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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024118030
(43)【公開日】2024-08-30
(54)【発明の名称】補強用繊維
(51)【国際特許分類】
   C04B 14/48 20060101AFI20240823BHJP
   C04B 14/42 20060101ALI20240823BHJP
   C04B 16/06 20060101ALI20240823BHJP
【FI】
C04B14/48 C
C04B14/42 B
C04B16/06 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023024194
(22)【出願日】2023-02-20
(71)【出願人】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】城 まゆみ
(72)【発明者】
【氏名】押野 善之
(57)【要約】
【課題】コンクリートまたはモルタルに混合されて、当該コンクリートまたはモルタルを補強することを可能とし、かつ、混練設備(コンクリートまたはモルタルの混合時に使用した攪拌槽等)の洗浄排水から異物を除去する異物除去用ネットの清掃作業を容易にすることを可能とした補強用繊維を提案する。
【解決手段】基端部同士が接合された2本の繊維体2,2からなり、2本の繊維体2,2の先端同士の間隔L1が混練設備の洗浄排水から異物を除去する異物除去用ネットの網目の最大開口幅よりも大きく、かつ、2本の繊維体2,2のなす角度αが45°以下である補強用繊維1。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリートまたはモルタルに混合される補強用繊維であって、
基端部同士が接合された2本の繊維体からなり、
前記2本の繊維体の先端同士の間隔が、混練設備の洗浄排水から異物を除去する異物除去用ネットの網目の最大開口幅よりも大きく、かつ、前記2本の繊維体のなす角度が45°以下であることを特徴とする、補強用繊維。
【請求項2】
前記2本の繊維体のなす角度が10°以下であることを特徴とする、請求項1に記載の補強用繊維。
【請求項3】
前記2本の繊維体の基端部同士は、基端から2mm以上5mm以下の範囲が溶着されていることを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の補強用繊維。
【請求項4】
前記繊維体が、単体で設計上必要な定着性能を有していることを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の補強用繊維。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリートやモルタルに混入される補強用繊維に関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリートやモルタル等(以下、単に「コンクリート等」という。)に短繊維を混入して、ひび割れの抑制、変形性能の向上、爆裂防止等を図る場合がある。このような短繊維には、直線状のものが用いられるのが一般的である。一方、コンクリート等に混入した直線状の短繊維は、コンクリート等の流動方向に沿って配列される場合がある。短繊維が一定の向きに配列されていると、硬化後のコンクリート等の引張強度にむらが生じるおそれがある。また、補強用繊維が混入されたコンクリート等の製造に利用した撹拌槽には、補強用繊維が多数残存する場合がある。撹拌槽に残存した補強用繊維は、撹拌槽を洗浄した際に、異物除去用ネットの網目を通り抜けて、排水処理槽に流下し、排水処理槽のポンプを詰まらせる場合がある。
そのため、特許文献1には、基端部において互いに接合された複数の線状繊維体からなり、線状繊維体同士の開き角度を30°以上150°以下にした補強用短繊維が開示されている。この補強用短繊維によれば、いずれかの線状繊維体がコンクリート等の流動方向に沿った方向を向いた場合であっても、他の線状繊維体が開き角度で決定される方向に向くようになるため、短繊維が一定の方向に配列されることを抑制できる。
