段差加工は、棒状部材300の所定区間の径を隣接区間の径よりも小さくして棒状部材300の表面に長さ方向の段差をつける加工となる。そして、本実施形態では、所定区間と隣接区間の境界で棒状部材300の周方向の全周にわたって段差がつくように段差加工が行われる。段差加工は、例えば、冷間圧延加工、引抜き加工、スウェージング加工、切削加工、熱間鍛造加工等により実現される。
【0086】
結果、
図12(B)に示すように、棒状部材300は、大径区間(断面積大区間:第一区間、以下同様)311と小径区間(断面積小区間:第二区間、以下同様)312が交互に並ぶ中間体310となる。その意味で、段差加工工程は、中間体形成工程と読み替えてもよい。中間体310の大径区間311と小径区間312は、同軸となることが想定されるが、同軸とならないものも本発明の範囲に含まれる。なお、段差加工が塑性変形を利用した冷間加工である場合、
図12(B)に示すように、小径区間312は、大径区間311よりも高い加工率を付与される。
【0087】
次に、小径区間312と大径区間311の加工率をリセットするため、中間体310に対して焼鈍処理を行う(第二工程:焼鈍処理工程)。これにより、
図12(C)に示すように、中間体310は全区間において加工率がリセットされ、全区間において同一の加工率(加工率0%)となる。なお、中間体310に対する焼鈍処理は、省略されてもよい。
【0088】
次に、中間体310の大径区間311に対して塑性変形を利用した冷間加工を行って、大径区間311を小径区間312と同一の径(同一の断面積)にする(第三工程:冷間加工工程)。結果、
図12(D)に示すように、中間体310は、全区間において径が略同一のロッド3となる。なお、大径区間311に対応する区間を冷間加工区間320と定義すると、冷間加工区間320は、径が小さくなった分だけ大径区間311よりも区間長が長くなる。
【0089】
なお、冷間加工工程では、結果物を中間体310の大径区間311と小径区間312を同一の径(同一の断面積)にせず、異径(断面積に差がある状態)のままの状態にしてもよい。
【0090】
また、冷間加工区間320は、加工率が大きい大加工率区間となり、小径区間312は、大加工率区間における加工率未満の加工率を有する小加工率区間となる。そして、冷間加工区間320(大加工率区間)と小径区間312(小加工率区間)は、ロッド長さ方向Cにおいて交互に複数並ぶ。ロッド3の冷間加工区間320が小径区間312よりも加工率が高くなるという意味で、冷間加工工程は、ロッド3の一部区間に加工率を付与する加工率付与工程と読み替えてもよい。加工率が付与されると、
図7(A),(B)に示すように、加工率が付与される前に比べて硬度が高くなる。この意味で、冷間加工工程及び加工率付与工程は、硬度変化工程と読み替えてもよい。硬度変化工程では、基準となる第一基準加工率以上の加工率がロッド3の一部区間に付与されて、負荷耐久最小硬度以上の硬度を有する高硬度部30が設けられる。なお、第一基準加工率は、例えば、25%以上が好ましい。
【0091】
なお、
図12において冷間加工区間320、大径区間311及び小径区間312のそれぞれの区間長は、一例として描いたものに過ぎず、必要に応じて
図1におけるロッド3の高硬度部30、低硬度部31の区間長に対応したものにすればよい。
【0092】
なお、上記では、大径区間311に対してのみ冷間加工を行ったが、これに限定されるものではなく、小径区間312にも冷間加工を行ってもよい。この場合でも、冷間加工後には、両区間とも同一の径となるが、大径区間311に対応する冷間加工区間の加工率の方が小径区間312に対応する冷間加工区間の加工率よりも大きくなるので、区間によって意図的に硬度に差を付けることができる。
【0093】
更に、また、<本チタン合金に対する時効処理>及び<本チタン合金に対する様々な処理>で説明したように、ロッド3の全区間、又は一部区間に、時効処理(時効処理工程)、又は、溶体化処理(溶体化処理工程)及び時効処理(時効処理工程)を施せば、ロッド3の全区間、又は一部区間の硬度を上げることができ、ロッド3に高硬度部30を設けることができる。また、<本チタン合金に対する様々な処理>で説明したように、ロッド3に時効処理を施せば、ロッド3の全区間、又は一部区間のヤング率を上げることができる。そして、ヤング率の増加率は、対象物の加工率により変化する。このため、ロッド3の加工率を区間毎に変化させて、そのロッド3に時効処理を加えることにより、区間毎にヤング率を変化させて、ロッド3に高ヤング率部32、低ヤング率部33を設けることができる。この意味で、時効処理を施す時効処理工程は、ヤング率変化工程と読み替えてもよい。
【0094】
以上のように、加工率の付与処理、焼鈍処理、時効処理、溶体化処理及び時効処理のいずれかを適宜、丸棒材の全区間、又は一部区間に施して丸棒材の全区間、又は一部区間のヤング率を変化させれば、ロッド3の弾性変形の度合いを様々なものに調整することができる。
【0095】
<第二実施形態>
本発明の第二実施形態における脊椎固定具1は、第一実施形態における脊椎固定具1とは、取付機構2は同様であるが、ロッド3が異なる。本実施形態におけるロッド3では、
図13(A)に示すように、高硬度部30はロッド長さ方向Cに沿ってロッド3に螺旋状に設けられる区間をロッド3の一部区間又は全区間に有する。そして、低硬度部31は、高硬度部30に隣接して、高硬度部30に平行に螺旋状に設けられる。
【0096】
人の体格に応じて脊椎の長さも変わるため、隣接する取付機構2(ハウジング部22)の間の距離も人の体格に応じて変わる。そして、第一実施形態におけるロッド3では、高硬度部30が設けられる位置が予め決まっており、その位置はロッド長さ方向Cに沿って所定の間隔が空けられていた。このため、ロッド3を取付機構2(ハウジング部22)に取り付ける際、高硬度部30の位置と取付機構2(ハウジング部22)の位置が一致しないこともあり得る。しかしながら、本実施形態におけるロッド3の場合、高硬度部30は、ロッド長さ方向Cに沿って連続して設けられるため、必ず、高硬度部30の位置と取付機構2(ハウジング部22)の位置を一致させることができる。つまり、本実施形態におけるロッド3なら、人の体格に無関係にロッド3の高硬度部30を取付機構2(ハウジング部22)の位置に合わせることができる。
【0097】
なお、
図13(B)に示すように、本実施形態におけるロッド3は、高硬度部30が螺旋状に連続して設けられる螺旋状区間と、高硬度部30を成し、不連続にロッド長さ方向Cに沿って並ぶ帯状区間が、連続又は不連続に並ぶ態様であってもよく、このようなものも本発明の範囲に含まれる。
【0098】
なお、本実施形態のロッド3は、高硬度部30は、高ヤング率部32を兼ね、低硬度部31は、低ヤング率部33を兼ねるように構成されてもよい。
【0099】
尚、本発明の脊椎固定具、脊椎固定具で用いられるロッド、及びそのロッドの製造方法は、上記した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0100】
1 脊椎固定具
2 取付機構
3 ロッド
20 ロッド拘束機構
21 連結部
22 ハウジング部
23 ロッド固定部
24 凹部
27 ネジ部
30 高硬度部
31 低硬度部
32 高ヤング率部
33 低ヤング率部
300 棒状部材
310 中間体
311 大径区間
312 小径区間
320 冷間加工区間
900 脊椎