特許文献1の補強用短繊維は、所定の開き角度でく字状に形成されているため、撹拌槽の洗浄した際に異物除去用ネットに引っ掛かり易く、排水処理槽への流下の抑制効果も期待できるものの、一の補強用短繊維に着目すると、これを構成する複数の線状繊維体のうちのいずれかの線状繊維体が異物除去用ネットの網目を通り抜けた状態で、異物除去用ネットに引っ掛かることが推測される。この場合には、異物除去用ネットから補強用短繊維を除去する際に、網目を通り抜けた洗浄繊維体を網目から抜き出す必要があるため、清掃作業に手間がかかる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2016-199418号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、コンクリートまたはモルタルに混合されて、当該コンクリートまたはモルタルを補強することを可能とし、かつ、混練設備(コンクリートまたはモルタルの混合時に使用した攪拌槽等)の洗浄排水から異物を除去する異物除去用ネットの清掃作業を容易にすることを可能とした補強用繊維を提案することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記課題を解決するために、本発明は、コンクリートまたはモルタルに混合される補強用繊維であって、基端部同士が接合された2本の繊維体からなる。前記2本の繊維体の先端同士の間隔は、混練設備の洗浄排水から異物を除去する異物除去用ネットの網目の最大開口幅よりも大きく、かつ、前記2本の繊維体のなす角度が45°以下である。
かかる補強用繊維は、繊維体の先端同士の間隔が、異物除去用ネットの網目よりも大きいため、異物除去用ネットを通過することが防止されている。また、2本の繊維体同士のなす角度を45°以下、好ましくは30°以下、より好ましくは10°以下とすると、補強用繊維を形成する二つの繊維体の一方が網目を通過してしまうことも抑制され、ひいては、異物除去用ネットの清掃作業(補強用繊維の除去作業)の手間を軽減できる。
【0006】
なお、前記2本の繊維体の基端部同士が、基端から2mm以上5mm以下、好ましくは3mm以上5mm以下の範囲が溶着されていれば、繊維体同士の接合部が重くなるため、コンクリート等(コンクリートまたはモルタル)に対して浮き難くなり、その結果、補強用繊維がコンクリート等の表面に浮き上がることを防止できる。
また、前記繊維体が、単体で設計上必要な定着性能を有していれば、多方向に対して補強効果を確保でき、コンクリート等の材料全体に対する繊維補強効果の均質化が期待できる。
【発明の効果】
【0007】
本発明の補強用繊維によれば、コンクリートまたはモルタルに混合されることにより、当該コンクリートまたはモルタルを補強することができ、かつ、混練設備(コンクリートまたはモルタルの混合時に使用した攪拌槽等)の洗浄排水から異物を除去する異物除去用ネットの清掃作業を容易にすることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本実施形態の補強用繊維を示す平面図である。
図2】本実施形態の補強用繊維による異物除去ネットの通過率を示すグラフである。
図3】本実施形態の補強用繊維による異物除去ネットによる捕捉状況を示す写真であって、(a)は実施例11、(b)は実施例12,13、(c)は比較例である。
図4】溶着長を変化させた場合の分散状況を確認するために実施した実験結果を示す写真であって、(a)は実施例21、(b)は実施例22、(c)は実施例23、(d)は比較例2である。
図5】繊維体同士の角度を変化させた場合の分散状況を確認するために実施した実験結果を示す写真であって、(a)は実施例31、(b)は実施例32、(c)は実施例33、(d)は比較例3である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本実施形態では、繊維補強モルタルを製造するための補強用繊維1について説明する。繊維補強モルタルは、撹拌槽等の混練設備を利用してモルタルと補強用繊維1とを撹拌混合することにより製造する。補強用繊維1は、モルタルのひび割れの抑制、変形性能の向上や爆裂防止の効果を得ることを目的として混合される。図1に補強用繊維1の一例を示す。図1に示すように、補強用繊維1は、基端部同士が接合(溶着)された2本の繊維体2,2からなる。本実施形態の繊維体2は、高分子からなり、単体で設計上必要な定着性能を確保できる断面形状、表面の凹凸、長さ、強度、材質等を有している。本実施形態の補強用繊維1は、2本の繊維体2,2のなす角度(繊維内角α)は10°以下であり、繊維体2の先端同士の間隔(先端間隔L1)は10mm程度である。2本の繊維体2,2の基端部同士は、基端から2mm以上5mm以下の範囲(溶着長L2)が溶着されている。
【0010】
混練設備は、繊維補強モルタル製造後に洗浄する。混練設備の洗浄により発生した洗浄水は、排水処理槽に送液される。混練設備と排水処理槽との間には、洗浄水に含まれる異物を除去するための異物除去用ネット(本実施形態では、プラスチック製で、矩形の網目(開口)を有し、網目の一辺のサイズが5mmのものを使用)が設けられている。混練設備に残存していた補強用繊維1は、洗浄水とともに排水される。本実施形態の補強用繊維1は、2本の繊維体2,2の先端間隔L1が、異物除去用ネットの網目の最大開口幅(本実施形態では網目の対角線:約7mm)よりも大きくなるように形成されている。そのため、洗浄水とともに排出された補強用繊維は、異物除去用ネットに捕捉される。
【0011】
本実施形態の補強用繊維1は、繊維体2の先端間隔L1が、異物除去用ネットの網目よりも大きいため、異物除去用ネットを通過することが防止されている。また、繊維内角αが10°以下であるため、補強用繊維1を形成する二つの繊維体2,2の一方が網目を通過してしまうことが抑制され、ひいては、異物除去用ネットの清掃作業(補強用繊維の除去作業)の手間を軽減できる。
また、2本の繊維体2,2の基端部同士が基端から所定長の範囲で溶着され、かつ溶着長L2が、2mm以上5mm以下であるため、繊維体2同士の接合部(補強用繊維1の基端部)が各繊維体の先端部よりも重くなる。したがって、コンクリート等(コンクリートまたはモルタル)に対して浮き難く、かつ、分散しやすくなる。その結果、補強用繊維1がコンクリート等の表面や部材の上部に浮き上がることを防止できる。
また、繊維体2が、単体で設計上必要な定着性能を有していれば、多方向に対して補強効果を確保でき、モルタルの材料全体に対する補強効果の均質化が期待できる。2本の繊維体2,2が角度をもって連結されているため、一方の繊維体2がモルタルの流動方向に沿った方向を向いた場合であっても、他方の繊維体2が開き角度で決定される方向に向くようになるため、短繊維が一定の方向に配列されることを抑制できる。そのため、多方向に対して補強効果を確保できる。
【0012】
以下、本実施形態の補強用繊維1の効果を確認した実験結果を示す。
まず、補強用繊維1を含む水を異物除去ネットに流して、異物除去ネット(網目サイズ:5mm)による補強用繊維1の捕捉状況を確認した。補強用繊維1には、実施例11,12,13として、2本の繊維体2,2のなす角度(繊維内角α)が10°、25°、45°のものを使用した。また、比較例1として、直線状の補強用繊維(1本の繊維体)を使用した場合についても同様に実験を行った。図2に異物除去ネットの通過率を示す。また、図3に異物除去ネットによる捕捉状況を示す。さらに、表1に流出量と掃除のしやすさを示す。
【0013】
【表1】
【0014】
図2に示すように、実施例12において、補強用繊維1がわずかに異物除去ネットを通過するものの、実施例11,13では、ほとんどが異物除去ネットにより捕捉された。一方、比較例1では、補強用繊維1の約15%が異物除去ネットを通過(流出)してしまう結果となった。
また、異物除去用ネットの掃除のしやすさは、表1に示すとおりであった。実施例11と比較例1は、異物除去ネット補足された補強用繊維1の多くが網目に入り込まない状態であったため、補強用繊維1を除去しやすかった(図3(a)および(c)参照)。一方、実施例12,13は、図3(b)に示すように、異物除去ネットに補足された補強用繊維1の一部について、一方の繊維体2が異物除去用ネットの開口に入り込んで異物除去ネットに絡んでいたため、個別に抜き取る必要があったものの、大部分は網目に入り込まない状態であったため、清掃作業に大きな支障はなかった。
したがって、本実施形態の補強用繊維1(実施例11~13)によれば、異物除去ネットからの流出量を抑制でき、かつ、異物除去ネットの掃除が容易になることが確認できた。
【0015】
次に、溶着長さを2,3,5mmに変化させた補強用繊維1のモルタル内での分散状況を確認した(実施例21,22,23)。繊維内角αは25°で固定した。本実験では、500mlの容器3本分を1バッチとして、セメント0.5リットル、砂1.5リットル、水0.5リットルを撹拌機で3分間混練りし、各容器(500ml)に対して、溶着長さの異なる補強用繊維1を3gずつ投入し、1分間撹拌し、実施例21~23に係る供試体を作成した。また、比較例2として、直線状の補強用繊維(1本の繊維体)を使用した場合についても同様に実験を行った。分散状況の確認は、供試体を異なる高さ位置において切断した断面における繊維の分散状況を目視で確認した。図4に写真を示す(写真中の黒い部分が補強用繊維1である)。また、表2に分散状況の評価を示す。
【0016】
【表2】
【0017】
図4(a)に示すように、実施例21は、上段および中上段において、補強用繊維1が多くみられ、好ましかった。一方、中下段および下段では補強用繊維1の量が上段および中上段よりも少なかったものの、普通であった(表2参照)。また、実施例22では、図4(b)に示すように、中上段および中下段に補強用繊維1が多くみられ(好ましい)、上段および下段では普通であった。さらに溶着長L2が最も長い実施例23では、図4(c)に示すように、上段で普通であった以外は、他の段では好ましかった。このように、実施例21~23では、上段から下段まで補強用繊維が適度に分散していた。一方、比較例2は、図4(d)に示すように、上段および中上段には補強用繊維が多く確認できたものの、中下段および下段では補強用繊維が極端に少なかった。これは、補強用繊維がモルタル内で浮遊してしまい、上側に偏ったためと推察される。
したがって、繊維体2同士を溶着して重さを増やすことで、補強用繊維1がモルタル内に分散されやすくなることが確認できた。また、溶着長L2が長いほど、補強用繊維1の基端部が重くなり、より分散しやすくなる結果となった。
【0018】
次に、溶着長L2を3mmとして、繊維内角αを10,25,45°に変化させた場合(実施例31,32,33)のモルタル内での浮力の影響(分散性)を確認した。本実験では、500mlの容器3本分を1バッチとして、セメント0.5リットル、砂1.5リットル、水0.5リットルを撹拌機で3分間混練りし、各容器(500ml)に対して、繊維内角αの異なる補強用繊維1を3gずつ投入し、1分間撹拌し、実施例31~33に係る供試体を作成した。また、比較例2として、直線状の補強用繊維(1本の繊維体)を使用した場合についても同様に実験を行った。分散状況の確認は、供試体を異なる高さ位置において切断した断面における繊維の分散状況を目視で確認した。図5に写真を示す(写真中の黒い部分が補強用繊維1である)。また、表3に分散状況の評価を示す。
【0019】
【表3】
【0020】
図5(a)および(b)に示すように、実施例31および実施例32は、中上段および中下段において、補強用繊維1が多くみられ、好ましかった。一方、上段および下段では補強用繊維1の量が中上段および中下に比べてやや少なかったものの、普通であった(表3参照)。また、実施例33では、図5(c)に示すように、上段で普通であったものの、他の段では補強用繊維1が多くみられ、好ましかった。このように、実施例31~33では、上段から下段まで補強用繊維が適度に分散していた。一方、比較例3は、図5(d)に示すように、上段および中上段には補強用繊維が多く確認できたものの、中下段および下段では補強用繊維が極端に少なかった。これは、補強用繊維がモルタル内で浮遊してしまい、上側に偏ったためと推察される。
したがって、角度を持たせた状態で繊維体2同士の基端部を溶着することで、補強用繊維1がモルタル内に分散されやすくなることが確認できた。
【0021】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、前述の実施形態に限られず、前記の各構成要素については、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更が可能である。
前記実施形態では、モルタルに補強用繊維1を混合した繊維補強モルタルについて説明したが、本実施形態の補強用繊維1は繊維補強コンクリートに使用してもよい。
繊維体2同士の溶着長は2~5mmに限定されるものではなく、適宜決定すればよい。
繊維体2同士の接合方法は溶着に限定されるものではない。
2本の繊維体2,2のなす角度(繊維内角α)は、10°以下に限定されるものではないが、45°以下の望ましく、より好ましくは30°である。
【符号の説明】
【0022】
1 補強用繊維
2 繊維体
α 繊維内角(繊維体同士がなす角度)
L1 先端間隔(繊維体の先端同士の間隔)
L2 溶着長
図1
図2
図3
図4
図5